細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『オーバードライブ』<バカヤロー息子>を持ったオヤジの逆鱗。

2013年10月31日 | Weblog

10月28日(月)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-137『オーバードライブ』Snitch (2013) exclusive media / participant media / front street production

監督・リック・ローマン・ウォー 主演・ドウェイン・ジョンソン <112分> 配給・日活、キャノンボール ★★★☆

ただのワイルド・スピード番外編かと思って見たら、意外にマジな、ちゃんとしたドラマ性のある力作だった。

マッチョなタフガイのドウェインは、ここではテネシー辺りの田舎町のトラック運送会社の社長で、業績は上向き。

ところが離婚した妻との間の長男が、友人の依頼で預かった麻薬所持の現行犯で逮捕され、10年の実刑判決。バカヤロー息子がここにもいた。

放っとけないので、地元の女性連邦検事のスーザン・サランドンに相談したら、捜査中の麻薬組織の実態情報を提供したら釈放できるという。

マジな馬鹿オヤジは、会社の前科者従業員に相談して、暗黒街の麻薬カルテルの摘発のために、自らアンダーカバーとして組織に潜入していく。

その連絡をとる情報部員が、おおお、バリー・ペッパーじゃないか。となると、この映画、B級アクションじゃないようだ。

もちろん、大型のパワー・トラックを、重戦車のようにハイウェイで暴走するサスペンスはあるが、作品は案外に社会的な人間ドラマなのだ。

監督は、バート・レイノルズやハル・ニーダムのように、実際のスタントマン出身だから、アクション・シーンは手抜きなし。

だから「トランザム7000」よりは豪快なハイウェイでのクラッシュ・シーンも見せるが、ドラマとしても意外にマジで、中身は濃い。

ま、ただのカー・クラッシュ・アクションを見るつもりが、ここでは離婚家族のダメ息子問題も引きずる社会的な厚みも見せてくれた。

ドウェインも、涙を浮かべた離婚ダディをマジに演じて、女傑サランドンと正面から対決する演技を見せてくれた。

原題は「密告」の意味で、邦題は「ワイルド・スピード」の線上狙い。・・・・だから映画っちゅーのは、見てみないと判らない。

 

■バットは折れたが、セカンドベースの上を抜ける地をはうヒット

●11月30日より、丸の内ルーブルなどで全国ロードショー 


●『ザ・コール/緊急通報指令室』さすがオスカー女優の適切な通話指示。

2013年10月29日 | Weblog

10月24日(木)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-136『ザ・コール/緊急通報司令室』The Call (2013) troika pictures / wwe studios / amasia entertainment

