細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ナイル殺人事件』の懐かしいアガサ・クリスティの旅行ミステリー。

2022年02月27日 | Weblog
●2月26日(土)12-00 <二子玉川・109シネマズ・シアター7>
M-003『ナイル殺人事件』"Death on the Nile (2022) 20th Century Fox Studios, Presents by Walt Disney Studios.
監督・主演・ケネス・ブラナー 共演・アネット・ベニング、トム・ベイトマン、ラッセル・ブランド<127分・シネマスコープ>配給・ウォルト・ディズニー・ジャパン
あのアガサ・クリスティ原作の、名探偵エルキュール・ポワロのシリーズは、「オリエント急行殺人事件」「地中海殺人事件」など映画化されている。
原作を読む程のファンではないが、ミステリー小説好きの当方としては、やはり気になるテーマなので、今回もマスク着用ながら、劇場の大スクリーンで愉しんだ。
毎度のように、ブルジョワな中年の有閑連中が、サマーシーズンの優雅なリゾート地で休暇中に、殺人事件が起こり、なぜか滞在中のポワロ探偵が真犯人を暴く。
という筋立ては同様で、そのリゾート地が今回はエジプトのカイロからナイル河沿いの南に位置する砂漠で、近くに巨大な古代遺産のピラミッドやスフィンクスがある。
わたしも現役時代に、CMのロケーションで、アフリカのチュニジアのサハラ砂漠に言った事があるので、この新作では、ぜひそのロケーションだけでも見てみたい。
ま、ハードボイルド・ミステリー派としては、ポワロよりもフィリップ・マーロウ派なのだが、今回はクセもののケネス・ブラナーが製作監督主演なので、見逃せない。
そのカイロ郊外のナイル河には、あのミシシッピーのショウボートのような、大きなホテル客船が航行していて、ナイル河をカイロからアスワンの辺りまで航海している。
莫大な資産家の娘と結婚したふたりは、家族や介護医師とその看護婦なども従えてのエジプト旅行なのだが、時代は第一次世界大戦の、30年代なのだろう。
おそらく原作のアガサ・クリスティが実際に目にしたエジプトだろうから、あの「オリエント急行殺人事件」の時代設定なのだろうから、スマホやパソコンなど関係ない。
つまり,われわれの先先代くらいも前の時代の設定なのだろうから、あくまでアガサ・クリスティがご自身で見たり旅をしたりの視界での、回顧のブルジョワジー世界。
彼女の描いたミステリーの背景は、1920年代から60年代周辺までの、イギリスのブルジョワ階級の、ヴァカンス・ミステリーが多いので、この作品もその設定を再現している。
という意味では、イギリスの誇るシェークスピア俳優のケネスが、そのプライドにかけてポワロ探偵を演じて、この作品を作った根性には、余計な御託は無用だろう。

■左中間の後方まで伸びたツーベースヒット。 ★★★☆☆☆
●全国でロードショー中

●『プードルスプリングス事件』は、マーロウ探偵の「ロング・グッドバイ」の後の事件。

2022年02月23日 | Weblog
●2月22日(火)21-00 ニコタマ・サンセット傑作座
OV-015-12『プードルスプリングス』"Poodlesprings" <1998> HBO Films. Universal Pictures.
製作・シドニー・ポラック 監督・ボブ・ラフェルソン 主演・ジェームズ・カーン、ブライアン・コックス<103分>
あのフィリップ・マーロウ探偵を創作したレイモンド・チャンドラーが、原案を残していたストーリーを、ロバート・B・パーカーが書き上げた探偵もの。
というだけで、マーロウ・ファンには悶絶の名探偵絶品ストーリーを、「コンドル」や「追憶」のシドニー・ポラックがプロデュース。しかし劇場未公開。
名作「ファイブ・イージー・ピーセス」のボブ・ラフェルソンが監督した、というだけで鳥肌ものなのだが、ハリウッド崩壊の時代でテレビ向けとなった異色作品だ。
マーロウ探偵のイメージを踏襲した、B・パーカーの探偵小説は、<スペンサー探偵>のシリーズとして、早川書房からハードカバーで40冊ほども発行された。
当時、チャンドラー、ロス・マクドナルドの、私立探偵ものに熱中していた当方は、そのすべてを買いあさり、読破して、来日したパーカーにも会ったほどの熱狂もの。
2000年直前の世紀末には、通勤サラリーマンで、よく海外出張もしていた幸運で、毎日のように彼のスペンサー小説にはお世話になった、という時代だった。
この作品は、その時代の凋落の最後に製作された、チャンドラー系のウェストコースト・ディテクティブもので、結局は劇場公開されずに、レンタルビデオでの登場。
ロスのダウンタウンで、しがない私立探偵として、家出や離婚騒動の捜査はお断りしていたが、ある日、友人の探偵が電話中に射殺されて、マーロウが事件の乗り出した。
という、毎度おなじみのプロセスなのだが、マーロウは秘書の美女に惚れ込んで結婚したら、彼女が富豪の令嬢で、<プードルスプリング>に新居移転ということになった。
だいたい、しがない探偵は、ダウンタウンの裏通りの安アパートに1部屋のオフィスを構えるのだが、彼らはパームスプリングのような、陽光の豪邸に住みついた。
結局は、そのブルジョアなファミリーに翻弄されて、あの「大いなる眠り」と似たような大家族事件に巻き込まれて行くが、一応はマーロウ探偵もののスタンスは保持。
やはり、マーロウ探偵は、あの「さらば愛しき女よ」のロバート・ミッチャムのイメージが最高だったので、つい、ここでもイメージをダブらせてしまうのだ。

