細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『LUCY/ルーシー』偶然の運び屋がスーパーガールに変身だ!!

2014年07月30日 | Weblog

7月25日(金)13-00 半蔵門<東宝東和試写室>

M-080『LUCY / ルーシー』 (2014) Universal International / Europa corp 

監督・リュック・ベッソン 主演・スカーレット・ヨハンソン <90分> 配給・東宝東和 ★★☆☆☆

「ルーシー」といえば、我々世代はビートルズの唄ったヤク中「ルーシー・イン・ザ・スカイ・・・」を連想したが、ここでは関係ない。

DNAも含めて人間の知的能力は、まだ未開な部分があって、特殊な新薬によっては、パソコンの機能以上の知性を内蔵クリアする、という発想。

一方では、アインシュタインやダーウィンは天才であって、一般的には能力には平均的な水準と限界があり、突出したひとは、別の常識が失われるという。

つい先日見た「トランセンデンス」は、その個人の知的能力とDNAは保存されて、肉体は死んでも知性は最新PCで保持されて、再現可能なのだという。

しかし現実には、高齢者のみならず、若年アルツハイマー患者も増加していて、人間の知的能力は衰退しつつある、という仮説もある。

ま、たしかに昔はスマホも無かったし、われわれのアタマも二次元だったのが、いまではこうして、勝手に思ったことを即日ブログに書いている具合だ。

これは、たしかに50年前には考えられなかったことで、現実的に知覚的な進化かも知れないが、一方では忘れ去ることの多いのも事実だろう。という持論だから、この作品は参る。

つまり、ヒロインの運び屋スカーレットは、ある薬剤を体内に集中注入されたために、通常の人間の数十倍の知性と肉体的な強靭さが再生可能になるのだ、というのだ。

この発想はコミックの世界では通用するだろうし、そうした<アリエネー>アイデアも最新のCG処理で、多くのSF映画では毎度のように見せつけられてきたので、多少の事では驚かない。

なぜか台湾タイペイのアンダーグラウンド組織が、その知的覚醒剤を大量に国外に輸出するために、数人の運び屋の体内に埋め込み計画を実行しようとして、偶然スカーレットも犠牲になった。

当然、その驚異的な能力が体内で増殖されたために、彼女はまるで忍者のようになって逆ギレして、組織の壊滅のために逆襲する、という呆れた展開となる。

最近「マラヴィータ」で、味のあるアクション作品を手がけたベッソンの新作なので、もしかして「ニキータ」の復活かと期待したのが甘かった。

人間性までも驚異の知的肉体的進化でリッチになるのならいいが、ただ暴力的な行動のみが突出するのだから、科学者のモーガン・フリーマン演じる教授も苦笑する筈だ。

あああ、同じ薬物運び屋でも「ジャッキー・ブラウン」の方が魅力があったなーー、と嘆くこの暑さ。

 

■飛距離はあるが、ただ高すぎたレフトフライ。

●8月29日より、TOHOシネマ日本橋などでロードショー 


●『ミリオンダラー・アーム』未開のインドで豪腕投手を探す苦労秘話。

2014年07月28日 | Weblog

7月23日(水)13-00 目黒<ウォルト・ディズニー映画試写室>

M-079『ミリオンダラー・アーム』" Million Dollar Arm" (2014) walt disney production / a roth films / mayhem pictures

監督・クレイグ・ギレスピー 主演・ジョン・ハム <124分> 配給・ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン ★★★

