メトロと都営deぐるっとパス

今年もメトロ、及び都営交通の一日券と「ぐるっとパス」がセットになりました。「メトロ&ぐるっとパス」と「都営deぐるっとパス」の2009年度版です。

 

「メトロ&ぐるっとパス」(東京メトロ)
「都営deぐるっとパス」(東京都交通局)

昨年もご紹介しましたが、これらのチケットは「ぐるっとパス」(2000円)と、それぞれメトロ、都営交通(バス、都電など含む。)の一日乗車券が2枚(一枚あたり700円相当)ついた上で2800円というきっぷです。どちらの交通機関を選ばれるかは自宅方面との接続、また廻るエリアによっても大きく変わりますが、「ぐるっとパス」の購入予定の方は検討されてみては如何でしょうか。なおメトロ、都営の一日券とも、おおよそ4回程度乗り降りすると元が取れます。私は画廊巡りですぐに使い切ってしまいますが、美術館の他、買い物やお花見などと合わせた行程もまた良いかもしれません。



なおぐるっとパスは明日、4月1日より発売されます。早速、今春開催の興味深い展示を挙げてみました。

「生誕100年記念特別展 浜口陽三展」@ミュゼ浜口陽三ヤマサコレクション(4/1-7/20)
「水墨画の輝き」@出光美術館(4/25-5/31)
「動物を愛した陶芸家たち」@ニューオータニ美術館(4/25-7/5)
「三井家伝来 茶の湯の名品」@三井記念美術館(4/15-6/28)
「開館45周年記念 畠山記念館名品展」@畠山記念館(4/11-6/21)
「菊池ビエンナーレ」@智美術館(3/28-6/14)
「エカテリーナ2世の四大ディナーセット」@東京都庭園美術館(4/16-7/5)
「上野伊三郎・リチ コレクション展」@目黒区美術館(4/11-5/31)
「6+ アントワープ・ファッション」@東京オペラシティアートギャラリー(4/11-6/28)
「ラウル・デュフイ展」@三鷹市美術ギャラリー(4/18-6/28)

ちなみにこれらを展示の一般正規価格を合わせると7700円かかりますが、パスなら2000円のみで全て入場可能です。またその他、東近美工芸館、大倉、泉屋、それに春は国宝「源氏物語絵巻」の展観のある五島(4/29~5/10限定)などの定番美術館も控えています。相変わらず超お得です。

記載ミスなどがあるかもしれません。詳細は各リンク先公式サイトをご参照下さい。

*関連エントリ
「ぐるっとパス2009」概要発表

*追記(噂の展覧会がついに発表されました。)

永徳の「唐獅子図」秋に東京で展示…天皇即位20年記念(読売新聞)



名称:皇室の名宝―日本美の華
会場:東京国立博物館
会期:10/6-11/3(前期)11/12-29(後期)
出品予定:御物、または正倉院、三の丸尚蔵館、書陵部所蔵の作品、約180点。(上記読売新聞より引用)

「皇室の名宝・名所ガイドブック/毎日新聞社」
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「第28回 損保ジャパン美術財団 選抜奨励展」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階)
「第28回 損保ジャパン美術財団 選抜奨励展」
3/7-29(会期終了)



損保ジャパンの奨励展へ行くのは今年が三回目です。会期最終日に駆け込んできました。

本年の受賞作は以下の通りです。*公式HP上には作品図版も掲載されています。

損保ジャパン美術賞 弓手研平「梅雨色田植図(憲法前文三部作その二)」(2008-2009)
秀作賞 細川憲一「Trace 紋章」(2005)/ 山本雄三「祈り―温もりに包まれて」(2008)/大矢加奈子「line-girls」(2008)

では早速、印象に残った作品を挙げます。

岩田壮平「花泥棒」(2008)
日経展でも異彩を放っていた岩田の日本画です。ニット帽をかぶり、自転車にまたがった男性が、大きな赤い花束をかかえて猛ダッシュしています。上から見下ろすような構図感をはじめ、花の瑞々しい赤はもちろん、背景の金地、もしくは自転車のフレームの銀のメタリックな輝きまでを塗り分けた質感に魅力を感じました。

砂川啓介「silent space」(2008)
男性用のトイレを描いたのでしょうか。古びた小便器が三つ、まるでトマソンのように並んで表されています。汚れた便器やタイルのしみなどの緻密な表現はもちろん、全体にレンズを覗き込んでみたような歪みがある点に惹かれました。

三好正人「ミナソコニテーサトゥルヌスタン2」(2008)
摩訶不思議な怪物が横たわります。モチーフの全景は開けませんが、油彩を細密画を構成するかの如く散らして緻密に描く部分に好感を持ちました。

岩坪賢「周波数」(2008)
薄いグレーに覆われた二枚のパネルの上に、微妙な距離感を持って座る少女が描かれています。胡粉や麻紙を重ねた画肌からは仄かな銀色の光が放たれていました。二人の間の関係には何があったのでしょうか。何らかの物語を思い起こさせるような作品でした。

ましもゆき「前夜祝」(2008)
紙に細かなペンにて植物のモチーフを広げます。雲の靡くように描かれたそれらからは、ヒヤシンスのような根が束になってゆらゆらと垂れ下がっていました。緻密な描写力に多様なイメージも膨らみます。

