「見つめて、シェイクスピア!展」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「見つめて、シェイクスピア!展 美しき装丁本と絵で見る愛の世界」
9/28-11/30



練馬区立美術館で開催中の「見つめて、シェイクスピア! 美しき装丁本と絵で見る愛の世界」を見て来ました。

今年生誕450年を迎えたウィリアム・シェイクスピア(1564~1616)。その作品世界を装丁本や挿絵で楽しめる展覧会です。

館内の撮影の許可を特別にいただきました。

さてチラシには「本展には2つの主役が存在」とありますが、実のところ構成自体も2部制。エントランスに連なるフロアと、もう一つの階段上の展示室で完全に分かれています。


「見つめて、シェイクスピア!展」会場風景

先に階段上の展示室からご紹介しましょう。こちらは挿絵で辿るシェイクスピアの物語。全90点です。冒頭は四大悲劇こと「ハムレット」、「オセロー」、「リア王」、「マクベス」。それをドラクロワやテオドール・シャセリオー、またヘンリー・フューズリらの作品で見ていきます。


ウジェーヌ・ドラクロワ「シェイクスピア『ハムレット』」1834-43年 栃木県立美術館

絵画でも数多く取り上げられた「オフィーリアの死」はどうでしょうか。写真はドラクロワのリトグラフ連作によるもの。オフィーリアが溺死する姿、右手にはブーケを持ち、左手で木の枝につかまっている。口元はうっすらと開いている。上半身も露となっています。

ちなみにキャプションには各戯曲のあらすじが記載されています。いずれも有名な物語ではありますが、挿絵のイメージを借りて見るシェイクスピアの世界。改めてテキストで追いかけたくなりました。


左:ジョン・シモンズ「真夏の夜の夢ーパックや妖精たちに囲まれたハーミア」1861年 うつのみや妖精ミュージアム

展示は殆ど挿絵ですが、ごく一部に絵画もあります。例えば「真夏の夜の夢ーパックや妖精たちに囲まれたハーミア」です。19世紀イギリスのジョン・シモンズの水彩、この時期に流行ったいわゆる妖精画です。「真夏の夜の夢」をモチーフにした連作が出ていました。


アーサー・ラッカム(挿絵)「シェイクスピア『テンペスト』」1926年 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館

またお馴染みラッカムによる挿絵も僅かながら出品されています。うち「テンペスト」の二枚、緻密な線描が目を引きました。


マルク・シャガール(挿絵)「シェイクスピア『テンペスト』」1975年 大川美術館

ハイライトと言えるかもしれません。同じ「テンペスト」に付けたシャガールの連作です。作家が晩年になって描いた作品、その数50点、かなり細かく場面を分けて描いています。もちろんいずれもテンペストから取材していますが、恋愛の場面が多いのが特徴と言えるかもしれません。


「見つめて、シェイクスピア!展」会場風景

階下へと戻り、初めのフロアへと戻りましょう。もう一つの主役である装丁本展です。シェイクスピアをテーマに制作された装丁本がずらりと並ぶ。2013年に開催された「第二回デザイナー・ブックバインダーズ国際製本コンペティション」の入賞作品展でもあります。


奥:アンドレス・ペレス=シエラ・ロドリゲス「マクベス」1983年

そしてこの展示が思いの外に面白い。戯曲のイメージを装丁に反映させたものですが、意匠が自在で凝っています。時代は2010年以降の近年から1945年以前の戦前の作品と多様、しかしながらどちらかと言えば現代的な作品が多い。ゆえにデザインは抽象的なものも少なくありません。


エミリー・マーティン「ロミオとジュリエットの悲劇」2012年

アンドレス・ペレス=シエラ・ロドリゲスの「マクベス」、スリットで表されたのはバーナムの森のイメージなのでしょうか。そのほかにも舞台装置のような装丁本もある。たとえ元になるシェイクスピア作品を知らずとも、それ自体のデザインで楽しめるものばかりでした。

図録が良く出来ていました。一点一点の図版に比較的細かい解説がついています。

[見つめて、シェイクスピア!展 巡回予定]
滋賀県立美術館:2015年2月7日~4月5日

派手さはありませんが、シェイクスピア好きはもちろん、装丁本やデザイン好きにも楽しめる展示ではないでしょうか。

「名画で見る シェイクスピアの世界/平松洋/中経出版」

11月30日まで開催されています。

「見つめて、シェイクスピア!展 美しき装丁本と絵で見る愛の世界」 練馬区立美術館
会期:9月28日(日)~11月30日(日) 
休館:月曜日。*但し10月13日、11月3日、24日(月・祝)は開館、翌日休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人500(300)円、大・高校生・65~74歳300(200)円、中学生以下・75歳以上無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。

注)写真は美術館の特別な許可を得て撮影したものです。
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10月の展覧会・ギャラリーetc

10月に見たい展覧会などをリストアップしてみました。

展覧会

・「生誕200年 ミレー展 愛しきものたちへのまなざし」 府中市美術館(~10/23)
・「ディスカバー、ディスカバー・ジャパン 『遠く』へ行きたい」 東京ステーションギャラリー(~11/9)
・「ボストン美術館 浮世絵名品展 北斎」 上野の森美術館(~11/9)
・「THE MIRROR」 名古屋商工会館(10/16~11/9)
・「白絵ー祈りと寿ぎのかたち」 神奈川県立歴史博物館(10/11~11/16)
・「青磁のいまー受け継がれた技と美 南宋から現代まで」 東京国立近代美術館工芸館(~11/24)
・「東アジアの華 陶磁名品展」 東京国立博物館(~11/24)
・「東山御物の美」 三井記念美術館(10/4~11/24)
・「見つめて、シェイクスピア!」 練馬区立美術館(~11/30)
・「Plastic?/Plastic! 高度経済成長とプラスチック」 松戸市立博物館(10/11~11/30)
・「高野山開創1200年記念 高野山の名宝」 サントリー美術館(10/11~12/7)
・「日本国宝展 祈り、信じる力」 東京国立博物館(10/15~12/7)
・「ウフィツィ美術館展」 東京都美術館(10/11~12/14)
・「夢見るフランス絵画 印象派からエコール・ド・パリへ」 Bunkamura ザ・ミュージアム(10/18~12/14)
・「チューリヒ美術館展」 国立新美術館(~12/15)
・「ザハ・ハディド」 東京オペラシティ アートギャラリー(10/18~12/23)
・「赤瀬川原平展」 千葉市美術館(10/28~12/23)
・「五木田智央 THE GREAT CIRCUS」 DIC川村記念美術館(~12/24)
・「ジョルジョ・デ・キリコー変遷と回帰」 パナソニック汐留ミュージアム(10/25~12/26)
・「リー・ミンウェイとその関係展」 森美術館(~1/04)
・「ミシェル・ゴンドリーの世界一周展/東京アートミーティング(第5回) 新たな系譜学をもとめて」 東京都現代美術館(~2015/1/4)
・「フェルディナント・ホドラー展」 国立西洋美術館(10/7~2015/1/12)
・「ウィレム・デ・クーニング展」 ブリヂストン美術館(10/8~2015/1/12)
・「ボストン美術館 ミレー展」 三菱一号館美術館(10/17~2015/1/12)
・「開館35周年記念 原美術館コレクション展」 原美術館(10/25~2015/1/12)

ギャラリー

・「アピチャッポン・ウィーラセタクン展」 SCAI THE BATHHOUSE(~10/4)
・「カンノサカン」 Maki Fine Arts(~10/12)
・「野田裕示 拡大の一例2」 ギャルリー東京ユマニテ(9/29~10/18)
・「TWS-Emerging 2014 第3期 hop/前川祐一郎/斎藤永次郎/谷正也」 トーキョーワンダーサイト渋谷(10/4~10/26)
・「田中望ーものおくり」 アートフロントギャラリー(10/10~10/26)
・「二艘木洋行展」 TALION GALLERY(~10/30)
・「リニューアルオープン記念展 5人の写真」 ツァイト・フォト・サロン(~11/8)
・「高谷史郎」 児玉画廊東京(10/4~11/8)
・「トーマス・ルフ」 ギャラリー小柳(10/4~11/15)

さて秋の展覧会シーズン、上野や六本木でも続々と大型展が始まりますが、それとは別に私が気になるのは横浜、神奈川県立歴史博物館の「白絵」展です。



「白絵ー祈りと寿ぎのかたち」@神奈川県立歴史博物館(10/11~11/16)

いわゆる白地に白の絵具で描く白絵に着目しての展覧会。白は婚礼の調度品にも使われる一方、時に白装束のように人の死とも関わり合った。良く知られた白屏風のみならず、工芸や調度品など、日本美術の「白」の背景にある文化を探る展示になるそうです。

