細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●12月の試写ベスト/3

2009年12月30日 | Weblog
●12月に見た新作試写/べスト3

1/『インビクタス/負けざる者たち』監督/クリント・イーストウッド、主演/モーガン・フリーマン
   ★★★★☆☆ 
   アパルトヘイト後に南アフリカで開催した国際ラグビー試合を重視したマンデラ大統領の勇気。

2/『マイレージ、マイライフ』監督/ジェイソン・ライトマン、主演/ジョージ・クルーニー
   ★★★★
   会社のリストラ通告人は毎日の出張でホテル暮らし。その彼もついに独身人生の転換期に直面した。

3/『バッド・ルーテナント』監督/ヴェルナー・ヘルツォーク、主演/ニコラス・ケイジ
   ★★★☆☆☆
   荒廃したハリケーンの街で殺人捜査をする警部補は、悪辣な手段で犯人を徹底的にあぶり出す。

☆その他に見た傑作
『抱擁のかけら』ペドロ・アルモドバル監督
『サベイランス』ジェニファー・リンチ監督

●2009年は、140本の試写鑑賞でした。年間ベストテンは年明け早々に。

●『サベイランス』はリンチ家伝来の驚愕スパイラル地獄映画。

2009年12月26日 | Weblog
●12月25日(金)13-00 京橋<映画美学校第二試写室>
M-140 『サベイランス』Surveillance (2007) see film カナダ
監督/ジェニファー・リンチ 主演/ビル・プルマン ★★★☆☆
とにかくデヴィッド・リンチが愛嬢のジェニファーの作品をプロデュースしているのだから、すべてのシーンが気が抜けないような狂気に満ちている。
サンタ・フェで起こった猟奇殺人事件に、ふたりのFBI捜査官が来て、地元警察の協力でビデオカメラによる尋問が始まる。
ところが数人の容疑者たちの口述がそれぞれに異なるので、一向に事件の真実は薮の中。
一方で、ハイウェイパトロールでスピード取締りをしていた二人の警官も事故に巻き込まれて一人が死亡する。それぞれの事件が、どうも関連がありそうなのだ。
さすがはリンチ家のタッチが、「ロスト・ハイウェイ」のような非現実の悪夢へと転落していく様相が、後半は地獄絵となっていく。その落差には鳥肌が立った。
まさに「天使と悪魔」のハイウェイ版で、プルマンのサポートをするジュリア・オーモンドも役者根性を発揮しているのが驚きだ。交通事故で長期入院していたという監督の魔性が再現されたような、リンチ・ファンには見逃せない地獄映画だ。

●3月、シアターN渋谷でロードショー

●『オーシャンズ』で不思議な深海の探検は、かなりサムイ。

2009年12月25日 | Weblog
●12月24 日(木)13-00 六本木<シネマートGAGA試写室>
M-139 『オーシャンズ』Oceans (2009) pathe 仏
監督/ジャック・ペラン&ジャック・クルーゾー ★★★☆☆
世界の海の生物の神秘を、最新のカメラ技術で、魚視線で撮ったドキュメンタリー。
われわれが決して見ることの出来ない深海の生態には魅力はあるが、やはり海の中だけの視界は限界がある。そのハンデをスタッフはカバーしようと努力しているが、編集が平板なのか、ストーリー性が煩雑で、あの「WATARIDORI」のような感動は稀薄だった。
それでも、こうした映画を通じて平和論を展開しているジャック・ペランの熱意は共感できた。
寒い冬に公開するのは、ちょいともったいない。
せめて熱い季節に見たかった。

●1月22日、TOHOシネマズ日劇などでロードショー 

●『バッド・ルーテナント』の精神衰弱ギリギリの殺人捜査線。

2009年12月23日 | Weblog
●12月22日(火)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-138 『バッド・ルーテナント』Bad Lieutenant (2009) millennium films 米
監督/ヴェルナー・ヘルツォーク 主演/ニコラス・ケイジ ★★★☆☆☆
92年に公開された悪徳刑事映画のリメイク。
凶悪な一家5人の殺人事件を担当するニコラス刑事は、ハリケーンのあとのニューオーリンズでは水害の監獄で囚人も救ったことで表彰もされた敏腕のベテランだが、捜査にあたっては悪人顔負けな荒っぽさだ。
凄惨な事件に麻痺した日々で、麻薬押収や恐喝暴行は日常茶飯事だ。
あの「トレーニング・デイ」のデンゼル刑事よりも凶暴な警部補だから、その捜査は狂人のように悪質非道だ。
腰痛も悪化して、悪名高い悪徳警官の神経も次第に狂気を帯びて、犯罪者たちまでもビビってしまうほどだが、彼にも恋する女性もいた。そしてギリギリの正義感もまだ失っていない。
その神経衰弱ギリギリの刑事を、ニコラスは久しぶりに本来の演技力を発揮。
あの名作「フィツカラルド」などでも、人間の狂気の境界線を描いたヘルツォーク監督は、カラフルなイグアナの姿に、刑事の狂気をヴィジュアライズしたりして、テンションは最後までブレないのは凄い。
さすがは異色の巨匠。タフで立派なアウトロー刑事映画を魅せた。

