「国本泰英 展」 BASE GALLERY

BASE GALLERY中央区日本橋茅場町1-1-6
「国本泰英 展」
11/11-12/26



群像を虚無感の漂うシルエット状にして表します。1984年生まれの画家、国本泰英の東京初個展へ行ってきました。

国本泰英のプロフィールについては作家HPをご覧下さい。

略歴yasuhide KUNIMOTO web site

ともかく目を惹くのは、例えば水泳をする少年たちなどの光景を、あたかも影絵のようにして描く表現のスタイルです。人は完全に個性を失い、その輪郭だけをぼんやりと浮き上がらせながら、強く輝く白い光に覆われた虚空へと投影されています。水泳の他、相撲をとる力士、さらには並んで座るサラリーマンなど、その全てが群像となって登場していました。またアクリルの素材、それにほぼモノクロームの色彩感など、その技法は至ってシンプルです。

それにしてもどこか物悲しい気配を感じるのは、その何れもが表情も伺い知れない幻影であるからかもしれません。個を喪失した群衆の姿は、都会をすれ違う人々同士の希薄な存在感に近いものがあります。そう捉えると国本の描く世界は非常に現実的でした。

12月26日まで開催されています。
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「出和絵理 - 陶 白き小さき光のかたち - 」 INAXガレリアセラミカ

INAXガレリアセラミカ中央区京橋3-6-18 INAX:GINZA2階)
「出和絵理 - 陶 白き小さき光のかたち - 」
11/6-12/1



ペーパークラフトと見間違うような繊細な陶が白く美しい光を発します。INAXガレリアセラミカで開催中の「出和絵理 - 陶 白き小さき光のかたち - 」へ行ってきました。

出羽絵理のプロフィールについては、画廊HPに掲載のpdfをご参照ください。

出和絵理展@INAXガレリアセラミカ プレスリリース

一般的に陶を素材としながらも、『らしからぬ質感』で見る者を惑わすことの多いガレリアセラミカの展示ですが、出羽の個展こそはまさにその代表例と言えるのかもしれません。小さく、また薄く伸びた半紙のような白い陶の欠片は、一枚ずつ合わせ重なり、例えば植物の種や貝殻のような形を象っています。その内側にたたえた仄かな白い輝きは、照明効果による巧みなシルエットを誘って、美しい像を描きながら静かに放たれていました。まさしくこれは陶の結晶ではないでしょうか。



指先でおしてしまうと今にも崩れ去りそうな脆さもまた魅力の一つかもしれません。

12月1日までの開催です。
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「写真新世紀東京展2009」 東京都写真美術館

東京都写真美術館目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)
「写真新世紀東京展2009」
11/7-11/29



東京都写真美術館で開催中の「写真新世紀東京展2009」へ行ってきました。

まず公募展「写真新世紀」についての説明を公式HPより引用します。

キヤノンの文化支援活動の一環として行っている「写真新世紀」は、新人写真家の発掘・育成・支援を目的に今年で19年目を迎えました。これまでに国内外で活躍する多くの写真家を輩出し、新人写真家の登竜門としても認知度の高い公募展です。

続いて本年の優秀賞受賞者名です。なお佳作受賞者18名、及びグランプリ選考課程などについては、それぞれ以下のリンク先をご参照下さい。

・グランプリ(カッコ内は作品タイトル)
クロダミサト「He is…」

・優秀賞
安森信「女性讃歌」/高橋ひとみ「コロニー」/Adam Hosmer「1/2」/杉山正直「オレハ・オララ」/クロダミサト「He is…」

キヤノンが「写真新世紀 東京展 2009」を開催@キャノン株式会社(佳作受賞者一覧)
キヤノン、2009年「写真新世紀」グランプリを決定@デジカメWatch(グランプリ選考課程)

今年で既に19年目を迎え、これまでにもオノデラユキや澤田知子らを輩出してきたという、半ば伝統のある写真の公募展です。これまで殆ど追っかけたことがありませんが、実は今回は殆ど偶然、サルガド展に出向いた際に見て回ることが出来ました。

壁面に写真が無造作に並び、また一部はファイルで作品が紹介されるなど、ざっくばらんな構成の展示でしたが、私が特に印象に残ったのは、安森信「女性讃歌」でした。これは地元山口の働く女性を30名撮影したというコンセプトの作品ですが、そこにこめられたそれぞれの人達の生活感、及び活力のようなものをシンプルに表現していて好感が持てます。なおこの方を選んだ審査員はアラーキーだそうです。さもありなんと感じたのは私だけではないかもしれません。



写真に疎い私にとってこの公募展の水準はよく分かりませんが、入場も無料なので立ち寄ってみては如何でしょうか。

29日まで開催されています。
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「ベルギー王立美術館コレクション ベルギー近代絵画のあゆみ」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階)
「ベルギー王立美術館コレクション ベルギー近代絵画のあゆみ」
9/12-11/29



当地の王立美術館のコレクションから、19世紀ベルギーの絵画史を辿ります。損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「ベルギー王立美術館コレクション ベルギー近代絵画のあゆみ」へ行ってきました。