メジャー・リーグの舞台に、初めて未開拓のインド人選手をスカウトするまでのエージェントの苦労実話であって、残念ながら<野球映画>ではなかった。

これまでも、昨年の『42』のように、初めてのメジャー・リーグの黒人選手起用の話や、老クリント・イーストウッドが新人スカウトをする傑作があった。

つい最近でも、ブラッド・ピットが、そのフリー・エージェントを演じた「マネー・ゲーム」も、実戦シーンも挿入して非常に迫力もあって、面白かった。

だから、ついついメジャー・リーグ・ファンの当方としては、実戦シーンも見られるかと期待をして、大いに気合いを入れて見たので、アレレ・・・の内容だった。

要するに、アメリカでは各球団のスカウトに売り込むためのフリー・エージェントがあって、これは倒産危機の個人事務所を救うために、ジョンは奇策を思いつく、という話。

それは新人選手発掘としては未開拓のインドで、イギリス開拓時代に流行したクリケットの選手の中で、ベースボールの投手として通用する豪腕を見抜くというアイデアだ。

で、映画はインド映画で沸騰しているムンバイのロケーションでエキゾチックな気分は盛り上がる。地区の駐車場などでスピード・ガンで候補者のピッチング速度を測定する。

つい最近も韓国映画で、ゴリラを投手に起用して成功するという、「ミスターGO』のような、おかしなアイデアの作品もあったが、こちらの話はマジ実話なのだという。

いろいろと、ロサンゼルスに二人の未経験投手をつれてきて、まさにダイヤモンドの原石を磨くような苦労の日々が描かれて行くという、サクセス苦労談義。

きっと、でもラストではピッツバーグ・パイレーツに入団して、グラウンドでの投球シーンが見られるだろうと期待したのだが、あとは実際のスクラップ写真のみ。

オールドファンとしては、ルー・ゲーリックの実話をクーパーが演じた名作「打撃王」のワンシーンが見られたのが嬉しかったが、ファン・サービスはそれだけだった。 

 

■かなり高く打ち上げたフライだったが、風に押し戻されてセカンドフライ。

●10月4日より、日比谷みゆき座などでロードショー 


●『シャトーブリアンからの手紙』70年ぶりの遅配の真実。

2014年07月25日 | Weblog

7月22日(火)13-00 六本木<シネマートB3試写室>

M-078『シャトーブリアンからの手紙』La Mer A L'aube (2012) arte france / CNC / TV% Monde 仏・独

監督・フォルカー・シュレンドルフ 主演・レオ=ポール・サルマン <91分> 配給・ムヴィオラ ★★★☆☆

なゼか、このところ、またしてもあの第二次世界大戦におけるナチスの蛮行を訴える作品が多く制作されているが、これもそれだ。

ただし、「ブリキの太鼓」や「ボイジャー」の名匠シュレンドルフの13年ぶりの本邦公開新作となると、ちょいと興味をそそられる。

しかもテーマが、あのフリッツ・ラングの傑作レジスタンス・サスペンス『死刑執行人もまた死す』の原点がベースとなっているとなると、無視するわけにはいかない。

ラングの作品では、チェコで起こったゲシュタポ高官暗殺に対しての、ナチスの無謀な報復がテーマになっていたが、こちらは歴史的事実を考証にしたフランスが舞台。

フランス西海岸ナントに近い占領下のシャトーブリアンで、若いパルチザンの地下グループが、ある日、散策中のナチスの高官を拳銃で暗殺した。

ヒットラーはその報復として、犯人グループが出頭しないかぎり、フランス人の男性捕虜150人を射殺する、と命じたので、ランダムに善良な人質が選び出された。

映画は、もちろんラング作品のサスペンスの色合いはなく、その無謀な人選で銃殺されることになった男性たちの、それぞれの家族や青春の悲劇を見つめて行く。

ひどいのは明日釈放される予定の若い夫婦までが、その処刑の対象になってしまう、という事実。これはただの不運ではなく、あきらかに無謀な殺害なのだ。

という戦争の狂気と矛盾を、名匠シュレンドルフはドキュメンタルなタッチで淡々と描くが、「これが戦争というものさ、君」と問いかける真摯な疑問が痛く響く。

たしかに、ラングの古典名作でも、ウォルター・ブレナンの平和主義の科学者が、真犯人をかくまった理由で死刑になってしまったが、こちらは娯楽サスペンスではない。

それだけに、70年も昔のことも、正確に語り継ぐ必要がある、という映画作家の熱意は充分に伝わる誠実な作品だった。

 

