細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ロスト・リバー』異色の映像美のダーク・ナイトメア。

2015年04月29日 | Weblog

4月23日(木)13-00 渋谷<ユーロ・ライブ2F試写室>

M-047『ロスト・リバー』" Lost River " (2014) Bold Film Productions LLC. / Phantasma Films

監督・ライアン・ゴズリング 主演・イアン・デ・カーステッカー <95分> 配給・トランスフォーマー

昨年、ハリウッドのスタントカー・ドライバーの犯罪サスペンス秀作『ドライブ』で好演した、あのライアン・ゴズリングが、あのスタッフと組んで監督デヴューした異色作。 

ケビン・コスナーやクリント・イーストウッドも、あるタイミングで映画を監督するようになったが、こうしてチャンスと資金があれば、情熱をフィルムに映像化してほしい。

が、俳優で監督もするというのは、かなりの覚悟はいるが、スタッフが意図を熟知して協力的であれば、それはいい作品を生むチャンスでもあり、ライアンはそれに恵まれたようだ。

この作品で、ライアンは出演していないが、さすがに特異な映像感覚は持っているし、現実とイリュージョンの配分も、かなり計算されていて終始魅力的な映像を展開するのは、さすがだ。

恐らくはデトロイト郊外なのか、大規模貯水池工事が中途で中止されたのか自動車産業の破綻からか、そこは完全に衰退したゴーストタウン。まさに老朽化で瀕死状態の町を舞台にして、現実とイメージが迷走する。

だから、当然のように、映画のテイストは「ロスト・ハイウェイ」や「ブルー・ベルベット」「ツイン・ピークス」などのデヴィッド・リンチ映画の、あのダークなファンタジーとなる。

人間の知性や感性、とくに犯罪は、その住んでいる土地の風土に汚染されがちだが、このような町ごとが都市計画の失敗に風化されるというケースはチチェンだけでなく、アメリカにも多い。

あのジョン・ブアマンの傑作「脱出」も、過疎化した山奥の得体の知れない住人たちの暴行から逃れるサスペンスだったが、この作品の視点も水没したハイウェイの電柱などのイメージは似ている。

たしかに多くのダーク・ムービーの舞台として、これらの水没都市は背景として使われるが、ライアン監督はそこに住んでいた人々の心の沈殿と、異様な悪夢も映像化しようとチャレンジして見せる。

カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品されたのも、そうした古典的なテーマながら、新しいヴィジュアル視点と、異様なドラッグ感覚をゴズリング風に料理したユニークな才能を評価しての成果。

そこにはリンチ・ワールド以前に、フリッツ・ラングやロバート・シオドマークら先陣の作っていた文明破綻と共に頭脳ウィールスに冒された人々の地獄図が、音もなく沈殿していて異様だ。

だからこれは犯罪サスペンスではなく、人間文明の破綻が生んだ、住民たちの感性の崩壊も覗かせるニュータイプの<ダーク・ファンタジー>なのだろう。

 

■ライトへのヒットがイレギュラーしてファールライン、ツーベース。

●5月30日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー 


●『ワイルド・スピード/SKY MISSION』で、ポールには永遠のお別れだ。

2015年04月27日 | Weblog

4月22日(水)13-10 二子玉川<109シネマズ・アイマックスシアター・スクリーン7>

M-046『ワイルド・スピード/ SKY MISSION』" Wild Speed / Sky Mission " (2014) Universal Pictures

