細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●現実か幻想かボケなのか?『フェイス・オブ・ラブ』が12月の試写ベスト。

2014年12月31日 | Weblog

12月に見た新作試写ベスト3

 

*1・『フェイス・オブ・ラブ』(2013)監督・アリー・ポジン 主演・アネット・べニング ★★★☆☆☆

   5年も前に事故で亡くなった主人にそっくりな男性に、再び恋をした未亡人の挙動を、周囲は白い目で見るという現実の残酷さ。面白い幻覚メロドラマ。

 

*2・『女神は二度微笑む』(2012)監督・フジョイ・ゴーシュ 主演・ヴィディア・バーラン ★★★☆☆

   カルカッタで行方不明になった夫の失踪を探る身重な妻は、政治家がらみの複雑な事件の大きさに、途方もない謎に巻き込まれるインド映画では初のミステリー。

 

*3・『ジャッジ・裁かれる判事』(2014)監督・デヴィッド・ドブキン 主演・ロバート・ダウニーJr。 ★★★☆☆

   老練な判事がひき逃げ事件を起こしたため、不仲な息子の弁護士が、その気乗りしない裁判に出廷したが、事件はまったく予測のしなかった過去までを蒸し返す。

 

*その他に見た試写で、面白かった新作は・・・

●『トラッシュ・この街が輝く日まで』監督・スティーブン・ダルドリー

●『ジミーとジョルジュ』監督・アルノー・デプレシャン

●『シェフ』監督・ジョン・ファブロー・・・・といったところでした。

 

☆何と10年も続けてきたブログも、この2014年も141作品の試写を見ましたが、また来年も見た作品はすべて列記しますので、要注目。

ありがとうございました。 


●『トラッシュ!この街が輝く日まで』の少年たちのスパイ大作戦。

2014年12月29日 | Weblog

12月26日(金)13-00 半蔵門<東宝東和映画試写室>

M-141『トラッシュ!この街が輝くまで』"Trash!" (2014) Universal International studios/ Working Title / Ancine

監督・スティーヴン・ダルドリー 主演・マーティン・シーン <114分>配給・東宝東和 ★★★☆☆

とうとう今年の試写室行脚も、この作品が最後となった。トータルで、結局141本の新作を見た訳だが、やはり年々本数が減っているのは、ま、加齢のせいだろうか。 

というワケで、<トラッシュ>というのは、くずのような映画の代称として不安があったが、見てみたら中々に上等で、作品の質は「トラッシュ」ではなく、とても活気があり上質。

ブラジルのリオデジャネイロは、都市化された中心街は清潔だが、その街が吐き出す巨大なゴミの収集場所に近いエリアは、凄まじい不潔で極貧の地域で、不運な人間の捨て場であろうか。

そこにホームレス同然でタムロする少年たちも、家族も家もなく、しかしその悪臭にむせる粗大ゴミが彼らの生息の拠点でもあり、逆に裕福な子孫などよりも明るく活力がある。

そのゴミの山に巣食っている少年3人組は、ある日、偶然に捨てられた財布を見つけたのだが、その中の金は使ったものの、メモ紙やロッカーの鍵らしいものは何やら重要なものらしい。

早速、そのゴミに埋もれた財布を探しに、怖い顔の調査員やら不審者が現れて、その3人の少年達が隠し持っていることを探ると、執拗に命を狙って追跡してくる。さあ、大変だ。

が、「リトル・ダンサー」のダルドリー監督は、とにかく屈託のないワルガキ3人の野生の運動量を活かして、痛快な追跡アクションを展開して、まるで少年達のスパイ大作戦のようにスピーディな演出。

裏にはオリンピックに絡むような巨大な犯罪組織の抗争も臭わせつつ、まさに「トラフィック」のような背景を時折臭わせるが、ポイントは「スタンド・バイ・ミー」のように元気な少年達の大冒険なのだ。

だから、おとななら「ボーン・アルティメイタム」のようなアクション・スパイ映画なのに、あくまで少年たちの無垢な正義感を強調しているので、意外に気分のいい痛快なアクション映画。

