細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『最高の人生の見つけ方』で共感できるいくつかの美点。

2008年02月28日 | Weblog
●2月27日(水)13-00 日比谷<ワーナーブラザース試写室>
M-025 『最高の人生の見つけ方』The Bucket List (2007)warner brothers 米
監督/ロブ・ライナー 主演/ジャック・ニコルソン ★★★☆☆☆
65歳で突然に医師から末期ガンを宣告されたふたりの男。
事業に成功したが家庭に失敗したジャックには見舞いもこない。
同室のモーガン・フリーマンは、地味な人生だったが、家族はいつも見舞いに来る。
そのふたりが、人生にやり残した夢を実現するために、そろって旅に出る。
大会社の会長であったジャックは自家用機でモーガンを連れ出した。
余命は短い。
ふたりは少年のようにはしゃぐ。
そしてお葬式。
最期の旅で、ふたりは最高の親友を得たのだ。
黒沢明の『生きる』に共通する話だが、こちらは『素晴らしき哉、人生』のように陽気だ。
上等なシニア・コメディだから、これはこれで楽しめばいいだろう。

●5月公開予定。

●『ノー カントリー』予想通りのアカデミー賞制覇。

2008年02月26日 | Weblog
●2月25日(月)13-38 六本木<アスミックエース試写室>
『第80回アカデミー賞授賞式』

キネマ旬報で予想した手前、かなりオスカー勝敗の行方は気になったものの、それも時の運。
予定通り六本木のアスミックエース試写室で、ハル・ベリーの主演『悲しみが乾くまで』の試写を見ようとして、座席は確保したのだが、ロビーでは、アカデミー授賞式の中継中。
数人の熱心な社員たちの拍手と歓声で、どうしてもオスカーの行方が気になってしまう。
とくに、予想のケイト・ブランシェットがダブル・ノミネートを逃がしていたので、これでコーエン兄弟の関係が外れると、わたしとしては情けない。専門家としての立場も危ない。
29日には「キネマ旬報」のアカデミー賞結果座談会に出なければならない。弁解の口実も必要だ。
そこで試写はキャンセル。テレビ中継を見ることにした。
「おや、試写は見ないの?」と竹内部長。
「すみません、試写はまた次回に見ますが、こちらの方が気になって」という次第。
そして助演男優賞、脚色賞、監督賞、作品賞は、予想していた『ノー カントリー』が受賞。
拍手、喝采。
これで予想家としての面目は維持できたようで一安心。一月に試写を見た直後に、この受賞は確信していたが、試写室帰りの若い3人の女性が「こんな下らない作品を面白がる奴の気が知れないね。まだファーレル兄弟の作品の方がおもしろいね」と言っていた時の、あの心の怒りが、これで解消した。
「ざまあみろ、あんた達には、まだ映画の価値が分からねえんだよ。映画の仕事をやめな!!!」と言いたい。
そして、ジョエル&イーサンのコーエン兄弟におめでとう。

●『ノー カントリー』は3月に、日比谷シャンテシネでロードショウ。必見の名作だ。

●『譜めくりの女』の計算された復讐の日々。

2008年02月22日 | Weblog
●2月21日(木)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-024 『譜めくりの女』La Tourneuse Des Pages (2007)仏
監督/ドゥニ・デルクール 主演/カトリーヌ・フロ ★★★☆☆
ピアニストへの夢を断たれたデボラ・フランソワは、その復讐を胸に秘めて、審査に加わっていたピアニストの譜めくりの女として、彼女の一家と同居する。
トルナトーレ監督の『題名のない子守唄』のような女性心理の深い恨みを描く作品で、ヒッチコックや、トリュフォー監督の好みそうなテーマ。
端正な演出と、清楚な生活感のなかに疼く復讐心。
そのサスペンスは、非常に静的な演出で、ピアノ・ソナタのようにシンプル。
いかにもフランス映画らしさは楽しめたが、その復讐のレベルが小説的で、感情の切迫感が映像では見せない。
だから、もっとぐらぐらしていた筈のデボラの感情が、爆発的な達成感は見せないままに終わる。
トリュフォーだったら、もっと凄惨な感情表現で終わったろうが、そのストイックなままの演出には好みがあろう。
わたしは、地獄を期待していたのだが、、。女性には同感できるシーンが多い筈。

