「さかざきちはるの本づくり展」 市川市文学ミュージアム

市川市文学ミュージアム
「さかざきちはるの本づくり展 手のひらサイズの大冒険」 
2020/11/7~2021/1/31



市川市文学ミュージアムで開催中の「さかざきちはるの本づくり展 手のひらサイズの大冒険」を見てきました。

市川市に生まれ、Suicaペンギンやチーバくんの生みの親で知られるイラストレーターのさかざきちはるは、絵本作家としても活動し、多くの絵本を世に送り出してきました。



そのさかざきの本の制作に着目したのが「さかざきちはるの本づくり展 手のひらサイズの大冒険」で、展示に合わせて再編した「ぴーちゃんの歌」の制作プロセスを中心に、過去の絵本や自主制作の書籍などが紹介されていました。



まず目を引くのが、あたかも鑑賞者を誘うように連なる黒いアウトラインでした。これはさかざきのイラストの特徴的な黒の輪郭線を壁面から展示室へと三次元的に展開したもので、線を辿りながら絵本の工程を理解できるように工夫されていました。


「ぴーちゃんと私」 著者手稿3、4

全ての「本づくり」の始まりは絵ではなく言葉にありました。冒頭には「ぴーちゃんと私」の直筆原稿が展示されていて、言葉の響き合いなどから絵本のイメージが生み出されている様子を思い浮かべることができました。


「ぴーちゃんと私」 DDCP校正紙

なおさかざきは今回、20年前に刊行された「ぴーちゃんの歌」を「ぴーちゃんと私」として再編し、描き下ろしていて、その際に主人公をかつてのブタからペンギンへと変えました。さかざきにとってもペンギンは特別な存在で、そもそも一番最初に自主制作した本も「ペンギンゴコロ」と題した作品でした。


参考資料「塗る」 黒い部分を塗りつぶす

言葉に続くのは、下絵、トレース、仕上げ、色付けなどの作画のプロセスで、実際に描かれた下絵などが公開されていました。


「ぴーちゃんと私」 下絵

中でも下絵で興味深いのは、絵本と同じ大きさのコピー用紙を用いていることで、絵だけでなく、テキストも同時に記されていました。まず言葉を大切に考えて絵本を描くのもさかざきの制作の特徴なのかもしれません。


参考資料「再校正」 赤字が反映された再校
 
この後の色や素材選び、印刷、そして製本のプロセスでは、色見本帳や試し刷りの表紙、また赤字を入れた初校や再校正などの資料が展示されていて、本づくりに関わる様々な手仕事を知ることができました。


左:参考資料「表紙色校1刷り」 イニシャル限定版 表紙1刷目(校正用)
右:参考資料「表紙色校1刷り」 イニシャル限定版 表紙(工場での試し刷り)

なお今回は本のサイズが小さく、厚みも薄いことから、人の手による手製本が採用されたそうです。


「ぴーちゃんと私とチーバくん」 シルクスクリーン ほか

また展示を記念してシルクスクリーン版も制作していて、完成した作品とともに、製版フィルムやシルクスクリーンの版も公開されていました。


「構造で見る絵本」展示風景

これまでに制作した25冊の絵本を分解した「構造で見る絵本」の展示も充実していました。


「構造で見る絵本」展示風景

ここでは1999年の「ペンギンゴコロ」や「100万匹目の羊」にはじまり、2019年の「なかよし ちびゴジラ」までの絵本が、カバー、表紙、折丁などに分けて並んでいて、まさに本の作りを目の当たりにできました。


「ペンギンのおかいもの」 手描き制作画 ほか

この他では、デジタル以前に制作された「ペンギンのおかいもの」や「ペンギンのゆうえんち」の手描き制作画なども、さかざきの細かな筆遣いが感じられる作品だったかもしれません。


「チーバくん ピーナッツカレンダー」 12カ月レシピ 2019年版

かなり手狭なスペースではありましたが、さかざきファンはもとより、本がどのように作られるのかという造本設計の観点からも興味深い展示だったのではないでしょうか。



さかざきがメインイラストの「ぴーちゃんと私とチーバくん」を制作する光景を捉えた、約10分間の映像も見応えがありました。

新型コロナウイルス感染症対策に伴い、マスク着用、手指の消毒の他、検温などが行われています。また入場時には、名前や住所、連絡先を来館者カードへ記入する必要がありました。


市川市生涯学習センター(メディアパーク市川)

最後にアクセスについての情報です。市川市文学ミュージアムの主な最寄駅は、JR総武線、及び都営新宿線の本八幡駅です。駅から歩いて15分~20分強ほどのメディアパーク市川(市川市中央図書館)の2階にあります。



駅から少し離れているため、例えば雨の日などはメディアパーク市川の北側に隣接するショッピングモール「ニッケコルトンプラザ」への無料バスも有用かもしれません。同プラザ開館日において、JR本八幡駅北口のロータリーより毎時4~6本ほどシャトルバスが行き来しています。シャトルバスについてはコルトンプラザのWEBサイトをご参照下さい。


市川市中央図書館入口横のパネル

なお1階の中央図書館内でも「本づくり展」に関連した資料の展示も行われていました。あわせて見るのも良さそうです。


中央:「ぴーちゃんの歌」 自主制作本 カバー手刺繍

地元市川でのさかざきちはるの個展としては、2017年の「さかざきちはるのおしごと展」(市川市芳澤ガーデンギャラリー)以来、約3年ぶりのことになります。


会場内の撮影が可能です。(常設展示は不可)2021年1月31日まで開催されています。*最上段の写真は、「ぴーちゃんと私とチーバくん」著者による手描きイラスト。

「さかざきちはるの本づくり展 手のひらサイズの大冒険」 市川市文学ミュージアム@nasi_ryman
会期:2020年11月7日(土)~2021年1月31日(日)
休館:月曜日。但し11月23日、1月11日は開館。11月24日、11月27日、年末年始(12月28日~1月4日)、1月12日、1月29日。
料金:一般500(400)円、65歳以上400(300)円、高校・大学生250(200)円、中学生以下無料。
 *( )内は25名以上の団体料金。
時間:10:00~19:30(平日)、10:00~18:00(土日祝)。
 *入場は閉館の30分前まで。
住所:千葉県市川市鬼高1-1-4 市川市生涯学習センター(メディアパーク市川)2階
交通:JR線・都営新宿線・本八幡駅より徒歩15~20分。京成線鬼越駅より徒歩10分。
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「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」 千葉県立美術館

千葉県立美術館
「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」 
2020/10/31~2021/1/11



千葉県立美術館で開催中の「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」を見てきました。

幼い頃から千葉市で育ち、20歳を過ぎてから独学で絵を制作したロッカクアヤコは、2006年に村上隆主宰のGEISAIでスカウト賞を受賞してから評価を高め、以降は主に海外を拠点に活動してきました。

そのロッカクの国内の公立美術館としては初の大規模な個展が「魔法の手」で、宇宙戦争をテーマにした連作やフラワーベースなど、約160点の作品が公開されていました。



会場に足を踏み入れた途端、ピンクやブルーなどのネオンカラーの色彩の渦に飲み込まれるような感覚に陥るかもしれません。左右の壁面には「宇宙戦争」や2020年に制作された絵画が並んでいて、中央には「フラワーベース」と題したオブジェが並んでいました。



いずれの作品も花畑のように広がる色彩の中に、大きな瞳を開けた少女が描かれていて、あどけなさを感じつつも、時に口をへの字に閉じながら、どこか強い意志をひめたような姿をしていました。