■右中間をしぶとく抜けるゴロのヒットのツーベース。

●10月より、渋谷シアター・イメージフォーラムでロードショー 


●『荒野の千鳥足』で70年代の酔っぱらいにおつきあい。

2014年07月23日 | Weblog

7月18日(金)13-00 六本木<シネマートB2試写室>

M-077『荒野の千鳥足』" Wake in Fright " (1971) Australia Film Committie / Wake in Fright Trust オーストラリア

監督・テッド・コッチェフ 主演・ドナルド・プレザンス <109分> 提供・ビーズ・インターナショナル ★★★☆

なぜか、40年も前の作品が発掘されて、初の日本公開である。名作でもヒット作でもなく、要するに<ゲテもの>なのだが、不思議な映画だ。

当初、カンヌの国際映画祭でも上映されたが、その後、フィルムが紛失。なぜか最近になって、どこかの倉庫で見つかり、修復されて、再度カンヌ出品。

というのも、あのマーティン・スコセッシがなぜか気に入っているらしく、いろいろと裏で評判の<闇の>トラッシュ・ムービーらしいのだ。

でも見たところ、あの70年代にはよくあるタイプの映画であって、別に驚くようなことはない。ちょうどジョン・ヒューストンの末期のクレイジーさがある。

しかし、グラウベル・ローシャ監督の「アントニオ・ダス・モルテス」のパワーに比べたら、まあ、どうってことのない70年代らしい酔っぱらい映画。

あのクリント・イーストウッドの監督デヴューの「恐怖のメロディ」ほどの異常さもなく、地元名産「マッド・マックス」ほどの衝撃もない。一種のご当地映画なのだ。

オーストラリアの一面荒野に、ひとつの駅。まるで秀作「日本人の勲章」のような冒頭。南半球クリスマス休暇になった若い教師が、シドニーを目指して一両だけの汽車に乗る。

<ヤパ>という、途中駅で乗り換えの時間に、一軒の寂れた酒屋に入ったら、大勢の呑ん平たちからビールを飲まされた。なにしろ水よりもビールが安い土地柄らしく、酔っぱらい天国。

そこでかなり呑まされてから、裏の倉庫でやっているコイン投げの賭博に誘われて、ついつい酔客たちの狂気の賭け事にのってしまった。そして結局は全財産を失くして荒野の千鳥足となる。

よくある転落パターンの末には、酔客たちの誘いで、夜中のカンガルー狩りに同行してしまった。そして泥酔した男たちは狂気の殺戮に熱狂していくのだ。

テーマとしては「ファイト・クラブ」の構図に似ているが、これが70年代のオーストラリアの広原だというところが、懐かしくもあり、奇異な風景。まさに二日酔いの後味に似て、虚しい悪夢の珍品。  

新宿のレイトショーのみなので、しっかりとビールを呑んで、酩酊してから見た方が、面白いかもしれないが・・・・。

 

ショートの股間をぬけたゴロのヒットだが、セカンドを狙ってタッチアウト。

9月27日から、新宿シネマカリテでレイトショー。 


●『わたしは生きていける』近未来戦争下での、少女の孤軍奮闘。

2014年07月20日 | Weblog

7月15日(火)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-076『わたしは生きていける』" How I Live Now " (2013) Film4 and BFI / protagonist pictures / entertainment one / UK

