「ジュンク堂×丸善 美術書カタログ2013 defrag」

これが無料とは太っ腹です。「ジュンク堂×丸善 美術書カタログ2013」を読んでみました。



大きな画集から分厚い専門書、そして一転してのハンディタイプの入門書と、多種多様な美術書。それこそ都心の丸善やジュンク堂の美術コーナーに行けば凄まじいボリュームでズラリと陳列。ペラペラと本をめくりながら見定めるだけでもすぐに時間が経過してしまいます。

もちろん本の出会いは一期一会。書店で一目惚れして買うことも少なくありませんが、何か指針のようなものがあればと思うことも事実。意外や意外、美術書を網羅的に紹介するガイドは殆どありませんでした。

ここに登場。その名も「defrag(デフラグ)」。ジュンク堂と丸善の美術書担当者による渾身の力作。カテゴリー別に美術書を紹介する全80頁の無料のカタログです。

さてこのカタログ、単に美術書を有りがちな括り、例えば日本美術や西洋美術、また現代美術などと整理して紹介しているわけではないのが大きなポイントです。



そこでタイトルの「defrag」(デフラグ)です。それは「断片化した情報を最適化・再配置する」という意味のコンピューター用語。翻って美術書をデフラグしてみる。よってカタログのカテゴリーは横断的です。

1.想像力
2.身体
3.コミュニケーション
4.物語
5.技術
6.知識
7.未来


これが7つのカテゴリー。各1つカテゴリーに40冊、計280冊の美術書が掲載。カテゴリーもアバウトではありますが、だからこそユニーク。「身体」に水墨画の入門書が紹介されたりしています。

少し中身をみましょう。各カテゴリー別に展開する美術書のラインナップからして相当に個性的ですが、まず嬉しいのは書店員の方が一冊ずつ丁寧にコメントを付けているところ。



またカテゴリー内にもいくつかのコピーが。これが例えば「アンチ断捨離!もう全部とっておく!」や「夢の狂演が、今はじまる」などかなりキャッチー。引き付けられるものばかりです。



さらに書店員の声といえば7名の方の「コラム」が。オススメの一冊を挙げながら、美術本との出会いや書店での陳列、POPでの裏話、また一冊の本にかける熱い思い等々。そして冒頭には小説家の福永信氏の寄稿も。さらに巻末には美術書出版会会長と、丸善、ジュンク堂の各美術書担当者による鼎談もあります。読み物としても面白い!

最後にそれぞれのカテゴリー毎に読んでみたいと思った本を一冊ずつ挙げてみます。(*が私のコメント)

1.想像力

「ポール・セザンヌ サント・ヴィクトワール山」 ゴットフリート・ベーム著 岩城見一・実渕洋次訳 三元社 2730円 2007年12月刊
 一枚の絵を徹底的に分析することで、従来のセザンヌ観、解釈を覆し真実を暴く、ちょっとしたアハ体験。(J三宮・小松)
 *いうまでもなくセザンヌの傑作。昨年の大回顧展の記憶も新しい。絵画の「真実」とは果たして。

2.身体

「本日の浮遊 Today's Levitation」 林ナツミ著 青幻舎 2310円 2012年7月刊
 この浮遊感は、平等院にある雲中供養菩薩像に通じる。「地に足がついてないもの」の神々しい自注さよ。(J吉祥寺・大内)
 *スパイラルでの個展も話題を集めた林ナツミの写真集。率直なところ彼女の作品は「分からない」のですが、雲中供養菩薩を引用されれば興味がわくもの。もう一度向き合いたい。

3.コミュニケーション

「美術の陰謀 消費社会と現代アート」 ジャン・ボードリヤール著 著塚原史訳 NTT出版 2520円 2011年10月刊
 「詐欺」としての現代アートと、その業界を取り巻く経済構造における裏取引的な「仕掛け」。美術が陥ってしまった隘路を、容赦無く暴く。(J池袋・下田)
 *詐欺に仕掛け。「挑発的現代アート論」に疑いかかりながらあえて挑発されてみたい。

4.物語

「ベックリーン 死の島」 フランツ・ツェルガー著 高阪一治訳 三元社 2310円 2008年8月刊
 ヒトラー、マクベス、原発。死の島に人々はなぜ惹きつけられるのか。壊滅を島という土地の物語に変換した画家の執念。(J池袋・松岡)
 *図版などでは見る機会が多いものの、なかなか実際の作品を前にすることが出来ないベックリン。「死の島」は代表作。死を象徴する糸杉が否応無しに胸に迫る。 

5.技術

「新井淳一 布・万華鏡」 森山明子著 美学出版 4410円 2012年3月刊
 世界から注目されるテキスタイルデザイナーに驚かされるすばらしい発想の数々に感動します。(J池袋・富塚)
 *今年、オペラシティで個展のあった新井淳一の評伝。布の迫力、布から広がる無限の世界観に圧倒。彼の布への探求の原点はどこにあるのか。展示から向かう作り手への関心。

6.知識

「影の歴史」 ヴィクトル・I・ストイキツァ著 岡田温司・西田兼訳 平凡社 4830円 2008年8月刊
 絵画の歴史とは切ってもきれない「影」という領域を美術の分野にとどまらず様々な学問を通して言及している(J大分・宮田)
 *何気ないようで重要な「影」。絵画を見る上でモチーフよりも影を見ていることもしばしば。様々な学問というのも興味あり。

7.未来

「こんにちは美術(全3巻)」 福永信著 岩崎書店 9450円 2012年2月刊
 かんのん・てんてん・おしびん・だんがん・びじゅつかん・もうじかん・ほん・いっしゅん・えいえん(J池袋・松岡)
 *もう松岡さんのコメントに惚れました!

入手先はいうまでもなく全国のジュンク堂と丸善の店舗で。私も地元、千葉県内の丸善でいただきました。なお発行が4月初旬ということで、一部では在庫僅少とか。あらかじめ店舗に問い合わせておくのも良いかもしれません。



「ジュンク堂×丸善 美術書カタログ2013 defrag」から美術書の森へ。楽しみが増えました。今年はこのカタログを手にしながら本と向き合おうと思います。

「ジュンク堂×丸善 美術書カタログ2013 defrag(デフラグ)」
2013年4月1日発行
発行 株式会社ジュンク堂書店/丸善書店株式会社
協力 美術書出版会
お問い合わせ ジュンク堂書店池袋本店 〒171-0022 豊島区南池袋2-15-5 03-5956-6111
デザイン MIKAN-DESIGN
印刷製本 シナノ印刷株式会社
丸善&ジュンク堂書店公式サイト「ネットストアHON」
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6月の展覧会・ギャラリーetc

少し早めですが、来月中に見てみておきたい展示をリストアップしました。

展覧会

・「美の競演 京都画壇と神坂雪佳」 日本橋高島屋8階ホール(5/29~6/10)
・「熱々!東南アジアの現代美術」 横浜美術館(~6/16)
・「江戸時代 かながわの旅ー道中記の世界」 神奈川県立歴史博物館(~6/23)
・「近代洋画にみる夢 河野保雄コレクションの全貌」 府中市美術館(~6/30)
・「やきものが好き、浮世絵も好き 山口県立萩美術館・浦上記念館名品展」 根津美術館(6/1~7/15)
・「写真のエステ 平成25年度コレクション展」 東京都写真美術館(~7/7)
・「エミール・クラウスとベルギーの印象派」 東京ステーションギャラリー(6/8~7/15)
 #講演会:「ベルギーの印象派」 講師:冨田章(同館館長) 日時:6/22(土)14:00~ 聴講料1000円。6/8以降、同館受付にて要申込。50名。
・「生誕140年記念 川合玉堂」 山種美術館(6/8~8/4)
 #前期:6/8~7/7 後期:7/9~8/4
 #講演会:「川合玉堂ー伝統と創造」 講師:河野元昭(秋田県立近代美術館館長) 日時:6/15(土)14:00~ 会場:國學院大學院友会館 要事前申込。
・「プレイバック・アーティスト・トーク」 東京国立近代美術館(6/14~8/4)
・「レオ・レオニ 絵本のしごと」 Bunkamuraザ・ミュージアム(6/22~8/4)
・「生誕130年 彫刻家・高村光太郎展」 千葉市美術館(6/29~ 8/18)
・「LOVE展」 森美術館(~9/1)
・「浮世絵 Floating Worldー珠玉の斎藤コレクション」 三菱一号館美術館(6/22~9/8)
 #第1期:6/22~7/15、第2期:7/17~8/11、第3期:8/13~9/8
・「フランシス・アリス展 ジブラルタル海峡編」 東京都現代美術館(6/29~9/8)

ギャラリー

・「TWS-Emerging 木村仁・宮本ひかり・鮫島ゆい・正木美穂」 TWS本郷(~6/2)
・「トーキョーワンダーウォール公募2013入選作品展」 東京都現代美術館(~6/9)
・「大坂秩加|Sの外的要素たち」GALLERY MoMo両国(~6/15)
・「吉田夏奈展」 アートフロントギャラリー(~6/16)
・「楽園創造(パラダイス)Vol.2 池崎拓也」 gallery αM(5/25~6/29)
・「野村在 additional fugitiveー増刷する刹那」 アルマスギャラリー(~6/29)
・「TWS-Emerging 齋悠記・笠見康大・風間雄飛・桑田まゆこ」 TWS本郷(~6/30)
・「佐藤克久 さひつかうとさ」 児玉画廊|東京(6/1~7/6)
・「宮永愛子展 house」 ミヅマアートギャラリー(6/12~8/3)

まず6月スタートで楽しみなのは、東京ステーションギャラリーでの「エミール・クラウスとベルギーの印象派」です。光輝主義とも呼ばれる独自の明朗なスタイルをとった画家。かつて文化村での「フランダースの光」展でも惹かれました。


エミール・クラウス「レイエ河畔に座る少女」1892年頃 個人蔵

「エミール・クラウスとベルギーの印象派」@東京ステーションギャラリー(6/8~7/15)

この展示ではそのクラウスを中心に、フランスや日本の印象派の作品を65点ほど紹介。もちろん国内では初めてクラウスをテーマとした展覧会です。待っていた方もおられたのではないでしょうか。