ドラマとしては、その貧民窟の牧師として、あのマーティン・シーンが出演しているが、すっかり白髪の老人になっていて、「地獄の黙示録」の彼と同じ人間だと思うのは難しいほどだ。

巨大な都市化の生む社会悪も、かしかに臭わせるが、陽気で元気のいい少年たちの笑顔を見ていると、金に翻弄されている大人達の社会そのものがトラッシュなのだと、臭わせているようだ。

 

■ライト前のフライをセカンドがファールライン後ろに反らしてツーベース。

●2015年、1月9日より、日比谷シャンテなどでロードショー 


●『シェフ』といっても、キューバン移動サンドイッチ道中の味。

2014年12月26日 | Weblog

12月24日(水)13-00 神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>

M-140『シェフ』" Chef" (2014) sony pictures releasing international / aldamisa entertainment 

監督・主演・ジョン・ファブロー 共演・スカーレット・ヨハンソン <115分> 配給・ソニー・ピクチャーズ ★★★☆

つい2年ほど前にも「シェフ」という、ジャン・レノが主演したフランス映画があったばかりなので、同名タイトルでややこしいが、ことらはエスニック料理。

ビバリーヒルズで有名なキュイジーヌのシェフだったジョンは、オーナーのダスティン・ホフマンが従来のメニューのレシピに拘って新しい味を追求しないので反乱辞職。

というのも、お料理批評で人気のブロガーが来店するのに、オーナーは旧来のメニューに拘りすぎるので、味に自信のある料理創作シェフとしては、面目がないのだ。

別居中で息子にも会えず、突然無職となった彼は、味覚の原点でもあったキューバの地元流の味のポーク・サンドイッチの魅力を再現すべく、地元のニューオーリンズから再スタート。

借金や友人の援助で、中古のオンボロなフード・トラックを友人と改良して、シンプルなキューバの即製サンドを路上販売するが、このケバブ風なアツアツ・サンドの人気が次第に広がる。

監督で主演のファブローは、制作と脚本に監督主演だから、完全な自作自演の独壇場。かなりメタボな中年オヤジなのだが、意外にむさ苦しさが少なくてサバサバしたキャラクターが憎めない。

悪ガキの息子も、勝手にスマホやツイッターを駆使してオヤジのPRをするものだから、これが移動キッチンの人気を呼び込む周辺を、その画面やブログをツイートするので、テンポも悪くない。

よくテレビの取材番組でも見かけるような、人生逆転の逆境脱出のエピソードだが、徹底的に明るくてオール・ロケーションの開放感が飽きさせない。苦労話だがバカ陽気なタッチが好感が持てるのだ。

ま、ラーメン屋の復興話や、武士の料理人のように、いろいろな味覚をテーマにした映画というのは、結局はその味覚や臭気を感じさせることは出来ないが、少なくとも食欲の創造力は刺激できる。

この映画は、そのキューバンなスパイしーな風味を、明るい太陽と底抜けの人情味で感じさせてくれる。都会のダイナーとは違った、ちょいと辛いスパイスのサンドも、食べてみたくなった。

 

■引っ張ると見せかけて、軽くライトに流したゴロのヒット。

●2015年2月、日比谷シャンテなどでロードショー 


●『ビッグ・アイズ』のバートンは多少乱視気味?

2014年12月22日 | Weblog

12月17日(水)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-139『ビッグ・アイズ』" Big Eyes " (2014) The Weinstein Company / Electric City Entertainment 

監督・ティム・バートン 主演・エイミー・アダムス <106分> 配給・ギャガ ★★☆☆☆

ハリウッドの映画人の中でも、いつも快調に自己主張を続けているウディ・アレンと並んで、毎度楽しみなティム・バートンが選んだテーマは<不思議なキーン夫妻>。

1958年の西海岸サンフランシスコ。ヒッピーが登場する直前の時代。夫を見限って自活するために娘を連れたエイミーは、自分の描いた少女のイラストを売り込みに奔走した。

