「浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術」 千葉市美術館

千葉市美術館
「文人として生きるー浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術」
11/10~12/18



千葉市美術館で開催中の「文人として生きるー浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術展」を見てきました。

江戸時代の文人画家、浦上玉堂(1745〜1820)。千葉市美術館で玉堂の名を冠した展覧会が開かれるのは約10年ぶりのことです。

出品は計270点。途中に展示替えがありますが、大変なスケールです。また絵画のみならず、所縁の楽器や書簡などの資料も多数。初公開の作品も含みます。玉堂の幅広い業績を知ることが出来ました。


浦上秋琴「山水図(散歩多勝遊)」 明治3(1870)年 岡山県立美術館

さて本展、タイトルにもあるように、何も玉堂単独の回顧展ではありません。春琴、秋琴とは玉堂の子。兄弟です。春琴は中国画にも学び、後に花鳥画などで父を凌ぐほどの人気を得ます。弟の秋琴は主に音楽面で才能を発揮しましたが、晩年なって書画も嗜みました。

この父子の関係にも触れているのがポイントです。しかも春琴の作品が殊更に美しい。春琴の魅力に触れたのも大きな収穫でした。

玉堂の元々の職業は藩士です。岡山の鴨方藩、本姓は紀です。かの紀貫之にも連なる姓として誇りをもっていました。40歳の頃まで藩務に勤しみます。儒学や医学も学びました。その傍で詩作や音楽に打ち込んでいたそうです。50歳で脱藩。琴と筆を手にして、北は会津、南は長崎へと諸国漫遊の旅に出ます。この時、春琴は16歳で秋琴は10歳。ともに父の旅に同行しました。67歳から京都に居を構えます。春琴と同居して制作を続けました。

「七絃琴・琴嚢」は自作の琴です。また書にも精通。特に隷書を得意としていました。額の「心静」も見事です。文字は端麗で美しい。ほかほぼ唯一の画巻という「南山壽巻」も目を引きます。墨に朱を交えて野山を描いています。一部に藍色も混じっているのでしょうか。小さな点で畝を細かに表現していました。


浦上玉堂・秋琴「山水画帖より 浦上秋琴『山水図』」 寛政8(1796)年 個人蔵

「山水画帖」は玉堂、秋琴の合作です。玉堂は6枚を担当。秋琴は1枚を描いています。秋琴はこの時、まだ12歳です。父からも手習いを受けたのでしょう。素朴な筆触で水辺や柳を表していました。

玉堂は作品に自然の趣きをうたった4~5字ほどの詩句を記し、絵画表現に反映させていたそうです。また興味深いのは郭中画です。掛軸の画面を方形や円窓形、あるいは扇面に区切って書画を描いています。「秋色半分図」、「酔雲醒月図」、「隷體章句」、「深山渡橋図」の4幅も元は一枚の作品です。郭中画でした。叙情的な秋の景色が広がっています。


浦上春琴「名華鳥蟲図」 文政4(1821)年 岡山県立美術館

一方で子の春琴はどうでしょうか。「名華鳥蟲図」に目を奪われました。43歳の時の一枚。父を亡くして約1年後の作品です。見るも鮮やかな色彩美です。四季の花々を背景に鳥が飛び、あるいは蝶が舞っています。地面にはカマキリもいました。花は生気に満ちています。まるで楽園です。ほか長崎画に学んだという「花鳥画」をはじめ、光沢のある絹に季節の花を描いた「花卉図巻」も美しい。こうした可憐な花鳥画を前にすれば人気があったというのも納得させられます。


浦上春琴「春秋山水図屏風」(右隻) 文政4(1821)年 ミネアポリス美術館(バークコレクション)

春琴唯一の大作がアメリカのミネアポリス美術館からやって来ました。「春秋山水図屏風」です。右へ左へと連なる大パノラマ。中央には湖が広がっています。辺りを高い山脈が囲んでいました。ほぼ墨ながらも、一部に朱を加えていいる上、水の際などは青く塗っています。それゆえでしょうか。画面に透明感があります。清く明らかな光、ないし空気を感じました。


浦上春琴「蔬果蟲魚帖」 天保5(1834)年 泉屋博古館

「果蔬海客図」も面白い。魚に貝、そして野菜や果物などを写実的に描いています。魚の鱗も丸い筆遣いで描写。茄子のヘタの部分を濃くするなど、質感表現にも抜かりありません。

秋琴は70歳を過ぎてから本格的に書画を初めたこともあり、父、そして兄の作品に比べると多くはありません。まさしく三者三様です。親子はもちろん、同時代の画家との関係にも言及しています。想像以上に見応えがありました。

さて今回の展覧会で久々に強い感銘を受ける作品に出会いました。それが玉堂の「東雲篩雪図」です。川端康成の旧蔵品の国宝です。ただともかく出品会期は短い。公開は僅か6日間のみでした。実際のところ既に展示は終了しています。


国宝 浦上玉堂「東雲篩雪図」 川端康成記念会 *11/22~11/27のみ展示

極感の冬景色です。一面には粉雪が舞い、全てが凍りついています。木々は寒さに打ち震えていました。山に雪が積もり、辺りには黒い雲も迫っています。庵には人の姿も見えますが、険しい自然の恐ろしさばかりが伝わってきます。その緊張感といったら比類がありません。

何たる深淵な世界なのでしょうか。さらに墨の筆触も自在。滲まない墨を駆使しているそうですが、もはや墨自体が魂を得たかのように生動しています。図版ではまるで分かりませんでしたが、このような墨の質感を見たのは初めてでした。


重要文化財 浦上玉堂「煙霞帖のうち『青山紅林図』」 梅澤記念館

図録が重量級です。東博の日本美術の特別展クラスです。資料性も高く、永久保存版となりそうです。

12月18日まで開催されています。まずはおすすめします。

「文人として生きるー浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:11月10日(木)~12月18日(日)
休館:9月26日(月)、10月3日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *前売券は千葉都市モノレール千葉みなと駅、千葉駅、都賀駅、千城台駅の窓口、及びローソンチケット、セブンチケットで会期末日まで販売。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「柳根澤 召喚される絵画の全量」 多摩美術大学美術館

多摩美術大学美術館
「柳根澤 召喚される絵画の全量」 
9/25〜12/4



1965年に韓国に生まれた画家、柳根澤(ユグンテク)の回顧展が、多摩美術大学美術館で行われています。

チラシ表紙を飾る「Growing room」からして特異です。場所はおそらくマンションの一室。かなり広いリビングです。中央にはテーブルがあり、母子と思しき人物が食事をとっています。左の扉の奥は寝室かもしれません。ほか扇風機や時計、タンスなども部屋のあちこちに置かれています。日常と言えば日常です。一般的な生活の様子が描かれています。

しかしながら観葉植物の存在が凄まじい。場所を選びません。空間を埋めつくさんとばかりに生い茂っています。シャンデリアの吊り下がる天井にまで至っていました。もはや天地が反転したのでしょうか。家具や調度品に実在感があるのに対し、人の姿はまるで影絵です。リアリティーがありません。幻視という言葉が頭に浮かびました。独特のイリュージョンが広がっています。


柳根澤「Old Giant」 2012年

「Old Giant」も不思議な作品でした。やはり舞台は室内。床に広がるのは布団でしょうか。周囲にはピアノや家具が散乱しています。ただし布団の大きさからすれば小さい。ミニチュアかもしれません。部屋を支配するのは何と言っても象です。とてつもなく大きい。天井に背中をつけています。何故にこの部屋の中にいるのでしょうか。シュールです。現実を突き抜けています。


柳根澤「Your Everlasting Tomorrow」 2014年

奇景と呼べるかもしれません。「Your Everlasting Tomorrow」も面白い。荒々しい岩肌を背に広がるのは湖です。湖面には周囲の山や空の雲が写り込んでいます。と同時に家屋や家具などが浮いていました。ひょっとすると各々は別の空間にあるのかもしれません。異なったイメージが一つの絵画平面に落とし込まれています。


柳根澤「A Dinner」 2008年

「A Dinner」にも目が留まりました。ディナーとあるように夜の食卓でしょう。グレーの木目の床の上に大きなテーブルが一つだけ置かれています。たくさんの皿がセットされ、華やかな料理が盛られていました。何名分あるのでしょうか。ただし椅子はありません。食卓のみが光り輝き、糸のような筋が垂れてもいます。周囲は暗い。人の気配はまるでありません。異界とも呼べるかもしれません。なにやら不穏な気配を感じさせています。