●2月、恵比寿ガーデンシネマでロードショー

●『フィリップ、きみを愛してる』は悲壮なゲイの愛情物語。

2009年12月22日 | Weblog
●12月21日(月)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>
M-137 『フィリップ、きみを愛してる!』I Love You Phillip Morris (2009) europe/ mad chance
監督/グレン・フィカーラ+ジョン・レクア 主演/ジム・キャリー ★★☆☆☆
結婚して子供もいるのに、ゲイとしてのセックスライフを奔走する男の実話だという。
相手のユアン・マクレガーとの愛のために、あらゆる詐欺や偽装行為を繰り返すジムの日常は、あまりにも破天荒で出来過ぎなので、コメディとしては可笑しいが、やはり実話となると笑えない。
一番に妙なのは、この作品がリュック・ベッソンのフランス資本で作られている辺りで、これも恐らくハリウッドとしては不可能な企画だったのかもしれない。
それならフランスで作った方が本格的なラブストーリーになったのかも。と案ずる。
とにかく、エイズによる死までを演出して、あの『フィラデルフィア』みたいに、ここまでゲイの愛情関係を本気に描かれると、さすがに戸惑ってしまって、あまり真実とは思えないが。
しかし、これが今の現実の恋物語であることも、事実なのだ。

●3月中旬、恵比寿ガーデンシネマなどで公開予定。

●『インビクタス/負けざる者たち』異人種な人間達の共感を探る努力の結晶。

2009年12月19日 | Weblog
●12月18日(金)13-00 内幸町<ワーナーブラザース試写室>
M-136 『インビクタス/負けざる者たち』Invictus (2009) warner brothers
監督/クリント・イーストウッド 主演/モーガン・フリーマン ★★★★☆
1995年に、南アフリカで開催された国際ラグビー大会に出場した弱小の地元チームは、アパルトへイト後に就任間もないマンデラ大統領の不屈の尽力で、決勝戦を強豪ニュージーランドと闘った。
政治は国民相互の団結と使命感の共有が重要だと考えた大統領は、このスポーツイベント振興のために、私的な時間や収入までも注いで自国の選手たちの練習と、闘志の高揚に専心する。
実話だからストーリーは決まっているのだが、相変わらずイーストウッド監督は、流暢な演出と大胆なアイデアでドラマを一直線に疾走させ、またしても感動のラストを見事に飾る。
とにかく、お見事としか言えない圧倒的な映画的演出力だ。
大統領を演じるモーガンも、チームのコーチを演じるマット・デイモンも、ひとつの夢と理想に掛ける熱意は非常にシンプルで美しい。爽やかだ。
きめの細かな異人種の人間同士の配慮は、とくに前政権下のシークレット・サービスと、新任たちとの気まずい交流を通じて、スポーツにも似た心の団結を形成していく。その過程が感動を支えていた。
超満員のスタジアムにジャンボジェット機が降下してくるエピソードなどは、実際にはなかったかと思うが、その意外な迫力などは、さすがクリント監督ならではの豪快な見せ場だ。
恐らくは多くのアカデミー賞にノミネートされるであろう感動の力作である。

●2月5日より、丸の内ピカデリーなどでロードショー

●『倫敦から来た男』の催眠術のような長まわしマジック。

2009年12月18日 | Weblog
●12月17火(木)10-45 渋谷<イメージフォーラムRS>
M-135 『倫敦から来た男』The Man From London (2007) ハンガリー
監督/タル・ベーラ 主演/ミロスラヴ・クロボット ★★★☆
大好きなジョルジュ・シムノンの原作なのに、試写を見れなかったので、劇場に出向いた。
しかし期待と違って、この作品は、特にミステリーでもノワールでもなく、漆黒の埠頭操車場で夜勤する中年の男の沈滞した心の中に迫ろうとした心層ドラマであった。事件はあり、ダークな男たちが出るが、とくにスタイリッシュではない。
孤独で厳寒な男の夜間仕事は、船で着いた乗客や列車の発着を見守るだけの単純な監視の日々なので、家庭でも家人からは孤立した生活だ。とくに妻を演じたティルダ・スウィントンは唇を痙攣させての好演だ。
その遅々とした時間を、監督は執拗なカメラの長まわしで、見る者にも倦怠感を体感させようとする。
それは一種の催眠術のようなアプローチだが、どこにも切迫したショットがないので、映像的なサスペンスは回避しているのだ。これでは原作文学の行間を読むにしても気怠くなる。
どこかカフカ的であり、ラース・フォン・トリアの『ヨーロッパ』のようでもあるが、この沈着したトーンは東欧の空気感なのだろう。
お好きな向きには、枯葉の落下を待つようなユニークな作品も、いいかもしれないが。