田村正樹「SOUP-02」(2008)
うっすらとクリーム色を帯びた絵具の渦が飛沫を上げて激しく、また時にはゆっくりと回転するかのようにして空間を埋めていきます。塗り込められた顔料、そして合わせ貼られた和紙は表面に何層にも開ける景色を生み出していました。大波はうねり、大きな音を立てながら全てを飲み尽くしていたようです。絵具の表層の奥にある『何か』が、見る者に自由な心象風景を呼び込んでいました。

以上です。不思議にも毎年、私と近い世代の方の作品が心に残る割合が高い気がします。



なお最後の田村正樹に関しては現在、銀座一丁目のK's Gallery個展を開催中です。昨日、私も縁あって拝見してきましたが、清潔感のある白を基調とした小品の他、黒を帯びた暗鬱なワイン色がパネルの中で力強くうごめいて『万物』を生成する大作など、硬軟取り合わせた日本画の数々は見応えがありました。(31日の19時まで開催。)

選抜奨励展は昨日で終了しています。
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「六本木アートナイト」 六本木ヒルズ、東京ミッドタウン周辺他

六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館、サントリー美術館周辺
「六本木アートナイト」
3/28(17:59)-29(18:00)



何やら何故めいた企画ではありましたが、確かに活気と人出だけは大変なものがありました。一夜限りにて六本木ヒルズ他、周辺一帯をアートで埋め尽くします。六本木アートナイトへ行ってきました。

(「とらやん」。とらやんへの熱き思いを語るYCさんの記事も必見です。)

まず見るべきは高さ7メートル超にも及ぶ巨大機械彫刻、踊って炎を噴く「ジャイアント・とらやん」のパフォーマンスです。この怪物については上記公式HPを参照していただきたいのですが、ともかく異様な大きさで観客を圧倒していました。それにしても肝心の炎のシーンを写真に収められなかったのが心残りです。目にはしましたが、ちょうど移動中でうまく撮ることができませんでした。

(アートキューブ。)

(山下祐人のオブジェ。のうみそをイメージしているそうですが…。)

(たにぐちいくこのインスタレーション。中の人間は『本物』です。)

アートナイトのサブイベントとしては、新美、ミッドタウン他、ヒルズの各所に設置されたアートキューブです。かの日比野克彦をディレクターにして、若手アーティストらが灯りをテーマに、2メートル四方のコンテナの中で様々な制作、及びインスタレーションを繰り広げます。約20個のコンテナ全てを見るまでには至りませんでしたが、時には中に人まで入ってのパフォーマンスが行われていました。一晩中なさっているのでしょうか。驚かされました。

(藤原隆洋「into the blue」)

(開発好明「森の中の発泡度」)

(丸山純子「泡花壇」。素材はビニールと泡です。)

メイン会場はヒルズです。藤原隆洋のアドバルーン、開発好明の発泡スチロールインスタレーション、そして丸山純子の花のオブジェなどが展開されていました。

新美のアーティストファイルが入場無料(28日限り)の他、同じく新美のルーヴル、またサントリーの開館時間が22時、また23時までになるとは主催者の意気込みも感じられましたが、何故か肝心の森美は展示替え中で展望台のみの解放でした。やや中途半端だったかもしれません。

(毛利庭園にて。桜はまだでした。)

何はともあれ、花冷えも過ぎる中、夜の六本木を『健全』に楽しめました。街の活性化の起点としては十分に達成し得たイベントだったのではないでしょうか。

(とらやんを囲む人の数にも注目です。まさに人だかりでした。)

とらやんのパフォーマンスが本日の夕方までと告知(タイムテーブル)されています。圧巻の火を噴くシーンだけ何とかもう一度拝みたいものです。



あおひーさんが真夜中の六本木へと突撃されたそうです。レポートお待ちしたいと思います。アートナイトは本日夕方で終了です。

*ヤノベケンジ「ジャイアント・トらやんの大冒険」
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「ミレーとバルビゾン派の画家たち」 青山ユニマット美術館

青山ユニマット美術館港区南青山2-13-10
「ミレーとバルビゾン派の画家たち」
1/16-3/31



シャガールの他、エコール・ド・パリ、そしてバルビゾン派などの見応えある西洋絵画群も間もなく見納めです。3月末での閉館が急遽決まった青山ユニマット美術館へ行ってきました。



都内でこれほど充実したシャガールを見られる場所など他にありません。展示冒頭、2フロアに渡って続くのは、お馴染み「ブルー・コンサート」などのシャガールのコレクションでした。中でも今回、とりわけ印象深いのは、花をモチーフとした作品です。花束にベラやイダなどの娘の姿を重ねあわせ、そこへ彼らを祝福するかのような天使が横切る「菊の花」、また80歳を過ぎたシャガールが、ベラより貰った花束を描いた「誕生日の大きな花束」などは、光にも満ちた力強い生命感をたたえていました。