監督・ジェームズ・ワン 主演・ヴィン・ディーゼル <138分> 配給・東宝東和

東宝東和の試写室の予定はキャンセルしてでも、やはりこれはアイマックスの3Dスクリーンで見ることにして、ご当地初日公開まで我慢。

というのも、わが家から数分のところに、遂に7年ものニュータウン計画の大工事の末に、<109二子玉川シネコン>の中にアイマックス・シアターがオープン。

24日の一般興行の前に、密かにプレ・オープンをするというので、ネットでシートチケットを予約。夢のシアターに駆けつけた・・・・という次第。

六本木のシネコン・ナンバー7スクリーンと同様の設計で、やはりビッグ・スクリーンは圧倒的で、エアライン・ビジネスシート並みの大きなシートも快適だ。

やはり、このようなビッグ・イベント・ムービーは、狭い試写室の小さなスクリーンで見るよりは遥かに開放感があり、オープン・アクションのド派手な作品には最適なのだ。

この<ワイルド・スピード>シリーズは、10年前には、ただのストリート・ドライバーの暴走アクションだったのだが、ヒットを重ねてもう人気シリーズになってしまった。

もちろん、ポール・ウォーカーのファンだったので、すべてのシリーズは見ていたが、一昨年に彼が自動車事故で亡くなってからは、気持ちが引けていたものの、今回は追悼作品。

シリーズの人気が沸騰してからは、いつのまにか、国家機密組織のバックアップでチームを組んでいたメンバーが集結。何とジェイソン・ステイサムの悪党を、追う事になった。

しかも今回はジェームズ・ボンドの領域である国際紛争エリアに改造車で乗り込み、何と山中のテログループのアジトには、空路僣入するために飛行機から車ごと飛び込むという、とんでもない発想だ。

普通のアクション映画のスケールの5倍は派手なカーアクションや、格闘技の数々は、例によっておかまいなしの大サービスで、とにかくホッとする暇もないほどの、まさに<連続l活劇>なのだ。

それを3Dのアイマックスで見るのだから、これは映画というよりは、ロックショウ・イベントのような迫力が。まずは息つく暇もないという極限エンターテイメント。

まさか、ここまで撮っていたのかと思うほどに、ポール・ウォーカーの出演シーンや、終盤の別れのエピソードも用意してあって、ファンとしてはホロリの合掌ラストシーンだった。

 

■痛烈なライナーの左中間フェンス直撃のスリーベース。 ★★★☆☆☆

●全国主要劇場でGWロードショー中 


●『メイズ・ランナー』では、あなたの脱出ゲーム感覚が試される。

2015年04月25日 | Weblog

4月20日(月)13-00 六本木<FOX映画試写室>

M-045『メイズ・ランナー』" The Maze Runner " (2015) 20th Century Fox Production / Gotham Group, Temple Hill Film

監督・ウェス・ボール 主演・ディラン・オブライエン <113分> 配給・20世紀フォックス映画

とにかく世界中で大ヒット中の新作という触れ込みなので、百聞は一見にしかず、という格言を信じて見てみたが、たしかにこれは手に負えないゲーム映画。

ゲームといっても、敵方の相手が見えていれば、どうにか作戦も考えられるだろうが、これは四方八方を巨大な石の高い壁に囲まれた空間からの絶望的な脱出作戦だ。

もともと、パソコン・ゲームやゲーム・センターのマシーンにはテも触れた事のない前世紀の人種なので、このように前提もなく、いきなり生存競争の悪夢に入るのはヤバい。

あの「シャイニング」のラストでジャック・ニコルソンが大雪の夜に、メイズ・ガーデンに迷い込んで出られなくなったのは、狂人の末路としての図式として宜しかった。

しかし、これは「ザ・ビーチ」の若者達よりも過酷な、四方を高い石の壁に囲まれていて、その壁が動き出した少しの時間の間に脱出を試みるという地獄の牢獄脱出劇なのだ。

そかも、そのカタい巨大なダムのような石の壁が突然動き出すので、その一瞬の間に脱走を続けなくては、その壁の重圧に押しつぶされてしまう。一瞬の考える<間>もない空間。

やっといくつかの出口は見つけても、そこには巨大なサソリの化け物のような巨大な毒物怪獣がいて、突然、エイリアンのように襲いかかってくる。

だからそのメイズに閉じ込められている少年たちは数人のチームを作って脱出を試みるのだが、まずは脱出不可能で死んで行く。まさに地獄の一丁目アクション篇なのだ。

つい理屈に拘ってしまうオールド・タイマーとしては、これは悪夢なのか。それとも何かの肉体教練なのか。それとも、ただの映像遊戯なのか。と、つい理屈を考えてしまう。

でも、この映画には、そのようなレトリックは通用しない。ただただ苦痛な出口のない巨大迷路から、若い男たちはどのようにして外界に脱出できるのか。それだけの作品なのだ。