会期末も明後日に迫っています。今更の感想でもあるので、今回は特に心にとまった作品のみを数点だけ挙げてみました。

フェリシアン・ロップス「浜辺」(1878年頃)
人前に出すことを拒み、自らの楽しみのために描いたという作品。北海へと広がる砂浜を描いている。燦々と降り注ぐ陽の光のもと、海水浴を楽しむ人々などを、澱みない明るいタッチで表した。ここに悪魔主義的なロップスの画風は微塵も感じられない。



ジェームズ・アンソール「バラの花」(1892年)
仮面や骸骨で知られるアンソールの描いた静物画。ガラス瓶を中心にして咲き誇るバラの花を比較的淡いタッチで表している。もちろん仮面は登場しないが、どこかうねるような線描などは、やはりアンソールらしいと言うべきなのか。



テオフィル・ファン・レイセルベルヘ「散歩」(1901年)
ベルギーの新印象派。スーラと見間違う点描表現にて砂浜の景色を象る。モネ風のサーモンピンクは非常に華やか。白いドレスに纏われた貴婦人も美しかった。



フェルナン・クノップフ「フォッセ、モミの木の林」(1894年)
朱色に染まった大地の上をモミの木が整然と並ぶ。その幽玄な様子はまさにクノップフならでは。日本画と思ってしまうかのような画肌も興味深かった。

今回の出品作にもよるのかもしれませんが、ベルギー絵画はフランスの影響を非常に強く受けています。スーラ風、またはゴーギャン風など、半ば本家を連想させる画家が多く登場していました。

なお基本的に印象派、もしくはそれに派生する画家たちを追う展覧会です。ステレオタイプではあるものの、ベルギーと言えば名高い象徴派の作品が少なかったせいか、全体としてはやや物足りなく感じました。

館内には余裕がありました。29日までの開催です。
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「ウィリアム・ド・モーガン」 パナソニック電工汐留ミュージアム

パナソニック電工汐留ミュージアム港区東新橋1-5-1 パナソニック電工ビル4階)
「ウィリアム・ド・モーガン 艶と色彩 19世紀タイルアートの巨匠」
10/17-12/20



アーツ・アンド・クラフツ運動のもと、主にタイルなどの陶器装飾の分野で活躍したウィリアム・ド・モーガン(1839-1917)の業績を回顧します。パナソニック電工汐留ミュージアムで開催中の「ウィリアム・ド・モーガン 艶と色彩 19世紀タイルアートの巨匠」へ行ってきました。

まずはモーガンの略歴を公式HPより引用します。

1839年ロンドンに生まれる。1859年ロイヤル・アカデミーに入学、画家を志す。1861年絵画制作からステンド・グラスのデザインに転換。1863年ウィリアム・モリスと出会い、以後M.M.F.商会にステンド・グラスやタイルなどのデザインを提供する。(全文引用)

続いて展示の構成です。計4章立てでした。

第1章「モリスとの出会い、影響」
 モリス影響下においてバラやヒナギクなどの模様のタイルを制作したモーガン。小品のタイルを約40点弱紹介。
第2章「技法と素材」
 当初は無地のタイルに装飾を施していたが、後にタイル生産から一括して陶器制作に取り組むようになる。ラスター彩の発見。
第3章「デザインの源泉と主題」
 様々な花や船、またイスラムの紋様などを取り入れたモーガンの装飾性を概観する。
第4章「室内装飾のタイル」
 ラスター彩によるタイル壁画など。INAXによる装飾タイル空間の再現。1mを超えるタイルパネルも展示。

  

ヴィクトリア朝時代の建築を飾ったタイルの紹介展示と捉えて差し支えありません。順路冒頭から、ズラリと並ぶのは、鮮やかな彩色によってバラなどの描かれた、縦横20センチ四方のタイル各種でした。その一枚一枚の小宇宙に展開する鶏や花などは、時にはパズルのように合わさり、大きな壁画となって噴水や船の景色までを表していきます。色、そして形全体と、まさに絵画を見るかの如く楽しめるのは言うまでもありません。タイルから次々と開かれる多様なイメージには終始感心させられました。



美しい草花も悪くありませんが、私として一番惹かれたのが、異国への憧れの意味を込めて制作されたガレオン船のモチーフでした。タイル・パネル「ガレオン船」には、モーガンの得意とするコバルトブルーの水面の上に、立派な帆をはった船が堂々とした様で描かれています。またタイルの他、壺や皿も何点も紹介されていますが、うち「花器」にもいくつかガレオン船が登場していました。ラスター彩独特の金彩的な輝きに魅了される方も多いかもしれません。



展示ラストのタイル・パネル「木立の中の噴水」は必見の一枚ではないでしょうか。咲き誇るエキゾチックな花々を背景として、装飾的な曲線による噴水がモニュメンタルに立ちはだかります。横幅1.5mのスケール感にも圧倒されました。



いつも通り、同ビル内の「パナソニックリビングショウルーム東京」を見学すると、受付カウンターにて100円引きの割引券をいただけます。この内容で500円はかなりお値打ちです。

率直なところ、タイルがこれほど意匠に富んだ芸術とは知りませんでした。

12月20日までの開催です。おすすめします。
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「河口龍夫展 言葉・時間・生命」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館千代田区北の丸公園3-1
「河口龍夫展 言葉・時間・生命」
10/14-12/13