シャガールに引き続くエコール・ド・パリでは、何と言っても藤田の「バラ」が飛び抜けています。この卓越した質感表現を見て、岸田劉生や速水御舟の花卉画を連想するのは私だけでしょうか。折れてひしゃげたバラの様子には一抹の儚さすら感じられます。実はあまり好きではない乳白色もこの作品ならば問題ありません。背景の壁面、そして器の陶などの塗り分けも完璧でした。

今回の特集展示、「ミレーとバルビゾン派」の目玉は、ミレーの描いた数少ない子どもの肖像画(全部で10点しか残っていないそうです。)の一つである「犬を抱いた少女」(ちらし表紙)でした。無邪気に口を開ける犬に対し、少女はどこか取り澄ました表情でこちらを見つめています。しっとりと濡れたようなブロンドの髪もまた美しいものでした。



ラストには偉大なクールベの「シヨン城」が掲げられています。うっすらと朱色がかった空や深い森を、そして堅牢な城の姿を鏡のように反射するレマン湖の静けさが心にしみ入りました。

「青山ユニマット美術館 平成21年3月31日付閉館のお知らせ」(同館HPより)

館発起人氏が逝去された今こそ、社の総力を挙げてコレクションを公開し続けようという意思はなかったようです。

本展示は3月末日にて終了し、美術館も同日に閉鎖されます。
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「タノタイガ個展 - T+ANONYMOUS - 」 現代美術制作所

現代美術制作所墨田区墨田1-15-3
「タノタイガ個展 - T+ANONYMOUS - 」
3/7-29



作家自らのパフォーマンスを通して、『社会の様々なシステムやルール』(画廊HPより一部引用。)を問い直します。現代美術製作所で開催中のタノタイガのインスタレーション個展を見てきました。

ともかく楽しめるのは、かのヴィトンを素材とした彫刻、及びパフォーマンス映像作品です。お馴染みのモノグラムのバックを模した木彫が、全体としては精巧ながらもどこかフェイクと分かるように作られ、それがショップを再現するかのように置かれています。ちなみに『木彫ヴィトン』の側に並べられたプライスリストにも要注目です。そこには作品のモデルとなった実際の商品の値段が記されていますが、それがそのまま作品名にもなっています。このユーモアにも思わずニヤリとさせられてしまいました。

映像では、タノタイガが木彫ヴィトンを持ってパリのヴィトン本店へと行き、また税関を通過して日本へ帰って来るという仰天の様子が紹介されています。シャンゼリゼ通りを軽やかに歩く本人の肩からは木彫のモノグラムがぶら下がり、本店へ侵入すると、時折店員の視線が集中するものの、意外にも違和感なく周囲と溶け込んで『一般客』に成り済ましていました。税関はほぼ素通りです。フェイクは偽造品を通り越し、タノタイガの作品へと化した瞬間が記録されていました。アートとは、そしてブランドとは何かを問う、タノタイガの体を張った行為は彼の勝利に終わったようです。

その他では、青いビニールシートやロープで作った服を『サバイバルスーツ』と名付け、街中はおろか、官邸の前を歩くパフォーマンス、また「15mmポートレート」と題された本人扮する娼婦のポートレート写真なども紹介されていました。

明日、28日には、作家本人も来場するワークショップが企画されています。興味のある方は覗かれては如何でしょうか。

(目印は「美」のマークです。)

明後日の日曜日までの開催です。なおお出かけの際は必ず地図をお持ち下さい。駅からは至近ですが、現地周辺は完全に『迷路』です。
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「東本願寺の至宝展」 日本橋高島屋

高島屋東京店8階 ホール(中央区日本橋2-4-1
「東本願寺の至宝展」
3/18-30



東本願寺の宗祖、親鸞聖人の750回の遠忌を記念し、普段非公開の襖絵や関連資料などを紹介します。日本橋高島屋で開催中の「東本願寺の至宝展」へ行ってきました。

京都駅近くで偉容を誇る同寺ですが、今へ至る歴史はまさに受難続きでした。創建以来、計4回も大火に遭遇しながらも、その都度甦り、往時の絵師たちが襖絵などを納めています。構成は以下の通りでした。

1. 親鸞と東本願寺:親鸞自筆の書、もしくは江戸時代の御影など。
2. 円山応挙と近世の香り:焼失を逃れた応挙の襖絵。
3. 幕末と東本願寺:江戸幕府との関係。倒幕派の攻勢。大政奉還上奏文の写しなど。
4. 近代京都画壇の宝庫:蛤御門の変で4度目の焼失。再建された東本願寺を飾る京都画壇の襖絵の数々。
5. 焼失と再建の歴史:東本願寺の歴史を辿る。「阿弥陀如来立像」。関連VTRなど。
6. 棟方志功と念仏の教え:棟方志功の襖絵。



どうしても前半の応挙などに目が向いてしまいますが、本展示のハイライトはむしろ4番目、京都画壇の絵師たちが描いた襖絵の数々ではないでしょうか。荒れ狂う波に巨大な鷹が睨みを利かす久保田米僊の「波涛大鷹図」の他、同じく大きな孔雀が美しい羽を披露する岸作堂の「桜孔雀図」、はたまた永徳の巨木を思わせる松が空間を貫く玉泉の「桜花図/松・藤花図」などは、天井の低い高島屋のホールでは圧迫感すら覚えるほどに勇壮でかつ豪華な作品でした。ガラスケースもなく、剥き出しの展示には、置かれている場の再現こそ困難なものの、絵の息遣いを肌で感じ取れます。濃密な空間が演出されていました。



