細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ブッシュ』の時代を嘲笑した笑えないコメディ。

2009年03月28日 | Weblog
●3月27日(金)13-00 紀尾井町<角川映画試写室>
M-033 『ブッシュ』W. (2009) QED international 米
監督/オリバー・ストーン 主演/ジョシュ・ブローリン ★★★
退任したばかりのアメリカ前大統領ジョージ・W・ブッシュの半生記を皮肉を込めて描いた作品。
政治的な作品の多い監督の『JFK』や『ニクソン』に比べると、あの痛烈な毒舌と映像パワーはない。
特に、イラクへの空爆を強行した周辺の政治的決断の功罪については、とくに突っ込みもなく、しかもラムズフェルドの退任の描写もないので、これは風刺映画としても薄味になっている。
あの9-11にしても、ただの過去のエピソードにしている辺りも曖昧で、これは政治家の肖像ではなくて、ひとりの小心なエディプス・コンプレックスのカリカチュアに終始した。
ジュシュ・ブローリンの演技も、どこかコミカルなそっくりさんで、苦笑を誘う。
とにかく、あのブッシュの時代は嘲笑のうちに終わったのだ、と、この映画も苦笑しているようだ。

●5月16日、有楽町スバル座などでロードショー

●『夏時間の庭』心地よい陽だまりにも曇りのち雨模様。

2009年03月27日 | Weblog
●3月26日(木)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-032『夏時間の庭』L' heure d' ete (2007) 仏
監督/オリヴィエ・アサイヤス 主演/ジュリエット・ビノシュ ★★★☆☆☆
パリ郊外に住む75歳の祖母は、誕生日に3人の子供たち家族を呼んでパーティをした。
夏の午後の庭園の日だまり。ワインとプレゼント。
幸福を絵にしたようなシーンだ。
しかし死期の近い老婆の遺産に関する話には、誰も耳を貸さない。
そして彼女が他界したあと、それぞれの生活に奔走する息子や娘は、その庭園の家を処分することにした。
時代によって価値観の代わる世代と、それなりに不自由な現実。
遺された芸術品や美しい庭も、住む人を失えば何も意味をなさないのだ。
使われない器ほど哀しいものはない。家族の離散というよりも、時代というものの変貌を嘆く哀しみが、この作品の温かい資質だ。
クリント・イーストウッドの長男カイルが顔を出すのもテーマを象徴していた。
平板だが、奥行きのあるスケッチ画を見たような感動があった。

●5月、銀座テアトルシネマでロードショー

●『レイン・フォール/雨の牙』は普通の冷たい雨だった。

2009年03月24日 | Weblog
●3月23日(月)15-30 神谷町<ソニーピクチャーズ試写室>
M-031 『レイン・フォール/雨の牙』Rain Fall (2009) 3 dogs
監督/マックス・マニックス 主演/椎名桔平 ★★☆☆
東京滞在経験を活かしたバリー・アイスラーの原作は、ハーフの元日本人CIA工作員の闇の陰謀を描くシリーズで、東京を舞台にしたサスペンスの、これはその1本らしい。
ベテラン官僚の連続死を捜査していたCIAアジア支局のゲイリー・オールドマンは、事件に関連して不明になっていたメモリースティックが、元部下だった日系アメリカ人ジョン・レインの手中にあると睨んで周辺の監視を強化する。
よく似たスパイものは多いので、せっかく東京ロケしているのに、どうも理解に苦しむ主人公の行動に翻弄され、スタイリッシュな演出ばかりが作品を軽くしている。
ジェット・リーのように朴訥な椎名桔平のキャラクターも、マーシャルアーツがあるでもなく、ましてや東京の喧噪も『不夜城』ほどの魅力もない。
せめてあの『ブラックレイン』のレベルは見たかったので残念だ。