柳根澤「自画像」 1999年 

元々、東洋画に学んだ柳は、制作に際して韓国に伝統的な画材を使用しています。紙は韓国紙です。そこに墨や胡粉、顔料などでモチーフを象っています。初期の筆触は激しく、時に墨を散らしては自画像を描きました。2000年頃から室内や食器、日常などを素材に「現実を凌駕する事物関係と空間性」(解説より)を伴う作品を発表するようになったそうです。

画肌が極めて個性的です。墨は掠れ、時に勢いよく走ったかと思うと、顔料は薄く紙に染み渡っては静謐な画面を作り出します。透明感もありました。一方で近作ではテンペラの技法を導入し、さも油絵かと見間違えるような力強い質感を引き出しています。驚くほどに多彩でした。



出品は新旧作をあわせて60点。近年の試みとしての映像も加わります。

韓国にこのような画家がいたとは初めて知りました。まだ見たことのない絵画世界が確かに存在しています。

12月4日まで開催されています。

「柳根澤 召喚される絵画の全量」 多摩美術大学美術館
会期:9月25日(土)~12月4日(日)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般300(200)円、大学・高校生200(100)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:東京都多摩市落合1-33-1
交通:京王相模原線・小田急多摩線・多摩都市モノレール線多摩センター駅から徒歩7分。
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「時代を映す仮名のかたち」 出光美術館

出光美術館
「開館50周年記念 時代を映す仮名のかたちー国宝手鑑『見努世友』と古筆の名品」
11/19~12/18



出光美術館で開催中の「時代を映す仮名のかたちー国宝手鑑『見努世友』と古筆の名品」を見てきました。

平安から鎌倉、そして南北朝、室町へと至る時代ともに、仮名のかたちは常に変化しました。

冒頭は平安です。伝紀貫之の「高野切第一首」が出ています。905年に編纂された「古今和歌集」の最古の写本です。まるで星屑が散るような料紙に流麗な筆線が文字を象ります。線は細い。淀みがありません。時に掠れて消えそうになっています。優美かつ情感豊かでした。

10世紀頃から宮廷でも和歌が詠まれるようになったそうです。さらに平安末期には貴族だけでなく、官人層でも和歌活動を行うようになりました。繊細な書体が一般的でしたが、次第に力強さが求められるようになります。


「高野切第三種」(国宝手鑑「見努世友」の内) 伝紀貫之 平安時代 出光美術館

国宝の古筆手鑑「見努世友」は奈良から室町までに書写された歌集の断簡です。手鑑とは古筆切を収納したアルバムを意味します。伝道真による「華厳経」や伝貫之の「古今和歌集」などが収められています。書体が思いの外に多様でした。例えば藤原公任の「堺色紙」は溌剌。筆に勢いがあります。余白も効果的です。文覚上人の「書状切」は自由奔放でした。とらわれる面がありません。

鎌倉時代に入ると和歌の役割が変化します。武力を背景とした武家に対し、王族の権威として和歌が尊ばれるようになります。貴族らは歌会らの晴れの場にて和歌を詠むことが求められました。自詠でかつ自筆の機会が増えたそうです。書体も太く、めりはりのあるものが好まれました。


「広沢切」 伏見天皇 鎌倉時代 出光美術館

伏見天皇による「広沢切」はどうでしょうか。書は特に直線的で鋭い。筆圧も強く、文字は明瞭に浮かび上がります。同じく伏見天皇の「筑後切」にも目を奪われました。伏見院があえて書体に変化をつけて書写したとされる作品です。流麗でありながらも、筆には力強さがあります。料紙も煌びやかです。藍色の帯が上下に広がっています。実のところ書はなかなか読めませんが、料紙自体に美しい作品があったのも嬉しいところでした。

南北朝から室町にかけては継歌と短冊が流行したそうです。武家も歌壇に参入します。連歌や和漢連句の催しも盛んになりました。さらに室町後期には参会を伴わない紙の上だけの歌会も行われます。いわゆる揺り戻しということでしょうか。重厚でかつ豊麗な書も志向されたそうです。

室町後期の後柏原天皇(ほか)による「慈鎮和尚三百年忌和歌短冊帖」が目立っています。素早い筆触です。金と藍が入り混じる紙も雅やかでした。


「熊野懐紙」 後鳥羽天皇 鎌倉時代 京都国立博物館

出展は80点弱。大半は出光美術館のコレクションですが、京都国立博物館や宮内庁書陵部からも作品がやって来ています。


「表制集紙背仮名消息 巻四」 藤原為房妻 平安時代

解説も充実。一部作品はパネルで仮名を起こしています。和歌のスタイルと古筆の関係に着目した構成も特徴的です。素人の私でも見入るものがありました。

仮名を小声で読み上げながら鑑賞している方が多いのも印象的でした。やはり歌は読んでこそ生きるのかもしれません。

「日本の書/別冊太陽/平凡社」

12月18日まで開催されています。

「開館50周年記念 時代を映す仮名のかたちー国宝手鑑『見努世友』と古筆の名品」 出光美術館
会期:11月19日(土)~12月18日(日)
休館:月曜日。但し10月10日は開館。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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「YCC展示プログラム サウンド・アーティスト スズキユウリ」 YCCヨコハマ創造都市センター

YCCヨコハマ創造都市センター1階ギャラリー
「YCC展示プログラム サウンド・アーティスト スズキユウリ」
11/21〜11/27



音をテーマに作品を制作するアーティスト、スズキユウリのミニ個展が、YCCヨコハマ創造都市センターにて行われています。


「ガーデン・オブ・ルッソロ」 2013年

まず目立つのはホーンのついた「ガーデン・オブ・ルッソロ」です。楽器のようにも見えますが、それ自体は音を出しません。むしろ逆です。音を吹き込む必要があります。ホーンに向かって声を発しましょう。すると音が加工されて返ってきました。ようは音の変換装置です。鑑賞者の働きかけによって音は変化します。時に雑音のようでもあり、またメロディーのようにも聞こえます。一定ではありません。


「オトト」 2013-2014年

バナナやレモン、そしてスプーンが楽器と化しました。「オトト」です。それぞれに電線でシンセサイザーが接続してあります。つまり電気を通すものであれば、何でも簡単に楽器に変えられるわけです。さもピアノの鍵盤を叩くように触れて音を出すことが出来ます。


「AR ミュージック・キット/トレイン・バージョン」 2016年

「オトト」しかり、スマホを装置に利用しているのもポイントです。話題のAR技術を用いたのは「AR ミュージック・キット/トレイン・バージョン」でした。木製の線路の上に積み木の汽車が走っています。汽車にはスマホを搭載。線路の内側にはReやMi、それにDoなどと記されたボードが置かれています。これはレやミ、ド。つまり音符です。その音符に反応してスマホから音楽が奏でられます。スタンドのボードは自由に差し替え可能です。音はユーザーの手に委ねられています。


「AR ミュージック・キット」 2016年

同じARを使った段ボールのギターもありました。原理は先のトレインと同様です。ギターの形を模した段ボールにはEやF、つまりギターコードが付いています。ギターを手にとってスマホに翳してみました。するとコードに対応した音が出ます。スマホのスピーカーながらも音は本格的です。ミュージシャン気分を手軽に味わえました。



出展数は3〜4点と僅かです。カフェ横の小さなスペースでの展示でした。界隈にお出かけの際に立ち寄るのが良いかもしれません。

入場は無料です。11月27日まで開催されています。

「YCC展示プログラム サウンド・アーティスト スズキユウリ」 YCCヨコハマ創造都市センター1階ギャラリー(@yokohama_ycc
会期:11月21日(月)〜11月27日(日)
休館:会期中無休。
時間:11:00~20:00。(最終日は18時まで)
料金:無料。
場所:横浜市中区本町6-50-1
交通:みなとみらい線馬車道駅1b出口、野毛・桜木町口・アイランドタワー連絡口より直結。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩5分。
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「ZOKEI NEXT50 東京造形大学の教育成果展」 アーツ千代田3331

アーツ千代田3331・1階メインギャラリー
「ZOKEI NEXT50 東京造形大学の教育成果展」
11/12~11/27



アーツ千代田3331・1階メインギャラリーで開催中の「ZOKEI NEXT50 東京造形大学の教育成果展」を見てきました。

今年、創立50周年を迎えた東京造形大学。それを期しての卒業生によるグループ展です。参加するのは30代から40代を中心とするアーティスト。絵画や彫刻などが展示されています。


はしもとみお「羊のソーヴァ」 2011年

可愛らしいのははしもとみおの木彫です。モチーフはチンパンジーや羊。素材はクスノキでした。毛並みの質感が見事です。くるくると丸まった羊の毛も細かに表現されています。動物らは皆、どこか優しげな表情をしていました。名前も付いています。作者の動物に対する温かい眼差しも感じられるのではないでしょうか。