順序は逆になりますが、前半の応挙、伝蘆雪、そして元信らの作品では、この度、応挙作と認定された「雪中松鹿図」、または元信の「唐人物・花鳥図」が白眉です。前者の応挙作の松は、遠目で眺めた際の視覚効果に優れた雪松図の系譜を感じさせるのではないでしょうか。墨の濃淡にて牡丹のボリューム感と笹の軽やかな質感を同時に表した元信の作も優れていました。

これらの名だたる絵師たちとは無関係に私が一推しにしたいのは、東本願寺の再建のため、山より木材を切り出す光景を六曲一双の屏風で描いた「寛政度用材運搬図屏風」です。山奥より大きな木を切り、それを滝で下へと落とし、さらには川へと流して、最後には大勢の男たちが手で担いで運搬する様子が、まるでアニメーションのような動きをもって表されています。是非ともお見逃しなきようご注意下さい。



前回の上村三代展に続いての好企画です。催事場なので手短かにと思って見ると大変なことになります。時間に余裕をもっての観覧がおすすめです。

30日まで開催されています。なおいつものように会期中連日、午後6時以降(閉館8時)は入場料が半額(400円)となります。

*東京展終了後、札幌大丸、難波、京都の高島屋、及び栄の松坂屋へと巡回します。(スケジュールは東本願寺のHPをご覧下さい。)
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「小野耕石 - 古き頃、月は水面の色を変えた - 」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階)
「第3回 shiseido art egg 小野耕石 - 古き頃、月は水面の色を変えた - 」
3/6-29



丹念に刷り込まれたインクそのものが新たな景色を作り出します。資生堂ギャラリーで開催中の小野耕石の個展へ行ってきました。

地階展示室へ降りる階段から眺める限りでは、床面にちょうど煉瓦色のタイル、もしくは薄い絨毯が敷かれているように見えますが、実際に近づいて目を凝らすとそれは無数の小さな突起状の集まりでした。キャプションにはイメージは『湖』と記載されていますが、どちらかと言うと草むらの靡く大地のような印象に近いかもしれません。照明の反射を受け、右より左より、見る側の立ち位置によって様々な表情を生み出しています。長方形の組み合わさるモザイク状の面は、時にうっすらとした風の気配をも呼び込んでいました。

それにしてもこのシートが一種の版画で、僅か3、4ミリほどの突起物がまさかインクだとは思いもよりません。率直なところ、出来上がったイメージにはそう魅力を感じませんでしたが、表現の方法には感心させられるものがありました。



1月より続いた今年のアートエッグも本展示で終了します。29日までの開催です。

*関連エントリ(第3回資生堂アートエッグ)
「佐々木加奈子 - オキナワ アーク - 」(2/6-3/1)
「宮永愛子 - 地中からはなつ島 - 」(1/9-2/1)
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「桜さくらサクラ・2009」 山種美術館

山種美術館千代田区三番町2 三番町KSビル1階)
「桜さくらサクラ・2009 - さようなら千鳥ケ淵 - 」
3/7-5/17



美術館の移転のため、千鳥ヶ淵では最後の開催となります。山種の春の恒例展示、「桜さくらサクラ」を見てきました。

毎年見続けているだけあってか既視感は否めませんが、とっさの思いつきで今回は夜桜に的を絞ることにしました。出品作約50点のうち、夜桜モチーフの作品は10点弱ほどあります。以下に挙げてみます。



加山又造「夜桜」
新美の又造展で見た大作の屏風絵を連想させます。朧げに浮かぶ満月を背に輝くのは、枝振りも立派な枝垂桜でした。花々は空間を埋めるようにして力強く咲き誇ります。桜の下から花見の賑わいの声すら聞こえてきそうなほどに華やかでした。



今尾景年「松月夜桜」
主役は花よりも松の幹にあるのかもしれません。太い松に寄り添う桜の花びらは何とも健気でした。



川崎小虎「山桜に雀」
桜の枝で目を瞑って眠る雀のつがいが描かれています。控えめな白い桜の描写も印象に残りましたが、それよりも可愛らしい雀にぞっこんでした。



速水御舟「春の宵」
何度見てもその儚さには言葉を失ってしまいます。この桜は深い悲しみをたたえてはないでしょうか。まるで涙を流すかのように花びらを散らしていました。

速水御舟「夜桜」
モノトーンに沈む桜の枝が写実的に表されています。うっすらと金色を帯びた花弁の光には心打たれました。



菱田春草「月四題のうち春」
今にもしおれてしまうかのようなか弱い桜が描かれています。ひらひらと落ちる花びらは小雪が舞うかのようでした。



千住博「夜桜」
お馴染みの滝などは良く分かりませんが、この作品は素直に美しいと感じました。漆黒の闇に色鮮やかなピンク色の花びらが水しぶきのように広がっています。



稗田一穂「朧春」
水辺に反射した大きな満月がずしりと心に迫ります。後景の深き山並み、そして月明かりを纏った緑色の湖面を舞台に、桜の花が浮き上がるようにして主張していました。



