『第27回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)』 川崎市岡本太郎美術館

川崎市岡本太郎美術館
『第27回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)』
2024/2/17~4/14


村上力『學校』 特別賞

今年で27回目を迎える『岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)』が、川崎市岡本太郎美術館にて開かれています。

今回は621点の応募のうち22組の作家が入選し、専門家諸氏の選考を受け、岡本太郎賞以下、岡本敏子賞、そして過去最多の10組の特別賞が決まりました。


つん『今日も「あなぐまち」で生きていく』 岡本太郎賞

まず岡本太郎賞を受賞したのは1981年生まれのつんで、ダンボールで作られた巨大な団地のような立体作品、『今日も「あなぐまち」で生きていく』を展示していました。


つん『今日も「あなぐまち」で生きていく』 岡本太郎賞

ここでは団地の下の各部屋に付属された名簿を手に取ることができて、もうふやにくまん、それにプリンターなどと名付けられた、さながら住人と思しきキャラクターたちの紡ぐ物語を読むことができました。


三角瞳『This is a life. This is our life.』 岡本敏子賞

続く岡本敏子賞を受賞したのは1988年生まれの三角瞳で、ポリエステルの薄く白い布に人の顔を刺繍した『This is a life. This is our life.』を公開していました。


三角瞳『This is a life. This is our life.』 岡本敏子賞

4平方メートル四方に連なる布には、男女を問わずにさまざまな表情をした千人以上もの人の顔が象られていて、赤い糸で表現された遺伝子に束ねられた存在である人間と、そこから抗えない生命の設計図を示していました。


フロリアン・ガデン『Anomalies-poétiques/詩的異常』 特別賞

空間を大胆に用いた大掛かりなインスタレーションが目立つ中、日常に潜む異世界などを幻視的に表現したフロリアン・ガデンの『詩的異常』も魅惑的だったのではないでしょうか。


フロリアン・ガデン『Anomalies-poétiques/詩的異常』 特別賞

一見何気ない都市や郊外の風景を描きつつ、そこへ現実には存在し得ない巨大な昆虫やカエル、それにかっぱなどを描きこんでいて、中には駅のホームで待つ人々が皆、植木鉢を持っているシュールな光景なども表されていました。


野村絵梨『垢も身のうち』

また同じく日常を舞台にした作品といえば、野村絵梨の『垢も身のうち』も印象に深かったかもしれません。


野村絵梨『垢も身のうち』

ここでは作家本人が暮らす部屋をモデルに、3DCGで人形遊びのおもちゃのようなかたちにデフォルメし、そのデザインをもとにスタイロフォームで彫刻として表現していて、家具や洋服といった造形そのものにも魅力を感じました。


クレメンタイン・ナット『POT-PLANTS』 特別賞

なお会期中、3月17日までは「お気に入りを選ぼう!」と題し、お気に入りの作品を投票するコーナーが設置されています。投票の結果は3月22日(予定)に同館のWEBサイト上にて発表されるそうです。


会場内の撮影も可能です。4月14日まで開かれています。

『第27回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)』 川崎市岡本太郎美術館@taromuseum
会期:2024年2月17日(土)~4月14日(日)
休館:月曜日。3月21日(木)。
時間:9:30~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700(560)円、大・高生・65歳以上500(400)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *常設展も観覧可。
住所:川崎市多摩区枡形7-1-5
交通:小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩約20分。向ヶ丘遊園駅南口ターミナルより「溝口駅南口行」バス(5番のりば・溝19系統)で「生田緑地入口」で下車。徒歩5分。
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『進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち』 福田美術館

福田美術館
『進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち』
2024/1/18~4/7


竹内栖鳳『南支風光』 1938年

1864年に京都に生まれた竹内栖鳳は、先人たちの日本画の技に西洋の技法などを取り入れた自らの芸術を確立すると、京都画壇を代表する画家として活躍しました。

その竹内栖鳳と弟子たちに着目したのが『進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち』で、栖鳳をはじめ、上村松園、西村五雲、また小野竹喬、土田麦僊といった後進の画家とともに、戦後の小野竹喬、福田平八郎らの作品が展示されていました。


