「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」
7/19~10/29



東京国立近代美術館で開催中の「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」を見てきました。

戦後、「持ち家政策」などにより、数多く建てられた個人住宅には、建築家の手が加わることも少なくありませんでした。

そうした建築家の設計した住宅建築を紹介する展覧会です。建築家の数は全56組。ただし必ずしも通史的な展開ではありません。13のテーマを設定することにより、住宅の特質、ないし社会との関わり、または人の暮らしの変化などを、多様に浮かび上がらせていました。

冒頭のテーマは「日本的なるもの」です。「日本の家の起源はない」(解説より)との立場から、いかに建築家らが「日本的なもの」を、相対化しようとした経緯を紹介しています。高床式で、寝殿造をモダニズムから再検証した丹下健三の自邸のほか、レーモンドの自邸などが取り上げられていました。

続くテーマは、「プロトタイプと大量生産」です。住宅不足の時代、人々の旺盛な欲求に応えるため、プレハブが用いられ、ハウスメーカーが次々と参入します。住宅が工業製品と化し、大量生産される時代に入りました。例えば、1971年に第一号が誕生したセキスイハイムは、3年後の1974年、早くも5000戸も販売を達成します。と同時に、建築家らも最小限の住宅のプロトタイプを考案しました。

1960年頃から、住宅にコンクリートが使われるようになります。テーマ3の「土のようなコンクリート」です。東孝光の自邸、「塔の家」も、よく知られた建物ではないでしょうか。内外ともに、コンクリートの打ちっ放しです。写真やスケッチなどが展示されていました。

このような住宅の産業化に反発し、「住宅は芸術である」と唱えたのが、建築家の篠原一男でした。*テーマの4「住宅は芸術である」



篠原は、「人間らしい生活、響きのある空間を守る」(解説より)べく、住宅を芸術として捉えようと考えました。45度の角度の屋根が特徴的なのが、「谷川さんの住宅」です。施主は詩人の谷川俊太郎で、篠原は、室内にも垂直の柱に方杖を45度でかけました。床はなんと土だったそうです。


坂本一成「坂田山附の家」 1978年 神奈川県中郡大磯町
伊東豊雄「小金井の家」 1979年 東京都小金井市


伊東豊雄と坂本一成の2人の建築家に着目したのが、「閉鎖から開放へ」(テーマ5)でした。70年代初頭、公害の問題などに見舞われていた都市において、2人の建築家は、閉鎖性の際立つ家を設計します。しかし数年後に批評し、原初的な家を建築しました。それは当時、工場や倉庫にも見えたことから、「記号的」とも捉えることが出来るそうです。


左上:山下和正「顔の家」 1974年 京都市中京区

一方で、70年代には変わった家も登場しました。キーワードは「遊戯性」(テーマ6)です。山下和正の「顔の家」の構えは、まさしく顔で、それぞれ目が窓、鼻が換気口、口は入口の機能を有しています。グラフィック・デザイナーの施主が、人目をひくために望んで建てた家だそうです。


アトリエ・ワン「ポニー・ハウス」 2008年 神奈川県相模原市

暮らしと環境が調和して、初めて「生き生きとした空間」(解説より)が現れます。それに取り組んだ建築家の仕事に着目したのが、「新しい土着」(テーマ7)でした。アトリエ・ワンの「ポニー・ガーデン」も興味深いのではないでしょうか。その名が示すように、ポニーと生きるための家です。建物の一方の全てが、ポニーの生活する庭を向いています。


藤森照信「ニラハウス」 1997年 東京都町田市

美術家の赤瀬川原平の自宅である「ニラハウス」も楽しい住宅でした。設計したのは藤森照信で、屋根一面に鉢植えのニラが置かれています。さらに塀の上にも草が生えていました。しかし工事が困難なため、工務店は施工を渋ったそうです。そこで藤森は、友人に手伝いを呼びかけます。有志は、「縄文建築団」と称されるようになりました。

家とは家族の有り様を反映します。建築家らも、夫婦、家族、ほか多様なカップルのほか、職住一体の家など、多様な場を提供しました。*テーマ8「家族を批評する」


アトリエ・ワン「ハウス&アトリエ・ワン」 2005年 東京都新宿区

アトリエワンの「ハウス&アトリエワン」に目が留まりました。建築家夫妻の自邸兼事務所で、土地の間口が狭く、通称、旗竿地に建てられています。住居とオフィスを、一つの建物の中へ混ざり合うように設計しているのが特徴です。バルコニーや屋上には、半外部空間が作られ、内と外、外と内との関係を意識しています。


石山修武「開拓者の家」 1986年 長野県上田市

自給自足ならぬ、自らの手で家を建てる人々に目を向けたのが、「脱市場経済」(テーマ9)でした。石山修武の「開拓者の家」はどうでしょうか。施主は農家で、標高1000メートルの高原に位置します。施主は、溶接を含め、ほぼ全てを施工したそうです。今も手を常に入れているため、完成はありません。


岡啓輔「蟻鱒鳶ル」 2005年〜 東京都港区

岡啓輔も、自邸の設計から施工を一人で行いました。2005年に着工したものの、手が届く範囲のみで打設をしているため、10数年経った今も建設中です。おそらく年月とともに、家自体も変容していくのではないでしょうか。

日本の住宅建築の一つの特徴として挙げられるのが、「軽さ」でした。それは、単に量感としての軽さにとどまらず、ともすると軽薄とも捉えられない「意味としての軽さ」もあります。*テーマ9「さまざまな軽さ」


長谷川逸子「松山・桑原の住宅」 1980年 愛媛県松山市

長谷川逸子は、「松山・桑原の住宅」において、パンチングメタルのスクリーンを採用することにより、空の色や上の内部の明かりを透かして、軽やかさを表現しました。


長谷川豪「経堂の住宅」 2011年 東京都世田谷区

屋根を、壁の端の点で受けているように見えるのが、長谷川豪の「経堂の住宅」でした。屋根の裏、天井面が光を反射するため、まるで浮いているようにも感じるそうです。こうした浮いていることも、軽さへと繋がります。

「感覚的」も一つのキーワードです。1970年頃に、「感覚的とあえて呼びうる空間を持つ家が登場」(解説より)しました。そうした家々は、特に2000年以降、周辺環境、ないし都市との積極的な関わりが求められるようになりました。*テーマ11「感覚的な空間」


西麻貴+百田有希「二重螺旋の家」 2011年 東京都台東区

個性的とも呼べるのが、大西麻貴+百田有希の「二重螺旋の家」でした。台東区内の旗竿地に建つ家の内部は、螺旋構造になっています。階段ばかりで、明るい場所と暗い場所が混在しています。よって住人は、気分により、まさしく感覚的に場所を選ぶことが出来ます。螺旋は、内部を一つの長い空間として連続させ、旗竿地では通常、引き出しえない奥行きを生み出しました。

かつて不便だとされた町家も、土地の細分化の進む現代こそ、再び注目されていくのかもしれません。*テーマ12「町家:まちをつくる」


安藤忠雄「住吉の長屋」 1976年 大阪市住吉区

あまりも有名なのが、安藤忠雄の「住吉の長屋」でした。建物は三等分されていて、1階は玄関と居間、吹き抜け、そしてダイニングと浴室に分けられています。中央の中庭には屋根がありません。よって雨天時は、家の中にも関わらず、傘をさす必要があります。いわゆる狭小住宅ながらも、外部環境を引き込むため、あえて3分の1を吹き抜けとにした構造は、当時、大いに物議を醸しました。


藤本壮介「House NA 2011」 東京都杉並区

ラストのテーマは「すきまの再構築」です。先の町家と同様に、小さな土地、すなわち「すき間」を肯定的に捉え直した、建築家の活動を紹介しています。


清家清「斎藤助教授の家」 原寸大模型

実寸大模型も見どころの一つです。それが、1952年に清家清が設計した、「斎藤助教授の家」でした。建物の南面と縁側、居室、食事室、客間の内部空間が再現されています。オリジナルの家具も付いていて、靴を脱いで、内へ入ることも出来ました。


清家清「斎藤助教授の家」 1952年 東京都大田区

家は元々、傾斜地にあり、コストの観点からか、既存の基礎を利用して建てられました。そのために、一部が片持ち式の構造で、浮いています。基礎の一部がテラスに連続していたそうです。


清家清「斎藤助教授の家」 原寸大模型

畳と障子、そして襖が幾何学面を構成しています。実際の家自体は既に失われましたが、竣工時の資料をもとに、建材の資材や色彩なども再現されました。


清家清「斎藤助教授の家」 原寸大模型

扉や障子を動かすことは出来ませんが、家の中の椅子には座ることも可能です。


清家清「斎藤助教授の家」 原寸大模型

模型の裏側には、建築関係のカタログが設置されていました。自由に閲覧出来ます。



何か一つのストーリーがあるわけではなく、むしろテーマは多面的で、必ずしも取っ付きやすい展覧会とは言えません。しかし模型、図面、写真は多く、戦後の住宅建築を丹念に辿っていたのは事実でした。作品のボリュームもあり、1つ1つ追っていくと、観覧に時間がかかります。見応えは十分でした。


「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」会場風景

昨年にローマの「MAXXI国立21世紀美術館」、また今年3月にロンドンの「バービカン・センター」で開催された国際巡回展です。いわば国内への凱旋展でもあります。


テーマ4以降の展示室の撮影が可能です。10月29日まで開催されています。

「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」 東京国立近代美術館@MOMAT60th) 
会期:7月19日(水)~10月29日(日)
休館:月曜日。
 *但し9/18、10/9は開館。9/19(火)、10/10(火)は休館。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜・土曜日は21時まで開館。
 *入館は閉館30分前まで
料金:一般1200(900)円、大学生800(500)円、高校生以下、65歳以上無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *5時から割引:一般1000円、大学生700円。(金・土曜の17時以降は割引料金を適用。)
 *リピーター割引:本展使用済み入場券を持参すると、2回目以降は特別料金で観覧可。(一般500円、大学生250円)
 *本展の観覧料で当日に限り、「MOMATコレクション」も観覧可。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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「ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ 2017」 東京ミッドタウン

東京ミッドタウン芝生広場
「ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ 2017 in 東京ミッドタウン」
9/19〜10/4

東京ミッドタウンに、突如、パープルカラーのコンサートホールが現れました。



「東京ミッドタウン ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ 2017」
http://www.tokyo-midtown.com/jp/event/ark-nova/

それが「アーク・ノヴァ」です。高さ18メートルに、幅30メートル、さらに奥行きが36メートルあります。ポリエステル製の薄い膜で作られていて、風を送り、膨らませて設置します。よって移動可能です。折りたたんで、トラックで輸送することも出来ます。



「アーク・ノヴァ」が誕生したのは、今から4年前、2013年のことでした。切っ掛けは東日本大震災です。スイスの音楽祭の「ルツェルン・フェスティバル」が、日本の音楽事務所の「KAJIMOTO」ともに、復興支援のためのホールを考案しました。

基本構想とデザインを担当したのは、建築家の磯崎新と、美術家のアニッシュ・カプーアでした。2013年から、被災地の松島、仙台、福島の各地で展示され、コンサートやワークショップが開催されました。収容人数は最大494名で、これまでに延べ1万9千名を動員してきたそうです。ちなみに「アーク・ノヴァ」とは、新しい方舟を意味します。



正面から見ると球形のバルーンで、中央の穴が、反対側へと貫通しています。入口は向かって左手でした。空気圧を利用しているため、回転扉を抜けると、中に入ることが出来ます。まず目立つのは、天井を横断する柱ことドーナツホールでした。



入口右手がステージで、客席は左側へと階段状に連なっています。座席は、木製の上に、フェルトのようなクッションをのせた、簡易的なものでした。長時間の着席はきついかもしれません。



