細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『デビル』はエレベーターの中にもいた。という新怪談。

2011年06月30日 | Weblog
●6月29日(水)10-30 半蔵門<東宝東和試写室>
M-074『デビル』Devil (2011) universal
監督/ジョン・エリック・ドゥードル 主演/クリス・メッシーナ <80分> ★★★☆☆
M・ナイト・シャマランがプロデュースに回って、自分のアイデアを若手に委ねるという企画の第一作。
まさにあの「ヒッチコック劇場」のテレビ番組のようにコンパクトな狙いは、ひとまず成功。
どうも超自然や霊界にこだわった難作の多かったシャマランが、バックに回った分、この新企画はシンプルでいい。
超高層ビルのエレベーターに閉じ込められた5人の男女が、ひとりづつ怪死する。
その死に方は異常で悪魔的。とても人間業ではない。
まるでヒッチコック映画のバーナード・ハーマンの音楽のような古典的恐怖音楽がノスタルジックに響く。
エレベーターには殺人者が同乗している訳ではない。だから怖い。
その朝、飛び降り自殺者のでたビルには、デビルの呪いが宿り、悪魔が運命を操作するというのだ。
80分という、いかにもテレビ映画的にまとめたワン・シチュエーションのワン・アイデアが判りやすく面白い。
あのキューブリックの「シャイニング」での血が吹き出すエレベーターのヴィジュアルから発想したような狙い。
事件を捜査するクリス・メッシーナが、いかにも60年代のテレビ役者風なのが好感だった。
恐らくヒッチコックや彼らが見たら苦笑するだろうが、古典名作の手法は活用すべきだろう。
閉所恐怖症の方には、お勧めしない。

■デッドボールで出塁。
●7月16日より、日劇などでロードショー

●『リメンバー・ミー』で魅せられたニューヨークへの鎮魂。

2011年06月29日 | Weblog
●6月28日(火)13-00 六本木<シネマート試写室>
M-073『リメンバー・ミー』Remember Me (2010) summit / underground 米
監督/アレン・コールター 主演/ロバート・パティンソン <113分> ★★★★☆
兄の自殺で心に深い傷を負ったロバートはニューヨークに住む学生だが、家族で7回忌を迎えても孤独だ。
父親は成功している法律事務所の社長だが、母とは別居していて、たまに会ってもムカつく。
いわゆる、エディプス・コンプレックスの典型なのだが、父の大仰な態度と平板な理解力がムカつくのだ。
よくある「理由なき反抗」の青春ものかと思って見ていたが、後半のドラマは締まる。
少女時代に目前で母が暴漢に殺されたエミリーも、警察官の父親とソリが合わない。
学校で知り合ったふたりは、それぞれの家庭に違和感を持ちながら交際していた。
大きな理由はないのだが、父親との交情がうまくいかない苛立たしさ。このテンションが高まって行く。
イジメに会っている妹の教室に乱入したロバートは器物損壊で訴えられた。
警察から事情を聞いた父は、息子に事務所の弁護士を紹介しようとする。
よく晴れた9月のマンハッタンの朝。父は娘を学校に連れて行き、ロバートは事務所で待っていた。
父のパソコンには、愛する家族の写真が入っていた。
亡くなった兄が22歳。ロバートも22歳になった朝。
ここで、やっと「リメンバー・ミー」というタイトルの意味が判って慄然としてしまった。
実にお見事なシナリオ構成と編集だ。これこそが映画である。
映像での緻密な説得力。これは文学でも音楽でも、講演でも無理であろう。
ジコチューのオヤジを演じたピアース・ブロスナンが「ゴーストライター」に続いて素晴らしい。
ことしのベストの1本にめぐり会えた。

