細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ザ・ホークス/ハワード・ヒューズを売った男』の曖昧なホラ話の真実。

2011年03月31日 | Weblog
●3月30日(水)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-034『ザ・ホークス/ハワード・ヒューズを売った男』The Hoax (2006) miramax
監督/ラッセ・ハルストレム 主演/リチャード・ギア ★★★☆☆
嘘のような実話だ。
70年代のニューヨーク。売れない作家のクリフォード・アーヴィング(ギア)は、当時謎めいた存在だったハワード・ホークスの伝記をでっち上げる。
本人との面識もない無名のライターが出版社を騙し込んで、本を出版するという呆れた詐欺行為。
これを、あの「ワグ・ザ・ドッグ」のような奇妙な逸話として成立するのも、困ったアメリカだ。
ちょうどベトナムが泥沼化していたニクソン政権の不遇の時代。
その浮き足立ったアメリカの実情を、ちょいとシニカルに描いた風刺戯画として見るとおかしい。
あのルメットが、幻のグレタ・ガルボを追い求めた「ガルボ・トーク」のような情感はないのが無念。
いかにもダメな詐欺師まがいの偽作家を演じるギアがいい。
ダメもとでも、嘘をかき回すと、あらぬ真実も露呈する。
結果、このことが発端で、ニクソン大統領はヒューズからの政治献金がバレて、ウォーターゲート事件が発覚。
「嘘から出た真」というポイントで見ると皮肉な実話コメディだ。

■止めたバットにボールが当たり、ショートオーバーのポテンヒット。
●4月30日より、シアターN渋谷でロードショー

●『アジャストメント』で恋のアジャストに奔走する男。

2011年03月29日 | Weblog
●3月28日(月)13-00 半蔵門<東宝東和試写室>
M-33『アジャストメント』The Adjustment Bureau (2011) universal
監督/ジョージ・ノルフィ 主演/マット・デイモン ★★★☆
「ブレード・ランナー」や「マイノリティ・リポート」のフィリップ・K・ディックの短編小説の映画化。
マットは下院議員だが、スキャンダルで大敗。リベンジの上院への活動中にバレリーナに会って恋をする。
人間の運命は、宿命ではなく、ある組織の戦略下にある。という設定。
自分の運命を開拓するのも、所詮は上で決められている。という発想だ。
「ベルリン天使の詩」を思わせるように、謎めいた男たちが出没して、マットと女性の恋路を邪魔するのだ。
面白い設定だが、政治的な出世欲と、恋の話が浅すぎた。
映像は「ジョー・ブラックをよろしく」に似て魅力はあり、マンハッタンの名所を散策する。
ドアを開けたら、新しいヤンキースタジアムのセンターフィールドだったというシーンだけは感動した。
ゲームの最中ならよかったが、しかしすぐに別のドアに移動する。
ラストのロックフェラービルの屋上も美しい。が、盛り上がらないのだ。
まるで悪夢の連鎖は「インセプション」にも似ているが、なにしろストーリーが単純すぎた。
結局は恋の迷走を描いたラブストーリーなのだから、もっとロマンティックに盛り上げた方が面白かったのに、ああ惜しまれる。
短編小説なのだから、もっと細部を膨らませれば良かったのになーーー。

■当たりはセンター頭上の長打コースだったのに、風で失速。
●5月27日より、日劇などでロードショー

●『エクレール/お菓子放浪記』は甘味過多の少年ドラマ。

2011年03月25日 | Weblog
●3月24日(木)13-00 京橋<テアトル試写室>
M-032『エクレール/お菓子放浪記』Eclair (2011) プリズム/日
監督/近藤明男 主演/吉井一肇 ★★☆
西村滋の原作は、彼の戦争戦後の混乱期を生き抜いた少年時代の追想だ。
孤児院を脱走して、様々な体験を通して、飢餓からの脱出をしたプロセスが再現される。
爆撃などのイメージ映像もチープだが、闇市の再現はもう結構。
タイトルの甘い印象の洋菓子の香りとは、ほど遠い苦い昭和の回想録なのには閉口した。
今回の地震と津波で大被害を被った宮城県石巻でのロケーションが妙に哀しい。
これは強く生き延びようとした善良な<ひとりの少年の映画>で、大人達はすべて単純な傍観者。
善き人々のスケッチは多彩だが、演出は淡白で軽すぎに見えて、とても感動はない。
むしろストーリーに振り回されて、段取りだけの軽いテレビドラマの印象を受けた。
地域活性のための映画作りはいいが、基本的に良質な人間の作品に挑戦して欲しかった。