■左中間へのゴロを野手がモタツく間にツーベース。 ★★★☆☆
●レンタルDVDのコピー鑑賞。

●2月22日(火)21-00 ニコタマ・サンセット傑作座
OV-015-12『プードルスプリングス』"Poodlesprings" <1998> HBO Films. Universal Pictures.
製作・シドニー・ポラック 監督・ボブ・ラフェルソン 主演・ジェームズ・カーン、ブライアン・コックス<103分>
あのフィリップ・マーロウ探偵を創作したレイモンド・チャンドラーが、原案を残していたストーリーを、ロバート・B・パーカーが書き上げた探偵もの。
というだけで、マーロウ・ファンには悶絶の名探偵絶品ストーリーを、「コンドル」や「追憶」のシドニー・ポラックがプロデュース。しかし劇場未公開。
名作「ファイブ・イージー・ピーセス」のボブ・ラフェルソンが監督した、というだけで鳥肌ものなのだが、ハリウッド崩壊の時代でテレビ向けとなった異色作品だ。
マーロウ探偵のイメージを踏襲した、B・パーカーの探偵小説は、<スペンサー探偵>のシリーズとして、早川書房からハードカバーで40冊ほども発行された。
当時、チャンドラー、ロス・マクドナルドの、私立探偵ものに熱中していた当方は、そのすべてを買いあさり、読破して、来日したパーカーにも会ったほどの熱狂もの。
2000年直前の世紀末には、通勤サラリーマンで、よく海外出張もしていた幸運で、毎日のように彼のスペンサー小説にはお世話になった、という時代だった。
この作品は、その時代の凋落の最後に製作された、チャンドラー系のウェストコースト・ディテクティブもので、結局は劇場公開されずに、レンタルビデオでの登場。
ロスのダウンタウンで、しがない私立探偵として、家出や離婚騒動の捜査はお断りしていたが、ある日、友人の探偵が電話中に射殺されて、マーロウが事件の乗り出した。
という、毎度おなじみのプロセスなのだが、マーロウは秘書の美女に惚れ込んで結婚したら、彼女が富豪の令嬢で、<プードルスプリング>に新居移転ということになった。
だいたい、しがない探偵は、ダウンタウンの裏通りの安アパートに1部屋のオフィスを構えるのだが、彼らはパームスプリングのような、陽光の豪邸に住みついた。
結局は、そのブルジョアなファミリーに翻弄されて、あの「大いなる眠り」と似たような大家族事件に巻き込まれて行くが、一応はマーロウ探偵もののスタンスは保持。
やはり、マーロウ探偵は、あの「さらば愛しき女よ」のロバート・ミッチャムのイメージが最高だったので、つい、ここでもイメージをダブらせてしまうのだ。