東京国立近代美術館で開催中の「河口龍夫展 言葉・時間・生命」展へ行ってきました。

今更ではありますが、河口龍夫のプロフィール、また展示概要については下記リンク先をご参照下さい。

「展覧会情報 河口龍夫展 作家紹介」@東京国立近代美術館
「河口龍夫: 言葉・時間・生命」@カロンズネット

金属からエネルギー、もしくは空間そのものに、素材と人との関係や、様々なメッセージをこめた河口の作品は、見る者の想像力を強く喚起させるものの、当然ながら半ば既知の絵を見るように簡単に楽しめるものではありません。ただしその難解な、ようは取っ付きにくさの先にある何かを探り当てた時、言わばパズルを解くようなスリリングな感覚と、未知の世界を開いたかのような驚きと充足感を得ることが出来ます。つまりここでは作品に対して無心になりつつ、一方でその場へ入り込むという、半ば矛盾した心構えと作業の双方が必要になってくるかもしれません。

なお当日は日頃お世話になっているブロガーの方とともに、閉館後にプレビュー形式で見ることが出来ました。以下、会場風景を交え、展示タイトルにあるような「言葉」や「時間」云々ではなく、もう少し具体的な3つのキーワードから、展示作品をいくつかご紹介していきます。

1.見えないものと見えるもの

はじめの展示室に整然と並ぶ「DARK BOX」しかり、金属などを多用する河口作品からは、それ自体にもの派的な重みも感じるところですが、そのものを通してある向こう側の何かを想像することこそ鑑賞の重要なポイントの一つではないでしょうか。



「DARK BOX」には、これまで河口自身が閉じ込めた『見えない』闇そのものが、金属の箱という『見える』形をとって提示されています。空っぽの闇の中に、それぞれ刻印された時間の記憶という『見えない』ものが封印されていることは言うまでもありません。そしてこの箱は、河口自身の時間体験と、見る側我々のそれの双方を繋ぐ一種の装置の役割を果たしていました。



一方、その闇に対し、今度は『見えない』光が閉じ込められたのが、ズバリ「光」と名付けられた作品です。ここでは見えるはずの光を見えないものとして提示しています。



本展随一の体験ゾーン、「闇の中のドローイング」は是非挑戦していただきたいところです。『見えない』空間である闇の中に入った鑑賞者は、その中でひたすらペンを動かし、必然的に生まれてきた像を今度は「見える」ものとして受け止めて、その間の揺らぎを確認し、また視覚に囚われない各々の自由な想像力を知ることになります。

2.種と鉛



小さな『種』と素材を覆う『鉛』が展覧会全体の通奏低音であるとしても過言ではありません。



鉛は危険なものからの隔離とともに、未来への保存を表します。それぞれの関係を導く蜜蝋によって繋げられた百科事典は、鉛によって永遠に知が蓄積されることとなりました。



河口は生命の原初的なエネルギーを植物の種に見出します。危険な外界より鉛によって隔離されたそれらは、大きな時計の下にて、来るべき花園の楽園へ向けての眠りにつきました。



ベットの上から鉛でコーティングされた無数の蓮の種が突き出しています。「睡眠からの発芽」では、眠りこける人のイメージのエネルギーを発芽する蓮の種へと変化させて表しました。ここでは発芽という、あくまでも未来へ向けてのポジティブなメッセージが示されていますが、私にはぽっかりと抜けた人型の余白はもとより、鉛の鈍い光の質感もあってか、あたかもお墓の廻りに咲く花々のような物悲しさを感じてなりません。鉛への隔離という一種の現実からの避難、そして今を通り越しての未来への視点は、河口作品の一種の現実に対するナーバスな認識を伺い知れるのではないでしょうか。

3.旅

そうした現実に対する視点は、作品を通し、そのあるべき場所を求めて旅をし続けるということにも繋がるのかもしれません。



八角形の大きな空間をとる「地中からのボーダーライン」では、その壁面に世界中の国境線が銅線で示されています。国境の内側、まさに地球の内部から、もろくも断片的に繋がる国境線に沿って旅するかのような印象を受けました。

さらに一歩過激に進んで、その国境線を全て取っ払ったのが、「黒板の地球儀」です。今回は展示の都合上、何も書かれていませんが、本来はチョークによってそこに線を自由に描くことが出来ます。そしてそれは当然ながら、国境線でなくても良いわけです。



順路のちょうど真ん中、一際広い展示室に展開されるのが、電流が様々な装置を介して縦横無尽に這う「エネルギー」でした。これぞまさに電気の旅に他なりません。電流を地球の魂の源であるとすれば、あちこちで光るのは雷やオーロラ、また熱せられるのは溶岩流とも言えるのではないでしょうか。



順路の最後には一艘の巨大な黄色い船が待ち構えています。それがこの「木馬から天馬へ」です。河口の船のオブジェというと、吊るされたそれも迫力がありますが、今回は出港を待つ船さながらに、フロアに鎮座して展示されていました。展示を一巡した旅は、また新たな展開を伴って次の場所へと移ります。