竹内栖鳳『水風清』 1935年頃

まず冒頭に並ぶのが栖鳳の作品で、若き栖鳳の描いた『秋夕図』や、群青や緑青を用いて波の打ち寄せる浜辺を描いた『春の海』、それに鶺鴒が可愛らしい姿を見せる『水風清』などに目が止まりました。


竹内栖鳳『春郊方牛図』 1902年頃

一際目立つのは、春の野に放たれた牛たちをモチーフとした『春郊方牛図』で、右に手前を見やる大きな牛を表しつつ、左には牛が群れる光景を俯瞰するようにして描いていました。


上村松園『しぐれ』 1940年頃

こうした栖鳳に続くのが弟子たちの作品で、筆墨は栖鳳を凌ぐとも評価された西村五雲の『高原之鷲』をはじめ、凛とした佇まいが美しい上村松園の『しぐれ』、はたまた赤い鶏頭に蔓を伸ばして咲く朝顔を描いた土田麦僊の『鶏頭花』などが印象に残りました。


土田麦僊『ヴェトイユ風景』 1922年

この土田麦僊が西洋絵画の流れを日本画の世界に取り込もうとしたのが『ヴェトイユ風景』で、単純化した家並みなどを岩絵具を用いつつ色鮮やかに描いていました。


『進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち』展示作品

戦後に活動した小野竹喬、福田平八郎、池田遙邨らの作品にも優品が目立っていたかもしれません。


池田遙邨『旭譜』 1982年

電線に止まる鳥たち朝日に浮かぶ様子を描き、それを五線譜に見立てたという池田遙邨の『旭譜』にも心惹かれました。


土田麦僊『鶏頭花』 1915年頃

展示替えの情報です。3月5日の休館日を挟み、一部の作品が入れ替わります。(本エントリは前期期間中の展示作品です。)

『進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち』作品リスト(PDF)
前期:1月18日(木)~3月4日(月)
後期:3月6日(水)~4月7日(日)
*作品点数:前期32/後期35/通期31


なお同館では先日、伊藤若冲が晩年に描いたとされる「果蔬図巻」が新たに発見されたことを発表し、美術ファンの中で注目を集めました。

「世界新発見の伊藤若冲の巻物『果蔬図巻(かそずかん)』が福田美術館のコレクションに加わり、同館で記者発表会を実施」福田美術館プレスリリース(PDF)

『果蔬図巻』は10月から開かれる展覧会にて公開されます。詳しくは上記リンク先リリースをご覧ください。


竹内栖鳳『海光清和』 1926年頃

4月7日まで開催されています。

『進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち』 福田美術館@ArtFukuda
会期:2024年1月18日(木)~4月7日(日)
 *前期:1月18日(木)~3月4日(月)、後期:3月6日(水)~4月7日(日)
休館:3月5日(火)
時間:10:00~17:00。最終入館は16時半まで。
料金:一般・大学生1500(1400)円、高校生900(800)円、小中学生500(400)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *嵯峨嵐山文華館両館共通券あり。
住所:京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16
交通:嵐電(京福電鉄)嵐山駅下車、徒歩4分。阪急嵐山線嵐山駅下車、徒歩11分。JR山陰本線(嵯峨野線)嵯峨嵐山駅下車、徒歩12分。
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『須藤康花―光と闇の記憶―』 松本市美術館

松本市美術館
『須藤康花―光と闇の記憶―』 
2023/12/9〜3/24


須藤康花『夢幻2』

1978年に福島県に生まれた画家の須藤康花(すどう・やすか)は、幼少期にネフローゼ症候群を発症して入退院を繰り返しながら描くことに集中すると、多摩美術大学に進学して版画を研究するも、2009年に30歳という若さにて亡くなりました。

その須藤の美術館での初の大規模回顧展が『須藤康花―光と闇の記憶―』で、父が松本市内に設立した康花美術館の全面的な協力のもと、初期から晩年までの約180点の作品が展示されていました。


左:須藤康花『ヒマワリととんぼ』

まず冒頭は幼少期から10代前半の頃に描いた作品が並んでいて、明るく伸びやかなタッチで美しい田園を描いた『ヒマワリととんぼ』などに目がとまりました。

14歳の時に母を亡くした須藤は、母と同じ慢性肝炎を発症して体調が深刻となるもののの、16歳に静岡県に転居して絵の道へ進むべく沼津美術研究所に入所し、のちに東京へ移って多摩美術大学へ進学しました。


