「ヨコハマトリエンナーレ2014」(後編) 新港ピア

新港ピア
「ヨコハマトリエンナーレ2014」(後編)
8/1-11/3



前編(横浜美術館)に続きます。「ヨコハマトリエンナーレ2014」を見て来ました。

「ヨコハマトリエンナーレ2014」(前編) 横浜美術館(はろるど)

横浜美術館に次いでの新港ピア会場。ただし挿話としては最後の2話、第10話と第11話があるに過ぎません。(横浜美術館が1~7話、別会場のライブインスタレーションが8話、札幌国際芸術祭関連のプログラムが9話です。)

とは言え天井高もあり大掛かりな作品も設置可能な新港ピア、場所を活かしてのインスタレーションも目立ちます。そして映像が多いのも特徴。また福岡アジア美術トリエンナーレの乗り入れ企画(第10話)が展示の3~4割近くを占めているのもポイントです。

さてまず映像で見入ったのはメルヴィン・モディの「ノー・ショー」です。とある古びた建物の一角だけが映し出されている。そこで語り出す一人の男。おそらくは大勢の聞き手とともに部屋を移動しながら、目の前にあるであろう絵画について解説を加えていく。ようはギャラリーツアーです。場所はエルミタージュ美術館。そのツアーの様子をナレーションで表現しています。

しかしながら何やらおかしい。というのも絵画をさも思い出すように語っているのです。結論から述べれば二次大戦下において作品が空っぽになった美術館で行われたツアーを再現しているとのこと。聞き手はなんとロシア兵だそうです。作品はまさしく不在である。ただし作品は必ずしも「忘却」されているわけではありません。

福岡アジア美術トリエンナーレで展開された映像作品も見応えがあります。中でも強烈なのがディン・キュー・レです。バシャンバシャンと次から次へに海に落ちるのは軍用ヘリ。何とベトナムから脱出しようとする米軍ヘリの墜落する様子を表現しているのです。

また釜山と福岡、さらにはフィリピンの海を捉えたキリ・ダレナや、閉鎖された工場の廃墟に佇む労働者たちを移したチェン・ジエレンの作品も胸を打つ。この映像のセクション、新港ピアの白眉と言っても良いのではないでしょうか。アジアにおける社会や政治の諸問題へ切り込んだ作品が目立ちました。


笠原恵実子「OFFERING-Collection」2014年

小さな写真ですが目を引きます。笠原恵実子の「OFFERING-Collection」です。ずらりと並ぶ写真、いずれも作家が世界各地で10年間にわたって取りためたキリスト教会の献金箱です。


イライハス・ハンセン「心配するな、再来年にはもっとひどいことになるさ」2014年

専門学校で吹きガラスの技術を習得していたそうです。日本初公開というイライハス・ハンセン。古木やビニール、そしてカラフルなガラス器が用いられたインスタレーションを展開しています。


イライハス・ハンセン「見かけとは違う」2012年

また暗室でライトを取り込んでいる作品もある。ふとお祭りの屋台のネオンサインなどを思い出しました。


大竹伸朗「網膜屋/記憶濾過小屋」2014年

そして会場の最奥部にあるのが大竹伸朗の「網膜屋/記憶濾過小屋」です。ボートを携えた大きな車。まさに新港ピアの前に広がる「忘却の海」へと出港するという意味なのでしょうか。作品の内と外には無数の写真やスクラップが半ば散乱しています。この迫力。ラストを飾るにも相応しい作品と言えるのかもしれません。


やなぎみわ「移動舞台車」2014年

またやなぎみわの移動舞台車も否応無しに目に飛び込んできます。高さは何メートルあるのでしょうか。ちなみにこれはやなぎみわが近年取り組んでいる演劇のための舞台装置。台湾で制作されたものだそうです。

ともすると横浜美術館会場ではやや過去に遡る作品が目立っていたのに対して、新港ピアは比較的近年に制作されたインスタレーションが中心です。その辺でもやや印象は異なるかもしれません。

「ヨコハマトリエンナーレ2014」、言うまでもなく祝典的な雰囲気は殆どありません。感覚的に捉えにくい作品も多く、実のところ見ている時は何とも言い難い重苦しさを感じてなりませんでしたが、主に横浜美術館の「釜ヶ崎」や第3話の「華氏451」しかり、公式サイトにも寄せられたディレクターの森村のメッセージなりがよく反映された展示だったのではないでしょうか。その意味では非常に意義深い企画だと感心しました。


ヤン・ヴォー「我ら人民は(部分)2011-2013年

館内は撮影禁止マークのある作品を除き、全て撮影出来ました。一定の要件を満たせばブログやSNSなどにも利用出来ます。(フラッシュ、動画はNGです。)

8月のお盆休み期間中(平日)に出向いたゆえか、館内は二会場とも余裕がありました。会期末に向けてどうなるかは分かりませんが、現段階であればスムーズに観覧出来ると思います。

新港ピアの後はBankART Studio NYKからヨコハマ創造都市センターへと歩き、最後は黄金町の方へと廻りました。

「東アジアの夢ーBankART Life4」 BankArt Studio NYK(はろるど)



横浜美術館+新港ピアの本編、さらにBankART Studio NYKと廻るとゆうに半日はかかります。時間に余裕をもっての観覧をおすすめします。

11月3日まで開催されています。

[ヨコハマトリエンナーレ2014関連エントリ]
「ヨコハマトリエンナーレ2014」(前編) 横浜美術館
「東アジアの夢ーBankART Life4」 BankArt Studio NYK
「ヨコハマパラトリエンナーレ2014」 象の鼻テラス

「ヨコハマトリエンナーレ2014」@yokotori_) 横浜美術館@yokobi_tweet)、新港ピア
会期:8月1日(金)~11月3日(月・祝)
休館:第1・3木曜日(8/7、8/21、9/4、9/18、10/2、10/16)
時間:10:00~18:00 *入場は閉場の30分前まで。
 *8月9日(土)、9月13日(土)、10月11日(土)、 11月1日(土)は20時まで開場。
料金:
 単体券 一般1800(1400)円、大学・専門学生1200(900)円、高校生800(500)。中学生以下無料。
 提携セット券 一般2400(2000)円、大学・専門学生1800(1400)円、高校生1400(1100)。中学生以下無料。
 *( )は前売券料金。(7/31まで発売)会場で20名以上同一券種の当日券購入の場合は各200円引。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1(横浜美術館)、横浜市中区新港2-5(新港ピア)
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口徒歩5分(横浜美術館)、みなとみらい線馬車道駅6番出口徒歩13分(新港ピア)。

注)「ヨコハマトリエンナーレ2014」会場写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
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「ヨコハマトリエンナーレ2014」(前編) 横浜美術館

横浜美術館
「ヨコハマトリエンナーレ2014」(前編)
8/1-11/3



「ヨコハマトリエンナーレ2014」を見て来ました。

今年で第5回を数えるに至った「ヨコハマトリエンナーレ2014」。主会場は2つ。前回展より会場となった横浜美術館と、2008年に会場として使われた新港ピアです。

ディレクターは美術家の森村泰昌。テーマは「忘却」、タイトルは「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」です。

公式サイトにも記載されたタイトルやコンセプト。森村さんのテキストも必ずしも「取っ付き易い」とは言えません。そもそもチラシからして表題が堂々と黒の太字で力強いまでに刻み込まれている。何やら謎めいた感を受けたのは私だけではないかもしれません。ともかくも「忘却」というテーマを頭の片隅に置きながら追ってきました。


ヴィム・デルボア「低床トレーラー」2007年

さて全11話立ての展示、章ではなく話とあるのも、「忘却」を巡るストーリーということなのでしょう。はじまりは美術館の外です。ヴィム・デルボア「低床トレーラー」。全長15メートルの大型トレーラー、美術館の前に堂々と鎮座しています。まるで海底から引き上げた古代船のようでもある。ゴシック建築風に表現したものだそうです。


マイケル・ランディ「アート・ビン」2014年

世界(=美術館)の中心にはゴミ箱がありました。マイケル・ランディの「アート・ビン」です。美術館内で一際広いエントランスホールに設置されたゴミ箱、何を捨てるものかと思いきや「芸術作品」だとか。創造の裏にある失敗がここで「忘却」されるということなのかもしれません。

館内へ進みましょう。有料展示エリアの冒頭、かつてこれほどある意味で掴み難い導入はあったのでしょうか。マレーヴィチの小品、「シュプレマティズムの素描(断片)」にジョン・ゲージの「4分33秒」の楽譜、そしてアグネス・マーティンにカルメロ・ベルメホのミニマル絵画が続く。ほぼモノクロームの世界です。否応無しに観客の感性を細微な地点へと向けさせます。


