根津美術館にて「はじめての古美術鑑賞 人をえがく」が開催中です

日本における人物表現の変遷を辿る「はじめての古美術鑑賞 人をえがく」が、東京・南青山の根津美術館にて開かれています。



その展示の内容について、WEBメディア「イロハニ・アート」へ寄稿しました。

日本における人物画の広がりとは?根津美術館で開催中の『はじめての古美術鑑賞 人をえがく』レポート
https://irohani.art/event/5098/

これはかねてより根津美術館が古美術を分かりやすく紹介する「はじめての古美術鑑賞」シリーズの第5弾にあたる企画で、今回は絵画の重要なテーマである人物画に着目して作品を展示していました。

会場では鎌倉時代にはじまり、室町から安土桃山、それに江戸から明治に昭和へと至る人物画を紹介していて、当初、祭神や歌仙などしか描かれなかった人物が、時代が進むにつれて武家や公家、さらには市井の人々へと広がっていくことを知ることができました。

また中世以降の写実的な似絵や、絵巻物における素朴絵なども展示されていて、一口に人物画といえども、肖像や群像、あるいは物語の一場面にあるなど多様に描かれていることが分かりました。一見、楽しげに見えながらも、実は投獄する凄惨な場面を描いた「幸若舞曲つきしま絵巻」も面白い作品ではないでしょうか。

64年ぶりに都内の美術館にて公開された橋本雅邦の「臨済一喝」は、臨済宗の開祖、臨済義玄が問答の際に一喝する場面を描いていて、大きく開けた口からはまさに声そのものが聞こえてくるかのようでした。



現在、根津美術館では新型コロナウイルス感染症対策により、オンラインでの日時指定制が導入されています。入館希望時間帯の開始2時間までまでに、日時指定券を購入する必要があります。以前は前日までの予約受付でしたが、当日も可能になりました。


10月17日まで開催されています。

「はじめての古美術鑑賞 人をえがく」 根津美術館@nezumuseum
会期:2021年9月11日(土)~10月17日(日)
休館:月曜日。ただし10月11日(月)は開館
時間:10:00~17:00 ※入館は16:30まで
料金:一般1300円、学生1000円、中学生以下無料
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線「表参道」駅A5出口より徒歩8分
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「志村信裕展|游動」 KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ
「志村信裕展|游動」
2021/9/9~10/8



KAAT神奈川芸術劇場の中スタジオにて開催中の「志村信裕展|游動」を見てきました。

現代アーティストの志村信裕は、身近な日用品や風景を題材にした映像インスタレーションで知られ、これまでにも国内の展覧会などで作品を発表してきました。



その志村が劇場のスタジオにて行なっているのが「游動」と題した個展で、暗がりの会場には8点のインスタレーションが展開していました。


「Dance」 2021年

まず入口正面のカーテンに映されたのが、木漏れ日をモチーフとした「Dance」で、白く丸みを帯びた光のみがカーテンそのものを揺らすように煌めいていました。


「Dance」 2021年

そして後ろにまわっても同様に木漏れ日が映されていて、時折行き来する人の姿も影絵のように捉えていました。


「瑠璃の夢」 2021年

古い木のフレームを用いた「瑠璃の夢」とは、窓ガラスにクラゲの群れを映した作品で、無数のクラゲがのんびりと揺らめく光景を見ることができました。その青く光る様子は真夜中の海面のようで、ガラス窓を通して海の奥深くへと誘われていく錯覚にとらわれました。


「静夜思」 2021年

一転して展示室の中央に目を向けると、表面がざらついているようなガラスの球体が置かれていて、その上の天井には海の波を捉えた映像が映されていました。



そして波には月明かりが反映しているのか白く瞬いているようで、幻想的な光景を築き上げていました。またあたかも上下に反転するかのように、海面が天井に映されているのも不思議な感覚を与えられるかもしれません。


「Blue Hour」 2021年

青い照明が映された「Blue Hour」は、観客の動きにあわせて光や水の動きが変化するインスタレーションで、座る場所を変えたり、人が入れ替わるたびに、異なった水の流れが生み出されていました。


「光の曝書(星野立子の句集)」 2021年

星野立子の句集に緑色の木漏れ日を映した「光の曝書」も魅惑的ではなかったでしょうか。星野は高浜虚子の次女で、虚子に師事しては「玉藻」を創刊するなどして活動しました。



スタジオの壁の鏡面も効果的だったかもしれません。そこには作品の光や映像、さらに人の影がおぼろげに映り込んでいて、展示空間を全体を取り込むとともに、それぞれまさに游動、自由に動いては新たな物語を紡いでいるようにも思えました。


10月8日まで開催されています。

「志村信裕展|游動」 KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(@kaatjp
会期:2021年9月9日(木)~10月8日(金) 
休館:月曜日(祝日の場合翌火曜日)
時間:10:00~18:00 
料金:一般800円、学生・65歳以上500円、高校生以下無料。
住所:横浜市中区山下町281
交通:みなとみらい線日本大通り駅3番出口より徒歩約5分。JR線関内、石川町両駅より徒歩約15分。
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特別展「北斎づくし」の特設バーチャル会場が公開中です

9月17日にて終了した特別展「北斎づくし」をオンラインにて楽しめる特設サイトが、10月10日まで無料にて公開されています。



特別展「北斎づくし」 特設バーチャル会場
https://360camera.space/virtualhokusai2021/

それが「北斎づくし」特設バーチャル会場で、3Dカメラを用いて撮影したVR空間を、パソコンやスマートフォンを通して体験することができました。


「北斎づくし」 展示室風景

今回の「北斎づくし」では、「北斎漫画」、「冨嶽三十六景」、「富嶽百景」の全点と全図が初めて展示されたのが特徴で、冒頭の「北斎漫画」においても883の全てのページを鑑賞することが可能でした。また「北斎漫画」のモチーフを壁や床へとプリントするなど、作品の世界へと入り込むような展示デザインも大いに話題を集めました。



オンライン上の展示室では解説を読むこともできて、日本語と英語の双方にて対応していました。さらに俳優の町田啓太さんが担当した展覧会音声ガイドも、バーチャル会場内にて期間限定にて販売されていました。(600円、WEBにて決済)

私も会場で実際に聞きましたが、エディターの橋本麻里さんが監修した解説はもとより、空間デザインを担った田根剛氏やアートディレクターの祖父江慎氏、また今回のコレクションを提供した浦上満氏らのインタビューも収録されていて、相当に聞き応えがありました。


「北斎づくし」 展示室風景

バーチャル会場ではドールハウスから会場入口、そして「北斎漫画」と「冨嶽三十六景」、また「DIGITAL HOKUSAI」を挟んで「読本」から「富嶽百景」、さらにはミュージアムショップまでの全てを閲覧することが可能で、画面下段に表示されたハイライトにてスムーズに切り替えられました。



壁3面と和紙のスクリーンに投影された「DIGITAL HOKUSAI」とは、「北斎漫画」や「冨嶽三十六景」などのモチーフ用いたインスタレーションで、バーチャル会場ではyoutubeの映像にて視聴できました。youtubeのサイトから全画面表示にして迫力のある映像を楽しむのも良いかもしれません。



特別展「北斎づくし」公式オンラインショップ
https://hokusai2021.shop/

特設バーチャル会場の公開期間にあわせ、展覧会の公式オンラインショップの開設も延長されました。会期中も人気を集めたTシャツや豆皿なども販売されていますが、新聞サイズの超大判特製カタログや一部商品に関しては、完売、もしくは品切れとなっていました。

