細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●11月の試写ベスト・3とワースト

2005年11月30日 | Weblog
★11月に見た試写ベスト・3
●「力道山」RIKIDOZAN(2004)韓国
監督・ソン・ヘソン 主演・ソル・ギョング ★★★★☆☆
スポ根映画でなく、あの時代をタフに一直線に生きた力道山を、情感豊かに描いた傑作。
●「単騎、千里を走る。」(2005)日中合作
監督・チャン・イーモウ 主演・高倉 健 ★★★★☆
孤独な親子のコミニュケーションの難しさを、中国に国境を越えて見直した男のロマン。
●「スパングリッシュ」Spanglish(2004)米
監督・ジェームズ・L・ブルックス 主演・アダム・サンドラー ★★★☆☆☆
アメリカに密入国したメキシコ人親子が、アメリカナイズを拒絶して、自分の生き方を探す勇気のドラマ。

◎ワースト
「イン・トウ・ザ・サン」Into the Sun (2005)米
監督・ミンク 主演・スティーブン・セガール ★★☆
せっかく日本を舞台にしたアクションなのに、ハチャメチャ銃撃だけで全く美意識のない愚鈍なシロもの。

●「力道山」とチャ・スンジェさん。

2005年11月29日 | Weblog
●11月29日(火)13-00 新富町<ソニー・ピクチャーズ試写室>
M-164 「力道山」Rikidouzan (2004)韓・日
監督・ソン・ヘソン 主演・ソル・ギョング ★★★★☆☆
プロデューサーのチャ・スンジェさんとは、二度酒を飲んだ。
なぜか一昨年の2003年秋、盛岡のミステリー映画祭で、韓国から来日していたチャさんが、藤原の郷を見たいので、同行してくれと事務局から言われて、一日バスで同行したことがある。
その時点で、あまり韓国映画を知らないわたしは、彼とハリウッド映画の話ばかりしていた。
その夜、ホテルのバーで、これから撮る作品の予定を聞いたら「力道山]だと言うのだ。
どうして韓国人プロデューサーの彼が、力道山を撮ろうとしているのか、その時は判らなかったのだ。
そして別れの朝、「では次回は東京か、ソウルで逢いましょう」とチェさんと握手すると、彼は「いや、ここで。この盛岡で逢いましょう」と言うのだ。ようお世辞を言うひとだ、とその時は思った。
しかし、昨年の盛岡の映画祭で、またチェさんと逢ったとき、わたしは自分の無知を詫びた。というのも、その後「武士・MUSA」と「殺人の追憶」を見て、本当に感動していたからだった。「で、力道山は?」と聞くと、もうかなり撮影は終わっている、と微笑した。まるで、打ち合わせがひとつ終わったような軽い笑顔だった。
「力道山、見るのを楽しみにしています」と言って握手して別れたのだ。
その映画を今日、やっと見た。
もっと前から見るチャンスはあったのだが、タイミングが合わなかったし、簡単に見たくなかったのだ。
感動の大半は、またしても、わたしの無知に対しての恥ずかしさと驚きである。
奇せずして、外人が作った日本の映画二日続けて見た。しかし日本のあの時代を克明に体温まで感じさせたのは「ALWAYS三丁目の夕日」よりも、この作品の方だ濃厚だった。
「たった一度の人生、善人ぶってる暇がどこにある」ハードボイルドな感動は、空手チョップ並みだった」。
あした、チェさんに、感謝の手紙を書こう。

●「ホテル・ルワンダ」のルセサバギナ・リスト。

2005年11月29日 | Weblog
●11月28日 13-00 京橋<メディア・ボックス試写室>
M-162 「ホテル・ルワンダ」Hotel Rwanda (2004) 南アフリカ
監督・テリー・ジョージ 主演・ドン・チードル ★★★☆☆☆
昨年度のアカデミー主演男優賞と脚本賞、助演女優賞にノミネートされた話題のポリティカル・サスペンス。
実際に94年にアフリカのルワンダで勃発した部族闘争を背景に、ひとりのホテルマンと、その家族の置かれた状況が緊迫したテンションで描かれる。
サービス業で生きて来たホテルマンのサービス精神が、献身的な人道救済活動をして、争乱中に多くの市民をホテルに匿った美談は「シンドラーズ・リスト」に共通するヒューマンな感動を誘う。
ひたすら低姿勢だが、頑に人命を守ろうとするポールの姿はヒロイックで、先日見た武器密売商人のニコラス・ケイジと正反対の人格だ。この作品を作った勇気と公開する努力は認めるが、少々エンターテイメント色の濃い演出が鼻についた。
ジャン・レノがホテルの社長役でカメオ出演していたが、そのせいもあろうか。

