細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●4月に見た試写ベスト 3

2010年04月30日 | Weblog
●4月に見た試写ベスト3

1/『ボローニャの夕暮れ』監督/プーピ・アヴァーティ 主演/シルビオ・オルランド ★★★★
   大戦前後の混乱のイタリアで、娘の犯罪と妻との離婚を背景に強く生きる初老の男のやさしさ。

2/『孤高のメス』監督/成島 出 主演/堤 真一 ★★★☆☆☆
   リスクを背負いながらも、決死の脳死肝移植手術に挑む執刀医師を支えた看護婦の淡い追憶。

3/『運命のボタン』監督/リチャード・ケリー 主演/キャメロン・ディアス ★★★☆☆☆
   ボタンひとつの掛け違いで、ガタガタに狂い出す人生の脆さを嘲笑した、おとなのための戯画。

★その他に見た試写では、『エンター・ザ・ボイド』『ハング・オーバー』が印象的だった。です。

●『ビューティフル・アイランズ』は「シャッターアイランド」より怖いかも。

2010年04月29日 | Weblog
●4月28日(水)13-00 京橋<映画美学校試写室>
M-055 『ビューティフル・アイランズ』Beautiful Islands (2010) horizon features 日
監督/海南友子 主演/孤島の人々 ★★★☆
地球温暖化による環境破壊の影響で、おそらく今世紀中には 沈むと言われる南太平洋のツバル。そして古都ヴェニス。アラスカの最北端シシマレフ島。
その3カ所にロケして、沈澱していく現状を見つめた一種のドキュメンタリーだ。
とくに環境破壊批判や政治の問題を語るナレーションもなく、音楽もない。ただその実状の深刻な変化を撮影して、見る者に反応を問いているだけの、美しい映像だ。
ややもすると環境ビデオのような印象だが、そこに見られるのは、意外に楽天的な住民たちの笑いと歌だ。
たしかにこれらの島が消えるとしたら、哀しい。しかし、あと90年も生きる人間もここにはいない。
もちろん、われわれもいない。
だからこそ生きている今日を楽しんでいる。人間も必ず島よりも先に消える運命なのだ。
地球は生きていて、日々それぞれに変化をし、人間たちはそれに対応したり抵抗したり思考している。
悲観論ではなく、楽天論として見た方が、この映画は美しいと思う。

■痛くないデッドボールで出塁。
●7月10日より、恵比寿ガーデンシネマでロードショー

●『処刑人・Ⅱ 』は混沌とした銃撃バトルごっこ。

2010年04月28日 | Weblog
●4月27日(火)13-00 神谷町<ソニーピクチャーズ試写室>
M-054 『処刑人・2』The Boondock Saints/ All Saints Day (2009) stage 4 films
監督/トロイ・ダフィー 主演/ショーン・パトリック・フラナリー ★★☆☆
8年前の一作目は、もっとクールでストイックだったと記憶していた。
そしてまた過去の模倣事件が起こったので、処刑人兄弟がその嫌疑を明かしに立ち上がる。
しかしこの2作目は、過去のストーリーをやたらとフラッシュバックで回想したり、よけいなFBIの女性捜査官が割り込んで、ボストン市警のドジな3人組とドタバタを展開するので、さっぱり面白くない。
これは監督の意志統一が不十分な結果で、時々はコメディなのか、タランティーノ迎合アクションなのか、こちらも翻弄されて、落ち着かないのだ。
こうなってはスタイリッシュなイメージもくそもない。ほとんどスティーブン・セガールのオヤジ・シリーズ顔負けのトッ散らかりの惨状となってしまって、せっかく古参のピーター・フォンダやウィレム・デフォーが登場しても、もう治まらないのだった。

■力みすぎてボテボテのゲッツーゴロの併殺だ。
★5月22日より、新宿武蔵野館ほかでロードショー

●『小さな命が呼ぶとき』の誠実すぎるアメリカン・ドリームの真実。

2010年04月27日 | Weblog
●4月26日(月)13-00 神谷町<ソニーピクチャーズ試写室>
M-053 『小さな命が呼ぶとき』Extraordinary Measures (2010) CBS double feature
監督/トム・ヴォーン 主演/ハリソン・フォード ★★★☆☆
ポンペ病という難病は、全身の筋肉が幼児期に萎縮して内蔵肥大を併発。1年ほどで命を失うという奇病。最近まで適切な医療医薬はなかった。
これは自分のふたりの子供がこの病に冒されたのを見かねて、単身ビジネスマンを辞して、専門の研究者を説得して新薬を作る為のプロジェクトを立ち上げて、その薬に成功するまでの実話だ。
あのハリソン・フォードがプロデュースして、自身も研究者の役を演じるので、どうもクサいヒューマニズム押し売り映画かと思って見たら、意外に誠実な真面目映画。
なにしろインディ・ジョーンズ教授は考古学の冒険家だから、この頑固な難病医療研究家も似たようなもの。白衣にジーンズでロックンロールの好きなオジンというのは、案外に適役だ。
彼としては『エリン・ブロコビッチ』のようなシャープな医療映画を狙ったのだろうが、ブレンダン・フレイザーが演じる家族の肖像が、あまりにも絵空事のように健全すぎたのが退屈だった。『私の中のあなた』のような緊張レベルの家族ドラマになったら、感動も深かったかもしれない。
良質ではあるが、医療開発のやっかいな展開はあるものの、総じては退屈なホームドラマ。