ホールは3台の送風機により、約1時間余りで膨らむそうです。あくまでもホールです。一般公開時に特別の展示物はありませんが、アーク・ノヴァの機能や活動を紹介するパネルなどが置かれていました。



内部は外観よりも広く感じるかもしれません。ビルに換算すると、5〜6階分もあるだけに、天井も高く感じました。



昼間の晴天時に出かけたからか、外の光がうっすらと膜に透き通り、透明感のあるワイン色に染まっていました。大胆な曲線を用いた造形は、カプーアならではのデザインと呼べるかもしれません。実際にも、カプーアがパリで展示した、「リヴァイアサン」に着想を得ているそうです。



会期中にコンサートなどのイベントが開催されるため、見学日時は限定されています。公開日程は以下の通りです。

[公開日程]
9月20日(水)~9月21日(木)13:00~18:00
9月22日(金)~9月24日(日)13:00~ 21:30
9月30日(土)13:00~ 23:00
10月1日(日)13:00~15:30、17:00~18:00

週末の「六本木アートナイト」時は、30日(土)の夜、23時まで公開されるそうです。夜のライトアップも楽しめるのではないでしょうか。



ミッドタウンに期間限定で登場した「新しい方舟」の「アーク・ノヴァ」。これからも、被災地をはじめとした日本各地を巡りながら、人々の集いの場となるのかもしれません。

コンサートなどの日程は公式サイトをご参照下さい。なお空調の能力に限界があるのか、内部はやや蒸し暑く感じました。

10月4日まで開催されています。

「ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ 2017 in 東京ミッドタウン」 東京ミッドタウン芝生広場
会期:9月19日(火)〜10月4日(水) 
日時:9月20日(水)~9月21日(木)13:00~18:00
   9月22日(金)~9月24日(日)13:00~ 21:30
   9月30日(土)13:00~ 23:00
   10月1日(日)13:00~15:30、17:00~18:00
 *10月1日は、15:30~17:00に「六本木アートナイト スペシャルプログラム」としてミニコンサートが開催され、開演中の入退場はできません。
 *最終入場は閉館時刻の30分前となります。
 *荒天中止。
料金:一般500円、小学生以下無料。
 *コンサートは別途料金。
住所:港区赤坂9-7 東京ミッドタウンガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
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「かみ コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「かみ コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎」 
8/29~10/22



日本の「かみ(紙)」をテーマにした展覧会が、銀座の資生堂ギャラリーで開催されています。

ただ単に「和紙」のサンプルが並ぶ展覧会かと思って行くと、やや意表を突かれるかもしれません。



というのも、ご覧の通り、暗がりの展示室内には、壺や水瓶、はたまた香炉や箸に皿、石斧が並び、さも古くから使われた道具、ないし工芸を紹介しているかのような趣きがあるからです。

実際、展示では、和紙を基調としながらも、和紙を作り出す「水」に着目し、お茶会に着想を得た「水会」や「お水え」による、しつらえや道具を並べて演出する手法がとられています。



その一つが「お水え堂」でした。机の上には、石菓子皿、それに隠岐の杉、隠岐の黒曜石で整形した玉の箱、さらには石見の白土で作った水碗などが置かれています。その下に敷かれたのが紙漉きの和紙でした。

お香や薬に利用される海浜植物、ハマゴウも素材の一つでした。ハマゴウは縄文以前より日本に分布し、浜で砂に埋もれては茎を伸ばし、青紫色の花をつけます。果実は生薬で消炎作用があるとされ、漢方薬にも利用されました。ユーカリに似た芳香を持つそうです。



アニミズムなども想起させるかもしれません。「縄文台」では雨乞いの壺のほかに、呪術具や、屋久杉で作った木偶なども並んでいます。枯れた植物の束も見えますが、これも浄浜香草、すなわちハマゴウでした。

会場を設営し、作品を出展したのは、2つの団体、コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎です。



コズミックワンダーとは、1997年、現代美術家の前田征紀により設立されたファッションブランドで、ファッションのみならず、美術などの領域でも幅広く活動しています。そのうちの1つとして、手漉き和紙を題材しにした、水会のパフォーマンスも行いました。

工藝ぱんくす舎は、同じく前田征紀と、工藝デザイナーの石井すみ子による美術ユニットです。「精神の空間を創造する」(解説より)ベく、様々な創作を行っています。

本展は、昨年、島根県立石見美術館で開催された「お水え いわみのかみとみず」展を再構成し、新作の「舟水会(ふなみずかい)」を加えたものです。



「かみ」には太古の「神」への思いも重ねたという「かみ コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎」展。縄文の息吹を感じながら、和紙の美しさ、ないし新たな可能性について想いを馳せるのも良いかもしれません。


10月22日まで開催されています。

「かみ コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:8月29日(火)~10月22日(日)
休廊:月曜日。
料金:無料
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.6「たくさんの失われた窓のために」・「ポチョムキン」

Vol.5「絵本と木の実の美術館」に続きます。「越後妻有 大地の芸術祭の里」へ行ってきました。

「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.5「絵本と木の実の美術館」

越後妻有への1泊2日の旅もそろそろ終わりです。「絵本と木の実の美術館」を見学した後は、車で越後湯沢駅に向かいながら、幾つかの屋外常設作品を観覧することにしました。

十日町南部と越後湯沢を結ぶ国道353号線は、信濃川へと注ぐ清津川の側を通っています。しばらく越後湯沢方面に南下し、川を見下ろす高台の上の公園に着くと、一つの作品がありました。それが内海昭子の「たくさんの失われた窓のために」でした。



ちょうど窓枠のようなフレーム状の作品で、中は空洞になっていて、上に白いカーテンがかかっています。高台ゆえか風が強く、終始、カーテンが揺れていました。

作家は、「妻有の風景をもう一度発見するため」に、窓を作り上げたそうです。まさしく同地に典型的な地形、ないし風景を切り取っているのでしょう。窓の中では、空の青と雲の白、そして里山の緑に川面の水色が美しいコントラストを描いていました。



この窓から、清津川を渡って、支流の釜川の川辺にも、もう1つ別の作品があります。しばらく車で進むと、ちょうど土手の上に、錆び付いた鉄板が見えてきました。フィンランドのカサグランデ&リンターラ建築事務所による、「ポチョムキン」でした。かなり大型で、内部も広く、ランド・アート、ないしは建築物的な作品と呼べるかもしれません。



鉄板の内側には、白い石が敷き詰められています。樹木は元々、この地に生えていたのかもしれません。すぐ右側が川で、岩場をざあざあと流れる水の音も聞こえてきました。それ以外の音は一切なく、そもそも人の気配がまるでありません。何やら結界の中にでも入り込んだようでした。



中央部は川に向かって開け、タイヤを吊り下げた柱が設置されています。座るとブランコのように漕ぐことも出来ました。



さらに進むと景色が変わりました。最奥部での展開です。急に間口が狭くなり、人の背よりも高い鉄板が両側に連なります。その後、通路は右側へと折れました。



すると川に面したステージのような空間が現れました。眼下には釜川が流れ、奥には里山の光景が広がっています。縦に長い空間を、効果的に利用していたのではないでしょうか。実際にも、作品は「禅庭」を意識したそうですが、確かに厳粛な雰囲気も感じられました。自然の中へ鉄を介在させながら、内から外へと連なる空間に変化を与えていました。



しばらく風を感じ、水の音に耳をすませ、緑を目に焼き付けた後は、再び国道353号へ戻り、越後湯沢駅を目指しました。ここで全行程終了です。



越後湯沢に着いたのは15時半前でした。そしてレンタカーを返却し、駅のぽんしゅ館を覗きつつ、土産を買ったのち、上越新幹線「Maxたにがわ」で帰京し、自宅へと帰りました。

結果的に、越後妻有では、初日に松之山、松代を巡った後、「光の館」に宿泊し、2日目に十日町の「キナーレ」や「絵本と木の実の美術館」などを見学しました。

トリエンナーレ、及びイベントの期間中ではなかったため、幾つかの作品の観覧が出来ませんでした。ボルタンスキーの「最後の教室」もクローズしていました。しかしトリエンナーレ開催時でなくとも、広大な領域に、各施設や作品が点在しているため、想像以上に見ごたえがありました。また風景に作品が馴染んでいます。芸術祭も、初回から15年以上も経過していることもあり、地域に根ざしているといえるのかもしれません。


次にトリエンナーレが行われるのは来年です。2018年の7月末から、約50日間の日程にて開催されます。

「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018」
会期: 2018年7月29日(日)~9月17日(月・祝)
会場: 越後妻有地域 (新潟県十日町市、津南町)

次回は松之山の温泉などを絡めても楽しいかもしれません。アートだけではなく、食事も、そして自然も満喫出来ました。また来夏に越後妻有の地を旅したいと思います。

以上にて「越後妻有 大地の芸術祭の里を旅する」のエントリを終了します。

*「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する
Vol.1「森の学校キョロロ」・「夢の家」
Vol.2「まつだい 農舞台」・「里山食堂」
Vol.3「光の館」
Vol.4「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」
Vol.5「絵本と木の実の美術館」
Vol.6「たくさんの失われた窓のために」・「ポチョムキン」

「たくさんの失われた窓のために」・「ポチョムキン」 「越後妻有 大地の芸術祭の里」@echigo_tsumari
公開期間:4月下旬(雪どけ後順次公開)~11月中旬
料金:無料。
住所:新潟県十日町市桔梗原キ1463-1(たくさんの失われた窓のために)、新潟県十日町市倉俣甲1650(ポチョムキン)
交通:JR線越後田沢駅より車で10分。JR線越後湯沢駅より車で40分。
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「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.5「絵本と木の実の美術館」

Vol.4「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」に続きます。「越後妻有 大地の芸術祭の里」へ行ってきました。

「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.4「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」



「絵本と木の実の美術館」は、十日町市の「鉢」と呼ばれる集落に位置します。土市から姿大橋を渡ると、細い山道に入りました。公式サイトに「山を越え、谷を越え」とありますが、まさしく山の中です。バス便もありますが、ともかく車でなければ、まず辿り着けません。すり鉢状の集落を前にすると、その底に「絵本と木の実の美術館」がありました。



美術館とはいえども、新設の建物ではなく、元は学校でした。2005年、この地にあった真田小学校が廃校になります。その後、2009年、第4回のトリエンナーレ開催時に、美術館として蘇りました。今でこそ「廃校アート」も珍しくありませんが、先駆け的な存在と言えるかもしれません。

かつてNIKKEI STYLEの、「専門家推薦 行って楽しい、再生された廃校12校」のアート部門で、一位になったこともありました。



その廃校へ生命を吹き込んだのが、絵本作家で美術家の田島征三でした。絵本の「学校はカラッポにならない」をモチーフに、自らの描いた物語を空間全体に表現し、「空間絵本」の美術館として再生させました。



廃校全体が絵本です。冒頭の旧体育館からして圧巻でした。至るところに、動物や人を象ったオブジェが展開しています。素材は木材でした。何でも流木で作られているそうです。ほかには紙も用いています。まさしく絵本の中へ彷徨い込んだかのようでした。



作品にはストーリーがあります。主役は3名の最後の在校生で、彼らが好きだった先生と、学校に昔から住みついているお化けが登場します。ただし特にストーリーを知らなくとも、カラフルで、何やら踊るような姿をとるオブジェを見るだけでも、十分に楽しめるのではないでしょうか。



世界観が徹底しています。体育館だけでなく、教室から廊下に至るにまで、行けども行けども、絵本の世界が続いていました。もはや作品は、学校に寄生、ないし住みついています。



ぎこちなく動く、可動型の大きなオブジェもありました。さらに黒板にも絵画が描かれています。中には落書きもありましたが、かつての子供たちが記したものだそうです。学校の記憶も随所に残っていました。