●「SAYURI」と足ながおじさん。

2005年11月28日 | Weblog
●11月28日(月)10-00a.m. 新橋<ヤクルト・ホール>披露試写
M-162 「SAYURI」Memories of a Geisha <2005> dreamworks
監督・ロブ・マーシャル 主演・チャン・ツィイー ★★★☆☆
悪くはない。よく日本の文化の美意識を考慮して、間違いのないように時代考証している誠意は窺える。
ストーリーは、売られたひとりの少女が、一流の芸者になるまでの大河ドラマで、初恋のひとと結ばれるまでの波乱の人生を情感たっぷりに描いて行く。あの「シカゴ」のロブ・マーシャルは、さすがにステージ演出の才覚を芸者の踊りにセンスを見せる。つまりこれはハリウッドが美化した幻のロマンティック・ラブ・ストーリー。
ところが我々日本人には見慣れた世界なので、それほどサプライズはない。無難な親日映画である。
なにしろ、みんな英語で会話するので、それだけで違和感があるが、これもハリウッド・メイドなのでしょうがないだろう。
桃井かおりが、いい味を出している。ひょっとしてオスカー・ノミネートかも。

●「エンパイア・オブ・ザ・ウルフ」の二重犯罪。

2005年11月23日 | Weblog
11月22日(火)13-00 六本木<GAGA試写室>
●「エンパイア・オブ・ザ・ウルフ」Empire of the Wolves (2005) 仏
監督・クリス・ナオン 主演・ジャン・レノ ★★★☆☆☆
パリで不法入国のトルコ人女性連続殺人事件発生。
遺体は顔が破損されて、足の骨なども複雑に砕かれている。そこで荒くれ元捜査官のジャン・レノが呼び出されて、若手の刑事と難事件に挑む。あの「クリムゾン・リバー」と同じ導入は、原作も同じジャン=クリストフ・グランジェのせいもある。
しかし、事件はそれだけでない。
高級官僚夫人が記憶喪失のノイローゼに悩み、精神科女医に相談すると、以前に脳手術を受けていた傷痕が見つかる。
そして自分はトルコ人だったことを知る。
という訳で、ふたつの事件が中盤から、ひとつの犯罪の様相となり、終盤はイスタンブールからカッパドキアへと迷走する。
雨の降り続くダークなトーンだが、カメラがいいので、上質なハードカバー・ミステリーの雰囲気が素晴らしい。
高官夫人のアーリー・ジョヴァーが、後半に「ブレイド」の本領を見せ、ジャン・レノも謎めいた獰猛な元捜査官を演じて、2時間を越えるサスペンスを飽きさせない。

●「ロード・オブ・ウォー」の高価な矛盾。

2005年11月21日 | Weblog
●11月21日(月)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-160 「ロード・オブ・ウォー」Lord of War (2005) Saturn Film (米)
監督・アンドリュー・ニコル 主演・ニコラス・ケイジ ★★★☆☆
主人公の不法武器商人のモラルはこうだ。
世界中で年間に突然死ぬ人数は、交通事故死と病気か天災事故が多い。
だから武器を売るのも、車を売るのも同じ罪。問題は殺意の介在であろうか。
要点は買い手が銃器を何の為に使うのか。という訳で、正義としては良くないことは常識的に知っていながら、大量の不法武器を敵味方に売る。どこの国の軍隊であろうが、彼には商売相手なのだ。
ニコラス・ケイジ扮する実在のガン・ランナーは、それを自分の天職だと豪語している。
しかし悪徳な商法に矛盾はいつも感じている。家族は別れ、弟も銃取引事故で死ぬ。幸せな人生ではない。
このポジションが最後まで納得がいかない。要するに一種の違法貿易商人の半生なのだ。
映画は面白いのだが,やたら自白じみたナレーションが多くて、「ディスカバリー・チャンネル」のドキュメンタリー・ドラマを見ているような気分になる。

●「愛より強い旅」旅より強いリズム。

2005年11月19日 | Weblog
11月18日(金)13-00 京橋<映画美学校第二試写室>
M-159 「愛より強い旅」Exils (2004) 仏
監督・トニー・ガトリフ 主演・ロマン・デュリス ★★★☆
パリの生活に不毛を感じた恋人たちが、ヒッチ・ハイクで故郷のアルジェリアまで旅をする。
その間に変化する風景や町よりも、強烈に変化して行くのが音楽のリズムだ。
ガトリフ監督は監督、脚本とともに音楽も手がけ、過去の「ガッジョ・ディーロ」や「ベンゴ」のように、フラメンコを中心としたジプシー・サウンドで、スクリーンを塗り込める。
今回はそのカラーを、モロッコやアルジェリアのアフリカン・リズムに集約しているので、狂気のような音に翻弄される。
あの「望郷」のペペル・モコが、アルジェを逃げ出して、パリに郷愁を感じた気持ちが逆に、よく判る。
やはり、わたしはメロディ派である。このサウンドには負けるな。