さて少し展覧会と離れた話題を。八王子にある村内美術館の「リニューアル」についてです。



「休館、展示リニューアルのお知らせ」@村内美術館

1982年の開館より常設展示してまいりました「ミレー、コロー、クールベとバルビゾン派」展は、2013年6月25日(火)をもちまして、展示を終了させていただくこととなりました。長い間ご愛顧賜り、誠にありがとうございました。
村内美術館は展示を一新し、7月11日(木)にリニューアルオープンいたします。家具屋ならではの美術館として世界の家具を展示、また日本や海外の新進気鋭作家の作品を展示する予定です。日本の現代画家とヨーロッパの近現代画家の共演をお楽しみいただけます。


詳細は不明ですが、ともかく「展示を一新し、7月11日(木)にリニューアルオープン」し、内容も「ミレー、コロー、クールベとバルビゾン派」から「世界の名作家具 デザイン展・東西名画展」に変わることが予告されています。


クールベ「ボート遊び」

村内美術館といえばクールベの「フラジェの樫の木」がフランスに『里帰り』したことでも話題となりました。私自身もかつてこの美術館でクールベを見て、強く感動したことを覚えています。定評のあるバルビゾン派やクールベのコレクションがどうなるのか。その意味でもリニューアルからは目が離せないと思いました。

「あべのハルカス」(大阪・阿倍野橋)にオープン予定の「あべのハルカス美術館」の概要が発表されました。

「あべのハルカスの展望台、美術館の名称など施設概要が決まりました」@近畿日本鉄道(PDF)

オープンは来春。リンク先にもあるように国宝・重文も展示可能な美術館です。また平日は20時までオープン。館長は浮世絵ご専門の浅野秀剛先生です。こちらも期待しましょう。

それでは6月も宜しくお願いします。
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「もののあはれと日本の美」 サントリー美術館

サントリー美術館
「もののあはれと日本の美」
4/17-6/16



サントリー美術館で開催中の「もののあはれと日本の美」へ行ってきました。

人生の機微や四季のうつろいに感じる情趣を意味する「もののあはれ」。「あはれ」が「哀れ」にも当てはめられることから、どこか物悲しいイメージも思い起こさせますが、本来は賞賛や愛情を含めての情感を意味していた言葉。少なくとも何らかの形で日本の美意識の根底に通じていることは間違いありません。

そうした「もののあはれ」を廻る諸相を美術の観点から紹介。屏風絵、絵巻、漆工、陶磁器に日本画など。いずれも趣き深く、またしみじみと心に染み入る。そうした作品が一堂に会していました。

[展覧会の構成]
第1章 「もののあはれ」の源流  貴族の生活と雅びの心
第2章 「もののあはれ」という言葉 本居宣長を中心に
第3章 古典にみる「もののあはれ」 『源氏物語』をめぐって
第4章 和歌の伝統と「もののあはれ」 歌仙たちの世界
第5章 「もののあはれ」と月光の表現 新月から有明の月まで
第6章 「もののあはれ」と花鳥風月 移り変わる日本の四季
第7章 秋草にみる「もののあはれ」 抒情のリズムと調和の美
第8章 暮らしの中の「もののあはれ」 近世から近現代へ


ともすると漠然とした感を受ける「もののあはれ」。上記の通り章立てもかなり細かく分かれています。江戸時代に「もののあはれ」を考察した本居宣長を基点に「源氏物語」、そして和歌の世界、さらには月明かりや秋草の表現、はたまた移ろう四季に花鳥風月など、いくつかのポイントをピックアップ。そこから「もののあはれ」とは何ぞやを見る展開となっていました。


本居宣長「紫文要領 稿本」(部分)重要文化財 江戸時代/1763年 本居宣長記念館 *全期間展示

さて初めは本居宣長。彼の著作でもある「紫文要領」(*通期展示)などを展示。「もののあはれ」を知ることこそ、人生を深く享受することにつながると説いた思想。それはまた時代を大きく超えて小林秀雄らにも影響を与えます。彼が記した色紙、その名も「物のあはれ」には、「物のあはれを知ることの深きにすぐるという事はなきものなり。」と書きました。


「源氏物語図屏風 須磨・橋姫」江戸時代/17世紀 サントリー美術館 *展示期間:4/17~5/20

そして源氏物語へ。屏風、画巻、画帖に軸画と様々な源氏絵を紹介。宣長も源氏こそ「もののあはれ」だと述べていたとか。うち酒井抱一の「紫式部石山寺観月図」(*展示期間:5/8-5/27)も美しい一枚。石山寺から琵琶湖の水面にうつる十五夜の満月を紫式部が眺めたというエピソードを一幅の画面へ。紫式部のいる楼閣に眼下の湖、そして浮かぶ満月。鮮やかな紅葉の色彩も目につくところです。


「佐竹本三十六歌仙絵 源順」重要文化財 鎌倉時代/13世紀 サントリー美術館 *展示期間:5/22~6/16

ちなみに琳派ファンの観点からして見逃せないのが鈴木其一の「四季歌意図巻」(*会期中巻替えあり)。春は業平の「交野の桜」、夏は人麻呂の「明石の浦」と、4面の場面に歌にまつわる春夏秋冬の光景が描かれた図巻。私は現会期に展示中の秋と冬を見ましたが、これが秀逸です。小さな画面ながらも背後に連なる雄大な空間。秋では彼方に富士山を望み、実に抒情的な景色が広がっています。

また本企画で特徴的なのは月と秋草という具体的なモチーフに「もののあはれ」を見出しているところ。それに関する作品がいくつか登場しています。

月では長沢蘆雪の「月夜山水図」(*展示期間:5/22-6/16)が優品です。下方から岩山が迫り出し、上部には満月が。山から生えた松が月の中で影絵のようなシルエットを。墨の濃淡を駆使し、見事なまでに美しくまたどこか儚い満月の夜を描ききっています。

秋草では光琳の「秋草図屏風」(*展示期間:5/15-6/16)が目立っていたのではないでしょうか。絵具を盛ったデコラティブな菊が光琳流。もちろんここは秋の景色を描かせたら天下一品、抱一の「月に秋草図屏風」や「夏秋草図屏風」があれば、とは思いましたが、それはあまりにも贅沢というものかもしれません。


北野恒富「星」昭和14(1939)年 大阪市立美術館 *展示期間:5/15~6/16

その他には鍋島に浮世絵なども。盛りだくさんです。また近代日本画では北野恒富の「星」(*展示期間:5/15-6/16)も忘れられません。濃紺の夜空をバックにバルコニーで佇む和装の清楚な女性。夕涼みしながら何を想っているのか。実に魅惑的でした。


土佐光起「春秋花鳥図屏風」江戸時代/17世紀 頴川美術館 *展示期間:5/22~6/16

なお展示はいつものサントリー流。怒濤の展示替えです。出品作が各会期毎で大きく変化します。率直なところ、とても追いかけられませんが、出品リストと睨めっこが必要かもしれません。

「もののあはれ」と日本の美 作品リスト(PDF)


「色絵龍田川文皿」江戸時代/17-18世紀 サントリー美術館 *全期間展示

6月16日までの開催です。

「もののあはれと日本の美」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:4月17日(水)~6月16日(日)
休館:火曜日。但し4月30日(火)は開館。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00) *4月28日(日)、5月2日(木)、5月5日(日・祝)は20時まで開館。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *ホームページ限定割引券、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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「シガリット・ランダウ展 ウルの牡山羊」 メゾンエルメス

メゾンエルメス
「シガリット・ランダウ展 ウルの牡山羊」 
5/17-8/18



メゾンエルメスで開催中のシガリット・ランダウ個展、「ウルの牡山羊」へ行ってきました。

1969年にエルサレム生まれ、アメリカやイギリスで幼少期を過ごし、現在はテルアビブに在住するアーティスト、シガリット・ランダウ。2011年には第54回ヴェネツィア・ビエンナーレのイスラエル館を代表し、同年の横浜トリエンナーレにも出品があった。

はて、トリエンナーレでどのような作品を。と思った方も多いかもしれません。実際私もその一人。


「DeadSee」(2005年)

というわけでトリエンナーレの出品作の参考図版を一枚だけ。「DeadSee」。その名の通り死海を西瓜とともに漂う姿を捉えた映像作品。このサークル状の西瓜のイメージで思い出した方もおられるのではないでしょうか。

前置きが長くなりました。さて今回のエルメス、ランダウの日本初個展となる「ウルの牡山羊」では、何を作品を展示しているのか。ずばり映像と居住空間による2つのインスタレーションです。舞台はともにイスラエル。映像は同国南部ネゲブ砂漠のオリーブの森、もう一つのインスタレーションは50年代のイスラエルの典型的な居住空間をモチーフとしています。

さて私自身、断然に面白かったのは前者の映像。つまりオリーブの木の「Out in the Thicket 茂みの中へ」に他なりません。

少しだけ作品の説明を。プロジェクターは4台。いずれも天井に届くほどの巨大なものです。そこに映し出されるのはオリーブの木。一つのオリーブの木が一面の巨大スクリーンに一つ。それらが4面、奥へと連なることで森のようなイメージも醸し出しています。そしてBGMには何やらゴウゴウという音が。時折、鳥の鳴き声なども耳へ。ここから一体何が始まるのか。とすると突然、一枚のスクリーンのオリーブの木が揺れ、動き出しました。

正確に述べるとオリーブは揺さぶられているもの。つまり収穫のために専用のシェーキングマシーンで揺さぶられているのです。バラバラと落下する実と揺れ動く木、そして葉っぱ。その様は揺れるというよりも悶えるよう。収穫という行為に関わらず、何とも恐ろしいまでの震え。まさに木が自ら痙攣して叫び出すかのように激しく揺れています。そしてそれが4面スクリーンで次々と。止まることはありません。まさにただならぬ気配です。

そして先に触れたゴウゴウという音。もちろんオリーブの木が揺れる音です。これがまた大変な迫力。そこに作家本人がヘブライ語によって口ずさむメロディーも。さらに鳥の鳴き声も加わり、一種の混沌、また何らかの呪術が行われているかのような状況が生まれます。

取り憑かれたかのように揺れる木。暴力的とすらいえるかもしれません。その姿追いかけていくと、どこか痛みや苦しみ、そして恐怖感すら覚えました。

なお会場内にはシェーキング・マシーンを言わば体験する装置も。中に入ることで揺れを感じることが出来るそうです。残念ながら出向いた時は調整中でした。再度伺いたいと思います。

