●6月21日(火)13-00 京橋<テアトル試写室>
M-080『めぐりあう日』" Looking for Her " (2015) Gloria Films / Pictanovo,CN C 仏
監督・脚本・ウニー・ルコント 主演・セリーヌ・サレット、アンヌ・ブノア <104分> 配給・クレスト・インターナショナル
フランス語の原タイトルは<あなたが狂おしいほどに愛されることを、私は願っている・・・>というが、これは別れた母親が娘を想う言葉だ。
つい先日も、同じフランス映画で「ミモザの島に消えた母」という亡き母の死因を探るミステリー映画の傑作があったが、これもまた<消えた母>の映画。
6年前にウニー・ルコント監督の「冬の小鳥」という、やはり離れた母を探す傑作があったが、この新作も内容やロケーションは異なるが、またしても娘と母親の運命を描く。
監督自身が、韓国生まれなのだが、9才のときに、フランスのプロテスタントをしている牧師の父親に引き取られた・・・という複雑な過去があってか、彼女自身のテーマなのだ。
だから当然のように、人間の心の裏側に潜む、隠さねばならないような情愛を求めて、ミステリー映画とはまた別の肌合いを隠し持つ、繊細な情愛のテーマに拘るのだろう。
パリで8才になる息子と住む理学療法士をしているセリーヌは、産みの母親を知らずに育った過去もあって、自分の出生地でもあった西海岸の港町ダンケルクにやってくる。
自分でも一種の調査機関にも通じているので、彼女は記憶を辿って、過去に匿名で出産した老女のデータを探すのだが、その地域の秘密部分もあって作業は難航する。
まさに女性探偵映画のようだし、わたしなどは昔見た名作「心の旅路」を思い出していた。
戦地で頭脳を負傷したロナルド・コールマンは記憶喪失になってしまうが、新婚の時代に住んだ家と妻の記憶が、かすかながら時々見え隠れする・・・という、あの映画。
この作品も、現地で世話になった子供の学校で、偶然に掃除をしている初老のお手伝いさんと知り合い、彼女の声とか、手の感触に、不思議な懐かしさを感じて戸惑う。
もちろん、その老嬢には出産経験も家族もないのだが、手を触れた瞬間とか、戸惑う目の表情に、心の親しみを感じ出す・・・その女性本能の機微を、この映画は見つめるのだ。
おそらくこれが、生みの親だろうと想いつつ、過去のデータも確証もなく、しかし心では肉親だと信じている、というモドカしいセンチメンタリズム。
名女優アリダ・ヴァリが演じた「かくも長き不在」は戦地で脳に負傷した夫が記憶喪失になったが、浮浪者の彼を、彼女は夕食に招待した・・・あの名場面を思い出してしまった。
人間には、それぞれに、語りづらい過去の秘密はつきものだが、この映画でも、その美しい記憶の一部を、些細な人生の風景として実にさりげなく描いて情感が滲む。
■センター前の当たりが手前でイレギュラーして野手が後逸。 ★★★☆+
●7月30日より、神保町、岩波ホールでロードショー