2022年 私が観た展覧会 ベスト10

年末恒例の私的ベスト企画です。2022年に観た展覧会のベスト10をあげてみました。

2022年 私が観た展覧会 ベスト10

1.『国際芸術祭「あいち2022」』 一宮駅エリア / 尾西エリア /愛知芸術文化センター /有松地区 / 常滑やきもの散歩道 / INAXライブミュージアム(7/30~10/10)



『あいちトリエンナーレ』の後継として開催された『国際芸術祭 あいち2022』の展示が大変に見応えがありました。愛知芸術センターではコンセプチュアル・アートから人間の尊厳や社会の分断といったテーマを扱った作品が目立ち、一方で有松地区や一宮市、それに常滑市では土地の記憶を紐解きつつ、芸術として表現する作家の力作が少なくありませんでした。いわゆる都市型芸術祭ながらも、地域を巧みに取り込んだ新たな芸術祭のすがたを示していたように思えました。

2.『ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?』 ポーラ美術館(2021/9/18~2022/3/30)



アメリカの美術家のロニ・ホーンの国内の美術館としては初の個展で、1980年代より40年あまりのキャリアにおいて制作された作品が公開されていました。ガラスの彫刻から角柱による立体、また写真やドローイングなどを幅広く手がけていて、アイスランドの地誌や人々の生活、またアメリカのディキンスンの詩文の引用など重層的とも言える作品に引き込まれました。また自然に囲まれたポーラ美術館の環境ともうまくマッチしているようにも感じられました。

3.『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』 国立新美術館(2/9~5/30)



ニューヨークのメトロポリタン美術館のコレクションから、日本初公開の46点を含む65点のヨーロッパの絵画がやって来ました。ラファエロ、クラーナハにはじまり、カラヴァッジョにラ・トゥールやフェルメール、またルーベンスからプッサンとブーシェ、さらにマネやセザンヌへ至る作品は全編がハイライトとしても過言でないほど充実していました。特にルネサンスからバロック、ロココまでのラインナップが群を抜いていて、名画を前にして胸の高まりすら覚えました。

4.『彫刻刀が刻む戦後日本―2つの民衆版画運動 工場で、田んぼで、教室で みんな、かつては版画家だった』 町田市立国際版画美術館(4/23~7/3)



戦後において展開した「戦後版画運動」と「教育版画運動」の2つの民衆版画運動を、約400点もの豊富な作品と資料によって紹介する展覧会でした。その源流は中国の木刻であったり、アマチュアの参加や学校教育の現場、さらには労働争議や平和運動、また反水爆運動など、社会や文化的活動との関わりを丹念に検証していて、民衆版画から戦後日本の知られざる歴史が浮き彫りになっていました。全国の子どもたちによる教育版画の共同制作の作品も見応えがありました。

5.『ライアン・ガンダー われらの時代のサイン』 東京オペラシティ アートギャラリー(7/16~9/19)



昨年4月に当初予定されていたものの、コロナ禍にて延期され、今年になって実現したガンダーの東京初の個展でした。時間やお金、価値や教育、それによく見ないと見えないものといった、ガンダーの関心のありかや現象を多様なメディアを駆使しながら取り上げていて、刺激的でかつ驚きに満ち、またユーモアに溢れた世界を空間全体で築き上げていました。これほど一見難解で謎めきながらも気づきを誘い、いつしか作品へと引き込まれるアート展も少ないかもしれません。

6.『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』 アーティゾン美術館(4/29~7/10)



ともに写真家の柴田俊雄と鈴木理策が、石橋財団コレクションとコラボレーションを果たした展覧会でした。地形や構造物を捉える柴田の写真とモンドリアンの絵画や、鈴木の写した蓮の浮かぶ水辺とモネの『睡蓮』などが響き合うなど、絵画や写真、さらに彫刻といったジャンルを超えた表現が生み出す新しい景色を楽しむことができました。

7.『ゲルハルト・リヒター展』 東京国立近代美術館(6/7~10/2)



ドイツの美術家、ゲルハルト・リヒターによる国内では16年ぶりの個展でした。主にリヒター財団の所蔵する110点余りの作品が公開されていて、中でもアウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所にて囚人が隠し撮りした写真を下層に描き写した『ビルケナウ』は圧倒的な存在感を放っていました。現在、同展は豊田市美術館にて巡回開催されていますが、出来ることなら同館の素晴らしい展示空間でも見たいと思いました。

8.『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』 すみだ北斎美術館(9/21~11/27)



浮世絵の元とされ、板木に文字や挿絵を彫って摺ったものを本に仕立てた板本に着目した展覧会でした。板本の形態や内容による分類など、板木の基礎的な知識を細かに解説するだけでなく、初摺と後摺の比較から当時の所蔵者や読者の痕跡についても紹介していて、ともすれば地味とも受け止められない板木の見どころをうまく引き出していました。当時、板本がどのように作られ、人々の手に渡り、また親しまれたのかが極めてよく伝わってくるような内容だったかもしれません。

9.『大勾玉展-宝萊山古墳、東京都史跡指定70周年-』 大田区立郷土博物館(8/2~10/16)



縄文時代にはじまり、古墳時代に隆盛し、奈良時代に衰えた勾玉を全国各地から1500点も集め、未だ謎の多い勾玉の歴史やデザインの変遷などを丹念に紐解いた展覧会でした。ともかくこれほどの勾玉を一度に目にする機会からして初めてで、地域によって異なるあり方や勾玉の衰退の経緯について大いに興味を引かれました。装身具であり副葬品だった勾玉を通して、古代史ミステリーを解き明かすような面白さも感じられたかもしれません。

10.『どうぶつかいぎ展』 PLAY! MUSEUM(2/5~4/10)



ドイツの作家、ケストナーの絵本『動物会議』に着想を得た8名のアーティストが、絵画やインスタレーションなどを公開した展覧会で、戦争を繰り返す人間を痛烈に批判したケストナーのメッセージが改めて作品として表現される様を見ることができました。ちょうどロシアによるウクライナ侵攻がはじまった頃と会期が重なりましたが、今もなお戦争によって子どもたちの日常が奪われる状況が続いていることに身につまされてなりませんでした。

次点.『佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在』 水戸芸術館(2021/11/13~2022/1/30)



ベスト10以外で特に印象に残った展覧会は以下の通りです。(順不同)