府中市美術館に続いて三菱一号館美術館でも「ミレー展」が始まります。



「ボストン美術館 ミレー展」@三菱一号館美術館(10/17~2015/1/12)

実は府中もまだ見られていませんが、これほど近いエリアでミレー展が続くのは珍しいのではないでしょうか。府中、丸の内とあわせて楽しみたいと思います。

DIC川村記念美術館の「五木田智央展」と千葉市美術館で始まる「赤瀬川原平展」が相互に提携します。



「赤瀬川原平展」@千葉市美術館(10/28~12/23)
「五木田智央 THE GREAT CIRCUS」@DIC川村記念美術館(~12/24)


提携内容はチケットの相互割引と二会場間を往復する無料バスの運行。特にこのバスが重宝します。

以前もこの「川村記念ー千葉市美」間の直通バスに乗ったことがありますが、道路事情によって遅れることがあるとはいえ、両美術館の移動に30分ほど。電車を乗り継ぐよりもずっとスムーズに廻ることが出来ます。

ツァイト・フォト・サロンが京橋の1丁目から3丁目へ、また少し前になりますが、TALION GALLERYが西日暮里から雑司ヶ谷へと移転しました。その辺も追っかけられればと思います。

お馴染みミュージアムカフェマガジンの最新10月号がステーションギャラリーの「ディスカバー、ディスカバー・ジャパン」展特集でした。



「ディスカバー、ディスカバー・ジャパン 『遠く』へ行きたい」@東京ステーションギャラリー(~11/9)

朝晩ぐっと冷えてくるようになりました。体調に気をつけてお過ごし下さい。

それでは10月も宜しくお願いします。
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「ノルマンディー展」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館

東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
「印象派のふるさと ノルマンディー展~近代風景画のはじまり」
9/6-11/9



東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「印象派のふるさと ノルマンディー展~近代風景画のはじまり」を見て来ました。

フランス北西部、セーヌ河口のル・アーヴルなどの港町を有するノルマンディー地方。絵画で辿るノルマンディーの旅と言っても良いでしょう。印象派からフォーヴィズムまで、ノルマンディーを描いた画家たちを紹介しています。

さてはじまりは当然ながらフランスの画家と思いきや、対岸、イギリスの画家。かのターナーでした。


ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー「ル・アーヴル」 アンドレ・マルロー美術館

と言うのも1815年に英仏戦争が終わり、イギリス人が数多くノルマンディーを訪れるようになった。ターナーもその一人です。いわゆる絵になる風景、ピクチャレスクを求めてノルマンディーを描きます。

ターナー画はいずれもエングレーヴィングの小品のみ。数も2点と少なめです。あくまでも触りの段階に過ぎませんが、この後にターナーらのイギリスの風景画家に影響を受けて、フランス人画家もノルマンディーを描き始めていく。そのプロセスを伺い知れる導入ではないかと思いました。


ウジェーヌ・イザベイ「浜に上げられた船」1865-70年頃 エヴルー美術博物館
© J.P Godais. Musee d’Evreux


必ずしも有名な画家ばかりではありません。例えばジャン=ルイ・プティの「嵐の中のオンフルールの田舎」やウジェーヌ・イザベイの「浜に上げられた船」。どれほど知られているでしょうか。前者はノルマンディーへ打ち寄せる大波を描き、後者は海岸線に打ち上げられた帆船を表す。当然ながら海景画が目立ちます。画題の主役はノルマンディー越しの英仏海峡としても過言ではありません。

そして海景といえばブーダンです。計10点ほど展示されています。そもそも生まれはセーヌ河口のオンフルール。そして育ちはル・アーブルです。言わば生粋のノルマンディーっ子でもあります。


ウジェーヌ・ブーダン「トルーヴィルの海岸にて」1880-85年 サンリス美術考古博物館
© Musee d’Art et d’Archeologie, Senlis Photo © Christian Schryve


「トルーヴィルの海岸にて」はどうでしょうか。お馴染みの海辺のピクニックを捉えた一枚。トルーヴィルはノルマンディーを代表するリゾート地でもある。1863年に鉄道が開通したことで多くのパリジャン、とりわけ上流階級の人々が訪れたそうです。


ウジェーヌ・ブーダン「ル・アーヴル、ウール停泊地」1885年 エヴルー美術博物館
© J.P Godais. Musee d’Evreux


「ル・アーヴル、ウール停泊地」も美しい。水平線を低く構えて港に停泊する帆船を大きく捉える。もちろん夕景でしょう。セピア色にも染まる空。少し逆光気味でしょうか。よく見ると帆船がうっすらと黒い線で描かれていることが分かります。


ギュスターヴ・クールベ「海景、凪」1865-67年 ロン=ル=ソニエ美術館
© Ville de Lons-le-Saunier, Musee des Beaux-Arts Studio Eureca, Jean-Loup MATHIEU


そのブーダンと親交があったのがクールベです。得意の「波」のほか、画家にしてはやや物静かな印象を与える「海景、凪」などが展示されていました。

また同じくブーダンと知り合ったモネも登場、うち「サン=タドレスの断崖」が目を引きます。なおノルマンディーを舞台にしたモネといえば、ルアーブルの港町を描き、意図せずとも印象派と名付け親となった「印象・日の出」が有名ですが、そちらは不出品。この展覧会で見ることは叶いません。

思いがけない作品がありました。写真です。写真が発明されたのは1839年のこと。写真家たちは画家が風景を描くのと同様、ノルマンディーの光景を写真に収めていきました。代表的なのはエミール=アンドレ・ルトゥリエです。「タンカーヴィル、廃墟の城跡」でも見られるように、同地に点在する遺跡や古城を写し出しました。


アンリ・ド・サン=デリ「オンフルールの市場」 アンドレ・マルロー美術館
© Florian Kleinefenn


印象派を超えてフォーブへの展開を見るのも本展の大きな特徴といえるかもしれません。オトン・フリエスやアンリ・ド・サン=デリ。そしてラウル・デュフィです。

ラストはさながらミニ・デュフィ展です。10点超の作品がまとめて展示されています。


ラウル・デュフィ「海の祭り、ル・アーヴルへの公式訪問」1925年頃 アンドレ・マルロー美術館
© Florian Kleinefenn


そもそもデュフィもル・アーヴルの生まれ。同地に留まり続け、波止場や海辺の景色、それにヨットレースなどをモチーフにした作品を描いています。

晩年、身体を崩して南仏へ移ったのち、改めて故郷を舞台にして描いた「黒の貨物船」の連作も目を引きました。デュフィならではの鮮やかな色彩の空間に広がる黒い影。さも光をかき消す闇のようでもある。何を思ってのゆえなのでしょうか。身体に自由のきかないデュフィの心情、そして強い郷愁。そうした要素が反映されているのかもしれません。

近年、ノルマンディーを舞台に撮影したメリエルの写真(2001~2009年)も興味深いもの。先の19世紀末のルトゥリエの写真と見比べるのも楽しいかもしれません。

もちろんノルマンディーを題材にした絵画を集めた展覧会ではありますが、例えば一部においてはル・アーブルにおけるフォーブや新しい芸術運動などの言及もある。ターナー以降、約100年間のノルマンディーの美術史をかなり細かく追いかけています。好企画でした。


アルベール・マルケ「ル・アーヴルの外港」1934年 アンドレ・マルロー美術館
© Florian Kleinefenn


出品は120点弱と多めです。一部、版画と写真を含みます。また松岡美術館の一点と個人蔵を除くと、全て海外のコレクションです。ル・アーヴルのアンドレ・マルロー美術館やオンフルールのウジェーヌ・ブーダン美術館の作品などが目立ちました。

会期早々に観覧しましたが、意外と盛況でした。ただし行列が出来ているわけでもありません。スムーズに楽しめると思います。

なおこの9月に館名が「損保ジャパン東郷青児美術館」から「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」へと変わりました。

それに伴って公式サイトもリニューアルされたようです。館名はさらに長くなりましたが、サイトは見やすくなりました。

11月9日まで開催されています。

「印象派のふるさと ノルマンディー展~近代風景画のはじまり」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
会期:9月6日(土)~11月9日(日)
休館:月曜日。但し祝日は開館。翌火曜日も開館。
時間:10:00~18:00 毎週金曜日は20時まで。 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(900)円、大学・高校生700(550)円、65歳以上900円、中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *10月1日(水)はお客様感謝デーのため無料。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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「鏑木清方と江戸の風情」 千葉市美術館

