「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」 SOMPO美術館

SOMPO美術館
「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」
2021/10/2~12/26



SOMPO美術館で開催中の「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」のプレスプレビューに参加してきました。

大正から昭和にかけて活動した川瀬巴水は、全国各地を旅しながら風景を描き、情緒豊かな木版画の作品を数多く残しました。

その巴水の画業を紹介するのが「旅と郷愁の風景」で、会場には初期から晩年までの木版画はもとより、写生帖や版木、また生前の巴水の制作風景を捉えた写真や映像などの資料が展示されていました。


春のあたご山『東京十二題』より 1921(大正10)年

すでに良く知られた人気の版画家ゆえに、過去にも度々展覧会が開かれてきましたが、まず今回の特徴としては巴水の人生を新版画運動を推進した渡邊庄三郎とともに辿っていることでした。



実際に巴水は渡邊以外の版元とも作品を制作しましたが、基本的に渡邊との仕事を追う回顧展といえるかもしれません。

新版画運動とは、渡邉版画店の主人であった渡邉庄三郎が、衰退していた江戸時代以来の伝統的な木版技術の復興を図るべく、版元、絵師、彫師、摺師が共同で芸術性を第一とする版画を世に出そうとしたもので、巴水は伊東深水や橋口五葉らとともに加わり、新版画を制作していきました。


芝増上寺『東京二十景』より 1925(大正14)年

2つ目の特徴としては巴水の描いた版画連作を可能な限り一括して展示していることで、代表的な「旅みやげ第一集」や「東京十二ヶ月」、それに「東京二十景」をまとめて楽しむことができました。


日本橋(夜明)『東海道風景選集』より 1940(昭和14)年 右は2020年撮影の日本橋

また「旅みやげ第三集」や「東海道風景選集」などの一部の作品では、巴水の版画と現代の写真が隣り合わせに並んでいて、例えば首都高の高架橋が存在しない「日本橋」など、過去と現在で変化した光景を見比べることも可能でした。


「野火止平林寺」木版畫順序摺(10枚セット) 1952(昭和27)年

3つ目は版木や順序摺などの制作プロセスが分かる資料が公開されていることで、中でも「野火止平林寺」では、摺りの工程を記録した10枚のセットが完成品を含めて並んでいました。


「野火止平林寺」木版畫順序摺10枚(完成)と完成した作品を見る川瀬巴水(1952年)

「野火止平林寺」における実際の摺りの回数は約30回とされていて、全てを再現したわけではないものの、制作工程を垣間見る興味深い資料ではないでしょうか。完成品を手に取りながら笑みを浮かべる巴水の様子も印象に残りました。


「スティーブ・ジョブズと巴水」から

最後のポイントは、巴水の作品を収集していたことで知られるアップル・コンピューターの共同創業者、スティーブ・ジョブスのコレクションと同じ作品が展示されていることでした。


「髪梳ける女」 絵師:橋口五葉 1920(大正9)年

ジョブスは20代後半の時に来日した際、巴水の作品を扱う東京の画廊を訪ねていて、そこで自ら作品を購入しました。少なくとも2003年までにジョブズは新版画を43点購入し、そのうち25点が巴水だったと伝えられています。



またジョブスは1984年、マッキントッシュの製品を公開した際、橋口五葉の「紙梳ける女」の画像を使用していて、当時の様子を伝えるコンピューター専門誌などの資料も出ていました。

ジョブズと新版画の関係は、近年、NHKの番組でも取り上げられて注目を集めましたが、改めて知る良い機会といえるかもしれません。


「平泉金色堂」 1957(昭和32)年

最後に展示替えの情報です。約280点の出品作のうち、会期中に前期と後期にて一部の作品が入れ替わります。

「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」出品リスト(PDF)
【前期】10月2日(土)~11月14日(日)
【後期】11月17日(水)~12月26日(日)


若狭久出の濱『旅みやげ第一集』より 1920(大正9)年

「東海道風景選集」と「日本風景集東日本篇」、及び「新東京百景」や「朝鮮八景」は前期のみの出品、また「旅みやげ第二集」や「日本風景選集」は後期のみに出品されます。


「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」会場風景

会期中、3階展示室のみ撮影が可能です。(本エントリの写真は内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。)

なおWEBメディア「イロハニアート」にても本展覧会の見どころをご紹介しました。

「旅情詩人」と呼ばれた版画家、川瀬巴水の人生をたどる。『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』展レポート(イロハニアート)


12月26日まで開催されています。

「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」 SOMPO美術館@sompomuseum
会期:2021年10月2日(土)~12月26日(日)
休館:月曜日。但し祝日・振替休日の場合は開館、11月16日(火)。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、大学生1000円、高校生以下無料。※オンラインチケット観覧料
住所:新宿区西新宿1-26-1
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。

注)写真は報道内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。
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「第15回shiseido art egg 菅実花展  仮想の嘘か|かそうのうそか」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第15回shiseido art egg 菅実花展  仮想の嘘か|かそうのうそか」 
2021/10/19~11/14



新進アーティストを公募展の形で紹介する「shiseido art egg(シセイドウアートエッグ)」も、本年度で15回目を数えるに至りました。

3名の入選者によって順に行われる個展のうち、現在開かれているのが、1988年に生まれた菅実花(かん みか)の「仮想の嘘か|かそうのうそか」で、会場には写真や映像、またレンズを用いたインスタレーションが展示されていました。



まず目を引くのが、壁一面に並ぶ「ステイバラダイス」と題した写真で、鏡のあるリビングのような室内空間において2人のそっくりな女性が写っていました。いずれも作家の菅をモデルとした作品でした。



あまりにも姿かたちが似ているゆえに、はじめは一体、どのように写したのかわかりませんでしたが、実のところ1人は菅本人で、もう1人は精巧に作られた人形でした。

かねてより菅は「生殖」をテーマに人形を写真に写し続けていて、いわばクローンならぬ、作家自身の頭部を型取りして作った人形とともに撮影するセルフ・ポートレイトを制作してきました。



またコロナ禍の元、菅はスタジオに1人こもって「ステイパラダイス」を写していて、人間と直接会うことを極力避け、代わりに人形とずっと一緒にいたことから、たまに話しかける存在になったとも述べています。

さらに現在、千葉県松戸市にあるアーティスト・イン・レジデンスの「パラダイスエア」の一室をスタジオとして借りて制作していて、室内空間にはかつてのホテルの内装がそのまま活かされています。



ちょうど展示室の中央に吊られたレンズ越しに見やると、写真が歪んだり、時に無数に分裂していって、あたかも万華鏡の中を覗き込むような気持ちにさせられました。また人間と人形、つまりの本物と偽物のどちらかを見分けようとすればするほど、その境界が曖昧に見えてくるのも興味深く思えました。



もう一方の小展示室では菅のスタジオを再構成したインスタレーションが展開されていて、19世紀の視覚トリックとして人工的に幽霊を映した「ペッパーズゴースト」をモニターで再現した作品が公開されていました。