『「もしもし、奈良さんの展覧会はできませんか?」奈良美智展弘前 2002-2006 ドキュメント展』 弘前れんが倉庫美術館(2022/9/17~2023/3/21)
『野口里佳 不思議な力』 東京都写真美術館(10/7~2023/1/22)
『大竹伸朗展』 東京国立近代美術館(11/1~2023/2/5)
『加耶―古代東アジアを生きた、ある王国の歴史―』 国立歴史民俗博物館(10/4~12/11)
『つながる琳派スピリット神坂雪佳』 パナソニック汐留美術館(10/29~12/18)
『開通60周年記念「芸術作品に見る首都高展」』 O美術館(12/15~21)
『闇と光―清親・安治・柳村』 太田記念美術館(11/1~12/18)
『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』 アーティゾン美術館(11/5~2023/2/5)
『大蒔絵展―漆と金の千年物語』 三井記念美術館(10/1~11/13)
『名和晃平 生成する表皮』  十和田市現代美術館(6/18~11/20)
『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』 東京国立博物館(10/18~12/11)
『川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり』 東京オペラシティ アートギャラリー(10/8~12/18)
『鉄道と美術の150年』 東京ステーションギャラリー(10/8~2023/1/9)
『junaida展 IMAGINARIUM』 PLAY! MUSEUM(10/8~2023/1/15)
『ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』 国立西洋美術館(10/8~2023/1/22)
『日本の中のマネ ―出会い、120年のイメージ―』 練馬区立美術館(9/4~11/3)
『新版画 進化系UKIYO-Eの美』 千葉市美術館(9/14~11/3)
『開館15周年記念 李禹煥』 国立新美術館(8/10~11/7)
『リボーンアートフェスティバル 2021-22』 宮城県石巻市街地・牡鹿半島(8/20~10/2)
『東北へのまなざし1930-1945』 東京ステーションギャラリー(7/23~9/25)
『ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ』 市原湖畔美術館(7/16~9/25)
『シアトル→パリ 田中保とその時代』 埼玉県立近代美術館(7/16~10/2)
『みんなの椅子 ムサビのデザインⅦ』 武蔵野美術大学美術館(7/11~8/14、9/5~10/2)
『孤高の高野光正コレクションが語る  ただいま やさしき明治 発見された日本の風景』 府中市美術館(5/21~7/10)
『生誕100年朝倉摂展』 練馬区立美術館(6/26~8/14)
『蜷川実花「瞬く光の庭」』 東京都庭園美術館(6/25~9/4)
『津田青楓 図案と、時代と、』 渋谷区立松濤美術館(6/18~8/14)
『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』 森美術館(2/18~5/29)
『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』 東京国立博物館(5/3~6/26)
『ボテロ展 ふくよかな魔法』  Bunkamura ザ・ミュージアム(4/29~7/3)
『上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー』 三菱一号館美術館(2/18~5/15)
『本城直季 (un)real utopia』 東京都写真美術館(3/19~5/15)
『大英博物館 北斎 ―国内の肉筆画の名品とともに―』 サントリー美術館(4/16~6/12)
『没後50年 鏑木清方展』 東京国立近代美術館(3/18~5/8)
『シダネルとマルタン展』 SOMPO美術館(3/26~6/26)
『本城直季 (un)real utopia』東京都写真美術館(3/19~5/15)
『生誕110年 香月泰男展』 練馬区立美術館(2/6~3/27)
『Viva Video! 久保田成子展』 東京都現代美術館(2021/11/13~2022/2/23)
『開館20周年記念 フランソワ・ポンポン展』 群馬県立館林美術館(2021/11/23~2022/1/26)
『ミケル・バルセロ』 東京オペラシティアートギャラリー(1/13~3/25)

今年もコロナ禍が続きましたが、一度中止されていた展覧会が開かれたり、同じく延期されていた芸術祭が再開するなど、昨年に比べると多くの展示を見ることができました。いわゆるウィズコロナにおいて、おそらくは来年も同じような状況が続くと思われます。

この一年、皆さまはどのような美術との出会いがありましたでしょうか。このエントリをもちまして年内のブログの更新を終わります。今年も「はろるど」とお付き合い下さりどうもありがとうございました。それではどうぞ良いお年をお迎え下さい。

*過去の展覧会ベスト10
2021年2020年2019年2018年2017年2016年2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年2007年2006年2005年2004年その2。2003年も含む。)
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『大竹伸朗展』 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
『大竹伸朗展』
2022/11/1~2023/2/5



東京国立近代美術館で開催中の『大竹伸朗展』を見てきました。

1955年に生まれた大竹伸朗は、絵画、版画、 素描、彫刻、映像、さらにインスタレーションから巨大な建造物などを制作すると、個展やグループ展にて作品を公開するだけでなく、国際展や芸術祭にも参加して旺盛に活動してきました。

その大竹の16年ぶりの大規模な回顧展が東京国立近代美術館にて開かれていて、会場には約500点もの作品が時代を問わずに7つのテーマに基づいて公開されていました。



まず最初が「自/他」と題したセクションで、9歳の頃のコラージュから近年に描かれた自画像などが壁を埋め尽くすようにして並んでいました。



これに続くのが、大竹の記憶に対する関心を示すシリーズの「時憶」、「憶景」、「憶片」と呼ばれる作品群で、印刷物やゴミとされるものを貼り付けつつ、作品へと留めていく大竹の表現の一端を見ることができました。



こうした記憶とともに、大竹が重視する素材としてあげられるのが時間で、30年の時間をかけて変化した素材を用いた作品や、30分の制限を設けて描きあげた作品なども紹介されていました。大竹にとって時間とは拾い集め、貼り合わせて厚みをもたらす材料でもあり、偶然を呼び寄せる道具としても位置付けられてきました。



『モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像』とは、ドイツ・カッセルにて開催される国際展・ドクメンタへ2012年に出展された大型のインスタレーションで、今回初めて関東にて公開されました。



それらはネオンサイン、トレーラー、舟、 ギター、映像、またスクラップブックなどにて構成されていて、さまざまな素材によるコラージュがありとあらゆる場所を侵食するように広がっていました。



物質を寄せ集め、切り貼りしていく大竹の制作の中で、どこか幻想的な雰囲気を放っていたが「夢/網膜」のセクションの作品でした。



ここで大竹は捨てられたポラロイド写真が夢のようなイメージを再現しているとして、透明な樹脂をのせた作品を制作し、樹脂の質感と写真の色彩が重なり合うような独自の画面を築き上げました。



物質的な厚みを伴う作品を集めた「層」や、大竹の素材にとって重要な音に着目した「音」も、世界観をダイレクトに味わえるセクションだったかもしれません。



一連の作品は、必ずしも開放感があるとは言えない美術館のスペースをむしろ逆手に取るように展開していて、ものと音が空間を濃密に埋め尽くしていました。



「宇和島駅」のネオンサインが美術館の外壁に作品として設置されていました。夕方以降、日が影ってから輝く様子を見るのも楽しいかもしれません。



撮影も可能でした。(写真はすべて「大竹伸朗展」展示作品)


2023年2月5日まで開催されています。*12月28日~1月1日は年末年始のため休館。

『大竹伸朗展』 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)
時間:10:00~17:00。
 *金・土曜は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。ただし1月2日、9日は開館。年末年始(12月28日~1月1日)、1月10日(火)は休館。
料金:一般1500(1300)円、大学生1000(800)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」も観覧可。
住所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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山種美術館にて『日本の風景を描く―歌川広重から田渕俊夫まで―』が開かれています

四季折々、豊かな自然に囲まれた日本では、古くから人々が自然を題材にした絵を描いてきました。


米谷清和『暮れてゆく街』 昭和60年 *会期中も撮影OK

その「日本の風景」をテーマとしたのが『日本の風景を描く―歌川広重から田渕俊夫まで―』で、展示の内容についてイロハニアートへ寄稿しました。

山種美術館のコレクションで愛でる日本の風景『日本の風景を描く―歌川広重から田渕俊夫まで―』が開催中 | イロハニアート

まず今回の展覧会では、江戸時代の酒井抱一や椿椿山をはじめ、明治から大正時代の川端玉章や山元春挙、それに石田武や田渕俊夫いった現代へと至る幅広い作品が紹介されていて、時代によってさまざまに描かれた風景の諸相を見ることができました。

また同館の定評のある日本画だけでなく、安井曽太郎や黒田清輝などの洋画も一部に展示されていて、山種コレクションの意外な一面を知ることもできました。

山元春挙の『火口の水』とは、三日月のもと、溶岩の岩肌が露出した雪山を描いたもので、火口湖や溶岩のすがたを実に写実的に表していました。山元は写真に関心を抱いた画家で、実際に登山して撮影し、それを元にして絵画を描きました。



最大の見どころは、近年展示されてこなかった作品が多数お披露目されていることで、山本梅逸の『蓬莱山図』や関出の『廃園濃紫』などは17年ぶり、また安井曽太郎の『初秋遠山』に至っては37年ぶりに公開されました。