展示は1階から2階、さらに再び降りて1階へと展開します。2階の最も奥の教室では、巨大な蛇、ないし龍の頭のような形をした奇怪な生き物が、口を開けていました。迫力も十分です。



1階では、「ともとも・シズリン&征三の乱れ打ち!」と題し、廃材の楽器を鳴らして遊べる展覧会が行われていました。釜や竹の木琴、また大きなカゴを使った「すだれ雨音装置」などを実際に叩くことも出来ます。ちょうど私がいた時に、外国のお客さんが団体でやって来られましたが、皆さんも実に楽しそうに打ち鳴らしていました。



楽器は、全国各地で「ガラクタ音楽会」を開き、廃材打楽器奏者である山口ともが制作しました。たかが廃材、されど廃材です。確かに見た目はガラクタながらも、音は本格的で、時に思いもよらない音が出たりします。私もしばらく時間を忘れては叩きました。



田島征三の作品集を販売する「本屋くさむら」のほか、鉢の食材などを利用した「Hachi Cafe」もあります。木の温もりを感じられるような、居心地の良いスペースでした。



それにしても廃校跡とは聞いていましたが、まさかこれほど大規模なインスタレーションとは知りませんでした。見ごたえ十分です。



何せ山間部のため、アクセスに難はありますが、「大地の芸術祭の里」ならではの展示だと言えるのではないでしょうか。さながら飛び出す絵本な巨大バージョンです。校内を歩いていると童心へと帰ります。ここでしか味わえない空間が広がっていました。

Vol.6「たくさんの失われた窓のために」・「ポチョムキン」へと続きます。

*「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する
Vol.1「森の学校キョロロ」・「夢の家」
Vol.2「まつだい 農舞台」・「里山食堂」
Vol.3「光の館」
Vol.4「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」
Vol.5「絵本と木の実の美術館」
Vol.6「たくさんの失われた窓のために」・「ポチョムキン」

「絵本と木の実の美術館」 「越後妻有 大地の芸術祭の里」@echigo_tsumari
開館期間:4月下旬~11月29日(火)
休館:水・木曜日。
 *祝日の場合は翌日休館。
時間:10:00~17:00
 *10月、11月は16時で閉館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人700円、小中学生300円。
 *20名以上の団体で100円引。
住所:新潟県十日町市真田甲2310-1
交通:JR線・北越急行ほくほく線十日町駅より車で20分。JR線越後湯沢駅より車で60分。
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「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.4「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」

Vol.3「光の館」に続きます。「越後妻有 大地の芸術祭の里」へ行ってきました。

「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.3「光の館」

「光の館」を出た後は、十日町市街の中心部を目指し、道の駅「クロステン」に隣接する、「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」へと向かいました。


「キナーレ」公式サイトより

「キナーレ」は、2003年のトリエンナーレの開催時に建てられた施設で、設計を京都駅ビルなどで知られる、建築家の原広司が手がけました。当初は、「越後妻有交流館 キナーレ」と呼ばれていたそうです。

「キナーレ」とは、公募によって選ばれた愛称で、「この場所に来て下さい。」を意味する地域の方言と、特産品の着物を来て下さいを意味する、「着なされ」をかけて付けられたそうです。

その後、2012年、同じく原広司の手によりリニューアルされ、現在の「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」として再オープンしました。

建物は、正方形のコンクリート打ちっ放しで、1階に回廊と池(広場)、そして「十日町温泉 明石の湯」があり、2階に「越後妻有里山美術館」と、レストランやカフェがあります。1階部の池は、原が設計したものですが、現在は、イベントなども開催出来るように作られています。



私が出向いた時も、回廊中央に池はなく、広場となり、消防関連のイベントが行われていました。そのためか、駐車場はほぼ満車で、ファミリーも多く、大変な盛況でした。「キナーレ」は、単に美術館施設ではなく、当初の「交流館」の名が示すように、街の人々の集いの場としても機能しているようです。

この日は企画展がなく、常設展のみが開催されていました。出展作は全12点です。建物1階から2階へと至る回廊部に、作品が設置されていました。


ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー「ゴースト・サテライト」

スイスのアーティスト、ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガーが、冒頭の回廊を鮮やかに彩ります。タイトルは「ゴースト・サテライト」です。天井からはカゴや建具、椅子にオケ、そしてバトミントンのラケット、さらにはテレビのアンテナやパチンコ台などがたくさん吊られていました。その一つ一つが、いわばオブジェとして作られています。


ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー「ゴースト・サテライト」

「サテライト」の名が示すように、作家は人工衛星をモチーフに表現しました。また素材自体も、十日町市内で収集したもので、日用品や廃材などが利用されています。解説に「力強さ」とありましたが、むしろ祝典的で、華やいだ空間が構築されているように見えました。


山本浩二「フロギストン」

越後妻有の土地を意識した作品が多いのも特徴です。山本浩二は、同地の樹木を素材にしています。場内には、何本かの樹木や切り株が置かれ、上に黒いオブジェがのっていました。このオブジェこそが山本の彫刻です。作家は、樹木に彫刻を施し、さらに炭化させて、作品に仕上げました。台座の樹木と彫刻は、各々に対応しているそうです。


山本浩二「フロギストン」と「火焔型土器」(レプリカ)

また十日町といえば、国宝「火焔型土器」も有する、土器で知られた街でもあります。同地の笹山遺跡からの出土品のレプリカも、あわせて展示されていました。


カルロス・ガライコア「浮遊」

雪のような結晶がガラスケースの中で乱舞するのが、カルロス・ガライコアの「浮遊」でした。写真では分かりにくいかもしれませんが、透明ケースの下から風が送られ、中にたくさん入った小さな銀紙が、終始、宙を舞っています。


カルロス・ガライコア「浮遊」

この銀紙は、いずれも家の形をしていました。作家は、越後妻有の家屋をリサーチし、幾つかのパターンを抽出し、銀紙に切り抜いたそうです。淡く、白いキラキラとした光を放っていました。


栗田宏一「ソイル・ライブラリー/新潟」

越後妻有のみならず、新潟県全域に目を向けたのが、栗田宏一でした。その名は「ソイル・ライブラリー/新潟」です。無数の小瓶が、ケースに収められています。はじめは、何が入っているのか分かりませんでした。


栗田宏一「ソイル・ライブラリー/新潟」

答えは土です。栗田は、県内各地より576種類もの土を採取し、ガラス瓶に入れて並べました。まさに土の図書館です。個々に異なる土の色の描いたグラデーションに見入りました。


カールステン・ヘラー「Rolling Cylinder, 2012」

体験型の作品もあります。その1つが、カールステン・ヘラーの「Rolling Cylinder, 2012」でした。外観はほぼ真っ白な筒で、前後に階段がついています。そこから中へ入ることが出来ました。


カールステン・ヘラー「Rolling Cylinder, 2012」

するとご覧の通り、赤白青の3色の螺旋模様が、ひたすらに回転しています。世界に共通する理容店のサインポールを模した作品でした。3色は、血液の循環に由来する説があるそうです。そこに作家は、越後妻有へ人々を招く、芸術祭の循環のエネルギーを合わせ重ねました。ともかく中に立つと、後ろから回転する螺旋に押されるような錯覚に陥ります。平衡感覚が揺さぶられました。


レアンドロ・エルリッヒ「トンネル」

さらに面白いのが、レアンドロ・エルリッヒ「トンネル」です。エルリッヒも、錯覚や音の効果で、人の知覚や認識に揺さぶりをかけるアーティストの一人です。外観はトンネルに見えません。実際にも、豪雪地に多い、「かまぼこ倉庫」を模しています。ともかくは暗幕を開けて中へと入ってみました。


レアンドロ・エルリッヒ「トンネル」

思いもよらぬ光景が現れました。まさしくトンネルそのものです。しかも車付き、厳密には、車の模型が付いています。トンネルは真っ直ぐにのび、出口の先には、もう1つのトンネルが見えました。一見、山岳地帯の越後妻有で多く見られる、ごく一般的なトンネルに映るかもしれません。しかし、すぐに何かが違うことに気がつきました。


レアンドロ・エルリッヒ「トンネル」

スケール感です。実際に人が立つと、トンネルは、異様に小さいことがわかります。さらに細かいことに、錯覚を誘うため、車までが小さく作られていました。


エルムグリーン&ドラッグセット「POWERLESS STRUCTURES, FIG.429」

ほかには、クワクボリョウタの作品も、楽しいのではないでしょうか。お馴染みの鉄道模型を用いた、影絵のインスタレーションです。十日町界隈で着物を作るための道具を利用し、影絵を生み出していました。(クワクボリョウタ作品のみ撮影不可。)


マッシモ・バルトリーニfeat. ロレンツォ・ビニ「○in□」

美術館を抜けると、「越後しなのがわバル」と、ミュージアムショップがあります。バルのデザインは、イタリアのマッシモ・バルトリーニとロレンツォ・ビニが手がけています。天井の丸い照明は、信濃川に浮かぶ雲を表し、レストランの丸テーブルを繋げると、信濃川が現れるという仕掛けです。



書棚もあり、美術書のほか、越後妻有の歴史や民俗に関する書籍も、自由に閲覧することが出来ます。美術館内はやや寂しい人出ではありましたが、作品はもとより、原広司設計の建物など、見どころは少なくなくありません。


へぎそば由屋

「キナーレ」を観覧した後は、お昼時でもあったので、地元の名店、由屋へ立ち寄り、へぎそばをいただくことにしました。さすがに人気店だけあり、30分超の待ち時間でしたが、喉ごしもよく、コシの強いそばで、大変に美味でした。並ぶ価値は十分にあります。

そして信濃川の対岸、山岳地帯にある、「絵本と木の実の美術館」へ向かいました。

Vol.5「絵本と木の実の美術館」へと続きます。

*「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する
Vol.1「森の学校キョロロ」・「夢の家」
Vol.2「まつだい 農舞台」・「里山食堂」
Vol.3「光の館」
Vol.4「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」
Vol.5「絵本と木の実の美術館」
Vol.6「たくさんの失われた窓のために」・「ポチョムキン」

「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」 「越後妻有 大地の芸術祭の里」@echigo_tsumari
休館:水曜日。
 *祝日の場合は翌日休館。
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人800円、小中学生400円。
 *企画展により変更あり。
住所:新潟県十日町市本町6
交通:JR線・北越急行ほくほく線十日町駅より徒歩10分。JR線越後湯沢駅より車で60分。
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「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.3「光の館」

Vol.2「まつだい 農舞台」・「里山食堂」に続きます。「越後妻有 大地の芸術祭の里」へ行ってきました。

「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.2「まつだい 農舞台」・「里山食堂」



道の駅「クロステン」のある十日町中心部から、「光の館」へは、車で15分ほどでした。市街地を抜け、信濃川を渡り、小高い丘へと向かいます。さらに国道252号線から一本、細い道へ入り、坂を上がると、姿を現しました。それが、ジェームス・タレルの設計し、世界でただ1つ、泊まることの出来る作品、「光の館」でした。



「光の館」の見学は15時までで、以降は宿泊者のための時間となります。チェックインは16時で、その後、係の方の施設の説明、および誓約書への署名があるために、基本的に遅刻は許されません。無事、16時前に到着すると、間もなく「光の館」を予約して下さった、@zaikabouさんの7名のグループもやって来ました。ここで合流し、総勢12名で「光の館」へと入場しました。



「光の館」が完成したのは、最初に芸術祭がはじまった2000年でした。タレルは、十日町を一望出来る丘の上に、「瞑想のためのゲストハウス」として、近隣の豪農の伝統的な日本家屋をモデルに、「光の館」を建てました。2階建で、玄関も階段を上った2階部分に位置します。よって遠目からでは、高床式の倉庫か、神社建築のようにも見えました。



