細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『扉をたたく人』R.ジェンキンスが叩いたハートの音。

2009年04月29日 | Weblog
●4月28日(火)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-047 『扉をたたく人』The Visitor(2008) participant 米
監督/トム・マッカーシー 主演/リチャード・ジェンキンス ★★★★
コネチカットの大学教授は最近愛妻を亡くしてから無知力な日々。
学会でニューヨークの自宅アパートに戻ったら、移民の若い男女が住んでいた。
家のない彼等に、部屋をシェアしていたが、青年の叩くドラムの音に興味を抱くようになり、友情も生まれる。
しかし些細なトラブルでシリアから不法移住していた青年は移民局に収監される。
9-11以来、非常に厳しくなった移民者への取り締まりで、教授の楽しみも消えかかる。
非常に知的で節度のあるヒューマン・ドラマで、その不運な展開も冷静沈着。
いま抱えている難民移住と、アメリカのあるべき姿勢は、『グラン・トリノ』のクリント・イーストウッドが見せた問題と共通して胸に響く。タカ派とハト派だが、憤りは同じだ。
国家の厳格さと、国民の思慮に温度差のある現代に、温かな抗議を試みた秀作だ。

●6月27日より、恵比寿ガーデンシネマで公開

●『ボルト』が挑んだイエローブリック・ロードへの挑戦。

2009年04月28日 | Weblog
●4月27日(月)13-00  六本木<ウォルト・ディズニー試写室>
M-046 『ボルト』Bolt (2008) walt disney
監督/クリス・ウィリアムズ 主演(V)ジョン・トラボルタ ★★★☆☆
ハリウッドの映画スタジオで育てられた白い犬のボルトは、CG処理で描かれた自分のパワーを過信していた。
間違って貨物と一緒にニューヨークに運ばれたものだから、自分のスタジオに帰るために、とんでもない旅が始まる。あの『オズの魔法使い』のような友達とのロードムービーだ。
パワーが偽物だったと悟って、ボルトは自分の知恵と機知でトラブルを乗り越えて行く姿は、子供のための美談だが、ハリウッドの虚像を作り上げて富を築いて行く、おぞましい大人たちの現実もあざとく見せて行く。つまり暴力過剰の映画製作の醜態にも、批判的な視線を向ける。
だからよく見ていると、この古典的なテーマで、ハリウッド映画が本来あるべき姿勢も、ちょっと皮肉って見せているところが、なかなかだ。
捨て猫のミトンズの好演もあって、上々のアニメ傑作でもあったが・・・。

●8月1日より、夏休みロードショー

●『蟹工船』での格差闘争の古色蒼然とした狙いは何だろう。

2009年04月25日 | Weblog
●4月23日(木)13-00 京橋<映画美学校/第一試写室>
M-045『蟹工船』kanikousen (2009) IMJ/日
監督/SABU 主演/松田龍平 ★★☆☆
あの小林多喜二の原作を1953年に俳優の山村聡が映画化したが、これはそのリメイク。
時代は同じく戦時下の洋上の蟹漁船だ。
船底で蟹の缶詰を作る流れ作業をしているのは、戦争に行かなかった若者たちだが、なぜか船上の管理者は出てこないで、現場監督が執拗に木刀で労働者を殴る蹴るの強制暴力を振るう。
たしかに労働者と支配者には。いつの時代にも格差があるが、この古代的な奴隷設定が、まったく一方的でわからない。
話し合いの出来ない設定ならば、どうしてこうも暴力的な密室空間に固執するのだろう。
ミュージカルとか、ファンタジーとか、牢獄ドラマなら判るが、この異常な設定には抵抗感があり、それを現代の感覚で昇華しきれていないので、まったく不快感だけが残った。
学生のアジテイト演劇でも見ているような盲目的な閉鎖感は、どうしたものだろうか。

