東京国立博物館の本館が一部リニューアルオープン

この春(4/15)、本館の一部リニューアルオープンを遂げた東京国立博物館。実のところ東博は3月末に「栄西と建仁寺」展を見たきりご無沙汰。リニューアル後もすっかり行きそびれていました。


「正門プラザ」全景 平屋の建物です。

というわけで久々に上野に繰り出して東博へ。まずは正門です。一見、いつもの見慣れた光景ですが、右手横、ガラス張りの新しい建物が出来ています。これが本館と同じ日にオープンした「正門プラザ」です。


「正門プラザ」入口

「正門プラザ」には新たにミュージアムショップとラウンジとトイレが設置。またチケット売場も移設。そのまま正門内へアプローチ出来るようになりました。


「正門プラザ」内 手前がショップで奥がラウンジです。

なおショップはチケットなしでも利用可能です。ベンチのあるラウンジもあり、待ち合わせにも便利。インフォメーションカウンターも併設されています。


「正門プラザ」チケット売場

率直なところショップの品揃えは館内と比べるとかなり落ちます。ただそれでもポストカード、メモ帳、東博関連の書籍の他、手ぬぐいなどのグッズ類が一通り販売されていました。


「本館一階案内図」 15~19室がリニューアルされました。

館内へ進みましょう。今回リニューアルされたのは本館の15~19室。一階の最奥部と左手の近代美術のコーナー、及びみどりのライオンの体験コーナーです。


18室「近代の美術」展示室風景

手前の18室です。テーマは「近代の美術」。近代日本画、洋画、彫刻の展示されている空間。絵画と工芸が同じ展示室に統合されました。(以前は別でした。)そしてリニューアルされた中では一番広い。どうでしょうか。変化したことがお分かりいただけるでしょうか。


18室「近代の美術」展示室風景

奥に掲げられるのは上村松園の「焔」です。そこから壁に沿って日本画が並び、手前には明治、大正の工芸がずらりと構える。そして振り返れば高橋由一の「酢川にかかる常盤橋」などの洋画がかかっている。つまり明治から昭和初期の絵画と工芸を同じ空間で見ることが出来ます。


初代宮川香山「染付菖蒲図大瓶」 明治時代

また工芸用の展示ケースも一新。重厚感のあるものに変わりました。驚くべき透明度です。写り込みは殆どない。色に形が際立つ。工芸の細かな意匠も際立っているのではないでしょうか。

天井の照明の効果もあるやもしれません。展示室全体も明るくなりました。また以前は良く言えば見通しが利いたものの、ともすればガランとしている感は否めませんでしたが、リニューアル後は部屋の中央にケースを置くなど、密度も増している。展示室としてのメリハリがあります。


16室「アイヌと琉球」展示室風景

続いて16室です。「アイヌと琉球」。日本列島の南北、その言わば両端にある文化を紹介するコーナー。現在は「アイヌの祈り」の展示が行われています。(7/6まで)


北海道アイヌ「シトキ(首飾り)」 19世紀 他

こちらもまたケースが見やすくなっている。また壁の色も変化したとか。天井からの丸いスポットライトが床面に写る。心なしか解説パネルも映えて見えます。アイヌの青玉の首飾りが特に印象的でした。


16室から15室へ向かう通路

また16室と15室にはそれぞれ出入口部分には自動ドアがつきました。展示室内の空調などにも効果を発揮するかもしれません。


本館奥の休憩スペース

さてその両室の間にある休憩スペース、ここも何気なく「外」が変わっています。


屋外テラス

というのもご覧の通り屋外のテラスへ出られるようになりました。東博のお庭、通常は春などの期間限定での公開ですが、ここなら少なくとも眺めだけでも楽しめる。嬉しい配慮です。


15室「歴史の記録」展示室風景

15室は「歴史の記録」です。東博の所蔵する古文書や記録、地図や拓本などを展示しています。また意外と知られていませんが、同館は日本有数の古写真コレクションを誇るとか。中央の長いケースが目を引きました。こちらでは現在、江戸期の街道を表したという「五海道其外分間延絵図」(重文)が展示中です。

如何でしょうか。かつて同じく本館でリニューアルのあった漆工(12室)の変わり様には驚きましたが、ここ15~19室も見やすくなっている。そういえば昨年には東洋館も一新しました。東博の常設展、これからもさらに深化していくのかもしれません。

東洋館リニューアルオープン(はろるど)

また長らく改修で使用出来なかった本館のエレベーターもリニューアル。台数が減って1台のみとなりましたが、中は前よりも広い。車いすでもスムーズに出入り出来るのではないでしょうか。それに本館地下のトイレも新しくなっていました。

なお「正門プラザ」に託児室が設置されました。年間を通じて託児サービスを受けられるそうです。詳しくは同館WEBサイトをご覧ください。

「東京国立博物館 託児サービスのご案内」 *事前予約制

私が出向いた時は本館でちょうど本年度の新収品の公開が行われていました。(特別2室。6/1まで。)


「平成25年度新収品」(特別2室)

展示は是真の「金華山真景」や江戸期の「源氏物語図屏風」、それに室町から明治にかけての水滴、はたまた黒田清輝の小品「花」と様々。日本の茶人に愛用されたというイランの帯や鎌倉期の「如意輪観音菩薩坐像」にも目を奪われます。明日までの展示ですが、お出かけの際はお見逃しなきようご注意下さい。


「如意輪観音菩薩坐像」(鎌倉時代)

現在の東博は大盛況となった「キトラ展」が終わり、次回、これまた話題の「故宮博物院展」に向けての端境期。常設こと総合文化展のみの開催です。混雑とは無縁。ゆっくり楽しめました。


「花車図屏風」 江戸時代

本館2階の7室「屏風と襖絵」が充実していました。長谷川久蔵の「大原御幸図屏風」に岡本秋暉の「四季花鳥図屏風」、そして写真にあげた作者不詳の「花車図屏風」。見応えがあります。

「こんなに面白い東京国立博物館/とんぼの本/新潮社」

東京国立博物館の本館の15~19室は4月15日にリニューアルオープンしました。(法隆寺宝物館が6月2日より30日まで展示環境整備のため休館します。)

「2014年本館リニューアルオープン」 東京国立博物館@TNM_PR
会期:4月15日(火)~
時間:9:30~17:00。*特別展開催時は夜間開館あり。(入館は閉館の30分前まで。)
休館:月曜日。6月3日(火)は臨時休館。祝休日の場合は翌火曜休館。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *特別展開催時は共通券あり。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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6月の展覧会・ギャラリーetc

さすがに暑くなってきました。6月に見たい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「あざみ野コンテンポラリーvol.5 ハンス・ライヒェル×内橋和久」 横浜市民ギャラリーあざみ野(5/31~6/15)
・「法隆寺ー祈りとかたち」 東京藝術大学大学美術館(~6/22)
・「田中信太郎・岡凬乾二郎・中原浩大 かたちの発語展」 BankART Studio NYK(~6/22)
・「江戸絵画の真髄ー秘蔵の若冲、蕭白、応挙、呉春の名品、初公開」 東京富士美術館(~6/29)
・「幸福はぼくを見つけてくれるかな? 石川コレクション(岡山)からの10作家」 東京オペラシティアートギャラリー(~6/29)
・「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」 森アーツセンターギャラリー(~6/29)
・「寺崎広業展ー明治の谷文晁とよばれた男」 佐野市立吉澤記念美術館(~6/29)
・「島根県立石見美術館所蔵 水彩画家・大下藤次郎」 千葉市美術館(~6/29)
・「佐藤時啓 光ー呼吸」 東京都写真美術館(~7/13)
・「クールな男とおしゃれな女ー絵の中のよそおい」 山種美術館(~7/13)
・「ジャン・フォートリエ展」 東京ステーションギャラリー(~7/13)
・「徒然草ー美術で楽しむ古典文学」 サントリー美術館(6/11~7/21)
・「デュフィ展」 Bunkamura ザ・ミュージアム(6/7~7/27)
・「没後90年 鉄斎 TESSAI」 出光美術館(6/14~8/3)
・「オオハラ・コンテンポラリー・アット・ムサビ」 武蔵野美術大学美術館(~8/17)
・「没後50年回顧展 板谷波山」 泉屋博古館分館(6/14~8/24)
・「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」 東京国立近代美術館(6/20~8/24)
・「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」 森美術館(~8/31)
・「ミッション[宇宙×芸術]ーコスモロジーを超えて」 東京都現代美術館(6/7~8/31)
・「生誕120年記念 濱田庄司展」 日本民藝館(6/17~8/31)
・「魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展」 国立新美術館(6/18~9/1)
・「台北 國立故宮博物院ー神品至宝」 東京国立博物館(6/24~9/15)
・「ヴァロットン展」 三菱一号館美術館(6/14~9/23)

ギャラリー

・「前原冬樹展 一刻 失われゆく時が甦る」 Bunkamura Gallery(~6/4)
・「三瀬夏之介展 Vernacular Painting」 イムラアートギャラリー東京(~6/15)
・「パランプセストー重ね書きされた記憶 vol.1 飯嶋桃代」 ギャラリーαM(~6/21)
・「戸塚伸也・尾崎祐太 ぼくらの」 アルマスギャラリー(5/31~6/21)
・「新鋭作家展 白木麻子・大和由佳」 川口市立アートギャラリー・アトリア(6/7~6/22)
・「小林正人 名もなき馬」 シュウゴアーツ(~6/28)
・「ニコラ・ビュフ ポーリアの悪夢」 山本現代(5/31~6/28)
・「小西真奈 Reflection」 アラタニウラノ(5/31~6/28)
・「佐藤翠展 A June House 」 第一生命南ギャラリー(6/2~7/4)
・「イグノア・ユア・パースペクティブ 25 JUST THE WAY IT IS」 児玉画廊東京(5/31~7/5)
・「石内都展ー幼き衣へ」 リクシルギャラリー(6/5~8/23)

さて6月の展覧会、色々と挙げてみましたが、まず一番注目したいのが三菱一号館。ヴァロットンの回顧展です。



「ヴァロットン展」@三菱一号館美術館(6/14~9/23)

19世紀末のパリで活動したいわゆるナビ派の画家。2010年のオルセー美術館展にも出展した「ボール」(チラシ表紙)を覚えておられるでしょうか。画中における独特の視点。時に謎めいた魅力も感じさせます。出品は油彩60点に版画60点の計120点。言うまでもなく日本初の回顧展です。期待しないわけにはいきません。