いわゆるコロナ禍の中、各展覧会にてさまざまなWEB上での取り組みがなされましたが、今回ほど充実したオンラインコンテンツはなかったかもしれません。



作品から会場デザイン、そしてショップを含め、かつてない切り口で実現した「北斎づくし」を、改めてオンラインにて楽しめるまたとないチャンスとなりそうです。


特別展「北斎づくし」 特設バーチャル会場は、期間限定にて10月10日まで公開されています。

「生誕260年記念企画 特別展『北斎づくし』」@Hokusaidukushi) 東京ミッドタウン・ホール
会期:2021年7月22日(木・祝)~9月17日(金) *会期終了
オンライン公開期間:2021年9月23日(木・祝)〜10月10日(日)
休館:8月24日、9月7日。
時間:11:00~19:00
 *最終入場は18:30まで。
料金:一般1800円、大学・専門学生1200、高校生・小中学生900円。
 *特設バーチャル会場は無料
場所:港区赤坂9-7-2 東京ミッドタウンB1
交通:都営大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。
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「日本のパッケージ 縄文と弥生のデザイン遺伝子–複雑とシンプル」 印刷博物館

印刷博物館
「日本のパッケージ 縄文と弥生のデザイン遺伝子–複雑とシンプル」
2021/8/7~10/3



印刷博物館で開催中の「日本のパッケージ 縄文と弥生のデザイン遺伝子–複雑とシンプル」を見てきました。

日々の暮らしに必要な食べ物や飲み物、それに日用品のパッケージには、商品の魅力を伝えるためにさまざまなデザインが施されてきました。



そうした日本のパッケージデザインを縄文と弥生の土器のデザインに着目して紹介するのが「日本のパッケージ 縄文と弥生のデザイン遺伝子–複雑とシンプル」で、会場には大手メーカーの商品を中心に約140点のパッケージが展示されていました。



まず重要なのは縄文と弥生のデザインの性質で、前者を立体的、生命力、デコラティブ、呪術的、複雑、それに後者を平面的、理性的、ミニマル、機能的、シンプルと定義づけていました。



そこから日本のパッケージデザインの特徴として、美(うつくしい)、象(シンボル)、欲(シズル)、愛(かわいい)、用(つかう)の5つのテーマを掲げていて、それぞれに縄文と弥生的な性質を当てはめてパッケージを分類していました。いわば縄文と弥生が展示の縦軸とすれば、5つのテーマは横軸に相当するといえるかもしれません。



まず美のテーマでは三和種類のいいちこや資生堂のオードパルファムといったガラス瓶を展示していて、いいちこをシンプルでかつ計算されたバランスであるから弥生、そしてオードパルファムをデコラティブであり生命力のある模様が描かれていることから縄文と位置付けていました。



また欲、つまり人間の本能や欲望に訴えるデザインでは、まるちゃんの赤いきつねを縄文的、明治のおいしい牛乳を弥生としていました。うどん屋の暖簾のような筆文字に縄文的な躍動感が見出されるのかもしれません。



2つのパッケージともスーパーなどで見かけないことはないほどに定番的な商品ですが、これらを縄文と弥生の観点から見るという発想そのものからして目新しいのではないでしょうか。



さらに機能性や実用性を伴うデザインである用のテーマでは、カップヌードルを縄文、キッコーマンの卓上醤油瓶を弥生として紹介していました。確かにカップヌードルのデコラティブな飾り文字は、縄文土器の縄目を連想させるかもしれません。

会場では「縄文・弥生のどちらが好きでしたか?」と題し、気に入った方にシールで投票できるコーナーが設置されていて、私が見た段階では明らかに縄文が人気を集めていました。



また入口では以前、目黒区美術館にて公開され話題を集めた、日本の伝統パッケージの展示も行われていました。



何が縄文で弥生的であるのかについては議論があるかもしれませんが、ごく一般的な日用品のパッケージの見方に変化をもたらす展覧会と言えるかもしれません。



今までパッケージに縄文や弥生的な要素を意識したことがなかっただけに、展示品自体は見慣れたものでありながら、まれな鑑賞体験を得ることができました。


オンラインでの日時指定制が導入されました。事前にWEBから入場のための整理券を予約する必要があります。



観覧は無料です。(常設展は有料)10月3日まで開催されています。

「日本のパッケージ 縄文と弥生のデザイン遺伝子–複雑とシンプル」 印刷博物館@PrintingMuseumT
会期:2021年8月7日(土) ~10月3日(日)
休館:月曜日。但し9月20日は開館。9月21日(火)。
時間:10:00~18:00
料金:無料。*印刷博物館常設展に入場する際は入場料が必要。
住所:文京区水道1-3-3 トッパン小石川本社ビル
交通:東京メトロ有楽町線江戸川橋駅4番出口より徒歩約8分。
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「リバーシブルな未来 日本・オーストラリアの現代写真」 東京都写真美術館

東京都写真美術館
「リバーシブルな未来 日本・オーストラリアの現代写真」
2020/8/24~10/31



日本とオーストラリアの計8名の現代写真家を紹介する展覧会が、東京都写真美術館にて開催されています。

それが「リバーシブルな未来 日本・オーストラリアの現代写真」で、日本からは石内都、片山真理、畠山直哉、横溝静、そしてオーストラリアからはマレイ・クラーク、ポリクセニ・パパペトロウ、ローズマリー・ラング、ヴァル・ウェンズが出展していました。

まず目を引くのが、入口正面に展示されたローズマリー・ラングの風景の作品で、木立などの自然がぶれを伴った独特の動きをもって写し出されていました。まるで映画のワンシーンを見ているような印象も与えられるかもしれません。

4つの先住民族の血を引く写真家、マレイ・クラークの作品も興味深いのではないでしょうか。砂浜で3名の人物を写した「ロング・ジャーニー・ホーム2」のモデルは作家の家族で、いずれも伝統的なポッサムの毛皮のマントを身につけていました。クラークは自らの文化的な遺産に向き合いつつ、その知識の再生に焦点を当てた活動を行なっていて、同作においても伝統的な風習の記憶を蘇らせるべく写真にて表現しました。

自身の娘や友人を仮装させた写真を手がけるポリクセニ・パパペトロウは、動物の被り物をした人物が森の中に立つ「来訪者(世界のはざまで)」を出展していて、夢の中で見るようなファンタジックな世界を築き上げていました。ミステリアスで演劇的な要素も感じられるかもしれません。


日本の作家で目立っていたのは、自らの制限のある身体をモチーフにした片山真理の写真でした。9歳の時に先天性脛骨欠損症のために両足を切断した片山は、手縫いのオブジェと義足に囲まれた写真などを撮り続けていて、2020年には初の写真集「GIFT」にて第45回木村伊兵衛写真賞を受賞しました。赤く発疹した足に金色のラメが光る「in the water #008」も官能性をたたえた作品ではなかったでしょうか。

この他、故郷の陸前高田を撮り続けている畠山直哉や、広島平和記念資料館に寄贈された被爆者の遺品を撮影する石内都の作品も見応えがありました。



なお同館では過去にも「オーストラリア現代作家 デスティニー・ディーコン」展(2006年)などを開催し、オーストラリアの写真表現を紹介していて、今回の展覧会は実に15年ぶりになるそうです。

10月31日まで開催されています。

「リバーシブルな未来 日本・オーストラリアの現代写真」 東京都写真美術館@topmuseum
会期:2020年8月24日(火)~10月31日(日)
休館:月曜日。但し8/30と9/20は開館し、9/21は休館。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700円、大学生560円、中学・高校生・65歳以上350円。
場所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口より徒歩約7分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分。
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「Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる」 東京都美術館

