細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『サーチャーズ 2.0』の哀しい夕陽のギャングたち。

2008年10月31日 | Weblog
●10月30日(木)13-00 京橋<映画美学校第一試写室>
M-125 『サーチャーズ 2.0』Searchers 2.0 (2007) BBC films 米
監督/アレックス・コックス 主演/デル・ザモーラ ★★★☆☆
まさに映画おたくの、究極の映画バカを描いたコメディだ。
だからジョン・ウェインの西部劇からペキンパ、クリント・イーストウッド、セルジオ・レオーネの映画を全部見ていないと、このシナリオはさっぱり面白くないだろう。
往年の脇役俳優が二人、むかしスタジオで苦い思いをしたシナリオ・ライターに個人的な恨みを持って、その復讐のために、ロスからアリゾナのモニュメント・ヴァレイまでドライブする。
あの『悪人と美女』のような話だが、『イージー・ライダー』の気分。
しかもジョン・ウェインの『捜索者』のイメージなのだから、重症の映画病ロードムービー。
わたしも同病だから否定はしないが、もっと重病な患者を見ている辛い気分もある。
ま、社会批判をしたり、マイケル・ムーアをコケにするのはいいが、あの赤い大峡谷の美しさと、哀しくも「おかしな二人」につきあって楽しかった。

●2009年1月10日より、渋谷アップリンクなどで公開

●『ホルテンさんのはじめての冒険』は新しい自己発見。

2008年10月30日 | Weblog
●10月29日(水)13-00 東銀座<シネマート試写室>
M-124 『ホルテンさんのはじめての冒険』O'Horten (2007) norweigian film fund ノルウェー
監督/ベント・ハーメル 主演/ボード・オーヴェ ★★★☆☆
67才で定年の日を迎えた寡黙で実直なポッポ屋の、ノルウェー版『鉄道員』だ。
たったひとりの家族の老母はホームにいるが息子を認知できない。こうして彼は、とうとう年金生活の孤独な老人となる。
鉄道一筋で、ダイヤのように正確な人生の歯車が、その日から次第に狂い出す。
全裸でプールで泳いだり、元外交官だと名乗る老人の部屋から隕石を盗み出したり、夜中にスキー・ジャンプをしたり、奇行が目立つようになる。
あの名作『アバウト・シュミット』のように計画性のないホルテン氏は、それでも至って飄々と生きる。
そのノホホンとした感覚が、このハーメル監督の前作『キッチン・ストーリー』と同様にスローライフを淡々と泳いで行く。
北欧の楽天的な国民性なのだろうが、シニアのためのファンタジーとして見ると心も和む。
人生には、まだやりたいことをする時間はあるのだ。

●2009年1月、BUNKAMURA ル・シネマでロードショー

●『きつねと私の12ヶ月』少女のきつねへの片思い

2008年10月28日 | Weblog
●10月27日(月)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-123 『きつねと私の12ヵ月』Le Renard et L' Enfant (2007) france 3 cinema 仏
監督/リュック・ジャケ 主演/ベルティーユ・ノエル=ブリュノー ★★★
ドキュメンタリーの傑作「皇帝ペンギン」のジャケ監督が、きつねと少女の出会いをドラマとして演出。
さすがにきつねの行動を入念にカメラに収めた執念はいいが、やはりフィクションとなると、ヤラセの演出にテレがあるのか、一連の動物ドラマのようにはいかない。
フランス・アルプスの山荘に住む少女のひとり芝居にしたのも負担が多すぎた。
家族の姿をカットした分、きつねの行動を多く見せようとした狙いはわかるが、あまりにも少女の冒険心が奔放なので、逆に家族の心配が気になって来る。
ひとりの少女のファンタジー童話として見ればいいのだろう。