●GW,シネスイッチ銀座などでロードショウ

●『ランジェ公爵夫人』命がけの思慕の顛末。

2008年02月20日 | Weblog
●2月19日(火)13-00 京橋<テアトル京橋試写室>
M-023『ランジェ公爵夫人』Ne Touchez Pas La Hache (2006)仏
監督/ジャック・リヴェット 主演/ジャンヌ・バリヴァール ★★★★
バルザックの文学を、あの『美しい諍い女』のリヴェット監督が映画化。
端正な舞台構成と、シンプルな人物配置で、男と女だけの恋狂いを見つめて行く。
19世紀初頭のパリ社交界では、ナポレオン軍の英雄モンリヴォー将軍と、ランジェ公爵夫人の恋の行方が噂となった。
男のプライドと、女のわがまま。その亀裂。
古典的な背景で華麗な関係が、思わぬ方向へ急速に転落していく。
歯車の狂ったふたりの恋は、まさに火に油を注いだようだ。
劇中で焦燥した夫人が、召使いに暖炉の火を強くするように命じた。
冷えた関係は、この火種では取り返しがつかない。
久しぶりに恋の痛ましい惨状を見る思いがした。
そして、こうした古典文学を確かな演出で再現する監督の情熱には敬服。
137分という長尺を飽きさせないパワーはさすがで、ちょいと変化に乏しい二人の恋の表情を、拭ってくれた。
お見事であった。

●4月5日より、岩波ホールで公開予定

●『大いなる陰謀』の大きすぎたアメリカの病根。

2008年02月16日 | Weblog
●2月15日(金)13-00 六本木<FOX試写室>
M-022 『大いなる陰謀』Lions for Lambs (2007)fox/MGM 米
監督/ロバート・レッドフォード 主演/トム・クルーズ ★★★☆☆☆
野心家の上院議員トム・クルーズは、執務室にテレビのジャーナリスト、メリル・ストリープを呼んで、対アフガニスタンテロ制裁の作戦を密かに話す。
一方で大学教授のレッドフォードは、授業を欠席しがちなひとりの生徒に、進学について説得している。
というのも、その学級の優秀な生徒が、アフガンでの戦闘に参戦していたからだ。
何かに熱中するのが青春だろう、と。
そして戦場では、その学生戦士が緊迫した不利な銃撃戦をしている。
まったく別の次元の問題が、実は同じ時間の地球で起こっていて、彼らはそれぞれに関係が深い。
いまアメリカが抱えている対テロ対策の問題を、三つの視点で同時に進むアイデアは興味をそそる。
しかし、真実は、まったく別の戦況であり、アメリカはまたベトナムの泥沼を再現している。
中東での戦死者が、いまだに数多いという現実に、政府とジャーナリズム、そして学生たちは、どう受け止めているのか。
あまりにも大きな問題を、さらりと提示して、いかにも簡潔にまとめたレッドフォードの演出はスマートすぎて不満が残る。
これだけのテーマなのだから、旧友のシドニー・ポラックに相談した方が賢明だったろう。
トム・クルーズの演技も軽すぎた。おそらく時間に限界があったのだろうが、もっと適役の上院議員俳優はいただろう。
もったいない企画であった。

●4月、GW日劇などでロードショウ

●『バンテージ・ポイント』での迫力ある多重映像サスペンス。

2008年02月15日 | Weblog
●2月14日(木)13-00 神谷町<ソニーピクチャーズ試写室>
M-021 『バンテージ・ポイント』Vantage Point (2008) columbia 米
監督/ピート・トラヴィス 主演・デニス・クウェイド ★★★☆☆
アメリカ大統領がスペインでの遊説中に銃撃された。
シークレット・サービスのデニスは、過去の激務で精神障害を患い完治していないが、現場復帰していた。
フォレスト・ウィテカーは観光で現場にいた。
テロリスト・グループにも、それぞれの役割と私的なトラブルを抱えていた。8人の別々の視覚。
暗殺の瞬間に、それぞれに現場で目撃した別のアングルでドラマは前後する。
アイデアは面白く、秀作『クラッシュ』のような多角的な視覚で見せる迫力は圧倒的だ。
ただ、映画は映像のリズムで一気に駆け抜けるので、登場した人間たちの心の奥は見えない。
それぞれの「バンテージ・ポイント(有利な視覚)」からの、ひとつのアンサンブル・サスペンスの試作としてはいいとして、エンターテイメントのレベルで止まったアクション映画だ。

