細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ブラック・スワン』のブラックな魔界が勝負の決め手かな。

2011年01月29日 | Weblog
●1月28日(金)13-00 六本木<FOX試写室>
M-011『ブラック・スワン』The Black Swan (2010) fox searchlight
監督/ダーレン・アロノフスキー 主演/ナタリー・ポートマン ★★★☆☆☆
あの「赤い靴」を現代のブロードウェイに舞台を変えたような、若手バレリーナの修練と苦悩が描かれる。
名作「白鳥の湖」には、黒い陰の部分もあるという新解釈で、上演が準備される。
若いナタリーは主演のプリマドンナのオーディションに賭けるが、悪のダークな部分を演じる資質が足りない。
演出家のヴァンサン・カッセルにホダされて、悪友と麻薬の世界を体験したために、幻覚に冒される。
しかも体に出て来た赤い湿疹や指のささくれも気になる。
まさに現実と幻覚の交錯するクレイジーな展開は、監督アロノフスキー映像の独壇場。
基軸は「イヴの総て」や「女優志願」のような舞台欲への執着の凄まじさが、サイコな地獄絵となる。
あの「レオン」以来の適役を得て、ナタリーは捨て身の好演。これはたしかに壮絶だ。
しかしドラマとしては、ごく古典的で、演出のオゾマシい趣味性が気になる。
音楽や照明が時としてホラー映画の傾向を強調するのは、どうにも困ってしまった。
ともかく、今年のアカデミー賞でお騒がせの一本には間違いないが。

■痛烈なライナーがファーストを弾いてファールラインを転々、ツーベース。
●5月、TOHOシネマズ日劇などでロードショー

●『悲しみのミルク』の異様な酸味と後味。

2011年01月28日 | Weblog
●1月27日(木)13-00 渋谷<映画美学校試写室>
M-010『悲しみのミルク』The Milk of Sorrow (2008) ペルー
監督/クラウディア・リョサ 主演/マガリ・ソリエル ★★★☆☆
ペルーであった、80年代の武力闘争の巻き添えになって家族を殺された母。
その老母がついに亡くなって、娘のマガリは精神的に大きなダメージを受ける。
不幸だった母の母乳で「恐乳病」に冒されていると思い込む彼女は極度の対人恐怖症だ。
富豪ピアニストの家にお手伝いに行き、それから極貧の家に帰るが、母の遺骸を葬る手段も金もない。
葬衣を巻いてベッドの下に隠し、集団レイプ暴行を恐れて、自分の膣にはジャガイモを入れているという異常な日々。
それでも、少しずつ、彼女なりに、上を向いた生き方を努力していく。
この異様な設定が、ごく普通にあった首都リマの貧民地区だという現実。
つまり彼女の日常が、ペルーという国の姿だという想定に、まずは恐怖させられてしまう。
しかし映画は陽気で歌を忘れない。どんな不幸も歌にしてアドリブで唄う。この強さ。
無表情のマガリの表情だが、ドラマは少しずつ好転して行くのが救いだろう。
昨年のベルリン国際映画祭で、金熊賞を受賞したのも、頷ける。