また作品が発表されて以降、初めて連作4点が展示された石田武の『四季奥入瀬』も、『春渓』と『瑠璃』が37年ぶりに公開されました。

米谷清和の『暮れてゆく街』とは、現在は営業を終えた東急百貨店東横店を正面に、渋谷の西口バスターミナルを舞台とした作品で、家路へと急いだり待ち合わせをする人々のすがたも描かれていました。


最後に学生の皆さんにお得な情報です。山種美術館では今回の展覧会に限り、「冬の学割」として大学生・高校生の観覧料が通常1000円のところ半額の500円となります。

2023年2月26日まで開催されています。*12/29(木)~1/2(月)は年末年始休館。

『日本の風景を描く―歌川広重から田渕俊夫まで―』 山種美術館@yamatanemuseum
会期:2022年12月10日(土)~2023年2月26日(日)
休館:月曜日。ただし1/9(月)は開館、1/10(火)は休館。12/29(木)~1/2(月)は年末年始休館。
時間:10:00~17:00
 *入館は16時半まで。
料金:一般1300円、中学生以下無料。
 *冬の学割:大学生・高校生500円(通常1000円のところ半額)
 *きもの割引:きもので来館すると一般200円引、大学生・高校生は100円引。
 *オンラインチケットあり。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。渋谷駅東口より都バス学03番「日赤医療センター前」行きに乗車、「東4丁目」下車、徒歩2分。
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『兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~』 上野の森美術館

上野の森美術館
『日中国交正常化50周年記念 兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~』
2022/11/22~2023/2/5



上野の森美術館にて開催中の『兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~』 を見て来ました。

群雄割拠の世が約550年続いた春秋戦国時代、紀元前221年に秦始皇帝が戦乱を終結させると、史上初めて中国大陸に統一王朝を築きました。


『2号銅車馬』(複製品) 統一秦 前221〜前206年 秦始皇帝陵博物院

その始皇帝が作らせた兵馬俑などを紹介するのが『兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~』で、中国より兵馬俑36点を含む約200点の文物がやって来ました。

今回の兵馬俑展の特徴は統一以前の秦をはじめ、始皇帝の時代、さらにのちの漢王朝の主に3つの時代の変遷をたどっていることで、いずれも秦・漢両王朝の中心地域である関中、つまり現在の陝西省の出土品を中心とした文物にて構成されていました。

戦国秦の『騎馬俑』は秦王朝における最古の兵馬俑の作例とされていて、始皇帝の時代のものとは異なり、サイズは小さく写実的ではありませんでした。

また秦の統一以前の文物では、極めて精緻な装飾の施された青銅の香炉や、酒を貯蔵するための祭器なども見どころで、中国の国宝級を指す一級文物といった貴重な文物も目を引きました。

漢王朝の時代では『彩色歩兵俑』や「騎馬俑』といった俑が展示されていて、前者こそ写実的と言えるものの等身大ではなく、後者に至ってはデフォルメしたようなすがたに見えるなど、やはり始皇帝の時代の俑とは異なっていました。


『鎧甲軍吏俑』 統一秦 前221〜前206年 秦始皇帝陵博物院

こうした春秋戦国時代から漢の時代の文物の次に公開されていたのは、今回のハイライトともいうべき始皇帝の兵馬俑でした。いずれもケースの中に入れられていたものの、ガラスの透明度も高く、どの兵馬俑もより近い場所より具に鑑賞することができました。また撮影も可能でした。


『戦服将軍俑』 統一秦 前221〜前206年 秦始皇帝陵博物院

そのうちの『戦服将軍俑』とは、戦車に乗り、歩兵や騎兵の小部隊を統率した高位の武官の俑を象ったもので、鎧を着用せず、ベルトと帯留めをつけ、右手で剣を持つようなすがたが実にリアルにかたどられていました。


『戦車馬』 統一秦 前221〜前206年 秦始皇帝陵博物院

「将軍俑」とは、約8000体の埋蔵が推定されている始皇帝陵の兵馬俑の中でも11体しか確認されていない貴重な俑で、『戦服将軍俑』も日本で初めて公開されました。


『鎧甲軍吏俑』 統一秦 前221〜前206年 秦始皇帝陵博物院

いずれの始皇帝の兵馬俑はモデルの存在を想起させるほど写実的でかつ精緻に作られていて、明らかに他の時代の俑とは異なったすがたを見せていました。


『立射武士俑』 統一秦 前221〜前206年 秦始皇帝陵博物院

そしてなぜに始皇帝の時代だけ兵馬俑が等身大であったのかについて、展示では3つの観点より紐解いていましたが、その内容についてはWEBメディアのイロハニアートにてまとめました。(また許可をいただき、1階展示室以外の展示も撮影し、写真を掲載しています。)


兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~の見どころは?上野の森美術館にて開催中 | イロハニアート


兵馬俑の色彩(プロジェクションマッピング)

兵馬俑に関する展示は2015年にも『始皇帝と大兵馬俑』が東京国立博物館にて開かれ、多くの人々の注目を浴びましたが、今回は最新の知見を交え、各時代における兵馬俑の比較や変遷に焦点を絞った内容と言えるかもしれません。


兵馬俑の複製品(撮影コーナー)

年末年始(12月31日、1月1日)以外のお休みはありません。 2023年2月5日まで開催されています。

『日中国交正常化50周年記念 兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~』@heibayou2022_23) 上野の森美術館@UenoMoriMuseum
会期:2022年11月22日(火)~ 2023年2月5日(日)
時間:9:30~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:2022年12月31日(土)、2023年1月1日(日)
料金:一般2100円、高校・大学生・専門学校生1300円、小・中学生900円。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅・京成線上野駅より徒歩5分
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『宇野亞喜良 万華鏡』 ギンザ・グラフィック・ギャラリー

ギンザ・グラフィック・ギャラリー
『宇野亞喜良 万華鏡』
2022/12/9~2023/1/31



ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の『宇野亞喜良 万華鏡』を見て来ました。

戦後日本のイラストレーション界を切り開いてきた宇野亞喜良は、広告美術、絵本や小説の挿絵から舞台美術などと幅広く手がけ、現在に至るまで多くの作品を世に送り出してきました。

その宇野が新たに特殊印刷とコラボを果たしたのが『宇野亞喜良 万華鏡』で、会場では特殊印刷を施した新作、および1960年代から70年代にかけての旧作のポスターが公開されていました。



まず1階展示室にて目を引くのが特殊印刷による新作で、いずれも宇野がかねてより親しむ俳句と、代名詞とも言える少女をモチーフとしたシリーズが並んでいました。



そこには間村俊一や藤田湘子の俳句とともに、宇野の耽美的でかつアンニュイとも呼べる少女が描かれていて、あたかも作品を飛び出して壁から展示室へとイラストレーションが渦巻くような空間が作られていました。



一連の特殊印刷を手がけたのが雑誌『デザインのひきだし』(グラフィック社)の編集長である津田淳子で、一口に特殊といえどもギルディング和紙や段ボールといった素材をはじめ、スクリーンフォイルや箔を腐食させるような加工などさまざまな様態を見ることができました。



藤田湘子の俳句を添えた『美少女』では、バラの模様がエンボスされたドイツ製のホイルペーパーが用いられていて、支持体の色や柄も相まってか、可憐ながらもややゴージャスな雰囲気を醸し出していました。



いずれの作品も元来の宇野のイラストレーションの妙味をさらに引き出していて、大いに魅せられるものを感じました。



地下展示室での1960年から70年代のポスター約50点も見どころかもしれません。この時代、宇野のイラストレーションは大変な人気を呼び、たとえば劇団人間座公演のポスターに至っては街から剥がされてしまったというエピソードも残っていますが、一連のポスターからも当時の人気を伺い知るものがありました。

