細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『白い馬の季節』哀愁のラストカウボーイとその愛馬。

2007年07月31日 | Weblog
●7月30日(月)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-095 『白い馬の季節』Season of the Horse (2005)中国・モンゴル
監督・主演・ニンツァイ 共演・ナーレンフォア ★★★☆☆☆
枯れゆくモンゴルの高原。
かつてはチンギス・ハーンが駆けた緑の草原は、地球的温度差でいまや埃の荒野となっている。
遊牧の家族も、都会生活を強いられることになり、愛する老馬を売って生活しなくてはならない。
まさに西部のラストカウボーイの哀愁だ。
淡々と切々と、言葉少なに怒り嘆く男の顔を、慈愛の目で見ている老馬の目がいい。
やはり農耕馬ですら、時代の流れで消えて行く運命である。
ジャ・ジャンクーのダムに沈む街の悲哀と共通して、この時代に取り残される家族も哀しい。
しかし、沈黙の老馬の視線で見た、この映画の視線には、詩情が残っていた。
寡黙で素朴な演出と、広大な視界のカメラに共感が持てた。

●10月6日より、岩波ホールで公開。

●『トランスフォーマー』はおとな子供の<変身ごっこ>

2007年07月26日 | Weblog
●7月25日(水)13-00 東銀座<U.I.P.試写室>
M-094 『トランスフォーマー』Transformers (2007) paramount 米
監督・マイケル・ベイ 主演・シャイア・ラブーフ ★★★☆
メイド・イン・ジャパンのガンダムのようなゲーム・フィギュアの戦いを、C.G.の実写で映像化。
全編まさに予告編のように騒々しいロボット戦争である。
これを面白いという世代の若者には楽しいかもしれない。
しかし余剰なサウンドと、不必要な会話の洪水の方がストレスになった。
夏休みのガンダム・マニアのための合戦映画。

★144分 ●8月上旬、日劇などで公開

●『デス・プルーフ』くたばれ、不良オヤジ!!!!

2007年07月25日 | Weblog
●7月24日(火)15-30 京橋<映画美学校第一試写室>
M-093 『デス・プルーフ』Death Proof (2007) trouble maker 米
監督・クウェンティン・タランチィーノ 主演・カート・ラッセル ★★★★☆
タランチィーノとロバート・ロドリゲスがタッグを組んで作った<グラインドハウス・2部作>の一本。
70年代の『バニシング・ポイント』に代表されるカー・チェイス映画に捧げるド迫力のカー・アクション。
しかも奔放でワイルドなネエちゃんたちのエネルギーの炸裂。
凶悪な中年の不良スタント・オヤジを徹底的に叩きのめす、痛快Bクラス・ムービーの快作だ。
素晴らしいのは、とにかくC.G.やワイアー・アクションなどを廃して、あくまで実写の映像と、女性たちの心の底に潜めた怒りを、ここぞとぶちまけた映画パワーに拍手。
映画は本当に面白いものだったのだ。
低俗娯楽映画の再現と笑う奴らには、この面白さはもったいない。イヤー、気持ち良かった。

●9月、六本木TOHOシネマなどで公開

●『キャンディ』の甘くないドラッグ漬け青春。

2007年07月25日 | Weblog
●7月24日(火)13-00 京橋<映画美学校第一試写室>
M-092 『キャンディ』Candy (2005) オーストラリア
監督・ニール・アームフィールド 主演・ヒース・レジャー ★★★☆☆
愛するふたりは、結婚を目前にして親の実家に食事に行く。
しかしワインに酔ったのか、ふたりともゲー、ゲーともどしてしまう。
ふたりは麻薬常習者であり、男はニート、時々窃盗犯。女性は時々コールガール。
見た目には幸せそうなカップルだが、最悪の青春だ。
「天国」「地上」「地獄」というチャプターに分かれていても、これは全編、地獄である。
ヒースも、キャンディ役のアビー・コーニッシュも好演していて、切ない青春映画だ。
しかし、どうして今どき、こんな映画を作るのだろう。
麻薬撤廃やドラッグ地獄の話はいっぱい見たのに、・・・・????

★9月、シャンテ・シネなどで公開。

●『ディテクティヴ』のかなりダーティな捜査の果てに。

2007年07月20日 | Weblog
●7月19日(木)13-00 虎ノ門<TOGEN試写室>
M-091 『ディテクティヴ』Until Death (2006)equity 米
監督・サイモン・フェローズ 主演・ジャン=クロード・ヴァン・ダム ★★★☆☆
久しぶりに見たヴァン・ダムだが、目の下のクマや肌の荒れ具合等の、中年ヤツレが大いに悲壮感だ出て来た。
これが非常にマジなダーティ・コップを演じるので、「トレーニング・デイ」のデンゼルもビビりそう。
映画としてはサスペンスもソツがなく、アクションも豊富。
『ディパーテッド』に似ている展開だが、この手のポリス・アクションのお好きな人にはアヴェレージ作品だろう。

