「風景画の誕生 ウィーン美術史美術館所蔵」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「風景画の誕生 ウィーン美術史美術館所蔵」 
9/9-12/7



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「風景画の誕生 ウィーン美術史美術館所蔵」のプレスプレビューに参加してきました。

山や海をはじめ、深い森、また都市などの景観が美しく表現された風景画。好きな作品の一つや二つはすぐに思い浮かぶかもしれません。ただ風景画が興ったのは何時の頃に遡るのでしょうか。あまり意識することはないかもしれません。

はじまりは聖書や神話の物語でした。15世紀以降、絵画の中の「描かれた窓」(解説より)の中に取り入れられた風景。いわゆる後景と言っても良いでしょう。宗教画でも多く描かれるようになります。


左:南ネーデルラントの画家「東方三博士の礼拝」 1520年頃 油彩・板

南ネーデルラントの画家の「東方三博士の礼拝」です。中央の青、ないし深緑色の服を着て座るのが聖母マリア。両手には幼子のイエスを抱きかかえています。そしてマリアと向き合い、イエスを見やるのが三博士。恭しく贈り物を差し出そうとしています。ほか着飾った多くの人物たちも描かれています。ともすると風景にはあまり目が向かないかもしれません。

ただ確かに中央の奥には山や家などの風景が描かれています。そして右最上段、アーチ状の建造物に立つ二人の人物に注目です。分かりにくいかもしれませんが、描かれているのは後ろ姿のみ。ほかの人物がほぼマリアやイエスを見ているのに対し、まるで反対側を向いています。とすれば何を見ているのでしょうか。結論から言えば後ろに広がる風景を見渡しているのです。


右:ヨアヒム・パティニール「聖カタリナの車輪の奇跡」 1515年以前 油彩・板

美術史上、初めて「風景画家」と呼ばれた人物がいます。ヨハヒム・パティニールです。かのデューラーが「良き風景画家」と讃えました。「聖カタリナの車輪の奇跡」では確かにカタリナの伝説を描いていますが、主役はもはや広大なる風景と言っても良いかもしれません。高い位置から岩山を俯瞰し、城館を見据え、海を望んでいます。

うっすらと帯びた後景の青。色彩遠近法です。前景に暖色、後ろに寒色を配しては奥行き感を巧みに作り上げています。ただここではカタリナの奇跡の様子もドラマテックで面白いもの。中景の左で燃え上がるのが哲学者らを殺害した薪の山。一方、右手中段、燃え上がる車輪の前で跪き、祈りを捧げているのがカタリナです。ともに描写は細かい。剣を持ち、ひっくり返っている男たちも真に迫っています。


ヒエロニムス・ボスの模倣者「楽園図」 1540~50年後頃 油彩・板

僅か縦25センチほどの小さな画面ながらも実に緻密です。「楽園図」です。画家はおそらくはボスの模倣者。風景というよりも奇景。摩訶不思議な植物や生き物が現れます。ボスが描き、現在はプラド美術館にある「快楽の園」に倣ったと考えられているそうです。

一つのハイライトとも言えるのではないでしょうか。月暦画です。画家の名はレアンドロ・バッサーノ。1年12ヶ月の生活、季節毎に変わりゆく人々の生活や労働の様子を表現。自然の風景とともに、天体の進行、星座とあわせて、一つのスペクタクルとも言うべき絵画世界を展開しています。


レアンドロ・バッサーノ「月暦画」連作 展示風景

ウィーン美術史美術館にはうち9月、10月、12月意外の9枚を所蔵。その全てが一部屋をぐるりと囲むように展示されています。(9、10はプラハに所蔵。12月は行方不明になっているそうです。)


右:レアンドロ・バッサーノ「8月」 1585年 油彩・キャンヴァス

あえて一枚挙げるとするならば「8月」。人々が一生懸命に樽を作っていますが、もちろんこれはこの後に収穫されるぶどう、すなわちワインを貯蔵するためのもの。また奥では羊の毛を刈り込んでいます。そして空を眺めれば乙女座を表す女性のシンボル。ユニコーンの姿も見えました。


右:ダーフィット・テニールス(父)「メルクリウスとアルゴス、イオ」 1638年 油彩・銅板

それにしても本展、ともかく風景画の誕生から成立に至るまでの前半部が充実しています。ほかヤン・ブリューゲル父子、ドッソ・ドッシ、ダーフィット・テニールス父、ファルケンボルフなどに目を引く作品が多い。いずれもウィーン美術史美術館のコレクションです。フランドル、オランダなどの北方絵画に定評のある同美術館ならでは展示と言えそうです。

さて後半は風景画の展開です。17世紀になると風景は物語の舞台ではなく、独立した主題として描かれるようになりました。


右:アールト・ファン・デル・ネール「月明かりの下の船のある川の風景」 1665~70年頃 油彩・キャンヴァス

アールト・ファン・デル・ネールの「月明かりの下の船のある川の風景」はどうでしょうか。水辺の風景、たくさんの帆船が浮かび、漁をする小舟の姿も見えます。左には廃墟、右は木立に館。画面の大半を占めるのが空です。明るい満月。まるで夕景の如く空をピンク色に染めています。一方で水面や背景は青白い。独特の詩情をたたえてもいます。


左:ヤーコブ・ファン・ロイスダール「渓流のある風景」 1670~80年頃 油彩・板で裏打ちされたキャンヴァス

日本でもお馴染みの風景画家も登場します。例えばロイスダールです。名は「渓流のある風景」。かなり激しい水の流れ落ちる川を捉えた一枚。岩場には木が横倒しになり、洪水の後のようにも見えます。そして小屋の前にいる小さな人影。荒々しい土地です。背後には雄大な山も垣間見えます。自然の厳しい姿を表現しています。


右:カナレット「ヴェネツィアのスキアヴォーニ河岸」 1730年頃 油彩・キャンヴァス

ラストはイタリアの風景、カナレットです。「ヴェネツィアのスキアヴォーニ河岸」。広く、うっすら桃色を帯びた雲の下に広がるヴェネツィアの町。パノラマです。右手に建物が連なり、行く手にはサン・マルコ広場の鐘楼も見えます。左は岸。大小様々な船がたくさん浮かんでいます。線に色に緻密な表現。いわゆる都市景観図です。特にイタリアを訪れたイギリスの人々に人気を集めました。

出品は全70点。ウィーン美術史美術館のコレクションで辿る風景画の歴史。テーマは明快です。思いの外に読ませる展示でもありました。

9月25日(金)より金・土曜の夜間開館時のみに利用出来る新たなタブレットガイド貸出サービスが始まりました。

「スペシャルコンテンツ収録のタブレットガイドが登場!」(Bunkamura ザ・ミュージアム)

タブレットには美術ジャーナリスト藤原えりみさんの見どころ解説のほか、石井ゆかりさんの「星座メッセージ」、また福岡伸一さんや原田マハさんによるエッセイ、さらにはリアルタイムで参加可能な作品ランキングなどのコンテンツを搭載。専門的な内容からエンターテイメントまでと盛りだくさんです。タブレットを操作することで、様々な角度から展覧会を楽しむことが出来ます。


「風景画の誕生 ウィーン美術史美術館所蔵」展タブレットガイド

タブレットガイドの貸出は上記にもあるように9月25日(金)以降、展覧会終了までの毎週金、土曜の夜間開館時(19時~21時)のみ。貸出台数は50台。利用料金は通常の音声ガイドと同じく520円です。(受付で通常のガイドかタブレットのどちらかを選ぶことが出来ます。)

最後に学生のみなさんにお得な情報です。10月5日(月)は「キヤノン・ミュージアム・キャンパス」のため無料で入館出来ます。

[特別プログラム キヤノン・ミュージアム・キャンパス]
日時:10月5日(月) 10:00~17:00(最終入場16:30)
会場:Bunkamuraザ・ミュージアム
対象:大学生(大学院生、短期大学生、専門学校生、高等専門学校の4・5年生を含む)
申込み:不要
料金:無料

当日は休館日。学生のみを対象とした無料観覧日です。つまり学生のみの貸し切りイベントです。平日の月曜ではありますが、これを機会にBunkamuraまで出かけてみては如何でしょうか。



12月7日まで開催されています。

「風景画の誕生 ウィーン美術史美術館所蔵」 Bunkamura ザ・ミュージアム@Bunkamura_info
会期:9月9日(水)~12月7日(月)
休館:10月5日(月)。
時間:10:00~19:00。
 *毎週金・土は21:00まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。要事前予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。作品は全てウィーン美術史美術館所蔵。
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「そこにある、時間」 原美術館

原美術館
「そこにある、時間ードイツ銀行コレクションの現代写真」 
2015/9/12-2016/1/11



原美術館で開催中の「そこにある、時間ードイツ銀行コレクションの現代写真」を見てきました。

「写真とは何なのか」(チラシより)。それを主に1970年代以降の写真表現で見定める展覧会です。作品は全てドイツ銀行のコレクション。メインテーマは表題の如く「時間」です。以下の4つの切り口に分けて紹介しています。

1.時間の露出/露出の時間
2.今日とは過去である
3.極限まで集中した時間
4.私の未来は夢にあらず

まず入口正面のギャラリー1。「時間の露出/露出の時間」です。お馴染みの杉本博司や佐藤時啓らの中で目立っていたのはダヤニータ・シン。インドの出身、ニューデリーで活動する写真家です。

壁の上部、見上げるように展示されているのは一枚の写真、夜景です。場所は不特定、さも地平線までビルや家が続くような巨大都市が写されていますが、道路のオレンジ色の光跡がまるで炎のようです。都市を燃やし尽くさんとばかりに四方八方へ広がっています。

これは昼間の自然光用に調整したフィルムで撮った夜景だそうです。だからでしょうか。どこかトリッキー。さもSF世界に出てくるような非現実的な都市を見ているような錯覚にもとらわれます。

写真における非現実的な世界。イタリアのルイジ・ギッリはどうでしょうか。とある平屋の建物、屋外のテラスに人が集っていますが、そこだけが明るく、周囲は真っ暗。何も見えません。闇は今にも彼らを飲み込もうとしています。果たしてこの世の景色なのでしょうか。幻を見ているかのようでした。

ドイツのアネット・シュトゥートの「記憶」も面白い。室内の部屋です。手前には赤ん坊が眠っていますが、壁に貼られた地図の向こうは家があり、そのテラスからは小道が続いています。いわゆるコラージュの手法だそうですが、一体どこが屋内で屋外なのか、はたまたどの空間が現実で虚構なのかが判別しません。

現実と虚構の曖昧な関係。中国のチュウ・ジァも同様です。「ゼロ」の名付けられたポートレート。モデルは一人の女性です。視点は定まらず、何やら遠方を見ているようですが、果たして彼女が何かを演じているのか、はたまた現実に何かを訴えかけているのかが明らかではありません。舞台上のようでもあり、そうでもないようにも見えます。