私が河口龍夫に一番はじめに出会ったのは、千葉市美術館の常設で見たモノクロームの写真作品でした。その後、縁あって兵庫県美での個展を拝見し、いとも簡単に安藤建築を取り込んだ展示の美しさに驚嘆した記憶は今もしっかりと残っています。実のところ今回、空間に制約のある東近美での開催にやや懸念を抱いていたのは事実でしたが、会場を歩いているとそれはほぼ杞憂であったことが良く分かりました。今までで一番多いとも言われるパーティションで会場を区切り、狭さを逆手に取った、密度の濃い内容になっていたのではないでしょうか。最後の船の主は、既に美術館という洞窟から抜け出して大きく外へ出て世界を開く河口の意思そのものであるに違いありません。今にも前の壁面を突き破って進んでいくかのようでした。

なお来週末の土曜、12月5日には会期最後の講演会も開催されます。

河口龍夫×谷新(宇都宮美術館館長)
日程:2009年12月5日(土)
時間:14:00-15:30
場所:講堂(地下1階)
*聴講無料・申込不要(先着150名)

会場で配布される出品リスト兼案内ガイドは、平易な語り口で河口作品のエッセンスを解き明かします。美しい図版の掲載された別冊付きの図録同様、とても秀逸でした。



なお広報としてtwitterが用いられる機会も増えていますが、国内の現時点で最も情報豊富なのはこの河口展ではないでしょうか。

河口龍夫展 on twitter

私も会期末、もう一度ドローイングに挑戦するつもりです。12月13日まで開催されています。
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「Clara Desire + Masako + 大槻素子展」 ギャラリー・ショウ

ギャラリー・ショウ・コンテンポラリー・アート中央区日本橋3-2-9 三晶ビルB1階)
「Clara Desire + Masako + 大槻素子展」
10/26-11/28



ギャラリー・ショウ・コンテンポラリー・アートで開催中の「Clara Desire + Masako + 大槻素子展」へ行ってきました。

出品作家は以下の5名です。

Clara Desire、Masako、大槻素子、鈴木愛美、吉岡雅哉

もちろんお目当ては、これまでのグループ展などでも鮮烈な印象を与えたMasakoに他なりません。彼女の作品というと、そのモデルのこぼす笑みとは裏腹の不気味なポートレートが記憶に新しいところですが、今回はいささか趣向を変え、建物や人々を俯瞰的な視点で捉えた『風景画』が紹介されていました。まるで映像の断片を見るかのように動きのあるタッチと、どこか対象を冷めきった感覚で描くその画風は、もどかしく捉えにくい記憶の奥底の景色を呼び覚ますように展開しています。ぼんやりとした明かりに照らされた広場でサッカーをする人々は著しく不健康でした。

変わらない部分と変わった部分のせめぎあいに次の展開が予感されるような気がします。

なお展示風景はex-chamber museumが参考になります。あわせてご覧下さい。

~11/12のアート巡り@ex-chamber museum

28日の土曜日までの開催です。
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「講談社野間記念館の名品」 講談社野間記念館

講談社野間記念館文京区関口2-11-30
「感興を呼び起こす美の競演 - 講談社野間記念館の名品」
10/24-12/20



講談社創業100年、また記念館開業10周年を記念して、館蔵のコレクションを計100点以上展観します。講談社野間記念館で開催中の「講談社野間記念館の名品」へ行ってきました。

美術館のいわゆるメモリアル展というと、さも館蔵の作品が半ば総花的に陳列されている印象も否めませんが、特徴のあるコレクションを誇る同館の名品展は一味も二味も違っていました。まずは本展を大別する三つのテーマをご覧下さい。

1.「野間コレクション」:創業者野間清治が蒐集した、同時代の近代日本画画壇コレクション。山口逢春、速水御舟、山村耕花など計39点。
2.「村上豊作品群」:H16年以降、画家本人より寄贈を受けた村上豊の作品を約20点ほど紹介。
3.「出版文化資料」:大正から昭和にかけて講談社の出版した雑誌の挿絵原画。東山魁夷、堂本印象、伊東深水ら計45点。

創業者に縁のある画家の作品はもとより、雑誌の挿絵原画など、出版社ならではのラインナップこそ、今回の展観の見どころであるとお分かりいただけるのではないでしょうか。それではいつものように印象に深い作品をいくつか挙げてみます。



横山大観「千与四郎」(1918)
順路冒頭にいきなり展示されるハイライト的な大作屏風。六曲一双の大画面に、幼き千利休の登場した鬱蒼とする木立の光景が表される。たらし込みの岩や木の幹の瑞々しい色彩感をはじめ、鮮やかな緑青による葉の空間を埋め尽くすような描き込みなど、いかにも大観らしい画風が目を惹いた。

速水御舟「梅花馥郁」(1932)
御舟が形態追求に邁進していた頃の独特なフォルムをとる梅花。うねる線に異様な気配を感じた。

山口蓬春「十二ヶ月図」(1927)
野間ならではの色紙コレクションから蓬春の十二ヶ月図を全点展示。すすきの野をかけるキツネの描かれた12月の情緒的な様子が心にしみた。

山村耕花「江南七趣」(1921)
耕花が中国に取材して描いた全7面の絵画をこちらも全点紹介。靄に覆われた上海市内を流れる大河の景色は山水画風。全7面、色彩感を大きく変えている画風が印象に残った。