東京都美術館
「Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる」
2021/7/22~10/9



国籍や表現の手段こそ異なりながらも、それぞれが自らを取り巻く障壁を取り除け、生きるために制作を続けた5名の作り手(表現者)を紹介する展覧会が、東京都美術館にて開かれています。

それが「Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる」で、日本の東勝吉と増山たづ子、リトアニア出身のジョナス・メカス、チェコスロバキアのスビニェク・セカル、さらにはイタリアに生まれ、後年に日本へ移ったシルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田の作品が展示されていました。


ジョナス・メカス 展示風景

まずリトアニアのジョナス・メカスが手掛けたのは、家族や友人たちを映した「日記映画」と呼ばれる作品で、会場では映像と撮影したフィルムをプリントした「静止した映画フィルム」が並んでいました。



メカスは反ナチス運動により強制収容所に収監されると、戦後はニューヨークへと亡命し、職を点々とするなど貧しい生活を送りました。



そうした中、借金をして「ボレックス」というゼンマイ仕掛けの映画用カメラを購入すると、身の回りの日常の光景を撮りはじめました。メカスの映画にはシナリオも俳優も登場せず、ただ日頃の暮らしのみが捉えられていて、そこには手振れや不自然な光の明滅なども有り体に記録されました。


スビニェク・セカル「十字架」 制作年不詳 個人蔵

メカスと同じく、反ナチス運動に加わっていたのが、チェコスロバキアのスビニェク・セカルでした。収容所から解放されたセカルは戦後、装丁などを仕事としつつ彫刻を制作していて、60歳を過ぎてからは箱状の作品を作るようになりました。


スビニェク・セカル「球体と日本の矢のある箱」 1989〜92年 個人蔵

それはあたかも監獄を連想させるような形をしていて、セカルの収容所での死にまつわる記憶を思わせました。


シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田「花の咲く野」 1960年代 神奈川県立近代美術館

このセカルの彫刻とともに展示されたのは、敬虔なクリスチャンでもあったシルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田の作品でした。


シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田「シエナの聖カタリナ像とその生涯の浮彫り」(部分) 1980〜84年 聖カタリナ大学

ローマで美術を学んだ彼女は、パリで日本人の青年と結婚した後、日本へ拠点を移すと育児に専念し、表立った制作をすることはありませんでした。よって完成したものは、教会から依頼されたブロンズ像や油彩画などの僅かな作品に限られました。


シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田「樹下に遊ぶ幼児イエスと聖母(シートNo.73)」 1970年代 神奈川県立近代美術館

しかし家族が寝静まった夜半、まな板や広告のチラシといった身近な素材を用い、レリーフやコラージュを制作していて、亡くなった後に夫が整理して今に残されました。それらの作品にはキリスト教の主題が目立っていて、信仰と制作を等しく捉えた彼女の生き様がにじみ出ているようにも思えました。


増山たづ子 展示風景

展示室を埋め尽くさんとばかりに連なる写真も印象に深いのではないでしょうか。これらは自らの故郷であり、ダム建設のために水没が決まった村を捉えた増山たづ子の写真で、村の記憶の全てを残すべく、人々から祭りや自然の風景までを撮影しました。



60歳を過ぎてから撮影をはじめた増山は、88歳にて亡くなるまで実に10万カット、600冊ものアルバムが残しました。



増山は第二次世界大戦に従軍して、おそらく戦死した夫がもし帰還した時に、故郷が水没していたというのはあまりにも忍びないと考え、撮影を思い立ったとしています。その膨大なる写真を目にすると、増山の故郷、そして夫への愛までが感じられるかのようでした。


東勝吉「湯布院 馬車 六所様から」 1999年 由布院アートストック

83歳を過ぎてから絵筆をとり、故郷をはじめとした自然の風景を描き続けた東勝吉の絵画にも胸を打たれました。


東勝吉「由布院の春」 1998年 由布院アートストック

大分県の日田にて林業を営んでいた東は、78歳にて老人ホームに入所すると、園長から水彩絵の具を贈られたことを契機に、由布岳などの風景を描くようになりました。それまでの東には美術を嗜む習慣はなく、全てが独学でもありました。


東勝吉「高千穂の二上山」 1995年 由布院アートストック

雄大な自然や桜や紅葉を色彩鮮やかに描いた風景画には、東が長く自然とともに暮らした経験が垣間見えるとともに、いわば自然賛歌というべきメッセージが込められているようにも思えました。また水彩でありながら、千切り絵のような味わいがあるのも魅力的かもしれません。

5名とも表現の方法や境遇もさまざまではありますが、作ることを通して、生きることへの強い意志が感じられるのではないでしょうか。必ずしも世によく知られた芸術家ではなく、私自身もはじめて接する作品ばかりでしたが、想像以上に心を惹かれるものを感じました。


ちょうど今日、9月18日からはじまった「ゴッホ展─響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」のチケット(半券可)を提示すると割引で入場できます。



10月9日まで開催されています。おすすめしたいと思います。

「Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:2021年7月22日(木・祝)~10月9日(土)
時間:9:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日、9月21日(火)。ただし9月20日(月・祝)は開室。
料金:一般800円、65歳以上500円。学生以下無料。
 *特別展「イサム・ノグチ 発見の道」、及び「ゴッホ展─響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」のチケット(半券可)にて300円引。
 *10月1日(金)は「都民の日」により無料
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「ルール?展」 21_21 DESIGN SIGHT

21_21 DESIGN SIGHT
「ルール?展」
2021/7/2〜11/28



法律や交通インフラ、公的サービスをはじめ、契約や合意、家族や個人の習慣などのルールを、デザインによってかたちづけようとする展覧会が、21_21 DESIGN SIGHTにて開催されています。

それが「ルール?展」で、法律家の水野祐、コグニティブデザイナーの菅俊一、キュレーターの田中みゆきの3名がディレクターを担い、インスタレーションをはじめとした多様な作品が展示されていました。

いわばルールを学び、あり方を問い直すべく、観客とともに考える参加型の作品が多いのも特徴といえるかもしれません。

そのうち特に目立っていたのが、ダニエル・ヴェッツェル(リミニ・プロトコル)+田中みゆき+小林恵吾(K2LAB)×植村遥+萩原俊矢×N Sketch Inc.による『あなたでなければ、誰が?』で、最大14名が当時に体験できる10分間の映像を用いたインスタレーションでした。


ダニエル・ヴェッツェル(リミニ・プロトコル)+田中みゆき+小林恵吾(NoRA) × 植村 遥 萩原俊矢 × N sketch Inc. 「あなたでなければ、誰が?」(2021年)

ここでは民主主義、人新世、経済、超越、平等の5つのテーマから、「常に正しいことをしてきた?」や「安心して意見を言える場所がある?」などの質問が投げかけられていて、観客は床の「はい」と「いいえ」を選んで答えることができました。そして回答は集計し、データ化される上、過去の回答と比べられていて、他者や集団との違いなどを確認することができました。


一般社団法人コード・フォー・ジャパン「のびしろ、おもしろっ。シビックテック」

一般社団法人コード・フォー・ジャパンの「のびしろ、おもしろっ。シビックテック」もタブレットやなどにアイデアを入力し、ルールの決定プロセスに参加できる作品で、「インターネットを使うためのルールはあるべき?」や「履歴書にテンプレートは必要?」などのテーマが設定されていました。ぞれぞれのテーマは投票期間が決まっていて、集計後に結果が展示されるように作られていました。


