「オノデラユキ 写真の迷宮へ」 東京都写真美術館

東京都写真美術館目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)
「オノデラユキ 写真の迷宮へ」
7/27-9/26



東京都写真美術館で開催中の「オノデラユキ 写真の迷宮(ラビリンス)へ」へ行ってきました。

「写真表現の可能性に果敢に挑戦していく」(ちらしより引用)オノデラユキの多芸な作品を一同に楽しめるまたとない機会かもしれません。会場には初期作、「古着のポートレイト」(1994)に始まり、同美術館新収蔵品「Transvest」(2002~)などを含む全9シリーズ、計60点の作品がずらりと展示されていました。 (出品リスト+解説


「古着のポートレイト」(1994)

「謎めいていることは貴重である。」という言葉が紹介されていましたが、そのトリッキーな魅力はもはや写真表現を超えた新たな地点にまで達しています。一見、何気ない写真のようでも、引き出される奇想天外なイメージ、そしてそれを裏打ちする確かな技術には終始感心させられました。まさに写真を操る魔術師です。


「Transvest」(2002)

何やら闇の中でポーズする人物を表したような「Transvest」(2002)にもオノデラならではのトリックを楽しめる作品ではないでしょうか。この女性は当然ながら実在のモデルかと思ってしまいますが、本当は雑誌などから切り抜いた人型に無数の風景や写真などを埋め込んだコラージュでした。近寄って目を凝らすと確かに街灯も眩しい夜景のようなイメージが無数に浮かび上がってきます。その姿は都市や世界を飲み込んで立つ近未来の人造人間でした。


「オルフェウスの下方へ」(2006)

こうしたトリッキーな技法の一方、土地の記憶や場所性を意識した作品があるのも興味深いポイントです。スペインとスウェーデンの2つのローマと呼ばれる場所の風景をステレオカメラで写した「Roma - Roma」(2004)や、ある失踪事件をヒントに何と地球の表と裏側の景色をドキュメンタリー風に捉えた「オルフェウスの下方へ」(2006)などからは、時間と空間を横断して全てを写真というフレームにおさめるオノデラユキの貪欲なまでの探求心を見る思いがしました。

オノデラユキ初となる版画シリーズ、「Annular Eclipse」(2007)におけるSF映画のワンシーンのような躍動感と華やかな色遣いは、半ば作家へのイメージを変えてしまうほどに新しい作品と言えるかもしれません。そういう意味では鮮やかなピンク色が目に飛び込んでくるちらし表紙の「12 Speed」(2008)も同様でした。

会場の作り込み要素は少なく、展示自体は至って素っ気ないものですが、これまでオノデラの作品を断片的にしか見て来なかった私にとっては十分に楽しめる内容でした。なお9月4日には作家本人による講演会もレクチャーも予定されているそうです。

オノデラユキのスライドレクチャー<初公開! アートな写真のひみつ>
日時:2010年9月4日(土) 14:00~ 定員:70名 会場:1階創作室(アトリエ)
※当日10時より1階受付にて整理券を配布。要半券。

9月26日まで開催されています。おすすめします。
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「遠藤利克 Trieb - Void」 代官山ヒルサイドフォーラム

代官山ヒルサイドフォーラム渋谷区猿楽町18-8 ヒルサイドテラスF棟1階)
「遠藤利克 Trieb - Void」
8/17-9/5



代官山ヒルサイドフォーラムで開催中の「遠藤利克 Trieb - Void」へ行ってきました。

遠藤利克というと炭化した大型のオブジェが印象に深いところですが、今回の個展ではそうした立体の作品が5、6点ほど展示されています。水の送り込まれた縦2~3メートルの直方体「Trieb-ナルシスの柩」に始まり、展示直前に焼成され、まるで巨大な地下水路のような「Trieb-水路」、さらには同じく炭化した長い舟の「空洞説2009-木の舟」を順に見ていくと、木や火と交わり、時に激しくぶつかりあう水の輪廻転生の物語を追体験しているような気分にさせられました。

フォーラムの手狭で「分節化」(解説パンフレットより引用)されたスペースをあえて逆手にとるような展示だと言えるかもしれません。「ナルシスの柩」越しに見える中庭の彫刻も美しく、また洞窟のような通路をくぐって抜けた先にある階下の「木の舟」はそれこそ地下湖に打ち上げられた古代舟のようでした。


別会場ヒルサイドテラスA棟ギャラリー(撮影は会場外から。)

なお主会場とは別にヒルサイドテラスのA棟ギャラリーにて小品の彫刻やドローイングもあわせて展示(販売)されています。これまで東近美(常設)の他、所沢のビエンナーレなど単体でしか遠藤の作品を見て来なかった私にとって、ある程度のまとまった数で彼の近作を楽しめる良い機会でもありました。

大型作品の並ぶ主会場については有料(500円)です。9月5日まで開催されています。
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「有元利夫展 天空の音楽」 東京都庭園美術館

東京都庭園美術館港区白金台5-21-9
「没後25年 有元利夫展 天空の音楽」
7/3-9/5



没後25年を迎え、当時「画壇のシンデレラボーイ」(ちらしより引用)とも呼ばれた画家、有元利夫(1946~1985)の業績を振り返ります。東京都庭園美術館で開催中の「没後25年 有元利夫展 天空の音楽」へ行ってきました。

既に評判も上々とのことで期待はしていましたが、確かに箱との相性にかけては何ら申し分のない展覧会だと言えるかもしれません。有元の絵画における彫像的な人物は、さもこのアール・デコの館の住人たちの幻のように振舞っています。ダンスをし、またリコーダーを奏でる彼ら彼女らの息遣いは、会場内でそれこそシンフォニーを響かせるように共鳴していました。


「室内楽」(1980年)