■左中間へのボテボテのゴロにヒット。
●4月、渋谷ユーロスペースなどでロードショー

●『SOMEWHERE』 but nowhere

2011年01月26日 | Weblog
●1月25日(火)13-00渋谷<ショウゲート試写室>
M-009『SOMEWHERE』(2010) focus features 米
監督/ソフィア・コッポラ 主演/スティーブン・ドーフ ★★★☆☆☆
父親のフランシス・F・コッポラとの少女時代の感慨をセンチメンタルに描いたソフィアの追憶。
ハリウッド映画界の栄華と退廃の日々を、少女らしい眼で見た佳作だ。
ホテルで怠惰な生活をしている父の姿と映画界を、とくに批判するでもなく淡々と眺めたソフィアの視線がいい。
批判もしない。諦めもしない。同調もしない。
ただひとりのグータラな父親の野放図な生活をスケッチしているが、それが空気感となる。
まるでデヴィッド・ホックニーの絵画を見ているような白日夢の気怠さ。
実際にハリウッドのシャトー・マーモントや、サンセット・タワーのプールサイドに行くと、ああである。
ヘリコプターの音が頭上にあり、犬の糞の臭いがし、プールの反射が眩しい。大好きな時間だ。
ソフィアを演じるエル・ファニングの空気のような存在がいい。
しかし主人公のドーフが若すぎるのが不満。もしロビン・ウィリアムスが父親だったら、★4つである。

■太陽に入った打球がライトの視界を欺いてフェンスまでのツーベース。
●4月2日より、新宿ピカデリーなどでロードショー

●『幸せの始まりは』渋滞に巻き込まれてさっぱり好転しない。

2011年01月25日 | Weblog
●1月24日(月)13-00 神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>
M-008『幸せの始まりは』How Do You Know (2010) columbia / sony
監督/ジェームズ・L・ブルックス 主演/リース・ウィザースプーン ★★☆☆
突然球団から解雇された女子ソフトボール選手のリースは三十路の独身。
デートした相手も、負債詐欺に巻きこまれて容疑のかかった草食系。
最悪の相手と、人生最悪の出会いをしたヒロインのコメディなのだから、かなり愉快な着想だ。
ところが、シナリオまでが優柔不断な三角関係をダラダラ描くので、一向にラチがあかない。
あの「恋愛小説家」で97年にオスカーを受賞したブルックス監督だが、全く面影もなく演出も空転。
これはシナリオの微妙なニュアンスが、キャストの味の薄さでドラマに加味されない、あきらかに計算ミス。
ドラマに大切な主人公たちに、性格や背景の特徴が曖昧なのも見ていてイライラ。
路線バスが渋滞と事故でまったく動かないような失敗作。
せっかくのジャック・ニコルソンも、これでは処置なしの苦い表情だった。

■高いライトフライだが、風で戻ってファーストのファールフライ。
●2月11日より、全国ロードショー

●『かぞくはじめました』のマジな家族ゲーム。

2011年01月20日 | Weblog
●1月19日(水)13-00 内幸町<ワーナーブラザース試写室>
M-007『かぞくはじめました』Life as We Know (2010) warner brothers
監督/グレッグ・バーランティ 主演/キャサリン・ハイグル ★★★☆
それぞれの親友から紹介されたブラインド・デイトは散々だ。
お互いにムカつく相手なのだから、生理的に一緒にはいられない。
ところが、紹介してくれた夫婦が交通事故で亡くなり、生まれたばかりの女児が残った。
遺族に引き取り手はなく、両親の遺志で、この最悪のカップルが、赤ちゃんの面倒をみる羽目になった。
「スリーメン・アンド・ベイビー」は男三人の子育て喜劇だったが、こちらは事態が深刻だ。
仕事が忙しい上に、嫌な奴との共同生活は、当然、地獄となる。
「赤ちゃんはトップレディがお好き」のように、スマートな話じゃない。
主演と制作も兼ねたキャサリンは、母親もプロデューサーに入れて、この設定に真剣に取り組んでいる。
だからコメディというよりは、お気の毒なホームドラマ。
食事、排泄、病気、などなど、子育ての苦労は、たしかに笑い事じゃない。
その責務に徹した作品として、意外に真面目な作品になっているのが、好感は持てた。
赤ちゃんの欲しいカップルには、必見の出産準備講座だ。
そして婚活中のひとには、ヤな奴でも、我慢、ガマンを諭す作品として、お勧めだ。