『須藤康花―光と闇の記憶―』 展示作品

須藤の木炭やデッサンによる一連の作品を前にして印象に深いのは、暗がりの中に淡く温かみのある光が差し込みつつ、幻視とも夢想的とも呼べるようなイメージが広がっていることでした。


『須藤康花―光と闇の記憶―』 展示作品

またそこには何か特定し得ない奇異な生き物や不思議な植物などが描かれていて、時に未知の世界の洞窟を思わせる風景が幻想的に表されていました。


『須藤康花―光と闇の記憶―』 展示作品

こうした主にモノクロームによるイリュージョン的な世界を描いた作品の一方で、温かみのある色彩によりリアルな風景を表したのが長野県麻績村(おみむら)でのスケッチでした。


『須藤康花―光と闇の記憶―』 展示作品

大学で版画を研究しつつ、週末には父とともに麻績村で移った須藤は、農作業に勤しみながら地域の子どもたちに絵を教えるなどして暮らしました。人のいない光景にどことない寂しさも感じられるものの、自然の光景を素直に捉えようとした須藤の制作のありようが伺えるかもしれません。


須藤康花『白夜』

20代の半ば過ぎに描かれ、ラストの「光と闇の記憶」に並んだ『幻葬』や『崩壊前夜』、それに『白夜』などの作品にも心を惹かれました。


須藤康花『幻葬』

いずれも深い闇を伴う洞窟のような空間からわずかな光が滲み出すように灯されていて、時に人影と思しきすがたも見ることができました。また銅版の技法に由来した、画面全体に広がる繊細な質感も魅惑的だったかもしれません。


須藤康花『崩壊前夜』

展示室内の撮影も可能です。

会期末での鑑賞となりました。3月24日まで開催されています。

『須藤康花―光と闇の記憶―』 松本市美術館@MatsumotoMuseum
会期:2023年12月9日(土) 〜 2024年3月24日(日)
休館:月曜日(休日の場合翌平日)、年末年始(12/29~1/3)
時間:9:00~17:00
 *入場は16時半まで。
料金:大人1000円、大学高校生・70歳以上の松本市民700円。
住所:長野県松本市中央4-2-22
交通:JR線松本駅から徒歩約12分。JR松本駅よりタウンスニーカー(市内周遊バス)東コース「伊織霊水(美術館北)」下車。
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『マツモト建築芸術祭 2024 ANNEX』 旧松本市立博物館 (メイン会場)

旧松本市立博物館 (メイン会場) / 新松本市立博物館 / 信毎メディアガーデン
『マツモト建築芸術祭 2024 ANNEX』 
2024/2/23~3/24


旧松本市立博物館(中島崇 展示作品風景)

長野県松本市の旧松本市立博物館(メイン会場)にて、「マツモト建築芸術祭 2024 ANNEX」が開かれています。


米谷健+ジュリア 展示作品風景

これは「名建築に アートが住み着く マツモトの冬。」をコンセプトに、過去2回にわたって開催した「マツモト 建築芸術祭」の第3回に当たるもので、今回は「消えゆく名建築 アートが住み着き 記憶する」と題し、メイン会場の旧松本市立博物館を中心に国内外17組のアーティストが作品を公開していました。


谷敷謙 展示作品風景

1967年に建てられた旧松本市立博物館は、松本市の最大の歴史遺産ともいえる松本城に隣接した建物で、長く地域の博物館施設として親しまれていたものの、新博物館への移転に伴い2021年に休館しました。現在は解体に向けた準備が進められています。


旧松本市立博物館(中島崇 展示作品風景)

まず建物全体を透明なフィルムでラッピングしたのが中島崇の『ケア』で、花崗岩を洗い出しにしたという外壁の記憶を残しつつ、柔らかく温かい光を新たにもたらしていました。


鬼頭健吾 展示作品風景

らせん階段の吹き抜けを用いた鬼頭健吾の『lines』も目立っていたかもしれません。ここではカラフルな蛍光色に彩られた棒状の線が何本も吊り下がっていて、階段を上下に行き来しながら変化する景色を楽しむこともできました。