なぜか、いつも正面を見つめて直立不動の少女の目は、どう見ても異常に大きい。まるでバービー人形の化け物のようなその絵は、バックの状況や背景は違っても、いつも同じ表情。

さすがに画廊でも置いてくれないし、街頭で似顔絵書きをしても、どれも同じ目をしているのだ。呆れたイカサマ画商のようなクリストファー・ヴァルツは、それでも方々にスポンサーを探した。

なぜかアンディ・ワーホールの目にも止まり、彼がコラムで注目したことから、その「ビッグ・アイズ」の絵は注目を集めるようになって、次第にふたりは上り調子。時代の人気者となった。

ところが、再婚したダンナの贋画家もどきのクリストファーが、自分のサインでその絵を売りまくったことから、ことは離婚裁判の泥沼へと転落していく。これは実話の映画化であちらでは有名な話らしい。

ま、状況はティム・バートンの「エド・ウッド」と良く似ているし、ヴィジュアルとしては「シザー・ハンズ」や「チョコレート工場」にも共通した、ちょっと飛んでるグラフィカルな世界である。

しかし、それにしては面白くならないのは、ヒロインのエイミーのマジな言動に共感が持てないのと、クリストファーのオーバー・アクト。これはジョニー・デップなら絶対にもっとキレた演技が見られただろう。

つまりアカデミー・ノミネート常連のキャスティングが裏目に出たようで、むしろ、あの時代のドリス・デイとロック・ハドソンで演じてもらった方が、もっともっと面白くなった筈。

せっかく「シザー・ハンズ」のような時代設定で面白くなる筈の状況が、なぜかハワイの裁判所で、その著作権トラブルの泥沼裁判となるラストは、相当に退屈してしまった。

どうせなら、劇中にあったように、登場人物や、裁判の陪審員も、全員をビッグ・アイズにしてしまった方が、このテーマの本質を強調できたろうに、惜しまれた。

 

■ボール球を振って、大きなセカンドフライ。

●2015年、1月23日より、全国ロードショー 


●『女神は二度微笑む』インド製ミステリーの上質な意外性。

2014年12月20日 | Weblog

12月16日(火)13-00 六本木<シナマートB-1試写室>

M-138『女神は二度微笑む』"KAHAANI" (2012) Viacom 18 Motion Pictures / Boundscript Production India

監督・スジョイ・ゴーシュ 主演・ヴィディヤー・バーラン <123分> 配給・ブロードウェイ ★★★☆☆☆

インド映画というのは、やたら陽気で、やたらと踊りだしたり、やたらと長い、というイメージがあって、当方は趣味的に引いてしまうのだが、これはその非常識を覆した傑作だ。

妊婦のヴィディヤーは、夫が行方不明になったので、ロンドンから故郷のコルカタ、つまりあのカルカッタにやって来て消息を探るのだが、なかなか進展しない。

このインドの雑居都市は、まさに多すぎる人種と、混沌としたアリ地獄のようで、もう中東や中南米の、あの騒然とした状況よりも、さらに凄まじい人種の掃き溜めのような迫力がある。

2年前にその都市で起こった地下鉄での無差別テロ事件が発端だが、その事件究明に出た筈の夫の消息は、ホテルにも出先の機関にもなく、その存在すらが謎のままで、妻は途方に暮れる。

頼りない若いドジな警察官が、その消息に疑問を持って一緒に探すうちに、まったく別の情報で、消えた夫にそっくりな要人が見つかり、失踪事件の謎の糸口は奇々怪々。まったく予期しない方向に展開していくのだ。

「ゴーン・ガール」ならぬ、「ゴーン・ハズバンド」のようなミステリーは、徐々にその裏にあったテロ事件と、お膝元の捜査当局に事件の鍵が潜んでいたことが、次第に浮かび上がってくる。

意外に手際のいいテンポでドラマは展開し、このスジョイ・ゴーシェ監督は意外に切れ味がよく、二重構造のミステリーは、案の上、そのヒロインの妊婦の使命までが謎めいてくる。

