細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『黄金のアデーレ・名画の帰還』この軽妙なオールド・レディの機智に拍手を!

2015年10月30日 | Weblog

10月20日(火)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-134『黄金のアデーレ・名画の帰還』" Woman in Gold " (2015) The Weinstein Company / BBC / Origin Pictures 英 

監督・サイモン・カーティス 主演・ヘレン・ミレン <109分> 提供・ギャガ、カルチャー・パブリシャーズ

別にこの傾向は悪い訳ではないが、この作品もまた、<真実をもとにした・・・>という保証ブランド実話映画化作品で、その意外性は創作によるものではない。

最近は、ヒトラーやチャップリンやジョン・レノンなどなどの、有名人の秘話という発掘美談やら、極秘事実が掘り起こされて映画化されて、ヒットする傾向が顕著。

たしかにオリジナルを発想する苦労よりも、往年の名作リメイクや、このような隠れていた真相を見つけ出して映画化した方が、制作的にも興行的にもリスクは少ない。

この映画のテーマも信じられないような実話だが、あのマリリン・モンローの晩年のエピソードを映画化した「マリリン、7日間の恋」のサイモン監督だから手際がよろしい。

という、今回の珍しい事件もまた「ミケランジェロ・プロジェクト」同様に、戦争の勝利品として没収していたクリムトの肖像画が、その本来の所持者が裁判で奪還するという美談なのだ。

もともとはクリムトが伯母のアデーレをモデルにして1907年に描いたという肖像画が、戦争中にナチスによって奪われて、戦後はオーストリアの美術館に保管展示されていた。

「黄金のアデーレ」と題されたそのキャンバスは、純金をちりばめたクリムトとしても最高の名画として高い評価をされて、世界の名画としても高い人気のあった超高価もの。

ところが、その名画のモデルが、実は亡くなった叔母であり、その作品は戦前にウィーンの自宅にあったものだから、当然、本来の家族が所有すべきものだと訴えたのが老嬢のヘレンなのだ。

現在ロサンゼルスに住む彼女は、亡くなった姉の生前の意思を継いで、以前は記憶のある伯母の肖像画を、当然の私財として自宅に戻すべきだ、という訴訟をオーストリアに訴えた。

こんなリスクの高いバカみたいな訴訟を引き受ける弁護士もいないのは当然で、友人の紹介で新人の駆け出しロイアーに協力を依頼することにしたのだが、話は難題が山積み。

ま、そこは老嬢のヘレン・ミレンの達者でユーモラスなボケ演技で、若いライアン・レイノルズも、これはキャリアの足かせになるだろうという軽い気持ちで引き受けたのだが、さあ大変。

映画は、あの傑作「ガーディング・テス」でのシャーリー・マクレーンと、若いボディガードのニコラス・ケイジのコンビのような軽妙な味わいで、意外や国を相手にして大転回となる。

まさか、と思うような裁判なども意外な逆転勝利で、結局はハッピーエンドで、とうとう老嬢は世紀の名画を家族のものとして奪還するから、めでたし、めでたし、なのだ。

 

■サインを無視して痛打したライナーが左中間を転々のツーベース。 ★★★☆☆

●11月27日より、シャンテシネなどでロードショー 


●『パリ3区の遺産相続人』歪な三角関係を丸くするための人生の知恵。

2015年10月28日 | Weblog

10月15日(木)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-133『パリ3区の遺産相続人』”My Old Lady " (2014) BBC Films / Protagonist Pictures / Tumbledown Productions