展示室内にて自由に使える箱

展示室内に置かれた木の箱も持ち運びが可能で、「建物の外に持ち出さない」や「次に使う人がいない場合は元の場所に戻す」などの一定のルールの元であれば、来場者が自由に使うことができました。


「会場ルール変更履歴」

また会場では「会場ルール変更履歴」として、来場者の行動によって新たに付け加えられたルールが明示されていて、理由までも細かに記されていました。そのほとんどが手を触れないや会話を控えるなど、何かを禁止、あるいは規制するルールであるのも興味深いかもしれません。


葛宇路「葛宇路」 *標識のレプリカ 

私が一連の展示で特に面白く感じたのは、中国のアーティスト、葛宇路(グゥ・ユルー)の作品でした。中国語で道を意味する「路」の名を持つ葛は、北京市内の無名の道路に自身の名を記した標識を設置しました。


葛宇路「葛宇路」(2017年) 

すると地図サービスに登録されたり、宅配などで利用され、違反切符に取り入れられるなど数年間も放置されました。結果的に当局によって撤去されましたが、命名や所有といったルールのあり方に一石を投じる試みともいえるのではないでしょうか。


丹羽良徳「自分の所有物を街で購入する」2011年

この他では丹羽良徳の「自分の所有物を街で購入する」や遠藤麻衣の「アイ・アム・ノット・フェミニスト!」なども、経済や売買、それに婚姻制度といったシステムに再考を促す作品だったかもしれません。


石川将也+nomena+中路景暁「四角が行く」

ルールの扱う範囲は多岐に渡る上、各作家の取り組みも多様で、想像以上にバリエーションに豊かな展示という印象を受けました。


「群れを生むルール」 企画構成:菅俊一、平瀬謙太朗、木村優作

8月14日から事前予約制が導入されました。現在、会期も中盤を迎え、土日を中心に予約が埋まる傾向にあります。実際、私も平日の夕方に見てきましたが、場内は特に若い方を中心にして賑わっていました。お出かけの際は予約サイトで空き状況をご確認ください。


11月28日まで開催されています。

「ルール?展」 21_21 DESIGN SIGHT@2121DESIGNSIGHT
会期:2021年7月2日(金)〜11月28日(日)
休館:火曜日。但し11月23日は開館。
時間:11:00~17:00(平日)、11:00〜18:00(土日祝)
 *入場は閉場の30分前まで。
料金:一般1200円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
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「加藤翼 縄張りと島」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
「加藤翼 縄張りと島」
2021/7/17~9/20



東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「加藤翼 縄張りと島」を見てきました。

1984年生まれのアーティスト加藤翼は、複数の参加者による協働作業によるパフォーマンスで知られ、これまでにも国内外にて数々のプロジェクトを展開してきました。

その加藤の美術館として初の個展が「縄張りと島」で、過去に手掛けたプロジェクトを映像や写真、さらには構造体などで紹介していました。



冒頭からただならぬ会場の雰囲気に圧倒されるかもしれません。暗がりの展示室内にてまず姿を表すのが巨大でかつ傾いた木の構造物で、その前のモニターには「ISEYA Calling」が映されていました。


「ISEYA Calling」 2012年

これは2012年、吉祥寺の老舗焼き鳥店「いせや公園店」が改築のために解体された際、木材を井の頭公園へ運び、二階建ての店舗を復元しようとしたもので、映像には参加者が力を合わせて構造を組み上げる様子が捉えられていました。


「Superstring Secrets: Hong Kong」 2020年

箱型のスクリーンに映された「Superstring Secrets: Hong Kong」は、香港の人々に秘密を書いてもらうプロジェクトで、アーティストや哲学者、学生たちの協力の元、地下のトンネルにて行われました。そしてこのボックスからは秘密を書いた紙をによって作られたロープが伸びていて、半ば映像から飛び出してきたような姿を見せていました。また紙、つまり秘密はシュレッダーで細かく裁断されていました。


「The Lighthouses -11.3 PROJECT」 2011年

加藤の作品でよく知られるのは、東日本大震災後の福島県いわき市にて行われた「The Lighthouses -11.3 PROJECT」ではないでしょうか。ここでは津波で壊された家々の瓦礫により灯台の形に組み上げられた構造体を、500人の人々ともに引き起こしていて、家を失った家主より大量の木材の提供を受けて実現しました。当時の加藤は現地で瓦礫撤去のボランティアに参加していました。



このように現地の人々が集い、様々な知恵を出し合いながら、ロープと人力のみで巨大な構造体を倒したり、引き起こす「Pull and Raise」が加藤の代表的なシリーズで、福島ではこのプロジェクトが契機となり、震災からの復興を目指す祭事の開催へと発展しました。

こうした一連の大型の構造物が目立つ反面、一転して小さな素材を用いて作品を制作しているのも面白いかもしれません。


「Can You Hear Me?」 2015年

例えば「Can You Hear Me?」は携帯電話サイズの液晶画面を4つ並べた作品で、画面の中に映された人はひたすら手前へ向かって小石を投げていました。これはシアトル、ボストン、クアラルンプール、メキシコシティの路上にて同時多発的に行われたパフォーマンスで、集まったアーティストらは電話で話し合いながら姿の見えない相手に向かって石を投げました。


「第十八回オリンピック東京大会」 2021年

さらに代名詞といえる引き起こしをミニチュアで表現した作品も展示されていて、大小へと切り替わる様々なスケール感も魅力的に思えました。



会場には各プロジェクトに参加した人たちの「セーノ!セーノ!」や「go!go!」といった掛け声とともに、構造体を引き起こしたり倒す「ドッカン、バッタン」といった音が轟いていて、あたかも一緒にプロジェクトに加わっているような錯覚さえ与えられました。この一体感、ないしライブ感も加藤の作品の醍醐味なのかもしれません。



予約は不要です。撮影もできました。


9月20日まで開催されています。

「加藤翼 縄張りと島」 東京オペラシティアートギャラリー@TOC_ArtGallery
会期:2021年7月17日(土)~9月20日(木)
休館:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)。
時間:11:00~19:00 
 *入場は閉館30分前まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生800(600)円、中学生以下無料。
 *同時開催中の「収蔵品展071 夏の風景:寺田コレクションの日本画」と「project N 83 衣川明子」の入場料を含む。
 *( )内は各種割引料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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「紀伊国屋三谷家コレクション 浮世絵をうる・つくる・みる」 日比谷図書文化館

千代田区立日比谷図書文化館
「紀伊国屋三谷家コレクション 浮世絵をうる・つくる・みる」
2021/7/17~9/19



千代田区立日比谷図書文化館で開催中の「紀伊国屋三谷家コレクション 浮世絵をうる・つくる・みる」を見てきました。

江戸時代に神田へ金物問屋として創業した三谷家では、8代目当主・長三郎が浮世絵師のパトロンとなって作品を蒐集し、今に至るまで貴重な浮世絵コレクションが残されました。



その三谷家コレクションにて構成されたのが「浮世絵をうる・つくる・みる」で、錦絵はもとより、画稿や資料など約140点(展示替えあり)が公開されていました。



今回の浮世絵展の大きな特徴は、タイトルに記されたように「うる」、「つくる」、「みる」の3つのキーワードから作品を紹介していることで、「うる」では江戸時代の浮世絵ショップである絵草紙屋が再現されていました。



絵草紙屋とは現代の本屋に相当するもので、店頭には絵入りの草双紙などとともに、錦絵が並べられていました。錦絵は軽くて持ち運びが便利であることから人気を博し、江戸の人々のみならず、江戸を訪ねた旅人などにも買い求められました。