チラシのビジュアルが目を引きます。東京国立近代美術館で「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である」が始まります。



「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」@東京国立近代美術館(6/20~8/24)

台湾の電子部品メーカー、ヤゲオ・コーポレーションが中心となって組織されたヤゲオ財団所蔵の現代美術コレクション。何でも世界でも有数だそうです。40作家、全75点。中国の近現代美術が多いのも特徴とか。チラシ同様、また強いインパクトを与えてくれるのではないでしょうか。

大原美術館の現代美術コレクションが東京へやってきました。



「オオハラ・コンテンポラリー・アット・ムサビ」武蔵野美術大学美術館(5/26~8/17)

これは大原美術館が近年になって収集した日本の現代美術コレクションを公開するもの。2013年に現地で開催された「Ohara Contemporary」を再構成して展示しています。

会場は小平の武蔵野美術大学です。都心から少し離れてはいますが、同大での展示、これまでにも意欲的なものが多い。とは言え、私自身はまだ行ったことがありません。本展は入場無料。各種トークイベントなどもいくつか行われます。これを機会に足を運びたいものです。

それでは6月もどうぞ宜しくお願いします。
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「加納俊輔 ファウンテン マウンテン」 マキファインアーツ

マキファインアーツ
「加納俊輔 ファウンテン マウンテン」
5/10-6/8



マキファインアーツで開催中の加納俊輔個展、「ファウンテン マウンテン」を見て来ました。

ベニヤや大理石などの素材を取り込み、写真とイメージとの関係を問う作家、加納俊輔。今年の初めには資生堂ギャラリーのアートエッグにも出品。時にトリッキーとも言うべき作品を見せてくれました。

「第8回 shiseido art egg展」(資生堂ギャラリー)

実のところ私も作家の作品を見たのがその時初めて。思いがけない素材との出会い。見ているものは一体、写真なのか実物なのか。惑わされるとともに、どこか惹かれたことを覚えています。

マキファインでは約1年半ぶりの個展だそうです。作品は新作のキューブなどの立体がメイン。約10点ほどです。一部平面の写真作品もありました。

さてやはり目立つのが床に置かれた正六面体。一見するところベニア板で出来ているようにも見える作品です。

外側は透明のアクリル板でしょうか。中の表面には水色のプラスティックバンドが巻き付けられているように見える。その一方でさも茶色の絵具をぶちまけたような筆致も見えます。落書きと言えるかもしれません。各面にて様々な色や形が半ば即興的にも展開しています。

さていずれも「見える」と申したのは訳があります。資生堂の展示と同様です。実のところこれは単にベニヤの立方体ではない。ようはベニヤ板を撮った写真を貼り合わせた作品なのです。

しかも写真は何度も撮られている。ようはバンドを巻き付け一度、撮影。さらにそれを貼付けては撮影するというプロセスを踏んでいます。ベニヤを前にしているのか写真を前にしているのか。見ている方が分からなくなるほど巧妙に仕組まれています。

木そのものを支持体にした3点の作品も目を引きました。こちらは紛れもなく木片。その上にやはり木を写した写真を貼っている。そこには青のドットが連なり、またグレーの渦を巻いたグレーの線などが引かれている。地との関係は立方体の作品よりもさらに曖昧かもしれません。

今回は「絵を描く(ドローイング)に近い感覚」(ギャラリーサイトより)で制作したのだそうです。確かに総じて資生堂の時の作品よりも描いた痕跡のイメージがより強く現れているように感じられました。

「第8回 shiseido art egg 加藤俊輔展」 資生堂ギャラリー(はろるど)

資生堂ギャラリーの展示を見た方にもおすすめしたいと思います。6月8日までの開催です。

「加納俊輔 ファウンテン マウンテン」 マキファインアーツ
会期:5月10日(土)~6月8日(日)
休館:月・火・祝祭日
時間:12:00~19:00
住所:千代田区外神田6-11-14 アーツ千代田3331 205
交通:東京メトロ銀座線末広町駅4番出口より徒歩2分、東京メトロ千代田線湯島駅6番出口より徒歩4分、都営大江戸線上野御徒町駅A1番出口より徒歩8分、JR御徒町駅南口より徒歩8分。
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6月1日(日)「第3回 図録放出会」が開催されます

アート好き有志が展覧会図録を持ち寄って販売、売上を全て東北に寄付するチャリティーイベント、「アート好きによるアート好きのための図録放出会」。



過去にも2度(2011年5月、2012年11月)行われ、売上はそれぞれ東日本大震災の義援金、及び「被災文化財復旧支援 Save Our Culture」に寄付されました。

「図録放出会(art circule)Vol.2」 BoConcept新宿店(はろるど)*前回の様子です

第3回目です。6月1日(日)「アート好きによるアート好きのための図録放出会」が開催されます。

[アート好きによるアート好きのための図録放出会 vol.3]
日時:6月1日(日) 13:30~18:30 (図録提供の受付 12:30~15:30)
会場:京都造形芸術大学・東北芸術工科大学外苑キャンパス(東京藝術学舎)
住所:港区北青山1-7-15
交通:JR線信濃町駅より徒歩5分。東京メトロ半蔵門線・銀座線・都営大江戸線青山一丁目駅より徒歩10分。

時間は次の日曜日の午後1時半から6時半まで。会場は信濃町駅から歩いて5分ほどの「東京藝術学舎」こと「京都造形芸術大学・東北芸術工科大学外苑キャンパス」です。

また当日、お馴染みフクヘンさんと森岡書店店主の森岡督行さんのトークイベントも。お二人が展覧会図録の魅力について語って下さいます。

[トークイベント]
時間:14:30~15:30
登壇:鈴木芳雄(編集者/美術ジャーナリスト)×森岡督行(森岡書店店主)
料金:無料。先着50名着席。(立見可)

「アート好きによるアート好きのための図録放出会」6月1日13:30~京都造形芸大 東北芸工大東京藝術学舎(最寄駅:信濃町、青山一丁目)にて。14:30から森岡書店の森岡督行さんとトークをやります。もちろん入場無料 @fukuhenさんツイート



さて図録放出会、前回は1000冊近くの図録が集まりましたが、今回も多くの図録が放出される予定です。また当日の図録の持ち込みも大歓迎です。(当日の図録提供受付は12:30~15:30。)本棚に眠っている図録がある方、これを機会に「断捨離」されては如何でしょうか。

提供いただいた図録はいずれも500~1000円で販売されます。売上金は全て東北で開催されるアートプロジェクトの開催資金として活用されるそうです。

図録放出会は第1回より「フクヘン。」@fukuhenさんをはじめ、「青い日記帳」@taktwiさん、そして発起人の@sorciere4さんを中心に始まったイベント。今回もお三方が会を運営して下さいます。私も当日諸々のお手伝いをするつもりです。

「第3回:アート好きによるアート好きのための図録放出会」(青い日記帳)



天気が良ければ放出会初の「青空市」になるそうです。(雨天決行です。)また三田修平(@MitaShuhei)さんの「BOOK TRUCK」(@mybooktruck)もやってきます。Twitterでのハッシュタグは「#図録」です。

無料、入退場自由のチャリティーイベントです。図録を提供いただける方、お買い求めの方、さらに雰囲気だけでも味わいたい方、どなたでも参加いただけます。また行くことの叶わなかった展覧会や買い損ねた図録を見つけるチャンスでもあります。どうぞお気軽にお越し下さい。

[図録放出会専用アドレス](事前に宅配便で提供いただける方は、下記アドレスまでお問い合わせ下さい。)
artcircle2014june@gmail.com

「第3回 図録放出会」は6月1日(日)13時半に始まります。*お持ち帰り用のマイバックをご持参下さい。

[アート好きによるアート好きのための図録放出会 vol.3]
日時:6月1日(日) 13:30~18:30
会場:京都造形芸術大学・東北芸術工科大学外苑キャンパス(東京藝術学舎
入場:無料
住所:港区北青山1-7-15
交通:JR線信濃町駅より徒歩5分。東京メトロ半蔵門線・銀座線・都営大江戸線青山一丁目駅より徒歩10分。
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「竹尾ペーパーショウ2014」 TOLOT/heuristic SHINONOME

TOLOT/heuristic SHINONOME
「竹尾ペーパーショウ2014」
5/25-6/1



TOLOT/heuristic SHINONOMEで開催中の「竹尾ペーパーショウ2014」を見て来ました。

日本有数の紙の専門商社として知られる竹尾。ペーパーショウが始まったのは1965年のことです。以来、全47回。長らく「紙の展覧会」を行ってきました。

2011年から2年半ぶりの開催です。テーマは「鋭敏な」や「僅かな」を意味する「SUBTLE」。人がいかに紙に対して繊細な感覚を持って向き合ってきたのか。企画と構成は原研哉。参加するのは以下の15名のクリエイターです。それぞれが「SUBTLE」の元、紙を素材に様々な作品を提示しています。

[参加クリエイター]
石上純也/色部義昭/上田義彦/葛西薫/田中義久/冨井大裕/トラフ建築設計事務所/中村竜治/ノイズ/服部一成/ハム・ジナ/原 研哉/三澤遥/皆川明/宮田裕美詠/寄藤文平/和田淳

さて竹尾ペーパーショウ、何度か会場を変えていますが、今回は「TOLOT/heuristic SHINONOME」。昨年、江東区の東雲の工業団地内にオープンした、主に現代美術の展示施設です。


「TOLOT/heuristic SHINONOME」

TOLOT(トロット)の外観、入口付近です。私もこれまでにギャラリー関連の展示が度々行われていたのを聞いていましたが、実のところ行くのは初めて。りんかい線の東雲駅から歩いて5分ほど。周囲は紛れもなく海に近い工業地帯です。倉庫などが立ち並んでいます。

そもそも「TOLOT」もかつては印刷製本工場だったそうです。そこで行われる紙の展示。言わば場所性を意識しての企画なのかもしれません。

受付をすませて館内へ入ります。(会場内撮影が出来ました。)思いの外に大きなスペースです。全400坪。私は過去2、3回ほどのみしかペーパーショウを見たことがありませんが、少なくともその時よりは会場が広い。ギャラリーというよりも美術館として捉えても引けを取らない空間が広がっています。