内部も純然たる日本家屋の佇まいです。2階には12.5畳、6畳の和室、ないしキッチンがあり、1階部に8畳の和室、そして浴室、そして2つのトイレと洗面所があります。また2階にはぐるりと一周、外側を取り囲むテラス(回廊)がありました。



「光の館」で最大の間が「アウトサイド(Outside In)」の部屋でした。天井の屋根が可動式で、スイッチを押すと、電気仕掛けで屋根が横へスライドし、部屋の真上に空が現れます。この日は雲ひとつない快晴でした。早速、開け放つと、青い空が目に飛び込んできました。



キッチンには、冷蔵庫、電気厨房機器、炊飯器、食洗機のほか、基本的な調理器具が揃っていて、自炊することが出来ます。食器も潤沢に用意されています。仕出しを頼むことも可能ですが、実際にこの日もたくさんの方が食材を持ち寄り、朝晩ともに自炊となりました。



有志の方が食事を作って下さり、アウトサイドの部屋に並べられると、自然に宴会が始まりました。ご馳走とともに、お酒をいただいていると、いつの間にか部屋の照明が変化していることに気づきました。タレルによるライトプログラムでした。



率直なところ、想像以上の美しさでした。部屋のLEDの光が変化するに伴い、空の色も大きく変容し、いつしか、通常は体験しえない、光と色の世界に包まれます。



ライトプログラムは日没後の約1時間にも及びますが、ひたすらに空を眺めていても全く飽きません。また屋根の厚みが殆ど感じられないからか、まるで空を薄くスライスして、フレームの中へはめ込んでいるかのようでした。空自体が一枚の絵画のように見えるかもしれません。



これほど長い時間、空を見上げたこと自体が初めての体験でした。空を見上げ、時折、写真を撮りつつ、さらに見上げ、また変化する光に驚きながら、ひたすらに美しい空の色に見惚れました。


ライトプログラムが終了すると再び宴会です。初めて会う方もおられましたが、いつしか打ち解け、酒はどんどん進み、笑い声の絶えない宴が賑やかに続きました。



浴室にもタレルの光の演出がありました。その名も「Light Bath」です。日没後、真っ暗闇となった風呂には、光ファイバーによる照明が施され、水面の光が揺らぎ、水中の体は発光するという、独特の幻想的な世界が生み出されます。(写真は昼間撮影)


光の魔術師・タレルの「光の館」に泊まってみた(gooいまトピ)より拝借しました。

湯舟は一度に5~6名ほど入れますが、洗い場が2つのため、基本的に2人ずつ入浴しました。実際のところ、私も少々、酔っていて、「Light Bath」の記憶がやや曖昧ですが、確かに湯舟に浸かると、体だけが白い光に包まれるように浮かび上がります。ほかではまず体験出来ません。しばし闇と光の風呂を楽しみました。



その後、男女で部屋割りをしたのち、自然と就寝となりました。しかし朝寝坊は出来ません。何せライトプログラムは、日の出の際にも再び行われるからです。



私もほぼ酔いつぶれて寝ていると、いつしか屋根の動く「ゴゴゴ」という音が聞こえて目が覚めました。また部屋の照明が変化します。日の出のライトプログラムの始まりでした。



やや寝ぼけていたため、記憶は曖昧ですが、おそらく午前4時半頃にライトプラグラムが始まったと思います。日の出前にも関わらず、12名が集合し、空を眺める時間がやって来ました。



徐々に空が明るくなっていきます。この日も晴天です。なお雨天時は当然ながら屋根を開けることが出来ません。天気に恵まれて何よりでした。



早朝には十日町に広がる雲海も望めました。ともかく抜群のロケーションです。



朝になると布団を上げ、朝食の準備が始まりました。良いお天気だったため、朝陽の差し込むテラスでいただくことにしました。



夕食と同じく、準備して下さったご馳走が並びます。野菜の甘みが凝縮した味噌汁や、柔らかい豚肉の炒め物など、どれも美味しく、ご飯もお代わりしては、お腹いっぱいに食べました。ごちそうさまでした。



屋根をずっと開け放っておくと、いつしか日の光そのものが室内へ差し込んできました。時折、鳥の飛ぶ姿も見えました。



チェックアウトは10時です。チェックイン時同様、係の方がやって来て、備品や建具に破損がないかを点検します。その後、諸々の清算を終えて、解散となりました。


実のところ、私自身、ほぼ何もせず、ただ空を見上げ、そして飲み食いに興じていたに過ぎませんでしたが、とても楽しく「光の館」に滞在することが出来ました。これも全ては参加された皆さんのおかげです。この場を借りて「光の館」ツアーに参加された方、そして予約して下さった@zaikabouさんに深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

Vol.4「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」へ続きます。

*「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する
Vol.1「森の学校キョロロ」・「夢の家」
Vol.2「まつだい 農舞台」・「里山食堂」
Vol.3「光の館」
Vol.4「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」
Vol.5「絵本と木の実の美術館」
Vol.6「たくさんの失われた窓のために」・「ポチョムキン」

「光の館」 「越後妻有 大地の芸術祭の里」@echigo_tsumari
休館:不定期。
時間:11:30~15:00(見学時間)
 *宿泊時のチェックインは16時から。チェックアウトは10時まで。
料金:中学生以上500円、小学生250円。(見学料)
 *宿泊料金は別途必要。
住所:新潟県十日町市上野甲2891
交通:JR線・北越急行ほくほく線十日町駅より車で15分。JR線越後湯沢駅より車で70分。
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「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.2「まつだい 農舞台」・「里山食堂」

Vol.1「森の学校キョロロ」・「夢の家」に続きます。「越後妻有 大地の芸術祭の里」へ行ってきました。

「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.1「森の学校キョロロ」・「夢の家」

「夢の家」の松之山から、「農舞台」の松代へは、道なりで約10キロあります。「農舞台」も「キョロロ」同様に、2003年のトリエンナーレ開催時に建てられました。現代美術のコレクションも有する総合文化施設で、ほくほく線のまつだい駅の目の前に位置します。



オランダの建築家グループMVRDVによる設計で、白い外観と、宙に浮いたような構造が特徴的な建物でした。1階に展示空間はなく、全ての施設が2階に存在しています。また建物真下に柱がありません。2階へアクセスするチューブのみで建物を支えていました。

入口のチューブを抜けると階段があり、左に「里山食堂」、右にミュージアムショップと展示スペースがあります。ちょうどお昼時でした。よって先に「里山食堂」で、昼食をとることにしました。



「里山食堂」で供されるのは、地元の野菜を中心としたメニューによる「里山ビュッフェ」です。大人は1500円で、大皿の料理を好きに取りに行くスタイルでした。キャラブキやヤーコンの天ぷら、それにミョウガのピクルスなど、地場の食材が目を引きました。



写真が拙くて恐縮ですが、いずれも想像以上に美味しく、野菜の旨みや滋味を感じられる料理ばかりでした。そして白米と玄米のご飯も抜群に美味しい。営業日とビュッフェ開催日に注意が必要ですが、まつだいへお出かけの際は是非ともおすすめします。


ジャン=リュック・ヴィルムート「カフェ・ルフレ」

なお「里山食堂」のスペース自体も作品です。手がけたのはフランスのジャン=リュック・ヴィルムートで、天井の円形照明に松代界隈の写真をはめ込みました。テーブル上の天板から鏡越しに見ることが出来ます。


ジョゼ・デ・ギマランイス「イエローフラワー」

腹ごしらえをしたあとは、「農舞台」から、背後の里山へ展開する、現代美術作品を鑑賞しました。「農舞台」は、「越後妻有 大地の芸術祭の里」の中核施設だけあり、多くの作品が設置されています。


ジョセップ・マリア・マルティン「まつだい住民博物館」

まつだい駅からのアプローチに、1500本にも及ぶカラーバーが設置されています。スペインのジョセップ・マリア・マルティンによる「まつだい住民博物館」で、旧松代町の各家庭が選んだというバーには、それぞれの屋号が記されていました。住民と協働して制作されたそうです。


草間彌生「花咲ける妻有」

青空の元、陽光を受けて華やぐのが、草間彌生の「花咲ける妻有」でした。2003年に制作された作品ですが、周囲にも花壇が整備され、かなり手入れが行き届いている印象も受けました。


イリヤ&エミリア・カバコフ「棚田」

「農舞台」で最も人気があるのが、イリヤ&エミリア・カバコフの「棚田」かもしれません。川の対岸の棚田設置された人型の彫刻と、「農舞台」にあるテキストで構成された作品で、舞台側の展望台から見ると、詩と彫刻が融合して見えます。カバコフは、春から秋の稲作の情景を、詩に表現しました。


大西治・大西雅子「ゲロンパ大合唱」

カエル型の謎めいたオブジェは、堆肥製造のための機械でもあるそうです。上部には口があり、刈り終えた草を入れると、堆肥を作り出します。移動可能とのことでしたが、確かに脚の部分にタイヤが付いていました。

「農舞台」は、裏手の里山にも、たくさんの作品が点在しています。ただし里山といっても、城址も残る、かなり急な山です。全て歩いて回ると3時間ほどかかります。


パスカル・マルティン・タイユー「リバース・シティー」

幾つかは車でも観覧が可能です。よって山道を車で上がることにしました。まず目立つのが、パスカル・マルティン・タイユーの「リバース・シティー」です。色鉛筆の群れを模した大型のオブジェです。いずれも高さ2メートルの位置に吊るされ、一本一本には、世界の各国の国名が書かれていました。


田中信太郎「○△□の塔と赤とんぼ」

さらに大きな赤トンボの作品がランドマークの如くにそびえ立ちます。全長14メートルもありました。ビルの4〜5階の高さに相当するそうです。


松田重仁「円ー縁」

トーテムポールが結界を築いているかのようでした。松田重仁の「円ー縁」です。5本のトーテムポールが、円を描いて立っています。中央にはパイナップルのような実が置かれていました。まるで捧げ物のようです。一体、何が入っているのでしょうか。


ハーマン・マイヤー・ノイシュタット「WDスパイラル・パート3 マジック・シアター」

ドイツのハーマン・マイヤー・ノイシュタットは、城山の休耕田の中に、劇場空間を作り上げました。筒状の彫刻が3つ連なっている建築物で、実際に中へ入ることが可能です。内部には鏡や半透明の壁があり、外の景色を見やることも出来ました。


ハーマン・マイヤー・ノイシュタット「WDスパイラル・パート3 マジック・シアター」

作家は、住民が集まって欲しいという願いを込め、劇場の意味のタイトルを付けたそうですが、率直なところ、中はややくたびれています。私には、不時着した宇宙船のように見えました。


ペリフェリック「まつだいスモールタワー」

城山で最も高い位置にあるのが、ペリフェリックの「まつだいスモールタワー」でした。松代の街を一望するロケーションです。背後には、急峻な山の上に建つ、松代城の模擬天守も見え隠れしています。



時間の関係で、全てを鑑賞出来ませんでしたが、自然の地形も取り込んだ作品は、越後妻有だからこそ可能な展示と言えるのではないでしょうか。見応え十分でした。



一通り、「農舞台」を見終えた後は、「クロステン」と呼ばれる十日町の道の駅へ立ち寄り、お酒や諸々の食品を購入した上で、初日の最終目的地である「光の館」へと向かいました。

Vol.3「光の館」へと続きます。

*「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する
Vol.1「森の学校キョロロ」・「夢の家」
Vol.2「まつだい 農舞台」・「里山食堂」
Vol.3「光の館」
Vol.4「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」
Vol.5「絵本と木の実の美術館」
Vol.6「たくさんの失われた窓のために」・「ポチョムキン」

まつだい「農舞台」 「越後妻有 大地の芸術祭の里」@echigo_tsumari
休館:水曜日。
 *但し祝日の場合は翌日休館。
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人600円、小・中学生300円。
住所:新潟県十日町市松代3743-1
交通:北越急行ほくほく線まつだい駅下車すぐ。JR線越後湯沢駅より車で約80分。
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「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.1「森の学校キョロロ」・「夢の家」