石田武「春宵」
一番上に挙げた又造作の枝垂桜にも似ています。藤のように垂れる桜が華々しく咲き誇っていました。清潔感のある作品です。

毎年、葉桜の時期になってしまうことが多いのですが、今年は珍しくも開花前、ちょうど開花宣言の出された前日に行ってきました。このところ花冷えの続く東京ではありますが、見頃はやはり今週末になるのでしょうか。千鳥ヶ淵界隈は大変な人出となりそうです。

5月17日まで開催されています。
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「無声時代ソビエト映画ポスター展」 東京国立近代美術館フィルムセンター

東京国立近代美術館フィルムセンター中央区京橋3-7-6
「無声時代ソビエト映画ポスター展」(第3期)
3/3-29



主に1920年代に制作されたソビエトの映画ポスターを概観します。東近美フィルムセンターで開催中の表題の展覧会へ行ってきました。

同館には約5万枚もの映画ポスターが所蔵されていますが、その中でも特に貴重であるののがソビエト無声映画時代の作品です。本展示ではソビエト文化研究家の袋一平が蒐集した140枚を3回に分け、各回50枚程度ずつ紹介しています。(現在は最終期)1920年代と言えばまさに今、埼玉県美巡回中の「ロシア・アヴァンギャルド展」でも俯瞰した構成主義の時代に他なりません。ソビエトは当時、新社会建設のために映画芸術を果敢に開拓していました。その結果が一連の野心的なポスター群を生み出すことに繋がっていたようです。



当時、ポスター制作の中心となっていたステンベリク兄弟の「大地」(1930)を見てマレーヴィッチを思い出したのは私だけでしょうか。リアルな顔はさておくとしても、その背景の黄色と黒の大胆な色面配置、そして体を象る単純な直線と曲線の構成は、マレーヴィッチがシュプレマティズム以降に到達した世界に良く似ています。また同兄弟の作としては汽車をモチーフとした「トゥルクシブ」(1929)も印象に残りました。迫り来る汽車の前に男女が登場します。彼らの間には一体どのようなドラマがあったのでしょうか。そのような詮索もしたくなる作品でした。

最後に一枚、「詩人の青春」(1937)に目がとまりました。ブロンドの髪を靡かせた横顔は、拙ブログのタイトルを引用した「チャイルド・ハロルドの巡礼」を書いた詩人バイロンに良く似ています。ひょっとすると彼の肖像を借りているのかもしれません。

「対訳 バイロン詩集 - イギリス詩人選/岩波文庫」

映画のあらすじの紹介があればなお良かったとは思いましたが、グラフィック・アート展として見ても気軽に楽しめるのではないでしょうか。入場料200円も良心的です。

今月29日までの開催です。なお7月より京都国立近代美術館へと巡回(7/3~8/23)します。
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「青木野枝 新作展」 ギャラリー・ハシモト

ギャラリー・ハシモト中央区東日本橋3-5-5
「青木野枝 新作展」
3/6-28



鉄の持つ重厚なイメージを華やかに解放します。青木野枝の新作インスタレーション個展を見てきました。



ホワイトキューブをあたかも水が滴り落ちるように連なるのは、青木の得意とする鉄の細いリングの集団です。それ自体は刻み込まれた生々しい『傷跡』もそのままに、鉄の怜悧な感触を伝えながら、知恵の輪の如く絡み合っています。しかしながら青木の手にかかると、鉄はあたかも軽やかなシャボン玉のような浮遊感をもってリズミカルに舞い始めました。この動きこそ青木の彫刻の醍醐味です。包まれるような居心地の良さを感じられるのではないでしょうか。



彫刻の他、壁面に貼られた円状の『空』も空間を巧みに演出しています。まるで雲の中を駆けて旅しているかのようでした。

28日までの開催です。
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「湯浅克俊 展」 INAXギャラリー

INAXギャラリー2中央区京橋3-6-18 INAX:GINZA2階)
「湯浅克俊 展」
3/2-26



眩しいほどの陽光に包まれた街の景色がモノクロームで紡がれます。木版作家、湯浅克俊の個展へ行ってきました。

画廊HPの説明の如く、一見するところ風景写真のようですが、実際は言うまでもなく木版画です。夏のギラギラとした光を受けた木々が大きく背伸びして枝葉を広げ、また公園で同じく木漏れ日の差すベンチの景色などが、白と黒のグラデーションにも巧みな木版の表現にて軽やかに示されています。時に斜めに走る線の痕跡は、あたかもその場へ降り注ぐ光の筋のようでした。細やかながらも、決して画面を埋め尽くすことのない線が全体にゆとりを与えています。いつか見たことのあるような懐かしい景色が広がっていました。



清潔感のある光と木々の描写に囲まれたからでしょうか。会場にて思わず深呼吸をしたくなりました。

26日の木曜日まで開催されています。
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「小杉放庵と大観」 出光美術館

出光美術館千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階)
「小杉放庵と大観 - 響きあう技とこころ」
2/21-3/22