原田郁 展示風景

絵画と彫刻、さらに映像を合わせたインスタレーションを展開するのは原田郁です。先にコンピューターで架空の風景を描き、その景観の一部を絵画化。さらに彫刻として象っています。複雑に入り組みます。さも3D内の架空の世界に立ち入ったかのようでした。


佐藤翠「Royal blue closet」 2016年

ペインターの佐藤翠は絵画が3点。目立つのはクローゼットでした。中は青です。たくさんのハンガーがかかっています。衣服、あるいは何らかの布地も吊り下がっていました。上の棚にはハイヒールとバックも置かれています。筆触は大胆で荒々しい。本年の新作です。以前よりも幾分、抽象性が増しているようにも思えました。


高橋大輔「37」 2016年

「NEW VISION SAITAMA5」で圧巻の展示を見せた高橋大輔も東京造形大学の出身です。やや小さめの絵画が数点。もちろん厚塗りです。ただしどちらかといえば、絵具の盛りよりも、筆の即興的な動きに関心が向きました。スタイルは同じ地点にとどまりません。


瀬畑亮「セロフラワー オリジナル〜未完の花」 2011年〜

大きな花を模したオブジェがそびえ立ちます。瀬畑亮の「セロフラワー」です。ピンクの花をつけています。素材を知って驚きました。セロテープです。ひたすらにセロテープを巻きつけては立体におこしています。確かに足元に広がる白い地平も細かなセロテープで表していました。


Mrs.Yuki「Footprint」 2016年

ともに東京造形大学を卒業したユニット、Mrs.Yukiの「Footprint」も面白いのではないでしょうか。4面のパネルはいずれも黒い。湯気か煙とも言い難い、揺らぎを伴う線が象られています。素材はモルタルと墨汁でした。独特の質感を見て取れます。


「球体キャンバスドローイング」 *ワークショップにて制作

たくさんの球体が浮遊しています。その名も「球体キャンバスドローイング」です。制作は今年の8月。東京造形大学内で20個の球体のキャンバスにドローイングをするワークショップが行われました。

色もモチーフも様々。抽象に具象と問いません。曲面には描きにくいこともあったでしょう。大学内での展示の様子も映像で見ることが出来ました。


赤石隆明「Waste Park」 2016年

それにしても力作ばかり。出品者は絵画16名(ユニット1組)、彫刻5名です。作品数も多く、思いの外に見応えがありました。


末永史尚「折紙モール」 2015年

入場は無料です。11月27日まで開催されています。

「ZOKEI NEXT50 東京造形大学の教育成果展」 アーツ千代田3331@3331ArtsChiyoda) 1階メインギャラリー
会期:11月12日(土)~11月27日(日)
休館:会期中無休。
時間:12:00~20:00
料金:無料
場所:千代田区外神田6-11-14 アーツ千代田3331 1階
交通:東京メトロ銀座線末広町駅4番出口より徒歩1分、東京メトロ千代田線湯島駅6番出口より徒歩3分、都営大江戸線上野御徒町駅A1番出口より徒歩6分、JR御徒町駅南口より徒歩7分。
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「禅ー心をかたちに」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館
「臨済禅師1150年・白隠禅師250年遠諱記念 特別展 禅ー心をかたちに」
10/18~11/27



東京国立博物館・平成館で開催中の「特別展 禅ー心をかたちに」の特別内覧会に参加してきました。


「達磨像」 白隠慧鶴筆 江戸時代・18世紀 大分・萬壽寺

冒頭から大変な迫力です。白隠の「達磨像」が待ち構えています。高さは約2メートル。ぎょろりとした目で上の方を凝視しています。衣の線は自由でかつ太い。輪郭線は即興的です。堂々たる姿ながら、親しみやすくもあります。達磨はもちろん禅の初祖です。これほどシンボリック描いた達磨をほかに知りません。


国宝「慧可断臂図」 雪舟等楊筆 室町時代・明応5(1496)年  愛知・齊年寺

禅に因む絵画も名品揃いでした。雪舟の「慧可断臂図」(えかだんぴず)はどうでしょうか。岩窟の中で座禅を組むのが達磨。顔面の表現はリアルです。ただし表情は伺えません。手前の僧は神光、のちの慧可です。参禅が許されず、決意を示すために左腕を切り落としたというエピソードを描いています。確かに血塗られた腕を右手で抱えていました。苦悶しているようにも見えなくはありません。両者の間の距離は近いようで遠い。張り詰めた空気を感じました。

日本に禅宗が導入されたのは鎌倉時代のことです。南北朝時代の末には、現在の臨済宗の本山、全14寺が出揃いました。そうした臨済宗の開山や本山の寺宝の展示も充実。各寺が所蔵する肖像や墨跡などが紹介されています。


重要文化財「蘭渓道隆坐像」 鎌倉時代・13世紀 神奈川・建長寺

例えば建長寺の開山である蘭渓道隆です。由来の「蘭渓道隆坐像」は眼光が鋭い。瞳の部分のみに水晶板がはめ込まれています。裏には金泥の線も用いられているそうです。やや突き出た下唇をはじめ、こけた頬、ないし筋肉の表現も写実的です。迫真的とも呼べるかもしれません。


重要文化財「夢窓疎石像」 自賛 無等周位 南北朝時代・14世紀 京都・妙智院

夢窓疎石も知られているのではないでしょうか。天龍寺の開山です。物静かに佇む僧を細かな線で写しとっています。像主の特徴をありのままに捉えた優品として評価されているそうです。


重要文化財「九条袈裟」 無関普門所用 中国 元時代・13~14世紀 京都・天授庵

無関普門所用の「九条袈裟」も興味深い資料です。また臨済宗大徳寺派の一休宗純に関する展示も目を引きました。禅の歴史の一端を追うことも出来ます。

時代を進めましょう。戦国、江戸時代です。戦国の武将も禅に帰依。多くの禅僧と交流を持ちました。いわゆるブレーンとして参謀役を務めた僧も少なくありません。禅宗寺院も各大名の庇護を受けて繁栄しました。


「織田信長像」 伝狩野永徳筆 安土桃山時代・16世紀 京都・総見院

伝永徳の「織田信長像」がお出ましです。天正10年の信長葬の際に掛けられたとも言われています。大徳寺の真筆ほどの凄みはありません。ただそれでも眉間の細かな皺や切れ長の目から、深い思慮、ないし神経質な性格を伺えるのではないでしょうか。



各武将と禅僧の関係を示す解説パネルも有用でした。ともかく禅展には数多くの人物が登場しますが、パネルなりで一度、整理してから見ると理解も深まるかもしれません。


左:「乞食大燈像」 白隠慧鶴筆 江戸時代・18世紀 東京・永青文庫

白隠と仙厓に着目したコーナーがありました。ともに膨大な禅画を描き、時に各地を渡り歩いては、庶民にわかりやすい形で布教した名僧です。白隠では「達磨像」、「乞食大燈像」、さらに「円相図」と続きます。また仙厓の「花見図」も賑やかです。たくさんの人が宴を楽しんでいます。誰一人、花を見ている者がいません。賛は「楽しみハ花の下より鼻の下」とありました。「花より団子」は今も昔も変わりません。


「十大弟子立像」 鎌倉時代・13世紀 京都・鹿王院

禅宗寺院の仏像や仏画も各地からやって来ました。鹿王院の「十大弟子立像」が真に迫ります。老若の弟子たち。所作はもちろん、表情にも同じものがありません。何かを訴えかけるように立っています。幸いにも露出での展示でした。ぐるりと一周、360度の角度から鑑賞することが可能です。


重要文化財「達磨・蝦蟇・鉄拐図」 吉山明兆 室町時代・15世紀 京都・東福寺

吉山明兆の「達磨・蝦蟇・鉄拐図」も見応えがあります。達磨に道教の仙人の2名を組み合わせた3幅対の作品です。所蔵は東福寺。作者の明兆は同時で活動した禅僧でした。中央の達磨の存在感が際立ちます。達磨図としては日本最大でもあるそうです。


国宝「油滴天目」 中国 南宋時代・12~13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館

禅は人々に思想だけでなく、絵画や喫茶においても様々な影響を与えました。禅宗の喫茶において重宝されたのは唐物です。国宝の「油滴天目」が展示されていました。銀色の細かな斑紋が器の内側に広がっています。やや強めの照明です。器の輝きを引き出しています。