「越後妻有 大地の芸術祭の里」へ行ってきました。



ジェームス・タレル「光の館」
http://hikarinoyakata.com

はてなブログ「日毎に敵と懶惰に戦う」@zaikabouさんから、越後妻有の「光の館」へのお誘いをいただいたのは、今から2ヶ月ほど前、7月初旬のことでした。

それは、「光の館を、定員上限の12名で貸し切ったので、皆さんで泊まりませんか。」という、大変に有り難いお誘いでした。「光の館」とは、光のアーティスト、ジェームス・タレルの設計した、世界で唯一、宿泊の可能な作品です。とても人気が高く、春から秋にかけては、土日はおろか、平日でもなかなか予約が取れません。その館を貸し切りにする、@zaikabouさんならではのアイデアです。そもそも私自身、越後妻有に一度も行ったことがありませんでした。

よって「光の館」に宿泊することを目標に、1泊2日の日程で、越後妻有の「大地の芸術祭の里」を巡ることにしました。

私がアート関連の先輩や友人の5名と、東京駅で待ち合わせたのは、初日の朝の8時頃でした。上越新幹線の「MAXとき」に乗車し、越後妻有の玄関口である越後湯沢へ向かいました。@zaikabouさんのグループとは、夕方前に「光の館」で集合することにしました。

「大地の芸術祭の里」のエリアは広大です、展示施設は、鉄道のアクセスが不便な山岳地帯にも点在しています。よって越後湯沢駅でレンタカーを借り、越後妻有を目指しました。



国道17号から国道353号に折れ、西へ向かうと、すぐに山道に入ります。幾つかのトンネルを抜けると十日町市です。同エリアは日本有数の米どころです。たわわに稲穂を実らせた水田が目に飛び込んできました。



「越後妻有 大地の芸術祭の里」は、十日町を中心に東西南北、中里、津南、松之山、松代、そして川西の6つのエリアから成っています。「光の館」は最北部の川西地区に位置しますが、まずはエリア最西部の松之山、松代地区から見ることにしました。最初の目的地は「森の学校 キョロロ」でした。



越後湯沢から山を越え、信濃川を渡り、再び山岳部の松之山へと車を進めると、約1時間で「森の学校 キョロロ」に到着しました。キョロロは越後妻有一体の自然科学をテーマにした科学館で、2003年の越後妻有トリエンナーレの開催に伴って建設されました。キョロロの名は、同地へ田植えの時期に渡ってくる、カワセミのアカショウビンの鳴き声に由来するそうです。



建物は全て鋼で出来ていて、左手の塔を除くと、ほぼ平屋です。ともかく横へ長く、全長で160メートルほどあります。青空のもと、緑と対比的なサビ色が殊更に印象的でした。ちなみに冬季は雪に埋もれてしまうそうです。



キョロロの館内では地域の暮らしや生き物を紹介する展示が行われています。「森の水族館」では、たくさんの水槽の中に、サンショウウオのほか、十日町地域に生息する魚や水生昆虫が飼育されています。



古民家の再現展示も見どころの一つです。なお冬季は炉端に火が入り、里山の料理を味わうことも出来るそうです。年季の入った建具や釜なども置かれていました。



松之山の豪雪を体感的に知ることが出来るのが、「実寸大積雪ポール」でした。過去35年間の年間最大積雪深をポールで表現。1メートル越えは当たり前です。中には2メートルを超え、3、4メートル、さらには5メートル50センチに達した年もあります。キョロロの建物自体も耐候性の鋼板で造られているそうです。



窓からは鬱蒼とした緑に覆われた森が見えましたが、冬になれば白一色。全く異なった景色が開けているに違いありません。

キョロロの最大の目玉は「クワカブルーム」かもしれません。部屋の中にはクワガタ、カブトムシが放し飼いにされています。



その数が半端ありません。右も左もクワガタにカブトムシ。何頭いるのでしょうか。足元にも要注意です。うっかりすると踏んでしまいそうになります。いずれも地域の人々が繁殖させたクワガタだそうです。居合わせた子どもたちも大はしゃぎでしたが、私もこれほどたくさんのクワガタを一度に見たのは、生まれて初めてでした。



キョロロの塔は展望台になっていて、登ることが出来ます。ただしアクセスは階段のみで、全部で160段あります。さらに青い光を用いた逢坂卓郎の「大地・水・宇宙」の展示のために、ほぼ真っ暗闇でした。足元は悪く、登るのには思いの外に難儀しました。



展望台からの景色はご覧の通りです。絶景かなと言ったところでしょうか。さすがに見晴らしも良好です。遥か彼方にまで里山が続いていました。


遠藤利克「足元の水」

遠藤利克の「足元の水」も興味深い作品でした。大きな鉄板が地面に広がっていますが、その下には大量の水が溜められているそうです。建物の鉄板とも響きあっているように見えました。

マリーナ・アブラモヴィッチ「夢の家」
http://www.tsumari-artfield.com/dreamhouse/



キョロロを出た後は、松之山温泉を抜け、「夢の家」へと向かいました。「夢の家」とは、旧ユーゴスラビアのマリーナ・アブラモヴィッチが、築100年超の民家を改修して作った作品で、「家」の名が示すように、実際に宿泊もすることが出来ます。



内部の観覧は事前予約制ですが、この日は飛び込みだったため、外観のみ見てきました。一口で言えばともかく古い家です。もし「夢の家」と知らなければ、単なるあばら屋かと思って、通り過ぎてしまうかもしれません。なお「夢の家」は、2011年の長野県北部地震により被害を受け、一時閉鎖したものの、翌年に修復を経て再開されました。何せこれだけの古い家屋です。維持管理だけでも相当な労力が必要なことが想像されます。



コンセプトによれば、まさしく夢を見るための家です。銅の風呂で身を清め、夢見るためのスーツを着て、黒曜石の枕のベットで寝るとあります。そして見た夢を翌朝に記して記録するそうです。徹底しています。

温泉街からも外れた山の上の古民家での夢の一夜。ここで一体、どのような夢を見るのか想像しながら見学しました。



「夢の家」からは、再び車に乗り、松之山の北にある松代の「農舞台」へ向かいました。

Vol.2「まつだい 農舞台」・「里山食堂」へと続きます。

*「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する
Vol.1「森の学校キョロロ」・「夢の家」
Vol.2「まつだい 農舞台」・「里山食堂」
Vol.3「光の館」
Vol.4「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」
Vol.5「絵本と木の実の美術館」
Vol.6「たくさんの失われた窓のために」・「ポチョムキン」

越後松之山「森の学校」キョロロ(十日町市立里山科学館) 「越後妻有 大地の芸術祭の里」@echigo_tsumari
休館:火曜日。年末年始(12月26日~31日)。
 *但し祝日の場合は翌日休館。
時間:9:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人500円、小・中学生300円。
住所:新潟県十日町市松之山松口1712-2
交通:北越急行ほくほく線まつだい駅より車で20分。JR線越後湯沢駅より車で約60分。
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美術&カルチャーの新サイト名を募集中です

新たに立ち上がるアート関連のメディアから告知の依頼をいただきました。アート&カルチャーの新メディアが「サイトネーム」を募集中です。



[アート&カルチャーの新メディアのサイトネームを大募集]
この秋、アートを中心にさまざまなカルチャーの情報に関心のある「本当の大人」のための新メディアを立ち上げます。
仕事も順調でプライベートも充実した、なに不自由のない生活を送っていながら、ライフスタイルとしてはいまひとつの刺激がほしいと感じている大人のために、アート、デザイン、音楽、エンタテインメントといった広くカルチャー全般の情報や、それらのカルチャーを通じた休日の過ごし方を、その分野の達人たちから提供、提案するメディアです。
このメディアを立ち上げる上で、さまざまな名称が検討されましたが、いずれも決め手に欠け、広くみなさんにお考えいただくこととしました。

新メディアの概要は上記の通りです。美術のみならず、映画や日本文化(落語)など、幅広いジャンルのイベント企画や情報提供、さらに取材記事が掲載されるそうです。

[募集内容]
*新メディアの名称。
*アートやクリエイティブ、大人のためのメディアであることが連想できるもの。
*正式名もしくは略称のどちらかが4文字(例「バクモン」「メシうま」)で表記できるもの。
*採用となった方には謝礼として薄謝(Amazonギフト券10000円相当)を進呈いたします。

募集内容は新メディア、WEBサイトの名称です。正式名、及び略称が4文字で表記出来るものに限られます。日本語、英語は問いません。また採用の場合は謝礼が進呈されます。

[募集期間]
2017年9月30日(土)締切

[応募方法]
●名称案
●命名の理由
●ご芳名
●ご所属
●メールアドレス
を記入の上、件名に「エフピーコムズ 新メディア名称募集」とお書きの上、メールでご応募ください。
おひとり何通応募いただいても構いません。ただし1メールに付き1案のみ記載でお願いします。

[送付先]
エフピーコムズ 新メディア名称募集担当:宮古
miyako@fpcomz.co.jp

締切は9月30日(土)までです。上記送付先までメールで応募ください。なお一人で何通も応募してもOKですが、1メールにつき1案のみの記載です。ご注意ください。

私も新メディアの情報を詳しく得ていませんが、概要からすると「大人」がキーワード、ないしターゲットになっているのかもしれません。またメディアの名称自体を公募するという形自体も珍しいのではないでしょうか。

既に先行してフェイスブックページでも応募受付中です。アイデアのある方は応募してみてはいかがでしょうか。

株式会社エフピーコムズ(新メディア運営元)
http://www.fpcomz.co.jp
Facebookページ→https://www.facebook.com/fpcomz/
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「サンシャワー:東南アジアの現代美術展」(後編) 森美術館

森美術館
「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」 
7/5~10/23



前編(国立新美術館)に続きます。国立新美術館、森美術館の両館で開催中の「サンシャワー:東南アジアの現代美術展」を見てきました。

「サンシャワー:東南アジアの現代美術展」(前編) 国立新美術館

国立新美術館でのテーマが5つであったのに対し、森美術館は4つです。1つ目は東南アジアの経済的発展と、一方での格差や環境問題に言及した「発展とその影」でした。


ズル・モハメド「振動を、振動する」 2017年 作家蔵

立ち並ぶ高層ビル群のようにも見えました。シンガポールのズル・モハメドの「振動を、振動する」です。ステンレス製のパイプが縦へと連なっています。パイプにはスピーカーが付いていて、車の走行音が聞こえました。実際に高速道路の付近で録音されたものだそうです。スピーカーの音の振動がパイプへと僅かに伝わります。都市の喧騒を表しているのかもしれません。


リュウ・クンユウ「私の国への提案」シリーズより 2009年

マレーシアの都市の諸相を、コラージュに置き換えたのが、リュウ・クンユウでした。「私の国への提案」と題した連作では、同地の屋外彫刻や装飾物のほか、地下鉄に道路、さらには公園やプールで遊ぶ人の姿を捉えた写真などを、複雑に貼り合わせています。遠目では平面に見えるかもしれませんが、近寄ると奥行きがあり、確かにコラージュであることが分かりました。


リム・ソクチャンリナ「国道5号線」 2015年 作家蔵

カンボジアのリム・ソクチャンリナは、同国のハイウェイの拡幅工事によって変化した住宅地を写真に収めました。その名も「国道5号線」です。首都プノンペンからタイを結ぶ全長407キロの道路で、工事によるのか、真っ二つに切断された住宅などが写されています。人々の生活に介入した開発の痕跡が示されていました。