■ねばって、ファールの末にフォアボールだな。
●3月26日より、シネマート新宿などでロードショー

●『アレキサンドリア』の悲劇も遥かなる歴史の彼方。

2011年01月19日 | Weblog
●1月18日(火)13-00 六本木<シネマート試写室>
M-006『アレキサンドリア』Agora (2009) MOD pro. スペイン
監督/アレハンドロ・アメナーバル 主演/レイチェル・ワイズ ★★★☆☆
ローマ帝国末期、西暦4世紀のエジプト、アレキサンドリアの混乱を描いている。
神を信じ、科学の進化を否定するキリスト教信者と、地球の自転を信じる女性科学者の亀裂。
それをユダヤ教や、イスラム教の信者や奴隷たちの混乱が火種となって、悲劇を生む。
いまだに戦乱の耐えない宗教戦争の原型が描かれるが、監督は極力、シンプルに整理した。
地中海周辺の複雑な宗教問題に明るい方には、すこぶる興味深いテーマだろうが、
知的に雑事を整理したために、どうも善悪の対立も明快ではなく淡白な歴史劇に見えたのが残念。
華美な虚飾を排除したセット美術には、これまでにない魅力はあったのだが、ドラマは不発。
ヒロインのレイチェルは、控えめでいい演技なのだが、共演する面々に個性が弱く引き立たない。
やはり、こうした歴史ものには、もっと悪どいキャラクターが見たくなる。
現代的解釈はいいが、勧善懲悪も必要だろう。
自国スペインでヒットしたのは、当然、歴史的認識の差なのだろうなーーー。

■振りの割には、渋い当たりのレフト前ヒットだが、・・・。
●3月5日より、丸の内ピカデリーなどでロードショー

●『イリュージョ二スト』はタイムスリッパーだ。

2011年01月18日 | Weblog
●1月17日(月)13-00 築地<松竹本社試写室>
M-005『イリュージョニスト』L' Illusionniste (2010) pathe 仏
監督/シルヴァン・ショメ 脚本/ジャック・タチ ★★★☆☆
50年代後半に、フランスでヌーヴェルバーグの流行とは別に、ジャック・タチの奇妙な感覚は人気があった。
「ぼくの伯父さん」のシリーズは、どこか寅さんのように、世間を斜めに見る視線がおかしかった。
それは、あの時代に逆行したのではなく、フランス人がいつも持っている皮肉っぽい感性が横溢していた。
へそ曲がり、ではなく、アナキーでもなく、皮肉なユーモアに溢れて、とにかくのどかだった。
そのタチに原案をもとに、「ベルヴィル・ランデブー」のショメが創作したアニメーション。
時代の流れで人気のなくなった手品師の、そのドサ回りの旅路は、人間の高齢の行方にも似ている。
その姿は、惨めではなく、より孤高で洗練されていく。
わたしなどは、「カールじいさん」よりも、このタイプの方に共感できる。
この懐かしいシニシズムも、非常に同感で親しみが持てるから大好きだ。
しかし、それは同時にノスタルジーでもある。古風の美学である。
「手品師は、魔法使いじゃないンだよ」という彼は、人生をイリュージョンにしている。いいではないか。
ささやかながら、この感性には応援したい。

■ふらりとセカンド後方に上がった凡フライだが、野手の後方にポテンヒット。
●3月下旬、六本木ヒルズなどでロードショー

●『洋菓子店コアンドル』のスイーツは甘すぎた。

2011年01月14日 | Weblog
●1月13日(木)13-00 六本木<アスミックエース試写室>
M-004『洋菓子店コアンドル』Patisserie Coin de rue (2010) プロダクション・ウィルコ/日
監督/深川栄洋 主演/蒼井 優 ★★☆☆
パティシエの修行をするカントリーガールの蒼井が、東京で奮闘する青春映画。
ストーリーが平板な上に、演出のテンポもスロー。それにしてはご都合主義なハッピーエンド。
テーマがスウィーツだから、と、シャレを言う気にもなれない凡作だ。
意識的に甘口なドラマにしただろうが、これではただの3時のおやつ。
せっかくの苦心の洋菓子も、これでは甘すぎて、美味の後味もない。
恋や仕事を描くにしては、あまりにも安直な作品で、監督の「白夜行」の印象が嘘だったようだ。

