細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ハウス・オブ・カード/野望の階段』の2エピソードのみ、つまみ食い。

2014年05月30日 | Weblog

5月27日(火)10-00 神谷町<SONY映画試写室>

M-056『ハウス・オブ・カード/野望の階段』"House of Cards" (2013) MRC2 distribution company / sony pictures

監督・デヴィッド・フィンチャー 制作・主演・ケビン・スペイシー <100分> 提供・ソニー・ピクチャーズ ★★★☆

このところ、スティーブン・ソダーバーグ、フランク・ダラボンや、このデヴィッド・フィンチャーなどの、ハリウッド大物一級監督がテレビ・ドラマに進出が目立つ。

というのも、ハリウッド映画の制作が膨大な制作費をかけた大作で世界配給を目指すために、リスクが大きくてプレッシャーも強いので、巨匠たちは遠慮がちなのだ。

これもテレビのための13時間にも及ぶ政治サスペンスだが、ほぼ90分で、ひとつのエピソードにまとめられていて、今回はその13章がDVD発売される。

で、今回はそのプロモーションを兼ねて、最初のエピソード2話分が、ソニーの試写室でお披露目というので、駆けつけた。だって、フィンチャーだろ・・・が。

フィンチャー監督自身もプロデュースしているシリーズで、ケビン・スペイシーがワシントン下院の院内幹事の政界策士を演じているポリティカル・サスペンス。

次期国務長官のポストを狙っていた彼は、突然にその野望を外されて憤慨。突然に変動したホワイトハウス側の動きを探るべく、新聞社も巻き込んで独自に捜査をしていく。

時々カメラ目線で、愚痴をこぼすケビン・スペイシーの囁きが、いかにもテレビ映画的な演出で面白い。

昔から特にアメリカでは人気のある政界暴露ものだから、このエピソードは、たしかに面白くて興味をそそられるのだが、そこは一話が55分という枠があって、ちょいと食い足りない。

国務長官選挙を巡っては、ヘンリー・フォンダ主演の「野望の系列」が面白かったが、あの作品でチャールズ・ロートンが演じた疑惑の議員が、このケビンの役回りだ。

映画ではフランケンハイマー監督の「5月の7日間」のような、院内疑惑の大統領サスペンスの傑作があったが、ここでは、エピソードのタイムリミットがリスクになっている。

せっかく面白くなったのに、55分で強制終了して、別のエピソードに移る。これはテレビ映画の宿命で、結局は中編ドラマのつなぎとなってしまう、その不満が残るのだ。

あのヒッチコック劇場だって、かなり秀逸なエピソードはあっても、2時間の映画には適わない。2つのエピソードを続けて見ても、その不満は消えない。

ま、それでもさすが、フィンチャーの演出だから退屈はしない一級サスペンスだ。まさに回転寿司の感覚でつまみ食いするのもいいだろう。

 

■初球を狙っての、予想通りのセンター返し。

●6月4日、初回13話分、DVD,ブルーレイ全国発売。  


●『バトル・フロント』はスタローンの代打でジェイソンが奮闘。

2014年05月28日 | Weblog

5月23日(金)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>

M-055『バトル フロント』" Homefront " (2013) millenium films / home front production

監督・ゲイリー・フレダー 脚本+制作・シルベスター・スタローン 主演・ジェイソン・ステイサム 提供・ハピネット・ショウゲート ★★★☆

シルベスター・スタローンは「ロッキー」のシナリオも書いてアカデミー賞受賞したことがあるが、この作品も自分が出演するつもりで書いたという。

 しかし、悪友仲間との「エクスペンダブル」シリーズも撮影の予定がダブったりして、この企画はプロデュースに回ったらしい。

でも、やはり、実際にこれだけのアクションでは、もう老齢シルベスターには無理があるだろうし、裏方に徹したのは「正解」だったろう。

若い妻を病気で亡くしたジェイソンは、CIAのアンダーカバー。しかし潜入捜査官を辞して、9歳の娘と一緒に、妻の故郷ルイジアナのド田舎で静かに暮らすことにした。

恐らく退職金で買った古い廃家を、自分で修復して育児に専念しようとしたのだろうが、学校で娘がイジメに合い、そのトラブルから火種が広がり、過去の犯罪捜査で殺害した仲間が復讐にやってくる。

