細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『言の葉の庭』雨の午前、新宿御苑の不思議な時間。

2013年05月20日 | Weblog

●5月17日(金)13−00 日比谷<東宝本社11F試写室>
M−060『言の葉の庭』Kotonoha no Niwa (2013) toho animation / comic wave film
原作/脚本/監督/新海 誠 キャラクター・デザイン/土屋堅一 <46分> 配給/東宝映像 ★★★☆☆
最新のデジタル手法で描く古典「万葉集」の中の<孤悲>。
キメの細かな自然の佇まいを、実にシャープでデリケートな映像で描いた不思議な中編ドラマ。
雨が音もなく降り注ぐ東京の街。いつも見ている駅やコンコース。舞台は新宿御苑の日本庭園にある東屋。
雨で学校をサボって御苑に来たタカオは、雨宿りして昼前から缶ビールを飲んでいるひとりの女性と会う。
沈黙の雨音。少年は靴のデザインを勉強している。女性は謎めいた溜め息。
アニメーションのデジタル手法だが、天変地異も、強力なヒーローも、ロボットもコミック・キャラの動物もいない。ただの普通の情景だ。
これなら、普通の実写で質素な人物ドラマにすればいいのに・・・と思うが、雨の雫や、かすかな蒸気や、新緑の葉の微妙な色彩は表現できまい。
という風に、この映画の視覚は、普段の周囲の風景に、詩人のようなデリカシーで、その「呼吸」を撮ろうとする。
無口なふたりは、なぜか雨の日の午前中に、そこで会う。恋ではないが、お互いに寂しい心を、無言に語ろうとする。
自然の雨や風の音で、大都会の孤独を見せようとしたのか、ただただ執拗に、その邂逅を繰り返す。
たったの46分だが、濃密な凝視によるデジタル映像であり、あまりにも淡白なドラマだ。
しかし、これは数多くのアニメの中にあって、やはりユニークで孤高な風格はある。一種の映像詩集なのだ。
高度なデジタル技法を駆使した、実にアナログ感覚の小品として、外国では評価が高いだろう。
ラストで「新宿御苑でのアルコール類の飲酒は禁止されています」のスーパーは笑えた。

■意表をついたドラック・バントを慌てたサードがファンブル。
●5月31日より、東宝系でロードショー