千葉市美術館
「鏑木清方と江戸の風情」
9/9~10/19



千葉市美術館で開催中の「鏑木清方と江戸の風情」を見て来ました。

いわゆる美人画の三巨匠の一人としても挙げられる鏑木清方。深い叙情性を帯びた作品は美人画ならぬとも人物の心持ちを巧く表している。好きな方も多いかもしれません。

その清方が理想郷としていたのは江戸の風情です。実際に彼が幼児期を過ごしたのは江戸の名残のある明治の東京でした。ようは清方が制作に際して江戸をどう捉え、何を見て、何を描こうとしていたのか。それを丹念にひも解いていく展示となっています。


「西鶴 五人女のおまん」明治44(1911)年 名都美術館

さて清方と江戸との関係。まずは浮世絵です。13歳で芳年の弟子の水野年方に入門した清方。冒頭には芳年や年方をはじめとした浮世絵が展示されています。

また面白いのは清方が敬愛していたという画人、尾形月耕の「美人花競 菖蒲」です。文字通り菖蒲に美人を取り合わせた作品ですが、少し振り返る姿が情緒的でもある。そう捉えると清方の主に挿絵を中心とした劇的な作風、芳年あたりの系譜を受け継いでいるような気もします。

挿絵画家として独立した後は、明和、天明期の浮世絵に出会い、特に春信に傾倒しました。

木場の川岸を舞台にした「寒月」は展覧会の初出品作。小さな女の子に手を引かれて歩く瞽女の姿。庶民の暮らしを有り体に見つめてもいます。


「三枚続(泉鏡花著)口絵」 明治35(1902)年 鎌倉市鏑木清方記念美術館

「新小説」や「文藝倶楽部」の口絵もまとめて紹介。鮮やかな色遣いによる挿絵群、細部の意匠も凝っています。「文藝倶楽部」14巻の口絵「伽羅」では着物の一部でしょうか。エンボスを利用していました。

ただ清方自身、浮世絵の消化の仕方に関しては絵師によって差があり、例えば北斎、広重、歌麿に関しては、その複製を知る程度に過ぎなかったそうです。(一方で豊春画は自ら所有していました。)また清方による歌麿や春章の模写も出ています。その辺も見どころかもしれません。

中盤がハイライトです。ずらりと並ぶ掛け軸画に屏風絵。清方の取り組んだいわゆる本画です。中でも印象深いのは「露の干ぬ間」。六曲一双の屏風絵、朝顔や秋草の絡む木立の間に立つ和装の女性を描いた作品です。


「露の干ぬ間」(部分) 大正5(1916)年 喜寿会

口に団扇を加えて右手で髪を触る女性。実に香しい。春信の美人画を思わせます。そして背景の植物の描写、空間を意識した木立の配置はもとより、リズミカルな草の曲線美など、どこか琳派的とも言えはしないでしょうか。ちなみに会場では本作とあわせて春信の「三十六歌仙 藤原仲文」も展示。両者を見比べることも出来ます。

本展では浮世絵が50点近く展示されているのもポイントです。清方画と浮世絵との関係。それを追っていく内容でもありました。


「花見幕」 昭和13(1938)年頃 島根県立石見美術館

後半はより具体的に清方の江戸への視点を考えていきます。キーワードは「物語」と「理想郷としての江戸」、そして「理想郷としての明治」の3つ。特に面白いのがラスト、晩年の清方が江戸風情の残る明治を回顧して描いた作品です。

まさにノスタルジアと言っても良いのではないでしょうか。幼少期を明治時代の下町に生きた清方、それを一つ一つ懐かしむかのように描いているのです。

最後にもう一点、清方画における男性の描写。これがまた色っぽい。もちろん美人画の巨匠でありますが、男女の情愛を描くとさらに魅惑的に映る。これほど人の恋心を汲み取って描いた日本画家はほかにいないかもしれません。


「春雪」昭和21(1946)年 サントリー美術館

いわゆる名品展とすると趣きが異なるかもしれません。(鎌倉市鏑木清方記念美術館のコレクションが目立ちます。)また構成が入り組んでいるせいか、ハイライトが中盤に来ているのと、動線が複雑なのが気になりました。ただ清方をまとめて見られるのは事実。彼の愛した江戸の情緒を楽しめる展覧会でもありました。


「朝夕安居」昭和23(1948)年 鎌倉市鏑木清方記念美術館

一部の作品が途中で入れ替わります。

「鏑木清方と江戸の風情」出品リスト(PDF)
前期:9月9日~9月28日
後期:9月29日~10月19日

なお本展は所蔵作品展「七つ星ー近年の収蔵作家たち」と同時開催中です。会場は7階が清方展、そして8階が七つ星展となっています。

七つ星展では近年の新収蔵品を紹介。タイトルのごとく七名の作家の作品を展示しています。

こちらはともかく時代もジャンルもまちまちですが、うち印象深かったのは江戸時代の絵師の岡本秋暉と、銚子に生まれて千葉の景色を版画に表した金子周次でした。特に金子の作品、例えば犬吠埼の灯台を舞台にした海景画などは何とも素朴な味わいがあります。

参考作品を含めれば清方展が150点ほど、それに七つ星展の140点が加わります。いつもながらに「量」でもしっかりと見せる千葉市美術館。観覧にはかなり時間がかかりました。

人気の清方ではありますが、館内には余裕がありました。ゆっくり楽しめます。

「鏑木清方ー逝きし明治のおもかげ/別冊太陽/平凡社」

会期は一ヶ月強と短めです。10月19日まで開催されています。

「鏑木清方と江戸の風情」 千葉市美術館
会期:9月9日(火)~10月19日(日)
休館:10月6日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「四時から飲み」 とんぼの本(新潮社)

新潮社とんぼの本の「四時から飲みーぶらり隠れ酒散歩」を読んでみました。

「四時から飲み/林家正蔵/とんぼの本」

明るいうちからお酒を飲んだことがありますか?

何度かブログでも触れたことがありますが、私自身、ひょっとすると美術よりも好きかもしれないお酒。これまでにも時に人があきれるほど酒を飲み、また飲まれてきたつもりですが、さすがに昼間の明るいうちから飲む機会は滅多にありません。



例えば平日に飲み会などがスタートするには早くても夜七時、お休みの日はもう少し前倒しして六時頃でしょうか。さらにたまに頑張って五時。とするとさらに遡って一時間、何故に四時なのか。まずはその四時という時間が妙に引っかかってしまいました。

結論からすると良い意味で言いくるめられました。そして私も今度は夕方四時からしずしずと飲もう。そんな気にさせられる一冊でもあります。



著者は噺家の林家正蔵さん。雑誌「東京人」に連載中の「ちょいとごめんなさいよ 四時からの悦楽」を再編集して刊行したもの。正蔵さんの「4時から酒」に関するスタンスに加え、都内津々浦々、夕方の四時でも飲める店が紹介されています。

では何故四時なのか。正蔵さんのテキストにあたってみましょう。

噺家という稼業をしていると、昼間の高座を終えれば、もう何の予定もなしなんて日がある。(略)家に帰って稽古をすればいいのだが、その気にもならず、(略)「一杯やろうか」という気持ちが浮かび上がる。(略)朝飲みは身上をつぶすし、ランチビールは気どりすぎ。後ろめたさと飲みたい気分をふるいにかけたら「四時飲み」がコロリと目の前に転がりでた。三時はおやつ、五時じゃあたり前。すると間をとって四時がいい。

いかがでしょうか。「三時はおやつ、五時じゃ当たり前。」と言われてしまえば、なるほど確かに四時だと納得してしまうのは、私のような飲んべえの悲しい性なのかもしれません。



もちろん実際に平日四時からお酒を飲むというのが難しいのは事実。その反面、夕方前から飲める店がいかに貴重であるのもまた事実です。しかも必ずしも昼間から飲める「せんべろ」、つまり1000円でベロベロに酔えるような店だけでもありません。いわゆる居酒屋にとどまらず、そば屋に中華に餃子、そしてフレンチからジャズバーまで、かなり幅広いジャンルの店がピックアップされています。



正蔵さんの地元は浅草、よって浅草界隈の店も目立ちます。冒頭は「水口食堂」。いわゆる有名な煮込みストリートの中のお店ではありません。そして総じてお酒よりもおつまみについて触れられているのも特徴です。またテキストも日記風。仕事を終えて電車に乗り、どこで降りてどういう店で飲んだのか。噺家の日常を捉えた軽妙なエッセイとしても楽しめます。



飲んべえとしては知らぬ者はいない北千住の「大はし」をはじめ、森下の「みの家」、東十条の「埼玉家」など、都心を除けば、下町の店が多いのも、千葉に住む私としては嬉しいところ。お店やおつまみの写真も雰囲気がある。浅草「むつみ」の小柱の釜めしに中野「第二力酒蔵」のキンキの煮付け。思わずよだれがこぼれてしまいます。

以前、拙ブログでもご紹介した「いま教わりたい和食」の平松洋子さんとの対談がありました。舞台は赤羽のまるます家総本店です。

「いま教わりたい和食 とんぼの本(新潮社)」(はろるど)