絵筆を用いず、指先で直接描いた線や色は、あたかも自在に変化するような躍動感があり、少女も花畑も渾然一体となりながら激しいエネルギーを放っていました。



一つ一つの絵画に目を向けると、一見、殴り書きのような色彩の花畑の向こうに、いくつかのスケールの異なったモチーフが組み合わさっていて、複数のイメージがレイヤーのように展開していることが分かりました。



「宇宙戦争」とはロッカクのドローイングに基づき、そのまま形にくり抜かれたキャンバスの作品で、少女たちが宇宙船に乗っては互いに武器を向け合うような光景が描かれていました。



解説に「平等院の飛天を思わせる」とありましたが、確かに武器を楽器に持ち替えれば天女のようで、軽やかに浮遊して舞うように連なっていました。



「フラワーベース」のオブジェでは、木材を轆轤や旋盤で挽き、円形の器を作る挽物の技術が取り込まれていて、江戸末期に箱根の挽物師から技術を継承したという静岡挽物が用いられていました。

ロッカクは2011年に少女を3D化したスカルプチャーを制作して以来、立体に関心を寄せていて、今回は静岡挽物のブランドSeeSeeによるプロダクトと協働しました。



さらに会場の最奥部には「Magic Hand 2020」がそびえ立っていて、一際大きな少女が目を吊り上げつつ両手を上げる様子が描かれていました。

「Magic Hand 2020」はボール紙の上に描かれていましたが、そもそも初期よりロッカクは段ボールを支持体に絵画を制作してきました。2009年の頃から7メートルを超える巨大な作品を取り組むようになったそうです。



この他ではアダチ版画研究所とのコラボレーションによる木版画の作品なども見どころと言えるかもしれません。



実際に使用されたオリジナルの版木とともに摺りの工程も公開されていました。



新型コロナウイルス感染症対策のため、入館時に名前や連絡先などを確認票に記入する必要がありました。確認票は窓口に用意されている他、予め美術館のサイトからもダウンロードすることが可能です。



千葉市美術館で開かれている「宮島達男 クロニクル 1995-2020」(12月13日まで)とあわせて見るのも良いかもしれません。それぞれの最寄駅である葭川公園駅と千葉みなと駅は、千葉都市モノレールで行き来することができます。



現在はポルトガルに拠点を構えているロッカクですが、そもそもこのスケールで作品を見ることからして貴重な機会と言えるかもしれません。想像以上に充実していました。



会場内の撮影が可能でした。(コレクション展は不可。)2021年1月11日まで開催されています。

「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」 千葉県立美術館@chiba_pref_muse
会期:2020年10月31日(土)~2021年1月11日(月・祝)
休館:月曜日。但し月曜が祝日の場合は開館し、翌日休館。年末年始(12月28日〜1月4日)。
時間:9:00~16:30。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般300円、高校・大学生150円、中学生以下、65歳以上無料。
 *20名以上は団体料金(2割引)
 *コレクション展と共通チケット
住所:千葉市中央区中央港1-10-1
交通:JR線・千葉都市モノレール千葉みなと駅より徒歩約10分。
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「風景の色 景色の風 / feel to see」 スパイラルガーデン

スパイラルガーデン
「風景の色 景色の風 / feel to see」 
2020/11/7~12/1



スパイラルガーデンで開催中の「風景の色 景色の風 / feel to see」を見てきました。

1995年にミナ ペルホネンの前身であるミナを設立したデザイナーの皆川明は、衣服をはじめ、家具や器、さらには宿泊施設などの空間ディレクションを手がけ、ファッションのみならず多様に活動してきました。

そのミナ ペルホネンのテキスタイルに注目し、世界観を映像などで表現したのが「風景の色 景色の風 / feel to see」で、主にテキスタイルのデザインを素材としたインスタレーションが展開していました。



まず螺旋空間へ至る通路では「ocean」と題した展示が行われていて、頭上よりミナ ペルホネンの代表的なテキスタイルが吊るされていました。



いずれもが一見、抽象的なイメージに思えつつも、花や樹木などの植物、さらには動物のモチーフが取り込まれていて、自然の様々な景色が表現されているかのようでした。



これらのテキスタイルは単に静止しているわけではなく上下に動いていて、「ocean」が示すように海の波に見立てていました。テキスタイルデザインが社会や時代の暮らしの変化を受け止めつつ、移ろいゆく景色を創ることをイメージしているそうです。



メインのスパイラルホールではテキスタイルを映像に表した「motion」が展示していて、アニメーションによってデザインが動きながら、様々な物語を紡いでいました。



ちょうど壁面を飾る樹木を連想させるデザインと重なりあってか、個々の映像はまるで樹木のように立ち並んでいて、それこそ互いのデザインが響きあう森へと誘われるかのようでした。



そうしたデザインの森を螺旋の通路から見下ろしながら歩き、2階のスパイラルマーケットを抜ける出ると、今度は過去のデザインの作品が並ぶ「0→1」とした展示が行われていました。


the first embroidery “hoshi hana” 1995年

ここでは皆川が初めて手がけたコートや、同じく最初に描いたレース柄の刺繍などが展示されていて、ミナ ペルホネンのデザインのいわば源泉が紹介されていました。


the first coat “happa” 1999〜2000年

一面のガラス張りの空間には、作品とともに樹木のデザインも映り込んでいて、ミナ ペルホネンの世界観を空間全体で表していました。



最後に「0→1」で目を引いた展示がありました。それが「the first atelier」で、使い古された色鉛筆やペンが入れられたイクラの箱でした。


the first atelier 1995年

これはブランドの立ち上げた頃、魚市場で働いていた皆川が、道具を仕分けるのに使っていたもので、まさに原点中の原点と呼べる資料でした。皆川は27歳にして独立を果たすも、当初は資金も乏しかったため、近所の魚市場で3年間マグロを捌きながら、服作りに勤しんだことで知られています。


the first novelty bag 2007〜2008年

また3階でも映像などの展示が行われていた他、show caceでは会期中に皆川が壁画を描いていて、制作プロセスも展覧会の特設サイトにて公開されていました。



peatixによる事前予約制が導入されました。11時から最終の19時50分までの全16回の各回入替制で、予め観覧時間を指定する必要があります。なお空き状況によっては、当日の会場受付でも申し込みが可能とのことでした。


入場は無料です。会期中無休にて12月1日まで開催されています。

「風景の色 景色の風 / feel to see」 スパイラルガーデン@SPIRAL_jp
会期:2020年11月7日(土)~12月1日(火)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。
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「日本美術の裏の裏」 サントリー美術館

サントリー美術館
「リニューアル・オープン記念展 Ⅱ 日本美術の裏の裏」
2020/9/30~11/29



日本の「生活の中の美」の愉しみ方に焦点を当て、古美術の奥深い魅力を引き出す展覧会が、サントリー美術館にて開催されています。

それが「リニューアル・オープン記念展 Ⅱ 日本美術の裏の裏」で、屏風、絵巻、茶道具などの優品、約70点(展示替えあり)が公開されていました。


円山応挙「青楓瀑布図」 江戸時代 天明7年(1787)

冒頭を飾るのが円山応挙の「青楓瀑布図」で、縦180センチ弱の掛軸には、滝壺に向かって勢いよく落ちる流水が描かれていました。滝の手前には初夏を思わせる青楓が伸びていて、滝壺にはあたかも荒波に耐えるかのような黒い岩の塊が表されていました。滝をモチーフとした江戸絵画は他にも多くありますが、これほど清涼感を得られる作品も少ないかもしれません。


「武蔵野図屏風」 江戸時代 17世紀

秋の薄野を一面に表した「武蔵野図屏風」も味わい深いのではないでしょうか。左右の屏風は横並びではなく、直角に置かれていて、右隻には地上付近にまで降りた満月、そして左隻には天辺にまで高くそびえる富士の頂が対比的に描かれていました。