一方での居住空間のインスタレーション「火と薪はあります」はテキストにナレーションつき。時間に余裕を持っての観覧が良いかもしれません。

銀座のど真ん中で体験するオリーブの身悶え。仕掛けはシンプルでしたが、非常に印象深いものがありました。

8月18日まで開催されています。

「シガリット・ランダウ展 ウルの牡山羊」 メゾンエルメス
会期:5月17日(金)~8月18日(日)
休廊:会期中無休。
時間:11:00~20:00 *日曜は19時まで。
料金:無料
住所:中央区銀座5-4-1 銀座メゾンエルメス8階フォーラム
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅B7出口すぐ。JR線有楽町駅徒歩5分。
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「ファインバーグ・コレクション展」 江戸東京博物館

江戸東京博物館
「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」 
5/21-7/15



江戸東京博物館で開催中の「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」のプレスプレビューに参加してきました。

「開眼式」になぞらえて「私の目を開いてくれたものは日本の江戸絵画。」とまでコメントするアメリカの実業家、ロバート&ベッツィーファインバーグ夫妻。

ファインバーグ夫妻が江戸絵画と初めて接点を持ったのは1970年代。それは何とメトロポリタン美術館で見たという南蛮図屏風のポスター。以来40年、江戸絵画の蒐集と研究を重ねた夫妻は、類い稀なコレクション形成。その質と量は既に良く知られています。


「ファインバーグ・コレクション展」会場風景

ずばり里帰りです。ファインバーグ夫妻の江戸絵画コレクションが江戸東京博物館へとやってきました。

第1章 日本美のふるさと 琳派
第2章 中国文化へのあこがれ 文人画
第3章 写生と装飾の融合 円山四条派
第4章 大胆な発想と型破りな造形 奇想派
第5章 都市生活の美化、理想化 浮世絵
 

さてコレクションの特徴としてまず第一に挙げられるのは、いわゆる狩野派や土佐派などの官画派の作品が殆どないこと。つまり民間の文人画や琳派、それに円山派などが中心となっていることです。また若冲、盧雪、蕭白らのいわゆる奇想の絵師も。さらに浮世絵が入っているのもポイントです。

またチラシに記載もあるように「全体として上品な雰囲気を持っていることも大きな特徴。」。確かに温和でかつ優美な作品が目につきます。

しかしながらあえて申し上げます。もちろん上品でありながらも、実は迫力があり、またさり気なく個性的。さらにどこか異様な表情を持つ作品があるのも見逃せないところです。もちろんいずれも優品ではありますが、例えば単に「美しい」や「綺麗」で終わってしまうには勿体ない作品も少なくありません。


池大雅「孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風」(右隻)江戸時代/18世紀

というわけでまずはこちらから。池大雅の「孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風」。中国の高士二人の帽子や笠にまつわる故事を描いたとされる屏風絵。右隻の高士しかり、微笑ましいまでののびのびとした表現は、優美と言うよりもユーモラス。空間構成も大胆です。


右:紀梅亭「蘭亭曲水図」江戸時代/文化2(1805)年

ではもう一枚。紀梅亭の「蘭亭曲水図」です。写真では一見、地味に見えるかもしれませんが、ともかく細部の緻密な描写に注目。いわゆる中国の理想の宴である蘭亭曲水の様子を、これでもかという程に墨の細かな筆致で埋め尽くしています。まさに濃密極まりない点描世界。


右:渡辺玄対「武陵桃源図」江戸時代/寛政4(1792)年
左:山本梅逸「畳泉密竹図」江戸時代/弘化2(1845)年


さらに渡辺玄対の「武陵桃源図」はどうでしょうか。のどかな理想郷を表した一枚。それにしても山肌を覆うドギツイまでの青み。確かに田園に家屋などの細部は端正ですが、色彩のコントラストはあまりにも大胆。言わばカラリスト玄対。目に焼き付きます。


右:福田古道人「桃渓山水図」昭和2(1927)年
左:岡本秋暉「蓮鷺図」江戸時代/19世紀 *作品の展示期間はいずれも5/21-6/16


そして岡本秋暉の「蓮鷺図」です。これも写真では何ともお伝えしにくいのですが、7羽の鷺を象る鋭利な筆致。枯れた蓮の葉や茎はどこか爛れておどろおどろしくもあり、また下方の波も何やら執拗までに細かくうねる描写が。思わずゾッとしてしまいます。

実は本展、今挙げた第2章の文人画が充実しています。ここは思いの外に見入りました。


右:長沢蘆雪「梅・薔薇に群鳥図」江戸時代/18世紀
中央:長沢蘆雪「藤に群雀図」江戸時代/18世紀
左:長沢蘆雪「西王母図」江戸時代/18世紀 *作品の展示期間はいずれも5/21-6/16


続いていわゆる奇想派へ。ここでまず嬉しいのは盧雪3点、「梅・薔薇に群鳥図」、「藤に群雀図」、「西王母図」のそろい踏みです。中でも可愛らしいのは中央の雀たち。その数17羽です。雀を描かせて盧雪の右に出るものはいませんが、それこそチュンチュンという鳴き声が聞こえてきそうなほど生き生きと。また藤の花の流れに雀の列という上から下への構図も巧妙。ともに輪郭線はありません。小品ながらも盧雪の画力を堪能出来る作品でした。


右:酒井抱一「遊女立姿図」江戸時代/19世紀
左:歌川豊春「遊女と禿図」江戸時代/18世紀


さて文人画の次に充実しているのが第5章の浮世絵。これがまた魅惑的なラインナップです。上の写真は歌川豊春の「遊女と禿図」と酒井抱一の「遊女立姿図」の取り合わせ。琳派の絵師抱一も20代の頃は浮世絵の手習いを。師はこの豊春。いわば師弟の二幅。顔の表情などは確かに豊春を吸収しています。


右:祇園井特「化粧美人図」江戸時代/18-19世紀
左:三畠上龍「舞姿美人図」江戸時代/19世紀


また京都の絵師、祇園井特の「化粧美人図」も目につく一枚。濃い眉に大きな鼻をした出立ち。重ねて塗ると玉虫色になったという口紅。下唇は緑色に染まり、一種異様な印象も。それこそデロリです。


曾我蕭白「宇治川合戦図屏風」江戸時代/18世紀

さらに順は前後しますが、曾我蕭白の「宇治川合戦図屏風」などもインパクトのある作品。またファインバーグ氏が狩野派で唯一、コレクションしたのが山雪というのもポイント。出品作の「訪戴安道・題李かん幽居図屏風」は全体の雰囲気こそ落ち着いていますが、やはり随所に山雪特有のうねりのある筆致が。一筋縄ではいきません。


酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」江戸時代/19世紀

その他には若冲に応挙に蕪村に其一らも。そうそう重要な作品を忘れていました。酒井抱一の「十二ヶ月花鳥図」の全12幅が一挙公開。しかも展示替えなしの通期展示。会期中ずっと楽しめます。


右:酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」から九月
左:酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」から十月 ともに江戸時代/19世紀


折しも東北三県巡回中の「若冲が来てくれました」展にも「十二ヶ月花鳥図」が出ていますが、そちらはプライス・バージョン。抱一の同セットは現在5組が確認されています。ちなみに本展で公開中のファインバーグ・バージョンは他のセットと共通する図柄が少ないとか。とりわけ10月の栴檀は他にはないモチーフが取り入れられています。

会期中展示替えが行われます。

[ファインバーグ・コレクション展出品リスト](PDF)
前期:5月21日~6月16日
後期:6月18日~7月15日


なお前期出品中の鈴木松年や福田古道人、そして後期の竹内栖鳳など、明治以降の作品が含まれているのも面白いところです。民間の絵師を中心に琳派から文人画、浮世絵までを幅広く網羅するファインバーグ・コレクション。ここは上品云々を抜きにして、「あなたに意外な印象を与える一枚」を見つけては如何でしょうか。


右:酒井抱一「宇津の細道図屏風」江戸時代/19世紀 *展示期間:5/21-6/16
左:鈴木其一「群鶴図屏風」江戸時代/19世紀


7月15日までの開催です。もちろん後期も追っかけます。

「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」 江戸東京博物館@edohakugibochan
会期:5月21日(火)~7月15日(日)
休館:月曜日。但し7月15日は開館。
時間:9:30~17:30  *毎週土曜日は19:30まで。 
料金:一般1300(1040)円、大学・専門学校生1040(830)円、小・中・高校生・65歳以上650(520)円
 *( )内は20名以上の団体料金。常設展との共通券あり。
場所:墨田区横網1-4-1
交通:JR総武線両国駅西口徒歩3分、都営地下鉄大江戸線両国駅A4出口徒歩1分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。また掲載作品は全てファインバーグ・コレクションです。
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「夏目漱石の美術世界」展でブロガー内覧会を開催

文豪夏目漱石と美術の関わりを紹介する「夏目漱石と美術世界」展。会場は上野の東京藝術大学大学美術館。


「夏目漱石と美術世界」@東京藝術大学大学美術館(プレビュー記事)

漱石文学には美術作品がいくつも登場することはよく知られる通り。しかしながら実際にテキストから美術を参照する機会はこれまでに殆どなく、なかなかイメージがわかなかったのも事実でした。


J.W.ウォーターハウス「人魚」1900年 王立芸術院、ロンドン
Royal Academy of Arts, London;Photographer: John Hammond


そうした中で開催された「夏目漱石と美術世界」。まさに漱石文学における美術の重要性が明らかに。また彼がイギリス美術にも感心を持っていたからか、特にラファエル前派の作品が充実しているのもポイントです。

その「夏目漱石と美術世界」展においてブロガー内覧会が開催されます。

[東京藝術大学大学美術館「夏目漱石の美術世界」特別内覧会概要]      
・開催日時 2013年5月31日(金)18:30~20:30 (受付開始 18:00~)
・場所 東京藝術大学大学美術館(台東区上野公園12-8)
・スケジュール
 18:00~    受付開始
 18:30~18:45 説明会(エントランスホールにて)
          古田亮(東京藝術大学大学美術館准教授)による展示解説
 18:45~20:30 特別内覧会(本展覧会会場)
 20:30     内覧会終了
・定員 100名 
 *ブログ、Facebook、Twitterを開設していらっしゃる方。ブログの内容は問いません。
・参加費 無料
・申込み 申込フォームより→https://admin.prius-pro.jp/m/win/form.php?f=4
・申込締切 5月29日(水) 12:00
 *抽選で100名をご招待します。結果は5月30日(水)にメールにてお知らせします。

日時は5月末日。31日(金)の夜、18時半から20時半まで。たっぷりの2時間。本展担当で東京藝術大学の古田准教授の解説付きです。また展示室内の一部が撮影可能な上、豪華図録が進呈されるという嬉しい内容!

