細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『Re;LIFE~リライフ』の人生リライトはハリウッド苦笑コメディ。

2015年09月29日 | Weblog

9月24日(木)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-121『Re:LIFE~リライフ~』" The Rewrite " (2014) Castle Rock Entertainment / Reserve Room Production

監督・マーク・ローレンス 主演・ヒュー・グラント <107分> 配給・キノフィルムズ

15年前だから、2000年にアカデミー脚本賞を受賞したというシナリオ・ライターのヒューは、今日もハリウッドのスタジオを訪ねて、自慢の企画を提案する。

しかし、あの1作でオスカーを受賞した彼も、その後の企画に恵まれずに、ほとんど映画化の仕事に恵まれない浪人生活で、今日もアイデアはプロデューサーの嘲笑を誘うという苦境だ。

ハリウッドには伍萬といるライターたちは、あのロバート・アルトマンの名作「ザ・プレイヤーズ」の落ち目のプロデューサーのように、貧弱な企画の洪水にテを焼いている。

映画の原題は「リライト」なので、まさに今やドン底のライターの復活を目指すべく、自身の人生の「リライト」のために苦戦しているのは昨年の名作「バードマン」と同様なのだ。

その古いネタは「サンセット大通り」のシナリオライターのままでお気の毒な話で、別に面白くもないが、・・・この作品では、呆れたことに東部のど田舎のハイスクールの臨時教師の仕事を受けることになった。

まさにメジャーリーガーが契約を切られて、とうとう田舎の高校野球の臨時コーチをやるようなもので、これはコメディだからいいが、現実の転落ドラマとしては、かなり悲惨だ。

劇中には、多くのハリウッド映画のジョーク・ネタが飛び交うが、あの「グッドウィル・ハンティング」で脚本賞を受賞したマット・デイモンだって、あれ以来、脚本は表では書いていない。

役者として大成功しているマット・デイモンのことを、ジョークとして笑うのはいいが、このような転落、転身のドラマは、ハリウッドではヤマのようにあるテーマなのだ。

ま、それを、久しぶりのヒュー・グラントが嘲笑まじりに演じているのはいいが、彼自身の俳優としてのキャリアも、最近はパッとしていないので、妙に実感のこもった苦いコメディとなっている。

オスカー女優のマリサ・トメイが久しぶりの助演で、いい味を出し、昨年受賞のJ.K.シモンズなども、何とかヒューをカバーしているが、味はよくならない。

いかにもハリウッドの舞台裏ジョークは多くて、「レザボア・ドッグス」や「ダーティ・ダンシング」はいいとして、1955年の「マーティ」は古すぎて笑えないだろう。

田舎の学校の中年の女性教頭が、ジェーン・オースティン・マニアで、随所に彼女の名作のフレーズが出て来るのも、彼女の文学に通じていないと困ってしまう。

赴任した東部の田舎町ビンガムトンが、あの「トワイライト・ゾーン」の舞台だった、という裏ネタが一番笑えたが、人生のリライトというのは、「Dearダニー」のように大変なのだ。

 

■ちょこんと出したバットがサード頭上のポテン・ヒット。 ★★★☆

●11月、日比谷シャンテ・シネなどでロードショー 


●『ローマに消えた男』の要人替え玉トラブルの妙味。

2015年09月27日 | Weblog

9月17日(木)13-00 築地<松竹映画本社試写室>

M-120『ローマに消えた男』" Viva la Liberta " (2013) Bibi Films / Rai Cinema イタリア

監督・ロベルト・アンドー 主演・トニ・セルヴィッロ <94分> 配給・レスペ&トランスフォーマー

昨年公開されて非常に好評だったイタリア映画「グレート・ビューティ*追憶のローマ」は、どこか、あの巨匠フェリーニの視線を感じさせる傑作だった。

あの作品で主演、圧倒的な存在感を見せたトニ・セルヴィッロの新作ということで、あの奇妙なイタリア紳士の風情を楽しみに見た新作だが、アレレ・・という印象。

というのも、今回の作品は、たしかに<ローマに消えた男>には違いないが、そのミステリアスなニュアンスはなくて、むしろ、原名のいうように<自由に万歳>という政治色が濃い。