「竹尾ペーパーショウ2014(CREATION)」会場風景

白くまた薄い平面に細い脚。展示台です。サイズは横180センチで高さが80センチ。石上純也のデザインです。もちろん触れてはなりませんが、近くに寄っただけでもぐらつくほど。ある意味で繊細でかつ儚いとも言える。これも「SUBTLE」ということでしょうか。そして台の上には各クリエイターの作品が並んでいます。

また周囲には「紙の肖像」と題し、写真家中村義彦の撮った紙の原像が並ぶ。当然ながら主役は紙です。紙の一つの魅力でもある白が際立つ。何とも清潔感のある空間ではないでしょうか。


三澤遥「紙の花」

惹かれた作品をいくつか挙げましょう。まずは「紙の花」。デザイナー三澤遥の作品です。テーブルに転がる紙の花。この形、どこかで見たことがある。そうです。鉛筆削りの削り屑。それを花に見立てて紙で再現する。ようは細く丸めた紙を鉛筆削りで削ったものなのです。


色部義昭「I HATE U/I LOVE U」

色部義昭の「I HATE U/I LOVE U」はどうでしょうか。紙によるメッセージ。透け格子状に浮かびあがるのは「I LOVE U」。しかしながら角度を変えて見ると「I HATE U」の文字も見える。好きと嫌いは紙一重ということなのでしょうか。両者の関係はない交ぜになって曖昧でもある。格子のストラクチャーと蛍光色の反射効果を取り入れているのだそうです。


ハム・ジナ「タグやラベルを描く」

ハム・ジナの「タグやラベルを描く」です。文字通りラベルが並ぶ。いずれも作家が旅行先などで得たものです。ラベルに残る旅先での記憶。それを描いては改めて思い起こす。紙に何か記すこととは記憶を引き出すのと同じなのかもしれません。


原研哉「チョコレートの帽子」

とりわけ美しいのは原研哉の「チョコレートの帽子」です。さもミルククラウンのようなオブジェ。これも紙です。トレーシングペーパーにレーザカッティングで作られた帽子、王冠の数々。切れ目は数ミリほどではないでしょうか。小さい。息を吹きかければ飛んでしまいそうです。まさに「SUBTLE」に相応しい作品と言えるでしょう。

何度も同じ言葉を使って恐縮ですが、それにしてもどの作品も極めて繊細。全てが台の上の厚さ15ミリに収まっています。薄い紙から広がる細密なテクスチャー。写真ではまるで伝わりません。こればかりは会場へ行っていただくしかなさそうです。


「竹尾ペーパーショウ2014(COLLECTION)」会場風景

さて後半はクリエイションからコレクションへ。「記す」や「敷く」に「折る」、それに「いつくしむ」などの20の項目に沿った展示です。実際にどのようにして人は紙を使ってきたのか。紙と人の営みの関係を探っています。


「いつくしむー紙を束ねる喜びと奥義」

例えば「いつくしむ」。ずらりと並ぶのは本の綴じ見本です。造本家の太田泰友とデザイナーの加藤亮介の考案。何か特定の本を表すものではありませんが、これは見たことあるというサンプルも多いのではないでしょうか。


「包むー角砂糖の包み紙」

「包む」はずばり角砂糖の包み紙です。海外のデザインでしょうか。至って身近な角砂糖。コーヒーを飲まれる方は毎日使われるかもしれない。しかしここは紙の展示会です。中の砂糖ではなく、外の包みの意匠にスポットを当てています。


「したためるー欧州カリグラフィ」

「したためる」。これは驚きました。欧文のカリグラフィですが、何と手書きなのです。カリグラファーは三戸美奈子と中村弘美。この美しさです。実際にモニターでは文字を記す様子も紹介されています。


「封印するー封書百態」

「封印する」。白い封筒です。少し並べただけでもこれだけある。長方形なのか三角形なのか。はたまた横向きなのか。いわゆるフラップはどれほどあるのか。普段意識していないからかもしれません。封の構造がこれほど多様であるとは思いませんでした。


「飾るーめくるめきレース模様の紙」

多様性といえば「飾る」も同じではないでしょうか。レース状の丸いシート。お分かりいただけるでしょうか。ケーキの下に敷いてある紙、通称「レースペーパー」と呼ばれるものです。改めて思えばこれも紙だった。そしてデザインとしても見るべきものがある。紙は「食」とも密接に結びついています。


「NEW RELEASE」コーナー

最後は竹尾が近年発売した紙の新商品を紹介しています。ここでは紙の印刷加工見本を一枚ずつ前にしながら、竹尾のスタッフの方が紙について丁寧に説明して下さいました。紙に親しみ、紙の意外性に驚きつつ、また紙の新たな可能性を知る。ペーパーショウは企業向けの見本市としての側面もあります。竹尾だからこそのアプローチです。いつもながらに感心しました。


ノイズ「NTラシャ TONE OF GRAVITY」

りんかい線の東雲、なかなか馴染みのある場所ではないかもしれませんが、例えば渋谷から埼京線(りんかい線直通)の電車に乗ってしまえば25分ほど。また本数は1時間に2~3本程度ですが、豊洲や門前仲町からの都バスもあります。私はバスを利用しましたが、意外とスムーズでした。(但し東雲駅周辺にお茶するスペースなどはありません。)


「竹尾ペーパーショウ2014」会場風景

今回は展示自体もスケールアップ。東雲の広いスペースを効果的に用いています。また会期も前回より延長しての8日間。それに連日夜8時(入場は7時半まで)までのオープンです。仕事帰りに立ち寄っても良いかもしれません。

会期中連日、出品クリエイターによるトークショーも行われます。これがまた充実しています。

「竹尾ペーパーショウ2014」トークセッション (モデレーター:原研哉)

入場は無料です。6月1日まで開催されています。おすすめします。

「竹尾ペーパーショウ2014」@takeopapershowTOLOT/heuristic SHINONOME
会期:5月25日(日)~6月1日(日)
休廊:会期中無休
時間:11:00~20:00 入場は19時半まで。
料金:無料(受付にて入場カードに氏名を記す必要があります。)
住所:江東区東雲2-9-13 TOLOT/heuristic SHINONOME 2階
交通:東京臨海高速鉄道りんかい線東雲駅A出口より徒歩5分。
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「イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる」 国立新美術館

国立新美術館
「イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる」
2/19-6/9



国立新美術館で開催中の「イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる」を見て来ました。

大阪は万博公園内にある国立民族学博物館。開館は古く1977年です。かねてより世界各地の民俗学的資料を収集。現在、約34万点余のコレクションを所蔵しています。

その民博のコレクション展です。出品は怒濤の約600点。なおこのスケールでの展示は東京で初めてとのことでした。

さて本展、もちろん民俗学的資料が所狭しと並んでいるわけですが、何も民博の展示をそのまま踏襲しているわけではありません。


「羽根製頭飾り」 ブラジル(民族:ツカハマイ) 1960年代制作

というのも会場が「美術館」であるということです。そもそもこの展覧会自体が民博の単なる巡回展ではなく、国立新美術館との共同企画で実現したもの。言ってしまえば資料を「アートとしての側面」(公式サイトより引用)として提示していく。まずはそこに重きが置かれているのです。

よって構成も独特です。どうでしょうか。タイトルからして「イメージの力」。民俗資料そのものも一つの「イメージ」として捉えています。よって会場内では資料の歴史的文脈や地域性などについて殆ど触れていません。むしろそこから開けてくる造形の奥深さを探ろうとする試み。キャッチボールは鑑賞者一人一人の感性に投げかけられています。意欲的な展示でもありました。

「プロローグー視線のありか」
第1章 みえないもののイメージ
 1-1:ひとをかたどる、神がみをかたどる
 1-2:時間をかたどる
第2章 イメージの力学
 2-1:光の力、色の力
 2-2:高みとつながる
第3章 イメージとたわむれる
第4章 イメージの翻訳
 4-1:ハイブリッドな造形
 4-2:消費されるイメージ
エピローグー見出されたイメージ


「舞踏劇チャムの仮面『シンギェ』」 ブータン(地域:ティンプー) 20世紀後半制作

さてまずは見せ方。これがなかなか大胆です。何せ汎用性の高い新美のホワイトキューブ、かの天井高を効果的に活かしています。冒頭は世界の仮面です。全部で103面。これも一般的であれば国や地域毎に並べるのかもしれませんが、本展ではそうした手法はとらない。ともかく仮面がずらりと天井付近までたくさん連なっている。月並みな言葉ではありますが、さも一つのインスタレーションを形成するかのように並んでいます。

とは言え、当然ながら全てがてんでばらばらに展示されているわけでもありません。例えば日本でもお馴染みの獅子「獅子頭」の隣には、中国漢族の獅子の仮面と韓国のソウルの獅子が置かれている。比較的近い地域での展開。そこから類似点や差異点も浮かび上がる。各資料を横断的に捉えることで、逆に各地域の特性を見る仕掛けにもなっているわけです。


「早変わり仮面」 カナダ(民族:クワクワカワクゥ) 1977年制作

「時間」や「物語」も一つのテーマです。「時間」のセクションでは曼荼羅と並びアボリジニの絵画が並んでいました。かつてこの新美術館で見たエミリー・ウングワレーのことを思い出させる作品。モザイク状、ドットの連なる鮮やかな色面。密度が濃い。まさか曼荼羅と見比べるとは思いませんでした。

このように古今東西、意外な邂逅が続出するのも見どころの一つです。他にも例えばギリシャ正教の祭服とマリの狩人の衣装が近くに置かれている。ところでマリの狩人、衣装に手鏡がいくつも付いています。一体何を意味するのでしょうか。気になるところでもありました。

高さ何メートルでしょうか。そびえ立つ5本の支柱。インドネシアで葬送用に使われるという「ビス」です。人間の形を象った柱。いわゆるトーテムポールに近いものがあるでしょう。柱の上部には透かし彫りのような意匠が施されている。また途中には人の頭が何故か逆さになって彫られています。


「ユダ人形」 メキシコ(民族:メスティソ) 1985年収集

メキシコの「ユダ人形」に驚きました、張り子の人形、ユダとはイエスを裏切ったかのユダに由来するそうですが、それにしても格好がまるで怪獣。ナントカ星人のようです。

それにしても先のマリの鏡や「ビス」に「ユダ人形」にしろ、その用途に関しては、少なくとも会場内のキャプションで細かに記されていません。(図録では一部補完があります。)そこで感じてしまう如何ともし難いもどかしさ。はじめにも触れましたが、展示はあくまでも民俗学的資料を「イメージ」として体感的に得ようとする試み。相対的な意味なりを「理解」することはひとまず棚にあげています。ただそれでも終始「学ぼう」と構えてしまう。率直なところ、コレクションを歴史や地域の文脈と半ば切り離して見せることに難しさを感じたのも事実でした。