■強打したもののサードへのファールフライ。
●5月21日より、テアトル新宿でロードショー

●『蜂蜜』の自然の味と風の音を見る。

2011年03月23日 | Weblog
●3月22日(火)13-00 銀座<シネマート試写室>
M-031『蜂蜜』Bal - the yusuf trilogy (2010) kaplan films トルコ
監督/セミフ・カプランオール 主演/ボラ・アルタシュ ★★★☆☆☆
6歳の少年の視線で描いた、トルコの山奥の童話のような映画。
父親は奥地の高樹の上に設置した黒蜂蜜の採取が仕事。
吃音気味の少年ユスフは、学校が苦手で、その父親を慕って山に入るのが好きだ。
淡々とした質素な生活だが、父親が山から戻らなくなってから、様々な幻想を見る。
まったく音楽も使用しない朴訥とした自然素描だが、ときどき見せる映画的な切れ味は鋭い。
監督は、この少年をテーマにした3部作を作って、この作品は昨年のベルリン映画祭で最高賞を受賞。
まるでサイレント映画のように、音や会話も少ないが、映像はかなり雄弁だ。
幻想的な山の木々が、風でうなる音は動物の鳴き声のようで懐かしい。
ただ一度、村の祭りで踊られる音楽シーンは、まったく別世界のようで目を見張る魅力が光る。
父親の不在が、少年の心に落とす影を見据えた寓話として、非常にユニークな傑作。
ミステリアスな編集もなかなかだ。


■2週間ぶりに見れた試写らしく、しぶといゴロの痛打が左中間を破るツーベース。
●6月、銀座テアトルシネマでロードショー

●震災の影響で、しばらく試写は見られませんので、

2011年03月15日 | Weblog
●キネマ旬報/『午前十時の名画座』

『さよならをもう一度』Goodbye Again   細越麟太郎

「さよならが嫌なら、本当の恋はできない。誰かに愛されない人生なんて無意味よ」という台詞のように、恋と別れを描
いたラブ・ストーリーの傑作だ。
 50年代の後半に小説「悲しみよこんにちは」で衝撃のデビューをした18歳のフランソワーズ・サガンの原作「ブラ
ームスはお好き?」の61年の映画化。
 時代はフランス映画界のヌーべル・ヴァーグやベトナム反戦の世界的ロック・ブームの台頭で若者文化の転換期。
 フェリーニの『甘い生活』(60)やロジェ・ヴァディムの『危険な関係』(59)に代表されるように、ヨーロッパのブルジ
ョワジーに反発する若者たちの反社会的風潮がテーマに息づいている。
 サガンの視線はそうした怠惰な大人達を嘲笑するような冷たさがあって、この作品でも気まぐれな大人の恋路に一石を
投じて,独特のシニカルさが苦味。
 イングリッド・バーグマン演じるパリの装飾デザイナーは独身の40歳。海外を飛び回っている実業家のイヴ・モンタ
ンとの関係も小康状態だ。偶然に知り合ったアンソニー・パーキンスは25歳の弁護士の卵。彼が洗練された熟女バーグ
マンに惹かれて急接近したために、微妙な恋の三角関係が険悪となる。
 しかしテーマは高齢と婚活の難しさだろう。ラストでバーグマンが言い寄るパーキンスに向かって「アイム、オールド、
アンダースタンド?」と絶叫し、クレンジング・クリームを涙顔に塗りまくるシーンは冷淡な感情が肌寒いようだ。
 彼女は好演した『追想』(56)でアカデミー主演女優賞を受賞して以来の名監督アナトゥール・リトヴァークとコンビを
組んでいるが、モンタンも『恋をしましょう』(60)でマリリン・モンローと共演した直後。パーキンスもあの『サイコ』
(60)の次作という、絶頂期の顔合わせだ。
 タイトルは作品の脚本を書いた『麗しのサブリナ』(53)のサミュエル・A・テイラーが原題を改訂したようだが、大人
の感情の裏側を巧妙に皮肉る。
 音楽は『ローマの休日』(53)や『悲しみよこんにちは』(58)のジョルジュ・オーリックで、テーマになっているブラー
ムスの交響曲3番の旋律を映画向きにアレンジして、ジャズのケニー・クラーク・のメンバーも出演して演奏。歌手のダイ
アン・キャロルが劇中で唄っている。
 特筆すべきは、『情婦マノン』(48)や『恐怖の報酬』(53)の名手アルマン・ティラールのカメラ。当時のパリの情景や
若者の風俗を素晴らしいモノクローム映像で魅了してくれる。