水戸芸術館の個展の記憶も新しい韓国のヂョン・ヨンドゥもまた曖昧な現実を提示していました。雪の降り積もる屋外。無人でしょうか。夜の闇が広がり、あたりに人の気配もありません。これは現実なのでしょうか。雪はセットかもしれません。ありそうでない景色。写真からではよく分かりません。知覚を揺さぶられます。

現実ならぬ夢の世界を写真に再現しているのが中国のツァオ・フェイです。舞台は「工場か倉庫」(解説より)。うず高く、人の何倍もの高さまで積まれた梱包物。IKEAの売場を連想しました。そして中央の通路では着飾った1人の女性が軽やかにもステップを踏んでいます。これぞ彼女の夢を再現したもの。バレエダンサーです。そしてこの倉庫は職場なのでしょう。

ドイツのマルティン・リープシャーには驚きました。タイトルは「サントリーホール、東京」。文字通りクラシックファンでは馴染みのあるホールです。作品はそのパノラマ写真。といっても単に写しているだけではありません。ステージには指揮者とオーケストラのメンバーがのり、客席はたくさんの観客で埋め尽くされています。皆男です。しかもその全てをほぼ一人で演じています。

これが面白い。特に客席です。観客は何も静まり返って音楽に耳を傾けているわけでなく、時に缶コーヒーを飲んだり、床に座り込んだり、壁によじ登ろうとしたりと、すこぶる行儀が悪い。また立ち上がって拍手を送ったり、これから席に着き、あるいは帰ろうとする姿もあります。時間もバラバラです。

とすると一気に現実のサントリーホールが「非現実的なイメージ」(解説より)へと変化して見えました。それにしてもディテールへの凝りよう。小道具も利いています。良く演じ、良く撮ったものだと感心してしまいました。

フランス出身のイト・バラーダの「系図」に惹かれました。木のフレームに収められた一枚の写真。浮き上がるのは木目です。そこに赤い染み、ないしは斑紋が点々と連なっています。抽象絵画とも言えるでしょうか。はじめは何を写しているのか想像も付きませんでした。

結論から言えば壁。しかも長らく掛かっていた家族の肖像写真を外した後の壁です。そこに家族の姿こそなくとも、壁の染みに家族の記憶は残っているはずです。また家族を知らない見る側、つまり我々も、染みにその姿を想像してしまいます。

作品は全60点。上に挙げた写真家以外にもボリス・ミハイロフ、ゲルハルト・リヒター、やなぎみわ、アンドレアス・グルスキーらといったビックネームもずらり。作家は40組にも及びます。

何かとスペースに制約もある原美術館、ともすると見足りないと思う展示もないわけではありませんが、今回は質とともに量も不足ありません。気がつけば1時間は滞在していたのではないでしょうか。思いがけないほど見ごたえがありました。

アジア各国を廻る巡回展でもあるそうです。定評のあるドイツ銀行の写真コレクションを見る貴重な機会とも言えそうです。

2016年1月11日まで開催されています。

「そこにある、時間ードイツ銀行コレクションの現代写真」 原美術館@haramuseum
会期:2015年9月12日(土)~2016年1月11日(月・祝)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる9月21日、10月12日、11月23日、1月11日は開館)。9月24日、10月13日、11月24日は休館。および年末年始(12月28日~1月4日)。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
 *原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
 *20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
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「『月映(つくはえ)』田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎」 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリー
「『月映(つくはえ)』田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎」
9/19-11/3



東京ステーションギャラリーで開催中の「『月映(つくはえ)』田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎」を見てきました。

今から100年前の1914年、まだ20代だった3人の美術学生が、自らの作品を世に送りだそうと、一冊の雑誌を刊行しました。

それが「月映」(つきはえ)。3人とは表題の通り田中恭吉、藤森静雄、恩地孝四郎です。結果的に田中が若くして亡くなったため、創刊から僅か1年にて終刊してしまいますが、彼らの残した詩や絵画は、今も多くの人の心を惹き付けてやみません。

はじまりは3人の出会いです。先に知り合ったのは田中と藤森。1911年、ともに東京美術学校予備科に入学。田中は日本画、藤森は西洋画を学びました。また同年、同じく予備科彫塑部志望に入学したのは恩地。後に2人と出合います。

その3年後に「月映」の刊行の話が持ち上がりました。と言ってもまずは出版社を探さなくてはなりません。すると「夢二画集」や「白樺」を出版していた洛陽堂が赤字覚悟で出版を引き受けました。また公刊「月映」の準備期間にいわゆる私家版も制作。当時は必ずしも主流ではなかった木版画の詩画集づくりに没頭しました。


藤森静雄「夜」 1914年 愛知県美術館

詩情豊かな藤森静雄、「夜のうた」からして魅惑的です。ピアノを前にした一人の男、鍵盤を叩いていますが、ピアノから広がるような白い斑紋の彫りが美しい。まるでピアノから奏でられた音が空間を満たしているかのようです。なお藤森は夜の景色がすこぶる良いもの。藍色に染まった夜に瞬いた白い星。夢幻的とも言える世界を作り上げます。

田中恭吉の「五月の呪」にも惹かれました。植物を前に手をあわせている男。裸でしょうか。全身からは白く毛羽立った光、言い換えればオーラのようなものが発せられています。強く祈るような仕草です。しかしながらタイトルには呪いとあります。田中は何故にこのような題をつけたのでしょうか。何やら強い念も感じられました。


恩地孝四郎「抒情 躍る」 1915年 愛知県美術館

後に抽象表現へと進んだ恩地、「よりそふもの」も面白い作品です。色面分割としたら言い過ぎでしょうか。曲線を用いては幾何学的な構成を作り上げます。そして突如現れるのが目。画面の向こうから何者かが覗き込んでくるかのようです。ただなぬ気配がありました。

これら3点はいずれも私家版「月映」のための作品です。ほか恩地の「キリストとマリア」も劇的で美しい。イエスの身体はもはや透き通っては魂がありません。手を広げてはまさに昇天しています。そして下にはマリアの姿。慟哭しています。身を大きく屈めては十字架を抱きかかえていました。

「月映」の構想前、1913年に田中は肺結核にかかったそうです。そして翌年には療養のために和歌山の実家へと帰りました。3人揃って東京で「月映」を制作した期間は僅か1ヶ月ほどです。以後は和歌山の田中と東京の藤森、恩地の間で手紙を交わしては「月映」の刊行を目指していきました。


公刊「月映」7輯 1915年11月発行 和歌山県立近代美術館

創刊号は1914年の9月。機械刷りです。200部限定で公刊されました。

田中が公刊「月映」のために制作した版画は有名な「冬虫夏草」ともう1点、計2点に過ぎません。そのかわりに詩歌を提供しては「月映」の制作に関わっていきます。編集を担当したのは恩地でした。


田中恭吉「冬虫夏草」 1914年 愛知県美術館

実は私が田中恭吉の名を知ったのも「冬虫夏草」でした。いつぞや何らかの展覧会で偶然出会い、一目で強く惹かれた一枚です。植物や自然に生命の営みを見出した田中、実際にも植物のモチーフを多く取り込んでいます。荒野に敢然と生える冬虫夏草。光を求めてはさも両手を広げるかのように葉をのばしています。死の不安云々とも語られる田中ですが、だからこその強い意志、生きることへの決意のようなものが感じられました。

1915年10月に田中は逝去。僅か23歳の若さで亡くなってしまいます。そして「月映」の制作もストップ。7輯の「SEPARATION」を最後に終刊となりました。


田中恭吉「死人とあとに残れるもの」 1914年 和歌山県立近代美術館

ただし田中の遺志は二人に受け継がれます。例えば死後、藤森と恩地によって田中の遺作展を開催。さらには生前、田中は萩原朔太郎に挿画の仕事を頼まれていましたが、それを恩地の装丁で実現。田中のペン画である「心原幽趣」を、萩原の詩集「月に吠える」の挿画に掲載します。いわば遺作と呼べる一連の作品も胸を打ちました。


藤森静雄「亡びゆく肉」 1915年 愛知県美術館

作品のほか手紙などの資料も多数。なにせ出品は全部で340点です。また私家版と公刊を比べることで、手刷りと機械刷りの違いを見ることも出来ます。質量ともに申し分ありません。

会期中に展示替えがあります。ただし「リピーター割」として半券を提示すると2回目は500円で観覧出来ます。

前期:9月19日~10月12日
後期:10月14日~11月3日

巡回先の評判を耳にしていましたが、期待通りに見応えのある展覧会でした。図録も大変に良く出来ています。図版ほか論考多数。永久保存版になるのではないでしょうか。

「田中恭吉 ひそめるもの/玲風書房」

もちろん後期も出かけるつもりです。11月3日まで開催されています。これはおすすめします。

「『月映(つくはえ)』田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎」 東京ステーションギャラリー
会期:9月19日(土)~11月3日(火・祝)
休館:月曜日。但し9/21、10/12、11/2は開館。10/13。
料金:一般900円、高校・大学生700円、中学生以下無料。
 *20名以上の団体は100円引。
 *リピーター割:会期中、半券を受付に提示すると入館料が500円。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
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「モネ展」 東京都美術館

東京都美術館
「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」 
9/19-12/13



東京都美術館で開催中の「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」のプレスプレビューに参加してきました。

パリ16区にあるマルモッタン・モネ美術館。モネが最期まで手元に留めておいた、言わばプライベートコレクションを所蔵することでも知られています。

そのマルモッタン美術館のコレクションによるモネ展です。また印象派の名の由来となった「印象、日の出」が21年ぶりに東京にやって来ています。

さて先に「手元に残した」というモネのコレクション。一例として挙げられるのが家族の肖像です。そもそも自然や風景を描き続けたモネは人物画をさほど残していませんが、妻や子らの肖像だけは亡くなるまで自らが保管していました。


左:クロード・モネ「トゥルーヴィルの海辺にて」 1870年 油彩、カンヴァス

「トゥルーヴィルの海辺にて」はどうでしょうか。モネが7歳年下のカミーユと正式に結婚した年に描かれた一枚。ノルマンディーの有名な避暑地、トゥルーヴィルに出かけた際の光景です。前景の二人の女性。左がカミーユでしょう。筆遣いは大胆。背後の人物たちは絵具を散らしたようなタッチで表されています。白とグレー、あるいはブルーのストライプのドレスでしょうか。こちらに目を向けてはポーズを構えています。ドレスに光が反射していました。モデルとの距離は近い。まさしく家族のスナップショットを切り取ったかのような作品でもあります。