トニは、相変わらずの壮年イタリアン・ダンディぶりで、いかにも渋い政治家を演じているのだが、重大な国政選挙の直前に、人気不振の野党党首という重責のストレスでノイローゼ気味。

とうとう、置き手紙をおいて、勝手にパリの愛人のところに失踪したために、主任秘書官は<体調不良のために入院>ということでニュースを流したので、ローマの議会は大混乱。

政局不振の時期に、まさか真相をマスコミに流すわけにもゆかず、思いついたのは、代議士トニのウリふたつの一卵性双生児の所在を探して、まさに黒澤明の「影武者」のように代打要員として起用したのだ。

ま、この手のアイデアの作品では、「ダニー・ケイの天国と地獄」が傑作で、殺されたコメディアンの吹き替えに、まったく芸のない一卵性双生児を替え玉でつかうという昔からの奇策。

かなり多くの替え玉映画というのは過去にも沢山あったが、演じる俳優にとっては、この二役というのは美味しい仕事で「ゼンダ城の虜」のように再三リメイクされたテーマだ。

だから、政治家トニの役を、瓜二つの遊び人の弟が演じるというのは、ごくアリガチのテーマだが、そこをダメ男の弟が、兄の急場を救うという奇策が、役者としては見せ所で笑わせる。

とにかく本音で詩人のように、ブレヒトの理想論を話す偽物の人気は急上昇してゆき、支持率の下がっていた野党の人気は、この不思議なソックリさんのスピーチで再上昇という現象となっていく。

という次第で、パリに逃亡した本物の党首は、奔放な自由論で人気のでた替え玉の弟と、どこで、どう掏り替えるかというのが、コメディとしての着地となるのだが、それはネタバレなので書けまい。

むかしならマルチェロ・マストロヤンニの役どころだろうが、トニ・セヴィッロなりのおかしさは出ているという、イタリア映画らしい調子の良さは、軽くていい。

それでもイタリアのアカデミー賞、ドナテッロ賞で、最優秀脚本賞、それに苦戦した秘書官が助演男優賞を受賞している。

 

■ライト方向を狙ったヒッティングだが、手首の回転でサード横へのゴロで慌てた野手がお手玉。 ★★★☆

●11月14日より、YEBISU GARDEN CINEMAでロードショー 


●『ホワイト・ゴッド*少女と犬の狂詩曲』驚異の捨て犬たちのスタンピード。

2015年09月25日 | Weblog

9月14日(月)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-119『ホワイト・ゴッド*少女と犬の狂詩曲』" White Dog " (2014) The Match Factory / Proton Films / Pola Pandora ハンガリー