監督・ケヴィン・マクドナルド 主演・シアーシャ・ローナン <101分> 配給・ブロードメディア・スタジオ ★★☆☆

またしても近未来戦争によって、ロンドン市街が核爆発で壊滅状態となり、都心からは数十キロくらい離れている田園地帯に疎開してきた16歳の少女。

もともとはニューヨークに住んでいたが、アメリカ本土も戦争の危機で、単身で叔母の住むという、このブラッケンデールというド田舎に引き取られた。

生まれたときに母を失い、もともと父親とは不仲だったものだから、彼女は天涯孤独で勝ち気な性分。だからまたこの村の家庭でも勝ち気な一匹のメス狼なのだ。 

テーマとしては、一応、近未来の戦争下ではあるが、このカントリーな政治には見放された孤立状態は、あのナチス侵攻下のポーランドなどに似ている。

戦争といっても反政府のテロリスト集団が、首都を制覇して、この遥かなる田園地帯にまで進攻してくる意味は、ありがちだが背景が鮮明でない状況で、よくワカラナイ。

だから、よくあるゾンビ映画の、遠隔恐怖感がシアーシャの周囲に少しずつ迫ってくるサスペンスと、その緊迫状態で、彼女がどう生き抜くのかというサバイバル映画なのか。

仲のよくない叔母の家族たちとも、とにかくテロリストの残党たちがやってくる状況は、クーパーの名作「友情ある説得」に似ていなくもない、が、レベルは比較不能だ。

というのも、これは別に近未来の戦争映画でなくとも、単身で生きて行こうとする少女の勇気を描くのならば、わざわざ核戦争を背景にする必要もないほど、リアリティは不詳。

あとは、主演女優の魅力次第なのだが、どうも我が輩の趣味には遠いので、いつまでも作品のペースに乗り切れないのが辛かった。

おそらく監督は過去にも多くの戦争関連映画を作ってきているので、ここでもひとりの少女の戦渦の生き様を描いてみたかったのだろう。ご苦労様である。

 

■フルカウントから強引に外角のボー球をひっかけて、ショートゴロ。

●8月30日より、有楽町スバル座などでロードショー 


●『ファーナス/訣別の朝』充実した演技陣による現代ウェスターン秀作。

2014年07月18日 | Weblog

7月15日(火)10-00 京橋<テアトル試写室>

M-075『ファーナス/訣別の朝』"Out of Furnace" (2013) red granite pictures / relativity media / scott free

監督・スコット・クーパー 制作・レオナルド・ディカプリオ 主演・クリスチャン・ベイル <116分> 配給・ポニー・キャニオン ★★★☆☆☆

あの名作「ディア・ハンター」を思い出すような、70年代風の力作で、古風だが、映画的なパワーに満ちた男性映画の傑作だ。

おそらくはプロデューサーのレオが出演したかったであろう、非常にハードなストーリーで、タフなハードボイルドタッチは、この最近の出色なことは確かだ。

陰鬱な雲に覆われたペンシルヴァニア州のブラドックの製鉄工場。オヤジの代からこの鉱山の工場で働くクリスチャンは、実直で寡黙な労働者で病床の父親の介護もしている。

しかしイラク戦争から4回目の帰還した弟のケイシー・アフレックは、戦地での疲れで感情的な起伏が激しくて、善良だが、工場での労働を嫌って賭け事や喧嘩の日々だ。

そんな弟の後始末もしていた兄のクリスチャンだったが、ウィレム・デフォーの斡旋で、地元の犯罪組織の賭博にテを出してしまい、その代償のデスマッチで消されてしまった。

警察もお手上げになるような山岳奥地の組織のアジトには、警察の捜査官のフォレスト・ウィティカーも近づけず、弟の消息も闇に葬られる始末に、ついに兄はキレた。

まさに、西部劇の常套テーマになったような、男性活劇の定番だが、そこはアカデミー賞の受賞者たちがワキを固めているキャスティングだけに、娯楽アクションのような激情はない。