イラストレーター、宇野亞喜良が新たにコラボした特殊印刷とは? ギンザ・グラフィック・ギャラリーにて展覧会が開催中!|Pen Online



日曜、祝日、および年末年始はお休みです。2023年1月31日まで開催されています。

『宇野亞喜良 万華鏡』 ギンザ・グラフィック・ギャラリー@ggg_gallery
会期:2022年12月9日(金)~2023年1月31日(火)
休廊:日曜・祝日。2022年12月28日(水)〜2023年1月5日(木)
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅から徒歩5分。JR線有楽町駅、新橋駅から徒歩10分。
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『YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)』 東京シティビュー

東京シティビュー
『YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)』
2022/12/8~2023/2/26



東京シティビューで開催中の『YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)』を見てきました。

1972年にシングル「返事はいらない」でデビューを果たしたシンガーソングライターの松任谷由実は、計39枚のオリジナルアルバムと2000回を超えるステージを重ね、多くのファンの心を捉えながら日本の音楽シーンを牽引してきました。

そのユーミンの50年の活動をたどるのが『YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)』で、会場には子どもの頃から今に至る写真や直筆のメモをはじめ、ステージ衣装やセットなどが一堂に公開されていました。



まず眼下に東京の街を望むスカイギャラリーにて展示されたのが「Welcome to YUMING MUSEUM」と題したインスタレーションで、曲の譜面やメモの複製が一台のピアノへと降り注ぐように配置されていました。



これに続くのが「50 years」のコーナーで、ユーミンがこれまでにリリースしてきた39枚のオリジナルアルバムと、子どもの頃から荒井由美の時代までの写真などが展示されていました。



「はじまりの部屋」では、ユーミンの育った八王子の実家の部屋をテーマに、当時使っていたグランドピアノや美大時代の絵、また子供の頃から習っていたという三味線などが展示されていて、まさにユーミンの原点を見ることができました。



また今回の展示に際し、八王子の実家より見つかった資料も初めて公開されていて、手書きで丁寧に描かれた歌詞やクロッキー帳、また「翳りゆく部屋」の歌詞メモなども展示されていました。



ハイライトはユーミンが過去のステージに用いた衣装の展示と言えるかもしれません。ここではコンサート衣装29点やポスターとともに、コンサートの映像も紹介されていて、「BLIZZARD」や「リフレインが叫んでる」などを熱唱するユーミンのすがたも見ることができました。



ユーミン本人が展示をナビゲートする音声ガイドも充実していました。スマートフォンを持参すると無料で楽しめます。(ガイド機の貸し出しは有料)


デビュー50周年。ユーミンの軌跡を知る『YUMING MUSEUM』を見逃すな|Pen Online

世代を超えて愛されているだけに、誰もがユーミンの曲に自らの思い出を重ね合わせられるのではないでしょうか。ユーミンのコンサート映像を見聞きしていると、若い頃のさまざまな記憶が蘇ってくるのを感じてなりませんでした。



日時指定制が導入されました。当日も日時指定券に空きがある場合は、美術館・展望台チケットインフォメーションにて通常券を販売されますが、あらかじめオンラインにてチケットを購入されることをおすすめします。



会期中は無休です。正月のお休みもありません。2023年2月26日まで開催されています。

『YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)』@yumingmuseum) 東京シティビュー@tokyo_cityview
会期:2022年12月8日(木)~2023年2月26日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *入場は閉館の21:00で。
料金:一般2500円、高校・大学生1700円、4歳~中学生1200円、65歳以上2200円。
 *オンラインでの日時指定制を導入
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
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『junaida展「IMAGINARIUM」』 PLAY! MUSEUM

PLAY! MUSEUM
『junaida展「IMAGINARIUM」』
2022/10/8~2023/1/15



PLAY! MUSEUMで開催中の『junaida展「IMAGINARIUM」』を見て来ました。

『Michi』や『怪物園』などの絵本でも人気の画家のjunaida(ジュナイダ、1978年生まれ)は、作品を描くだけでなく、ギャラリー&ショップである Hedgehog Books and Gallery を立ち上げるなどして幅広く活動してきました。


『junaida展「IMAGINARIUM」』展示作品

そのjunaidaの初の美術館での個展が『junaida展「IMAGINARIUM」』で、会場には絵本原画や一枚絵として描かれた400点を超える作品が展示されていました。


「交錯の回廊」 展示風景

まず最初の「交錯の回廊」では、初期の『TRAINとRAINとRAINBOW』や三越のクリスマスディスプレイのために描いた作品『HOME』などが並んでいて、いずれも鮮やかな色彩と細密極まりない描写に目を奪われました。


『怪物園』アニメーション

この回廊を奥へと進むと現れるのが、壁に直接投影された『怪物園』アニメーションで、Webムービーなどで活動する映像作家の新井風愉が制作しました。


『怪物園』アニメーション

そこでは『怪物園』に登場する怪物たちが百鬼夜行さながらに闊歩する光景が映されていて、1体1体の性格なども巧みに表現されていました。


「浮遊の宮殿」展示風景

この怪物の行進の先に広がるのが、会場内で最も広い「浮遊の宮殿」で、『Michi』をはじめ、すべての文が「の」で連なり循環する絵本『の』、さらに近作の『怪物園』などの原画が一堂に公開されていました。


絵本『怪物園』原画

またここでは柱や壁の下を金色に装飾し、まさに宮殿をイメージさせるような空間が築かれていて、メインビジュアル「IMAGINARIUM」の作品も目立っていました。


「潜在の間」展示風景

そして「残像の画廊」では、宮沢賢治へのオマージュ「IHATOVO」シリーズや、伊坂幸太郎『逆ソクラテス』の装画、さらにラストの「潜在の間」では「闇」をテーマとした連作の『UNDARKNESS』も展示されていて、幻想的とも耽美的とも言えるような作品に魅せられました。


「輪郭の扉」展示風景

赤い布で円形の作品が吊るされた空間より「輪郭の扉」を開け、「交錯の回廊」から「残像の画廊」、さらに「潜在の間」へと進む空間構成も面白いのではないでしょうか。先を進めば進むほど、junaidaの描く物語世界の奥底へと沈み込むかのようでした。


『junaida展「IMAGINARIUM」』展示風景

イロハニアートにも展示の見どころを寄稿しました。

junaidaの初の大規模個展がPLAY! MUSEUMにて開催中!【めくるめく空想と想像の物語の中へ。】 | イロハニアート


お休みは年末年始(12月31日〜1月2日)のみです。2023年1月15日まで開催されています。

*PLAY! MUSEUMでの会期終了後、2023年夏以降に関東、2024年以降に関西への巡回を予定。

『junaida展「IMAGINARIUM」』 PLAY! MUSEUM@PLAY_2020
会期:2022年10月8日(土)~2023年1月15日(日)
休館:2022年12月31日(土)〜2023年1月2日(月)
時間:10:00~17:00
 *土日祝は18:00まで
 *入場は閉館の30分前まで
料金:一般1800円、大学生1200円、高校生1000円、中・小学生600円、未就学児無料。
 *当日券で入場可。ただし休日および混雑が予想される日は事前決済の日付指定券(オンラインチケット)を推奨。
住所:東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3 2F
交通:JR立川駅北口・多摩モノレール立川北駅北口より徒歩約10分
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アーティゾン美術館にて『パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂』が開かれています

ルイ14世によって1669年に設立されたパリ・オペラ座は、現在に至るまでさまざまなオペラやバレエを上演し、作曲家や台本作家、また歌手やオーケストラ、はたまた美術家といった表現者たちが深く関わっていきました。



そのパリ・オペラ座の魅力と歴史を紐解く『パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂』の見どころについて、イロハニアートに寄稿しました。

