細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『少年と自転車』の危ない正悪の境界線上の走り。

2012年01月31日 | Weblog

●1月30日(月)13−00 築地<松竹本社試写室>
M−013『少年と自転車』Le Gamin au Velo ( 2011 ) fleuve et archpel film べルギー
監督/ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 主演/セシル・ドゥ・フランス <87分> ★★★☆☆
父親に捨てられた11歳の少年は、学校の施設を逃げ出して、美容師の独身女性の世話になる。
身勝手な大人たちの社会で、少年は溺れ、足掻く。
一応頼まれた用事は自分の自転車でこなすが、不良グループの誘拐にあって、軽い気持ちで窃盗をしてしまう。
しかし大して罪の意識のない少年は、大きな悪の魅惑に落ちて行く。
この作品は、思春期の少年が、両親の愛情を失ってから、どのように社会を漂流していくかを淡々と見せて行く。
ほとんど重要な会話もなく、ひたすら自分に自転車で走る少年の姿は、見ていて非常に虚弱だ。
警察で被害者との示談となっても、彼には善悪の判断がなくて、飄々としている。
まさにトリュフォ監督の「大人は判ってくれない」とように、それでも少年は前向きに生きて行く。
こうして善と悪の間を往来しながら、おそらく彼もひとりの大人になっていくのだろう。
美容師のセシルが「ヒア・アフター」のように、素晴らしい演技で、少年の未来を修正していく。
あの「息子のまなざし」以来久しぶりに発表した、ダルデンヌ兄弟の新作は、カンヌ国際映画祭でグランプリ受賞。
いまの「自転車泥棒」のように、少年の自転車も、まだまだ不安定な走りだ。
その危うい走りに、少年期の成長の不安と美しさが溢れている。
微妙な年齢期のお子さんのいる単身の片親は、見ておいたほうがいい作品。

■1.2塁間のゴロのイレギュラーヒットをライトが後逸してツーベース
●4月以降、BUNKAMURA ル・シネマでロードショー


●激熱ペレス・プラードのマンボで温まる時間。

2012年01月29日 | Weblog

●映画とジャズのFMサウンド・カフェ●
『シネマッド・ジャズ・カフェ』CINEMAD JAZZ CAFE(FMたちかわ/84−4mhz)
今夜の放送/ Vol.081『ラテン・アメリカーナの夜』Latin Americano      
司会/鵜飼一嘉+選曲・解説/細越麟太郎

★1月29日(日)午後8時ー9時放送
●好評につき、毎翌週金曜日の午後7時からも再放送されています。
★今夜の曲目メニュー紹介

1/『サン・バースト』演奏/ロニー・リストン・スミス
2/『マンボ・リド』演奏/デイブ・グルーシン(映画『ハバナ』より)
3/『リトル・スパニッシュ・タウン』演奏/ペレス・プラード+ローズマリー・クルーニー
4/『ス・ワンダフル』唄/ジョアン・ジルベルト
5/『サンバ・プティ』演奏/カルロス・サンタナ
6/『サウス・オブ・ザ・ボーダー』唄/フランク・シナトラ
7/『パナシア』唄/演奏/グレイ・ボーイ(映画『ザ・スペシャリスト』より)

★今週の映画紹介/『J・エドガー』監督/クリント・イーストウッド

●<FMたちかわ>のホームページから、サイマル放送で検索すれば、パソコンでも聞こえます。
★次回のこの番組は、2月5日(日)「ラテン・アメリカーナ・ジャズ/第二夜」と題して、熱いラテン・アメリカーナ・ジャズを。
どうぞ、ご期待ください。


●『アーティスト』のサイレント映画ノスタルジーの狙いは何???