磯谷博史 展示作品風景

磯谷博史の『花と蜂はち、透過する履歴』とは、2つの大きな瓶に蜂蜜を満たす中、集魚灯を落とし込んだインスタレーションで、ワイン色ともオレンジ色ともいえるような妖しく神秘的な光を辺りに放っていました。


宇佐美雅浩 展示作品風景

中心にいる人物の世界を1枚の写真で表現した宇佐美雅浩の『Manda-la 曼荼羅』も見応え十分ではなかったでしょうか。


宇佐美雅浩『早志百合子 広島』

広島の原爆ドームの近くの広場を舞台とした『早志百合子 広島』とは、被爆者の早志百合子の人生を時空を超えて表現したもので、右の原爆投下時の広島と左の明るい芝生で赤ん坊が遊ぶ空間を対比的に示していました。

左右の画面とも一見、合成写真と見間違うような光景が広がっていて、1人の人間の曼荼羅というだけでなく、広島の地域の歴史そのものを体現した世界が展開しているように思えました。


熊野寿哉 展示作品風景

自然光が取り込める半室内空間を効果的に活かしたのが、華道家で空間演出家として活動する熊野寿哉の『パンタレイ』でした。

蘭や苔、腐葉土などを用いた生け花の作品は、会期中、微生物や湿気などを発生させながら、成長しつつ、次第に劣化していって、近い将来に取り壊される建物と重なり合うような万物流転の思想を表していました。


河合政之 展示作品風景

使われなくなった地下のボイラー室を用いた、河合政之の『Three Elements 三元素』も芸術祭のハイライトを飾るような作品といえるかもしれません。


カンディダ・ヘーファー 展示作品風景

このほか、ドイツ生まれの写真家、カンディダ・ヘーファーの写真作品や、建物の片隅で小さな雑草を添えた須田悦弘の木彫なども印象に残りました。


新松本市立博物館の階段スペース(ここで映像展示が行われています)

過去2回の芸術祭では街中の建築においても作品が展開していましたが、今回は旧松本市立博物館に会場が集中しているために映像を除いてほぼありません。



しかしながら旧博物館の前の松本城をはじめ、市中に点在する蔵造りの古い建物など、松本の観光や街歩きを兼ねて楽しむのも良いのではないでしょうか。



フィルム越しに望む松本城公園など、芸術祭でしか味わえない景色そのものも魅力的に思えました。


3月24日まで開催されています。

『マツモト建築芸術祭 2024 ANNEX』@maaf_matsumoto) 旧松本市立博物館 (メイン会場) / 新松本市立博物館 / 信毎メディアガーデン
会期:2024年2月23日(金) ~ 3月24日(日)
休館:なし(新松本市立博物館のみ3/19 休館)
時間:10:00~17:00
料金:一般2000円、高校生・大学生・専門学生1500円、中学生以下無料。*メイン会場料金
住所:長野県松本市丸の内4-1 松本城公園内(旧松本市立博物館)
交通:JR線松本駅下車徒歩約20分。松本周遊バス「タウンスニーカー」北コース「松本駅お城口」発「松本城・市役所前」下車。
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『ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家』 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
『ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家』
2024/1/17~3/24



スウェーデンを拠点とするガラス作家・山野アンダーソン陽子のガラス作品を中心に、日本やドイツのアーティストによる静物画や写真を紹介する展覧会が、東京オペラシティアートギャラリーにて開かれています。

それが『ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家』で、会場には山野アンダーソン陽子の作品のほか、三部正博の写真、さらには日本やドイツの18人の画家による絵画が展示されていました。



今回の展覧会のきっかけは2013年、山野アンダーソン陽子が「ガラスの作品を本にしたらどうか」と提案を受け、アートブックを制作するプロジェクトがはじまったことでした。



山野は日本やドイツの18人の画家へ、画家自身が描きたいと思うガラスを言葉へ表現してもらうと、その言葉からインスピレーションを受けてガラス作品を制作しました。



そして出来上がったガラスを各画家が静物画として思い思いに描くと、写真家の三部正博が画家のアトリエを訪ねて絵画とガラスの双方の写真を撮影し、デザイナー・須山悠里がアートブックに仕上げました。