■左中間へのゴロを野手がモタツく間にツーベース。 ★★★☆☆
●レンタルDVDのコピー鑑賞。


●『ドライブ・マイ・カー』で、運転できない傷心のワケ。

2022年02月19日 | Weblog
●2月17日(木)9-30a・m・ 二子玉川<109シネマズ・シアター5>
M-002『ドライブ・マイ・カー』"Drive My Car" (2021) 
監督・濱口竟介 原作・村上春樹 主演・西島秀俊、三浦透子、岡田将生<ワイド・カラー・179分>
いわゆる<ロードムービー>というのがスキな性分なので、あの珍道中シリーズもいいが、「イージー・ライダー」や「ハリーとトント」もスキだった。
といっても、これは西島クンが自分のクルマを運転していくストーリーではなくて、女性ドライバーの三浦透子が運転していく、という一種のバディ・ムービーだろうか。
妻の突然の急死に困惑悲嘆した、夫だった西島の行動は、一見は冷静に見えるのだが、かなり奔放に移動展開していくので、それが映画的には退屈はしないが・・。
しかし、映画的に書き下ろされたオリジナルではない、文豪村上春樹のストーリーなので、こうして思い出そう、としても、どうも明確には思い出せない。
つまり、そこには実に数年後の元夫の時間が経過しているので、当然、その主人公の西島のメンタルな心情にも、かなりの変化が描かれているのだろうが・・・。
たしかに、広島と瀬戸内海でのロケを中心にした映像は、ほとんどセットでのドラマのような劇的な感情を見せないが、これも西島の冷めた感情に沿ったものだろう。
妻の亡後、2年後という設定だが、そこは村上レトリックの機微があるのかもしれないが、映像はまるでロードムービーのようなロケーションの空気を持続させる。
ま、文学として書き上げられたストーリーには、そこに登場人物の感情が感じられるものだが、この作品は瀬戸内の穏やかな風に、さわやかに風化されていくようだ。
という点では、次期アカデミー賞にノミネートされたという評価は、作品の持っている文学的で深みを匂わせるような佇まいに、ドラマの深みを感じ取ったのかもしれない。
その点で、劇場邦画の上映時間3時間という<流れ>が必要だったのかもしれないし、それが濱口監督のレトリックとして、評価されているのかも知れない。

■レフトが打球を反らしたボールが、フェンスまで転々してツーベース。 ★★★☆
●全国で公開中
●2月17日(木)9-30a・m・ 二子玉川<109シネマズ・シアター5>
M-002『ドライブ・マイ・カー』"Drive My Car" (2021) 
監督・濱口竟介 原作・村上春樹 主演・西島秀俊、三浦透子、岡田将生<ワイド・カラー・179分>
いわゆる<ロードムービー>というのがスキな性分なので、あの珍道中シリーズもいいが、「イージー・ライダー」や「ハリーとトント」もスキだった。
といっても、これは西島クンが自分のクルマを運転していくストーリーではなくて、女性ドライバーの三浦透子が運転していく、という一種のバディ・ムービーだろうか。
妻の突然の急死に困惑悲嘆した、夫だった西島の行動は、一見は冷静に見えるのだが、かなり奔放に移動展開していくので、それが映画的には退屈はしないが・・。
しかし、映画的に書き下ろされたオリジナルではない、文豪村上春樹のストーリーなので、こうして思い出そう、としても、どうも明確には思い出せない。
つまり、そこには実に数年後の元夫の時間が経過しているので、当然、その主人公の西島のメンタルな心情にも、かなりの変化が描かれているのだろうが・・・。
たしかに、広島と瀬戸内海でのロケを中心にした映像は、ほとんどセットでのドラマのような劇的な感情を見せないが、これも西島の冷めた感情に沿ったものだろう。
妻の亡後、2年後という設定だが、そこは村上レトリックの機微があるのかもしれないが、映像はまるでロードムービーのようなロケーションの空気を持続させる。
ま、文学として書き上げられたストーリーには、そこに登場人物の感情が感じられるものだが、この作品は瀬戸内の穏やかな風に、さわやかに風化されていくようだ。
という点では、次期アカデミー賞にノミネートされたという評価は、作品の持っている文学的で深みを匂わせるような佇まいに、ドラマの深みを感じ取ったのかもしれない。
その点で、劇場邦画の上映時間3時間という<流れ>が必要だったのかもしれないし、それが濱口監督のレトリックとして、評価されているのかも知れない。