2012年01月28日 | Weblog

●1月27日(金)13−00 六本木<シネマート3F試写室>
M−012『アーチスト』The Artists (2011) la petite reine / studio 37 仏
監督/ミシェル・アザナヴィシウス 主演/ジャン・デュジャルダン <101分> ★★★☆☆☆
1920年代のハリウッド。時代はサイレント映画から、トーキーの時代を迎えていた。
まさにダグラス・フェアバンクスのように、この映画のジャンの人気は急落。
エキストラだった女優ペレ二ス・ペジョがトーキーで人気が出て、彼らの恋も逆転する。
というと、あの「スター誕生」と、まったく同じストーリーだが、この映画はハッピーエンドを目指している。
なぜ今、フランス映画が、往年のハリウッドを再現しようとしたのか。ただのノスタルジーではないだろう。
昔のほぼ正方形なスクリーン・フレームに敢えてこだわり、ヒッチコック映画の音楽でサイレント・ドラマ。
実は、このように、俳優がものを言わない方が、見ている我々の興味も高まる。その皮肉を狙っての作為なのだろうか。
いま、アカデミー賞にも、10部門ものノミネートを受けている人気は、そのフランスらしいスノッブな視点のせいなのか。
愛犬フォックステリアが、ジャンの足下で演技するのは、ウィリアム・パウエルの探偵もののパロディで、これがいい隠し味だ。
結局は、大不況で時代の変化も、この底抜けのオプティミズムで笑い飛ばそうという狙いが、案外に好評のようだ。
しかしである。しかしこれは90年も昔の映画手法だ。
オールドファンは、このような設定の映画は腐るほど見て来た。だから懐かしいが、それ以上ではない。
あの時代の時代考証をして、あのエジプシャン・シアターを再現したのも、遠い思い出なのだ。
それをアカデミーが、ことしの最高作と謳うのは、どうも眉唾で甘いような気がしてならない。

■バントと見せかけて、バスターのショート頭上のヒット。すかさず盗塁。
●4月7日より、シネスイッチ銀座などでロードショー


●『ペントハウス』は、あの雑誌とは関係ない痛快怪盗映画。

2012年01月27日 | Weblog

●1月26日(木)13−00 半蔵門<東宝東和試写室>
M−011『ペントハウス』Tower Heist (2011) universal + imagine
監督/ブレット・ラトナー 主演/ベン・スティーラー <104分> ★★★☆☆
どうもベンとエディ・マーフィーが共演で、ポルノ雑誌のタイトルなので下品なお笑いかと敬遠していた。
しかし、友人が「ケッコー面白いすよ」というので、最終試写で見たら、これが愉快。
原題は「ビル強奪」。という、要するに団体怪盗映画。すみません、邦題タイトルで誤解してました。
トランプタワーのペントハウスに住む大富豪アラン・アルダが、突然FBIに逮捕された。
ビル住民の管理を任されていたベンも、年金までがパア。
しかし富豪は、彼の豪奢なペントハウスに、大金を隠していることを知ったベンは秘策を練る。
獄中の窃盗犯、エディの協力を依頼して、隠された埋蔵金を探すという大ケイパー映画となる。
ま「華麗なる賭け」や「オーシャンズ11」のコミック版だが、マンハッタンの感謝祭の大パレードの日に、強行するという派手さだ。
両優の早口対決も見ものだが、脇役も豪華で、それぞれがハマっている。
あのスティーブ・マックイーンの愛車を、ビルの最上階からパレード中に強奪するという空中離れ業がハデ。
いかにもハリウッド・エンターテイメントの、久しぶりの都会派のおかしな快作だ。
さすが、ブライアン・グレイザーのプロデュースは魅せてくれる。
やっぱり映画は見てみないとワカラナイ。失礼しました。

■強振の打球がドームの天井を直撃の、エンタイトル・ツーベース。
●2月3日より、有楽座などでロードショー


●『マーガレット・サッチャー/鉄の女の涙』を絶妙のボケ演技で好演のメリルに拍手!

2012年01月25日 | Weblog

●1月24日(火)13−00 六本木<シネマート試写室>
M−010『マーガレット・サッチャー/鉄の女の涙』The Iron Lady )2011) pathe / canal+ U.K. film council
監督/フィリダ・ロイド 主演/メリル・ストリープ <105分> ★★★☆☆
「アイアンマン」ならぬ「アイアン・レディ」。あのサッチャー英国首相の晩年の回想録ドラマ。
といっても、事実を再現するのではなく、晩年のアルツハイマー症状を巧みにフラッシュバックしていく。
だから、『J・エドガー』よりは曖昧な回想も多くて、とくに亡くなったご主人、ジム・ブロードベントのスケッチがいい。
その辺は「マンマ・ミーア」の女性監督フィリダの繊細さと、家族重視の演出プランだろう。
11年もの長期にわたって、あのやっかいなイギリスという国を統治したのだから、手腕はさすがに鉄拳だ。
多くのテロ映像などはサラリと処理して、血生臭い印象は避けているのも賢明だ。
自分の政策もさることながら、あの女性ならではの頑固な姿勢が、やはり男には敵わないだろう。
その議会での議論もいいが、なにしろメリル・ストリープの自信の名演に尽きる。よく記録を勉強し尽くしている。
演技の間もすごいが、そのあとの30秒ほどの長回しの絶妙さは、女性監督ならではの注視力と計算だ。
この<間>の妙味を、すっかりサッチャー気分の口調で演じるメリルは絶品。とくにボケ演技の味がいい。
おそらくは、久しぶりのオスカーも当確だろう。それにメイクの効果も素晴らしい。
顔のメイクよりも、首筋のシワの変化が絶妙。鏡を見るシーンの多いのも、やはり女性監督らしさだ。
自伝の本に、実名を間違えてサインして、それを破るなどは、さすが女性センス。
政治家も伝記映画というよりは、あきらかに身勝手な老嬢の、すこぶる魅力的なボケ回想映画だ。
ご本人が見ても、けっこう面白い作品だと思う。