国宝「瓢鮎図」 大岳周崇等三十一僧賛 大巧如拙筆 室町時代・15世紀 京都・退蔵院

伝牧谿の「芙蓉図」も美しい。水墨の微妙なニュアンスが花の生気を表現しています。大巧如拙の「瓢鮎図」も出展中です。水中で泳ぐのは鮎。それを男は瓢箪で捕まえようとしています。竹は僅かに風に吹かれているのでしょうか。実に流麗です。湿潤な空気が画面を満たします。山の稜線は霞んでいました。


重要文化財「呂洞賓図」 雪村周継筆 室町時代・16世紀 奈良・大和文華館

雪村の「呂洞賓図」も面白いのではないでしょうか。龍の頭の上に立つのが呂洞賓。右手に瓶を持っています。上にはもう一体の龍が空を駆けています。瓶の中から飛び出しました。力漲る一枚です。一瞬の動きを画面に封じています。まるでアニメーションを見ているかのようでした。


重要文化財「龍虎図屛風」 狩野山楽筆 安土桃山〜江戸時代・17世紀 京都・妙心寺

ラストは禅寺に伝わる障壁画です。うちとりわけ見事なのは妙心寺に伝わる狩野山楽の「龍虎図屏風」でした。東博で展示されるのは2009年の「妙心寺展」以来のことかもしれません。

右隻に颯爽と姿を現れたのが龍。大風が吹き荒れています。対峙するのが左隻の虎です。雌雄で2頭います。雄の虎は龍に向かって吠えたてて威嚇しています。牙もむき出しです。竹が大きくしなっていました。一方で雌の虎は何やら物静かな様で様子を伺っています。これほど迫力のある龍虎図はほかに見当たりません。


左:「鷲図」 伊藤若冲筆 江戸時代・寛政10(1798)年 エツコ&ジョー・プライスコレクション
右:「旭日雄鶏図」 伊藤若冲筆 江戸時代・18世紀 エツコ&ジョー・プライスコレクション


後期からは特別出品として若冲の作品が2点加わりました。「旭日雄鶏図」 と「鷲図」です。ともにプライスコレクション。若冲自身も禅と深く関わっていたことは良く知られています。かの傑作、「動植綵絵」を寄進したのも臨済宗の相国寺でした。


チームラボ「円相 無限相」の前に立つチームラボ代表猪子寿之氏

なおこの日は禅の「円相」をテーマとしたチームラボの新作の発表もありました。場所は平成館の1階のロビーです。書の筆跡が円を描いては消えていきます。同じ形は2度と現れません。

特別内覧会時に加え、再度、11月20日(日)の午後に観覧してきました。


座禅体験撮影コーナー

すると館内は盛況。最初の展示室は最前列確保のための僅かな列も発生していました。ただ全般的に流れはスムーズです。ほかは特に待つこともなく、じっくり見ることが出来ました。

早くも会期末です。最終盤はひょっとすると混み合うことがあるかもしれません。



50年に1度のスケールだそうです。展示替えも多く、巡回前の京都会場とも作品がかなり異なりますが、今回ほど大規模な禅の展覧会は当分望めそうもありません。

時間に余裕をもってお出かけください。11月27日まで開催されています。

臨済禅師1150年・白隠禅師250年遠諱記念 特別展 禅ー心をかたちに」 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:10月18日(火) ~11月27日(日)
時間:9:30~17:00。
 *会期中の金曜日および10月22日(土)、11月3日(木・祝)、5日(土)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し7月18日(月・祝)、8月15日(月)、9月19日(月・祝)は開館。7月19日(火)は休館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(700)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

注)写真は特別内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「円山応挙 『写生』を超えて」 根津美術館

根津美術館
「円山応挙 『写生』を超えて」
11/3~12/18



根津美術館で開催中の「円山応挙 『写生』を超えて」を見てきました。

単に写生といえども、応挙の手にかかると実に多様な技術、ないし表現に裏打ちされていることがよく分かりました。


円山応挙「雪松図屏風」(左隻) 天明6(1786)年頃 三井記念美術館

まず「雪松図屏風」です。言わずと知れた国宝の名品です。金地の大画面に立つのは三本の松。吹雪いていたのかもしれません。雪は松の葉や枝の各所に積もっています。パウダースノーのように柔らかい質感が伝わります。背後の金泥は光です。朝の日差しでしょうか。金の砂子は陽に反射して光輝いています。右隻の松は大見得を切る役者のようです。枝を左右に振っています。一方で左隻の空間には奥行きが伴います。松は左右だけでなく、前後にも枝を広げていました。

一見するところリアルな松ですが、近づくと表情が一変しました。というのも、松葉の描写は思いの外に荒々しい。素早い筆触で墨線を引いています。また余白も効果的でした。そこだけ切り取れば葉に見えません。ただそれでも作品から2歩、3歩下がると、ぴたりとピントがあうように松が実在感を伴って浮かび上がります。「近見」と「遠見」で景色が変わりました。これが応挙の目指した写生を超えた表現なのかもしれません。


円山応挙「藤花図屏風」(左隻) 安永5(1776)年 根津美術館

「藤花図屏風」も同様です。金地を背景に藤が広がります。幹は輪郭線を使わない付立ての技法です。筆は掠れながらも、大胆で力強い。一気呵成で動きがあります。一転しての花房は緻密でした。解説に「印象派」との指摘がありました。丁寧に写生を行ったのでしょう。白と青の花弁が細かに重なります。僅かに暖色系の色が混じっているようにも見えました。だらりと垂れた花房には重みも感じられます。葉は明るい緑です。薄塗りです。仄かに葉脈が浮かび上がります。幹、葉、花の表情は異なります。応挙の多彩な画技を知ることが出来ました。

さて今回の応挙展、こうした有名作だけでなく、個人蔵にも優品が多いのが特徴です。

例えば「雪中小禽図」です。水辺に水禽が7羽。冬の景色です。水面の一部は凍っています。松の木は内側を白く塗り残して雪を表現していました。針葉は「雪松図屏風」を彷彿させるかもしれません。水はうっすらと青く、鴨が首を中に突っ込んでいます。鳥の羽の描写が殊更に細かい。応挙の高い観察眼が伺えます。

観察眼といえば「筍図」も負けてはいません。こちらも個人蔵です。大小3本の筍が横たわっています。さも捥いだばかりの筍を描いたと思いきや、実は写生図に基づいているというから興味深い。筍の柔らかい皮や繊維の質感までが細かに表現されています。


円山応挙「写生図巻」 明和7〜安永元(1770〜72)年 株式会社千總

その元になる「写生図巻」、ないし「写生図帖」も見逃せません。図帖は数点あり、一部は応挙作ではないという指摘もあるそうですが、いずれも精緻極まりない描写で動植物を表しています。中でも「写生図巻」には感心しました。椎茸や栗、楓から鼠に兎などを巧みに写し取っています。図鑑を見るかのようでした。

「四条河原夕涼図」も面白いのではないでしょうか。鴨川を挟んだ情景。季節は夏です。見世物小屋が並び、大勢の人で賑わっています。幟が空高くに靡きます。空はまだ青い。一転して岸は夜の闇に包まれています。人の姿の多くは判然とせず、シルエットで表されていました。眼鏡絵とは西洋の遠近法を用いて描かれた作品です。レンズで覗き込めばよりパノラマ的に浮き上がってくるのかもしれません。

ハイライトは「七難七福図巻」でした。「難福図巻」とも呼ばれています。難は上中巻。うち上巻が天災です。地震に洪水に火災と続きます。家屋が倒壊して、人々は恐れおののきながら逃げまどっていました。洪水は人も建物も飲みこみます。波間で手を上げている人は助けを求めているのでしょうか。痛ましい。火災では火炎の描写が鮮烈です。さもバチバチを音を立てるかのように燃え盛っています。すでに焼かれてしまっている者もいました。


円山応挙「七難七福図巻」(部分) 明和5(1768)年 相国寺 

中巻は人災です。盗賊に追剝ぎ、そして情死。首から血が吹き出る様は恐ろしい。血みどろです。思わず目を背けてしまいます。幼い子供が井戸に放り込まれていました。建物の内部がリアルです。畳に屏風、そして襖などの建具の描写が細かい。構図に歪みがありません。

下巻が福でした。祝宴に飲食、そして花見でしょうか。凄惨な上中巻とは一転、日常の平穏な光景が示されています。人々の様子も皆、楽しそうです。応挙は本作にあたり、六道絵や鳥獣戯画、さらに信貴山縁起絵巻などの古画を参照したそうです。制作期間はおおよそ3年。よほど熱心に取り組んだのでしょう。人間と自然を問わず、この世の様々な事象を見事なまでに描き尽くしました。