絵画表現において感心させられるのは、まさに「古色を帯びた独特の画風」(ちらしより引用)です。意外と厚塗りの絵具は不思議な透明感をたたえ、特徴的なエメラルドグリーンや朱色はどこか沈み込むような面持ちで仄かな光を放っていました。その味わいはローマ時代の壁画にもたとえられるのではないでしょうか。またある時の宗教画風の静謐な趣きは、素朴なイコンを思わせるものがありました。


「ロンド」(1982年)

音楽好きの有元は自らも学んでいたリコーダーのケースを作ったり、音楽家に作曲を依頼してそれに基づく版画集を描いたりしています。もちろん絵画においても「ポリフォニー」や「フーガ」といった音楽的な表題が多く用いられていました。直接、楽器などのモチーフを取り入れた作品はさほど多くありませんが、絵の前で何らかの具体的な音楽を連想された方も多いかもしれません。


「ささやかな時間」(1980年)

有元は音楽の中でもとりわけバロック音楽を愛し、その様式美や反リアリズム性、それにシンメトリカルで簡素でかつ典雅な部分を称賛しました。それは言うまでもなく有元自身の絵画の特徴とも重なりますが、何故かバロック音楽の大きな性質であり魅力の一つである「劇的な感情の表出」が抜け落ちています。そこは彼が意図して避けていたのか、それとも違うのかが少し気になりました。

初期作を除き、一貫して変わらね画風には彼が受けた生の短さを思わざるを得ませんでした。作家の写しでもあるという画中の人物を見ているとどことなく物悲しくなってきます。

9月5日まで開催されています。
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「アール・ヌーヴォーのポスター芸術展」 松屋銀座

松屋銀座本店8階大催事場(中央区銀座3-6-1
「アール・ヌーヴォーのポスター芸術展」
8/25-9/6



松屋銀座で開催中の「アール・ヌーヴォーのポスター芸術展」へ行ってきました。

主にアール・ヌーヴォー期のポスターがこれほど一同に揃うことなど滅多にないかもしれません。チェコ国立プラハ工芸美術館、及びチェコ国立モラヴィア・ギャラリーから出品されているのは、ロートレックやミュシャなどの大家から、同時代の比較的マイナーな画家までを網羅したポスター全130点でした。


展示風景

展示はウィーン分離派を冒頭に、アール・ヌーヴォーのポスターを大まかなテーマに分けて紹介しています。構成は以下の通りでした。

1.ウィーン分離派と世紀末美術の潮流
2.市民生活の夢とボスター
2-1.新しい演劇、コンサート、展覧会、博覧会
2-2.都市生活にあふれるさまざまな商品 出版・自転車・飲料・観光ポスター


デパートの催事として軽い気持ちで行くと良いで期待を裏切られるかもしれません。当時の雰囲気を伝える様々なポスターに囲まれていると、いつしか19世紀末のヨーロッパの都市空間に迷い込んだような気持ちにさせられました。

それでは私なりの視点で展示の見所を何点か挙げてみます。

・ウィーン分離派展ポスター


ウィーン分離派展ポスター各種

第1回から第27回、また第40回以降の一部の分離派展のポスターがずらりと勢揃いしています。第1回を飾るクリムトはもちろん、意外と多様な作風は各画家の個性を知る上でも興味深いものがありました。


右、エック、左ハールフィンガー「ウィーン分離派ポスター展」1912年

グラフィカルな要素が強いのも特徴の一つではないでしょうか。エック、ハールフィンガーらによるいわば記号的なデザインには驚かされました。

・検閲とクリムト


グスタフ・クリムト 第1回 ウィーン分離派展(検閲前)1898年 チェコ国立プラハ工芸美術館

そのクリムトの分離派展第1回目のポスターが2枚出ています。


クリムト「第1回 ウィーン分離派展」右、検閲前、左、検閲後。

写真では今一つ分かりにくいですが、左右をよく見比べてください。これは要するに検閲前と検閲後の作品です。右の検閲前の上段にあるミノタウロスを倒すテセウスのあからさまな裸体が問題となり、左のような黒い樹木が加えられました。なおこのミノタウロスは既存の美術界を、またテセウスは分離派を表しているそうです。もちろん右に立つのは分離派ではお馴染みの戦いの女神、パラス・アテナでした。

・椿姫とハムレット~ミュシャの舞台劇ポスター


ミュシャ、左「ハムレット」1899年、右「サマリアの女」1897年

ミュシャがサラ・ベルナールに依頼されて描いた舞台のポスターが何点か出ています。やはり身近なのは椿姫とハムレットでした。父の亡霊が現れる月夜を背景に立つハムレットのややこわばった横顔は劇の雰囲気を良く表しているのではないでしょうか。

・ロダン展とムンク展~展覧会のポスター


右、ジュパンスキー「オーギュスト・ロダン回顧展」1902年、左、プレイスレル「エドワルド・ムンク展」1905年

当時開催された展覧会のポスターも見どころの一つです。堂々たるバルザック像が来場者を見下ろすロダン展、また星空を虚ろな表情で眺めるムンク展ポスターの意匠は現代に通じるものがあります。チラシやポスターは展覧会の全体の印象を左右することがありますが、きっと昔も同じだったに違いありません。

・消費生活とポスター~商品広告


2.市民生活の夢とボスター

大衆消費社会の到来とともに様々な商品のポスターも巷に溢れ出します。


ウィリアム・ブラッドリー「ヴィクター自転車」1900年 チェコ国立モラヴィア・ギャラリー

まず興味深いのは当時、極めて流行したという自転車のポスターです。中でもまるで映画のワンシーンを覗くかのような「ヴィクター自転車」にはひかれました。なおこの洗練されたデザインにはいわゆる女性的な感性を連想させる面もあるかもしれませんが、実際に自転車は女性解放のシンボル(一人で遠出することが可能になったため。)として捉えられていたそうです。自転車に乗る女性を見る男性の表情は緩みっぱなしでした。