渓斎英泉「地本問屋・山本屋平吉の店先」 天保10(1839)年

江戸後期にして1枚20文、現在の価格にして500円程度だったそうです。寛政年間に江戸の芝にあった地本問屋を描いた図や、明治期に残った絵草紙屋の写真パネルなども、当時の浮世絵販売の様子を知るための貴重な資料かもしれません。


三代豊国「四季遊観之内 弥生の汐干狩(校合摺)」 弘化4〜嘉永元(1847〜48)年

続く「つくる」では、浮世絵制作の工程が彫りと摺りの作業で使われる道具などと紹介されていて、三谷家に残された画稿や校合摺なども展示されていました。


三代歌川豊国「役者見立里見八犬伝 里見二郎大輔義実 杉倉木曽介氏元(版下絵)」 安政期(1854〜60)

欄外に三代豊国から三谷家の長三郎と彫師に宛てた書込みも興味深いのではないでしょうか。そこには長三郎に彫師を依頼したり、人物の描写に際して筋を細くするなどの指示が書かれていて、絵師とパトロン、それに彫師の間における生々しいやりとりを知ることができました。

なお長三郎は版元の恵比寿屋庄七や、歌川派の絵師と深く交流していて、その結果、三代豊国や兄弟弟子の国芳らの描いた画稿や版下絵が残されました。


右:歌川国芳「坂田怪童丸」 天保7(1836)年頃

ラストの「みる」では、歌舞伎の役者を描いた役者絵をはじめ、美人画や名所絵などの優品が数多く展示されていて、とりわけ役者絵と和漢の英雄豪傑らを題材にした武者絵が充実していました。


右:歌川国芳「和田合戦義秀惣門押破」 嘉永6(1853)年

歌川国芳の「和田合戦義秀惣門押破」は鎌倉時代の御家人、朝比奈義秀が和田合戦で奮闘する場面を描いた作品で、義秀は中央にて門の柱を掴みながら敵陣へと攻め入っていました。ともかく劇的でかつ躍動感のある構図が魅力で、もはやアクロバティックといえるような動きを見せていました。


月岡芳年「藤原保昌月下弄笛図」 明治16(1883)年

国芳、芳艶、芳虎、そして芳年などが展示のハイライトと言えるかもしれません。静けさに包まれながらも、張り詰めた緊張感の漂う芳年の「藤原保昌月下弄笛図」に魅せられました。


左:歌川芳藤「志ん板子供遊うんどおづくし」 明治7(1874)年

この他、子ども向けに体操や運動の動きを図解した尽くし絵といった、明治時代の教育的な錦絵にも目を引かれました。



「浮世絵摺り体験コーナー」も面白いのではないでしょうか。ここでは浮世絵の摺りの工程をインクやバレンなどを用いて体験することができて、完成したシートを記念に持ち帰ることもできました。



8月17日を挟んで作品の入れ替えが行われました。それ以降の展示替えはありません。(本エントリの作品は前期展示のものです。)


会場内の撮影も可能でした。9月19日まで開催されています。*一番上の作品は、三代歌川豊国「鍾馗図」 江戸時代後期

「紀伊国屋三谷家コレクション 浮世絵をうる・つくる・みる」 千代田区立日比谷図書文化館 1階 特別展示室(@HibiyaConcierge
会期:2021年7月17日(土)~9月19日(日)
 *前期:7月17日(土)~8月15日(日)、 後期:8月18日(水)~9月19日(日)
休館: 7月19日(月)、8月16日(月)、8月17日(火)
時間:10:00~19:00(月~木、土曜)、10:00~20:00(金曜)、10:00~17:00(日祝)。
 *入室は閉室の30分前まで
料金:一般300円、大学・高校生200円、中学生以下無料。
住所:千代田区日比谷公園1-4
交通:東京メトロ丸の内線・日比谷線霞ヶ関駅B2出口より徒歩約3分。東京メトロ 千代田線霞ヶ関駅C4出口より徒歩約3分。都営三田線内幸町駅A7出口より徒歩約3分。
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「中村萌 our whereabouts - 私たちの行方 -」 ポーラ ミュージアム アネックス

ポーラ ミュージアム アネックス
「中村萌 our whereabouts - 私たちの行方 -」
2021/9/3~10/10



ポーラ ミュージアム アネックスで開催中の「中村萌 our whereabouts - 私たちの行方 -」を見てきました。

1988年に東京で生まれた中村萌は、丸太を削り出しては油絵具で着彩した彫刻を手がけ、台湾のアートフェアで人気を集めるなど、海外でも注目されてきました。

その中村の新旧作で構成されたのが「our whereabouts - 私たちの行方 -」で、会場には主に楠を素材とした木彫や平面の作品、計24点が展示されていました。



それらはいずれも植物、とりわけ樹木や雲をまとった子どものような姿をしていて、あたかも森の中に住む小さな妖精のようでした。



丸々とした顔の頬は薄いピンク色に染まっていて、目を虚に開けている一方、静かに眠るように伏していました。まるで夢見心地のような表情もかわいらしいのではないでしょうか。



細目を開けながらも、すぐ前を見るのではなく、遥か遠くを眺めるような視線も興味深く思えました。またぷっくらと膨らんだ口は時に微かに開いていて、小さな声で何かを祈りを唱えているようにも見えました。



私が特に心を引かれたのは表面の多様な質感表現で、丸みを帯びて滑らかな部分と、一転しての荒々しく削り取られたような箇所からはともに木の温もりが感じられました。



塗り残しの木目を活かした油絵具による鮮やかな彩色も魅力といえるかもしれません。会場内には木そのものの香りが満ちていて、さながら森の奥深くへ迷い込むかのようでした。



「わたしのようで、わたしではなく、だれかのようで、だれでもない。そんな曖昧な存在を探るようにして、つくりつづけています。」 中村萌 *ポーラ ミュージアム アネックスのWEBサイトより


なお本展とあわせ、ポーラ ミュージアム アネックスにほど近い京橋のギャラリー椿でも「inside us」と題した個展を開催中です。

「中村萌 inside us」ギャラリー椿
会期:2021年9月3日(金)〜9月25日(土) *日・月・祝 休廊
時間:12:00〜18:00
http://www.gallery-tsubaki.net/tsubaki.html

予約は不要、撮影も可能です。10月10日まで開催されています。

「中村萌 our whereabouts - 私たちの行方 -」 ポーラ ミュージアム アネックス@POLA_ANNEX
会期:2021年9月3日(金)~10月10日(日)
休館:会期中無休。
料金:無料
時間:11:00~19:00 *入場は18:30まで 
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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「写真芸術展 CHIBA FOTO」(後編) コミュニティセンター店舗跡地、千葉公園、千葉市美術館、千葉そごう

千葉市内13会場
「写真芸術展 CHIBA FOTO」
2021/8/21~9/12



「写真芸術展 CHIBA FOTO」(前編)に続きます。千葉市内13会場にて開催中の「写真芸術展 CHIBA FOTO」@sennoha_art_fes)を見てきました。

稲毛区内の2会場とコミュニティセンター松波分室の展示を見た後は、中央区エリアで最も海側にある千葉市役所向かいの千葉市中央コミュニティセンターを目指すことにしました。

鉄道を使うルートであれば、松波分室の近くの西千葉駅から千葉駅を経由し、モノレールを使って市役所前へ向かうのが一般的ですが、この日は天候も良かったために西千葉駅前のレンタサイクルを利用することにしました。ちょうど返却ポートも市役所前に設置されていました。