円山応挙「牡丹孔雀図」 安永5(1776)年 宮内庁三の丸尚蔵館

出点数は全47点。但し一部の作品に展示替えがあります。

「円山応挙 『写生』を超えて」出品リスト(PDF)
前期:11月3日~11月27日
後期:11月29日~12月1日

国宝の「雪松図屏風」は前期のみの公開です。また「七難七福図巻」は前後期で巻き替えがあります。ご注意下さい。



会期第1週の日曜日に出かけましたが、館内は盛況でした。後半はさらに混み合うかもしれません。



都内では6年ぶりの応挙展です。12月18日まで開催されています。まずはおすすめします。

「円山応挙 『写生』を超えて」 根津美術館@nezumuseum
会期:11月3日(木・祝)~12月18日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、学生1000円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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「ロバート・フランク展」 東京藝術大学大学美術館・陳列館

東京藝術大学大学美術館・陳列館
「ロバート・フランク Books and Films 1947-2016 東京」
11/11-11/24



東京藝術大学大学美術館・陳列館で開催中の「ロバート・フランク Books and Films 1947-2016 東京」を見てきました。

今年、92歳を迎え、アメリカを代表する写真家として知られるロバート・フランク。オリジナルのプリントは高価でかつ貴重なため、公開される機会は殆どありません。

そこで考え出されたのが今回の展覧会です。アイデアは明快。安価な新聞用紙に印刷した作品を展示しています。フランクの新旧作を年代を追って見ることが出来ました。



会場も自由な造りになっていました。プランを練ったのはゲルハルト・シュタイデル。ドイツで出版社「Steidl」を経営するデザイナーです。プリントはいずれもゲティンゲンにあるSteidl社で行っています。手書きの文字もシュタイデルが手掛けました。



シュタイデルは展示に教育的な要素を取り込みました。什器を制作したのは芸大の学生です。かなり簡易的です。フレームはメタル。磁石で作品をくっ付けています。ドイツにいるシュタイデルとやり取りしつつ、ワークショップなどで意思疎通をしながら完成させたそうです。



陳列棚のフロアは2つ。1階は2009年に制作された「セブンストーリーズ」です。どことなくプライベートな空間が捉えられています。なお映像が新聞用紙の裏側から映されていますが、これも学生のアイデアによります。写真と映像が交錯します。まるで迷路のようでした。

2階にもフランクの撮影した各シリーズが並んでいました。「Paris」が制作されたのは1951年。フランクにとってアメリカ移住後、2度目のヨーロッパ帰還でした。「新世界を体験」(キャプションより)した彼の眼差しは、何気ないパリの街角の雑踏に向きます。壁の新聞を覗き込むように読み、忙しそうに車に乗り込んでは、肩を落として行き交う人々が写し出されていました。



ほぼ同じ頃に撮影したのが「London」です。フランクはロンドンの裕福な銀行家やビジネスマンとともに、ウェールズの炭鉱労働者の家族を写しました。階級や格差について切りこもうとしたのでしょうか。2階建てのバスがたくさん走るロンドンの喧騒と、どこか荒涼としたウェールズの大地。背の高い坑夫が立っています。得意げにポーズをとる子どもの笑顔も印象的でした。



「The American」は1959年、フランクがグッゲンハイムの奨学金を得て、アメリカを横断する旅行に出た時の作品です。撮影数は何と27000点。うち83点が写真集として発表されました。ここでも彼は差別を受ける人々に関心を寄せています。いわば黄金期を迎えながらも、根深く横たわるアメリカの様々な問題を抉ろうとしたのかもしれません。



破壊された街に目がとまりました。「Come Again」です。舞台は1991年のレバノン。フランクは長き内戦で壊滅したベイルートの市中を撮影します。翌年に大半の作品を発表しましたが、彼はそれを再考し、新たなノートとして「Come Again」を作り上げます。コラージュなどの実験的な取り組みも少なくありません。



ほかフランクの手紙や試し刷りなどの資料も展示。彼の言葉も随所にあり、作品だけでなく、制作に対するスタンスの一端も伺うことが出来ました。



印刷された作品は展示終了後、全て捨てられるそうです。もちろん一概には言えませんが、何かと高額に取り引きされる市場への批判の意味も込められているのかもしれません。写真の展示の在り方にも一石を投じる企画とも言えそうです。



カタログにも工夫がありました。今回、紙を提供した南ドイツ新聞のタブロイドです。価格も500円とリーズナブルでした。



世界50会場を巡る巡回展です。東京展は11会場目です。

「The Americans/Robert Frank/Steidl」

入場は無料です。11月24日まで開催されています。おすすめします。

「ロバート・フランク Books and Films 1947-2016 東京」 東京藝術大学大学美術館・陳列館
会期:11月11日(金) ~11月24日(木)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00 *入館は17時半まで。
料金:無料。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
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「漆芸名品展」 静嘉堂文庫美術館

静嘉堂文庫美術館
「漆芸名品展ーうるしで伝える美の世界」 
10/8〜12/11



静嘉堂文庫美術館で開催中の「漆芸名品展ーうるしで伝える美の世界」を見てきました。

「謎のうるしの屏風」(ちらし表紙より)と呼ばれる「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」が、修復を経て10年ぶりに公開されています。

謎とするのは作者、ないし制作背景が分かっていないからです。作られたのはおそらく桃山から江戸時代の初期。杉板に黒漆を塗り、蒔絵や金貝に螺鈿のほか、密陀絵と呼ばれる技法を用いて描いています。


「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」(右隻) 桃山〜江戸時代初期(17世紀)

右隻が源氏絵です。舞台は紅葉賀。青海波を舞う場面です。庇の前で舞うのが光源氏と頭中将です。やや腰を屈め、前に首を突き出しています。後方には紅葉が広がり、手前には菊が咲いていました。秋の景色です。それにしても極めて技巧的な作品です。例えば壇上の人物です。黒い服を着ている男がいますが、よく見ると凹凸の柄の文様が付いています。密陀絵は漆絵では出せない白を得るために使われたそうです。絵を囲む螺鈿も一際、輝いて見えました。


「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」(左隻) 桃山〜江戸時代初期(17世紀)

左隻の主人公は唐の玄宗皇帝です。楼台に座るのが玄宗と楊貴妃。帝自ら鼓を打っています。妃の着物の精緻な模様といったら比類がありません。季節は春。右隻の秋とは対比的です。玄宗が曲を作り、披露したところ、花が一斉に咲き出したという故事にならっています。楼台の周囲は赤や白、そしてピンクの花で彩られていました。奥の建物の獅子、手前の楽人たちも大変に細かい。これほど大規模でかつ緻密な漆絵を初めて見ました。幸いなことに薄いガラスケースに収められています。やや写り込みがあるものの、肉眼でも細部まで確認することが出来ました。

さて本展、見どころは「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」だけにとどまりません。静嘉堂の誇る日本、中国、朝鮮、そして琉球の漆芸品がずらり。約100点です。(一部に展示替えあり。)いずれも優品ばかりでした。


尾形光琳「住之江蒔絵硯箱」 江戸時代(18世紀)

まずは日本。光琳の「住之江蒔絵硯箱」が見事です。意匠は古今和歌集。藤原敏行の恋歌によっています。せり上がった蓋の造形はまさしく光悦風です。波は荒れ狂うかのように岸の間をうねっています。岸の部分は鉛です。歌の文字が随所に散っていますが、波と岸は絵そのもので示されています。


柴田是真「柳流水青海波塗重箱」 江戸末期=明治時代(19世紀)

是真は2点。「柳流水青海波塗重箱」は5色に塗り分けられた重箱です。川の部分を是真が得意とした青海波塗の技法で表現しています。また「変塗絵替丼蓋」も面白い。古伊万里の丼の蓋が10枚、全て異なった塗りで作っています。目地はまるで本物の木目のようです。言わなければ漆絵とは気がつかないかもしれません。


原羊遊斎 酒井抱一(下絵)「秋草虫蒔絵象嵌印籠」 江戸時代(18〜19世紀)

原羊遊斎の印籠も見逃せません。「秋草虫蒔絵象嵌印籠」は下絵を抱一が担当しています。流麗な線で秋草を可憐に表現していました。かげろうもいます。「雪華蒔絵印籠」も美しい。模様はすべて雪の結晶です。大変にモダン。何とも魅惑的ではないでしょうか。

印籠ではもう1点、技巧を凝らした「龍雷神螺鈿印籠」にも目を奪われました。極限にまで小さく砕かれた青貝がモザイク画を描くかのようにちりばめられています。ほぼ点描と言っても良いかもしれません。驚くほどに細かい。高い技術に裏打ちされた作品に違いありません。