モーザー(1899年)*ネタバレになるのでタイトルは伏せます。

一見するだけでは何の宣伝なのか分からないポスターも多く登場します。まるで人魚が泳ぐような姿を描いたこの作品、何の商品のポスターか是非とも会場で確認してください。ポスターを見ながら商品を当て、またその先の人々の生活をイメージしながら見るのも楽しいのではないでしょうか。

・華やかな衣装とともに


展示風景

香水などのポスターも多く展示されていますが、それともに実際の商品や衣装を表した立体展示もハイライトの一つです。


展示風景

なおこの衣装の展示は松屋銀座会場限定です。一層華やいだ雰囲気が醸し出されていました。

・寝台特急「北極星号」

最後に出口に待ち構える一枚を挙げておかないわけにはいきません。


カッサンドル(本名アドルフ・ムーロン)「寝台特急北極星号」1927年 チェコ国立プラハ工芸美術館

これはパリからアムステルダムを結ぶ寝台特急を宣伝するためのポスターですが、地平線へ進み行くレールの配置、そして彼方の北極星と、そのダイナミックな表現は目に焼き付きました。旅情とともに鉄道の力強さを味わえる作品と言えそうです。



グッズ各種が充実しているのは松屋ならではですが、今回は図録に嬉しいサプライズがありました。



何と図版ページが一枚一枚外れてそのままミニポスターとして使えます。しかもそのポスターを再び挟み込むための透明のケース入りです。ありそうで少なかった「外せる図録」、ちょっとした話題ともなるかもしれません。

本展にあわせて8月29日の朝にNHKの日曜美術館で特集があります。言うまでもなく日美特集後の展覧会は混雑します。いかんせん狭いスペースでもあるので、出来ればその前に見てしまうのも良いのではないでしょうか。(最終日以外、連日夜8時まで。入場は閉場の30分前。)

「ポスター誕生 パリジャンの心を盗め!」@NHK日曜美術館(8月29日朝放送予定)

9月6日までの開催です。これはおすすめします。

注)写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
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「山姥 河鍋暁斎筆」 東京国立博物館

東京国立博物館・平常展示18室「近代美術」(台東区上野公園13-9
「山姥 河鍋暁斎筆」
8/3~9/12

いつも見逃せない東博の本館平常展ですが、近代美術のコーナーの一角で異彩を放つ暁斎の一幅が展示されています。平常展示18室で公開中の河鍋暁斎の「山姥」を見てきました。



この作品は浄瑠璃の山姥の設定を取り入れて描かれたものだそうですが、その踊るように大胆な線と、反面の極めて繊細な衣服の表現には、硬軟に冴えた暁斎ならではの筆の魅力を感じ取れるのではないでしょうか。



人物造形はどこか浮世絵風でもありますが、そのふと見やる表情やただれた髪は生々しく、それこそ今にも山姥の本性、つまりはグロテスクな姿を化けて現すような予感がしてなりません。



また無邪気に引き合う金太郎やシロクマも実に生き生きと描かれていました。しかしこの細やかな彩色は必見です。随所には金も散りばめられ、どこか華やかでかつ派手な出立ちは、それこそつい先日のBASARAを連想させました。

「反骨の画家 河鍋暁斎/狩野博幸・河鍋楠美/新潮社」

9月12日まで公開されています。
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「特集陳列 古代エジプトのミイラ」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館企画展示室(台東区上野公園13-9
「特集陳列 古代エジプトのミイラ」
7/13-9/20



東京国立博物館・平成館企画展示室で開催中の特集陳列、「古代エジプトのミイラ」へ行ってきました。

東博のミイラというと東洋館を思い出しますが、改修中とのことで、ここ平成館一階の企画展示室にて関連の文物とあわせて紹介されています。(出品リスト)なお会場は常設展内です。ミイラを含めた一部文物の撮影が可能でした。

まず目立つのはいわゆるミニチュア風の木彫です。いずれもあの世で使われるようにと墓へ収められたものばかりでした。


「舟の模型 上エジプト出土」中王国時代・前2000年頃

ナイルの水運とも繋がる舟が多く見られます。これはもちろん実際の舟を象ったものですが、あの世においても死者や荷物を載せて動くものと考えられていました。


「少女の像 上エジプト出土」中王国時代・前2000年頃

一人の少女が象られています。死者の世界で奉仕するための召使いとして造られました。ちなみに手に持つ獲物と頭上のカゴのパンは、あの世で食べる晩餐の品だそうです。

展示室の最奥部ではミイラとともに、それを包んでいた布が展示されていました。


「パシェリエンプタハのミイラ エジプト、テーベ出土」第22王朝・前945~前730年頃


「パディインヘルのミイラの包み布 下エジプト出土」ローマ帝政期・1世紀

このミイラは1904年、エジプト考古庁から東博の前身の帝室博物館へ寄贈されたものです。ミイラ自体の持つ歴史の重みは言うまでもありませんが、既にここ上野で100年にもわたって公開されていることに、東博の長い歴史を知る面もあるのではないでしょうか。

その他では写真撮影は出来ませんでしたが、青い釉薬のかけられた陶製の人形なども出品されていました。


右「ガウトセシェンのウシャブティ デイル・エル=バハリ出土」第21王朝・前1070~前946年頃
左「ホルメスのウシャブティ エジプト出土」 第26~30王朝・前7~前4世紀




平成館では「誕生!中国文明」が開催中ですが、一部時代も重なる両文明を見比べるのも興味深いのではないでしょうか。パネル解説など、古代エジプト人の死生観を理解出来るような工夫もされていました。