ロバート・B・パーカーが書いた「警察署長ジェッシー・ストーン」のシリーズと同じような切り口で、ジェシーをトム・セレックが演じていたが、あの面影がそっくりだ。

そこはマーシャル・アーツの達人のジェイソン・ステイサムの主演なのだから、のタフガイや、都会から来た強面の刺客などは、バッタバッタと蹴り散らす。ま、想定通りのアクション炸裂。

しかし密造酒や麻薬などを違法に大掛かりに作っているジェームズ・フランコは、アタマがいいから、その派手なアクションには加わらないで、端で傍観しているのだ。

ただし、悪役としての貫禄がどう見ても不足していて、結局、このタイプの作品に重要な敵役のボスが力量不足なのが、この作品を軽くしているのが残念。

その分、このところ再稼働しているウィノナ・ライダーが悪いビッチ役で印象的なのが救いだ。

さて、コトが麻薬捜査となると、このリタイア・オヤジも放っておけない正義感が爆発。あとは、B級スプラッシュ・ムービーの壮大な花火大会になる。

なくなった銀座シネパトスや、新宿ローヤルなどで公開すべきタイプのアクション炸裂で、懲りもせずにハリウッドはこのレベルの作品を作るが、これも地方都市のローカル・サービスの一旦なのだろう。

 

■しぶとい当たりがショート前でイレギュラーしてヒット。

●8月9日より、新宿バルト9などでロードショー 


●『渇き。』の『。』って、唾の意味なのかなーーー』

2014年05月26日 | Weblog

5月23日(金)10-30 外苑前<GAGA試写室>

M-054『渇き。』(2014)GAGA/プロダクション・リクリ

監督・中島哲也 主演・役所広司 <118分> 配給・ギャガ・GAGA ★★★☆☆

個人的には一番見にくくて嫌いなGAGAの試写室に行くのは、気が重い。それでも早朝の9時半には試写室に到着。

でも試写室は予約でいっぱいで、30分前なのにトイレの前の補助椅子。トホホだ。かなりムカついていたのに、10時開始の映写がPCの故障で25分待ち。

事前にチェックしない試写の担当者にもムカついたが、とにかくPCで映写機をスタートさせるというシステムがイージーだ。映画の映写くらいは手動でやってよ。

それでも我慢したのは『告白』の中島監督の新作だからで、フツーの試写なら帰ってしまう気分。だって、次の東映の試写には、もう間に合わない。でも、ガマン。

深町秋生の原作<果てしなき渇き>は評判になったミステリーだが、案の上、いきなり血染めの動画タイトルにハードロックの轟音。そして「てめえ、ぶっ殺したる・・」の怒鳴り声。

なるほど深作監督の「仁義なき戦い」や「バトルロワイヤル」から、タランティーノの「キルビル」、ロドリゲスから、ダニー・トレホのスプラッター・コミック。

そんな映画作りのワル乗りが、のっけから大放出なので、健全な感性のひとは席を立って出て行った。ザマア見ろ。と、こちらとしては、園 子温の「地獄でなぜ悪い」の気分だ。

話というのは、妻と別居して統合失調症でクスリ漬けの元刑事の役所の娘が行方不明になった。最近、よく聞く若い女性の失跡事件。誘拐なのか、ただの家出蒸発なのか。

「チクショー、バカやろう、クソ・・・」とツバを飛ばして、役所がキレまくれば、妻夫木聡の後輩刑事も、オダギリジョーの謎の男も、皆がクレイジーな演技で応酬するのだ。

「あんた、てめえの娘の心なんて、なんも、わかっちゃねえんだよ、バカア!」という罵声が、この作品の底辺。ある意味、「家族ゲーム・地獄編」のようだ。

そのヤバいテーマを、中島監督は、ギャスパー・ノエやソフィア・コッポラの「ブリングリング」に負けじと、非常に早いカット割りでコミック・ブックのような極彩色で血しぶきを飛ばす。

これは、だから、かなりハイテンションのR-15指定のタッチについて行けないと、かなり苦痛だろうが、いまの映画感覚に慣れているひとには、快感だろう。

恐らく、日本映画賞の「告白」で独占した監督だからこそ、いまがチャンスと信じての特攻自爆映画なのだと思う。わたしは、かなり楽しめて、早朝試写の遅延不満は解消した。

 

■右中間のライナーが意外に伸びてフェンスへのツーベース。

●7月、新宿ピカデリーほかでロードショー 


●『サード・パーソン』の無関係な三重構造寓話の怪。

2014年05月24日 | Weblog

5月21日(水)12-30 京橋<テアトル試写室>

M-053『サード・パーソン』Third Person (201) Corsan and highway 61 production / volten pictures