監督・ブラッド・アンダースン 主演・ハル・ベリー <94分> 提供・カルチャー・パブリシャーズ ★★★☆

わが国では(110番)にあたる緊急電話の総合司令室。このロサンゼルスでは全米でも犯罪多発都市なので、電話は鳴りっぱなし。

テレビのシリーズ番組のパイロット・ムービーみたいなテーマのものだが、無視できない理由が当然ある。

監督は「マシニスト」や「リセット」など、サスペンス・スリラー専門で、光る演出が印象的な奇才だが、主演がオスカー女優だ。

このところ連続して、スーザン・サランドン、ダイアン・キートン、ヘレン・ハント、サンドラ・ブロックなどの受賞女優の新作が目白押し。

確率がいいのは当然で、彼女らには普通の俳優では演じきれないような難しい演技が要求されるシナリオがオファーされる。

そして、彼女らはその魅力的な役回りに挑戦するわけだから、フツーの映画よりは面白い。それを大女優らは実証する指名があるのだ。

このハルの役は、数十人いる担当司令室の電話番で、たまたま受けたのが、誘拐犯に車の後部トランクに押し込まれた少女からの携帯電話。

どこを走っているのかも判らないから、パトカーへの通報が出来ない。さあどうするハル・ベリー。これがこの映画の面白さだ。

まずは被害少女に精神を安定させ、後部のテイルランプを壊して、そこから衣類の切れ端を出して、他の車の連絡を待つのだ。

それからの展開は、この映画がサスペンス・スリラーなので書くのは失礼になる。とにかくパトカーの発見がなくては緊急指令も出せないのだ。

一本の携帯電話からの通報で、その場所と状況と犯罪の目的を察知して、走行中の捜査官に通報する。これが名女優の達者な早口で迫力がでるのだ。

ま、多くの誘拐犯罪が迷宮になり、「the ice man/氷の処刑人」や「フローズン・グラウンド」などのように、このテの犯罪映画は非常に多い。

しかし、この作品の魅力は、女優の話術だけで迫力はある。映画というのは、話だけで想像できないというリスクでも、充分に迫力は生まれるもの。つまり、見ている我々も、試写室という密室の中なので、想像するしかないのだ。いいアイデアだ。が、ただしラストで、ご本人が犯人と直接対決するというのは、ちょっと無理があった。

 

■左中間のヒットだが、セカンドを欲張ってタッチアウト。

●11月30日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー 


●『ゼロ・グラビティ』の秀逸な宇宙空間からの脱出サスペンス。

2013年10月27日 | Weblog

10月24日(木)10-00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-135『ゼロ・グラビティ/3D』Gravity (2013) warner brothers pictures / haydy films / esperant filmy

監督・アルフォンソ・キュアロン 主演・サンドラ・ブロック <96分>配給・ワーナー・ブラザース映画 ★★★★☆

驚異的な映像の、新鮮でリアルな美しさと迫力で見せる、まさに映画的な快挙。というと大げさだが、でも、これこそが映画ならではの魅力である。

誰も見たことも体感したこともないSFの世界は、見るものの興味と空想を駆り立てるが、この作品はSFだが、それほど突飛じゃない。

タイトルは、「無重力空間」のことだが、いきなり映画は、その宇宙空間でスペースシャトルの修理をしている作業員の姿を見せる。

地上60万メートルという位置での船外活動は、ごく日常的に地上のNASAとの交信で、順調に作業は終了しつつあった。

サンドラと、ベテランの宇宙飛行士のジョージ・クルーニーは冗談を交わしつつも、作業の最終段階。

突然、地上との交信が途絶えて、多くの細かな流星物に襲われたふたりはシャトルを捨てて宇宙基地への移動をするが、トラブル発生。 

まるで宇宙のハリケーンのような衝撃で、木の葉のように飛ばされたサンドラは、どうにか中国製の母船にたどり着く。

映画は、このとんでもない宙空での逃避行を、実に巧妙な宇宙空間のみの映像で見せて行く。その緻密に計算された映像は迫力満点。

とくに無重力状態で、何度も宇宙船に体をぶつけながらも苦戦奮闘するサンドラの演技は、ワイヤーだけの撮影ではないだろう。

ドラマは宇宙での事故から、単身、地球までの帰還と、着水した海上での脱出までを、ほとんどサイレントで一気に描ききる。

映画を見ていての感動とは、これまで見たこともない映像でも、本来の人間性を見失わないというドラマとしての強靭さ、だろう。

傑作「大いなる幻影」でも人間の出会いと、その偶然と必然のドラマ性を見せたキュアロン監督は、ここでも人間の強さと誇りを見せた。

おそらくは、年明けでも多くのオスカー・ノミネートが予想される傑作だが、これが「映画力」の強さなのだと感動した。

「2001年宇宙の旅」以来、多くのSF映画が作られたが、ジョン・スタージェス監督の「宇宙からの脱出」や、がロン・ハワード監督の「アポロ13」がお気の毒なほど、映像技術の進化が圧倒的で、もっとも知性と勇気と人間愛に貫かれた作品だと思った。

 

■飛距離のあるセンターへのフライだが、そのままバックスクリーン。

●12月13日より、全国ロードショー  


●『セッションズ』のおかしくも哀しいセックスのあり方。

2013年10月25日 | Weblog

10月22日(火)13-00 六本木<FOX映画試写室>

M-134『セッションズ』The Sessions (2012) 20th century fox-searchlight pictures / such much films