■打った瞬間ファールと思ったが、レフトのポールを巻いて入った痛烈な技ありのホームラン。
●8月20日より、シネマート新宿でロードショー


●『シャンハイ』開戦前夜の大混乱ノワール。

2011年06月28日 | Weblog
●6月28日(火)10-00 六本木<シネマート試写室>
M-072『シャンハイ』Shanghai (2011) the weinstein company 米
監督/ミカエル・ハフストローム 主演/ジョン・キューザック <105分> ★★★
1941年の太平洋戦争勃発前夜の上海。
友人の殺害を調査に来た新聞記者のジョンは、中国に敵対する日本軍、暗躍するドイツとアメリカ。
その渦中の混乱で真実は見えて来ない。
映画も、その大混乱でテーマを見失ったように迷走する。
謎めいた中国軍人の妻コン・リーとジョンの関係は「第三の男」のようであり、各国が交錯する街は「カサブランカ」。
ふたつの名画のスクラップのように、謎は深まるが、シナリオも得体が知れない。
暗すぎる画面と、さっぱり位置関係が不明の編集。
だから50年代のスパイ・ノワールを意図しても、一向にムードが出ない。
たしかに、大戦の前だから混乱はさけられない。が。しかしドラマも酩酊していては、ただ退屈するのみ。
あのインディ・ジョーンズが脱出した上海の方が魅力があった。
わが渡辺謙さん、おつかれさま。
それにしても、あれだけ銃弾を喰らって、よく、死ななかったですね。

■照明よりも高く上がりすぎたセカンドフライ。
●8月20日より、新宿ピカデリーなどでロードショー

●今夜のFM『シネマッド・ジャズ・カフェ』は1周年記念<オードリー・ヘプバーンのためのジャズ>。

2011年06月26日 | Weblog
●映画とジャズのFMサウンド・カフェ●
『シネマッド・ジャズ・カフェ』CINEMAD JAZZ CAFE(FMたちかわ/84-4mhz)
今夜の放送/ Vol.051 『番組1周年記念/オードリー・ヘプバーンのためのジャズ』Jazz for Audrey Hepburn
司会/鵜飼一嘉+選曲・解説/細越麟太郎
★スペシャルゲスト/小川知子さん
★6月26日(日)午後8時ー9時放送
★曲目メニュー紹介

1/『ティファニーで朝食を/メインテーマ』演奏/ヘンリー・マンシーニ・オーケストラ
2/『オードリー』演奏/デイブ・ブルーベック・カルテット
3/『シャレード』唄/ハリー・コニック Jr
4/『ファッシネイション(魅惑のワルツ)』映画『昼下りの情事』より/唄/ジェーン・モーガン
5/『イズント・イット・ロマンティック』映画『麗しのサブリナ』より/演奏/ビル・エバンス・トリオ
6/『ムーン・リバー』映画『ティファニーで朝食を』主題歌/フランク・シナトラ

★今週の映画紹介/『ビューティフル』主演/ハビエル・バルデム

●<FMたちかわ>のホームページから、サイマル放送で検索すれば、パソコンでも聞こえます。
★来週も、この番組1周年記念として、「オードリー・ヘプバー特集パート2」。ご期待ください。


●『デビルクエスト』は十字軍とゾンビ怪獣の死闘。

2011年06月25日 | Weblog
●6月24日(金)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>
M-071『デビルクエスト』Season of the Witch (2010) relativity media 米
監督/ドミニク・セナ 主演/ニコラス・ケイジ <95分> ★★★
14世紀のヨーロッパ。十字軍の名のもとで聖戦を戦い抜いたニコラスと戦友は旅に出た。
しかし各地では、伝染病のペストが流行していて、魔女の処刑が頻発していた。
悪霊のもとは魔女たちの呪いだとする神父たちは、ニコラスにその病根を断つように願った。
そして、彼らは得体の知れない悪霊退治の戦いに挑む。
まさに十字軍の騎士と凶悪ゾンビとの妖怪戦争だ。
大人になったハリー・ポッターなのか。
いまの感性で医学的に考えれば、まさに無知な祈祷で疫病を追い払うことの妄想ファンタジー。
あの「ソードフィッシュ」のセナ監督は、このゲーム感覚のバトルに悪闘苦戦。
テーマの宗教性よりも、ペスト菌の脅威と妖怪やゾンビの乱戦に奮闘して、見ていてこちらも感染しそうになる。
演出も演技も、かなりマジなスタンスなので、それだけ印象が重いのだ。
これを娯楽アクションとして楽しむには、騎士以上の強靭な体力がいるようだ。

■強振した打球はライナーだが、セカンドの正面。
●7月30日より、角川シネマ有楽町でロードショー

●『あしたのパスタはアルデンテ』味も上等でヴォーノ、ヴォーノ!!