千葉市中央コミュニティセンターは、体育館や温水プール、それに集会室などからなる複合公共施設で、モノレールの市役所前駅と直結していました。



そのうち「CHIBA FOTO」の会場は同ビルの2階にあるスペースで、かつて喫茶店として利用されていて店舗の跡地でした。



ここでは写真家で小説家としても活動する清水裕貴が「コールドスリープ」と題した展示を行なっていて、写真のみならず、時計やグラス、さらに花などを用いたインスタレーションを展開していました。



古びた照明や薄汚れたカーペット、それに使い古された椅子などは、喫茶店当時の店内の光景を生々しく伝えるかのようで、風景や食事などの写真のモチーフとも響き合っていました。



この「コールドスリープ」は、今回、清水が書き下ろしの小説として発表していて、会場でもリーフレットとして配布されていました。物語は千葉の地理や歴史を踏まえつつ、世代を超えた男女の不思議な邂逅を綴っていて、幻想的な雰囲気に満ちていました。それらは写真のイメージにも反映されていたのではないでしょうか。



コミュニティセンターを出て市役所前駅へと歩き、今度はモノレールに乗って次の目的地である千葉公園へ向かいました。千葉公園では園内の2ヶ所の施設にて展示が行われていました。



まずボートの浮かぶ池に面した休憩スペースの蓮華亭では、吉田志穂が加曽利貝塚をきっかけに縄文文化からインスピレーションを受けたという写真を公開していました。



それらの中には地層や炎、また洞窟や岩石など、さながら太古の記憶が蘇るようなモチーフが写されていて、鏡面が仕込まれた造作壁においても際立って見えました。



続く茶室の好日亭では、新井卓が数百点のダゲレオタイプを長く組み合わせた「汀にて」を展示していました。



ダゲレオタイプとは、銀メッキした銅板などへ像を定着させる写真黎明期に誕生した技法で、新井は一枚一枚のダゲレオタイプへ2010年から2021年の11年間の間に東日本沿岸の風景を写しました。



そしてランダムに抽出されたダゲレオタイプが、全体として1つの風景に繋がるように構成されていて、千葉を含んだ被災地などの様子も垣間見えました。異なった場所や時間が同時に連なる写真絵巻と呼んで良いのかもしれません。



一連の千葉公園の展示を見た後は、千葉市美術館へと向かうことにしました。同館では4名の作家が展示を行なっていて、「CHIBA FOTO」の事実上のメイン会場でもありました。



千葉公園から千葉市美術館へは道なりで1.5キロほどありますが、ここは公園の近くのコンビニでレンタサイクルを借ることにしました。公園からは美術館へは一本道で、約10分ほどでたどり着くことができました。



千葉市美術館の1階さや堂ホールでは、「CHIBA FOTO」の会場の特徴である鏡の壁を用いたスペースが作られていて、蔵真墨と佐藤信太郎が展示を行っていました。



まず蔵真墨は「千の葉のひとびと」にて、千葉市内にて撮り下ろした多くの人々のポートレイトなどを公開していて、いずれも正方形のモノクロにて写し出していました。



それらは市内の何気ない光景や日常であるものの、中にはマスクをしてポーズをとったりする人がいるなど、いわゆるコロナ禍の現在の状況が切り取られていました。実際に2020年から今年にかけて撮影されました。



もう1人の作家である佐藤信太郎は、東京湾岸の埋立地の地表を写した「Geography」と、境界をテーマに千葉市内で撮影された「Boundaries」を展示していて、縦と横、つまり壁と床面にて垂直に行き来するように並べていました。



さや堂の中に新たに築かれたコの字型のスペースは、鏡の効果によって作品が複数に増えていくかのようで、鑑賞者の姿までも取り込んでいました。



続く美術館の9階市民ギャラリーでは、千葉の街や学校を被写体とした本城直季の「地域と学校」が行われていました。



そこには千葉駅やマリンスタジアム、または千葉県立美術館といった千葉市内の景観をはじめ、市内の学校の運動会の様子などが空から写されていて、まるでミニチュアのジオラマを目にするかのようでした。



こうした一連の写真以外には小学校でのコマ撮りを繋げた映像も上映されていて、本城の新たな制作を見ることができました。



それにギャラリーの中へ4つの建物のような部屋が連なる空間も面白いのではないでしょうか。



11階の講堂では、千葉県内に在住し、三里塚や船橋を写した作品で知られる北井一夫が「写真集の裏側」と題した展示を行っていました。



「写真集」とあるように多くの写真集が吊り下げられた空間には、ヴィンテージ・プリントをはじめ、ポスターやカメラ雑誌などの印刷物が公開されていて、北井の永井キャリアを時間を追って見ることができました。



北井は2020年、最初のデジタル写真をまとめた写真集「道」を、かつて自らが立ち上げた「のら社」を復活させて自費出版していて、最新作の「街路樹 千葉市」は、「道」において新たにデジタルで撮影された作品でした。



そもそも出展作品からして「CHIBA FOTO」で最も多く、充実した回顧展と言って良いかもしれません。見応えは十分でした。



宇佐美雅浩の「宇佐美正夫 千葉 2021」の会場は、千葉駅前の千葉そごうの9階「滝の広場」で、吹き抜けのスペースに半透明の布の壁によるギャラリーが築かれていました。



その中では製鉄所を背景とした1枚の大きな写真が公開されていて、大勢の作業服を着た人々ともに、クレーンやかつて千葉を走っていた鉄道などが写されていました。



これは旧川崎製鉄株式会社の元社員であった父の正夫を経験を元に制作されたもので、よく見ると過去と現在の鉄工所の制服を着た人たちが左右に分かれて並んでいました。そして場違いな食卓を囲む人々や写真を撮る人がいたり、突如闖入したかのような鉄道車両などから、合成のように見えてしまいましたが、驚くことにセットを組んで撮られた実写でした。



またそごう千葉店では、中央コミュニティセンターでも展示を行なっていた清水裕貴が、海側南エレベーターにおいてテキストと写真を出展していました。コミュニティセンターと同様の「コールドスリープ」と題する作品で、そもそもタイトルはエレベーターの形状から連想されたそうです。

この日は昼過ぎから稲毛に入りましたが、結果的に移動を含め、全ての展示を見るには半日ほどかかりました。各会場への移動方法は様々ですが、私として2度利用したレンタサイクルが大変便利に感じました。千葉市内はハローサイクリングが多くのポートを設置していて、ポート間であれば自由に行き来することができます。(有料)



別荘や喫茶店跡、それに美術館やデパートなど多様な会場も魅力でしたが、鏡の壁などを設置した展示デザインも大変に面白く思えました。ここは千葉市稲毛区出身で、「千の葉の芸術祭」のアートディレクターを務めたおおうちおさむによる力が大きいのかもしれません。

現在、千葉市内では千葉市美術館にて「前川千帆展」が行われているほか、千葉県立美術館ではイラストレーターユニットの100%ORANGEによる展覧会「オレンジ・ジュース」が開催されています。ともに一日かけて「CHIBA FOTO」とあわせて見て歩くのも楽しいかもしれません。


各会場の観覧は無料ですが、休場日や閉場時間が異なる場合があります。お出かけの際はご注意ください。

9月12日まで開催されています。おすすめします。

「CHIBA FOTO 清水裕貴『コールドスリープ』 千葉市中央コミュニティセンター2階 店舗跡地
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:会期中無休
時間:9:00~17:00
料金:無料
住所:千葉市中央区千葉港2-1
交通:千葉都市モノレール市役所前駅徒歩1分。