モニターには菅の姿がぼんやりと消えるように映されていて、まさにスタジオへ突如現れた幽霊のようでした。


「第15回 shiseido art egg」展示スケジュール
石原海展:9月14日(火) ~10月10日(日)
菅実花展:10月19日(火) ~11月14日(日)
中島伽耶子展:11月23日(火・祝) ~12月19日(日)



11月14日まで開催されています。

「第15回shiseido art egg 菅実花展  仮想の嘘か|かそうのうそか」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:2021年10月19日(火)~11月14日(日)
休廊:月曜日。*祝日が月曜にあたる場合も休館
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「今津景個展 Mapping the Land/Body/Stories of its Past」 ANOMALY

ANOMALY
「今津景個展 Mapping the Land/Body/Stories of its Past」
2021/10/2~11/7



ANOMALYで開催中の「今津景個展 Mapping the Land/Body/Stories of its Past」を見てきました。

1980年に生まれたアーティストの今津景は、歴史的名画や博物図譜、それにSNSにアップされた写真など、ネット上の画像データをPhotoshopにて編集した下図をもとに、キャンバスに油彩で描く作品を制作してきました。



その今津の都内では3年ぶりとなる個展が「Mapping the Land/Body/Stories of its Past」で、会場には主に昨年から今年にかけて描かれた絵画、および鉄のオブジェなどが展示されていました。


「RIB」 2021年

ともかく目を引くのは、鮮やかな色彩を伴いつつ、激しい動きを見せるように展開する大画面の油彩画で、中にはバナナの房や虎、はたまた名画の一場面と思しきモチーフが入り乱れるように描かれていました。


「Memories of the Land / Body」 2020年

これらのモチーフの一部は、今津が現在、拠点とするインドネシアの歴史や文化に関係する素材も取り込まれていて、銃剣を構えた兵士なども見られました。

またPhotoshopを取り入れつつも、絵画のストロークやタッチそのものは生気に溢れていて、流れてはぶつかりあい、跳ね上がる絵具の熱量のようなものを感じることができました。

さらに今津は今回の新作において、Photoshopのみならず、3DレンダリングソフトであるDimensionも利用していて、奥行きと平坦さが同時に表れたような独特の画面が築かれていました。


「Artificial green by nature green 2.0」 2021年

こうした一連の絵画とともに興味深いのが、マシンを用いた「Artificial green by nature green 2.0」でした。これは熱帯雨林のジャングルを描いた風景を水を含んだ筆が自動で消していくもので、いわば時間で変化をし続けるインスラレーション的な作品でした。

「Artificial green by nature green 2.0」は、インドネシアの作家であるバグース・パンデガとの共作として発表され、一度同国では公開された際はオラウータンが描かれていたものの、今回はキャンバス上に姿はなく、上部に吊り下げられた細い横長のモニターに映されていました。


「Artificial green by nature green 2.0」 2021年

ひたすらくるくる動きつつ、筆がキャンバスをなぞっていましたが、これは作品の左に展示されたアブラヤシからの生体電流によって制御されているのだそうです。会期が進むことにジャングルは薄くなっていくのでしょうか。その行末も気になりました。


11月7日まで開催されています。

「今津景個展 Mapping the Land/Body/Stories of its Past」 ANOMALY@ANOMALYtokyo
会期:2021年10月2日 (土) ~11月7日 (日)
休廊:日、月、祝祭日。11月7日のみ日曜日開廊
時間:12:00~18:00。
料金:無料
住所:品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
交通:東京臨海高速鉄道りんかい線天王洲アイル駅B出口より徒歩約8分。東京モノレール羽田空港線天王洲アイル駅中央口より徒歩約11分。京浜急行線新馬場駅より徒歩12分。
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「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス」 世田谷美術館

世田谷美術館
「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない! 人生絵日記」 
2021/9/4~11/7



世田谷美術館で開催中の「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない! 人生絵日記」を見てきました。

1913年に現在の熊本県八代市に生まれた塔本シスコは、50歳を超えてから独学で油絵の制作をはじめ、身近な風景や親しい人々、それに子どもの頃の記憶などを生涯にわたって描き続けました。

その塔本シスコの画業を紹介するのが「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない! 人生絵日記」で、会場には油彩画をはじめ、素描、また空箱やガラス瓶を用いたオブジェから、染織など約200点の作品が展示されていました。


「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス」展示風景

家事や子育て、それに食堂を開いた夫を支えながら、自宅で金魚などの小さな生き物を飼っていたシスコは、1959年に夫を突然の事故で亡くすと、自身も脳溢血で倒れ、リハビリの生活を送るようになりました。そして次第に体調を回復させたシスコは、画家を目指していた息子の賢一が家を出て働くと、残された作品から絵具を削ぎ落とし、自分の作品を描きはじめるようになりました。


「長尾の田植風景」 1971年

1970年の夏、健一と同居するために大阪の枚方へ引っ越したシスコは、庭に育てたひまわりと故郷の田植えの光景を重ねた「長尾の田植風景」を描くと、公募展に入賞するなどして評価を得ました。てその後もシスコはさまざまな公募展に作品を出品したり、地元のギャラリーで展覧会を行っては人気を集めました。


「ひまわりの中で インコ」 1987年

ともかくシスコの絵画は明るく極彩色ともいえる色調と、細部までモチーフで埋め尽くすような濃密な画面を特徴としていて、エネルギッシュなまでの熱気を帯びていました。


「五色山の想い出」 1988年

また単に見た風景をリアルに再現するというよりも、故郷を思い起こしたり、自身の子どもの頃と孫を重ねるといった、異なる時代を時に同時に描いているのも興味深いのではないでしょうか。イメージは空間や時間を超えて自由に広がっていました。


「自分で植わったカボチャ」 1998年

庭に育てた植物や飼っていたねこ、あるいは金魚を描いた作品などは生命感に満ちていて、シスコが生き物に対して愛情と慈しみをもって接していることが伝わるかのようでした。


「さようなら長野オリンピック」 1998年

タイトルに「絵日記」とあるように、人生の出来事だけでなく、世の中のニュースなども描き加えたりして、例えば「さようなら長野オリンピック」ではオリンピックの選手の様子を画中画のように描いていました。


「NHKがやって来た」 1995年

また「NHKがやって来た」は、近所の人々に囲まれながらテレビの取材を受ける様子を描いていて、よほど嬉しく楽しかったのか「シスコのおまつり」と裏書きするほどでした。なんとも言い難い多幸感や高揚感が感じられるのもシスコの絵画の魅力かもしれません。


「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス」展示風景

80歳を超えても創作意欲が衰えなかったシスコは、平面の世界を表現するにとどまらず、木箱や竹筒、それにお酒の空き瓶などにも絵を描き、色彩豊かでかつ多様なオブジェを生み出しました。


「シスコの月」 2004年

2004年、91歳にて亡くなる年に描かれた絶筆の「シスコの月」にも心惹かれるのではないでしょうか。シスコは初期から月、しかも満月を描き続けましたが、絶筆においてもなお月は輝きを失うことなく、黄色の光を放っていました。