■フルカウントからファールで粘って、どうにかフォアボールで出塁。
●7月、TOHOシネマズ シャンテでロードショー

●『蜘蛛の拍子舞』と『身替座禅』さよなら公演の粋。

2010年04月23日 | Weblog
●4月22日(木)13-00 目黒<ソニーPCL試写室>
M-052 『シネマ歌舞伎/蜘蛛の拍子舞/身替座禅』(2010) 松竹
出演/坂東玉三郎、尾上松緑、中村勘三郎、市川染五郎、坂東三津五郎、etc. ★★★☆☆
このほど改築となる歌舞伎座のさよなら公演の演目から、二話がハイビジョンで映像化された。
玉三郎がスパイダーマンに扮する蜘蛛女の、その異様な形相と巧みな踊りに魅せられ、勘三郎の調子のいい浮気話と三津五郎の腹芸に大笑い。
まったくタイプの違ったエピソードが二部構成で見られる。いつものように、シネマ歌舞伎は素晴らしいハイビジョンの映像とサラウンドの音響効果で、まるで劇場にいるような楽しい気分に浸ってしまう。
なかなか実際に歌舞伎を目の当たりに見ることのない人には最高のエンターテイメントだ。
今回の2作品は、大掛かりな美術効果はないが、役者さんたちの、それぞれの味わいを活かした踊りとお芝居は充分に楽しむことはできる。
休館中も、これならば映像の迫真力で本物の歌舞伎が楽しめる。うれしい時代ではある。

■安定したジャストミートのセンター前クリーンヒット。
★5月1日より、築地/東劇で先行ロードショー

●『ボローニャの夕暮れ』この勇気ある父親の愛情と英断。

2010年04月22日 | Weblog
●4月20日(火)13-00 築地<松竹試写室>
M-051『ボローニャの夕暮れ』Il Papa di Giovanna (2009) medusa film 伊
監督/プーピ・アヴァーティ 主演/シルヴィオ・オルランド ★★★★
原題は「ジョヴァンナの父」。
牧歌的なイタリアの田舎。そこに住む人々の心温まる人情映画かと思って見たら、実は鋭くも重厚な人間ドラマだった。残酷で厳格で美しい作品だ。
大戦直前のボローニャ。学校の初老の教師、シルヴィオには思春期のひとり娘がいたが、かなり神経質な性格で母とは折り合いが良くない。消極的な性格でボーイフレンドもできないのだ。
ところが学校で少女が殺される事件があって、その友人が逮捕された。それが娘だったのだ。
裁判の結果、統合失調症で精神病院に隔離されて、父も学校を辞めざるを得なくなった。
そして戦争も勃発し、近所の冷たい目もあって、父は娘の入院した病院の近くに単身移住して、妻とは別れる。というのも、娘と母はもともと関係が冷えていたのだ。
悲劇的な最悪のストーリーなのだが、父親は娘の罪は自分の罪として、献身的に娘を看護する決意をする。
その愛情の深さと行動力の寛大さには、実に恐れ入ってしまった。
娘の偏執的な性格は、実は母親の浮気も関係していたが、父はそれも承知の上での判断だった。
これが人生の苦渋だろう。どんな苦境にも忍耐が必要だ。しかし実際には避けたいテーマである。
全体にセピア調にコントロールされた色調も素晴らしく、久しぶりに奥行きの深い正々堂々とした人間ドラマに感動した。美しい名作である。

■低いライナー性の当たりが、意外に伸びてそのままホームラン。
●6月中旬、渋谷ユーロスペースなどでロードショー

●『ハングオーバー!/消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』の壮絶な地獄脱出。

2010年04月21日 | Weblog
●4月20日(火)10-00 内幸町<ワーナー・ブラザース試写室>
M-050 『ハングオーバー!』The Hangover (2008) warner brothers
監督/トッド・フィリップス 主演/ブラッドリー・クーパー ★★★☆☆☆
とにかくシナリオが面白い。
バッチェラー・パーティの映画は多くて、最近でも『サイドウェイ』があったように、アメリカでは独身最後の夜は友人たちと無礼講の大騒ぎをする男たちがいる。
ハメを外して、翌朝にはとんでもない状況になっている例がいつも笑わせた。しかし今回はケタ外れ。
ラスベガスの高級ホテルに泊まった4人の悪友たち。
目が覚めると、部屋は足の踏み場もなく散らかり、なぜか赤ん坊と鶏がいて、トイレには生きた大きな虎。しかも新郎の男がいない。借りてきたベンツもなく、おまけにパトカーが一台。これは悪夢のパズルだ。
映画は前日の乱痴気パーティを見せないで、いきなり翌朝の惨状を見せるのだ。
残された3人は、ハングオーバー<二日酔い>の頭で、その不思議な事件の謎を解くことになった。
これは一種のミステリー仕立てなのだが、とにかくその惨状はハンパじゃない。
昨年のゴールデングローブ賞のミュージカル・コメディ部門で作品賞を授賞したのは、この構成とテンポの良さが、近来に見られない破廉恥さ。その想定外のおかしさは賞賛に価する。
しかし、この連中とは、とてもつきあいきれない。
まさに名作『脱出』の爆笑版であり、「スリーメン・アンド・ベイビー」の二日酔い版なのだった。