■風に流されて、幸運なセンターオーバーのツーベース
●3月16日より、全国ロードショー


●イチローも熱狂のバーニー・ウィリアムズがまた登場。

2012年01月22日 | Weblog

●映画とジャズのFMサウンド・カフェ●
『シネマッド・ジャズ・カフェ』CINEMAD JAZZ CAFE(FMたちかわ/84−4mhz)
今夜の放送/ Vol.080『サムシング・ニュー』Something New      
司会/鵜飼一嘉+選曲・解説/細越麟太郎

★1月22日(日)午後8時ー9時放送
●好評につき、毎翌週金曜日の午後7時からも再放送されています。
★曲目メニュー紹介

1/『ムーブ・ウィズ・ミー』唄/ネナ・チェリー(映画『硝子の塔』より)
2/『ユー・アンド・アイ』唄/ポール・ブレイディ
3/『マイ・シャイニング・アワー』演奏/ビル・チャラップ・トリオ
4/『サーチング・フォー・ア・ハート』唄/ウォーレン・ゼボン
5/『ペニーズ・フロム・ヘブン』唄/レニー・オルステッド
6/『デイ・バイ・デイ』唄/フランク・シナトラ
7/『グローリー・デイ』唄/演奏/ブルース・スプリングスティーン

★今週の映画紹介/『戦火の馬』監督/スティ−ブン・スピルバーグ

●<FMたちかわ>のホームページから、サイマル放送で検索すれば、パソコンでも聞こえます。
★次回のこの番組は、1月29日(日)「ラテン・アメリカーナ・ジャズ」と題して、熱いラテン・アメリカーナ・ジャズを。
どうぞ、ご期待ください。


●『ハンター』で一瞬見える<タスマニア・タイガー>の哀しい眼。

2012年01月21日 | Weblog

●1月20日(金)13−00 <六本木>アスミック・エース試写室>
M−009『ハンター』The Hunter (2011) Screen Australia 豪
監督/ダニエル・ネットハイム 主演/ウィレム・デフォー <100分> ★★★☆
オーストラリアの南方、タスマニア島はユネスコの世界遺産に指定されている自然保護区。
フリーランス・ハンターのウィレムは、絶滅したというタスマニア・タイガーを探し出して、その生体サンプルを採る。
バイオ・テクノロジー社の依頼で荒野に入り、その捕獲ポイントに罠をかける日々の徒労。
地元の過疎な離村の家に部屋を借りるが、地元住民の嫌がらせに閉口している矢先に不審事が連発する。
ただの狩猟ハンター映画だと思ったら、横やりの横行するスパイ・サスペンス風の展開となっていく。
借りた家の亭主もハンターだったが、行方不明。そして家も不審火で消滅。
ノイローゼ気味の奥さんと二人の子供も被災、どうも腑に落ちない陰謀で、狩猟も邪魔され難航する。
土地の閉鎖的な島国根性が、ハンターの仕事を妨害するが、彼はついに獲物を見つけた。
全部タスマニアでロケしたという、自然の美しさが、とにかく見ものの絶景。その撮影は素晴らしい。
ラストでタイガーを射止めたウィレムが涙するのは、いかがなものか。
「ディア・ハンター」のように、ラストは幻想にしてくれた方が、こちらは気持ちが良かったのに残念。
幻は、幻のままでいいのに。