作家モーパッサンはモネを「狩人」と称したそうです。由来はモネが好んでいた旅行。モネはさながら風景を狩るかの如く、各地を渡り歩いては、風景をキャンバスに写していきました。


左:クロード・モネ「雪の効果、日没」 1875年 油彩、カンヴァス

かの傑作「かささぎ」の例を挙げるまでもなく、雪景もモネが得意とした主題でもあります。「雪の効果、日没」です。セーヌ川沿いのアルジャントゥイユの町並み。地面にはかなり雪が積もっています。後ろを見やれば建物は夕陽で染まっていました。工場でしょうか。煙がのぼっています。モネの描いた郊外の風景画では珍しいモチーフでもあるそうです。

「印象、日の出」は展示室の奥にただ1点、ほかの作品とはやや距離を置いて展示されていました。舞台は朝もやのル・アーヴル。モネが19歳まで過ごした港町です。おそらくは町の地形を手にとるように把握していたことでしょう。ノルマンディー地方の風景は後にも多く描きましたが、本作は同地での最初期の風景画でもあります。


クロード・モネ「印象、日の出」 1872年 油彩、カンヴァス *展示期間:9月19日~10月18日

暗がりの中、やや強めのライトに浮かび上がる「印象、日の出」。水面はうっすら青、あるいは緑がかっていますが、思いの外にグレーが強い。空を見上げれば朝焼けです。丸い太陽が低い位置にのぼり、水面へ向かって朱色の光を伸ばしています。小舟が浮かび、人の姿も垣間見えました。海は凪、立ち上がる煙も僅かに傾くのみ。風は殆ど吹いていないのでしょう。背景には港町の雑多な景色が広がります。縦の線が効果的です。マストやクレーンが立ち並んでいました。

それにしても意外なほどに濃い朱色の太陽。夕景かと見間違えてしまいますが、かつては実際に夕方を描いたのではないかという指摘があったそうです。

その議論は2014年、マルモッタン美術館の調査によって一定の結論が得られました。まずは当時の写真や地図から場所を特定、さらに気象などの記録を参照します。煙の描写から風は東向きであることが分かったそうです。決定的なのは水門です。なかなか判別出来ないかもしれませんが、画面中央には水門があり、開いています。その開門時間と太陽の位置を比較検討。モネのサインまでも分析したそうです。結果、作品は1872年11月13日、朝の7時半頃を描いたことが判明しました。(この経緯は会場内のパネルでも丁寧に紹介されています。)


左:クロード・モネ「白いクレマチス」 1887年 油彩、カンヴァス

モネの愛したジヴェルニーの庭。睡蓮のシリーズが10点近く出ていました。そもそも庭造りに精を出してたモネ、よく知られるように当地の野の花だけではなく、日本の桜を植えるなどして花の庭を築き上げました。


中央:クロード・モネ「睡蓮」 1916-19年 油彩、カンヴァス

上の写真の「睡蓮」の3点はいずれもオランジュリー美術館を飾るための大装飾画のための準備作です。後年のモネならではの自在なタッチ。水面に映り込む柳はさも水にそよぐ水草のようです。そこへ白や紅色の花がぽっかりと浮かびます。また特徴的な紫の色面です。靄のように画面を覆っています。さらに晩年の「睡蓮」も出ていました。もはや形が色に溶けては交じり合っていきます。幻影的と言っても良いのではないでしょうか。モネが白内障を患っていたことはよく知られていますが、どういう形であれ、彼だけがなし得た一つの到達点だと言えるのかもしれません。


左:クロード・モネ「日本の橋」 1918-24年 油彩、カンヴァス

モネの最晩年の作品は15点ほどまとめて出ていました。「しだれ柳」に「日本の橋」、そして「バラの橋」。線は波打ってはのたうち回り、色は時に燃え上がるように輝いてもいます。表情は激しい。枯れません。もはや景色は混沌とし、あるいは錯綜しています。率直なところ、この頃のモネの作品は好き云々の判断は分かれるやも知れません。ただ今回のモネ展では一つのハイライトを成していました。


クロード・モネ「演劇界の小パンテオン」 1860年 鉛筆、グアッシュによるハイライト、茶色の紙

最初期、10代の頃に描いたカリカチュアや、モネ自身が収集した芸術品にも目を向けているのもポイントです。ドラクロワやブータンの水彩の小品、さらにはロダンの彫刻も出ていました。マルモッタンのコレクションを通してモネの生涯、ないしは同時代の芸術家たちへの視点を垣間見える展示とも言えそうです。


左:クロード・モネ「キスゲの花」 1914-17年 油彩、カンヴァス

最期に会場の情報です。会期早々、シルバーウィーク中も多くの人で賑わいました。一部、昼間の時間帯には最大で30~40分程度の入場待ちの列も発生したそうです。

館内の状況については公式サイトで随時更新、またツイッターアカウント(@monet2015_ntv)もこまめに発信しています。毎週金曜、及び10月18日までの土曜に設定されている夜間開館なども狙い目となりそうです。

[マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展 巡回予定]
福岡市美術館: 2015年12月22日(火)~2016年2月21日(日)
京都市美術館: 2016年3月1日(火)~2016年5月8日(日)
新潟県立近代美術館:2016年6月4日(土)~2016年8月21日(日)

それにしてもモネの大規模な展示といえば、2007年に国立新美術館の開館を記念して行われた「大回顧展 モネ」を思い出します。

オルセーのコレクションを中心としたモネ100点で構成。さらに周辺の印象派画家を紹介するという大規模な展覧会でした。あのモネ展で出会った「日傘の女性」や「かささぎ」、それに「サン=ラザール駅」などの記憶は未だ忘れられません。


「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」展示風景

今回は全てマルモッタンのコレクション。モネ自体の作品は70点ほどです。先にも触れましたが、ほかにモネの収集した作家の小品などが加わります。

もちろん「印象、日の出」などの話題作もありますが、よりモネの画風の変化、ないし趣向の在り方などをシンプルに追った展示だという印象を受けました。


図版:クロード・モネ「ヨーロッパ橋、サン=ラザール駅」 1877年 油彩、カンヴァス *展示期間:10月20日~12月13日

なお「印象、日の出」は10月18日までの期間限定の展示です。以降は「ヨーロッパ橋、サン=ラザール駅」に入れ替わります。



12月13日まで開催されています。

「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」@monet2015_ntv) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:9月19日(土) ~ 12月13日(日)
時間:9:30~17:30
 *入館は閉館の30分前まで。
 *毎週金曜日は21時まで開館。
 *9月19日(土)~10月18日(日)の金・土曜日、及び9月20日(日)~9月22日(火)、10月11日(日)は21時まで開館。
休館:月曜日。10月13日(火)、11月24日(火)。ただし9月21日(月・祝)、10月12日(月・祝)、11月2日(月)、11月23日(月・祝)は開館。
料金:一般1600(1400)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *9/19(土)~9/30(水)は高校生無料観覧日(要学生証)
 *毎月第3水曜日は「シルバーデー」のため65歳以上は無料。
 *毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。作品はいずれもマルモッタン・モネ美術館蔵。
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「最後の印象派」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館

東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
「最後の印象派 1900-20's Paris カリエール、アマン=ジャン、ル・シダネル…」
9/5-11/8



東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「最後の印象派 1900-20's Paris」を見てきました。

20世紀初頭のパリ。いわゆるフォーヴやキュビズムなどの運動に加わらず、印象主義や新印象主義のスタイルを受け継ぎながら、絵を描き続けていた画家たちがいました。

それを「最後の印象派」と名付けて紹介する展覧会です。約20名。彼らの多くはサロン出身でソシエテ・ヌーヴェル、訳して画家彫刻家新協会に属していました。


エドモン・アマン=ジャン「囚われの女」 1913年 油彩/キャンヴァス 個人蔵
photo © Yves Le Sidaner


はじまりはエコール・デ・ボザール、国立美術学校のレーマンのアトリエに学んでいた画家です。例えばエドモン・アマン=ジャンにエルネスト・ローラン。ともにスーラとも親交があったそうです。ジャンが得意としていたのは女性像。「アンティミテ」では二人の女性がソファに腰掛けてくつろぐ様子を描いています。まさに日常の一場面、姉妹なのでしょうか。どことなく親密な空気が漂ってもいました。


エルネスト・ローラン「背中」 1917年 油彩/キャンヴァス 個人蔵
photo © Yves Le Sidaner


ローランはジャンよりも新印象主義の技法を取り入れた画家です。「背中」はどうでしょうか。椅子に腰掛けた女性を後ろから表した一枚、各所に点描の筆致を見ることが出来ます。それにしても首筋にうなじ。ハンマースホイの描く女性を思い出したのは私だけでしょうか。彼女はこの後、振り向くのか、それとも向こうを見続けるのか。謎めいた雰囲気すら感じられます。

シダネルが7点ほど出ていました。アンティミストの画家です。カバネルに師事しながらも印象主義に傾倒。ブリュージュに滞在しては象徴主義の表現を吸収していきました。


アンリ・ル・シダネル「日曜日」 1898年 油彩/キャンヴァス Douai, musee de la Chartreuse
photo © Douai, Musee de la Chartreuse - Photographe : Hugo Maertens


私としても好きな画家の一人。シダネルがあるだけでも嬉しくなってしまいますが、あえて一点を挙げるとすれば「日曜日」。1900年のパリ万博で銅賞にも輝いた作品です。

白く、あるいはパールカラーに染まるドレスを着た女性たち。丘の上の高台です。彼方には川も見えます。穏やかな情景。神話の世界を主題にしているのかもしれません。強い逆光です。手前に影がのびています。何とも美しく、また神秘的ではないでしょうか。

「黒の一団」と呼ばれた画家たちも登場します。ブルターニュ地方の自然、あるいは農民や漁民たちの生活をリアリスティックに描いたというグループです。うち惹かれたのはプリネの「カブールの浜辺」でした。舞台は同じくフランス北西部ながらもノルマンディー地方のリゾート地。浜辺は多くの人で賑わっています。そこを横切るのがおそらくは母子。婦人と少女です。白いドレスと赤いドレス。風が吹いているのでしょうか。帽子を押さえては足早に駆けています。何とも臨場感のある光景です。まるで映画のワンシーンでした。


シャルル・コッテ「星の夜」 1894年 油彩/キャンヴァス Galerie Thierry Mercier
photo © Yves Le Sidaner


同じく「黒の一団」ながらもコッテの「星の夜」は違いました。白い星の煌めく夜の下、海の上を帆船が進む。空は水色に染まり、船は夜の闇に溶けては微睡んでいるかのようでもあります。実に幻想的でした。


エミール・クラウス「リス川の夕陽」 1911年 油彩/キャンヴァス
Collection particuliere - Courtesy Galerie Patrick Derom
photo © Galerie Patrick Derom


