細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●12月の試写ベスト・3 とワースト。

2005年12月31日 | Weblog
12月の試写・ベスト・3
●「プライドと偏見」Pride and Prejedice (2005) Universal 米
監督・ジョー・ライト 主演・キーラ・ナイトリー ★★★★☆☆
過去に何度も映画化された原作を、忠実に、しかしモダーンな解釈でまとめた秀作。

●「シリアナ」Syriana (2005)Warner Brothers 米
監督・スティーブン・ギャガン 主演・ジョージ・クルーニー ★★★★☆
イラク戦争のもともとの火種であるオイル・コネクションを、鋭い映画感覚で見せた迫真のサスペンス。

●「美しき運命の傷痕」L'Enfer (2005) +Canal 仏
監督・ダニス・タノヴィッチ 主演・エマニュエル・べアール ★★★★
現代パリの人生地獄を、三人姉妹のそれぞれのドラマで一本の線にまとめた秀逸のシナリオが圧巻。

★ほかにもポール・ハギスの「クラッシュ」、トミー・リー・ジョーンズの「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」、ピーター・ジャクソンの「キング・コング」が好印象に残った。

☆ワースト・「モルタデロとフィレモン」は感覚的に苦手なスペイン・おバカ・コメディ。

●かくして2005年度に見た試写は179本。
 DVD,VHS,LDなど、自宅で見たオリジナル映画は265本でした。おつかれさま。

また来年もよろしく。よいお年をお迎えください。

●「美しき運命の傷痕」の地獄の美しさ。

2005年12月27日 | Weblog
12月27日(火)13-00 渋谷<東芝試写室>
M-179 「美しき運命の傷痕」L' Enfer (2005) 仏
監督・ダニス・タノヴィッチ 主演・エマニエル・べアール ★★★★
ことし最後の試写は実に立派な知的映画に恵まれた。
ポーランドの名匠クシシュトフ・キェシロフスキが残した3本のアイデア、「天国」、「地獄」、「煉獄」のうち、「ヘブン」はすでに映画化されたが、これは「地獄」をテーマにした情愛の転落を、三人姉妹のそれぞれの悲劇を通じて描く。
といっても、おどろおどろした地獄ではなく、ひとの心に感染する嫉妬、浮気、殺意、狂気などを、非常に知的に美学を貫いているので、まさにトリュフォーやデュヴィヴィエの作品を見ている時のような愛のサスペンスに酔う。
パリを舞台に、非常に洗練されたおとなの関係が、内面的にはドロドロに崩壊していく縮図が、美しい地獄絵となる。
べアール以下、みんながそれぞれに好演していて、キャロル・ブーケの意外な老け役に恐れ入った。
タノヴィッチは完全にトリュフォーの穴を埋めたようだ。

●「ジャーヘッド」は不戦勝戦争映画なのかな。

2005年12月26日 | Weblog
●12月26日(月)13-00 東銀座<U.I.P.試写室>
M-178 「ジャーヘッド」Jarhead (2005) Universal 米
監督・サム・メンデス 主演・ジェイク・ギレンホール ★★★☆
タイトルは、湯沸かしのジャーのようなヘア・スタイルの海兵隊員のあだ名だが、バカ、うすのろ、からっぽのビンというような、蔑称の軍隊スラングだという。
アンソニー・スオフォードの原作はベスト・セラーを記録した湾岸戦争の体験記だ。
そのストーリーを「アメリカン・ビューティ」でアカデミー監督賞を受賞したサム・メンデスが演出。
たしかに随所にアイデアの光る戦争映画だが、戦闘のない戦争映画というのも珍しい。
苛酷な実戦訓練を積んだアメリカ海兵隊の、イラクでの4日間は、熱砂と残骸だらけの蜃気楼のような悪夢だった。
タイプとしては「地獄の黙示録」よりは「フルメタル・ジャケット」に近い印象だが、とにかく戦争に対してアゲインストな考えを持っている若者の行動だから、共感が沸かないのだ。
そこには作戦もなければ戦意もない。反戦映画だから心情は理解できるものの、映画としては面白くならない。
いい原作は恐らく文章のレトリックで完成していたのだろう。名手ロジャー・ディーキンスのカメラだけが虚しかった。