伊東深水「『講談倶楽部』昭和21年表紙原画」(1949)
文字通り「講談倶楽部」の表紙を飾った深水の美人画のうち6点が公開。いわゆるグラビアという認識で良いのだろうか。いかにも深水画らしいやや艶やかな女性が、例えば湯上がり後の火照った頬を見せて佇んでいる。

その他、近年、例えば2006年の「小説現代」などの表紙絵を手がけた村上豊の作品では、雛などを描いた可愛らしい挿絵原画などが印象に残りました。



名画とともに、講談社の雑誌の変遷を一部追うことが出来るような展示ともいえるかもしれません。



私の行った日はたまたまあいにくの天候でしたが、展示内容はもとより、静まり返った館内より雨に濡れるお庭を眺めるのもまた一興でした。雨の似合う美術館など都内でなかなか他にありません。

12月20日まで開催されています。
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「TWS-Emerging 122 小畑多丘」 TWS本郷

トーキョーワンダーサイト本郷文京区本郷2-4-16
「TWS-Emerging 122 小畑多丘 - IT'S JUST BEGUN」
10/31-11/22(会期終了)



BBOYING(ブレイクダンス)に由来する身体表現を彫刻で表現し続けます。(TWS公式HPより引用。)1980年生まれのアーティスト、小畑多丘の個展へ行ってきました。

TWSの木彫展というと前回の海谷のサンゴも記憶に新しいところですが、作品に接した時にまず受ける驚きの点に関していえば、今回の小畑の作品の方が強烈であるのは間違いありません。身体をくねらせ、膝を床につき、手を曲げて踊り、また跳ねてポーズをとるモデルたちは、静止している様子が逆に不可解に思えてしまうほど躍動感に満ちた木彫そのものでした。その素材の質感は時に荒く、むしろダンスを半ば木彫に置き換えたというよりも、木彫にダンスを踊らせたような印象が強く感じられましたが、あたかも何者かに取り憑かれたように手足を動かす『モデル』たちは、素材云々を通り越したポーズや運動自体の力強さや面白さを如実に示しています。また決してダンスを精巧にコピーしたのではなく、どこかSFにでも登場する人物のようなデフォルメが施されているにも見どころの一つかもしれません。オーバーアクションと取り澄ました顔とのアンバランスな感覚もまた印象的でした。



はじめにチラシを拝見した際、立体はおろか、てっきりパフォーマンスを捉えた映像展かと思い込んでいた私は浅はかでした。

展示は本日で終了しました。
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「狩野派 - 400年の栄華」 栃木県立博物館

栃木県立博物館宇都宮市睦町2-2
「狩野派 - 400年の栄華」
10/10-11/23



下野(現在の栃木県)方面の出身ともされる狩野派の祖、元信に続く狩野派の系譜を、主に東国に縁の深い絵師を中心に概観します。栃木県立博物館で開催中の「狩野派 - 400年の栄華」へ行ってきました。

本展覧会の概要は以下の通りです。

・重文7点、初公開作数点を含む、計80点の作品にて、近代まで至る狩野派の系譜を総覧する。(出品リスト。静岡で開催された狩野派展とは別内容。但し一部作品は重複する。)
・主に東国の狩野派を中心に展観。これまで狩野派の蒐集に力を入れてきた同館所蔵の作品も数十点紹介される。事実上の「江戸狩野展」。
・日光山の御用を狩野派の絵師をつとめた関係もあり、普段、あまり余所では公開されないご当地の寺院所蔵の貴重な品も展示されている。
・江戸末期から東京美術学校創立まで、美術史的にエポックともされる明治初期の狩野派の動向にも焦点を当てている。
・増上寺所蔵の狩野一信、「五百羅漢図」が二点ほど紹介されている。

作品には一部展示替えもあり、必ずしも常に80点が出ているわけではありませんが、上述の通り江戸狩野に的を絞った構成、及び日光山にも関連する珍しい作品の公開など、まさに始祖正信を生んだ栃木県の自負を感じるような充実した展覧会でした。適切ではないかもしれませんが、展示を見終えた後、例えば京博の特別展を一通り巡った時と同じくらいの充足感を得たとしても過言ではありません。また見知らぬ絵師の出品も多く、いささか見慣れた感もある狩野派ながら、実に新鮮味のある内容で楽しめました。

印象に残った作を挙げていくときりがないので、ここではマイベストとして特におすすめしたい5点を並べてみます。

5. 狩野永徳「洛外名所遊楽図屏風」(個人蔵)



かの京博永徳展で新出の永徳作として話題となった屏風。さすがに畢竟の大作、「洛中洛外図屏風」には及ばないが、それでも永徳ならではの細やかな線描による生き生きとした人物を通して、京の賑わいが伝わってくた。また永徳展ではやや混雑していたものの、こちらではゆっくりと見ることが出来た。

4. 狩野探幽「東照権現像」(重要文化財/栃木・輪王寺)



家光が家康の夢を見る度に描かせていたという家康の言わば神像。輪王寺に8点伝わるうちの1点。解説には「肖似性」に乏しいとあるが、一般的にいかにも家康と言ったような好々爺的な様子が憎めない。