シダネルと親交のあった画家です。ベルギーのエミール・クラウス。作品は3点出ていましたが、うち特に目を引くのが「リス川の夕陽」です。まさに川の向こう、高木の彼方へ沈まんとする夕陽。全ての光は陽の一点に収斂していて輝かしい。クラウスは「光輝主義」の画家としても知られています。細かな筆触はまるで光の粒を表現しているようでした。


アルベール・バールトソン「ロンドン、カノン・ストリート・ブリッジ」 1918年 油彩/キャンヴァス 個人蔵
photo © GYM


同じくベルギーに生まれたアルベール・バールトソンも面白い。作品は「ロンドン、カノン・ストリート・ブリッジ」、舞台は文字通りロンドンです。川面、橋の橋脚を大きくクローズアップしては描いた一枚。澱んだ水面に煙突から立ち上がる煙、そしてグレーの空。これぞロンドンです。彼の地の情景を巧みに表しています。


ウジェーヌ・カリエール「カリエール夫人」 1883年 油彩/キャンヴァス 個人蔵
photo © Yves Le Sidaner


ラストはジャック=エミール・ブランシュ、アルベール・ベナール、そしてウジェーヌ・カリエールへと続きます。カリエールは4点でした。うち一つ挙げるなら「カリエール夫人」です。得意のセピア色の画面、朧げに女性、夫人の顔が浮かび上がります。ただし前をしっかり見据え、目ははっきりと開いています。どこかモデルの強い意志を感じさせる一枚です。

出品は全82点。その殆どが海外の美術館、ないしは個人のコレクションです。知られざる画家の見慣れない作品も少なくありません。その意味でも発見の多い展覧会でした。


アンリ・マルタン「緑の椅子の肖像、マルタン夫人」 1910年 油彩/キャンヴァス 個人蔵

「ユトリロとヴァラドン」、「ノルマンディー展」など、このところ西洋絵画展に見るべき点の多い損保ジャパン日本興亜美術館ならでは好企画だと言えるのではないでしょうか。

11月8日まで開催されています。

「最後の印象派 1900-20's Paris カリエール、アマン=ジャン、ル・シダネル…」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
会期:9月5日(土)~11月8日(日)
休館:月曜日。但し9/21、10/12は開館。
時間:10:00~18:00 毎週金曜日は20時まで。 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200(1000)円、大学・高校生800(650)円、中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *65歳以上1000円。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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ミュージアムコンサート「ロスコルームの音楽」が開催されます

現在、DIC川村記念美術館で開催中の「絵の住処ー作品が暮らす11の部屋」。全110点のコレクションを「作品と空間の関係に注目」して紹介する一大コレクション展です。



「絵の住処ー作品が暮らす11の部屋」@DIC川村記念美術館
会期:5月26日(火)~2016年1月11日(月・祝)
http://kawamura-museum.dic.co.jp/exhibition/index.html

お馴染みのロルコルームしかり、大小11の様々な展示室からなる同美術館のことです。その魅力を改めて確認し得る展示になっているのではないでしょうか。

「絵の住処」展に関連しての音楽イベントです。ミュージアムコンサート「ロスコルームの音楽ー静かな旅」が行われます。



[ロスコルームの音楽 静かな旅]
ハスケル・スモール(ピアノ)
12月12日(土) 開場17:45、開演18:00
要予約、一般4000円、友の会3500円。
チケット発売日 友の会9月23日(水・祝)、一般10月2日(金)
主催:DIC株式会社 協賛:スタインウェイ・ジャパン株式会社
協力:コンサートイマジン

開催日は12月12日(土)の夜18時から。チケットは同館の窓口へ電話で事前に予約する必要があります。詳細は美術館までお問い合わせ下さい。

[ロスコルームの音楽 概要]
DIC川村記念美術館には、所蔵作品にあわせて設計された趣の異なる11の展示室があります。
弧を描く天井が特徴的な202展示室は音響効果にすぐれた演奏会向きの空間です。
2014年、フィリップス・コレクションのロスコルームを主題に新曲を発表したピアニストが、静かな瞑想の旅にご案内します。

会場は202展示室。ロスコルームそのものではありません。ちょうど企画展を行うことの多い展示室の手前側です。上記概要にも記載がありますが、確かに天井が弧を描いています。

[演奏予定曲目]
スモール:ロスコルーム 沈黙の旅
シューベルト:ピアノソナタ第21番変ロ長調 ほか

演奏するのは1948年に生まれたハスケル・スモール。バッハの演奏で定評のあるピアニストです。また近年ではフィリップス・コレクションより委嘱されたアルバム「ルノワールの祝宴」のほか、同じく同館のロスコルームに因んだ今回の新作など、美術に関連した新曲も手がけています。

演目はその「ロスコルーム 沈黙の旅」とシューベルトのソナタ21番。「ほか」とあるのでさらに曲の追加があることでしょう。

シューベルトの第21番といえば最後のピアノソナタ。寄せては返すさざ波のように始まる第1楽章冒頭をはじめ、長大ながらもすっと心にしみるかのような旋律が繰り返される大傑作です。どことのない悲しみの中にもどこか命の煌めき、輝きが星屑のように散りばめられてもいます。

新作「ロスコルーム」からシューベスト最後のソナタへと流れるプログラム。どのように響きあうのでしょうか。また会場は日本で唯一のシーグラム壁画のある川村記念美術館。これほど場を意識したコンサートもなかなかありません。

なお「絵の住処」展では、こうしたコンサートのほか、各種講演や対談をシリーズで展開しています。



「絵の住処ー作品が暮らす11の部屋」講演シリーズ・対談

講演やイベントにあわせて出かけるのも良さそうです。

「絵の住処」展ミュージアムコンサート、「ロスコルームの音楽」は12月12日(土)に開催されます。

「絵の住処ー作品が暮らす11の部屋」 DIC川村記念美術館@kawamura_dic
会期:5月26日(火)~2016年1月11日(月・祝)
休館:月曜日。但しただし7/20、9/21、10/12、11/23、1/11は開館。7/21(火)、9/24(木)、10/13(火)、11/24(火)は休館。年末年始(12/23~1/1)。
時間:9:30~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般1000(900)円、学生・65歳以上800(700)円、小・中・高生600(500)円。
 *( )内は20名以上の団体。
住所:千葉県佐倉市坂戸631
交通:京成線京成佐倉駅、JR線佐倉駅下車。それぞれ南口より無料送迎バスにて30分と20分。東京駅八重洲北口より高速バス「マイタウン・ダイレクトバス佐倉ICルート」にて約1時間。(一日一往復)
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「代官山フォトフェア」が開催されます

昨年、「ヒルサイドテラス・フォトフェア」としてスタートしたフォトフェア。2回目の今年は「代官山フォトフェア」と名を改め、よりスケールアップした形で開催されるそうです。


「代官山フォトフェア」
http://fapa.jp/fair-2015/

期間は9月25日(金)より27日(日)の3日間。アートフォトなどを牽引するギャラリー、書店、出版社などが一同に集い、様々なアートフォト作品を紹介。ほかトークイベントやワークショップ、また上映会などのプログラムが展開されます。

[代官山フォトフェア関連企画、特別展]
・石内都「Frida by Ishiuchi」
 フェアのメインヴィジュアルである「Frida by Ishiuchi」が、ヒルサイドテラスフォーラム会場にて展示されます。
・森山大道「Tokyo」
 森山大道のカラー作品「Tokyo」(2009/2011)が展示されます。
・鈴木崇「Camera Illumino」
 鈴木崇によるコミッションワークが展示されます。
・FAPA企画展
 日本芸術写真協会(FAPA)に所属する正会員・準会員が選出した日本人若手作家の作品28点が展示販売されます。
・東京工芸大学 写大ギャラリー40周年記念展
 東京工芸大学写大ギャラリーのコレクション展示を行うとともに、記念トークを開催します。

[スクリーニング]
写真と写真家を取巻く世界、作品の背景にある数々のストーリーを伝えるドキュメンタリー作品を上映します。
・「フリーダ・カーロの遺品ー石内都、織るように」
 9月25日(金)11:00~13:00
・「未来をなぞる写真家・畠山直哉」
 9月25日(金)14:00~16:00
・「ダライ・ラマ14世」
 9月25日(金)16:30~18:30
・「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」
 9月25日(金)19:00~21:00
イベントスケジュール→http://fapa.jp/fair-2015/category/screening/

[トークセッション]
写真家、及び彼らとともに展覧会、映像、写真集など様々な媒体で活動を共にしてきた研究者や編集者によるトークセッション。
イベントスケジュール→http://fapa.jp/fair-2015/category/talk-session/

会場は代官山ヒルサイドテラス。ほか一部トークイベントに関しては、同じく代官山の蔦屋書店のイベントスペースで行われます。

メインビジュアルは石内都の「Frida by Ishiuchi」。ヒルサイドテラスフォーラム会場での展示です。本作品が初めて日本で公開されます。

また2016年2月よりカルティエ現代美術館で個展を開催予定の森山大道は「Tokyo」シリーズ(2009/2011)を出品。さらに私が注目したいのは鈴木崇の「Camera Illumino」です。

1971年に京都で生まれ、アメリカやドイツで写真を学び、国内外で作品を発表してきた鈴木崇。近年では東京国立近代美術館の「写真の現在3:臨界をめぐる6つの試論」に参加したほか、つい本年の5月から7月にかけては六本木のIMA CONCEPT STOREにて個展を開催しました。

その時の印象がすこぶる良かった鈴木が代官山フォトフェアにも登場。なんでもヒルサイドフォーラムの池をカメラオブスキュラに見立た「光の部屋」を作り出すそうです。

今年で2回目となる代官山フォトフェア。僅か3日間のタイトなスケジュールではありますが、写真好きにはやはり押さえておきたいフェアとも言えるのではないでしょうか。



展示プログラム、およびイベントの参加方法などについては代官山フォトフェアの公式サイトをご参照下さい。

代官山フォトフェアは代官山ヒルサイドフォーラムにて9月25日(金)からはじまります。(9月27日まで)

「代官山フォトフェア」 代官山ヒルサイドフォーラム
会期:9月25日(金)~9月27日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00~21:00 *最終日は17時まで。
料金:一般1500(1200)円、学生1000(800)円。
 *( )は前売料金。
住所:渋谷区猿楽町18-8 ヒルサイドテラスF棟
交通:東急東横線代官山駅より徒歩3分。
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「唐画もんー武禅にろう苑、若冲も」 千葉市美術館

千葉市美術館
「唐画もんー武禅にろう苑、若冲も」 
9/8-10/18



千葉市美術館で開催中の「唐画もんー武禅にろう苑、若冲も」を見てきました。

応挙や若冲、蕭白らの活躍した江戸時代中期。流行の中国風の絵を描いていた絵師がいました。それが本展でいう「唐画もん」こと唐画師。うち今回の主役は墨江武禅と林ろう苑です。大坂で活動。必ずしも現在の知名度は高いとは言えませんが、当時は一定の人気を得ていました。