監督・イスラエル・ホロヴィッツ 主演・ケヴィン・クライン <107分> 提供・熱帯美術館、ミッドシップ

かなり古風ではあるが、しっかりと人間たちの情愛や都会生活の機微を丁寧に描いた、懐かしくも嬉しい人間味豊かな感動作品にやっとめぐりあった。 

60才を過ぎた放浪者のケヴィンは、ニューヨークでの事業失敗やら、3回の夫婦生活の破綻で無一文、生活苦に、とうの昔に関係を断っていた老父の死でパリを訪れた。

疎遠の父は、パリ3区の閑静な一等地にメゾンを持っていて、それをたったひとりのバカ息子に残したのだったが、訪ねると、そこには偏屈な老嬢が住んでいた。

極貧のケヴィンはホームレスで、バッグひとつの放浪者だったから、その遺産を処分して後世の生活のたしにしようと企んでいたが、どっこい事実は複雑だった。

というのも、その屋敷は、高齢で亡くなった父が、晩年一緒に暮らしていた女性に居住権利を残していたので、その90才の老嬢が死ぬ迄は、彼にはどうにもならない。

<ヴィアジェ>というパリの法的な居住権がある上に、その名優マギー・スミスの演じる老女には、これまた厄介な中年の離婚娘がいて、ときどき同居していたのだ。

てっきり一攫千金で、人生のリセットを企んでいたケヴィンには、どうにも引っ込みのつかないトラブルが加算されたので、もう身動きが取れなくなった、という絶体絶命の大ピンチ。

幸い、メゾンは広いので、そのトラブル・メイカー3人が顔を合わせないで生活することはできるにしても、トイレは共有なので、やっかいな問題が毎日出て来るしまつだ。

中年の女性は、あの「イングリッシュ・ペイシェント」の名優クリスティン・スコット・トーマスなので、同じ屋敷に、3人ものアカデミー受賞者が顔を合わせるという異常な現状。

たしかに達者な3人の名優の共演なので、この不具合な三角関係も、少しずつ歩み寄りを見せて行くというシナリオの巧妙さもあって、さすがは3人の名優の演技戦が素晴らしい。

パリが舞台なので、このイギリスの3人の名優たちは、時々はフランス語を交えて口論するドラマが、まるで一流の舞台劇を見ている様に輝きに満ちていて飽きさせない。

それぞれに複雑な確執を持っていたバカ息子と老嬢と、そのバカな娘には、実は衝撃的な関係があったというラストには、本当に一流のドラマを久しぶりに見た感動があった。

原題は「マイ・オールド・レディ」と、おしゃれだ。<フェア>を<オールド>にして、憎しみあっても、知恵を出し合えば、幸福の糸口も見えて来るのだ。という人生の隠し味が光った秀逸作。

 

■フルカウントから、高めのボール球を打ったが、見事にセンターへのホームラン。 ★★★★

●11月中旬、日比谷シャンテシネなどでロードショー 


●『さようなら』に見る悲壮な人間とアンドロイドの別れ。

2015年10月26日 | Weblog

10月14日(水)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>

M-132『さようなら』(2015)ファントム・フィルム・マウンテンゲートプロダクション・トーキョーガレージ

監督・深田晃司 主演・ブライアリー・ロング <112分> 配給・ファントム・フィルムズ

たしかに創造力というのは無限であって、自分の死期や、その後のことまで創作で描くのは、ひとそれぞれに温度は異なるが、これはかなり悲壮感溢れる近未来映画。

多くの近未来映画のように、この作品の背景も、おそらく原子力発電廃棄物や大気汚染で、空気が変質して動物が棲息できなくなり、家畜アンドロイドが後始末をしている。

人造ロボットの進化は驚異的な時代になり、こうして人類や他生物が死滅してしまっても、お手伝いロボットの<アンドロイド>は不死身なエネルギーを保持しているという設定。

廃墟となった大都会は、おそらく機能を失ってしまって、家族や友人たちもそれぞれの事情で去ってしまい、ひとり生活しているブライアリーの話し相手は女中のようなアンドロイド。

しかしロボットも行動中に事故を起こしたらしく、自活できないので、車椅子に乗って家の中を行動するのだが、残された食材を買いに出るときは、車椅子を人間が押して行くという始末。

