細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『釣りキチ三平』が釣ったのは大きな夢だった。

2009年02月28日 | Weblog
●2月27日(金)13-00 西銀座<東映本社試写室>
M-022 『釣りキチ三平』東映/2008
監督/滝田洋ニ郎 主演/須賀健太 ★★★☆☆
70年代にヒットした少年コミックを、「おくりびと」の滝田監督が実写映画化。
秋田の山奥の滝に潜むという伝説の巨大魚に、少年三平が挑むという、冒険ファンタジーだが、その巨大魚のシーンにはVFX/CGテクニックを駆使して、それなりの見せ場は作っている。
脚本を『ALWAYS 三丁目の夕日』の古沢良太が書いているだけに、ちゃんとした「夢」のあるドラマとしての作為が活かされていて、まさに健全ファミリー・ムービーの魅力を讃えているのはさすがだ。
全編ロケーションによる山奥のシーンも爽やかで、これも癒しの効果はあり、アカデミー授賞監督の新作ということよりも、爽やかな少年映画として心地いい。
少年の純粋な目を通じて、いまの大人たちの感性の老化に、いい清浄感を注いでくれる作品だ。
かつては、みんな三平のような少年だった筈だ。

●3月20日より東映系で春休みロードショー

●『ザ・バンク/堕ちた巨像』は巨悪極悪の闇システムに迫るが。

2009年02月26日 | Weblog
●2月25日(水)13-00 神谷町<ソニーピクチャーズ試写室>
M-021『ザ・バンク/堕ちた巨像』The International (columbia) 米
監督/トム・ティクヴァ 主演/クライブ・オーエン ★★★☆☆
新興国や途上国の急進勢力などに、武器などの軍事資金が流れている現実を調査しているインターポール捜査官のクライブは、その裏資金がベルリンのメガバンクから調達されている事実を突き止めて、真相に迫るが関係者は殺されて行く。
007の有力候補だったクライブは、ジェーソン・ボーンやボンドと同じように巨大な闇組織に挑戦して行く。しかしそこには全く色恋ものはないのが残念だ。
かなり絞り込んだシナリオとテンポのいい演出は、この種のクライム・サスペンスとしては面白い。
とくに、マンハッタンのグッゲンハイム美術館での銃撃戦は圧巻で、まるで『フレンチ・コネクション』のように、闇の謎は深い。
司法では取り締まりのできない巨悪の根源は、個人犯罪ではないのだ、という昨今の巨大銀行破綻の背景も感じさせる。一級の社会派エンターテイメントと言っていい。

●4月4日より、丸の内ピカデリーなどでロードショウ。

●『60歳のラブレター』で見せる現実とファンタジー。

2009年02月24日 | Weblog
●2月23日(月)12-30 築地<松竹試写室>
M-020 『60歳のラブレター』Love Letters at Sixty (2008) 松竹
監督/深川榮洋 主演/中村雅俊 ★★★☆☆☆
60歳を迎えた3組のカップルのアンサンブル・ドラマ。
退職。離婚。入院。失業。破談。孤独。絶望。いろいろな年齢的な問題を抱えたそれぞれの他人が、次第に結ばれて行く。
団塊世代の実情を、やさしい視線で見つめたドラマだが、じつは深刻なトラブルが多い。
しかし、あまりシリアスにならずに、ひとつの寓話として描いた点で、あの『幸福な黄色いハンカチ』にも似た松竹映画のブランドカラーが感じられた。
欠点は多いが、とにかく再出発をしようとする60代の人々に贈る応援歌として好感がもてる佳作だ。
イッセー尾形の魚屋さんが唄うビートルズの「ミッシェル」が泣かせた。
誰にでもこのような些細だが個人的には重大な問題はある。だからこそ魅力もあるのだろう。