赤羽は言わば飲んべえの都内の聖地の一つ。その中でもまるます家は界隈随一の繁盛店、朝九時から飲めるというお店です。以前、私も赤羽を飲み歩いていた際に行きましたが、焼酎で流し込む鯉のあらいがまた美味しい。隣と肩が触れるほどに狭いコの字型カウンターも妙に居心地良かったことを覚えてます。

この対談で平松さん、四時飲みについてこんなことを仰っておられました。

「世間様に対して少し後ろめたくて、でもその後ろめたさも味のうち(笑)」



後ろめたさをあえて楽しみながらの夕方四時飲み、この一冊を片手に酒場なりへ繰り出してはいかがでしょうか。

「四時から飲み:ぶらり隠れ酒散歩/林家正蔵/とんぼの本」

「四時から飲みーぶらり隠れ酒散歩」 とんぼの本(新潮社
内容:世間ではまだまだお仕事中の午後四時、頭をさげつつ飲む一杯の旨さ。後ろめたさも味のうち、だから四時飲みはやめられない!地元・谷根千の穴場から、銀座、浅草、はたまた酒飲みの聖地・赤羽まで。教えたくないとっておきの名店30をご紹介。「何処かの店のカウンターで四時過ぎにお会いするのを楽しみにしております」(林家正蔵)
著者:林家正蔵
価格:1728円
刊行:2014年9月
仕様:127頁
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奈良県立美術館で「大古事記展」が開催されます

今から1300年前に編纂された日本最古の歴史書でもある古事記。その名前はもちろん、「因幡の白兎」に「海幸彦と山幸彦」の物語、はたまた「草薙の剣」等々、数々の神話やエピソードも良く知られているところかもしれません。



「語り継ぐココロとコトバ 大古事記展」@奈良県立美術館 10月18日(土)~12月14日(日)

古事記を多方面から読み解く展覧会です。10月18日(土)より奈良県立美術館で「語り継ぐココロとコトバ 大古事記展」が開催されます。


重要文化財「禽獣葡萄鏡」中国・唐時代(8世紀) 春日大社

さて古事記、いわゆる原本なはく、写本が伝わるのみ。いわゆる考古資料は必ずしも多いとは言えません。

だからこその多方面です。公式サイトにもあるように「バラエティ豊かな展示物」で古事記の世界を紹介します。美術のみならず、国文学や民俗学の見地からも検証も行う。中には現代アーティストが古事記をテーマに制作した作品の展示まであります。

[大古事記展 展示構成]
1.古代の人々が紡いだ物語
2.古事記の1300年
3.古事記に登場するアイテムたち
4.身近に今も息づく古事記
5.未来へ語り継ぐ古事記

まずコンセプトとして重要なのが「五感で味わう」。例えば冒頭の序章です。編纂者の太安萬侶の神座像とともに投影されるのは映像のインスタレーション。さらには古事記と世界の神話を比較するCGグラフィックも披露されます。ともに映像で古事記を分かりやすく理解するための工夫とも言えるでしょう。

古事記を読み解くにあたって設定されたテーマは「創」、「旅」、「愛」の3つ。例えば最初の「創」では天岩屋戸神話や神武天皇の物語を取り上げます。ここでは絹谷幸二の「天の岩戸 曙光」(個人蔵)の絵画などが展示されるそうです。


青木繁「黄泉比良坂」 東京藝術大学大学美術館

そして「愛」では青木繁の「黄泉比良坂」(東京藝術大学大学美術館)や堂本印象の「木華開耶媛」(堂本印象美術館)が引用される。会場は奈良県立美術館ですが、何も同県内所蔵の絵画だけが出展されるわけではありません。


重要文化財「太安萬侶墓誌」 文化庁、奈良県立橿原考古学研究所付属博物館

第2章の「古事記の1300年」では文字通り古代から現代における古事記受容の変遷を辿ります。太安萬侶の実在が判明した1979年出土の「太安萬侶墓誌」(奈良市太安萬侶墓出土)のほか、近代において古事記を再発見した本居宣長の「自画自賛像」(本居宣長記念館)、さらには江戸期の「古事記寛永版本」(本居宣長記念館)なども目を引くのではないでしょうか。


国宝「七支刀」古墳時代(4世紀) 石上神宮 *展示期間:10/25~11/24

もちろん古事記ゆかりの考古資料もあわせて紹介。とりわけ注目したいのは国宝の「七支刀」(石上神宮)や重要文化財の「禽獣葡萄鏡」(春日大社)などの神宝です。そのほかには美術館初公開となる「女神坐像」(丹生川上神社)などといった貴重な品々も少なくありません。

ラストは「未来へ語り継ぐ古事記」。ずばり現代アートの登場です。


山口藍「けぬる」(参考作品)2009年

出展は山口藍、exonemo(エキソニモ)、TOCHIKA(トーチカ)の3組。うち山口はスパイラルやミヅマアートギャラリーでの個展などでもお馴染みのアーティスト。古事記からインスピレーションを受けて作った新作を展示します。


「竪櫛」弥生時代 大阪府文化財センター

かつてない古事記を体感的にも楽しめる「大古事記展」。さらに会期中は講演や講座なども多数開催。トーチカによるワークショップも予定されているそうです。

「大古事記展 関連イベント」 *イベントは事前申込不要。無料(ただし要観覧券)。10/25の「高千穂の夜神楽」を除き先着順にて受付。

また奈良県では現在、古事記完成1300年から日本書紀完成1300年の間(2012~2020年)に因んで「なら記紀・万葉」プロジェクトを展開中。「大古事記展」もその一貫の展覧会でもあります。

「なら記紀・万葉プロジェクト」公式サイト

さらに大古事記展期間は最寄の奈良国立博物館にて正倉院展が開催中です。その期間中、「奈良トライアングルミュージアムズ」と題し、入館料が相互に割引となるサービスも行われます。

[奈良トライアングルミュージアムズの取り組みによる割引]

奈良国立博物館「正倉院展 10/24~11/12」 100円引
奈良県立美術館「大古事記展 10/18~12/14」 200円引
入江泰吉記念奈良市写真美術館「入江泰吉と杉岡華邨 10/4~1/12」 2割引

*「大古事記展」の会期中、奈良国立博物館、奈良県立美術館、入江泰吉記念奈良市写真美術館のいずれかの入館券の半券を提示すると、上記の割引を適用。


「大古事記展」懇談会で挨拶する荒井正吾奈良県知事。(有楽町朝日ホールにて。少しだけお邪魔しました。)

この時期は奈良界隈の社寺で秘宝や秘仏の特別公開が多い季節でもあります。晩秋の奈良、古事記ゆかりの地を巡りながら、万葉の時代に思いを馳せるのも良いかもしれません。

「古事記/角川ソフィア文庫」

パスポートを提示すると外国人観光客が無料になるそうです。キャプションなど数カ国語での対応もあるのでしょうか。興味深い試みだと思いました。

「大古事記展」は奈良県立美術館で10月18日から始まります。

「語り継ぐココロとコトバ 大古事記展」 奈良県立美術館
会期:10月18日(土)~12月14日(日)
休館:10月20日(月)、11月17日(月)、25日(火)、12月1日(月)、8日(月)
時間:9:00~17:00 *毎週金・土曜日は19時まで開館。入場は閉場の30分前まで。
料金:一般800(600)円、大学・高校生600(400)円、中学・小学生400(200)円。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *外国人観光客はパスポート提示により無料。
住所:奈良市登大路町10-6
交通:近鉄奈良駅1番出口より徒歩5分。JR奈良駅より奈良交通バスにて「県庁前」下車。
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国宝「紅白梅図屏風」が根津美術館で公開されます

尾形光琳の国宝「紅白梅図屏風」が来春、根津美術館で公開されます。



「尾形光琳300年忌記念特別展 『燕子花と紅白梅』」@根津美術館(2015/4/18~5/17)

尾形光琳の筆になる2作の国宝「燕子花図屏風」と「紅白梅図屏風」を56年ぶりに一堂に展観します。

*追記「燕子花と紅白梅」展の記者発表会に参加しました。

「燕子花と紅白梅」 記者発表会(はろるど)

光琳の「紅白梅図屏風」といえば熱海はMOA美術館のコレクション。これまでにもちょうど毎年、梅の時期に同美術館の琳派展にて公開されてきました。

しかしながら必ずしも門外不出ではないかもしれませんが、かの2008年の東博大琳派展にも不出品。同館以外で展示される機会が殆どなかったのも事実です。


尾形光琳「国宝 紅白梅図屏風」 *創立百年記念特別展「琳派」(東京国立博物館、1972年。図録より。)

