細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●1月に見た試写のベスト/3

2010年01月31日 | Weblog
●1月に見た新作試写ベスト3

1/『息もできない』監督/脚本/制作/主演/ヤン・イクチュン(韓国)★★★★☆☆
  下町で借金取り立て業を恐喝暴力行為で繰り返していた男の孤独と悔恨。そして運命の皮肉な残酷。

2/『ハート・ロッカー』監督/キャスリン・ビグロー 主演/ジェレミー・レナー(米)★★★★
  イラク戦争での爆発物処理班の終わりなき生命危機との戦い。戦争は本質的に敵が見えないのだ。

3/『シャーロック・ホームズ』監督/ガイ・リッチー 主演/ロバート・ダウニーJr(米)★★★☆☆☆
  従来の前世紀探偵のイメージを払拭しつつもロンドンの暗黒に挑む名探偵の壮快連続アクション。 

☆ほかに印象に残った新作は
『人間失格』
『すべては彼女のために』
『NINE』
『オーケストラ!』などでした。

●『オーケストラ!』は家族再会のための感動急造ファンタジー。

2010年01月29日 | Weblog
●1月28日(木)13-00 六本木<シネマートGAGA試写室>
M-011 『オーケストラ!』Le Concert (2009) les productions du tresor 仏
監督/ラデュ・ミヘイレアニュ 主演/アレクセイ・グシュコブ ★★★☆☆
80年代にロシアではボリショイ交響楽団からもユダヤ人を排絶して、当時の楽団員は掃除人夫やタクシーの運転手や日雇い工員などをしていた。
たまたま休日に劇場の掃除をしていたアレクセイは、パリのシャトレ劇場から突然の出演依頼のFAXを見て、自分の音楽家としての夢に賭けることにした。支配人は休暇で留守。
逆転のチャンス。よくある特殊部隊再編成のはなしだ。彼はかつてのメンバーたちに声をかける。
30年ぶりに演奏するためのオーケストラを集めるのも無茶だが、だいいち、それだけの時間、演奏をしていなかった老人たちが、リハなしのぶっつけで演奏できる筈はない。
あの『ブラス!』の場合は廃坑の炭坑士たちは日夜練習をしていたからこそ出来た。
しかしこの急造オーケストラには、また親子として分かれて暮らす家族の再会もあった。
つまりは老人パワーのサクセスストーリーではなく、これは家族の感動的再会ファンタジーなのだった。
そうでなければ、あまりにも無茶なお話なのだが、そこを映画は手際よくまとめて一気に見せる。

■レフト前にポトリと落ちた小フライだが、野手が譲り合う間にツーベース。
●4月下旬、GWに渋谷bunkamura ル・シネマなどでロードショー

●『シャーロック・ホームズ』筋骨隆々のアクション系で新登場だ。まいったか。

2010年01月26日 | Weblog
●1月25日(月)13-00 内幸町<ワーナーブラザース試写室>
M-010 『シャーロック・ホームズ』Sherlock Holmes (2009) warner brothers
監督/ガイ・リッチー 主演/ロバート・ダウニー・Jr. ★★★☆☆
コナン・ドイルの書いた探偵シャーロック・ホームズは、過去にも数回映画化されて、そのイメージはベイジル・ラスボーンのように、知的な壮年紳士の静的なイメージだった。
ところが、今回のホームズは若くマーシャル・アーツも体得した無敵のアクション系。
もちろん事件を推理する知性と観察力は従来のキャラクターだが、アソシエイトの医師ワトソンを演じるジュード・ロウも同様に大奮闘を見せるので、かなりヤング・シャーロック物に改良されている。
ロンドンのタワーブリッジの工事現場を舞台にして、死神のような連続殺人犯の極悪貴族を相手に派手な乱闘を繰り返すのは、恐らくイメージ以上に、監督の新解釈でパワーアップしたのだろう。
もちろん、そこはハリウッド特産のC.G.大会となる。
従来の推理重点の蘊蓄ドラマを期待すると当惑して、まるでインディ・ジョーンズ教授も顔負けのアクションで終始圧倒されるが、これもまた名探偵シャーロックの現代的な姿なのかもしれない。