●筆者近況/さて楽しみなメジャー・リーグの球春が再開し、試写のスケジュール両立調整が大変だぞ。

●『127時間』はゲーム感覚のタイムリミット脱出劇。

2011年03月11日 | Weblog
●3月10日(木)13-00六本木<FOX試写室>
M-030『127時間』127Hours (2010) fox searchlight
監督/ダニー・ボイル 主演/ジェームズ・フランコ ★★★☆
ユタ州の奥地の峡谷でひとりの男が、大きな落石で右手を挟まれた。
クレバスのような狭い谷間は、岩石の壁に囲まれて身動きもできない。
実話に基づいたという一種のリアルタイム密室脱出ドラマで、とにかく息苦しい。
先日の「サンクタム」も地底のケービング冒険映画だったが、どうにも動けないからこれはかなり辛い。
そのひとり芝居を、アカデミー賞にノミネートされたフランコが苦戦する。
監督は「ザ・ビーチ」のような若者の冒険心の暴走に警鐘を鳴らすつもりで作ったのだろうか。
しかし、研究でも探検でもない、レジャーでの事故だから、あの恐怖の「脱出/デリヴァランス」を思い出す。
しかも、所詮はひとり芝居。岩の重みよりも、時間の重みで少々飽きてくる。
第一、腕が抜けないような事故なら、血が回らなくて他に障害が出るはずなのに、主人公は至って楽天的。
どうも、リアリティが曖昧だ。
そこをマルチスクリーンやハンディカメラと強烈なサウンドで脅すのだ。
ま、狙いはともかく、おつかれさま、なゲーム感覚の苦労作だった。

■ヒットコースの大きな飛球だが、センターが背走してシングルキャッチ。
●6月、日比谷シャンテシネなどでロードショー

●『まほろ駅前 多田便利軒』は年内無休よろず請負人情稼業。

2011年03月10日 | Weblog
●3月8日(火)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>
M-029『まほろ駅前/多田便利軒』2011/リトルモア+アスミック
監督/大森立嗣 主演/瑛太 ★★★☆☆
都会の外れにある街は、田舎でもなく中途半端。
その駅前で、何でも手伝い屋の「多田便利軒」は、よろず屋稼業だ。
正式の営業権はともかくとして、住民のトラブルや手伝いの代行を何でもやる。
むかしの同級生が流れ込み、妙なふたりの日雇いの日々。いわゆるバディ・ムービーだ。
定職のない、おかしな二人はお互いにバツイチ。この街のように宙ぶらりんな人生のようだ。
よくある漫才コメディかと思っていたら、後半、ドラマはシリアスになってくる。
それぞれに、それなりに人生の負債をかかえた不器用な男同士。でもフーテンの寅ほど楽天的でもない。
その街と同様に、何となく浮遊状態で生きているが、正義感だけは一人前。
ラストでついに、瑛太が心情を吐露する長いひとり芝居に、この作品の本音を感じた。
その心意気が共感を誘う。
ある意味では、非常に皮肉だが、現代人の生き様をスケッチした佳作だ。