「秋の庭」 1993年

オンラインでの日時指定制が導入されました。但しオンラインでのチケット購入が難しい場合、当日券の入場枠も用意されています。(予定数の販売が終了している場合もあり。)


「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス」展示室入口

【塔本シスコ展 シスコ・パラダイス】巡回スケジュール

熊本市現代美術館:2022年2月5日(土)〜4月10日(日)
岐阜県美術館:2022年4月23日(土)〜6月26日(日) *予定
滋賀県立美術館:2022年7月9日(土)〜9月4日(日) *予定


作品の撮影も可能でした。11月7日まで開催されています。*一番上の写真の作品は「絵を描く私」(1993年)

「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない! 人生絵日記」(@shisukotomoto) 世田谷美術館@setabi_official
会期:2021年9月4日(土)~11月7日(日)
休館:毎週月曜日
 *9月20日(月・祝)は開館、翌9月21日(火)は休館。
時間:10:00~18:00
 *最終入場は閉館の30分前まで
料金:一般1000円、大学・高校生、65歳以上800円、中学・小学生500円。
住所:世田谷区砧公園1-2
交通:東急田園都市線用賀駅より徒歩17分。美術館行バス「美術館」下車徒歩3分。
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「タナカマコト展 風、抜ける」 調布市文化会館たづくり

調布市文化会館たづくり
「タナカマコト展 風、抜ける」 
2021/9/18〜11/14



調布市文化会館たづくり1階展示室にて開催中の「タナカマコト展 風、抜ける」を見てきました。

1982年生まれの切り絵作家、タナカマコトは、フリーハンドでハサミを扱い、レシートや書籍の言葉を残しながら、さまざまなかたちを切り抜く作品を制作してきました。

そのタナカマコトの個展が「風、抜ける」で、「風鈴」をモチーフとしてインスタレーションをはじめ、「タダのカミ様」や「切りひらひらく」など約50点の作品が展示されていました。


「切りひらひらく」 2020年

まず目を引くのが、文庫本や広辞苑を素材に切り絵を展開した「切りひらひらく」で、細かに切り抜かれた本のページなどが帯状に吊られていました。


「切りひらひらく」 2020年

これらはタナカマコトの小さな娘への読み聞かせから生まれた創作童話をテーマとしたもので、中には葉っぱや魚と思しきモチーフも象られていました。まさに幻想的なメルヘンの世界を連想させるかもしれません。


「ほつれても」 2021年

「ほつれても」は、タナカマコトがはじめて布を素材にした作品で、リネンのシャツを紐解くようにして細かく切り抜き、海に浮かぶクラゲのような光景を築いていました。


「ほつれても」 2021年

またリネンは白や薄いピンク、さらには黄色などに染まっていて、装身具といった宝飾品のように美しく見えました。


「タダのカミ様」 2021年 (展示風景)

「タダのカミ様」とはタナカマコトが買い物して手に入れたレシートを素材に、印字された商品名や店名といった言葉を残しながら、そこから連想させる神様を象ったもので、「千歳飴のカミ様」や「ディスニーストアのカミ様」などと題した切り絵が並んでいました。



ここではレシートに印字された言葉とカミ様の姿が関連付けられていて、写真では分からないものの、肉眼では確かに文字を見ることができました。この言葉とかたちとの関連づけこそ、タナカマコトの切り絵の大きな魅力かもしれません。


「風、抜ける」 2021年

個展のタイトルにつけられた「風、抜ける」とは、辞書や楽譜、文庫本などと風鈴を組み合わせたインスタレーションでした。これはコロナ禍の中、自粛生活において娘と紙コップで風鈴作りをきっかけにした作品で、風鈴は回転しつつ、短冊部分に当てられた光により影絵も生み出されていました。


「流るるる」 2020年

トイレットペーパーを素材した「流るるる」も美しいのではないでしょうか。12本のトイレットペーパーのロールには鳥や蝶、魚をはじめ、植物などが切り抜かれていて、花鳥風月の風雅な景色が広がっていました。


「流るるる」 2020年

なおこの作品もコロナ禍においてトイレットペーパーが品薄になり、保育園も休みになった中、近所の川沿いを散歩して、川の流れをはじめて意識的に見たことが制作のきっかけになっているそうです。



今回は文化会館内のスペースでの展示でしたが、例えば古民家といった趣きのある場所ならばより作品が映えたかもしれません。言葉に向き合いつつ、身近な素材を用い、日常から幻想的な風景を切り絵で描くタナカマコトの世界に心を惹かれました。

入場は無料です。11月14日まで開催されています。

「タナカマコト展 風、抜ける」 調布市文化会館たづくり@chofu_zaidan
会期:2021年9月18日(土) 〜11月14日(日)
休館:9月27日(月)~30日(木)、10月25日(月)・26日(火)。
時間:10:00~18:00
料金:無料。
場所:東京都調布市小島町2-33-1 調布市文化会館たづくり1階
交通:京王線調布駅中央改札から広場口を経由して徒歩5分。
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「ピーター・シスの闇と夢」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「ピーター・シスの闇と夢」
2021/9/23~11/14



練馬区立美術館で開催中の「ピーター・シスの闇と夢」の特別内覧会に参加してきました。

1949年にチェコスロヴァキア(現在のチェコ共和国)に生まれ、アメリカに移って活動する絵本作家のピーター・シスは、国際アンデルセン賞を受賞するなど高い評価を得て、日本でも多くの読者を抱えてきました。

そのシスの日本初の大規模な展覧会が「ピーター・シスの闇と夢」で、会場には絵本原画をはじめ、スケットや初期アニメーションなど約150点の作品が公開されていました。


右:「かべ 鉄のカーテンのむこうに育って」原画 2007年

まず初めにはシスがチェコスロヴァキアでの制限のある暮らしを振り返りながら描いた「かべ 鉄のカーテンのむこうに育って」などが展示されていて、故郷への思いが表されるとともに、自由の尊さや夢を求めることの大切さを感じることができました。


左:「三つの金の鍵 魔法のプラハ」原画 1994年

シスが幼少期から学生時代を過ごした時代は、東西の分断された冷戦下にあり、チェコスロバキアにおいても独裁政権のもと、人々に表現の自由はありませんでした。


「ピーター・シスの闇と夢」展示風景

シスがチェコスロヴァキアを出たのは1982年、33歳の時で、ロサンゼルスで開かれる夏季五輪の映像を制作するアニメーターとしてアメリカへ渡りました。しかしソ連と東欧諸国はロサンゼルス夏季五輪をボイコットし、チェコスロヴァキアも不参加を決めたため、シスにも帰国するように通達されましたが、アメリカに留まることを決断しました。


「マットくん」シリーズ。

そしてアメリカにて挿絵の仕事で才能を発揮すると、絵本の制作をはじめ、のちに生まれた2人の子どもたちをモデルとした絵本を描きました。それがお気に入りの船や恐竜のおもちゃで遊ぶマテイを描いた「マットくん」や、当時住んでいたマンハッタンにて娘のマドレーヌと人々の出会いを表した「マドレンカ」のシリーズでした。