「曜変天目」(付属:黒漆天目台) 南宋時代(12〜13世紀)

唐物では何と言っても曜変天目です。静嘉堂の誇る名品中の名品。今回は天目台にのせた形で展示されています。やや明るめの展示室内でも際立つ斑紋。小宇宙とも称されますが、まさしく星屑が瞬いているかのようでした。


「人魚箔絵挽家」 東南アジア(16世紀)

「人魚箔絵挽家」も珍しいのではないでしょうか。挽家とは茶入を収納する容器ですが、蓋の部分に2つの尾を持つ人魚が描かれています。ほかにも女神や羽人がいました。異国趣味といったところかもしれません。可愛らしい姿に思わずにやりとさせられました。


「雲龍堆朱盒 大明宣徳年製(銘)」 明時代・宣徳年代(1426〜35)

中国の漆芸も充実しています。「山水人物堆朱盒」は楼閣や人物、それに鶴などを象った作品です。官営の工房で制作されたと言われています。また「七宝繋填漆櫃」は全面に七宝の繋文が表されていました。均一な文様で揺らぎがありません。洗練されています。


「蓮華唐草螺鈿玳瑁箱」 朝鮮時代(16〜17世紀)

朝鮮の漆芸の中心は黒漆地の螺鈿にあるそうです。「蓮華唐草螺鈿玳瑁箱」が華やかです。玳瑁、すなわちタイマイとはウミガメの一種です。螺鈿を円状に連ね、蓮の花を象っています。箱全体が飴色に染まります。かつての三菱財閥の総帥、岩崎小彌太が熱海の別邸で文房具箱として使用していたそうです。


「清明節図螺鈿座屏」 琉球(18〜19世紀)

琉球に優れた螺鈿の漆器がありました。「清明節図螺鈿座屏」です。高さは78センチ。かなり大きい。人々が橋を渡りながら出かけています。解説によればピクニックだそうです。4月の清明節には墓参を兼ねて踏青、つまりピクニックに行く場面を表しています。17世紀初頭まで王府の漆器制作を担っていた「貝摺奉行所」にて制作されました。

高蒔絵、針描、切金など、実際の作品を参照しながら、蒔絵技法の解説を付した展示もあります。鑑賞の参考になりました。

一美術館だけとは思えないコレクションです。「名品展」のタイトルに偽りはありません。



「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」の左隻、右隻の双方が揃って出るのは11/8から11/20の間だけです。(11/20以降は紅葉賀図のみ展示。)両隻展示期間中での観覧をおすすめします。

12月11日まで開催されています。

「漆芸名品展ーうるしで伝える美の世界」 静嘉堂文庫美術館
会期:10月8日(土)〜12月11日(日)
休館:月曜日。但し10月10日は開館。翌11日(火)は休館。
時間:10:00~16:30 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、大学・高校生700円、中学生以下無料。
 *一般・大高生は20名以上の団体割引あり。
場所:世田谷区岡本2-23-1
交通:二子玉川駅4番のりばより東急コーチバス「玉31・32系統」で「静嘉堂文庫」下車、徒歩5分。成城学園前駅南口バスのりばより二子玉川駅行きバスにて「吉沢」下車。大蔵通りを北東方向に徒歩約10分。
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「Les Parfums Japonaisー香りの意匠、100年の歩み」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「Les Parfums Japonaisー香りの意匠、100年の歩み」 
11/2~12/25



資生堂ギャラリーで開催中の「Les Parfums Japonaisー香りの意匠、100年の歩み」を見てきました。

資生堂の初代社長の福原信三は、化粧品製造にあたり、「商品の芸術化」という理念を掲げていたそうです。

まさしく「香りの芸術」です。新旧に様々な香水瓶が会場を美しく彩っています。



最も古い香水瓶は1901年。パリの老舗化粧品メーカーのピヴェールの「アズレア」でした。さらにガレの「蝉」と続きます。福原は1913年、アメリカ留学の後、ヨーロッパに立ち寄りました。とりわけパリの芸術文化に感化されたそうです。全盛期を過ぎたとはいえ、アール・ヌーヴォーのスタイルは街の随所に見られたことでしょう。そうしたパリでの滞在経験が化粧品デザインのヒントになりました。



福原が銀座に化粧品店を開店したのは1916年のことです。翌年、資生堂初の香水である「花椿」を発売しました。形状やレーベルのデザインには同時代のパリの香水瓶の特徴を見ることが出来ます。ヨーロッパの本格的な香水の品質に近づくべく努力を重ねました。



もちろん単に西洋の模倣に留まっていたわけではありません。「藤」や「菊」、そして「銀座」といった日本的なモチーフも積極的に発信。資生堂ならではのオリジナルな香水を制作します。

戦後、資生堂は日本風の香水「禅」を海外向けに発表しました。瓶のデザインは日本の漆芸の蒔絵です。さらに「琴」や「舞」も販売。瓶には書をあしらっています。「商品の芸術化」の理念は時代を超えても変わらずに受け継がれました。



最新の香水は今年制作された「マツダ Soul of Motion」でした。自動車メーカーのマツダと協働。同社の次世代商品群のデザインコンセプトである「魂動」を香水瓶のデザインとして表現しています。



それにしても何ともスタイリッシュな展示ではないでしょうか。ひたすらに美しい。会場の演出はインタラクティブ・アートのグループ「plaplax(プラプラックス)」とコラボレーションです。什器は植物、ケースは雫を表しています。また香水のネーミングに着目したインタラクティブな仕掛けもありました。



12月25日まで開催されています。

「Les Parfums Japonaisー香りの意匠、100年の歩み」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:11月2日(水)~12月25日(日)
休廊:毎週月曜日
料金:無料
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「webイベント あなたが選ぶ展覧会2016」を開催します

1年間の展覧会を振り返ろうと、昨年、お馴染みの青い日記帳@taktwiさんと初めて行った「あなたが選ぶ展覧会」。皆さんの「ベスト展覧会」のエントリーと投票を募り、集計した上、WEBのライブイベントにて結果を発表しました。

「あなたが選ぶ展覧会2015」最終投票結果発表(はろるど)

1位に選ばれたのは国立西洋美術館の「グエルチーノ展」でした。またライブイベントではチバヒデトシさんや藤原えりみさんをお迎えし、2015年の展覧会について語っていたただきました。投票にも多くの方が参加してくださいました。本当にありがとうございました。

あれから1年。今年も残り2ヶ月弱です。「あなたが選ぶ展覧会2016」を開催します。



あなたが選ぶ展覧会2016」
http://arttalk.tokyo/


基本的な流れは昨年と同じです。まずは皆さんにとって印象深かった展覧会を5つ挙げていただきます。それを1度集計して発表。最大で50展に絞ります。さらにその中から投票により「ベスト10」を選定致します。エントリー、投票の2回です。最終結果は年明けにWEB上のライブイベントで発表する予定です。

「あなたが選ぶ展覧会2016 受付フォーム」→http://arttalk.tokyo/form/form.cgi

昨年のエントリー数は3つでしたが、より多くの展覧会をピックアップするため、5つに増やしました。なお今年は一次エントリーの集計結果時のライブイベントを行いません。WEB上で結果のみをお伝えします。

「あなたが選ぶ展覧会2016 イベントスケジュール」

1.エントリー受付
今年観た展覧会で良かったものをまず順位不同で1から5つあげていただきます。
http://arttalk.tokyo/form/form.cgi
*11月25日18時締め切り

2.ベスト50展発表
エントリーしていただいた数多くの展覧会の中から、上位50の展覧会を12月1日に発表します。

3.ベスト展覧会投票
50の展覧会の中から、さらにベストの展覧会を選んでいただきます。皆さん投票して「あなたが選ぶ展覧会2016 ベスト展覧会」を決定しましょう。投票は12月1日(予定)から。

4.ベスト展覧会決定
最終的な投票結果や投票で1位となった展覧会の発表は、年明けにライブのwebイベントを開催して発表する予定です。

最初のエントリーの受付期限は11月25日の18時までです。最終のライブイベントの参加如何に関わらず、受付フォームから自由に挙げていただくことが可能です。エントリーは最大で5つですが、1つでも構いません。お名前(ハンドルネーム可)、メールアドレスのみで気軽にエントリー出来ます。