■当たりが強烈で、レフトが慌ててジャッグルする間に、素早くセカンドに滑り込みセーフ。
●3月12日、丸の内ルーブルなどでロードショー

●スペンサー探偵は殉職なのか。

2010年01月24日 | Weblog
●1月24日(日)
ロバート・B・パーカーさん、お疲れさまでした。

彼の突然の死因については、新聞では明らかではないが、事件性のないことをお祈りする。
70年代に彼の書き出したボストンのスペンサー探偵小説は、チャンドラーのマーロウ探偵をイメージしつつも、明かるくモダーンで、タフなくせに恋人のスーザンにはメロメロ。友情に厚く悪漢には厳格。
料理や旅も好きで、しばらくは憧れの思いで読みあさったものだった。
シリーズは最近も続いていて、その文脈から感じるイメージでは、饒舌にはすぎるものの高齢化はさほど感じる気配はなかった。とにかく一年一作のペースは守られていたから驚異だった。
樵りもせずに全編愛読したことは、とても幸せだった。
ファンレターには必ず自筆で返事をくれて、90年頃に麻布のアメリカンクラブで直接にお会いし、ビールで乾杯して写真も撮った。スペンサー探偵というよりは、アメリカ人特有のメタボなビール腹体質で、とても穏やかな紳士だった。野球と西部劇がお好きな、いいおじさんだった。
とくにレッドソックス観戦が好きで、初期の「失投」から、「ダブルプレー」など、野球をスケッチした小説も好きだった。ジェシー・ストーンのシリーズも味があった。
ああああ、もう新しいスペンサー探偵には会えない。
本当に寂しいが、また旧作をじっくり読んでみたい。冥福をお祈りする。

●『NINE』で再現されたフェリーニ的な豪華錯綜ミュージカル。

2010年01月23日 | Weblog
a●1月22日(金)13-00 紀尾井町<角川映画試写室>
M-009 『ナイン/NINE』(2009) weinstein 米
監督/ロブ・マーシャル 主演/ダニエル・デイ・ルイス ★★★☆☆
60年代のこと。フェデリコ・フェリーニ監督が彼の第9作目の新作を作る際に、試行錯誤を続けてタイトルを『8 1/2』にしたが、それは自作に対しての謙遜と迷いの意味があった。
このミュージカルは、当時の彼の映画創作の悩みとプライベイトな問題を、あたかも『女の都』の背景を見るような女難喜劇にしている。
ニコール・キッドマンからソフィア・ローレンまで、華やかな有名女優たちにバランスよく歌のシーンを散りばめたのはキャスティングの豪華すぎたせいだろうが、そのためかコール・ポーターの生涯を描いた『五線譜のラブレター』のような軽さになった。
ブロードウェイのステージの魅力を映画のスタジオに持ち込んで、舞台の臨場感を演出しているものの、あの『シカゴ』の鮮烈な印象はない。
ペネロペ・クルスやケイト・ハドソンの熱意は判るが、出場が少ないのが惜しい。
ミュージカルのファンにはありがたい新作だが、ちょいとインパクトに欠けたのは、役者たちの歌唱力の限界もあるようだ。

■飛距離はあったが、結果的には上がり過ぎのセンターフライという印象。
●3月19日より、丸の内ピカデリーなどでロードショー

●双葉十三郎さん、ありがとうございました。

2010年01月22日 | Weblog
●1月22日(金)
双葉十三郎さんのご冥福をお祈りします。
50年前の1962年4月2日の夕方、日比谷の帝国ホテルの2階でお会いしたのが最初でした。
そこには来日中のアルフレッド・ヒッチコック監督がいましたね。
双葉さんとは、ジーン・ネグレスコ監督が好きだと言う話で盛り上がりました。
理由は、画家なので画面が美しいから、という単純な理由。
随分、試写室ではお会いして愉快な話を聞きました。
最後にお会いしたときに、碑文谷のご自宅の庭の小屋にある雑誌などを処分する方法で笑ってましたね。
本当に沢山のお話ありがとうごじました。
ナナリー・ジョンソンにも会っていますか。
いずれ、また。

●『ハート・ロッカー』に描かれた爆発物処理班の日常の穏やかさの意味。

2010年01月21日 | Weblog
●1月20日(水)13-00 六本木<アスミックエース試写室>
M-008 『ハート・ロッカー』The Hurt Locker (2009) voltage film 米
監督/キャスリン・ビグロー 主演/ジェレミー・レナー ★★★★☆
砂地獄のようなバグダッド郊外で、自爆や地雷の処理にあたる米軍爆発物処理隊の苦戦を描いて話題になっている。
なにしろ米軍兵士の戦死の大多数は、戦闘よりもテロによる爆死が多いと言う。
「戦争は麻薬だ」というように、これもたしかに戦争映画ではあるが、まさに過去にない残虐で不測の危険な事実であって、女性監督のキャサリンは従来の男性映画のレベルで、尚も特殊なプラトーンの地獄の実態を見事に映像化している。
まるで潜水服のような重装備で起爆装置を外す任務は、消防隊よりも危険で、死と対峙している。
これは勇気を描いた作品ではなく、その精神的な任務に向かう人間性を見つめている。
とくにアメリカの栄誉のためでもなく、責務に向かい合う男たちの寡黙な行動だけだ。
そのスタンスが、この作品の英知と感動を誘発しているようだ。
ヘルメットを被ったままベッドに入り、戦闘服のままシャワーを浴びる。こんな男達が、いまも闘っているという実感が恐ろしい。