■ファールでやたら粘った末のフォアボール。
●2月4日より、丸の内ルーブルなどでロードショー


●『ファミリー・ツリー』で描かれる(男はつらいよ)ハワイ版の秀逸。

2012年01月20日 | Weblog

●1月18日(水)13−00 六本木<FOX試写室>
M−008『ファミリー・ツリー』The Descendants (2011) fox searchlights
監督/アレキサンダー・ペイン 主演/ジョージ・クルーニー <115分> ★★★★
先日、ゴールデングローブ作品賞を受賞したばかりの、本年度アカデミー賞大本命作品。
しかし印象は極めて誠実で地味なホームドラマの小品だ。
ジョージ・クルーニーはハワイ在住の壮年弁護士だが、妻がパワーボートの事故で緊急入院。
意識不明のまま、医者からはシリアスな病状を聞かされる。
家庭はバラバラで、ふたりの娘からは無視されて、妻も実は浮気中だった。
突然に、人生最悪のテーマを抱えたダメ親父が、それでも我慢の決断をする。
監督は過去にも「アバウト・シュミット」で似たような人生の落下点を見つめたが、今回もじつに冷静だ。
原題は「子孫」とか「継続するもの」のような、要するに中年男の命題でもある家系存続。ヤバいテーマだ。
彼は原住民の子孫で、実は先祖が残した広大な土地があって、不動産屋がリゾート開発で買い上げ交渉中だった。
親戚は高額の売却によって儲かる大金で、安楽な余生を夢見ていた。
もちろん、彼だって、それを売り払って優雅な余生を送りたい。しかしこの事件で、彼は本気で人生の役目を考えた。
すこぶる気楽なハワイアン・ホームドラマだが、実はテーマは深く、クルーニーが渋くて鈍感で、いいのだ。
そう、人生は楽な路だけを選んではいけない。案外、ズシーンとくるラストは感動した。

■軽く打った平凡なレフトフライだが、意外に伸びてポールを巻いたホームラン。
●4月ゴールデンウィーク、TOHOシネマズ・シャンテなどでロードショー


●『トガ二(仮題)』で提訴される謎めいた痴呆児童虐待学校のリアルな背景。

2012年01月19日 | Weblog

●2月17日(火)13−00 銀座<東映第2試写室>
M−007『トガニ<仮題>』Togani  (2011) c.j. entertainment 韓
監督/ファン・ドンヒュク 主演/コン・ユ <125分> ★★★☆☆☆
韓国で現在500万人もの人が見たという大ヒット作品を、ブラインド・ホールド(無情報)試写で見た。
海に面した地方都市。そこの痴呆症児童養護学校の教師として赴任した若いコンは、夜の校内で不審な泣き声を聞く。
警備員に尋ねると、恐らく言語障害のある学生が、奇声を発しているのではないか、と促す。
しかし、あきらかに顔面に傷のある少年や、足に怪我のある少女が目立つ。
彼らは15歳前後だが、孤児が多く、耳は聞こえても、言葉は話せない。まさに「羊たちの沈黙」だ。
腑に落ちない彼は、いろいろ背後調査をしてみると、教師側の一方的な性虐待行為が繰り返されているらしい。
これは、韓国の小都市であった、実際の事件の裁判までの経過を、異色のサスペンス作品にしている。
あのポン・ジュノ監督の名作「殺人の追憶」と似た背景で、同じ制作会社の新作だ。
恐ろしいのは、この事実を知っている警察や裁判所も、家族のない孤児からの訴訟はないことを、日常的に無視していたことだ。
映画は、その日常化した世論の風化に、青年の怒りで映像化して、かなり話題になった。
青年教師を演じたコン・ユの、頼りな気な表情がいい。
日本では、これからタイトルも含めて公開の準備が始まるというが、応援したい。

■強烈な右中間のライナーがフェンス直撃のスリーベース・ヒット。
●この夏、7月以降、全国ロードショー予定


●『青い塩』のグルメおじさんの決死の塩味。

2012年01月18日 | Weblog

●1月18日(火)10−00 銀座<東映第一試写室>
M−006『青い塩』Blue Salt (2011) C. J . Entertainment 韓
監督/イ・ヒョンスン 主演/ソン・ガンホ <123分> ★★★☆☆
元組織の幹部だったソンは、リタイアして釜山の料理学校に通っている。
クラスメイトの若いシン・セギョンとは無愛想ながら、親子のような情愛を感じていた。
しかし組の会長が暗殺されてからは、ソンの周辺もヤバくなり命を狙われる。
危険を感じた彼はソウルに移動して身を潜めるが、元オリンピック射撃選手候補だったシンも彼を追う。
おじさんと娘の妙な情愛関係は、「シャレード」のような騙し合いが続いていく。
スピード感のあるカーチェイスや、ビルの撃ち合いは、よく練られている。
いかにもハリウッド模造映画のような、シャレた関係も素晴らしいロケーション撮影で、飽きさせない。
それはやはり、ソンの韓国映画の重鎮としての味のある存在感があるからだ。
あの「アジョシ」のような関係が、マジにならないのも、彼の味わいが持続するからだろう。
ラストの美しい塩田でのドンデン返しも、前半で銃弾の薬莢に仕掛けするカットがあったので笑えた。
ま、軽いロマンティック・アクション・コメディとして、憎めない作品。

■ファールで粘り、挙げ句、技ありの左中間にぬけるヒット。
●3月17日より、丸の内東映などでロードショー