右:「モーツァルトくん、あ・そ・ぼ!」絵本原画 2006年

芸術家や冒険家、それに探検家の物語が多く登場するのもシスの絵本の魅力かもしれません。そのうち「モーツァルトくん、あ・そ・ぼ!」は子どもの頃のモーツァルトを描いた作品で、モーツァルトが日々、父からの熱心な音楽教育を受け、芸術の神に魅せられる様子などを表していました。これはモーツァルトの生涯を描いた映画「アマデウス」の監督であるミロシュ・フォルマンに捧げられたもので、シスは映画のポスターも手掛けました。


右:映画「アマデウス」のポスター 1984年

アカデミー監督賞を受賞した同作品は、日本でも上映されて人気を集めましたが、モーツァルトへと迫る死の闇を劇的に表したポスターのデザインは、強いインパクトがあるのではないでしょうか。


「星の使者 ガリレオ・ガリレイ」絵本原画 1996年

また偉人をモチーフとした伝記絵本では、ガリレオ・ガレリイやチャールズ・ダーウィン、アントワーヌ・サン=テグジュペリらも登場していて、シスは自分を信じることや夢の追うことの大切さを子供たちに訴えかけました。


「生命の樹-チャールズ・ダーウィンの生涯」絵本原画 2003年

絵本の原画の多くは繊細な素描と淡い色彩を特徴としていて、例え絵本のストーリーを知らずとも、1つの絵として心を惹きつけられるものばかりでした。


左:「鳥の言葉」絵本原画 2011年

それに複雑に入り組んだ地図や曼陀羅、さらには鳥などのモチーフが時に抽象的パターンを描いているように思えるなど、一口に絵本と言えども多様な作風が見られるのも魅力的に思えました。


「飛行士と星の王子さま サン=テグジュペリの生涯」絵本原画 2014年

今年に72歳を迎えたシスは、コロナ禍を踏まえても新作の完成に邁進したり、オンラインで対談イベントを行うなど、積極的に活動しているそうです。不自由なチェコスロヴァキアからアメリカへと亡命する形で渡り、人々に夢を与え続けるシスの生き様を、絵本の原画を見ながら追体験できるような展覧会といえるかもしれません。


予約は不要です。11月14日まで開催されています。なお東京での展示を終えると、大阪の伊丹市立美術館(2022年4月以降、施設名称変更。会期は2023年春を予定。)へと巡回します。

「ピーター・シスの闇と夢」 練馬区立美術館@nerima_museum
会期:2021年9月23日(木)~11月14日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人1000円、大・高校生・65~74歳800円、中学生以下・75歳以上無料。
 *ぐるっとパス利用で500円。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。

注)写真は特別内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。
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「美男におわす」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「美男におわす」
2021/9/23~11/3



埼玉県立近代美術館で開催中の「美男におわす」を見てきました。

日本の美術史において多く描かれてきた「美人画」は、女性像が多くを占めていて、「美男」として男性が描かれることはほとんどありませんでした。

そうした観点を元に、江戸時代から現代へと至る美少年や美青年のイメージを探るのが「美男におわす」で、会場には浮世絵、日本画、彫刻から、漫画や写真、それに現代美術までの約190点の作品が展示されていました。(展示替えあり)

冒頭では「伝説の美少年」と題し、稚児や童子像、それに歴史上に美少年とされた人物の肖像画が展示されていて、蕗谷虹児が「名残の絵姿」の口絵に描いた「天草四郎」などに目がとまりました。

日本において男性の肖像は、武功に秀でていたり業績と結びつけて描く傾向があり、そこへ悲劇的な最期を遂げたような共感的なストーリーが加わると、実際の容姿とはあまり関係なく、いわゆる美男として理想化されていきました。

とはいえ、武将に付き従った小姓など、成人男性の身の回りの世話をする少年の存在などから、若い男性を愛でる文化も浸透し、若衆の姿は近世の絵画でも多く描かれました。また明治以降においては青年の健康的な肉体を描いたり、大正期ではアンニュイな男性像が生まれるなど、時に官能的な青少年のイメージは、現代の耽美な男性像へと繋がっていきました。



今回の「美男におわす」で面白いのは、古典と近現代の作品をともに展示していることで、例えば浮世絵における小姓と昭和初期の高畠華宵が描いた少年像が合わせて並んでいました。またそうした作品とともに少年愛をコメディに取り入れた「パタリロ」や、背徳の香りを帯びた少年少女を描く画家、山本タカトの甘美な「夕化粧」なども印象に残りました。

この他にも「ボーイズラブ(BL)」の源流といえる男性同士の性愛を主題とした雑誌「COMIC JUN」や、美少年アニメの先駆けとして知られる車田正美原作の「聖闘士星矢」、それに女性が将軍に就き、男性ばかりを集めた大奥を描いたよしながふみのマンガ「大奥」の複製原画なども見どころで、従来の美術史のジャンルにとらわれないさまざまな視覚表現が展示されていました。


唐仁原希「もういいかい」 2016年 作家蔵

ラストは「わたしの『美男』、あなたの『美男』」として、海老原靖や金巻芳俊、それに木村了子や竹宮惠子といった現代アーティストらの表現した男性美が多く紹介されていました。


木村了子「男子楽園図屏風 − EAST & WEST」 2011年 作家蔵

そのうちまず目立っていたのが、2005年からイケメンを描き続けているという木村了子で、「男子楽園図屏風 − EAST & WEST」では、いわゆる現代の肉食系男子と草食系男子を近世や近代の風俗画を思わせる劇画的なタッチにて表していました。


金巻芳俊「空刻メメント・モリ」 2021年 フマコンテンポラリートーキョー|文京アート

若さや美貌の儚さを連想させる金巻芳俊の「空刻メメント・モリ」も強い存在感を放っていて、若く美しい身体と亡骸の死のイメージを同居させるように彫刻に象っていました。


森栄喜「Untitled" from the Family Regained series」 2017年 作家蔵

美男を明確に定義づけるものではなく、あくまでもさまざまな男性像を考えるきっかけになるような内容でしたが、サブカルや現代美術などを参照することによって、男性表現の幅広いあり方を知ることができるのではないでしょうか。


ヨーガン・アクセルバル「untitled/verse two" from the Go To Become series」 2017年 作家蔵

2014年から翌年にかけて島根県立石見美術館で開催された「美少女の美術史」をきっかけに、いわゆる男性バージョンとして企画された展示とのことでしたが、思いがけないほど見応えがありました。


市川真也「Lucky star」 2021年 作家蔵

10月12日より後期展示に入りました。浮世絵や日本画を中心に一部の作品が入れ替わりました。


海老原靖「colors」 2021年 作家蔵

現代アーティストのコーナーのみ撮影も可能でした。


11月3日まで開催されています。なお埼玉での展示を終えると、島根県立石見美術館へと巡回(2021年11月27日〜2022年1月24日)します。*一番上の写真の作品は、川井徳寛「共生関係 自動幸福」(2011年)