特別展を鑑賞の際は是非ともお見逃しなきようご注意下さい。9月20日まで開催されています。
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「江川純太 - 火星の記憶」 eitoeiko

eitoeiko新宿区矢来町32-2
「江川純太 - 火星の記憶」
8/21-9/18



eitoeikoで開催中の江川純太個展、「火星の記憶」へ行ってきました。

作家、江川のプロフィール(*)は以下の通りです。

1978年 神奈川県生まれ
2003年 多摩美術大学絵画学科日本画専攻卒業
2008年 THENEXT (GalleryStumpKamakura)
2008年 シェル美術賞入選
2010年 トーキョーワンダーウォール2010入選



仄かな銀色に照る支持体を背景に描かれた青や赤の粒、また帯は、いわゆる抽象絵画と呼ばれるイメージそのものでしたが、実際の作品の前に立つと、どこか作家の心象風景を覗き込んでいるような印象を受けるかもしれません。江川は子どもの頃の自身の体験から「絵には心が投影され『嘘のつけない』ものであることを自覚」(*)し、「自己との対話としての絵画」(*)を制作し続けています。記憶の断片のように点々と連なる色の粒は、大きな時間の流れのように立ちはだかるグレーや銀のストロークから這い出るように浮かび上がっていました。その絵具同士の交差または言わば格闘に、作家の思いの在処を見て取ることが出来そうです。



過去のファイルを見て驚きました。シェル入選賞作をはじめ、つい最近まではいわゆる具象絵画を手がけています。作家本人によれば「具象よりも行為として抽象の方が自由に動ける。」とのことでしたが、大きく変化する作風の展開にもまた注目すべき点があります。


「ゆっくりと涙が溜まるまで」2010年 キャンバス・油彩

近づくとわき上がってくるタッチの迫力もまた並々ならぬものがありました。


神楽坂の閑静な住宅地にある一戸建てのギャラリーです。

9月18日までの開催です。(月火休。有り難いことに日曜日はオープンしています。)

*印はプレスリリースより引用
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「6 femmes」 銀座スルガ台画廊

銀座スルガ台画廊(中央区銀座6-5-8 トップビル2F)
「6 femmes」
8/16-8/21(会期終了)



銀座スルガ台画廊で開催されていた「6 femmes」へ行ってきました。

出品作家は以下の通りです。2010年に多摩美術大学日本画科を卒業された方々のグループでした。

荒木愛・岩本夕佳・曽我里美・戸田早紀・平野友紀・小川遥


荒木愛

「色」をテーマとした各作家の新作が数点ずつ展示されていましたが、まずはかつてクムサンギャラリーで見たグループ展の記憶の深い荒木愛が印象に残りました。果実からモチーフを変え、美しい色彩をもって描かれた蝶の群れは、一見するところの華やかさとは裏腹に、どこかもの寂し気に散っています。実際、これらは蝶の死骸を取り込んだものだそうですが、そこには明るく淡い顔料の色味らしからぬ重みが感じられました。ずしりと心に響いてきます。


荒木愛「桃の香りが導くままに」(2010)一部

画面右(上は拡大写真)の「桃の香りが導くままに」(2010)も要注目の一枚です。表面にはまるでレースのカーテンのように和紙がうっすらとかけられています。桃色の地とのコントラストもまた絶妙でした。


岩本夕佳

他の方で挙げたいのが岩本夕佳と小川遥です。まるで果汁までが滲み出してくるかのような果物の断片を描く岩本の瑞々しい色遣いと、まるで水面の蓮池を鳥瞰的に描いたような小川の視点の面白さには感心させられました。


小川遥「cheep garden」(2010)

なお荒木愛は2年後、同画廊にて個展の開催が予定されています。こちらも是非伺いたいところです。

展示は本日で終了しています。
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「TWS-Emerging 143 大石麻央 - 飛び立ち距離」 TWS本郷

トーキョーワンダーサイト本郷文京区本郷2-4-16
「TWS-Emerging 143 大石麻央 - 飛び立ち距離」
7/7-8/29



トーキョーワンダーサイト本郷で開催中の「TWS-Emerging 143 大石麻央 - 飛び立ち距離」へ行ってきました。

作家、大石麻央のプロフィールについてはTWSのWEBサイトをご参照下さい。

Creator Information 大石麻央@トーキョーワンダーサイト

最近では2009年の中之条ビエンナーレなどで展示があったそうです。また同年のワンダーウォール(会場:MOT)でも壁沿いに隠れるように立つ人形が印象的でした。

会場はTWS本郷の3階、しかもその最奥部の窓のある展示室でしたが、そこに足を踏み入れた途端、良い意味で驚かされたのは私だけではないかもしれません。何やらその空間を自分の部屋であると言わんばかりの何食わぬ様子でいるのは、様々な動物のマスクを被った人形でした。ともかく上のDM画像にある人形がぬうっと何体もいる姿を想像して見て下さい。またこれら人形の他、へしゃげた動物のマスクが床に転がる様子は、面白可笑しくもシュールでした。

なお大石は8月26日から29日に原美術館で開催予定のイベント、「BLANK MUSEUM」にも出展があります。公式WEBサイトの他、作家ブログでも案内がありました。これは俄然に興味がわきます。



BLANK MUSEUM at 原美術館 公式サイト/twitter

大石麻央の「大学ノートB罫」(作家ブログ)

ちなみに今回のTWS-Emergingでは大石の他、近あづき、堀口泰代も両個展もそれぞれ開催中です。特に都庁などをフェルトでかたどり、それを身体と連続させて写真に捉えた堀口泰代の展示は興味深く思いました。

8月29日までの開催です。
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「建畠覚造 アトリエの時間 ミュージアム コレクション1」 世田谷美術館