「棺桶(ライオン)」 ガーナ(地域:テシ) 2003年制作

全展示中で最も驚きをもって捉えられているのではないでしょうか。ガーナの「棺桶」です。おそらくは殆どの日本人、単に棺桶と記すと、例えばあの桐で出来た白い棺を連想するに違いありません。しかしながらガーナは異なります。何と棺桶にはライオンもいえばビール瓶もあればベンツもあって飛行機もある。ようはガーナには故人が思い思い、好きだったものの中に入って埋葬されるという風習があるのです。

色もカラフルでそれこそ玩具の乗り物。現地では棺桶を制作する工房もあるそうです。キャプションを見なければこれが棺桶であることに気がつく人は少ないでしょう。これがいわゆる「異文化」なのでしょうか。「死」の捉え方と「埋葬」への価値観。まさかこれほど違っているとは思いもよりませんでした。


「床屋用看板」 ガーナ(民族:ガ) 1996年収集

なおこれらの棺桶はいずれも2000年前後に制作されたもの。比較的最近です。ちなみに本展では今も美術家らの手によって作られ、また使われ続ける用具が数多く登場します。ともすれば民俗資料というと「古い」というイメージがあるかもしれませんが、何も考古的な資料ばかりではありません。

「国際博物館の日」(5/18)の無料開館を利用して観覧してきました。その故でしょうか。館内も盛況でした。

万博公園の民博、相当昔に一度行ったきり。実のところ記憶も曖昧です。この展覧会をきっかけにまた行きたいものです。



6月9日まで開催されています。なお東京展終了後、国立民族学博物館でも開催(9月11日~12月9日)されます。

「イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる」 国立新美術館@NACT_PR
会期:2月19日(水)~ 6月9日(月)
休館:火曜日。但し4/29、5/6は開館。5/7は休館。
時間:10:00~18:00 *金曜日は夜20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生500(300)円。高校生(18歳未満)以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *4/19(土)は六本木アートナイト2014、5/18(日)は国際博物館の日につき無料。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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「phono/graph-sound, letters, graphics」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
「phono/graph-sound, letters, graphics」
5/9-5/31



ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で開催中の「phono/graph-sound, letters, graphics」を見て来ました。

東京は銀座のギンザ・グラフィック・ギャラリーこと「スリー・ジー(ggg)」ギャラリー。グラフィックデザインを紹介する施設としては長いキャリア(1986年開設)を持ち、界隈のギャラリー巡りでは外せないスポットの一つでもあります。

ほぼ毎月、企画展が入れ替わるのも嬉しいところ。この5月は「phono/graph-sound, letters, graphics」です。端的に「音とアートとグラフィック」(公式サイトより)の関係を追っていく。監修はサウンドアーティストの藤本由紀夫さん。5組のクリエーターによるグループ展です。視覚と聴覚を横断しての展開。時に体感型ありと多様な作品が展示されていました。

[出品作家]
藤本由紀夫
八木良太
ニコール・シュミット
Intext(見増勇介と外山央によるグループ)
Softpad(メンバー:粟津一郎、上芝智裕、奥村輝康、竹内創、泊博雅、外山央、南琢也)

さて音。当然ながら耳で聞くものでありますが、半ば視覚で擬似的に得ようとするとどうなるのか。レコードです。細かく細かく刻まれた溝。そこに音が含まれているわけですが、八木良太はレコードのソノシートを引き延ばして拡大、印画紙にプリントしています。


八木良太「Megaphonia」 2013年

「Megaphonia」(2013)です。さながら土星の環を思わせる盤面。溝が優雅な曲線美を描いています。これも一つの音の視覚化と言えるのではないでしょうか。

また一方で同じくレコードの溝に着目したのが藤本由紀夫です。ズラリ連なるレコードの盤面。ビートルズの名盤アビーロードの名が記されている。もちろんアップル社でしょう。中央には緑色の林檎が描かれています。


藤本由紀夫「DELETE」 2007年

さてこのレコード、何が特徴なのでしょうか。答えを挙げてしまうと全て溝が消されています。ようは削られたレコード。音の削除されたレコードであるのです。だからこそ「DELETE」(2007)。同じくデータを消去するPCのDELETEキーを意識してのタイトルでもあります。


藤本由紀夫「DELETE」(部分) 2007年

ただこのレコード、盤面を見ても明らかなように溝はありませんが、ターンテーブルにかけると何とノイズの向こうからビートルズの声が微かに聞こえてくるのだそうです。盤面にすり込まれた音の軌跡。そう簡単に消えるものではないのかもしれません。


Intext「round flong」 2014年

音と文字の関係もまた重要です。そもそも文字は音がレコードに刻まれたのと同様、古くは石や粘土に刻まれて記録されていた。また蓄音機を発明したエジソンは、写真(photograph)」のように記録、再生、保存出来る装置として、蓄音機(phonograph)」と名付けたのだそうです。


Intext+藤本由紀夫「through」 2014年

嵯峨本のフォントタイプや活版、デュシャンのテキストの引用、また読書をテーマとした作品も展示されています。コンセプチュアルな取り組みも目立ちます。解説シートも有用でした。


「phono/graph archive」 2011年~

なお本展は2011年に大阪のdddギャラリーの他、2012年のドルトムント、2013年の名古屋、京都でも開催されてきた巡回展です。(東京展では一部新作も加わります。)会場内では「phono/graph」展に関する資料もあわせて紹介されています。


藤本由紀夫「REVOLUTION&GRAVITY」 2014年

殆ど唯一、音を発している作品が実に意外な形で展示されていました。微かな音です。耳をよくすませて聞いてみて下さい。


「phono/graph-sound, letters, graphics」会場風景

入場は無料です。5月31日まで開催されています。

「Resonance/es (ドットエス)+藤本由紀夫/Nomart,Inc.」

「phono/graph-sound, letters, graphics」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
会期:5月9日(金)~5月31日(土)
休廊:日曜・祝日
時間:11:00~19:00 土曜は18時まで。
料金:無料
住所:中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅から徒歩5分。JR線有楽町駅、新橋駅から徒歩10分。
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山形ビエンナーレ2014プレイベント「みちのおくNIGHT」が開催されます

今秋、山形の地を舞台に行われる芸術祭「山形ビエンナーレ2014」。



そのプレイベントです。都内2箇所で「みちのおくNIGHT」が開催されます。

[山形ビエンナーレ2014プレイベント『みちのおくNIGHT』]

第1夜|5月31日[土]18:00~21:00 6次元 *定員のため受付終了
荒井良二(アーティスト/絵本作家/山形ビエンナーレ芸術監督)×坂本大三郎(イラストレーター/山伏)×ナカムラクニオ(6次元)

第2夜|6月21日[土]18:00~21:00 シマウマサロン
鈴野浩一+禿真哉(トラフ建築設計事務所)

第3夜|6月28日[土]18:00~21:00 6次元
和合亮一(詩人)×宮本武典(キュレーター/山形ビエンナーレプログラムディレクター)

第4夜|7月26日[土]18:00~21:00 6次元
平澤まりこ(イラストレーター)×山内明美(社会学者)×小板橋基希(akaoni Design)

第5夜|8月29日[金]18:00~21:00 シマウマサロン
根岸吉太郎(映画監督)
梅佳代(写真家)

第6夜|9月6日[土]18:00~21:00  6次元
三瀬夏之介(日本画家)×坂本大三郎(イラストレーター/山伏)×ナカムラクニオ(6次元)

山形ビエンナーレの芸術監督で絵本作家の荒井良二氏の他、参加アーティストを迎えてのトークイベント。全6夜。2会場制です。西麻布のプライベートサロン「シマウマサロン」(第2、5夜)と荻窪のカフェ「6次元」(第1、3、4、6夜)で行われます。



[会場]
カフェ6次元
〒167-0043 東京都杉並区上荻1-10-3 2F
Tel:03-3393-3539

シマウマサロン
〒106-0031 東京都港区西麻布3-1-25 金谷ホテルマンション303
Tel:03-3478-3877

料金は各回千円。毎回35名までの定員制です。(先着順)第1夜の受付は既に終了しています。以降も定員に達し次第、申込は締切となります。

申込方法はメールでの受付です。件名に「みちのおくナイト」とし、お名前、希望する回(2~6)、人数、電話番号を明記の上、実施スペース宛にご送信ください。

[申込受付]
2014年5月1日[木]よりメールにて申込受付を開始します。

6次元:rokujigen_ogikubo@yahoo.co.jp
シマウマサロン:salon@shima-uma.co.jp

*5/31開催分は定員に達しました。
*各回限定30~35席。限定数に達し次第、申込受付を終了いたします。
*お申し込み順に整理番号がつきます。
*夜のイベントのためお子様連れでの参加はご遠慮ください。

さてこのプレイベント後に行われる「山形ビエンナーレ」。今年初めて開催です。ともすると認知に関してはまださほど広まっていないかもしれません。



[みちのおくの芸術祭山形ビエンナーレ2014]
会期:2014年9月20日(土)~10月19日(日)
会場:山形県郷土館「文翔館」(旧県庁舎および県会議事堂)、東北芸術工科大学、やまがた藝術学舎、他
入場料:無料(一部音楽プログラム有料)
主催:東北芸術工科大学
芸術監督:荒井良二(アーティスト/絵本作家)
URL:http://biennale.tuad.ac.jp/

芸術祭の情報を簡単にピックアップ致しましょう。まずは会期です。今秋ですが、意外と短く約1ヶ月。9月20日から10月19日までの開催です。

会場は山形市内の主に3会場です。市中心部に位置する「山形県郷土館」をはじめ、旧山形県知事工舎を改修した「やまがた藝術学舎」、それに市郊外で本イベントを主催する「東北芸術工科大学」で行われます。なお郷土館は「文翔館」とも呼ばれるイギリス様式のレンガ造りの建物です。建築は大正5年。国指定の重要文化財でもあります。

招待アーティストは以下の約30組です。(5月14日現在)

[招待アーティスト]