●5月、松竹系でロードショウ

●『バーン・アフター・リーディング』の読後消却しそこなった大騒動。

2009年02月21日 | Weblog
●2月20日(金)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-019 『バーン・アフター・リーディング』Burn After Reading (2008) focus 米
監督/ジョエル・コーエン 主演/ジョージ・クルーニー ★★★☆
去年『ノー・カントリー』でアカデミー監督賞を授賞したスタッフによる新作は、またも犯罪ものだが、こちらはスラップスティックな、おバカコメディ。
CIAを辞めたジョン・マルコヴィッチは、暴露ものを執筆するためのメモのCD-ROMをスポーツジムで紛失した。
それを拾ったブラッド・ピットは、ロシア領事館に売り込もうとしたことから、CIAや警察やロシアン・マフィアまでが事件を重視して事件に介入。
とんだドタバタの追跡劇となる。
こうしたテーマのお得意なコーエン兄弟は、超一流のキャストで面白おかしく戯画化して見せている。
でも、当事者ほど面白くならないのは、ブラック・ユーモアにリアリティがありすぎるためだろう。
何も人を殺す必要がなく、ラストで全員同じ病棟に入院していた方がもっと面白かったろう。
徒労の怪作である。
それにしても、このスパイ用語のタイトルを、すぐに覚えられる日本人って、いる?

●4月24日より、GW全国ロードショー

●『アンティーク/西洋骨董洋菓子店』は若い女性甘党向きの店

2009年02月18日 | Weblog
●2月17日(火)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-018 『アンティーク/西洋骨董洋菓子店』Antique (2008) showbox 韓国
監督/ミン・ギュドン 主演/チュ・ジフン ★★☆☆☆
よしながふみ原作のコミックの映画化だという。
イケメンのゲイを中心にした4人の男たちの経営する洋菓子店のコメディだが、背景に幼児体験の記憶をトラウマとしたミステリー仕立てだ。
それにしてもテレビのバラエティ感覚の軽さが続くので、さっぱり映画らしい深みのないままにドラマは決着する。
「人生はホロ苦いから、せめて幸福なときは甘いスイートを食べたい」という狙いはいいとして、甘いだけでは110分は参る。若い女性向けの糖分過多なライト・コメディだろうが、味はさっぱりだ。

●4月18日より、恵比寿ガーデンシネマでロードショウ

●『ロックンローラ』UKギャングのイタチごっこ。

2009年02月13日 | Weblog
●2月12日(木)13-00 内幸町<ワーナーブラザーズ試写室>
M-017 『ロックンローラ』Rock n Rolla (2008) dark castle 英
監督/ガイ・リッチー 主演/ジェラルド・バトラー ★★★☆
ロンドンも新興建造ビルのラッシュで、裏社会にも格差が激しくなっている。
とくにロシアン・マフィアを従えたロシアの業界進出で、古参の工事下請けのグループはパニクっている。
その複数のギャングたちの複雑に入り交じった抗争ぶりを、またしても監督はスピーディにコミックに活写して見せる。
このところ、やたら多いスラップスティックな映像処理とパンクロックの洪水で、こちらの脳裏も異常になるようだ。これが面白いというタランティーノ系ファンには痛快なヴァイオレンスだ。
しかしグループ活劇なので、とくに主演という男が整理されないのがイラつくのだ。
老練トム・ウィルキンソンの逆キレ気分のよく判る労作だ。

●2月21日、恵比寿ガーデンシネマで緊急ロードショー

●『プラスティック・シティ』というよりはガーベッジ・アレイだな。

2009年02月11日 | Weblog
●2月10日(火)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-016 『プラスティック・シティ』Plastic City (2008) ブラジル/中国
監督/ユー・リクウァイ 主演/オダギリ ジョー ★★★
サンパウロに住む日系人のジョーは、中国人のアンソニー・ウォンに育てられた青年。
密集したスラムの汚濁しきった街にも、台湾の新興勢力が入り込み抗争が激化。
ふたりの男は、このトラッシュタウンで転落の運命に流される。
ブラジル映画には、この地獄のような貧民街を扱った過激な作品が多いので、驚きはない。
監督のやりたいことが多かったのか、ヴァイオレンス・シーンなどで、ころころと画調の代わる展開に、こちらもかなり気落ちしてしまった。
もし、血の繋がらない父と子の運命を描くのなら、それにポイントを絞って欲しかった。