木村浩「言葉」1983年

一方で木村浩は言葉を絵画に表す。4枚組の「言葉」です。そこに表れた「このことについては、黙っていることにした。」の一節、これも第1話の「沈黙とささやきにみみをかたむける」を思わせる。適切な表現ではないかもしれませんがセンシティブな作品が続きます。


「釜ヶ崎芸術大学」

第2話で景色は一変しました。「釜ヶ崎」です。いわゆる「あいりん地区」(Wikipediaより)とも称される「忘却の町」(キャプションより)。そこに集い生活する人々が「表現」に関わった「釜ヶ崎芸術大学」のプロジェクトが紹介されます。


「釜ヶ崎芸術大学」

「忘却の町」での表現をトリエンナーレで提示することで、言わば引き戻す、また「憶い出す」(キャプションより)ということを意味しているのかもしれません。そして「それは、和紙がめしを食うことより大事か?」のタイトルが重く胸に響きます。また大阪のスーパーのちらしで作ったという通天閣、さらには天井に掲示された無数の「書」が目を引きます。平面しかり立体しかり様々な表現が一種ない交ぜになって提示されていました。


ドラ・ガルシア「華氏451度(1957年度版)」2002年 ブルゴーニュ現代美術館

「華氏451」は第3話で登場しました。レイ・ブラッドベリ作のSF小説、舞台は近未来です。本を持つことが許されない社会を描いています。思想統制下の社会です。書物は華氏451度で燃えていく。そこに知や思考の「忘却」という意味も重ね合わさっているのかもしれません。

それにしてもこの第3話は現代社会への危機感が強く表れています。ようは森村の社会に対する警告的なメッセージが色濃く出ているのではないでしょうか。


大谷芳久コレクション「大日本帝国時代の詩歌」1938-1944年

太平洋戦争期の日本の小説家や詩人のテキストです。言うまでもなく勇ましい文言が並びます。否応無しに戦争の潮流に飲み込まれていった芸術家たちの姿を詳らかにします。


エドワード&ナンシー・キーンホルツの「ビッグ・ダブル・クロス」1987-1989年 個人蔵

またエドワード&ナンシー・キーンホルツの「ビッグ・ダブル・クロス」も強烈。十字架の中に砲弾が置かれている。宗教という名を借りて行われる戦争のことを思わずにはいられません。

そのほかにもタリバンが破壊したバーミヤン遺跡についての展示もあります。戦争による破壊と略奪。これを必ずしも「忘却」と捉えうるものではないかもしれませんが、少なくとも人類にとって大きな喪失であった。警鐘を鳴らしています。


福岡道雄「飛ばねばよかった」1966年

いわゆるインスタレーションとしては第4話、福岡道雄、毛利悠子らの作品が面白いのではないでしょうか。


毛利悠子「アイ・オー ある作曲家の部屋」2014年

特に毛利悠子の「アイ・オー ある作曲家の部屋」は見応えがあります。作曲家ビクター・C・セアルから譲り受けたオルガンやドラムを用いてのインスタレーション。緩やかに連環していく。ブラインドがかくも美しく、また繊細な表情を持っていたとは知りませんでした。


中平卓馬「無題」1997-1999年 ほか 個人蔵

と同時に中平卓馬の写真シリーズも展示されています。ただここはともするとほかの作品の影に隠れてしまっていたかもしれません。一部、動線にやや難があったような気もしました。


Temporary Foudation「法と星座・Turn Coat / Turn Court」2014年

中央の吹き抜けへ出て驚きました。ここは監獄だったのでしょうか。Temporary Foudationの「法と星座・Turn Coat / Turn Court」です。さらに法廷からテニスコートと続く巨大なインスタレーションが展開されていく。浜美の空間が大胆に作り替えられました。観客が裁きの場に引きずり出されます。そしてここでは会期中、計5回にわたって「横浜トライラル」と題した「審議」が行われるそうです。


アリーナ・シャポツニコフ「写真彫刻」1971/2007年

ラストへ向かっては大掛かりなインスタレーションから再び鋭敏な感覚を持つ細かな作品群へと変化します。コーネルの「小箱」に細密な坂上チユキのペインティング、またガムを造形物として写真に移したアリーナ・シャポツニコフと展開。ウォーホルの「絶頂絵画」シリーズまでが登場しました。


Temporary Foudation「法と星座・Turn Coat / Turn Court」2014年

なお浜美ラストのグレゴール・シュナイダー「ジャーマン・アンクスト」は順路最後奥のエレベーター下でのインスタレーション。また三嶋安住と三嶋りつ惠はカフェでの展示です。ともにうっかりすると見落としてしまうかもしれません。ご注意下さい。


「ヨコハマトリエンナーレ2014」会場間無料バス

以上、一通り横浜美術館の展示を見た後は、美術館裏手から発着する会場間無料バスにて新港ピアへと移動しました。

「ヨコハマトリエンナーレ2014」(後編) 新港ピア(はろるど)

後編(新港ピア)に続きます。

[ヨコハマトリエンナーレ2014関連エントリ]
「ヨコハマトリエンナーレ2014」(後編) 新港ピア
「東アジアの夢ーBankART Life4」 BankArt Studio NYK
「ヨコハマパラトリエンナーレ2014」 象の鼻テラス

「ヨコハマトリエンナーレ2014」@yokotori_) 横浜美術館@yokobi_tweet)、新港ピア
会期:8月1日(金)~11月3日(月・祝)
休館:第1・3木曜日(8/7、8/21、9/4、9/18、10/2、10/16)
時間:10:00~18:00 *入場は閉場の30分前まで。
 *8月9日(土)、9月13日(土)、10月11日(土)、 11月1日(土)は20時まで開場。
料金:
 単体券 一般1800(1400)円、大学・専門学生1200(900)円、高校生800(500)。中学生以下無料。
 提携セット券 一般2400(2000)円、大学・専門学生1800(1400)円、高校生1400(1100)。中学生以下無料。
 *( )は前売券料金。(7/31まで発売)会場で20名以上同一券種の当日券購入の場合は各200円引。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1(横浜美術館)、横浜市中区新港2-5(新港ピア)
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口徒歩5分(横浜美術館)、みなとみらい線馬車道駅6番出口徒歩13分(新港ピア)。

注)「ヨコハマトリエンナーレ2014」会場写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
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「指輪展」 国立西洋美術館

国立西洋美術館
「橋本コレクション 指輪 神々の時代から現代までー時を超える輝き」
7/8-9/15



国立西洋美術館で開催中の「橋本コレクション 指輪 神々の時代から現代までー時を超える輝き」を見て来ました。

2012年に同美術館へ寄贈された指輪を含む宝飾品こと「橋本コレクション」。その数は800点にも及びます。まだ一度たりとも同館で公開されたことはありませんでした。

ようはお披露目展です。出品は全部で300点。古代エジプトから近年制作されたものまで含まれます。言わば指輪6000年の歴史を見る展覧会でもあります。

さてずばり指輪展、出品数が物語るように進めども進めども指輪の数々。ともかく煌びやかな指輪がこれでもかと言うほどに並んでいます。

実のところさほど指輪に興味がなかった私にとって、この展覧会、行くかどうかかなり迷っていました。またともすると女性向きの展示と思っていられる方もおられるかもしれません。

実際にも館内は8割方女性でした。そして展示自体は思いがけないほど面白い。指輪ファンでなくとも十分に楽しめるとしても過言ではありません。


「女神ニケ」紀元前4世紀後期 ガラス・金 国立西洋美術館 橋本コレクション

まずは歴史です。先にも触れたように人類と指輪との長き歴史を追いかける。これが造形の展開からしても興味深いもの。指輪は古代ではお守りです。現代人の我々が思いもよらない機能も持ちえています。その性格なり意匠は時代などによって異なっているわけです。

絵画との比較も重要です。具体例を挙げましょう。15世紀スカンジナビアの指輪「聖ゲオルギウスと龍」ではクラーナハの「馬上の聖ゲオルギウス」が参照されている。また十字架をモチーフとしたスペインの指輪「ゴルゴダの丘の十字架」でもグレコの「十字架のキリスト」が添えられています。ようは同時代、近い地域の指輪と絵画をあわせ見ることが出来ます。


ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「愛の杯」1867年 油彩、板 国立西洋美術館

一方で絵に描かれた指輪を見る展示もポイントです。ロセッティの「愛の杯」やグイド・レーニの「ルクレティア」などの西美常設ではお馴染みの名画。改めて見れば確かにモデルは指輪をしているではありませんか。絵画コレクションを効果的に用いていました。


「エメラルドのソリティアリング」1840年頃 金、エメラルド 国立西洋美術館 橋本コレクション

モードの中に指輪を位置づける展示も秀逸です。ロココから20世紀のココ・シャネルまでの衣装がずらりと並んでいる。いずれもマネキンに着せての展示です。そこにもちろんあわせて指輪も紹介します。ファッションの変遷を追いながら同時代の指輪も楽しむことが出来ました。