●渋谷、イメージフォーラムで公開中

●『マイレージ、マイライフ』は逆説頓挫のアメリカン・ドリーム。

2009年12月16日 | Weblog
●12月15日(火)13-00 神谷町<パラマウント映画試写室>
M-134 『マイレージ、マイライフ』Up in the Air (2009) paramount
監督/ジェイソン・ライトマン 主演/ジョージ・クルーニー ★★★★
空路での出張が多すぎてか、中年のジョージはいまだに独身主義者で家もない。
ほとんどが飛行機とレンタカーの移動とホテル住まいの毎日は、旅なれた高給ホームレス。
仕事は、巨大な大手各社の社員リストラ通告と説得講演だ。夢は出張での飛行機とホテルのマイレージを貯めること。とにかく人生に荷物は不要というのが、彼の信条なのだ。
時代を反映して、アメリカ各地での大型リストラは後を絶たない。それだけ彼の仕事は繁盛している。
しかしここで彼の生活を脅かす<恋と結婚>の課題が、突然に浮上したのだ。
監督は、これまでにも禁煙や未婚出産の問題をテーマに、軽いコメディタッチで上質な作品を作ってきたが、今回のテーマはもっと複雑だ。
深刻なリストラ問題は間接的で、大きな問題は、彼のこれまでの自由気ままな人生への見直しなのである。
彼なりには幸福でトラブルもなく、順風満帆のプライベイト生活も、他人との関係で持続が難しくなって来た。果たして彼のアメリカン・ドリームは、これでいいのだろうか。
昔ならフランク・キャプラ監督がジェームズ・スチュワート主演で撮っていたようなテーマを、親子監督のアイヴァンとジェイソン・ライトマンは、実に巧妙なシナリオで上質なコメディに仕立てた。
これが本来のアメリカ映画の上等な資質なのだ。

●3月20日より、TOHOシネマズ シャンテでロードショー

●『コララインとボタンの魔女』のブラックでダークな恐怖世界。

2009年12月15日 | Weblog
●12月14日(月)13-00 六本木<シネマート六本木試写室>
M-133 『コララインとボタンの魔女』Coraline (2009) focus laica 米
監督/ヘンリー・セリック 主演/声/ダコタ・ファニング ★★★☆☆
傑作「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」のセリック監督が、またしてもコマ撮りアニメで時間をかけた労作だ。
都会を離れた一軒家に引っ越して来た少女コララインは、忙しい両親が遊んでくれないので、広い屋敷を探検して、封印されていた小さなドアを発見する。
少女の夢と理想を叶えるような素敵な家族との世界が、ドアの向こうにはあったので、彼女は毎晩のように、そのドアの向こうに遊びに出かける。麻薬のような誘惑には魅惑が多い。
しかし、その理想の世界に住むには、両目をボタンに付け替えなくてはならない。
夢を手にするには相当のリスクと危険が要求される。そして一旦その甘い生活を知ってしまうと、もとに戻るには悪女と対決しなくてはいけないのだ。
まさに悪夢のような「不思議の国のアリス」が、例によってシュールな地獄絵となって襲いかかる。
これは少女には恐ろしすぎるイメージで、おとなのための教訓ともとれるほど、そのヴィジュアルは怖い。
セリックのブラックな地獄漫画は、カラーの3Dで迷走していく。
マイケルの「スリラー」のサウンドの似合いそうな世界だ。

●2月、TOHOシネマズ六本木などでロードショー

●『50歳の恋愛白書』というよりは人生修復のすすめ。

2009年12月09日 | Weblog
●12月8日(火)13-00 六本木<シネマートGAGA試写室>
M-132『50歳の恋愛白書』The Private Lives of Pippa Lee (2009) plan B 米
監督/レベッカ・ミラー 主演/ロビン・ライト・ペン ★★★☆
作家アーサー・ミラーの娘のレベッカが『プルーフ・オブ・ライフ』に次いで脚本を書き監督したから、当然、ヒロインの母親像にはマリリン・モンローの面影がちらつく。当人は関係ないが、父の苦悩は見ていた筈で、そのメンタルなアンバランスが、この映画の女性像に頻繁に見られる。
まともな強い精神性を持った健康な人間は、この映画にはひとりも出ないのが、この作品の面白さでもあろう。それが現代の人間社会だというのも、まさにおっしゃる通り。
しかし演出は逆に整然と知的にまとめようとしたのか、せっかくの異常さが弱められてしまっている。
その中ではひとり唐突だがモニカ・ベルッチだけが、日常の狂気を放出して印象的だった。
個性的で多彩なキャストも豪勢で、アンサンブル・ドラマとしては無難だが、強い主軸になるキャラクターがないのが残念。調理が素材に負けたようだ。
同じ話でもニック・カサベテスの『ミルドレッド』のような強烈な決断が見たかった。

●2月から、TOHOシネマズ みゆき座などでロードショー