「美男におわす」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:2021年9月23日(木・祝) ~ 11月3日(水・祝)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:30 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200(960)円 、大高生960(770)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクション(常設展)も観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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「ル・パルクの色 遊びと企て ジュリオ・ル・パルク展」 メゾンエルメス

メゾンエルメス
「ル・パルクの色 遊びと企て ジュリオ・ル・パルク展」
2021/8/13~11/30



メゾンエルメスで開催中の「ル・パルクの色 遊びと企て ジュリオ・ル・パルク展」を見てきました。

1928年にアルゼンチンで生まれ、フランスへ移住して活動するジュリオ・ル・パルクは、視覚的錯覚あるいは動力を用いたキネティック・アートの作品を手がけ、ゲームの要素を取り入れた観客参加型のインスタレーションなどを制作してきました。

そのル・パルクの色をテーマにした日本初個展が「ル・パルクの色 遊びと企て」で、同ギャラリーの2つのフロア、及びビルの壁面にあたるファサードに多様な作品を展示していました。



当初、モンドリアンやロシア構成主義に影響を受けたル・パルクは、幾何学的な抽象画を制作していて、1960年代に入るとキネティックアートやオプアートのアーティストらによる視覚芸術探究グループ(GRAV)の創立メンバーとして活動しました。



ル・パルクは1959年より黒と白を出発点に、自身が構想した14色を用いた作品を展開していて、色をさまざまな組み合わせながら、平面や立体に表現していました。



冒頭には1950年代から70年代のモノクロやカラーの小さな作品が展示されていて、ル・パルクの比較的初期の制作を知ることができました。厚紙にインクで描きこんだり、コラージュを施したするなどシンプルな味わいも魅力かもしれません。



とはいえ、やはり目立っていたのは、ガラスブロックに囲まれたエルメスのスペースを彩るように設置された、モビールなどの大型の作品でした。


「モビール」

そのうち今年の新作のモビールは、実に3300枚以上のステンレススチールから作り上げられていて、ガラス越しに差し込む外の光を受けてきらきらと瞬いていました。またスチールを1枚の葉に見立てれば、たくさんの葉を茂らせた大樹のようにも思えるかもしれません。


「モビール14色」

同じく新作の「モビール14色」は、かつてよりル・パルクが使い続けた14色のガラスを配した作品で、天井から床へと美しいグラデーションを描いていました。


「反射ブレード(刃板)」

鏡のように反射するブレードを用いた「反射ブレード(刃板)」も面白い作品ではないでしょうか。ちょうど人がブレードの後ろへ回ると、その姿が無数に分割するように映って見えました。


「ロング・ウォーク」展示風景

銀座エルメスのファサードを用いた「ロング・ウォーク」も数寄屋橋の景色を変えるような存在感があったかもしれません。まるでカラフルなリボンがビル全体を祝福するかのように彩っていました。

なおファサードについては、現在の「ロング・ウォーク」の展示が10月14日にて終了し、15日以降入れ替えが行われ、10月30日からは「シリーズ14-2 分割された円」が公開されます。そちらも追って見たいところです。



コンセプチュアルな思考に基づいた抽象度の高い作品ながら、遊び心のある仕掛けもあるのもル・パルクの魅力かもしれません。エルメスのホワイトキューブがカラフルな色で満ちていました。



11月30日まで開催されています。

「ル・パルクの色 遊びと企て ジュリオ・ル・パルク展」 メゾンエルメス
会期:2021年8月13日(金)~11月30日(火)
休廊:10月27日(水)、11月20日(土)。
時間:11:00~19:00 
 *当面の間、開館時間を短縮。10月28日のみ18時閉館。
 *最終入場は閉館の30分前まで。
料金:無料。
住所:中央区銀座5-4-1 銀座メゾンエルメス8階フォーラム
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅B7出口すぐ。JR線有楽町駅徒歩5分。
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「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」 水戸芸術館

水戸芸術館 現代美術ギャラリー
「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」
2021/9/20~10/17



水戸芸術館 現代美術ギャラリーで開催中の「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」を見てきました。

スイスを拠点に活動するアーティスト、ピピロッティ・リストは、身体やジェンダー、それに自然やエコロジーをテーマとした作品で知られ、心地よい音楽と鮮烈な色彩、そしてユーモアを伴う映像を展示しては多くの人々の心を捉えてきました。

そのピピロッティ・リストの30年にわたる活動を紹介するのが「Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」で、会場には映像インスタレーションを中心に約40点の作品が展示されていました。


「永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に(Ever Is Over All)」 1997年 京都国立近代美術館

冒頭の「永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に」は、街を歩く水色のワンピースを着た女性が、花の形をしたハンマーで車の窓ガラスを割っていく姿を映した作品で、もう一面の壁にはハンマーの形の元になった「クニフォフィア」の花の映像が断片的に投影されていました。

1997年のヴェネツィア・ビエンナーレに出展された同作は、自動車に象徴される男性社会を花の棒で破壊する女性という構図を描いた、言わばフェミニズムの記念碑的作品として高く評価されました。全く臆することなく楽しそうにガラスを割る姿が印象深いかもしれません。


「イノセント・コレクション」(1985〜2032年)に映像を投影する「アポロマートの壁」(2020〜2021年)

「イノセント・コレクション」は半透明、もしくは白色のプラスチエックや紙製の使い捨て容器に素材とした作品で、通常ゴミと扱われるモノに色鮮やかな映像「アポロマートの壁」を投影していました。リストはこのような素材を1985年から集めていて、今回は市民から提供された海のゴミなども一部に使用されました。


「眠れる花粉」 2014年

天井から鏡面状の球体がつられた「眠れる花粉」では、植物のモチーフが映されていて、枝葉や花、光のイメージが、球体を通して暗がりの空間全体へと散らばるように広がっていました。


「眠れる花粉」 2014年

いずれの植物も生命科学の研究機関であるチューリヒの大学に付属する植物園で撮影されましたが、鏡面状の球体は水泡のようにも見えて、まるで水の中を彷徨い歩いているような気持ちにさせられました。


「箱根の静けさ」 2020〜2021年

食卓やリビングルームなどを連想させる空間を抜け、会場最奥部にて展開するのが2面の壁面に投影された「もうひとつの身体」、「不安はいつか消えて安らぐ」、そして「マーシー・ガーデン・ルトゥー・ルトゥー/慈しみの庭へ帰る」の3つの映像でした。



ここでは人間と環境を取り巻く幻想的、あるいはシュールとも呼べる映像が展開していて、旧約聖書の「楽園追放」が起きなかった世界における人間の欲望や、身体の内側と外との関係などがテーマとして扱われていました。ともかく自然の草花から動物、人間の生身の身体が目まぐるしく入れ替わり、時に融合するように映されていて、もはや予測不可能なイリュージョンと言うべき映像世界が築かれていました。



また同作の前にはクッションやカーペットが敷かれていて、鑑賞者は寝そべりながら映像を見やるように工夫されていました。


「4階から穏やかさへ向かって」 2016年

ラストに登場する「4階から穏やかさへ向かって」は、天井から吊るされた雲のようなスクリーンによる映像作品で、観客は床に置かれたベットに横たわりながら見上げて鑑賞するように作られていました。

