細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●「奇跡の朝」は哀しいコクーンみたいだな。

2006年07月31日 | Weblog
●7月31日(月)13-00 京橋<メヂィアボックス試写室>
M-091 「奇跡の朝』Les Revenants (2004)仏
監督・ロバン・カンピオ 主演・ジェラルディン・ペラス ★★★☆
先に亡くなった伴侶が「まぼろし」のように現世に現れるファンタジーだと思ったら大間違い。
これは、非常にユニークな発想の知的なホラー。
死者が大挙して現れるから、遺族は喜ぶのだが、しだいに彼らが生前の個性を失っていることに恐怖する。
まるで「コクーン」の暗黒篇のような悲壮感が漂う。
入念に作った作意は悪くないが、死者の尊厳を考えると、すこし抵抗感が残った。

●「上海の伯爵夫人」追想のノスタルジー・ロマン。

2006年07月28日 | Weblog
●7月28日(金)13-00 京橋<映画美学校・第一試写室>
M-090 「上海の伯爵夫人」The White Countess (2005) sony classic
監督・ジェームズ・アイヴォリー 主演・レイフ・ファインズ ★★★☆☆
1936年の上海。
ダンスクラブ「ホワイト・カウンテス」を開いた盲目の引退したアメリカ軍人と、亡命中のロシア貴族夫人が、秘かな恋に落ちた。
しかし世界が戦争の危機に脅えている時代。
店内には不穏な空気が漂い、謎の日本人、真田広之がドラマにアクセントをつける。
それはいいのだが、アイヴォリーの作品にしては格調はあるものの古典的なムードに溺れたようだ。
「カサブランカ」や「ロシア・ハウス」の系列のラブ・ストーリーも戦渦にまみれてしまった。

●「マイアミ・バイス」迫真の麻薬最前線危うし。

2006年07月26日 | Weblog
●7月26日(水)13-00 新橋<スペース・FS汐留ホール>
M-089 「マイアミ・バイス」Miami Vice (2006) universal
監督・マイケル・マン 主演・コリン・ファーレル ★★★☆☆☆
80年代のテレビ・シリーズ「マイアミ・バイス」のプロデューサーだったマイケル・マンが、初めて自分で監督した映画化。
それだけにマイアミの囮捜査官の動きは鮮烈でリアリティがある。
あの「バッド・ボーイズ」と似たような、マイアミの二人組アクションだが、そこは映像派のマイケル・マン。
どのカットもフツーじゃない。しかも音楽もばっちり。デジタルのナイト・シーンの美しさも息を呑んだ。
とはいえ、ストーリーに新味がなく、ヘミングウェイの「脱出」の拡大篇のような展開には、先が見える。
おまけに「SAYURI」コン・リーの悪女が意外に甘くて、おやおやの結末。
監督の秀作「ヒート」や「コラテラル」には及ばない。

●「カポーティ」の作家としての苦汁と本質。

2006年07月21日 | Weblog
●7月21日(金)13-00 新富町<SONY試写室>
M-088 「カポーティ」CAPOTE (2005) U.A. 米
監督・ベネット・ミラー 主演・フィリップ・シーモア・ホフマン ★★★★☆☆
「悪魔をやっつけろ!」や「ティファニーで朝食を」の作家トルーマン・カポーティが、カンザス州の田舎町で起こった一家4人家族惨殺の真相をノン・フィクション小説としてリサーチした1959年の日々を描いている。という意味では小説「冷血」のメイキングとその背景を描いた、興味深い作品だ。
容疑者のふたりの男。
カポーティはそのひとりのペリーに、自分の過去の辛い思い出とゲイとしての情愛を感じて、犯罪者をテーマにした作家としての人間性に悩む。
フィリップ・シーモア・ホフマンのアカデミー主演男優賞受賞で、「カポーティ」のそっくりさん映画かと思って見たら、意外や作家としての創作能力とは別に、単に男として葛藤する姿に感動してしまった。
知的で端正なベネット・ミラーの演出にも、素直に共鳴した。
今また、「冷血」を読みたくなる秀作だ。

●「40歳の童貞男」の哀しいサガ。

2006年07月20日 | Weblog
●7月19日(水)15-30 東銀座<U.I.P.試写室>
M-087 「40歳の童貞男」40 Years Old Virgin (2005) universal
監督・ジャッド・アパトウ 主演・スティーブ・カレル ★★★
あちらの「間宮兄弟」シングル版かな。
デリケートな対人関係で、気がつけば40歳の童貞男。
ウディ・アレンの「SEXのすべて」のようにシナリオが練れていないので、テレビのバラエティの感じに終わっている。
試写室で笑っているのも若い女性ばかり。ああ、ダメ男も、同性からは笑えない。
キャサリン・キーナーの好演で★がプラスされた。