●1月10日より、新宿ピカデリーなどでロードショー

●『1408号室』には絶対に泊まってはいけないのに・・・。

2008年10月24日 | Weblog
●10月23日(木)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-122 『1408号室』' 1408 '(2008) MGM/ dimension film
監督/ミカエル・ハフストローム 主演/ジョン・キューザック ★★★☆
またしてもスティーブン・キング原作の短編ホラーの映画化。
秀作『シャイニング』と似たような設定だが、今回はマンハッタンの大ホテルの1408室だけに自殺者や怪奇的な事件が起こるという、一種のオカルト怪談。
子供に死なれてから別居中のキューザックは、心霊現象などを探索して、その背景を解明することをテーマにした本を書いている作家。
まるでアルゴンキンやカーライルやレキシントン・ホテルのような古いホテルは、たしかに怖い。
ひとりでそんなホテルに泊まっていると、いかにマンハッタンとはいえ、気味が悪いものだ。
突然鳴り出すラジオ。壁からもれる子供の泣き声、時間がさかのぼる目覚ましタイマー、異様な壁画。
気になるものは沢山ある。だから着想は面白く、次第に不思議な現象が現れる展開もいい。
問題は彼の記憶と、怪奇現象の着地に曖昧さが残ることだ。
ホテルのマネジャーのサミュエル・L・ジャクソンがせっかく面白い存在なので、もっとドラマに絡んで欲しかった。キューザックの独演は、個人的な被害妄想に終わってしまうからだ。残念な怪作だ。

●11月22日より、渋谷東急などでロードショー

●『アンダーカヴァー』の上質で哀愁のノワール・タッチ

2008年10月22日 | Weblog
●10月21日(火)13-00 東銀座<シネマート試写室>
M-121 『アンダーカヴァー』The Undercover (2007) columbia 米
監督/ジェームズ・グレイ 主演/ホアキン・フェニックス ★★★★
80年代のニューヨークを舞台にした警察官家族の愛情物語だ。
『リトル・オデッサ』や『裏切り者』などのグレイ監督としては、同じ傾向の作品だが、今回は警官とやくざ者になった兄弟の愛憎ドラマを、父親で署長のロバート・デュバルの好演が、非常にレベルの高い人間ドラマに持ち上げている。
ロシアン・マフィアの麻薬捜査で父が殉職したことで、弟のホアキンは暗黒組織の情報をアンダーカヴァーとして兄に届けて、命がけで父の復讐を誓う。
非常に単純なストーリーを、シャドウの深みとロングショットを活かして、グレイ監督は哀愁味の濃いフィルムノワールに完成している。カメラワークの美意識は、デビッド・フィンチャーに肉薄した。
久しぶりに腰の安定したおとなの暗黒なホームドラマである。

●12月下旬、渋谷東急などでロードショー

●『ワールド・オブ・ライズ』どちらの嘘が本当なのか。

2008年10月21日 | Weblog
●10月20日(月)13-00 内幸町<ワーナーブラザース試写室>
M-120 『ワールド・オブ・ライズ』Body of Lies (2008)warner brothers
監督/リドリー・スコット 主演/レオナルド・ディカプリオ ★★★☆☆☆
9-11のあと、イラクを戦渦に巻き込んだテロ組織タリバンやアルカイダなどのアジトは、まるで荒野のもぐら叩きのようだ。
ラッセル・クロウ演じるC.I.A.指令官は、イラクでその内偵をしている捜査官ディカプリオに携帯電話で行動を指示しているが、刻々と情勢の悪化するサモアやバグダッドでは、毎日テロが横行している。
そこでロンドンやアムステルダムで頻発したテログループをあぶり出すために、インターネットで嘘の情報を流して、彼らの行動を無人探査機からの空中映像から検索する。
まさにアラブでの近代戦争の現場に置かれたような、ド迫力ある臨場感は『ブラックホーク・ダウン』の監督らしく、流石である。
ストーリーは、偽の情報が交錯するサスペンスだが、現地情報を基にしたフィクションとして、現状がかくも混乱しているであろうことは充分に予測のつく臨戦アクション映画。
タイトルの意味は「嘘の体質」というのだろうか。人間は嘘をいう凶悪な野獣なのだ。
とくにアンマンの情報局の謎めいた行動には見るべきものがあった。