人間とアンドロイドが、きわめて近未来に共同生活をするという設定を、劇作家の平田オリザと、ロボット研究家の石黒浩が考案したという舞台劇の映画化なので、当然のように動きは少ない。

おそらく舞台劇でも、同様に動きの少ない芝居を、ダイアローグの絶望感で訴えるという構造は予測されるが、この映画も、ほとんどは人間と故障したアンドロイドだけの空間なので重苦しい。

どうしてわざわざ映画にしたのかは、この異常にして哀しすぎる設定と、未来に対しての絶望感の重さを、あの「トゥモロウランド」とは対極の悲劇として訴えたかったからだろう。

だから映画ではあっても、要するにエンターテイメント映画のような娯楽的な視線はなくて、静かに迫り来る死期と、地球の死滅を見つめる沈黙だけが、まるでバック画の日没のようにフェイドアウトする。

そして結局は、人間は死んでしまってミイラになっても、そばにいるアンドロイドは故障したままで、そこに残るだけ・・・という恐ろしく静寂したラストシーンとなるのだ。

多くの近未来映画はあるが、これは完璧なコンピュータ・ロボットにも、人間のような<感情>というものがなく、しかも自分の欠陥を自力で修復する機能を持ち合わせていない哀しさ。

そのような絶望感が、次第にミイラ化していく美女の死に顔で壮絶なラストシーンを重く、サイレントに締めくくる・・・・つまりは、実に<演劇的な>実験映画なのだろう。

 

■痛烈なピッチャー返しのライナーがファーストに転がる。 ★★★

●11月21日より、新宿武蔵野館などでロードショー 


●『バクマン』の青年コンビは剣心を、コミックペンに替えての筆心。

2015年10月24日 | Weblog

10月13日(火)13-40 二子玉川<109シネマズスクリーン>

M-131『バクマン』" Bakuman " (2015) 東宝映画・集英社・バクマン制作委員会

監督・大根 仁 主演・佐藤 健 <120分> 配給・東宝映画

いつも顔を会わせる試写室の仲間が絶賛していて、とにかく洋画系のわたしとしても、その洋画新作の試写は、とてもじゃないが消化しきれない現状。

おまけに普段から、大きな書店のコミック・コーナーは無視している後期高齢者としては、いかに面白いといわれても、すぐにアクションを取れるほどに身軽じゃない。

という次第だが、みんなが面白いというからには、友情も協調もある試写族映画ファンとしては気になったので、これ幸いと近所に出来たシネコンに行ってみた次第。

話は単純だ。コミック好きな高校生コンビがストーリーと挿画を共同作業で書き上げて、集英社のトップレーベルの「週刊少年ジャンプ」に投稿して、次第に認められていく。

ま、高校野球の甲子園優勝を目指す少年たちの熱情と執念を描いたガッツ・ムービーだから、あの「風が吹いている」のような青春がここでも炸裂するのだが、グラフィックが素晴らしい。

大場つぐみ&小畑健による同名のコミックの映画化らしいが、そこはさすがは人気コミックの世界だから、あのディズニーのファンタジーとは違う、乱っぽくも軽快なフィルム処理がいいのだ。

あの「るろうに剣心」の佐藤健と、神木隆之助のコンビが、そこは学生のパワーで「少年ジャンプ」編集部に乗り込むのだが、気の乗らない編集部の対応ぶりがリアルでいいのだ。

雑然とした編集部とは対照的に、彼らふたりの描くコミックがシャープに展開されるテンポは、まさにアクション映画のようで、ペンの動きと紙を滑るサウンドが実に小気味いい。

たまたま担当している編集員が、これまた気ノリしない編集長のリリー・フランキーに迫る勢いは、あの「先生のお気に入り」のドリス・デイが新聞社に喧嘩を売る勢いに似て爽快だ。