監督・脚本・コーネル・ムンドルッツォ 主演・ジョーフィア・プショッタ <119分> 配給・シンカ・ミッドシップ

わたしは犬が大好きで、過去に少年時代に4匹も飼った事があり、いまでも犬を見ると心が和むが、その反面で猫はどうも苦手である。

つまり、この映画はドッグ・マニアには感動の作品だが、ネコ派とか、犬の苦手なひとには全く面白くないだろう。つまり「わんわん狂騒曲」実写版なのだ。

ブダペストに住む13才の少女ジョーフィアは多感な時期だが、両親の離婚と、学校でのイジメでも問題児扱いされた異端な生徒だが、愛犬だけは心が通じていた。

母親と母子家族として生活していたが、母の海外赴任のために工員をしている父親の家で暮らす事になり、以前から犬の嫌いな父親は、犬との同居には不快だった。

というのも、ハンガリーでは雑種犬の飼育には税金がかかるので、放置された宿無しの犬たちがしばしば問題を起こして、当局もトラブルに困っていたのだった。

学校の音楽グループでトランペットの練習している彼女は、学校にも愛犬をつれていき、オーケストラの指揮をしている教授も犬が嫌いなので、教室に入れることを禁じたのだ。

とうとう犬の同居でイライラしていた父親は、車に愛犬を乗せて、遠い過疎地に捨てて来てしまい、それを知ったジョーフィアは愛犬を探しに家を出てしまった。

こうした家庭内トラブルと子供の家出は、つい先日見た「ぼくらの家路」でも感動的に描かれたが、このブダペストでは雑種犬の放置とその始末には大きな都市課題を抱えている。

映画の圧巻は後半で、とうとう愛犬を探す少女の周辺には、放置されてホームレスとなった大型雑種犬の大群が集まり、とうとう西部劇の牛のようなスタンピードを起こすのだった。

この暴走シーンは数百の犬たちのブダペスト街路での暴走という、かつて見た事もない迫力で、ヒッチコックの「鳥」や「猿の惑星」を思わせるが、実際の犬たちを暴走させたというアイデアは凄い。

しかもバックには、少女の学生オーケストラの演奏する<ハンガリー狂詩曲>が流れて、市街地をまるで洪水のような勢いで疾走する多くの雑種犬たちの狂騒ぶりを盛り上げるという異常事態。

かくして、この傑作はカンヌ国際映画祭で、<ある視点>部門のグランプリを受賞し、おまけに<パルムドール賞>ならぬ<パルムドッグ賞>を受賞したというから審査員の犬スキ感覚は笑わせる。

タイトルの「白い神」というのは、犬の目線から見ると、白人たち飼い主は<神>なのであり、その神に捨てられた犬たちは野生化するしかない、という絶叫なのだ、という。

 

■レフトのポールを巻いたライナーで、判定の結果ホームラン。 ★★★★

●11月21日より、新宿シネマカリテ他でロードショー 


●『屍者の帝国』はフランケンシュタイン博士のゾンビものアニメかな・・?。

2015年09月23日 | Weblog

9月14日(月)10-15 日比谷<東宝本社11F。第2試写室>

M-118『屍者の帝国』" The Empire of Corpses " (2015) WIT studio, Project Itoh / Red juice / Toho animation

監督・牧原亮太郎 出演・V・細谷佳正 <120分> 配給・東宝映像事業部 

わずか34才で他界したという伊藤計劃のオリジナル小説は、2012年に日本SF大賞を受賞して、さらにあのSF作家フィリップ・K・ディック賞も受賞したという。

今回はその彼の3作を、連続で劇場アニメーションとして映画化した、その第一作というし、あの「進撃の巨人」のWIT studioが制作しているというので、拝見した。

19世紀末のロンドンで、医学生のジョン・ワトソンは<死者蘇生技術>の開発をすすめていて、多くの軍事薬品工場などの危険な研究開発での労働力として、進化が見込まれていた。

100年も前には、あのフランケンシュタイン博士が、開発に成功していた蘇生工学は進化して、そのマインドを持たない人造人間の過剰な労働力と運動能力は秘密兵器開発に匹敵。

しかしその秘密の開発技術は、「ヴィクターの手記」として封印されていたので、ワトソンは手がかりを探してアフガニスタンの奥地へと捜索のアドベンチャーが始まる、という想定。

シャーロック・ホームズのアシスタントだったワトソンが、インディ・ジョーンズのような冒険の旅に出るというなら、実写のほうが魅力があるのだが・・・。

ま、あのフランケンシュタインものは、昔からユニヴァーサル映画のボリス・カーロフ映画の看板テーマで、要するに「ドラキュラ」ものから、最近の「ウォーキング・デッド」のゾンビものの原点とも言えるテーマだ。

