「もっと知りたいパウル・クレー」(新藤真知著) 東京美術

東京美術の「もっと知りたいパウル・クレー」(新藤真知著)を読んでみました。



現在、東京国立近代美術館を巡回中の「パウル・クレー」展ですが、それにも合わせて、お馴染みの東京美術から「もっと知りたいパウル・クレー」が発売されました。

目次は以下の通りです。(東京美術サイトより転載)

クレーの「絵」
Prologue─クレーの生きた時代
Chapter1 アルプスの麓に生まれて 0→17歳(1879-1897)
  クレー少年の夏
  アルプスの自然のなかで
【COLUMN】クレーのノートブック
【特集もっと知りたい1】ヨーロッパの芸術運動
Chapter2 修業時代─クレーのキッチン 18→30歳(1898-1910)
  画学生クレーの昼と夜
  シュヴァービングの静かな日々
Chapter3 色彩との邂逅─画家の誕生 30→39歳(1911-1919)
  『カンディード』或いは楽天主義説
  「青騎士」の一員に
  チュニジアの光に誘われ
  戦禍の狭間で高まる名声
  ドイツ帝国崩壊─革命の嵐のなかで
  ドイツ前衛美術の騎手として
【特集もっと知りたい2】クレーの自画像
Chapter4 バウハウス時代─クレーの黄金期 40→53歳(1920-1933)
  バウハウスの教授として
  カンディンスキーとともに
  エジプトの思い出
【特集もっと知りたい3】クレー絵画と音楽
【特集もっと知りたい4】不思議なマチエール
Chapter5 線を引かぬ日はなし 54→60歳(1934-1940)
  時空を旅するクレー 画家の過去・現在・未来
  力の限り描く
  最期の日々
【特集もっと知りたい5】クレーの天使
Epilogue─約4000点の作品が集うクレーの殿堂 パウル・クレー・センター
日本でクレーに出会う


展覧会がクレーの製作技法等に着目した構成であったのに対し、この本ではクレーの画業を時系列に辿る内容となっています。展示に単に準拠するのではなく、むしろクレーの全体像を知るのに最適な一冊と言えるかもしれません。



冒頭はクレーが少年時代に描いた作品の紹介から始まります。クレーの作品は音楽と絡めて語られることが多くありますが、そもそも彼の父親は音楽教師であり、自身も10代前半でベルンの管弦楽団にヴァイオリニストとして活動する機会を得ていました。



クレーの青年期の作品がかなり個性的です。不気味なポーズをとる女性の姿を描いた「乙女」などは、後半のクレーからは想像もつかない特異な作品と言えるかもしれません。



画学生時代のクレーはかなり奔放です。ピアニストでクレーの生活全般を支えたリリーとの結婚生活を送りながらも、一方で恋人をつくり、妊娠までさせてしまうこともあったそうです。本書ではそうしたクレーの私生活のエピソードなどもかなり細かく紹介されていました。



青騎士やバウハウスの時代へ進むといわゆるクレーの画業も一つの頂点を迎えます。今でこそおしも推されぬ大家のクレーが、いわゆる安定した収入を得ることが出来たのは、バウハウスの教授になった40歳の頃だったとは知りませんでした。

ナチスの時代へ入るとクレーは生活そのものが脅かされます。亡命の経緯などについての詳細な解説もありましたが、頽廃芸術の烙印をおされてドイツを逃れ、スイス・ベルンの市民権を得たのは、クレーが死亡してから6日後のことでした。まさに不遇です。



時系列にクレーの生涯を追いながらも、月や星などの頻出するモチーフ、また天使、それに自画像など、各テーマにそってクレーの画業を見ていくトピックも多数用意されています。今回のクレー展に出品された作品の解説もいくつかあり、実際の作品と見比べて理解を深めるのも良いのではないでしょうか。



著者は異色の経歴をもちながらも、日本クレー協会の代表をつとめる新藤氏です。クレーの絵画らしく色や記号をふんだんに用いてのページ構成もなかなか秀逸でした。

「もっと知りたいパウル・クレー/新藤真知/東京美術」

なお東近美のクレー展の様子は以下のエントリにまとめてあります。

「パウル・クレー展」 東京国立近代美術館(拙ブログ)

またクレー展ですが、7月より夜間開館を再開し、毎週金・土は20時まで開館するそうです。これは狙い目ではないでしょうか。

7月から本館の夜間開館を再開します!(東京国立近代美術館

まずは是非書店でご覧ください。
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「酒井抱一と江戸琳派の全貌」展が千葉市美術館で開催!

千葉市美術館に抱一畢竟の名作、「夏秋草図屏風」がやってきます。千葉市美術館で開催予定の「酒井抱一と江戸琳派の全貌」展の概要を簡単にまとめてみました。

既に国内3会場の巡回がアナウンスされている同展覧会ですが、一定の内容がWEB上に公開されたのは千葉市美術館が初めてかもしれません。



「生誕250年記念展 酒井抱一と江戸琳派の全貌」@千葉市美術館 2011年10月10日(月・祝)~ 11月13日(日)

抱一はもちろんのこと、其一らを初めとする江戸琳派の業績を、「近年の研究成果や新資料を多数盛り込んで」(*)するという極めて意欲的な展覧会です。


酒井抱一「夏秋草図屏風」東京国立博物館蔵

今年は抱一のメモリアル、つまりは生誕250年ということで、畠山記念館の抱一展の他、出光美術館の琳派芸術展などが開催されてきましたが、この「酒井抱一と江戸琳派展」こそその真打ちであることは間違いありません。

千葉に先行する姫路市立美術館は開館記念展が抱一展だったそうです。今回も千葉市美、姫路市美、そして琳派コレクションでは有名な細見美の三館の共同企画ということで、本格的な内容になるのではないでしょうか。

夏秋草図屏風の公開予定期間のみWEB上にアップされています。(千葉では11/1~11/13)おそらく展示替えもあることが予想されるので、何度でもフリーで入場可能な「友の会」のパスポートを駆使して通うつもりです。

千葉市美術館「友の会」のご案内

講演、講座の他、展示の詳細などはまだ明らかではありませんが、まずは「抱一展として記録的な規模の大回顧展」(*)という言葉に大いに期待したいと思います。

「別冊太陽酒井抱一/仲町啓子/平凡社」

「酒井抱一と江戸琳派の全貌」 姫路市立美術館/千葉市美術館/細見美術館
姫路展:2011年8月30日~10月2日
千葉展:2011年10月10日~11月13日
京都展:2012年4月10日~5月13日