まさにあの「ドラゴン・タトゥーの女」を思わせる意外性は、かなりのハイテンポで進行していくので、余計なことを考えているとドラマについて行けなくなりそうに面白い。

ま、意外なストーリー展開は、ネタバレの礼儀として書かないが、ミステリー・ファンであれば、かなり面白く、ハリウッド・リメイクという朗報も納得できる。

やはり亜熱帯な風土感覚のせいか、後半は少々お決まりの展開が浮き足立ってしまって、解決に無理は見られるが、ま、これは上等に面白い娯楽サスペンスである印象には変わりない。

 

■前進守備のライトの後方に転々とするスリーベース・ヒット。

●2015年2月21日より、渋谷ユーロスペースでロードショー 


●『ジャッジ/裁かれる判事』古き良きアメリカン・ジャスティス。

2014年12月17日 | Weblog

12月12日(金)13-00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-137『ジャッジ/裁かれる判事』"The Judge" (2014) Warner Brothers / Village Road Pictures / Big Kid Pictures.

監督・デヴィッド・ドブキン 主演・ロバート・ダウニー・Jr <142分> 配給・ワーナー・ブラザース映画 ★★★☆☆☆

何となく60年代の、例えばポール・ニューマンの初期の頃の、例えば「渇いた太陽」とか「孤独な関係」とか、あの時代のアメリカの空気を感じさせる新作。

父親と息子の確執はスタインベックの「エデンの東」のようであり、テネシー・ウィリアムズの多くの家族争議をベースにしたドラマのような、クラシックな風味がいい。

いま風に、シャキッとしたホーム・ドラマにも出来たのだろうが、なぜかこの作品は古きアメリカの良識と矛盾をむき出しにした正統な人間ドラマで、わたしなどは懐かしく浸れた作品だった。

ダウニーJrは、大都会で成功している敏腕弁護士だが、夫婦の危機のさなか、おふくろさんが急死したために、インディアナ週の故郷に葬儀のために帰省したが、その夜、老父親が自動車事故を起こした。

父親はロバート・デュバルが演じる老練の地方判事なのだが、起こした事故は夜間に運転している車で、土地の知人をはねて殺してしまい逮捕された。過失致死の筈が、過去にもあった不利な関係証言が続出したのだ。

この親子は、同じく法律の専門業だが、むかしから家族の確執があって、とくにオヤジと次男坊という関係は最悪で、顔を見ると口論が耐えないのは、昔からの多くの育児のできごとが裏目に出て来た為だ。

どうせバカ息子とボケ親父の最悪家族なのだから、勝手にすれば・・・と、ダウニーは飛行機には乗ったものの、殺人容疑で逮捕された父親を無視するわけにもいかず、結局は裁判の弁護を無償で引き受ける。

さあ、そこからは、アメリカン・ジャスティスの熱いドラマとなるので、展開はネタバレになるので書かない。しかし、かなり不利な状況が多くて、展開は最悪なドロー・ゲームの様相になり面白い。

というのも、裁判で地方検事を演じるのが、あのビリー・ボブ・ソーントンだから、これは手強い。まさにポール・ニューマンとジェームズ・メイスンが対決した「評決」の再現のようにドラマは締まるのだ。

見るべきはオスカー俳優のロバート・デュバルのボケ親父で、老人特有の頑固さと傲慢さと同時に、高齢者の醜態も晒す好演で、これはまたアカデミー・ノミネートが固いだろう。

裁判バトルは、アメリカ映画の得意な法廷サスペンスで飽きさせないが、ラストで恩赦で出所したボケ老父と、バカ息子が二人きりで、誰もいない晩秋の湖上でボートで話すシーンが泣かせるのだった。

 

■渋いライトへのスライス打球がファールフェンスまで転々のスリーベース

●2015年1月17日より、新宿ピカデリーほかでロードショー 


●『ホビット・決戦のゆくえ』壮絶な3D+CGアクションの圧巻はさすが!!!