はじめは墨江武禅。土佐堀川で船頭を束ねる親方をしていたそうです。月岡雪鼎に美人画を学び、後に中国画的な山水画を描くようになります。


墨江武禅「美人図」 個人蔵

師の雪鼎の作風を踏襲したのかもれません。目を引くのが「美人図」です。左手で襟元に手をやって座る女性像。燕子花を表した着物でしょうか。妖艶です。顔はかなり赤らんでいます。

一転して画面に密なのが「青緑山水渓流游回図」です。緑青、群青を多用しての山水の景色。筆は驚くほど細かい。単眼鏡がなければ細部は確認出来ません。

ほか雪舟風の「水墨山水図」や「蓬莱山図」と続きます。ちなみにこの蓬莱山のモチーフ、いわゆる長寿の吉祥主題だったことから需要が多く、武禅もたくさん作品を残しているそうです。会場でも3幅並んでいました。

さて武禅、光の陰影表現にも関心を持っていました。「山水図」に注目です。楼閣の中より明かりが滲み出しています。手前に楼閣、中程に水辺、そして背後に山と構成は厳格、また筆も緻密ではありますが、このぼんやりと灯る明かりは穏やか。心も落ち着きます。武禅の山水画に情緒的な味わいがあるのも、繊細な光の感覚があるからなのかもしれません。


墨江武禅「花鳥図」 個人蔵

「花鳥図」も興味深いのではないでしょうか。花鳥とあるだけに鳥が描かれていますが、フラミンゴや七面鳥。日本には生息しません。しかも輪郭線を用いず、色の陰影で動物を描いています。まるで西洋画です。ほか当時、人気があったという一種の盆栽、占景盤を描いた作品なども目を引きました。


林ろう苑「鹿図」 大坂歴史博物館

続いては林ろう苑です。師は福原五岳。池大雅に学んだ画家です。当初は五岳の作風に倣うも、南蘋派の画風も摂取。人物、花鳥、動物と何でも描いてしまいます。また大胆な線描による墨画も手がけています。

ろう苑、武禅よりもより奔放と言えるのではないでしょうか。例えば「奇岩図」です。墨で文字通り奇岩を描いたものですが、ともかくうねうねと線が曲がる様はまるで抽象画。奇岩と言われれば確かにそうも見えますが、もはや一体何を描いているのか分かりません。


林ろう苑「蹴鞠図」(部分) 個人蔵

「蹴鞠図」も面白い。蹴鞠をする二人の男、何と鞠は通りがかりでしょうか。もう一人の僧侶の顔面へ直撃しています。鞠を顎の辺りで受けた男。両手をあげては仰け反っています。さぞかし痛かったのではないでしょうか。


林ろう苑「白孔雀図」 大坂歴史博物館

それにしても何でも描けてしまうろう苑、緻密な作品も残しています。一例が「得双寿図」や「白孔雀図」です。前者はいわゆる南蘋風と捉えて良いのでしょうか。吉祥主題の大きな桃がモチーフです。後者は見るも鮮やかな白孔雀。ピンク、あるいは青い花をつけた木を前に美しき羽をこれ見よがしに広げています。


林ろう苑「芭蕉九官鳥図」 個人蔵

「芭蕉九官鳥図」に惹かれました。垂直方向に生える大きなバショウ。そして下には太湖石。いずれも中国原産です。もちろん九官鳥も当時は珍鳥。いずれもなかなか一般では目に出来なかったものです。舶来趣味と言ったところでしょうか。目新しいものに対しての興味も大いにあったに違いありません。そしてこの作品を見て連想したのは、後にも触れる田中一村でした。まさしくエキゾチックではないでしょうか。

ほか舶来、異国趣味といえば、円窓に中国美人を描いた「睡起未顔粧之図」なども印象深い。ただしそうかと思えば大鷲を激しい描線で描いた墨画などもあります。ろう苑の幅広い画風、右へ左へと大きく振幅します。一筋縄ではいきません。

さてタイトルは「武禅にろう苑、若冲も」。ラストは若冲です。しかも応挙、蕪村、池大雅、また松本奉時や耳鳥斎らといった大坂の絵師までを網羅しています。ようは同時代の上方画壇を紹介しているわけです。


伊藤若冲「鵞鳥図」 1772~81年頃 個人蔵

その数30点。うち若冲が10点ほどです。目立つの同館でもお馴染みの「鸚鵡図」ではないでしょうか。また会期中に場面替えがありますが「乗興舟」もかなり開いていました。

ここで忘れられないのが松本奉時と耳鳥斎です。奉時は表具師。蛙が好きだったそうです。「蝦蟇図」などの絵を残しています。また「象鯨図」も興味深い。一目見て若冲の「象鯨図屏風」を思い出しました。というのも軸画という形式は異なりますが、モチーフが例の象と鯨に極めて良く似ています。若冲作との関連が指摘されているそうです。

耳鳥斎では「地獄図巻」が圧倒的でした。ただし圧倒的というのは笑いの観点です。というのも鬼たちが豆腐屋やところてん屋などの様々な職業に扮していますが、何と生前の仕事で犯した罪で地獄に落ちた人が鬼にいじめられている姿だとか。それが実に面白おかしい。歌舞伎役者、何と大根を口に入れられて縛られています。(はじめは何の罰か分かりませんでした。)残虐なシーンにも機知を忘れない精神。まさしくコミカルだと言えないでしょうか。

なかなか関東近辺では取り上げられない上方画壇を丹念に紹介した展覧会。出品は怒濤の150点です。一点一点の作品に付いた丁寧な解説も理解を深めます。量はもちろんのこと、質でも十二分に楽しめました。

さて展示替えの情報です。作品の多くが会期中に入れ替わります。

「唐画もん」展出品リスト
前期:9月8日(火)~9月27日(日)
後期:9月29日(火)~10月18日(日)

「ごひいき割引」として有料の半券を提示すると、2回目以降の観覧料が200円引きになります。

なお本展と同時開催中の「田中一村と東山魁夷」展も見応えがありました。二人は意外にも東京美術学校日本画科の同期生。(ただし一村はすぐに退学してします。)一村は30代から50代にかけ、美術館からもほど近い千葉寺町に20年ほど過ごしました。また言うまでもなく魁夷は戦後、市川に自邸を構えた千葉ゆかりの画家でもあります。

一村24点、魁夷15点ほど。さらに魁夷に関連して、同じく同期生の加藤栄三や橋本明治の作品もあわせて展示しています。

一村ではかつて同館の回顧展でも鮮烈な印象を与えた「アダンの海辺」、ないしは数少ない新出の「椿図屏風」が素晴らしい。魁夷は個人所蔵の小品が目立ちました。全50点。必ずしも所蔵作品のみに留まりません。



会期は約1ヶ月強。幾分短めです。早めにお出かけ下さい。

10月18日まで開催されています。

「開館20周年記念 唐画もんー武禅にろう苑、若冲も」 千葉市美術館
会期:9月8日(火)~10月18日(日)
休館:9月28日(月)、10月5日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(500)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *ごひいき割引:本展チケット(有料)半券を提示すると、会期中2回目の観覧料が200円引。
 *10月18日(日)は市民の日につき無料。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「伊豆の長八ー幕末・明治の空前絶後の鏝絵師」 武蔵野市立吉祥寺美術館

武蔵野市立吉祥寺美術館
「伊豆の長八ー幕末・明治の空前絶後の鏝絵師」 
9/5-10/18



武蔵野市立吉祥寺美術館で開催中の「伊豆の長八ー幕末・明治の空前絶後の鏝絵師」を見てきました。

伊豆の松崎出身、幕末明治期に左官職人として腕を振るった入江長八(1815~89)。元は狩野派に学び、鏝絵師と称されました。今年生誕200年を迎えています。

さて左官に鏝絵師。もちろん世に知られた名工ではありますが、一体どのような作品を残したのでしょうか。ともするとあまりイメージがわかないかもしれません。

素材は漆喰と鏝(コテ)です。つまり下地に漆喰を塗り上げ、コテを利用して浮き彫り的に絵を仕上げます。さらに上から彩色を施していきます。それを鏝絵と呼ぶそうです。


「近江のお兼」 1876年 漆喰着色 個人蔵
 
これが技に巧みでかつ絵に素晴らしい。中国画由来の山水図から立派な富士を捉えた富嶽図、はたまた鶏や草花、さらにはリアルな人物画などを全て漆喰で表現しています。

「秋江帰帆」。鏝絵山水画です。湖の上には白い帆船が浮かび、楼閣や東屋には人の姿も見えます。山がせり上がる姿も漆喰を盛り上げては立体的に作っていました。遠目からではいわゆるタブロー、端的に絵筆による絵画だと思ってしまうかもしれません。実に見事です。

長八が江戸で名声を得る切っ掛けになった作品だそうです。その名は「龍」。彼の得意としたモチーフです。勇ましき龍が波を割っては駆け上がります。茅場町にあった不動尊の再建にあたって制作したもの。龍の顔の陰影も漆喰の質感で巧みに表しています。こうした江戸の長八作品、かつては残っていましたが、多くが後の関東大震災によって失われてしまいました。それにしても迫力のある龍です。当時、さぞかし驚かれたことではないでしょうか。

現存する鏝絵で最大です。「富嶽」はどうでしょうか。横は約1.4メートルで縦75センチ。山はもちろん富士です。手前には青い駿河湾が広がり、背後には天をつくほどに高い富士がそびえ立ちます。山肌は力強いまでに荒々しい。なおここでは額にも注目です。内側には竹をはめ込んだような額がありますが、実はこれも漆喰。つまり塗り固めては描いて竹のように見せているわけです。

この竹を模した額、あまりにも本物に似ていたため、何と後に防腐剤を塗られてしまったそうです。(その跡も確認出来ます。)見る者を欺くまでの心憎い仕掛け。遊び心があります。だまし絵的な趣向も見せた是真の漆絵に通じるのではないでしょうか。

「臼に鶏」も額に木を模していました。横たわる臼と鶏が描かれていますが、周囲の黒い木目調の額も漆喰製。しかしながら何度眺めても木にしか見えません。

中国の書に則った「二十四孝」も興味深いのではないでしょうか。家屋の入口にて3人の人物が挨拶を交わしていますが、横殴りの雨の表現が凄まじい。まるで槍先です。言ってしまえば広重の描く鋭い雨の線の5割増。漆喰で固められた雨が画面中にぐさぐさと突き刺さるように降っています。