■低い弾道のレフトライナーが、そのままフェンス直撃の三塁打。
3月6日より、TOHOシネマズ みゆき座などでロードショー

●『すべて彼女のために』の恐れを知らぬ壮大な夫婦愛を見よ。

2010年01月20日 | Weblog
●1月19日(火)13-00 東銀座<シネマート試写室>
M-007 『すべて彼女のために』Pour Elle (2008) fidelite 仏
監督/フレッド・カヴァイエ 主演/ヴァンサン・ランドン ★★★☆☆
無実の殺人罪で投獄された妻を移送中に拉致して国外逃亡する。
お話は犯罪サスペンスのようだが、どうしてこれだけの私財を投入してまでリスクを背負うのか、殺意がないのだから、弁護とか恩赦の方法があったのではないか。と考えては、この映画は成立しない。
これは究極の夫婦愛のラブストーリーなのであった。
アリエネー・サスペンスはハリウッド的なオプティミズム。あくまでフランス的なアムールだと解釈した。
ジョルジュ・シムノンの「暗黒街のふたり」や「父よ」からブレッソンの「抵抗」のように、一旦投獄されると、犯罪者とされて、無罪の釈明は難しいのがフランスなのか。
それとも夫婦愛を確認すべき手段として、この映画を作ったのか判断は別れるが、わたしは一種のファンタジーなのだ、と、好意を持って解釈した。

■微妙なニ遊間のゴロだが、野手が譲り合って、その間にセーフ。
●2月27日より、ヒューマントラストシネマ有楽町でロードショー

●『パレード』は見るだけで、参加したくはない感じ。

2010年01月15日 | Weblog
●1月14日(木)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-006 『パレード』Parade (2009) showgate + wowow
監督/行定 勲 主演/藤原竜也 ★★★☆
東京の住宅街。2LDKのアパートに男女4人がルームシェアしている。
バラバラの時間に出たり入ったりで、とくに約束ごとはなく生活を楽しんでいる。
アメリカのテレビで人気だった「フレンズ」のような設定だが、それぞれにプライバシーもあって、ちぐはぐな会話も今っぽい。しかし彼らもそれぞれに違和感も感じている。
その中に不思議な金髪の青年が迷いこんで来てから、どこか空気が変わって来る。
ごく日常的な若者たちの生活ぶりを、監督は自然な視線でスケッチしていて面白い。
5人のキャストもそれぞれに好演だ。
しかし近所で謎めいた連続殺人事件が起こってからは、その現実的なニュースも気になり出す。
ところが、ドラマはその事件との直接的な関わりに、あえて結論を出そうとしないのだ。無関心なのだ。
これもテレビでは日常茶飯事なのさ、というのだろうか。これが今の若者の世界なのだろうか。
犯罪擁護では結論にはなるまい。
設定は面白いが、感動のない、それを敢えて避けたような青春群像ドラマの行方に、正直に困惑してしまった。
賛否が分かれるのは必至で、わたしはこれにはネガティブだ。

■ヒット性の当たりだと思ったら、意外に延びず平凡なライトフライ。
●2月、渋谷シネクイントなどでロードショウ。

●『人間失格』の茫洋とした女難の青春迷走。

2010年01月14日 | Weblog
●1月13日(水)13-00 紀尾井町<角川映画試写室>
M-005 『人間失格』The Fallen Angel (2009) 角川
監督/荒戸源次郎 主演/生田斗真 ★★★☆☆☆
太宰 治の原作を、時代設定の昭和初期の風俗など、かなり気合いを入れて再現した作品。
自堕落な美学にこだわった青年の生き方は、悪友から「茫洋」と冷やかされるが、その気持ちはたしかに現代にも通用する心象として同感できる。
やりたいことが、なかなか定まらない茫洋とした心の漂流は誰にでもある。
しかし誰でも、どこかで夢や野望に見切りをつける妥協性を知る。
富豪の御曹司のこの青年は食うに困らず、まるでピーターパンのように、幼児性を無謀にも社会に持ち込めない現実に嫌気がさしている。知的放浪者なのだ。
ゴッホを尊敬し、死をも美化して自殺や心中を繰り返すが、不運にも未遂に終始する。そうした心境の地獄を、鈴木清順監督映画を制作していた荒戸監督は、適度のイリュージョンも交えながら真摯に描いて行く。
とくに詩人とのトンネルでの赤い雫のシーンは清順風で美しかった。
ただ、つぎつぎと登場する女性たちに変化が少なくて煩雑な印象を受けたのは、これも太宰文学の女性観なのだろうか。だとしたら、女性からの、この美学への賛同は少ないかもしれない。
時代が男性優位でもあり、戦争直前の昭和デカダンスを再現した所以だろう。
キャバレーやバーなどの映像的な魅力は懐かしく、嬉しかった。

■左中間を破るクリーンヒットで、悠々の二塁打。
●2月20日より、有楽町スバル座などでロードショー