私の知る限りにおいて、例えば前回、東京で公開されたのは1972年(昭和47年)。東博創立100年を記念して行われた「琳派展」のことでした。

以来、東京では40年ぶりとなるのではないでしょうか。2015年4月、根津美術館の「燕子花と紅白梅」にて公開されます。


尾形光琳「国宝 燕子花図屏風」(右隻) 根津美術館

ちなみに本展はMOAとのコラボ企画です。それぞれMOAからは「紅白梅図」、そして根津からは「燕子花図」を貸し出す。根津に先行して二月にはMOA美術館にて同じく「燕子花」と「紅白梅」の両作品をあわせ見る展覧会が行われます。

そして両展は巡回展とも言えるのかもしれませんが、内容に関しては趣向が異なるとか。先行するMOAでは光琳以降の琳派の系譜と辿るのに対し、根津では光琳のデザイン性に着目する。また両国宝とあわせて琳派関連の作品が展示されるそうです。

光琳の「燕子花」と「紅白梅」が同時に展示されるのは56年ぶりのこと。昭和34年に今の天皇陛下のご成婚時に根津美術館で行われた展覧会(琳派展)以来だそうです。

私自身、琳派はそれなりに追っかけているつもりですが、どういうわけかMOAの「紅白梅図屏風」は見過ごしていました。

来年は光悦が徳川家康から鷹が峰の土地を拝領してから400年目の年。それに因んでか京都では琳派400年記念祭が企画されるなど、言わば琳派イヤーでもあります。

「琳派四百記念祭 RIMPA 2015」公式サイト

光琳の「燕子花図屏風」と「紅白梅図屏風」のそろい踏み。趣向の異なる光琳展をMOAと根津の両美術館であわせて見たいものです。

根津美術館の平成27年度のスケジュールが発表されました。

「特別展 燕子花と紅白梅」  4月18日(土)~5月17日(日)
「江戸のダンディズムー刀から印籠まで」 5月30日(土)~7月20日(月・祝)
「絵の音を聴くー雨と風、鳥のさえずり、人の声」 7月30日(木)~9月6日(日)
「特別展 青山の至宝ー根津嘉一郎と茶」 9月19日(土)~11月3日(火・祝)
「物語をえがくー王朝文学からお伽草子まで」 11月14日(土)~12月23日(水・祝)
「松竹梅ー年を寿ぐ吉祥のデザイン」 1月9日(土)~2月14日(日)
「ほとけのすがたー仏教絵画の優品」 2月27日(土)~3月31日(木)

下記リンク先は速報リリースです。(それぞれクリックで拡大します。)

 

詳細な展示内容については追って美術館サイトなどで公開されると思います。



さらに同館では9月20日より「新創開館5周年記念特別展 名画を切り、名器を継ぐ」展が始まりました。

こちらのレポートもまた後日まとめる予定です。

「もっと知りたい尾形光琳/仲町啓子/東京美術」

「燕子花と紅白梅」展は2015年の4月18日より根津美術館で始まります。

「新創開館5周年記念特別展 名画を切り、名器を継ぐ 美術にみる愛蔵のかたち」 根津美術館@nezumuseum
会期:9月20日(土)~11月3日(月・祝)
休館:月曜日。但し10月13日(月・祝)は開館し、翌日休館。
時間:10:00~17:00。入場は16時半まで。
料金:一般1200円、学生(高校生以上)1000円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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「山田純嗣展 絵画をめぐって 反復・反転・反映」 不忍画廊

不忍画廊
「山田純嗣展 絵画をめぐって 反復・反転・反映」
8/30-9/27



不忍画廊で開催中の山田純嗣個展、「絵画をめぐって 反復・反転・反映」を見て来ました。

絵画を鑑賞し尽くすということはこういうことなのかもしれません。

「モチーフの立体物を作り、それを撮影した写真に銅版画を重ね、樹脂を塗って仕上げるインタリオ・オン・フォトという方法」(ギャラリーサイトより)で制作を続ける作家、山田純嗣。

「『インタリオ オン フォト』について」@不忍画廊

これまでにも古今東西、様々な名画を手がけて来ましたが、今回私が特に驚いたのはいわゆる抽象、ようはポロックの絵画をモチーフにした作品があったことです。


手前:山田純嗣「One. Number 31」2013年

メトロポリタン美術館所蔵の「One. Number 31」を「インタリオ オン フォト」の手法で再生する。立体物を介しているからでしょうか。縦横無尽のドロッピングの広がりよりも手前と奥との関係、ようは奥行きが感じられる。言い換えれば線よりも面、さらには空間を強く志向させる作品へと変化しているのです。


山田純嗣「漣」2013-2014年

福田平八郎の「漣」はどうでしょうか。ざわめく水面のみをトリミングして描き出した作品、上から青みがかった色彩が波を象っていく。興味深いのは地と図の関係です。というのも福田は「漣」において銀箔の上に群青を重ねて波を描いていますが、山田は違う。地の部分、つまり波間に描き込みを入れています。ようは反転しているわけです。

そしてDM表紙でもあり、山田が本展に寄せたテキストでも触れているモネの「睡蓮」です。ここでも作品の構図、構造なりをやはり意識している。山田は以下のように述べています。


山田純嗣「WATER LILIES」(部分)2014年

モネの睡蓮の面白さは、水平な睡蓮の葉で奥行きを描くのと同時に池に反射する垂直の木立の平面性を描いていることにあると考えます。壁にかけられた睡蓮の作品は、奥行きと同時に壁同様の平面性を持っています。 *「山田純嗣: 鏡としての絵画」より


「インタリオ オン フォト」の製作ファイルより

さて今回、一つ目を引いたのが「インタリオ オン フォト」の製作過程の写真をファイルに収めた冊子。何でも会期二日目に藤原えりみさんと行った対談、「絵画をめぐって」の際にスライドで写したものだそうです。

元々完成した平面のみを作品として提示してきた山田ですが、例えば2011年の日本橋高島屋の個展では「インタリオ オン フォト」の最初の段階である立体を言わばインスタレーション的にも見せていた。近年は制作のプロセスも公開している印象があります。

もちろん全ては完成した作品を見るべきなのかもしれませんが、この冊子が制作を理解するのに非常に参考になりました。


山田純嗣「WATER LILIES」2013-2014年

一連のモネの連作、「WATER LILIES」に際して、ギャラリー内の照明を消していただきました。すると七色にも染まるかのような睡蓮の繊細な色味がより際立つ。角度を変えて見ると美しい光が仄かに放たれます。

この夏には愛知の一宮市三岸節子記念美術館で個展を終えた山田、同じく夏に長野で参加したグループ展がさらに来春、伊那へと巡回して開催されるそうです。



「信州新世代のアーティスト展2014」@長野県伊那文化会館 美術展示ホール(2015/1/24~2/8)


山田純嗣「日月山水 右隻」(未完)2014年

二次元の絵画を三次元にしてはさらに二次元に引き戻して見せる山田の作品。よく絵画なりを見る上で構図や奥行き云々を意識することがありますが、それがより強く表れているようにも思えなくない。「日月山水」における山と水辺との位置関係、さらには「漣」での地と図の関係しかり、舐め回すように見てしまいます。

名画が次元を行き来しては変化する山田の制作、半ば見知っているはずの元の絵画に思いがけない発見をすることも少なくありません。

初めに「鑑賞し尽くす」としたのはそういう意味でもあります。完成した作品自体は一見寡黙ですが、アプローチは極めて複雑。絵画を多角的に見定めています。ゆえにそうした絵画をどう自分が見ていたのか。その足りない部分に気がつくような展示でもありました。

9月27日まで開催されています。

「山田純嗣展 絵画をめぐって 反復・反転・反映」 不忍画廊@ShinobazuG
会期:8月30日(土)~9月27日(土)
休廊:9/7、14、15、21、23。
時間:11:00~18:30
住所:中央区日本橋3-8-6 第二中央ビル4F
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅より徒歩2分。都営浅草線日本橋駅から徒歩3~4分。
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「芹沢けい介の世界展」 日本橋高島屋8階ホール

日本橋高島屋8階ホール
「生誕120年記念 デザイナー 芹沢けい介の世界展」
9/10-9/23



日本橋高島屋で開催中の「デザイナー 芹沢けい介の世界展」を見て来ました。

いわゆる型絵染の人間国宝としても知られる芹沢けい(金へんに圭)介。生誕120年を記念しての展覧会です。芹沢の創作活動を紹介します。

さて展覧会、芹沢の業績をいくつかのキーワードでひも解いていますが、その一例としても挙げられるのが「文字と遊ぶ」。ようは文字を意匠に取り込んだ染色の作品です。


「いろは文六曲屏風」 東北福祉大学芹沢けい介美術工芸館

「四季曼荼羅二曲屏風」では春夏秋冬の文字を屏風に取り込む。また「染分けいろは文着物」では縦にグレー、イエローの色をストライプ状にに配し、その合間にいろはの文字を上下に並べています。流麗な仮名が連なる様はもはや抽象的とも言って良い。芹沢のデザイナーとしての卓越したセンスを伺い知れるものがあります。