一応、コミックの編集部では、毎週の人気度をひとつの出版量のレベルにしていて、この若い二人の作画の人気も、ついにトップに踊り出すが、それは一週だけの儚い夢となる。

というスポ根青春映画のセオリーをしっかりと底辺に据えて、作画のスピードとシャープなサウンドの切れ味を炸裂させるという、一種アクション映画のような切れ味には、爽やかな感動もあった。

タイトルの「バクマン」というのは「爆男」という意味なのだろうが、このふたりの青年の熱意は、とても爽やかで、「るろうに剣心」のようにケレン味がなく好感。

それみろ、映画は見てみなくちゃワカンねーだろ。と、また試写室ではからかわれるだろうが、ま、何事も食わず嫌いには発言する資格もないのだから、やはり見て良かった。

 

■野手の移動を察知して、その逆方向へのクリーンヒット。 ★★★☆☆

●全国東宝系でロードショー中 


●『ドローン・オブ・ウォー』の実戦空爆ビデオゲームのような恐ろしさ。

2015年10月22日 | Weblog

10月10日(土)11-05 <二子玉川>109シネマズ・5スクリーン

M-130『ドローン・オブ・ウォー』" Good Kill " ( 2014) Voltage Pictures / Sobini Films / Clear skies nevada LLC.

監督・アンドリュー・ニコル 主演・イーサン・ホーク <104分> 配給・ブロードメディア・スタジオ

遠い試写室よりは、近くのシネコン。という勝手な事情ながら、このテーマには魅力があって飛び込んで見たが、やはり複雑な気分になった。

すべてが、ここまで進化したかどうか、恐らくは「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督の新作なので、ある程度は<イメージ侵略>もあった映画化かもしれない。

アフガンのイスラム系テロリストを探索して、あの秀作「アメリカン・スナイパー」では、現地に赴いて戦闘に参加していた狙撃兵が、もしこの作品を見たら失望するだろうか。

ラスベガス郊外にある空軍基地には、無人戦闘機を遠隔操縦するセクションがあって、イーサンはそこの兵士であって、随時、地球の反対側の戦場を監視している。

それは宇宙の無人サテライトから送られる映像をもとに、無人のドローン戦闘機によってタリバンの拠点を空爆するのだが、その映像はかなりシャープで爆撃も正確なのだ。

これを見ていると、まさにテレビゲームのヴィジョンであって、ターゲットの集落も、標的としているイスラム兵も、ただのスクリーンに映る標的に見えるから恐ろしい。

まるでサラリーマンのように、イーサンはマイカーで、基地の事務用のスクリーンに向かい、無人飛行の軍事用ドローン機から送られる映像を見てターゲットを判断する。

それはイーストウッドの「アメリカン・スナイパー」のように、女性や子供もいて、それらがイスラム兵テロリストなのかは、瞬時に判断しなくてはいけない。

しかもボタンのスイッチを押してから、ロケットが標的に届くのに10秒はかかるので、つまり、彼らの動きを10秒も前に察知して、射撃を決断しなくてはならないのだ。

だから当然、市民を巻き込む無謀な殺戮もあるのだが、そこは地球の反対側でのことで、音もなければ悲しみもない、まさにサイレントの地獄を決断しているのだ。

まだ「トップガン」の時代の方が映画的にエンターテイメントに描かれていたが、まさにこの<サイレント・ウォー>は実感がなくて、あまりにもゲームの世界に見える。

そこが不気味な作品になっていて、あの「ガタカ」で見せたニコル監督の、あのビューティフルなSFの未来映像とは違ったリアリティが不気味で、無味乾燥な恐ろしさがある。

イーサンも、一応はアメリカ空軍の軍人なのだろうが、ジェット機にも乗れずに、まさに産業廃棄物処理工場の工員のように、職務の複雑さに笑顔を見せない冷たさで好演。

 