フランスから200点の作品が来日!かつてないスケールの展示でたどるパリ・オペラ座の歴史 | イロハニアート

今回の展覧会では、フランスのオペラやバレエ関係の資料を多く所蔵するフランス国立図書館から約200点の作品と資料がやって来ていて、あわせてオルセー美術館のエドガー・ドガの『バレエの授業』といった国内外から集結したオペラ座に因む作品が紹介されていました。


ジャン=アントワーヌ・ヴァトー『見晴らし』 1715年 ボストン美術館

またルイ14世の時代の舞台装飾家や衣装デザイナーから、19世紀のグランド・オペラの作曲家やロマンティック・バレエのダンサー、さらに21世紀の演出家に至るまで、パリ・オペラ座にて活躍した表現者を丹念に辿っていて、さまざまな分野の芸術が関わって初めて成立する総合芸術としてのオペラが浮き彫りとなっていました。


右:エドゥアール・マネ『オペラ座の仮装舞踏会』 1873年 石橋財団アーティゾン美術館 左:エドゥアール・マネ『オペラ座の仮面舞踏会』 1873年 ワシントン、ナショナル・ギャラリー

フランスの画家、マネもオペラ座を題材とした作品を制作していて、会場ではアーティゾン美術館の所蔵する『オペラ座の仮面舞踏会』と、ワシントン・ナショナル・ギャラリーの所蔵する同名の作品が隣り合わせに並んで公開されていました。


エドガー・ドガ『舞台袖の3人の踊り子』 1880〜1885年頃 国立西洋美術館

このマネの『オペラ座の仮面舞踏会』をはじめ、ドガの『舞台袖の3人の踊り子』、さらにウジェーヌ・ジローの『オペラ座の舞踏会』やボナールの『桟敷席』といった作品も目立っていて、絵画表現よりオペラ座を取り巻く諸相を見ることができました。

このほか、音楽ファンとしてはモーツァルトやヴェルディ、ロッシーニにワーグナーらの自筆譜が展示されていたのも見逃せないポイントと言えるかもしれません。

またワーグナーに関しては、ルノワールの描いた『タンホイザーの場面(第1幕)』といった絵画をはじめ、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の舞台デザインのための模型、さらに『タンホイザー』の衣装小物として使われた冠なども見どころだったのではないでしょうか。


左:テオフィル・アレクサンドル・スタンラン『夢(ル・レーヴ)』のポスター 1890年 兵庫県立芸術文化センター

これほど豊富な作品と資料でパリ・オペラ座を紹介する展覧会は、かつて一度も開かれたことがなかったかもしれません。質量ともに想像以上に充実していました。


2023年2月5日まで開催されています。

『パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂』 アーティゾン美術館@artizonmuseumJP
会期:2022年11月5日(土)〜2023年2月5日(日)
休館:月曜日。*1月9日は開館。12月28日〜1月3日、1月10日は休館。
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜日は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:【ウェブ予約チケット】一般1800円、大学・高校生無料(要予約)、中学生以下無料(予約不要)。
 *事前日時指定予約制。
 *ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ当日チケット(2000円)も販売。
住所:中央区京橋1-7-2
交通:JR線東京駅八重洲中央口、東京メトロ銀座線京橋駅6番、7番出口、東京メトロ銀座線・東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口よりそれぞれ徒歩約5分。
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『桃源郷通行許可証』 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
『桃源郷通行許可証』
2022/10/22~2023/1/29



埼玉県立近代美術館で開催中の『桃源郷通行許可証』を見てきました。

中国の詩人・陶淵明の物語「桃花源記」に由来する桃源郷は、世俗と隔離された美しい平和の世界とされ、古くより多くの人々が憧憬を抱いて来ました。


松井智惠×橋本関雪

その桃源郷をテーマに芸術作品の魅力を紐解くのが『桃源郷通行許可証』で、絵画や写真、ドローイングやインスタレーションなどを手がける現代の6名の作家の作品と、同館のコレクションが組み合わされるようにして展示されていました。

まず冒頭のプロローグでは桃源郷を描いた小川芋銭をはじめ、神話や物語をモチーフとした絵画が展示されていて、人が桃源郷に抱いたさまざまなイメージを見ることができました。

それに続くのが光を絵画にて捉えようとした斎藤豊作と、ピンホールカメラの原理を援用し、光の原初的なすがたを写す佐野陽一の展示で、絵画と写真という異なったメディアながらも、色や光が互いに共鳴しているように見えました。


松井智惠×橋本関雪

日本画家の橋本関雪と現代美術家の松井智惠の展示も魅惑的でした。ここでは関雪が美しく牧歌的な景色を描いた日本画を起点に、謡曲の物語を踏まえた松井の「ひばり山」の油彩の連作などが並んでいて、互いの色とかたちが混じり合い、辺りへと溶けていくような光景を目の当たりにできました。


東恩納裕一×マン・レイ/キスリング/山田正亮/デ ザイナーズ・チェア

東恩納裕一を筆頭に、マン・レイ、キスリング、山田正亮や柳宗理らのデザイナーズチェアを交えた展示もスリリングともいうような緊張感のある構成だったかもしれません。


東恩納裕一×マン・レイ/キスリング/山田正亮/デ ザイナーズ・チェア

ちょうど展示室の中央にはLEDによる「果物皿」などが並んだダイニングセットが置かれていて、その周囲を山田のストライプの作品や東恩納の蛍光管を用いたオブジェなどが展示されていました。


東恩納裕一×マン・レイ/キスリング/山田正亮/デ ザイナーズ・チェア

このダイニングセットをはじめ、色とりどりの椅子や壁の色、さらにLEDの灯りなどが渾然一体となって空間を築いていて、個々の作品を超えた空間そのものが1つのインスタレーションとして築かれていました。


文谷有佳里×菅木志雄

このほか、稲垣美侑と駒井哲郎、また文谷有佳里と菅木志雄の展示も面白いのではないでしょうか。とりわけ文谷の素早いタッチによるドローイングと、菅の木や角材を用いたオブジェとが、平面と立体の垣根を越え、互いに組み合わった構造体として浮き上がっているように見えるのも興味深く思えました。


松本陽子×瑛九/ジャン=バティスト・カミーユ・コロー/菱田春草/丸木位里

桃源郷がどこにあり、また何を意味するのかは1人1人にとって違うのかもしれませんが、時代やジャンルを超えた作品同士の出会いは時に共鳴しつつ、また対峙もしていて、実に多様な光景を生み出していました。


埼玉県立近代美術館のコレクションの魅力を引き出しつつ、現代美術家の活動のいまを楽しむことのできる展示と言って良いかもしれません。

2023年1月29日まで開催されています。

『桃源郷通行許可証』 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:2022年10月22日(土) ~2023年1月29日(日)
休館:月曜日(11月14日、1月9日は開館)。12月26日(月)~1月3日(火)は休館。
時間:10:00~17:30 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200(960)円 、大高生960(770)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクション(常設展)も観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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『展覧会 岡本太郎』 東京都美術館

東京都美術館
『展覧会 岡本太郎』
2022/10/18~12/28



東京都美術館で開催中の『展覧会 岡本太郎』を見てきました。

大阪万博の「太陽の塔」をプロデュースし、「芸術は爆発だ!」といった言葉でも知られる芸術家、岡本太郎は、絵画、立体、パブリックアートなどさまざまな作品を手がけ、生涯にわたって旺盛に創作活動を行いました。

その岡本太郎の業績を紹介するのが『展覧会 岡本太郎』で、最初期から晩年までの代表作などが美術館の3つのフロアを埋め尽くすように展示されていました。


『展覧会 岡本太郎』展示風景

まず最初のフロアでは、初期から晩年といった時代、また絵画や立体などのジャンルを問わずに作品が展示されていて、作品同士が向かい合うように並べられるなど、定まった順路もありませんでした。