●「単騎、千里を走る。」悔恨の旅路。

2005年11月18日 | Weblog
●11月18日(金)10-15 日比谷<東宝試写室>
M-158 「単騎、千里を走る」Riding Alone for Thousand of Miles (2005)日・中
監督・チャン・イーモウ 主演・高倉 健 ★★★★
甘い、甘い、と思いながら、やはりラストにはホロリとくる。健さんの枯れた味わいで★が多い。
関係がうまく行かなかったひとり息子が末期ガンだという。
やり残した中国での仮面劇の取材を代行することで、枯渇した息子にせめてもの愛情表示をしようとする父。
しかし、現地に行くと「ロスト・イン・トランスレーション」で、目的は遠のくばかりだ。
仮面劇の踊り役者が、獄中にいる。その男もまた息子と疎遠なのだ。
そこで健さんは、奥地の麗江市にいる役者の子供を探しに行くのだ。
つまり、破綻していた自分の息子との絶縁を、この行為で再構築してみようと努力する。
不器用で、朴訥とした老齢の男・健さんが、中国奥地の山奥をさまよう。
どうもやりすぎな美談なのだが、チャン監督は「あの子を探して」の素朴なタッチを後半で燃焼して魅せた。
父親というのは、こんなテーマに弱い。
さて、母親たちはどう見るのだろうか。

●「天空の草原のナンサ」の究極シンプルライフ。

2005年11月17日 | Weblog
●11月17日(木)13-00 渋谷<東芝試写室>
M-157 「天空の草原のナンサ」The Cave of the Yellow Dog (2005)独・モンゴル
監督・ビャンバスレン・ダバー 主演・パットチュルーン一家 ★★★☆☆☆
まったく商業性のないモンゴルの遊牧民家族を描いたセミ・ドキュメンタリー・ドラマ。
一応ストーリーはあるが、平々凡々な彼らのシンプルライフが見ていて飽きない。
電化製品の全くない生活。食べるものも自分たちで作り、家も季節で移動する。一家5人。それ以外は羊たちのみ。
長女のナンサがある日、野良犬を連れて来た。父は飼うことに反対するが、娘は絶対に犬を離さない。
人間も動物の一種なのだという単純なことがよく判る。ケイタイもテレビもコンビニもブチィックもファスト・フードも、とにかく何もない草原の世界。しかし彼らの連帯感と幸福感はスケールが大きい。
映画を見ていて感じるのは、いかに我々は不必要なものを沢山持ちすぎていることか。
長い間、財産だと勘違いしてゴミの山に囲まれている都会生活に、ふと寒気すら感じてしまう。
モンゴリアンの生活は出来ないが、反省材料は沢山ある。実にユニークな非文明映画。
それにしても、あれだけ野生の生活をしているのに、どうしてファッショナブルなのか。しかも、どうしてこれほど誇り高いのか。不思議なことがいっぱいだ。これも現代なのだ。
ラストで、住処を移動している彼らの横を、選挙の宣伝カーがすれ違った。

●「家の鍵」の痛切な共感。

2005年11月16日 | Weblog
●11月16日(水)13-00 京橋<映画美学校第一試写室>
M-156 「家の鍵」Le Chiavi Di Casa (2004) 伊
監督・ジャンニ・アメリオ 主演・キム・ロッシ=スチュアート ★★★☆☆
19才の恋人は出産の際に死亡し、生まれた子供は重度の小児麻痺障害。
ショックで子育てを拒否した男が、15年ぶりに我が子に会い、介護の検査に立ち会うために、ミラノからベルリンに旅をする。覚悟はしていたものの、現実の厳しさに、父親としての自信は崩壊する。
しかし、病院で出逢った障害児の母親シャーロット・ランプリングの冷静な温情に、少しずつ勇気を持つ。
どちらかというと、もっと重度の娘を介護するシャーロットの名演技が光る。さすがだ。
あの「レインマン」や「八日間」の関係を思い出すが、ハンデーキャップのドラマというのは、見ていて辛い。
ナンニ・モレッティのようなユーモアはないが、アメリオの感覚は誠実だ。