一連のプロセスで興味深いのは、山野が各画家による絵画などのイメージではなく、言葉からガラス作品を制作していることで、そうしたコミュニケーションの一端を伺えるテキストも会場にて紹介されていました。



またそれぞれの画家は端的に静物画といえども、時に抽象表現を思わせるような作品を描いていて、山野アンダーソン陽子の美しいガラス作品が多様な平面イメージへと転化する様子も見ることができました。



先にガラスありきではないアプローチそのものからしてユニークといえるかもしれません。個々の作品はもとより、ガラス、絵画、写真が織りなす景色も魅力的に思えました。



会場内の撮影も可能でした。*写真は『ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家』展示風景


3月24日まで開かれています。

『ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家』 東京オペラシティアートギャラリー@TOC_ArtGallery
会期:2024年1月17日(水)~3月24日(日)
休館:月曜日。(祝日の場合は翌火曜日)、2月11日(日)*全館休館日
時間:11:00~19:00 
 *入場は閉館30分前まで。
料金:一般1400(1200)円、大・高生800(600)円、中学生以下無料。
 *同時開催中の「収蔵品展078 静物画の世界」、「project N 93 宮林妃奈子」の入場料を含む。
 *( )内は各種割引料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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『アブソリュート・チェアーズ』 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
『アブソリュート・チェアーズ』
2024/2/17~5/12


石田尚志『椅子とスクリーン』 2002年

1982年の開館時から近代以降のデザイン椅子を収集してきた埼玉県立近代美術館は、椅子を館内に設置するだけでなく、教育普及事業や展覧会の開催を通して椅子の魅力を発信し続けてきました。

その埼玉県立近代美術館が、デザインの視点ではなく、現代アートの観点から椅子の持つさまざまな意味を考察するのが『アブソリュート・チェアーズ』で、国内外の28組の作家による平面や立体など83点の作品が展示されていました。


ジム・ランビー『トレイン イン ヴェイン』 2008年

まず冒頭では「美術館の座れない椅子」と題し、デュシャンや高松次郎、それにジム・ランビーなの文字通り座れない椅子を用いた作品が並んでいて、既製の椅子を素材に取り込みつつも、それぞれの手法によって機能を変容させ、コンセプチャルな問いを発するようすを見ることができました。


クリストヴァオ・カニャヴァート(ケスター)『肘掛け椅子』 2012年

また「権力を可視化する」のセクションではウォーホルの『電気椅子』などが目立っていて、死や暴力、あるいは権力と椅子の関係を問い直したアーティストらの表現を知ることができました。


名和晃平『Pix Cell-Tarot Reading(Jan.2023)』 2023年

こうした権力の象徴などとは対照的に、日常の生活の延長線にある役割としての椅子を表した作品も面白いのではないでしょうか。


YU SORA『my room』 2019年

そのうちYU SORAは無造作に置かれた椅子を白い布と黒い糸をもとにして表現し、座るはずの椅子が時折物置き台として使われることを示しました。


宮永愛子『waiting for awakening -chair-』 2017年

さらにナフタリンで象られた椅子を樹脂に封入した宮永愛子のオブジェなども、椅子の記憶や物語を呼び起こす作品といえるかもしれません。


副産物産店による「美術館の座れる椅子」

山田毅と矢津吉隆によるユニット・副産物産店がによる作品輸送用のクレートや過去作品の残材などを再利用して作った風変わりな椅子も設置され、展示室内にて自由に座ることも可能でした。


ミシェル・ドゥ・ブロワン『樹状細胞』 2024年

カナダ出身のミシェル・ドゥ・ブロワンが、約40脚の会議椅子を用いて作った『樹状細胞』もハイライトを飾っていたかもしれません。


オノ・ヨーコ『白いチェス・セット/信頼して駒を進めよ』 1966 / 2015年 タグチアートコレクション/タグチ現代芸術基金

椅子という存在がアーティストらにさまざまなインスピレーションを与え、それが新たなイメージとして作り出されていくようすを楽しむことができました。


現代アートを通して、椅子が持つ多様な意味を考察。『アブソリュート・チェアーズ』が面白い!|Pen Online

5月12日まで開催されています。なお埼玉での展示を終えると、愛知県美術館(会期:7月18日〜9月23日)へと巡回します。

『アブソリュート・チェアーズ』 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:2024年2月17日(土) ~5月12日(日)
休館:月曜日。ただし4月29日、5月6日は開館。
時間:10:00~17:30 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300(1040)円 、大高生1040(830)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクション(常設展)も観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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2024年3月に見たい展覧会【福田平八郎/木村伊兵衛/内房総アートフェス】