2011年06月23日 | Weblog
●6月22日(水)13-00 築地<松竹試写室>
M-070『あしたのパスタはアルデンテ』Mine Vaganti (2010) film realizzato 伊
監督/フェルザン・オズペクテ 主演/リッカルド・スカマルッチョ <113分> ★★★☆☆☆
原題は(浮遊機雷)だという。
どこの家族にもある潜在危機がテーマの上質なホームドラマだ。
イタリア南部レッチェでパスタ工場を経営している家族。
ところが二人の兄弟は突然ゲイであることをカミングアウト。父親はショックで心筋梗塞だ。
あの「エデンの東」のように、ふたりの息子は、父親の思うようにはいかない。
監督は、まるでヴィットリオ・デ・シーカ監督のように、この家族の亀裂と修復を暖かく見つめる。
実は両親にも、かつて大変な結婚のいきさつがあって、その映像がドラマを補強する。
ワインとパスタのコラッツィオーネ。このイタリアらしい家族の食事時間が危機感を和らげる。
ゲイの友達の出現で、あわや大騒動になりそうな設定も、スリリングにクリア。
この一件で、その実態に気づいていくガールフレンドと女性達。この演出の手腕は鮮やかだ。
バカなのは、いつも頑固な亭主ひとり。
暖かい家族の縮図を、温厚な視線で描いた素晴らしい作品だ。まさに「ヴォーノ、ヴォーノ!!」である。

■意外に伸びたレフトフライがフェンス上段を直撃、悠々のツーベースヒット。
●8月、シネスイッチ銀座などでロードショー



●『ハンナ』は少女コミック的アスリート・キラー。

2011年06月22日 | Weblog
●6月21日(火)13-00 神谷町<ソニーピクチャーズ試写室>
M-069『ハンナ』Hanna (2011) focus features / sony
監督/ジョー・ライト 主演/シアーシャ・ローナン <111分> ★★★☆
16歳になったハンナはフィンランドの奥地で、元CIA捜査官の父親ひとりの手で育てられた。
まったく外界の人間社会を直接に知らない彼女は、野獣猟りの経験で、鋭い動物本能は鍛えられて来た。
しかしグリム童話の絵本で育った感性は、無垢であり、残酷でもあった。
隠れ家は急襲され、なぜか彼女の抹殺を狙うCIAや地下組織から、彼女は持ち前の反射武力で生き延びる。
モロッコからスペイン、そしてベルリン。事件には出生の謎が絡んでいる。
もしかしたら、人間ロボット・キラーの実験開発か。
まるで007の少女版のようなアクションは、まさにアスリート感覚。
おまけにケミカル・ブラザーズの音楽が軽くファッション的なので、どうもこの映画は、少女コミックのようなのだ。
そうか、「キック・アス」や「エンジェル・ウォー」の孤独な姉妹編なのか。
それにしては、演出が単純だし、どこか落ち着きがない。つまり不得手なコミックという具合で気恥ずかしいのだ。
わが名優ケイト・ブランシェットが、ただひとり悪役を怪演していたのが、妙に浮いてお気の毒だった。
でも一番、この映画を楽しんでいたのはケイトだったに違いない。