■イレギュラーバンドした当たりが、左中間のフェンスを転々。結果はスリーベース。
●7月3日より、夏休み全国ロードショー

●『タイタンの戦い』の童心を踊らせる徹底娯楽大スペクタクル。

2010年04月20日 | Weblog
●4月19日(月)13-00 内幸町<ワーナーブラザース試写室>
M-049 『タイタンの戦い』Clash of Titans (2010) warner brothers
監督/ルイ・ルテリエ 主演/サム・ワーシントン ★★★☆☆
先日見たばかりの「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」の元祖古代版が3D映像で登場。
ギリシャ神話の、人間と神々の戦いというのは、どうも不勉強でわからない。
それでも、この3D新作では、なるべく判りやすいストーリー設定にして、ゼウスの不倫の子といわれるパーシウスの活躍を描いて行く。
とくに巨大サソリ怪獣や蛇女のメデューサの首を獲って、空飛ぶ黒馬ペガサスに乗って、一気にクライマックスに駆け込む3Dの迫力はさすがで、少年時代の夢中な時間となる。たまには童心に戻って楽しむのもいいものだ。
ルテリエ監督は、とにかく会話を極力削って、CGのスピード感溢れるアクションシーンを満載したことで、久しぶりに豪快な冒険映画に成功している。
これは大スクリーンだけの世界で、つくずく映画は大きな劇場で見ないと意味ないな、と痛感させられた。

■バットをへし折っての豪快なライト線いっぱいに入る二塁打。
●4月23日より、GW全国3Dロードショー

●『ザ・ウォーカー』の神聖な地獄への旅路。

2010年04月17日 | Weblog
●4月16日(金)13-00 築地<松竹試写室>
M-048『ザ・ウォーカー』The Book of Eli (2010) alcon entertainment 米
監督/アルバート&アレン・ヒューズ 主演/デンゼル・ワシントン ★★★☆
地球が壊滅した後の荒廃したアメリカ西部。
荒涼としたハイウェイを一人デンゼルが歩いて行く。背には本とブレイドのナップザック。
弓矢で野生動物を殺して、それを食べながらのワイルドなひとり旅だ。
ゴーストタウンでi-podの電池を取り替えるだけで、生存者同士の壮絶なバトルが展開される。
ああ、これはクリント・イーストウッドの『荒野のストレンジャー』のリメイクか、と思って見ていたが、どうも男には旅の最後に、地上に残された一冊の聖書を運ぶ使命があるらしい。
それを阻止しようと、ゲイリー・オールドマン率いるワイルドバンチが追撃してきて、タランティーノ・アクションのような様相となる。
全編をセピア調のモノトーンにした映像も重いが、話はどうやら旧約聖書の雰囲気になりだし、後半は宗教的な哲学まで匂うのだ。ダン・ブラウンの西部劇なのか。
これはキリスト教信者や聖書に精通している人には興味のある展開だが、そうではない無神論者には重苦しい展開となってくる。ま『猿の惑星』の暗黒版だと解釈して見るしかないだろう。

■バットが折れてイレギュラーなセカンドゴロで惜しくもアウト。
●6月19日より、丸の内ピカデリーなどでロードショー

●『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』タイトルのように長く古風な復讐の果て。

2010年04月15日 | Weblog
●4月14日(水)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>
M-047 『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』A Vengeance (2009) milkyway 中
監督/ジョニー・トー 主演/ジョニー・アリデー ★★★
久しぶりの香港バイオレンスの美学だが、冷たい雨にぬれてサムい印象だ。
マカオに暮らす娘一家が襲われて、瀕死の娘からの連絡を受けて初老のジョニーはパリから駆けつける。
ひとりでは悪徳組織には交戦できないので、地元の強者を高額で雇って、娘の復讐に向かうというプロットは、70年来の「男たちの挽歌」など香港復讐アクションの再現である。
それにしても呆れるほどの旧態然としてギラギラの映像スタイルには、懐かしさよりも気恥ずかしさを感じてしまう。昨年のハリウッド製『96時間』のような新しい復讐の気迫もなく、ときどき古傷で記憶喪失してしまうジョニーの老体もお気の毒。無理しないでくださいよ、と同情してしまう。
ジョニーにも名作『列車に乗った男』の枯れた香りが消えてしまっていたのが惜しまれた。
暴力の美学には『マックス・ペイン』のような超越した強さと美しさを備えないと、とても見ているのは辛くなる。アラン・ドロンが出演のオファーを辞退したというのは、彼にはマカオ旅行よりも、ダンディズムの資質に不安が見られたからだろう。この作品でドロンは見たくなかった。

■大振りで当たりはボテボテのショートゴロ。
●5月15日より、新宿武蔵野館でロードショー