■ドーム天井まで上がったフライだが、野手のいないエリアにヒット。 ★★★☆

●109シネマズ他でロードショー中。 


●『エベレスト3D』による圧倒的な美しさと、山岳事故死との対面。

2015年10月20日 | Weblog

10月8日(木)13-00 半蔵門<東宝東和映画試写室>

M-129『エベレスト3D』" EVEREST " (2015) Universal Pictures International , Walden Media , Working Titles

監督・バルタザール・コルマウクル 主演・ジェイソン・クラーク <121分> 配給・東宝東和

ちょっと勘違いしそうだが、この作品は、エべレスト登頂の実話再現ドラマであって、記録映画ではなくて、れっきとした本格劇映画。

1996年というから、ほぼ20年前のことだが、3月30日にネパールのカトマンズに集結したニュージーランドの登山ガイドは8人のツアー登山者と共に準備。

名ガイドのジェイソンは、過去にも4年間で、19人もの登山客をエベレストの頂上登頂に成功したベテランで、今回のツアーも楽勝のプランの筈だった。

この映画の凄いのは、そのときの詳細を再現するために、俳優たちにもハードな登山スキルの特訓をしたうえで、3Dカメラや多くの撮影機材を実際にエベレストに持ち込んだ。

だから、ドラマとしては、実際に起きた悲劇をリテイクしながらも、シャープな3Dカメラによって高度な視界を圧倒する、その実際の高山のドローン映像は息を呑むようなリアリティがある。

わたしも若い頃には雲の上の高山に登頂した経験はあるが、このエベレストやマッターホルンのような超レベルの高い山には登るスキルも根性も体力もないので、ただただ息を沈めて見た。

記録映画や、スペンサー・トレイシーの主演した「山」から、クリント・イーストウッドの「アイガー・サンクション」のようなサスペンス山岳映画も沢山見たが、この作品の感動はまったく別。

つまり実際にエベレストに登るというのは、観光でもなければ冒険旅行でもない、それはまさに決死の苦行であって、ただ、そこに山があるから登ろう・・・なんて、半端な発想ではない。

案の定、ドラマのメンバー登山は、案外にスムーズにエベレスト登頂に成功して、さすがに3Dカメラによる、シャープな山頂の実写は、呆気ないくらいに予想したようで、とくに山頂登頂の感動はない。

しかし<行きはよいよい、帰りは怖い>の格言通りに、ドラマは下山の瞬間から一転にわかに雲が出て来て、風が強くなり雪が吹きつけて、スクリーンは真っ白になってくるのだ。

ジョシュ・ブローリン、サム・ワーシントン、それにジェイク・ギレンホールなどのトップ俳優たちも実際に登山して、ロビン・ライトやキーラ・ナイトリーらの家族は本国で連絡を待つのだ。

実際に、このときの遭難では半数の登山家が、それぞれ酸素ボンベの空気を失って失神したり視界不良で滑落したり、雪に埋没したり、それぞれに想定外の事故で命を失って行く。

この映画撮影の時点でも、16人ものシェルパたちが命を失ったというから、たしかにエベレストの驚異というのは、娯楽映画というジャンルを嘲笑し、頑に拒否しているのだ。

ロードショーでは、3D・アイマックスによる上映だというので、この感動は、また大きなスクリーンで見てみたい。

 

■高々と打ち上げたボールが、バックスクリーンの上部スクリーンを直撃 ★★★★☆

●11月6日より、東宝系で全国ロードショー  


●『メイズ・ランナー2*砂漠の迷宮』まさにデジタル映像地獄からの脱出なるか。

2015年10月17日 | Weblog

10月8日(木)10-00 六本木<FOX映画試写室>

M-128『メイズ・ランナー2*砂漠の迷宮』" The Scorch Trials " (2015 ) 20th Century Fox Film Corporation