オーストリアとスイスの国境近くを流れる旧ライン川をモチーフにした作品には、川の中のさまざまな生き物や植物、さらに映り込む光や水の移ろいが映されていて、あたかも川底から水面を眺めているかのようでした。そしてここでも身体が重要なモチーフとなっていて、川の中でもがきつつ、光へと浮上する人の姿が映されていました。


「愛撫する円卓」 2017年

リスト自身が「アパートメント・インスタレーション」と呼ぶ居住空間を再現した展示は、くつろぎや安らぎを思わせつつも、時に性や身体を削りとるような映像表現も見られて、むしろ緊張と刺激に満ちた鑑賞体験を得ることができました。


「色とりどりの幽霊」 2020〜2021年

自然の美の中に垣間見える人間の魂の叫び、ないしユーモアの中に発露した狂気と呼べるような感情表現もリストの作品の魅力かもしれません。また楽焼やガラス瓶といったオブジェや床のカーペットにも映像を投影するほか、観客の立ち振る舞いによって変化する劇場的な空間構成にも大いに引かれました。


「アポロマートの床」より「アポロマートの壁」 ともに2020〜2021年

最後に会期、もしくは入場についての情報です。京都国立近代美術館より巡回してきたピピロッティ・リスト展は、8月7日より開催が予定されていたものの、新型コロナウイルス感染症に伴う水戸市の方針を受け臨時休館となり、実に1ヶ月半遅れて9月20日に開幕しました。実質的な会期は約1ヶ月となりました。



混雑緩和のため土日は優先入場予約制が導入されました。なお会期も残すところ1週間を切りましたが、最終週に当たる16、17日の予約もすでに定員に達しているため、受付は終了しています。一方で平日に関しては予約なしにて観覧することができます。


靴を脱いで、寝そべったりしながら鑑賞する作品も少なくありません。履きやすい靴や動きやすい服での観覧をおすすめします。



私として巡回前の京都へ見に行こうとしていたほど期待していましたが、想像以上に楽しく、また考えさせられることの多い展示でした。


「感傷的なサイドボード」 2020〜2021年

写真と動画の撮影が可能でした。10月17日まで開催されています。

「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」 水戸芸術館 現代美術ギャラリー@MITOGEI_Gallery
会期:2021年9月20日(月・祝)~10月17日(日) *会期変更
休館:月曜日。祝日の場合は翌火曜日。
時間:10:00~18:00 
 *入館は17:30まで。
料金:一般900円、団体(20名以上)700円。高校生以下、70歳以上は無料。
住所:茨城県水戸市五軒町1-6-8
交通:JR線水戸駅北口バスターミナル4~7番のりばから「泉町1丁目」下車。徒歩2分。
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「The Absurd and The Sublime ギイ ブルダン展」 シャネル・ネクサス・ホール

シャネル・ネクサス・ホール
「The Absurd and The Sublime ギイ ブルダン展」 
2021/9/8~10/24



シャネル・ネクサス・ホールで開催中の「The Absurd and The Sublime ギイ ブルダン展」を見てきました。

1928年にパリに生まれたギイ・ブルダンは、マン・レイといったシュルレアリストの影響を受けて写真を手がけ、ヴォーグなどのファッション誌やシャネルをはじめとするブランドの広告を制作してきました。

そのブルダンの個展が「The Absurd and The Sublime」で、会場にはモノクロからカラーへと至る写真が一堂に公開されていました。



画家としてキャリアをはじめたブルダンがマン・レイと出会ったのは1951年のことで、以降、生涯にわたってシュルレアリスムの大きな影響を受けました。



初期のモノクロの写真は確かにシュルレアリスムを思わせるような構図を見せていて、人や脚、靴などのモチーフを時にトリミングするように写していました。また具体的な素材を用いつつも、抽象的なパターンを感じさせるのもブルダンの写真の面白いところかもしれません。



1955年にパリのギャラリーで写真展を開いたブルダンは、その後すぐにファッション誌のフランス版「VOGUE」に見出されると注目を集め、よほどの才能を見せたのか、「VOGUE」も新人であったブルダンに制作上の自由を与えては写真を制作させました。



ブルダンは被写体となる宣伝対象の商品たちをイメージの中心に置かず、いわば「ほのめかす」(解説より)ように扱っていて、1950年から60年代の広告の基準から逸脱していました。あくまでも見る人をイメージの中に引き込んでは、疑問を投げかけるようにして興味を引こうとしていたのかもしれません。



マン・レイともにブルダンの制作に際して影響を与えたのが、サスペンス映画の神様と呼ばれるアルフレッド・ヒッチコックでした。ヒッチコックの映画に魅せられたブルダンは、「犯罪現場」(解説より)を作り上げていて、例えば殺人事件の現場を想起させるようにミステリアスな作品を制作しました。



鮮やかな色彩と大胆な構図を用いつつ、ストーリー性を感じさせるブルダンの写真は、甘美的でかつ艶やかさも持ち得ていているのではないでしょうか。とりわけ色彩の眩しいまでの赤に魅せられました。



斜めにスリットを刻むような会場構成も効果的ではなかったでしょうか。まるで身体とファッションを巡る1つのストーリーが築かれているかのようでした。



予約は不要、会期中も無休です。(但し混雑時は入場制限あり)



10月24日まで開催されています。

「The Absurd and The Sublime ギイ ブルダン展」 シャネル・ネクサス・ホール
会期:2021年9月8日(水)~10月24日(日)
休廊:会期中無休。
料金:無料。
時間:11:00~19:00。 
 *最終入場は18:30まで。
住所:中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A13出口より徒歩1分。東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅5番出口より徒歩1分。
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「杉浦非水 時代をひらくデザイン」 たばこと塩の博物館

たばこと塩の博物館
「杉浦非水 時代をひらくデザイン」
2021/9/11~11/14



たばこと塩の博物館で開催中の「杉浦非水 時代をひらくデザイン」を見てきました。

1876年に生まれた杉浦非水は、三越呉服店の図案部初代主任を務めると、同店のPR表紙などのデザインを手がけただけでなく、様々な企業のポスターを制作しては、日本のモダンデザインを牽引しました。

その非水の業績を紹介するのが「杉浦非水 時代をひらくデザイン」で、会場にはポスター、装丁、雑誌表紙からパッケージデザイン、それに図案集など約300点の作品と資料が展示されていました。*前後期で展示替えあり。

まず冒頭には若き非水が描いた画帖や、美術学校の卒業制作である「孔雀」といった日本画が展示されていて、幼少期から絵が好きだったされる非水の画才を伺うことができました。非水は東京美術学校にて日本画を学ぶものの、黒田清輝がもたらしたアール・ヌーヴォー様式の装飾資料に魅せられ、図案家への道を歩むようになりました。

非水は若い頃から写生への強いこだわりを見せていて、例えば島根にて短い教員生活をしていた時期も、同地の風景などを画帖に描きました。この写生こそが、のちにデザイナーとして花開いた非水の活動の原点かもしれません。