●「二人日和」はお天気雨。

2005年12月23日 | Weblog
●12月23日(金)11-30 神保町<岩波ホール>
M-177 「二人日和」Turn Over (2005)パンドラ・日本
監督・野村恵一 主演・栗塚 旭 ★★★☆☆☆
試写で見逃していて、どうも気になっていた作品。祭日なのに神保町に用があったので見ることにしたら、意外に混雑。
ホールはほとんどがシニアのお客。さすがは上質のシニア・ロマンティック・ドラマで小津映画のように淀みがない。
京都の染め物職人夫婦にも40年以上の平穏な生活に変化が訪れる。
妻が難病で倒れ、子供もいないので夫は仕事をやめて看護に徹する。
毎朝コーヒーのために湧き水を汲みに出る夫は公園で手品の練習をしていた青年と親しくなる。
青年は病床の老妻にマジックで癒しを与える。古都京都のやさしい日だまりが温かい。
そして妻は先立つ。覚悟していた夫はお天気雨の中に立つ。あっという間の人生。余韻の穏やかな映画。
たしかにシニアだけの価値観に貫かれた作品は、これはこれで充足の時間を感じた。
かなりストイックで寡黙な作品だが、老いの重みを少しは軽くしてくれた佳作だった。

●「メルキアデス・エストラーデの3度の埋葬」の真実

2005年12月22日 | Weblog
●12月22日(木)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>
M-176 「メルキアデス・エストラーデの3度の埋葬」The Three Burials of Melquiades Estrade(2005)Europacorp
監督・主演・トミー・リー・ジョーンズ ★★★★
テキサスとメキシコの国境の話は「黒い罠」「ボーダー」「赤い河」などいっぱいある。
現代。メキシコからの密入国者が国境警備員に射殺された。
殺意はなく威嚇のつもりの銃弾で事故は起こったのだ。
警備側は死者を埋葬して事件も地下に葬ろうとしたが、カウボーイのトミー・リーは友人の殺害が許せない。
そして警備員のバリー・ペッパーを拉致して、メキシコの家族のもとに友人メルキアデスの遺体を越境して運ぶ。
監督はこの映画を西部劇ではないという。国境映画なのだという。
でもこれは男の友情と報復と復讐の話だ。ジョン・ウェインが見たら感動しただろう。
意外なラストシーンがいい。それで★が増えてしまった。

●「ウォーク・ザ・ライン」の必殺プロポーズ。

2005年12月21日 | Weblog
●12月21日(水)12-45 六本木<FOX試写室>
M-175 「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」Walk the Line (2005)Fox 米
監督・ジェームズ・マンゴールド 主演・ホアキン・フェニックス ★★★☆☆
60年代にブレイクしたカントリー・ロック歌手のジョニー・キャッシュのライフ・ストーリーだから、彼の歌が好きか嫌いかで評価は大きく分かれる。要するに人気歌手の栄光と薬物転落の繰り返しである。
当時はプレスリーやボブ・ディランの人気も絶大だったので、日本での人気はお気の毒状況だった。
だから昨年の「RAY/レイ」と比較して見てしまうので、どうもお疲れさま、となる。
前座シンガーのジューン・カーターとの恋も無理があり、ステージでプロポーズするのも、どんなものか。
よく出来てはいるものの、感動にはもっと工夫が欲しかった。

