細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『わたし、出すわ』の奇妙なあとあじ。

2009年07月30日 | Weblog
●7月29日(水)13-00 六本木<アスミックエース試写室>
M-082 『わたし、出すわ』(2009) アスミックエース/日
監督/森田芳光 主演/小雪 ★★★☆
故郷函館に戻った小雪は、高校時代の友人たちに会って、それぞれの夢のために資金提供をする。
よく、わけもなく他人のポストに多額の現金が投げ込まれる不可解な事件があるが、この映画のテーマは、それを旧友たちにやるのだ。金で夢や幸福は買えるのか。
なぜ彼女はそれだけの現金を持っているのか? そしてなぜ知人に金をあげるのか?
さっぱりわからないことだらけで話は進むが、困ったのは誰にも共感も幸福感もないことだろう。
お金というものの価値観について、監督は語ろうとしているようだが、これは一種の「気まぐれ天使」のファンタジーなんだろうな、と見てしまった。
小雪には植物状態の母が入院していて、どうやらブラック・マネーの消却のための金銭バラマキらしいのだが、その真相も明かされず、提供を受けた旧友たちも幸福とは縁遠い尺然としないままに映画は終わる。
監督にとっては、あの『はる』以来のオリジナルだというが、妙に無感動なブラックコメディの味わいに失笑した。

●10月31日より、恵比寿ガーデンシネマなどでロードショー

●『のんちゃんのり弁』の元気がでる下町人情喜劇の風味。

2009年07月28日 | Weblog
●7月27日(月)13-00 東銀座<シネマート試写室>
M-081 『のんちゃんのり弁』(2009) ムービーアイ/日
監督/緒方 明 主演/小西真奈美 ★★★☆☆
31歳の,子連れ,別居出戻り,ノンキャリアの女性が、生まれて初めて人生に自立しようと奮闘する話で、どうもテレビのがんばれ取材番組のような切り口だが、しだいにドラマに映画らしい熱気が生まれて来る。
幼稚園に通うひとり娘のための弁当作りだけが唯一の生き甲斐だったが、その彼女の愛情弁当が思わぬことから自立のスタートとなる。小西のワンウーマンぶりが元気でいい。
ほとんどはその奮闘ドラマで、ちょっと「男はつらいよ」女性版のようだが、かなりコミックな部分も含めて、彼女の自立応援歌となっていて、その元気が嬉しい。
これは苦労だらけの女性のための快適な作品ではあるが、むしろ昨今、世捨て人を気取っているダメ男たちにこそ見て欲しい。

●9月26日より、有楽町スバル座などでロードショー

●『ちゃんと伝える』ことの意味を説く家族美談。

2009年07月26日 | Weblog
●7月24日(金)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-080 『ちゃんと伝える』(2009) ユーズフィルム・日
監督/園 子温 主演/AKIRA ★★★☆☆
父親とあまり心の通じないAKIRAは、ガンで入院中の父を看病しながら心の糸を探る。
ところが自分も悪性のガンにかかっていることを担当医師から通告され、彼はこの悲劇的事実を病床の父や母や恋人に「ちゃんと伝える」べきか悩む。
深刻な話だが、監督は自らの体験も活かした、心の穏やかな作品にしている。
最悪の状況をさらりと描いて、軽い人生ロマンにしたスタンスは好感が持てるが、死後硬直している遺体を棺から引きずり出したりする発想は、小説ではいいが、映画では不自然に見えたのが残念。
あの『ファイブ・イージー・ピーセス』のような男のロマンとしては判るが、自分の病気を母にも語らない部分などに、どうも不自然さが多かった。
家族の美談として見る分にはいいが、現実味は薄い意欲作。