「もっと知りたい酒井抱一/玉蟲敏子/東京美術」

・関連エントリ
「酒井抱一 琳派の華」(前期) 畠山記念館
「酒井抱一 琳派の華」(後期) 畠山記念館
「琳派芸術 第2部 転生する美の世界」 出光美術館
別冊太陽 「江戸琳派の粋人 酒井抱一」
「夏秋草図屏風 酒井抱一筆 公開」 東京国立博物館

*印は同美術館サイトより引用。一部改変。
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「保井智貴 Tranquil Reflection」 メグミオギタギャラリー

メグミオギタギャラリー
「保井智貴 Tranquil Reflection」
6/14-7/2



メグミオギタギャラリーで開催中の保井智貴個展、「Tranquil Reflection」へ行ってきました。

保井智貴のプロフィールについては作家WEBサイトをご覧ください。

保井智貴プロフィール

最近、国内各地の美術館などへ出品機会の多い保井ですが、メグミオギタでの個展は2008年以来とのことでした。

乾漆という日本古来の伝統的な技法にて様々な立体を手がける保井ですが、今回はどこか中性的な様相をとった人物像、計3体が登場しています。大きさは約160センチほどある直立不動の人物は、いずれもややはにかんだような仕草をとりながらもほぼ無表情で、それこそ国籍も不明な、あたかもSF小説にでも登場するような謎めいた姿をしていました。

印象的なのは身体を覆う着衣の質感表現です。とりわけ螺鈿のきらびやかでかつ重厚な味わいには目を奪われます。この螺鈿しかり、また蒔絵、漆など、非常に伝統的な素材を用いる保井の作品ですが、それと結果として生まれた近未来風のイメージとのギャップもまた興味深く感じられました。

同時開催の濱野亮一の素描風の平面作品もかなり魅力的でした。セクシャリティな女性が、実に大胆でかつシャープな描線で示されています。カッコ良い作品でした。

7月2日までの開催です。

「保井智貴 Tranquil Reflection」 MEGUMI OGITA GALLERY
会期:6月14日(火)~7月2日(土)
休廊:日・月・祝
時間:11:00~19:00
住所:中央区銀座2-16-12 銀座大塚ビルB1
交通:東京メトロ銀座線銀座駅A13出口徒歩7分、東京メトロ日比谷線・都営浅草線東銀座駅3番出口徒歩5分、東京メトロ有楽町線新富町駅1番出口徒歩5分。
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「北野謙 - 深海 世界が在ることへ」 日本橋高島屋 美術画廊X

高島屋東京店 美術画廊X
「北野謙 - 深海 世界が在ることへ」
6/15-7/4



日本橋高島屋美術画廊Xで開催中の北野謙個展、「深海 世界が在ることへ」へ行ってきました。

北野謙のプロフィールについては作家WEBサイトをご覧ください。

プロフィール@北野謙WEBサイト

最近では2006年に東京都近代美術館での「写真の現在3」展に出品があった他、本年の岡本太郎現代芸術賞の特別賞を受賞しました。

「写真表現における時間性と空間性を意識しながら、自己と他者との接点を模索する」(パンフレットより引用。一部改変。)という北野ですが、今回はその制作の全体像、つまりは初期の「溶游する都市」から近作の「one day」、そして「our face project」の3つのシリーズが紹介されています。


「溶游する都市 渋谷」(1991年)

そしてその「溶游する都市」から、作品における時間の概念が独特であることが感じられるかもしれません。ここで北野は都市の中の群衆、例えば人の絶えず行き交うターミナル駅の階段などを捉えていますが、その表現に要注目です。階段を進む人の群れはあたかも霞のようにして消えかかり、半ば水の渦であるかのごとくただひたすらに流れ出ていました。

仕掛けはシンプルです。ここで北野は約30秒ほどシャッターを開けっ放しで撮影しています。写真の中に封じ込められた時間と、結果として作品に切り出された一瞬が同居しているような感覚はとても不思議でした。


「one day 隅田川」(2007年)

その30秒が1日となったのが文字通り「one day」シリーズです。あくまでも被写体を固定しながら、その朝から夕方までの時間を同じく一枚の写真の中に収めています。富士に差し込む太陽の軌跡は神々しく、また一転して隅田川を捉えた作品では一日の光が水辺に溶け込んで何とも神秘的な景色を生み出していました。


「our face project ラマダン開けの礼拝に訪れたイスラム教徒38人を重ねた肖像(女)」(2009年)

一方、ポートレート風の「our face project」では、その時間とともに、被写体となった人物のドラマが収められています。顔の表情の向こうから開けてくるメッセージはとても重みがありました。

日本橋高島屋のアートブログにも展示詳細が紹介されています。あわせてご覧ください。

『北野 謙 -深海 世界が在ることへ-』開催中です(アッと@ART)

7月4日までの開催です。おすすめします。

「北野謙 - 深海 世界が在ることへ」 日本橋高島屋 美術画廊X
会期:6月15日(水)~7月4日(月)
休廊:会期中無休。
時間:10:00~20:00
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋6階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
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「アンフォルメルとは何か?」 ブリヂストン美術館

ブリヂストン美術館
「アンフォルメルとは何か? - 20世紀フランス絵画の挑戦」
4/29-7/6



第二次大戦後フランスで起こった前衛的絵画運動「アンフォルメル」を検証します。ブリヂストン美術館で開催中の「アンフォルメルとは何か? - 20世紀フランス絵画の挑戦」へ行ってきました。

最近でこそ比較的展示される機会の多いアンフォルメル絵画ですが、今回ほど秩序だって紹介されたこともなかったかもしれません。定評のあるブリヂストン美術館のコレクションをメインに、国内各地の美術館などから出品された全70点ほどの絵画は相応に見応えがありました。

展覧会の構成は以下の通りです。

第1章 抽象絵画の萌芽と展開
第2章 「不定形」な絵画の登場:フォートリエ、デュビュッフェ、ヴォルス
第3章 戦後フランス絵画の抽象的傾向と「アンフォルメルの芸術」


冒頭、半ばアンフォルメルの前史的な存在としてカンディンスキーなどの抽象画を紹介した上にて、以降フォートリエ、デュビュッフェ、ヴォルスの作品を追いながら、最後にはスタールやミショー、そしてブリヂストン美術館のご自慢のザオを展観する流れとなっていました。

抽象絵画の文脈で捉えるモネやセザンヌもまた新鮮に映るかもしれません。展示第1章で登場するのは、当然ながらアンフォルメルの言葉では括れないモロー、モネ、セザンヌらの名品群でした。