いとこのサム・シェパードが、いつものように冷静にクリスチャンのカバーをして、悪党のボスである憎らしいハゲのウディ・ハレルソンを奥地の廃墟に追いつめて行く。

ま、ジョン・ウェインならば、一発で勝負してしまうようなクライマックスは、その激情を押さえてジワジワと、悪党を追いつめて行くシーンは、非常にパワーがある。

やっと、その場に駆けつけて来たシェリフの前で、クリスチャンは怒りのラスト・ショットを撃つシーンが、非常に距離感のある演出で見事に正義の遂行を見届けるのだ。

素晴らしい作品で、久しぶりにアメリカ映画の本来のパワーに感動したが、その作品の装丁は、かなり古風な印象なのが、ちょっとカビ臭いのが惜しまれた。

 

■完璧なレフトフェンスへの痛打だが、惜しいところで直撃のスリーベース

●9月27日より、新宿ピカデリーなどでロードショー 


●『友よ、さらばと言おう』懲りない男たちの弔いアクション。

2014年07月16日 | Weblog

7月14日(月)13-00 月島<ブロードメディア試写室>

M-074『友よ、さらばと言おう』Mea Culpa (2014) gaumont / 20th century fox international 仏

監督・フレッド・カヴァイエ 主演・ヴァンサン・ランドン <90分> 配給・ブロードメディア・スタジオ ★★★

お盆だし、同級生の友人がつい先日亡くなったし、どうも、この邦題は気になってしょうがない。そこで遠路はるばる、月島の試写室に出かけた。

もちろん、このタイトルは邦題で、こっちで勝手につけたタイトルだが、ちょいとフレンチ・ノワールの香りがして、ソソるではないか。という気分。

原題は「つぐない」の意味なそうだ。これまでは、不運に遭遇した夫婦や、ギャングに狙われる恋人がテーマだったカヴァイエ監督が、ここでは朋友の友情を描く。という。

さて、アラン・ドロンの「さらば友よ」の再現ものか、と思って見ていたら、イメージは全然違うので面食らってしまった。たしかに<バディ・ムービー>だが、ノワールじゃない。

永年の間、南フランスのトゥーロンで、刑事として同僚としてチームを組んでいたヴァンサンは、飲み会の帰りに車で事故ってしまい、3人もの犠牲者を出して6年服役した。

当然、サツは首になり、妻とも離婚。いまでは警備員として自堕落な生活をしていたが、ひとり息子とだけは友情を切れずにいたが、その幼い9歳の息子がトラブルに巻き込まれた。

偶然に殺人事件を目撃してしまったが、その犯人グループは、ロシアン・マフィアの麻薬密売組織だったものだから、さあ大変。ヒットマンが息子の命を狙って執拗に迫ってくるのだ。

そんなものだから、映画はまるでリュック・ベッソンの追跡アクションと同様の、非常にハイテンポなフレンチ・バイオレンスとなるのだ。ああー、・・・また、これか。である。

おまけに見せ場は、あのジョニー・デップが「ツーリスト」で乗っていた、走るTGVの中での鬼ごっことなるのだ。それもなぜか列車を止めての、車外銃撃戦となってしまった。

天下の超高速TGV列車を、途中停車をさせての銃撃戦には、もうジェームズ・ボンドも顔面蒼白になるだろう。そして、息つく暇もないアクションの果てに朋友も戦死。

あとは聞いてびっくりの真相暴露となるが、それは<ネタバレ>なので、書く事はできない。ま、とにかくは、「お疲れさま」なバイオレンスの連鎖だった。

こちらは、お盆だし、亡くなった友人を偲ぼうと選んだつもりの試写だったが、狙いは木っ端微塵。何とも虚しい気分になったのだ。

 

■豪快な左中間を破る長打コースだが、セカンドを狙って憤死。

●8月1日より、新宿武蔵野館などでロードショー 


●『ウィークエンドはパリで』に香る熟年ワインのような上質なテイスト。

2014年07月13日 | Weblog

7月10日(木)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-073『ウィークエンドはパリで』Le Week-End (2013) Free Range films limited/ the british film institute 英