[参加の特典]
1.参加者全員に本展図録を進呈
2.企画、構成担当の東京藝術大学・古田亮准教授の説明会
3.展示室内の撮影(但し、1点撮り不可など条件付きです)

対象はブロガー、Facebook、Twitterアカウントをお持ちの方です。ジャンルは問いません。


「夏目漱石と美術世界展」会場風景

定員は100名。抽選制です。申込期限の5月29日(水)の正午までに専用フォームからお申し込み下さい。

漱石の目を通して見る同時代の日本・西洋美術。また漱石の審美眼は古美術にも及んでいます。また「虞美人草」の再現屏風の展示など、新たな試みも。未だかつてない展覧会であることは間違いありません。


「夏目漱石と美術世界展」会場風景

それでは東京藝術大学大学美術館で行われる「夏目漱石と美術世界」ブロガー内覧会。奮ってご応募下さい。

「夏目漱石の美術世界」ブロガー特別内覧会にご招待 | 申込フォーム

本イベントの主催で各種展覧会情報を発信する広報事務局「ウィンダム」のアカウント→(@WindamArtPR

「夏目漱石の美術世界展」 東京藝術大学大学美術館
会期:5月14日(火)~7月7日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1500(1200)円、高校・大学生1000(700)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「カリフォルニア・デザイン 1930-1965」 国立新美術館

国立新美術館
「カリフォルニア・デザイン 1930-1965」
3/20-6/3



国立新美術館で開催中の「カリフォルニア・デザイン 1930-1965」へ行ってきました。

全50州の中で最多の人口を誇り、数多くの移民を受け入れ、アメリカの文化の一つの中心として発展してきたカリフォルニア州。そこで20世紀半ばに起きたデザイン活動、カリフォルニア・デザインの全容は、これまで必ずしも十分に知られていたとは言い切れません。


ヘンドリク・ヴァン・ケッペル ヴァン・ケッペル=グリーン社「ラウンジ・チェア、オットマン」1939年頃 ロサンゼルス・カウンティ美術館

またその領域も家具、ファッション、陶芸、建築と多様。なかなか一括りにして捉えるのが難しいのも事実。私も実際の展示を見るまではなかなかイメージがわきませんでした。

結果どうだったのか。率直に言えば、カリフォルニア・デザインが当時の社会や産業、文化とどのように関係して発展、もしくは変化していったのか。そうしたことが浮かびあがってくる展覧会だったと思います。

[展覧会の構成]
第1章 カリフォルニア・モダンの誕生
第2章 カリフォルニア・モダンの形成
第3章 カリフォルニア・モダンの生活
第4章 カリフォルニア・モダンの普及


構成は誕生、形成、生活、普及とシンプルなテーマでの4章立て。しかしながら各章には細かなキャプションもあり、作品を通してアメリカの生活や文化が開けてきます。その辺をたぐり寄せて見るとより楽しめるかもしれません。


マーガレット・デ・パッタ デザインズ・コンテンポラリー社「ピン」1946–57年頃 ロサンゼルス・カウンティ美術館

さて冒頭。早速、当時の産業とデザインの関係を問う作品が。それがオプコ・カンパニーの「アイス・ガン」(1935年頃)。カクテル用のアイスクラッシャーですが、それが一体何と関わり合うのか。答えは航空力学。つまり二次大戦の下で発展した航空力学的に優れた形をデザインに落とし込んでいるのです。もちろんカリフォルニアは航空産業の拠点でもあります。

また原子力も同様。リビング用の間仕切りであるグレタ・マグヌソン・グロスマンの「スクリーン」(1952年頃)にはカラフルな木製の球がいくつも。これが原子力から発想されたとか。ちなみこうした間仕切り、大戦後に住宅のリビングとダイニングが一体化していく過程で良く用いられたそうです。あくまでもデザインは生活に身近な場所に存在します。


チャールズ&レイ・イームズ エヴァンス・プロダクツ社成型合板部門「象」1945年 イームズ・コレクションLLC

さらに新しい素材が身近な家具などに転用されていくのもポイントです。合成樹脂や成型合板、それに繊維強化プラスティック。軍事目的の素材が安価な日用品へ。チャールズ&レイ・イームズもその一例です。イームズは大戦での負傷兵に用いられた添え木が、家具の素材にも適していると考えます。もちろん展示ではイームズの家具もずらり。最も目立っていました。


ケム・ウェーバー「机、椅子」1938年頃 ロサンゼルス・カウンティ美術館

アメリカには二次大戦下においてヨーロッパから移民が大量に流入。バウハウスで教育を受けたデザイナーらも次々とカリフォルニアの地にやってきます。またアジアやメキシコの影響も。そして元来の温暖な気候。楽観、自然主義、開放性がキーワードとも言われる土地の気風。それらが合わせ重なってカリフォルニア・デザインの発展の原動力ともなっていくわけです。


レイモンド・ローウィースチュードベーカー社「スチュードベーカー アヴァンティ」1963年 *写真:トヨタ自動車

それにしても家具だけでなく、車にサーフボードに水着に食器に玩具まであれこれと。出品は全250点です。細かに追っかけていくのは大変なので、最後に興味深かったのは言葉を一つ。

「よいデザインが受け入れられることは滅多にない。だから売り込まなければならない。」」ジュリアス・シュルマン(建築写真家)

ラストの第4章「カリフォルニア・モダンの普及」での言葉です。雑誌や新聞、そして映画などのメディアが、カリフォルニアのデザインをどう広めていったのか。その役割についての言及もあります。メディアとデザイン。カリフォルニア・デザインと社会との関わりを示す効果的な展示だったかもしれません。


メアリー・アン・デウィーズ「女性用水着」1961年 ロサンゼルス・カウンティ美術館

会場内の動線が少し変わっています。先に展示室の壁を一周したあとに内側の可動壁へ。そこでさらにぐるりと一回り。外から内へまた外へ。内から全体も見渡せます。開放感がありました。(会場はデザイン建築家の中村竜治氏によるものだそうです。)

「カリフォルニア・デザイン1930‐1965/新建築社/国立新美術館」

6月3日までの開催です。

「カリフォルニア・デザイン 1930-1965ーモダン・リヴィングの起源」 国立新美術館
会期:3月20日(水・祝)~6月3日(月)
休館:火曜日。但し4月30日は開館。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、 大学生500(300)円、高校生以下無料。
 *( )内は団体料金。3月23日(土)、及び5月18日(土)は入場無料。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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「オディロン・ルドンー夢の起源」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館
「オディロン・ルドン」
4/20-6/23



損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「オディロン・ルドンー夢の起源」へ行って来ました。

比較的国内でも見る機会の多いルドン。ルドンの展示と言えば、2012年の三菱一号館の「ルドンとその周辺展」。大作グランブーケを筆頭に、黒と色彩のルドンの作品がずらり。同時代の画家を踏まえての時代の潮流を追うような企画。とても見応えがありました。


オディロン・ルドン「花」1905-10年頃 油彩・画布 岐阜県美術館

それから一年と少し。もちろん異なる美術館といえ、何故に再びルドンなのか。そんなことを思った方もおられるやもしれません。

では単刀直入に今回のルドン展は何が特徴的なのか。それはルドンの生地ボルドーです。青年ルドンがボルドーで何を学び、関心を持ち、それが後に如何なる展開を遂げていくのか。そうしたことに主眼が置かれています。

[展覧会の構成]
第一部 幻想のふるさとボルドー 夢と自然の発見
第二部 「黒」の画家 怪物たちの誕生
第三部 色彩のファンタジー


よって言ってしまえば、冒頭こそハイライト。ここでは若かりしルドンに影響を与えたゴランやクラヴォー、そしてブレスダンの作品を紹介。それをルドンと参照することで、彼の創作の原点を知ることが出来ます。

少しだけ細かく見ていきましょう。1840年にボルドーで生まれたルドンは、間もなくワインの産地として有名なメドック地方のペイルルバード、つまりぶどう園に送られ、そこで育ちます。


オディロン・ルドン「ペイルルバードのポプラ」 油彩・厚紙 岐阜県美術館

ルドンは大人になってからもこの地を愛し、夏は必ず過ごしたとか。特徴的な砂地と松の並ぶ風景。それはルドンの自然観にも影響を与えたに違いありません。


スタニスラス・ゴラン「ランドの農場」 水彩・紙 ボルドー国立科学・文芸・美術アカデミー

絵の勉強を本格的に始めたのは15歳の時。当地の画家、スタニスラス・ゴランの美術教室に通います。最初の師ゴランから学んだのは、敬愛していたドラクロワらのロマン主義。ルドンにもドラクロワ画の模写を進めました。


アルマン・クラヴォー「植物学素描」 黒インク・紙 ボルドー美術館

次の出会いはアルマン・クラヴォー。植物学者です。彼は顕微鏡でしか見えない微生物をルドンに紹介。精緻なスケッチによる藻の球体。後のルドンに特徴的な目玉のイメージと重なります。

そして三人目はロドルフ・ブレスダン。言うまでもなく版画家。独自の幻想的な風景で人気を集めた人物です。ルドンは24歳の時にパリへ出るも、翌年にはボルドーへ帰還。そこでブレスダンから版画を学びます。


ロドルフ・ブレスダン「死の喜劇」1854年 石版画 ボルドー美術館

ブレスダンといえば魑魅魍魎、骸骨たちが闊歩する「死の喜劇」。実に精緻な描写ですが、ルドンも負けじと版画を制作。


オディロン・ルドン「浅瀬(小さな騎馬兵のいる)」1865年 銅版画 岐阜県美術館

「浅瀬(小さな騎馬兵のいる)」はサロンへの出品作。大きな岩を背景にして浅瀬からこちらへと進み行く騎馬兵。これがかなり緻密に表現されています。

以上、ルドンに影響を与えた3名の芸術家たち。彼が世に知られるのは1879年、石版画集「夢のなかで」、39歳のことです。ここに早くも「黒」のルドンが確立していますが、それもボルドーでの経験と学習があってからこそなのかもしれません。


