細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●すみまろさん、バンビと再会する。

2010年03月28日 | Weblog
●3月28日(日)
柳生すみまろさん、おつかれさまでした。

映画音楽の歴史を語らせたら日本一の柳生さんが、つい先日亡くなった。
わたしがまだサラリーマンだった時代に「映画音楽」という立派な本を買い、好きだった映画の音楽について豊富に語られた内容に驚嘆した。
たしか10年ほど前に、友人に紹介されて、柳生純麿さんが何とわたしよりもお若いのにも驚いた。
お名前の風格からして、絶対にわたしよりは高齢だと思っていたので恐縮したものだ。
それからは、よく試写室でお会いしていろいろな話をしたもので、とくにディミトリ・ティオムキンやビクター・ヤング、ミクロス・ローザなどに関しては意見が一致して話に夢中になったものだ。
必ず頂く年賀状には、いつも聞いている音楽のコメントがあった。
去年の秋に、テアトル試写室で会った際に、血液検査で異常が見つかり「まいったよ」と話していたが、つい2月23日に東和の試写室で「ウルフマン」の試写を一緒に見たばかりだった。お元気だった。
「最近はサッチモにはまっているよ」と言うので、「ああ、ワンダフル・ワールドだな」と答えると笑っていた。そして「じゃーね」と別れたのが最後だった。
ディズニーの映画がとてもお好きで、いつも笑顔で話していた表情。
日本映画ペンクラブの50周年記念本に『バンビ』を生涯ベストに挙げられていた。心から、早すぎた逝去のご冥福をお祈りしたい。



●『アウトレイジ』は飽くなき男たちの「仁義なき戦い」平成版

2010年03月27日 | Weblog
●3月26日(金)13-00 内幸町<ワーナー ブラザース試写室>
M-040 『アウトレイジ』Outrage (2010) オフィス北野
監督/北野 武 主演/ビート たけし ★★★☆
パリでも勲章を貰った北野新作だ。アウトレイジというから、国際的犯罪映画かと思ったら、要するに昔ながらの「極道」もの。
東映の「仁義なき戦い」の2010年版と言った方が判りやすい。
神戸を拠点にした、やくざ同士の縄張り争いを、地方警察も傍観している。その旧来の図式で次々とトーナメント形式のように連続して、下っ端からばったばったと殺されて行く。
特に女性や家族関係もなく、ただただ男たちの殺し合いが続くのだから、これは表面下の都市戦争だ。
相変わらずの強面のやくざ衆が、やたら毒づいては凄みを効かせて、連鎖的に殺されて行く。
これも、従来の北野流のアウトロー映画。しかし『HANA-BI』のようなドラマ性はない。
昔ながらの単純やくざ連中の中で、ひとり加瀬亮だけはバイリンガルで異才ぶりを楽しんでいた。
せめて、このレベルの新しいやくざキャラが見たかったのだが・・・・・。

■勢いのいいライナーがレフトに飛んだが、野手の正面でアウトレイジ。
●6月12日より、全国ロードショー

●『グリーン・ゾーン』に描かれた米軍のイエロー・ゾーン。

2010年03月25日 | Weblog
●3月24日(水)半蔵門<東宝東和試写室>
M-039 『グリーン・ゾーン』Green Zone (2010) universal 米
監督/ポール・グリーングラス 主演/マット・デイモン ★★★☆☆
2003年。初期のイラク戦争へのアメリカ軍介入は、大量の秘密兵器や爆薬などの撤収が主たる攻撃目的だったが、国防省やCIAによる秘密拠点マップには、ついに見つからなかった。
その失態の原因となった作戦は、いったい誰が発令したのか。
マット・デイモンの秘密部隊は、軍部の指令の場所に攻めるが、その命がけの攻撃は無為を繰り返すのみ。
作戦のミスを感じた彼は、指令本部やCIAの担当者に詰め寄るがラチがあかない。これは明らかに陰謀だ。
まるであのジェイソン・ボーン・シリーズの戦場版のように謎が多いのだ。
つまり戦争映画というよりも、スパイ・アクションとして見た方が非常に面白い。
とくにイラクの将軍の所在を突き止めて、直接に大量破壊兵器の存在を詰問するまでと、そのあとの追撃シーンは迫力があり、意外な結末もスパイ映画のように、大きな謎に包まれる。
これもまた「ハート・ロッカー」とは別の視点の、イラク戦争の迷宮だ。
久しぶりに登場したグレッグ・キニアのグリーン・ゾーン<安全地帯>で暗躍する、FBI連絡員の慇懃な含み笑いが、アメリカ国防省の腹黒い存在を意図していたようで、背筋が寒くなった。
あの『ブリット』のような隠し味のある男と男の視線の違いが、映画を二重に分厚くしていた。