発表を年明けにすることで、昨年よりも投票期間が長くなりました。少しでも多くの方にご参加いただければ幸いです。

[あなたが選ぶ展覧会2016 イベント概要]
開催期間:2016年11月~2017年1月
エントリー受付期限:11月25日(金)18時
受付フォーム:http://arttalk.tokyo/form/form.cgi
上位50展発表:12月1日(木)
ベスト展覧会投票期間:12月1日(木)~12月26日(月)頃
「あなたが選ぶ展覧会2016」発表ライブイベント:2017年1月頃(決まり次第お知らせします)
*ゲストをお呼びし、WEB上のライブで発表します。
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「SENSE OF MOTION あたらしい動きの展覧会」 スパイラルガーデン

スパイラルガーデン
「SENSE OF MOTION あたらしい動きの展覧会」 
11/9~11/20



スパイラルガーデンで開催中の「SENSE OF MOTION あたらしい動きの展覧会」を見てきました。

様々な動きには「回転または往復運動する軸を支える機械部品」(goo辞書より)ことベアリングが欠かせません。


エマニュエル・ムホー「混色 色が回る。色が混ざる。心が動く。」

スパイラル一の大空間を飾るのはエマニュエル・ムホーです。タイトルは「混色」。モチーフは花です。6メートルの高さから釣り下がります。その数は全部で25270個というから驚かされます。混色とあるように色も様々です。右からオレンジ、赤、緑、青、紫とグラデーションを描いています。計100色でした。花のカーテン、ないし滝の姿はとても美しい。僅かに回転しています。まるで風に吹かれているようでした。


エマニュエル・ムホー「混色 色が回る。色が混ざる。心が動く。」

その花を回転させているのがベアリングです。主催するのは日本精工株式会社。国内のベアリング業界の最王手です。世界シェアでも3位。今年で創立100周年を迎えました。ベアリングは社会のありとあらゆるシーンで用いられています。そこへ今回、新たな動きの可能性を探るべく6組のクリエーターと協働。「SENSE OF MOTION」と題した展覧会を開きました。


ライゾマティクスリサーチ「Slide」

ライゾマティクスリサーチは人の動きをボールねじで表現する彫刻作品を展示。ちなみにボールねじとはねじ軸、ナット、ボールから構成される機械部品のことです。日本精工が世界一の生産量を誇ります。


Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)「ルーフトップ・メリーゴーランド NSK ver.」

メリーゴーランドを制作したのは、中崎透、山城大督、野田智子の3名によるNadegata Instant Partyです。模型サイズです。横のバーを押すと回ります。回転の中心はもちろんベアリングです。そして面白いのは中にもたくさんの機械部品が入れられていることです。これを都市に見立てます。


Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)「ルーフトップ・メリーゴーランド NSK ver.」

さらに内部にはカメラがあり、メリーゴーランドの動きと連動していました。映像は作品横のモニターに映し出されます。つまりメリーゴーランドを回すと機械都市の光景も動くというわけです。


石黒猛「Soft Metal Structure Ball」

数千個ものベアリングやスプリングを使用したのが石黒猛です。作ったのはボール。直径1.5メートルです。パーツは複雑に組み合わさっています。重量感がありました。しかしスプリングの効果なのでしょう。触れるとゴムボールのように緩やかに沈みます。独特の弾力感です。金属らしからぬ質感を味わうことが出来ました。


AR三兄弟「箱男」

安部公房の小説「箱男」に着想を得ています。開発ユニットのAR三兄弟です。「箱男」とは段ボールをかぶり、覗き窓から街を歩いたという男の物語です。それを具現化させようとしたのでしょうか。段ボールを用意。実際にかぶって覗き穴から外を見ることが出来ます。



仕掛けはAR、つまり拡張現実でした。とあるモチーフを装置にかざすと、対応した映像が箱の中に投影されます。現実と虚構を彷徨う試みです。モチーフは3種。私の時は機器の不良のため、1つしか見られませんでした。ただしそれでも段ボールをかぶって映像を見やるという体験はなかなか出来ません。


スズキユウリ+SLOW LABEL「Tutti in C」

スズキユウリとSLOW LABELは巨大なピンホールマシンを制作しました。球は金属です。打つ返すフリッパーも日本精工の製品でした。もちろん実際に球を打ち上げて遊ぶことも出来ます。フリッパーの動作装置は側面にもあります。参加人数は最大で6名まで可能だそうです。

とはいえ、何も単なるピンホールマシンというわけではありません。実は楽器でした。というのも白く円い部品に球を当てるとオルガンの音が出るのです。球を打ち合えば打ち合うほど色々な音が鳴ります。複数で体験した方が面白いかもしれません。



入場は無料です。11月20日まで開催されています。

「SENSE OF MOTION あたらしい動きの展覧会」 スパイラルガーデン(@SPIRAL_jp
会期:11月9日(水)~11月20日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。
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「un-printed material」 クリエイションギャラリーG8

クリエイションギャラリーG8
「un-printed material」
10/12~11/17



クリエイションギャラリーG8で開催中の「un-printed material」を見てきました。

デザイナーの佐藤オオキが代表するオフィス「nendo」(ネンド)が、紙をテーマにした新作を展示しています。



しかしながら紙とはいえ、実際ところ一般的な用途を満たす紙ではありません。そもそもご覧のように輪郭のみ。しかも素材自体も紙ではありません。3Dプリントの技術により再現された「紙」です。つまり紙を使わないで紙の輪郭を表現しています。



宙吊りになった輪郭。ポスターです。もちろん中身は一切ありません。余白、言い換えれば空間です。タイトルの「un-printed material」が示すように、印刷をしていない物質のみを提示しています。

ポスターの中には丸まって歪んでいたり、剥がれて落ちてしまっているものもありました。もちろんこれらも意図しての表現です。ほかにも破いたり折ったりして変化を付けています。紙に特有のクセ、ないし紙らしさも巧みに表していました。



遠目からでは紐のように見えるのではないでしょうか。太さは3ミリと1ミリ。ただ限りなく近づき、断面のギザギザなどを目にすると、とても精巧に紙を再現していることが分かります。微細なニュアンスも抜かりありません。



輪郭は変幻自在です。ノートでしょうか。曲線を描きながら一枚一枚とめくられています。また丸まったロールを引き延ばしたような輪郭もありました。まるでパラパラ漫画を前にしているかのようです。



奥の小部屋では輪郭が半ばオブジェとして展開しています。輪郭の折り鶴にバック、そしてコーヒーカップとアイデアは尽きません。



シンプルな展示ですが、紙ならぬ紙の輪郭が喚起するイメージを自由に想像することが出来ました。

11月17日まで開催されています。

「un-printed material」 クリエイションギャラリーG8@g8gallery
会期:10月12日(水)~11月17日(木)
休館:日・祝日。
時間:11:00~19:00。
料金:無料。
住所:中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
交通:JR線新橋駅銀座口、東京メトロ銀座線新橋駅5番出口より徒歩3分。
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「宮川香山展ー驚異の明治陶芸」 増上寺宝物展示室

増上寺宝物展示室
「宮川香山展ー驚異の明治陶芸」 
9/10~12/25



増上寺宝物展示室で開催中の「宮川香山展ー驚異の明治陶芸」を見てきました。

京都から横浜に移って窯を構えた陶芸家の宮川香山(1842〜1916)。その横浜の地に香山の焼物を蒐集したミュージアムがあります。

名は「宮川香山 眞葛ミュージアム」。眞葛とは香山の開いた眞葛窯に由来します。実業家の山本博士氏が近年、海外から里帰りさせた作品がおさめられています。

その眞葛ミュージアムのコレクションが増上寺へとやって来ました。出品数は約40点。高浮彫から釉下彩を網羅します。

まずは超絶技巧の高浮彫。「猫ニ花細工花瓶」です。ピンク色の薔薇の下で猫が毛並みを整えています。表情はリアル。薄い舌までが精巧に再現されています。薔薇の花弁も見事です。一枚一枚、丁寧に象られていました。


宮川香山「鷹ガ巣細工花瓶」

「鷹ガ巣細工花瓶」も鮮烈です。花瓶の下方、穴が開いているのは鷹の巣です。三匹の雛が餌を待っては口をあけています。そこに親鷹が飛んで来ました。巣には粉雪が混じっているのでしょうか。うっすらと白色に染まっています。鷹の羽も生々しい。デコラティブです。これぞ高浮彫の極致とも言えるかもしれません。

「武者二物ノ怪花瓶」も楽しい。手前側に武人が二人、何やら背後を気にしながら、抜き足で恐る恐る歩いているようにも見えます。何故でしょうか。答えは裏側にありました。と言うのも、ちょうど反対側に血の入った桶を担いだ鬼がいるのです。つまり鬼から逃げる武人を表現しています。