世田谷美術館世田谷区砧公園1-2
「建畠覚造 アトリエの時間 ミュージアム コレクション1」 世田谷美術館
4/16~9/5



世田谷美術館で開催中の「建畠覚造 アトリエの時間 ミュージアム コレクション1」へ行ってきました。


建畠覚三「核のマケット」1956年頃 合成樹脂

いわゆる所蔵品展ながらも、一人の彫刻家の全体像を知るには何ら不足のない企画だと言えるかもしれません。むしろ企画展示室よりも開放感のある広々とした2階展示室には、「抽象彫刻のパイオニア」(チラシより引用)と呼ばれる建畠覚造(1880-1942)の彫刻、模型、さらにはデッサンなどが約80点もずらりと勢揃いしていました。


建畠覚三「展開」1960年 ポリエステル樹脂、鉄、セメント

抽象といってもどこか親しみ安さを感じるのが建畠作品の特徴ではないでしょうか。実際に彼は煙や雲までもテーマにしていたそうですが、緩やかな曲線が行き交うモニュメンタルな形態は、影響を受けたというムアの人体彫刻や、またカンディンスキーのリズミカルな絵画を連想させるものがありました。

なお会場では実際の作品の他、建畠が各所で造ったパブリックアートの写真も展示されています。一度見たことがあるという方も多いかもしれません。なお身近なところでは、東京都美術館の中庭の「さ傘(天の点滴をこの盃に)」がありました。


建畠覚三「GO GOのマケット」1971年頃 木、ボルト

最後にもう一点、特筆すべきなのは素材の多様性です。木はもちろん、石膏や樹脂など、実に多くの原材料が使われていました。

ところでこの展示に続く常設第2室もお忘れなきようご注意下さい。ヴィンタートゥール展の記事でも触れましたが、所蔵のルソーが3点ほど展示されています。つまり世田美ではヴィンタートゥール展とあわせ、計5点のルソーを楽しむことが出来るというわけです。(9/5まで。)

「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール」 世田谷美術館(拙ブログ)

9月5日まで開催されています。
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「ベルギー近代美術の殿堂 アントワープ王立美術館コレクション展」

東京オペラシティアートギャラリー新宿区西新宿3-20-2
「アントワープ王立美術館コレクション展 アンソールからマグリットへ - ベルギー近代美術の殿堂」
7/28-10/3



東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「アンソールからマグリットへ - ベルギー近代美術の殿堂 - アントワープ王立美術館コレクション展」へ行ってきました。

本展の概要は以下の通りです。 (展覧会WEBサイトより転載。)

アントワープ王立美術館の所蔵する14世紀から20世紀にわたる幅広く膨大なコレクションの中で、質量ともに充実した19世紀末から20世紀中頃までのベルギー絵画を紹介するものです。ベルギー近代絵画の3大巨匠とも呼ばれるルネ・マグリット、ポール・デルヴォー、ジェームズ・アンソールをはじめレオン・スピリアールト、フェルナン・クノップフなどの象徴派、フランドル表現主義、シュルレアリスムなどの39作家、計70作品によって、ベルギー近代美術の流れをたどります。

なお出品全70点のうち63点は日本初公開とのことでした。

さて冒頭で紹介されているのは、ベルギーにおける外光、印象主義などの諸作品です。縦長の構図で森の小路を描いたクルテンスの「陽光の降り注ぐ小道」(1894年)からは、それこそ西美常設のコローの「ナポリの浜の思い出」(1870-72年)を彷彿させはしないでしょうか。実際、彼はバルビゾン派の影響を受けていたそうですが、木立に木漏れ日が差し込む様子は情感にも溢れていました。


ジャン・バティスト・デ・グレーフの「公園にいるストローブ嬢」(1884-86年)

またもう一点、是非とも触れておきたいのが、ジャン・バティスト・デ・グレーフの「公園にいるストローブ嬢」(1884-86年)です。草地を背景に立つ白いドレスの少女の面影は、どこかセガンティーニの作風を連想させます。いかんせんタイトルに『アンソールからマグリットへ』とあると、象徴派やシュルレアリスムばかりかと思ってしまいますが、このようなアカデミスム絵画などを楽しめるのもまた見所の一つと言えるかもしれません。


レオン・スピリアールト「自画像」(1907年)

さて今回の展覧会で絶対に忘れられないのが象徴主義の画家、レオン・スピリアールトです。彼は絵を独学で学び、このような自画像を多く描いたそうですが、青いスケッチブックを持った本人のメランコリックな表情をはじめ、ハンマースホイを思わせる暗鬱な室内空間の様相には強く心を揺さぶられました。


レオン・スピリアールト「海辺の女」(1909年)

また海を向いて立つ女を描いた「海辺の女」(1909年)もただならぬ気配を感じさせる一枚です。闇に沈み色に溶けゆく亡霊のような姿はもはやこの世の人間ではありません。今回の一推しは断然、これらのスピリアート(計4点)を挙げたいと思います。


ポール・デルヴォー「バラ色の蝶結び」(1937年)

全体の2割程度を占める表現主義・抽象絵画を経由し、最後に到達するのが第4章『シュルレアリスム』です。ここは全7点とやや物足りないかもしれませんが、月と木のイメージが反転するマグリットの「9月16日」(1956年)における神々しいまでの美しさはフィナーレを飾るのに相応しいものでした。もちろん大好きなデルヴォーの「バラ色の蝶結び」(1937年)の幻想世界にも酔いしれたことを付け加えておきます。

ベルギー美術好きにはたまらない企画ではありましたが、初台の箱との相性はあまり良くないかもしれません。建築展などでは見事な演出が光るオペラシティも、今回の展示に限って言えば照明に冴えがありません。作品がぼんやりと赤茶けて見えます。少し残念でした。

なお今のところ混雑とは無縁のようです。ゆったりとした環境で見ることが出来ました。

10月3日までの開催です。
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「ヘンリー・ムア 生命のかたち」 ブリヂストン美術館