■レフトが打球を反らしたボールが、フェンスまで転々してツーベース。 ★★★☆
●全国で公開中

『堕ちた天使*待つ女』の深夜のホテル探偵と、美女だけの会話。

2022年02月15日 | Weblog
●2月14日(火)21-00 ニコタマ・サンセット傑作座
OV-14-11 『堕ちた天使』"The Fallen Angels"<エポソード・!・待つ女> (1993) Propaganda Films.
製作・シドニー・ポラック 監督・アルフォンソ・キュアロン 主演・ローラ・ダン、ダイアン・レイン、マーク・ヘリンジャーバーガー
名優トム・ハンクスが、朋友の監督シドニー・ポラックなどとテレビ番組のために製作した中編ミステリーもので、かなり趣味的な3テーマの作品集。
いかにもレイモンド・チャンドラーの小説が流行した、40年代のロサンゼルスのBホテルを舞台にした深い夜の、落ちぶれたおとなタチのエピソード集。
作家のコーネル・ウールリッチもシナリオを執筆していて、これはハンクスやポラック達が、自分の趣味的な企画をテレビ用にまとめたお遊び映画として面白い。
とくに、第一話の「待つ女」が上出来で、場末の深夜のホテル・ロビーで、ひとりの美女が客を待っているらしく、ヒマなホテル探偵がそれとなく話しかける。
ブルーノ・カーヴィが演じる探偵は、とくに階上の廊下などにも不審な者もいなくて、ひっそりと寝静まっているので、そのブロンド美女に話しかけるしか、やることはない。
美女はテーブルの上のマティーニ・グラスで、口紅のついたタバコをジューっと消したりして、「フィルターつきは嫌いなのよ・・」なんて呟いている。
広いロビーには、カウンターのボーイと、ホテル・ディックと、その美女だけなのだが、この深夜のロビーの雰囲気が、いかにもペイパーバックな感じがいいのだ。
その美女はただ<待っている>だけなのだが、実はホテル探偵をロビーに長居させるだけで、上の部屋では<殺し>の最中だった・・という、それだけの話し。
いかにも、ウールリッチの短編ミステリーの面白さで、この天井が高い古びたホテルの、あのいかにも酸えたカビ臭いムードが、他の映画では味わえない空気でいい。
3つのエピソードは、それぞれにウールリッチの描いたものらしいが、この第一話の<待つ女>の気だるさが、いかにもウールリッチの書きそうなムード。
おそらくはテレビ用のお遊びなのだろうが、この深夜の静かなロビーの、二人だけの何気ない会話の<妙>が、普通のドラマにはない<無為感>がレイジーで・・・。
L Aのダウンタウンの裏通りにある寂れたホテルの深夜、というのは、それだけで<チープ・クライム>の背景になるが、そのムードだけで充分に魅せられる。

●カラー・スタンダード・94分・VHS・★★★☆☆☆

●『エデンより彼方に』は、あの<エデンの東>の西側のノスタルジーか。

2022年02月11日 | Weblog
●2月9日(木)21-30 ニコタマ・サンセット傑作座
OV-170『エデンより彼方に』"Far From Heaven" (2003) TF1 International Pictures / Vulcan Productions
監督・脚本・トッド・ヘインズ 製作・スティーブン・ソダーバーグ+ジョージ・クルーニー 主演・ジュリアン・ムーア、デニス・クエイド <107分・ビスタサイズ>
多くのコレクションDVDを処分しようと思ったが、近所の中古ショップに持って行ったら、これは<200円>だというので、引き取って来てまた見た。
これは、実はあのジョージ・クルーニーと、ソダーバーグが、恐らくは趣味的に作ったメロドラマで、50年代風の古風なタッチが、どうにも捨てがたい作品。
というのも、50年代は戦後のハリウッドの作品が洪水のようにドバッと公開された時代で、わたしはモロに、その洪水に呑み込まれたせいで、メロドラマも沢山見た。
多くの西部劇や戦争映画が公開された時代だが、女性向けのメロドラマも量産されていて、よく<二本立て>の同時公開で、ラナ・ターナーやスーザン・ヘイワードの作品も見ていた。
だから、この作品も、典型的な当時の<メロドラマ>だったので、ついつい未練が残って、売るのはやめにして見たのだが、やはり、あの時代の残り香が悪くない。
まるで箪笥の奥にあった、おふくろの衣類のように、まだ、かすかに<あの時代>の香りがするし、その辺りはソダーバーグも、ジョージ・クルーニーも同じだろう。
50年代の中部アメリカのコネチカット州の中都市で、普通の中流家庭の主婦ジュリアン・ムーアは、夫のデニスの浮気による家庭崩壊でゴタゴタな私生活。
しかし、ご近所の婦人会の手前、あまり家内のトラブルは表面化しないように気苦労している、という正に典型的な戦後のアメリカン・ホーム・クライシスの渦中だ。
家の手伝いに現れた好感な黒人青年との交情も、彼の転勤で流されて、夫はゲイの青年とのつきあいで家庭は地滑りをして崩壊していく、という典型的なパターン。
その時代の感触を、クルーニーとソダーバーグは当時への郷愁と愛着を混めて描いていて、これはこれで、一種の<史劇>のような価値観すら感じる懐かしさ。
あの50年代の、アメリカ東部の家庭生活の風景には、その感情面は別にして、われわれには一種の憧れもあり、いま見ても、あの甘さには酔わされる。
やはり、あの悲惨な時代にも、それぞれの愛着は残っているもので、そのホロ苦さが、感じられる世代へのノスタルジーとして、旧友のような作品だ。