●「セレブの種」は多機能不全流産だ。

2006年07月18日 | Weblog
●7月18日(火)12-30 渋谷<東芝試写室>
M-086 「セレブの種」She Hate Me (2004) MMIF 40 Acres 米
監督・スパイク・リー 主演・アンソニー・マッキー ★★★
ハイ・アベレージの監督が「25時」と「インサイドマン」の間に作った難産コメディ。
リストラされた青年が、レスビアンの友人たちの「種馬」となって破格の精子代金を稼ぎまくるという、まるでポルノ・フィルムのような艶笑コメディ。
ところがシナリオがさっぱり笑えないので、面白くならない140分の長編だ。
期待のスラッガーが、気負って振った大きなイン・フィールド・フライ。
少子化、減少結婚のご時世にしても、笑えない流産コメディだ。

●「サラバンド」の高尚で、かつ清楚な疲労感。

2006年07月14日 | Weblog
●7月14日(金)15-30 大崎<イマジカ第二試写室>
M-085 「サラバンド」Saraband (2003)スエーデン
監督・イングマール・ベルイマン 主演・」リヴ・ウルマン ★★★★☆
さすがベルイマン。86才にして、何とパワフルな映画力。
1974年の「ある結婚の風景」の30年後の痛恨のエピソード。
別れた妻のリヴは、30年ぶりに夫の家を訪ねる。
空白の時間の重さ。そして現実の生活の歪み。
見た目は幸福な家族の生活が、現実は末期のガンのように精神的な腫瘍に犯されている。
静かな家族の会話の底に流れる、取り返しのつかない亀裂。
あえてフィルムを使わないで、デジタル・ハイヴィジョンで映像化したベルイマンの目は、未だにシャープだ。
映画の持つ心地いい疲労感に酔った2時間だった。
人生の黄昏を凝視した秀作。

●「地下鉄に乗って」またも過去を探して・・・。

2006年07月13日 | Weblog
●7月13日(木)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-084 「地下鉄に乗って」(2006) gaga-usen 日
監督・篠原哲雄 主演・堤 真一 ★★☆☆☆
浅田次郎原作のタイム・スリップもので、父親との確執と、兄の事故死がトラウマになっている男の過去。
地下鉄のホームを出たら、そこは少年時代の世界。
しかし、彼には払拭したい過去の思い出があった。
できれば修正したい過去も、現実にはみな引きずって生きている。
発想はいいのだが、意志薄弱な主人公の夢や錯覚で、こちらもあちこち徘徊させられる。
もっと原作のエキスをシンプルに解釈すれば、これほど支離滅裂にならなかったであろうが・・・。
結局、彼の本当の悩みが、何だったのか、永田町の駅の乗り換えのように混乱してしまった。
地方に住むひとが見たら、もっと混乱するだろうね。

●「スーパーマン・リターンズ」30年ぶりの隔世感。

2006年07月11日 | Weblog
●7月11日(火)12-30 日比谷<ワーナーブラザース試写室>
M-084 「スーパーマン・リターンズ」Superman Returns (2006) warner
監督・ブライアン・シンガー 主演・ブランドン・ラウス ★★★☆
クリストファー・リーブスに捧げる、とスーパーが入る。
まるでCGで再生したように先代にそっくりな新人ブランドンは、時代を間違えたように、またニューヨークに現れる。
5年間のブランクというが、恋人のロイス・レインは結婚していて子供もいる。
それなのに、ふらりと帰って来たクラーク・ケントは、このブランクにメゲズにアプローチを開始する。
30年代のコミックそのままの新聞社デイリー・プラネットが、いかにも時代に取り残されているセットなので、こちらの感覚もレトロ気分。
スーパーマンの留守中に「バットマン」や「スパイダーマン」がマンハッタンを飛び回ったせいか、どうも世代交代したはずのスーパーマンに新鮮味がない。まるで先代クリストファーの亡霊のような飛び方にも寂しさがあった。
だから、70年代の「スーパーマン」がそのまま「リターン」したのだ、と思った方がいい。
レックス・ルーサーのケビン・スペイシーの悪のりはいいとして、「X・メン]シリーズのブライアン監督にしては、サプライズがない。
あのジョン・ウィリアムズのテーマだけが、妙に懐かしく哀しかった。

●「ザ・センチネル」驚愕の原作との大きな違い。

2006年07月10日 | Weblog
●7月10日(月)13-00 六本木<FOX試写室>
M-082 「ザ・センチネル/陰謀の星条旗」The Sentinel (2006) fox
監督・クラーク・ジョンソン 主演・マイケル・ダグラス ★★★☆☆
ジェラルド・ペティヴィッチの原作は非常に衝撃的なエンディングだったので、ファースト・レディ役のキム・ベイシンガーがラストで豹変するかと期待していた。
しかし映画はやはり原作のモチーフを活かしながら、結末は常識的にテロリストが死んでしまう。
ま、これもハリウッド・エンタテイメントの限界なのだろう。
シークレット・エイジェントのマイケル・ダグラスがキムと浮気する設定は原作通りだが、その疑惑を探るFBI捜査官に「24」のキーファー・サザーランドをキャスティング出来たことで、サスペンスは上昇している。
大統領暗殺ものとしては、上出来で、原作を読んでいなければ、これはこれでいいだろう。
でも原作「謀殺の星条旗」はもっとスリリングだったなー。