クロード・モネ「黄昏、ヴェネツィア」1908年

これらはいずれも館蔵品ということで馴染み深いものがありますが、それでも夕陽に焦がされたヴェネツィアを捉えたモネの超名品「黄昏、ヴェネツィア」(1908年頃)も、そのせめぎあう朱色と青のグラデーションから、対象そのものの形態を超えた抽象世界への萌芽を感じることが出来ました。

展覧会の主人公はフォートリエ、デュビュッフェ、ヴォルスです。そもそも3名の画家が全部で30点の規模で紹介されたこと自体が珍しいかもしれませんが、批評家のミシェル・タピエをして「不定形なるもの」を意味した「アンフォルメル」の核心とも言うべき作品を存分に楽しめました。

フォートリエからして強烈です。「人質」(1944年)における、まるで思索的とも悲し気とも言えるような顔の表情は、やはりフォートリエの大戦の経験が下地になっているからなのでしょうか。塗り固められた石膏の質感は重々しく、どこか屈折し、また抑圧された気配を感じてなりませんでした。


ジャン・デュビュッフェ「熱血漢」1955年 徳島県立近代美術館

デュビュッフェでは「熱血漢」(1955年)が忘れられません。深い闇を背景に浮き上がる男の顔はもはや狂気的であるのではないでしょうか。赤い線で象られた瞳から発せられた強い眼差しからはなかなか逃れられませんでした。

筆触の点においてとりわけ繊細なヴォルスにも印象的な作品が展示されています。それが細かな線描が青みがかった空間を交錯する「作品、または絵画」(1946年頃)です。中央には赤い斑紋も爛れ、その光景はまるで戦争で廃墟と化した都市のようでした。

2010年に新収蔵品としてコレクションに加わったアルトゥングの「T 1963 K7」(1963年)も見逃せません。引っ掻き傷のような線の乱舞はあたかも神経の集まりのようでもあり、一方で虚空を背景にして漂うその姿は人魂のようでもありました。


ニコラ・ド・スタール「コンポジション」1948年 愛知県美術館

私自身追っかけているド・スタールが2点ほど出ていたのも嬉しいところです。パレットナイフで絵具を塗り込めた「コンポジション」(1948年)の空間は完全に閉ざされています。そのブロックのように堅牢にはめ込まれたた一つ一つのストロークを心の中で剥がしていく作業をした時、何か開けてくるものがあるのではないかと思いました。

ブリヂストン美術館への来訪したこともあるというスラージュは、その制作についてのインタビュー映像も紹介されています。彼が日本の漆の技法に興味を持ち、それを作品に取り込んでいるとは知りませんでした。


ザオ・ウーキー「07.06.85」1985年

ラストは怒濤のようにザオ・ウーキーが登場します。その数は約10点ほどでしたが、これほど展示されたのはひょっとすると2004年に同館で開催されたザオ・ウーキー展以来のことかもしれません。当時の感動は未だ忘れられませんが、青い面が飛沫を上げて激しく舞う様子は、絵画平面を通り越しての無限な空間を作り上げていました。

なお震災の影響で海外のコレクションを中心に出品が見合わされていました(見合わせ作品一覧)が、そのうち一つ、スーラージュの「絵画」が会期途中でポンピドゥーから出品されました。

「ポンピドゥー・センター所蔵のスーラージュ作品があらたに出品されています。」@ブリヂストン美術館ブログ

気のきいた感想を書けずに心苦しい限りですが、久々に絵画を見る喜びを味わいました。これは自信をもっておすすめできます。

「アンフォルム―無形なものの事典/芸術論叢書/月曜社」

7月6日までの開催です。

「アンフォルメルとは何か? - 20世紀フランス絵画の挑戦」 ブリヂストン美術館
会期:4月29日(金)~7月6日(水)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋1-10-1
交通:JR線東京駅八重洲中央口より徒歩5分。東京メトロ銀座線京橋駅6番出口から徒歩5分。東京メトロ銀座線・東京メトロ東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口から徒歩5分。
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「成層圏 Vol.2 増山士郎」 ギャラリーαM

ギャラリーαM
「成層圏 Vol.2 増山士郎」
5/21-6/25



ギャラリーαMで開催中の「成層圏Vol.2」、増山士郎個展を見てきました。

増山士郎のプロフィールと展示概要については同ギャラリーのWEBサイトをご覧ください。

vol.2 増山士郎 Shiro MASUYAMA@ギャラリーαM

最近ではロンドンのTenderpixel Galleryでの個展の他、市原市水と彫刻の丘美術館の「Intervention」展などに出品がありました。

さて現在、北アイルランドのベルファストに住む増山ですが、今回の展示でテーマとなる場所もそこに他なりません。



ともかく会場を入ってすぐ目に飛び込んでくるのは巨大なジオラマです。これは言うまでもなくベルファストの街のミニチュアですが、灰色に染まる街の風景はどこか冷たい表情をしていました。

そしてここではまず建物の上に靡く旗に注目です。屋根にはアイルランドやイギリスの国旗が掲げられています。それが一体何を意味するのかという点が大きなポイントでもありました。

結論から述べればここで増山はコミュニティーの諸問題を鋭くついています。ベルファストを含む北アイルランドはカトリックとプロテスタントの対立の他、イギリスからの分離独立運動などかかえたいわゆる紛争地帯ですが、増山はあくまでも異邦人の視点から、その相互の抱える問題を視覚的に提示していました。



そしてさらに重要なのは映像作品です。現地で生活を営む増山は、そこでとある日常的に受けた嫌がらせを切っ掛けに、ベルファストでは決して珍しくはないテロの問題までをどこかアイロニカルな視点で見つめています。この深く介入するともまた全く不作為にもならないという立場こそ、増山ならではの絶妙なアプローチと言えるかもしれません。



ジオラマの街の中心部では衝突の現場が生々しい形で再現されていました。この紛争地帯における暴力や危険性は、我々日本人にとってもジオラマを通してリアルな体験として浮き上がってくるのではないでしょうか。

なおこうした対立や境界の問題は、もうひとつの映像作品、「crossing the border」でも見ることが出来ます。国際空港を舞台にした何気ない増山のアクションは、対立云々を乗り越えたボーダレスな地点の在処を抉り出していました。