●8月22日より、シネカノン有楽町などでロードショー

●『アート・オブ・ウォー/2』は恩師の弔いリベンジなのだが・・・。

2009年07月25日 | Weblog
●7月23日(木)神谷町<ソニーピクチャーズ試写室>
M-079 『アート・オブ・ウォー/2』The Art of War Ⅱ(2008) 米
監督/ジョセフ・ラスナック 主演/ウェズリー・スナイプス ★★☆☆
国連の諜報活動部員だったウェズリーは、10年ぶりに武道の教師だった恩師の急死で葬儀に出席した。
いまはリタイアの身の上だが、その死がかつての自分の仕事が絡んでいることを知り、また暗黒の武器密売組織に対決する羽目になった、というパート2だ。
中国武道の教訓を取り込んだ話は、前作同様に意外な展開を見せて面白い。
しかし、あまりにも演出が雑で、カメラの位置もデタラメなので、見ていてイライラする。
B級のアクションものとはいっても、映画の基本はしっかりしてほしい。
せっかくウェズリーが得意のマーシャルアーツを披露しても、カメラのレンズがコロコロと変わっては、こちらも見ていて落ち着かないのだ。

●9月12日より、銀座シネパトスなどでロードショー

●『ワイルドスピード MAX 』の基本構造はむかしの西部劇だなー。

2009年07月22日 | Weblog
●7月21日(火)13-00 半蔵門<東宝東和試写室>
M-078 『ワイルド スピード MAX 』Fast & Furious (2009) universal
監督/ジャスティン・リン 主演/ポール・ウォーカー ★★★☆☆
深夜の都会で暴走する改造車レース。シリーズ第4作目だが、一番面白い。
ただのストリート・レーサーの話ではなく、FBI捜査官のポールがメキシコからの麻薬密輸グループに潜入して、あの「トラフィック」ばりの悪徳ボスのあぶり出しを敢行するサスペンスが主流になっている。
そこに曲者のヴィン・ディーゼルが一枚絡むので、まるで西部劇のような男の対決が伏線として張りつめる。
国境の隠れ地下道でのスリリングなカーチェイスや、荒野の一本道での車同士の追撃など、たしかにCGの効果もあるが、最近の妖怪変化のアクションではなく、古典的な活動写真の魅力にこだわるのが嬉しい。
もちろん謎の美女も絡んでの情事もあるが、ほとんどは厳つい男達のカーアクションに徹底して、好漢ポールの不精顔も板について来た。ヒットシリーズの快走である。

●10月9日より、日劇などでロードショー

●『サマーウォーズ』は真夏の日の陽炎のようなパソコン戦争だ。

2009年07月19日 | Weblog
●7月17日(金)13-00 内幸町<ワーナー試写室>
M-077 『サマーウォーズ』Summer Wars (2009) 角川書店
監督/細田 守 作画/貞本義行 ★★★☆☆
むかしあった『ウォーゲーム』のような発想で、アルバイト青年は、パソコンゲームで偶然にパスワードを解き現実の軍事機構を刺激してしまい、あらぬ危険に見舞われる。その不思議な二重世界をアニメーションで展開していく。
話は古風なホームドラマになっていて、長野県上田市の郊外にある大きな旧家で、高齢な老婆の誕生日祝いに、大家族が集まって来る。孫娘はアルバイト青年を臨時花婿としてつれてきたことで、騒ぎは拡大する。
人情話のなかに、ゲーム感覚が割り込んで来る違和感が、いかにも監督の狙っていた異次元拡散世界だろう。
マインドゲーム世代には面白いだろうが、その専門的な用語を知らないわたしには、さっぱり危機感や、現実味がなくて残念ながらワクの外。評論する資格はない。
まさにパソコンゲームとケータイ文化の生んだアニメ・ファンタジーの力作ではあるのだが・・・。

●8月1日より、新宿バルト9などでロードショー

●『戦場でワルツを』踊った狂気と残虐のディフォルムされた記憶。

2009年07月18日 | Weblog
●7月16日(木)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-076 『戦場でワルツを』Waltz with Bashir (2008) イスラエル
監督/アリ・フォルマン 美術/デイヴィッド・ポロンスキー ★★★★
1982年にベイルートのパレスチナ難民キャンプで起こった虐殺事件を、当時の軍人たちのインタヴューをアニメーションにして告発した異色作。
昨年のアカデミー外国語映画賞で本命とされていた秀作だが、『おくりびと』に惜敗した。
やはり人道的な問題意識が、かりに過去の記憶が曖昧であっても、問題視した、そのポイントに、見る側の価値観でズレが生じたのだろう。
それだけ実写では見たくない残虐性が鮮烈に描かれている。
とにかくドキュメンタリー映像をアニメにしたアイデアと技術も素晴らしいが、記憶が幻想的なトラウマとして描かれる映画的な発想と技術に恐れ入った。
残酷な実写では公開できない。そこをアニメで具象化する、その配慮と技術の素晴らしさに脱帽した。