またここでも絵画との参照がありました。ブータンの「トルーヴィルの浜」、あの浜辺で婦人たちがピクニックをしている作品ですが、ほぼ同時代のアフタヌーン・ドレスが実際に展示されています。ちなみにこれらの衣装は全て神戸ファッション美術館のコレクション。まさか指輪展で西洋近代のドレスを楽しめるとは思いませんでした。


「ハートのギメルリング」17世紀 金・ルビー、ダイヤモンド 国立西洋美術館 橋本コレクション

最後に一つ、とても興味深かったのが「死」についてです。そもそも指輪、故人に対するメモリアルリングとして作られることも少なくありませんでした。例えば「エドワード4世の遺髪が納められた指輪」では文字通り遺髪が入れられている。そしてメメント・モリです。17世紀の「ギメル・リング」、重ねるとハート型をしていますが、中を開くと下から骸骨が現れる。愛の中でもいつかは訪れる死を忘れてはならないという意味を指輪自身が持ちえているわけです。


「ミルグレイン・リング」1920年頃 ダイヤモンド、プラチナ 国立西洋美術館 橋本コレクション

「指輪は孤立した世界ではありません。」とはチラシにある言葉。まさに展覧会全体と指し示していると言って良いでしょう。指輪をモードや絵画ほか、文学主題などにも参照して見せている。製作技法や模造に関しての展示もあります。引き出しの多い企画です。感心しました。


「フェデリング」17世紀 金、エナメル 国立西洋美術館 橋本コレクション

既に残すところ会期も半月強となりましたが、館内は思ったより空いていました。とは言え、いずれも作品は小さな小さな指輪です。近くに寄らなくては楽しめません。ゆえに一部の展示ケースの前では多少の列も出来ていました。

9月15日まで開催されています。

「橋本コレクション 指輪 神々の時代から現代までー時を超える輝き」 国立西洋美術館
会期:7月8日(火)~9月15日(月・祝)
休館:月曜日。但し7/21、8/11、9/15は開館、7/22は休館。
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1400(1200)円、大学生1200(1000)円、高校生700(600)円。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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「宇宙×芸術展」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「ミッション[宇宙×芸術]ーコスモロジーを超えて」
6/7-8/31



東京都現代美術館で開催中の「ミッション[宇宙×芸術]ーコスモロジーを超えて」を見て来ました。

宇宙と芸術。ともするとイメージしにくい組み合わせです。そもそも芸術の一側面として宇宙が意識されること自体が少ないかもしれません。

*宇宙芸術とはー宇宙芸術コミュニティbeyondの定義による*

1.宇宙における時空間の概念から、新たな世界観や美意識を創造する
2.芸術、科学、工学の融合をとおして宇宙、地球、生命の在り方を問い続ける
3.以上を実現するための宇宙観念と宇宙活動に関する広範な芸術領域

ずばり本展では宇宙活動に関係する現代の芸術を紹介します。

さてやや難解にも思えてしまう宇宙芸術、しかしながら展示はかなり感覚的に楽しめるように工夫されています。


大平貴之「SUPER MEGASTAR-2とオーロラ」2008年 *参考図版

そもそも掴みはプラネタリウムのSuperMEGASTARです。展示室1室を全て用いての星空投影、所要時間は10分ほどでしょうか。中央の投影機の近くにはクッションも置かれ、寝転んで星空を楽しむことが出来る。美しきオーロラも登場します。


鈴木康広「りんごの天体観測」2006年 *参考図版

水戸芸術館で個展開催中の鈴木康広も要注目です。出品は「りんごの天体観測」。何故にりんごと天体観測が結びつくのかと思ってしまいますが、よくよくりんごの表面を思い浮かべて下さい。あの赤い皮、そこには無数の点があることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

作家の鈴木はそれを星空に見立てて宇宙を表しているのです。奇想天外な発想、しかしこれが思いの外に楽しい。りんご型のスクリーンでは光のドローイングが展開します。見入ってしまいました。

常時降り注ぐ宇宙放射線を利用したのが逢阪卓郎です。500個のLEDライトを敷き詰めたのが「Fullness of Emptiness Integral」。検知器により放射線と地中のガンマ線を光に変換する。仄かに点滅するかのように瞬く青色LEDライト。瞑想的な空間が広がっています。

JAXA関連の展示も目立ちます。興味深いのは安藤孝浩の「お地球見」。国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の窓から水面に映る地球をお月見さながらに楽しむ試み。水面上の月を見やる月見の文化にインスピレーションを受けて出来た作品だそうです。


名和晃平「Moment」2014年 *参考図版

新作のシリーズでしょうか。人気の名和晃平では「Direction」、「Moment」の平面、そして「Ether」の立体シリーズを展示。重力を意識しての絵具のドローイングを展開しています。一定のスケールで楽しめました。


チームラボ「憑依する滝、人工衛星の重力」2014年

天井高のあるアトリウムを活かしてのチームラボが圧巻です。タイトルは「憑依する滝、人工衛星の重力」、中央には観測技術衛星「だいち2号」の模型が置かれ、そこに滝が降り注ぐ映像を映し出す。高さは19m。滝は水の粒子の連続する線で描いたとか。まるで巨大な祭壇のようでもあります。


チームラボ「Cold Life/冷たい生命」(書:紫舟)2014年

またチームラボでは書家の紫舟とコラボした「冷たい生命」も美しい。館内のごく一部の作品に関しては撮影も可能でした。

さらに先のJAXAのほか、NHKや多摩美のプロジェクトなども目を引く。思いの外にバリエーションのある展示です。

幕張の宇宙博と提携割引の情報です。各展覧会チケットの半券を提示すると入場料が1割引になります。

「ミッション[宇宙×芸術]展/宇宙博2014/TeNQ」 2014年宇宙の夏キャンペーン(PDF)



夏休みということもあるかもしれません。会場内、ファミリー、特に小さなお子さんを連れた方を多く見かけました。

「ミッション[宇宙×芸術] コスモロジーを超えて/青幻舎」

8月31日まで開催されています。

「ミッション[宇宙×芸術]ーコスモロジーを超えて」 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:6月7日(土)~8月31日(日)
休館:月曜日。但し7/21は開館。7/22は休館。
時間:10:00~18:00。但し7/18、25、8/1、8、15、22、29は21時まで開館。*入場は閉場の30分前まで。
料金:一般1300(1040)円 、大学生・65歳以上1000(800)円、中高生800(640)円、小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *本展チケットで「MOTコレクション」も観覧可。「ワンダフル・ワールド」とのセット券あり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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ミュージアムカフェマガジン9月号は「ヨコハマトリエンナーレ特集」

毎月発行、美術館・博物館情報フリーペーパーの「ミュージアムカフェマガジン」。最新9月号は「ヨコハマトリエンナーレ2014」特集です。



中を開けば展示風景を中心にヨコトリを紹介するコーナーが続きます。美術館前で一際目立つ「低床トレーラー」や何かと話題の「アート・ビン」など注目の作品がピックアップされていました。



そして今回のヨコトリは二会場制。横浜美術館だけでなく新港ピアについても触れられています。目を引くのはラストの大竹伸朗の「網膜屋/記憶濾過小屋」です。広い新港ピアならではの展示映えのする大型のインスタレーション。ヨコトリの「忘却」というテーマに近い作品でもあります。



またガイドブック的に「もっとヨコトリを楽しむ」というミニコラムもある。グッズや会場間無料バスの情報なども有用になりそうです。

ところでまだ感想にまとめていませんが、私も先日BankARTや黄金町のイベントを兼ねてヨコトリを見て来ました。


マイケル・ランディ「アート・ビン」2014年

森村さんのいわゆるキュレーション、特に美術館の方に色濃く反映されていたのではないかと思います。


大竹伸朗「網膜屋/記憶濾過小屋」2014年

全体として祝祭的な雰囲気は極めて薄く、ここ何度かのトリエンナーレからすると地味と言えるかもしれません。しかしながら社会や政治にも切り込んだ面も多い。テーマやメッセージはかなり強く打ち出されています。考えさせられるものがありました。(また別途感想にします。)

ミュージアムカフェマガジン最新9月号、「ヨコハマトリエンナーレ特集」。目印は表紙の底抜けに青い横浜の空です。いつものように美術館、博物館などで無料配布中です。まずはお手にとってご覧下さい。



美術館・博物館情報サイト「ミュージアムカフェ」
URL:http://www.museum-cafe.com(Web・モバイル共通)
ミュージアムカフェ事務局:@museumcafe

【Androidアプリ】「ミュージアムカフェ」
価格:無料  対応機種:Android OS 3.0以降
ダウンロード:Google Playからダウンロード
ジャンル:ライフスタイル
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.kosaido.musiumcafe