ご本人のツイッター(@ozingerm)によると明日の最終日は在廊されるそうです。お話を伺いながら見るのも良いのではないでしょうか。

作家の戦略的な視点が際立った展示です。ジオラマと映像からまさかこのような社会的なテーマが引き出されるとは思いませんでした。

6月25日までの開催です。

「成層圏 Vol.2 増山士郎」 ギャラリーαM
会期:5月21日(土)~6月25日(土)
休廊:日・月・祝
時間:12:00~17:00
住所:千代田区東神田1-2-11アガタ竹澤ビルB1F
交通:都営新宿線馬喰横山駅A1出口より徒歩2分、JR総武快速線馬喰町駅西口2番出口より徒歩2分、日比谷線小伝馬町駅2、4番出口より徒歩6分
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「大畑伸太郎個展 - 生活」 ユカリアート・コンテンポラリー

ユカリアート・コンテンポラリー
「大畑伸太郎個展 - 生活」
6/11-6/25



ユカリアート・コンテンポラリーで開催中の大畑伸太郎個展、「生活」へ行ってきました。

作家、大畑伸太郎のプロフィールについては同画廊WEBサイトをご覧ください。

大畑伸太郎@YUKARI ART CONTEMPORARY

最近では同画廊の3周年記念のグループ展の他、文化村ギャラリーでの「帰ってきた りったいぶつぶつ展」などに出品がありました。



立体と平面を組み合わせ、都会の日常の一コマを三次元的に表現する大畑の作品ですが、今回もまた交差点や駅のホームに佇む少女などの姿をどこか刹那的な様相で描いています。出品は5点ほどでしたが、いつもながらの独特な世界観にどっぷりと浸かることが出来ました。



夕日をバックに、バルコニーで犬に手をやる少女を描いた「2」でも、その立体と平面の交差は極めてドラマテックではないでしょうか。画廊サイトには「映画のワンシーン」ともありますが、まさにそうした何らかのストーリーを連想させるような世界が広がっていました。

これらの少女などの立体表現に見入る一方、改めて感心するのは平面、つまりは絵画における光の描写です。



元々、大畑の絵画は光と影が絶妙なグラデーションを描いていましたが、今回の個展の作品ほど光に対する強い意識を感じたことはありません。朝、昼、そして夕方の異なった光の色、さらには晴や雨による微妙な光の色合いの変化を、いつものザックリとした面的なタッチで表していました。

そのタッチも近づいて見るとまるでクレーの抽象画のようです。重なり合いせめぎあう色はどこかリズミカルでした。

さて前回、2008年の同ギャラリーでの個展(さよなら三角)でも奥の小部屋であっと言わせた大畑ですが、今回も驚くべき空間表現を展開しています。

ここはあえて写真は載せません。是非とも会場で確認してみてください。部屋に入った瞬間、まさかあの角度から見つめられるとは思いませんでした。

6月25日までの開催です。会期末になってしまいましたがおすすめしたいと思います。

「大畑伸太郎個展 - 生活」 ユカリアート・コンテンポラリー
会期:6月11日(土)~6月25日(土)
休廊:日・月
時間:12:00~18:00
場所:目黒区鷹番2-5-2 市川ヴィラ1階
交通:東急東横線学芸大学駅より徒歩6分。
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「TWS-Emerging 156 のびアニキ」 TWS本郷

トーキョーワンダーサイト
「TWS-Emerging 156 金子良/のびアニキ:のびアニキのザッツエンターテイメント!」
6/4-6/26



トーキョーワンダーサイトで開催中ののびアニキ個展、「のびアニキのザッツエンターテイメント!」へ行ってきました。

のびアニキこと金子良のプロフィールについては、作家WEBサイトをご覧ください。

プロフィール@NobiANIKI nobianiki(ツイッターアカウント)

近年では2010年の「メタモルフォーゼ展」(高松市美術館)に出品があった他、本年2月の第14回岡本太郎現代芸術賞展では入選を果たしました。

さてドラえもんの誰もが知る主人公、のび太に扮し、様々なパフォーマンスを展開するのびアニキですが、今回の展示でもドアホンを用いて、観客を初めとする他者とのコミュニケーションの問題を巧妙に問いただしています。



会場に入るとともかく目に入るのが無数のインターフォン、そしてドアホンです。壁の両側に設置されたそれらの数は全部で40にも及びますが、その一つ一つが相互にコードで結びつき、実際のインターフォンとして使うことが出来ます。そして部屋の隅にいるあの黄色の服と半ズボンを着た人物のび太こそ、作家ののびアニキというわけでした。



全てはドアホンを押すことから始まります。一つの手前のドアホンを推すと直ぐさまピンポーンという音が鳴り響き、壁の反対側にコードで接続されたドアホンの前にのびアニキがそそくさと駆けつけて会話がスタートします。そこからは個々の観客とのびアニキとのコミュニケーションの展開次第です。当然ながら一つとして同じ瞬間はありませんでした。



のびアニキは会期中、ほぼ全ての時間に滞在しているとのことですが、これほど観客と密接な関係を志向するパフォーマンスもそうないかもしれません。思わず時間を忘れ、あちこちのインターフォンを押しながら、その都度走り回ってインターフォンの前に向かい、応答するのびアニキと会話することに夢中となってしまいました。

常に他者とコミュニケーションをうまくとれず、それこそコンプレックスの塊という設定ののびアニキですが、実際に作家自身もそうした劣等感などに悩んでいた経験を持っていたそうです。今でこそのび太に扮することで、そうした面を半ば乗り越えていたそうですが、次から次へと来館し、全くの他人である観客と屈託なく会話するのびアニキを見ていると、むしろコミュニケーションの達人ではないかと思いました。



なおこの展示は、会場の外にも一つのドアホンが設置されています。初めの挨拶と帰りの挨拶はそちらのドアホンからと言うことなのかもしれません。私もそのドアホンからお礼を申し上げて会場を跡にしました。

6月26日まで開催されています。

「TWS-Emerging 156 金子良/のびアニキ:のびアニキのザッツエンターテイメント!」 トーキョーワンダーサイト本郷
会期:6月4日(土)~6月26日(日)
休廊:月曜
時間:11:00~19:00
場所:文京区本郷2-4-16
交通:JR線・東京メトロ丸の内線御茶ノ水駅徒歩8分。
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「森と芸術」 東京都庭園美術館

東京都庭園美術館
「森と芸術」
4/16-7/3



人間にとって森とは何かを芸術作品から問いただします。東京都庭園美術館で開催中の「森と芸術」展へ行ってきました。

都心にありながらも鬱蒼とした森に囲まれた庭園美術館ですが、今回ほど建物はおろか、場所において相応しい展覧会もなかったかもしれません。作品のモチーフはずばり森です。絵画、立体、写真など、森に由来する作品がずらりと登場していました。