■豪快なライナー性の当たりがフェンス直撃のツーべースヒット。
●5月14日より、日比谷スカラ座などでロードショー

●『ボーダー』は法と友情の境界線のことなのか?

2010年03月24日 | Weblog
●3月23日(火)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-038 『ボーダー』righteous kill (2007) millennium 米
監督/ジョン・アヴネット 主演/ロバート・デ ニーロ ★★★☆☆
何しろデニーロとアル・パチーノが、がちんこ対決というので、撮影中から期待していた。
しかし対決といっても、敵味方の『ヒート』のような華麗なシチュエーションではなく、ここではニューヨーク市警の同僚だ。もう30年も同じ釜のメシを食って来た親友刑事同士。
よくあるバディ・ムービーなのだが、どうも何か距離感がある。
まったく彼らの家庭環境や過去に関しても描かれていないので、謎めいたふたりの関係が苛ついた。
麻薬密売からみで闇のディーラーなどが殺され、その際の囮捜査と強引な逮捕に、異常な刑事の暴力行為があったとして、デニーロは内部審査をされていた。これもよくあるインファーナル・アフェアーであって、「トレーニング・デイ」などでもテーマになったが、親友の嫌疑をパチーノは庇う。
そう、彼らもダーティ・ハリーの仲間なのだ。
タイトルは「正当殺人」。邦題『ボーダー』の意味は不明だ。
結局はわが「昭和残侠伝」のように、兄弟分で麻薬組織を壊滅すべく乗り込むが、真相は別の展開となる。
シナリオは面白い。しかし演出がテレビドラマ風に軽量単調なために、強豪二人の名優の演技も空回り。
はじめからB級のスタンスで、A級の俳優を揃えたという違和感が残ったのが惜しい。
それでもかなり老けはしたが、ハリウッド重鎮の揃いぶみを見ている快感だけは嬉しかった。

■ベテランの渋い当たりがライト線でファールラインを転々として二塁打。
●4月下旬、銀座シネパトスでロードショー

●『春との旅』はホロ苦い自分の人生への決別の旅路。

2010年03月19日 | Weblog
●3月18日(木)13-00 銀座<東映本社試写室>
M-037『春との旅』(2010)アスミックエース/東映
監督/小林政広 主演/仲代達矢 ★★★☆☆☆
娘は離婚して自殺。北海道の寒村に住む老漁師は病気を患い歩くのも不自由だ。たったひとりの同居者の孫娘は職を失った。
娘は上京して働くといい、ひとり残される老人は娘と、頼りになる親族を尋ねて旅に出る。
70年代アメリカン・ニュー・シネマの名作『ハリーとトント』や『泳ぐひと』と似たような設定で、まるでテレビの「田舎に泊まろう」のように、旅先で訪れた親族からは、ことごとく門前払いを喰らう。
これはこのご時世だから、当然のことなのだが、こうした試練を通じて世間の厳しさとささやかな温情も伺える。しかし結局は自分たちで生きて行くしかない。
多少認知症気味の頑固な爺を演じる仲代は、オーバー気味の演技だが、これもかすかな自己主張の現れで、次第に見ている方も慣れてくる。この無鉄砲な老人を支える孫の徳永えりが健気でいい。
青春の夢も捨てて、この爺を支えようとする気概が感動に繋がった。
老齢化社会で、こうした枯れ行く人生に放浪している孤独な老人のケースは、よくテレビで報道されるが、その悲惨さは敢えて強調しないで、まるで小津映画のように淡々と見せて行く監督の思慮は素晴らしかった。独特のカメラの長まわしも、この老人と娘の呼吸に合っていた。
家族に老齢のひとを世話している方々にはぜひ見て欲しい良心作品だ。