小杉放庵と横山大観の厚い交流を辿ります。出光美術館での「小杉放庵と大観」へ行ってきました。

展示は放庵から始まります。『未醒』と称し、酒好きで豪放でだった若き放庵は当初、パリへ留学するなどして洋画に手を染めますが、当地で池大雅の複製「十便帖」に出会い、その画風を一気に日本、東洋への世界へと転向させました。初期の佳作としては「湖畔」(1914)が挙げられるのではないでしょうか。油彩でありながらも既にナビ派や南画を思わせる点描が木立を象り、透明感のある絵具が水辺の景色を伸びやかに広げています。また転向後の日本画は、墨や金泥までを駆使した軽妙な山水の光景が目立ちました。眉間に皺を寄せ、こちらを睨む「自画像」(1930)にこそ彼の気丈な性格が伺い知れますが、その画風は決して力の入りすぎることのない優し気なものであったようです。

大観との出会いは放庵が文展に参加した時に遡ります。当時、文展の審査員を務めていた大観は、評に食って掛かった放庵に気概を見たのか興味を覚え、そこから両者の奇妙な交流が始まりました。二人の関係は大正2年、放庵の誘いで日本画、洋画を分け隔てなく研究する「絵画自由研究所」の構想にまで至ります。大観をはじめ、観山、紫紅、そして放庵が馬車にて写生旅行した「東海道五十三次絵巻」(1915)は印象に残りました。(展示では大観と放庵の箇所のみ公開。)絵具の『ぼかされた』長閑な山並みが東海道の明るい日差しを浴びています。旅情気分も満点でした。

その『ぼかし』が大観の画風に影響を与えていたとは思いもよりません。この時期の放庵は、弧状の輪郭線を一方を消す『片ぼかし』と言われる技法を多用しますが、それがそのまま大観の得意とする朦朧体へと吸収されていきました。「荒川絵巻」(1915)には、放庵より受け継いだぼかしの駆使された作品ではないでしょうか。山深い長瀞の渓谷が靄を帯びながら幻想的に表されていました。



晩年の放庵は和み系です。ちらし表紙も飾る何とも楽し気な「天のうづめの命」(1951)、そしてこれほど可愛らしい作を他に見たことのない「寒山拾得」(昭和時代)には強く惹かれました。ちなみに前者の命は、当時一世を風靡していたブギの女王がモデルになっているそうです。軽やかなステップはやはり本場仕込みでした。

企画力のある出光美術館をしてみれば当然なのかもしれませんが、二人展のお手本となるような展覧会で感心しました。丁寧なキャプションは図録級に充実しています。

お気に入りの日本画家がまた一人増えました。明後日、22日までの開催です。
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「ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画」 国立西洋美術館

国立西洋美術館台東区上野公園7-7
「ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画」
2/28-6/14



感想が遅くなりましたが、珍しくも初日に参戦してきました。国立西洋美術館で開催中の「ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画」へ行ってきました。

副題の通り、ルーヴル所蔵の17世紀絵画(約70点)を俯瞰する展覧会です。うち60点が日本初公開とのことで、毎年の如く開催されるルーヴル展に食傷気味な方も、また新鮮であったのではないでしょうか。以下、惹かれた10点を挙げてみました。


アンブロシウス・ボスハールト(父)「風景の見える石のアーチの中に置かれた花束」(1619-21)
遠景には広い海辺を望むアーチに置かれた花束が精緻なタッチで表されている。爛れるように咲くチューリップの色鮮やかな表現、もしくは少し枯れ始めた葉、さらにはアーチの上にのる昆虫などの描写は極めて写実的。また古くなったのだろうか、花瓶の中の水が仄かな緑色を帯びていた。ちなみに油彩ながらもやや光沢感のある画肌は、支持体が銅板であるからなのかもしれない。


ル・ナン兄弟「農民の家族」
何ら変哲のない農民の姿が、まるで聖家族を思わせるほどに厳粛な雰囲気をたたえている。まるで舞台を飾るように横一線に並び、憂いをたたえた視線を前へ向ける様は、こちらの心をぐさりと突き刺してきた。彼らは一体、何を訴えているのだろうか。

17世紀スペイン派「法悦の聖フランチェスコ」(1650)
痛みをこらえつつ、激しいエクスタシーにも襲われる聖フランチェスコ。充血して虚ろな目の先には神が見えるのだろうか。ドクロや聖書などは比較的細かく描かれているが、突き刺して破けた衣服や背景のグレーはかなり荒削りだった。まるでエル・グレコのよう。

ペーテル・パウル・ルーベンス「トロイアを逃れる人々を導くアイネイアス」(1602-04)
ルーベンスの壮年期の大作も一点(ユノに欺かれるイクシオン)出ているが、より興味深かったのは画家が25歳の頃に描いた本作。左奥には炎上するトロイアを望み、森の手前の中央には逃れてきた人々が、そして右手には夕陽に染まる帆船が並んでいる。ルーベンスらしからぬ地味な配色と、決して量感に過ぎない人物表現がむしろ魅力的だった。