「松竹梅鶴図屏風」 江戸時代 19世紀

それこそ「裏」にこそ魅力を感じる作品を挙げるとすれば、雛人形用のミニ屏風として作られた「松竹梅鶴図屏風」にあると言えるかもしれません。


「松竹梅鶴図屏風」 江戸時代 19世紀

金地の表面には松竹梅と鶴が雅やかに描かれている一方、裏面は銀地へ秋草が茂っていて、可憐な世界を見せていました。なお江戸時代には「後の雛」と呼び、雛祭りを9月9日にも行う風習があったことから、秋には秋草を表にして飾ったことも考えられるそうです。


「かるかや」 室町時代 16世紀

仏教説話を語りかけるための絵本として知られた、室町時代の「かるかや」が上下冊の全てが公開されていました。いわば稚拙とも受け止められる描写ながらも、筆遣いを通して主人公たちの心情などが伝わるかのようで、各場面に添えられたあらすじとともに物語の流れを追うことができました。


伝土佐光高「洛中洛外図屏風」 江戸時代 17世紀

伝土佐光高の「洛中洛外図屏風」の展示も面白いのではないでしょうか。二条城や東寺などがある左隻と、内裏や清水寺などが描かれた右隻は、ちょうど向かい合うように置かれていて、その合間の床面には京都の見取り図が広がっていました。屏風の中の位置関係を分かりやすく理解するのに有用な試みかもしれません。


「景色をさがす」展示風景

やきものの中に開ける景色に着目した「景色をさがす」も魅惑的な内容でした。ここでは南北朝時代から江戸時代へ至った、丹波や信楽、美濃などのやきものが展示されていて、ほぼ全ての作品を360度の角度から鑑賞することができました。


「信楽 壺 銘 野分」 室町時代 15世紀

そのうち信楽の壺「銘 野分」は、赤茶けた土肌に黒い焦げや自然釉、また一筋に流れるような白い面など極めて多様な表情を見せていて、無骨でかつ荒々しいまでの姿に心を強く引きつけられました。


重要文化財 尾形乾山「白泥染付金彩薄文蓋物」 江戸時代 18世紀

器一面に薄を描きつつ、もはや抽象表現を展開するような尾形乾山の「白泥染付金彩薄文蓋物」にも魅せられました。この他、やきものでは仁阿弥道八の「色絵桜楓文透鉢」や鍋島の「色絵梅流水文大皿」も美しい作品で、それこそ優品揃いに目移りしてしまうほどでした。


池大雅「青緑山水画帖」 室町時代 宝暦13年(1763)

自然の風景をアルバムの形式に表した池大雅の「青緑山水画帖」も見逃せません。それぞれの図には釣りをしたり旅をする人々が点景として細かく描かれていて、人物を探すように鑑賞するのが面白く感じられました。


「日本美術の裏の裏」会場風景

一部に襖を取り込んだ会場の構造も良かったのではないでしょうか。全てがサントリー美術館の所蔵品でしたが、改めて同館の質の高いコレクションに感心させられました。


仁阿弥道八「七種盃」 江戸時代 天保9年(1838)

第1回目のリニューアル展では中止していた夜間開館が復活しました。毎週金曜と土曜日は20時まで開館します。またオンラインでチケットを事前に購入することも可能ですが、基本的には予約も不要です。


「日本美術の裏の裏」会場風景

10月28日から後期展示に入りました。これ以降の入れ替えはありません。

会場内の撮影もできました。11月29日まで開催されています。

「リニューアル・オープン記念展 Ⅱ 日本美術の裏の裏」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:2020年9月30日(水)~11月29日(日) *会期変更
休館:火曜日。但し11月3日、24日は18時まで開館。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
 *金・土曜は20時まで開館。
 *11月2日(月)、22日(日)は20時まで開館
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
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「甲府を日帰りで楽しむ ミレーとバルビゾン、そしてワイナリー」 後編:甲府市街・サドヤワイナリー

前編:武田神社・山梨県立美術館から続きます。サドヤワイナリーの見学ツアーに参加してきました。



1917年(大正6年)に創業したサドヤワイナリーは、日本で初めてワイン専用ブドウ品種でワインを製造したことで知られ、甲府の自家農園でブドウを栽培してはワインを作り続けてきました。



サドヤワイナリーではワインの醸造と販売とともに、レストランやチャペル、宴会場などを運営している他、約700坪に及ぶ醸造場や貯蔵庫の地下ワインセラーの見学ツアーを行っています。



ツアーは各回40分程度、定員8名による事前予約制で、私も前もって土曜日の午後の2回目に当たる16時のツアーを予約していました。



山梨県立美術館からバスで甲府駅近くへ戻ると15時頃でした。見学まで少し時間に余裕があったため、甲府の街を散策することにしました。なお繁華街は主に駅の南側、甲府市役所から岡島百貨店付近に広がっていました。



商店街を練り歩きながら甲府城へと進むと、舞鶴城公園南広場にて公共空間を用いた社会実験「ADVENTURE in Kofu Scramble Park」が開催されていました。



これは新型コロナウイルスの影響下において、屋外広場を有効活用するための企画で、私が出向いた日はビアガーデン「KEEP CALM AND DRINK BEER」が行われていました。ソーシャルディスタンスの観点から一定の間隔を開けて座席が配置されていて、県内各地のブルワリーのビールが提供されていました。



そして舞鶴城公園からすぐ北にあるのが、豊臣秀吉の命によって築城が始まり、1600年頃に完成したと考えられている甲府城でした。



豊臣政権以降は徳川家一門が城主となり、1704年に柳沢吉保が治めると、城下町とともに栄えたと言われていて、2019年には国の史跡に指定されました。



城の威容を眺めながら線路を越えると、山手御門のある甲府歴史公園があり、すぐ横には明治から昭和初期の城下町を再現した商業施設、甲州夢小路が広がっていました。



ここでは古民家や蔵、倉庫など古い建築様式を取り入れた店舗が立ち並んでいて、明治初期まで甲府で200年以上も時刻を住民に知らせた「時の鐘」を再現した建物もありました。



レストランや和カフェ、ワイン販売やバー、それに和紙や紙小物などを販売する店などが連なっていて、甲府の1つの観光スポットを形成しているようでした。



また甲府駅北口では丹下健三の設計したメタボリズム建築、山梨文化会館も目立っていました。16本の円柱が建物を支える特徴的な外観は、まるで神殿か宇宙船のように見えました。



しばらく甲府駅周辺を歩いていると、予約していた16時が近づいてきたので、サドヤワイナリーへ行くことにしました。



駅から5分ほどの場所にあるサドヤワイナリーは、南フランスのプロヴァンスを思わせる佇まいが魅力的で、ツアーは入口すぐ右側のショップで受け付けていました。



スタッフの方の誘導の元、ぶどうの垣根を見た後は、いよいよ地下のセラーを見学することになりました。階段を降りると薄暗く古い空間が現れて、地上のお洒落な雰囲気とは一変しました。



地下セラーにはかつて地上からブドウを落としたタンクをはじめ、搾汁機などの昔の機械が残されていて、スタッフの方が樽の作り方やワインの製法などについて分かりやすく説明して下さいました。



一升瓶に換算して約300本ものワインを詰めた樽が並ぶのが、ワインを熟成するための樽熟庫でした。



サドヤのワインは樽で熟成させた後、さらに一升瓶に詰め替えてから寝かせるのが特徴で、無数の一升瓶が並ぶ貯蔵庫も見学することができました。



この他、非売品のヴィンテージワインなどが貯蔵されたスペースなども興味深いのではないでしょうか。



現在、サドヤではコロナ禍において結婚式などの宴会需要が激減し、営業に際しても困難な状況に置かれているとのことでしたが、ベテランのスタッフの方の楽しい解説を聞きながらツアーを巡っていると、あっという間に規定の時間を過ぎていました。