とても実写ものでは、また「進撃の巨人」ものと同様のヴィジュアルになりそうなテーマを、全編アニメーションにしたというから、その進化に期待して見たのだが、どうも120分は長過ぎた。

恐らく原作での<死者蘇生>には、もっと緻密な工程なども描かれていたのだろうが、いまのアニメーション世界でのヴィジュアルでは、この古典的なテーマでは驚きは少なくなる。

つまりドラえもんや、宮崎ジブリの世界で描いた人間の感情表現の映像では、かなりエキセントリックな転換を見せつけているので、ゾンビのアニメではびっくりしないという映像慣れもある。

今回の伊藤計劃プロジェクトでは、この作品のシリーズとして、以後、「虐殺器官」と「ハーモニー」も連作されているので、そのトータルとしての魅力は秘められているのだろう。

これからは「亜人」と称するヒット・アニメ・シリーズのバトル・サバイブ・サスペンスも別途公開予定というが、しかし、この一作目で、どうも、ごちそうさま、でした。という食欲不振になってしまった。

 

■左中間へのゴロだが、あらかじめショートよりのサードが好捕してアウト。 ★★☆☆☆

●10月2日より、東宝系ロードショー  


●『ハッピーエンドの選び方』のナットクの自死時間の苦しまない選択方法。

2015年09月21日 | Weblog

9月11日(金)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-117『ハッピーエンドの選び方』" The Farewell Party " (2014) Beta Cinemas / Pie Films / 2 Team Productions イスラエル

監督・シャロン・マイモン 主演・ゼーブ・リバッシュ <93分> 配給・アスミック・エース

地中海には面しているものの、レバノンとかヨルダンとか、エジプトに囲まれているイスラエルで、こんなおしゃれで知的な映画が作られているなんて、ビックリ。

ガザとかテルアビブとか、紛争の多い地域に近いエルサレムなんて、かなりキナ臭いヤバい都市かと思っていたが、これほど呑気で素晴らしい都会的な街なんだ、って驚く。

しかも、他の文化都市と同様に、高齢者の激増が社会問題になっていて、それは国家紛争などよりも深刻な課題、おやおや何とマア、偶然にも、きょうは<敬老の日>ではないか。

さて、そのエルサレムの老人ホームに住むゼーブも、かなりボケは進行しているようだが、いろいろと周囲の老人たちの世話をみていて、その機智はなかなかユーモアに富んでいる。

<老人は、かくあるべきだ>、と、反省させられるが、親しい友人が末期ガンであって、もう延命治療は望んでいない、となると、さすがにゼーブとしても慰めようもない。

しかもそのカミサンからも、夫を楽に死なせる方法を頼まれてしまい、大いに悩んだ彼は、病人が自分の意思で、病院にはバレないで、その最期の瞬間を決められるという死亡選択スイッチを考案したのだ。

スイスでは、安楽死というのは合法化されているが、当然、イスラエルでもそれは不可能なので、この安楽死スイッチが一般にバレると、ゼーブは逮捕されてしまうので、秘密。

ところが愛妻のアルツハイマー症状が進行してきて、さすがのゼーブにもテに負えない状況になってきて、ミハエル・ハネケの秀作「愛、アムール」のような苦境になってきた。

笑って見ていられるコメディではあっても、やはり現実の問題としては、こちらも笑ってばかりはいられない。さてさて、困ったゼーブは自作の安楽自殺スイッチを妻のために使っていいものか。

重病での自分の延命治療を拒否するのは、本人の意思なので<尊厳死>といって、わたしの友人達も、最近はこの選択をしている。しかし苦痛は伴うので家族には辛い選択だ。

ところが、この<安楽死>は、その瞬間を自分で決められて、苦痛はない、という。しかしアルツハイマーの奥さんは、その瞬間すら決定できないのだ。

という誰にでも訪れる厳しい選択の瞬間を、この作品はユーモアを込めて知的に描き、ヴェネチア国際映画祭では観客賞を受賞したのだから、世界の誰もが認める選択なのだろう。