青葉市子/荒井良二/いしいしんじ/梅佳代/大友良英/カジワラトシオ/川村亘平斎/Goma/斉藤洋平/坂本大三郎/佐藤那美/スガノサカエ/鈴木昭男 × 鈴木ヒラク/spoken words project/高木正勝/テニスコーツ/トラフ建築設計事務所/トンチ/中島ノブユキ/七尾旅人/畠山美由紀&ショーロクラブ/東野祥子/平澤まりこ/三瀬夏之介/吉増剛造/和合亮一

美術作家では写真の梅佳代さんに映像の高木正勝さん、それに日本画家で現在、東北芸術工科大の教授でもある三瀬夏之介さんらが名を連ねています。またいわゆる美術の領域だけではなく音楽部門があるのもポイント。音楽のアーティストも多く参加します。

ちなみに音楽部門のテーマは「音を超えて」です。歴史的な「文翔館」の議場ホールにて、音楽や映像、また朗読などを取り込んだイベントが行われます。

ビエンナーレ全体のテーマは「山をひらく」です。みちのく山形をひらく、そして震災以後の未来をひらく。そうした意味がこめられているそうです。

山形には元々、2年に1度、「山形国際ドキュメンタリー映画祭」という芸術祭が行われていました。そして今度は映画だけではなく、アートの立場から「東北の物語」(公式サイトより)を世界に発信しようとする試み。今後は映画祭とビエンナーレが交互で開催されます。

東北発の「山形ビエンナーレ」、公式サイトが見にくいのが難点ですが、情報はフェイスブックページがこまめに更新しています。そちらもあわせてご覧ください。



「山形ビエンナーレ2014」フェイスブックページ「みちのおくつくるラボ」

まだまだ全体像が見えない「山形ビエンナーレ」。地域を巻き込んでの協同型の取り組みもある。全国各地で芸術祭の行われる時代です。山形ならではの発信の在り方とは何か。そうした部分も問われるのではないでしょうか。

「山形ビエンナーレ」を知るためのプレイベント「みちのおくNIGHT」。私としては6次元の空間にハマりそうな三瀬さんのトークが気になります。受付は既に5月1日からスタート。関心のある方は参加されてみては如何でしょうか。

「みちのおくNIGHT」の詳細などについては各会場(6次元、シマウマサロン)までお問い合わせ下さい。

6次元:rokujigen_ogikubo@yahoo.co.jp
シマウマサロン:salon@shima-uma.co.jp

*関連情報リンク(東北芸術工科大学
山形ビエンナーレ2014 プレイベント みちのおくNIGHT 東京から「みちのおく」へ。東北とアートを語る6つの夜。

山形ビエンナーレ2014プレイベント「みちのおくNIGHT」
実施日:2014年5月31日[土]、6月21日[土]、7月26日[土]、8月29日[金]、9月6日[土]
時間:18:00~21:00頃(開場17:30)
料金:1000円(ワンドリンク付)
会場:6次元(5/31、7/26、9/6)/シマウマサロン(6/21、8/29)
定員:各回35名(全席自由・整理番号有)
主催:東北芸術工科大学美術館大学センター
共催:カフェ6次元、シマウマサロン
企画協力:ナカムラクニオ(6次元)
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「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」(後編・コレクション展ついて) 広島市現代美術館

広島市現代美術館
「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」
3/15-6/8



前編に続きます。広島市現代美術館で開催中の「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」を見て来ました。

「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」(前編・美術館について) 広島市現代美術館(はろるど)

さて一通り屋外彫刻を楽しんだ後は館内へ入場します。コレクション展です。現在行われているのは2014年の第一期。表題の如く「○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」です。

抽象表現を基点に60年代以降の作家の取り組みを紹介するもの。ずばり端的に幾何学的な作品から、むしろ意図せずに図形が浮かび上がる作品などを見せていく。60年代はミニマル的表現が多く見られた時期でもあります。現代アメリカの抽象美術から日本の「もの派」、さらには浜口陽三からアクションを捉えた映像作品までと多様です。盛りだくさんでした。


リチャード・ロング「スイス花崗岩の環」 1985年

会場内の撮影が可能です。まず冒頭はリチャード・ロング、「スイス花崗岩の環」(1985)です。文字通り環、円を描いて並ぶ花崗岩。いずれもロングが自ら出かけて採取したというもの。内側の円と外側の円。そして内部における直方体。単に環と言えども、そこにはいくつもの形があることが見て取れます。


手前:遠藤利克「Lotus2」 1990年
右奥:フランク・ステラ「ラッカ1」 1967年


うっすらと白く、また軽快ですらあるロングの彫刻。逆に一転して黒く、また重厚感があるのが遠藤利克の「Lotus2」(1990)です。お馴染みの木を炭化させて作られたオブジェ。かなり大きい。直径は4.5mもあります。

それにしても本来的に比重の大きい岩よりも小さな木の方が重く見える、ようはロングの花崗岩よりも遠藤の炭の方が重く感じられるのも興味深いもの。そしてロングと遠藤の作品の向こうに見えるのがフランク・ステラの「ラッカ1」(1967)です。無数の円の連なり。白のロングの黒の遠藤、そして赤に緑と色鮮やかなステラ。色の関係も面白い。いずれも大作、「○」から繋がる世界。広々としたスペースだからこその贅沢な展示でした。


「風景のなかに現れる幾何学形」展示風景

続いてのセクションも意欲的です。テーマは「風景のなかに現れる幾何学形」。主に日本人の描いた様々な絵画に「幾何学形」を見出していきます。ご覧の通り、壁面にずらりと絵画が連なる展示。キャンバスという四角形の連続です。そしれそれ自体が言わば一つの幾何学的な形でもあります。


左手前:香月泰男「青年」 1954年

巧妙なのは絵の配置です。ご覧のように必ずしもフラットではなく段差がある。しかも必ずしも右へあがるわけでもありません。時に手前の絵より下の部分に掲げられています。さて何故にこのようになっているのか。私もはじめは気がつきませんでした。

種明かしをしてしまうと、それぞれの絵画内の中心となりうる水平面が横に一直線になるように並べられているのです。そしてその横一本の線を「広島のわすれることのできないあの瞬間」(キャプションより)、つまりは原爆の記憶と関連づけている。ようはこの線を時間の流れになぞらえてもいます。


下村良之介「黒い雨」 1996年

下村良之介の「黒い雨」(1996)が目を引きます。空を覆う黒い雲に下部は赤く染まる大地。炎でしょうか。縦方向へ幾重にも筋が入っている。まさに黒い雨。素材は和紙です。隆起するのは日本画に顔料に紙粘土。独特の画肌を見せています。


デニス・オッペンハイム「2段階転換ドローイング」 1971年 他

アクション・アートはどうでしょうか。展示はいずれもライブを収めた映像です。デニス・オッペンハイムは自ら息子の背中に線を描きながら、一方で息子が今度は作家の背に描くというドローイングの試みを行っている。行為としての結果に一種の幾何学的図像が登場します。


手前:榎倉康二「干渉」 1995年

ラストは△と□への展開です。まずは榎倉康二の「干渉」(1995)。油による染みを取り込んだ作品です。キャンバスに広がる染み。立て掛けられた一本の柱の背後にも同じく染みがあります。キャンバスと柱との関係。それが染みを通して会場へと繋がっていく感覚。かつて都現美で見た回顧展(2005年)のことも思い出しました。


マイケル・ミケレデス「エントランス」 2001年

マイケル・ミケレデスの「エントランス」(2001)は三角形と台形を連ねた形です。また山口長男の「翼」(1966)も印象深い。ちなみに画家の作品は現在、千葉の川村記念美術館で行われているミニ回顧展でも何点かまとめて見ることも出来ます。


手前:菅木志雄「限界状況」 1970年

そしていわゆる「もの派」です。李禹煥に菅木志雄。菅は2点、「限界状況」(1970)と「集結性と領界性」(1995)が出ていました。なお菅は来年早々、東京都現代美術館でも個展が予定(2015/1/24~3/22)されています。こちらも期待したいものです。


右:山口長男「翼」 1966年
右奥:菅木志雄「集結性と領界性」 1995年


美術における幾何学的諸相。ともすると漠然となりがちですが、そこは時に「ヒロシマ」を意識した作品や切り口で攻め込んでいく。館のポリシーという言葉で宜しいのでしょうか。何か中心となり得る「軸」を持つコレクションである。そのようなことを感じました。

さて広島市現代美術館、ちょうど先週末、5月17日より企画展「スリーピング・ビューティー」がはじまりました。



「スリーピング・ビューティー」@広島市現代美術館 5月17日(土)~7月21日(月・祝)

こちらは「美」の知覚について主に同館の所蔵作品から考察するもの。おそらく常設の幾何学展とあわせて見れば、同館のコレクションの全体像がさらに浮かび上がるのではないでしょうか。



「○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」は6月8日まで開催されています。

「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」 広島市現代美術館
会期:3月15日(土)~6月8日(日)
休館:月曜日(5月5日を除く)、5月7日(水)。
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
 *3月26日~30日、5月3日~6日は19時まで開館延長。 
料金:一般370(280)円、大学生270(210)円、高校生・65歳以上170(130)円、中学生以下無料。
 *( )内は30名以上の団体料金。
 *特別展「スリーピング・ビューティー」開催時は共通券あり
場所:広島市南区比治山公園1-1
交通:広電(市内路面電車)比治山下駅より徒歩10分。広島駅及び紙屋町より広電・広島バスにて「段原中央」下車。動く歩道「比治山スカイウォーク」経由にて約700m。
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「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」(前編・美術館について) 広島市現代美術館

広島市現代美術館
「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」
3/15-6/8



広島市現代美術館で開催中の「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」を見て来ました。

広島駅から向かって南方、市内を一望出来る丘陵地帯である比治山。古くは桜の名所で知られた一帯。現在はほぼ全域が公園になっています。その緑深き丘の中に建つのが広島市現代美術館です。開館は意外と古く1989年です。当時としては全国で初めての公立現代美術館でした。



さて所在地の比治山。中心街からのアクセスは比較的良好です。写真左奥は京橋川。山の下に寄せる路面電車の最寄駅は文字通り「比治山下」です。私もそこから美術館へと向かいました。



比治山下駅からのアプローチは交番脇からのびる坂道です。すぐ左手には原爆が投下された際、県の防空本部の置かれた多聞院がある。爆風で被災した鐘楼は今も保存されています。比治山は爆心地から約1.8キロの距離です。市内の被爆者の多くがここへ逃げてきました。