監督・ウェス・ポール 主演・ディラン・オブライエン <132分> 配給・20世紀フォックス映画

つい先日「メイズ・ランナー」を見て、やっと解放されたばかりと思ったら、何と、その撮影中に企画が同時に進行していたという、シリーズ第2作。

従って、第一作目を見た人には、あの必死の四方壁面地獄からの逃亡を展開した若者たちが、まだ息切れの残るような悪夢の迷宮に、休む間もなく、またも追い込まれるのだから大変だ。

あの「シャイニング」では、狂気のジャック・ニコルソンが、ホテルの庭園にあったシークレット・ガーデンの迷路に迷って、哀れ凍死してしまったが、あの発想が再現。

1作目は、まさに巨大な壁に囲まれて四苦八苦したディラン・オブライエン達の連中が、どうにか壁の地獄を抜け出したのはいいが、彼らを待ち受けていたのは廃墟となった高層ビル街。

どうやら同じフォックス映画の企画部の連中が、「猿の惑星」で人類が滅亡して都会が廃墟になった次元を描いたが、まさにその崩壊の都市に、彼らは紛れ込むのだ。

まるで「進撃の巨人」のような巨大な壁の迷路から逃げ出した少年たちは、「カリフォルニア・ダウン」で崩壊したサンフランシスコのような乾燥したゴミ地獄に投げ出される。

まだこちらの方が、どうにか逃げ道が判りやすくて開放感がある分、あのテレビゲームのような閉所恐怖症気味のわたしなどは、見ていて開放感があっていい。

前作で逃げ切った4人に加えて、この新作では新たに数人の少年たちが加わって連合するのだが、崩壊した巨大ビルの後というのは、電力システムも破損しているので、かなりヤバい。

次々に彼らの前には、やっかいな難題が用意されていて、崩壊した大都市は、より二次災害のような危険がいっぱいで、テレビゲームで磨かれたゲーム感覚がないと判断が遅れる。

という訳で、わたしのような後期高齢世代ではパソコンのゲーム感覚が備わっていないので、ただただアミューズメント・パークのようなスケールに呆然としてしまう2時間12分の疲労がつのる。

やっとその崩壊都市を脱出すると、次には荒涼とした巨大な砂漠が展開して、ああ、あのジョン・ウェインが苦労した「三人の名付親」やペックの「廃墟の群盗」の世界が広がるのだ。

そうか、フォックス映画は、あの50年代の西部劇を素材にして、イメージを広げたのかーーーーと、考えていたら、またも宿題を残して、このトラブルはまた追試験になりそうだ。

リーダー格のディラン・オブライエンは、デヴュしたころのトム・クルーズと同じようなイントネーションで話すので、今後は多いに期待されているタイプだ。

 

■ライナーが左中間を抜けて、俊足でのツーベースヒット。 ★★★☆☆

●10月23日より、TOHOシネマズ新宿ほかでロードショー 


●『コードネームU.N.C.L.E.アンクル』で、あのナポレオン・ソロの子孫が奮闘。

2015年10月15日 | Weblog

10月6日(火)13-00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-127『コードネームU.N.C.L.E.アンクル』" The Man From Uncle " (2015) Warner Brothers / Davis Entertainment

監督・ガイ・リッチー 主演・ヘンリー・カビル <116分> 配給・ワーナー・ブラザース映画

60年代の連続テレビ活劇「ナポレオン・ソロ」シリーズは、あの時代のヒーローで「ミッション・インポッシブル」のベースになった「スパイ大作戦」と人気を競ったものだ。

たしかに、ロバート・ヴォーンとデヴィッド・マッカラムのコンビは対照的でかっこよかったし、その痛快でテンポのいい展開は、ジェームズ・ボンドのベースになった。と、思う。

当時は「アンクル」というスパイ組織の存在よりも、アメリカ側の諜報員だったロバート・ヴォーンの勇姿が人気で、のちにスティーブ・マックイーンの「ブリット」などでも味があった。