監督・ロジャー・ミッチェル 主演・ジム・ブロードベント <93分> 配給・キノ・フィルムズ ★★★☆☆☆

30年目の結婚記念日の週末を、思い出の新婚旅行で訪れたパリで過ごす、イギリス人夫婦を描いた小品だが、かなり深くて輝きのある傑作だ。

むかし初夜を過ごした筈のホテルに予約したのはいいが、すでに改装されて狭くなり、インテリアも思い出とは違って、あまりにも貧相なので逃げ出した。

少しはリッチなホテルに泊まろうとしたものの、当然、予約はないので、手頃な部屋はない。案内されたスイートは高額すぎて困ったが、ま、そこは我慢。

食事に外出しても、どうもイマイチ気にいらない。で、足を棒にして歩き回って、ついつい愚痴もでて夫婦喧嘩となる。それでもふたりは我慢ガマン。

夫のジムは大学で教授をしているが、リストラ直前で将来は暗い。夫人のリンゼイ・ダンカンも中学の教師をしているが、トラブルを抱えているという、ごく普通のカップル。

そして話題も他愛もないが、それぞれの不満は夫婦の足かせとしてガマンしてきた。そのごく普通の夫と妻。ま、欧米の知識階級としての30周年というのは長い方だろう。

スタンリー・ドネン監督のコメディ「いつも二人で」を思い出したが、英国のテレンス・ラティガン脚本の「旅路」や「予期せぬ出来事」のようなシナリオの深みもある。

他愛のない会話の中には、疎遠な息子や、将来の年金生活の心配、先の短い仕事のこと、そして浮気の過失。・・・。当然のように夫婦のキャリアにはトラブルも満載だ。

さすがの監督は、この二人の達者な俳優を縦横に使って、ボロボロながらも生きて行く美しさを随所に輝かせて、ドラマの緊張感はまったく退屈さを寄せつけない。

91年にウディ・アレンとベット・ミドラーが共演した「結婚記念日」という作品があったが、比較して見ると、こちらにはさすがに英国の律儀な品位もあって上質だった。

圧巻は、成功した友人の家の夜食に、偶然招かれたシーンでの、ふたりの心のボロを隠さずに吐露するシーン。たしかに、どこの夫婦にだって、それぞれに秘密はある。

その告白と絶句、そのショックと、その後のふたりの思いやり。ここで、さすがに、このふたりの俳優の巧さが感動的だった。久々のジェフ・ゴールドブラムもいい。

名戯曲「私に近い6人の他人」の、あのショックと余韻が心地よく残った。久しぶりに<夫婦>の立派な映画を見た。

 

■フルカウントからのジャストミートで、左中間フェンス直撃のスリーベース。

●9月、シネスイッチ銀座他でロードショー 


●『リスボンに誘われて』着いた街はマカ不思議な迷宮のようだった。

2014年07月11日 | Weblog

7月8日(火)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-072『リスボンに誘われて』" Night Train to Lisbon " (2012) studio hamburg film production GmbH