その後は急な坂です。息が切れるとまでは申しませんが、かなり頑張って登らなくてはならない。ともかくは標示に沿って進みました。



細い階段をあがるとようやく美術館の建物が見えてきます。想像以上の広大な敷地です。さらに道なりに上へ。美術館に辿り着きました。



設計は黒川紀章です。80年代の黒川といえば埼玉県美(82年)や名古屋市美(88年)を手がけた頃。ここ広島現美は先にも触れたように89年です。その趣きはあるでしょうか。



階段上は円形状のアプローチプラザです。ヨーロッパの広場を模しています。そして建物はその左右、ちょうど両手を伸ばすように広がっていました。



また屋根は日本の「蔵」をイメージしているそうです。神殿風の列柱と尖った三角屋根の組み合わせ。美術館を特徴的付けるデザインでもあります。



面白いのは建物の素材です。下から順に自然石、磨き石、タイル、アルミが用いられている。少し分かりにくいかもしれませんが、写真でも建物の上と下で色が違うことが見て取れるでしょうか。重い素材から軽い素材へ。表情が変化しています。



カフェ横のテラスです。曲線を描くガラスの窓。同じく黒川による国立新美術館の外壁を思い出しました。

さて広島市現代美術館、屋外の彫刻作品が充実しています。



まずフェルナンド・ボテロの「小さな鳥」(1988年)。ブロンズです。丸みを帯びた鳥がすました表情で立つ。それにしても太い脚です。可愛らしくもあります。



菅木志雄の「石で囲う」(1997年)。美術館の石の外壁を借景にした作品です。石のオブジェがちょうど長方形を描くように配置されている。いずれも上部が切断、真ん中が切り立って背もたれのようになっています。



全部で40個あるそうです。マグダレーナ・アバカノヴィッチの「ヒロシマー鎮まりしものたち」(1992-93年)。美術館のある丘からさも外を見下ろすように並んでいる。ヒロシマ、言うまでもなく原爆の災厄を意識した作品でしょう。

他にはムーア、そして舟越保武のブロンズ像もある。屋外彫刻は17点ほど設置されています。



館内に廻ると青木野枝の彫刻が目を引きました。比治山の森を背にしての展示。なかなか雰囲気があります。



ところで同館、路面電車の最寄駅は比治山下ですが、バスではちょうど山の反対側、段原中央バス停が便利かもしれません。と言うのも、段原方面からはイオンのショッピングセンターを経由して「比治山スカイウォーク」が整備されているからです。こちらは全てエスカレーター、端的に坂道をあがらなくてすみます。私も帰りはスカイウォークを利用し、段原からバスで市中心部へと戻りました。(但しバスは1時間に3~4本程度です。)

美術館の建物と屋外彫刻の紹介で長くなりました。コレクション展(○△□ー美術のなかの幾何学的想像力)については次のエントリでまとめたいと思います。

後編へ続きます。

「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」(後編・コレクション展ついて) 広島市現代美術館(はろるど)

「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」 広島市現代美術館
会期:3月15日(土)~6月8日(日)
休館:月曜日(5月5日を除く)、5月7日(水)。
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
 *3月26日~30日、5月3日~6日は19時まで開館延長。 
料金:一般370(280)円、大学生270(210)円、高校生・65歳以上170(130)円、中学生以下無料。
 *( )内は30名以上の団体料金。
 *特別展「スリーピング・ビューティー」開催時は共通券あり
場所:広島市南区比治山公園1-1
交通:広電(市内路面電車)比治山下駅より徒歩10分。広島駅及び紙屋町より広電・広島バスにて「段原中央」下車。動く歩道「比治山スカイウォーク」経由にて約700m。
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5月18日(日)は「国際博物館の日」(2014年)

「博物館が社会に果たす役割について広く市民にアピール」(日本博物館協会より)するために設定された「国際博物館の日」。毎年5月18日です。タイミングの良いことに今年はちょうど日曜日と重なりました。



当日は全国各地の博物館や美術館において記念事業が行われます。イベント一覧については日本博物館協会のWEBサイトをご覧ください。

「2014年 国際博物館の日 記念事業一覧(5月14日現在)」(日本博物館協会)

さて記念事業、講演会や記念品贈呈、またセレモニーにガイドツアーなどと様々ですが、やはりお得感があるのは、入館料の割引あるいは無料開館です。

[全展示(企画展含む)無料]

国立新美術館(中村一美展、イメージの力)
神奈川県立近代美術館葉山館、鎌倉館、鎌倉別館(宮崎進展、一原有徳展、新収蔵作品展)
DIC川村記念美術館(コレクション リコレクション VOL.3)

[常設展のみ無料]

国立科学博物館
国立西洋美術館
世田谷美術館
東京国立近代美術館(工芸館、フィルムセンター含む)
東京国立博物館

[観覧無料]

刀剣博物館(第23回特別重要刀剣等新指定展)
佐藤美術館(佐藤美術館コレクション展)
台東区下町風俗資料館
足立区郷土資料館

都内近辺の主な博物館や美術館で無料開館が行われるのは上記の通りです。まず国立新美術館は公募展含めて全展示無料です。現在開催中の「中村一美展」も「イメージの力」もフリーで観覧出来ます。



「5月18日(日) 国際博物館の日 関連サービスのご案内」@国立新美術館

また上野界隈では「国際博物館の日」にあわせて「上野ミュージアムウィーク」を展開中です。こちらは18日に限りません。その前後の一週間でガイドツアーやコンサートの他、近隣の商店街を巻き込んでのイベントが行われています。

「上野ミュージアムウィーク」 5月10日(土)~5月25日(日)

ただし無料開館は18日限定。上野は常設展示のみの開放です。それぞれ科博、西美、東博、そして台東区下町風俗資料館の常設展示が無料になります。(なお大混雑中の東博キトラ展は対象ではありません。)

神奈川県立美術館は三館とも企画展を含めて無料です。葉山館(立ちのぼる生命 宮崎進展)、鎌倉館(一原有徳 1910ー2010)、鎌倉別館(新収蔵作品展 併陳:小泉淳作デッサン展)がいずれも無料で入場出来ます。



「5月18日 国際博物館の日は展覧会を無料でご覧いただけます」@神奈川県立近代美術館

興味深いのが三井記念美術館です。こちらは外国人、大学生、高校生に限り、開催中の「超絶技巧!明治工芸の粋」を無料で見ることが出来ます。



「5月18日(日)国際博物館の日を記念して、当日に限り、外国人および大学・高校生の方は無料でご入館いただけます。」@三井記念美術館

また特集「何かがおこっている」の続編で話題の東京国立近代美術館の所蔵作品展も18日は無料になります。こちらも見逃せません。

「MOMATコレクション 特集:『何かがおこってる2 1923、1945、そして』/『地震のあとでー東北を思う3』」@東京国立近代美術館 4月15日(火)~6月1日(日)

国際博物館の日イベント、毎年テーマが変わり、今年は「コレクションは世界をつなく」だそうです。年々、認知度は高まって来ているのでしょうか。これを切っ掛けに博物館へ出かけるという方も少なくはないかもしれません。



ちなみに私はまだ見ていなかった国立新美術館の二展示、中村一美展とイメージの力展へ行くつもりです。

「2014年 国際博物館」の記念事業一覧、記載ミスなどがあるやもしれません。お出かけの際は改めて各美術館のWEBサイトをご確認下さい。
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「コレクション展/華麗なる西洋絵画の世界展」 ひろしま美術館

ひろしま美術館
「コレクション展/華麗なる西洋絵画の世界展」
4/26-6/15



ひろしま美術館で開催中の「コレクション展/華麗なる西洋絵画の世界展」を見て来ました。

広島市の中枢、広島県庁や広島城のすぐそばに位置するひろしま美術館。言うまでもなく関東での西洋絵画展でも「ひろしま美術館蔵」の作品を見る機会は多い。印象派からエコール・ド・パリに至るフランス近代美術コレクションでは大いに定評があります。

先日、広島に行った際、少し立ち寄ることが出来ました。こちらでも簡単にご紹介しましょう。



はじめにロケーションです。先にも触れたように広島市の中心部。バスや広電が多数行き来する市内交通の一大拠点、紙屋町から歩いて4~5分のところにあります。



広々とした前庭です。駐車場の向こうに美術館が建つ。周囲は中央公園です。都心とは思えないほどに緑豊か。それにしても実に立派な外観、余裕のある造りではないでしょうか。

ガラスドアを抜けると受付とミュージアムショップ、そして右側にティールームがあります。さらにまた一度屋外へ進む。内庭です。建物の壁は大理石でしょうか。目の前に美術館の展示施設が現れました。



円形の建物が本館です。中央内部にはメインホールがあり、上部はドーム状になっている。そしてホールに沿ってぐるりと並ぶのが展示室。計4つです。そこが常設展示のスペースとなっていました。

本館のさらに向こう側、入口から見て一番奥が別館です。こちらは地上1階、地下1階の2フロア。本館と同じく4つの展示室があります。現在は企画展の「山寺後藤美術館コレクション展」の会場として使われています。



本館と中庭をぐるりと取り囲むのが外壁です。内側は回廊になっています。中に足を踏み入れて思い浮かんだの礼拝堂のイメージでした。どこか厳かですらある。独特の雰囲気があります。



公式サイトにも案内がありますが、同館には「原爆犠牲者の方々への鎮魂の祈りと平和への願い」(パンフレットより引用)がこめられているとのこと。当然ながら建物自体もそれを意識して設計されているのでしょう。本館とホール、そして回廊の位置関係。ある意味で外界と遮断された空間です。自然と作品へ集中出来る気もしました。

さて常設の西洋絵画展ですが、これが想像以上に充実していました。(館内は撮影不可。)

「所蔵作品」/「現在展示中の作品リスト」(PDF)@ひろしま美術館

まず1室の「ロマン派から印象派まで」。ルノワール5点、ドガ3点、モネ2点などが並ぶ。佳作揃いです。うちインパクトがあるのはドガの「浴槽の女」(1891年頃)です。まさにヌード、素っ裸の女性が盥の上で身体を洗おうとする光景を描いている。目を引くのは大きな臀部です。さも後ろから覗き込んだような構図はスキャンダラスでもあります。