■ファール散発で、結局は三振。
●2月11日より、新宿バルト9などでロードショー

●『わたしを離さないで』の強烈な残酷さと、純粋な美しさ。

2011年01月13日 | Weblog
●1月12日(水)13-00 六本木<F0X試写室>
M-003『わたしを離さないで』Never Let Me Go (2010) fox searchlight
監督/マーク・ロマネク 主演/キャリー・マリガン ★★★★
優れた青春ドラマだ。
イギリスの田園地帯にある寄宿学校。少年少女たちは屈託のない健全な青春時代を過ごしている。
しかし、彼らの育成と未来には、残酷な課題が待っていた。
ストーリーの核心は、宣伝パンフレットにも書かれていないので、差し控える。
ただ、私生児や捨て子などをテーマにした数多くの映画、例えば『足ながおじさん』などでは、
当然のように、養子や里子の縁組み斡旋が常識であった。
また『ロスト・チャイルド』などのように、中南米や東南アジアへの、幼女密売組織の存在もあった。
それだけに、このカズオ・イシグロの原作の衝撃は強い。
その禁断のテーマを、マーク・ロマネク監督は端正なカメラワークと静的な演技で貫いて、知的な作品にした。
これは残酷なテーマであるよりも、ひととして生きていけることの幸せを詠った作品だと、見えた。
ひとを愛することのできる幸せこそが、人間としての最低基本条件でなくてはいけない。
主役の三人が素晴らしい。とくに「ソーシャル・ネットワーク」のアンドリュー・ガーフィールド。
それにキーラ・ナイトレイの壮絶な素顔。
底辺には数多くの社会的、歴史的、医学上のメッセージはあろうが、これは単純にラブストーリーなのだ。
その透明感に、痛く感動した。

■平凡なセンターフライが、意外に伸びてフェンス直撃の三塁打。
●3月、TOHOシネマズ・シャンテなどでロードショー

●『恋とニュースのつくり方』の古典的な都会喜劇の懐かしい味わい。

2011年01月12日 | Weblog
●1月11日(火)13-00 神谷町<パラマウント映画試写室>
M-002『恋とニュースのつくり方』Morning Glory (2010) paramount
監督/ロジャー・ミッチェル 主演/レイチェル・マクアダムス ★★★☆☆
むかしのフランク・キャプラ映画を思い出させるような健全なサクセス・ストーリー。
突然リストラでクビになったレイチェルは、テレビのニュース番組プロデューサー志望。
どうにかマンハッタンの古参局に再就職したものの、アタマの古い連中ばかりで視聴率は低迷。
このままでは番組打ち切りの運命なので、持ち前のクソ度胸で、プログラムのリニューアルに踏み切る。
ハリソン・フォードは往年のキャスターだが、超頑固な堅物ジジイ。
背広姿のインディ・ジョーンズが、ニューヨークに現れたような違和感が、意外に面白い。
加えてベテランのダイアン・キートンまでが、70年代のままの青春オバさんの乗り。
この中古品のキャスターを料理するのが、この作品の古典的なコメディの見せ場なのだ。
とにかく、あの名作『トッツィー』には及ばないが、旧体然としたテレビ界を刷新する気迫は出ている。
それはマンハッタンの風景をフンダンに取り入れたリズミカルな演出の軽さ。それがパラマウント・タッチを誘発した。
酒飲みジジイの居そうなバーを探して「21」の奥で古参キャスターたちと飲んでいるハリソン。
そのワンシーンでも、この作品のおしゃれな質感がよく見えた。

■当てただけの渋いフライが左中間。技ありのヒットだ。
●2月25日より、日比谷シャンテなどでロードショー