1908年に三越呉服店の嘱託として勤めた非水は、1910年に新設された図案部の初代主任に就任すると、実に1934年までの27年間にわたって同店のポスターや雑誌のデザインを担いました。そしてそれらは大変な人気を博し、「三越の非水か、非水の三越か」と称されるほどになりました。また三越以外の雑誌や書籍の装丁も手がけ、アール・ヌーヴォーやセセッションといった様式を取り込みつつ、写生を融合した独自のデザインを確立しました。

非水が描いた植物や鳥などの写生帖や図案集も見どころといえるかもしれません。そのうち「非水百花譜」とは、非水が描いた100種類の花卉画を多色摺木版画として仕立てた作品で、まるで図鑑と見間違うほどに植物が精緻に描かれていました。また実際にも写真図版を付した博物学的解説も記され、芸術版画と植物図譜の両面を取り込んだような構成になっていました。ここにも非水の写生に対する強い関心が表れているのではないでしょうか。



1922年に46歳にしてヨーロッパへと出かけた非水は、フランスを中心にドイツやイタリアなどを巡ると、ポスターを収集するなどして同地の最先端のデザインに触れました。そして帰国後に制作へと反映され、和洋混合の優美なスタイルから大胆でかつシャープなデザインへと変化しました。それらは直線を多用した「新宿三越落成」のポスターや、奥行きを用いてダイナミックな構図を築いた「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」などに見て取れました。

図案を後進に伝えるべく活動した教育者としての一面も重要ではなかったでしょうか。非水は1925年に日本初の図案研究団体「七人社」を立ち上げると、1935年に多摩帝国美術大学の新設に力を注ぎ、初代校長兼図案科主任教授に就任しました。

この他にも歌人であった妻の翠子との合作や、スケッチともに多く残した写真、また収集した美術工芸品や玩具なども紹介されていて、非水の幅広い活動を知ることができました。


杉浦非水がデザインしたパッケージ *たばこと塩の博物館常設展示室にて撮影。企画展示室内は撮影できません。

手狭なスペースながらも作品と資料は大変に充実していて、想像以上に見応えがありました。2019年にも東京国立近代美術館にて「イメージコレクター・杉浦非水展」が開かれましたが、このスケールでの非水の回顧展は当面は望めないかもしれません。


最後に展示替えの情報です。前期と後期にて一部の作品が入れ替わります。

「杉浦非水 時代をひらくデザイン」
前期:9月11日(土)〜10月10日(日)
後期:10月12日(火)〜11月14日(日)

11月14日まで開催されています。なお東京展を終えると、三重県立美術館(11月23日~2022年1月30日)と福岡県立美術館(2022年4月15日~6月12日)へと巡回します。おすすめします。

「杉浦非水 時代をひらくデザイン」@hisui_koushiki) たばこと塩の博物館@tabashio_museum
会期:2021年9月11日(土)~11月14日(日)
休館:月曜日。但し9月20日は開館し、21日は休館。
時間:11:00~17:00。*入館は16時半まで。
料金:一般・大人100円、小・中・高校生50円。
住所:墨田区横川1-16-3
交通:東武スカイツリーラインとうきょうスカイツリー駅より徒歩8分。都営浅草線本所吾妻橋駅より徒歩10分。東京メトロ半蔵門線・都営浅草線・京成線・東武スカイツリーライン押上駅より徒歩12分。
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2021年10月に見たい展覧会【浦上玉堂/石橋財団コレクション×森村泰昌/民藝の100年

新型コロナウイルス感染症対策のため、19都道府県に発令されていた緊急事態宣言と、8県に適用されていたまん延防止等重点措置は、9月30日をもってすべて解除されました。過去最多の感染者数を記録した7月からの「第5波」は、現在のところ全国的に急激に収束しています。


「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」(SOMPO美術館)展示風景。撮影可能スペースにて。

東京と近郊の多くの美術館や博物館は、宣言下においても感染対策を踏まえて開館していましたが、今後は夜間開館を再開したり、休止していたイベントを行うことも予想されます。例えば森美術館は東京都におけるリバウンド防止措置に則って、10月1日から閉館時間が21時までに変更となりました。

10月は興味深い展覧会が目白押しです。今月に気になる展覧会をリストアップしてみました。

【展覧会】

・「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island ―あなたの眼はわたしの島」 水戸芸術館(9/14~10/17)
・「能 Noh~秋色モード~」 大倉集古館(8/24~10/24)
・「没後160年記念 歌川国芳」 太田記念美術館(9/4~10/24)
・「開館60周年記念展 刀剣 もののふの心」 サントリー美術館(9/15~10/31)
・「あざみ野コンテンポラリー vol.12 對木裕里 ばらばらの速度」 横浜市民ギャラリーあざみ野(10/9~10/31)
・「美男におわす」 埼玉県立近代美術館(9/23~11/3)
・「川端龍子 vs. 高橋龍太郎コレクション ―会田誠・鴻池朋子・天明屋尚・山口晃―」 大田区立龍子記念館(9/4~11/7)
・「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない! 人生絵日記」 世田谷美術館(9/4~11/7)
・「速水御舟と吉田善彦―師弟による超絶技巧の競演―」 山種美術館(9/9~11/7)
・「特別展 浦上玉堂」 東京黎明アートルーム(10/13~11/13)
・「生誕110年 香月泰男展」 神奈川県立近代美術館 葉山(9/18~11/14)
・「伝教大師1200年大遠忌記念 最澄と天台宗のすべて」 東京国立博物館(10/12~11/21)
・「ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス」 Bunkamuraザ・ミュージアム(9/18~11/23)
・「棟方志功と東北の民藝」 日本民藝館(10/1~11/23)
・「キューガーデン 英国王室が愛した花々 シャーロット王妃とボタニカルアート」 東京都庭園美術館(9/18~11/28)
・「小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌」 東京ステーションギャラリー(10/9~11/28)
・「縄文2021―東京に生きた縄文人―」 江戸東京博物館(10/9~12/5)
・「学者の愛したコレクション —ピーター・モースと楢﨑宗重—」 すみだ北斎美術館(10/12~12/5)
・「ゴッホ展—響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」 東京都美術館(9/18~12/12)
・「ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」 パナソニック汐留美術館(10/9~12/19)
・「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」 SOMPO美術館(10/2~12/26)
・「福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧」 千葉市美術館(10/2~12/19)
・「和田誠展」 東京オペラシティ アートギャラリー(10/9~12/19)
・「白井晟一 入門 第1部/白井晟一クロニクル」 渋谷区立松濤美術館(10/23~12/12)
・「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×森村泰昌 M式「海の幸」―森村泰昌 ワタシガタリの神話/石橋財団コレクション選 印象派―画家たちの友情物語」 アーティゾン美術館(10/2~2022/1/10)
・「ミニマル/コンセプチュアル:ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960–70年代美術」 DIC川村記念美術館(10/9~2022/1/10)
・「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」 国立科学博物館(10/14~2022/1/12)
・「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」 森美術館(4/22~2022/1/16)
・「梅津庸一展 ポリネーター」 ワタリウム美術館(9/16~2022/1/16)
・「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜 ― モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン」 三菱一号館美術館(10/15~2022/1/16)
・「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」 ポーラ美術館(9/18~2022/3/30)