今年の冬の関東は暖かい日が多く、私の地元でも河津桜が例年よりも早く見頃を迎えました。



3月は春のシーズンに向けて多くの展覧会がスタートする時期です。今月に見たい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・『魅惑の朝鮮陶磁/謎解き奥高麗茶碗』 根津美術館(2/10~3/26)
・『VOCA展2024 現代美術の展望—新しい平面の作家たち—』 上野の森美術館(3/14~3/30)
・『中平卓馬 火—氾濫』 東京国立近代美術館(2/6~4/7)
・『美術家たちの沿線物語 小田急線篇』 世田谷美術館(2/17~4/7)
・『生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真』 東京ステーションギャラリー(2/23~4/14)
・『第27回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)』 川崎市岡本太郎美術館(2/17~4/14)
・『「シュルレアリスム宣言」100年 シュルレアリスムと日本』 板橋区立美術館(3/2~4/14)
・『生誕150年 池上秀畝—高精細画人—』 練馬区立美術館(3/16~4/21)
・『須藤玲子:NUNOの布づくり』 水戸芸術館(2/17~5/6)
・『花・flower・華 2024 —奥村土牛の桜・福田平八郎の牡丹・梅原龍三郎のばら』 山種美術館(3/9~5/6)
・『春の江戸絵画まつり ほとけの国の美術』 府中市美術館(3/9~5/6)
・『没後50年 福田平八郎』 大阪中之島美術館(3/9~5/6)
・『旧朝香宮邸を読み解く A to Z』 東京都庭園美術館(2/17~5/12)
・『イヴ・ネッツハマー ささめく葉は空気の言問い』 宇都宮美術館(3/10~5/12)
・『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?—国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』 国立西洋美術館(3/12~5/12)
・『没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる』 東京都写真美術館(3/16~5/12)
・『ライトアップ木島櫻谷—四季連作大屏風と沁みる「生写し」』 泉屋博古館東京(3/16~5/12)
・『歌舞音曲鑑 北斎と楽しむ江戸の芸能』 すみだ北斎美術館(3/19~5/26)
・『内房総アートフェス』 内房総5市(3/23~5/26)
・『MUCA展 ICONS of Urban Art ~バンクシーからカウズまで~』 森アーツセンターギャラリー(3/15~6/2)
・『遠距離現在 Universal / Remote』 国立新美術館(3/6~6/3)
・『モダン・タイムス・イン・パリ 1925 —機械時代のアートとデザイン』 ポーラ美術館(12/16~2024/5/19)
・『記憶:リメンブランス —現代写真・映像の表現から』 東京都写真美術館(3/1~6/9)
・『第8回横浜トリエンナーレ 野草:いま、ここで⽣きてる』 ヨコハマトリエンナーレ(3/15~6/9)
・『北欧の神秘―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画』 SOMPO美術館(3/23~6/9)
・『カール・アンドレ 彫刻と詩、その間』 DIC川村記念美術館(3/9~6/30)
・『ブランクーシ 本質を象る』 アーティゾン美術館(3/30〜7/7)

ギャラリー

・『大木裕之 アブストラクト権化』 ANOMALY(3/16〜4/13)
・『千賀健史個展「まず、自分でやってみる。」』 BUG(3/6~4/14)
・『ポーラ ミュージアム アネックス展 2024 ―表彰と趣意 ―』 ポーラ ミュージアム アネックス(3/15~4/14)
・『第17回 shiseido art egg  野村在展』 資生堂ギャラリー(3/12~4/14)
・『高木由利子 写真展 カオスコスモス 弐 - 桜 -』 GYRE GALLERY(3/1~4/29)
・『アピチャッポン・ウィーラセタクン「Solarium」』 SCAI THE BATHHOUSE(3/16~5/25)
・『MARK LECKEY』 エスパス ルイ・ヴィトン 東京(2/22~8/18)