この絶望的な状況が、要するに電子ゲームのエンターテイメントの基本なのだろう。その自虐的な状況をどのように脱出していくのかには、特に知的な計算は意味がない。

という意味では、満員電車の中でも立ち乍ら、押されながらも、無心にスマホゲームに熱中している人種には、これは格別な有効な巨大映像ゲーム体感なのだろう。

 

■ドーム球場の天井に上がったフライで、ボールが落下せずに審判団が協議中。 ★★★

●5月下旬より、TOHOシネマズ日劇ほかでロードショー 


●『ハッピーエンドが書けるまで』トラブルは自力で修復するしかない。

2015年04月23日 | Weblog

4月17日(金)13-00 渋谷<映画美学校B-1試写室>

M-044『ハッピーエンドが書けるまで』" Stuck in Love " (2012) Writers The Movie LLC. / Informant Media Film.

監督・脚本・ジョシュ・ブーン 主演・リリー・コリンズ <97分> 配給・AMGエンターテイメント

よくあるホームドラマかと思いつつ、しかし監督が、昨年の佳作「きっと星のせいじゃない」のジョシュ・ブーンの2012年の前作だというので、それでは・・・と見た。

たしかに演出力は堅実で、アイデアも豊富な作品なので、ドラマはテンションを持続させて一気に見せるのは、さすがだった。

 リリーは大学生で作家を志望して小説を書いているが、離婚した父が人生に挫折しているのと、別れて生活している母とも、感情的に断絶している。

ま、アメリカにはよくある中産階級離婚家族の実態が、それでもオヤジのグレッグ・キニアの明るい感性に支えられて、見ていてドラマはスムーズで屈託がない。

それぞれに人生行路の舵取りがヘタクソな人々には、それぞれに抱えた悩みがあるのだが、とくにDVが発生するような最悪家族ではなく、それぞれに品性を保っているのだ。

売れない作家のグレッグは、あのスティーブン・キングの旧友であったことが、彼の作家活動に劣等感を持たせているらしく、作業は挫折して、そのせいで家族もバラバラ。

しかし娘のリリーは、そうした分解家族の実態をベースにして私小説を書いて、それが出版されることになり、やっと後半でドラマも活力を得てくるという展開。

どこの家庭にでもあるような些細な誤解をちりばめて、ジグソーパズルの断片が、その出版を契機にして、少しずつ本来の平和だった家庭をリニューアルしていくプロセスが面白い。

そしてラストでは、離婚していた妻のジェニファー・コネリーが、サンクスギビングの食事の席に、突然戻って来たシーンには、不覚にもホロリとしてしまった。

そのドラマチックな玄関ドアのシーンは、これからご覧になる方のために書かないが、ワイラーの名作「我等の生涯の最良の年」での、あの感動のラストシーンに似せて、お見事。

さすがはオスカー女優のジェニファーと、久しぶりにシリアスドラマのゲレッグ・キニアの好演が、若い俳優たちをバックアップしていたのも嬉しかった。

原題は「愛につまずいて」という訳で、最近に見たアメリカン・ホームドラマでは、上々の出来だったのが意外な収穫だった。

 

■空振りでのフルカウントから、意外のジャスト・ミートでセンターオーバーのスリーベース。 ★★★☆☆

●6月、新宿ピカデリーなどでロードショー 


●『アドバンスト・スタイル』華麗な超高齢ファッションの覚悟。

2015年04月21日 | Weblog

4月15日(水)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-043『アドバンスト・スタイル(そのファッションが、人生)』" Advanced Style " (2014) Advanced style Documentary LLC.New York City.