●4月25日より、松竹ピカデリーなどでロードショウ

●『にせ札』を本気で作った連中の楽しかった日々。

2009年03月18日 | Weblog
●3月17日(火)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-030 『にせ札』(2009) bitters end 日
監督/木村祐一 主演/賠償美津子 ★★★☆☆
昭和25年、はじめて千円札が発行された時。
まだ戦後の貧困に苦しむ農村では、新しい通貨の価値観に戸惑っていた。
その混乱期につけこんで、まだ見たこともないひとを騙して儲けようと、にせ千円札を作った連中がいた。
これはその実際にあった事件の再現ドラマだが、初監督の木村祐一は、持ち味のユーモア感覚を随所に盛り込んで、どこか微笑ましい昭和の人間ドラマにしていて味がある。
所詮はバレてしまう偽札偽造の作業だが、まるで村おこしの新事業のような張り切りようの窃盗グループの日々には、ほのかな連帯感の暖かみもあって憎めない。
この不景気で貨幣価値の変動激しい時期に、こうした昭和の優柔不断でスローテンポな感覚も、ひとつの風刺漫画と言えようか。
できれば、犯罪映画ではなくて、懐古ファンタジーとして見て欲しい作品だ。

●4月11日より、テアトル新宿などでロードショー

●『愛を読むひと』は読むことで愛を伝えようとしていたが・・・。

2009年03月17日 | Weblog
●3月16日(月)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-029 『愛を読むひと』The Reader (2008) mirage enterprises
監督/スティーブン・ダルドリー 主演/ケイト・ウィンスレット ★★★★
ベルンハルト・シュリンクのベストセラー小説「朗読者」の端正で誠実な映画化。
戦後に復興したベルリン。少年は電車の女性車掌に急病を看護されてから、彼女のアパートに行くようになり彼女のために本を読む。そして初恋をした。
たびたび本を読み愛を交わした日々。しかし年増のケイトは突然姿を消す。
法律の勉強をしていた少年は、その後に裁判の公聴をした時に、彼女が戦犯者として無期懲役の刑を受けた。
映画は、それから20年後に再会するまでをフラッシュバックで語って行く。
節度のある演出で、戦争の後遺症のような悲劇を描いた傑作で、オスカーを授賞したケイト・ウィンスレットが悲運の生涯を抑えた表情で演じて見事。
ラストの再会が絶妙な見せ場となっている。

●6月19日より、TOHOシネマズ スカラ座などでロードショウ


●『チェイサー』で叩きつけたキムチな闘魂の映画パワー。

2009年03月13日 | Weblog
●3月12日(木)13-00 京橋<映画美学校/第一試写室>
M-028『チェイサー』The Chaser (2008) big house 韓
監督/ナ・ホンジン 主演/キム・ユンソク ★★★★☆
偶然の接触事故で不審な態度のドライバー男にピンときた元刑事は執拗に追い回す。
雨の深夜。消えた女性の携帯の発信先が、その事故現場に近かったことから、野良犬の臭覚は逃がさない。
いくら警察に突き出しても証拠不十分で釈放される男を、彼は絶対に逃がさないのだ。
韓国で実際に起こった連続猟奇殺人事件にテーマを得たこの作品は、あの黒澤明の『野良犬』のように、犯人を追いつめて行く。
泥酔したような夜の街を、容赦のないマンハントで描いたこの新作は、名作『殺人の追憶』に共通する風土と体質を感じるが、こちらは非常にハードなアクションを主体にした強靭な映像処理で圧倒していく。
『ノー カントリー』のように、犯罪者の罪の意識のなさこそが、悪魔的な最近の難事件の本質なのだろう。
そして何よりも、このハ・ジョンウの病的な嘲笑の視線こそが、猟奇犯罪の本質なのだ。
警察の怠慢さを覗かせながらも、とにかくハードボイルドに攻めまくった監督の初仕事に拍手だ。
まったく他の雑念や考えを無視して直進する映画的な快感は、今年のベストの一本に間違いない。

●5月1日より、シネマスクエアとうきゅう他でロードショー

●『ある公爵夫人の生涯』はダイアナ妃悲劇の前兆なのか。

2009年03月12日 | Weblog
●3月11日(水)13-00 神谷町<パラマウント映画試写室>
M-027 『ある公爵夫人の生涯』The Duchess (2008) paramount vantage BBC 英
監督/ソウル・ディブ 主演/キーラ・ナイトリー ★★★☆
18世紀のイギリス。
あのダイアナ妃の先祖にあたるジョージアナ公爵夫人の結婚の悲劇は、良く似た転落の構図だった。
それを映画化する商魂は理解できるが、史実に忠実なあまり、映画としてのエンターテイメントとしては精彩がない。ごくありがちな不倫ドラマであり、それが夫の監視下である設定も面白くならない。
まさに飼いならされた皇室の不条理が、こちらを苛つかせる。
キーラはともかく、亭主のレイフ・ファインズが最悪の野郎なので、それならばサッサと別れればいい。
それが出来なくて、世継ぎの王子まで生まされた運命は、エミリー・ブロンテだったら、もっと泣けるストーリーにしただろう。
それが歴史の残酷な冷たさなのだろう。女性向けの同情勘気不倫メロドラマである。