ブリヂストン美術館中央区京橋1-10-1
「ヘンリー・ムア 生命のかたち」
7/31-10/17



ブリヂストン美術館で開催中の「ヘンリー・ムア 生命のかたち」へ行ってきました。

ヘンリー・ムアというと、お馴染みの人体をモチーフとした彫刻が有名ですが、この展示ではそれらの立体をはじめ、素描、リトグラフなどもあわせて紹介されています。テーマ展示ということで規模は小さく、例えば彫刻は全6点の出品に留まっていますが、人体彫刻での「母と子」というキーワードやストーンヘンジのリトグラフなど、ムアの関心の拠り所の要点をピックアップして提示していました。

展示の構成は以下の通りです。

第一章 生命のかたち1 横たわる人体
    生命のかたち2 母と子
    生命のかたち3 座る女のポーズ
    生命のかたち4 頭部(ヘルメット・ヘッド)
第二章 ストーンヘンジ 有機的なかたち


ヘンリー・ムア「母と子(ルーベンス風)」(1979年)

前半部ではムアの人体彫刻を素描などと比較して展示し、後半部では彼が「表現の啓示」を受けたというストーンヘンジのリトグラフシリーズを一挙に並べるという構成になっていました。


ヘンリー・ムア「ストーンヘンジ1 バランスのとれたまぐさ石」(1973年)

今回、ともかくも私が感銘したのは彫刻よりも後半部、つまりは二章のストーンヘンジを描いた版画のシリーズでした。ムアは23歳の時にストーンヘンジを訪れ、その姿に心を奪われたそうですが、それから過ぎること数十年、何と70歳を過ぎてからこの連作に取り組み始めます。

様々な形態をとって折重なる巨石群は、月明かりを吸収して仄かに灯り、実に静謐で神秘的な世界を展開していました。この連作群は全部で20点弱ほどあり、一つの展示室を取り囲むようにして並んでいますが、その中に立つと不思議なエネルギーの渦のようなものを感じるかもしれません。この箇所だけでも本展へ行く価値は十分にありました。


ヘンリー・ムア「プロメテウスの頭部」(1950年頃)

一方、前半部では、ムアが生涯に渡って追求した人体の形態を分析しています。もちろん親子の愛をモニュメンタルに表した彫刻も魅力的でしたが、私として興味深かったのはゲーテのプロメテウスの挿絵を描いたという「プロメテウスの頭部」(1950年頃)でした。元々、ムアは頭部の造形についても強い関心を抱いていましたが、この作品においても全てが面に分割されるように表現されていました。

点数としてはリトグラフなどの紙作品が約40点も出品されています。良く知られた立体作以外のムアを楽しむという観点からも貴重な展覧会と言えるのかもしれません。


ロートレック「サーカスの舞台裏」(1887年頃)

定評のある常設展示でも嬉しいサプライズです。このほど同美術館が収蔵したロートレックの油彩、「サーカスの舞台裏」が新たに展示されていました。ちなみにこの作品、図版で見ると地味な素描のような印象を受けるかもしれませんが、実際に前に立つと油特有の画肌の迫力に圧倒されます。絵具による陰影も大変に繊細でした。

実のところブリヂストン美術館へは久しぶりに出かけましたが、改めてその質の高いコレクションには強く感心させられました。セザンヌの高名なサント・ヴィクトワール山シリーズも、このブリヂストン所有の作品より美しい作品を他に見たことがありません。ザオの青い飛沫も心をぐっと捉えました。

10月17日まで開催されています。
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「こどものにわ」 東京都現代美術館

東京都現代美術館江東区三好4-1-1
「こどものにわ」
7/24-10/3



東京都現代美術館で開催中の「こどものにわ」へ行ってきました。

主に夏休み中、そして人気のアリエッティ展と同時開催ということもあってか、会場内ではそれこそタイトルの通りに子どもたちが一番に楽しめるような工夫がこらされています。気軽にアプローチも出来る、主に双方向の大掛かりなインスタレーションが、MOTの広々とした空間で展開されていました。

なお今回は嬉しいことに写真の撮影が可能です。早速、展示順に挙げてみました。

大巻伸嗣


作家:大巻伸嗣
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。

冒頭、来場者を迎えるのは宙から浮く白い球体の花々でした。なおこの作品、表面にはもちろん花の模様が描かれていますが、何とその素材は修正液と水晶なのだそうです。これは驚きました。


作家:大巻伸嗣
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。


作家:大巻伸嗣
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。

続いては大巻の代表作とも言えるお花畑、「ECHOES - INFINITY」がホワイトキューブを彩ります。この作品は観客に踏まれることで時間の経過などを表していますが、如何せんかすれて崩れた形は枯れた花畑のようで馴染めませんでした。ここはもっと早く出かけるべきだったかもしれません。

出田郷


作家:出口郷
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。

光のスプライトがキラキラと瞬きます。スクリーンの中と外からその景色の変化を楽しみました。


作家:出口郷
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。

8000枚のミラーが埋め込まれたガラスの絨毯が壁面に光を振り撒きます。変わりゆく光の粒はまるで星屑のようでした。

サキサトム


作家:サキサトム
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。

サキサトムの映像「ガーデン」は乳幼児の視覚世界を再現しているそうです。その不思議な映像はかつて誰しもが見ていた景色なのかもしれません。

KOSUGE1-16


作家:KOSUGE1-16
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。


作家:KOSUGE1-16
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。

吹き抜けスペースではサッカーと自転車のゲーム形式の作品が展開されています。ここは主役の子どもたちに任せてその様子だけを見守りました。



この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。

企画そのものはとても趣向を凝らしていましたが、単純に一つの展示として捉えるとややボリュームに欠けたような気もしました。 またアリエッティ展とのお得なセット券が販売されていましたが、ここは思い切ってアリエッティ入場客には、無料で観覧してもらうなどの誘導策があっても良かったかもしれません。裾野を広げるために常設扱いとして、垣根を出来るだけ低くしてしまうのも手だとは思いました。