■左中間へのゴロで抜けたツーベース。 ★★★☆☆
●ハピネット・ピクチャーズDVD
●2月9日(木)21-30 ニコタマ・サンセット傑作座
OV-170『エデンより彼方に』"Far From Heaven" (2003) TF1 International Pictures / Vulcan Productions
監督・脚本・トッド・ヘインズ 製作・スティーブン・ソダーバーグ+ジョージ・クルーニー 主演・ジュリアン・ムーア、デニス・クエイド <107分・ビスタサイズ>
多くのコレクションDVDを処分しようと思ったが、近所の中古ショップに持って行ったら、これは<200円>だというので、引き取って来てまた見た。
これは、実はあのジョージ・クルーニーと、ソダーバーグが、恐らくは趣味的に作ったメロドラマで、50年代風の古風なタッチが、どうにも捨てがたい作品。
というのも、50年代は戦後のハリウッドの作品が洪水のようにドバッと公開された時代で、わたしはモロに、その洪水に呑み込まれたせいで、メロドラマも沢山見た。
多くの西部劇や戦争映画が公開された時代だが、女性向けのメロドラマも量産されていて、よく<二本立て>の同時公開で、ラナ・ターナーやスーザン・ヘイワードの作品も見ていた。
だから、この作品も、典型的な当時の<メロドラマ>だったので、ついつい未練が残って、売るのはやめにして見たのだが、やはり、あの時代の残り香が悪くない。
まるで箪笥の奥にあった、おふくろの衣類のように、まだ、かすかに<あの時代>の香りがするし、その辺りはソダーバーグも、ジョージ・クルーニーも同じだろう。
50年代の中部アメリカのコネチカット州の中都市で、普通の中流家庭の主婦ジュリアン・ムーアは、夫のデニスの浮気による家庭崩壊でゴタゴタな私生活。
しかし、ご近所の婦人会の手前、あまり家内のトラブルは表面化しないように気苦労している、という正に典型的な戦後のアメリカン・ホーム・クライシスの渦中だ。
家の手伝いに現れた好感な黒人青年との交情も、彼の転勤で流されて、夫はゲイの青年とのつきあいで家庭は地滑りをして崩壊していく、という典型的なパターン。
その時代の感触を、クルーニーとソダーバーグは当時への郷愁と愛着を混めて描いていて、これはこれで、一種の<史劇>のような価値観すら感じる懐かしさ。
あの50年代の、アメリカ東部の家庭生活の風景には、その感情面は別にして、われわれには一種の憧れもあり、いま見ても、あの甘さには酔わされる。
やはり、あの悲惨な時代にも、それぞれの愛着は残っているもので、そのホロ苦さが、感じられる世代へのノスタルジーとして、旧友のような作品だ。

■左中間へのゴロで抜けたツーベース。 ★★★☆☆
●ハピネット・ピクチャーズDVD
●2月9日(木)21-30 ニコタマ・サンセット傑作座
OV-170『エデンより彼方に』"Far From Heaven" (2003) TF1 International Pictures / Vulcan Productions
監督・脚本・トッド・ヘインズ 製作・スティーブン・ソダーバーグ+ジョージ・クルーニー 主演・ジュリアン・ムーア、デニス・クエイド <107分・ビスタサイズ>
多くのコレクションDVDを処分しようと思ったが、近所の中古ショップに持って行ったら、これは<200円>だというので、引き取って来てまた見た。
これは、実はあのジョージ・クルーニーと、ソダーバーグが、恐らくは趣味的に作ったメロドラマで、50年代風の古風なタッチが、どうにも捨てがたい作品。
というのも、50年代は戦後のハリウッドの作品が洪水のようにドバッと公開された時代で、わたしはモロに、その洪水に呑み込まれたせいで、メロドラマも沢山見た。
多くの西部劇や戦争映画が公開された時代だが、女性向けのメロドラマも量産されていて、よく<二本立て>の同時公開で、ラナ・ターナーやスーザン・ヘイワードの作品も見ていた。
だから、この作品も、典型的な当時の<メロドラマ>だったので、ついつい未練が残って、売るのはやめにして見たのだが、やはり、あの時代の残り香が悪くない。
まるで箪笥の奥にあった、おふくろの衣類のように、まだ、かすかに<あの時代>の香りがするし、その辺りはソダーバーグも、ジョージ・クルーニーも同じだろう。
50年代の中部アメリカのコネチカット州の中都市で、普通の中流家庭の主婦ジュリアン・ムーアは、夫のデニスの浮気による家庭崩壊でゴタゴタな私生活。
しかし、ご近所の婦人会の手前、あまり家内のトラブルは表面化しないように気苦労している、という正に典型的な戦後のアメリカン・ホーム・クライシスの渦中だ。
家の手伝いに現れた好感な黒人青年との交情も、彼の転勤で流されて、夫はゲイの青年とのつきあいで家庭は地滑りをして崩壊していく、という典型的なパターン。
その時代の感触を、クルーニーとソダーバーグは当時への郷愁と愛着を混めて描いていて、これはこれで、一種の<史劇>のような価値観すら感じる懐かしさ。
あの50年代の、アメリカ東部の家庭生活の風景には、その感情面は別にして、われわれには一種の憧れもあり、いま見ても、あの甘さには酔わされる。
やはり、あの悲惨な時代にも、それぞれの愛着は残っているもので、そのホロ苦さが、感じられる世代へのノスタルジーとして、旧友のような作品だ。