見学ツアーの後は地上へ戻り、ワインの試飲タイムへと移りました。ワインかブドウジュースをグラス一杯分試飲することが可能で、ワインを美味しく飲むための口に含ませ方についてもアドバイスもありました。



サドヤの見学ツアーは、ワインに詳しくなくとも、古い遺構を見られることからして魅惑的と言えるかもしれません。1000円の見学料金もリーズナブルに思えました。



この日は午前中に1回、午後に2回の計3回のツアーが行われましたが、いずれも事前予約で満員とのことでした。そもそもツアーはコロナ対策に伴って見学回数と人数をともに絞っていて、実際にも当日、飛び込みで参加を希望される方を断る様子も見受けられました。見学に際しては事前に予約されることをお勧めします。



最後にショップでお土産用にワインを買い、歩いて甲府駅へと戻りました。サドヤは駅から近く、気軽に立ち寄れるのも魅力かもしれません。



こうして午前中から武田神社と山梨県立美術館、そしてサドヤワイナリーの見学ツアーを日帰りで巡った後は、夕方過ぎの特急「かいじ」にて新宿へと帰りました。

「ワイナリー・地下セラー見学ツアー」 サドヤワイナリー@SADOYA_Winery
開催日時:11:00~(月~木)。11:00~、14:00~、16:00~(金~日祝)
見学料金:一般1000円、中学生以下無料。
 *プレミアム見学ツアーあり。料金は一般2000円。(20歳以上が対象)
 *完全予約制。公式サイトの専用フォームより要予約。
ショップ営業時間:10:00~15:00(月~木)、10:00~17:00(金~日祝)
住所:山梨県甲府市北口3-3-24
交通:JR線甲府駅北口より徒歩5分。
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「甲府を日帰りで楽しむ ミレーとバルビゾン、そしてワイナリー」 前編:武田神社・山梨県立美術館

1978年に開館した山梨県立美術館は「ミレーの美術館」として親しまれ、ミレーとバルビゾン派や山梨県に縁のある作品を中心として、約1万点もの絵画と彫刻を所蔵しています。



今秋、ちょうど山梨県立美術館ではフランスの画家、クールベの展覧会が開催されていました。(「クールベと海」展。11月3日に終了。)私自身、クールベは好きな画家であり、山梨県立美術館へも一度も行ったことがなかったため、この機会に甲府へ出かけることにしました。



新宿を8時半に出発する「かいじ7号」に乗車し、いくつもの山を超えて甲府に着くと10時をまわっていました。



甲府駅の北口から一直線に北へと伸びる道を進んだ場所に位置するのが、古くは武田氏が本拠を構え、現在は武田信玄を祭神として祀っている武田神社でした。



武田神社のバス停を降りると、土産物店とともに甲府市武田氏館跡歴史館「信玄ミュージアム」が建っていて、堀の向こうに武田神社の鳥居が見えました。ちょうど七五三の時期と重なったため、着飾った親子連れで賑わっていました。



同神社のある武田氏館跡(躑躅ヶ崎館跡)は、周囲の堀や土塁が当時のまま残されていて、1938年には国の史跡として指定されました。戦国時代の躑躅ヶ崎館には武田信虎、信玄、勝頼の3代が60年あまり居住し、その後、大きく時を経て大正時代になると神社が創建されました。やはり信玄の武功にあやかってか、「勝運」のご利益で信仰を集めているそうです。



社殿の周囲は樹木が鬱蒼と生茂っていて、すぐ横には武田氏の遺宝を公開する宝物殿が建っていました。こじんまりとした館内には武田氏の扇や太刀の他、風林火山の旗、それに江戸時代に描かれた武田二十四将の図などが展示されていて、戦国も名を轟かせた武田の歴史の一端を知ることができました。



再び甲府駅へ戻るとお昼前になっていたため、駅北口の老舗「小作」にてほうとうをいただきました。大きなかぼちゃを中心に、里芋、じゃがいも、人参、しいたけとボリュームも満点で、特に野菜と味噌の甘味がとても美味しく感じられました。



ちょうど私はタイミング良く入店できましたが、お昼を回ると満席となり、順番待ちの行列も伸びていました。ほうとうの他にも馬刺しなどの一品料理も名物のようで、夜はお酒を飲みつつ楽しめる店なのかもしれません。



ほうとうでお腹いっぱいになった後は、山梨県立美術館へと向かうべく、駅の反対側の南口ロータリーへと歩きました。



甲府駅南口の駅ビル前のロータリーには武田信玄の像も建っていて、山梨県の玄関口としての風格も感じられました。



山梨県立美術館は甲府市西部にある芸術の森公園内に建っていて、起点である甲府駅から路線バスに揺られること約15分ほどでした。



約6ヘクタールにも及ぶ芸術の森公園には、美術館とともに山梨県立文学館があり、バラ園やボタン園などの四季の草花が楽しめる庭園が整備されていました。



またロダンやブルーデル、ムーアや岡本太郎らの野外彫刻も点在していて、想像以上に広々としていました。あいにくこの日は僅かに雲が出ていたからか、はっきりと見えませんでしたが、晴天時は富士山も美しく眺められるそうです。



前川國男が設計した本館は煉瓦色の外観が特徴的で、重厚な佇まいを含めて、同じく前川の手による東京都美術館を連想させるものがありました。



1階の正面入口を進むとインフォメーションとチケット売り場があり、正面にコレクション展へと至る階段、左手にミュージアムショップとレストラン、そして2階の特別展示室に繋がる階段がありました。



「クールベと海 フランス近代 自然へのまなざし」は、代表的な「波」などの海をモチーフとした絵画を中心に、同時代の画家を含めて70点の作品を紹介するもので、海の風景のみならず、山や狩猟画なども合わせて公開されていました。



ターナーなどピクチャレスクにはじまり、クールベの画業を作品で辿りつつも、レジャーとしての海辺の役割など、当時の人々と海との関わりまでを視野に入れていて、質量ともに充実していました。またクールベの無骨ともいえる自然の風景画に、「地方の独立の意思」(解説より)が見られるとの指摘も興味深く感じられました。



一通りクールベ展を見終えた後は、同じく2階の常設展示室へ行きました。同館のコレクション展はAのミレー館、Bのテーマ展示、Cの萩原英雄記念室に分かれていて、中でもミレーの「種をまく人」や「落ち穂拾い、夏」など名作から、ライスダール、デュプレ、ドービニー、ルソーの絵画が展示されたミレー館が特に見応えがありました。



ミレーの「落ち穂拾い、夏」は同館の代表するコレクションとして知られていて、最近ではアメリカのセントルイス美術館で開催されていた「ミレーとモダンアート:ファン・ゴッホからダリまで」に貸し出しされていました。


そして同作は新型コロナウイルス感染拡大に伴って貸し出し期間が延長され、約8ヶ月ぶりにミレー館に帰還を果たし、9月29日より再び公開されました。



水をテーマとした作品が中心のコレクション展を見終えると14時を過ぎていたので、レストラン「Art Archives(アート・アーカイブス)」にて休むことにしました。



座席数70席ほどの店内はスペースに余裕があり、「アーカイブ」の由来なのか、カタログなどを並べた書棚がディスプレイされていました。既に昼食はほうとうで済ませていたので、カフェメニューを注文しましたが、オムライスなどのランチセットを頼んでいる方も見受けられました。かなり落ち着いた雰囲気ゆえに、レストランだけを利用される方も少なくないかもしれません。