10月3日まで開催されています。
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「複合回路 - アクティヴィズムの詩学 - 第三回 丹羽良徳」 ギャラリーαM

ギャラリーαM千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビルB1F)
「複合回路 - アクティヴィズムの詩学 - 第三回 丹羽良徳」
7/24-9/11



ギャラリーαMの連続シリーズ展第三弾、「複合回路 - アクティヴィズムの詩学 - 丹羽良徳」へ行ってきました。

作家のプロフィールについては画廊WEBサイトをご参照下さい。

第三回 丹羽良徳 Yoshinori NIWA@ギャラリーαM

主にパフォーマンス・アートの領域で活動してきましたが、今回は事実上ギャラリーでの初個展とのことでした。



展示はそのパフォーマンスを捉えた映像とインスタレーションにて構成されていましたが、まずやはり目につくのは、2本の木を起点に、会場の天井にわたって組み合わされた「撤去された鳥の巣をギャラリーの天井で編み直す」(2010)でした。この作品はタイトルの通り、屋外の鳥の巣をこの空間で再現していますが、やはり見るべきは丹羽が実際に鳥の巣と格闘した記録を捉えた奥の映像作品ではないでしょうか。



ちなみにこの木は本物です。無数のハンガーで連なる巣との対比は何とも鮮烈でした。



そしてもう一点、入口正面の映像こそ、丹羽の「現実的に繋がりそうもない出来事を強引にでも横断」(解説より引用)というコンセプトを分かりすい形で楽しめる作品に他なりません。この画像を見れば実際の場所がどこかお分かりいただけるかと思いますが、(美術ファンにはお馴染みの公園でした。)ともかく体を張ってそれこそ強引にぬいぐるみのクマと本物のクマを繋げることで、言わばその相互の断絶や周辺の社会的な問題を鮮やかに指し示すことに成功していました。30分程度の長い作品ですが、是非ともその無念のオチを味わっていただきたいと思います。

なお今回のキュレーションは東近美のゴーギャン展を監修された鈴木勝雄です。その辺もまた注目すべき点かもしれません。

9月11日まで開催されています。*夏期休廊:8月8日(日)~23日(月)
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「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール」 世田谷美術館

世田谷美術館世田谷区砧公園1-2
「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール スイス発 - 知られざるヨーロピアン・モダンの殿堂」
8/7-10/11



世田谷美術館で開催中の「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール」のプレスプレビューに参加してきました。

夏の世田美の西洋絵画展というと、どこかオーソドックスな名画展でも想像してしまうかもしれませんが、少なくともこの展覧会に関してはそうしたことは一切ありません。そもそもスイスの小都市にあるヴィンタートゥール美術館は近代絵画に定評があるそうですが、ピカソやブラック、そしてルソーらをはじめ、日本では登場頻度の低いアンカーやベックマン、そしてヘッケルやココシュカらと言ったドイツやスイスの画家の作品がかなり充実していました。

(展示風景)

展覧会の構成は以下の通りです。

1. フランス近代1「ドラクロワから印象派まで」:ドラクロワ、ピサロ、シスレー、ルノワール。
2. フランス近代2「印象派以後の時代」:ゴーギャン、ゴッホ、ルドン、マイヨール。
3. ドイツとスイスの近代絵画:リーバーマン、コリント、アンカー、ホードラー。
4. ナビ派から20世紀へ:モーリス・ドニ、ボナール、ヴュイヤール、ヴラマンク、マルケ。
5. ヴァロットンとスイスの具象絵画:ヴァロットン。
6. 20世紀1「表現主義的傾向」:ヘッケル、ヤウレンスキー、ココシュカ、カンディンスキー、クレー。
7. 20世紀2「キュビスムから抽象へ」:ピカソ、ブラック、レジェ、ル・コルビュジエ。
8. 20世紀3「素朴派から新たなリアリズム」:ルソー、ジャコメッティ、モランディー。

この章立てを見るだけでも、いわゆる印象派以降、ナビ派やドイツ、スイスの画家、それに20世紀美術に重点の置かれた展覧会だとお分かりいただけるのではないでしょうか。一見、地味に思えながらも、ここまで噛めば噛むほど味わいが深くなるような絵画展は久しぶりでした。

それでは以下、私なりの視点で見どころを挙げてみます。

1.輝かしきシスレー

(左モネ、右シスレー)

眩しい光に包まれた教会が展覧会冒頭を彩っていました。真っ青な空の下に佇む建物は、シスレーの家のあったモレの教会です。シスレーはこの教会をそれこそモネのルーアンの如く、連作で10数枚描いたそうですが、ともかくも画中に滲み出る光、そして鮮やかな色には目を奪われました。


アルフレッド・シスレー「朝日を浴びるモレ教会」
1893年 油彩、カンヴァス ザ・コレクション・ヴィンタートゥール


構図としては堅牢ながらも、淡いクリーム色をした壁面などの繊細なタッチにはシスレーならではの情感が溢れているのではないでしょうか。

2.彫刻との響宴~ルノワール、ジャコメッティ、そしてマーラー~

(ルノワール諸作品)

今回の展示の特徴として挙げられるのが彫刻作品の多さです。ルノワール、デスピオ、ロッソなどの各彫刻作品と絵画が一つの『風景』となって、会場全体を引き立てていました。


オーギュスト・ロダン「グスタフ・マーラー」
1909年 ブロンズ ザ・コレクション・ヴィンタートゥール


また音楽ファンとして忘れられないのはロダンによるマーラーの肖像です。この作品はマーラーの義父で画家のカール・モルによって依頼されたもので、実際にマーラーは2度、ロダンのパリのアトリエを訪れ、モデルを務めました。図録によればロダンはマーラーにフリードリヒ大王やモーツァルトを見出したとのことでしたが、それはともかくもこの荒々しい人物描写には、マーラーの内面の苦悩がうまく表現されていると言えるのかもしれません。