3. 狩野探幽「東照社縁起」(重要文化財/日光東照宮)



家康の生涯を描いたという長大な絵巻。その長さは全部で何と70mを超えるそう。ここではそのうちのごく一部、巻の第一、家康の誕生シーンなどが描かれている。状態が非常に良いせいか、彩色の鮮やかな様子が特に印象に残った。きっと極上の絵具を利用しているのだろう。

2. 狩野周信「山水図屏風」(栃木県立博物館)


図版で見るとあまりインパクトはないが、実物に接すると驚くほど迫力を感じる勇壮な山水図の大屏風。起立する岩山に金の雲霞が重々しく横たわり、その下には楼閣、または遠景の湖へと連なる野山の景色が描かれている。雪舟を模したとされているが、受ける印象はまるで違った。エキゾチックですらある。

1. 狩野一信「五百羅漢図」(東京・増上寺)*全百幅のうち二幅



 

作品を見て腰を抜かしそうになったほど鮮烈な印象を与える作品。有名な一信の増上寺編「五百羅漢図」が二幅ほど公開されている。(かつて東博で公開されたものとは別バージョン。)絵を見て言葉を失うとはこのことか。私としては先日公開された東博の「動植綵絵」を超えるほど心を揺さぶられた。H23に都内で全幅公開されるそうだが、その時は本当に卒倒するかもしれない。



如何でしょうか。なお出品全点の図版、及び解説の掲載された図録が1200円、さらには入場料が250円であったことを付け加えておきます。いうまでもなく破格です。

ご紹介が遅れてしまいましたが、明日明後日の連休に少し遠出でもとお考えの方には是非ともおすすめしたいと思います。また最寄の県立美術館では、巡回展でmemeさん絶賛の「大正期、再興院展の輝き」も開催中です。(残念ながら私は時間の関係で断念しました。)

明後日、23日の月曜日まで開催されています。
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「月の庭 深井隆展」 日本橋高島屋美術画廊X

高島屋東京店 美術画廊X中央区日本橋2-4-1 6階)
「月の庭 深井隆展」
11/11-30



1951年に群馬県で生まれ、木や大理石などの彫刻で現代彫刻界をリードする作家の一人(会場冊子より一部引用。)、深井隆の制作を紹介します。日本橋高島屋美術画廊Xで開催中の「月の庭 深井隆展」へ行ってきました。

深井隆の経歴については東京芸大のWEBサイトをご参照下さい。

深井隆(教授-彫刻科)@東京芸大教員総覧

やや照明の落とされた同画廊の空間で寡黙に並んでいるのは、その何れもが「月の庭」と名付けられた大小様々な木製の馬の彫刻、数体でした。クスノキを素材に、やや平面を強調して彫り込まれた馬は重量感があり、それが時にトルソーとなって、地面に沈み込むように座り、また或は力強く両脚を前後に伸ばして駆け出しています。削り痕も荒々しい木材の支持体よりそのまま伸びた細い脚は、いつしかうっすらと青みを帯びた馬の身体へと連なっていきました。これらの比較的サイズの小さい作品は、まさに月明かりの下の空を駆ける馬のシルエットに他なりません。幻想的な空間を演出していました。



とは言え、私がさらに惹かれたのは、その馬の表面を覆う色の質感でした。絵具だけではなく、銅箔などを用いた巧みな色味は、木材を超えた独特の感触を引き出すことに成功しています。その青銅の輝きに今、長い時を経て出土した、例えばローマ時代の遺物を連想したのは私だけではないかもしれません。

今月末日、30日まで開催されています。
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「Blank Space」 POLA MUSEUM ANNEX

POLA MUSEUM ANNEX中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階)
「Blank Space」
11/7-29



光の三原色がホワイトキューブを神秘の色に包みます。国内外各地の美術館の照明を手がけ、当地POLA MUSEUM ANNEXのファサードの設計も行ったライティング・アーキテクト、豊久将三のインスタレーション個展へ行ってきました。

なお豊久将三のプロフィール、及び展示の簡単な概要は、それぞれ公式WEBサイトをご参照下さい。

「Blank Space」開催中の展覧会 詳細@POLA MUSEUM ANNEX



この展覧会を簡単に表すとすれば、人の認識する光とは何ぞやということを、光の三原色を用いて感覚的に知ることが出来る展覧会とでも言えるかもしれません。会場に設置された、何やらSFアトラクション風のホワイトキューブの『マシン』の中に入った観客は、そこで展開される光と色の織りなすショーを数分間体験して、視覚を総動員しながらその意味のなすところについて思いを馳せることが求められます。青、赤、緑と変化する光は、いつしかこちらの感覚を揺さぶり、本来なら見ることの叶わない色を眼前に提示していました。種明かしは現地で体験していただきたいところですが、英語のナレーションの効果もあってか、分かったようで謎めいた、ようは光による錯視的な、あたかも幻像を見たかのように気持ちにさせられる点も、また本展の面白さの一つであるのかもしれません。

光のインスタレーションというと、大掛かりで凝った装置でも連想しがちですが、こちらは至ってシンプルな展開でした。何かが起きたのか分からないくらいの微妙な変化に、率直なところやや物足りなく感じたのは事実です。