●4月、Bunkamura ル・シネマでロードショー

●『重力ピエロ』DNAなんてクソ食らえだ。

2009年03月07日 | Weblog
●3月6日(金)13-00 六本木<アスミックエース試写室>
M-026 『重力ピエロ』(2009) ROBOT 日
監督/森 淳一 主演/加瀬 亮 ★★★☆☆
顔も性格もまるで違う弟は、自分の遺伝子を調べるうちに、数年前に死んだ母親の死因と、自分の生誕の秘密を知ってしまう。
家族の秘密はありがちだが、伊坂幸太郎の原作は、その真実よりも、現実の家族の絆を説いている。
仙台の周辺に頻発した連続放火事件と、過去に起こった連続レイプ事件の関連を探って行くうちに、奇妙な相似点の出て来ると言う、このアプローチは面白い。
ミステリアスな過去よりも、現実の幸福を見つけようとする映画の意図は共感が出来るが、どうも事件そのものを葬ろうとする展開には、疑問が残った。これもファンタジーなのだ。
いかにもありがちな現代のホームドラマとして見ている分には、とても面白いのだが・・・。

●5月23日より、シネカノン有楽町一丁目でロードショウ

●『レッドクリフ/part 2』あの伝書鳩の飛んだ行方。

2009年03月06日 | Weblog
●3月5日(木)13-00 半蔵門<東宝東和試写室>
M-025 『レッドクリフ/part 2』Red Cliff 2 (2009) 中国
監督/ジョン・ウー 主演/トニー・レオン ★★★☆☆
謎の伝書鳩はどこへ飛んだのか。
パート1では人間関係が複雑で、敵味方すらよく判断できなかった中国戦国史。
その赤壁での決戦が、やっとトーナメント戦の勝ち抜き決勝戦のように、雌雄を決する時が迫った。
兵力では圧倒的に劣勢なトニー・レオンの孫権軍は、友軍の協力とアドバイスで、開戦のタイミングを天候の代わる早朝にした。
金城武の天気予報に賭けて、風を味方につけて、敵の火力兵器を逆利用するという奇策は成功。
壮絶な戦いが一気に加速する。
ジョン・ウー監督の私財まで投じたと言う人海戦術は圧倒的で、このアクション・シーンは壮観だ。
さすがに夫婦愛や、若い初恋や、戦士の友情も味付けして、一級の歴史絵巻は燃え上がる。
ぜひ、大きなスクリーンで「三国志」の決戦を体感してほしい。

●4月10日より、日劇などでロードショー。

●『人生に乾杯!』ハンガリーの後期高齢者夫婦銀行強盗讃歌。

2009年03月04日 | Weblog
●3月3日(火)15-00 DVD自宅鑑賞
M-024 『人生に乾杯!』Konyec (2007) ハンガリー
監督/ガーボル・ロホニ 主演/エミル・ケレシュ ★★★☆☆
81歳と70歳の高齢夫婦は、年金生活もままならず、財産の差し押さえ勧告を受けた。
戦時中ドイツ軍から巻き上げたポンコツ軍用車とポカレフを使い、老人は銀行強盗を決行して、愛する老妻と共に逃走し犯行を重ねる。
警察も躍起となって追うのだが、市民たちの同情の援助もあって、なかなか捕まらない。
ボニー・アンド・クライドの老人版であるが、決してシリアスにならずに、人情味があって、ほのぼのとしたコメディ・タッチがいい。彼等はまだ海を見たこともないのだ。
ま、ポール・ニューマンの晩年作品『ゲット・ア・チャンス』(00)にも通じるシニアの発奮映画であり、これもまたひとつの後期高齢者のファンタジーだと思って見ていれば憎めない作品だが・・・。

●5月、シネスイッチ銀座などでロードショー