ちなみに展示台の制約上、いずれの作品も360度の方向から見ることは叶いません。ただ背後に鏡が設置されていました。それで焼物の裏手も鑑賞することが出来ます。

「蛙が囃子細工花瓶」の蛙は暁斎に影響されたと言われています。とするのも蛙は擬人化。扇を持ってはしゃいでいます。こうしたモチーフは暁斎の得意としたところでもありました。



宮川香山「七宝筒形灯籠鳩細工桜」

「七宝筒形灯籠鳩細工桜」も凝っています。大きな灯籠に止まるのは一羽の鳩。精巧です。灯籠の窓の部分が赤く染まっています。灯りを表すためでしょう。ここが七宝です。香山は焼物に七宝や金工も積極的に取り入れました。


宮川香山「磁製鯉図鉢」

後半は一転しての釉下彩が続きます。釉下彩とは香山が新たに釉薬を研究して得た磁器の作品です。後年に高浮彫から作風を変えて制作しました。

「青華菖蒲画花瓶」は黄色い地に青い菖蒲を描いた花瓶です。形も構図もシンプル。高浮彫の香山とは全く違った世界を切り開いています。

「磁製蕎麦釉古代紋花瓶」のモチーフは古代中国の青銅器です。一面に線刻が広がっています。色は確かに蕎麦の色です。見慣れません。一体どのように開発したのでしょうか。明治37年の日本美術協会美術展覧会で一等を受賞。明治天皇の旧蔵品でもありました。


宮川香山「氷窟ニ鴛鴦花瓶」

最後に一風変わった作品に目が留まりました。「氷窟二鴛鴦花瓶」です。白い氷の洞窟の中に鴛鴦がいます。氷柱は垂直。鴛鴦は互いに別の方向を見やり、視線はあっていません。若冲画との関連も指摘されているそうです。

「世界に愛されたやきものー眞葛焼 初代宮川香山作品集/神奈川新聞社」

香山といえば、今年の春前にもサントリー美術館で大規模な展覧会がありました。かの展示は150点。もちろんスケールとしては及びません。とはいえ、思いの外に優品が多い。幅広く見入りました。



「宮川香山 眞葛ミュージアム」
http://kozan-makuzu.com

なお香山に加え、増上寺の所蔵する狩野一信の「五百羅漢図」も一部展示中です。11月9日の後期からは第91幅から100幅までの10幅が公開されています。



12月25日まで開催されています。

「宮川香山展ー驚異の明治陶芸」 増上寺宝物展示室
会期:9月10日(土)~12月25日(日)
休館:火曜日。但し火曜日が祝日の場合は開館。
時間:10:00~17:00
料金:一般700円。
 *徳川将軍家墓所拝観共通券1000円。
場所:港区芝公園4-7-35
交通:JR線、東京モノレール浜松町駅から徒歩10分。都営三田線御成門駅、芝公園駅から徒歩3分。都営浅草線、大江戸線大門駅から徒歩5分。 -->
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「ラスコー展」 国立科学博物館

国立科学博物館
「世界遺産 ラスコー展~クロマニョン人が残した洞窟壁画」
2016/11/1~2017/2/19



国立科学博物館で開催中の「世界遺産 ラスコー展~クロマニョン人が残した洞窟壁画」を見てきました。

フランス南西部、ヴェゼール渓谷のラスコー洞窟に残された壁画の精密な復元壁画が、上野の国立科学博物館へとやってきました。



展示はおおむね3部構成です。はじめにラスコーの壁画の発見の経緯、ないし洞窟自体を紹介しています。洞窟に壁画が制作されたのは今から2万年前。後期旧石器時代にヨーロッパに住んでいたクロマニョン人の手によって描かれました。

存在が確認されたのは20世紀です。1940年、洞窟近くで遊んでいた子供たちによって発見されました。その後、洞窟は一度公開されますが、見学客が押し寄せたために、壁画の状態が悪化。1963年に保全のために閉鎖されました。つまり今、ラスコーの現地へ出かけても壁画の本物は見られません。



よりラスコーを世界へ知らしめたのは再現壁画です。1983年、「ラスコー2」と呼ばれる最初の再現壁画の洞窟が作られました。完成まで約10年。大変な労力があったことでしょう。現場を整備、測量した後に洞窟を制作。天然の顔料にて壁画が丹念に模写されました。



洞窟模型がラスコーの全体像を教えてくれます。スケールは10分の1。思いの外に複雑です。実際の全長は200メートル。地下に長く伸びては枝分かれしていました。



有名なのは「身廊」です。長さ20メートル、高さ7メートルの大空間。ラスコーで唯一、彩色と線刻の両方の技術を用いた絵が描かれています。



クロマニョン人は洞窟の入口付近の天井の穴から中へ入ったと考えられています。入口の浅い部分を生活の一部に使っていました。8000年前には岩石が堆積。洞窟は自然に封鎖されます。それが結果的に功を奏したのでしょう。壁画は極めて良い状態で発見されたそうです。



最も深い位置にあるのが「井戸状の空間」です。壁にはトリ人間らしき奇妙なモチーフが表されています。意味するところは今も明らかではありません。また地面からはランプやトナカイの角の槍先なども見つかりました。



最奥部は「ネコ科の部屋」です。ラスコー洞窟でただこの空間だけにネコ科の動物が描かれています。狭くて長い。途中で這わなくては潜り込めません。



ハイライトは実寸大壁画の再現展示です。名付けて「ラスコー3」。フランス政府公認の移動可能な立体壁画です。レーザー測量技術により1ミリ以下の精度で壁画が作製されました。



「ラスコー3」は全部で5つ。「身廊」と「井戸状の空間」にある壁画です。写真では分かりにくいかもしれませんが、ともかく臨場感が凄い。迫力があります。まるで本物の洞窟に迷い込んだかのようでした。



壁画も極めて精巧です。「身廊」の「黒い牝ウシ」も堂々としたもの。色鮮やかなのは「背中合わせのバイソン」でした。また例の「トリ人間」も奇妙です。バイソンの前で倒れる人物の頭が何故かトリになっています。ちなみに洞窟で発見された動物の骨の90%はトナカイだったものの、トナカイは1頭しか描かれていないそうです。どういうわけなのでしょうか。



しばらくすると照明が切り替わります。すると「身廊」の線刻がライトで浮かび上がってきました。壁画と線を交互に見せる仕掛けです。



5点ということで、量こそ多くはありません。とはいえ、これほどに緻密であれば、複製でも十分に見応えがあります。撮影も可能です。何度も行き来しては楽しみました。

ラストは壁画を描いたクロマニョン人に関する展示でした。名付けて「芸術のはじまり」です。そもそもヨーロッパではクロマニョン人以前の文化に芸術的要素が殆ど見当たりません。

「体をなめるバイソン」や「ヴィーナスと呼ばれる小立像」をはじめ、「ネコ科の動物が彫られた投槍器」など貴重な品々が集結。フランス国立考古学博物館から相当数の資料が出展されています。日本初公開も少なくありません。

また順は前後しますが、洞窟から発掘された「ラスコーのランプ」も要注目ではないでしょうか。人類が火を使ったのは100万年前以上に遡りましたが、灯りとして炎を持ち込んだのはクロマニョン人が最初といわれています。このランプで使って壁画を描いたのかもしれません。皿のくぼんだ部分に動物の脂を垂らして火をつけたそうです。ランプ自体はほかの洞窟でも多く見つかっていますが、これほど形状が美しいものはないそうです。



さらに洞窟から出土した顔料や線刻に使ったとされる石器なども展示。クロマニョン人を等身大で復元した人形も良く出来ていました。



最後に会場内の情報です。11月3日の祝日に観覧して来ましたが、賑わっていたものの、特に列もなく、総じてゆっくり見られました。

ただ何かと知名度のあるラスコーのことです。会期末に向けて混雑も予想されます。お出かけの際には公式アカウント(@lascaux2016)、ないしは科博WEBサイトの「混雑状況」の情報などを参照ください。



2017年2月19日まで開催されています。

「世界遺産 ラスコー展~クロマニョン人が残した洞窟壁画」@lascaux2016) 国立科学博物館
会期:2016年11月1日(火)~2017年2月19日(日)
休館:月曜日。但し12月26日(月)、1月2日(月)、1月9日(月)、2月13日(月)は開館。年末年始(12月28日~1月1日)。
時間:9:00~17:00。
 *金曜日は20時まで開館。
 *土曜日、及び11月2日(水)、3日(木)は特別展のみ17時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般・大学生1600(1400)円、小・中・高校生600(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *金曜限定ペア得ナイト券2000円。(2名同時入場。17時以降。)
住所:台東区上野公園7-20
交通:JR線上野駅公園口徒歩5分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成線京成上野駅徒歩10分。
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