オディロン・ルドン「夢のなかで 幻視」1879年 石版画 岐阜県美術館

さて展覧会中盤から後半にかけてはいつもの黒と色彩のルドン。三菱一号館の時にも出ていた岐阜県美のコレクションが中心ということもあり、既視感があるのも事実ですが、それでも見どころはいくつも。1886年の石版画集「夜」では、冒頭にブレスダンの肖像を描いています。


オディロン・ルドン「エドガー・ポーに 目は奇妙な気球のように無限に向かう」1882年 石版画 岐阜県美術館

ルドンが面白いのは、どこか神秘的でありながらも、自然科学への眼差しが強く垣間見られること。例えば「聖アントワーヌの誘惑」。海にまつわる奇怪な生き物が描かれていますが、これは当時、深海調査が進んだ一つの成果の現れ。

ルドンは気球に電球、また宇宙、そして生物、さらには進化論などへ大きな関心を寄せているのです。単なる幻想とはちょっと違います。


オディロン・ルドン「神秘的な騎士」1894年頃 木炭・パステルで加筆 ボルドー美術館

ラストは色彩のルドン。充実した岐阜県美のコレクションに加え、ボルドー美術館からもやって来た作品がいくつか。展示に花を添えます。


オディロン・ルドン「聖母」1916年 油彩・画布 ボルドー美術館

最晩年、76歳の時に描かれた「聖母」が心を打ちます。彼が死んだ時にイーゼルに残されていたという絶筆。胸に手をあてて目をつむる様はそれこそルドンへの祈りです。幻想と科学とを行き来したルドン。最後に到達したのは安らかなる祈りの境地でした。

「もっと知りたいルドン/山本敦子/東京美術」

初期ルドンにウエイトを置いた好企画。率直に面白かったと思います。

6月23日まで開催されています。

「オディロン・ルドンー夢の起源」 損保ジャパン東郷青児美術館
会期:4月20日(土)~6月23日(日)
休館:月曜。但し4月29日、5月6日は開館。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日は20時まで。(入館は閉館30分前まで)
料金:一般1000円(800)円、大・高校生600(500)円、65歳以上800円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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「幸之助と伝統工芸」展でブロガー内覧会を開催

パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「開館10周年記念特別展 幸之助と伝統工芸」展。


「幸之助と伝統工芸」@パナソニック汐留ミュージアム(プレビュー記事)

言うまでもなくパナソニックの創業者であり「経営の神様」こと松下幸之助が、実は日本の伝統工芸に深い理解を示していた。

会場内にはかつて幸之助が所蔵していた工芸品がずらり。陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、截金と様々。しかもその多くが何と初公開。調査研究にあたった東京国立近代美術館の諸山研究員をして、工芸の専門家でも知らなかったものも少なくないとか。まさに日本の近代工芸史に残り得る展覧会です。


「幸之助と伝統工芸」展会場風景

その「開館10周年記念特別展 幸之助と伝統工芸」展にてブロガー内覧会が開催されます。

[パナソニック汐留ミュージアム「幸之助と伝統工芸」特別内覧会]
・開催日時 2013年5月30日(木)18:00~19:30 (受付開始 17:30~)
・会場 パナソニック汐留ミュージアム(港区東新橋1-5-1)
・スケジュール
 17:30~    受付開始 (受付後ミュージアムグッズ売り場に入場可。)
 18:00~18:45 担当学芸員(岩井美恵子氏)によるギャラリートーク開始 
 18:45~19:30 ギャラリートーク終了後会場内自由内覧
 19:30     内覧会終了
・定員 60名
 *ブログ、Faceboook、Twitterを開設していらっしゃる方で本展告知にご協力いただける方(ブログの内容は問いません。アート以外でも茶道などにご興味のある方大歓迎です。)
・参加費 無料
・申込み 申込フォームより→https://admin.prius-pro.jp/m/win/form.php?f=3
・申込締切 5月27日(月) 18:00 
 *抽選で60名様をご招待します。当選者には5月28日(火)にメールでお知らせします。当選者への通知をもって、発表に代えさせていただきます。 

日時は5月30日(木)の夜18時から19時半まで。途中に担当学芸員の岩井さんのギャラリートーク付き。しかも展示室内の一部が撮影可能です。

[参加の特典]
 1.参加の皆様だけの閉館後の無料での貸し切り内覧会です。
 2.参加の皆様に本展オリジナルクリアファイルをプレゼントいたします。
 3.担当学芸員によるギャラリートークにご参加いただけます。
 4.会場内を一部撮影することができます。(*注) 

対象はブロガーはもちろん、Faceboook、Twitterのアカウントをお持ちの方。ジャンルは問いません。アートブログでもなくてもOKです。

定員は60名で申込期限は5月27日(月)の18時。受付は専用申込フォームから。抽選制です。当選者には翌日メールでお知らせがあります。


「幸之助と伝統工芸」展会場風景

なお展覧会、既に開始から1ヶ月経過しただけに、一度見た、という方も多いかもしれませんが、そこは心配ご無用です。本展の会期は8月後半までですが、その中で2度の大規模な展示替えが行われます。

「幸之助と伝統工芸」展示会期(出品リスト
前期 :4月13日(土)~5月28日(火)
中期: 5月30日(木)~7月9日(火)
後期: 7月11日(木)~8月25日(日)


ブロガー内覧はちょうど展示替えが行われた翌日。つまり中期がスタートする日なのです。ようは1度、前期(現会期)をご覧になった方でもまた楽しめる展示となります。

それでは改めてパナソニック汐留ミュージアムで行われる「開館10周年記念特別展 幸之助と伝統工芸」ブロガー内覧会。まずは奮ってご応募下さい。

「幸之助と伝統工芸」ブロガー向け特別内覧会にご招待 | 申込フォーム

本イベントの主催で各種展覧会情報を発信する広報事務局「ウィンダム」のアカウント→(@WindamArtPR


写真「松下幸之助と鵬雲斎千宗室」(当時) 1980年 真々庵

*注)展示室内の撮影ポイントを設置します。一部の撮影は可能ですが、展示作品の1点撮りはできません。必ず、会場風景・雑感として撮影してください。フラッシュ撮影・ストロボ・三脚・脚立の使用はお断りいたします。

「開館10周年記念特別展 幸之助と伝統工芸」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:4月13日(土)~8月25日(日) *前期:4/13-5/28、中期:5/30-7/9、後期:7/11-8/25
休館:水曜日
時間:10:00~18:00
料金:一般700円、大学生500円、中・高校生200円、小学生以下無料。
 *65歳以上600円、20名以上の団体は各100円引。
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「関西アートビート」が6月に再開!

展覧会・ギャラリー巡りでは欠かせないWEBサイト・アプリの東京アートビート(TAB)。関東の約750の美術館とギャラリーの展示情報が網羅。しかもリアルタイムで更新。さらにスマートフォンの地図アプリと連動することで自由自在に展示を巡ることが出来ます。

関西アートビート

そのアートビートの関西バージョンがいよいよこの6月に公開。その名も「関西アートビート」。対象は関西の2府5県です。もちろん東京と同様にウェブサイトとアプリの同時展開。しかもバイリンガル。関西にある約400もの美術館やギャラリーの情報が収められます。

[関西アートビートについて]

【対象】
京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、滋賀県、三重県にわたる関西地方のアート・デザインのイベント情報

【特色】
・バイリンガルであること。
・全てのサービスを日本語と英語で提供します。
・独立した非営利団体であり中立であることー大きな美術館も小さなギャラリーも同等に掲載します。
・網羅的であることー関西のアートイベントを可能な限り網羅的にカバーします。

[サービス展開](予定)

1.ウェブサイト「Kansai Art Beat」URL: http://www.kansaiartbeat.com/

関西のアートイベント情報をインターネットから無料で検索・閲覧できるサービスです。


参考画像:画像は開発中の画面です。

・人気ランキングやエリアでの絞り込み、「写真」「彫刻」などジャンルでの絞り込みも可能です。
・ユーザー登録してイベントをブックマークすると、見たいイベントを見逃さないようにE-mailでリマインダーも受け取れます。(ユーザー登録は無料です)

2.「Kansai Art Beat」公式アプリ(iOS/Android)

スマートフォン端末(iOS/Android)から、専用アプリで「Kansai Art Beat」の掲載イベントを閲覧できます。


参考画像:Tokyo Art Beat公式アプリ

・ウェブサイト同様の機能に加え、モバイル特有のGPSでの「周辺検索」を搭載。思い立った時に近くのイベントに足を運べます。
・常にライフスタイル部門上位の「Tokyo Art Beat」公式アプリの関西版です。

3.その他のサービス

「Kansai Art Beatメールマガジン」
・「Kansai Art Beat」の独自の視点から、イベント情報やアートニュースをお届けします。
・日/英のバイリンガルで発行。月に1~2回、無料のメールマガジンです。

「Facebook 公式ページ」
・日本語:https://www.facebook.com/KansaiArtBeat
・英語:https://www.facebook.com/KansaiArtBeatEN

「Twitter 公式アカウント」
・日本語: @KansaiArtBeatJP
・英語: @KansaiArtBeatEn

これだけのサービスが一度に公開。それだけでも期待が高まりますが、ともかくアートビートの良さはアプリの完成度。先にも触れたように地図アプリとの連携により、見知らぬ土地でも気侭に歩くことが出来ることです。


TokyoArtBeat公式アプリ(画面)

またエリア別にイベントをピックアップすることで、一つのエリア内で効率良く巡ることも可能。美術館からアプリを片手に近場のギャラリーへ。前もってチェックしてあった展示を見終えた後、アプリを開き、そこで気になった展示へ足を延ばしてみる。思わぬ出会いが待ち構えていることも少なくありません。


TokyoArtBeat公式アプリ(画面)

運営は当然ながら東京アートビートと同じNPO法人のGADAGO。ちなみに関西アートビートが再開するのは2008年7月以来。何と約5年ぶりのことです。関西在住の方はもちろん、旅行の際にも重宝しそうな関西アートビート。まずは6月のリリースを待ちましょう!