制作・アリ・セス・コーエン 監督・リナ・プライオプライト <72分> 配給・アルバトロス・フィルム

<アラ・フォー>ならぬ、<アラ・シックスティー>以上の、非常に後期高齢者女性のおしゃれ感覚をニューヨークでスケッチしたドキュメンタリー。

たしかにニューヨークの、とくにマンハッタンのフィフス・アベニュー60丁目周辺には、かなり派手なアドバンスト<前進的>ファッションの老嬢を見かける。

ま、わが東京の巣鴨だって負けてはいないが、あちらの老嬢ファッションは、たしかにリッチで垢抜けているのは、サックス・フィフスアヴェニューやティファニーの環境もある。

恐らくは、セントラルパーク・アッパーイーストの高層マンションにお住まいの方々であって、多くはリッチな夫が他界して、そのまま居候している裕福な方々だろう。

よく晴れた午前中には、子犬をつれてプラザ・ホテルから公園通りを散歩している派手なファッションの老嬢を見かけるが、たいていはご近所のグレタ・ガルボ・マニアの雰囲気。

これもマンハッタンの風物詩であって、最近は後ろから見るとレディ・ガガかと思う程、そのコスチュームはカラフルで個性的になり、写真家たちがカメラを向けてしまうほど。

この作品も、はじめはリナなどが、スケッチしていた写真でアルバムを出版したところ、ファッション・マガジンなどが取り上げて、ベストセラーになってしまった。

そこで、このドキュメンタリー映画が誕生するきっかけになったという。だからオールド・マダムの奔放なファッション誌を動画で見るつもりで見たのだが、かなり辛辣で面白い。

というのも、高齢な彼女たちは、それなりにボケも進んでいて、そのキャリアがブロードウェイのダンサーだったり、かつてはモデルだったり、ソフィスティケイトな前科者たちなのだ。

だからおっしゃることも、かなりシニカルで居直りもあり、メッセージにもなっていて、そこは<SUGAMO>とはニュアンスが違い、カラフルで明快で迫力もある。

とくに、「これはわたしの死化粧なのよ」と笑う95才のゼルダの発言は、不思議な感動があったのだ。そして彼女はファッションショウの最前列で自然死したのには恐れ入った。

従ってこの作品は、奇抜なシニア・ファッションを見るだけでなく、彼女たちの逞しい生命力と、人生の謳歌と、他界への覚悟の凄まじさを見るべき作品なのだ。

あの女優のジェーン・フォンダも77才ながら、この作品の制作に強力しているのだから、筋金入りなのだ。

 

■ボール気味のコースはファールで粘り、軽く当てたボールがライトのライン上から反れてツーベース。 ★★★☆☆

●7月、TOHOシネマズシャンテ他でロードショー 


●『悪党に粛清を』デンマーク製ウェスターンの必殺銃魂。

2015年04月19日 | Weblog

4月15日(水)10-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-042『悪党に粛清を』" The Salvation " (2014) Zentropa Entertainments 33 / Black Creek Films デンマーク

監督・クリスチャン・レヴリング 主演・マッツ・ミケルセン <93分> 配給・クロックワークス

いまどき珍しくマジな西部劇だが、これがデンマーク製だというところが面白い。あのジョン・フォードの決闘西部劇を、そのまま北欧の感覚で作ると、こうなる。

時代はもちろんアメリカ西部の開拓時代の1864年。デンマークで戦争によって追われたマッツは、命からがらアメリカに渡り、家族との生活を復活すべく土地を買った。

そしてカウボーイとしての地盤をかため、家族の妻と息子を新天地である西部に呼んだのだ。ところが、やっと家族と再会して自分の農地へ駅馬車に乗った途端に不幸が始まる。

乗り合わせた酔っぱらいのカウボーイたちは、美人の妻を強姦して、それに抵抗した息子共々に虐殺されて、マッツも重傷を負ってしまう。最悪の無法なスタートだ。

あとは西部劇のリベンジ・パターンで、その無頼漢たちや、彼の牧場の土地までも悪辣な手段で強奪してしまう、その開拓地の悪徳実力者たちの腐敗ぶりに、さすがの移住者もキレた。

という話は、古典的なウェスターンの常套であって、それ見ろ、だから移住なんてやめとけよ、と同情してしまう。が、それからが、この映画の復讐ボルテージが上がって行くのだ。 

あのクリント・イーストウッドの名作「アウトロー」や、アカデミー受賞の「許されざる者」などと同じパターンになるのだが、やはりデンマーク人の感覚は、もっとアグレシブなのだ。

たしかにセルジオ・レオーネなどのマカロニ・ウェスターンのような容赦ないバイオレンス・シーンにも新鮮味はあるが、イタリアと北欧では、その感覚にユーモアは微塵もないのだ。