監督・ベン・リューイン 主演・ヘレン・ハント <95分> 配給・20世紀フォックス映画 ★★★☆☆

6歳でポリオが発症して、前身麻痺になった男の実話の映画化だが、徹底的に明るいのが、あの秀作「最強のふたり」を連想させる。

もちろん、ご本人にとっては、薄幸な人生のシリアスな問題なのだが、ここでは徹底的に明るい作品にしているのがいい。

比較的に裕福な家に住む彼は一応は、もの書きとしての収入はあるらしい。非常に明るくて人間が大好きな好人物だ。

なぜか30代の彼は、セックスに拘っていて、全身不随の体なのにアソコは正常らしくて、治療として全対応型の看護婦を喚ぶのだ。

つまり、セックスの快感を体得するための慰安婦であって、ある種の医療目的のコールガールでもある。これって合法なのか、なんて野暮は、なし。

あの「ジョニーは戦場に行った」は、若くして戦傷で全身不具になった男が、戦場看護婦によって「愛」を手助けしてもらう感動作だった。

しかし、この男はとにかくセックスを体感することで、人間の「愛」を体感したいことに、とことん、こだわるのだ。

相手の慰安婦に扮する名優ヘレン・ハントは、この難役をまさに完全ヌードで演じて、アカデミー賞に前回ノミネートされた、恐るべき役者根性。

ひとつ間違えるとポルノ映画になりそうな設定を、実に平然と演じているのが、妙におかしくも哀しく、人間の意識の高さも感じさせる。

演出は、あくまでもヒューマンな実話として、おかしいくらい誠実に描いているのが、とても好感が持てるのだ。

ひとを愛する、ということでなく、ひとを幸せにするために献身する。これも、たしかにラブ・ストーリーなのだ。

「セッションズ」というのは、「競演する」ということなので、そのポイントが実にユニークな視点の作品として、否定はできない。

 

■送りバントのつもりが、前進守備のサードの頭上を越えたヒット。

●12月6日より、新宿シネマカリテでロードショー

  

●『ザ・イースト』薬物副作用の恨みは、倍返しのテロ・グループ。

2013年10月23日 | Weblog

10月22日(火)10-00 六本木<FOX映画試写室>

M-133『ザ・イースト』The East (2013) fox-searchlight pictures / scott free production

監督・サル・バトマングリ 主演・ブリット・マーリング <116分> 配給・20世紀フォックス映画 ★★★☆

巨匠リドリー・スコットと、故トニー・スコットが、次世代の後継者としてバックアップしているメンバー期待の新作。

実在したという企業テロ・グループの異名が「ザ・イースト」。大手薬品企業などの環境破壊に反発するゴースト集団だ。

薬物の新製品による副作用「サイド・エフェクト」で、身体や神経に異常をきたした被害者たちの不幸のために、彼らは行動していた。

元FBIの女性捜査官ブリットは、大手薬品メイカーの依頼を受けた調査グループのアンダーカバー<僣入者>として「ザ・イースト」に接近。

もともとはピッピー・コミューンのような生活をして、奥地の廃家で自然食品で自活している彼らは、もともとは良家のエリートたちだ。

さすがに、このテのサスペンスに通じているスコット兄弟は、無駄なサスペンス・シーンは除外して核心にどんどん迫って行く。

小気味のいい演出テンポだが、よく考えると、どうして電気のない日常生活の彼らが、それだけ緻密な企業秘密を掌握しているのかは、不明だ。

恐らくは高度なバッテリーと先進のネット操作で、すべての情報を握っている秀才たちなのだろう。そこは映画的な省略が多い。

ま、そんな細かなことを気にしていたら、このテのジニアス連中の行動とサスペンスの早さには追いつけない。

リーダーを演じるアレキサンダー・スカルスガルドは、あの名優ステランの息子さんで、これが中々の切れ者で、将来が楽しみな逸材だ。

捜査官の女性ブリットが、ちょいと微妙な恋を感じて、いまのボケな彼を振ってしまう気持ちも、これなら理解できる。

脚本家でトニー・ギルロイが「フィクサー」やその前にも取り上げた薬物の環境破壊や副作用のケア問題を取り上げたが、ここではそれを突っ込んだ。

女性捜査官の活動なので、派手なアクションはないが、いろいろと今後に期待の出来るスタッフの登場は、とても嬉しい収穫だ。

 