「縄のれん文のれん」 柏市

その一方で民藝ならぬ伝統的な工芸への強い関心が見られるのもポイントです。「筍文のれん」はどうでしょうか。中央に筍を描いたのれん。また「縄のれん文のれん」も美しい。「御滝図のれん」では藍色に染まったのれんの中央で滝の白い筋が落ちています。のれんが言わば滝の借景として利用されています。

「飛の字のれん」にも魅せられました。「飛」という文字をあしらったのれん、漢字がまるで鳥の羽根が舞うような形となっている。一つの漢字から新たなイメージが生み出されています。


「琉歌愛踊」 個人蔵

芹沢の代名詞と言っても良いでしょう。紅型です。また沖縄の品々に関しては一部再現展示もあります。芹沢の沖縄への愛情を知る思いがしました。

さて会場は二部構成です。前半が芹沢の手、ようは彼の生み出したものとすれば、後半は目、すなわち彼の見て愛でたものの展示と言えます。


「カチナ仮面」(アメリカ・ホピ族) 東北福祉大学芹沢けい介美術工芸館

ここでは江戸期の「浜松扇面流し図屏風」からアイヌの草履や首飾り、さらには朝鮮の手箱にパプアニューギニアの仮面などが並びます。

いずれも芹沢のコレクション。コートジボアールの「神殿の扉」も面白いのではないでしょうか。今年春に国立新美術館で行われた「イメージの力」展を彷彿させるものがありました。


「型絵染筆彩着物」 柏市

出展は芹沢作品が70点弱、彼の収集品が50点強です。静岡市立芹沢けい介美術館及び東北福祉大学芹沢けい介美術工芸館、またかつて芹沢の作品を収集していた砂川七郎氏のコレクションを受け継ぐ柏市の所蔵品が目立ちます。

ところでその静岡の芹沢けい介美術館、もう10年近く前ですが、一度行ったことがあります。


右手が静岡市立芹沢けい介美術館(収蔵庫部分)。左は登呂博物館です。(博物館はこの後、2010年にリニューアルしたそうです。)

有名な登呂遺跡に隣接する美術館、本館の設計は松濤美術館を手がけた白井晟一です。石を積み上げた重厚感のある外壁に覆われた独特の内部空間。下へと潜り込むかのように開かれたエントランスを進み、池の廻りを囲んだ展示室で作品を見やる。白木の組天井も趣き深いもの。コレクションはもとより建物自体も非常に魅力的な美術館でした。


静岡市立芹沢けい介美術館敷地内。(写真はいずれも2006年に撮影したものです。)

現在はコレクターとしての芹沢に焦点を当てた「収集家・芹沢けい介」展が行われています。なかなか出向く機会も少ないのですが、また改めて見たいものです。

さて高島屋に戻ります。いわゆるデパートでの企画展です。当然ながら物販に関しても抜け目ありません。

芹沢展横の催会場では民藝展を開催中。全国津々浦々の民藝品が展示、販売されています。

「洋と美のこころ 民藝展」@日本橋高島屋8階催会場(9/10~23)

また会期中には各種トークイベントも行われています。かつては民藝運動にも賛同して民藝品の展覧会(昭和9、10年)を開いたこともある高島屋ならではの企画です。ここはあわせて楽しみました。

[芹沢けい介の世界展巡回予定]
横浜高島屋8階ギャラリー:9月25日(木)~10月6日(月)
京都高島屋7階グランドホール:2015年1月7日(水)~19日(月)
大阪高島屋7階グランドホール:2015年1月21日(水)~2月2日(月)

「芹沢けい介 文様図譜/コロナ・ブックス/平凡社」

9月23日まで開催されています。

「生誕120年記念 デザイナー 芹沢けい介の世界展」 日本橋高島屋8階ホール
会期:9月10日(水)~9月23日(火・祝)
休館:会期中無休。
時間:10:00~20:00 *入場は閉場の30分前まで。最終日は18時閉場。
料金:一般800円、大学・高校生600円、中学生以下無料。
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋8階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
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「パランプセストー重ね書きされた記憶 vol.3 井上雅之」 ギャラリーαM

ギャラリーαM
「パランプセストー重ね書きされた記憶 vol.3 井上雅之」
8/30-9/27



ギャラリーαMで開催中の「パランプセストー重ね書きされた記憶 vol.3 井上雅之」を見て来ました。

一枚のDMしかり、写真画像では何とも作品の「生」の迫力を伝え難いものがあります。

1957年で神戸に生まれ、1985年には多摩美術大学大学院美術研究科修士課程を修了。その後に国内外の美術館などで作品を発表してきた作家、井上雅之。

陶の作品だとは知っていました。しかしながら会場内に入った時に意表を突かれたのは私だけではなかったかもしれません。

というのも端的に作品が大きい。意外なまでに強い存在感があるのです。


井上雅之「K-953」1995年

例えば茶碗型の「K-953」、写真では伝わりにくいかもしれませんが、高さ1.5メートル近くある。内部も胸の辺りから覗き込む形になります。


井上雅之「K-953」(部分)1995年

そして興味深いのはこれらの陶、一つ一つのパーツに分かれていること。それをボルトのような留め具で繋いでは作品にしています。メカニック的とも言えるでしょうか。ようは陶片を組み立てては一つの作品へと仕上げているわけです。


井上雅之「K-953」(部分)1995年

さらに表面を見れば釉薬による変化もあります。爛れ、染み、そして皺が広がっては多様な紋様を描く。人間の皮膚、また動物の骨格をも思わせる感触。実に生々しい。さも有機物であるかのような印象を与えられます。


井上雅之「H-101」2010年

有機物といえば「H-101」、鳥の羽の一部のようなオブジェ、表面には釉薬でしょう。まるで血のように赤い色が広がっている。まるで太古の生物、それこそ恐竜の化石ようでもあります。

先の「K-953」は阪神淡路大震災の直後に制作されたそうです。そしてかの震災において作家は悲しいことにご両親を亡くされてしまいます。

それこそ瓦礫や残骸云々で捉えるべきものではないかもしれませんが、どこか遺物とも言えるような彫刻群。作家のそうした経験なりが踏まえられているのかもしれません。


「パランプセストー重ね書きされた記憶 vol.3 井上雅之」会場風景

αMのホワイトキューブとの相性も良いのではないでしょうか。地下空間に横たわる巨大な陶片。まるでここに長い時間眠っているかのようでした。


井上雅之「ドローイング」2014年/「マケット」2014年

素早い筆致によるドローイングも思いがけないほど魅力的です。これらのアイデアを元に立体作品が象られていくそうです。

9月27日まで開催されています。

「パランプセストー重ね書きされた記憶 vol.3 井上雅之」 ギャラリーαM@gallery_alpham
会期:8月30日(土)~9月27日(土)
休廊:日・月・祝。
時間:11:00~19:00
住所:千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビルB1F
交通:都営新宿線馬喰横山駅A1出口より徒歩2分、JR線馬喰町駅西口2番出口より徒歩2分、東京メトロ日比谷線小伝馬町駅2、4番出口より徒歩6分。
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「岩崎コレクション~孔子から浮世絵まで」 東洋文庫ミュージアム

東洋文庫ミュージアム
「東洋文庫創立90周年 岩崎コレクション~孔子から浮世絵まで」 
8/20~12/26



東洋文庫ミュージアムで開催中の「岩崎コレクション~孔子から浮世絵まで」を見て来ました。

1924年に東洋学の専門図書館として設立された東洋文庫。90周年を記念しての展覧会です。岩崎宗家より伝わる古写本、及び浮世絵を紹介しています。

さていわゆる常設を除くと70点ほどの展示、さほど量は多いと言えないかもしれませんが、思いがけないほど見応えがあるのは、やはり歴史ある東洋文庫コレクションのゆえかもしれません。


国宝「毛詩」唐時代初期(7~8世紀)

まずは古筆、貴重書です。国宝の「毛詩」。孔子が編纂したという中国最古の詩集「詩経」を漢の毛亨が伝えたもの。書写されたのは唐の時代初期です。毛詩の写本の中でも最古に分類されると考えられています。


義浄「梵語千字文」唐時代(9世紀頃)

6世紀頃に中国で編纂された字典です。その名も「梵語千字文」。展示品は9世紀頃の写本で現存最古です。日本へは遣唐使が持ち帰ったとか。かの高橋是清が所蔵していたものを大正期に岩崎家が購入しました。