【iOSアプリ】「ミュージアムカフェ」
価格:無料  対応機種:iPad、iPhone、iPod touch
ダウンロード:AppStoreからダウンロード
ジャンル:ライフスタイル
http://itunes.apple.com/jp/app/id321825497?mt=8

注)「ヨコハマトリエンナーレ2014」会場写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
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「日本人が愛した官窯青磁」 東京国立博物館・東洋館

東京国立博物館・東洋館
「特集展示 日本人が愛した官窯青磁」 
5/27-10/13



東京国立博物館・東洋館で開催中の特集展示「日本人が愛した官窯青磁」を見て来ました。

現在、東博平成館で行われている「台北 國立故宮博物院展」。下記の感想にも書きましたが、「青磁輪花碗」など極上の汝窯青磁が出品されている。淡く澄んだ水色の色彩美には大いに心打たれたものでした。

「台北 國立故宮博物院展」 東京国立博物館(はろるど)

その故宮展に因んでの企画です。主に国内所蔵の青磁の品々を展観します。

出品は全21件。東洋館5室での特集展です。さほど多くはありません。しかしながら「東窯」と称する青磁が数十年ぶりに公開されるなど注目すべき点も少なくない。青磁ファンにとっては貴重な機会となりました。

さて今触れた「東窯」という言葉、ともすると聞き慣れない方も多いかもしれません。(私も実は初めて知りました。)

この「東窯」とは実在の窯を指すのではなく、陶磁研究者の小山富士夫氏が北宋官窯を考えるに際して名付けた言葉。ここでは細かに触れませんが、本展は何も単に青磁の名品を見せているだけではない。青磁に携わった人物に着目しながら、日本人の青磁の受容や研究の過程などについても言及しています。


「青磁碗」 北宋時代・10~11世紀 常盤山文庫

小山が箱書きに「東窯」と記したのがこの「青磁碗」。特に淡い釉調を重視して捉えていたそうです。


「青磁盤」 汝窯 川端康成旧蔵 北宋時代・11~12世紀 個人蔵

汝窯青磁としては国内で唯一の「青磁盤」も出ています。かつて川端康成が所蔵していたという名品。美しき青き光を放っている。やはり目を引きます。


「米色青磁瓶」 南宋官窯 南宋時代・12~13世紀 常盤山文庫

南宋の「米色青磁瓶」も興味深いのではないでしょうか。窯の中の焼成の条件によって黄褐色に焼き上がった青磁。これを日本では稲穂の色に例えて米色と称した。驚くのが作例です。何と世界で現在、日本に4点しか残されていない。故宮のコレクションにもないのです。


国宝「青磁下蕪瓶」 南宋時代・12~13世紀 アルカンシエール美術財団

青磁の中で特に美しいものを「砧」と称して珍重してきたそうです。そしてさらに「砧」よりも美しい最高の青磁を「修内司」と呼ぶ。国宝の「青磁下蕪瓶」や常盤山文庫所蔵の「青磁盤」などはかつて「修内司」として伝えられてきた作品です。



ちなみに後者の「青磁盤」はまた川端康成の旧蔵です。彼は自らの審美眼を頼りにこうした青磁を収集していました。



東洋館での「日本人の愛した官窯青磁」展。いわゆる常設展のために写真の撮影も出来ます。また故宮展開会中は特別展のチケットでも観覧可能です。平成館とあわせて観覧されることをおすすめします。

「青磁/NHK美の壺/日本放送出版協会」

10月13日まで開催されています。

「特集展示 日本人が愛した官窯青磁」 東京国立博物館・東洋館(@TNM_PR
会期:5月27日(火)~10月13日(月)
時間:9:30~17:00。但し特別展会期中の金曜日は20:00まで開館。土・日・祝休日は18時まで開館。10/10(金)と10/11(土)は22時まで開館。(入館は閉館の30分前まで。)
休館:月曜日。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生700以下、満70歳以上は無料。(総合文化展のみ)
 *( )は20名以上の団体料金。
 *特別展開催期間中は「台北 國立故宮博物院展」チケットで入場可。
 *9/15(月・祝)の敬老の日は無料。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「甦った飛鳥・奈良染織の美」 東京国立博物館・法隆寺宝物館

東京国立博物館・法隆寺宝物館
「甦った飛鳥・奈良染織の美ー初公開の法隆寺裂」
8/19-9/15



法隆寺宝物館第6室で開催中の特集展示「甦った飛鳥・奈良染織の美ー初公開の法隆寺裂」を見て来ました。

法隆寺伝来の染織品こと法隆寺裂。今回出展の作品はいずれも平成24~25年度に修理されたものだそうです。

さてともかく目を引くのがリーフレット表紙にも掲げられた「淡茶地白虎文描絵綾天蓋垂飾」。いわゆる天蓋の周囲に張られた飾りの断片です。白虎の姿が描かれています。


「淡茶地白虎文描絵綾天蓋垂飾」 法隆寺伝来 飛鳥時代・7世紀

修復のゆえか飛鳥時代とは思えないほど色も鮮やかですが、この白虎、かの高松塚古墳やキトラ古墳の壁画よりもさらに古く、現存する絹製の絵画としては最古級の可能性があるそうです。


「茶地花卉鳥文摺絵平絹」 法隆寺伝来 奈良時代・8世紀

「茶地花卉鳥文摺絵平絹」はどうでしょうか。左隅に花にとまる鳥が描かれています。またほかの断片から、本来は向かい合う鳥の上に草木が茂り、花に数羽の鳥がとまる図像であったことが推測されるそうです。

出展の法隆寺裂は全部で50点。これらの作品は昭和12年頃からガラスに挟んで保管されてきましたが、いつの間にか内部で裂が移動したり、曇りが生じるなど、問題のある状態のものも少なくありませんでした。



それが今回の修復によって解消。まさに本来の美しさが甦ったと言って良いでしょう。普段あまり目の向かない博物館の方々の地道な努力の賜物です。頭が下がります。

それにしても東博の法隆寺宝物館、建物しかり展示しかり、依然としてほかには代え難いものがあります。



なお第3室では年に数度限定の伎楽面も公開中でした。(8/31まで)

[2014年度 第3室(伎楽面)の展示予定]
3月18日(火) ~4月13日(日)
8月5日(火) ~8月31日(日)
10月28日(火) ~11月24日(月・祝)



この日も故宮展観覧の帰りでしたが、久々に大好きな飛鳥仏とじっくり対面することが出来ました。



9月15日まで開催されています。

「特集展示 甦った飛鳥・奈良染織の美ー初公開の法隆寺裂」 東京国立博物館・法隆寺宝物館(@TNM_PR
会期:8月19日(火)~9月15日(月)
時間:9:30~17:00。但し会期中の金曜日は20:00まで、土・日・祝休日は18時まで開館。(入館は閉館の30分前まで。)
休館:月曜日。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生700以下、満70歳以上は無料。(総合文化展のみ)
 *( )は20名以上の団体料金。
 *「台北 國立故宮博物院展」チケットで入場可。
 *9/15(月・祝)の敬老の日は無料。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「台北 國立故宮博物院展」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館
「台北 國立故宮博物院ー神品至宝」
6/24-9/15



東京国立博物館で開催中の「台北 國立故宮博物院展」を見て来ました。

6月下旬より東博で展示中の台北の故宮博物院コレクション。会期当初は2週間限定でかの白菜が出品されたこともあり大いに話題となりました。

「翠玉白菜」(台北 國立故宮博物院展) 東京国立博物館(はろるど)

私も早々に並んで白菜を見て来ましたが、何も本展、当然ながら見るべきなのは白菜だけではありません。そもそも台北故宮の誇る貴重な文物が日本でまとめて公開されたこと自体が初めてなのです。

しかも全200点超と大変なボリューム。なかなか一度だけでは追いきれません。というわけで先日、改めて東博へと足を運んできました。

これほど美しい青磁を見たのは初めてかもしれません。北宋の汝窯青磁。おおよそ1100年前後の僅か20年間あまりのみ操業したという汝窯、かの徽宗が特に好んだ青磁ですが、ともかくその色合い。「雨過天青」とも称されたそうですが、うっすらと乳白色を帯びた水色の色彩が透き通るようでもある。思わず息をのんでしまいます。


「青磁輪花碗」 汝窯 北宋時代・11~12世紀

会場には4~5点ほど出ていましたが、いずれも魅惑的で甲乙付け難いもの。ただあえて一点挙げるとすれば「青磁輪花碗」ではないでしょうか。やや深みのある碗は蓮の花びらの形をしています。花弁は薄い。何でも酒を温めるための器だとか。ちなみに現存する唯一の蓮形の汝窯青磁でもあります。