そしてレストランを出て、心地良い風に吹かれながら芸術の森公園を散策した後は、バスにて再び甲府駅と戻りました。



後編:甲府市街・サドヤワイナリーへと続きます。

「クールベと海 フランス近代 自然へのまなざし」 山梨県立美術館@yamanashi_kenbi
会期:2020年9月11日(金)~11月3日(火・祝) *会期終了
休館:9月14日(月)、23日(水)、28日(月)、10月5日(月)、12日(月)、19日(月)、26日(月)
時間:9:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人1000(840)円、学生500(420)円。高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:山梨県甲府市貢川1-4-27
交通:JR線甲府駅バスターミナル(南口)1番乗り場より御勅使(みだい)・竜王経由敷島営業所・大草経由韮崎駅・貢川(くがわ)団地各行きのバスで約15分、山梨県立美術館下車。
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「宮島達男 Uncertain」 SCAI THE BATHHOUSE

SCAI THE BATHHOUSE
「宮島達男 Uncertain」
2020/11/7〜12/12



SCAI THE BATHHOUSEで開催中の「宮島達男 Uncertain」を見てきました。

今回の個展で何よりも目を引くのが、壁面に展開した新作の絵画シリーズ「Painting of Change」でした。

そこでは宮島の代名詞とも呼べるデジタルの数字が、7つに分割されたセグメントによって表現されていて、使用されないセグメントは床へと直に置かれていました。


宮島達男「Painting of Change - 000」 2020年

例えば数字の「9」は、6つの金色に染まったセグメントによって示されていて、左下の使われない1つのセグメントのみが手前の床に横たわっていました。


宮島達男「Painting of Change - 001」 2020年

また「7」は3つ、そして「8」は全てのセグメントによって数字が表されていました。また「8」など、一見同じ青色に塗られていると思いきや、かなり濃淡があるのも特徴で、いずれも油絵具が用いられていました。但し「9」の作品のみ金箔が貼られていました。


右:宮島達男「Painting of Change - 006」 2020年

最も興味深いのは何の刻印もない、つまりは「0」の状態でした。ここに全てのセグメントは床に置かれていて、壁にはセグメントを設置するための突起物のみが残されていました。


宮島達男「Painting of Change - 003」(部分) 2020年

これらの数字はあらかじめ決められた周期により、サイコロの出た目に応じて変化するとのことで、LEDのカウンターと同様に明滅を繰り返していると言えるのかもしれません。


宮島達男「Unstable Time S - no.9」 2020年

そのLEDを組み込んだのは「Unstable Time」と題した3つの作品でした。いずれもが真っ白なナイロンの布へ極小のカウンターが刺繍するように連なっていて、緑、青、赤に点灯しながら、1から9へのカウントを繰り返していました。


宮島達男「Unstable Time C - no.6」 2020年

先のセグメントと同様、いわばフレームに変化を促していて、同じ数字を扱いながらも、かつての電子回路基盤を用いた作品とは異なったイメージを生み出していました。


宮島達男「Unstable Time L - no.3」 2020年

タイトルの「Uncertain」とは、不安定な、変わりやすい、不確かななどを意味していて、「物事を真に予測することなど人間には不可能であり、またその展開は常に偶然性に委ねられている」(展覧会解説シートより)とする宮島の考えが反映されているそうです。


宮島達男「Unstable Time S - no.9」(部分) 2020年

宮島は現在、千葉市美術館でも大規模な個展を開いていますが、同じく作品を出展している森美術館の「STARS展」とあわせて見ておきたい内容ではないでしょうか。


宮島達男「Painting of Change - 000」(部分) 2020年

事前予約は不要になりました。但し混雑状況によっては入場制限を行う場合があります。お出かけの際はご注意下さい。

12月12日まで開催されています。

「宮島達男 Uncertain」 SCAI THE BATHHOUSE@scai_bathhouse
会期:2020年11月7日(土)〜12月12日(土)
休廊:日・月・祝。
時間:12:00~18:00
料金:無料
住所:台東区谷中6-1-23 柏湯跡
交通:JR線・京成線日暮里駅南口より徒歩6分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩7分。
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「ポーラ ミュージアム アネックス展2020-透過と抵抗」 ポーラミュージアムアネックス

ポーラミュージアムアネックス
「ポーラ ミュージアム アネックス展2020-透過と抵抗」
2020/10/15~11/15



ポーラミュージアムアネックスで開催中の「ポーラ ミュージアム アネックス展2020-透過と抵抗」を見てきました。

ポーラ美術振興財団が在外研修助成した若手芸術家の成果を公開する「ポーラ ミュージアム アネックス展」も、第17回を数えるに至りました。

今回のテーマは「透過と抵抗」で、いずれもガラスを素材する青木美歌、林恵理、中村愛子の3名のアーティストの作品が展示されていました。


林恵理「O.T.」 2017年

冒頭は1990年に鳥取で生まれ、ドイツで研修した林恵理の「O.T」と題した作品で、白い球状のガラスのオブジェが4つ並んでいました。表面は色が爛れてひび割れるような質感を見せていて、一見するところガラスのようには思えませんでした。古い地層から掘り起こされた化石を連想させるかもしれません。


林恵理 展示風景

さらにまるで果実のような形をしたオブジェや、額縁に入ったガラスの装飾的な作品を床と壁へ展開していました。ドイツでの生活で出会った「差異」を起点としながら、この世界での新しいユートピア像を考えて制作してきたそうですが、静謐な空間が立ち上がっていたのではないでしょうか。


青木美歌「Fluid」 2020年

2017年に同ギャラリーでの個展「あなたに続く森」でも人気を博した、ガラス造形作家の青木美歌の作品も目立っていたかもしれません。


青木美歌「Drift」 2020年
 
ガラスの展示台の上には、菌類などの微生物や何らかの有機体を連想させるオブジェが並んでいて、それこそ宝飾品のような眩い光を放っていました。


奥:青木美歌「Her favorite necklace」 2020年

また奥には青木が研修に出向いたアイスランドのトロール、つまり妖精の女の子が身につけるネックレスをモチーフにした作品が吊るされていました。日本の自然とアニミズムの精神の関係について考察していた青木は、アイスランドにおいても同様に自然と精霊についてリサーチしていたそうです。


中村愛子「余白」 2016年

最後に私が今回の展示で最も魅せられたのは、1991年に東京に生まれ、フランスで研修を重ねては、現在もパリガラス高等工芸美術学校に在学する中村愛子の作品でした。


中村愛子「Inhumane and Beautiful」 2017年

ステンドグラスでは果実や書物の静物の他、木立の風景や古びた建物、さらにはパソコンやスマホを持った人などが表されていて、過去と現代が混ざり合ったような光景を生み出していました。


中村愛子「島」 2019年

一方の鉛筆画ではゴシック風の建物の並ぶ街並みや、最後の晩餐を思わせるような食卓などが極めて細かに描かれていて、ステンドグラスと同様に幻想的な雰囲気が漂っていました。


右:中村愛子「百合の肖像」 2020年

色彩鮮やかなステンドグラスとモノトーンの鉛筆画の双方にて、夢の中を垣間見るような心象風景を表しているのかもしれません。どちらでの表現でも「光に美しさ」を重要視してきたとのことですが、一つの物語を紡ぐかのような作品世界に心を引かれました。


中村愛子 展示風景

WEBでの事前予約制が導入されました。入場に際しては原則、各回1時間前までに専用予約ページより日時を指定する必要があります。(但し定員に達していない時間帯は、予約なしでの当日観覧受付が可能。)