【iPhone】Tokyo Art Beat 公式iPhone/Androidアプリ紹介ビデオ【Android】


【運営について】
NPO法人GADAGOの運営する「Kansai Art Beat」は、2008年7月より活動を休止しておりましたが、このたび公益財団法人西枝財団との連携によりリニューアルして活動再開します。
「Kansai Art Beat」は、既にグローバルに展開し多くのアートファンから定評のある東京版「Tokyo Art Beat」とニューヨーク版「New York Art Beat」の姉妹サイトです。

【NPO法人GADAGOについて】
法人名称 特定非営利活動法人GADAGO(所轄庁 東京都)
活動開始時期 2004年10月1日
法人認証時期 2005年8月30日
〒106-0031 東京都港区西麻布2-21-22 West Azabu 2F
URL: http://www.gadago.org/
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「夏目漱石の美術世界展」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館
「夏目漱石の美術世界展」
5/14-7/7



東京藝術大学大学美術館で開催中の「夏目漱石の美術世界展」のプレスプレビューに参加してきました。

「ちょっとご覧なさい」と美禰子が小さな声でいう。三四郎は及び腰になって、画帖の上へ顔を出した。美禰子の髪で香水の匂がする。
画はマーメイドの図である。裸体の女の腰から下が魚になって、魚の胴が、ぐるりと腰を廻って、向う側に尾だけ出ている。女は長い髪を櫛で梳きながら、梳き余ったのを手に受けながら、こっちを向いている。背景は広い海である。
「人魚(マーメイド)」。
「人魚(マーメイド)」。
頭を擦り付けた二人は同じ事をささやいた。
*夏目漱石「三四郎」より

近代日本を代表する文豪、夏目漱石。漱石自身が美術に大きな関心を持っていただけに、彼の著書にはいくつも美術作品が出てくることはよく知られています。


「夏目漱石と美術世界展」会場風景

しかしながら文学と美術。たとえ親和性があろうとも、なかなか接点を持って同時に見る、また読むことが出来ないのも事実。漱石の個々のテキストと美術作品を具体的に参照する機会はありませんでした。

ここに決定版が。タイトルも「夏目漱石の美術世界展」。漱石文学に登場する美術品が一堂に集結。美術の側から改めて漱石世界を知るまたとない展示となっています。


J.W.ウォーターハウス「人魚」1900年 王立芸術院、ロンドン
Royal Academy of Arts, London;Photographer: John Hammond


というわけで、冒頭に引用した「三四郎」から。ウォーターハウスの「人魚」です。漱石は自らのイギリス留学時に英文学と英国美術研究を重ね、当時のラファエル前派や世紀末美術、そしてターナーやコンスタブルに惹かれていきました。


J.M.W.ターナー「金枝」1834年 テイト、ロンドン
Tate, London 2013


よって漱石の美術世界、一つの核となるのはイギリス美術。「それから」で大助の見たブランギンことブラングィンの作品も。(小説と直接関係する作品は図版で紹介されています。)そして秋に都美館で大回顧展の控えるターナーです。こちらは「金枝」。「ぼっちゃん」で赤シャツと野だいこの会話で登場。漱石は必ずしも常に特定の絵画を小説に登場させたわけではありませんが、ともかくイギリス美術を多く引用しています。


B.リヴィエアー「ガダラの豚の奇跡」1883年 テイト、ロンドン
Tate, London 2013


「夢十夜」ではラスト、庄太郎が最後に見る夢のイメージの元になった絵画、リヴィエアーの「ガダラ豚の奇跡」も出品。これは珍しいと思いきや、さり気なく日本初公開です。


左:ダンテ・ガブリエル・ ロセッティ「レディ・リリス」1867年

ターナー3点、ウォーターハウス2点、そしてミレイにロセッティ。テートからも作品が来日しています。ちょっとしたラファエル前派展とも言えるかもしれません。

さて続いては日本美術へ。元々、子どもの頃から書画に親しんでいた漱石は、雪舟以降の水墨、また狩野派や円山派などの江戸絵画について関心を寄せています。


伊藤若冲「梅と鶴」江戸時代(18世紀) 展示期間:6/11-7/7

「草枕」では若冲の一筆書きの鶴を引用。さらに同じく「草枕」では、逆に漱石の没後、松岡映丘らが門弟らと制作した「草枕絵巻」なども展示。


右:伊年「四季花卉図屏風」(17世紀) 東京国立博物館 *展示期間:5/14-6/2

また興味深いのは漱石が宗達に注目していることです。伊年印の「四季花卉図屏風」を参照しながら、画家の津田青楓に宗達風の画を描いてみないかとすすめています。ちなみに青楓は漱石の親友。漱石本の装幀を手がけながら、漱石へ油絵や山水画を指導した人物でもあります。

さらに漱石と同時代の日本美術もずらりと勢揃い。日本画に油画。繋がりは文展の批評です。漱石は第六回文展を見て批評を新聞へ連載。展示ではそこで彼が見たであろう作品を批評の言葉とともに紹介しています。


左:黒田清輝「赤き衣を着たる女」大正元(1912)年 鹿児島県歴史資料センター 黎明館

横山大観、黒田清輝、藤島武二、坂本繁二郎、青木繁、木島桜谷に今村紫紅ら。その数は約40点。ここでは面白いのは漱石の批評です。これがかなり印象批評的(監修の古田先生談)で、好き嫌いがはっきりしていること。


今村紫紅「近江八景」大正元(1912)年 重要文化財 東京国立博物館 *場面替えあり

例えば今村紫紅の「近江八景」に対しては、「これは大正の近江八景として後世に伝わるか疑問。」と述べた上、「今村君の苦心を尊敬する。」としたものの、結局「何だか自分の性には合わない。」とバッサリ。また総じて画壇の重鎮には厳しい目を向ける一方、青木や坂本繁二郎らの若手には好意的であるのも特徴です。


橋口五葉「彼岸過迄」表紙画稿 大正元(1912)年 鹿児島市立美術館 他

またもちろん展示では漱石本の装幀、挿画についても紹介。ここで主役をはるのは橋口五葉と津田青楓。そして漱石本人が装幀を行った「こころ」なども。彼はアール・ヌーヴォー風の図柄を好んだそうです。


漱石自筆の作品

ラストには漱石自ら描いた書画もいくつか。「崇高でありがたい気持ちのする奴をかいて死にたいと思います。文展に出る日本画のようなものはかけてもかきたくはありません。」とは彼の言葉。一部の批評と同じく辛辣です。もちろん素人の域ではありますが、晩年の画作、漱石はかなり没頭したとのことでした。

さて最後に重要な一枚を。これが荒井桂の「酒井抱一作 虞美人草図屏風(推定試作)」に他なりません。

逆に立てたのは二つ折りの銀屏である。一面に冴え返る月の色の方六尺のなかに、会釈もなく緑青を使って、柔婉なる茎を乱るるばかりに描た。不規則にぎざぎざを畳む鋸葉を描た。緑青の尽きる茎の頭には、薄い弁を掌ほどの大きさに描た。(略)色は赤に描た。紫に描た。凡てが銀の中から生える。銀の中に咲く。落つるも銀の中と思わせる程に描いた。花は虞美人草である。落款は抱一である。*夏目漱石「虞美人草」より


荒井桂「酒井抱一作 虞美人草図屏風(推定試作)」2013年

本作はもちろん「虞美人草」のラストシーンで藤尾の枕元に置かれた銀屏風。抱一作と記されていますが、実は抱一によるヒナゲシを描いた屏風絵は確認されていません。よっておそらくは漱石が架空に生み出した作品だと考えられています。

それを本展では何と再現。手がけたのは東京藝術大学文化財保存学専攻准教授、荒井桂。同氏によれば抱一の画風と漱石のテキストをどう合わせるのかに苦心したとのこと。当初はヒナゲシを群生させた作品を描いたそうですが、それはあまりにも劇的過ぎるとしてボツに。その後にもっと瀟洒で可憐、余白を取り入れ、より抱一に近づけたものが出来上がったのだそうです。


荒井桂「酒井抱一作 虞美人草図屏風(推定試作)」2013年(逆さの状態)

なお「虞美人草」には本屏風を「逆さに立てた」と記してあります。というわけで、内覧時には実際に逆さに立ててみる試みも。ちなみに会期中に逆さの状態を見られるのはただ一度。6月15日です。この日は開館中ずっと逆さに展示されます。(それ以外は通常通りに展示。)狙い目です。

また抱一といえば忘れてはならないのは「月に秋草図屏風」。これぞ抱一、月明かりに照らされた無限の虚空を背にした秋草の自在な舞い。公開頻度の少ない超一級品、漱石の「門」で言及のある屏風絵です。小説と細部は一致しませんが、おそらくは漱石がイメージしていたとされています。


酒井抱一「月に秋草図屏風」江戸時代(19世紀) 重要文化財 東京国立博物館寄託 *展示期間:6/25-7/7
Image: TNM Image Archives


こちらは出品期間が限られています。会期末6/25~7/7のみの展示です。その他の作品について一部展示替えがあります。詳細は出品リストをご覧ください。

「夏目漱石の美術世界展 出品リスト」@東京藝術大学(PDF)

導入に「吾輩は猫である」を据え、漱石と日本・西洋美術の関係を見ながら、主に「三四郎」、「草枕」、「それから」などに登場する美術品をピックアップ。さらには文展から同時代の日本人画家たちを紹介し、最後には装幀や漱石自身の書画で締める。キャプションにも漱石のテキストを多数引用。構成とも秀逸です。率直なところ期待以上の内容で感心しました。


J.W.ウォーターハウス「シャロットの女」1894年 リーズ市立美術館
Leeds Museums and Galleries (Leeds Art Gallery)


6月にはNHK日曜美術館の本編でも特集されるそうです。こちらもお見逃しなく!