構成は以下の通りです。

第1章 楽園としての森
第2章 神話と伝説の森
第3章 風景画のなかの森
第4章 アール・ヌーヴォーと象徴の森
第5章 庭園と聖なる森
第6章 メルヘンと絵本の森
第7章 シュルレアリスムの森
第8章 日本列島の森


主に西洋の作品、とりわけ版画が多いのも大きな特徴かもしれません。総出品数235点の作品は相応に見応えがありました。


アンリ・ルソー「エデンの園のエヴァ」1906-1910年頃 ポーラ美術館

原点は聖書に遡ります。冒頭に登場する森は、まさにアダムとエヴァのいる楽園の森に他なりません。ここでは版画コレクションで定評のある町田の版画美術館からのマーティンの「エヴァを誘惑するサタン」(1482年/町田市立国際版画美術館)などが展示されています。

また興味深いのは時代における楽園観の変遷です。ともに版画作品でありながら、中世における楽園を表した「エヴァの創造」(1482年/町田市立国際版画美術館)と、例えばタヒチにおいてゴーギャンが見た「かぐわしき大地」(1893年/福井県立美術館)では、全く異なった時代と場所のエヴァを比較することが出来ました。

神話や伝説のセクションへ進むと、ギリシャ・ローマの神話からシェイクスピアにダンテと、お馴染み主題が頻出します。

中でも印象的なのは、「シェイクスピア名場面版画集」に描かれた一連の戯曲作品です。有名な「ウィンザーの陽気な女房たち」(1791年/町田市立国際版画美術館)では、最終幕の深い森において悪魔に扮してファルスタッフをもてあそぶ人々の姿が表されています。ヴェルディの有名な「ファルスタッフ」の一シーンでも浮かび上がかのような臨場感でした。


カミーユ・コロー「サン-ニコラ-レ-ザラスの川辺」1872年 山寺後藤美術館蔵

森は風景画における王道と言えるかもしれません。17世紀以来、ヨーロッパで描かれてきた風景画には、当然ながら森が多数登場しています。ここではクールベの「オルナンの渓谷」(1865年/山寺後藤美術館)の他、ロランの「小川のある風景」(1630年/東京富士美術館)など、国内のいくつかの美術館より出品された大家らの佳作が展示されていました。

植物や花などをモチーフするアール・ヌーヴォーにも当然ながら森が登場します。バーン・ジョーンズの4点のリトグラフ作「フラワーブック」(1882-84年/郡山市立美術館)の他、黒壁美術館より出品されたガレのいくつかの花器は、それこそヌーヴォーから移行したアール・デコ様式の館内で美しく映えていました。


川田喜久治「地獄の入り口 ボマルツォ、ヴィテルボ、イタリア」1969年 作家蔵

いわゆる森の庭園で面白いのは写真家、川田喜久治の写した「聖なる森」のシリーズです。ここで川田は、中部イタリアにあり、古代ローマ神話の森を再現したボマルツォ庭園を何枚かの写真に収めています。そこではいわゆる怪物たちを象った石像がいくつも登場していますが、写真からそうした魑魅魍魎の世界を存分に楽しむことが出来ました。まさに森は魔物たちの世界でもあったわけです。

「不思議の国のアリス/アーサー・ラッカム(イラスト)/新書館」

第6章「メルヘンの森」で是非とも一推しにしたいのはラッカムの挿絵です。キャロルの「不思議の国のアリス」ではよくテニエルの挿絵が引用されますが、ここではそれと並んでアーサー・ラッカムの作品も展示されています。テニエルがどこかカリカルチュア的なところがあるのに対し、ラッカムはもっと幻想的で、それこそラファエル前派を連想されるものがあります。

またラッカムの挿絵は他にも真夏の夜の夢やワルキューレなどが出ていました。ここは版画好きには嬉しいコーナーと言えるかもしれません。


マックス・エルンスト「灰色の森」1927年  国立国際美術館蔵

シュールの章ではエルンストの大作「灰色の森」(1927年/国立国際美術館)が見逃せません。敢然と立ちはだかる森の向こうにのぼった月は、まるで見る者を畏怖させるように煌々と灯っていました。

最終章はそれまでの流れとは一転し、美術館に由来する白金の森の紹介と、今年メモリアルを迎えた岡本太郎の諸作品が展示されています。監修に仏文学者の巌谷國士氏を迎えたと知ってさもありなんという気もしましたが、ラストにあえて太郎を持ち込む点などを挙げても、全体を通してかなり個性的な展覧会という印象を受けました。

なお本展で重要なのは図録です。残念ながら今回の展覧会は巡回がありませんが、その内容に準拠するのは言うまでもなく、さらに理解を深めるのに相応しい図録が用意されています。

「森と芸術/巖谷國士/平凡社」

もちろん著は巌谷氏です。書店でも販売されています。是非一度、手にとってご覧ください。

7月3日までの開催です。おすすめします。

追記:次回、7/14より開催予定の「皇帝の愛したガラス」展にブロガーの招待企画があるそうです。

「皇帝の愛したガラス」展 ブロガーご招待について

申込締切は7/6です。詳細は上記リンク先をご覧ください。


「森と芸術」 東京都庭園美術館
会期:4月16日~7月3日
休館:第2・第4水曜日
時間:10:00~18:00
場所:港区白金台5-21-9
交通:都営地下鉄三田線・東京メトロ南北線白金台駅1番出口より徒歩6分。JR山手線目黒駅東口より徒歩7分。
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「不滅のシンボル 鳳凰と獅子」 サントリー美術館

サントリー美術館
「不滅のシンボル 鳳凰と獅子」
6/8-7/24



古代から近世に至る鳳凰と獅子のイメージの変遷を辿ります。サントリー美術館で開催中の「不滅のシンボル 鳳凰と獅子」へ行ってきました。

前々にチラシを戴いた時からかなり楽しみにしていましたが、実際に見てもその期待は全く裏切られることはありませんでした。

まさにお宝集結の展覧会です。前回展はほぼサントリー美術館の館蔵品のみで構成されていましたが、今回は館外品、とりわけ寺院所蔵の作品がメインです。いつ次に見られるかどうかという品も多数ありました。