実に不思議な感動作で、わが黒澤明の「生きる」を、また見たくなった。

 

■軽いレフトフライが、そのままフェンス上段に当たる、悠々の3ベース。 ★★★☆☆☆

●11月より全国ロードショー 


●『リトルプリンス*星の王子さまと私』老人の夢とジョイントする少女の希望。

2015年09月19日 | Weblog

9月11日(金)10-00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-116『リトルプリンス*星の王子さまと私』" The Little Prince (2015)  LPPTV / Orange Studios / MG Films.

監督・マーク・オズボーン 主演(V)ジェフ・ブリッジス <107分> 配給・ワーナー・ブラザース映画

ヒットした「ミニオンズ」のように、いまや、アニメの興行は、重鎮のディズニー・スタジオとの差別化が、まず重要課題だ。

それだけに、このプロジェクトも、非常に豊かなイマジネーションに彩られたアニメーションに成功していて、かなり奥行きのあるストーリー構造は、ちょっと幼児には難解かもしれない。

まさにあのビル・マーレイの「ヴィンセントが教えてくれたこと」のような発端で、離婚した教育熱心のシングルママが、ひとり娘を名門校に入学させるために引っ越して来た。

しかし、その学区の境目には、周囲の新築家屋とは塀ひとつで、奇妙なゴシック風の古いゴミ屋敷があって、頑固でちょっとアルツハイマーもどきの老人が住んでいた。

その異次元のような裏庭には、とても飛びそうにないポンコツの単発ヒコーキがあり、ジイさんはひとりでそのマシーンの整備をしては、爆発音を立てて少女を驚かせた。

9才の少女は、母の留守に、壊れた垣根から隣の異様な屋敷の庭に入り、不思議な老人と話しをしているうちに、彼の話すその不思議な<星の王子さま>の世界に誘い込まれてしまう。

まさに「秘密の花園」や「オズの魔法使い」と同様に、少女はジイさんの語る昔話と、星の王子さまのストーリーに魅了されて、別次元のファンタジーに入り、映画もフラッシュバック。

で、あの有名なアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの描いた「星の王子さま」の有名なエピソードに同化されながらも、教育熱心なエゴマザーとの現実の生活と行き来することになる。

だから、先日見た「パパが遺した物語」と、その二重構造が似ていなくもないが、アニメーションのトーンが、全く別の表現方法を駆使しているので、次元が混乱することはない。

どうしてもジェフ・ブリッジスが老人の声を演じている英語版の試写を見たくて見たのだが、さすがにアルバート・ブルックス、マリオン・コティアール、ベニチオ・デル・トロなどの名優たちの声。

このオスカー受賞連中たちのアテレコが素晴らしくて、ま、おそらくは日本語版の上映がメインになるであろうシネコン興行では、味わいがまったく別になってしまうだろう。

ま、それは日本での興行方針の宿命なので、これは仕方ないだろうが、その分、エンド・クレジットでは、ユーミンの「気づかず過ぎた初恋」が流れるという特典つきだという。

おそらく次回のアカデミー賞では、多くのアニメーション部門でノミネートされて、ディズニーの牙城を脅かすことになるだろう傑作だ。

 

■いきなり左中間を破る、フェンスへのツーベース。 ★★★☆☆

●11月21日より、新宿ピカデリーほかでロードショー


●『ミケランジェロ・プロジェクト』の暗躍で、世界遺産の美術品は保存された、という美談。

2015年09月17日 | Weblog

9月8日(火)13-00 九段下<角川映画試写室>

M-115『ミケランジェロ・プロジェクト』" The Monuments Men " (2013) 20th Century Fox Pictures / Columbia Pictures