おまけに、最近「偽りなき者」でも繊細な演技を見せたマッツは、あのリチャード・ウィドマークも顔負けのシリアスなリベンジを、かなりマジに、執拗に展開していくから、眼ははなせない。

タイトルの「サルベーション」というのは、ある種、宗教的な福音の意味もあるのだろうが、ここでは「眼には眼を」という、遥かに宗教を越えた動物的な逆襲心がブローアップしていく。

という意味では、監督が尊敬していたというジョン・フォードの名作などにない、実感的なバイオレンスが炸裂し、そこにあの西部劇の情緒的詩情などは、サラサラになく、ペキンパーよりも残酷だ。

古きウェスターン映画ファンには、ちょいと辛口すぎるが、ぜひ、クリント・イーストウッドにも見てもらって、コメントを聞いてみたい気がする。

 

■バットが真っ二つにへし折られた強打で、ショートのグラブを弾く。 ★★★☆☆

●6月27日より、新宿武蔵野館ほかでロードショー 


●『しあわせはどこにある』の奇妙で愉快な幸福論。

2015年04月17日 | Weblog

4月13日(月)13-00 渋谷<映画美学校試写室>

M-041『しあわせはどこにある』" Hector and The Search for Happiness " (2014) Egoli Tossell Film / Wild Bunch Germany 

監督・ピーター・チェルソム 主演・サイモン・ベッグ <119分> 配給・トランスフォーマー

『精神科医へクトールの旅』というサブタイトルの、フランソワ・ルロールの原作は日本でもNHK出版から刊行されているという。

独身の精神科医へクトール(サイモン・ベック)はロンドンで開業して長いが、裕福なはずの患者が、いつも不幸な精神状態を話すので、幸福の本質に疑問を持ち出した。

 そこで病原菌のありかを探す為に、カレはフィアンセのロザムンド・パイクの不満をよそに、その<しあわせ>という心の怪物の正体を探すために苦行の旅に出る事にした。

むかし、文豪サマーセット・モームの原作を映画化した「剃刀の刃」という秀作があって、後にリメイクされたほど、このテーマは不変の興味をそそるが、この作品はコミック・タッチだ。

ま、「天国は待ってくれる」や「天国への階段」のように、似たような幸福論追求の映画は多いが、この作品はロンドンを出てチベットからアフリカ、そしてロサンゼルスまでロケをする。

だから、それぞれの異境で、いろいろな人間が幸福へのヒントを与えるのだが、そのキャスティングが豪華で面白い。

チベットへの旅ではステラン・スカルスガルド。アフリカでは悪漢ジャン・レノ。ロスではトニ・コレットとクリストファー・プラマーという豪華なゲストが、それぞれ巧みに絡んでくる。

だから、「アアーーーまた、あの<剃刀の刃>かーーー」と思って見ていたが、それぞれのエピソードが案外に面白く、ちゃんと幸福への格言をスーパーでリピートしてくれるのでありがたい。

それに演出も随所に凝った視線も見せるし、あの傑作「セレンディピティ」のチェルソム監督は、なかなかに手際がよく、それぞれのエピソードにもアクセントがあって飽きさせない。

とくに、ロスの大学病院で神経科の名医のクリストファー教授にMRIのテストを受けて、マジに幸福というポリープの正体を伝授されるクライマックスは、大いに笑えた。

恐らくウディ・アレンは毎回テーマにしている、幸福と脳神経外科やシュリンクの関係を、こうしてロケーションでコミックに羅列して見せられると、かなり嫉妬に怒り狂うだろう。

たしかに、<しあわせ>は、その人の心の中にあるものだが、こうして大仰に世界中を旅して探すという映画には、拍手を贈りたくなる。面白い映画は、それだけで<しあわせ>なのだ。

 

■左右に大きなファールを打ち乍らも、フルカウントでレフトにホームラン。 ★★★★

●6月13日より、渋谷シネマライズなどでロードショー 


●『ゆずり葉の頃』で綴られる枯淡の感傷。

2015年04月15日 | Weblog

4月9日(木)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-040『ゆずり葉の頃』(2014)”ゆずり葉の頃”をつくる会・東宝スタジオ