●12月下旬、松竹系でロードショウ

●『その日のまえに』宮沢賢治を読まなくては・・・。

2008年10月17日 | Weblog
●10月16日(木)13-00 紀尾井町<角川映画試写室>
M-119 『その日のまえに』(2008) WOWOW 角川映画
監督/大林宣彦 主演/南原清隆 ★★★☆☆
またしても若くして逝かざるをえない妻と、その家族の話だ。
佳作「死ぬまでにしたい50のこと」のように、主婦は整然と冷静に「その日」を待つ。
ジタバタしないのはいいが、あまりにもクールな行動に、こちらも戸惑ってしまった。
夫の苦しみは理性で抑えられるが、ふたりの男の子の心は悲惨な筈だ。
恐らく重松清の原作がそうなのだろうが、重病の労苦を絶対に見せまいと言う作為は判らんでもない。
でもその冷静さが、よけいに宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」のイメージをファンタジーにしてしまっていて、見てる側の感情までも滑らかにしすぎたようだ。
これが大林映画だといえば、そうなのだ。
まさに家族の不幸を童話のような美談に換えたセンチメンタルな寓話なのだろう。

●11月1日より、角川シネマ新宿などで公開。

●『8月のランチ』は庶民的なイタリアンおふくろの味

2008年10月16日 | Weblog
●10月15日(水)13-00 京橋<映画美学校第一試写室>
M-118 『8月のランチ』Pranzo di Ferragosto (2008) archimede italy
監督/主演/ジャンニ・ディ・グレゴリオ 共演/マリア・カリ ★★★☆☆
ローマの夏休み。
それぞれがバカンスに出かける祭日に、気のいい、ぐうたらな中年男のアパートに、友人たちが老母を預けてしまった。
断れないままに、預かった老嬢3人と老母の世話を見ることになったジャンニは、それでも健気に面倒を見る。
監督は実際の母親の面倒は見れないというが、これはその償いのためのファンタジーだろう。
とくに不満も言わずに、わがままでボケのある4人もの老婆とのランチは、まるで幼稚園だ。
しかしその時間につきあわされる我々も、自然にその温かい団らんの空気に馴染んでしまう。
ナンニ・モレッティほど痛烈ではなく、このイタリアらしいタッチは、デ・シーカに近い。
自作自演の監督はいい仕事をした。

●東京国際映画祭で上映。来春ロードショウ

●『ザ・ムーン』月の砂漠を遥々と・・・・

2008年10月15日 | Weblog
●10月14日(火)13-00 六本木<アスミックエース試写室>
M-117 『ザ・ムーン』In the Shadow of the Moon (2008) channel 4 U.K.
監督/デヴィッド・シントン 出演/月面着陸宇宙飛行士たち ★★★☆
初めての人間による月面着地から40年が経った。
いろいろな憶測もあったり、社会的な不況やテロ問題などで、NASAの宇宙計画もその後は縮小されて、最近はスペースシャトルの打ち上げにも大して関心がなくなったようだ。
この作品は、60年代の宇宙開発への熱気と、当時の秘蔵映像で、実際の月の様子を、月面歩行をした飛行士たちに回想してもらう、というもの。
そのことで、今抱えている地球温暖化や自然破壊の歯止めをしようという、意識を強くしようと言う狙いがあるようだ。
たしかに当時のテレビ中継を見た世代以降の若い人たちには、人間が月に上陸した実感もないはずで、この映画でその映像を再度確認するものだろう。
従って、期待したような新発見のサプライズはさほどなく、パイロットの談話にも新鮮味はあまりない。
ただ「地球は奇跡的に美しい惑星だ。・・・」ということに尽きる。

●2009年1月、六本木TOHOシネマなどで公開。