■左中間へのゴロで抜けたツーベース。 ★★★☆☆
●ハピネット・ピクチャーズDVD

●『ペニーズ・フロム・ヘブン』は、やはりF・アステアで見たかった。

2022年02月07日 | Weblog
●2月6日(日)15-00 <ニコタマ・サンセット傑作座>
OV-13-10『ペニーズ・フロム・ヘブン』"Pennies From Heaven"( 1981)Metro Goldwyn Mayer UA presents
監督・ハーバート・ロス 主演・スティーブ・マーティン、バーナデット・ペータース、<ビスタサイズ・カラー・107分>MGM・UA/エンターテイメント
フランク・シナトラのヒットソングで、大好きなスタンダード・ナンバーなのだが、実は1930年代のヒットしていた曲で、この作品のテーマソングだったのだ。
生まれて初めて買った彼の唄うCDの4曲に入っていたメロディなので、わたしにとっては、まさに生涯最初の,小学校の校歌よりも親しんだメロディ。
世界大戦の大不況で、ロクに仕事もないニューヨークで、スティーブは定職もなく、自分の書いた曲の譜面をマンハッタンの下町の街頭で売っていた。
リアルに描いたら、悲惨な社会派のドラマになるような設定だが、そこはミュージカル仕立てにした唄を活かしたコメディ・タッチなので設定の重さはない。
ジリ貧の生活だが、そこはいかにもサイレント映画のような、モノローグ無声ではなくて、オーバー気味の体感で描く手法は、サイレント映画のコメディを思わせる。
監督の作った「グッバイ・ガール」や「マグノリアの花たち」のような、味のある女性ドラマではないが、そこはコメディアンのスティーブの個性で喜劇色がかなり濃い。
あちらでは、このように馴染みのあるヒットソングのメロディを、ドラマの背景にした作品は「5つの銅貨」や「ピクニック」のように多かった時代の作品。
結局、スティーブの演技は、かなりオーバー気味で、当時のダニー・ケイや、ビング・クロスビーたちの人気までは評価されなくて、この作品も本邦未公開になった。
だから、いまこうして見ると、この不況で悲惨な現実のニューヨークの生活も、<空からコインが降って来る>という唄で、陽気に笑い飛ばすしかなかったのだろう。

■高く上がったフライだが、外野までは飛ばなかった。 ★★★
●MGMーUA輸入版VHS
●2月6日(日)15-00 <ニコタマ・サンセット傑作座>
OV-13-10『ペニーズ・フロム・ヘブン』"Pennies From Heaven"( 1981)Metro Goldwyn Mayer UA presents
監督・ハーバート・ロス 主演・スティーブ・マーティン、バーナデット・ペータース、<ビスタサイズ・カラー・107分>MGM・UA/エンターテイメント
フランク・シナトラのヒットソングで、大好きなスタンダード・ナンバーなのだが、実は1930年代のヒットしていた曲で、この作品のテーマソングだったのだ。
生まれて初めて買った彼の唄うCDの4曲に入っていたメロディなので、わたしにとっては、まさに生涯最初の,小学校の校歌よりも親しんだメロディ。
世界大戦の大不況で、ロクに仕事もないニューヨークで、スティーブは定職もなく、自分の書いた曲の譜面をマンハッタンの下町の街頭で売っていた。
リアルに描いたら、悲惨な社会派のドラマになるような設定だが、そこはミュージカル仕立てにした唄を活かしたコメディ・タッチなので設定の重さはない。
ジリ貧の生活だが、そこはいかにもサイレント映画のような、モノローグ無声ではなくて、オーバー気味の体感で描く手法は、サイレント映画のコメディを思わせる。
監督の作った「グッバイ・ガール」や「マグノリアの花たち」のような、味のある女性ドラマではないが、そこはコメディアンのスティーブの個性で喜劇色がかなり濃い。
あちらでは、このように馴染みのあるヒットソングのメロディを、ドラマの背景にした作品は「5つの銅貨」や「ピクニック」のように多かった時代の作品。
結局、スティーブの演技は、かなりオーバー気味で、当時のダニー・ケイや、ビング・クロスビーたちの人気までは評価されなくて、この作品も本邦未公開になった。
だから、いまこうして見ると、この不況で悲惨な現実のニューヨークの生活も、<空からコインが降って来る>という唄で、陽気に笑い飛ばすしかなかったのだろう。