が、一方でロシア側のスパイだったデヴィッド・マッカラムも女性ファンが多くて、あのブロンドと微笑は今でも思い出せるほど、このコンビはいい勝負だったのだ。

だからこの新作も、あの60年代の、米ソ冷戦時代の背景を活かしつつ、かなりスタイリッシュに、しかもコミック漫画のスクラップ感覚で突っ走るので、オールドファンには嬉しいのだ。

つまり、あの時代のモノラルLPレコード時代の骨董品を、いまのデジタル・サウンドの映像に変換したという懐かしさと、ありがた味があって、まさにノスタルジック活劇の復活。

でもテクニシャンの「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」のシャープなガイ・リッチーが監督なのだから、さすがにあの時代の感覚を巧みに再現調味して魅せる。

おそらくは「シャーロック・ホームズ」のモダナイズが好評だったので、かなり自信を持ってのリサイクルだろうから、宿敵リュック・ベッソンへの挑戦状ともいえるだろう。

まだ米ソが睨み合っていた時代だから、ケネディの表面上の苦労も知らずに、この国際秘密捜査機関<ユナイテッド・ネットワーク・コマンド・オブ・ロウ・アンド・エンフォースメント>は奮闘。

ジェームズ・ボンド氏も、広い意味では、この<アンクル>に協力していたのだろうが、作品のミソは、アメリカのソロ諜報員と、ライバルのソ連スパイのイリヤとの意地の張り合いなのだ。

まったくファッション感覚もキャラも違うライバル同士が、必死に追っかけ子とかくれんぼを繰り返すのが、ハイテンポのデジタル感覚で疾走する映像感覚は、懐かしくも大変目まぐるしい。

二人のライバル・スパイは、まさにバディ・ムービーの<かくれ友情>で微笑ましいが、機関のシニア・エイジェントで、おっと、ヒュー・グラントも顔を見せていて時代を感じてしまう。

ま、当時のテレビファンには、あまりにもハイテンポな映像とサウンドの炸裂だが、これも<年寄りの冷や水>と覚悟して愉しむのもいい。

 

■お待たせヒット・エンド・ランのサインで、見事にそれぞれ進塁。 ★★★☆☆

●11月14日より、新宿ピカデリー他でロードショー


●『レインツリーの国』難聴障害を乗り越える二人のコミニケーション。

2015年10月13日 | Weblog

10月6日(火)10-00 渋谷<ショウゲート試写室>

M-126『レインツリーの国』” Raintree County " (2015) コクーン、関西テレビ放送、ショウゲート

監督・三宅喜重 主演・玉森裕太 原作・有川浩 <114分> 配給・ショウゲート

とっさに思い出したのは、1957年にエリザベス・テイラーが主演した大作<レインツリー・カウンティ>で、邦題は『愛情の花咲く樹』だから、古いなー・・・。

偶然じゃないとは思うけれど、<レインツリー>というのは、幸福をもたらす樹のことで、東洋の伝説から生まれたという、実際にはアメリカ南部にある地名らしい。

しかしベストセラー「図書館戦争」の原作の中から生まれたこの原作は、それとは関係がなく、自身のブログにそのタイトル名を使っていた障害のある女性のラブストーリーで、まったくの別物。

もともとは「フェアリー・ゲーム」という小説が好きだった玉森青年は、引っ越しの際に、失われた下巻のストーリーを知るべくネットで調べていて、同じ趣味のブログに行き当たる。

で、そのブログの発信した女性と意気投合して、よくあるケースで、とうとうデートすることになったが、会ってみると西内まりや演じる女性は、清楚だが、やたらと注文が多いのだ。

なるべく静かなカフェが好みで、映画は字幕付きの洋画でないとNG。そこまではいいのだが、混んでいたエレベーターに乗った時に、他人の苦情が聞き取れなかった。

それがもとで、初めてのデートは破綻となったが、大阪出身の玉森青年は、そのデートの最中にも、いろいろと意思の疎通がうまく行かなくて、彼女に違和感を感じていた。

実は、彼女は感音性難聴という聴覚の障害を持っていて、高い音が聞き取れずに、彼とのデートも彼の声だけは聞き取れるので会う事にしていたが、他のサウンドには問題があったのだ。