●3月14日、渋谷ヒューマントラストシネマでロードショー

●『いとしい人』を探すアラフォー奮闘記。

2009年02月07日 | Weblog
●2月6日(金)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-015 『いとしい人』Then She Found Me (2007) killer film 米
監督/主演/ヘレン・ハント 共演/ベット・ミドラー ★★★☆☆
『恋愛小説家』でアカデミー女優賞を授賞したヘレン・ハントが、10年もの時間を準備して監督した女性コメディ。
 原名のように、やっと自分という女性を見つけた自分という、まさに女性の抱える問題をアラフォーを目前にして、一気に解決しようとしたような、トラブル満載の作品。
 自分があのスティーブ・マックィーンの捨て子だったなんていうバカなシナリオは、まるでウディ・アレンのようなおかしさで、その実の親だというベットが巧妙に絡む。
 本当なら骨肉の家族破壊戦争になりそうな話を、初監督のヘレンは無難にまとめて、まずは及第点。
 いかにも女性ならではの問題点を、トッ散らかしながらも、どうにかまとめる彼女の奮闘ぶりには拍手したくなる。ちょいと拾い物のニューヨーク・コメディだ。

●4月、恵比寿ガーデンシネマなどでロードショー

●『ワルキューレ』軍事クーデターの初歩的失態。

2009年02月06日 | Weblog
●2月5日(木)13-00 半蔵門<東宝東和試写室>
M-014 『ワルキューレ』Valkyrie (2008) MGM/UA
監督/ブライアン・シンガー 主演/トム・クルーズ ★★★☆☆
ナチスが連合軍に降伏する直前に、ヒトラー暗殺を企てた軍人の実話。
忠実な時代考証で緊迫の戦時下のリアル感を盛り上げた、男たちだけのむさ苦しい再現ドラマとしてはよく出来ている。冒頭の空爆シーンは緊迫感があり、とくに犯行直前までのサスペンスは鋭利だった。
問題は暗殺計画の首謀者であるトム・クルーズの性格の甘さだ。
チュニジアの砂漠で左目と右手を失った男の狂気が出てこないで、ひたすら冷静沈着な行動では、結果は判っているのでサスペンスにならない。名言通り「逃げる者は転ぶ」なのだ。
あの秀作『鷹は舞い降りた』のマイケル・ケインのようなアグレッシブな殺気がなくては、この計画は成功しない。
「ハイル、ヒトラー!」をしない理由はいいが、もっともっと追いつめられた軍人の狂気が見たかったのに。惜しまれた作品となった。

●3月20日、日劇PLEXなどでロードショウ

●2009年アカデミー授賞独断予想

2009年02月05日 | Weblog
●2009年/第81回アカデミー賞/個人予想

恒例の「キネマ旬報」アカデミー賞予想座談会が、1月30日の18時から開催され、ことしも渡辺祥子さん、襟川クロさんと3人で、それぞれの授賞予想を話し合いました。
その詳しい選出理由と内容は19日に発売される3月上旬号で紹介されますが、わたしの予想は下記の通りです。予想というよりは希望に近いですね。

☆作品賞/『ベンジャミン・バトン/数奇な人生』
☆監督賞/デイヴィッド・フィンチャー/『ベンジャミン・バトン/数奇な人生』
☆主演男優賞/フランク・ランジェラ/『フロスト/ニクソン』
☆主演女優賞/ケイト・ウィンスレット/『愛を読むひと』
☆助演男優賞/ヒース・レジャー/『ダークナイト』
☆助演女優賞/エイミー・アダムス/『ダウト/あるカトリック学校で~』

授賞式は22日(日本時間は23日)です。お楽しみに。