まずは関西では17年ぶりとなる日本画家の展覧会です。大阪中之島美術館にて『没後50年 福田平八郎』が開かれます。



『没後50年 福田平八郎』@大阪中之島美術館(3/9~5/6)

ここでは『漣』(大阪中之島美術館蔵) や『竹』(京都国立近代美術館蔵) 、『雨』(東京国立近代美術館蔵) といった代表作をはじめ、初期から晩年までの作品約120件以上を展示し、平八郎の画業を紹介します。


また福田平八郎の関係者宅に長年保管されていた作品で、これまで存在を知られていなかった『水』が初めて一般に公開されます。

続いては今年没後50年を迎えた写真家、木村伊兵衛の展覧会です。『没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる』が東京都写真美術館にて行われます。



『没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる』@東京都写真美術館(3/16~5/12)

1901年に東京にて生まれた木村伊兵衛は、文芸諸家のポートレートや東京の街角のスナップショットなどで評価を得ると、広告写真や舞台写真、また秋田の農村をテーマとした作品などを手がけ、日本の写真史に大きな足跡を残しました。


今回の回顧展では一連の写真作品に加え、最近発見された生前最後の個展「中国の旅」(1972-1973)の展示プリントも特別に公開されます。写真ファンにとっても見逃せない内容となりそうです。

最後はこの春、千葉県の内房総地域を舞台に開かれる芸術祭です。『百年後芸術祭-内房総アートフェス-』が開催されます。



『百年後芸術祭-内房総アートフェス-』@内房総5市(3/23〜5/26)

これは総合プロデューサーに小林武史、アートディレクターに北川フラムを迎え、アート、クリエイティブ、テクノロジーの力を融合した、100年後の未来を創っていくための芸術祭と行われるもので、市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市の5市を会場にさまざまな作品展示のほか、ライブイベントなどが実施されます。


同地域では過去、市原市において「いちはらアート×ミックス」が開かれてきましたが、さらにエリアを広げて幅広いアートが展開する、新たな広域芸術祭として注目を集めるのではないでしょうか。

一部内容が重なりますが、イロハニアートにも今月のおすすめ展覧会を寄稿しました。

【3月のおすすめ展覧会5選】福田平八郎からカール・アンドレ、そして北欧の絵画まで。 | イロハニアート

それではどうぞよろしくお願いいたします。
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『マティス 自由なフォルム』 国立新美術館

国立新美術館
『マティス 自由なフォルム』
2024/2/14~5/27


ヴァンスのロザリオ礼拝堂(内部空間の再現)

フランスの芸術家、アンリ・マティスは、フォーヴィスムの中心人物としてパリで頭角を現すと、後半生の大半を過ごしたニースではモデルやオブジェを精力的に描きながら、色が塗られた紙をハサミで切り取り、紙に貼り付ける切り紙絵に取り組みました。

その切り紙絵に着目しながらマティスの創作を紹介するのが『マティス 自由なフォルム』で、会場にはニース市マティス美術館のコレクションを中心に、絵画、彫刻、版画、テキスタイル等の作品や資料、約150点が公開されていました。

まず冒頭ではマティスの初期の絵画や彫刻作品などが並んでいて、巨匠たちの作品を模写したという『ダフィッツゾーン・デ・ヘームの「食卓」に基づく静物』や、絵画と並行して制作した彫刻の連作「ジャネット」シリーズなどを見ることができました。

またニース滞在後、アトリエに花瓶や家具調度品を飾って描いた「ヴァンス室内画」の優品も並んでいて、マティスがコレクションしていたオブジェと見比べることもできました。

さらにバレエ・リュスからの依頼による「ナイチンゲールの歌」の衣装をはじめ、実業家のアルバート・C・バーンズから依頼された『ダンス』といった舞台や壁画に関する仕事も紹介されていて、マティスが絵画や彫刻を超えて幅広い領域で仕事を手がけていたことを知ることができました。


アンリ・マティス『ブルー・ヌードⅥ』 1952年 オルセー美術館(寄託:ニース市マティス美術館)