クロード・ロラン「クリュセイスを父親のもとに返すオデュッセウス」(1644)
ビロードのようにも輝く光が全体を覆う美しい一枚。イリアスに由来するドラマがロランの得意とする舞台的な港町に見事に描かれている。船から一筋の光が差し込んで来る様は神々しいほど。また両側に立ち並ぶ古典的な建築も堂々として立派だった。ちなみにオデュッセウスは船の前にいるそうだが、その辺の記載も会場キャプションにあればなお良かったかもしれない。

ヤーコプ・ファン・ライスダール「嵐」(1670)
暗雲漂う空の下、力強くうねる波に今にも呑み込まれようとする寒村が表されている。雲の合間から差す光は、もう間もなく嵐が終わることを暗示しているのだろうか。波に洗われた岸辺の草むらの激しいタッチは、まるでブラマンクの描く葦のようだった。

アドリアーン・コールテ「5つの貝殻」(1696)
大小様々な貝が暗がりに透き通る台の上に丁寧に並べられている。貝の表面の凹凸まで示した描写は実に細やかだが、やはりこれらの貝は貴重なものだったのだろうか。意味ありげにひび割れたグレーの台との対比が、静物画らしからぬ緊張感を絵に呼び込んでいた。

ヘリット・ダウ「歯を抜く男」(1630-35)
偽歯医者が大仰な様子にて男の歯を抜いている。大口を開けながら脚を踏ん張る男は、やはり痛みに耐えているからなのだろうか。もちろんダウと言えばこうした人物表現よりも、細部を顕微鏡で伺うほど精緻に描かれた事物の方が面白い。前に置かれたかごの表面の質感は、西美所蔵の「シャボン玉を吹く少年」と同様にリアルだった。


カルロ・ドルチ「受胎告知 天使」/「聖母」(1653)
ドルチの聖母を見るのは西美、東博所蔵のそれに続いて三作目。軽やかなブロンドの髪をなびかせ、ややあどけない様子にて手を前にやる天使と、ドルチカラーならぬ抜けるように澄み渡った青いスカーフを纏い、ひたすらに敬虔な趣にて受け止める聖母の美しさは甲乙付け難い。本展示のハイライト。


ジョルジュ・ド・ラ・トゥール「大工ヨセフ」(1642)
イエスの左手を透かす蝋燭からもれる明かりが、この父子に表される慈愛を祝福する。ヨセフの逞しい腕や潤んだ瞳に、彼の父としての力強さを見る思いがした。ラトゥール展の記憶もよみがえった方も多いのではなかろうか。

以上です。

なおこの手の大型展では要注意の混雑状況ですが、これまでのところ土日の午後、とりわけ14時から15時前後に10分から20分程度の入場待ちの行列が出来ているそうです。明日からの三連休以降、また会期中盤へ向けて間もなく迎える桜のシーズン、そして大型連休中には激しい混雑となるのかもしれません。

ロングランの展覧会です。6月14日まで開催されています。
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「ジョアン・ミロ展」 大丸ミュージアム・東京

大丸ミュージアム・東京千代田区丸の内1-9-1 大丸東京店10階)
「ジョアン・ミロ展」
3/5-22



バルセロナのミロ財団コレクションを概観(約70点)します。東京大丸で開催中の「ジョアン・ミロ展」へ行ってきました。



ミロというと、時にいかにも抽象然とした難解な印象も拭えませんが、この展覧会では絵画上に登場するシンボルをいくつかのキーワードで分類した上にて、各々のイメージを解く構成がとらえています。一見、単なる円に見えるモチーフが太陽に、また小さなハシゴが天国へと登るための道具だと知ると、ミロの表現の方向がより分かりやすく開けてくるのではないでしょうか。もちろん自由な想像力を駆使して見るのも鑑賞の一つあり方ですが、逆に言葉から入って楽しむのも悪くありませんでした。



『瞑想』(チラシより引用)と言うよりも、意思や詩情が奔放にうごめくミロ絵画はどれを見ても心に迫るものがありますが、今回とりわけ気になったのは月と女性をテーマにした二枚、「夜景の人々と鳥たち」と「月の前の女」でした。宇宙の象徴でもあるという月と太陽を画中に頻出させるミロは、例えば後者においても不気味なほど黒い月を配していますが、狂気を呼び込むそれは白く描かれた女性を激しく抑圧していました。打ちのめされた頭部より落ちる涙は、同じく黒く輝く星たちから滴り落ちる絵具とも重なます。そこには揺れ動く感情の悲しみがもたらされていました。



絵画他、ブロンズのオブジェなどもいくつか紹介されています。またミロが、男性と女性をそれぞれ数字の何で表したのかというような謎解き的要素も盛りだくさんでした。

図録が弱かったのだけは残念でした。22日、日曜日まで開催されています。

*東京展終了後、大丸ミュージアムKOBEへ巡回。(3/25~4/6)
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「VOCA展 2009」 上野の森美術館

上野の森美術館台東区上野公園1-2
「現代美術の展望 VOCA展 2009 - 新しい平面の作家たち - 」
3/15-30



受賞トークの記事(三瀬/樫木・高木)に続いての感想編です。上野の森美術館で開催中のVOCA展へ行ってきました。

まずは本年度の受賞作家、及びその作品のタイトルです。公式HPより転記します。

VOCA賞   三瀬夏之介「J」
VOCA奨励賞 樫木知子「屋上公園」/「ふくろのウサギ」
VOCA奨励賞 竹村京「dancing N.N. at her room and at the same time in a library in Berlin」
佳作賞    今津景 「COSMOPOLITAN」
佳作賞    櫻井りえこ「あやとり」/「金魚のおはか」
大原美術館賞 淺井裕介「人」/「今日は今日」/「植物」
府中市美賞  高木こずえ「ground」