アンリ・ル・シダネル「離れ屋」 1927年

続いては2室の 「ポスト印象派と新印象主義」。シダネルの「離れ屋」(1927年)はどうでしょうか。画家の愛したジェルブロワの地、月明かりの元で咲き誇る薔薇。窓から漏れる明かりも美しい。かつて埼玉県立近代美術館のシダネル展でチラシ表紙も飾った作品です。久々に再会出来ました。


フィンセント・ファン・ゴッホ「ドービニーの庭」 1890年

ゴッホの「ドービニーの庭」(1890年)は画家最晩年、亡くなる二週間前に描かれたもの。初夏の庭園、草木も空も建物も輝かしいまでの陽光に包まれている。しかしながらどこか不穏な気配は拭い難い。うねりまた歪む筆致。これぞゴッホと言うべき作品かもしれません。


パブロ・ピカソ「酒場の二人の女」 1902年

3室の「フォーヴィスムとピカソ」ではピカソの青の時代の作、「酒場の二人の女」(1902年)が素晴らしい。酒場で寄り添う二人の女性。しかしながら描かれているのはあくまでも後ろ姿。表情は伺い知れることは出来ません。それでも伝わる何とも言い難い悲哀。まさに背中で語るとはこのことでしょうか。肩を落として疲れているようにも見える。沈み込むような青の色遣いも味わい深いものがあります。

ラストの「エコール・ド・パリ」(4室)ではフジタの「受胎告知」・「三王礼拝」・「十字架降下」(1927年)が圧倒的です。いわゆる祭壇画の形式をとる三幅対の連作、言うまでもなく素材は聖母マリアとイエスの物語ですが、背景は金箔を敷き詰めたような地である。そして得意の面相筆の線描にさも胡粉を混ぜたような乳白色。もちろん全て油彩の技法によるものですが、まるで日本画を前にしているような印象さえ与えられます。


モーリス・ド・ブラマンク「雪の集落」

またスーティンやビュッフェも良い。出品はメインホールに展示されたマイヨールの彫刻を含め全90点(絵画は約80点)です。見応えがありました。

続いては別館へ進みます。企画展の「山寺後藤美術館コレクション 華麗なる西洋絵画の世界展」。こちらの展覧会、タイトルこそ異なりますが、去年に文化村で開催された「山寺 後藤美術館コレクション展 バルビゾンへの道」の広島巡回展です。

「バルビゾンへの道」 Bunkamura ザ・ミュージアム(はろるど)

私も一度見た展示です。よって感想は割愛しますが、やはり惹かれるのがカバネルとエンネル。上記リンク先記事と重複しますが、カバネルの「デズデモーナ」とエンネルの「荒地のマグダラのマリア」が美しい。またエンネル画では時に象徴派風の女性像も魅力的です。両者とも主に19世紀後半のフランスで活動したアカデミスムの画家。いつかは大きな回顧展を見たいものです。


アレクサンドル・カバネル「エコーの声を聴く」

それにしてもひろしま美術館、実のところ下調べも殆どせずに出向いたので、企画展開催中は常設展を開催していないのかと勘違いしていました。いやはやそんなことはありません。通年で約90点の西洋絵画コレクション(作品自体は全部で300点を所蔵しているそうです。)を展示している。魅惑の常設展です。気がつけば予定の時間をオーバーしていました。



なお常設展については日本近代美術(今回は特別展開催中のため出品されていません。)との入れ替えなどがあるようです。詳細は同館までお問い合わせ下さい。

「ひろしま美術館 オリジナル マスキングテープセット」

「ひろしま美術館コレクション展/山寺 後藤美術館コレクション 女性像と日々の営みで綴る 華麗なる西洋絵画の世界展~バロック絵画からバルビゾン派まで」 ひろしま美術館
会期:4月26日(土)~6月15日(日)
休館:会期中無休。
時間:9:00~17:00  *入館は16時半まで。 
料金:一般1200(1000)円、大学・高校生900(700)円、小・中学生500(300)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *コレクション展観覧料を含む
 *割引券
場所:広島市中区基町3-2 中央公園内
交通:広電(市内路面電車)紙屋町西駅、もしくは紙屋町東駅下車徒歩4~5分。
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「アートアワードトーキョー丸の内2014」 行幸地下ギャラリー

行幸地下ギャラリー
「アートアワードトーキョー丸の内2014」
4/26-5/25



行幸地下ギャラリーで開催中の「アートアワードトーキョー丸の内2014」を見て来ました。

大学の卒展や修了展を経たばかりの若いアーティストを審査形式で紹介する「アートアワードトーキョー丸の内」。舞台は文字通り東京駅の目と鼻の先、丸の内は行幸地下ギャラリーです。今年で回を数えること8回目。そろそろ定着してきた感があるやもしれません。

さて開催初日、審査員による公開審査が行われ、各アワードの受賞者が選定されました。

グランプリ:谷中佑輔 (京都市立芸術大学大学院)
審査員賞
 今村有策賞:福本健一郎 (東京藝術大学大学院)
 神谷幸江賞:齋藤杏奈 (女子美術大学大学院)
 後藤繁雄賞:藤井マリー (京都市立芸術大学大学院)
 小山登美夫賞:佐々田美波 (京都市立芸術大学)
 建畠晢賞:笹岡由梨子 (京都市立芸術大学大学院)
 高橋明也賞:原田圭 (東京藝術大学大学院)
 倉本美津留賞(ゲスト審査員):北島麻里子 (東京造形大学)
三菱地所賞:水野里奈 (多摩美術大学大学院)
シュウ ウエムラ賞:朝倉優佳 (女子美術大学大学院)
フランス大使館賞:崔多情 (京都造形芸術大学)
アッシュ・ペー・フランス賞:高山夏希 (東京造形大学)

地下のフリースペース、通路両サイドのガラスケースに沿っての展示です。如何せん引きのとれないスペースではありますが、作品は絵画やインスタレーション他、映像と様々です。また撮影も出来ます。以下、いくつか惹かれた作品を挙げてみました。

まずは今村有策賞の福本健一郎です。「植物のリズム感、民族柄の配色」(キャプションより)に興味を持っているという作家。絵画と木彫での展示です。


福本健一郎「よろこび」 2013年

エキゾチックなまでの色遣い。両手を広げて立つのは人の姿でしょうか。緑を基調とした植物をあしらった衣装をつけ、花をたくさん挿した帽子を冠っています。


福本健一郎「幸せポール」 2014年

またさり気なく小品の木彫も可愛らしいもの。枝や幹の上にぽつんとのる猫や人物。異なる木材が組み合わされているのも興味を引く。彩色も鮮やかです。トーテムポールを思い出しました。


高山夏希「CAMEL Rider 2014」 2014年

モンゴルのラクダに取材したという高山夏希はどうでしょうか。「CAMEL Rider」と題された二点の絵画、遠目ではビーズでもはめ込んでいるのかと思うほどに細かい。しかしながら技法はアクリルに油彩。ともに絵具のみで描かれています。また画肌の表情も豊かです。絵具を盛った箇所と流れるような筆致による色面が混じりあっています。繊細なテクスチャーに惹かれました。


藤井マリー「パーリングじゃ殺せない」(部分) 2012年

同じくテクスチャーと言えば藤井マリーも面白い。「パーリングじゃ殺せない」とは激しいタイトルです。横3.8mに縦2m超の大作。素材は全てペンのみです。シュールでもあり、またファンタジーを思わせる世界。それにしても密度が濃い。細い線に小さな点が群がっては生き物に魂を吹き込んでいく。絵巻を広げるかのように物語が展開されています。


田中望「モノおくり」(部分) 2012年

今年のVOCA賞を受賞した田中望も出展しています。「モノおくり」と「ミタマメシ」です。うち「モノおくり」はVOCA賞作品と同名作。綿布に日本画の技法を用いての絵画、やはりモチーフは東北の習俗なのでしょうか。輪になって踊る兎たちの群れ。カカシも見えます。そしてそびえ立つは大木。また奇岩です。木の器には大根やネギなどの野菜が供え物として置かれている。土着の神を讃えた祀りの光景かもしれない。古代の儀式を連想させます。


田中祐輔「山の振動」 2014年

見事グランプリを獲得したのは谷中祐輔です。作品は「山の振動」。黄色や青、赤のバルーン状のオブジェが交錯したインスタレーション。壁際に並ぶのは岩や石の写真でしょうか。コラージュと切り立つ岩肌。展示ケースから飛び出してくると錯覚してしまうほどのボリューム感です。そういえば今年は総じてビジュアルとして強い、ようは端的に目を引く作品が多いように感じました。

なお「特別展示」として、過去のアートアワードに参加した作家も紹介しています。今回は3名。うち2007年にグランプリを受賞した荒神明香が秀逸ではないでしょうか。


荒神明香「toi、toi、toi」 2013年

妖しくも煌めくガラス製のシャンデリア。それ自体、美しくもありますが、実はこのガラス、とある由来、言わば過去を抱えています。重く暗い記憶。それを知るとシャンデリアが違った表情で見えてきます。ヒントは作品の下にあるモニターです。まずは会場で確認してみてください。


佐藤翠「Bag shelf 3」(部分) 2014年

同じく「特別展示」の佐藤翠(小山登美夫賞。2010年。)のアクリル画も心に留まりました。ショッピングウィンドウに並ぶバックでしょうか。真っ正面から捉えている。塗り残しを活かした筆致が心地良く響きました。

余談ですがアートアワード、年々観覧される方が増えているような気がします。現地は再開発の著しい丸の内界隈。賑わいも増しました。その辺の効果もあるかもしれません。


「アートアワードトーキョー丸の内2014」会場

観客によるオーディエンス賞の投票受付は既に終了しました。受賞者は追って発表されると思います。

会期中無休で無料。連日夜8時までの展示です。5月25日まで開催されています。

「アートアワードトーキョー丸の内2014」@a_a_t_m) 行幸地下ギャラリー
会期:4月26日(土)~5月25日(日)
休廊:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:千代田区丸の内2-4-1 行幸通り地下
交通:JR線東京駅丸の内地下中央口、東京メトロ丸ノ内線東京駅より地下直結。東京メトロ千代田線二重橋前駅7番出口より地下直結
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「超絶技巧!明治工芸の粋」 三井記念美術館

三井記念美術館
「超絶技巧!明治工芸の粋ー村田コレクション一挙公開」
4/19-7/13



三井記念美術館で開催中の「超絶技巧!明治工芸の粋ー村田コレクション一挙公開」を見て来ました。

明治時代、主に輸出用として作られた七宝や金工などの工芸品。それらはいずれも明治以前、江戸時代にも高い技術を誇っていたもの。ところが幕末以降の社会の変化により国内での需要が失われていく。結果的に海外へ市場を求めることになりました。