■バットを短めに持って、シャープな左中間へのエッジのきいたヒット。

●2014年1月31日より、新宿シネマカリテでロードショー 


●『グリフィン家のウェディング・ノート』の上質な、古典的ハリウッド結婚騒動記。

2013年10月20日 | Weblog

10月17日(木)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-132『グリフィン家のウェヂィング・ノート』The Big Wedding (2013) millennium films / a two ton films

監督・ジャスティン・ザッカム 主演・ロバート・デ・ニーロ <90分>配給・ポニー・キャニオン ★★★☆☆

よくある結婚式でトラブってしまうご両家の騒動を描いたコメディだが、・・・これって案外によくできた作品。

どうせ「花嫁のパパ」のような、ごくありがちなアメリカン・ホーム・コメディと思っていたが、それよりは面白く出来ていた。

デ・ニーロはコネチカットの瀟洒な屋敷に住む悠々自適のアーチィストで、末娘の結婚式の準備に忙しい。

というのも、長男は童貞のプレイボーイで、長女はダンナとは別居中のトラブル最中の出来損ない。

それに加えて、ああ・・・別れた前の妻、ダイアン・キートンが娘の挙式にやってきたから大変だ。

いまデ・ニーロと同居しているスーザン・サランドンは立場がないので、一応、ウェディング・コンサルタントとして絡む。

表向きは上品に挙式したいのだが、結婚相手の母親が、南米コロンビアから式に来るので、ダイアンを家内として紹介したものだから事件は複雑になる。

要するに、「フィラデルフィア物語」の、つまり「上流社会」の焼き直しのようなアメリカン・ファミリーのおかしさが露呈してしまう。

しかし、傑作「最高の人生の見つけ方」のジャスティン監督は、その複雑な家庭の事情を、手際よくシナリオで処理して、案外にすっきりしている。

だから、アカデミー受賞の4人もの名優たちにも、ちゃんとした見せ場を作っていて、上品に、辛辣に、飽きさせないのは、お見事。

つまりハリウッド伝統のソフィスティケイテッド・コメディの味付けを、久しぶりに再現して見せて、終始トラブルに笑える仕掛けになっている。

牧師の役で、久しぶりにロビン・ウィリアムズも顔を見せていて、まずは大いに楽しめたハリウッド伝統のドタバタ家庭騒動。

 

■左中間の浅いフライをショートもキャッチしようとして、3人の間に落ちたヒット。

●11月29日より、TOHOシネマズ、みゆき座でロードショー 


●『ワン・ダイレクション/THIS IS US』をスリー・ディメンションで楽しむ。

2013年10月18日 | Weblog

c10月15日(火)13-00 神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>

M-131『ワン・ダイレクション/3D』This is Us (2013) tristar pictures / syco entertainment / modest !

監督・モーガン・スパーロック 出演・ナイル・ホーラン&メンバーズ <92分> 配給・ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメント ★★★

ロンドンでの厳しいオーディションで選ばれた5人のミュージシャン「ワン・ダイレクション」のデビューから成功までの2年間のライブ・ドキュメント。

それぞれに個性的なイケメンの若者ロック・グループの人気は、その方面ではソコソコなものらしいが、わたしなどはこの作品が初のご対面となる。

最近見たジャスティン・ビーバーの「ネバー・セイ・ネバー」ほどの馴染みがないので、どうもアブなっかしい5人グループ。

ヒット曲も、あちらの放送でたまに耳にする程度なので、絶頂人気のジャスティン・ティンバーレークほどの衝撃も感動もないのが正直な印象だ。

つまりポピュラー・ミュージックが、ワールドワイドでショーバイするための、一種の業界PRドキュメントにも見えて、そちらのお仕事の御仁には勉強になるだろう。

おそらく、それぞれに個人芸もあって、ビートルズやストーンズのように、個性の集合体ならば魅力も凄いだろうが、まだまだAKB的な群像に見える。

彼らも若いが、グループもデビュー2年目。アルバムもやっと3枚目のレコーディングと聞くから、まだまだ業界では低学年なのだから仕方がないだろう。

ということは、世界大都市のスーパーアリーナでの、このドキュメント・フィルムも、新作CDなどのプローモーション3Dムービーなのであろう。

数万人の聴衆の熱狂にも耐えられるスーパーグループというは、このように、ある種、スポーツ・イベントのような視覚効果も必要なのだろう。

だから、ここでは芸ではなく、河原の打ち上げ花火のような光と音の壮大な演出がないと、イベントとして成立はしない。

 