■高く上がったフライだが、外野までは飛ばなかった。 ★★★
●MGMーUA輸入版VHS
●2月6日(日)15-00 <ニコタマ・サンセット傑作座>
OV-13-10『ペニーズ・フロム・ヘブン』"Pennies From Heaven"( 1981)Metro Goldwyn Mayer UA presents
監督・ハーバート・ロス 主演・スティーブ・マーティン、バーナデット・ペータース、<ビスタサイズ・カラー・107分>MGM・UA/エンターテイメント
フランク・シナトラのヒットソングで、大好きなスタンダード・ナンバーなのだが、実は1930年代のヒットしていた曲で、この作品のテーマソングだったのだ。
生まれて初めて買った彼の唄うCDの4曲に入っていたメロディなので、わたしにとっては、まさに生涯最初の,小学校の校歌よりも親しんだメロディ。
世界大戦の大不況で、ロクに仕事もないニューヨークで、スティーブは定職もなく、自分の書いた曲の譜面をマンハッタンの下町の街頭で売っていた。
リアルに描いたら、悲惨な社会派のドラマになるような設定だが、そこはミュージカル仕立てにした唄を活かしたコメディ・タッチなので設定の重さはない。
ジリ貧の生活だが、そこはいかにもサイレント映画のような、モノローグ無声ではなくて、オーバー気味の体感で描く手法は、サイレント映画のコメディを思わせる。
監督の作った「グッバイ・ガール」や「マグノリアの花たち」のような、味のある女性ドラマではないが、そこはコメディアンのスティーブの個性で喜劇色がかなり濃い。
あちらでは、このように馴染みのあるヒットソングのメロディを、ドラマの背景にした作品は「5つの銅貨」や「ピクニック」のように多かった時代の作品。
結局、スティーブの演技は、かなりオーバー気味で、当時のダニー・ケイや、ビング・クロスビーたちの人気までは評価されなくて、この作品も本邦未公開になった。
だから、いまこうして見ると、この不況で悲惨な現実のニューヨークの生活も、<空からコインが降って来る>という唄で、陽気に笑い飛ばすしかなかったのだろう。

■高く上がったフライだが、外野までは飛ばなかった。 ★★★
●MGMーUA輸入版VHS

●『六番目の男』の真犯人は、えええー、実のオヤジだった。

2022年02月03日 | Weblog
●2月2日(水)19-30 二子玉川サンセット傑作座
OV-010『六番目の男』"Backlash" (1955) Universal International Studio, Mermaid Film. 84分・スタンダード・サイズ・
監督・ジョン・スタージェス 主演・リチャード・ウイドマーク、ドナ・リード <マーメイド・ビデオ>
いまや<ウェスターン>という映画のジャンルも消滅したか、わが青春時代の<切望のメインストリーム>というた、<西部劇>は古典になったのか。
これもまた見損なっていて、探し求めていた<ハイエナ俳優>ウィドマークの幻のミステリー・ウェスターンで、今回、オーダーによる特注DVDでやっと見れた。
西部劇全盛の50年代に量産されていた一作だが、ウィドマークとしては「ワーロック」での、珍しく善玉シェリフ役のイメージがあったのか、すぐに消えた一作。
駅馬車がインディアンの襲撃を受けて、5人の白人が殺されたが、その中に6万ドルの金塊を持った窃盗犯がいて、保安官のウィドマークが捜索にあたった。
しかし4人の死体は判明したのだが、もうひとりの男が行方不明で、その金塊も消えていたので、保安官はその窃盗犯を捜索するのだが、それは実の父親だった。
という、まさにミステリーとしては、現代劇として作るべきテーマを、「OK牧場の決闘」のスタージェス監督が「日本人の勲章」と同時期に監督したという異色。
これも店頭などでも、中古品でも見つからなかった異色作で、<ウィドマーク・フリーク>を自認している当方としては、<七番目の男>として探していた作品だ。
やはりストーリーが殺人犯の捜索なので、現代劇にした方が、街や車両を使ってムードが出るだろうが、白昼の荒野を馬で捜索というのはジョン・ウェインの「捜索者」に負ける。
とはいえ、「地上より永遠に」でオスカー受賞のドナ・リードも、同様に行方不明のダンナを探していて、この<二人の捜索者>のミステリー・ツアーが展開。
かなりモダーンなクライム・ストーリーがテーマなので、わざわざウェスターンにする必要はなかったのだろうが、当時はウェスターン・ブームの最盛期。
そのせいか、スタージェスの演出は、どうもウェスターンにしては、都会的なミステリー感覚と混同しているのか、白昼の砂塵に混乱してしまったようだ。