●6月、シネマライズなどでロードショー。

●『ウォーロード/男たちの誓い』中国戦国時代の任侠道。

2009年04月23日 | Weblog
●4月22日(水)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-044 『ウォーロード/男たちの誓い』The Warlords (2007) mediasia 中国
監督/ピーター・チャン 主演/ジェット・リー ★★★☆☆
19世紀の中国。アヘン戦争で混乱した清朝の時代に、分散した盗賊たちが結束したゲリラ集団を組んだ。
スーパースターのジェット・リー、アンディ・ラウ、金城 武らは「投名状」という、<兄弟盃>を交わして結束して勢力を広げたが、次第に朝廷側に付くべきかどうかで、考えに亀裂が生じた。
もともとひとりの女性をめぐる感情の縺れもあったが、友情の歯車も狂い出す。
「レッドクリフ」のような大味なスペクタクルと違って、こちらは西部劇のような男性ドラマに、任侠映画のような柵や誤解が底辺にあって、判りやすい人間関係に好感が持てる。
三大スターも、それぞれの個性を全面に出して好演して、07年の中国映画ナンバーワンの風格を見せる。
たしかに、このテの中国歴史絵巻は、最近食傷気味だが、この作品はCG駆使よりも、人間ドラマを先行させている狙いに魅力があった。

●5月8日より、TOHOシネマズ六本木ヒルズなどでロードショー

●『レスラー』の飽くなきリベンジの意味。

2009年04月21日 | Weblog
●4月20日(月)13-00 築地<松竹試写室>
M-043 『レスラー』The Wrestler (2008) wild bunch 米
監督/ダーレン・アロノフスキー 主演/ミッキー・ローク ★★★☆☆☆
まさにミッキー・ロークという俳優の人生を見るような、栄光と転落の日々はフィクションとは思えないようなリアリティーがある。その演技の壮絶さが実像とダブって見事だ。
20年前のピークを遥かに過ぎたレスラーは、スポーツというよりは、イベントの敵役としてプロレスショーをやって体はボロボロ。
ひとり娘には愛想をつかされ、年増のストリッパーとも噛み合ない。
周囲のレスラーたちも、この「おっさんレスラー」には手抜きしていて、アルバイトのスーパーでも冷遇される。人生は落ち目になると、どうにも止まらない。
しかし映画は常にこの男に愛情のある視線を送り、応援の声援を惜しまない。そこがいい。
ただ負け犬の転落を描くのでなく、その醜態にも温かな拍手を捧げているタッチには好感が持てた。クリントの『グラン・トリノ』の老人にも共通する人生観に、傷だらけの気概を感じた。

●6月、シネマライズなどでロードショー

●『マン・オン・ワイヤー』はなぜツイン・タワーに昇ったのか?

2009年04月19日 | Weblog
●4月17日(金)13-00 京橋<映画美学校第一試写室>
M-042 『マン・オン・ワイヤー』Man on Wire (2008) UK discovery film 英
監督/ジェームズ・マーシュ 主演/フィリップ・プティ ★★★☆
1974年に、ニューヨークの世界貿易センタービルの、二つのタワーの間を綱渡りした男がいた。
まだビルの完成直前の工事のスキを狙った奇行は、もちろん犯罪だが、それよりも、なぜこのようなことをしたのか、という疑問に、このドキュメンタリー映画は迫っている。
軽業師のフィリップは、このツイン・タワーに魅せられて、まさにキングコングのようにビルの頂上にロープを張る。その作業はまるで銀行の金庫を破るように緻密な計画が練られ、数人の仲間たちとの親密なチーム・プレイが功を奏する。
その行為はともかく成功した。しかしこの事件を、なぜ今になってタワーが崩壊したあとでフィルムにしたのだろうか。しかも静止画像のままなのだ。その疑問が最後まで釈然としないままに、映画は終わる。
そこに「山があったから」では納得できないのが、正直な後味となった。

●6月、新宿テアトルタイムススクエアなどでロードショー

●『ディア・ドクター』で問われる本当の医療とは?

2009年04月17日 | Weblog
●4月16日(木)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>
M-041 『ディア・ドクター』Dear Doctor (2009) エンジンフィルム/日
監督/西川美和 主演/笑福亭鶴瓶 ★★★★
名作『ゆれる』から3年。西川監督の3作目はニセ医者の話。
過疎の山奥に派遣された研修医は、村にいるたったひとりの中年医師に疑問を抱く。
ほとんどが後期高齢者の村なので、医院に患者は多いが、ほとんどは薬で対応。とくに難病の患者は都会の大きな病院に送られるものだから、人気の医師のいる医院はまるで集会場だ。
しかし胃腸に障害のある老婆の病状を心配した娘が東京の専門女性医師だったことから、鶴瓶の好演するニセ医師は突然姿をくらませてしまった。そして警察の執拗な事情聴取。
資格はないが病人にやさしい謎の医師は、村では必要な男だったのだ。
果たして本来の医療とは。そして医者とは、あの『赤ひげ』のような人情家ではなかったのか。
淡々とした山の農村を舞台にして、この騒動記は、いろいろ考えさせられる現実問題を提起しながらも、西川監督はシリアスにはならずに、ほのかな愛情をこめて描いている。
ラストの意外な配慮にも、好感の持てるヒューマンな傑作だ。