■滞空時間の長いレフトフライ。
●8月27日より、新宿ピカデリーでロードショー

●『エッセンシャル・キリング』の寡黙な逃亡の果て。

2011年06月19日 | Weblog
●6月17日(金)13-00 築地<松竹試写室>
M-068『エッセンシャル・キリング』Essential Killing (2010) skopia film / cylinder pro. ポーランド
監督/イエジー・スコリモフスキー 主演/ヴィンセント・ギャロ <83分> ★★★☆☆
アフガニスタンの戦闘でテロリスト容疑で捕虜になった兵士は過酷な拷問の果てに、移動トラックの事故で脱出。
砂漠の荒れ地から未開のジャングルへと、野獣のように逃げまくる。
雨水を飲み、虫を食べ、ただただ逃げる兵士にはもともと闘志はなく、戦意もない。そして気がつけば雪の世界。
逃げるために戦い、食べられるものは何でも食べる。そして生き抜こうとする。
83分の映画の中で、彼は何もしゃべらない。言葉も通じない他国を逃げているのだ。
一体、この不思議な映画で、監督は何を伝えたかったのだろう。それは見てる我々の判断の問題だろうか。
国家利益と宗教戦争と民族格差。教養も言語も違う男たちが今も戦わされている。
これまでは、どちらかというと連合国側の科学的な戦略戦闘を正義として扱った作品が多かった。
「ハート・ロッカー」はその頂点ともいえる人間的な作品だった。
しかし、この作品は逆の視線で戦争の悲劇を見つめている。
戦いから逃げるアフガンの兵士を、あのヴィンセントが寡黙に演じて逃げまくる。

■バントヒットで出て、すかさずセカンドへ盗塁。
●8月、渋谷イメージフォーラムでロードショー


●今夜のFM『シネマッド・ジャズ・カフェ』は父の日特集です。ナンシーが父と唄います。

2011年06月19日 | Weblog
●映画とジャズのFMサウンド・カフェ●
『シネマッド・ジャズ・カフェ』CINEMAD JAZZ CAFE(FMたちかわ/84-4mhz)
今夜の放送/ Vol.050 『父の日のためのジャズ』Father's Day Special Present
司会/鵜飼一嘉+選曲・解説/細越麟太郎
★6月19日(日)午後8時ー9時放送
★曲目メニュー紹介

1/『グランド・ファーザーズ・ワルツ』演奏/スタン・ゲッツ+ビル・エバンス
2/『アットリースト・アイ・トライド』唄/ピアノ/サイ・コールマン
3/『アイ・リメンバー・イット・ウェル』演奏/アンドレ・プレヴィン+シェリー・マン
4/『ザ・ウェイ・ユー・ルック・トゥナイト』映画『花嫁のパパ』サウンドトラックより
5/『ホーム・カミング』演奏/エリス・マルサリス+孫
6/『ライフ・アー・トリッピング・シングス』唄/ナンシー・シナトラ+父
7/『ソング・フォー・マイ・ファーザー』演奏/ホーレス・シルバー

★今週の映画紹介/『スカイライン/征服』監督/グレッグ・ストラウス

●<FMたちかわ>のホームページから、サイマル放送で検索すれば、パソコンでも聞こえます。
★来週は、この番組1周年記念として、スペシャルゲストが登場します。ご期待ください。


●『大鹿村騒動記』で伝統の素朴な村歌舞伎に笑う。

2011年06月18日 | Weblog
●6月17日(金)10-00 銀座<東映本社試写室>
M-067『大鹿村騒動記』(2010)東映/セディックインターナショナル
監督/阪本順治 主演/原田芳雄 <91分> ★★★☆
高齢化で過疎化も進む長野県の山村。
そこでは今も老人達の演じる(村歌舞伎)が祭りとして伝統的に続けられていた。
鹿肉食堂を経営している原田のところに、親友と18年前に駆け落ちした女房が帰って来た。
ボケが進んできたので、元の夫に女房を返すというのだ。妙な三角関係が軸となる。
それぞれにトラブルを抱えた村人たちが、それでも歌舞伎興行には情熱を燃やす。
いまの日本の農村や漁村では、どこでも抱えている問題を含みつつ、徹底して映画は笑う。
多すぎる問題にクヨクヨしないで、伝統を守ろうという意気。
芸達者な俳優さんが総出演の、村興しのテーマだから、今でこそ有意義なテーマではある。
あくまで明るく、単純な笑いで、陽気に元気に、という狙いだ。
タケシの「座頭市」のような、イメージの爆発はなく、至って順当なカントリー・コメディ。
素朴な村歌舞伎で、何かの勇気が生まれればいい。が・・・・。

■ボテボテのサードゴロで、サードもファンブルして、どうにか出塁。
●7月16日より、東映系で全国ロードショー