右:岡本太郎『森の掟』 1950年 川崎市岡本太郎美術館

いずれも暗がりの空間から浮かび上がるような作品群は、時にプリミティブでかつ、異様なまでの熱気を帯びていて、まさに岡本太郎の創作世界に飲み込まれるかのような感覚にとらわれました。


岡本太郎『傷ましき腕』 1936/49年 川崎市岡本太郎美術館

これに続くのが第1章「“岡本太郎”誕生—パリ時代—」と題した展示で、代表作『傷ましき腕』や『空間』などをパリ時代の作品を通して、岡本太郎がどのように制作していたのかをたどることができました。


岡本太郎『露店』 1937/49年 グッゲンハイム美術館

このうちグッゲンハイム美術館からやって来た『露店』は、実に国内にて40年ぶりに公開された作品で、リボンをつけたモデルや鮮やかな商品との対比など、シュルレアリスムの影響を受けたような構成を見て取れました。


岡本太郎『太陽の神話』 1952年 株式会社大和証券グループ本社

岡本太郎の創作世界にて特に目立って見えたのが、第4章「大衆の中の芸術」と題したコーナーで、絵画をはじめ、建物の壁画の原画、オペラのためのデザインドローイング、FRPによる立体、さらにはシルクのスカーフなど、実に多岐にわたる作品が展示されていました。


『展覧会 岡本太郎』展示風景

ここからはギャラリーや美術館を飛び出し、屋外彫刻から暮らしと密接な日用品まで手がけた、岡本太郎の好奇心や豊かなアイデアが感じられるかもしれません。


岡本太郎『明日の神話』 1968年 川崎市岡本太郎美術館

1980年代に入ってメディアへの露出も増えた岡本太郎は、TV番組に出演するなど幅広く活躍する一方、晩年はパブリックアート以外の作品の発表を行わないなど、画家としての表立った活動が少なくなりました。しかし没後、アトリエには膨大なカンヴァスが残されていて、晩年にも絵画の探究がなされていたことが明らかとなりました。


岡本太郎『疾走する眼』 1992年 川崎市岡本太郎美術館

主に晩年に描かれた黒い眼を強調したような作品からは、不穏な雰囲気が漂いながらも、あたかも絵画の中で魂がうごめくような生命感も感じられたかもしれません。そこに創作の衰えを見ることはできませんでした。


岡本太郎『女神像』 1979年 川崎市岡本太郎美術館

展覧会は昨年秋の大阪中之島美術館を皮切りに、ここ東京都美術館にて開かれる巡回展ながらも、展示構成を変え、東京展のみの出品作も少なからず公開されています。*東京での会期を終えると愛知県美術館へと巡回。会期:2023年1月14日(土)~3月14日(火)



会期も残すところ1ヶ月を切り、会場内もかなり盛況でした。またオンラインでの日時指定制が導入されました。当日の入場枠も一定数用意されていますが、これからの観覧に際してはあらかじめチケットを確保することをおすすめします。


12月28日まで開催されています。

『展覧会 岡本太郎』(@okamototaro2022) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:2022年10月18日(火)~12月28日(水)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日は20時まで開館
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。
料金:一般1900円、大学生・専門学校生1300円、65歳以上1400円、高校生以下無料。
 ※オンラインでの日時指定予約制。
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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『ヴァロットン―黒と白』 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
『ヴァロットン―黒と白』
2022/10/29〜2023/1/29



19世紀末のパリで活躍した画家、フェリックス・ヴァロットン(1865〜1925年)は、版画や挿画、雑誌や新聞の挿絵、さらには油彩画などを手がけ、幅広く創作を行いました。

そのヴァロットンのモノクロームの世界に着目したのが『ヴァロットン―黒と白』で、会場では「アンティミテ」や「万国博覧会」、「これが戦争だ!」をはじめとする約180点の主に木版画が公開されていました。

スイス・ローザンヌ生まれのヴァロットンは、1882年、16歳にしてパリへと出ると、1891年より友人であり師でもあったシャルル・モランらの手解きを受け、木版画の制作をはじめました。



当初、身近な人々の肖像やスイスの山並みなどを描いていたヴァロットンは、やがてパリの街へと眼差しを向けると、さまざまな世代や階級の人々の集う雑踏などをモチーフに木版画を手がけるようになりました。



このうち「息づく街パリ」や「祖国を讃える歌」では、近代都市パリを舞台にデモや熱狂する群衆などを描いていて、さまざまな人物の立ち振る舞いを白と黒のみにて鮮やかに表現しました。



また子どもやモード、また死などもヴァロットンが集中して手がけたテーマで、そのうちの死から『暗殺』では室内空間における殺人事件を、暗示的にでかつ切迫感のある画面にて描きました。



男女の親密な関係をテーマにした「アンティミテ」では、男女がソファで抱き合う『嘘』をはじめ、同じく寄り添いながらの心理の駆け引きを思わせる『お金』といった傑作を生み出しました。

1914年に第一次世界大戦が勃発すると、ヴァロットンは戦争に関心を抱くようになり、当初は入隊を希望するも年齢制限のために叶うことはありませんでした。すると大きく落胆し、一時はアトリエに通うことすらやめてしまったものの、翌年から創作意欲を取り戻すると、戦争をテーマとした連作「これが戦争だ!」と描きました。

そこには塹壕の兵士や市民への攻撃の光景などが有り体に表されていて、時代こそ異なるものの、今もなお続いて止まない戦争の悲惨さを強く感じてなりませんでした。



2014年、三菱一号館美術館では『ヴァロットンー冷たい炎の画家』を開き、代表的な油彩に版画を合わせて約130点超の作品を公開しました。これは当時、国内では初めてとなるヴァロットンの回顧展で、美術ファンの大きな話題を集めました。



以来、約8年、今回はほぼ木版(一部に油彩あり)のみの展示ですが、油彩同様、人間のミステリアスなドラマが描かれたような作品世界に改めて心を引かれました。


WEBメディア「イロハニアート」へも展示の見どころを寄稿しました。

ヴァロットンの木版画の世界へ。ヴァロットン―黒と白が三菱一号館美術館で開催中 | イロハニアート

一部展示室の撮影も可能です。2023年1月29日まで開催されています。

*写真は『ヴァロットン―黒と白』会場風景、および「アンティミテ」アニメーションより。

『ヴァロットン―黒と白』 三菱一号館美術館@ichigokan_PR
会期:2022年10月29日(土) 〜 2023年1月29日(日)
休館:月曜日。12月31日、1月1日。(ただし10月31日、11月28日、12月26日、1月2日、1月9日、1月23日は開館)
時間:10:00~18:00。
 *金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は21:00まで
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1900円、高校・大学生1000円、中学生以下無料。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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『FUJI TEXTILE WEEK 2022』 山梨県富士吉田市下吉田本町通り周辺地域

山梨県富士吉田市下吉田本町通り周辺地域
『FUJI TEXTILE WEEK 2022』 
2022/11/23〜12/11



山梨県富士吉田市下吉田本町通り周辺地域で開催中の『FUJI TEXTILE WEEK 2022』を見てきました。

山梨県の富士山麓の街、富士吉田は、富士五湖への入り口としての観光地であるだけでなく、古くは1000年以上にもさかのぼる織物の産地として知られてきました。

その富士吉田にて開かれているのが布の芸術祭『FUJI TEXTILE WEEK 2022』で、下吉田本町通り周辺地域の10のスペースを用い、産地展「WARP & WEFT」とアート展「織りと気配 vol.02」が展開していました。


