細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『彼女が消えた浜辺』の見せた意外な人間関係の虚弱さと家族の絆。

2010年07月31日 | Weblog
●7月29日(木)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-089 『彼女が消えた浜辺』About Elly (2009) イラン
監督/アスガー・ファルハディ 主演/ゴルシフテ・ファラハニー ★★★★
イランの映画には珍しい、ごく普通の家族のバカンス旅行を描いた傑作だ。
テヘランから週末旅行にカスピ海に出かけた家族旅行に、保育園の女性が同行した。
海で遊ぶ子供が溺れて、大騒ぎで救助したのだが、気がつくと、客人の若い女性がいない。
はじめは圏外なので電話をしに近くの街まで行ったのかと思ったのだが、夜になっても戻らない。
彼女の名前が「エリー」という他に、誰も彼女のことは知らなかった。
ドラマは一転して、彼女の失踪のことで混乱する。
ハッピーだった家族は、この問題で論争して、意外な結果までが見事なサスペンスのまま持続する。ひとりの女性の存在がいかに軽かったのか。そして残された課題の重さ。
フランソワ・オゾンの「まぼろし」をもっと社会的な視線で抉ったドラマとして、実に意表をついた見事なシナリオと群衆演出。思いがけない収穫だった。
ベルリンの映画祭で、監督賞授賞も納得だ。

■平凡なライトフライと思ったが、そのまま伸びてフェンスオーバー。
●9月11日より、ヒューマントラストシネマ有楽町でロードショー。

●『魔法使いの弟子』はミッキー・マウスの化身なのか。

2010年07月30日 | Weblog
●7月28日(水)13-00 目黒<ウォルト・ディズニー試写室>
M-088 『魔法使いの弟子』The Sorcerer's Apprentice (2010) Walt Disney
監督/ジョン・タートルトーブ 主演/ニコラス・ケイジ ★★★☆☆
どうも最近見たばかりの「パーシー・ジャクソン」と似たような話で混同してしまうが、何世紀も封印されていた伝説の魔法使いたちが、ニューヨークに現れて、新しい弟子を育成して魔法の技を競う。
あちらでは有名なストーリーらしいが、われわれには紛らわしい新作だ。
それを「ナショナル・トレジャー」シリーズの制作、監督、主演のトリオが手がけたのだから、見せ場はちゃんと見せてくれるが、ストーリーは弟子の育成だ。まさに「ハリ・ポタ」マンハッタン版。
ニューヨークのクライスラービルと、その屋上近くにある鉄鋼のワシや、ワシントン・スクエアにある牛の像を動かして見せるアイデアは、マンハッタン好きを喜ばせるし、あの名作「ファンタジア」の中で、ミッキー・マウスが魔法使いの弟子を演じて、ほうきやバケツにだけ掃除をさせるために、大騒動になったエピソードが、ここでも復活して喜ばせる。いかにもディズニー映画の本領だろう。
夏休みの、ファミリー映画としては申し分のない、ポップコーン味である。

■狙い球をジャストミートのセンター前ヒット
●8月13日より、TOHOシネマズ日劇などでロードショー

●『REDLINE』の感性には、残念のリタイアだ。ああ。

2010年07月29日 | Weblog
●7月27日(火)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-087 『REDLINE』(2010) GASTONIA・マッドハウス/日
監督/小池 健 (声)木村拓哉 ★★???
異次元でのカーレースの極度のエキサイト状況をアニメにした、非常にグラフィカルな作品だが、映像のスピードと、ユニークなキャラ。そして圧倒的な轟音。
ああ、昔見たハワード・ホークス監督の「レッドライン7000」が懐かしい。
とてもとても、いまのわたしの感性では、とてもついて行けなかった。SORRY。

■強烈なシュートに見逃し三振。
●10月9日より、新宿バルト9などでロードショー

●『ナイト&デイ』は夜も昼も、恋とスパイの追っかけっこ。

2010年07月28日 | Weblog
●7月27日(火)10-00 銀座<有楽座/試写会>
M-086『ナイト&デイ』Knight and Day (2010) Fox
監督/ジェームズ・マンゴールド 主演/トム・クルーズ ★★★☆
またしてもFBIのはみだしエージェントのトムが、イーサン・ハントのように異国のスパイ・グループや凶悪なエイジェントから狙われて、世界中を逃げ回るコミック風のスーパーCGアクションだ。
たまたま空港でぶつかったことから、ドジなキャメロン・ディアスが、トムの待ったなしの修羅場の連続に付き合わされることになるのが、ドタバタなスパイ・アクションとして、「シャレード」のような、よくあるハリウッド伝統の受難ドラマのおかしさを引きずる。
ちょいと高齢化なふたりのアクションは、CG処理でそれなりにタフでスピードがあるのに、ロマンスの方は古典的でまだるっこい。このアンバランスな魅力だけが取り柄の暑気払い新作だ。