■かなり高く打ち上げたセンターフライだが、野手の定位置。

●11月1日より、全国ロードショー 


●『キャプテン・フィリップス』の4日間のリアルな洋上孤軍奮闘。

2013年10月16日 | Weblog

10月10日(木)13-00 神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>

M-130『キャプテン・フィリップス』Captain Phillips (2013) columbia pictures / trigger street production

監督・ポール・グリーングラス 主演・トム・ハンクス <134分> 配給・ソニー・エンターテイメント ★★★☆☆

2009年4月に、インド洋のソマリア沖合で、オマーンからケニアに向かった救済コンテナ船が数人のソマリア人海賊に襲われた。

この事件は当時リアルタイムで報じられ、たったひとり海賊の人質になったアメリカ人船長を救出するために、オバマ大統領の指示を待った。

記憶に新しい事件の再現ドラマだが、人道的にもリスクを最小限にとどめたアメリカ海軍シールズ特殊部隊の救出作戦は成功した。

トム・ハンクスが演じるフィリップス船長の回想録をもとに、忠実に描かれたこの作品は、ご本人も大統領もお墨付きだとか。

あの「アポロ13」の再現と同様に、トム・ハンクスはヒーローではなく、実直で責任感の強いリーダー像を好演しているワンマン映画。

どうして海賊の多い袋小路のような海峡で、例えば武力行使の出来るような手段がなく、警備員も同乗していないのかは大きな疑問として残る。

ニューヨークの地下鉄だって、2人の武装警官が常時同乗しているというのに、これだけ危険な航路にいないというのが、どうも変。

ま、この事件を契機にして、おそらく自衛手段は最低限で取られるようになったと思うが、その点が終始もどかしいのだ。

つまりこれはハリウッド・エンターテイメントではなく、「これがリアルな事件だよ」と言われれば、ああ、そうですか。としか言えない。

それだけに、ヒーロー・アクション映画に犯されている我々は、もどかしい作品で、30分は完全に長過ぎた。だから大いに疲れたのだ。

とくに、シールズの落下傘部隊が夜中にスカイダイビングしたのに、それっきり映画に出てこないなんて、無駄なシーンじゃないだろうか。

しかも、ほとんどが4日間もの監禁なのに、深夜のシーンばかりなので、状況が見えなくてイライラする。でも、これもリアリズムなんだろう。

傑作「グリーン・ゾーン」の時のように、監督はハンディカメラの多用で迫力はあるが、とにかく狭い脱出用の船の中なので、こちらも息が詰まった。

 