■渋いながらもセンターオーバーのヒットで悠々の二塁打。
●5月22日より新宿バルト9などでロードショー

●『ザ・エッグ/ロマノフの秘宝を狙え』完璧な犯行もまた破綻する。

2010年03月18日 | Weblog
●3月17日(水)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-036 『ザ・エッグ/ロマノフの秘宝を狙え』The Code (2008) equity 米
監督/ミミ・レダー 主演/モーガン・フリーマン ★★★
ニューヨークのロマノフ宝石店の地下倉庫に保管されている「ザ・エッグ」と呼ばれる財宝を、ロシアン・マフィアの依頼で、泥棒成金の窃盗常習犯モーガンが、アントニオ・バンデラスを助手にして奪う。
犯行はスタイリッシュで入念。これだけの準備をして決行するスキルと度胸と予算があれば何でもできるだろう。近代的な破壊機器をどこで用意したのかは、聞くだけヤボ。
しかし『トプカピ』や『男の争い』を劇中で例にあげて語るように、思いがけない破綻は起こる。
そのトリックは単純な人為ミスなのだが、ここではルール違反になるので語れない。
久しぶりの女性監督ミミは相変わらず健在で、この男達の闇のゲームを手際よく見せて行く。
しかし「オーシャンズ11」などの窃盗アクションのような軽妙なユーモアはなく、事件の人間関係が意外に複雑なので、終わってみれば達成感がない。
やはり泥棒映画というのは、着地がシャレてなくては・・・。

■せっかくのヒットも一塁をオーバーランしてタッチアウト。
●5月15日より、銀座シネパトスでロードショー

●『RAILWAYS/レイルウェイズ』の温厚で勇気ある第二の人生のすすめ。

2010年03月16日 | Weblog
●3月15日(月)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-035 『RAILWAYS・レイルウェイズ』2010 松竹/robot
監督/錦織良成 主演/中井貴一 ★★★☆☆
老母の看病のために、東京の一流企業の幹部エリートだった中井は退職して、故郷の島根に帰る。
彼には少年時代に憧れた、一畑電車の運転手になる夢があった。
49歳。ついに彼は人生の夢を実現するために、運転のための入社試験に挑戦する。
リストラや再就職、第二の人生の夢に関しては、テレビの番組でも実体験番組が多い。
監督が書き上げた脚本は、とくにドラマティックな美談ではなく、ごく自然なスローライフのすすめとして派手なサプライズもないが、好感は持てる。レールも長ーーーーい二本のラインで出来ているのだ。
マニアックな鉄道溺愛映画でもなく、ただ彼は入院している母のそばにいてやりたかったのだ。そして少年のときの夢を実現することが、一番の親孝行なのだ、と自覚している。
東京にいる妻とも大げさな諍いもなく、娘にも反論しない。ひたすら郷里の電車に奉仕して地域住民と笑いを分ける。50にして、また少年時代に戻ろうとする。
「鉄道員」のようなファンタジーはないが、このつつましい人生観は誰でも共有できるが実際にはなかなか実現はできない。
その勇気を、映画は静かに諭そうとしていた。

■ゴロでセカンドベース上を抜けた爽やかなシングルヒット。
●5月29日より、松竹系ロードショー

●『コロンブス/永遠の海』つつましくも勇気ある郷愁の旅路。

2010年03月14日 | Weblog
●3月12日(金)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-034『コロンブス/永遠の海』cristovao colombo o enigma (2007) ポルトガル
監督/マノエロ・ド・オリヴェイラ 主演/リカルド・トレバ ★★★☆☆
新大陸発見のコロンブスが、没後500年で、実はポルトガル人だったという新説が出た。
その真相を探る為に、監督自身が夫婦でアメリカまで旅をするロードムービーだが、その旅路の随所に彼らが若かった時代の追想を交えた一種の、こころの旅路。
淡々とした、その行程は、まるで教養番組のように、丁寧な史実を探求していくセミ・ドキュメンタリーのようだ。とくに、広々とした大海を静かに眺める視界が気持ちいい。
そして驚くべきは、旅をする老夫婦が、実際に102歳という監督自身であること。
これが、映画の資質を物語っているようで恐縮してしまう。そして若い時代の夫婦を彼らの実の孫夫妻が演じているという辺りも、この作品のファミリー映画を超越した凄みを感じる。
残念なのは、コロンブスがどこの生まれの人間でも、この郷愁の旅の本質には、さして関係がないようで、見るべきは、この老夫婦の人間的な幸福へのアグレッシブな努力の素晴らしさに脱帽する。
この真実の方が、感動的だった。