よって工芸品の多くは海外に残されてきた。日本人が愛でる機会が多かったとは必ずしも言えません。

しかし近年に一人の人物が現れます。村田理如氏です。村田製作所の専務を務めた同氏、1980年代後半にNYで印籠を購入したのを発端に、明治工芸を収集。オークションで海外から工芸品を次々と買い戻します。2000年には清水三年坂美術館を設立。現在までに1万点余もの明治工芸コレクションを形成しました。


赤塚自得「四季草花蒔絵提箪笥」

清水三年坂美術館名品展と言っても差し支えがないかもしれません。コレクションから選りすぐりの160点を出品。明治工芸のエッセンスを紹介します。

少し前置きが長くなりました。まず扱われている工芸は以下の通り。全9種です。

七宝、金工、漆工、薩摩、刀装具、自在、牙彫・木彫、印籠、刺繍絵画


並河靖之「花文飾り壺」

さてはじめに触れておきたいのは導入が巧みであること。冒頭の三井の特徴的な立体展示室。よく茶碗などが並んでいるスペースですが、そこに名品中の名品、展覧会でも特に見るべき作品が展示されている。いきなりのハイライトです。そこで明治工芸の緻密さ、芸の細やかさ、それでいて時に大胆な意匠などを知る仕掛けとなっています。

薩摩焼の「雀蝶尽し茶碗」はどうでしょうか。キャプションをして「日本の陶芸でこれほど緻密な作品はない。」とまで言わしめた作品。茶碗の外側には一体、何羽いるのか見当もつかないほどたくさんの雀が描かれている。えさを食べている雀もいます。生き生きとした表情。可愛らしい。そして圧巻なのは見込みです。無数のつぶつぶ。肉眼ではまるで分かりませんが、何とこれは全て蝶であるとのこと。まるで小さな宝石でも蒔いたかのように広がる蝶。どのようにして絵付けしたのか。考えただけでも途方に暮れてしまいます。

ちなみに薩摩焼とは朝鮮の由来、主に幕末の鹿児島で興った焼物のことです。明治維新後は輸出向けとなり、例えばパリやウィーンの万国博で大いに珍重されたそうですが、その本家の人気に倣ったのか、東京や関西、それに金沢などの全国各地でも生産されていきます。


薮明山「蝶に菊尽し茶碗」

薮明山の「蝶に菊尽し茶碗」も同じ蝶がモチーフです。僅か3ミリほどの蝶が群れて舞う。渦をまく白い波模様も美しい。一つのデザインとしても惹かれる作品でした。

ハイライトに戻ります。牙彫。安藤緑山です。おそらく全作家の中で最も注目されることでしょう。うち代表的なのが「竹の子、梅」。ごろんと竹の子。梅が添えられる。文字通り見たまま。だからこそ凄い。そして何が凄いのか。端的に申し上げれば本物と見間違うほど精巧に作られているのです。


安藤緑山「竹の子、梅」

ほぼ実寸大、全長37センチの竹の子。皮が少し捲れてもいる。根の部分がピンク色です。これは取り立ての竹の子だけに現れる色。瑞々しい。着色とは思えません。そして丸々肥えた姿。見るからに美味しそうです。茹でていただくかお刺身でいただくか。もはやそれが牙彫であることすら忘れてしまいます。

牙彫師の安藤緑山は他にも野菜や果物を制作。本展でも茄子や柿に蜜柑、それにパセリなどが紹介されています。いずれも手にとって食したくなるような作品ばかりですが、作家の来歴は謎に包まれている。何でも弟子をとらなかったばかりか、文献等の記録も少ない。生没年すら分かっていません。

惹かれた作品を少し挙げましょう。自在。部分部分が可動する金属製の置物です。とぐろを巻いた蛇に黒くどこか滑りとした質感を思わせる鯉。ともに立派ですが、一転しての小品、「兜虫」や「鍬形」も魅惑的です。兜虫は羽、そして鍬形は顎が開く。脚の細く曲がった部分までを再現。今にも動き出しそうです。昆虫好きはもちろん、フィギュア好きにもたまらない作品と言えるかもしれません。

漆工から外せないのは柴田是真です。2012年には根津美術館での「ZESHIN」展でも卓越した技を見せた蒔絵師。本展においても6点ほどの作品が展示されています。

「ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画」 根津美術館(はろるど)

うち強く感心したのは「宝舟蒔絵茶箱」です。小さな蒔箱に宝舟、ようは巻物や珊瑚や笠といった宝を載せた舟が表された作品ですが、面白いのは構図のセンス。というのも箱の表に一隻、鋭い三日月のような宝舟が描かれ、側面にはちょうど箱の角の部分で曲がった舟が今度は二隻連なって描かれている。うまく言葉では伝わらないかもしれませんが、ともかくもその舟の配置が絶妙なのです。

図録に明治工芸を評価するに際しては「超絶技巧+α」が重要であるという指摘がありました。この「α」の部分には例えば工芸作家の昆虫や草木に対しての細やかな観察眼が含まれる。そして是真です。彼のデザインセンス、まさにそれこそ「α」の最たるものではないでしょうか。


並河靖之「桜蝶図平皿」

技巧に精巧。神業ならぬ入念かつ緻密な手仕事から開かれる驚異のテクスチャー。会場内、至る所から「凄い、凄い。」の声が聞こえてきましたが、確かに凄いとしか言いようがない。唸らされる作品ばかりです。

明治工芸の里帰りというべき展覧会です。そして一見、キャッチーなチラシに巧みな展示誘導、さらには熱の入った図録のテキスト。日本の美術史に埋もれがちなジャンルを再評価する試み。監修は山下裕二先生です。さもありなんという気がしました。

GW期間中の夕方前に出向きましたが、館内は思いの外に賑わっていました。また日曜美術館の他、メディアなどでも露出の機会が多い。ひょっとすると会期末にかけて混雑してくるかもしれません。

NHK日曜美術館 「明治の工芸 知られざる超絶技巧」
2014年5月11日放送 再放送:5月18日夜 出演:山下裕二

毎週金曜日は「ナイトミュージアム」として19時まで開館しています。当日17時以降は入場料も割引価格の1000円(大人)です。その辺も狙い目となりそうです。

「明治の細密工芸:驚異の超絶技巧!/山下裕二(監修)/別冊太陽」

7月13日まで開催されています。まずはおすすめします。

「超絶技巧!明治工芸の粋ー村田コレクション一挙公開」 三井記念美術館
会期:4月19日(土)~7月13日(日)
休館:月曜日、5月7日(水)。但し4/28(月)、5/5(月)は休館。
時間:10:00~17:00  毎週金曜日は19時まで開館。*入館は閉館の30分前まで。 
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生800(700)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *70歳以上は1000円
 *毎週金曜日17時以降は「ナイトミュージアム」として一般1000円。(大・高校生500円)
 *割引引換券
場所:中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線三越前駅A7出口より徒歩1分。JR線新日本橋駅1番出口より徒歩5分。
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「こども展」にて特別内覧会が開催されます

六本木の森アーツセンターギャラリーで開催中の「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」。



文字通りこどもに関する西洋近代絵画を集めた展覧会。モネにルノワールにマティス他、画家らの見つめたこどもの姿を追う。出品は約90点。うち3分の2が日本で初めて公開される作品でもあります。

その「こども展」にてSNSユーザー向けに特別内覧会が開催されます。

[森アーツセンターギャラリー「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」特別内覧会 概要]
・日時:2014年5月20日(火) 18:00~20:00
・会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー 52F)
・スケジュール
 18:00~ 受付開始(ミュージアムコーン3F。参加証を受け取った後、52F会場へ。)
 18:30~ 特別観覧会開始
 18:30~ ギャラリートーク(展示室入口付近)
  *中山三善氏(森アーツセンターギャラリー・エキシビションディレクター)
   19:00~19:15 導入部で本展の概要説明、ルソーからジョフロワ辺りまで
   19:15~19:30 モネとルノワールを中心説明
 20:00  特別観覧会終了
定員:100名(先着順)
・参加資格:ブログ、Faceboook、Twitterアカウントをお持ちの方。ブログの内容は問いません。
・参加費:無料
・申込方法:専用申込フォームより→https://admin.prius-pro.jp/m/win/form.php?f=2&acc=hGslWblV
・申込締切:定員に達し次第受付終了。詳細については返信メールにて。


ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジュリー・マネの肖像、あるいは猫を抱くこども」1887年 オルセー美術館
© RMN-Grand Palais(musee d'Orsay) / Herve Lewandowski / distributed by AMF - DNPartcom


日時は5月20日(火)の午後6時より。閉館後の観覧です。参加資格はブログ、Faceboook、Twitterアカウントをお持ちの方で、展示の感想なり魅力をご紹介いただける方です。

【参加の特典】

1.ブロガー皆様の特別内覧会。
2.参加の皆様に、非売品のこども展クリップボードを特別にプレゼント。
3.竹内まりやさんナビゲートによる音声ガイドを、無料でお貸し出し。
4.森アーツギャラリー・エキシビジョンディレクターによるギャラリートークにご参加いただけます。
5.展示室内の撮影が行えます。(注意事項有り)

当日は森アーツセンターギャラリー・エキシビションディレクターの中山三善氏によるギャラリートークが行われる他、会場の写真撮影も出来ます。また音声ガイドも無料で貸し出していただけるそうです。


クロード・モネ「玉房付の帽子を被ったミシェル・モネの肖像」1880年 マルモッタン=モネ美術館
© The Bridgeman Art Library


なお本展はパリのオランジュリー美術館では開催された「モデルとなった子どもたち」展をベースにしたもの。同地では何と20万名を動員。大変な人気を集めたそうです。それを日本向けにアレンジして構成。監修は成城大学の千足伸行先生が務められました。

申込は先着順で100名。参加費は無料です。まずは奮ってご応募下さい。

申込フォーム→https://admin.prius-pro.jp/m/win/form.php?f=2&acc=hGslWblV

「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」 森アーツセンターギャラリー
会期:4月19日(土)~6月29日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00(4/29、5/6を除く火曜日は17時まで)入館は閉館時間の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校・中学生800(600)円。小学生以下無料。
 *( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
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