監督・ポール・ハギス 主演・リーアム・ニースン <137分> 配給・プレシディオ ★★★

もう2005年というから、ほぼ10年前になるが、あの「クラッシュ」でアカデミー作品賞を受賞したポール・ハギス監督の新作。

どうしても、あの栄光の感触から脱皮できないような、作家としての心情を底辺にしたストーリー・テリングは、どうも底が見えていて苦しい。

ピュリッツアー賞を受賞した小説家のリーアムは、その後にヒットがなくて、妻と別居して、パリのホテルで執筆している。というのが一人。

原題はグレアム・グリーンの「第三の男」を思わせるが、この作品では、このパリと、ローマとニューヨークのランダムな3都市の男の話が絡む。

ローマでは悪徳ビジネスマンのエイドリアン・ブロディが、ジプシーの女性とバーで知り合ってから、抜き差しのならない情事に落下していく。

ニューヨークでは、アーティストのジェームズ・フランコが、ノイローゼ気味の夫人との親権をめぐる離婚訴訟でトラブルにハマっている。

この苦境の3人の男の無関係な関係が、おそらく最後では劇的な接点で合体するだろうと予測して、この長過ぎる3本立てのような映画につきあってしまった。

しかし、柳の下にはドジョウはいなかった。脚本家として多くの受賞作のあるポールのレトリックは、構造が多重なのが取り柄だが、今回は魅力に乏しい。

いつまでたっても、この三大都市の話は接近しないし、だいいち、あまり面白くないエピソードばかりで一向に解決の方向が見えてこないのだ。

やっと、ラストになって、リーアムの小説が書き上がった頃になって、どうやらその小説の中のストーリーが別の都市の話だったのか・・・という気がしてくる。

しかし、これはネタバレになるし、わたしだけの憶測なのか、それとも退屈して、途中で眠ってしまったのか、どうも釈然としないままに映画は終わった。

 

■フルカウントからの当たりは、レフト後方に見えたが失速してファールフライ。

●6月20日より、TOHOシネマズ日本橋などでロードショー 


●『ラスト・ミッション』やはり壮年ケヴィンは硝煙と銃声が似合う。

2014年05月22日 | Weblog

5月19日(月)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>

M-052『ラスト・ミッション』"3 Days to Kill" (2014) europacorp / relativity media / 3dtk 

監督・マックG 主演・ケヴィン・コスナー <119分> 配給・ショウゲート ★★★☆☆

ほぼ10年ぶりになるケヴィン・コスナーの本格主演になるアクション映画なので、かなり見るのに気後れしていたが、なかなかいいではないか。

彼はベテランのCIAエージェントなのだが、妻とは別居中でハイスクールの娘とも疎遠。ところが最近末期がんの宣告を受けたばかりのヤバい苦境。

それなのに、当局からは未開発のガン特効薬の接種をエサにして、パリの核兵器密売組織の要人を消すために、<ラスト・ミッション>を受けてしまった。

ま、よく聞いたような話で、たしかリーアム・ニースンの「96時間」も、同じような話だったが、ま、このテのサスペンスはタイムリミットだから面白い。

しかも「レオン」のリュック・ベッソンのプロデュースで、オール・パリのロケ。監督のマックGも、徹底したアクション派なので、無駄な感情シーンは少ないのが利点。

そしてかなり中年の疲れが表情に出ているケヴィンが、これが意外に渋くていいではないか。無駄な御託は並べないで、どうせ余生は短いぜ・・・と居直った表情が曇る。

勝手知ったるパリの裏町を、派手なカーチェイスを展開する映像のワザは、あの「TAXI」シリーズのベッスン・プロジェクトだから、かなり歯切れもいい。

案の上、ドジなバカ娘がイケメンのボーイフレンドが組織とつるんでいるのも知らずに拉致されてしまって、発作で意識の遠のくケヴィンも必死に追跡する。

ま、ここでは、ベッソンのコメディ趣味は封印して、久しぶりにアクションに徹したダメオヤジの悲哀が滲んで、2時間になるサスペンスは飽きなかった。

とりあえず、かくして完全の現場復帰を果たしたケヴィンも、あの「ボディガード」の頃の爽快なガンプレイを見せて、本人も「ワイアット・アープ」気分なのだろう。

まだ「エクスペンダブル」のオヤジ仲間には入らないで、孤高な壮年ガンマンを演じるケヴィンの陰りの表情には、まだまだ「おぬし、やるわい」の気迫が見えた。

 