間もなく会期末です。11月15日まで開催されています。 

「ポーラ ミュージアム アネックス展2020-透過と抵抗」 ポーラミュージアムアネックス@POLA_ANNEX
会期:2020年10月15日(木)~11月15日(日)
休館:会期中無休。
料金:無料
時間:11:00~18:40 
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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「第14回shiseido art egg 橋本晶子展  Ask him」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第14回shiseido art egg 橋本晶子展  Ask him」
2020/10/30~11/22



資生堂ギャラリーで開催中の「第14回shiseido art egg 橋本晶子展  Ask him」を見てきました。

1988年に東京都で生まれ、日本画を学んだ橋本昌子は、モノクロの鉛筆画などのインスタレーションによって、銀座の地下のホワイトキューブを「詩的な空間」(解説より)へと変化させました。



地下へと立ち入った途端、色のない夢の世界へと誘われたように感じられるかもしれません。会場内には、静物や道、飛ぶ鳥や植物、戸外の風景やカーテンなどを描いた大小様々の鉛筆画が展示されていて、いずれもがテープやクリップで壁に留められていました。



いくつかの作品は壁の四隅で折り曲げるように広がっていて、白いLEDライトと思しき光にぼんやりと照らされていました。



瓶や電球、それに皿やスプーンなどの静物はもちろん、並木道や植物の葉、さらに鳥などのモチーフは繊細に描かれていて、時に白い紙の上に別の紙を貼って鉛筆を走らせていることもありました。



また1つの平面の中へ植物や道などの光景が重なり合うようになっていたり、描いた風景一部を別の白い紙で覆っているなど、紙とモチーフとが互いに関係し合うような表現も目を引きました。



ほぼ唯一モノクロでなかったのは、テーブルの上の花瓶に入った、5枚の緑色の葉を持つ観葉植物でした。



普段であれば特に気にも留めないような植物に見えましたが、他が全てモノクロであるからか、緑が殊更に鮮やかに映りました。例えばモノクロを夢の中とすれば、緑の植物のみが現実にあるような錯覚に陥るかもしれません。



とりわけ目立っていたのが、5枚のトレーシングペーパーに連なるカーテンの大きな作品でした。カーテンは一面に閉じられた様子が示されていて、中央には道をモチーフとした作品が薄く透けるように描かれていました。



上から下へと垂れるトレーシングペーパーに折り目はないものの、カーテンは美しく波打っているように思えて、実際にひだが寄っていると見間違うほどでした。

「壁に絵があるとき、ここと、ここから届かない遠くとがささやかに触れ合う。それがふと目に映り、また映るたび、見る人は ふたつの間を何度でも行きかう。」 橋本昌子 *解説より

しばらく眺めていると、カーテンの向こうに別の空間と行き交うことのできる窓が存在しているかのようでした。



「第14回 shiseido art egg」展示スケジュール
西太志展:2020年10月2日(金)~10月25日(日)
橋本晶子展:2020年10月30日(金)~11月22日(日)
藤田クレア展:2020年11月27日(金)~12月20日(日)


事前予約制です。11月22日まで開催されています。 *写真は全て「第14回shiseido art egg 橋本晶子展  Ask him(アスクヒム)」展示風景。

「第14回shiseido art egg 橋本晶子展  Ask him(アスクヒム)」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:2020年10月30日(金)~11月22日(日)
休廊:月曜日。*祝日が月曜にあたる場合も休館
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「名和晃平 Oracle」 GYRE GALLERY

GYRE GALLERY
「名和晃平 Oracle」
2020/10/23~2021/1/31



GYRE GALLERYで開催中の「名和晃平 Oracle」を見てきました。

1975年に生まれ、京都を拠点に活動する彫刻家の名和晃平は、動物の剥製を無数の球体で覆った「PixCell」シリーズなどで注目を集めてきました。

その名和が神託や神意をテーマにしたのが「Oracle」と題した個展で、「PixCell」や「Black Field」などの新作19点に加え、GYREの吹き抜けを利用した「Silhouette」を6点ほど展示していました。


名和晃平「Trans-Sacred Deer (g/p_cloud)」 2020年

まず大いに目を引くのが金色に燦然と輝く「Trans-Sacred Deer (g/p_cloud)」で、鎌倉時代から南北朝時代に制作されたとされる「春日神鹿舎利厨子」の神鹿をモチーフにした作品でした。


名和晃平「Trans-Sacred Deer (g/p_cloud)」(部分) 2020年
 
神鹿は3Dシステムでデータを作成した上、木彫、漆塗り、箔押しなどの伝統的な技法によって制作していて、背の鎧には蓮華座の上に火焔宝珠を乗せていました。また鹿自身も渦を巻いては雲のような形状をしていて、何もない空間より姿を現す瞬間を捉えているように思えました。


名和晃平「Dune#16」 2020年

「Dune」と名付けられた平面のシリーズも印象に深かったかもしれません。これは複数のメディウムや水などを混合し、支持体の上に流し広げては模様を表した絵画で、あたかも宇宙から人工衛星で地表を眺めたランドスケープが示されているようでした。


名和晃平「Dune#5」 2020年

一部は山脈や氷河のような光景にも重なって見えましたが、赤い絵具が炎のように立ち上がるような作品からは、速水御舟の「炎舞」の炎のようにも映りました。


名和晃平「Dune#16」(部分) 2020年

いわゆる抽象絵画と呼べるのかもしれませんが、見る側の心象によって表情が変化するような作品かもしれません。


名和晃平「Catalyst#21」 2020年

グルーガンで液状の絵具を支持体へと定着させたのが、レースの網目のようなモチーフの広がる「Catalyst」でした。


名和晃平「Catalyst#21」 2020年

透明のグルーは鳥の翼のように横へと広がる一方、重力のゆえか下へと伸びてもいて、何やら菌のような微生物が繁殖しているかのようでした。


名和晃平「Blue Seed」シリーズより 2020年

コンピュータのプログラムによりイメージが繰り返し生成されていくのが、「Blue Seed」と呼ばれた2点の作品でした。表面には青いインクのような線描が現れては消えていて、植物の種子のような残像を見せていました。ともかく滲んで連なる線の形は終始、変化し続けていて、動くドローイングを目にしているようでした。


名和晃平「Rhythm」シリーズより 2020年

大小の球体を組み合わせつつ、全てにグレーのパイル(短繊維)を植毛したのが、立体の「Rhythm」でした。ケースの中にはいくつかの球体がランダムに並んでいて、照明の効果によって斜め下へと影を伸ばしていました。


名和晃平「Rhythm」シリーズより 2020年

一部の球体は上部が切り取られたような形をしていましたが、中にはコロナウイルスならぬ細菌を連想させるものもありました。ちょうどシャーレの中で培養される菌を思わせる面もあるかもしれません。


名和晃平「PixCell Crow#5」 2020年

この他では、カラスとカモシカをモチーフとした「PixCell」のシリーズも展示されていました。


名和晃平「PixCell Reedbuck」 2020年

いずれも今年に制作された作品でしたが、代表的な「PixCell」とともに、新たに公開された「Blue Seed」や「Dune」などを併せ見る展示も良かったかもしれません。


名和晃平「Moment #164 #163 #162」 2020年

これほどの点数の作品を都内で見られる機会は久しぶりではないでしょうか。平面に立体と行き来し、常に変化し続ける名和の現在の表現を知ることができました。


GYRE内アトリウムでの「Silhouette」の展示風景

なお名和は明治神宮の「神宮の杜芸術祝祭」の「天空海闊(てんくうかいかつ)」においても、屋外に「White Deer (Meiji Jingu)」と題した彫刻を展示しています。(12月13日まで)