■ボテボテのショートゴロだが、野手の前でイレギュラー、で、ヒット。
●4月23日より、全国ロードショー

●『4デイズ』の舞台劇のようなテロリスト尋問の果て。

2011年03月09日 | Weblog
●3月8日(火)10-00 神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>
M-028 『4デイズ』Unthinkable (2009) LLC. sony
監督/グレゴール・ジョーダン 主演/サミュエル・L・ジャクソン ★★★☆☆
逮捕したテロリストが、アメリカの主要都市3カ所に強力な核爆弾を仕掛けている。
その時限爆弾の場所を聞き出すために、尋問のエキスパートとFBIの女性捜査官が交互に聴取する。
つまり飴と鞭による捜査だ。太陽と風の童話にある常套手段だ。
たった3人の俳優による必死の攻防。これがテーマだから、まるで舞台劇。
殺風景な体育館だけのセットもリアルだ。
絶望的な尋問の攻防が、タイムリミットまでエスカレートしていく緊迫感は飽きさせない。
サミュエルは「交渉人」でも、同じような役柄を好演したが、その実績でのリベンジだろう。
実際には、ここまで残酷な取り調べはしないだろうが、シナリオでは納得できる。
娯楽的には地味な作品だが、映画ファンには、ちょっと気になるサスペンス佳作。
どう考えても、これだけの爆弾の資金と設置が単独犯とは思えない。
ま、それを言っちゃおしまいよ。
これもすぐにレンタルDVDへのポジション替えだろうが、やはり早朝試写で見てよかった。

■痛烈なサードゴロが野手のグラブを弾いて内野安打。
●4月9日、銀座シネパトスでロードショー

●『少年マイロの火星冒険記3D』は家族向け体感アミューズメント。

2011年03月08日 | Weblog
●3月7日(月)13-00 目黒<ウォルト・ディズニー試写室>
M-027『少年マイロの火星冒険記3D』Mars needs Moms (2011) walt disney
制作/ロバート・ゼメキス 監督/サイモン・ウェルズ ★★★☆☆
ゴミ捨ての手伝いの嫌いな少年マイロの母が、火星人のロケットで誘拐された。
とっさにロケットに忍び込んだ少年の見た火星は、廃棄物だらけのゴミの世界だった。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のゼメキスの制作なので、少年の夢と希望と後悔、そして母への愛は忘れない。
レーガン政権の時代に派遣された宇宙探検家の協力で、火星の女権独裁をやっつけて、母を救出。
筋書き通りの宇宙冒険だが、傑作「ウォーリー」のテイストを再現したスタッフ作業が退屈させない。
上質な映像処理と派手なサウンド。
かなり都合のいい冒険談は、お子様向きだ。ま、それは良しとしよう。
これを3Dの大画面で見せる疑似体験アミューズメントは、子供たちには絶品だろう。
いかに宇宙が広くても、家族への愛情は、もっと広くて強い。
まさにファミリー・エンターテイメントの痛快編だ。

■セカンドベースに当たったゴロが、高く跳ねてセンター前にヒット。
●4月23日より、全国3Dロードショー

●『八日目の蝉』は普通の蝉よりも長く鳴くそうだが。

2011年03月05日 | Weblog
●3月2日(水)12-30 築地<松竹試写室>
M-026 『八日目の蝉』(2011)ジャンゴフィルム/松竹
監督/成島 出 主演/井上真央 ★★★☆☆
角田光代のベストセラー小説の映画化。
不倫愛人の家から乳幼児を誘拐した女は、シングルマザーを装って逃亡生活。
パートで育てて、住居を転々。流浪の果てに21年後に小豆島で逮捕されたが、娘は犯人を本当の母だと思っていた。
ふたりの母の、ふたつの人生をフラッシュバックで描いた母性の映画。
しかし成人した娘の心の旅路としても描くので、アタマを整理しないと時々混乱する。
極力、事件をサスペンス映画にしないで、子供の欲しい女性の感性に迫ろうとしているようだ。
演出がゆったりとした情感で描くので、かなりの長尺になったのが、どうも惜しまれる。
女性は生理で理解できろだろうが、われわれは退屈。
それは優柔不断な男の性格のせいだろうが、もう少し省略できた筈。
幼児虐待などが多い昨今、これだけ子供を欲しがる女性もいる、という矛盾。
松竹としては「砂の器」女性版として見てほしい狙いなのだろうが・・・。

■非常に高く上がったセンターフライが、風で戻されて幸運なヒット。
■4月29日より、全国松竹系で公開。