ジョンペット・クスウィダナント「言葉と動きの可能性」 2013年 森美術館

無人のオートバイが連なります。インドネシアのジョンペット・クスウィダナントの「言葉と動きの可能性」です。オートバイの上の旗は、学生運動やイスラム教徒のグループ、さらに政党などの団体の思想を意味しています。さらに同国で30年間も大統領の座にあったスハルト氏の辞任のスピーチを交え、「独裁政権の終わりと民主主義の始まり」(解説より)インスタレーションに表現しました。

「アートの制度が一般に浸透しているとは言えない東南アジア」では、アーティストらが自ら現代美術のためのスペースを開拓し、時に共同体を設立しつつ、政治や環境問題などで社会へ関与しながら、「制度的な枠組みを再構成」していきました。 *「」内は解説より


「アートとは何か?なぜやるのか?」展示風景

そうした取り組みをまとめて紹介したのが、2つ目のテーマ、「アートとは何か?なぜやるのか?」です。キャプションには「なぜやるのか?」の項目があり、各々のアーティストが何を志向して表現したのかを分かりやすい形で知ることも出来ました。


ソピアップ・ピッチ 展示風景

宗教的活動や霊性と現代アートの関係にも着目します。(3つ目のテーマ、瞑想としてのメディア。)カンボジアのソピアップ・ピッチは、時に仏教的な要素のイメージを借り、竹などで彫刻を築きました。ほかにも人間の臓器や植物などの同国の生活のモチーフにも着想を得ているそうです。


アルベルト・ヨナタン「ヘリオス」 2017年 作家蔵

キリスト教の天使と花を象徴した陶磁器を制作したのが、インドネシアのアルベルト・ヨナタンでした。タイトルは「ヘリオス」で、ギリシャ神話の太陽神を意味しています。壁一面にびっしりと並んでいるのが作品で、その数は計2000個にも及んでいました。


ドゥサディー・ハンタクーン 展示風景

同じく陶磁器を用いたのが、タイのドゥサディー・ハンタクーンです。動物や抽象を擬人化したというオブジェが展示台の上にのっています。またアメリカの彫刻家、カール・アンドレへのオマージュの作品もありましたが、素材を安価なものに変えていました。タイによるアーティストの社会的地位の低さを意味しているそうです。


モンティエン・ブンマー「溶ける虚空/心の型」 1998年 福岡アジア美術館

仄かな香りが伝わってきました。モンティエン・ブンマーは、「香の絵画」に薬草を塗りこんでいます。また立体の「溶ける虚空/心の型」は、仏像を鋳造するための型を作品として表現しています。中を覗き込むと、仏像の顔のような形が象られていることが分かりました。


トゥアン・アンドリュー・グエン 「崇拝のアイロニー」 2017年 作家蔵

絶滅危惧動物、センザンコウを祀ったのが、ベトナムのトゥアン・アンドリュー・グエンでした。センザンコウは東南アジアを生息地にするものの、長寿や精力増強の効果があると信じられていたため、密猟されてしまったそうです。

ラストは東南アジアの歴史を見定める「歴史への対話」です。比較的若い世代のアーティストが、政治、社会的文脈に沿いながら、歴史へと向き合っている作品を紹介しています。


バン・ニャット・リン「誰のいない椅子」 2013〜2015年 ポスト・ヴィダイ・コレクション

ベトナムのバン・ニャット・リンは、「誰もいない椅子」おいて、ベトネム戦争における同国の断絶を表現しました。理容室を模した部屋には、北ベトナム軍の戦闘機の実際の操縦席が置かれ、ほかにも戦争の遺物を散髪の道具として展示しています。映像に登場するのは南ベトナムの軍人で、客は北ベトナムの同じく退役軍人でした。


ロスリシャム・イスマイル「もうひとつの物語」 2017年 作家蔵

ロスリシャム・イスマイルは、1941年から45年の間に、故郷のマレーシアのクランタン州で起こった出来事を、インスタレーションとして構成しました。


ロスリシャム・イスマイル「もうひとつの物語」 2017年 作家蔵

まさに戦争の時代です。故郷を模したジオラマの上には、家屋や樹木に並んで、日本を含む、各国の戦闘機の模型も置かれています。また爆弾が炸裂した痕跡なのか、炎が燃え上がる様子も見ることが出来ました。


ロスリシャム・イスマイル「もうひとつの物語」 2017年 作家蔵

イギリスの植民地支配や日本の占領に反対する運動も台頭した時代です。イスマイルは、クランタンの人々にインタビューを敢行し、当時の出来事を知る人々の話を集めた上、一連のジオラマを製作しました。


フェリックス・バコロール「荒れそうな空模様」 2009/2017年 作家蔵

森美術館会場のラストを飾るのは無数の風鈴のインスタレーションでした。フィリピンのフェリックス・バコロールの「荒れそうな空模様」です。カラフルな風鈴が何と1200個も天井から吊るされています。

そもそもフィリピンは世界でも暴風雨が多い地域です。バコロールは地球温暖化に伴う天候の変化にも着目し、東南アジアに起源のある風鈴で、「嵐のような騒音と揺れ」(解説より)を表現しました。


フェリックス・バコロール「荒れそうな空模様」 2009/2017年 作家蔵

無数の風鈴は風に揺られてはガチャガチャと音を発しています。風鈴は、魚や鳥、それに花びらなどで装飾されていました。その姿自体も美しいのではないでしょうか。タイトルの天気雨を意味する「サンシャワー」のイメージも浮かび上がってきました。しばらく眺めては風鈴の音に身を委ねました。


アピチャッポン・ウィーラセタクン+チャイ・シリ「サンシャワー」 2017年 作家蔵

9つのテーマで辿る東南アジアの現代美術シーン。端的に一括りに出来ないとはいえ、その複層的で多様な表現を見知ることが出来ました。

2館あわせると展示内容は膨大です。「アート・フェス」とも銘打たれていますが、確かに芸術祭的な趣きも感じられました。

チケットは、両館共通、ないし単館の2種類での販売です。両館共通チケットはそれぞれ別の日に利用することも可能です。


私も国立新美術館と森美術館を別の日に見てきました。いずれも休日でしたが、会場内は空いていて、好きなペースで観覧出来ました。

写真の撮影、一部は動画の撮影も可能です。10月23日まで開催されています。

「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」 森美術館@mori_art_museum
会期:7月5日(水)~10月23日(月)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *但し火曜日は17時で閉館。
 *入館は閉館の30分前まで。
 *「六本木アートナイト2017」開催に伴い、9月30日(土)は翌朝6時まで開館延長。
料金:一般1800円、大学生800円、高校生以下無料。(国立新美術館と共通チケット)
 *単館:一般1000(800)円、大学生500(300)円。
 *( )内は15名以上の団体料金。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。

注)写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
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「サンシャワー:東南アジアの現代美術展」(前編) 国立新美術館

国立新美術館
「サンシャワー:東南アジアの現代美術展」 
7/5~10/23



1967年に設立され、2015年に経済共同体となった「ASEAN」(東南アジア諸国連合)は、今年で設立50周年を迎えました。

その東南アジア加盟10カ国における、1980年以降の現代美術を紹介する展覧会です。計86組のアーティストが出展しています。9つのテーマを設定し、東南アジアの現代美術の諸相を見定めていました。

会場はともに六本木の国立新美術館と森美術館です。つまり2館の同時開催です。特に順路の指定はありませんが、先に国立新美術館から見てきました。


イー・イラン「うつろう世界」(偉人シリーズより)  2010年 個人蔵

冒頭のテーマは「うつろう世界」です。古くから東南アジアは、国境を超えた人の移動が活発でした。そもそも多様な民族や宗教が混在する東南アジアを、厳密に定義することも難しいのかもしれません。


パンクロック・スゥラップ「どうやら3つの国家の統治は簡単にはいかなそうだ」 2015年 森美術館

マレーシアのイー・イランは、東南アジアの複雑な歴史を藍染で表現しました。また同国のパンクロック・スゥラップは、第二次大戦後にマレー民族の連合体として構想された「マフィリンド」の地図を木版画で描いています。あくまでも想像上の地図に過ぎませんが、天然資源や教育の問題も示されているそうです。


ウォン・ホイチョン「移民の皮膚/先住民の皮膚」 1998年 福岡アジア美術館

マレーシアが他民族国家であることに着目したのがウォン・ホイチョンです。「移民の皮膚/先住民の皮膚」では、輸入種と在来種の植物の皮で、多様な人種を象っています。キャプションには学名、俗称、起源のほかに、顔の項目があり、人の出自や来歴などが細かに記されていました。


ウォン・ホイチョン「マインド・ザ・ギャップ」シリーズより 2002年 ケネス・タン氏蔵

「マインド・ザ・ギャップ」の連作も興味深いのではないでしょうか。タイトルはロンドンの地下鉄で有名な注意喚起のアナウンスです。ウォンは故郷のペナン島とロンドンの同名の地図を組み合わせ、イギリスに支配されたマレーシアの歴史を表しました。

2つ目のテーマは「情熱と革命」でした。第二次大戦後の東南アジアは、内戦や民族紛争、そして独裁政権などにより、芸術表現が規制される場面も少なくありませんでした。


FXハルソノ「遺骨の墓地のモミュメント」 2011年 作家蔵

それに抵抗した「アーティストの葛藤を反映」(解説より)した作品を紹介しています。例えば赤い光を放つFXハルソノの「遺骨の墓地のモミュメント」は、一見、美しくも映りますが、実は中華系住民の虐殺と集団埋葬をテーマとした作品でした。


FXハルソノ「遺骨の墓地のモミュメント」 2011年 作家蔵

たくさんの小箱が積み上げられていて、中には被害者の名や記録写真の複製が納められています。赤い光もロウソクでの祈祷を表した明かりでした。


ワサン・シッティケート「青い10月」シリーズより 1996年 VKコレクション

タイのワサン・シッティケートは、1976年にバンコクで起きた学生デモの鎮圧事件を絵画に表しました。同事件はタイのクーデターの過程で発生し、学生を中心に数百名もの死傷者が出ました。大変に痛ましい事件で、「血の水曜日事件」とも呼ばれているそうです。


ワサン・シッティケート「失われた情報」 2011年 作家蔵

抗議の意思を示すためでしょうか。手前にはたくさんの人々が「NO WAR」などのプラカードを持って行進しています。いずれもアーティスト本人の裸を模していたオブジェでした。


サンチャゴ・ボセ「受難と革命」 1983年 ボセ家蔵

フィリピンのサンチャゴ・ボゼの「受難と革命」で、竹林の祭壇を築き上げました。祭壇の中心にはロバに乗ったキリスト像があり、周囲に瓦礫や旗、骸骨などが祀られています。キリスト教の受難と、スペインによる植民地支配の解放運動をテーマとしているそうです。


ヘリ・ドノ「政治指導者へのショックセラピー」 2004年 作家蔵

政治をキネティック・スカルプチャーで風刺したのが、インドネシアのヘリ・ドノでした。「政治指導者へのショックセラピー」では、椅子を権力に象徴し、座面の火を政治家たちの争いとして表現しています。


ヘリ・ドノ「政治指導者へのショックセラピー」 2004年 作家蔵

椅子にはガムラン演奏のための鐘がとりつけられていて、所定の時間になると音楽が流れます。平日、休日問わず、毎時30分に演奏が始まります。時間になると、係の方がスイッチを押してくれました。

公共空間での一時的なパフォーマンスなど、一定の形として残らない表現も少なくありません。そこに注目したのが3つ目のテーマ、「アーカイブ」でした。


「サンシャワー」展会場風景 *アーカイブ

ここではシンガポールの「ザ・アーティスト・ビレッジ」や、タイのチェンマイの「チェンマイ・ソーシャル・インスタレーション」などの活動を紹介。アーティストやキュレーターの編集したアーカイブを紹介しています。