「CHIBA FOTO 吉田志穂『空白と考古学』、新井卓『汀にて』」 千葉公園(蓮華亭、好日亭)
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:会期中無休
時間:9:00~17:00
料金:無料
住所:千葉市中央区弁天3-1-1
交通:千葉都市モノレール千葉公園駅より徒歩1分。

「CHIBA FOTO 蔵真墨『千の葉のひとびと』、佐藤信太郎『Geography/Boundaries』、本城直季『地域と学校』、北井一夫『写真集の裏側』」 千葉市美術館(さや堂ホール・市民ギャラリー・講堂)
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:9月6日
時間:10:00~18:00
料金:無料
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレール葭川公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。

「CHIBA FOTO 宇佐美雅浩『宇佐美正夫 千葉 2021』」 そごう千葉店9階 滝の広場
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~19:00 *9月12日は17時まで
料金:無料
住所:千葉市中央区新町1000番地
交通:JR線・千葉都市モノレール千葉駅より徒歩5分。京成線京成千葉駅より徒歩1分。
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「写真芸術展 CHIBA FOTO」(前編) 旧神谷伝兵衛稲毛別荘、千葉市ゆかりの家・いなげ、千葉市中央コミュニティセンター松波分室

千葉市内13会場
「写真芸術展 CHIBA FOTO」
2021/8/21~9/12



12名の作家による写真芸術展「CHIBA FOTO」@sennoha_art_fes)が、千葉市内の13の会場にて開かれています。

会場は旧神谷伝兵衛稲毛別荘や千葉公園、それに千葉市美術館などで、おおむね稲毛区と中央区エリアに分かれていました。

回遊型の展示だけに順路はありませんが、まず私は市内西部の稲毛区にある旧神谷伝兵衛稲毛別荘と千葉市ゆかりの家・いなげを目指すことにしました。



京成千葉線の京成稲毛駅を下車し、黒松が立ち並ぶ稲毛公園を抜けると姿を見せるのが旧神谷伝兵衛稲毛別荘でした。これは大正7年に、神谷バーや牛久シャトーの創設者として知られる神谷伝兵衛が建てた別荘で、ロマネスク様式のアーチを特徴としたコンクリート造りの地上2階、地下1階の建物でした。



1階にはベランダと洋間、2階は和室や床間があり、葡萄のレリーフや透彫などのワインに因んだ室内意匠も残されていて、現在は国の登録有形文化財に指定されています。



その旧別荘にて行われているのが、金川晋吾の『他人の記憶』と横湯久美の『時間 家の中で 家の外で』でした。



金川は1階の洋間と地下のワインセラー跡の空間を用い、古写真やポートレイトなどを展示していて、いずれも別荘の過去を探る中で出会った女性、花光志津の写真や日記を素材としていました。そのうち古写真には稲毛の海や黒松なども写り込んでいて、別荘地の面影を今に知ることができました。



ワインセラー跡の地下を用いたポートレイトも迫力があったかもしれません。コンクリートの柱と梁が剥き出しとなった空間には9つの小部屋が築かれていて、現在の稲毛における複数の「わたし」が写し出されていました。



地下と地上にて新旧の稲毛が交差しているような印象を与えられるのではないでしょうか。



続く2階の和室では、横山が祖母の死に向かい合う中で生まれたという写真を展示していて、どこか悲哀を感じさせるプライベートな空間が築かれていました。



ここで面白いのは1面が鏡となった壁が築かれていることで、室内の装飾や畳、窓の外の景色などが写り込んでいました。また時には鑑賞者の姿も写し出されるため、作品の中へ入りこむような錯覚に囚われるかもしれません。



旧神谷伝兵衛稲毛別荘に隣接する千葉市民ギャラリー・いなげでは、「海の記憶を伝える稲毛アーカイブ展」が行われていて、明治や大正時代から昭和60年代と至る稲毛の歴史を伝える写真や資料が数多く展示されていました。



今でこそ別荘とギャラリーの向こうにもマンションが立ち並んでいますが、かつての稲毛は海辺の保養地として栄えていて、多くの小説家や文化人が集っていました。病気療養や健康増進を目的とした千葉県初の海水浴場も稲毛の地に開設されました。



一通り稲毛別荘と市民ギャラリーの展示を見た後は、稲毛区エリアのもう1つの会場である千葉市ゆかりの家・いなげへ向かいました。



千葉市ゆかりの家・いなげとは、かつて海岸線だった地にあった別荘で、昭和12年には清朝最後の皇帝の溥儀の弟、愛新覚羅溥傑と妻の浩が新婚時代に半年ほど生活を送りました。先ほどの旧神谷伝兵衛別荘とは近く、歩いてせいぜい5~6分ほどでした。



この旧宅にて展示を行うのは、水中から眺めた写真で知られる楢橋朝子で、稲毛や千葉みなと、それに検見川といった千葉市内の海と風景をモチーフとしていました。



いずれも中庭に面したスペースに展示された写真は、戸外の明かりを受けて光るだけでなく、外の緑も写し込んでいて、千葉の海と目の前の景色が互いに重なって見えるかのようでした。

またここでも鏡の板を用いて作品を演出していて、銀色の表面へ写真の海が反射していました。眩い光景ではないではないでしょうか。


旧神谷伝兵衛稲毛別荘と千葉市ゆかりの家・いなげの展示を見た後は、京成稲毛駅へと戻り、京成線に乗って西登戸駅へと移動しました。



そして西登戸駅から総武線の高架を潜り、中央区エリアで最も西に位置する千葉市中央コミュニティセンター松波分室へと歩いて向かいました。



千葉市中央コミュニティセンター松波分室とは、長く地元に住んでいた人が残した和風の邸宅で、千葉市に遺贈されては市民のサークル活動の場として利用されてきました。コミュニティセンターとあるため公民館のような施設を想像していましたが、意外にも大変に趣きの深い家屋でした。



ここでは2017年に千葉県へ移住した写真家の川内倫子が展示を行なっていて、出産と子育てをする中で巡り合ったという千葉での生活を捉えた写真や映像を公開していました。



それらは子どもであったり、身近な自然、それにツバメなどをモチーフとしていて、幾つもの廊下を経て連なった小さな部屋に散りばめられるように展示されていました。



エントランスから連なる廊下に設置された鏡のような壁などの空間構成も面白いのではないでしょうか。明るい部屋と暗い部屋に展開する写真を追っていくと、川内が千葉の地で子どもと育んだ物語を読むかのようでした。



「写真芸術展 CHIBA FOTO」(後編)に続きます。

「CHIBA FOTO 金川晋吾『他人の記憶』、横湯久美『時間 家の中で 家の外で』」 旧神谷伝兵衛稲毛別荘
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:8月23日、8月30日、9月6日
時間:9:00~17:15
料金:無料
住所:千葉市稲毛区稲毛1-8-35
交通:京成線京成稲毛駅より徒歩7分。

「CHIBA FOTO 楢橋朝子『SEA SIDE LINE』」 千葉市ゆかりの家・いなげ
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:8月23日、8月30日、9月6日
時間:9:00~16:30
料金:無料
住所:千葉市稲毛区稲毛1-16-12
交通:京成線京成稲毛駅より徒歩7分。

「CHIBA FOTO 川内倫子『AS IT IS』」 千葉市中央コミュニティセンター松波分室
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:8月30日
時間:9:00~17:00
料金:無料
住所:千葉市中央区松波2-14-8
交通:京成線京成稲毛駅より徒歩7分。
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2021年9月に見たい展覧会【川端龍子 vs. 高橋龍太郎コレクション/杉浦非水/美男におわす】