構成は以下の通りです。

第1章 暮らしの中の鳳凰と獅子 - 御輿・獅子舞・狛犬
第2章 古代における鳳凰と獅子 - 銅鏡や磚をめぐって
第3章 獅子舞と狛犬 - 正倉院の頃から始まる守護獣の歴史
第4章 仏教における獅子 - 文殊菩薩像を中心に
第5章 鳳凰降臨 - 彫像や神宝にみる高貴なシンボル
第6章 よみがえる鳳凰 - 東アジアにおける鳳凰図の展開
第7章 工芸にみる鳳凰と獅子 - 唐物や茶道具を中心に
第8章 屏風に描かれた鳳凰と獅子 -「唐獅子図屏風」から若冲まで
第9章 獅子の乱舞 - 芸能と獅子をめぐって
第10章 江戸文化にみる鳳凰と獅子 - 色絵陶磁器から水墨画まで
第11章 蘭学興隆から幕末へ - 洋風画と浮世絵をめぐって
第12章 不滅のシンボル - 人間と共に生きる鳳凰と獅子

非常に細かな章立てとなっていますが、ともかくあちこちに登場する鳳凰と獅子のモチーフを追っかけていくだけでも十分に楽しめるのでないでしょうか。それこそ飛鳥時代の磚(せん)と呼ばれるタイルから20世紀の布地までと、時代を超えての幅広い文物が紹介されていました。


「銅製貼銀流金双鳳さん猊文八稜鏡」唐時代 大和文華館蔵

鏡好きには冒頭から見逃せない作品が登場します。中国・唐時代の鏡には軽やかに天を舞う鳳凰とともに、地を力強く駆ける獅子が対になって刻まれていました。

ちなみにこの展覧会は当初、オール鳳凰のみで企画されていたそうですが、こうした昔の鏡には既に二つセットで描かれることが一般的だっただけに、今回のように鳳凰と獅子との比較展示になったとのことでした。

貴重な仏画も見どころの一つです。醍醐寺より出品の「文殊渡海図」(6/27まで)には、菩薩様の下に獅子が描かれています。なおこの獅子に関しては時代によって表現、描写が大きく変化していくのに対し、鳳凰はあまり変わりません。その辺の対比もまた展示のポイントと言えそうです。


「鳳凰石竹図」林良 明時代 相国寺蔵

私として展示のハイライトとして推したいのは、第6章における「鳳凰図日中そろい踏み」のコーナーです。ここでは中国・明時代の「鳳凰図」(6/27まで)を筆頭に、若冲の「旭日鳳凰図」(7/4まで)から探幽の「桐鳳凰図屏風」(6/27まで)、また雪佳の「白鳳図」(7/4まで)までがずらりと勢揃いしています。


「旭日鳳凰図」伊藤若冲 宝暦5年 宮内庁三の丸尚蔵館蔵

かの若冲の作は既に皇室の名宝展などでも展観され、その鮮烈な鳳凰に度肝を抜かれたところですが、それも先行例、つまりは中国の鳳凰図があったということが良く分かります。さらにはそうした定番の鳳凰を一気にグラフィック化して、自己の表現として収めた雪佳の作にもまた惹かれるものがありました。


「樹花鳥獣図屏風」伊藤若冲 江戸時代 静岡県立美術館蔵

さて若冲と言えばもう一点、人気の象さん升目描きの屏風、「樹花鳥獣図屏風」(6/20まで)が静岡より出品されています。鳳凰は鳥尽くしの左隻の中央に構えているのですぐに分かりますが、白象が目立つ右隻にも確かに獅子が描かれていました。

ここまでの4階部分の展示があまりにも見事なだけに、階下の3階についてはやや大人しい印象もありましたが、それでも注目すべき作品がいくつもありました。まずその一つとして挙げたいのが、彭城百川の「天台岳中石橋図 旧慈門院襖絵」(7/4まで)です。

ここでは石橋の上に獅子がどっしりと鎮座していますが、ともかくはその表現に注目です。頭の上には他に類例がないという赤い牡丹の花をのせています。これは歌舞伎舞踊に由来するものと考えられているそうですが、一度見たらしばらくは頭を離れそうもないその鮮烈なビジュアルには驚かされました。

沈南蘋の「獅子図」(6/27まで)がさり気なく出ているのには驚きましたが、他にも芦雪の超・脱力系の「唐獅子図屏風」(6/27まで)など、一連の獅子の表現にもまた見るべき点があります。


「大獅子図」竹内栖鳳 明治35年 藤田美術館蔵

そのような獅子の半ば総元締として登場するのが、竹内栖鳳の「大獅子図」(6/27まで)でした。ここではその下絵も並んで紹介されていましたが、実際のライオンを見て描いたこの大作の精緻な描写と言ったら比類がありません。栖鳳は渡欧中、わざわざライオンを見るために予定を三週間も延ばしてスケッチなどに精を出したそうですが、その熱心な研究の成果は本画でも確かに見ることが出来ました。

さてこの展覧会ほど展示替えリストと睨めっこしなくてはいけないこともないかもしれません。

「鳳凰と獅子」展示替えリスト@サントリー美術館

例えば若冲の二点、「樹花鳥獣図屏風」(6/20まで)と「旭日鳳凰図」(7/24まで)を同時に見るには、次の月曜日、6/20までしかチャンスが残されていません。


「桐鳳凰図屏風」狩野探幽 江戸時代 サントリー美術館蔵

その一方、例えば後半期の目玉でもある永徳・常信の「唐獅子図屏風」は、7/6から登場します。その他にも仏画、鳳凰図関連を中心に多数展示替えがあります。基本的に展示品の大部分を見るには2度(7月前半に多数入れ替わります。)ほど通う必要がありますが、場合によっては前・中・後期の3度行く必要があるかもしれません。

7月24日まで開催されています。まずはおすすめです。

「開館50周年記念 美を結ぶ。美をひらく。2 不滅のシンボル 鳳凰と獅子」 サントリー美術館
会期:6月8日(水)~7月24日(日)
休館:火曜日
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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「凝縮の美学:名車模型のモデラーたち」 INAXギャラリー1

INAXギャラリー1
「凝縮の美学:名車模型のモデラーたち」
6/3-8/20



人間の手によって生み出された究極の名車模型を紹介します。INAXギャラリー1で開催中の「凝縮の美学:名車模型のモデラーたち」へ行ってきました。

ともかく模型と聞いて俄然関心を持つ方も多いかもしれません。今回登場するのはいわゆるクラシックカーの模型、フェラーリやブガッティなどの数々です。

会場には日本人のアマチュアモデラー5名によって生み出された作品の他、イギリスのプロのモデラー、G.ウイングローブら3名による車やバイクの模型が所狭しと並んでいました。