■打球の早さがショートのグラブをはじいて、かろうじて幸運なヒット。
●10月9日より、TOHOシネマズ日劇などでロードショー

●『ガールフレンド・エクスペリエンス』の甘くスリリングな経験。

2010年07月27日 | Weblog
●7月26日(月)11-30 渋谷<シネマライズ>R.S.
M-085 『ガールフレンド・エクスペリエンス』The Girl-friend Experience (2009) 米
監督/スティーブン・ソダーバーグ 主演/サーシャ・グレイ ★★★☆☆
マンハッタンで高級エスコート・ガールをしているサーシャは、コールガールではあるが、相手の希望でディナーや旅行などでも有給でつきあう。
いわば「ティファニーで朝食を」のホリー・ゴライトリーの現代版。
ソダーバーグは、2002年の「フル・フロンタル」のマンハッタン篇を意図したようで、多くの男性の相手をしながら、自分なりの本当の幸せを模索しているサーシャは、まさにホリーの再来だ。
本物のエスコート・ガールを起用したという狙いで、彼女には演技の素養はないが、無表情ながら謎めいた魅力
はあって、それがこの作品の不思議な魅力になっている。

■ポップフライだが、風のせいでセカンド後方にヒット。
●渋谷シネマライズでロードショー中

●『ミレニアム・2/火と戯れる女』の巨大な落とし穴。

2010年07月23日 | Weblog
●7月22日(木)13-00 六本木<シネマートGAGA試写室>
M-084 『ミレニアム・2/火と戯れる女』The Girl Who Played with Fire (2009) スエーデン
監督/ダニエル・アルフレッドソン 主演/ノオミ・ラパス ★★★☆☆☆
大ヒットのベストセラー・ミステリー小説の映画化第2作。
前作のままのスタッフ・キャストなので、馴染みがある分、テレビの連続もののような軽さも出て来た。
しかし、ストーリーの根幹はタフでハードボイルドのままなのが嬉しいではないか。
少女売春組織の取材をしていたミレニアム社の外注ジャーナリストが2人殺されて、現場にあった拳銃から、潜伏中のノオミ演じるリスベットの指紋が検出された。
前作で彼女と友情のある編集主幹のミカエルは、警察の捜査とは別のルートを通じて、この事件の裏には彼女の憎む父親の関係が浮上した。そこには巨大な落とし穴があったのだ。
要所要所に見せるアクションの切れ味はハリウッドを威嚇して、所々にはスエーデンらしい清楚な風景も見せて、このシリーズの魅力は万全。早くパート3を見ることにしよう。

■堂々の左中間2塁打。
●9月11日より、シネマライズなどでロードショウ

●『武士の家計簿』には所々に誤算があるようだ。

2010年07月21日 | Weblog
●7月20日(火)12-30 築地<松竹試写室>
M-083『武士の家計簿』(2010)アスミック・エース/日
監督/森田芳光 主演/堺 雅人 ★★★☆
幕末の加賀藩で御算用者、つまり会計士をしていた堺は、武術よりはそろばんの得意な真面目人間。
時代の変化と生活バランスが、父のあとを受けて、その悲惨な借金財政だったことに気がつく。
そこで家財などを売り、厳密な家計簿を軸にして、極端な緊縮生活に転換を試みる。
時代劇にはサムライものが定番なにだが、刀も売ってしまってエコに徹底するテーマは面白い。
森田監督は、そんな時代の変化に奔走する家族の姿を、ユーモラスに描いて見せる。
発想はユニークだが、借金家族の話は、ごくありがちな切り口なので、後半は飽きてしまった。
というのも、ドラマとしての起承転結に盛り上がりがなく、感動も薄いのだ。
時代に取り残される男の話はよくあるが、そこにロマンや強烈な憤りがなくては、共感はない。
家計簿に誤算があったのか、捻りと斬新な解釈が見たかった。