多くは写真やテキストでの記録ですが、中には屋外に設置された作品を別の素材で再現したものもありました。いわば草の根の表現活動を見知ることが出来ました。


ブー・ジュンフェン「ハッピー&フリー」 2013年 作家蔵

第二次大戦後に次々と独立を果たした東南アジアでは、国家、個人を問わず、様々なアイデンティティーが問われるようになります。(テーマ4、さまさまなアイデンティティー。)ブー・ジュンフェンはシンガポールが独立を為さなかったという仮定のもと、2013年にマレーシア成立50周年を祝うというインスタレーションを制作しました。


リー・ウェン「奇妙な果実」 2003/2017年 作家蔵

チラシ表紙を飾ったのがリー・ウェンの「奇妙な果実」でした。作家は黄色人種である自身の人種を誇張して表現するため、身体を黄色で塗っては街を歩くというパフォーマンスを繰り広げています。その際に用いた提灯を展示しています。


イー・イラン「バラ色の眼鏡を通して」 2017年 作家蔵

展示室を埋めつくすほどに膨大なポートレートが現れました。マレーシアのイー・イランの「バラ色の眼鏡を通して」です。写真はマラッカのスタジオで撮影されたもので、広告看板のような壁紙に変容させた作品と、誕生や結婚の類型によって分類させた作品などを複数に組み合わせています。

国立新美術館会場の最後のテーマは「日々の生活」でした。ここでは「日常にある現実を表現」し、「アートは美術館に陳列されるものという概念に挑戦する」アーティストの活動を紹介しています。 *「」内は解説パネルより

しかしながら挑戦とはいえ、どちらかと言えば、体感型の親しみやすい作品が多いのも特徴です。


スーザン・ビクター「ヴェールー異端者のように見る」 2017年 作家蔵

スーザン・ビクターの「ヴェール・異端者のように見る」はどうでしょうか。レンズを吊った大型の筒状の作品で、中に入ることも出来ました。レンズに近寄ると、当然ながら周囲の風景が歪みます。また外から眺めると、無数の光の粒が反射しているようにも見えます。行き来しては変化する景色を楽しみました。


ナウィン・ラワンチャイクン「ふたつの家の物語」 2015年 作家、ナウィン・プロダクション

より作家の出自、日常を表現したのが、タイのナウィン・ラワンチャイクンの「ふたつの家の物語」です。作家の父はチェンマイの市場で「OKストア」という生地店を営んでいます。それを大胆にも展示室内に再現しました。


ナウィン・ラワンチャイクン「ふたつの家の物語」 2015年 作家、ナウィン・プロダクション

この再現度が高いのには驚きました。おそらく布地も現地から持ち込まれたのでしょう。独特の匂いが空間に染み付いています。


ナウィン・ラワンチャイクン「ふたつの家の物語」 2015年 作家、ナウィン・プロダクション

テーブルの上には、無造作に、新聞やアルバム、それにお菓子やビンなどが置かれています。父の姿こそありませんが、今にもふと現れては、生地の商いをするかのような臨場感もあるのではないでしょうか。まるでチェンマイの店へ実際に足を踏み入れたかのようでした。


アングン・プリアンボド「必需品の店」 2010/2017年 作家蔵

同じく店をモチーフにしたのが、インドネシアのアングン・プリアンボドの「必需品の店」でした。ご覧のように店棚には無数の商品がたくさん並べられています。フリーマーケットの様相に近いかもしれません。いずれも日本円で値札が付いていて、実際に購入することも可能でした。


アングン・プリアンボド「必需品の店」 2010/2017年 作家蔵

しかし「必需品の店」とありながら、商品は一見すると、何ら価値を持たないようなものばかりです。中には木の枝や石などもあります。人によってはガラクタに映るかもしれません。


アングン・プリアンボド「必需品の店」 2010/2017年 作家蔵

ここで作家は鑑賞者に「本当に必要なものは何か」(解説より)を問いかけているそうです。コインを片手に何か1つ、自分にとっての価値のあるものを探し求めるのも面白いかもしれません。


スラシー・クソンウォン「黄金の亡霊(どうして私はあなたがいるところにいないのか)」 2017年 作家蔵

会場内で最も人気を集めていたのが、スラシー・クソンウォン「黄金の亡霊」でした。広い展示室の中には、カラフルな糸が何と5トンも敷き詰められています。靴を脱いでは中へと入り、糸の上を歩きつつ、寝そべることも出来ました。


スラシー・クソンウォン「黄金の亡霊(どうして私はあなたがいるところにいないのか)」 2017年 作家蔵

この糸の中に隠された9本の金のネックレスを探すという作品です。しかも見つけると、申告の上、持ち帰ることも出来ます。


スラシー・クソンウォン「黄金の亡霊(どうして私はあなたがいるところにいないのか)」 2017年 作家蔵

私も探しましたが、糸の量が想像以上に多く、また複雑に絡まっているからか、まるで見つかりませんでした。

運に加え、相当に根気のいる作業です。ただし時間制限はありません。気の向くままに探し歩くのも楽しそうです。

後編(森美術館)へと続きます。

「サンシャワー:東南アジアの現代美術展」(後編) 森美術館

「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」 国立新美術館@NACT_PR
会期:7月5日(水)~10月23日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
 *毎週金・土曜日は21時まで開館。
 *「六本木アートナイト2017」開催に伴い、9月30日(土)、10月1日(日)は22時まで開館延長。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、大学生800円、高校生以下無料。(森美術館と共通チケット)
 *単館:一般1000(800)円、大学生500(300)円。
 * ( )内は20名以上の団体料金。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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「そこまでやるか 壮大なプロジェクト展」 21_21 DESIGN SIGHT

21_21 DESIGN SIGHT
「そこまでやるか 壮大なプロジェクト展」
6/23~10/1



21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「そこまでやるか 壮大なプロジェクト展」を見てきました。

やや謎めいたタイトルでもある「そこまでやるか」。実のところ私も内容の想像が付かず、ほぼ事前の情報も得ないまま、デザインサイトへと出かけて来ました。



冒頭はクリストとジャンヌ=クロードのアーカイブでした。言うまでもなく、クリストとジャンヌ=クロードは、景観を大きく変貌させるアーティストで、建造物を梱包するプロジェクトなどで知られています。日本では1991年、茨城県の水田地帯に、1340本の青色の傘を同時に配置して、話題を集めました。



面白いのが「フローティング・ピアーズ、イタリア・イセオ湖」です。イタリアの湖の上に、10万平方メートルもの黄色の布地を浮かべています。布は22万個のポリエチレン製の浮きに支えられていたため、観客は作品の上を歩いて体験することも出来ました。その遊歩道は3キロあまりの長さにも及んだそうです。まさしく「壮大なプロジェクト」と言えるのではないでしょうか。

つまり「そこまでやるか 壮大なプロジェクト展」とは、時に「そこまでやるか」と思うほどに驚きを引き起こす、芸術家らの「壮大なプロジェクト」を紹介する展覧会であったわけです。



淺井裕介の泥絵も圧巻でした。一方の壁面全体へ、まさに魑魅魍魎、多様で奇怪な動植物を描いています。タイトルは「土の旅」でした。



「そこまでやるか」と感じたのは、淺井が制作に際し、北は北海道、南は沖縄までの全国の土、全50種を用いていることです。中には開館記念展の「未来への狼火」に参加した群馬の太田や、ここ六本木のデザインサイトから採取された土もありました。



体験型のインスタレーションもあります。オーストリアとクロアチアを拠点に活動するアートユニット、ヌーメン/フォー・ユースによる「テープ・トウキョウ 02」でした。



かなり大掛かりな作品です。オブジェは前後左右、展示室内の四方へと広がっています。そして中央の下部に穴があり、2人ずつ中へと入ることが出来ました。素材がテープです。しかし量が半端なく、何と15キロメートル分も使用しています。元々、綿密な設計図を用いずに、現場にある構造物を利用して作り上げたそうです。まるで生き物の触手のようでもありました。



幾重にも巻き付けられたからか、構造物自体が半透明になっています。外から眺めると、中で行き来する人の姿がぼんやりと透けて見えました。



フランスのジョルジュ・ルースは、人の錯覚を利用した作品、「トウキョウ2017」を展示しています。真っ白な木材によって、一見すると幾何学的な構造物を作り上げていました。



実際の開口部は円ではなく、前後に複雑な形をしていますが、ある一点に立つと、完全な円のみが浮き上がって見えました。デザインサイトの空間にもよく映えているのではないでしょうか。

今年の3月に新設されたギャラリー3へも展示が続きます。西野達の「カプセルホテル 21」でした。



ご覧の通り説明は不要です。西野はデザインサイト内に、何とカプセルホテルを築き上げました。素材は発泡スチロールと金属の単管です。個々のカプセルが、ちょうど建物の1メートル幅の窓枠に収まるように設計されています。



西野に妥協はありません。いわゆる宿泊のために必要だと考えたのでしょうか。給湯室内に簡易的なシャワーブースも設置しました。実際にお湯も出るそうです。そのための配管も張り巡らされています。

会期中、夜間にカプセルホテルに滞在、ないし体験するイベントも行われています。(最終は9/15。全日程の予約終了。)



昼間は見学するのみですが、カプセルの中に入ることは出来ました。もちろんコンセントもあり、電気もつきます。長い夜を楽しむための工夫かもしれません。iPadまで設置されていました。



美術館内のカプセルホテルとは史上初の試みではないでしょうか。これまでにないアイデアと言えそうです。

さて「そこまでやるか展」では、さらに壮大なプロジェクトが、ミッドタウン内にて進められています。



それが「アーク・ノヴァ」です。高さ18メートル、長さは36メートルにも及ぶコンサートホールで、元々はスイスのルツェルン・フェスティバルが、東日本大震災の復興支援のために企画しました。ポリエステル製で、空気を送って膨らませて使用するため、折りたたんで移動することも出来ます。



デザインと基本構想を、彫刻家のアニッシュ・カプーアと、建築家の磯崎新が担当しました。既に2013年から2015年にかけ、松島、仙台、福島の3カ所で展示されてきたそうです。コンサートなどで延べ1万9千人を動員しました。

「東京ミッドタウン ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ 2017」特設サイト
http://www.tokyo-midtown.com/jp/event/ark-nova/

この「アーク・ノヴァ」が、期間限定にて、ミッドタウンのガーデン芝生広場に移設されます。期間は9月19日から10月4日の16日間です。ミッドタウン10周年を記念してのイベントでもあります。



私が見た際はちょうど設営中で、内部へ空気が送られたのか、外観はほぼ完成しているようにも見えました。

ホールの収容人員は494名で、移設期間中、内部が一般に公開されるほか、各種コンサートなども開催されます。

公開日は限られていますが、まさに東日本の各地を繋ぐ「壮大なプロジェクト」ではないでしょうか。これからお出かけの際は「アーク・ノヴァ」をあわせて見学するのも良いかもしれません。(アーク・ノヴァの入場料は500円。)


たまたま平日だったからか、会場内は空いていましたが、土日は混雑することがあるそうです。体験型の「テープ・トウキョウ02」は整理券方式です。土日は朝10時から全時間帯の券を配布し、なくなり次第、終了となります。ご注意下さい。



10月1日まで開催されています。

「そこまでやるか 壮大なプロジェクト展」 21_21 DESIGN SIGHT@2121DESIGNSIGHT
会期:6月23日(金)~10月1日(日)
休館:火曜日。
時間:11:00~19:00(入場は18:30まで)
 *9月30日(土)は「六本木アートナイト」の開催のため、24時まで開館延長。
 *入場は閉場の30分前まで。
料金:一般1100円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料。
 *15名以上は各200円引。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
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「引込線 2017」 旧所沢市立第2学校給食センター