今回の展覧会は嬉しいことに撮影が可能です。まさに百聞は一見にしかずです。珠玉の名車模型たちを以下に簡単にご紹介したいと思います。


自動車史上、最も美しいとされる「ブガッティ」。気品すら漂います。


ずらりと並ぶ名車模型たち。


「ジャガーXK150Sクーペ」のパーツ一式。ともかく精巧です。


フェラーリ「250テスタロッサ」。お馴染みの名車ではないでしょうか。


フェラーリ「250-GTO」。全長1メートル近くにも及びます。堂々たる姿でした。


バイクも紹介。


展示風景。

如何でしょうか。これらはまず実車調査を経て、それこそ1ミリ以下のパーツの制作に始まり、組み立て、塗装と、おおおそ数ヶ月から1年ほどかけて制作されたそうです。また素材も樹脂や真鍮など多岐にわたっています。目を剥くほどに精巧に再現された名車を見ていると思わずうずうずしてしまうこと間違いありません。それこそ手にとってみたくなるほどでした。

ちなみに7月には本展に出品のモデラー、斎藤勉氏のトークも予定されています。興味のある方は参加されてみてはいかがでしょうか。

「甦る、伝説の名車-アルファ ロメオ『カングーロ』1/24への挑戦(要事前申込)
講師:斎藤 勉(アマチュアカーモデラー)
日時:7月22日(金) 6:30p.m.~8:00p.m.
会場:INAX:GINZA 8F セミナールーム


8月20日まで開催されています。なお東京展終了後、以下のスケジュールにて大阪と名古屋へ巡回します。

大阪展  INAXギャラリー大阪  2011年9月3日(土)~11月17日(木)
名古屋展 INAXギャラリー名古屋 2011年12月2日(金)~2012年2月23日(木)


「凝縮の美学:名車模型のモデラーたち」 INAXギャラリー1
会期:6月3日(金)~8月20日(土)
休廊:日・祝
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 INAX:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分。
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「タムラサトル Aマシーン」 TSCA

Takuro Someya Contemporary Art
「タムラサトル Aマシーン」
5/28-7/2



Takuro Someya Contemporary Artで開催中のタムラサトル個展、「Aマシーン」へ行ってきました。

プロフィールについては作家WEBサイトをご覧ください。

SATORU TAMURA略歴

最近では小山市立車屋美術館の他、新宿ビームスの「B GALLERY」などで個展がありました。



さてタムラサトルというとその「B GALLERY」やTSCAのオープニング展しかり、いわゆる照明や火花を用いた機械仕掛けのオブジェが印象的ですが、今回は意外にもそのどちらも登場しません。あるのは鉄鋼のチェーンがひたすらに回転して動く機械、つまりはマシーン数台でした。



大小様々なマシーンはチェーンの運動によってアルファベットの文字を記し、また一方でハートや星の形を描いています。そしてそれらのAやBの文字は、それこそ全く意味なさないかのように淡々と動き、また例えて言えば永遠に動く時計であるかのように時を刻んでいました。その運動は本質的に無機質です。



しかしながらタムラの得意とする火花を用いた接点の機械同様、その細部からはどこか生々しさを感じさせるのも興味深いところではないでしょうか。歯車と絡み合ってネチャネチャと音を立てながら進むチェーンは何やら肉感的でした。



当初の会期(6/25まで)が延長されました。7月2日まで開催されています。

「タムラサトル Aマシーン」 Takuro Someya Contemporary Art
会期:5月28日(土)~7月2日(土)
休廊:日・月・祝
時間:12:00~19:00
住所:中央区築地1-5-11 築地KBビル1F
交通:東京メトロ有楽町線新富町駅1番出口徒歩3分、東京メトロ日比谷線東銀座駅5番出口徒歩5分。
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「青山悟展」 ミヅマアートギャラリー

ミヅマアートギャラリー
「青山悟展 - 芸術家は人生において6本の薔薇を真剣につくらねばならない」
6/8-7/9



ミヅマアートギャラリーで開催中の青山悟個展、「芸術家は人生において6本の薔薇を真剣につくらねばならない」へ行ってきました。

まだ真新しい市ヶ谷ミヅマのホワイトキューブですが、今回ほどその白が際立っていたことはないかもしれません。

出品は全6点のみ、そのいずれもがお馴染みの刺繍による薔薇の作品です。血のように鮮烈な赤い色をつけた薔薇の花は、いつもながらの青山の巧みな技術によってリアルに、また極めて精緻に再現されています。虚空の黒を背景として灯るその赤の輝きは、どこか厳めしく、また一方で生々しい姿を見せていました。

しかしながらこの展覧会、単にその赤い薔薇だけで構成されていると思うと全体を見失うかもしれません。実は奥の小部屋の暗室にもう一輪、一見するところの赤い薔薇の刺繍が展示されています。真の色は是非会場で探っていただきたいところですが、かつて人間の歴史の中で様々なシンボルとして位置づけられて薔薇は、その二面性を、見る者の目を半ば欺く形にて明らかにしていました。

昨年のαMでの個展が、祖父の絵画までを引用するなどした凝った展示だったのに対し、今回はかなりシンプルな構成でした。

7月9日まで開催されています。

「青山悟展 - 芸術家は人生において6本の薔薇を真剣につくらねばならない」 ミヅマアートギャラリー
会期:6月8日(水)~7月9日(土)
休廊:日・月・祝
時間:11:00~19:00
住所:新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2階
交通:東京メトロ有楽町線・南北線市ヶ谷駅出口5より徒歩5分。JR線飯田橋駅西口より徒歩8分。
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「掌10」 ラディウム-レントゲンヴェルケ

ラディウム-レントゲンヴェルケ
「掌10」
6/3-6/25

恒例企画の「掌(たなごころ)展」も10回を迎えました。ラディウム-レントゲンヴェルケで開催中の掌10」へ行ってきました。

出品作家は以下の通りです。

青木克世、あるがせいじ、石川結介、忽那光一郎、桑島秀樹、佐藤好彦、清水遼太郎、長塚秀人、長谷川ちか子、満田晴穂、児玉香織、内海聖史、春山憲太郎

タイトルにもあるように掌、つまりは手のひらサイズにスポットを当てた展覧会ということで、それこそ宝石のように小さくともキラリと光る作品がずらりと揃っています。



ともかくはその『宝石』たちを実際にご覧いただきたいところですが、私としてともかく惚れたのはガムの包装紙を巧みに操った高田安規子、政子のオブジェでした。

またあるがせいじの紙の小宇宙も見逃せません。なおあるがせいじは次回、7月よりここレントゲンで個展が予定されています。こちらも楽しみです。



まさに小品メインということもあって、空間こそがらんとしていますが、個々の作品から開けるイメージは実に多様でした。

お気に入りの一点を見つけたい企画です。6月25日まで開催されています。

「掌10」 ラディウム-レントゲンヴェルケ
会期:6月3日(金)~6月25日(土)
休廊:日・月・祝
時間:12:00~20:00
住所:中央区日本橋馬喰町2-5-17
交通:JR馬喰町駅より徒歩4分、JR・都営浅草線浅草橋駅より徒歩4分。
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「魅惑のモダニスト 蕗谷虹児展」 そごう美術館