なお装置には若干名しか入ることが出来ません。想定しにくいところではありますが、混雑時には少し待ち時間が発生することになりそうです。

オープニングの絵画展の雰囲気は見事に消え去りました。その辺の場所としての変化も見どころではないでしょうか。

どちらかと言うと日没後の鑑賞がおすすめです。(連日20時までオープンしています。)29日まで開催されています。
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「変成態 - リアルな現代の物質性 Vol.5 袴田京太朗」 ギャラリーαM

ギャラリーαM千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビルB1F)
「変成態 - リアルな現代の物質性 Vol.5 袴田京太朗」
10/24-11/21



ギャラリーαMの変成態シリーズも第5弾に突入しました。袴田京太朗の新作インスタレーション個展へ行ってきました。



一見、例えばウレタン製のカラフルな彫刻が、単に天井からぶら下がっているだけのように見えますが、実際に一部の木彫と、年輪のように重なるアクリルの板によって出来た複合的なオブジェでした。袴田のアプローチは明快なようで非常に巧妙です。元々の木彫はアクリル板の接着によって解体、そして同時に再生し、また連なるモビールによって形そのものも増殖していくかのように空間へ拡散させています。彫刻とアクリル、さらにはその一枚一枚の形が、各々にせめぎ合いながら一つの像を生み出していました。素材を含めた全体と部分のスリリングな組み合わせは近寄って楽しまないと分かりません。その手仕事にも感心させられました。

 

今週の土曜日、21日まで開催されています。

Vol.1 「中原浩大」 2009/5/9~5/30
Vol.2 「揺れ動く物性」(冨井大裕×中西信洋) 2009/6/13~7/18
Vol.3 「『のようなもの』の生成」(泉孝昭×上村卓大) 2009/7/25~9/5
Vol.4 「リアルな現代の物質性 Vol.4 東恩納裕一」 2009/9/12~10/10
Vol.6 「金氏徹平」  2009/11/28~12/26
Vol.7 「鬼頭健吾」  2010/1/16~2/13
Vol.8 「半田真規」  2010/2/20~3/20
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「皇室の名宝 - 日本美の華」(第二期)」 東京国立博物館(プレビュー)

東京国立博物館・平成館(台東区上野公園13-9
「御即位20年記念 特別展『皇室の名宝 - 日本美の華』 正倉院宝物と書・絵巻の名品」(第二期)
第2期:11/12-29(第1期:10/6-11/3)



天皇陛下御即位20周年の記念日を迎え、話題の名宝展もそろそろ佳境に差し掛かってきました。東京国立博物館で開催中の「皇室の名宝 - 日本美の華」のプレスプレビューへ行ってきました。

サブタイトルに「正倉院宝物と書・絵巻の名品」と記されているように、第二期のハイライトは東京で久々の展観となった正倉院宝物にあります。まずは展示の構成です。宮内庁所蔵の貴重な文物を計四章立てにて紹介していました。

第一章「考古遺物・法隆寺献納宝物・正倉院宝物」
第二章「古筆と絵巻の競演」
第三章「中世から近世の宮廷美」
第四章「皇室に伝わる名刀」

なお実際の順路に沿った展示の概要については、ご一緒したTakさんの記事が非常に参考になります。(「皇室の名宝-日本美の華」2期@弐代目・青い日記帳)よってここでは趣向を変えて、いつも通り主観ながらも、構成如何を問わない形にて、私の思うポイントを5つに分けて挙げてみました。

1.正倉院宝物
繰り返しになりますが、今回の展観で一番注目を集めるのは、全22点に及ぶ正倉院宝物です。当然ながら小さい作品が多く、すぐさまガラスケースに黒山の人だかりになること間違いありませんが、奈良の正倉院展に比べても遜色のないラインナップは、やはり本展がメモリアル相応しい一期一会であるからかもしれません。


「螺鈿紫檀阮咸」(奈良時代/正倉院宝物)
聖武天皇遺愛の品とされる四絃の楽器。リボンを加えた鸚鵡が旋回している姿がとても可愛らしい。お馴染みの夜光貝などの装飾も時代を感じさせないほど美しかった。


「木画箱」(唐時代/三の丸尚蔵館)
寄木による木箱。幾何学的な紋様が西方風。少しエキゾチックだった。


「花氈」(奈良時代/正倉院宝物)
フェルト製の大きな敷物。艶やかな花模様が画面いっぱいに広がる。それにしても総じて今回の正倉院宝物はどれも非常に保存状態が良い。奈良で見た時の印象とは大違いだ。

2.「春日権現験記絵」と「蒙古襲来絵詞」
第二章(古筆と絵巻の競演)の展示室は一見、地味な印象を受けますが、実は絵画ファンにはたまらない超・お宝の絵巻物がこれ見よがしに公開されています。ここも混雑必至です。行列に並んで最前列を確保しつつ、それこそ牛歩でカニ歩きでもするしかありません。


「春日権現験記絵(巻第1・5・19)」(高階隆兼/鎌倉時代/三の丸尚蔵館)
本展の目玉ともいうべき長大な絵巻物。H16年度より全体の修復がはじまり、そのうち終了した3巻が展示されている。場面を追うキャプションなどがあればなお良かったが、鮮やかな色彩による物語世界には素直に入り込むことが出来た。