清明上河図を思わせる超細密画がありました。「市擔嬰戯図頁」です。いわゆる万屋でしょうか。一人の男が熊手や器、それに箒など無数の道具を持ち歩いています。その数は何と500個。まさに溢れんばかりの様子ですが、一つ一つが肉眼では判別不能なほどに細かい。パネルがないと何が描いてあるかわかりません。

日本には殆ど伝わっていない中国絵画も見どころの一つです。例えば元代の文人画の「張雨題倪さん像図巻」です。何でも潔癖性だったと伝わる人物がモデル、それこそ神経質そうな面持ちをした男が白い紙と筆を手にして座っています。この時代の文人画は人の内面を捉ようとしていたそうです。

また三国志でお馴染みの古戦場を描いた「赤壁図巻」も堂々としている。深く切り立つ岩山と大河上の小さな小舟。水面は細かに波だっています。こちらは後期期間(8/5~9/15)のみの展示でした。


「刺繍九羊啓泰図軸」 元時代・13~14世紀

刺繍絵も面白い。文字通り刺繍で絵を表したものですが、例えば南宋の「刺繍かん池浴日図軸」では荒れ狂う波を刺繍糸を活かして立体的に表現している。角度を変えると波が陽を受けて黄金色に輝いているようにも見えます。

古代の玉器では「玉珮」に目を引かれました。紀元前4000年前後、新石器時代に作られた玉器、ともかく四方にのびる爪のような意匠が個性的ですが、今でも一体何を表すのか分かっていないとか。そのかぎ爪の形から神や霊魂を引っ掛ける意味があったのではないかと考えられているそうです。


「紫檀多宝格」 清時代・乾隆年間(1736~1795)

乾隆帝が愛用したとされる「紫檀多宝格」もハイライトです。古代の玉器や磁器など30点ほどのミニチュアを収めた鑑賞箱、展示では箱とともにミニチュアもあわせて紹介。中には指輪も入れられています。


「藍地描金粉彩游魚文回転瓶」 景徳鎮窯 清時代・乾隆年間(1736~1795)

景徳鎮窯の小さな碗に惹かれました。「臙脂紅碗」です。これも色が絶品、薄いピンクとも桃色ともとれる美しい色合いをしています。また同じく景徳鎮窯では「藍地描金粉彩游魚文回転瓶」も注目の作品ではないでしょうか。深い青に雅やかな金彩、内瓶には可愛らしい金魚が泳ぐ。西洋の無線七宝の技法を取り入れています。


「人と熊」 清時代・18~19世紀

ラストは「人と熊」です。かの白菜同様、玉材の色彩をそのまま利用して象った彫像。想像以上に小さい。高さは6~7センチほどでしょうか。黒が熊で白い部分が人にあたります。さも楽しそうにじゃれ合っているようにも見えますが、何でも力比べをしているのだとか。ちょうど両者の重なる手の部分が黒と白の境目です。このような玉器が清の中期に流行したそうです。

[台北 國立故宮博物院展 巡回予定]
九州国立博物館:2014年10月7日(火)~11月30日(日) *肉形石は10/7~10/20のみ限定公開。

それにしても初めにも触れたように中国美術の精華と言うべき名品が揃っている。手短かな感想になってしまいましたが、ほかにも書などの見るべき作品が少なくありません。

これぞ眼福です。平成館を所狭しと埋め尽くす台北故宮の「至宝」、その言葉もあながち誇張ではないかもしれません。

タイミング良く平日に観覧出来たせいか、館内は賑わってはいたものの、思っていたよりは余裕がありました。少なくとも白菜が出ていた時のような混雑はありません。

公式アカウントがリアルタイムで混雑情報を発信しています。(@taipei2014tokyo)参考になりそうです。

「台北 國立故宮博物院を極める/とんぼの本/新潮社」

9月15日まで開催されています。

「台北 國立故宮博物院ー神品至宝」 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:6月24日(火) ~9月15日(月・祝) *「翠玉白菜」の展示期間は7月7日(月)まで。
時間:9:30~17:00。但し会期中の金曜日および「翠玉白菜」展示期間(6/24~7/7)は20:00まで、土・日・祝休日は18時まで開館。(入館は閉館の30分前まで。)
休館:7/14(月)、7/22(火)、7/28(月)、8/4(月)、9/1(月)、9/8(月)。但し6/30(月)、7/7(月)、8/18(月)、8/25(月)は特別展会場のみ開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生700(500)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「第20回 秘蔵の名品 アートコレクション展」 ホテルオークラ東京

ホテルオークラ東京
「第20回 記念特別展 秘蔵の名品 アートコレクション展」
8/8-8/31



ホテルオークラ東京で開催中の「第20回 秘蔵の名品 アートコレクション展」を見て来ました。

毎夏恒例、オークラでのチャリティーイベントことアートコレクション展。今年で20回を数えるに至りました。

テーマは「日本の美を極めるー近代絵画が彩る四季・花鳥・風情」。まさに四季折々、主に近代日本画に根付く日本の風情なり美意識を追う展示となっています。

さてタイトルに「秘蔵」とあるように、あまり見かけない作品が出ていることも多い展覧会ですが、今回、私が特に収穫だったのは培広庵の日本画コレクションです。


上村松園「桜狩の図」昭和10年(1935) 培広庵コレクション

例えば上村松園の「桜狩の図」です。桜の花が舞う中を進み歩く女性たち。桜色で桜の柄の着物を身にまとう。ふと振り返る立ち姿からして美しい。見惚れてしまいます。


島成園「化粧」大正4年(1915) 培広庵コレクション

島成園の「化粧」はどうでしょうか。真っ白な片肌を露にしては鏡を見やる。長い黒髪は僅かにほどけているようでもある。まるで親しい者しか見ることの叶わない親密な空間。顔は少し火照っています。何とも言い難い色気が漂っていました。

また池田蕉園の「秋思」も佳作です。ちなみに松園(京都)、蕉園(江戸)、そして成園(大阪)は当時、三都三園とも称された女性の美人画家。ここでそろい踏みで楽しめるわけです。(但し成園は結婚のため画業を離れ、蕉園は31歳の若さで亡くなってしまいます。)

そのほかにも鏑木清方の「翠影」に北野恒富の「願いの糸」も美しい。特徴でしょうか。培広庵のコレクションはどこか妖艶でまた香しい美人画が多い。粒ぞろいでした。


横山大観「四季の雨 夏」明治30年(1897) 東京藝術大学

横山大観の展示が秀逸です。ともに四幅対の「四季の雨」と「山四趣」を上下二段に並べています。制作年が25年ほど異なった2点、中期の「山四趣」はいわゆる朦朧体でしょう。霞や霧雨が野山を覆っては広がっています。墨のニュアンスも豊かで美しい。一方で初期作の「四季の雨」では精緻な線描が目を引きます。とくに夏の青竹です。時に曲線を描いて地面からリズミカルに並んでいる。これは惹かれました。

そして大観と言えば大倉集古館(現在、改修のため長期休館中。)ご自慢の「夜桜」も出展。しかしながら面白いのはその隣にある竹内栖鳳の「河畔群鷺」です。

 
竹内栖鳳「河畔群鷺」明治37年頃(1904) ひろしま美術館

広がる金地を背景にして描かれる3羽の鷺。左隻は枝にとまり、うち1羽は羽根を広げて今にも飛び立とうとしています。右隻の鷺は小舟の上です。まるで船頭のように先端で立つ鷺の誇らし気な姿。小舟も木も鷺も荒々しい筆遣いで描かれていますが、全てがぴたりと静止するかのように収まっている。水面の凪の墨線も無駄がありません。栖鳳の高い画力を伺わせます。

ちなみに館内での人気投票では迷わずこの「河畔群鷺」に入れました。果たして結果はどう出るでしょうか。


松林桂月「南天」昭和33年(1958) 明治座

今年充実した回顧展に接することが出来た木島櫻谷と松林桂月、そして大下藤次郎にそれぞれ優品が出ていたのも嬉しいところでした。それに深水や魁夷も目立っています。見どころは思いの外に多くありました。

[各回顧展の感想]
「松林桂月展」 練馬区立美術館
「木島櫻谷展」 泉屋博古館分館
「水彩画家・大下藤次郎」 千葉市美術館

来年秋に建て替えの決まったホテルオークラ、本館のメインロビーも見納めになってしまうのでしょうか。設計は谷口吉郎です。切子状の吊り灯の照明が目を引きます。



毎度発見のあるオークラのアートコレクション、私は毎年お盆休み中での観覧です。今年もいつものように楽しめました。


大下藤次郎「山上の眺め」明治41年(1908) 島根県立石見美術館

8月31日まで開催されています。

「第20回 記念特別展 秘蔵の名品 アートコレクション展  日本の美を極めるー近代絵画が彩る四季・花鳥・風情」 ホテルオークラ東京
会期:8月8日(金)~8月31日(日)
休館:会期中無休。
時間:9:30~18:30(入場は18時まで)*8/8のみ12時から開催。
料金:一般1200円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
住所:港区虎ノ門2-10-4 ホテルオークラ東京アスコットホール 別館地下2階
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩8分。
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「没後50年回顧展 板谷波山」 泉屋博古館分館