NHK日曜美術館 「絵で読み解く夏目漱石」Eテレ
6/2(日) 9:00~9:45 *再放送 6/9(日) 20:00~20:45

夏目漱石ほど小説の中に絵のイメージを取り込んだ作家はいない。
ダ・ヴィンチの「モナリザ」や若冲「鶴図」など古今東西の有名無名の絵が、小道具や小説の重要な鍵として登場する。
『三四郎』や『草枕』など“絵画小説”とも言われる漱石作品を、絵から読み解いていく。


ミュージアムショップに並べられた漱石の著作

7月7日までの開催です。ずばりおすすめします。

「夏目漱石の美術世界展」 東京藝術大学大学美術館
会期:5月14日(火)~7月7日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1500(1200)円、高校・大学生1000(700)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「ベストセレクション 美術 2013」 東京都美術館

東京都美術館
「ベストセレクション 美術 2013」
5/4-5/27



東京都美術館で開催中の「ベストセレクション美術 2013」のプレスプレビューに参加してきました。

1926年の開館以来、数々の公募展を行ってきた東京都美術館。国立新美術館の開業により、一部公募団体こそ六本木へ移りましたが、公募展とともに歩み続けてきた都美館の地位は何も損なわれているわけではありません。

しかしながら公募展。そのあまりにも多様な活動を逐次追っかけるのが難しいのも事実。気にはなりながらも、なかなか足が向かないという方も少なくないかもしれません。


「ベストセレクション美術2013」展示室風景

そうした方にぴったりなのがこの「ベストセレクション美術2013」。全国の主な公募団体から選ばれた27の団体による合同展。開催は二度目。全面リニューアルを遂げた東京都美術館が昨年に引き続いて行う展覧会です。

さて27団体とは以下の通り。

日本美術院、日展、光風会、日本水彩画会、二科会、国画会、春陽会、白日会、独立美術協会、日本版画協会、東光会、旺玄会、新制作協会、一水会、自由美術協会、 美術文化協会、水彩連盟、創元会、行動美術協会、二紀会、日本彫刻会、示現会、創画会、モダンアート協会、一陽会、主体美術協会、日洋会

ちなみにある理由でこの順番に並べてましたが、それは何故かお気づきになられたでしょうか。

実はこれ、設立年順です。古くは1893年、橋本雅邦に横山大観、また菱田春草らといった錚々たるメンバーによって設立された日本芸術院に始まり、1987年、新しい具象絵画を求めるべく設立された日洋会まで。まさに日本の画壇を作り上げてきた歴史が存在しています。

ちなみに平面作品に限っては、この設立年順で展示されています。その辺を頭の片隅に入れておくのも面白いかもしれません。


左:松本高明「浄池」2011年 紙本着色

さてここからは少し自由に惹かれた作品をいくつか。まずは日本芸術院から松本高明の「浄池」。チラシ表紙を飾った一枚。横に伸びるシルバーの筆致。茫洋たる色面には池に写る木立も浮かび上がってきます。


福田玲子「塚」2012年 アクリル、油彩、カンヴァス

続いてはこちら。主体美術教会から福田玲子の「塚」。アクリルに油絵具を駆使して描かれたのは、おそらくは砂浜に転がるであろう一本の枯木。その枯淡な味わいは枯木の記憶をも喚起させます。もちろん細部の精緻な描写も見どころです。


岩見健二「創る」2012年 油彩、カンヴァス

また同じく主体美術協会の岩見健二の「創る」も忘れられない一枚。闇に光り輝くのはコンビナート。それこそ工場萌えの世界。随所のハイライトが作品に強いインパクトを与えています。


奥村美佳「夕風」2012年 紙本着色

そして2006年に日経日本画大賞を受賞した奥村美佳は「夕風」を出品。こちらは創画会。独特の静謐な風景は彼女の真骨頂。水辺の斑紋もまた魅力的です。

ちなみに若い世代と申しましたが、ここでクエスチョン。出品作家で一番若い方は一体何歳でしょうか。

答えは22歳。国画会の竹内佑未。また20代は全部で3名です。翻って最高齢は日展の三谷吾一。生まれは1919年で今年93歳。90代も同じく3名おられます。

まさに老若男女の集ったベストセレクション。若い感性から熟練の境地へ。公募展に年齢はそう関係ありません。常に見据えるのは今の表現であるわけです。もちろん各作家の出品作も近作ばかり。


「ベストセレクション美術2013」展示室風景

階下には彫刻と版画も。都美館を特徴付ける吹き抜けスペースに並ぶ立体作品。この風景も一つの都美館の伝統ではないでしょうか。


佐藤妙子「永日」2012年、「乗月」2013年 エッチング、アクアチント、紙

版画にいくつか美しい作品があったのも印象的。図版を挙げた佐藤妙子は1980年生まれの若い作家です。また作家といえば、メッセージを残せるボードも設置。


出品作家へのメッセージボード

さらには参加作家によるトークも多数用意されています。

[ベストセレクション 美術 2013 アーティストトーク]
開催日時:5月4日(土・祝)、12日(日)、18日(土)、26日(日)午後1時~4時(予定)
場所: 東京都美術館公募展示室ロビー階 第1・第2、ギャラリーA、B、C(展覧会会場)
*展覧会入場券が必要。

東京都美術館では少なくとも今後、5回まではこのベストセレクション展を続ける方針だそうです。


「ベストセレクション美術2013」展示室風景

151作家160点による「ベストセレクション 美術 2013」。思わぬほど惹かれる作品もいくつか。先入観抜きにして向き合ってみてはいかがでしょうか。

5月27日まで開催されています。なお大学生以下は無料です。

「ベストセレクション 美術 2013」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:5月4日~ 5月27日
休館:5月7日(火)、5月20日(月)。
時間:9:30~17:30 *金曜日は20時まで。
料金:一般1000(900)円、65歳以上700円。大学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *5月15日(水)はシルバーデーにより、65歳以上無料。
 *5月18日(土)、19日(日)は「家族ふれあいの日」により、都内在住で18歳未満の子どもを同伴する保護者は半額。
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「原田郁 ひとつの窓と醒める庭」 アートフロントギャラリー

アートフロントギャラリー
「原田郁 ひとつの窓と醒める庭」 
5/2-5/19



アートフロントギャラリーで開催中の「原田郁:ひとつの窓と醒める庭」へ行って来ました。

1982年に山形で生まれ、2007年には東京造形大学大学院美術専攻領域絵画科を修了。その後、山形や都内で個展などを重ね、2012年のULTRAにも出品のあった原田郁。色面を合わせ重ねて出来た建物や田園の景色。その幾何学面のような図像もまた印象的。全体としてはどこか牧歌的ながらも、線と面が鋭く交差して生まれる緊張感も魅力かもしれません。

そもそもDMの作品画像からして惹かれるもの。抽象と具象、その狭間。実際の作品を見る前から期待していました。

さて展示を見てどうだったのか。図像では分からない更なる面白さがあることにまたぞっこん。予想以上に魅せるものがあります。

さてその更なる魅力とは何なのか。まずは画肌です。


右:原田郁「HOUSE#003」2012年 キャンバス、アクリル

一枚の作品を見ましょう。上の写真右手の作品。澄み切った水色の空と瑞々しい緑の園を背景にして、ぽっかりと浮かび上がるように建つ黄色の家。何やら3D画像でも連想させるような独特の形をしています。


原田郁「HOUSE#003」(拡大)2012年 キャンバス、アクリル

さて家に近づくとどうなのか。一見、同じような質感で塗られていると思いきや実は違う。屋根と壁面が交差する箇所をアップしてみるとそこに秘密が。絵具に厚みがあるところと、そうでないところに分かれているではありませんか。

これが実に効果的です。光の当たる部分と陰っている部分で絵具の質感や色を変えることで、シンプルながらも思いの他に多様な表情が生み出されます。

さらにもう一つ。会場を見渡していくと気づく点が。それは各作品がそれぞれ結び合わることで、一つに繋がる世界が出来ていることです。

ネタバレになりますが、実はこれらの風景、元々は原田がコンピューターの画面で作った架空の世界とのこと。その景観を切り取り、それぞれ任意の地点に入り込んで絵画へ表しています。


原田郁展示作品

だからこそ先にも触れたような3D風。一昔前のCGのような風景は、不思議な郷愁を呼び起こします。架空の世界の架空の景色。そしてその中に入り込んで一つの絵画という平面に仕立てる。二次元と三次元が交差しています。

さらに会場では、言わば架空の架空、つまり架空の空間を再度架空の空間にかけてその様子を描いたという、一種のだまし絵のような作品も登場。まるでパラドックス。その風景を見ながら歩いていると、いつしかその3D世界と現実を行き来しているような錯覚さえ覚えました。

いくつかの仕掛けによって出来た絵画と風景。その狭間の揺らぎが何とも心地良く感じられました。

5月19日までの開催です。これはおすすめします。  

「原田郁 ひとつの窓と醒める庭」 アートフロントギャラリー@art_front
会期:5月2日(木) - 5月19日(日)
休廊:月曜日
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:渋谷区猿楽町29-18ヒルサイドテラスA棟
交通:東急東横線代官山駅より徒歩5分。
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フランシス・ベーコン展特別企画「アイリッシュハープ・フルート演奏会」(5/11)を開催!

東京国立近代美術館で開催中のフランシス・ベーコン展。会期もいよいよ5月26日までと迫ってきました。


「フランシス・ベーコン展」@東京国立近代美術館(プレビュー記事)

これまでにも連続講演会の他、映画上映会、トーク、さらにはベーコン忌と、一展覧会としては珍しいほど多くのイベントが行われていますが、このほどさらに追加の企画が決定。


フランシス・ベーコン展会場風景

それがアイルランド大使館協力による「アイリッシュハープ・フルート演奏会~午後の調べ」。ベーコンがアイルランド出身ということもあって、アイリッシュハープとアイリッシュフルートの演奏会が開催されます。

「アイリッシュハープ・フルート演奏会~午後の調べ」
日時:5月11日(土)14:00~15:30
会場:東京国立近代美術館 講堂(地下1階)
出演:菊地恵子氏(日本ハープ協会 ノンペダル・ヒストリカル部門委員長)
   豊田耕三氏(アイリッシュユニットO’Jizo、Toyota Ceili Band、(e)Shuzo Band主宰)
*開場は開演30分前
*申込不要、参加無料、先着140名。当日10時から1階受付で整理券を配布。


さてさり気なく聞き慣れないアイリッシュハープ・フルートとは何ぞやということを、Wikiなどから少しおさらい。

アイリッシュハープとは、近代のハープ以前のもので、14世紀頃からアイルランドに存在していた楽器。一度、19世紀前半に途絶えたものの、数十年後にダブリンで復元。弦が金属で出来ているのも特徴だそうです。