ちなみにこの作品の落款は鏝を用いた決め文字で描かれているそうです。ほか伝長八による「清水次郎長肖像」などの人物画も真に迫ります。漆喰が生み出した驚きの絵画平面。一体どのような筆さばきならぬ鏝さばきをしていたのでしょうか。タイトルに「空前絶後」とありますが、あながち誇張ではないかもしれません。


「神功皇后像」 1876年 漆喰着色 松崎・伊那下神社
 
さて長八、いわゆる鏝絵だけではなく漆喰の塑像、あるいは左官だけあって建築装飾にも多くの作品を残しています。

うちチラシ表紙を飾るのが「上総屋万次郎像」です。頭にはねじり鉢巻、はっぴを着てはあぐらをかいて座る年老いた男。左手には器を持ち、右手はぐっと前屈みになるように足を抑えています。それにしてもこの表情。目の周りの皺に前歯の折れた口元もリアルです。今にも動き出すかのような臨場感さえあります。

高さ1メートルにも及ぶ「毘沙門天像」には驚きました。装飾的な着衣に波打つ台座。文字通り毘沙門天です。造形は逞しい。漆喰ですが、一目で判別が付くでしょうか。木彫と見間違えてしまいます。


「寒梅の塗り掛軸」 1875年 土壁 松崎町(伊豆の長八美術館)

建築装飾では旧岩科村(現松崎町)役場の土壁が出ていました。現在は建物より取り外され、同町内の長八美術館に所蔵されていますが、土壁に漆喰を施し、さも床の間の掛軸を再現したかのような「寒梅の塗り掛軸」などは特に面白い。ほか「花瓶」も忘れられません。信じ難いことにやはり漆喰です。色をつけてはさも大理石のような質感を引き出しています。

「漣の屏風」も佳作でした。屏風には一面の漣、ただそれだけが漆喰で表されています。波の模様に抽象の世界を見開きます。福田平八郎を連想したのは私だけではないかもしれません。


「貴人寝所の図」 1875年 土壁・漆喰着色 松崎町(伊豆の長八美術館)

なお当時、漆喰に色を美しく付けるのが難しかったとも言われていますが、長八は絵具を改良してはうまく着色することに成功しました。高村光雲をして「江戸の左官として前後に比類のない名人」とまで讃えられた伊豆の長八。「芸術の域にまで高めた」との言葉もありましたが、確かに大いに魅せられるものがありました。

いつもながらに吉祥寺美術館の狭いスペースではありますが、それでも全50点。一部は露出展示です。少なくとも都内にこれほどの長八作品が集まったのは初めてです。その意味では歴史的な長八展と言えるのではないでしょうか。

[伊豆の長八ー幕末・明治の空前絶後の鏝絵師 巡回予定]
常葉美術館:10月24日(土)~11月23日(月・祝)
長八美術館:12月13日(日)~2016年1月13日(水)

「伊豆の長八:幕末・明治の空前絶後の鏝絵師/平凡社」

10月18日まで開催されています。これはおすすめします。

「生誕200年記念 伊豆の長八ー幕末・明治の空前絶後の鏝絵師」 武蔵野市立吉祥寺美術館@kichi_museum
会期:9月5日(土)~10月18日(日)
休館:9月30日(水)
時間:10:00~19:30 *入館は16時半まで。
料金:一般100円。小学生以下・65歳以上は無料。
住所:武蔵野市吉祥寺本町1-8-16 FFビル7階
交通:JR線・京王井の頭線吉祥寺駅中央口(北口)から徒歩約3分。コピス吉祥寺A館7階。
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「ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours」 国立国際美術館

国立国際美術館
「ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours」 
7/25-9/23



国立国際美術館で開催中の「ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours」を見てきました。

ドイツ出身の写真家、ヴォルフガング・ティルマンス(1968~)。少なくとも私が以前、ティルマンスの作品をまとめて見たのは2005年。東京国立近代美術館で行われた「ドイツ写真の現在」のことでした。

さらに遡ればその1年前。2004年には東京オペラシティアートギャラリーでも大規模な個展がありました。いわゆる「日常的な光景をとらえた写真」を「額装を施さずにまるでイメージが泳ぐがごとく自由に展示する」ティルマンスの手法。確か初台でもそのような展示でした。当時、私はともかくも溢れんばかりの写真のイメージに翻弄され、また掴み損ね、殆ど途方に暮れてしまったことを記憶しています。*「」内は国立国際美術館のサイトより

率直なところさほど好きな写真家ではなかったかもしれません。ただし初台の個展が深く印象に残ったのも事実です。いつかまた見る機会あればと、心のどこかで思っていました。

前置きが長くなりました。何と国内の美術館では11年ぶりの個展です。作品は近作、新作をあわせて計200点。会場のデザインはティルマンス自身です。一部映像を交えてのインスタレーションを展開していました。

さて吹き抜けも特徴的な国立国際美術館の広大な地下スペース。一人の写真家が今回ほど効果的に展示を成したこともあまりなかったかもしれません。

入口正面にはテレビの放送終了後の砂嵐。そこから右と左に部屋が続いていますが、そもそもどちらから進めば良いのかも曖昧です。大小様々なホワイトキューブには裸の男、人体の一部、いわゆるポートレート、観葉植物のある室内、おそらくはオフィス、道端の草、車のヘッドライト、運転中のハンドル、ボートを漕ぐ人々、果物や食べ物、PC上の画像、エアコンのダクト、ゴミ、天体、光。もう書ききれません。確かに時に日常的ではあるものの、おおよそ人が捉え得るであろう現象なり世界が、一見するところは無作為なまでに写されています。おそるべき観察眼です。細部も部分も全体も分け隔てがありません。もちろん写真自体の大きさも様々です。キャプションこそあるものの、それが何を表すのか分からないことも少なくありません。

ただそれこそ脈絡のないような文脈ながら、どこか互いに関係し合い、そうでないようにも見えます。これぞティスマンス、面目躍如です。受け止められないほどの多量なイメージ。相変わらず順路も分からず、展示室を進んだり、戻ったりしていました。するとふと開けた景色が愛おしく、また一部は美しくも見えてくるのです。日常にかくも際立った光景が潜んでいたのでしょうか。ティスマンスの写真を通すと日常には多様なドラマがあり、驚きがあり、また意外な発見がある。気がつかされることは少なくありません。

セクシャリティーへの問題意識も持つティスマンス。私の思い違いでなければ、今回はより社会的、政治的な現象に関心が向けられていたのではないでしょうか。たとえば現在、大いに議論のある安全保障の問題。大阪でしょうか。反対デモを写しています。また政治や戦争の新聞記事の切り抜きや、ネット上のブログ記事なども捉えていました。そしてそこに突如、一面の青や赤などの抽象的色面が介在します。まるで現実を写真でコラージュしたかのような展開。カオスと言っても良いかもしれません。ただ考えてみれば現実はそういうものかもしれません。そもそも何もかもが膨大で捉えきれない。社会や現象は常に秩序立ち、また理解しやすく、体系だっているわけではないのです。

しばらく会場を巡っていると不思議と自分の中でティスマンスに対する意識が変わっていることに気がつきました。相変わらず氾濫するばかりのイメージの中に投げ込まれたとはいえ、端的に面白く、また考えさせられ、さらに刺激的でもある。魅せられたと言っても良いかもしれません。写真を前にして自らを振り返る。ここ10年で何が異なり、何が変わったのでしょうか。

展示室はさながら世界のありとあらゆる現象が漂った大海原。答えもなく、出口もないかもしれません。ただしそこを右往左往、彷徨って歩くことが、現実を知る一つの切っ掛けにもなり得る。もちろん思い過ごしかもしれません。ただしどこかかけがえのない体験をしているような気がしてなりませんでした。

「複雑な世界のレイヤーを写し出す、ヴォルフガング・ティルマンス。」(casabrutus)
「ヴォルフガング・ティルマンス 独占フォトストーリー&インタヴュー」(wired.jp)

長らく作成中であったカタログが8月末になってようやく完成したそうです。現在は同館の公式サイト(展覧会図録)より通販で取り寄せることも出来ます。なお本展の巡回はありません。

「Wolfgang Tillmans Neue Welt/Taschen America Llc」

漠然とした感想で恐縮ですが、私はおすすめしたいと思います。9月23日まで開催されています。

「ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours」 国立国際美術館@nmaoJP
会期:7月25日(土)~9月23日(水・祝)
休館:月曜日。但し9月21日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00 *金曜は19時まで。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般900(600)円、大学生500(250)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *同時開催の「他人の時間」との共通チケットあり。
住所:大阪市北区中之島4-2-55
交通:京阪中之島線渡辺橋駅2番出口より徒歩約5分。地下鉄四つ橋線肥後橋駅3番出口より徒歩約10分。
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「引込線 2015」 旧所沢市立第2学校給食センター

旧所沢市立第2学校給食センター
「引込線 2015」
8/29-9/23



旧所沢市立第2学校給食センターで開催中の「引込線 2015」を見てきました。

2008年のプレ展より既に5回目を数えた旧所沢ビエンナーレこと「引込線」。会場は所沢市郊外にある旧学校給食センターです。

未だ配管や調理器具などの給食設備も残っている施設。また現在は同市の災害用緊急物資の保管場所としても利用されています。


「引込線2015」会場風景

この特異なスペースでの展示です。いわゆるホワイトキューブは殆どありません。少なくとも会場からして他の現代美術の展示とは一線を画しています。


白川昌生「首のない馬」 2015年 合板・アクリル絵具

給食センターの鉄筋が木馬のイメージと重なります。白川昌生の「首のない馬」です。正面からでは青い何らかの設備にしか見えない鉄筋類。ベニヤ板です。横から見ると確かに馬の形をしています。床面に緑色の破片が広がっていました。何と馬の小便を模しているそうです。驚かされます。


五月女哲平「White,black and the others」 2015年 アクリル・キャンバス

絵画を床に直置きしています。五月女哲平の「White,black and the others」です。全部で3つでしょうか。高さは30センチもないかもしれません。黒い枠に真っ白な面。ちょうど三角形を描くように置かれています。この床置きの絵画、解説の言葉を借りれば墓標なのだそうです。使われなくなった給食センターを言わば弔うための墓標。小さくとも存在感がありました。


保坂毅「そらしま」ほか 2015年 アクリル・寒冷紗・MDFボード

14本の柱が給食センターの空間に対応します。保坂毅です。端的に柱と言っても色は様々。白や蛍光色を取り込んだストライプ状のものもあります。また四角ではなく六角柱といった形も独特です。ほぼ斜めに立て掛けられています。天井には既存の銀色の配管、そして青い鉄筋。そこに柱が介入しては新たな景色を生み出します。何とも言い難い緊張感を生み出していたのではないでしょうか。