●3月8日より、サロンパス・ルーブルなどでロードショウ

●『コントロール』に描かれた青春のコントロール不能。

2008年02月14日 | Weblog
●2月13日(水)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-020 『コントロール』Control (2007) northsee UK
監督/アントン・コービン 主演/サム・ライリー ★★★☆☆
23歳という若さで自殺したロッカーの青春を、アーティストの写真を撮っていたアントンが初監督。
マンチェスターは、いまではサッカーで有名だが、1976年には新しいロックンローラー達がライブハウスでヒット・デビューを狙っていた。
イアン・カーチィスの「ジョイ・デヴィジョン」は、地元ではそこそこの人気だった。
しかし、繊細な青年は過剰なイメージ模索と、不要な薬物の摂取で肉体的にも崩壊していく。
コントロールを失った青春のドラマ。
モノクロームの画質は素晴らしい。

●3月、渋谷シネマライズでロードショウ

●『ネクスト』はたった2分先の超近未来SFなのだが、

2008年02月09日 | Weblog
●2月8日(金)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-019 『ネクスト』NEXT(2007)revolution st.米
監督/リー・タマホリ 主演/ニコラス・ケイジ ★★★
なぜかハリウッドでは人気のあるSF作家フィリップ・K・ディックの原作は、たった2分先のことが予知できる超能力者の話。
ロサンゼルスに仕掛けられた核爆弾の点火を阻止するために、この超能力者で手品師のニコラスが、FBIに拉致される。
しかも恋人に爆弾が巻き付けられているという最悪のシナリオ。
最悪なのは、そのシナリオそのもので、いかに自爆も覚悟のテロリスト集団とはいえ、その2分前まで現場でゴタゴタしていて、どうやって逃げるのだろう。
2時間ならともかく、たった2分では、地震だって回避は難しい筈だ。
捜査官のジュリアン・ムーアが、ひとりで真剣にテロリストを追う姿が浮いてしまっている。
これならジョン・スタージェス監督の傑作『サタンバグ』の方が、もっと恐ろしい大都会壊滅テロだった。
ニコラス・ケイジのヘアウィグも、どうも不自然に見えてしまう。

●GW 丸の内プラゼールなどでロードショウ

●『ハンティング・パーティ』の曖昧で危険な取材行動。

2008年02月07日 | Weblog
●2月6日(水)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-018 『ハンティング・パーティ』The Hunting Party (2007)intermedia 米
監督/リチャード・シェパード 主演/リチャード・ギア ★★★☆
冬期オリンピックも開催された、サラエボ。
紛争は5年前に終結しているが、反政府指導者は山岳地帯に潜伏していた。
今や仕事にあぶれたジャーナリストのギアは、旧友のカメラマンと共に、その取材に記者生命を賭ける。
アイデアはいいのだが、どうもチャック・ノリスのゲリラ戦闘映画の映像がインサートされるので、『ランボー』のようなアクションが目立ってしまう。
結局、CIAのエージェントと間違えられて、かなりヤバい状態になるのだが、実はCIAの囮だったりして、話は空回り。
ジャーナリストというのは、完全に中立で透明人間の平和主義者の筈なのに、この作品のギアは、賞金目当ての西部のバウンティ・キラーのよう。
それにしては取材の現場復帰を切望していて、人間性が曖昧だ。
だから映画もスパイ・アクションものと間違えられてしまう。
マイケル・マンやスティーブン・ザイリアンが監督したら、もっと厚みが出ただろうが。

●GW,日比谷シャンテなどでロードショウ

●『ジェイン・オースティンの読書会』の女性的な世界。

2008年02月06日 | Weblog
●2月5日(火)13-00 神谷町<ソニーピクチャーズ試写室>
M-017 『ジェイン・オースティンの読書会』The Jane Austen Book Club (2007)sony classics 米
監督/ロビン・スウィコード 主演・キャシー・ベイカー ★★★☆☆
あちらの女性なら大抵の人は読んでいる『高慢と偏見』『いつか晴れた日に』などのジェイン・オースティン小説。
それぞれにトラブルを抱えた女性5人と、ひとりの男性が、6冊の本をテーマに、6回集まって語り合う。
こうした作家の読書会は、とくにあちらでは一般的で盛んなパーティだ。
趣味の同好会だから、女性的なドラマのテーマがそれぞれに同情の時間になる。
男性だと、作家の研究会はあるが、これだけプライヴェイトな話題で盛り上がることはない。
まさにワインとおしゃべりの女性ならではの癒しの時間だ。
監督も女性的な繊細さで、喜怒哀楽が交錯する彼女らの周辺を手軽にスケッチしている。
ひとりの作家のテーマを、こうして二次的なストーリーに展開したアイデアは面白い。
ただし、あくまでアンサンブルの話題なので、午後のティータイム感覚の作品でしかない。
主役不在のせいもあるのかも。

●GWにBunkamuraル・シネマなどでロードショウ