マティスが切り紙絵に取り組んだのは1940年代、実に70歳を迎えてからのことで、切り紙絵を用いた挿絵を文芸雑誌などに提供したほか、代表的なアルバム『ジャズ』、さらには切り紙絵によるマケットをもとにしたタペストリーも制作しました。


アンリ・マティス『花と果実』 1952〜1953年 ニース市マティス美術館

ロサンゼルスのヴィラの壁面装飾の構想を練る中で制作した、切り紙絵の大作『花と果実』も一際目立っていたかもしれません。4つの花びらと3つの果実がさまざまな色に反復した作品で、本展のためのフランスでの修復を経て、日本で初めて公開されました。


ヴァンスのロザリオ礼拝堂(内部空間の再現)

このほか最晩年に熱心に取り組んだ、ヴァンスのロザリオ礼拝堂の建設プロジェクトに関する展示も充実していました。


カズラ(上祭服)のためのマケット展示風景

ヴァンス礼拝堂の原寸大再現展示とともに、海藻類のフォルムを着想源にしたというカズラと呼ばれる上祭服の美しいデザインに見入りました。


カズラ(上祭服)のためのマケット展示風景

一部内容が重なりますが、Figaro.jpでも展覧会の見どころを紹介しました。

注目の『マティス 自由なフォルム』! 見るべきポイント10。madameFIGARO_jp


『マティス 自由なフォルム』展示風景

一部展示スペースの撮影も可能です。


5月27日まで開催されています。

『マティス 自由なフォルム』@matisse2024) 国立新美術館@NACT_PR
会期:2024年2月14日(水) ~5月27日(月)
休館:火曜日。ただし4月30日(火)は開館
時間:10:00~18:00
 *毎週金・土曜日は20:00まで
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般2200円、大学生1400円、高校生1000円、中学生以下無料。
 *4月3日(水)~8日(月)は高校生無料観覧日。(学生証の提示が必要)
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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『ジョージ ホイニンゲン=ヒューン写真展』 シャネル・ネクサス・ホール

シャネル・ネクサス・ホール
『Master of Elegant Simplicity ジョージ ホイニンゲン=ヒューン写真展』 
2024/2/7~3/31



1900年にサンクトペテルブルクに生まれ、10代の頃にロンドンからパリへと移住した写真家のジョージ ホイニンゲン=ヒューンは、『ヴォーグ』誌などにてファッション写真を手がけると、戦後にはハリウッドへ移り、映画業界でも活躍しました。



そのジョージ ホイニンゲン=ヒューンの作品を紹介するのが『Master of Elegant Simplicity』と題した展示で、ファッションやポートレートの代表作をはじめ、旅先で写した写真など約65点の作品が並んでいました。



ホイニンゲン=ヒューンは、1920年代から40年代にかけての上流社会、ファッション、スターのポートレート、さらに芸術家らを撮影していて、映画セットのデザインや照明に関する知識などを活かし、シュルレアリスムや新古典主義などに着想を得たイメージを作り上げました。



またスタジオ撮影におけるモデルの構図を綿密に練っていたことでも知られ、照明を複雑に配して背景に影を作るだけでなく、小道具として彫刻などを使うこともありました。

さらにモデルを上から撮影するという、ファッション写真としては前衛的な手法を取り入れて、形式にとらわれない自由な発想による写真でも評価されました。



ホイニンゲン=ヒューンは長くスタジオで仕事したのち、アフリカ、ギリシャ、メキシコなどのさまざまな地域を長期にわたって旅行し、各地の風景や出会って人々を写していて、計5冊の写真集も制作しました。



国内では初の大規模な回顧展だけあり、質量ともに充実した展示といえるかもしれません。そのシンプルながらもエレガントとも呼べる写真に魅せられました。



会場内の撮影も可能です。*掲載写真はすべて『ジョージ ホイニンゲン=ヒューン写真展』展示作品

3月31日まで開催されています。

『Master of Elegant Simplicity ジョージ ホイニンゲン=ヒューン写真展』 シャネル・ネクサス・ホール
会期:2024年2月7日(水)~3月31日(日)
休廊:会期中無休。
料金:無料。
時間:11:00~19:00。 
 *最終入場は18:30まで。
住所:中央区銀座3-5-3シャネル銀座ビルディング4F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A13出口より徒歩1分。東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅5番出口より徒歩1分。
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