■よくボールを見極めて粘った末のフォアボール。
●5月1日より、岩波ホールでロードショー

●『月に囚われた男』の魅力的なクローン人間との対話。

2010年03月13日 | Weblog
●3月11日(木)13-00 神谷町<ソニーピクチャーズ試写室>
M-033 『月に囚われた男』Moon (2009) liberty films U.K.
監督/ダンカン・ジョーンズ 主演/サム・ロックウェル ★★★☆☆☆
遠い未来。月の裏側のステーションで、ヘリウム3の採掘と搬送作業を、3年間も単身赴任している宇宙飛行士サムは、あと2週間後の地球帰還を前にして、突然、自分のクローン人間が作業を手伝っていることに気がつく。
なぜ自分にそっくりな男が無人のステーションにいるのだろうか。
『2001年宇宙の旅』のように、すべての会話に対応している人工知能ロボットが、緻密な任務の手助けをしてくれているのに、謎のクローンについては語らない。
一種のサイコロジカル・ミステリーだが、全編サムのひとり芝居なのに、彼のクローンは違った人格をして競演しているのが、この密室ドラマを後半になって面白くしている。
あのデヴィッド・ボウイの息子が監督している不思議な作品だが、知的で入念なサイエンス・フィクションになっているのは、さすがのDNAだ。
ロシア映画『惑星ソラリス』のような知的広がりを見せる異色作だが、見逃すには惜しい傑作。

■高く上がったセンターフライだが、太陽に球が入りポトリと野手の後方に落ちてヒット。
●4月、恵比寿ガーデンシネマでロードショー

●『クレイジー・ハート』の懐かしくも穏やかな温かい人情風景。

2010年03月12日 | Weblog
●3月11日(木)10-00 六本木<FOX試写室>
M-032 『クレイジー・ハート』Crazy Heart (2009) fox-searchlight
監督/スコット・クーパー 主演/ジェフ・ブリッジス ★★★★
今年のアカデミー主演男優賞を授賞したジェフが、この映画で演じるのは初老のカントリー歌手。
ピークはとっくに過ぎて、女房と子供にも逃げられて、孤独な巡業の日々。
ボーリング場の片隅で歌うのにもアルコールがなくてはやってられない。
タバコと酒で体もメロメロ。医者からも見放されている。
まえにクリント・イーストウッドが『センチメンタル・アドヴェンチャー』で、まったく同じような役を演じたが、ジェフの方が破天荒な素顔にもリアリティがある。
どうせ最後は荒野でのたれ死に、と思って見ていたが、この映画はすべてが善意で出来ていて、新人歌手のコリン・ファーレルは先輩をサポートするし、インタビュアーのマギー・ギレンホールもやさしく禁酒を促す。この温かい映画のタッチは、実に懐かしい。
当たり前のような日常的な隣人たちの人情と善意が、最後まで温かく作品を支えていて、堕落しきった男を甦らせる。ちょいと甘すぎるが、・・・ま。いいではないか。
たしかにジェフの歌も、トレーニングの成果でカラオケのレベルは越えているが、それよりも、人生を本気でリセットしようとする行為を、丁寧に描いたスタンスには、初老男性として感動した。
ロバート・デュバルが「テンダー・マーシー」をここで再生しようとプロデュースした勇気と覇気にも拍手したい。グッド・オールド・アメリカンウェスターンである。

■ぼてぼての当たりだが、野手の間を抜けて、ライトの返球が三塁に流れてセカンドセーフ。
●6月、TOHOシネマズ シャンテほかでロードショー