戸田祥子「壁の解放」 2015年 写真・アクリル

私が特に惹かれたのが戸田祥子です。タイトルは「壁の解放」。元々センターにあった台車でしょうか。その上には写真が何枚も置かれ、タイルがプリントされています。もちろんこのタイルの写真は作品のすぐ横にある壁からとられたもの。まるでタイルが壁から剥がされては新たな役割を与えられたかのようです。給食センターの場に依拠してもいます。


戸谷成雄「襞のかたまり」 2015年 木・灰・アクリル

引込線の実行委員長を務める戸谷成雄の新作は球体でした。「襞のかたまり」です。お馴染みのチェーンソーで木に無数の襞が付けられた立体、内部は空洞だそうです。荒々しい表面は何やら龍の鱗、はたまたワニの皮などを連想させます。ごろっと床に4つ並んで転がっています。この重量感。場を引き締めていました。


遠藤利克「空洞説ー黒化」 2015年 木・鉄・セメント・タール・火

同じく球体なのが遠藤利克の「空洞説ー黒化」です。元々、遠藤は箱状、ないしプール状の立体のほかに円環状の作品も手がけてきましたが、今回は完全なる球と言って良いでしょう。球は「円環の空洞が閉じた状態」(解説シートより)でもあります。そこに遠藤は死を見出しました。黒化した表面からは炭の独特のにおいが漂ってもいます。宇宙から落下して燃え尽きた隕石の欠片。そうした印象も受けました。


利部志穂「垂直の波」 2015年 金属・木・鏡・ガラス・その他・不要となったもの

給食センター横の倉庫を用いたインスタレーションです。利部志穂の「垂直の波」。ベニヤ製でしょうか。文字通り大きな波の構造物が縦に立ち、手前の空間ではアルミの輪、あとはプラスチックの配管かもしれません。宙吊りになっています。そして床にはビニール。給食用の食器を入れる金属製のカゴもあります。さらに下を見やれば割れたガラス片が散っています。センターの素材を取り込んでいるのでしょうか。空間全体を作品に巻き込んでもいます。


冨井大裕「stroll piece #4」 2015年 デジタルプリント(77枚)

ほかにも現在、国立新美術館のアーティストファイル展に参加している百瀬文や冨井大裕も面白い。展示はセンター内、1階と2階部分のみならず、倉庫と一部屋外にも続いています。全25作家、25点。ボリュームもあります。


水谷一「The Sublime is Now No.1-4」 2015年 紙・鉛筆・アルミフレーム

最後にアクセスの情報です。会場の旧給食センターは西武線の航空公園駅より道なりで約2.8キロほど。歩くと30分以上はかかります。


旧所沢市立第2学校給食センター

航空公園駅より西武バスが有用です。おおよそ毎時4本。ただし最寄の「並木通り団地入口」から400メートルほどあります。ちょうどスーパーのヤオコーの裏手にあたりますが、必ずしも分かりやすい場所ではありません。事前に公式サイトで地図(アクセス)を確認されることをおすすめします。


吉川陽一郎「行為のような演技をするということに間違いないだろう」 パフォーマンス

会期中、毎週末に行われるレクチャー、「ゼミナール給食センター」のほか、パフォーマンスイベントなども用意されています。充実のラインナップです。ちなみに私が出向いた時はちょうど吉川陽一郎がパフォーマンスをしていました。イベントなどにあわせて出かけても良いのではないでしょうか。

「ゼミナール給食センターとその他のイベント」(引込線2015)


「引込線2015」会場入口

入場は無料です。9月23日まで開催されています。

「引込線 2015」@hikikomisen) 旧所沢市立第2学校給食センター
会期:8月29日(土)~9月23日(水)
休館:会期中無休
時間:10:00~17:00
料金:無料
住所:埼玉県所沢市中富1862-1
交通:西武新宿線航空公園駅東口より徒歩30分。航空公園駅東口1番乗り場より西武バス所20-1系統「並木通り団地行き」または、新所03系統「新所沢駅東口行き」に乗り「並木通り団地入口」下車。バス停から約400m。駐車場あり。(台数限定)
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「リカルダ・ロッガン SPOT」 ANDO GALLERY

ANDO GALLERY
「リカルダ・ロッガン SPOT」 
9/1-11/28



ANDO GALLERYで開催中の「リカルダ・ロッガン SPOT」を見てきました。

1972年にドレスデンで生まれ、現在はライプツィヒで活動する写真家、リカルダ・ロッガン。

「Bank2」と題された上のDMの作品はどうでしょうか。室内、白い照明こそついているものの薄暗い空間です。右奥には白いスクリーンのようなものが見えます。そして手前には黒いソファ。長く使われてきたのかもしれません。クッションがへこみ、くたびれています。全体的に黒、あるいはグレーを基調とした部屋です。広くありません。どことなく圧迫感さえあります。

「ロッガンの作品は、使われなくなった場所や部屋、そこにいた人々が残した痕跡をテーマにしています。」(TOKYO ART BEAT)

結論からすれば被写体の舞台は既に使われなくなった部屋でした。定かではありませんが、Bankとあるだけに銀行内の一室だったのかもしれません。一瞬、デマンドの作品を思い出しました。もはや現実ではない虚構、言わばセットのような雰囲気さえ漂わせています。

同じく室内の1枚、今度はベットを写した作品に目がとまりました。レンガでしょうか。やはりグレーの空間です。簡易型のベットの上には大きなマットレスとしわくちゃになった布団が広がっています。白い。ただし今度はどちらもそう古びてはいません。ただし布団の皺に人の痕跡があります。つまりついさっきまで人が眠っていたような気配が感じられるわけです。

室内の一方、鋏や眼鏡、それにスプーンなどを捉えた小品も忘れられません。「Apokryphen」の連作です。モノクロームの中、ただ一つ、身近な日用品ともとれるモノだけが写し出されています。ひたすらに寡黙。まるで静物画のようです。

リストにLudwig van Beethoven、あるいはJohann Sebastian Bachなどと記されていることに気がつきました。つまり先の眼鏡などは作曲家らの遺品というわけです。とすると突然、先ほどまで静かだったモノが雄弁に語りかけてくるようにも思えます。

ところでロッガン、かつて都内でも一定数まとまった形で紹介されたことがありました。10年も前です。2005年に東京国立近代美術館で行われた「ドイツ写真の現在」でのことでした。

主に90年代以降のドイツの写真表現を追う企画展でした。今、国立国際美術館で個展を行っているティルマンスのほか、かのグルスキー、またハンス=クリスティアン・シンクらに並んでロッガンの作品も展示されていました。ご記憶の方もおられるやもしれません。

4年ぶりの個展だそうです。いずれも日本未発表の16点。思いの外に魅惑的でした。

11月28日まで開催されています。

*訂正
bankはドイツ語で長椅子を意味するため、銀行の一室ではなく、美術館の中の黒いソファを表すそうです。コメント欄でのえるさまにご指摘いただきました。どうもありがとうございました。

「リカルダ・ロッガン SPOT」 ANDO GALLERY
会期:9月1日(火)~11月28日(土)
休廊:日・月・祝日
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:江東区平野3-3-6
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩12分。東京メトロ東西線木場駅3番出口より徒歩15分。
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「塩田千春 新作展ー家のかたち」 ケンジタキギャラリー東京

ケンジタキギャラリー東京
「塩田千春 新作展ー家のかたち」 
7/17-9/26



ケンジタキギャラリー東京で開催中の「塩田千春 新作展ー家のかたち」を見てきました。

第56回ヴェネチィアビエンナーレに日本館代表として参加している塩田千春。その新作インスタレーション個展です。

さてタイトルにもある「家のかたち」。確かにギャラリー内にあるのは家らしきもの。立体物です。しかしながら不定形。いずれも無数の赤い糸がぐるぐる巻きになっていますが、中にはアーチを描きながら空洞になっているものもあります。

この塩田作品を特徴付けるともいえる赤い糸。一昨年に国立新美術館で行われたDOMANI展を思い出しました。

床面に置かれたたくさんの靴。一つ一つに赤い糸が括り付けられ、全てが展示室上部の一点へと向かっていました。靴は確か使い古しです。各々に由来を示すメモが差し込まれていました。それを一つに束ねては繋いでいます。塩田の糸はどういう形であれ、モノ同士の記憶や歴史を呼び込みながら、互いに関係を持ち合うように絡み、また結びつけているようにも見えます。

今回の家はどうでしょうか。私が感じたのはやはりそれぞれの家、ないし人々の生活の記憶です。世界に無数とある様々な家の形。尖塔のように高いものもあります。それらにさも人の血を通わせるように赤い糸で絡ませているのです。塩田の作品は美しくもありますが、時にどこか有機的で生々しくもあります。今回は特に後者の印象が強く残りました。



それにしても塩田千春、都内のグループ展などで作品を見ることは少なくありませんが、何故か美術館クラスでの大規模な個展が殆どありません。そろそろどこかでまとめて接する機会があればと思いました。

9月26日まで開催されています。

「塩田千春 新作展ー家のかたち」 ケンジタキギャラリー東京
会期:7月17日(金)~9月26日(土)
休廊:日曜・月曜・祝日・夏期休廊(8/7~8/24)
時間:12:00~19:00
料金:無料
住所:新宿区西新宿3-18-2-102
交通:京王新線初台駅より徒歩5分。
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「琳派と秋の彩り」 山種美術館

山種美術館
「特別展 琳派400年記念 琳派と秋の彩り」
9/1-10/25



山種美術館で開催中の「特別展 琳派400年記念 琳派と秋の彩り」のプレスプレビューに参加してきました。

1615年に光悦が京都の鷹峯の地を拝領してから400年を迎えた今年。いわゆる琳派イヤーとして各地で様々な琳派展が行われています。

宗達、光悦、抱一などのコレクションでも定評のある山種美術館の琳派展です。出展は全64件。ただし必ずしも全てがいわゆる琳派の作品ではありません。

全64点のうち琳派は27点。ほかは近・現代の日本画家です。ただし単に日本画家を羅列するのでではなく、作品の中に潜む琳派的な要素、ないし特筆に着目して紹介しています。


本阿弥光悦(書)、俵屋宗達(絵)「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」 17世紀(江戸時代) 山種美術館

はじまりはまさしく琳派の祖、光悦。宗達が絵を表した「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」です。元々は一つの巻物であった同作、いわゆる巻頭の部分です。今では切断され、軸画として残されています。

流麗な光悦の書を左右に鹿が軽やかなステップを刻みます。何度見ても情緒深い作品ですが、今回はあえて表具に注目しました。おそらくは近代以降に制作されたそうですが、細かな刺繍が美しい。雰囲気があります。


俵屋宗達「蓮池水禽図」 17世紀(江戸時代)