監督・主演・ジョージ・クルーニー 共演・ケイト・ブランシェット <118分> 配給・プレシディオ、松竹

2年前に公開が予定されていて、チラシや試写状も用意されていたので期待していたら、突然の公開延期で、これは<お倉入り>の迷画かと忘れていた。

そして急に今回の公開決定で、恐らくハリウッドでは悪評で、興行も失敗して、大借金を抱えたジョージが、その穴埋めに「トゥモロウ・ランド」に無理に出たという背景。

という噂が流れたのも、何かとお騒がせのジョージ・クルーニーの<プロジェクト>だったからで、これはもうおシャカになった幻の作品かと思っていたので、突然の公開は興味津々だ。

タイトルも「モニュメント・メン」というので、おそらく天然記念物>とか<国宝遺産>のような男たち、というよりは<オーシャンズ・イレブン>のような、業界ジョークなのだろう。

つまり、ジョージ・クルーニーの持ち出した企画も、あの「オーシャン」のような盗賊グループの話しであって、それが第二次世界大戦のナチスの押収美術品の戦場での奪還作戦。

実話だったということは、「パリは燃えているか」や、最近の「パリよ、永遠に」でも紹介されたエピソードで、あのヒトラーがヨーロッパの美術品を隠し持っていたという話も実話だ。

それを、アメリカの教授や美術評論家たちが、連合軍のバックップのもとで<別働隊>として活動したという、あの有名な美談を、なぜかジョージが自分で映画化したのだ。

兵役をとっくに終えた美術愛好家たちが、ヒットラーが隠し持っている世界に歴史的な古典美術品を灰塵になる前に、奪い返すのは、私欲ではなくて、世界遺産を守ろうとする教育者の発想。

「人間の歴史は、その生涯で終えるが、世界的な美術遺産は将来のために遺すべき」というのが、ジョージやマット・デイモンや、ビル・マーレイ、ケイト・ブランシェットたちの願いだったのだ。

ま、そのエラい発想は判るが、映画の方は「オーシャンズ・イレブン」と変わらず、どこか観光旅行のような、ヨーロッパ古城へのツアーのように、お気軽な気分のエンターテイメント。

むかし、シドニー・ポラックが、バート・ランカスター主演で「大反撃」という戦争映画を作ったが、あれもチェコか東欧の古城にある美術品を守るための戦闘美談だった。

だから、発想の偉大さはよく判るが、この映画はまさにジョージ・クルーニーのパーティ・ムービーで、お仲間の連中の愉しいお遊び作品としての印象が強い。

とくにマットが、ケイト・ブランシェットの誘惑を、照れ乍らも逃げ回るエピソードなどは愉しめたが、オール・スターの皆様は戦塵と保存のゴミにまみれて、ごくろうさまでした。

 

■フルカウントから大きなファールフライを、レフトが好捕。 ★★★

●11月6日より、全国ロードショー

  


●『心が叫びたがってるんだ。』その苦しみは唄った方がいいんだよ。

2015年09月15日 | Weblog

9月7日(月)13-00 市ヶ谷<View Box試写室>

M-114『心が叫びたがっているんだ。』"Beautiful Word, Beautiful World" (2015) A-1 Pictures / Aniplex. Fuji Television.

監督・長井龍雪 脚本・岡田麿里 主演(V)水瀬いのり <120分> 配給・アニプレックス 

お恥ずかしながら、2年前に公開された「劇場版 あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない」を見ていなかったので、彼らスタッフの新作は初めてだ。

しかも、市ヶ谷に新しく出来た試写室での初めての鑑賞なので、とにかく雨の降るなかを早めに探したら、おっと、これはなかなかのソニー系のお洒落なビルの中。

最近のシネコンと同じ様に、人間工学を最優先した試写室は、いかにも見やすくて快適で、デジタル上映のスペースらしく、まったく装飾的な無駄がないのが嬉しい。

むかしはアニメといえばお子様向きで、夢を拡大してくれる別世界のアドヴェンチャーだったが、テレビでのアニメ傾向や宮崎駿のスタジオジブリの躍進で、すっかり成長した。

だから、この「あの日」グループの新作も、お子様向けではなくて、完全に中高生の学園ドラマになっていて、むかし感覚で言うと、どうして実写作品にしなかったのかと思ってしまう。