一方でアイリッシュ・フルートとは何か。こちらはやや複雑です。元々、19世紀のイングランドのオーケストラで使われていた木製フルートは、金属製フルートの誕生により使われなくなってしまいます。しかしながら伝統的な奏法を用いるアイリッシュのフルート奏者はそのまま木製フルートを使い続けした。それがアイリッシュ・フルートと呼ばれるようになったそうです。経緯はこちらのサイトに詳しく出ています。→ミュジカミリオン

なお出演者のプロフィールはご覧の通り。


<菊地恵子氏プロフィール>
日本では、ケルトハープ音楽の研究者・演奏家として知られ、日本各地で関連の講演とハープの演奏をまじえた幅広い活動をしている。特にアイルランド大使館では、1997年から毎年、また2005年はメアリー・マッカリースアイルランド大統領来日の際の御前演奏を行う。
アイルランドファンドでは1998年~2001年、2006年、またイギリス大使館、旧ウェールズ開発庁でも演奏。1999年は、第11回日本ハープコンクール・ノンペダル部門審査員を務める。
2006年はCD「ケルティックハープの世界」をリリース。日本初の「スコットランド文化事典」で「ハープ」の項目を執筆。
2012年、トークと映像:アイリッシュハープの文化と歴史/3種のアイリッシュハープ演奏会など。 
日本ハープ協会ノンペダルハープ(ケルトハープ)研究会委員長。




<豊田耕三氏プロフィール>
東京芸術大学音楽部楽理科卒業(音楽民族学)、同大学大学院音楽研究科修士課程修了(音楽教育)。
アイリッシュ・ユニットO’Jizo、Toyota Ceili Band、(e)Shuzo Band主宰。
2007年、(e)Shuzo Band 1stアルバム「Trip」発表。
2011年、O’Jizo 1stスタジオレコーディングアルバム「Highlight」発表。
谷村新司「スキタイの歌」、ゆず「代官山リフレイン」、NHK連続テレビドラマ小説『ゲゲゲの女房』、『にほんのうた 第一集』~「ちいさい秋みつけた」(坂本龍一 + 中谷美紀)、葉加瀬太郎「EMOTIONISM」他、多数の録音に参加。
日本人として初めてオール・アイルランド・フラー・キョールのコンペティション本戦に出場。
アイルランド国内の複数のフェスティバルに参加。その演奏が絶賛され、国営放送を始めとする各種メディアに取り上げられ、またフェスティバル中の複数のコンサートにも出演。


ともにアイリッシュハープ、フルート界の第一人者。そのお二方のコンサートを無料で楽しめるという絶好の企画。美術ファンはもちろん、音楽ファンにとっても注目すべきイベントではないでしょうか。

開催日時は明日、11日(土)の14時から。会場は近代美術館地下講堂です。定員制140名ということで、10時から整理券を配布します。少し早めに行ってまずは整理券をいただき、その後ベーコン展と常設をじっくり観覧。そしてコンサート、という流れもまた良いかもしれません。


フランシス・ベーコン展会場風景

ちなみに私の最初のベーコン詣は内覧時でしたが、つい先日、GW中の休日に二度目の観覧をしてきました。思いの外に賑わっていた会場に驚くとともに、改めて精神が乗り移り歪んだ肉塊の迫力に圧倒されました。肉がキャンバスから溶け出し、いつしか観る者の脳へ染み渡ってこびり付く。ベーコンの強いヴィジュアルのインパクト。そう簡単には撥ね除けられません。

また常設ではベーコン展にあわせて「ゆがむ人」と題した特集展示も。靉光に藤田、またポロックにミショーらの作品を「ゆがみ」の切り口で提示。こちらも見応えがありました。



今後のベーコン展関連イベントです。

「舞踏公演 偏愛的肉体論」(ミニレクチャー付) 5月18日(土)14:00~15:30
 ・舞踏公演
  振付・演出:和栗由紀夫氏(舞踏家)
  出演:和栗由紀夫氏ほか計4名(予定)
 ・ミニレクチャー
  講師:森下隆氏(慶応義塾大学アート・センター)
  会場:東京国立近代美術館講堂(地下1階)
 *開場は開演30分前
 *申込不要、参加無料、先着130名。当日10時から1階受付で整理券を配布。

また5/5に一度放送された日曜美術館のベーコン特集の再放送が12日(日)の夜8時から行われます。

「恐ろしいのに美しい フランシス・ベーコン」 再放送:5月12日(日)20:00~
 出演:大江健三郎(作家)ほか
 NHK日曜美術館


フランシス・ベーコン展会場風景

いよいよ残すところあと正味2週間となったベーコン展。「アイリッシュハープ・フルート演奏会」とともにお見逃しなきようご注意下さい。

「芸術新潮2013年4月号/フランシス・ベーコン/新潮社」

「フランシス・ベーコン展」 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:2013年3月8日(金)~5月26日(日)
休館:月曜日。但し3/25、4/1、4/8、4/29、5/6は開館。5/7(火)は休館。
時間:10:00~17:00(金曜日は20:00まで) *入館は閉館30分前まで
料金:一般1500(1100)円、大学生1100(800)円、高校生700(400)円。中学生以下無料
 *( )内は20名以上の団体料金。3月と4月の土曜、日曜は高校生無料観覧日。(要学生証)
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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三菱一号館美術館で「フェリックス・ヴァロットン展」を開催!

先日発表された三菱一号館美術館の2013-2014年展覧会スケジュール。既に一部は同館WEBでも告知されていますが、その次にこれまた興味深い名の展覧会が。


フェリックス・ヴァロットン「自画像」1897年 油彩、カンヴァス

それがフェリックス・ヴァロットン。言うまでもなくスイス生まれで19世紀末のパリでいわゆるナビ派として活動した画家です。

[追記]ヴァロットン展のプレビューに参加してきました。
「ヴァロットン展」 三菱一号館美術館(はろるど)


「フェリックス・ヴァロットンー冷たい炎の画家」
会期:2014年6月14日(土)~2014年9月23日(火・祝)
会場:三菱一号館美術館
主催:オルセー美術館、RMN-グラン・パレ、ゴッホ美術館、三菱一号館美術館、日本経済新聞社



フェリックス・ヴァロットン「赤い絨毯の上に横たわる裸婦」1909年 油彩、カンヴァス
プティ・パレ美術館(ヴァロットン展出品予定)


スイスで生まれ、19世紀末のパリで活躍したナビ派の画家、フェリックス・ヴァロットンの日本初個展。油彩画とともに、白と黒の鮮烈なコントラストの木版画によって、20世紀以降の芸術に影響を及ぼしました。独特の視点と多様な表現を持つヴァロットン作品は、斬新で現代的であると同時に、まるで解けない謎のように重層的で、観る者に様々な感情を抱かせます。本展は、パリのオルセー美術館およびローザンヌのフェリックス・ヴァロットン財団の監修による国際展覧会として世界巡回を経たのち、2014年という日・スイス国交樹立150周年の記念すべき年に当館にて開催します。当館所蔵のヴァロットンのグラフィック・コレクションを含む約120点の油彩・版画により、冷淡な表現の裏に炎のような情熱を秘めた芸術家像を浮かび上がらせます。
*リリースより転載


フェリックス・ヴァロットン「5人の画家」1902~1903年 ザ・コレクション・ヴィンタートゥール

オルセー、もしくはスイスのヴァロットン財団監修による国際巡回展というのもポイントですが、国内ではあまり知られてないヴァロットンを100点超のスケールで見せるというだけでも期待が高まるもの。もちろん記載があるように日本初の大規模回顧展です。


「ヴィンタートゥール展」(世田谷美術館)での「ヴァロットンとスイスの具象絵画」展示室。
*撮影は内覧時に許可を得たものです。


さてヴァロットンと言えば2010年、国内を巡回した「ヴィンタートゥール」展で4~5点をまとめて展示。大作の「5人の画家」をはじめ、どこか神秘的でさえある夕景を表した「日没、オレンジ色の空」には強く惹かれた記憶が。またブロンズの彫刻「肌着を持つ女」が出ていたのも印象的でした。


フェリックス・ヴァロットン「ボール」1899年 オルセー美術館

またさらに同じく2010年に国立新美術館で行われた「オルセー美術館展」にもヴァロットンは出品。とりわけ人気は斜め上からの構図が面白い「ボール」。太陽の陽射しのコントラストともに、ボールを追いかける子どもの動きを一瞬間だけを閉じ込めたような静止した画面も心にとまりました。


フェリックス・ヴァロットン「夕食、ランプの光」1899年 オルセー美術館

ちなみにヴァロットンは日本の浮世絵に影響を受けて、木版画を制作していたとか。今度の回顧展でも版画の出品がアナウンスされているだけに、ヴァロットンと浮世絵表現の関連についても言及があるやもしれません。

「Flix Vallotton (Gallery of the Arts)/5Continents」

「冷淡な表現の裏に炎のような情熱を秘めた」というフェリックス・ヴァロットン。その全貌を明らかにするであろう展覧会。会期は来年6月からと先ではありますが、ここは大いに期待しましょう。


Albert Moore, Midsummer, 1887, Oil on Canvas,
the Russell-Cotes Art Gallery & Museum(ザ・ビューティフル展出品予定)


[これからの三菱一号館美術館の展覧会]

「浮世絵 Floating Worldー珠玉の斎藤コレクション」
会期:2013年6月22日(土)~9月8日(日)

「三菱一号館美術館名品選2013ー近代への眼差し 印象派と世紀末美術」
会期:2013年10月5日(土)~2014年1月5日(日)

「ザ・ビューティフルー英国の唯美主義1860~1900」
会期:2014年1月30日(木)~2014年5月6日(火・祝)

「フェリックス・ヴァロットンー冷たい炎の画家」
会期:2014年6月14日(土)~2014年9月23日(火・祝)


また累計入場者が15万名を突破したという人気のクラーク展もいよいよ5月26日までです。


「奇跡のクラーク・コレクション」@三菱一号館美術館(展覧会の感想です)

こちらもお見逃しなく!*また混雑を避けるために毎週水・木・金曜日の夜間開館(夜20時まで)をおすすめします。木曜と金曜に限っては18時から入場の「アフター6割引」(大人通常1500円のところ1000円。)も実施中です。


ピエール=オーギュスト・ルノワール「シャクヤク」1880年頃
クラーク美術館(クラーク展出品中)


なお展覧会スケジュール、及びリリース内容は2013年5月現在のものです。今後変更になることもあります。最新の情報は三菱一号館美術館のWEBサイトをご参照下さい。
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