2014年12月15日 | Weblog

12月8日(月)13-00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-136『ホビット/決戦のゆくえ』(3D) " The Hobbit: The Battle of the Five Armies" (2014) Warner Brothers / New Line Cinema

監督・ピーター・ジャクソン 主演・マーティン・フリーマン <145分> 配給・ワーナー・ブラザース・ジャパン ★★★☆☆

シリーズの三部作の最終編なので、とにかく3D版を試写で見たのだが、どうも初めから同じようなストーリー展開で、何だ、何だ!!!の圧倒的な映像の威力に押し流されぱなし。

スペクタクル映画というのは、まさにこれであって、歴史的な事実とか、民族的な人間関係とか、重力作動とかの理屈は関係なく、ただ奔放に動き回る映像のド迫力で押しまくるのだ。

だからストーリー的には、過去の2作品と重複している部分もあるが、それは監督の話法レトリックのサービス。どうも前に見た事があるようなシーンはいくつかあり、懐かしい。

とくに2作目で衝撃だった、あの財宝の洞窟に眠る巨大なドラゴンは、まさにキップリングの「ジャングルブック」で登場した、宝庫の洞窟に住む大蛇のようで、圧倒的なアクションは凄い。

明らかに3Dでの立体効果を駆使した低空飛行ぶりは、もうハリー・ポッターでも追いつかない。それだけ、監督の意図したヴィジュアル・エフェクトの凄まじさは、アカデミー視覚効果賞必至だ。

という意味では、「ロード・オブ・ザ・リングス」のシリーズから引きずっている疑似映像シリーズだろうし、ホビット小民族のビルボが持っているお守りのリングなどは、その延長戦としてラストを占める。

このシリーズは、その壮絶な怪獣やスマウグなどの巨大異人類などが入り乱れて、何が何やら判らないが、とにかく長尺の後半は壮絶バトルが絶え間なく展開して、トイレに立つ暇もない圧倒感覚。

これはパソコンのゲーム感覚に熟達している若いマニア諸君にとっても快感だろう。という次第で、まさに全編映像の迫力マシーンに視聴覚を完全に支配されてしまう、アミューズメント体験なのだ。

イアン・マッケラン、ケイト・ブランシェット、オーランド・ブルームなどの顔も見かけるが、ほとんどは怪獣や異人種たちの豪快なアクションの陰に、その存在感は少ない。

で、ストーリーの終わりには、次なるヒーローの名前も紹介されるので、このピーター・ジャクソンの大活動写真シリーズは、まだしばらくは続きそうだ。

 

■フルカウントから豪快なセンターフライは、上がり過ぎてドーム天井に当たりツーベース。

●全国でロードショウ公開中。

  

●『ジミーとジョルジュ=心の欠片を探して』精神障害インディアンとフランス医師の友情治療。

2014年12月13日 | Weblog

12月4日(木)13-00 六本木<シネマートB3試写室>

M-135『ジミーとジョルジュ/心の欠片を探して』 " Jimmy P; Psychotherapy of a Plains Indian "<2013> Why-Not Productions-France

監督・アルノー・デプレシャン 主演・ベニチオ・デル・トロ <117分> 提供・コムストック・グループ ★★★☆☆

決してコマーシャルな商業映画を作らない監督として、頑に人間性の本質を問うテーマに挑むデプレシャンの作品は、それなりに面白いのは、テーマが判りやすいこと。

今回は、よくフィルム・ノワールのテーマになる、戦争での精神障害者の後日話。しかもネイティブ・インヂィアンであることから、1948年戦後のモンタナでは治療は後回しにされたケースだ。

特に戦後の医師不足の時代、先住民兵士のメンタルな障害を診察できる医者は少なくて、ほぼアルバイトのような契約で、フランス人のマチュー・アマルリック医師が担当医師として呼ばれた。