しかし、そこが、こうした青春ドラマの勝負どころで、あのデリケートな青春期の感情のブレを微妙に表現する感性というのは、このような感傷アニメとしての表現力が決め手になってくる。

という視点で見ると、たしかに両親の離婚から、一種のショック病で言葉を失ったヒロイン少女の心の迷走ぶりは、俳優の微妙な演技力よりは、アニメーションによる表現の方が抵抗感が少ない。

埼玉県の秩父にある普通の町は、いかにも見慣れた日本らしい風景で、その佇まいを太陽の影の変化によってリアルに表現させていく手法は心地よく、あの「バケモノの子」よりも親しめる。

高校二年生のクラスでは、<地域のふれあい交流会>に協賛してミュージカルを上演することにして、先生は敢えて普段から問題の多い生徒たちを中心にキャスティングを決めたから大変。

絶対に口もききたくもない同級生たちと、一緒にステージで唄うというのは、これは過酷の試練なのだが、これも「青春の門」の教育の一貫で、人間力形成が狙い。

あとは、そのステージに向けてのドラマであって、「ソロモンの偽証」のミュージカル・アニメーションだと思えばいいし、そのクライマックスに向けての主人公たちの確執も高まって行く。

嬉しいのは、唄われる曲の元唄が「オズの魔法使い」の<オーバー・ザ・レインボー>や、ガーシィンの<スワニー>、<サマータイム>から「八十日間世界一周」のテーマだったり、嬉しいのだ。

という選曲などが、われわれ高齢者たちの共感も狙っているのか、ありがたいものだ。

 

■軽く当てただけのフライが、ラッキーにもレフト前にポトリのヒット。 ★★★☆☆

●9月19日より、全国ロードショー 


●『パパが遺した物語』は、二重ストーリーでややこしい。

2015年09月13日 | Weblog

9月4日(金)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-113『パパが遺した物語』" Fathers & Daughters " ( 2015) Voltage Pictures / Busted Sharks Pictures

監督・ガブリエレ・ムッチーノ 主演・ラッセル・クロウ <116分> 配給・ギャガ・GAGA

1989年のニューヨーク郊外で、深夜に帰宅中の小説家のラッセルは、自家用車を運転中に妻と口論になり、対向車と衝突して妻は死亡。

後部座席に乗っていた娘はどうにか負傷で済んだが、運転していたラッセルは重傷で入院して、脳にも障害が残り、事故のトラウマとショックで人格も変わった。

半年の入院とリハビリで彼は退院したものの、事故の後遺症で文章は書けず、娘は亡くなった妻の姉が引き取っていたので、娘の教育問題ではトラブルが残ってしまった。

ストーリーは二重構造になっていて、事故から25年経った今の娘を演じるのが、「レ・ミゼラブル」でコゼット役で好演したアマンダ・セイフライドで、後半は彼女が主役。

つまりこの映画は、原題が「父親と娘」となっていて、しかも複数なのだから、単純に、このトラブルの二人だけのストーリーではなくて、トラウマを背負った世代の大河ドラマとなるのだ。

つまり、現代のストーリーでは成人したアマンダが、やはり過去の事故のトラウマを持ち乍らもソーシャルワーカーとして、無口の黒人少女の介護に尽力しているのだった。

このふたつの時代の、ふたりの父と娘が、それぞれに心のトラブルを抱えていて、ドラマとしては重厚なのだが、どうも時代を錯綜するので「バック・トゥ・ザ・フューチャー」よりややこしい。

だから見ているこちらは、この二人の父と娘が現在も確執を抱えているのかと思っていたら、出版社のCEOらしいジェーン・フォンダが、「父と娘」という小説の授賞式で父は故人だったことに気がついた。

ということは、待てよ、ラッセルが精神傷害で事故死したのは、いったい何時だったんだ???、という時差が判らなくなってしまった。というのも、こちらの集中力不測なのか、ボケなのか???