●狙いはいいが、これは現代劇で見たかった。 ★★★☆☆
■ショートゴロをファンブルの間にセカンドを狙い封殺。
<自宅DVD鑑賞>
●2月2日(水)19-30 二子玉川サンセット傑作座
OV-010『六番目の男』"Backlash" (1955) Universal International Studio, Mermaid Film. 84分・スタンダード・サイズ・
監督・ジョン・スタージェス 主演・リチャード・ウイドマーク、ドナ・リード <マーメイド・ビデオ>
いまや<ウェスターン>という映画のジャンルも消滅したか、わが青春時代の<切望のメインストリーム>というた、<西部劇>は古典になったのか。
これもまた見損なっていて、探し求めていた<ハイエナ俳優>ウィドマークの幻のミステリー・ウェスターンで、今回、オーダーによる特注DVDでやっと見れた。
西部劇全盛の50年代に量産されていた一作だが、ウィドマークとしては「ワーロック」での、珍しく善玉シェリフ役のイメージがあったのか、すぐに消えた一作。
駅馬車がインディアンの襲撃を受けて、5人の白人が殺されたが、その中に6万ドルの金塊を持った窃盗犯がいて、保安官のウィドマークが捜索にあたった。
しかし4人の死体は判明したのだが、もうひとりの男が行方不明で、その金塊も消えていたので、保安官はその窃盗犯を捜索するのだが、それは実の父親だった。
という、まさにミステリーとしては、現代劇として作るべきテーマを、「OK牧場の決闘」のスタージェス監督が「日本人の勲章」と同時期に監督したという異色。
これも店頭などでも、中古品でも見つからなかった異色作で、<ウィドマーク・フリーク>を自認している当方としては、<七番目の男>として探していた作品だ。
やはりストーリーが殺人犯の捜索なので、現代劇にした方が、街や車両を使ってムードが出るだろうが、白昼の荒野を馬で捜索というのはジョン・ウェインの「捜索者」に負ける。
とはいえ、「地上より永遠に」でオスカー受賞のドナ・リードも、同様に行方不明のダンナを探していて、この<二人の捜索者>のミステリー・ツアーが展開。
かなりモダーンなクライム・ストーリーがテーマなので、わざわざウェスターンにする必要はなかったのだろうが、当時はウェスターン・ブームの最盛期。
そのせいか、スタージェスの演出は、どうもウェスターンにしては、都会的なミステリー感覚と混同しているのか、白昼の砂塵に混乱してしまったようだ。

●狙いはいいが、これは現代劇で見たかった。 ★★★☆☆
■ショートゴロをファンブルの間にセカンドを狙い封殺。
<自宅DVD鑑賞>
●2月2日(水)19-30 二子玉川サンセット傑作座
OV-010『六番目の男』"Backlash" (1955) Universal International Studio, Mermaid Film. 84分・スタンダード・サイズ・
監督・ジョン・スタージェス 主演・リチャード・ウイドマーク、ドナ・リード <マーメイド・ビデオ>
いまや<ウェスターン>という映画のジャンルも消滅したか、わが青春時代の<切望のメインストリーム>というた、<西部劇>は古典になったのか。
これもまた見損なっていて、探し求めていた<ハイエナ俳優>ウィドマークの幻のミステリー・ウェスターンで、今回、オーダーによる特注DVDでやっと見れた。
西部劇全盛の50年代に量産されていた一作だが、ウィドマークとしては「ワーロック」での、珍しく善玉シェリフ役のイメージがあったのか、すぐに消えた一作。
駅馬車がインディアンの襲撃を受けて、5人の白人が殺されたが、その中に6万ドルの金塊を持った窃盗犯がいて、保安官のウィドマークが捜索にあたった。
しかし4人の死体は判明したのだが、もうひとりの男が行方不明で、その金塊も消えていたので、保安官はその窃盗犯を捜索するのだが、それは実の父親だった。
という、まさにミステリーとしては、現代劇として作るべきテーマを、「OK牧場の決闘」のスタージェス監督が「日本人の勲章」と同時期に監督したという異色。
これも店頭などでも、中古品でも見つからなかった異色作で、<ウィドマーク・フリーク>を自認している当方としては、<七番目の男>として探していた作品だ。
やはりストーリーが殺人犯の捜索なので、現代劇にした方が、街や車両を使ってムードが出るだろうが、白昼の荒野を馬で捜索というのはジョン・ウェインの「捜索者」に負ける。
とはいえ、「地上より永遠に」でオスカー受賞のドナ・リードも、同様に行方不明のダンナを探していて、この<二人の捜索者>のミステリー・ツアーが展開。
かなりモダーンなクライム・ストーリーがテーマなので、わざわざウェスターンにする必要はなかったのだろうが、当時はウェスターン・ブームの最盛期。
そのせいか、スタージェスの演出は、どうもウェスターンにしては、都会的なミステリー感覚と混同しているのか、白昼の砂塵に混乱してしまったようだ。

●狙いはいいが、これは現代劇で見たかった。 ★★★☆☆
■ショートゴロをファンブルの間にセカンドを狙い封殺。
<自宅DVD鑑賞>