細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●10月に見た試写、ベスト3

2009年10月31日 | Weblog
●10月に見た新作試写のベスト3

1/『誰のため』監督/オーレ・クリスチャン・マセン 主演/トゥーレ・リントハート ★★★★☆
   祖国デンマークのためにナチス猟りをした、ふたりの青年の友情を描いた鋭いノワール感覚。

2/『THIS IS IT』監督/ケニー・オルテガ 主演/マイケル・ジャクソン ★★★★☆
   亡くなる直前のマイケル決死のリハーサルの、その迫真のパフォーマンスには恐れ入った。

3/『きみに微笑む雨』監督/ホ・ジノ 主演/チョン・ウソン ★★★★
   10年ぶりに再会した彼女は結婚していたが、それ以上に強い愛情が静かに甦る意外な傑作。

★公開中の『風が強く吹いている』も、最高の感動が爽やかだった。
他には、ダスティン・ホフマン主演『新しい人生のはじめかた』やキャサリン・ゼタ・ジョーンズ主演『理想の彼氏』、それに『SOUL RED 松田優作』も良かった。

●『誰がため』は実在した「グロリアス・バスターズ」の勇姿だ。

2009年10月30日 | Weblog
●10月29日(木)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-114 『誰がため』Flammen & Citronen (2008) Nimbus rights デンマーク
監督/オーレ・クリスチャン・マセン 主演/トゥーレ・リントハート ★★★★
第二次大戦下のデンマークにも、ナチスの軍隊が駐留してユダヤ人殺戮が激化していた。
これはフラメンとシトロンという、ふたりの親友が決起してゲリラとしてコペンハーゲン市内に潜伏し、次々とゲシュタポやドイツ軍の高官将校たちを暗殺していった青春の実録だ。
謎の美女がダブルスパイとして絡み、まさにスパイサスペンスのテンションを持った、上質なフィルム・ノワールと言ってもいいし、暗黙の友情物語でもある。
無駄を省いて、直線的に彼らの行動を追いかけるシャープな視線は、まさにメルビルの映画美学もように、洗練されて目が離せない。主演のふたりも、この好演で007や「天使と悪魔」などのハリウッド映画に抜擢されたのも頷ける存在感だ。
戦力を持たない占領国にいて、自己をアピールするには、誇りを捨てて沈黙するか、彼らのように孤軍奮闘するか、その選択は熾烈だろう。だから彼らは後にヒーローとして叙勲したのだ。
正義のテロリストなのだろう。

●12月、渋谷シネマライズでロードショー

●『THIS IS IT 』完成度の高いリハーサルは、絶対にビッグスクリーンでこそ。

2009年10月29日 | Weblog
●10月23 日(水)13-00 有楽町<ピカデリー1>
M-113 『THIS IS IT』(2009) sony pictures
監督/ケニー・オルテガ 主演/マイケル・ジャクソン ★★★★☆
予想を遥かに越えた驚異的なライブ・パフォーマンスだ。
驚くべきはマイケルの超人的なリハーサルぶりだが、それ以上に感服したのは、ステージ・ディレクターの
ケニー・オルテガの、ドキュメンタリー作品としての、質の高い構成力。その堅実さだ。
おそらく記録用に収録していた映像に、あとで完璧なサウンド・ミキシングを補正したと思うが、明らかにビッグスクリーンを意識した音楽的なコントロールには恐れ入ってしまった。
体調不備をまったく感じさせないマイケルのアクションには、ほとほと感銘したが、110分にも及ぶステージの魅力を、まるで本番のような迫力で再現したオルテガの裁量に拍手したい。
そしてもちろん、リハーサルとは思えないマイケルの入魂の踊りと歌には、何度も拍手の衝動を抑えていた。上映終了と同時の拍手は、見ていたみんなの同じ感動だろう。ありがとう、マイケル。
われわれは、大変な損失をしたことに、あらためて心痛も感じた瞬間だった。
たった2週間の劇場上映だが、この作品こそは、劇場で見ないと意味がない。
DVD発売を待っても、このマイケルの迫力は、絶対に再現されっこない。これが映画なのだ。

●丸の内ピカデリーなどで公開中。11月11日までの限定公開!!!!!!!。

●『銀色の雨』はなかなか晴れそうに見えないな。

2009年10月28日 | Weblog
●10月27日(火)13-00 銀座<シネマート試写室>
M-112 『銀色の雨』Silver Rain (2009) S.P.O.マジックアワー/日
監督/鈴井貴之 主演/賀来賢人 ★★★☆
浅田次郎の短編の映画化で期待した。
引退を考えて故郷の米子に帰って来たボクサーと、登校拒否の新聞配達学生は、偶然バーのホステスのアパートで世話になる。奇妙な3人のそれぞれの過去の悩みが交錯していく。
かなり重いテーマなのに、映画は軽い青春タッチで描いて行く。
どうも、この軽さが、後半のドラマの重さを支えきれなくなってしまった。
中村獅童のボクサーも、アルツハイマーの母を見舞う人間的な優しさと、ボクシングに挑む強さがアンバランスな描写となっていて、せっかくのドラマ性を薄くしてしまったようだ。
これは監督が<雨>の感性にこだわってか、映像に情感を込めようとした狙いが、散発に終わったようで、詩的な台詞も、空虚に聞こえてしまった。惜しい作品だ。