「百万塔陀羅尼」770年

日本最古の印刷物がありました。「百万塔陀羅尼」です。764年に称徳天皇が即位した際に作らせたという経典「陀羅尼経」。計100万もつくらせ、各地の寺院に寄進したとか。それを入れた小塔とともに展示されています。


吉田兼好「徒然草(嵯峨本)」1615-24年頃刊

そして「徒然草(嵯峨本)」も美しい。見返しには流麗な鹿の絵、本文は雲母刷りです。角度を少し変えて見ると仄かに光輝いて見える。印刷の欠けた部分はかの光悦が補ったとも言われているそうです。

そのほかには江戸期の「歌仙貝合和歌」なども味わい深い作品。三十六歌仙にあわせて36種類の貝名を詠み、貝の絵も描いたという変わり種の絵巻物です。貝は思いの外に写実的に表されている。金銀箔や砂子が可憐に散っていました。


「日本書記(後陽成天皇勅版)」1599(慶長4)年 ほか

なおご覧のとおり東洋文庫ミュージアムは一部(浮世絵展示室)を除いて撮影が可能です。ここは遠慮なくカメラ片手に楽しみました。

さて貴重書と並び重要なのは浮世絵、中でも春画です。

近年に大英博物館で行われた春画展が話題になったように、必ずしも人々の関心がないわけではない春画。しかし様々な事情があるのでしょう。国内の展覧会なりで見る機会は決して多いとは言えません。

それを本展ではある程度まとめて見せています。東洋文庫で春画が公開されること自体が初めてです。そもそも師宣や春信、それに清長しかり、名だたる浮世絵師は春画でも腕を振るっていた。浮世絵史を踏まえる上で春画を外すことは出来ません。


鈴木春信「鈴木春信春画貼込帖」1768-72(明和後期)年頃

「鈴木春信春画貼込帖」はどうでしょうか。全12図、おそらくは種類の異なる組物から選ばれて貼られた作品、左には男女の恋の情景が、そして右にはいわゆる両者の交わる姿が描かれている。浮世絵と春画が一つの連続した物語として表されています。


勝川春潮「好色図会十二候」1788(天明8)年頃

勝川春潮の「好色図会十二候」も十二図の組物。四季の風物を背景に交わる男女、図は七夕の夜の出来事です。簾の透けの表現も美しい。何とも楽しそうな表情をした男女の様子が印象に残ります。

清長の春画もありました。「袖の巻」です。面白いのは縦2段で男女の姿が描かれていること。身体を象る線は実に細やかで清長のセンスを思わせます。それにしても清長、通常は8頭身ならぬ縦長の構図が特徴的ですが、ここでは横に長い。舞台を考えれば当然のことなのでしょう。ワイド画面での春画でした。


三世亀齢軒斗遠(発案)、狩野永岳・円山応震・土佐光文(画)ほか「華月帖」1836(天保7)年

影絵の情事です。「華月帖」です。蚊帳の中で交わる男女をモノクロームで表します。作者はいわゆる浮世絵師ではなく、円山応震や狩野永岳らといった絵師や文化人です。大阪の挿花師である亀齢軒の発案により共作で描きました。いかにも上方らしい一作、遊び心も感じられます。

さらに春画では北斎工房の「偶定連夜好」も面白い。女の表情が鬼気迫っている。当然ながら春画といえども絵師によって個性が出ています。


喜多川歌麿「高島おひさ」1793(寛政5)年頃

春画以外の浮世絵にも見るべきものがあります。うち浮世絵草創期、師宣や鳥居清信、清満らの作品は特に目を引くのではないでしょうか。もちろん状態の良い北斎の「高島おひさ」や歌麿の「御殿山の花見賀籠」、そして広重の「名所江戸百景」などのメジャーな作品もありましたが、こうした初期浮世絵に優品が多いのも東洋文庫コレクションの特徴と言えそうです。

会期中、展示替えがあります。*第1期出品リスト(PDF)

第1期:8月20日~10月20日
第2期:10月22日~12月26日

第2期では重文の「礼記正義」(7~8世紀・唐時代)が何と90年ぶりに公開されるそうです。また国宝の「文選集注」(10~12世紀・平安時代)も第2期で展示されます。

観覧において一部年齢の制限がありました。18歳以下は春画を含む浮世絵の展示室には入場出来ません。ご注意下さい。

ところで東洋文庫ミュージアム、実は今回初めて行きました。


エントランスからミュージアムショップ「マルコ・ポーロ」

場所は三田線の千石駅から歩いて7~8分ほど。不忍通り沿いです。斜め向かいには六義園があります。目の前の道路は車がひっきりなしに往来していますが、周囲は比較的閑静な住宅街です。

ミュージアムがオープンしたのは2011年の秋。想像以上に立派な施設でした。エントランスからオリエントホールでは東洋文庫の歩みを紹介。まだ新しい美術館です。映像や情報端末を用いてのデジタル展示も目立ちます。


モリソン文庫

そして何と言っても圧巻なのはモリソン文庫です。創設者の岩崎久彌がオーストラリア人のモリソン博士より譲り受けた東アジア関連の書籍群。その数2万4千点です。いずれも貴重書、その場で手にすることは出来ませんが、一部の書籍に関しては見開きでの展示もありました。


シーボルト「日本植物誌」1835-70年

美術館の裏手に廻ってみました。「知恵の小径」と名付けられた小径。中庭の「シーボルトガーデン」の緑が目に飛び込んできます。


知恵の小径から「シーボルトガーデン」方向

最奥部が洋風レストランの「オリエント・カフェ」です。運営は小岩井農場。そもそも農場の小岩井の岩とは三菱の岩崎彌之助からとった文字。彼は共同出資者の一人です。言わば岩崎家ゆかりの農場でもあります。


「オリエント・カフェ」

農場の素材を用いてのランチということで楽しみにしていましたが、何とタイミングの悪いことに、私の出向いた日はパーティーのため貸し切り。利用することが叶いませんでした。

「オリエント・カフェ」@東洋文庫ミュージアム

人気のカフェということで金・土曜を中心に貸し切りでのイベントも多いそうです。カフェの公式サイトにはその旨の案内もあります。お出かけの際は前もって確認した方が良さそうです。

キャプションも親しみやすく、単眼鏡も無料で貸し出して下さいました。


東洋文庫ミュージアム全景

まだまだ都内には魅惑的な美術館があるものです。12月26日まで開催されています。まずはおすすめします。

「東洋文庫創立90周年 岩崎コレクション~孔子から浮世絵まで」 東洋文庫ミュージアム@toyobunko_m
会期:8月20日(水)~12月26日(金)
休館:火曜日。但し祝日の場合は開館。翌日休館。
時間:10:00~19:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般900円、シニア800円、大学生700円、中学・高校生200円、小学生以下無料。
 *入館割引券あり
住所:文京区本駒込2-28-21
交通:都営地下鉄三田線千石駅A4出口から徒歩7分。JR線・東京メトロ南北線駒込駅(JR線南口、南北線2番出口)から徒歩8分。
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「BCTION」 ニュー麹町ビル

ニュー麹町ビル
「BCTION」
9/1-9/15



ニュー麹町ビルで開催中の「BCTION」(ビクション)を見て来ました。

東京は麹町、四ッ谷駅からもほど近いニュー麹町ビル。竣工は1965年、新宿通りに面したオフィスビルです。いわゆる老朽化のため今年の10月に取り壊しが決まりました。

そのビルを舞台に行われているのが現代アートプロジェクト「BCTION」です。主宰は美術家の大山康太郎と写真家の嶋本丈士の両氏。計70組の若手アーティストが参加しています。ビルの壁面や床面を問わず、9フロア、全ての空間に多様な作品を展開していました。

残すところ会期もあとこの日曜、月曜のみ。15日の祝日までです。ごく簡単に展示の様子をお伝えしましょう。

ニュー麹町ビルは先にも触れたように9フロア。9階建てです。



うち1階から9階までの全てのフロアで展示がある。ウォールペインティング中心です。インスタレーション的な傾向は強く見られますが、立体の作品は必ずしも多くありません。



ぶち抜きのフロアを用いてのダイナミックなペインティングが目立ちます。壁も床にも直接作品が描かれています。そして全ての作品はビルの取り壊しともに失われてしまうそうです。



さらには天井や窓にもおかまいなしに作品を展開。中にはトイレにも作品があります。また廃材でしょうか。ステンレスのレールなども素材の一部となる。それぞれのアーティストの手作り感を思わせる展示でもあります。



