細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

★6月の試写ベスト・3 &ワースト。

2006年06月30日 | Weblog
●6月の試写ベスト・3
●「マッチポイント」監督・ウディ・アレン 主演・ジョナサン・リース・マイヤーズ ★★★★☆
巧妙なシナリオで魅せた21世紀の「陽のあたる場所」。洗練されたサスペンス演出に酔わされた2時間の至福。

●「ゆれる」監督・西川美和 主演・オダギリ・ジョー ★★★★
別々の人生を選んだ兄弟が、一本の吊り橋で運命を分ける。それでも人生の時間はふたりを離さない。見事な作品だ。

●「ユナイテッド 93」監督・ポール・グリーングラス 主演・ベン・スライニー ★★★☆☆☆
あの9-11の多発テロで、唯一の犯行不発に終わったユナイテッド93便に乗った人々の勇気は心に留めるべきだろう。

★他にも「フラガール」、「キングス&クイーン」、「狩人と犬、最後の旅」、「ジダン/神が愛した男」などは印象深かった。
◎worst 「記憶の棘」監督・ジョナサン・グレイザー 主演・ニコール・キッドマン ★★☆☆
リ・インカーネーションのラブストーリーだが、さっぱりシナリオが面白くない。自己満足の努力作でした。

●「ジダン」と共にピッチを走る90分。

2006年06月30日 | Weblog
●6月30日(金)13-00 渋谷<シネカノン試写室>
M-079 「ジダン・神が愛した男」Zidane/un Portrait du 21e Siecle (2006)仏
監督・ダグラス・ゴードン 主演・ジネディーヌ・ジダン ★★★☆☆☆
不思議な映画だ。
このワールド・カップを最後に引退を発表した、レアル・マドリードの巨人ジダン。
映画は昨年2005年の4月23日の、対ビシャレアル戦での、90分のジダンの動きを、ただひたすらに追ったカメラの記録だ。
ドキュメンタリーではない。
サッカーのボールは無視して、とにかく名手ジダンが、試合中にどう動くのかを捉えた作品として、すこぶるユニークなスポーツ映画といえる。
デビッド・ベッカムを尻目に、巧みなドリブルでアシストし、ゴールを揺らす。
そして白熱のプレイでレッド・カードにより退場するまで、90分のジダンは野獣であった。
まさに「キリマンジャロの雪」の老豹のように、孤高な品格を保ちつつ戦い続ける勇姿は美しい。
サッカー映画ではないが、サッカー場のピットで暴れるラスト・ヒーローの動きには、人間の崇高さが輝いていた。
モグワイのサウンドがジダンの心臓の鼓動を伝えて激しく響いていた。
これも、ひとつの映画なのだ。

●「記憶の棘」の純愛リ・インカーネーション。

2006年06月23日 | Weblog
●6月23日(金)13-00 京橋<メディア・ボックス試写室>
M-078 「記憶の棘」Birth (2004) Newline 米
監督・ジョナサン・グレイザー 主演・ニコール・キッドマン ★★☆☆
十年前に急死した夫の分身が、時を超えて妻の再婚の邪魔をする。
一種のリ・インカーネーション・ラブ・ストーリーで、カメラと音楽はヒッチコック級のレベル。
しかしシナリオがつまらないので、ニコールが再婚に悩む気持ちが浮きっぱなしだ。
お話としては「天国から来たチャンピオン」のように、よく理解できるのだが、10才の少年が夫の霊を宿していても、死後10年もして愛が持続しているにしては、説得力がなさすぎる。結局、少年は精神障害だったというのでは、ニコールと再婚しようとしているダニー・ヒューストンが哀れすぎる。真面目なわりには半端な情炎のミステリーであった。
せっかくのローレン・バコールも、無念だ。ああボギーの霊が悲しそう。

●「フラガール」で踊る廃鉱の女たちのリベンジ。

2006年06月21日 | Weblog
●6月21日(水)13-00 渋谷<シネカノン試写室>
M-077 「フラガール」Hula Girl (2006) ハピネット・日
監督・リ・サンイル 主演・松雪泰子 ★★★★
昭和40年。常磐炭坑は事業縮小のために2000人をリストラ。
職を失った地域住民は、温泉を流用したヘルス・センター開業を企画。
そのPRのために、ハワイのフラダンスをすべくボランティアの女性に特訓をする。
SKDを退団したダンサーが渋々レッスンを開始するのは、「七人の侍」だが、だんだん「二十四の瞳」のような姉弟ドラマになっていく。図式通りの感動のリベンジものかと軽い気分でいたのだが、後半は本格的な女性根性ドラマになる。
もう、こうなると男なんてダメ人間。
さすが女流監督のサンイルは、女性ならではのパワフルな演出を見せ、涙のサクセス・ストーリーとなる。
去年の「リンダ、リンダ、リンダ」のように地方都市の復興のパワーが作品を上質にした。
公衆の男風呂に単身殴り込みを賭ける松雪泰子の迫力が、作品のエネルギーを発散している。
意外な感動が、この映画には溢れている。