宗達では「蓮池水禽図」も魅惑的です。同名の国宝は京博に所蔵されていますが、こちらは山種コレクション。筆致そのものは大らかです。国宝作は蓮が上、下に水鳥が泳いでいるのに対し、本作は下に蓮を配して、鳥が勇ましいまでに飛び立つ様を描いています。もちろんあくまでも空想に過ぎませんが、ともするとこの2つは、水鳥が泳ぎ、そして飛び立っていく光景を表した連作だったのかもしれません。


尾形乾山「松梅図」 1740(元文5)年

見慣れない乾山が出ていました。「松梅図」です。乾山らしい丸みを帯びた梅の花に松。陶器の絵付けを思わせますが、絵も賛も年記も全て乾山自身が記しています。なんでも個人の所蔵だそうです。


酒井抱一「秋草鶉図」(重要美術品) 19世紀(江戸時代) 山種美術館

主役は抱一です。全9作。やはり目を引くのはチラシ表紙にも掲げられた「秋草鶉図」ではないでしょうか。もはや山種美術館を代表すると言っても良い名品です。やまと絵の伝統に倣いながらも、抱一一流の繊細な感覚で秋草に鶉を描いています。

鶉はどちらかといえば中国絵画を思わせるような描写です。左で低くかかる月。私はいつもこの作品を前にする際は、ぐっと屈み、下から上を見上げるように鑑賞します。すると背景の金、そして紅葉の朱にススキの緑が実に映えるのです。草花が生むリズムと独特な静けさ。秋の空気感に満ちています。これぞ瀟洒と言わずして何と表せば良いのでしょうか。


鈴木其一「牡丹図」 1851(嘉永4)年 山種美術館

堂々たるまでに牡丹が咲き誇ります。其一の「牡丹図」です。色も鮮やかな牡丹。濃い赤にピンク、そして薄い水色でしょうか。非常に写実的です。中国の宮廷絵画にも倣っています。地面には小さなタンポポが生えていました。富貴の象徴、牡丹にそっと寄り添ったタンポポ。佇まいは控えめです。身近な草花を愛でる心の表れとも言えるのかもしれません。

琳派の系譜は近代へ。荒木十畝に小林古径、そして福田平八郎、さらには加山又造と続いていきます。


右:荒木十畝「四季花鳥のうち『秋(林梢文錦)』」 1917(大正6)年 山種美術館

荒木十畝の「四季花鳥のうち『秋(林梢文錦)』」はどうでしょうか。画家自身が光琳を意識したとも言われる作品、本来は4幅対ですが、今回は秋の場面のみが展示されています。こぼれ落ちそうなばかりの紅葉。実に雅やかです。琳派の文脈で語られる装飾性とはこのことかもしれません。


福田平八郎「彩秋」 1943(昭和18)年 山種美術館

装飾性といえばトリミングの名手、福田平八郎も忘れられません。「彩秋」です。色とりどりの柿の葉とススキを象る描線の組み合わせ。省略化された画面、シンプルな構図感には琳派を思わせる面があります。


小林古径「夜鴨」 1929(昭和4)年頃 山種美術館

実際に琳派が参照されている作品がありました。小林古径の「夜鴨」です。画面の上方にてほぼ逆さになって飛ぶ鴨。これが光琳の「飛鴨図」に似ています。パネルと比べてどうでしょうか。向きこそ異なりますが、首の辺りから身体にかけてのラインが同じです。光琳作の所蔵先は山口蓬春記念館。古径と蓬春は友人でもあったそうです。何かしら蓬春を通じて光琳画を見る機会を得ていたのかもしれません。


左:小林古径「狗」 1949(昭和24)年頃
 
たらしこみも琳派を語る上で外せないキーワードでもあります。ここでも古径、「狗」です。何やら屈みつつ、鼻をクンクンならせては歩いているような子犬。実に可愛らしい姿をしていますが、ともかく質感を見てみれば全身がたらしこみ。宗達の「狗子図」がパネルで参照されていました。宗達こそたらしこみの名手。古径も倣うところは大いにあったのではないでしょうか。


左:小茂田青樹「峠路」 1916(大正5)年 山種美術館
右:速水御舟「山科秋」 1917(大正6)年 山種美術館


何気なくも興味深い並びです。小茂田青樹の「峠路」の隣に速水御舟の「山科秋」が展示されています。青樹作が大正5年であれば、御舟は翌6年に描いたもの。二人は今村紫紅を筆頭にした赤曜会でともに活動した画家です。友人であり、良きライバルでもありました。

それにしてもこの色味の違い。小茂田はまさに秋の色、紅葉に染まる峠の道を朱色で描いていますが、御舟は朱を交えながらも、濃い緑色を配して、どこか鬱蒼とした景色を生み出しています。振り返ればこの頃の御舟は、いわゆる群青や緑青に虜となった「青の時代」です。見比べることで二人の画家の個性なりが改めて浮き上がるのではないでしょうか。


「琳派400年記念 琳派と秋の彩り」会場風景

さて展示替えの情報です。全64件の出品作のうち、5~6点の作品が入れ替わります。

「琳派と秋の彩り」出品リスト(PDF)
前期:9/1~9/27
後期:9/29~10/25

10月25日まで開催されています。

「特別展 琳派400年記念 琳派と秋の彩り」 山種美術館@yamatanemuseum
会期:9月1日(火)~10月25日(日)
休館:月曜日。但し9/21、10/12は開館。9/24、10/13は休館。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生900(800)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *きもの・ゆかた割引:きもの・ゆかたで来館すると団体割引料金を適用。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「神戸ビエンナーレ2015」にて特別内覧会が開催されます

9月19日(土)より始まる「神戸ビエンナーレ2015」。SNSユーザー向けのイベントです。「神戸ビエンナーレ2015」にて特別内覧会が開催されます。



[神戸ビエンナーレ2015 特別内覧会 開催概要]
・日時:2015年9月18日(金) 10:00~19:30
・会場:神戸ビエンナーレ2015開催会場(メリケンパーク、東遊園地、兵庫県立美術館ほか)
・スケジュール *部分参加も可
 10:00~ 総合プロデューサー・アーティスティックディレクターによる全体説明会 (神戸海洋博物館ホール)
 10:30~ 「コミックイラスト国際展」、「しつらいアート国際展」等の大賞受賞作品等鑑賞 (メリケンパーク)
 12:15~ 「グリーンアート展」の対象受賞作品等鑑賞 (ハーバーランド)
 13:00~ 全国から集結した華道家によるいけばな作品を紹介 (元町高架下)
 14:00~ 「マンガ*アニメ*ゲーム展」内覧会鑑賞 (兵庫県立美術館)
 17:00~ 「兵庫・神戸の仲間たち展」鑑賞 (BBプラザ美術館)
 18:15~19:30 メイン展示「アートインコンテナ国際展」のほか、招待作家による夜間展示を鑑賞 (東遊園地)
・定員:50名。
・参加資格:SNS(ブログ、ツイッター、フェイスブック、YOUTUBE、インスタグラム)のアカウント(いずれか1つ必須)をお持ちで、「神戸ビエンナーレ2015」について記事を執筆いただき、9月末までに記事を公開いただける方。ツイッターのフォロワー限定公開およびフェイスブックの友達限定公開など、一般非公開のアカウントは対象外となります。
・参加費:無料
・申込方法:専用申込みフォームで受付→http://www.tm-office.co.jp/exhibition_press/kobe/
・申込締切:9月16日(水)23:59まで。(受付期間が延長されました。)当選の方には個別でメールにてお知らせします。

特別内覧会開催日はオープン前日の9月18日の金曜日。参加資格はSNS(ブログ、ツイッター、フェイスブック、YOUTUBE、インスタグラム)のアカウントをお持ちで、「神戸ビエンナーレ2015」について記事を執筆いただける方です。



[参加の特典]
1.「神戸ビエンナーレ2015」公式ガイドブック(1,080円)をプレゼントします。
2.一般オープンを前に、無料で各会場を観覧いただけます。
3.総合プロデューサー、アーティスティックディレクターの説明会(10時~)

定員は50名、応募多数の場合は抽選です。当選者のみ事務局より返信のメールがあります。(落選者への連絡はありません。ご了承ください。)

当日は総合プロデューサー・アーティスティックディレクターの説明会が行われるほか、公式ガイドブックがプレゼントされます。

ところでアートインコンテナ展をはじめ、コミックイラスト展、いけばな展など、内容が実に多岐に渡る神戸ビエンナーレ2015。会場も神戸市内各地に点在するほか、内覧イベント自体も朝10時から夜7時半までと長時間です。

平日の金曜日。さすがに一日中は時間がとれないという方も多いかもしれません。そこで朗報です。特別内覧会は上記スケジュールの時間中であれば、途中からの参加も可能。また個々の内覧会へ部分的に参加することも出来ます。

つまり例えば朝にプロデューサーの説明会を聞いた後、一度会場を離脱。再び夕方にメインのアートコンテナ展を観覧しても良いわけです。また国立新美術館より兵庫県立美術館へ巡回する「マンガ*アニメ*ゲーム展」の内覧会のみに参加することも出来ます。会場の組み合わせも自由です。また各会場は無料の取材専用バスで行き来することが出来ます。



神戸ビエンナーレは震災10年を機にスタートした芸術祭。2年に1度ずつ行われ、今年で4回目を迎えました。なお「アートインコンテナ展」が夜間にライトアップ展示されるのは今回が初めてだそうです。そちらにも注目が集まりそうです。

「神戸ビエンナーレ2015公式ガイドブック/美術出版社」

申込締切は9月16日(水)までです。神戸ビエンナーレをオープン前日に無料で観覧出来る内覧会イベントです。興味のある方は申込まれてはいかがでしょうか。

専用申込みフォーム→http://www.tm-office.co.jp/exhibition_press/kobe/

「港で出合う芸術祭 神戸ビエンナーレ2015」@kobebiennale) メリケンパーク、東遊園地ほか神戸市内各地
会期:9月19日(土)~11月23日(月・祝)
 *東遊園地会場:9月19日(土)~11月1日(日)
主会場:メリケンパーク・ハーバーランド・元町高架下エリア・東遊園地(*)・フラワーロードエリア *夜間展示のみ・ミュージアムロードエリア(兵庫県立美術館、横尾忠則現代美術館、BBプラザ美術館)他
時間:メリケンパーク会場 11:00~16:00(土日祝は17時まで)
   元町高架下会場 12:00~18:00
   東遊園地会場 日没~21:00
   兵庫県立美術館、横尾忠則現代美術館、BBプラザ美術館 10:00~18:00(月曜休館)
料金:全会場セット券2400円、メリケンパーク・東遊園地セット券1000円、ほか単体券あり。
 *前売全会場セット券は1700円
住所:神戸市中央区加納町6-5-1 神戸市役所1号館17階(神戸ビエンナーレ組織委員会事務局)
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