■ベテランの技ありの渋といライナーが右中間を抜いてツーベース

●6月21日より、新宿バルト9などでロードショー 


●『私の、息子』で吐露される、バカ息子への母親の温情。

2014年05月20日 | Weblog

5月16日(金)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-051『私の、息子』Pozitia Copilului (child's pose) parade films hai-hui entertainment ルーマニア

監督・カリン・ペーター・ネッツアー 主演・ルミニツゥア・ゲオルギウ <112分> 配給・マジック・アワー ★★★★☆

ブカレスト市内に住む母親ルミニツアは、30になるひとり息子が定職を持たずに、妻との離婚の話も出ていて、気が気でない。

そんな時に、そのバカ息子は郊外で、運転していた車で交通事故を起こして、少年を過失致死させてしまう。最悪の事態だ。

非常に端正な演出の人間ドラマで、作為的な背景の音楽もなく、交通事故のシーンもなく、すべては冷静な会話で事態が知らされて行くのだ。

人間の心の問題を描くドラマというのは、不思議なもので、その国の体臭のような感性が自然ににじみ出てくるが、この作品もまずそれを感じる。

ルーマニアという東欧の空気なのだろうが、あのミヒャエル・ハネケ監督や、アスガー・ファルファディの「別離」のような、硬質な、あれ、だ。

原題タイトルの意味は「胎児の体勢」なのだという。つまり、母の体の中にいる胎児は、その運命も行方もほぼ決められている、とでも言うのだろうか。

見ていて、たしかに性格が気弱で繊細で暗く、意思決定の奥手な息子を見ていると、ついつい母親がテをだして、こまめに面倒をみようというのも、判らんでもない。

しかも、ブカレストという都会は、その住民の生活感覚が、われわれ日本人よりも裏読みが複雑というのか、金銭的な裏工作に神経質なのがドラマを締めつけて行く。

たしかに過失であっても、巻き込まれ型の事故での示談というのは、金銭問題よりも被害者家族との感情的なもつれが複雑であり、アタマが痛い展開なのだ。

その問題を通じて、この「バカ息子」との問題解決に悩み抜く母親の姿は、ポン・ジュノの秀作「母なる証明」に匹敵するドラマとしての厚みを見せて、実にお見事だ。

出過ぎた母を演じるルミニツアの名演技が見もので、これは父親とは違う「産みの苦しみ」が滲み出て秀逸だ。

どこの母親から見ても、9割は<バカ息子>であり、それでも<目に入れても痛くない>存在なのも、よく判る。ベルリン国際映画祭で最高賞受賞の実績も、よく判る。

 

■渋い当たりだが、文句なしのレフト・オーバーのホームラン

●6月21日より、渋谷Bunkamuraル・シネマなどでロードショー 


●『her/世界でひとつの彼女』とのアマイ恋の行方とプッツン消去。

2014年05月18日 | Weblog

5月14日(水)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-050『her・世界でひとつの彼女』 HER (2013) annapurna pictures / untitled rick howard company