●6月27日より、シネカノン有楽町1丁目などでロードショー

●『お買いもの中毒な私!』の切実な不景気対策作戦。

2009年04月15日 | Weblog
●4月14日(火)13-00 六本木<ウォルト・ディズニー試写室>
M-040 『お買いもの中毒な私!』Confessions of a Shopaholic (2009) touchstone
監督/P.J・ホーガン 主演/アイラ・フィッシャー ★★★
この不景気な時代にぴったりなアイデアは面白い。
ファッション・フリークの独身25歳。レベッカは、フィフスアヴェニューで買い物しすぎてカード破産した。
取り立ての調査員に嘘をついて逃げ回るが、執拗に追われるので成り行きでエコノミー・マガジンの編集の仕事に就く。
そこで彼女は購買癖に悩む若い女性の本音を書きまくったところ、これが世間の共感を呼び、夢のファッション雑誌からも仕事がくる。
夢のサクセスストーリーだが、どうしても<ショッパホリック>(買い物癖)の治らない彼女は、同じ病気の改善グループに入って、この病を直そうとする。
そんなグループがあるかどうかは判らないが、とにかくホラ話としては深刻だ。
これが一流のキャストだったら傑作になったろうが、新人のアイラには重すぎたキャスティングだった。

●5月30日より、松竹ピカデリーなどでロードショー

●『マックス・ペイン』究極の傷みのヴィジュアル・パワーは凄い。

2009年04月11日 | Weblog
●4月10日(金)13-00 六本木<FOX試写室>
M-039 『マックス・ペイン』Max Payne (2008) FOX
監督/ジョン・ムーア 主演/マーク・ウォールバーグ ★★★☆☆☆
2001年に登場したビデオゲームが原案になっているが、家族を失った男の復讐の話だからクリント・イーストウッドの『アウトロー』に代表されるような、よくあるプロット。
面白いのはマークの演じるマックスは、ニューヨーク警察の未解決事件の証拠資料保管室に勤務していることで、自分の妻と子供を殺した犯人とその動機については、専門的に調べ上げる。
その苦しい心の内側に潜むマックス・ペイン<究極の痛み>が、次第に凶暴なヴィジュアルと化して来る狂気が凄まじい。
ある種、キューブリックやデビッド・リンチの映像のようでもあって、スローモーションによるバイオレンスの爆発も快感を伴うようだ。あの健さんの背中の唐獅子が飛び出すような、怒りの表現は凄みがあった。
よくあるコミック/アニメの映像化ではなくて、ひとりの男の怒りの映像化としてユニークで魅力があった。
化け物ファンタジーに堕ちなかった監督のパワーは素晴らしい。

●4月18日より、お台場シネマメディアージュ他でロードショー


●『ザ・スピリット』のノスタルジックで斬新なパルプ・アクション美。

2009年04月09日 | Weblog
●4月8日(水)13-00 内幸町<ワーナーブラザース試写室>
M-038 『ザ・スピリット』The Spirit (2008) lionsgate 米
監督/フランク・ミラー 主演/ガブリエル・マクド ★★★☆☆
50年代のムードを活かしたコミックブックの映像化だが、アイズナーのダークな世界を、かなり当時のパルプマガジン風に面白く描いている。
監督のフランク・ミラーとしては『シン・シティ』のイメージをよりハードボイルドなコミック仕立てにしていて、そのクラシックなノワール感覚は、斬新ながら、むしろノスタルジックで味わいはある。
死神を背負う不死身の刑事は、あの『バットマン』のようだが、とくに空を飛ぶ訳でもなく新兵器もない。
その辺りの居直りが、逆に好感が持てた。しかもセンチな初恋を引きずったタフガイの小心な逆キレ・コミックとして楽しむ分には、個性的で面白い。ハリウッド的な大人の漫画で、子供には見せたくない。
豪華なスターたちも、ここではアニメのキャラに徹しているのが憎めない。

●6月6日より、ロードショー