●11月28日より、シネマート新宿などでロードショー

●『きみに微笑む雨』やさしい雨は恋をゆっくりと育む。

2009年10月24日 | Weblog
●10月23日(金)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-111 『きみに微笑む雨』A Good Rain Knows (2009) pancinema 韓
監督/ホ・ジノ 主演/チョン・ウソン ★★★☆☆☆
学生時代に中国に旅行したときに知り合った女性に、10年ぶりに出張した韓国のサラリーマンが、偶然に再会した。気まぐれな3泊の出張は大地震のあった中国の成都。
ふたりは懐かしさと孤独感から、ひとときのデイトを重ねる。
「好雨時節」という原名には、愛にも雨と同様に、そのためのタイミングがあるということだという。
非常にゆっくりとした時の流れに似て、ふたりの感情も波長を合わせて行くが、あの四川大地震の傷跡は、心を性急には走らせない。ときには人生に雨も必要なのだ。
監督は「八月のクリスマス」や「春の日は過ぎゆく」の時と同じように、季節、天気、時間のゆったりした流れにまかせて、ふたりの恋を温かく見つめて行く。朴訥なチョンの苦笑がいい。
中国語と韓国語の誤差を、シンプルな英会話で語るシナリオが、とてもわかりやすく響く。
その「コンスタント・レイン」のような豊かな情感に酔わされ、ラストの一瞬のカットの鮮明さに感動した。
雨はひとの心を静観させる。まさに、やさしい雨のように素敵な韓国映画だった。

●11月14日より、新宿シネマスクエアとうきゅうロードショー

●『スノー プリンス』のあまりにも淡白すぎる初雪の儚さ。

2009年10月23日 | Weblog
●10月22日(木)13-00 東銀座<松竹本社試写室>
M-110 『スノープリンス』Snow Prince (2009) 松竹
監督/松岡錠司 主演/森本慎太郎 ★★☆
小山薫堂のシナリオなので、もっとストーリーの側面を工夫しているものと期待していたがガッカリ。
少年と少女の初恋を、家族格差が引き裂く昭和初期の話なら、あの木下恵介監督の『野菊の如き君なりき』を手本にしている筈なのに、周囲のおとな達の言動に、まったく新鮮味も重厚さもないので、ただのお子様ランチに見えてしまう。だから映画は哀しい学芸会のまま進む。
せっかくの重要な筈のサーカス団のエピソードも、ただの風物詩として扱っているので、ドラマの厚みがないままに終わってしまった。しかも岸恵子さんを起用しながらも、さっぱりドラマも一体化しない不甲斐なさ。回想にも驚きが無さ過ぎた。それにせっかくの犬にドラマの鍵になる芝居をさせないのも不満。
まさにはかない初雪のような、すぐに消えそうな作品だ。

●12月12日より、松竹系でロードショー
●10月22日(木)13-00 東銀座<松竹本社試写室>
M-110 『スノープリンス』Snow Prince (2009) 松竹
監督/松岡錠司 主演/森本慎太郎 ★★☆
小山薫堂のシナリオなので、もっとストーリーの側面を工夫しているものと期待していたがガッカリ。
少年と少女の初恋を、家族格差が引き裂く昭和初期の話なら、あの木下恵介監督の『野菊の如き君なりき』を手本にしている筈なのに、周囲のおとな達の言動に、まったく新鮮味も重厚さもないので、ただのお子様ランチに見えてしまう。だから映画は哀しい学芸会のまま進む。
せっかくの重要な筈のサーカス団のエピソードも、ただの風物詩として扱っているので、ドラマの厚みがないままに終わってしまった。しかも岸恵子さんを起用しながらも、さっぱりドラマも一体化しない不甲斐なさ。回想にも驚きが無さ過ぎた。それにせっかくの犬にドラマの鍵になる芝居をさせないのも不満。
まさにはかない初雪のような、すぐに消えそうな作品だ。