産地展「WARP & WEFT」展示風景

まずワタトウビルでの産地展「WARP & WEFT」では、羽織の裏地として人気を博した特産の甲斐絹(かいき)をはじめ、貴重な古い生地のアーカイブや、19の織物業者による最新のプロダクトなどを公開していて、富士吉田における織物の歴史と現在の産業のあり方を知ることができました。


産地展「WARP & WEFT」展示風景

そのうち目立っていたのが、かつては生産量で世界一を誇ったという織物の洋傘で、カラフルで華やかでかつスタイリッシュなデザインに心を惹かれました。


産地展「WARP & WEFT」展示風景

また2000年代には先染ネクタイ地の国内シェア1位となったというネクタイも鮮やかだったかもしれません。このほか、ストールや座布団地など、織物が商品として幅広く生産されていることも印象に残りました。


パトリック・キャロル 作品展示風景

これに続くのがアート展「織りと気配 vol.02」で、喫茶店の跡地や古い蔵、それに神社といった空間を用い、国内外9名の作家がテキスタイルを素材にした作品などを展示していました。


安東陽子 作品展示風景

築80年の蔵「KURA HOUSE」を舞台に、光沢のあるキュプラを用いた糸の束のインスタレーションを手がけたのが安東陽子で、3階建ての蔵の上下へ糸が垂れては窓からの光によってきらめく光景に魅せられました。


村山悟郎 作品展示風景

かつての糸屋の畳敷の空間では、村山悟郎が地元の機屋とともに制作したテキスタイル作品を展示していて、約25万枚にも及ぶ紋紙の一部とともに精緻なテクスチャを目の当たりにできました。


エレン・ロット 作品展示風景

旧文化服装学院では、村山悟郎、エレン・ロット、それに高須賀活良の3名が作品を公開していて、富士吉田市の街を歩き、心に留まった光景をジャガード織にコラージュした作品を見せたエレン・ロットの展示も心に留まりました。


YUIMA NAKAZATO 作品展示風景

このほか、屋内では旧・富士製氷の氷室をギャラリーとして改装したFUJIHIMUROにおけるYUIMA NAKAZATOの展示も見応えがあったかもしれません。パリオートクチュールウイークの準備のために制作した4分の1スケールのスタディーモデルが、映像とともにインスタレーションとして展開していました。


シグリット・カロン 作品展示風景

一方の屋外では、福源寺の山門や本堂をカラフルな布で覆ったシグリット・カロンや、小室浅間神社の神楽殿を舞台に、甲斐絹と神馬や祭神の炎のイメージをLEDに投影した落合陽一の展示が目立っていたのではないでしょうか。


落合陽一 作品展示風景

古いお寺を大胆に彩った布をはじめ、神楽殿を焦がすように展開する映像など、空間そのものを変容させるような展示に見入りました。


下吉田本町通り

下吉田本町通り周辺は近年、富士山を望む絶景スポットとしても知られ、海外の観光客からも人気を集めてきました。ただこの日はやや雲りがちな1日だったため、富士山のすがたをはっきり見ることはできませんでした。


ワタトウビル 屋上より

すべて下吉田の歩いて回れる一帯に点在し、展示そのものの半日もあれば見られるほどコンパクトな芸術祭でした。富士吉田は新宿から特急で約1時間40分ほどということもあり、日帰りで楽しむのも良いかもしれません。


Penオンラインにも『FUJI TEXTILE WEEK 2022』について寄稿しました。

テキスタイルをテーマとした国内随一の芸術祭。『FUJI TEXTILE WEEK 2022』が開催中!|Pen Online

会期も残り約1週間を切りました。明日火曜(6日)はお休みです。12月11日まで開催されています。*一番上の写真は小林万里子作品展示風景

『FUJI TEXTILE WEEK 2022』 山梨県富士吉田市下吉田本町通り周辺地域
会期:2022年11月23日(水)〜12月11日(日)
休館:月曜、火曜日。
時間:10:00~16:00(水曜〜金曜)、10:00〜17:00(土曜、日曜、祝日)
 *受付終了は閉場の30分前まで
料金:一般1000円。
 *高校生以下、富士吉田市民は入場無料。産地展「WARP & WEFT」は入場無料。
住所:山梨県富士吉田市下吉田2-1-32
 *総合案内所「旧ニコル喫茶店」の住所
交通:富士急行線下吉田<新倉山浅間公園> 駅徒歩5分。
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『加耶―古代東アジアを生きた、ある王国の歴史―』 国立歴史民俗博物館

国立歴史民俗博物館
『加耶―古代東アジアを生きた、ある王国の歴史―』
2022/10/4~12/11



国立歴史民俗博物館で開催中の『加耶―古代東アジアを生きた、ある王国の歴史―』を見てきました。

日本における古墳時代、朝鮮半島南部に存在した国々の伽耶は、新羅や百済をはじめ、日本の倭や中国と関わりながら、海上の交易と鉄の生産にて栄えました。

その伽耶の歴史をたどるのが『加耶―古代東アジアを生きた、ある王国の歴史―』で、大韓民国国立中央博物館の協力のもと、当地の墳墓から出土したアクセサリーや土器、それに武器や馬具など約200点以上の資料が公開されていました。


『短甲』 4世紀 伝金海退来里出土 国立中央博物館

伽耶において重要だったのは、鉄生産と交易と一体として運営していたことで、重厚な武装とともに華麗な土器も生産していました。


『有刺利器』 4世紀末〜5世紀前半 咸安道項里(文)10号墳 国立金海博物館

4世紀に成立した伽耶において最初に力を持ったのが、金官加耶と呼ばれる国で、豊かな鉄を背景に王や有力者の甲といった武具も作られました。


金官加耶 土器 展示風景

また金官加耶における土器は曲線的なかたちを特徴としていて、器台には波状文をはじめとするさまざまな文様が付けられました。


大加耶 土器 展示風景

この金官加耶に入れ替わって伽耶の盟主となったのが大加耶で、周辺地域を統合していくと、5世紀の終わりには伽耶の中で唯一、中国へ遣使を実現させるなど対外的にも力を誇示しました。


『龍鳳文環頭太刀』 5世紀後半 陜川玉田M3号墳 国立晋州博物館 ほか

大加耶の王陵からは、土器や鉄矛、馬具、それに百済に由来する銅鋺などが出土していて、有力者の身分を示す金銀のアクセサリーや細かな装飾の施された太刀も作られました。


『金銅冠』 5世紀中葉 高霊池山洞32号墳 国立大邱博物館

ともに大韓民国指定宝物である『金銅冠』をはじめとする装身具や、『龍鳳文環頭太刀』といった装飾太刀も見どころかもしれません。その精緻な意匠とともに金色の輝きに心を引かれました。


倭との交流 展示風景 

伽耶では4世紀の中頃から倭との繋がりを伺わせる品々が副葬されていて、倭との交流が盛んになった金官加耶では沖ノ島で安全のための祭祀も行われるようになりました。


伽耶王と倭 展示風景

また伽耶の墳墓では倭で作られた須恵器や鏡が副葬されるなど、倭の葬送儀礼によって葬られた痕跡も残っていて、倭の人々が伽耶に「雑居」していた可能性も指摘されるなど、伽耶と倭は深い交流を繰り返していました。


『ガラス容器』 5世紀後半 陜川玉田M1号墳 国立晋州博物館

このように多方面と交流していた伽耶も6世紀に入ると勢力にかげりを見せ、532年には金官加耶、そして562年には大伽耶がそれぞれ新羅に下ると、伽耶の歴史は幕を閉じました。


『頸飾り』 6世紀前半 高霊池山洞45号墳 国立大邱博物館

倭は伽耶を通して鉄の道具や金工、馬の飼育や灌漑、また炊事器具やカマドなどを道具や技術を入手したとされていて、倭、ひいては日本の歴史にとっても極めて重要な存在だったといえるのではないでしょうか。日本と朝鮮半島の交流の歴史の原点を見る思いがしました。