■右中間のヒットでセカンドまで走ったが、オーバーランで挟まれて危うくセーフ。

●東京国際映画祭のオープニング上映のあと、11月29日より、全国ロードショー 


●『終わりゆく一日』でも終わらない定点観測の意味。

2013年10月14日 | Weblog

10月9日(水)13-00 六本木<シネマートB-1試写室>

M-129『終わりゆく一日』Day is Done (2011) okofilms srf arte / thomas imbach スイス

監督・トーマス・イムバッハ 音楽・ピーター・ブレイカー <111分> 提供・フルモテルモ・フィルム ★★☆☆

スイスのチューリッヒ市内の、監督のオフィスの窓から見える風景を15年間も撮り続けた一種のドキュメンタリーだ。

一般的にドキュメンタリーフィルムというのは、貴重な大自然の驚異や、歴史的な事件のリアル映像や、偉人の記録を再現する。

しかし、これは映像作家の個人的な定点観測であって、いまの、どこにでもある監視カメラによる記録映画のようだ。

とはいえ、ここにはスピード違反もレジ強盗も、不審者の行動も写っていない。ただの窓外風景の凝視。何の変哲もない日常風景。

遠くに見える工場の煙突や、エアポートを離着陸するジェット旅客機や、駅に連絡する電車。そして通行人たちの姿。

とにかく日常的に窓から見える風景を500ミリの望遠レンズや、30ミリくらいのワイドレンズで撮っている。

監視カメラのような部分もあり、通行する美人や、口論している人々、車の通行と駐車などには、どうも演出も感じられる。

ま、そんなことはどうでもいい。とにかく、この映画の視点は三脚に固定されていて、いろいろな季節の移り変わりがランダムに展開する。

だから映像美術に興味のアル学生や、六本木の「21-21」のイベントがお好きな方には、面白い映画かもしれない。

どなたのお住まいにも窓があり、おそらく、そこからの風景がお気に入りで、居住を決めたのだろう。

わたしは40年前に、富士山に沈む夕陽の美しさを見たくて、いまの住居を購入して、ひと時期はよく定点カメラで写真も撮っていた。

だから、この監督の気持ちはよく判るし、アート性も認める。でもこれは2、30分のショート・フィルムで充分ではないだろうか。

似たような映像を111分も見せるのは、いかにボブ・ディランの唄を流しても、ただの作家のエゴではないか、と、疑問を感じてしまった。

それにしても、あのヒッチコックの「裏窓」は、このポイントで面白いサスペンスに仕立てたナ・・・・と、ふと思うのだ。

 

■ファールで粘った末に、ファールチップをキャッチャーがファンブル。

●10月26日より、渋谷ユーロスペース他でロードショー 


●『フォンターナ広場/イタリアの陰謀』の硬質な歴史リアリズムの正統ドラマ。

2013年10月12日 | Weblog

10月9日(水)10-00 六本木<シネマートB-1試写室>

M-128『フォンターナ広場/イタリアの陰謀』Piazza Fontana, The Italian Conspiracy (2012) cattleya / babe films 伊

監督・マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ 主演・ヴァレリオ・マスタンドレア <129分>配給・ムヴィオラ ★★★☆☆

1969年12月12日の夕方。ミラノ中心街フォンターナ広場にある農業銀行で爆破テロ事件があった。あのドゥオーモの近くだ。

死者17人。負傷者88人を出した大惨事で、当初はボイラーの爆発という事故説もあったが、のちの調査で複合爆破という見解が発表された。

当時のイタリアは、政治的にも不安定で、ネオ・ファシストとアナキストや学生たちの対立も激化していて、政府内務省の情報局とミラノ県警、軍警察とも摩擦があった。

その結果、事件の真相は曖昧なまま迷宮入り、その関係勢力に複雑なトラブルを生じたままに未解決になったという。

当時、その現場を目撃したジョルダーナ監督自身は、40年の日々を越えて多くの資料をもとに、その真相をここに描いて再現を試みた。

我々にはあのJFK暗殺事件の陰で、あまり大きな強い印象はなかったが、イタリアにとっては未だに謎の残る国家的な未解決事件。

かなり時代背景に忠実に、リアルな再現ドラマになっている関係で、当然、作品はエンターテイメントではなく、ドキュメント・タッチで重い。

ただでさえ複雑なヨーロッパ情勢不安定な時代、ここに検証される事件の関係者も実に複雑で難解だ。しかも厳つい中年オヤジばかりでむさ苦しい。

それでも後半はヴァレリオ警視の存在感が浮き彫りになってきて、イタリアン・ダンディズムの正義感が強くなる。かっこいいのである。

あのコスタ・ガブラス、フランチェスコ・ロージの社会映画や、デ・シーカ監督の男臭いリアリズムも久しぶりに覗かせるのだ。

ま、ハリウッド・エンタテイメントとはまったく違う、何となく地味で頑固なタッチも男っぽくて懐かしい。

意外なラストの衝撃が、この事件の複雑な社会情勢を蘇らせて、重いノワールな印象で終わり、また真実は闇の中に沈むのだ。

 

■センター前のライナーが野手の手前でイレギュラーして、フェンスに転々。

●12月21日より、シネマート新宿などで新春ロードショー