●12月12日より、松竹系でロードショー

●『SOUL RED/松田優作』異端児の誇るべきDNA。 

2009年10月21日 | Weblog
●10月20日(火)13-00 六本木<アスミックエース試写室>
M-109『SOUL RED 松田優作』(2009)ファントム/アスミックエース
監督/御法川 修 主演/松田優作 ★★★☆☆
40歳の若さで他界した俳優、松田優作の映像を通じて、彼が訴えていたイデオロギーや理想、情熱などを、ひとつのドキュメンタリーとしてまとめた作品で、DVDの特典のような内容だが、よく練られた編集と音響で、映画的な魅力に満ちている。
小林旭に心酔した初期のアクションから、映画人としての円熟期を迎えるまでの姿が生き生きと躍動している。
ただのアクション系の異端児としての生前の印象は、ここではむしろ正当に見えるのだ。
それも、多くの知人、友人の語るエピソード以上に、ふたりの立派な息子さんの語る、それぞれの心境に実によく伝わっていて感動的だった。血は何よりも濃いもだ。
優作さんの熱い映画魂は、確実に受け継がれたのだ。

●11月7日より、新宿ピカデリーなどでロードショー

●『新しい人生のはじめかた』はラストチャンスの恋のすすめ。

2009年10月18日 | Weblog
●10月16日(金)13-00 京橋<映画美学校/第二試写室>
M-108 『新しい人生のはじめかた』Last Chance Harvey (2008) overture 英
監督/ジョエル・ホプキンス 主演/ダスティン・ホフマン ★★★☆☆☆
離婚して孤独なひとり暮らしの父が、別れて外地で暮らしている娘から結婚式に出て欲しいと誘われた。
ニューヨークに住むダスティンは、どうせ音楽の仕事も暇なので、挙式が行われるロンドンに行く。
しかし元妻は相変わらず彼をいたぶるし、知人のいない孤独な父は早く帰国しようと空港に向かう。
キャンセル待ちの間に入ったバーで知り合った中年女性エマ・トンプソンも、母との孤独な生活に区切りをつけたいが勇気がない。ぎこちなく他愛のない会話。苦いムード。
要するにふたり共、人生のフライトに乗り遅れた者同士。そしてそれでもスローなデイトが始まる。
原名は「ラストチャンス、ハーヴェイ」といって、実にスマートだ。
そのタイトルのように、熟年ふたりのラストチャンスがやってきた。古くは『逢びき』『旅情』などの高齢者恋愛だが、この名優ふたりの熟練の演技で魅了されてしまった。古風だが、実に味わい深い傑作だ。
応援したい作品だ。

●12月、日比谷シャンテシネなどでロードショー

●「風は強く吹いている」の爽快な駅伝ボーイズの疾走。

2009年10月17日 | Weblog
●10月15日(木)12-30東銀座<松竹本社試写室>
Mー107『風が強く吹いている』It's Blowing Hard (2009) 松竹/光和インターナショナル
監督/大森寿美男 主演/小出恵介 ★★★★
正月恒例の箱根駅伝を目指して頑張る大学生ランナーの青春、といえば、それだけで想像のつくスポコンドラマだが、その想像通りの弱小メンバーが、出場資格ギリギリの10人で励まし合う姿が、じつに整然とシンプルに描かれていて、コミック風な誇張には囚われずに、ひたすらに走る姿には、思わぬ感動をした。
時間をかけて、じっくりと、あの箱根駅伝をみつめて、そこに青春の燃焼と人間的な強さを育む構成、そして、10区間をそれぞれの10人のランナーの個性で築き上げたドラマは、去年の「ひゃくはち」にも共通した輝きがあった。
実際のシーンに、じつにうまく導入された出演者たちの走りもすばらしく、とくに林遺都の走る姿には、それだけで青春だけのもつ貴重な生命力と美しさが溢れていた。
願わくは、ラストシーンで部長の犬が、ランナーに駆け寄って、一声ワンと叫んで欲しかった。
今年の日本映画のなかでも、誠実で実直な青春映画として、群を抜いてトップだろう。

●『インフォーマント!』の摩訶不思議な産業スパイ大作戦。

2009年10月16日 | Weblog
●10月14日(水)13-00 内幸町<ワーナーブラザース試写室>
M-106 『インフォーマント!』The Informant! (2009) warner+section eight
監督/スティーブン・ソダーバーグ 主演/マット・デイモン ★★★☆
食品添加物にウィルスが発生した大手食品メーカーの若き重役のマットは、持ち前の口八丁で、産業スパイの脅迫が存在することを調査して、その賄賂を自腹にしたあとに、自社を内部告発。
嘘みたいな実話だというが、面白すぎてか、呆れて笑えない。
どうも、その男の優柔不断な言動が、ころころ変わるので、見ているこちらも翻弄されて、ことの真実がさっぱり判らなくなってしまうのだ。これはシナリオの狙いだろうが、少々自己満足気味。
『トラフィック』や『オーシャンズ』シリーズの監督も俳優も超一流のせいもあってか、このテーマは難解なままにおかまいなく続行される。
一種のアクションのないスパイ・コメディだと思えば、それなりにおかしい筈なのが、事実ということもあってか、半分本気。半分冗談の苦笑ばかりで閉口した。
複雑な産業スパイ戦争に詳しい方には、お勧めの高度な喜劇だろうか。

●12月、恵比寿ガーデンシネマでロードショー