監督・脚本・中 みね子 主演・八千草薫 <102分> 配給・パンドラ

映画のタイトルである<ゆずり葉>というのは、若やいだ緑色の葉の色のままに散ることから、親子の世代交代の縁起物のシンボルとされているという。

映画はまさに、その葉のように若々しく生き抜いた女性が、青春の頃に観た思い出の絵と、小さな泉を求めて、軽井沢で開催中の、その絵の画家の展覧会を訪れるという、<心の旅路>。 

海外に赴任していたというひとり息子は、突然の帰国で母の行方を探すのだが、ケータイのスイッチを切っていた母を軽井沢で探すという、これも<母と子のかくれんぼ>だ。

まさに晩秋の避暑地のような佇まいで展開する作風は、キャサリン・ヘプバーンの晩年の「黄昏」の、あの<ゴールデン・ポンド>を思わせて、いかにも<枯淡の昭和>の味わいが懐かしい。

もしこのヒロインが、香川京子さんとか、司葉子さんであったら、もっと感情の起伏が表面化しただろうが、監督のイメージは、まさに八千草薫という女優の個性と実績を背なで見つめていく。

そのリズムは終始スローワルツのように美しく、ふと、フランク・シナトラの歌唱で有名な<Being Green>を思い出してしまった。

♬ーーーひと青春は新緑のようにグリーンに満ちているが、次第にその色は退色していくものだ、いつまでもグリーンでいることは難しい。

・・・赤く染まるひと、オレンジ色に輝くひと。ブラウンに枯れるひと、ピンクになるもの。そしてグレイからホワイトに。ーーー。

でも、できるものなら、わたしはゴールドの葉になりたい。そしてゴールドのままで散りたい・・・・♬。晩年のシナトラは<マイ・ウェイ>よりも、好んで唄っていた。

しかし、この<ゆずり葉>はグリーンのままで散る。もちろん、若くして散る、という意味ではない。最期までグリーンの色彩のままで、人生を終えたい、という願いなのだろう。

探し出した絵の画家は緑内障を患っていて、目は不自由だが、フランス人の妻の気配りで、八千草と会い、思わず少年時代を思い出す。シーンは少ないが、仲代達矢の存在感で心地いい。

あの岡本喜八監督の未亡人である、ひね子夫人が76才にしての初メガホン。真心がフィルムに再現された、これもご主人へのラブレターだろうか。   

 

■フルカウントまで粘っての、渋いファースト横へのヒット。 ★★★☆☆

●5月23日より、6月19日まで、岩波ホールでロードショー


●『リピーテッド』難かしい脳障害サスペンスは認知もやっかいだ。

2015年04月13日 | Weblog

4月8日(水)13-00 六本木<シネマート試写室>

M-039『リピーテッド』" Repeated "(2014) Millennium films / a Scott Free / Studio Canal

監督・ローワン・ジョフィ 制作・リドリー・スコット 主演・ニコール・キッドマン <92分> 配給・クロックワークス

被害妄想のような精神障害を患った女性がヒロインの映画は、ヒッチコックの「汚名」「断崖」「マーニー」など傑作が多いが、テーマとしては非常に難しい。

この作品のヒロインのニコールは事故の後遺症で脳にダメージが残り、毎朝起きても、昨日までの記憶がないのだ。これは実に不思議な症状だが、自分の生理現象は認知している。

だから、毎朝ベッドで起きると、夫のコリン・ファースは「わたしは君の夫で、君はわたしの妻で記憶障害を患っていて・・・」とあれこれ説明してから日課が始まるという具合。

電話に出ると、精神科の主治医のマーク・ストロングから、君の記憶はデジカメに納められていて、それはクローゼットの右端の靴箱の中にある・・・という。

それをチェックすることで、ニコールは昨日までの行動や記憶は認識できるので、そのあとの自分の行動は確認できるのだが、夫が本物の主人なのか、医者はほんものなのか???。

という疑問を持ったら、この映画は全部が謎だらけで、第一に自分自身が何者なのかもわからなくなるという、かなり重度のウツと認知障害に冒されるという難解なテーマなのだ。