泉屋博古館分館
「没後50年回顧展 板谷波山」
6/14-8/24



泉屋博古館分館で開催中の「没後50年回顧展 板谷波山」を見て来ました。

昨年、没後50年を迎えた陶芸家、板谷波山。馴染み深いのは「葆光彩磁」です。うっすらと乳白色を帯びた豊かな色合い。その美しさに惹かれる方も多いかもしれません。

ずばり波山の業績を時系列で辿る回顧展です。出品は陶芸はもちろん、図案に資料ほか、映像までが並ぶ。初期作から絶作までを追いかけます。

はじまりは絵画です。「斉后破環図」と「花鳥図」。ともに東京美術学校時代の課題画です。おそらくは中国画に倣ったのでしょう。人物を象る細い線がニュアンスに富んだ陰影を描く。花鳥画は写実的です。後の陶芸の図案にも通じるものがあります。

最初期の蛙をモチーフとした「彩磁芭蕉蛙文花瓶」も可愛らしいもの。芭蕉の葉をぐるりと巻いて器に仕立てた造形も面白い。その上に蛙がちょこんとのっています。また珍しいひきがえるの木彫もありました。ちなみにこの時期の波山は東京を離れて石川に赴任。工業学校の彫刻科で教鞭をとっていたそうです。

陶芸家として独立するために上京した波山は田端に移り住みます。ここではじめて波山と称する。家から望んだ筑波山に因んだ号名。そもそも彼は茨城の下館の出身でもあります。

明治末から大正にかけては主にアール・ヌーヴォーのスタイルを取り込んだそうです。「葆光彩磁八ツ手葉花瓶」は波山の好んだ八つ手をモチーフとしたもの。葆光では最も早い時期の作品です。何でも自邸の庭の八つ手をスケッチしては器にしたとか。虫にかじられて穴のあいた葉も見られます。

面白いのは西洋との比較です。例えば「彩磁月桂樹撫子文花瓶」、中央部の月桂樹を境にして上をコバルト、下を白地にデザインした花瓶ですが、これがロイヤルコペンハーゲンの「釉下彩銀杏文花瓶」に似ている。波山が参照した可能性も指摘されています。

大正中期から昭和にかけては葆光彩磁の完成期です。鳳凰に孔雀といった正倉院御物のモチーフを取り込んでいる。また更紗や仏教工芸にも関心を寄せています。法隆寺夢殿の救世観音の光背に似た「葆光彩磁細口菊花帯模様花瓶」なども目を引きました。

それにしても会場には葆光彩磁の名品がずらりと並ぶ。高さ40センチを超える大作もあります。ちなみに出品は何も泉屋のコレクションだけではありません。出光美術館のほか、茨城県陶芸美術館や京都国立近代美術館、それにMOA美術館などからも作品がやって来ていました。

昭和以降は葆光彩磁が激減します。ここでは青磁が美しい。そして絶作の「紫陽花文茶碗」です。正面に紫陽花の咲いた小さな茶碗。何とも可憐でした。

いわゆる図案をはじめ、失敗作として打ち捨てられた陶片、ほかに彫刻刀や着用のガウンなどの資料も興味深いのではないでしょうか。また晩年の波山が自邸でペットと遊ぶ様子を捉えた映像までありました。それに孫のために描いた絵本やかるたなど、波山の人となりも伺える展示でもあります。

さて展示替えの情報です。如何せん手狭な泉屋分館のスペースです。一部の作品は会期途中で入れ替わります。全3期制です。

第1期:6/14~76
第2期:7/8~8/3
第3期:8/5~8/24

現在は最終の第3期です。なお同館受付にて有料チケットを購入の場合、2回目の観覧が半額になります。

ところで波山の展覧会と言えば、今年の初め、1月から3月にかけて出光美術館で「板谷波山の夢みたもの」と題した回顧展がありました。



「板谷波山の夢みたもの」 出光美術館(はろるど)

今回の泉屋の展覧会は出光展の巡回ではなく別物です。とは言え、上の感想でも触れたように出光展も素晴らしかった。甲乙付け難いものがあります。

おそらく波山の業績を多面的に見据えていたのは出光展、一方で構成としてオーソドックスなのは泉屋展でしょう。また出光展では出光コレクションの作品で占められていたのに対し、泉屋展は国内各地の美術館などの作品が網羅されている。とは言え、展示替えもあり、一度に多く作品を見られたのは出光展だったかもしれません。(ただし泉屋展も三期あわせると出光展と同等の出品数になります。)

二つあわせ見ることで改めて感じ入った波山の魅力。まさにメモリアルならではの展覧会と言えそうです。

[没後50年回顧展 板谷波山 今後の巡回予定]
兵庫陶芸美術館:2014年9月6日(土)~11月30日(日)

カタログが図版、論文含めて大変に充実していました。これは先だっての出光展を上回っているやもしれません。

現在、ホテルオークラで開催中のアートコレクション展のチケットを提示すると相互割引として2割引になります。こちらも有用です。

「HAZAN(DVD)/紀伊國屋書店」

8月24日まで開催されています。

「没後50年回顧展 板谷波山ー光を包む美しきやきもの」 泉屋博古館分館
会期:6月14日(土)~8月24日(日)
休館:月曜日。但し7月21日は、翌日22日は休館。
時間:10:00~16:30(入館は16時まで)*8/8~8/24は開館を延長し17時閉館。
料金:一般800(640)円、学生500(400)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。
 *受付にて入館チケットを購入した場合、会期中2回目の入館料が半額。(要半券)
住所:港区六本木1-5-1
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅北改札1-2出口より直通エスカレーターにて徒歩5分。
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「だまし絵2 進化するだまし絵」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「だまし絵2 進化するだまし絵」
8/9-10/5



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「だまし絵2 進化するだまし絵」のプレスプレビューに参加してきました。

2009年、Bunkamuraのほか、名古屋、神戸に巡回して大変な人気を集めた「奇想の王国 だまし絵」展。5年ぶりの続編です。「だまし絵2 進化するだまし絵」展が始まりました。

さてタイトルの「進化するだまし絵」、ずばり一体、何が進化したのでしょうか。

その答えが現代美術での展開です。前回展もラストは現代美術でしたが、今回はより志向が強い。ようは現代美術に重きの置かれた構成になっているわけです。


左:トーマス・デマンド「浴室」1997年 作家蔵

何とデマンドがありました。2012年に東京都現代美術館で行われた回顧展も記憶に新しいアーティスト。確かキャッチコピーは「紙で出来たリアル」、まさに本作こそかの展覧会のチラシ表紙にも用いられた「浴室」です。もちろんデマンドはその背景となる歴史や事件の参照も極めて重要ですが、ここではあえて単に風景が紙で出来ていることを押し出す。ようは「目をだます」の意味でのだまし絵、トロンプルイユとして捉えているのです。


右:杉本博司「Hyena-Jackal-Vulture」1976年 
左:杉本博司「Polar Bear」1976年


そして杉本博司のジオラマシリーズもトロンプルイユ、さらにはリヒターの「影の絵」、高松次郎の「赤ん坊の影」もだまし絵の範疇に取り込む。ともすると力押しかもしれません。とは言え、知られた現代美術もだまし絵の文脈として捉えるとむしろ新鮮に映ることも少なくない。その意味では発見と驚きの多い展覧会でした。

インタラクティブなだまし絵がありました。ダニエル・ローズィンの「木の鏡」(2014)です。


ダニエル・ローズィン「木の鏡」2014年 作家蔵

画像では分かりませんが、実はこの作品、前に立つと木片が自動で動き、人の影を象る。それが顔の形や表情まで感じ取れるほど細やかなのです。

上の写真の前に立つのは作家のローズィン氏本人です。手をさっと開き、頭を素早く動かしても、木片はかなり機敏に反応します。結論から言えば内蔵のカメラによって人影を感知、コンピューター制御によって動くわけですが、木というアナログな素材とデジタル機器を組み合わせた体験型立体だまし絵。何度も試してしまいました。


福田繁雄「アンダーグランド・ピアノ」1984年 広島市現代美術館

ほかに現代美術としてはヴィック・ムニーズ、それにエヴァン・ペニーも目を引くのではないでしょうか。また福田繁雄の「アンダーグランド・ピアノ」(1984)も面白い。半ば破壊されたかの如く不定形なピアノもミラーを通すと「正しい」姿で現れます。アナモルフォーズ的な志向が垣間見えました。