●8月、日比谷シャンテシネなどでロードショー

●『96時間』の間にダメおやじは拉致された娘を救えるのか。

2009年07月15日 | Weblog
●7月14日(火)13-00 六本木<FOX試写室>
M-075 『96時間』Taken (2007) fox/europa
監督/ピエール・モレル 主演/リーアム・ニースン ★★★☆☆
リタイアした元CIAの特殊捜査官だったリーアムは離婚してひとりぼっち。
17歳の娘も親権を奪われて、孤独を紛らわして、かつての同僚たちとたまにボディガードのアルバイトをしていた。
ところが娘が旅行先のパリで地下グループに拉致されて行方不明になってしまう。
ポランスキーの『フランティック』のように、彼は愛する家族を救うためにパリの町を走る。
歯切れのいいマーシャルアーツを駆使するアクションは、やはりプロデューサーのリュック・ベッソンの趣味だろうが、その超人的な活躍が、どうも作品のドラマ性を、家族愛というよりは拉致テロリストとの戦いをメインにした娯楽作品に仕立てている。
リーアムも『ダークマン』での復讐鬼再来を意識させて奮闘しているが、本当はベテランらしい知的なアイデアをもっと活かして欲しかった。

●8月22日より、TOHOシネマズ有楽座などでロードショー

●『プール』から飛んだ炎の風船の行方は?

2009年07月08日 | Weblog
●7月7日(火)13-00 京橋<映画美学校第一試写室>
M-073 『プール』Pool (2009) パラダイス・カフェ/日
監督/大森美香 主演/小林聡美 ★★★☆☆☆
あの『かもめ食堂』『めがね』と同じようなオフビートの視線。
今回の舞台はタイのチェンマイにあるリゾート・ペンション。
そこで働く母を訪ねて、東京から娘がやってきた。
誰も泳がないプール。風のない午後の中庭。ストイックな空間が主役で、人間たちは猫のように無口だ。
喧噪や確執の多い世界から来ると、そこは白日夢のようなサイレントな世界だ。
あくまでも人間の心をリセットするためのような、その空間には現実感なない。
生きたいように生きるのは、人間の夢かもしれない。しかし人間は夢のなかでは生きられない。
いろいろ考えさせられる作品だが、あくまで作品はクールで多くは語らない。

●9月12日より、シネスイッチ銀座でロードショー

●『幸せはシャンソニア劇場から』の懐かしい巴里っ子素人芸感覚。

2009年07月07日 | Weblog
●7月6日(月)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-073 『幸せはシャンソニア劇場から』Faubourg 36 (2008) pathe! 仏
監督/クリストフ・バラティエ 主演/ジェラール・ジュニョ ★★★☆
1936年の巴里。不景気と大戦の気運でパリジャンの気持ちも暗いとき、庶民のこころを暖めるバラエティ劇場も閉鎖になった。
それを街の人々が、苦労と知恵と友情で復興しようという人情映画だ。
先年、『コーラス』で成功したスタッフが再集結して制作したオペレッタ風のノスタルジー。
ほとんどが素人芸人のような構成なので、巴里の一流芸人の歌や躍りが披露されるのではなく、あくまで下町の芸人小屋のエピソードがその時代の風景として描かれて行く。
『ニュー・シネマ・パラダイス』のような佳き時代への郷愁は誰でも持っているし、とくにジャック・ペランはその息吹を絶やさないような情感を込めて作っている。それはよく判る。
ただどうもすっきりしないのは、いまのCGを駆使して時代を再現したからといって、あの空気が戻るのではない。『天井桟敷の人々』は、あの時代だから出来たのだ。
つまり30年代のCGによる再現ドラマとしてのワクを出ていない印象が哀しいのだろうか。
久しぶりに<フェルナンデル>の名前が出て、にやりとしたのは試写室でひとりきりだろう。ああ、歳だなあ。

●9月、シネスィッチ銀座などでロードショー