そごう美術館
「魅惑のモダニスト 蕗谷虹児展」
6/11-7/18



大正から昭和にかけて少女雑誌などの挿絵画家として活躍した蕗谷虹児(1898-1979)の世界を紹介します。そごう美術館で開催中の「魅惑のモダニスト 蕗谷虹児展」へ行ってきました。

かつてのブリヂストン美術館での「セーヌ川の流れ」展にて、思いがけないほどに惹かれた蕗谷虹児ですが、私にとってはまさに待ちに待った回顧展が横浜で始まりました。


「睡蓮の夢 原画」1924年 個人蔵

1898年、新潟の新発田に生まれた蕗谷虹児は、日本画家を志しながら上京し、かの夢二との縁もあって、雑誌「少女画報」にて挿絵画家としてのデビューを果たします。

展示では冒頭、修業時代の虹児が描いた日本画の習作からはじまります。この時期の虹児は何と一時、駆け落ちで樺太へと渡り、そこで2年間旅絵師として生活をしていたこともあったそうですが、後の挿絵風からは想像もつかない「十六才習作」(1915)など、知られざる最初期の虹児を見ることが出来ました。


「潮風『令女界』原画」1928年 新発田市蔵

虹児が一躍挿絵画家のスターとしてのし上がったのは雑誌「令女界」です。当時の20才前後の未婚女性をターゲットとしたこの雑誌に編集段階から関わり、表紙の他、様々な挿絵をいくつも残しました。

どこかメルヘンの世界を思わせる「或る夜の夢」(1922)など、その独特に甘美なイメージは、一度見れれば虜になるのではないでしょうか。時にピアズリーを思わせる作品などには、終始うっとりさせられました。

またこの時期の虹児の仕事として興味深いのは、関東大震災における震災関連の挿絵制作です。東京を襲った巨大地震は出版界にも大きな影響を与えます。各種雑誌でも多くの震災特集が組まれました。

彼はその一つ「震災画報」において、作家たちの震災の体験記などに口絵をつけていきます。燃え盛る東京を背景に、一人の大きな鎌をもった悪魔が立つ「魔の呪い」(1923)は強く心を打たれました。

国内である程度の成功を収めた虹児は一転、1925年に渡仏し、パリでの生活をスタートさせます。家族を日本に残してきたこともあり、その二重生活もあってか、金銭的には決して順調ではなかったそうですが、サロンにも入選するなど、画家としての活動は一つのピークを迎えました。

ここで描かれたのがチラシ表紙にも登場する「柘榴を持つ女」(1927)です。虹児はファッションにも関心を寄せ、最先端であったパリのモードから多数のイメージを取り込みました。

それに虹児はパリから日本向けの挿絵の仕事も多く手がけます。その一つに先にも挙げた「令女界」の挿絵がありますが、ここでもパリの風俗を巧みに吸収し、女性のお洒落で艶やかな姿をいくつも絵に起こしていきました。


「ひなげし『少女の女』原画」(部分)1936年 弥生美術館蔵

帰国後は再び挿絵画家として活動する一方、様々な情勢の変化から、これまでにはない世界にも足を踏み入れていきます。

その情勢とはもちろん戦争です。とりわけ1940年以降は当局の規制が入るようになり、少女雑誌の挿絵の需要は著しく低下していきました。

実際に1942年以降、虹児は少女雑誌から一端手を引きますが、その前からも文芸誌の他、レコードのジャケットのデザイン、また絵本や童話の挿絵を描くようになります。「船乗りシンドバット」や「アリババ」などのお馴染みの作品も紹介されていました。

戦争期は当然ながら直接的に戦争主題の作品が登場します。実際に虹児が航空兵養成所へと取材して描いた「少年大空への道」などが目を引きました。

戦後の1946年、再び少女雑誌の仕事へと戻った蕗谷虹児ですが、今度は雑誌そのもののビジュアルの嗜好が変化、彼の制作は一つの大きな転換点を迎えます。以降、彼は戦前から手がけていた絵本や童話の挿絵の仕事をメインに、小説の挿絵、さらにはアニメーションなどの様々な仕事をするようになりました。

その一例が三島由紀夫の「岬にての物語」の装丁です。三島自身、この作品には蕗谷の画風が相応しいとも述べたそうですが、他にも円地文子の作のデザインなども手がけています。

また東映動画、つまりはアニメーションの作品、「夢見童子」もポイントです。ここでは構成の原画とともに映像も紹介されています。物語は樹木の下で眠る夢見童子は心優しい子には夢を与え、またそうでない子には与えないとするシンプルな内容でしたが、天平風に描かれた童の姿など、これまでの虹児とは違った作風を見ることが出来ました。


「薔薇と少女」(部分)1968年 新発田市蔵

1968年、70歳を迎えた虹児は、画集を刊行するとともに、自身の展覧会も開催します。またその頃、彼は挿絵ではなく絵画の制作に取りかかるようになり、浮世絵風美人画とも呼べる作品をいくつか描いていきました。

ラストに展示されていた最晩年の「母の面影」(1979)は忘れられません。これは虹児の死後、画室の机から見つかったという未完の一枚ですが、そこには雪の積もる家々を背景に立つ母の姿が何とも物悲しく描かれています。これはやはり彼の出身地、新発田の雪景色に違いありません。虹児は最後まで故郷と母を忘れることなく、死後の世界へと旅立っていきました。

挿絵ということもあってか、出品数は計400点にものぼります。先行して開催された刈谷市美術館の展示からすればスケールダウンするかもしれませんが、作品の質量ともに虹児の回顧展に相応しい内容ではなかったでしょうか。充実した図録も用意されていました。

「蕗谷虹児/らんぷの本/河出書房新社」

7月18日まで開催されています。(優待券がそごう横浜店WEBサイト内にあり→リンク

「魅惑のモダニスト 蕗谷虹児展」 そごう美術館
会期:6月11日(土)~7月18日(月・祝)
休館:そごう横浜店の休日に準じる。(6月は無休)
時間:10:00~20:00
住所:横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店6階
交通:JR線横浜駅東口よりポルタ地下街通路にて徒歩5分。
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