名和晃平「White Deer (Meiji Jingu)」 2020年 *明治神宮での展示風景

場所は苑内の明治神宮ミュージアムの前で、神宮前のGYRE GALLERYから歩いて行くことが可能です。あわせて観覧するのも良さそうです。



会期中無休です。2021年1月31日まで開催されています。

「名和晃平 Oracle」 GYRE GALLERY
会期:2020年10月23日(金)~2021年1月31日(土)
休廊:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 3F
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅4番出口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A1出口より徒歩4分。
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「KING&QUEEN展―名画で読み解く 英国王室物語―」 上野の森美術館

上野の森美術館
「ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING&QUEEN展 ―名画で読み解く 英国王室物語―」
2020/10/10~2021/1/11



上野の森美術館で開催中の「ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING&QUEEN展 ―名画で読み解く 英国王室物語―」を見てきました。

世界屈指の肖像美術専門美術館であるロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリーには、主に15世紀以降、テューダー朝から現在のウィンザー朝へと至る歴代の王侯の肖像画が数多く収められてきました。

そうした一連のコレクションを日本で初めてまとめて公開したのが「KING&QUEEN展 ―名画で読み解く 英国王室物語―」で、絵画のみならず、版画や写真などの肖像が90点が展示されていました。

さてタイトルに「英国王室物語」とあるように、過去500年間のイギリス王室の歴史を辿られるのも大きな魅力と言えるかもしれません。



冒頭、エリザベス2世の威厳に満ちた肖像を過ぎると、ヘンリー8世やアン・ブーリン、さらにエリザベス1世などテューダー朝の肖像画が並んでいて、詳細な解説パネルや家系図などで、絵の描かれた背景や属性を知ることができました。

この属性とは人物の生き様や歴史のことで、例えば「エリザベス1世(アマルダの肖像画)」では、背景の左にイングランドの船が出港し、右に海に沈むスペイン艦隊が描かれていることから、アマルダ海戦での勝利を意味していることがわかりました。またエリザベス1世は一生独身を通したことでも知られていて、いわゆる処女性を象徴するとされる真珠のネックレスを身に纏っていました。

ステュアート朝の「チャールズ1世の5人の子どもたち」も興味深い作品かもしれません。中央で前を見据えるのがチャールズ1世の子、将来のチャールズ2世で、ローマ時代から番犬として愛されたマスティフ犬の頭の上に手を乗せていました。また左から2番目の子はチャールズ2世の弟であるジェームズ2世で、少女のような格好をしていました。この時代の子どもは性別に関係なく、少女のような服装をすることが多かったそうです。


ステュワート朝家系図 *会場内撮影可能パネル

そのジェームズ2世の子のアンを描いたゴドフリー・ネラーの「アン女王」に魅せられました。エリザベス1世以降で初めての女王であったアンは、例えば演説においてエリザベスの有名な衣装のレプリカを着用するなど、かつてのテューダー朝の権威を利用しながら統治を行いました。そして計17回妊娠したものの、幼少期を生き延びたのは男児1人だけという母としては悲劇的な人生を送りましたが、胸に手を当てて堂々と立つ姿には君主としての自負が感じられました。

ハノーヴァー朝のジョージ4世をモデルとした2枚の作品も面白いのではないでしょうか。1つはトーマス・ローレンスによる油彩の「ジョージ4世」で、鋳造されることはなかったものの、メダルを制作するために描かれました。引き締まって凛々しい横顔が印象に深いかもしれません。

もう1つは「消化におびえる酒色にふけた人(ジョージ4世)」と題した版画で、実は当時、肥満だった皇太子の姿を風刺するように表していました。ジョージ4世は芸術に対する支援活動で知られたものの、若い頃は暴飲暴食などの放蕩ぶりで「悪評」(解説より)されていました。さすがに顔つきこそ似ているものの、体格だけをとれば同じ人物とは思えませんでした。

ヴィクトリア女王の時代になると、印刷技術の進展によって王家の肖像への需要が高まり、さらに写真が一般に市販されるようになると、王室の写真画像も多く出回りました。またヴィクトリア女王も、いわゆるメディア戦略の一環として、自らの写真を肖像に使うことを進んで受け入れました。そうしたヴィクトリア朝時代の古写真も何点か出品されていました。


ドロシー・ウィンディング撮影、ベアトリス・ジョンソン彩色 「エリザベス2世」 1952年2月26日撮影 *会場内撮影可能作品。

ウィンザー朝の時代に入って目立つのは、王族の日常的な生活を捉えた写真でした。「ウィンザー城のクリスマス:ツリーを飾る」は、BBCのドキュメンタリー「ロイヤルファミリー」の収録中に写した作品で、家族と打ち解けた姿で暮らす女王の様子を有り体に示していました。ただ女王は後に同番組の撮影を許可したことを後悔したと言われていて、以降は放映されることはありませんでした。


チャールズ皇太子とカミラ妃、また故ダイアナ妃、さらにウィリアム王子とキャサリン妃にジョージ王子、ハリー王子とメーガン妃など、現在のロイヤルファミリーの写真も多く展示されていました。こうした写真も1つの見どころかもしれません。

新型コロナウイルス感染症対策に伴い、入場に際しては日時指定制が導入されました。各プレイガイドにて入場前日の17時までに購入することができます。また当日の場合は、会場のチケットボックスにて日時指定券を購入することが可能です。但し事前販売で規定枚数に達した場合は販売がありません。なお平日と土日祝日にてチケット料金が異なります。

最新の販売状況については、KING&QUEEN展チケット情報のアカウント(@kingqueen_info)にてご確認ください。


作家の中野京子さんによる著書「名画で読み解くイギリス王家12の物語」(光文社新書)が、展覧会公式参考図書としてコラボレーションしていました。

必ずしも全ての出展作と準拠しているわけではないものの、テューダー、ステュワート、ハノーヴァーの3つの王朝を絵画を引用しながら辿っていて、歴史背景などを分かりやすく解説していました。私も前もって読んでから出かけましたが、あわせておすすめしたいと思います。



国内への巡回はありません。会期中無休にて2021年1月11日まで開催されています。

「ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING&QUEEN展―名画で読み解く 英国王室物語―」@king_queen_ten) 上野の森美術館@UenoMoriMuseum
会期:2020年10月10日 (土) ~ 2021年1月11日 (月)
休館:会期中無休。
時間:10:30~17:00
 *入場は閉館30分前まで。
 *金曜日は20時まで開館。但し1月1日(金祝)は17時まで。
料金:一般1800(2000)円、大学・高校生1600(1800)円、中学・小学生1000(1200)円。
 *平日料金。( )内は土日祝日料金。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
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「特別展 桃山―天下人の100年」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館
「特別展 桃山―天下人の100年」
2020/10/6~11/29



東京国立博物館・平成館で開催中の「特別展 桃山―天下人の100年」のプレス内覧会に参加してきました。

1573年の室町幕府滅亡から1603年の江戸幕府開府までの30年間を指す安土桃山時代には、日本美術史の中でも「変革期」とされる様々な文化が花開きました。

その安土桃山時代を中心に、室町時代末(天文年間)より江戸時代初期(寛永年間)までの100年間の文化を辿るのが「特別展 桃山―天下人の100年」で、絵画や陶芸、刀剣や甲冑などの作品、約230件(展示替えあり)が展示されていました。