関東では先月末の猛暑と一転して涼しい日が続く中、東京2020パラリンピック競技大会も終盤に入り、9月5日の閉幕を迎えようとしています。


酒井抱一「四季花鳥図巻 巻下」(部分)*東京国立博物館本館8室にて10月3日まで公開中

新型コロナウイルス感染症拡大に伴って、首都圏においても新たに横須賀美術館が8月末から臨時休館となりました。また茨城県では「ピピロッティ・リスト」展を控えた水戸芸術館も休館を余儀なくされています。現在のところ同展が開幕するのは9月14日の予定です。

先行きについては予断を許しませんが、当初のスケジュール通り開館するとして、9月に見たい展覧会をリストアップしました。

【展覧会】

・「サーリネンとフィンランドの美しい建築展」 パナソニック汐留美術館(7/3~9/20)
・「大江戸の華―武家の儀礼と商家の祭―」 江戸東京博物館(7/10~9/20)
・「かこさとし展ーこどもはみらいにいきるひとー」 市川市文学ミュージアム(7/17~9/20)
・「川瀬巴水―版画で旅する日本の風景―」 大田区立郷土博物館(7/17~9/20)
・「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」 森美術館(4/22~9/26)
・「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ」 東京ステーションギャラリー(7/17~9/26)
・「THE北斎―冨嶽三十六景と幻の絵巻―」 すみだ北斎美術館(7/20~9/26)
・「コレクションViewpoint クリストとジャンヌ゠クロード―包む、覆う、積み上げる」 DIC川村記念美術館(7/3~10/03)
・「日本のパッケージ 縄文と弥生のデザイン遺伝子–複雑とシンプル」 印刷博物館(8/7~10/3)
・「KAAT EXHIBITION 2021 志村信裕展|游動」 KAAT神奈川芸術劇場(9/9~10/8)
・「山城知佳子 リフレーミング」 東京都写真美術館(8/17~10/10)
・「デミタスカップの愉しみ」 渋谷区立松濤美術館(8/24~10/10)
・「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」 そごう美術館(9/10~10/10)
・「KAWS TOKYO FIRST」 森アーツセンターギャラリー(7/16~10/11)
・「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island ―あなたの眼はわたしの島」 水戸芸術館(9/14~10/17)
・「はじめての古美術鑑賞 人をえがく」 根津美術館(9/11~10/17)
・「能 Noh~秋色モード~」 大倉集古館(8/24~10/24)
・「没後160年記念 歌川国芳」 太田記念美術館(9/4~10/24)
・「リバーシブルな未来 日本・オーストラリアの現代写真」 東京都写真美術館(8/24~10/31)
・「開館60周年記念展 刀剣 もののふの心」 サントリー美術館(9/15~10/31)
・「美男におわす」 埼玉県立近代美術館(9/23~11/3)
・「川端龍子 vs. 高橋龍太郎コレクション ―会田誠・鴻池朋子・天明屋尚・山口晃―」 大田区立龍子記念館(9/4~11/7)
・「速水御舟と吉田善彦―師弟による超絶技巧の競演―」 山種美術館(9/9~11/7)
・「杉浦非水 時代をひらくデザイン」 たばこと塩の博物館(9/11~11/14)
・「生誕110年 香月泰男展」 神奈川県立近代美術館 葉山(9/18~11/14)
・「ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス」 Bunkamuraザ・ミュージアム(9/18~11/23)
・「ピーター・シスの闇と夢」 練馬区立美術館(9/23~11/14)
・「ルール?展」 21_21 DESIGN SIGHT(7/2~11/28)
・「開館20周年記念 動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり」 府中市美術館(9/18~11/28)
・「キューガーデン 英国王室が愛した花々 シャーロット王妃とボタニカルアート」 東京都庭園美術館(9/18~11/28)
・「バンクシーって誰?展」 寺田倉庫G1ビル(8/21~12/5)
・「ゴッホ展—響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」 東京都美術館(9/18~12/12)

【ギャラリー】

・「金氏徹平:S.F.(Smoke and Fog)」 アートフロントギャラリー(9/10~10/3)
・「奥西優子写真展:unblocked」 キヤノンギャラリー(9/1~10/5)
・「中村萌 our whereabouts ―私たちの行方―」 ポーラ ミュージアム アネックス(9/3~10/10)
・「小牟田悠介 新しい天体」 SCAI THE BATHHOUSE(9/7~10/9)
・「第15回 shiseido art egg 石原海展」 資生堂ギャラリー(9/14~10/10)
・「村田沙耶香のユートピア_〝正常〟の構造と暴力」 GYRE GALLERY(8/20~10/17)
・「葛西薫展 NOSTALGIA」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(9/8~10/23)
・「The Absurd and The Sublime ギイ ブルダン展」 シャネル・ネクサス・ホール(9/8~10/24)
・「橋本晶子|I saw it, it was yours.」 ギャラリー小柳(9/11~10/30)
・「ル・パルクの色 遊びと企て ジュリオ・ル・パルク展」 銀座メゾンエルメス(8/13~11/30)

まずは同館初の現代アートとのコラボレーションです。大田区立龍子記念館にて「川端龍子 vs. 高橋龍太郎コレクション ―会田誠・鴻池朋子・天明屋尚・山口晃―」が開催されます。



「川端龍子 vs. 高橋龍太郎コレクション―会田誠・鴻池朋子・天明屋尚・山口晃―」@大田区立龍子記念館(9/4~11/7)


これは日本屈指の現代アートコレクターである高橋龍太郎のコレクションを大田区立龍子記念館にて公開するもので、会田誠、鴻池朋子、天明屋尚、山口晃などと川端龍子の作品が同時に展示されます。いわば「龍子VS現代美術」と言えるような対決展の構図になるのかもしれません。

デザインファンにも注目の展覧会となるのではないでしょうか。「杉浦非水 時代をひらくデザイン」がたばこと塩の博物館にて開かれます。


「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」 昭和2年(1927) 愛媛県美術館

「杉浦非水 時代をひらくデザイン」@たばこと塩の博物館(9/11~11/14)


愛媛県に生まれた杉浦非水は東京美術学校にて日本画を学ぶも、アール・ヌーヴォーの様式に魅せられたことで図案家として活動し、三越呉服店をはじめとした数多くの企業ポスターやパッケージデザインを手掛けました。

その非水の業績を振り返るのが今回の展覧会で、故郷の愛媛県美術館のコレクションを中心に300点もの作品や資料が公開されます。先行して開催された島根県立石見美術館での展示も評判を得ただけに、期待している方も多いかもしれません。

ラストは美人画ならぬ美男に着目した異色の展覧会です。埼玉県立近代美術館にて「美男におわす」が開かれます。



「美男におわす」@埼玉県立近代美術館(9/23~11/3)


これは日本の視覚文化において、美少年や美青年といった、人々が理想としてきた男性像を探るもので、浮世絵、日本画、彫刻のみならず、漫画や写真などの約190点の作品が公開されます。江戸から現代までを俯瞰しつつ、いわゆる美男を辿る意欲的な企画となりそうです。


杉浦非水やゴッホ、日本美術と現代アートの異色のコラボまで!9月に見たい東京都内の展覧会おすすめ5選

一部重複しますが、新WEBメディア「イロハニアート」(上記リンク先)でもおすすめの展覧会をご紹介しました。あわせてご覧いただければ幸いです。

それでは今月もよろしくお願いします。
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