「蒙古襲来絵詞(2巻)」(鎌倉時代/三の丸尚蔵館)
集団戦法をとるモンゴルに対し、ただ一騎で飛び込む武士の姿が描かれている。教科書の図版で印象深いこの作品を名宝展で見るとは思わなかった。

3.狩野探幽、及び金屏風各種
順路に沿って進むとラストに構えるのが、狩野派の絵師が贅をこらして描いた金屏風群各種です。個々の作品の魅力はもとより、パッと観ても分かる華やいだ空間もまた、本展ならではの一種の演出ではないでしょうか。


右「扇面散屏風」(俵屋宗達/江戸時代/三の丸尚蔵館)、奥「井手玉川・大井川図屏風」(狩野探幽/江戸時代/三の丸尚蔵館)
今回の金屏風の主役は狩野探幽だったが、名宝展でもやはり琳派は見逃したくないもの。宗達を見て改めてその意匠に感服。


「散手・貴徳図衝立」(狩野永岳/江戸時代/三の丸尚蔵館)
展示最後に登場する雅やかな衝立て。京都御所の調度品として用いられていたらしい。

4.名刀展
刀より放たれた鈍い銀色の光が見る者の感性を惑わします。こころは深呼吸しながら冷静に向き合いたいところです。


名宝展では計10点の刀の名作を展示。

5.書
正直に申し上げると、私には書の素養をはおそか、まだその魅力も感じることすら出来ませんが、料紙をはじめとする一種の装飾としての美しさは十分に伺い知れました。


「書状」(藤原為家/鎌倉時代/三の丸尚蔵館)
書よりも表具に見入ってしまった一枚。為家に和歌の添削を申し込んだ貴人に対し、その返答を認めた書状であるとのこと。


「十五番歌合」(光厳天皇/南北朝時代/御物)
金と銀の砂子に雲母で花紋様を描く料紙の美しさに心惹かれた。

人気の正倉院、及び絵巻をどう攻略するかによって、この展覧会に対する印象も変わってくるのではないでしょうか。私なら金曜の夜間に時間をつくって夕方以降入場し、順路とは逆の屏風や刀などを楽しんだあと、少し休憩を入れ、閉館の時間を頭に入れながら正倉院と絵巻を廻ります。(もちろん最後まで貼り付くのは春日権現験記絵です。)こうした名品展で構成を頭に入れる必要は殆どありません。

なお初日は御即位記念の無料展観日ということもあってか、平日にも関わらず開門前に3千名もの方々が列を作られた上、終日、入場のために約1時間程度の待ち時間が発生していたそうです。もちろんそれ以降は、そのような凄まじい混雑にはなっていないようですが、会期も短いこともあり、特に土日祝日は大変な人出となるのではないでしょうか。ここは公式サイトの案内にも準じて、上にも触れた金曜夜間、もしくは認知の低い月曜日(第二期は最終日まで休みがありません。)などを特に狙い目としたいところです。


(初日の大行列。おそらくこれは特別でしょう。)

始まったと思ったらあと13日しか会期がありません。連日無休にて、今月29日まで開催されています。

*関連エントリ
「皇室の名宝 - 日本美の華」(第一期) 東京国立博物館(プレビュー)

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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「土屋仁応 - 夢をたべる獏が夢みる夢」 MEGUMI OGITA GALLERY

MEGUMI OGITA GALLERY中央区銀座5-4-14 銀成ビル4階)
「土屋仁応 - 夢をたべる獏が夢みる夢」
11/10-12/5



夢見る彫刻はいつしか見る者を瞑想の世界へと誘います。MEGUMI OGITA GALLERYで開催中の「土屋仁応 - 夢をたべる獏が夢みる夢」へ行ってきました。

土屋仁応の経歴については以下のWEBサイトが参考になります。

土屋仁応「夢をたべる獏が夢みる夢」@Fuji-tv ART NET

本年の日本橋高島屋の個展を見逃した私にとって、土屋の木彫を知るのは今回がはじめてでしたが、ともかくは表面を撫でたくなってしまうような美しい木の質感と、モチーフらが見せるその物憂い気味の表情に一目で釘付けとなりました。本展に出品されているのは、同画廊のスペースにも見合った小品の獏や一角獣、それに人魚を象った木彫、数点です。あたかも古代の絵巻から飛び出してきたかのような一角や、もしくは仏像のような端正な出立ちをした人魚たちは、白を基調としながら、仄かに木の表面、及びその制作の痕跡を残した彩色に包まれて静かに眠り、また佇んでいました。滑らかな曲線、そしてしなやかな体躯、さらには水晶によって潤んだ瞳には誰しもが惹かれるのではないでしょうか。またそのまま木を切り出して板状にした支持体との奇妙なマッチングも魅力的でした。

なお作家本人にインタビューしたmemeさんの記事が非常に充実しています。今更の紹介で恐縮ですが、是非ご覧下さい。

土屋仁応「夢をたべる獏が夢みる夢」MEGUMI OGITA GALLERY@あるYoginiの日常



久々に木彫に惚れました。12月5日まで開催されています。
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