だから、ブログでの通信を好んでいて、あまり異性とのデートや合コンなどは避けていたという、一種の孤独なる障害者だった、ということが、映画では段々に判って来る。

ま、障害者や重病人とのラブストーリーは多くて、難病映画や末期がんなどをテーマにした作品も多くなったが、そこには暖かい温情や愛情確認が判りやすく描かれるので、たしかに感動作品は多い。

しかしこの作品は、それほど致命的な重い病気でも障害でもなく、ふたりの関係も、ふたりの理解のもとに再開されていくという、よくある感動ものではあるのだが、かなりモドカしい。

後期高齢者には、どうも退屈する青春ドラマだったが、それでも隣の席の若い女性は大泣きしていたので、ま、愛は障害を乗り越える、・・・というコンセプトは通じたようだ。

 

■ボテボテのゴロがピッチャー後逸で、セカンドがフォロー ★★★

●11月21日より、新宿ピカデリーなどでロードショー 

  

●旅先のガールフレンドは、実の娘だったという『ボイジャー』が9月のサンセット座ベスト。

2015年10月11日 | Weblog

9月の<ニコタマ・サンセット傑作座>上映ベストテン

 

*1・『ボイジャー』91(フォルカー・シュレンドルフ)サム・シェパード<LD>

   50年代のパリで、旅行ライターのサムは若い女性と意気投合してローマまでドライブのあと、ギリシャで元妻と会うが、同行した娘は事故に遭って死んでしまう。

 

*2・『黒い瞳』87(ニキータ・ミハルコフ)マルチェロ・マストロヤンニ<LD>

   渡航中の客船のバーで知り合った男は、ロシアに商用で行ったときに恋をした美女の話をするが、実は彼は給仕で、話を聞いていた旅行者の妻は、その女性だった。

 

*3・『エヴァの匂い』62(ジョセフ・ロージー)ジャンヌ・モロー <LD>

   ヴェニスのトルチェロ島にヴィラを持っているプレイボーイは、コールガールのエヴァを連れ込むが、彼女はかつて彼に騙された過去があり、復讐に来たのだった。

 

*4・『おもいでの夏』71(ロバート・マリガン)ジェニファー・オニール <LD>

   戦時中のロングアイランドで、少年達は夏休みの海岸で退屈を紛らわせていたが、美女の主婦の手伝いをしたご褒美にディナーに招待された夜に、夫の訃報が届いた。

 

*5・『さらばベルリン』06(スティーブン・ソダーバーグ)ジョージ・クルーニー <DVD>

   大戦後のべルリンに、殺された諜報員の調査で赴いた捜査官は、まだ遺された廃墟のなかに遺された多くの戦争犯罪の未解決事象に衝撃を受けた、という後日談。

 

*6・『影武者』80(黒澤明)仲代達矢<VHS>

*7・『ブロードウェイ・ダニーローズ』84(ウディ・アレン)ミア・ファーロー <VHS>

*8・『悪魔をやっつけろ』53(ジョン・ヒューストン)ハンフリー・ボガート <DVD>

*9・『呪いの血』46(ルイス・マイルストーン)バーバラ・スタンウィック <DVD>

*10・『幻の女』44(ロバート・シオドマーク)フランチョット・トーン <VHS>

 

*その他に見た傑作は

●ハワード・ホークスの『男性の好きなスポーツ』

●デヴィッド・ジャンセンの『消えた拳銃』 

●フリッツ・ラングの『地獄への逆襲』

●ジョーン・フォンティーンの『情炎の海』

●ジョン・ウェインの『丘の羊飼い』・・・・などなど。

 

やはり、つい近所にオープンした<109シネマズ二子玉川>の新作家族向けプログラムに反抗しての選択になりました。