●「奥さまは名探偵」のクリスティー・タッチ。

2006年06月20日 | Weblog
●6月20日(火)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-076 「アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵」Mon Petit Doigt M' a dit....(2005) 仏
監督・パスカル・トマ 主演・カトリーヌ・フロ ★★★☆☆
クリスティーのミステリーでは珍しい夫婦素人探偵もの。
フランスの避暑地ブルジェ湖畔の村に住むトミとタベンス夫妻は、近くの老人ホームで急死した叔母の死因に不審を抱く。
遺品のなかに、ホームで一緒の老婆から預かっていた絵画があり、その絵に描かれたメゾンは、どこかで見た記憶があった。
ダシール・ハメットのおしどり夫婦探偵はマンハッタンが舞台だったが、こちらはフランスとスイスの国境に近いのどかな村なので、いかにもクリスティー小説のフランス風味のムードが心地いい。
とくに事件の意外性はないが、この作品はアガサの世界に浸れるだけで、少しはいい気分に酔わされる。

●「狩人と犬、最後の旅」冒険とロマンの人生。

2006年06月19日 | Weblog
●6月19日(月)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-075 「狩人と犬、最後の旅」The Last Trapper (2004) 仏
監督・ニコラス・ヴァニエ 主演・ノーマン・ウィンター ★★★☆☆
実際の狩人の行動をドキュメンタリー・タッチで追った冒険とロマンだ。
初老のノーマンは苛酷なトラッパー(狩猟者)の生活を今年でやめようと思っている。
とにかく厳寒の極地で、犬そりと行動を共にする生活は厳しい。
どうして冒険家は、こんな孤独で悲壮な人生を選ぶのだろう。
自然が好きで、社会になじめないのは判るが、ここまで死と崖っぷちの生き方を選ぶのだろうか。
凡人にはワカラナイ。
これだけの大自然を独占する生活は魅力的だが、その代償は計り知れない。
そんな孤高のノーマンの旅は、無心な犬たちとの共存で詩情すら漂う。
しかし誰にも真似はできないだろう。

●「マッチポイント」は陽のあたる場所で。

2006年06月16日 | Weblog
●6月16日(金)13-00 六本木<アスミックエース試写室>
M-074 「マッチポイント」Match Point (2005) BBC-UK 英
監督・ウディ・アレン 主演・ジョナサン・リース・メイヤーズ ★★★★☆
シオドア・ドライサー原作「アメリカの悲劇」は古典小説だが、52年の「陽のあたる場所」の映画化で有名だ。
そのプロットをウディ・アレンは巧妙な犯罪ドラマとして、舞台をロンドンに移して脚色した。
ニューヨークを離れて、ロンドンに製作拠点を移したウディの新作はコメディではない。
元テニスプレイヤーのジョナサンは、上流階級の青年をコーチしたことから、その裕福な家族と親しくなっていく。
しかし、同時にアメリカの女優志願のスカーレット・ヨハンソンとの情事も重ねて、多重関係が複雑に歪んで行く。
自分の将来のために、犯罪を行うのは「陽のあたる場所」や「太陽がいっぱい」と同様の窮地を迎える。
そんな若者の社会からの転落を、ウディはオペラのアリアをバックに、サスペンス豊かに、しかも手慣れたテンポで饒舌に進めて行く。上質の犯罪ものだ。
テニスの「マッチポイント」で、打ったボールがネットの上に当たったとき、向こうのサイドに落ちれば勝ちだが、手前に落ちると試合に負ける。
ボールは手前に落ちたが、人生は皮肉な逆転を用意する。
実に洗練されたウディ・アレン一流の意外なマッチポイントだ。

●「ハイジ」は新シニア山岳ライフのすすめ。

2006年06月14日 | Weblog
●6月14日(水)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-073 「ハイジ」Heigi (2005) U.K.Counsil 英
監督・ポール・ルーカス 主演・マックス・フォン・シドー ★★★☆
少女小説「アルプスの少女・ハイジ」の最新映画化は、ディッケンスの「オリバー・ツイスト」の少年ものように、原作のイメージを忠実に再現し、丁寧な映像版としてまとまっている。
今回は、ベルイマン映画の名優フォン・シドーの存在が作品の柱になっていて、つまりは、少女映画の表紙を借りたシニア・ムービーの印象が強い。
それはジェラルディン・チャップリンのいじわるな侍女の存在も強いせいもあろう。
たまにはアルプスのログハウス生活もいいだろう。

●「トリスタンとイゾルデ」の悲恋原点。

2006年06月12日 | Weblog
●6月12日(月)13-00 六本木<FOX試写室>
M-072「トリスタンとイゾルデ」Tristan + Isolde (2006) Fox・米
監督・ケヴィン・レイノルズ 主演・ジェームズ・フランコ ★★★☆☆
「グラディエイター」の名匠リドリー・スコットと、「マイ・ボディーガード」などの弟トニー・スコットがプロデュースなので、歴史的時代考証やアクション・シーンは見事だ。
あの「ロミオとジュリエット」の原型とも言われた悲恋ものがたり。
ローマ政権が崩壊したあとの混乱のイギリスを舞台に、暗黒時代のアイルランドの内戦に巻き込まれたトリスタンとイゾルデの恋は、のちにワーグナーがオペラのテーマにして有名になった。
映画は入念に、その時代のトーンを重厚な画質で描き、作品としての文句はない。
しかし、どうして今の時代に、このテーマで映画を作るのか?
それが、どうも最後まで判らなかった。