左:アニッシュ・カプーア「白い闇IX」2002年 金沢21世紀美術館

さらにはアニッシュ・カプーアや名和晃平から須田悦弘の作品もある。やはりだまし絵という名からするとかなり意外性のある展示と言えるかもしれません。


右:ジュゼッペ・アルチンボルド「司書」1566年頃 スコークロステル城
左:ジュゼッペ・アルチンボルド「ソムリエ(ウェイター)」1574年 大阪新美術館建設準備室


とは言え当然ながら全てが現代美術というわけではありません。まずそもそも冒頭はアルチンボルド。さらにハーグの画家ピアーソンから18世紀イタリアの歪曲像「アダムとエヴァ」が並ぶ。前回のだまし絵展を彷彿させる展開が続きます。


右:ルネ・マグリット「赤いモデル」1953年 BNPパリバ・フォルティス銀行
中央:ルネ・マグリット「真実の井戸」1963年 富山県立近代美術館
左:ルネ・マグリット「白紙委任状」1965年 ワシントン・ナショナル・ギャラリ


さらにエッシャー、マグリット、ダリといったシュールの画家の作品も目立ちます。これらはアナモルフォーズやメタモルフォーズの文脈、テーマ別での展示です。必ずしも時系列にだまし絵の変遷などを追っているわけではありません。

本来的にだまし絵の定義は厳密でなく曖昧。作家の意図とは別に結果として「だまし絵として見える」ことも少なくありません。

ここは思いっきり肩の力を抜いて楽しんだ方が良いのではないでしょうか。現代美術というとともすると難解とも思われがちですが、今回のだまし絵展においてそうした要素はありませんでした。

[だまし絵2 巡回予定]
兵庫県立美術館:2014年10月15日(水)~12月28日(日) 
名古屋市美術館:2015年1月10日(土)~3月22日(日) 

それにしても前回展は大いに話題となり、会期末は入場待ちの行列も発生しました。今回は今のところ規制も発生していませんが、週末の日中に関しては多少混み合っているようです。

公式サイトに混雑状況が掲載されています。お出かけの際にはあわせてご参考下さい。

「だまし絵2 進化するだまし絵」開催概要(Bunkamura ザ・ミュージアム)


ハンス・オプ・デ・ベーク「ステージング・サイレンス」2013年

ラストのハンス・オプ・デ・ベークの映像作品が20分近くあります。少し長めですが、これが思いの外に面白い。最初から最後まで見入ってしまいました。

ところで先に紹介した須田の彫刻、実は会場に3点ほどあります。うち1点のみがキャプション付き、ほか2点はいつものように片隅へひっそりと隠れています。お見逃しなきようご注意ください。

10月5日までの開催です。まずは早めの観覧をおすすめします。

「だまし絵2 進化するだまし絵」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:8月9日(土)~10月5日(日)
休館:9月8日(月)。
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21:00まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。要電話予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「ジョージ・ネルソン展」 目黒区美術館

目黒区美術館
「ジョージ・ネルソン展ー建築家、ライター、デザイナー、教育者」 
7/15-9/18



目黒区美術館で開催中の「ジョージ・ネルソン展ー建築家、ライター、デザイナー、教育者」を見て来ました。

20世紀後半のアメリカで活動したデザイナー、ジョージ・ネルソン(1908~1986)。1946年から25年の間は、今も世界で展開するインテリアメーカー、ハーマン・ミラー社のデザインディレクターを務めていたことでも知られています。

ネルソンの業績を紹介する日本で初めての大規模な展覧会です。出品はヴィンテージの家具をはじめ、時計やランプ、また住居などの図面や建築模型など約300点余。また彼が展示デザインを行った「アメリカ博覧会」(1959年、モスクワ)の資料もあります。


「CSS(システム収納棚)」1959年 ヴィトラ・デザイン・ミュージアム

さてまずはネルソンの家具、キーワードは「システムとしてのデザイン」です。また一方で機能性という言葉にも集約されるかもしれません。そして収納を極めて重視しています。代表的なのは「ストレージ・ウォール」でしょう。今で言う壁に備え付けの収納棚。また「L字型のディスク」でも収納には様々なヴァリエーションがある。チェストもテーブルもシンプル。引き出しはたくさんあります。奇を衒うことはありません。


「スワッグレッグ・デスク」と「スワッグレッグ・チェア」

ハーマンミラー社は「メレッグ・テーブル」を食卓と作業台を兼ねたテーブルとして売り出します。天板にオーク材を用いた長方形のテーブル。確かにどちらの用途でも利用出来そうですが、そもそもネルソン自身、家庭と仕事をあまり区別しなかったそうです。言わばその思想のゆえの家具なのかもしれません。

なお家具の展示方法、率直なところ少し驚きました。と言うのも一部は大きなラックに2段重ねになって置かれているのです。ようは下段の家具は正面から見られますが、上段のそれは下からしか見られない。椅子も脚の部分から反対方向を覗き込む形になります。

まるで某輸入家具店のような2段重ねの展示。ある意味では壮観ですが、やはり上から回り込んで見たい部分はあります。ここは判断が分かれそうです。

「アメリカ博覧会」が一つのハイライトかもしれません。ネルソンにとって展示会は新しい構造技術や建築資材を披露する格好のチャンスでした。会場では当時のジャングルジムと呼ばれるフレームを再現しています。中にも入場可能です。ほかに映像などを加えて体感的に博覧会を知る工夫がなされていました。

照明も目を引きます。「バブルランプ」です。当時人気を集めていたスウェーデン製のシルクを用いたランプを模したもの。しかしながらシルクは高価で決して普及品とは言えない。そこでネルソンは考えました。プラステックの吹き付けです。それを用いることで高い耐久性と低コスト化を実現しました。


「ポール・クロック」1948年 ヴィトラ・デザイン・ミュージアム

その一方で時計はやや趣きが異なります。有名なのは「ポール・クロック」です。ほかにも星や目の形をしたもの、はたまたダイヤモンドや竪琴などと名付けられた時計がずらりと並びます。いずれも意匠からして個性的です。またいわゆる文字盤はなく、必ずしも正確な時間を伝えるわけでもありません。



そもそもネルソンは時計のデザインに際し、インテリア感を高めることを重視していたとか。収納性が要求される家具とはそもそも別物と考えていたのかもしれません。とは言えパーツを共通化するなどの工夫は抜かりない。コストに関する意識は家具と同じだったのかもしれません。

ネルソンはまた教育者でもあります。デザイナー、プロデューサーとして成功した後は、大学などでの講演活動も盛んに行っていたそうです。その点についての展示もありました。


「マシュマロ・ソファ」

1階の一部分のみ撮影可能でした。(ここにアップした写真は全て撮影可のコーナーで撮ったものです。)良く知られる「マシュマロ・ソファ」も座り心地を試すことが出来ます。

ドイツのヴィトラ・デザイン・ミュージアムの企画による世界巡回展。日本では目黒のみの単独開催だそうです。ネルソンの家具に関しての嗜好は分かれるかもしれませんが、少なくとも制作の一端を知る良い機会ではないかと思いました。



図録が英語版のみでした。(初めは気がつかずに日本語版を探してしまいました。)それとは別に日本語でのパンフレットを有料で発行しているようです。

「Architect, Writer, Designer, Teacher George Nelson/Vitra Design Stiftung

9月18日まで開催されています。

「ジョージ・ネルソン展ー建築家、ライター、デザイナー、教育者」 目黒区美術館
会期:7月15日(火)~9月18日(木)
休館:月曜日。但し7/21(月・祝)及び9/15(月・祝)は開館。翌日は休館。
時間:10:00~18:00
料金:一般1000(800)円、大高生・65歳以上800(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:目黒区目黒2-4-36
交通:JR線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線目黒駅より徒歩10分。
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「夜の不思議の水族園」 葛西臨海水族園

葛西臨海水族園
「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」 
8/13-8/16



葛西臨海水族園で開催中の「夜の不思議の水族園」へ行って来ました。

今年開園25周年を迎えた葛西臨海水族園。通常は17時までの営業ですが(土日は18時)、お盆期間中(8/13~8/16)のみ「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」と題し、20時まで開園しています。



さて見どころ満載の水族園、私が着いたのは18時頃。まだ日没前ということで周囲は明るい。館内も家族連れを含めて賑わっていました。



こちらはお馴染みの回遊式のマグロ大水槽。勢い良くマグロが泳いでいます。



色鮮やかな南国の魚もたくさん。なお夜間開園時の館内はいつもより照明を落としています。よってかなり暗い。キャプションも殆ど読めません。そのせいでしょうか。魚はより鮮やかに見えました。



タチウオの立て泳ぎも面白い。なかなか間近で観る機会もありません。

「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」イベント一覧

さて夜間開館、いくつかイベントがありますが、興味深いのはガイドトークです。水族園のスタッフの方々が「夜のスペシャルガイド」と題して、マグロにペンギン、海鳥の夜の生態について話して下さいます。