ま、というわけで、あの事故でバラバラになった「父と娘」の人生は、結局は<幸福>という遠い旅路に迷ってしまったのか、これは涙の悲運ドラマな筈なのに、チンプンカンプン。

むかしミシェル・ピコリが主演した「すぎ去りし日の」という、事故の後遺症の愛情トラブルを描いた傑作があって、後年にリチャード・ギアが主演でリメイクを作ったが、もっとシンプルで判りやすかった。

あああ・・・もっとシンプルな話ならスッキリしたのに。・・・。

 

■平凡なショート・ゴロを野手がファンブルしてセーフか揉める。 ★★★

●10月3日より、全国ロードショー

  

●『アントマン』ならば<進撃の巨人>もやっつけられる。

2015年09月10日 | Weblog

9月3日(木)13-00 虎ノ門<ウォルト・ディズニー映画試写室>

M-112『アントマン』" ANT-MAN " (2015) Marvel Studios / Walt Disney Studios Presents

監督・ベイトン・リード 主演・ポール・ラッド 共演・マイケル・ダグラス <117分> 配給・ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

これぞ『進撃の巨人』と対決すべき『追撃の小人』の登場で、またしても『アヴェンジャーズ』一家のCGアニメ・キャラクターの新加入としては、実に小賢しい。

つまり『進撃の巨人』が肥満して愚鈍な<メタボ日本人>の未来図としたら、こちらは顕微鏡で見ないとわからないようなミクロのキャラクターのヒーロー登場となる。

むかしの「縮みゆく人間」や「ミクロの決死圏」のような発想だから、いまさら驚かないが、これがアメリカの軍事研究機関で40年前に開発されたスパイ活動のために秘密装置。

その発明家の白髪の学者マイケル・ダグラスが、何と40年前のデヴュした頃の青年で登場してきたシーンが、一番驚いた。まさに若きカーク・ダグラスではないか。

ま、多くのカーク・ダグラスの映画で育ったわたしなどは、これだけで★が増えるところだが、残念ながら主演は仕事を失ってカミサンにも愛想をつかされている凡人ポール。

ところが、悪友たちに唆されて娘の養育費を稼ぐために入った豪邸の金庫を、得意のPC解読力で開けたのはいいが、そこにあったのは古びたボディ・スーツだった。

それみろ、「バットマン」や「スパイダーマン」「スーパーマン」と同じ発想じゃないか。と、呆れてみていたら、そのスーツをよせばいいのに着た途端、ポールの体は1センチになった。

たしかにタイトルのように、「蟻人間」になってしまった彼は、もとの正常な体型になるために、アリたちと共闘を組んで、アリ地獄から決死のスカイ・ダイビングでアクション・シーンの連続。

ま、もともとはスパイ行為のために開発されていた謎のジャケットなので、はなしは「ミッション・インポッシブル」と同様で、トム・クルーズが演じた方が、話しはわかりやすい。

とんだ展開で、ポールは愛する娘と再会するために、この奇想天外なミッションに奮闘しなくてはならず、まさにアリたちと一緒になって、信じられないミクロのスパイ大作戦となる。

目まぐるしいアクションの果てに、めでたしめでたしのエンディング・ロールのあとで、次の任務はやはり<キャプテン・アメリカ>とタグを組むらしく、あああ、マーヴェルの商魂は尽きることがないのだ。

あのチャールトン・ヘストンの「黒い絨毯」のアリ地獄を思い出して苦笑。・・・・どうぞ、勝手に稼いでください。

 

■ファールで粘ったあとに、痛くないデッドボール。 ★★★

●9月19日より、全国ロードショー