それでは早速、以下に私の印象深かった作品を挙げます。

田尾創樹「信頼と実績のおかめぷろ ご依頼お問い合わせは」
滑稽なタイトルを除くと、意外にも色に鮮やかな真っ当な絵画世界が展開されている。まるでアニメのワンシーンかおもちゃ箱をひっくり返したようなモチーフが楽しい。凹凸のある画肌が目に飛び込んできたが、これは支持体に段ボールなどを使っているからだそう。マスキングテープまでが彩色されて絵の素材になっていたのには驚かされた。

小西紀行「無題 」/世界であり、そして彼の旗でもある」
お馴染みのポートレートと謎めいた抽象画の組み合わせ。単体で見るとやや弱いかもしれない。



高木こずえ「ground」
馬喰町でも見た激しく炸裂する草花のモチーフ。家や人、馬が回転するようにうごめいている。個展時には炎のように見えた朱色が、今回はネオンサインのようにも見えた。

船井美佐「womb」
三面のパネルに白い顔料が瑞々しく広がる。マスキングによって色の抜かれた部分から景色が広がっていた。雲霞のように漂う紫色のタッチも美しい。



樫木知子「屋上庭園」
存在の危うさを感じさせる幽霊のような少女。遠景に広がる山や森をバックに、建物の際どい屋上の縁にてかろうじて立っている。彼女はこのまま後ろへ倒れるのか、それともそのまま浮いて空へと駆け出すのだろうか。

藤田桃子「アメツチヲムスブ」
高橋コレクションでも度肝を抜かれた藤田の大作絵画。古代の恐竜のようなおどろおどろしい大木が妖気を発しながら空間を覆う。麻紙に顔料を合わせた画肌は、まるで水で削られた大地の地表面のようだった。率直なところ、私には作品の優劣は分からないが、この作品が無印なのは納得がいかない。



三瀬夏之介「J」
むせ返るような濃密極まりない佐藤美術館の時とは異なり、その破滅的なスケール感を半ば客観的な立場で楽しめる。引いて見ることが可能だからなのか、迫り来るよりも奥へと抜ける見通しの良さを感じた。林立する大仏山、そして爆発的に広がる雲のような奇岩がゆき手を遮り、反面での透き通った空のような青い空間に魔人が闊歩している。ちりばめられた星屑は、あたかも主人公「J」の降臨を祝う花火のようだった。



今津景「COSMOPOLITAN」
アメコミテイストのポップな絵画。蜃気楼のように歪んだ高層ビルをバックに、肩車で繋がった父と娘が歩く。一見、ビーチでも散歩しているかのような楽しい絵だが、彼らの下に広がるのは都市の残骸、その壊れた痕跡なのだろうか。車が無惨にもひっくり返っていた。文明を告発している。

梅津庸一「Melty Love」/「Life is Beautiful」
中世的な人間のヌード。少年のようにあどけない顔にも関わらず、お腹は妊娠したかのようにふくれている。油彩を用いながら、パステルで描いたような表情を見せているのが興味深い。ただしアラタニウラノの時ほどの衝撃はなかった。

福永大介「モーニングスマイル」
起立する電柱に横たわるサーフボード、そして廃タイヤが一つだけ転がっている。トマソンのような虚無感を漂わせながらも、シュールな感覚は与えない不思議な作品。後ろ髪を引かれる。この作家の描く他の作品が気になった。

渡邊慶子「薫風」
大作の多いVOCAではややインパクトに欠けるかもしれないが、作品自体はまるで宝石の輝きを見るように美しい。バラの花のようなモチーフが、岩絵具の質感も借りてキラキラと煌めいている。

麻生知子「家」/「犬の家」/「郵便箱」
家族の団らんする一軒家の断面図が描かれている。断面とは言え、横からはもちろん、時に視点が上や斜めから差し込まれているのが面白い。庭の砂のざらっとした感触、または畳のフラットな質感などの描き分けも見事だった。



淺井裕介「人」/「今日は今日」/「植物」
増殖に反復、そして変容するモチーフ。細かなペンが次々と未知の世界を切り開く。出来ることなら美術館全体を覆って欲しい。しかしながら本作だけではそのスケールは到底楽しめない。こうした面で制約の多いこの手の展示の限界を感じてしまう。

以上です。展示環境は至極平凡、また前述の通り出品上の制約もあるせいか、VOCA展は個々の作家の魅力を汲み取れるまでに至らないことも少なくありませんが、一種の現代アートの『名品展』として捉えれば楽しめるのではないでしょうか。ここで見知った作家を、後に開催される画廊の個展などでより深く引かれたことは一度や二度ではありません。

毎年同じことを書いている気もしますが、この展覧会を見ると春が来たという気持ちにさせられます。

今月末、30日までの開催です。
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