私が聞いたのはペンギンと海鳥です。ペンギンで最も小さいフェアリーペンギンは夜行性で日が暮れると活動を始めるとか。可愛らしい鳴き声をあげていました。



ちなみに「Night of Wonder」のテーマはカリブ海です。テントデッキの大テントにはカリブ海に因んだ生き物の投影も行われます。



またテラス席ではカリビアンドリンク(もちろんビールも)も販売中。迷わずビールをいただきました。それにミュージックライブなど大人も楽しめる仕掛けも少なくありません。



「夜は魚も寝るのかな?」の特別ガイドも夜間開館時のみのイベントです。暗い中に照明を当ててのガイド。水槽内の生き物を触れるコーナーもありました。



19時半頃からぐっと人が減って来ました。そして人が少なくなるとさらに館内が暗く見えるもの。最後は殆ど真っ暗です。足元すらおぼつきません。



20時近くまで堪能した後は館外へ。もはやシンボルと化したドームも夜間開館時は緑色にライトアップされます。ちなみに水族園の設計はかの谷口吉生です。毎度のことながら美しい。見惚れてしまいます。



4日間の限定イベントです。夜間開園「Night of Wonder」は8月16日まで開催されています。

「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」 葛西臨海水族園(@KasaiSuizokuen)
会期:8月13日(水)~8月16日(土)*夜間開園期間
休館:会期中無休
時間:17:00~20:00 *開園時間を3時間延長。17時前も入場可。
料金:一般700(560)円、65歳以上350(280)円、中学生250(200)円。小学生以下、及び都内在住の中学生は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:江戸川区臨海町6-2-3
交通:JR線葛西臨海公園駅より徒歩5分。
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「日本SF展」 世田谷文学館

世田谷文学館
「日本SF展・SFの国」
7/19-9/28



世田谷文学館で開催中の「日本のSF・SFの国」展を見て来ました。

星新一、小松左京、筒井康隆、真鍋博といった「日本SFの第一世代と呼ばれる作家たち」。(チラシより引用)

SF好きはもちろん、あまり馴染みがなくとも一度は作品に目を通した経験がある。そして鉄腕アトムにゴジラからウルトラマン。もはや知らない者はいないとしても過言ではありません。


真鍋博「にぎやかな未来」 1978年 愛媛県美術館

日本で花開いたSF文化を追いかけます。出品は創作メモや自筆原稿、ゆかりの品々のほか、特撮関連の資料などです。盛りだくさんでした。

冒頭の資料に驚きました。戦前です。1913年の「日米開戦ゆめ物語」、何とも物々しいタイトル。内容も推し量られますが、今振り返ればSFの文脈で捉え得る作品なのでしょうか。また一転してずらりと揃うのはSFマガジンです。色鮮やかな表紙原画もあります。創刊は1959年。ちょうど2014年の5月に700号を迎えました。

「七瀬ふたたび/筒井康隆/新潮文庫」

日本SFの父、海野十三です。こちらも古い作品では戦前の「地球盗難」、そして戦後の「原子力少年」や「海底都市」と続きます。さらに上記の第一世代が登場。作家別での紹介です。私が好きなのは筒井康隆ですが、中学か高校時代に夢中で読んだ「七瀬ふたたび」などは懐かしく思えました。


「日本SFサッカークラブ」の証拠写真

それにしても今でこそ市民権を得ているSFという言葉、当時はあまり認知されていなかったそうです。1963年に創立した「日本SF作家クラブ」の旅行では、宿泊先の旅館に「日本SFサッカークラブ」と書かれてしまったとか。先人たちの苦労も伺えます。


「大阪万博」テーマ館についての会議 1968年6月25日

1970年の大阪万博に関して行われた「国際SFシンポジウム」も興味深い。竹橋の科学技術館で開催されましたが、招待や宿泊先リストなど詳細なメモが残っています。またSF作家らも参画した大阪万博を批評した座談会資料も面白いもの。SFマガジンでの特集ですが、「大国はダメで小国のパビリオンが良い。」といった率直な意見も掲載されています。


小松左京「日本沈没」創作メモ

小松左京と星新一の展示が充実しています。星新一のコーナーでは不思議なことにテディベアがありました。何でも愛用のぬいぐるみだったそうです。知りませんでした。


手塚治虫「鉄腕アトム」直筆原稿 1964年 手塚プロダクション

「ゴジラ」ではセットデザインや絵コンテ、またゴジラに破壊される勝鬨橋の模型などがある。また手塚の「鉄腕アトム」や「火の鳥」などの自筆原稿にも注目が集まるかもしれません。

「日本沈没 上/小松左京/小学館文庫」

構成が独特です。展覧会を「日本SF大学校」として、各作家を教授陣に見立てる。章立てもSFの概論、専門講座、演習と大学風です。体系だってSF史を追うことが出来ました。


「日本SF展」撮影コーナー

決して広いとは言えないスペースでの展示ですが、見るべき、特に読ませる資料が多く、思いの外に時間がかかりました。

1950年代から70年代をリアルタイムで経験されている方はより深く楽しめるのではないでしょうか。とは言え、必ずしも過去ばかりに目が向いているわけではありません。今と未来のSFを見据えた展示もあります。



9月28日まで開催されています。

「日本SF展・SFの国」 世田谷文学館
会期:7月19日(土)~9月28日(日)
休館:月曜日(但し7月21日、9月15日は開館。7月22日、9月16日は休館。)
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般800(640)円、大学・高校生・65歳以上600(480)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:世田谷区南烏山1-10-10
交通:京王線芦花公園駅より徒歩5分。
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「キネティック・アート ワークショップ 参加割引キャンペーン」 損保ジャパン東郷青児美術館

8月24日まで損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「不思議な動き キネティック・アート」展。



現在、子どもと大人も問わず、全ての来館者向けに「かんたんキネティック・アート?!」と題したワークショップが行われていることをご存知でしょうか。

[ワークショップ・コーナー かんたんキネティック・アート!?]

・場所:1階ロビー
・料金:無料
・日時:8月2日(土)~8月24日(日)
  午前11時30分~午後5時(受付締切:午後4時)
・対象:お子様から大人の方まで
・申込み方法:当日自由参加
・内容:くるくる回せるうちわの両面に絵を描きます。

内容はうちわに絵を描いて楽しむというもの。材料費を含めて費用は無料、飛び入りでも参加可能です。


トーニ・コスタ「交錯」1967年 ポリ塩化ビニルのレリーフ・板

そのワークショップへの参加促進キャンペーンです。来館時に以下のリンク先ページを提示すると、割引料金にて展覧会を観覧出来ます。

[ワークショップ かんたんキネティック・アート!? 参加割引キャンペーン]

一般:1000円→800円
大学・高校生:600円→500円


*割引の適用は、1回限り、2名様までとさせていただきます。
*時間の都合でワークショップに参加できなくてもこのページを提示すれば、割引にて展覧会会場にご入場いただけます。

さてキネティック・アート展、私も会期序盤に見て来ましたが、主に1960年代頃のイタリアにおける「動く」現代美術を体感的に楽しめる展覧会です。

「キネティック・アート展」 損保ジャパン東郷青児美術館(はろるど)

また現代美術というと何かと先鋭的なイメージもあるやもしれませんが、本展においては少し違います。というのも時代もあるのでしょう。どこか懐かしい感覚さえ呼ぶ作品ばかり。電気仕掛けでのんびり動く作品を見ていると思わず和んでしまうようなことも少なくありません。

また渋谷のBunkamuraにてだまし絵展も始まりましたが、実は一部重なり合う部分があるのも見逃せません。と言うのも、だまし絵展の「オプ・イリュージョン」で紹介されるヴィクトル・ヴァザルリ。彼も広義のキネティック・アートの作家です。よってここ損保のキネティック・アート展にも出展があります。


グラツィア・ヴァリスコ「可変的な発光の図面 ロトヴォド+Q44」1963年 透明アクリル樹脂・木・電灯・電気モーター

いわゆるだまし絵の観点から渋谷と新宿の双方でキネティック・アートを追っていく。その点に関しては当然ながら損保のキネティック・アート展の方がより深く掘り下げています。

[ワークショップ かんたんキネティック・アート!?]キャンペーンページ

夏休みの自由工作にも役立つ「ワークショップ かんたんキネティック・アート!? 参加割引キャンペーン」、これを機会にキネティック・アート展へ出かけてはいかがでしょうか。

「不思議な動き キネティック・アート展ー動く・光る・目の錯覚」 損保ジャパン東郷青児美術館
会期:7月8日(火)~8月24日(日)
休館:月曜日。但し7/21日は開館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学・高校生600(500)円、中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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