●「ブラック・スネーク・モーン」は本格ブルースの音色がした。

2007年07月19日 | Weblog
●7月18日(水)13-00 東銀座<U.I.P.試写室>
M-090 『ブラック・スネーク・モーン』Black Snake Moan (2007)paramount 米
監督・クレイグ・ブリュワー 主演・サミュエル・L・ジャクソン ★★★☆☆
タイトルで蛇嫌いとしてはビビったが、これはブルースの曲名で、蛇は出て来ない。
アメリカ、ディープ・サウスの僻地の町。
妻に逃げられたブルース・マン、ジャクソンは酒びたりで人間嫌い。
ある日、田舎道で失神している半裸のクリスティーナ・リッチを発見し、自宅で介護する。
彼女は婚約者が戦地に派遣された寂しさから麻薬中毒になっていたが、それ以上に欲求不満で淫乱癖が悪化。
不思議なふたりの隔離された生活で、唯一の救いになったのがブルースだった。
サミュエル・L・ジャクソンが、さすがに見事な唄を披露。ギターの演奏もいい。
心の哀しみと悼みから生まれた黒人のブルースは、賛美歌よりも、このようなジャズの響きが癒しになる。
テネシー・ウィリアムズのような愛憎のドラマだが、ブルースの音色が響く良心作。
●9月公開予定

●「題名のない子守唄」でのトルナトーレ監督の鮮やかな変身。

2007年07月13日 | Weblog
●7月12日(木)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-089 「題名のない子守唄」La Sconosciuta (2006)伊
監督・ジュゼッペ・トルナトーレ 主演・クセニア・ラバポルト ★★★★☆
北イタリアのトリエステに辿り着いたイレーナは、あるアパートの掃除婦として働く。
過去に熾烈な人生の傷を持った彼女は、謎めいた行動を始める。
まるでヒッチコックの「マーニー」のような、偏執な行動はサスペンスを高めて行く。
あの「ニュー・シネマ・パラダイス」や「海の上のピアニスト」などのトルナトーレ監督とは思えぬような、切り詰めた疑惑のショットが鮮やかだ、
謎めいたイレーナの周辺では事件が頻発し、彼女への疑惑も深まるが、ドラマはもっと深く、女性の哀しみを抉って行く。
これは上質なサスペンス映画のようでいて、実はかなり人間の悲劇を描いて秀逸だ。
全編に古風に流れるバーナード・ハーマン風の音楽も、あのエンニオ・モリコーネ一級の技。
非常に情感豊かに完成された、スリリングな女性映画である。

●「プラネット・テラー」戦場イラクからのゾンビ撃退Bアクション。

2007年07月12日 | Weblog
●7月11日(水)14-00 新橋<スペース・F.S.汐留ホール>
M-088 「プラネット・テラーinグラインドハウス」Planet Terror (2007) Trouble Maker 米
監督・ロバート・ロドリゲス 主演・ローズ・マッゴーワン ★★★☆☆
クエンティン・タランティーノが自身の監督新作「デス・プルーフ」と、セットで制作した、70年代風B級パニック・ホラー。
わざわざ画面をスクイーズさせて、荒削りな場末の深夜劇場のようなフィルムに仕上げるほど『気分」である。
イラクでビン・ラディンを殺害したというブルース・ウィリス軍人は、テキサスの僻地にある軍事基地で、戦地で負傷した際に感染したらしいゾンビ・ウィルスの殲滅に奮闘していた。
その軍用トラックにはねられたゴーゴー・ダンサーは、片足切断の重傷を負い、復讐の鬼となる。
ロドリゲス監督は「フロム・ダスク・ティル・ドーン」の感覚を凶暴にエスカレートさせて、狂乱のゾンビ・アクションを展開。
ボルテージを上げたロックの轟音と血しぶきの飛ぶ殺戮シーン。
ふと、懐かしいあの時代の汚れた映画館を思い出す。
不良オヤジのための、バイアグラ・ドハデ・アクションである。

●105分●9月22日より、TOHOシネマズ六本木ヒルズなどでロードショウ

●「アーサーとミニモイの不思議な国」の地底冒険ダーク・ファンタジー。

2007年07月10日 | Weblog
●7月9日(月)13-00 六本木<アスミックエース試写室>
M-087「アーサーとミニモイの不思議な国」Arthur (2006) europa 仏
監督・リュック・ベッソン 主演・フレディ・ハイモア ★★★
実写と立体アニメーションの合成ファンタジーだが、かなりダークでグロテスク。秀作「パンズ・ラビリンス」のあとだけに印象は不利だし新鮮味がない。
それにしても心配なのは、リュック・ベッソンの動向だ。
おとなの映画なのか、こどもの映画なのか。
そのミックスした家族向けにいろいろなジャンルの作品に積極的にトライするパワーは認めるが、あの「レオン」を発表した頃のシャープな映画野郎の彼は、一体どこに消えたのだろう。
ディズニー・ピクサーの「レミー・・・」の方がフレンチ志向しているのに、ベッソンの相変わらずのハリウッド迎合の傾向は変わらない。
●104分●9月丸の内プラゼール他でロードショー予定

●「サッド ヴァケイション」また別の間宮兄弟のケース。

2007年07月06日 | Weblog
●7月5日(木)12-30 京橋<メディア・ボックス試写室>
M-086 「サッド ヴァケイション」 Sad Vacation (2007)スタイルジャム・日
監督・青山真治 主演・浅野忠信 ★★★☆☆
ちょいとスタインベックの「エデンの東」のような、いびつな家族。そして憎しみの構造だ。
こちらの「間宮兄弟」は、異父兄弟のせいか、ほとんど仇同士。
その間に生きる石田えりの演じる母親の存在が圧倒的だ。
ホームドラマというよりも、北九州の風土に汚染された間宮運送組合のアンサンブル・ドラマ。
シニカルでコミックな荒削りな感覚。
まさに外角いっぱいに沈む変化球のキレ味は異色で哀しい。
朴訥なオダギリジョーと浅野のクールな会話。
そして巨大なシャボン玉。
監督にはヴェンダース映画の冷気が共通して感じられた。