12月11日まで開催されています。なお歴博での会期を終えると、九州国立博物館(2023年1月24日~3月19日)へと巡回します。*予定

『加耶―古代東アジアを生きた、ある王国の歴史―』 国立歴史民俗博物館@rekihaku
会期:2022年10月4日(火)~12月11日(日)
休館:月曜日。但し休日の場合は翌日が休館日。
時間:9:30~16:30(入館は16:00まで)
料金:一般1000円、大学生500円、高校生以下無料。
 *総合展示も観覧可。
住所:千葉県佐倉市城内町117
交通:京成線京成佐倉駅下車徒歩約15分。JR線佐倉駅北口1番乗場よりちばグリーンバス田町車庫行きにて「国立博物館入口」または「国立歴史民俗博物館」下車。東京駅八重洲北口より高速バス「マイタウン・ダイレクトバス佐倉ICルート」にて約1時間。(一日一往復)
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2022年12月に見たい展覧会【雪松図と吉祥づくし/遊びの美/日本の風景を描く】

今年も残すところあと1ヶ月となりました。



11月は東京国立博物館の『国宝展』のチケットが完売し、木・日・祝も夜間開館を実施したり、12月5日の月曜の臨時開館するなど大変な人気を集めています。すでに公式サイトでは延長分のチケットも完売していますが、12月11日の会期末に向けて、連日大勢の方で賑わいそうです。


一方で早くも来年に向けて「芸術新潮」や「美術の窓」など、2023年の展覧会のスケジュールを特集した雑誌も目立つようになってきました。そろそろ来年の展覧会の情報も収集していきたいと思います。

12月に気になる展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・『生誕150年記念 板谷波山の陶芸』 泉屋博古館東京(11/3~12/18)
・『DESIGN MUSEUM JAPAN展 集めてつなごう 日本のデザイン』 国立新美術館(11/30~12/19)
・『柴田是真と能楽 江戸庶民の視座』 国立能楽堂 資料展示室(10/29~12/23)
・『美をつむぐ源氏物語—めぐり逢ひける えには深しな』 東京都美術館(11/19~2023/1/6)
・『三浦太郎展 絵本とタブロー』 板橋区立美術館(11/19~2023/1/9)
・『ポーラ美術館開館20周年記念展 ピカソ 青の時代を超えて』 ポーラ美術館(9/17~2023/1/15)
・『マン・レイのオブジェ 日々是好物|いとしきものたち』 DIC川村記念美術館(10/8~2023/1/15)
・『ビーズ—つなぐ かざる みせる 国立民族学博物館コレクション』 渋谷区立松濤美術(11/15~2023/1/15)
『雰囲気のかたち-見えないもの、形のないもの、そしてここにあるもの』 うらわ美術館(11/15~2023/1/15)
・『野口里佳 不思議な力』 東京都写真美術館(10/7~2023/1/22)
・『マン・レイと女性たち』 神奈川県立近代美術館 葉山館(10/22~2023/1/22)
・『星野道夫 悠久の時を旅する』 東京都写真美術館(11/19~2023/1/22)
・『京都・智積院の名宝』 サントリー美術館(11/30~2023/1/22)
・『国宝 雪松図と吉祥づくし』 三井記念美術館(12/1~2023/1/28)
・『中﨑透 フィクション・トラベラー』 水戸芸術館(2022/11/5~2023/1/29)
・『DOMANI・明日展 2022-23』 国立新美術館(2022/11/19~2023/1/29)
・『マリー・クワント展』 Bunkamura ザ・ミュージアム(2022/11/26~2023/1/29)
・『祈り・藤原新也』 世田谷美術館(11/26~2023/1/29)
・『ボッティチェリ特別展 美しきシモネッタ』 丸紅ギャラリー(12/1~1/31)
・『月に吠えよ、萩原朔太郎展』 世田谷文学館(10/1~2023/2/5)
・『大竹伸朗展』 東京国立近代美術館(2022/11/1~2023/2/5)
・『遊びの美』 根津美術館(2022/12/17~2023/2/5)
・『ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台』 東京都現代美術館(2022/11/12~2023/2/19)
・『日本の風景を描く ―歌川広重から田渕俊夫まで―』 山種美術館(12/10~2023/2/26)
・『北斎かける百人一首』 すみだ北斎美術館(12/15~2023/2/26)
・『諏訪敦 眼窩裏の火事』 府中市美術館(12/17~2023/2/26)
・『交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー』 東京都庭園美術館(12/17~2023/3/5)
「ガエ・アウレンティ日本そして世界へ向けた、そのまなざし」イタリア文化会館(12/11~ 2023/3/12)
・『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』 森美術館(12/1~2023/3/26)

ギャラリー

・『髙畠依子 CAVE』 シュウゴアーツ(11/19~12/24)
・『191人のクリエイターと瀬戸の職人がつくる招き猫 Lucky Cat』 クリエイションギャラリーG8(12/7~2023/1/21)
・『訪問者 クリスチャン・ヒダカ&タケシ・ムラタ展』メゾンエルメス8階フォーラム(10/21~2023/1/31)
・『How is Life?―地球と生きるためのデザイン』 TOTOギャラリー・間(10/21~2023/3/19)
・『宇野亞喜良展』 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(12/9~2023/1/31)

今月は日本美術に注目です。三井記念美術館にて『国宝 雪松図と吉祥づくし』が開かれます。



『国宝 雪松図と吉祥づくし』@三井記念美術館(12/1~2023/1/28)

これは同館を代表する国宝『雪松図屏風』を中心に、長寿や子孫繁栄、富貴といった吉祥主題の書画や工芸を紹介するもので、あわせて吉祥イメージがなぜおめでたいと見なされるのかについても明らかになります。

いわゆるお正月企画の展覧会でもありますが、年末年始を挟んでじっくり楽しむのも良いかもしれません。

「遊び」をキーワードに日本美術の優品を紹介します。根津美術館にて『遊びの美』が開催されます。



『遊びの美』@根津美術館(2022/12/17~2023/2/5)

今日、子どもの遊びやレジャーなどイメージさせる「遊び」は、歴史に目を向けると、単なる遊楽ではなく、教養を高めることや技芸を磨くことにも深く関わっていました。


そうした文化としての遊びを絵画や古筆、さらに屏風絵などでひもとくのが『遊びの美』で、室町時代の『玉藻前物語絵巻』をはじめ、江戸時代の『桜下蹴鞠図屏風』や『邸内遊楽図屏風』などが展示されます。貴族の歌合や蹴鞠、また武家の狩猟から庶民の祭礼まで、幅広い遊びの諸相を見ることができそうです。

ラストは日本の風景を日本画で楽しめる展覧会です。山種美術館にて『日本の風景を描く ―歌川広重から田渕俊夫まで―』が開かれます。



『日本の風景を描く ―歌川広重から田渕俊夫まで―』@山種美術館(12/10~2023/2/26)

これは古くから美術の題材として描かれてきた風景の作品を時代を追って紹介するもので、歌川広重の『東海道五拾三次』にはじまり、田植えの様子を絶妙な構図で描いた川合玉堂の『早乙女』、また農村の風景を鳥瞰的に表した田渕俊夫の『輪中の村』などが公開されます。


作品が発表されて以来、初めて同時に展示される、石田武の『四季奥入瀬』の連作全4点にも注目が集まりそうです。

WEBメディア「イロハニアート」にも今月のおすすめ展覧会を寄稿しました。

2022年12月おすすめの展覧会 | 日本美術と現代美術家の個展を中心に | イロハニアート


それでは今月もどうぞよろしくお願いします。
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