左:「織田信長像」 狩野永徳 安土桃山時代・天正12年 京都・大徳寺
右:重要文化財「豊臣秀吉像画稿」 安土桃山時代 大阪・逸翁美術館

これほど桃山文化にまつわる優品が集まったことは、今までになかったかもしれません。狩野元信から永徳に探幽、さらにはライバルとされる長谷川等伯の絵画から江戸時代初期の風俗画、または上杉謙信や豊臣秀吉らの戦国武将ゆかりの甲冑、ないし千利休や古田織部にまつわる茶道具のほか、蒔絵や南蛮美術などの作品がずらりと並んでいて、ほぼ全編がハイライトと捉えても過言ではありませんでした。


手前:重要文化財「秋草蒔絵絵書箪笥」 安土桃山〜江戸時代 京都・高台寺
奥:国宝「楓図壁貼付」 長谷川等伯 安土桃山時代・文禄元年頃 京都・智積院

また絵画や工芸が時に一つの景色を作り上げるように展開しているのも特徴的で、例えば「秋草蒔絵歌書箪笥」越しに見やる等伯の「楓図壁貼付」では、秋草と赤と緑に彩られた楓の木が華麗に響き合うようでした。


「銀箔置白糸威具足」 安土桃山〜江戸時代 愛知・徳川美術館

「武将の装い」と題した刀剣と甲冑の展示も見逃せませんでした。ここでは家康の四男の松平忠吉や徳川四天王の一人である榊原康政らが用いた甲冑を中心に、家康自らがつけた刀剣などが並んでいて、戦国の世の武将の息吹きが感じられるようでした。


重要文化財「関ヶ原合戦図屏風」 江戸時代 大阪歴史博物館

現存する関ヶ原の戦いを描いた最古の屏風である「関ヶ原合戦図屏風」も見どころの1つかもしれません。右隻に決戦前の大垣城、関ヶ原へと向かう家康、そして本陣と続き、左隻に本戦と西軍の敗走が描かれていて、大勢の武将たちが対峙し合い、入り乱れては闘う姿を目の当たりにすることができました。家康の愛蔵品とされているものの、武将のほとんどを特定できない姿として示しているのも特徴と言われています。


重要文化財「花鳥蒔絵螺鈿聖龕」 安土桃山時代 九州国立博物館

キリスト教の聖画などを納めるための「花鳥蒔絵螺鈿聖龕」にも目を奪われました。全体を蒔絵で装飾し、部分を螺鈿に表した観音開きの扉の中には、聖母マリアやキリスト、それに聖ヨハネなどを描いたテンペラ画が描かれていて、螺鈿なども目映いばかりの光を放っていました。


「赤楽茶碗 銘 僧正」 道入 江戸時代 京都・樂美術館

道入の「赤楽茶碗 銘 僧正」にも魅せられました。朱に近い淡い土色の茶碗には、白土で小さな色紙を貼ったような紋様が記されていて、可憐に感じられました。


国宝「志野茶碗 銘 卯花墻」 安土桃山時代〜江戸時代 東京・三井記念美術館

この他、茶碗では「鼠志野茶碗 銘 山の端」や「志野茶碗 銘 卯花墻」なども並んでいて、桃山茶陶の世界を堪能することができました。なお「卯花墻」は三井記念美術館の誇る国宝の名品として知られていますが、同美術館で見るよりも僅かに赤色が強く感じられました。照明との効果によって若干見え方に違いがあったのかもしれません。


重要文化財「松鷹図襖・壁貼付」 狩野山楽 江戸時代・寛永3年 京都市(元離宮二条城事務所)

二条城二の丸御殿の大広間を飾った狩野山楽の「松鷹図襖・壁貼付」も迫力満点ではなかったでしょうか。緑の葉をつけた松の巨木や岩の上には、鋭い目を光らせる鷹が描かれていて、静かさに満ちながらも、威厳を感じさせるようでした。それこそ将軍の権威を見せつけるような作品と言えるかもしれません。


重要文化財「竹林虎図襖」 狩野山雪 江戸時代・寛永8年 京都・天球院

今回の展覧会で私が最も感銘したのは、狩野山雪の「竹林虎図襖」と「籬に草花図襖」、及び狩野山楽の「牡丹図襖」と「紅梅図襖」でした。前者は京都の天球院を飾る襖絵で、後者は同じく京都の大覚寺の間を飾っています。


重要文化財「籬に草花図襖」 狩野山雪 江戸時代・寛永8年 京都・天球院

中でも特に魅惑的なのが「籬に草花図襖」で、画面右上から左にかけて低くなる竹垣へたくさんの花を咲かせた朝顔が絡み合う光景を表していました。垂直と水平を意識した竹垣と曲線で広がる朝顔との取り合わせも絶妙で、朝顔の構図からは其一の名作「朝顔図屏風」を連想させるものがありました。


重要文化財「鼠志野茶碗 銘 山の端」 安土桃山〜江戸時代 東京・根津美術館

さて新型コロナウイルス感染症対策に伴う情報です。混雑緩和のため、オンラインでの事前予約制が導入されました。但しオンライン予約が難しい場合は、当日のみ有効の日時指定券を博物館の窓口にて購入することができます。(若干枚数のみ)


重要文化財「牡丹図襖」 狩野山楽 江戸時代 京都・大覚寺

時間枠は9時半の開館時より30分毎に15回(通常開館時)と21回(夜間開館時)設定されていて、それぞれに指定した枠内にて入場が可能です。入替制ではありませんが、90分での鑑賞が推奨されていました。


国宝「太刀 銘 助真 黒漆打刀」 刀身:鎌倉時代 刀装:江戸時代 栃木・日光東照宮

現在のところ午前中の早い時間帯から予約が集中し、昼過ぎから夕方にかけて時間枠に余裕が出来ているようです。



私も内覧会に続き、11月1日(日)の16時の予約枠にて改めて出向いてきました。時間枠内での入場者数を絞っているからか、会場内は混雑することなく、どの作品もスムーズに見られました。特に閉館1時間前以降はかなり人が減り、17時半を回るとほぼ貸切に近いほどでした。


会期は主に前期(10月6日~11月1日)と後期(11月3日~11月29日)に分かれていて、一部の作品が入れ替えとなります。(本記事は前期展示の内容です。11月3日より後期展示に入りました。)

一般の観覧料は2400円と過去の特別展と比べると高額です。これは感染症防止等の観点より入場者数を限定したことや、人件費が増えたことが理由に挙げられるそうです。*参考リンク:感染対策で入場料「最高」に 東京国立博物館の特別展(朝日新聞)


「特別展 桃山―天下人の100年」から「武将の装い」 展示風景

例えば2人で観覧する場合であれば、メンバーズプレミアムパス(5000円)も有用になってくるかもしれません。1年間有効の同パスは常設展を何度でも観覧できる上、4枚分の特別展の観覧券が付いてきます。「特別展 桃山」で観覧券を2枚利用したとしても、残りの2枚を来春に予定されている「国宝 鳥獣戯画のすべて」で使うことができます。実際、私もプレミアムパスの会員のため、2度目の鑑賞時はパスの観覧券を利用しました。


重要文化財「銀伊予札白糸威胴丸具足」 安土桃山時代 宮城・仙台市博物館

はじめに全編がハイライトと書きましたが、ともかく最初から最後までに質量とも充実した桃山美術の品々に圧倒されるものを感じました。今年の日本美術の大型展でも特に注目を集める展覧会となりそうです。



11月29日まで開催されています。おすすめします。

「特別展 桃山―天下人の100年」@momoyama_2020) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:2020年10月6日(火)~11月29日(日)
時間:9:30~18:00。
 *会期中の金・土曜は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。ただし11月23日(月・祝)は開館し、11月24日(火)は休館。
料金:一般2400円、大学生1400円、高校生1000円。中学生以下無料
 *団体料金の設定なし。
 *本展観覧券で、観覧日当日1回に限り、総合文化展(平常展)も観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

注)写真は報道内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。
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