旧所沢市立第2学校給食センター
「引込線 2017」
8/26~9/24



現代美術家と批評家による自主企画展の「引込線」も、今年で第6回を数えるに至りました。

会場は例年同様、所沢市内の旧市立第2旧学校給食センターです。調理台や鍋に配管などの設備も残る独特な空間を舞台に、計20名の美術作家が様々な作品を展示しています。


「旧所沢市立第2旧学校給食センター」場内風景

建物手前が入場口です。受付を済ませ、中に入ると、かつての給食センターの設備が目に飛び込んできました。いずれも既に役割を終えていますが、おおよそ展覧会会場とは似つかない空間と言えるのではないでしょうか。私も初めて足を踏み入れた際は驚いたものでした。


村田峰紀「trans」 2017年

村田峰紀の「trans」が大変な迫力です。配管にまとわり付いているのは無数の紙片でした。まるで霜のように四方へと広がっています。そして足元にも数多くの紙片が散乱していました。一体、全部で何枚の紙が用いられているのでしょうか。


村田峰紀「trans」 2017年

実のところ紙は辞書の一片でした。確かに「かーか」など国語辞典の見出しが見て取れます。使い古しで、既に使われなくなった辞書かもしれません。建物に寄生する生き物のように増殖していました。


冨井大裕「旅行者の制作」 2017年

同じく紙、ないし本を用いたのが冨井大裕です。題して「旅行者の制作」です。既製品と思われる黄色や青のスーツケースが置かれています。その合間に赤い布が垂れていました。一見するところ紙や本は見当たりません。


冨井大裕「旅行者の制作」 2017年

中身に注目です。よく見るとスーツケースは密封されておらず、僅かに隙間が空いていました。中に荷物として本が詰め込まれています。


二藤健人「断面をつなぐ」 2017年

隙間を効果的に利用したのが二藤健人でした。タイトルは「断面をつなぐ」です。やや背の高い木の台の上には、白いモニターが各々1台ずつ、向かい合わせになって設置されています。その合間は数センチにも満たず、僅かに何らかの動画が映し出されていることが分かるのみで、中のモニターをはっきりと見ることは出来ません。


二藤健人「断面をつなぐ」 2017年

モニターからは、終始、音声が発せられていました。人の語る声や、英語のナレーション、そして打楽器の叩く音、球がポンポンと飛ぶ音や、ディズニーランドのエレクトリカルパレードの音楽が聞こえてきます。となると、さらに映像の内容が気になりますが、どの角度から覗き込んでも画面を捉えられません。あくまでも音で映像の展開を想像するしかありませんでした。

このような形でモニターを使った展示を私は初めて見ました。そして面白い。映像があるのに見えないもどかしさを感じつつも、自由に内容を空想しながら楽しみました。


遠藤利克「寓話Vー鉛の柩」 2017年

埼玉県立近代美術館の個展の記憶も蘇りました。彫刻家の遠藤利克も「引込線2017」に参加しています。出展は1点、「寓話Vー鉛の柩」と題した直方体のオブジェでした。まるで古代の遺跡から掘り出した柩のようです。黒々と炭化した木の塊は重々しい量感をたたえていました。


うしお「連続しない時間・踊り場」 2017年

作品は階段の踊り場から建物の2階へと続きます。踊り場ではうしおが「連続しない時間・踊り場」を展示し、さらに建物裏口へと至るインスタレーションを展開していました。作品と建物の境界は曖昧で、時にどれが作品なのかすら判然としません。


寺内曜子「かまいたち」 2017年

事務室へ強い光をもたらすのが寺内曜子です。窓を紙で覆い、一部を裂いては、外光を取り込んでいます。さらに一面の窓の周囲にも紙を貼っていました。


寺内曜子「かまいたち」 2017年

これぞ紙の効果なのでしょうか。より外の景色が目に強く焼き付きました。建物自体と光、さらに屋外の景色も巻き込みながら、空間へ変化を与えていました。


末永史尚「ダンボール箱」 2017年

末永史尚は「ダンボール箱」や「発泡スチロール」と題した作品を出展しています。一見すると実物のダンボール箱があるように見えますが、実際は合板にアクリルで色を付けたオブジェでした。かなり精巧です。もちろん触ることは叶いませんが、思わず感触を確かめたくなるほどでした。


水谷一「Tertiary the younger Mud-stone」 2017年

水谷一は部屋一面に木炭の海を現出させました。さざ波のようになびく素材は紙で、その上に木炭で書きなぐりのような線を描いています。タイトルが宮沢賢治のイギリス海岸の一節を引いていました。かの詩に着想を得た作品かもしれません。


大野綾子「ねがう人、立てる人」 2017年

展示は建物の外にも続きます。ちょうど私が出向いた日は、横浜で活動する「blanClass」の阪中隆文がパフォーマンスを行っていました。


blanClass「blanClass@引込線2017」会場風景

題して「阪中家の偉大な穴」です。その内容がまた大胆でした。何でも間も無く生まれてくる、作家の赤ん坊の名を、来場者より募るというパフォーマンスです。参加者は書で命名することが出来ます。私も1つ、かなり真剣に名前を考えて提供しました。果たして如何なる結末を迎えるのでしょうか。


「引込線2017」会場入口 *野本直輝パフォーマンス

さらに会場入口では野本直輝が挨拶のパフォーマンスも展開。13時から17時までの間、入口に座っては通行人にひたすら手を上げて挨拶していました。ただし何せ所沢郊外の立地です。通行する人も少なく、ほぼ車が通るのみでしたが、たまに車内より挨拶を返してくれるとのことでした。

「blanClass@引込線2017」

なお会期中、主に土日を中心に、「blanClass」による多様なパフォーマンスも行われます。予めチェックしておいて出かけるのも良いかもしれません。

最後にアクセスの情報です。旧所沢市立第2学校給食センターの最寄駅は西武線の航空公園駅です。ただし駅から会場まで直線距離で約2.5キロあり、歩くと30分以上はかかります。

よって駅東口からのバスが有用です。1番乗り場より西武バスの「並木通り団地行き」に乗り、6つ先の「並木通り団地入口」で下車。バス停の向かいにあるショッピングセンターを抜けた先に旧給食センターがあります。バス停からはおおよそ400メートル弱です。

バスは毎時2~4本ありますが、バス停から会場への案内表示はありません。さすがに私は毎回通っていることもあり、迷うこともなくたどり着けましたが、表通りに面しておらず、分かりやすい場所ではありません。スマホの地図アプリなどを参照しておいたほうが良さそうです。


箕輪亜希子「house effect」(部分) 2017年

展示作品の記録や、批評家による論考を掲載したカタログは事前予約制でした。会場入口にて受付中です。予約すると、完成し次第、発送されます。


「引込線2017」会場風景

旧給食センターという特異な立地を生かしての展覧会です。この場所に来なくては、体験することは叶いません。


「旧所沢市立第2学校給食センター」全景

空調設備はありません。また火曜日と水曜日が休場日です。お出かけの際はご注意下さい。


入場は無料です。9月24日まで開催されています。

「引込線 2017」@hikikomisen) 旧所沢市立第2学校給食センター
会期:8月26日(土)~9月24日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~17:00
料金:無料
住所:埼玉県所沢市中富1862-1
交通:西武新宿線航空公園駅東口より徒歩30分。航空公園駅東口1番乗り場より西武バス所20-1系統「並木通り団地行き」または、新所03系統「新所沢駅東口行き」に乗り「並木通り団地入口」下車。バス停から約400m。駐車場あり。(台数限定)
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「かわいい こわい おもしろい 長沢芦雪」 新潮社

奇想の絵師、長沢芦雪の画業を知るための、最適な書籍と言えるかもしれません。新潮社のとんぼの本、「かわいい こわい おもしろい 長沢芦雪」を読んでみました。

「かわいいこわいおもしろい 長沢芦雪/とんぼの本」

実のところ芦雪本は少なくなく、東京美術の「もっと知りたい長沢蘆雪」や、別冊太陽(平凡社)の「長沢芦雪」などもありますが、江戸絵画を専門とする岡田秀之氏が新たな知見を交え、芦雪の魅力を余すことなく紹介していました。



まず冒頭の図版で目を引くのは、「虎図・龍図襖」の虎でした。芦雪に縁のある和歌山の無量寺の所蔵で、さも襖から虎が飛び出そうとする姿を描いています。芦雪の代表作と呼んでも良いかもしれません。

「芦雪ワールド 千変万化」とあるように、芦雪の世界を13の切り口から分析しているのも面白いところです。しかも「かわいいものを描く」や「妖しきものを描く」、それに「指で描く」などの親しみやすい切り口ばかりでした。また酒好きとも伝えられる芦雪です。中には「酔って描く」もありました。



かわいいと言えば、師でもある応挙の犬が有名ですが、芦雪も負けてはいません。より大胆に、言い換えれば、よりゆるく犬を描いています。現代の「ゆるキャラ」にも通じる要素があるかもしれません。



美術史家の辻惟雄氏と河野元昭氏の対談が充実しています。芦雪を、師の応挙の型を破るべく、意識的に奇想的な絵を描いた「人工の奇想」の絵師と位置づけています。また各氏が「この1点」を挙げ、芦雪の魅力について語っていました。

芦雪の生涯を追うのが「芦雪ものがたり」でした。ここでは謎に包まれた出自から、応挙への入門、さらに南紀での制作プロセスを、図版とテキストで丹念に紐解いています。



特に南紀での活動について細かに触れていました。また作品の解説だけでなく、無量寺、草堂寺、成就寺の間取り図も詳しい上、かの地の風景写真を交えた巡礼地図までも掲載されています。芦雪の足跡を辿るべく、南紀に出かけたくなるほどでした。

いわゆる新知見ということかもしれません。一般的な芦雪観の再検討を促しているのも特徴です。岡田氏は、残された書簡を読み解くことで、諸々伝えられる芦雪の奔放な逸話は、後世に脚色された可能性があるのではないかと指摘しています。また毒殺説についても懐疑的な見方をしていました。真相は如何なるところでしょうか。

さて、この秋に愛知県美術館で開催予定の「長澤芦雪展」も、あと1カ月弱に迫りました。



「長沢芦雪展 京のエンターテイナー」@愛知県美術館
会期:10月6日(金)〜11月19日(日)
公式サイト:http://www.chunichi.co.jp/event/rosetsu/

既に特設サイトがオープンし、開催概要や見どころ、イベントなどが記載されています。本書の岡田氏の記念講演会も行われます。

「長沢芦雪入門」
講師:岡田秀之氏(嵯峨嵐山日本美術研究所学芸課長)
日時:11月4日(土) 13:30~15:00 *申込方法は公式サイトまで。

注目すべきは無量寺の空間再現展示ではないでしょうか。本来、「虎図襖」と「龍図襖」は向かい合わせに描かれていたそうです。それを展覧会の会場としては初めて再現します。


巡回なしの芦雪展です。本書の言葉を借りれば「応挙よりウマイ 若冲よりスゴイ」。おそらく秋の日本美術展の中でも人気を集めるに違いありません。私もこの本を片手に愛知へ見に行きたいと思います。

「かわいい こわい おもしろい 長沢芦雪」 新潮社
内容:愛らしい仔犬から不気味な山姥まで、一寸四方の五百羅漢図から、襖全面の虎図まで。超絶技巧の写実力に、酔いにまかせた一気描き。「かわいい」「こわい」「おもしろい」幅広い画風で、人々を驚かせ、楽しませ続けた江戸中期の画家・長沢芦雪(1754~99)。新出作品もたっぷりと、「奇想派」の一人として注目を集める絵師のびっくり絵画と短くも波瀾万丈の人生を新進の研究者がご案内します。また、日本美術史界の泰斗、辻惟雄氏×河野元昭氏がその魅力を語り尽くした「芦雪放談」も必読。画布に現された千変万化の「奇想」を目撃せよ。
価格:1600円(税別)。
仕様:126ページ。
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