監督・ビレ・アウグスト 主演・ジェレミー・アイアンズ <111分> 提供・アルシネテラン・キノフィルムズ ★★★

非常に見たくなる映画だった。だって、あの「ロシア・ハウス」で、ショーン・コネリーが亡命した白い魅力的な街、リスボンだ。

おまけに、大好きなメルビルの「リスボン特急」の憧れはあるし、しかも監督は「愛の風景」のビレだ。インタヴューしたことのある好人物。

話もいい。スイスのベルンで語学の教師をしていたジェレミーは5年前に離婚して、平板な日々に退屈していたが、偶然、その朝に自殺未遂の若い女性を救う。

しかし姿を消したその女性のレインコートのポケットに、<リスボン行きの夜行列車>のチケットが入っていたので、彼はそのまま列車に乗ってしまった。

彼女のコートのポケットには珍しい一冊の本があり、教師は夜行列車がリスボンに着く間にその本を読破してしまい、久しぶりに感動した。

そこまでは、非常に魅力的なアプローチであり、人生に空虚を感じていた壮年の男の孤独を刺激したことは、すごく納得できた。いい映画の予感である。

ところが、初めてのリスボンに着くなり、彼はいかにも通の旅人が泊まるような白いプチ・ホテルに泊まり、その本の原作者の家を探し出すのだった。

つまり、自殺願望の女性のコートを返すつもりが、そのポケットにあった本に魅了されて、初めての異境リスボンで、とうに亡くなった原作者の未亡人に会うのだ。

たしかにそれはまるで、ミステリー小説のような展開で、そのロケ地リスボンの美しさに、ついついスクリーンに吸い込まれる。でも、これって迷走劇なの?ってことになる。

その未亡人のシャーロット・ランプリングや「永遠の一日」のブルーノ・ガンツまでが出てくると、映画マニアのわたしなどは嬉しくて堪らないが、でも変ですよ。この映画。

おまけに、ラストでは、スイスの自宅や学校の仕事も捨てて、えええー。リスボンに居座るって、このおじさん、まるで「マカロニ」のジャック・レモンのつもりなのかしら。

要するに、これは、疲労した壮年教師が見た「うたた寝の夢」なのか、それならフリッツ・ラングの「飾り窓の女」のような、ノワールにした方が納得が出来たかも。

 

■当たりは右中間へのいいコースだが、失速してセカンド後方のフライ。

●9月。渋谷Bunkamuraル・シネマなどでロードショー

  

●『フルスロットル』で好漢ポールは永久に消えてしまった。

2014年07月09日 | Weblog

7月4日(金)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-071『フルスロットル』"Brick Mansions" (2014) europacorp / transform international / canal+

監督・カミーユ・ドゥラマーレ 主演・ポール・ウォーカー <91分> 配給・アスミック・エース ★★★☆+☆

これが、本当のポール・ウォーカーの遺作だと、ラスト・クレジットされた瞬間、やはり妙に悲しくなった。

演技派ではなく、ひたすらアクションのスターとして、地味でトップクラスではないものの、彼の風貌はとても好きで、全作品見た。

つまりひとりのファンとして、ケビン・コスナーの系統を確実に継ぐべき存在だった。その彼が、この作品の撮影終了後に、友人の車に同乗して事故死した。

あまりにも突然の悲報で、とてもスピード・カー・アクションに活躍していたスタアとして、信じられない事故。それも即死だったらしい。ああ、無情。

神様は、どこを見ていたのだ。と悲しんでも、現実は悲惨である。この正月に見た「ハリケーン・アワー」が最期かと思っていたが、こちらが本当の遺作だ。

デトロイトの旧市街にある<ブリック・マンション>という地区は、貧困と衰退で危険なエリアで、街の行政としても取り壊しでの再開発を計画していた。

いまや無法都市と化した地域は隔離され、不法に居住している外国人無法者たちに占拠されて、まったくの別世界。まるでゾンビのようになりドラッグ・エリア。

さて、ポールはその危険な地域に僣入捜査官として、まるで軽業師のように建物を飛び回る<バルクール>と呼ばれる内部居住者の協力を得て、地域に入り込む。

というのも、暴徒化した無法居住者たちは、ミサイルでデトロイト庁舎を壊滅しようと時限装置に点火していたから、ポールの使命はタイムリミットなのだ。

リュック・ベッソンのプロデュースなので、あの「TAXI」シリーズのように、ロック・ビートで軽快に古い建物の中や屋上などの廃墟を走り回り、飛び跳ねる。軽業無重力アクションなのだ。

もちろん、ポールは大活躍してミサイルのスイッチを止めるのだが、ニコリともしない苦渋の表情を見ていると、現実の悲劇は嘘だったんだろう、と思いたくなる。☆ひとつで冥福を祈る。

 

■左中間に転々とする痛打でセカンド滑り込みセーフ

●9月6日より、新宿ピカデリーなどでロードショー