もともとはジョルジュ・ドゥブルーの著書「夢の分析」という、アメリカの平原原住民の精神治療記録の書籍をベースにした専門書を、ここでは異国人同士の医学を通じての友情物語として描かれる。

ゲバラの最期を描いた「チェ」でも、いかにもラテンの男を汗臭く好演したデル・トロは、まさに適役であり、今回は「トラフィック」とはまったく別人の精神的弱者を好演。

加えて、先日「毛皮のヴィーナス」でも好演したマチューが、じつに辿々しい英語で、この精神科医を好演。ある種この「おかしな二人」の人種を越えた友情が、映画の大きな魅力になっている。 

娯楽的に描けば「最強のふたり」のようになるストーリーだが、そこはデプレシャン監督は甘い感動は避けて、あくまで当時の人種差別の実情も踏まえつつ、善良な男たちのささやかな友情を臭わせる。

だから、練りようによっては、もっと「奇跡の人」のようにドラマチックに盛り上げられるテーマを、あくまで淡々としたドキュメンタリー・タッチで勝負したスタッフの狙いは堅実だ。

ここで登場するインディアンは「モハベ族」だから、ほとんど都会に近い平原に住んでいた原住民で、よく西部劇で敵役を演じた凶暴な種族ではなく、白人社会にも馴染んでいる種族。

それでも同じ戦争で戦っても、まだ人種偏見の気配があるのを、病身のベネチオは細やかな目線と大きな肢体で表現していて印象的だし、アマリックの少しコミックなニュアンスと好バランスだ。

だから医学的な美談というよりは、「マカロニ」のような、異国人同士のバイリンガルを越えた友情美談として見た方が気持ちいいようだ。

 

■左中間のフライを野手が譲り合って、ポテン・ヒット。

●2015年1月、渋谷シアター・イメージ・フォーラムでロードショー 


●『きっと、星のせいじゃない』そう、人生は宿命なのですよ。

2014年12月11日 | Weblog

12月4日(木)9-00 六本木<FOX映画試写室>

M-134『きっと、星のせいじゃない』 " The Fault in Our Stars " (2014) 20th Century Fox 

監督・ジョッシュ・ブーン 主演・シャイリーン・ウッドリー <126分> 配給・20世紀フォックス映画 ★★★☆

むかしライアン・オニールとアリ・マッグローの主演で大ヒットした、若いカップルの難病ラブストーリー『ある愛の詩』があった。しかも今回は、恋人二人共に末期ガンだから大変。

このところヒット作の多い難病ラブストーリーだが、全編を通じて、まったく暗い生活臭さがなく、むしろ病を生きるバネにしたタイムリミット・ラブストーリーなのは好感が持てる。

もちろん、現実的には、死を予告された十代の若者同士が、こんなに明るい恋の日々を送れるはずはないが、それを承知で、この作品は終始明るく微笑みを絶やさないのだ。

だから、あちらでは驚異的な大ヒット作品になったという。ま、これも<アリエネー映画>のジャンルだろうが、とにかく誠実に冷静に死の対峙している作為には同感できる。

アメリカの片田舎。17歳のシャイリーンは末期がんで、いつも酸素ボンベを背負い鼻には呼吸補助のパイプを入れているが、性格は明るくて現実を素直に受け止めている。両親も健気に協力的。

とにかく、この長編ドラマの全編を、酸素ボンベと呼吸器をつけてのシャイリーンの熱演は、アカデミー賞の同情ノミネートは可能だろう。

同じ病気を背負っている同世代の集会で、とてつもなく陽気でアグレッシブな青年アンセルと知り合い、同病相哀れむ感情もあって初恋におちていくプロセスを、青春映画のスタンダードとして描いて行く。

たしかに病気はシリアスだが、若過ぎるふたりにとって、悩んでいる時間はない。小説「至高の痛み」に感銘をうけた二人は原作者にメールをして、彼に会う為にアムステルダムに旅行することにした。

生まれて初めての外国への旅は、同時に最期の旅だと悟っているふたりは、街の美しさを楽しみ、美味しいデイトのあとベッドを共にしたが、やっと会えた憧れの作家は、なぜかひどく冷淡で失望する。