【ギャラリー】

・「火の国 篠塚聖哉展」 日本橋三越本店コンテンポラリーギャラリー(9/29~10/11)
・「The Absurd and The Sublime ギイ ブルダン展」 シャネル・ネクサス・ホール(9/8~10/24)
・「石田恵嗣 : FLOW」 アートフロントギャラリー(10/8~10/24)
・「今津景 Mapping the Land/Body/Stories of its Past」 ANOMALY(10/2~11/7)
・「第15回 shiseido art egg 菅実花展」 資生堂ギャラリー(10/19~11/14)
・「奈良原一高 写真展 宇宙への郷愁」 東京工芸大学写大ギャラリー(9/13~11/20)
・「ギルバート&ジョージ《CLASS WAR, MILITANT, GATEWAY》」 エスパス ルイ・ヴィトン東京(10/14~2022/3/6)
・「妹島和世+西沢立衛/SANAA展 環境と建築」 TOTOギャラリー・間(10/22~2022/3/20)

まずは東中野にある小さな美術館に注目したいと思います。東京黎明アートルームにて「特別展 浦上玉堂」が行われます。



「特別展 浦上玉堂」@東京黎明アートルーム(10/13~11/13)

これは江戸時代後期の水墨画家である浦上玉堂の画業を辿るもので、初公開作品を含む約40点の書画が展示されます。なお昨年は玉堂の没後200年にあたりましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って記念展が見送られ、今年改めて開催されることになりました。


また東京黎明アートルームでは本展初日に合わせ、地下1階にカフェ「SUZU COFFEE」がオープンします。そちらも楽しみにしたいところです。

続いては現代美術です。アーティゾン美術館にて「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×森村泰昌 M式「海の幸」―森村泰昌 ワタシガタリの神話」が開かれます。



「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×森村泰昌 M式「海の幸」―森村泰昌 ワタシガタリの神話」@アーティゾン美術館(10/2~2022/1/10)


今回のジャム・セッションに登場するのは、自画像的作品で知られる森村泰昌で、かねてより密かな想いを寄せていたという青木繁の「自画像」と「海の幸」に向き合い、青木への想いを語る新作などが展示されます。ジャム・セッションといえば、昨年の鴻池朋子も会場を大胆に用いた構成で注目を集めましたが、また森村も驚きや発見に満ちたような展示を行うかもしれません。

ラストは民藝ファン待望の展覧会です。東京国立近代美術館にて「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」が開催されます。



「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」@東京国立近代美術館(10/26〜2022/2/13)

ここでは民藝運動の変化と社会の関係を踏まえながら、1910年より1970年代への史的展開を辿るもので、柳の蒐集した陶磁器、木工、染織などから大津絵、さらには同時代の出版物や写真に映像など、実に400点を超える作品が公開されます。


晩年の柳は国立近代美術館の開館に際し、批判的な文章を綴ったそうですが、以来70年あまり経過した現在、当面は望めそうもない民藝の一大展覧会となりそうです。

縄文から印象派、「美男」まで!10月のおすすめ展覧会5選
https://irohani.art/event/5219/

WEBメディア「イロハニ・アート」にも今月のおすすめの展覧会を寄稿しました。そちらもご覧いただければ幸いです。


それでは今月もよろしくお願いいたします。
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「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」 そごう美術館

そごう美術館
「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」 
2021/9/10~10/10



そごう美術館にて開催中の「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」を見てきました。

1988年にコスチューム・アーティストとして活動をはじめたひびのこづえは、約30年以上にわたって雑誌、ポスター、TVCM、演劇、ダンスなどの幅広い分野でコスチュームを作り続け、多くの人々の心を捉えてきました。

そのひびのこづえによる森をテーマとした個展が「森に棲む服/forest closet」で、カラフルな生き物のようなコスチュームが数多く展示されていました。



会場に足を踏み入れた途端、まさにコスチュームの森の中へと誘われるような感覚を受けるかもしれません。冒頭の「巨大な生き物の森」では大きなカメなどのバルーンが宙に浮いていて、おとぎばなしの国の中を歩いているような気にさせられました。



ARの技術を用いた「ARで服が動く森」も楽しいのではないでしょうか。ここでは12点の衣服を着たマネキンの顔にQRコードがついていて、スマホのカメラをかざすとダンサーのアオイヤマダが服を着て踊る動画を見ることができました。これは「服の良さを感じるには動いたところを見て欲しい。」とするひびのの考えから実現した試みだそうです。



ヘリウムの入ったいくつかの衣服が浮く「試着の森」では、ダンスパフォーマンスを行うステージが設けられていて、水色のドレスと生き物を融合したような衣服のオブジェが風に揺らめいていました。



なお試着はコロナの影響により叶わず、ダンスパフォーマンスも緊急事態宣言下において中止となりました。ただ鏡面に覆われたステージが醸し出す華やいだ雰囲気は感じられるかもしれません。



ひびのが数多く手掛けた舞台などの衣装を展示する「パフォーマンスの森」も充実していて、芸術祭や舞台などに用いられたコスチュームに加え、実際のステージを映した映像が紹介されていました。



なお映像に関してはダイジェスト版もありましたが、中には40分から1時間を超えるものもありました。すべてを楽しむには時間に余裕を持って出かけるのが良さそうです。



今までほとんど公開した機会がなかったという原画の展示、「原画の森」も見応えがあったのではないでしょうか。それらのほとんどは1995年から作りはじめたというハンカチの原画で、今に至るまで商品化され続け、約300種類ものハンカチが販売されました。



ひびののコスチュームに見られる自然のモチーフを取り込んだデザインながらも、時に可愛らしく、また抽象性を帯びているのも興味深いかもしれません。



服や着るといったことの常識を覆すかのようなひびののコスチュームは、ファンタスティックでかつ人間の身体表現の新たな可能性を示しているのではないでしょうか。しばらく時間を忘れてコスチュームの森の中を彷徨いました。



9月開催のダンス・パフォーマンス、及びワークショップは全て中止となりましたが、10月の2日と3日に予定された新作パフォーマンス「ROOT:根」に関しては予約制にて実施されます。(10月1日の段階にて定員のため受付終了)



会場内の撮影も可能でした。10月10日まで開催されています。

「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」 そごう美術館@sogo_museum
会期:2021年9月10日(金)~10月10日(日) 
休館:会期中無休。
時間:10:00~20:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1300(1100)円、大学・高校生800(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は各種割引料金。
住所:横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店6階
交通:JR線横浜駅・京急線横浜駅東口より徒歩3分。東急線・みなとみらい線横浜駅より徒歩5分。相鉄線横浜駅より徒歩7分。横浜市営地下鉄ブルーライン横浜駅より徒歩10分。
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