監督・スパイク・ジョーンズ 主演・ホアキン・フェニックス <126分> 配給・アスミック・エース ★★★☆☆☆

擬人化ラブストーリーのひとつだが、実に感性豊かで感動的なストーリー・テリングは、さすがアカデミー・ノミネート作品。

近未来のLAという設定だが、ま、それはともかくとして、<AI>という人工知能が完全に一般に市民化された超未来の設定は判りやすい。

要するにパソコンやスマホが人格と知覚の上に、人間的な感情も持っているから、いつでもイヤホーンひとつで理想の異性と対話ができるという時代。

「2001年宇宙の旅」にでた人工頭脳「ハル」が、もっと進化してコンパクトになった、という時代のはなし。

妻と別れたホアキンは、孤独を癒すために、架空の出会い系サイトで<サマンサ>という女性の声をした通話相手と日常的に会話している。

もちろん相手は機械を通じての知能なので実体はないから、会う事はできないが、それはホアキンにとっては都合がいい。

ただ、日常的に会話する女性が欲しいだけなのだから、この交際は微妙に情感を生んで行く。これは実に現代人の欲望を端的にいい得ていて面白い。

普通の独り言でも、この<OS・!>というコードにアクセスすれば、即座にいつでも会話ができるのだから、彼は次第にその美声にハートを依存していく。

ま、むかし、トム・ハンクスが人魚に恋した「スプラッシュ」や、スピルバーグの「A・I』にも共通する空想人格とのコミニケーション。

上海でロケをしたという、近未来の摩天楼の生活をスケッチする監督の話術は、じつに饒舌であって、ついついこちらもその利便性な恋におちていく。

ま、当然のように、破綻はすぐに現実になり、2時間のラブストーリーは呆気なく消えるが、それにしては、よく出来たラブストーリーで酔わされる。

ホアキンの例によっての名演もいいが、<サマンサ>という声だけのスカーレット・ヨハンソンの演技も頷けた。

 

■ライトのフェンス上段に当たる意外なスリーベース

●6月28日より、新宿ピカデリーなどでロードショー 


●『グランド・ブダペスト・ホテル』に泊まると前世の夢も見れるかも。

2014年05月16日 | Weblog

5月13日(火)13-00 六本木<フォックス映画試写室>

M-049『グランド・ブダペスト・ホテル』The Grand Budapest Hotel (2013) fox-searchlight pictures / studio babelsberg

監督・ウェス・アンダーソン 主演・レイフ・ファインズ <100分> 配給・20世紀フォックス映画 ★★★☆☆

例えば、パリのサンミッシェルの裏通りにある古本屋にありそうな、むかしの立体型のトリック絵本を見ているような、奇妙な映画。

ウェス監督の独特の映画術は、いつもかなりに懐古趣味的で、「ムーンライズ・キングダム」や「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」のように古典戯画風だ。

クラシックでカリカチュアライズされた趣味性を、いまのコミック・カートゥーン風にアレンジして、かなりストップ・モーションの一枚絵のように、構図も考慮されている。

だからちゃんと全貌を理解しようとするならば、この不思議なホテルには3泊くらいしないと、内部構造や人物背景の歴史が理解できないような仕組みになっている。

ま、その摩訶不思議な映画作りが、クリエイティブな人形戯画のお好きな向きには人気がある。だからこそ、これだけのキャストがいつも集まるのだろう。

癖のアル有名俳優を、これだけ並べると、まるでワックス・ミュージアムみたいで壮観だが、個々の俳優の印象はあまり濃くない。W・デフォーが相変わらずかな。

1930年代の温泉リゾートとして、ヨーロッパの富豪たちに人気のあったグランド・ホテルだが、ナチスの台頭や戦乱を経て、いまではあの「シャイニング」のオフ・シーズンなホテル状態。

あまりにも多くの情事や陰謀や戦雲の時代に老朽化したホテルは、それだけでヨーロッパという多くの国々の戦乱の時代を潜った異臭が残っている。

そこで起こった富豪マダムの殺人事件をきっかけに、いろいろな客たちのエピソードをフラッシュバックする手法は、アガサ・クリスティの多くの事件ものを思い出す。

時代的には、このホテルのあった旧ズブロフスカやハンガリーを通過した「オリエント急行殺人事件」や「ナイル殺人事件」のように、ミステリアスな時代。

しかも映画は、その事件を軸にして、3つの時代をタイム・スリップするので、見ている方もアタマの切り替えが大変で、スクリーン・サイズの変更程度ではフォローできない。

このスクランブルな謎解きゲームも、ウェス映画の味わいなので、多重トリックの映像マジックを楽しめばいいが、それにしても似たようなムスターシュの謎めいたオヤジが多すぎる。

殺人事件の犯人はネタバレになるが、あたかも、あの「追想」のアナスタシア姫の失踪のように、不思議すぎた時代を、ここで映画は立体的な戯画として再現しているようだ。

せっかくだから、エルキュール・ポワロ探偵が登場した方が、もっと判りやすく楽しめたろうに。

 

■左中間を抜けたゴロがフェンスに挟まって、エンタイトル・ツーベース

●6月6日より、TOHOシネマズシャンテなどでロードショー 


●『リヴァイアサン』の内視鏡的で、陰湿な漁獲の映像地獄。

2014年05月14日 | Weblog

5月9日(金)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-048『リヴァイアサン』Leviathan (2012) sensory ethnography lab / arrete ton cinema 米英仏