しかしその近所にあった「アンネ・フランクの屋根裏部屋」まで自力で登ったふたりは、ある種の達成感を得たのが、この旅の成果だった。

帰国して間もなく、アンセルの容態が急変して死亡した。そして葬儀の日、その埋葬の瞬間に、非情だった作家ウィレム・デフォーがアムステルダムから駆けつけたのだった。????。

葬儀の日時と墓地をメールで知ったので、飛んで来たというが、死人はメールをできない。ま、誰が通知したにしても、このシーンで感動してよ、と言われても困惑してしまう。

ま、それはいいとしても、余命が短いにしては、この映画、かなり長過ぎて後半は退屈してしまった。

 

■センターを襲ったいい当たりだったが、失速して野手が慌てて前進キャッチ。

●2015年2月20日より、TOHOシネマズ日本橋などでロードショー 


●『フェイス・オブ・ラブ』ある未亡人が見た亡夫との再会。

2014年12月09日 | Weblog

12月2日(火)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-133『フェイス・オブ・ラブ』" The Face of Love " (2013) Ife Films / Mockingbird Pictures 

監督・アリー・ポジン 主演・アネット・ベニング <92分> 配給・ブロードメディア・スタジオ ★★★☆☆

不思議だが、その病的な感情はよくわかる。40年代頃に、「幽霊と未亡人」や「君去りし後」のようによくあった未亡人のノイローゼ映画だが、よく出来ている感傷もの。

結婚30周年のメキシコ旅行で、夫が水泳中に海で溺れて急死した。ショックのアネットはその後も5年しても夫の喪失状態から抜けられない日々を送っていた。

放心状態の日々。ロサンゼルスの美術館で、ふと亡き夫にそっくりなエド・ハリスを見かける。はじめはノイローゼの幻覚かと思ったが、その後も数日ギャラリーに通って男を探した。

やっと、それが現実だと知ったアネットは、そっくりな男性を追跡して、ある美術大学まで確認し、ネット検索で、その男は大学の臨時教授だということを知ったのだ。

駐車場で、それとなく声をかけ、美術談義の末に、手がけていた絵画の個人教授を申し出てからは、自然に交際が発展していく。一種のミステリーから再生のラブストーリーに変化する演出の手腕は上質だ。

その教授も離婚していて独身だったので、ふたりだけの交際は問題なかったが、ひとり娘や、ご近所で執心な中年男ロビン・ウィリアムズは、そのクリーピーな交際にいい顔はしない。

素敵な再生のラブストーリーは、意外にも不利な現実の障害を迎えるのだった。たしかに美しい恋のリベンジは、アネットにとっては前夫との思い出とダブって美しいのだが、端からみると、そうでもない。

ここが、このロマンティック・サスペンスのドラマとしての分岐点となる。つまり、見ている我々は、あくまで彼女の視線にある人生のダブル・イリュージョンに味方しなくてはならないのだ。

名作「アメリカン・ビューティ」で、目前のオスカー像を失ったアネットは、まさにここでまた、あのオスカー像の亡霊を追うかの様に熱演している。それはもう、現役女優としての真価を賭けている。

亡霊のように似ているエド・ハリスも相変わらずに巧い。ただし、演出は、フランソワ・オゾンの「まぼろし」のレベルではなく、ちょっく通俗な未亡人メロドラマに留まったようだが、上質ではあった。

ラストの個展で、遺作となったエドの絵に描かれた自宅プールでのアネットの水着姿には、ついホロリ。・・・だから原題は「愛の肖像」。で、☆ひとつを餞別。

それにしても、ご近所の片思いオヤジを演じているロビンは、彼のキャリアから見ると、お気の毒な役柄で、たしかに好演しているだけに、最期の姿には複雑な気持ちになってしまうのだ。

 

■微妙なセカンド後方のフライを、前進のライトが届かずヒット

●2015年2月7日より、有楽町スバル座などでロードショー