●ヒット性のライナーだったが、途中で失速して平凡なレフトフライ。
●12月4日より、全国ロードショー


●『100歳の少年と12通の手紙』とピンクのピザ宅配おばさん。

2010年07月16日 | Weblog
●7月15日(木)13-00 京橋<映画美学校試写室>
M-082『100歳の少年と12通の手紙』Oscar and the Lady in Pink (2009) canal+仏
監督/エリック=エマニュエル・シュミット 主演/ミシェル・ラロック ★★★☆☆
白血病で死期の近い少年は、両親や医師には心を閉ざしているが、たまたま病院で知り合った宅配ピザのおばさんにだけは心を開く。
ピンクの服を着たそのおばさんは、病院にピザを届けることを口実に、少年との友情を深めていく。
これは難病ものの重さを、ピンク色のイメージで色どった童話のようなファンタジー。
監督が自ら書いた原作は、プロレスもサーカスのようにユーモラスに描いて、短すぎる少年の人生の意味を印象づける。
非常にファンタジックな絵作りは、まるでフランスの絵本のようだ。
心にほのかな灯を点すような佳作だが、後半はどうしても冗漫に見えるのは、ストーリーに結末が見えているせいだろう。
懐かしいミレーヌ・ドモンジョが元気なおばあさんを演じていた。

●ファーストの横をイレギュラーなゴロで抜けたヒット。
●10月中旬、日比谷シャンテなどでロードショー


●『ルイーサ』の強かでユーモラスなどん底人生、再チャレンジ。

2010年07月14日 | Weblog
●7月13日(火)13-00 築地<松竹試写室>
M-081 『ルイーサ』Luisa (2008) アルゼンチン
監督/ゴンサロ・カルサーダ 主演/レオノール・マンソ ★★★☆☆
現在のブエノスアイレス。60歳のルイーサは事故で夫と娘を亡くしたひとり暮らし。
陽のでる前からバスで30年も勤務した葬儀社に通勤していたが、突然の解雇。
おまけにアルバイトをしていた女優のアパートの小間使いも、彼女の引退でお払い箱。
しかも飼い猫までが突然死したので、孤独な余生となった。
猫の葬式代もないので、自宅の冷凍庫に保存していたら、なぜか電気もストップ。
退職金もでないし、貯金も使い果たし、途方にくれた彼女は、地下鉄の駅で物貰いをするハメになった。
どこにでもある不況と高齢と孤独の問題を、じつにユーモラスに描いた佳作だ。
無愛想なルイーサを取り巻くマズシイ隣人たちのスケッチも微笑ましい。
深刻なテーマだからこそ、明るくおかしくスケッチしたスタンスに好感が持てた。

■当たりそこねの凡ゴロが左中間で止まり、意外なヒット。
●10月16日より、渋谷ユーロスペースでロードショー

●『インセプション』の多重構造な視聴覚錯乱とのバトル。

2010年07月13日 | Weblog
●7月12日(月)12-30 内幸町<ワーナーブラザース試写室>
Mー080『インセプション』Inception (2010) warner brothers
監督/クリストファー・ノーラン 主演/レオナルド・ディカプリオ ★★★☆☆☆
これは視覚錯乱娯楽作品だ。
他人の夢の中に侵入して、機密情報を操って奪う。とんでもない発想の大作だ。
通常の夢というのは、一種のフラッシュバックで過去の記憶のように甦るもので、
多くの作品に利用されるが、あの「素晴らしき哉、人生」のように、もしかしたら別の現実もあり得るという仮説を、多重構造で描いたサスペンスだ。
夢のまた夢。現実はまだ他にあるかもしれない。
その他人の脳神経を操作して秘密を奪う特殊工作員のレオさまは、チームを作って、複雑な4重構造になっているターゲットの夢に忍び込む。
しかし相手の脳にも対応システムがあるので、思わぬ銃撃戦と、信じられない錯誤空間に転落してしまう。
おまけにレオさまの妻は、その夢の操作を誤信して自殺したために、彼にはそのトラウマが出現して、思考を錯乱する。
要するに、ボガートの「渡洋爆撃隊」のように、回想シーンでまた回想して行く、という構造が深まる。
この複雑なレトリックは、パソコンでの迷路に似ているので、苦手の方にはついて行けまい。
難解なのではなくて、シーンの分解整理が忙しいのだ。
あの「メメント」での映像挑戦が、ここでまたよりパラドックな境地に深化した。
知的な映像ゲーム感覚だが、わたしは大いに楽しめた。

●強烈なライナーがファーストのミットを弾いてブルペンを転々。返球にミスもあってスリーベースヒット。
●7月23日より、全国ロードショー