(右レームブック)

その他、赤茶けた人造石の色合いが異彩を放つレームブックの端正な「振り向く女性の頭部」、また事情により画像は載せられませんが、ストイックまでの造形に胸を打たれるジャコメッティの「林間地」などの見どころもありました。

3.スイスの画家~アンカーとホードラー~

(左ホードラー、右アンカー)

ご当地スイスの画家の作品ももちろん登場します。なかでも風俗画家として名高いアンカーの静物画は一際人気を集めるのではないでしょうか。

(「ドイツとスイスの近代絵画」展示室)

またもう一人、スイスの同時代の画家として挙げておきたいのがホードラーです。自身最後の自画像となる最大の作品は、どこかどっしりと構えた彼の平明な心持ちが現れているように思えました。

4.ナビ派とフォーヴィズム

(「ナビ派から20世紀へ」展示室)

六本木のオルセー展でも主役だったナビ派ですが、ヴィンタートゥール展でも中核の一部を示しています。小品がメインですが、ボナール6点、ヴュイヤール4点は、再びこのグループの魅力を知るのに相応しい作品でした。

(左マルケ、右ヴラマンク)

また一概にフォーヴとしても対照的な画家、マルケとヴラマンクも忘れることが出来ません。ここは大好きな二人の画家が横に並んだ展示ということで、時間を忘れてじっくりと見入りました。しかしながらこの点描風の技法をとるヴラマンクの若い頃の「野菜農園の道」は、一見すると彼だと分からないかもしれません。既知の画家のこうした意外な作品を知ることが出来るのも、今回の展覧会の大きなポイントと言えそうです。

5.ヴァロットン・ルーム

(「ヴァロットンとスイスの具象絵画」展示室)

スイス出身のヴァロットンの作品が並ぶ展示室は一つのハイライトと言えるのではないでしょうか。


フェリックス・ヴァロットン「5人の画家」
1902~1903年 油彩、カンヴァス ザ・コレクション・ヴィンタートゥール


ナビ派の画家を集団で捉えた大作「5人の画家」をメインに、どこか神秘的でさえあるオレンジ色の夕陽が眩しい「日没、オレンジ色の空」、そして実景を元にしながらも、神話的な主題との関係を思わせる「浴女のいる風景」などが並ぶ様子は圧巻でした。

6.ドイツ表現主義~ヘッケル、ヤウレンスキー、ベックマン~

(左ヤウレンスキー、右ヘッケル)

日本ではあまり馴染みのないドイツ表現主義が紹介されているのは嬉しいところです。フォーブを思わせながらも、もっとプリミティブな印象を与えるヤウレンスキーの「ルネサンス風の頭部」と、オレンジやブルーの色彩が強烈なヘッケルの「池で水浴する者たち」の二枚は目に焼き付きました。


(右ベックマン)

また退廃芸術展にて作品を糾弾されたベックマンの静物画も要注目の一枚ではないでしょうか。「ストレリチアと黄色いランのある静物」こそ、彼がナチスの迫害を受けて亡命をした年(1937年)の作品に他なりませんが、背景のぽっかりと開いた黒と黄色いテーブル、そして刺々しいまでに直線的なストレリチアの組み合わせからは、各々の調和しない、時代を表すような不穏な空気を強く感じました。

7.モランディ

(モランディ2点)

人気のモランディが2点出品されています。柔らかい色彩と光のコントラストは、それこそ表現主義やキュビズムを見て来た後の目に、とても静謐で優しく響いてきました。やはり一推しです。

8.ルソー~世田谷美術館の常設とあわせて~

(「表現主義的傾向」展示室)

世田美というとルソー展の記憶も新しいところですが、今回もまた注目されそうなのがルソーの2点です。私としては彼よりも隣のボーシャンの方に共感を覚えますが、「赤ん坊のお祝い」におけるその太々しい姿をとる子どもに、一種の異様な存在感があるのは事実でした。

(常設展示室)

またルソーは本展会場内以外、つまりは同館の常設展でも3枚の作品が展示されています。(ボーシャンも2点展示。)こちらは9月5日までと会期限定です。お見逃しなきようご注意下さい。

(展示風景)

元々、ヴィンタートゥール美術館のコレクションは、当地の美術家、またコレクターたちの寄付により形成されました。そのためかいわゆる大作は多くありません。しかしながら先にも触れたように著名な画家の見慣れぬ小品など、意外な発見の多い展覧会であるという印象を強く受けました。

(展示風景)

ところで時にアクセスの難も指摘される世田谷美術館ですが、有り難いことに夏休み期間中は臨時の直通バスが運行されています。私は普段、用賀駅から歩いて美術館へ行くことが殆どですが、このプレビュー時はあまりにもの暑さに途中で参ってしまいました。涼しくなると砧公園の散策も気分良いものですが、やはり夏の時期はバスを利用されるのがベストかもしれません。

ザ・コレクション・ヴィンタートゥール 直通臨時バス時刻表 用賀駅→美術館 美術館→用賀駅


フィンセント・ファン・ゴッホ「郵便配達人 ジョゼフ・ルーラン」
1888年 油彩、カンヴァス ザ・コレクション・ヴィンタートゥール


プレビュー時、俳優の仲代達也さんがゴッホの前で記者会見をされていました。なお仲代さんは来年、何と舞台上でゴッホ本人を演ぜられるのだそうです。この作品もチラシ表紙に使われるなどの目玉ですが、半ばゴッホのカラーでもある黄色と青がぶつかり合う様子は会場でも一際目立っていました。

10月11日まで開催されています。

注)写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
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