●「シリアナ」迫真のポリティカル・サスペンス。

2005年12月20日 | Weblog
●12月20日(火)13-00 日比谷<ワーナー試写室>
M-174 「シリアナ」Syriana (2005)warner brothers 米
監督・スティーブン・ギャガン 主演・ジョージ・クルーニー ★★★★
スティーブン・ソダーバーグとジョージ・クルーニーのプロデュースだが「オーシャンズ・12」とはがらりと違った政治サスペンスの力作だ。
中東の某国とアメリカの石油利権をめぐる陰謀を暴いたサスペンスで、娯楽映画ではないが、サスペンスは緊迫している。
「トラフィック」のシナリオでオスカーに輝いたギャガンの初監督だが、アラン・J・パクラ監督の再来を思わせる上質な展開は、現在の世界をめぐる石油戦争の真相と謎の部分を巧妙に分析して見せる。
「世界の人口の5%のアメリカが、世界の50%の武器を所有しているのは、明らかに犯罪だ」と言い切るアラブの指導者も、アメリカ私道の戦略に抹殺されてしまうクライマックスは鳥肌が立つ。
素晴らしいキャスティングで語られる男達の哀しいドラマ。
悲壮感を漂わすジョージ・クルーニーの、かつてない好演が印象的だ。
ことしのアメリカ映画で、正面から現ブッシュ政権を批判した勇気のサスペンスに拍手したい。

●「モルタデロとフィレモン」のおバカ感覚。

2005年12月19日 | Weblog
●12月19日(月)13-00 渋谷<東芝試写室>
M-173 「モルタデロとフィレモン」Mortadelo y Filemon (2003)スペイン
監督・ハヴィエル・フェセル 主演・ベニト・ポシーノ ★★★
スペインの「スーパー・マリオ・ブラザース」なのか、「スパイ大作戦」を茶化したような徹底したナンセンス・コメディ。
40年もの長い人気を誇るコミックの実写映画で、スペインでは映画史上最高のヒット作。
マドリッドの場末の劇場で見たら抱腹絶倒なのだろうが、試写室では誰も笑わない。「007/カジノ・ロワイヤル」も負けそうなエネルギッシュでカラフルなアクション・コメディだ。
初期のペドロ・アルモドバルの感覚を期待したけど、全然違った。
このラテンの悪臭を放つ毒気と下品な趣味にトッさについて行くのは大変だ。
ま、ゲテものナンセンスのお好きな方はどうぞ。

●「狼よ静かに死ね」は古典的本格香港ノワール。

2005年12月15日 | Weblog
●12月15日(木)13-00 渋谷<東芝試写室>
M-172 「SPL/狼よ静かに死ね」殺破狼(2005) 香港・中国
監督・ウィルソン・イップ 主演・ドニー・イェン ★★★☆☆
いまどき珍しいような本格香港ノワールだ。
「インファーナル・アフェア」のように、警察と犯罪組織の壮絶な闘争をスタイリッシュな犯罪美学で描ききる。
しかしモダーンなタッチはまったくない。これぞ古典の美学だろう。
とにかくFSXや過剰なワイアー・アクションを避けて、ドニーのマーシャル・アーツを徹底的に展開する。
まったく男性本位のストイックなストーリー展開は、昭和の東映映画を見ているようで、やくざ映画のファンとしては快感だった。ま、たまにはこの手のB級男性映画があってもいい。
このところダメ男の映画が多いのでスカッとしたのは、やはりダメ男だけだろうか。

●「クラッシュ」のロス下流群像。

2005年12月14日 | Weblog
●12月14日(水)13-00 東銀座<シネマート銀座試写室>
M-171 「クラッシュ]Crush (2004)Lions Gate Films 米
監督・ポール・ハギス 主演・オールスターで特になし。 ★★★☆☆☆
ロサンゼルスのいろいろな人種の人々が、ひとつの交通事故で出逢うことになる。
アイデアはポール・オースターの「スモーク」や、ローレンス・カスダンの「わが街」に似ている。
さすがクリント・イーストウッド映画のシナリオに関わっていたハギスの初監督は面白い。
実によく練られたシナリオは、上質な群衆ドラマの「マグノリア」を思わせる。
それぞれの人物の皮肉なドラマ構成は秀逸だが、全体にちょいと悲観的な印象だ。
「空砲と天使」というタイトルにして欲しいほど、ストレートで暗示的だが、もう少しシニカルなユーモアが欲しかった。
十数人の俳優が競演しているが、マット・ディロンがやっといい役で印象に残った。
こういう団体劇は、やはり誰かひとりを主役にしないと腰が弱い。そこが少し残念だったなー。