考えると、これだけの精神障害だったら、入院して治療しなくてはならないのに、ま、映画はとにかく、それでも普通の生活をするということで、サスペンス・ドラマに仕立てている。

あとはバーバラ・スタンウィックの「私は殺される」や、ジョーン・クロフォードの「突然の恐怖」のように、身近な他人から命を狙われている、という被害妄想な女性サスペンスとなるのだ。

だから、観るべきはアカデミー受賞のニコールと、怪しげなDVハズバンドを演じるオスカー俳優コリン・ファースの名優対決となるのだが、それにしては演出が後手後手で冴えないのだ。

これならプロデューサーのリドリーが演出すべきだったろうが、カレは「エクソダス」の方に多忙だったのか、どうもこの認知症スリラーは説明不足。それで演技も空転してしまう。

たしかに被害妄想や認知症は、サスペンスのテーマとして面白くなる筈だが、その分、落とし穴も多いのだ、

出来れば専門精神科医のチェックを、もっと明快にしてから撮影しないと、このニコールのようなオーバー・アクションが興味を半減させてしまうのだ。

 

■カウントを間違えたのか、低いシュートに手を出してファースト・ゴロ。 ★★☆☆☆

●5月23日より、新宿ピカデリーなどでロードショー 


●『ハイネケン誘拐の代償』の想定外だった実状。

2015年04月11日 | Weblog

4月8日(水)10-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-038『ハイネケン誘拐の代償』" Kidnapping Mr. Heineken " (2014) Informant Media / Global Film Partners / Heineken Finans LLC

監督・ダニエル・アルフレッドソン 主演・ジム・スタージェス <95分> 配給・アスミック・エース

<ハイネケン>といえば、ビール好きに知らないひとはいない有名ビール銘柄で、そのさっぱりした味わいはビールの一級品。どこのバーにも必ず置いてある有名ブランド。

いまでも世界中のどこのバーにもあるが、そのビールの創始者だったミスター・ハイネケンを誘拐した事件は、1983年にオランダのアムステルダムで実際に起こった。

有名人を誘拐するという事件は、あの飛行家リンドバーグ家の娘を誘拐して迷宮入りした「オリエント急行殺人事件」のような創作ものがあったが、これはほぼ実話の再現だという。

ジムやサム・ワーシントンなど定職を持たない若者グループは、マジに働く気持ちのない連中で、ある日、遊び資金に困って、有名な富豪であるハイネケン老人の誘拐を思い立った。

もちろん、誘拐してからの人質を監禁する場所や、身代金の引き渡しから逃走経路などなど、このテの犯罪映画では必須条件となる課題は、それなりに緻密に計画してからの挙行だった。

たしかに過去の多くのキッドナッピング映画では、どのグループも周到な計画で実行に及ぶわけで、ハンパな思いつきで実行が成功するような単純な犯罪ではない。しかし迷宮もある。

旧知の若者たちは、それら過去の誘拐事件や映画の前例を検討したうえで、完璧な準備のあとに、ハイネケン老人であるアンソニー・ホプキンスを誘拐して監禁し、身代金を要求したのだ。

ここまでは、過去にも多くの映画で描かれて展開であって、別に新しい手口はなく、カレの運転手兼秘書の男とふたりは、準備していた隠れ家の隔離スペースに拉致して、事件は次のステップに移った。

ところが困ったことに、このハイネケン氏は慌てず騒がずに、個人的な要求をして、まるでホテルにでも泊まっているようにマイペースなのだ。これは全く想定外のことで、交渉も停滞するのだった。

映画は事実に忠実だというが、警察側の捜査や交渉は描かずに、もっぱら実行犯グループの動揺ぶりを描いて行く。まるで大学の教授を誘拐してしまった学生グループのように、実態は頓挫してしまった。

という次第で、映画の方も「フランティック」や「身代金」から傑作「アスファルト・ジャングル」のように、犯罪映画的な個性的な面白さはなく、呆気なくお縄となってしまうのだ。

 

■左中間を抜けるヒットと思ってセカンドを狙い封殺。 ★★★☆

●6月13日より、新宿武蔵野館などでロードショー