監督・ルーシャン・キャステーヌ・テイラー+ヴェレナ・パラヴェル <87分> 配給・東風 ★★★

一応はドキュメンタリー映画という括りで扱われているが、この作品は、なにか貴重な動物生態や自然現象や人道問題を扱った気配はない。

まったく商業的な作為もないし、かといって、歴史的な遺産や、偉人の伝記でもなく、何も事件性やニュース性もない。不思議な映画である。

あえて言えば、あのハーマン・メルビルの「白鯨」の舞台になった、北米のニュー・ベッドフォードを拠点にした、ある漁船の作業を凝視しているだけだ。

それも、通常の映像カメラでの記録ではなく、終始、まるで胃カメラか、内視鏡カメラで見るような、超近視的な無作為な映像の連続である。

20年ほど前に、同名の娯楽サスペンス映画があったが、あれは深海に生息する怪獣魚との逃走を描くサスペンスだった。

夜明けのかすかな光の中で、目の前には突然のように捕獲された魚がばらまかれ、漁師の執刀で、魚は解体され、臓物はまた海に遺棄されてしまうのだ。

その異様な光景を至近映像で、長く見せられて、そこにはカモメの大群が群がってくる。魚たちの死と、その残骸に群がるトリたち。まるで生と死の響宴。

音楽もなく、台本のシナリオもなく、もちろん俳優もでない時間が87分も、見ている我々を圧倒し続けるので、堪り兼ねたひとは試写室を出て行く。

それでも映画は、無言で漁船の日常業務を、ただ見つめるだけだ。これもたしかに映画だし、作家の視点。あるメッセージかもしれない。

映画はひとつの表現手段であって、必ずしも商業目的だけで制作されなくてもいい。それは表現の自由だし、このような「映画」があってもいいだろう。

しかしリピートして見たいほどの感動はがないのは、わたしが根っからの「娯楽映画」のファンだからだろう。

それでもロカルノ国際映画祭では、2012年批評家連盟賞をゲットした異色作品。映像志向の学生さんにはいい餌食になるかも・・・。

 

意表をついたバスター・ヒットだが、アウトの宣告で監督が抗議

●6月、渋谷イメージ・フォーラムでロードショー 


●『MONSTERZ』のモンスターは都会に棲む野獣たち。

2014年05月12日 | Weblog

5月9日(金)10-00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-047『MONSTERZ / モンスターズ』(2014)日本テレビ・ホリプロ・バップ

監督・中田秀夫 主演・藤原竜彦 <112分>配給・ワーナー・ブラザース・ジャパン ★★★☆

コミック・ブック<AKIRA>をバイブルのように手にした青年、藤原竜彦は母親からも恐れられているモンスターだ。

よくハリウッド映画にあるような<狼の目>をした野獣や、キャット・ピープルではなくて、彼はブルーに光る眼力で人間たちを操る。

銀行員たちの業務を一時フリーズ停止させて、大金を奪うことができるので、生活には困らない。そのパワーで彼は父親も葬ったのだ。

誰でも意識的に操ることのできる彼の前に、ひとりだけパワーの通じない青年、山田孝之が現れたことで、大衆を巻き込むパワーゲームが始まる。

映画は、このモンスター同士の争いで大都会の群衆を巻き込む「戦争」になるのだが、さすがにハリウッド帰りの中田監督はドラマ作りは巧妙で飽きさせない。

もしこれがワーナー・ブラザース社の「バットマン」のようなキャスティングで制作されていたら、それなりに重厚な見応えの娯楽エンターテイメントになっていただろう。

惜しむらくは、主演ふたりの若さだ。ま、国内での興行的な計算では、ゲーム世代の興味を、この若いふたりで引きつけることができるだろう。が、・・・どうも若すぎる。

せめて、浅野忠信とか役所広司のレベルの年齢の役者がモンスターであれば、当方はもっと楽しめたかもしれない。ま、それは無理な想像にすぎないのだが。

しかし、ラストでは、モンスターが一人だと思っていたら、クレジットでは、「MONSTERZ」になったので、ああそーーーか。と気がついた。

このふたりは、どちらもモンスターであって、Sではなく<Z>の複数というのは、ふたりともゾンビだったのか。という狙いに気がついた。遅いなー・・。

つまり、このようなコミック(喜劇ではなく)ものの、ヴィジュアル世代には、これはこれで、かなりの「優れもの」なのかも知れない。

 

■高いライトフライだが、野手の落球を誘いヒット。

●5月30日より、新宿ピカデリーなどでロードショー