社名の記されたドアの向こうにも作品がありました。ごく一部ながらもビルはオフィスとして利用されていた時の面影を残しています。



またビルの備品を利用した作品もいくつか。事務机を使ったインスタレーションなども目を引きました。



1階では「FREE WALL」として壁面を開放。観客がペンを片手に何でも描くことも出来ます。



私が特に見入ったのは主宰の嶋本丈士氏の写真作品でした。またエレベーターにも一風変わった趣向がとられていて楽しめます。



「BCTION」の入場は無料。但し観覧にあたっては公式サイトより事前に登録を行う必要があります。

「BCTION」@peatix

ツイッターアカウントでも登録が出来ました。少々手間がかかりますが、細かな個人情報などを入力する必要はありません。



もう間もなく廃ビルとなるスペースを使ってのアートプロジェクト。率直なところかなり荒削りではあります。内容については評価が分かれるやもしれません。しかしながらエントランスフロアにはダンスミュージックも流れるなど、どこか非常に活気づいた企画でもある。来場者もおそらく10代から20代の若い方が目立っていました。


「BCTION」会場のニュー麹町ビル

9月15日まで開催されています。

*アンコール開催が決まりました。

「BCTIONアンコール開催」@peatix

日程は9月27日(土)と28(日)。いずれも13:00~20:00です。入場は通常と同じく事前登録制です。上記リンク先より登録出来ます。

「BCTION」 ニュー麹町ビル
会期:9月1日(月)~9月15日(月)
休館:無休
時間:12:00~20:00
料金:無料。事前登録制。
住所:千代田区麹町5-3-23
交通:JR線・東京メトロ丸ノ内線・南北線四ッ谷駅より徒歩約5分。東京メトロ有楽町線麹町駅より徒歩5分。
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「ジオ・ポンティの世界展」 LIXILギャラリー

LIXILギャラリー
「建築の皮膚と体温 イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界展」 
9/4-11/22



LIXILギャラリーで開催中の「建築の皮膚と体温 イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界展」を見て来ました。

1891年にイタリアで生まれ、陶磁器メーカーのリチャード・ジノリのディレクターを務めた後、陶器や食器のデザイン、さらにビルの設計までを手がけたデザイナー、ジオ・ポンティ。

うち建築家としての業績に注目します。会場内、撮影が可能でした。

さて内容に入る前に少し気になっていたことを一つ。それはタイトルです。「建築の皮膚と体温」。何やら意味深です。一体どのようなイメージが浮かんでくるでしょうか。


「建築の皮膚と体温 ジオ・ポンティの世界展」会場風景

実のところ私自身も展示を見るまではあまり意識せずにいました。しかしながら「皮膚と体温」のキーワードは重要でもある。ずばり「皮膚」とは建築物の外壁などの表面、そして「温度」とはそこにポンティが与えた温もりという意味であったのです。

ポンティの「皮膚」を具体的に見ていきましょう。タイルです。ポンティは建築の外壁においてタイルを多く用いています。陶磁器メーカーのディレクションの経験を活かしての業とも言えるかもしれません。


「ビエンコルフ・ショッピングセンター(オランダ・アイントホーフェン)」のファサードのタイル

例えばオランダのショッピングセンターです。ここでもファサードにタイルを貼っていますが、凹凸のデザインはエッジも効いていて美しい。またうっすら青みを帯びた深いグリーンも味わい深いもの。思わず手で触りたくなってしまいます。


「ホテル・パルコ・ディ・プリンチピ」のための床タイル

床にも注目です。こちらもタイル、イタリアの「ホテル・パルコ・ディ・プリンチピ」のためにデザインされたもの。全部で30種類の幾何学模様を組み合わせています。

ポンティは「建築の秩序は床からはじまる。」と捉え、その上で床を「建築を完成させるすべての可動なもの(家具)と生きるもの(人を含む)が、その上で試合を交わすチェス盤」だと考えていました。*「」内はキャプションより

ちなみに2008年に当時のINAX(現リクシル)がポンティの設計した「サン・フランチェスコ教会」の外壁タイルを復原した実績があるとか。それが切っ掛けで本展が実現したそうです。


ガッビアネッリ社「床タイルの再現」1956年 パオロ・ロッセッリ

ゆえに会場内にはポンティデザインの再現タイルがずらり。6シリーズ、全11デザイン。言わばタイル展の様相すら呈しています。


彫刻作品「ロサンゼルスのカテドラルのための模型」1967年 ジオ・ポンティ アーカイヴス ほか

タイル以外で目を引くのはポンティのスケッチです。またロサンゼルスに設計したカテドラルの彫刻のモックアップもある。モチーフは天使です。建物のシンボルにもなりました。


「リチャード・ジノリ陶磁器会社(イタリア)の花器 『ALATO』」 個人蔵

さらにはインタビュー映像(一部翻訳付き)も面白い。そして若きポンティのデザインした陶磁器も数点展示されています。結局、彼は7年間リチャード・ジノリでアートディレクターをつとめました。


「ネコのオブジェ(シルバー)」 個人蔵

変わり種としては「ネコのオブジェ」も可愛らしいもの。おそらくは1950年代の試作品と考えられているそうです。


「ジオ・ポンティの世界展」会場風景

展示デザインをトラフ建築設計事務所が担当しています。「外壁」、「内壁」、「床」、「窓」をテーマにした回遊型のつくりです。ポンティの主に建築表現を効果的に伝えていたのではないでしょうか。

[同時開催中の展覧会]
「木村恒介展 光素(エーテル)の呼吸」 LIXILギャラリー(はろるど)

「建築の皮膚と体温ーイタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界/LIXIL出版」

11月22日まで開催されています。

「建築の皮膚と体温 イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界展」 LIXILギャラリー
会期:9月4日(木)~11月22日(土)
休廊:水曜日。11月23日。
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分
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「ヨコハマパラトリエンナーレ2014」 象の鼻テラス

象の鼻テラス
「ヨコハマパラトリエンナーレ2014」 
8/1-11/3



象の鼻テラスで開催中の「ヨコハマパラトリエンナーレ2014」を見て来ました。

現在、横浜美術館及び新港ピアで展開中の「ヨコハマトリエンナーレ2014」。こちらは「パラトリエンナーレ」、連携プログラムの一つです。いわゆる障害者とアーティストの「恊働」を目指した現代アートの展覧会が行われています。


象の鼻テラス

会場は象の鼻テラス。2009年に横浜港にオープンしたレストハウスです。ちょうど赤レンガ倉庫から大さん橋、山下公園へ向かう途中にあります。


SLOE LABEL LAB×井上唯「whitescaper」2014年

天井から美しいレースが曲線を描いています。SLOE LABEL LABと井上唯のコラボ、「whitescaper」です。いわゆる「織り」や「編み」の手法を用いてインスタレーション。その一部は障害の有無を問わず、様々な人々の手によって制作されています。素材は形状保持加工のヤーンとのことでした。


ダイアログ・イン・ザ・ダーク×三角みづ紀「声の矢印、言葉の地図」2014年

大さん橋を望む窓にテキストが綴られています。ダイアログ・イン・ザ・ダークと三角みづ紀の「声の矢印、言葉の地図」です。視覚障害者の感じたことを詩人の三角が言葉に紡ぎ出す。7つの詩を追いながら象の鼻テラスを歩くという趣向もとられています。


目(め)「世界に溶ける」2014年

資生堂ギャラリーで圧巻のインスタレーションを見せた現代芸術活動チーム「目(め)」も参加。障害者へのヒアリングを通してインスパイヤした写真やドローイング作品を展示しています。


崎野真祐美・工房いなば・池田富士美・岩崎貴宏「アートタペストリー」2014年

モチーフは横浜の建築物です。崎野真祐美・工房いなば・池田富士美と岩崎貴宏による「アートタペストリー」。色とりどりの刺繍糸から建築物が編み込まれていく。大観覧車でしょうか。一つ一つのゴンドラまでが細かに再現されています。


崎野真祐美・工房いなば・池田富士美・岩崎貴宏「アートタペストリー」2014年

そしてこちらもリアル。マリンタワーです。象の鼻テラスのまさに目と鼻の先、山下公園の横にそびえ立つ、横浜のシンボル的存在でもあります。


崎野真祐美・工房いなば・池田富士美・岩崎貴宏「アートタペストリー」2014年

これらの織物はいずれも障害者によって制作されたものです。ともかくパラトリでは数多くのワークショップが行われています。そしてそこには障害者だけでなく、必ずアーティストが参画しているのも特徴。ゆえに端的な「障害者アート展」でありません。


ダイアログ・イン・ザ・ダーク×三角みづ紀「声の矢印、言葉の地図」2014年

今年から始まった「ヨコハマパラトリエンナーレ2014」、3年後に第2回展、そして2020年には第3回展を見定めた活動を続けていくそうです。


「ヨコハマパラトリエンナーレ2014」会場風景

象の鼻テラスはカフェを併設したスペースです。ちょうど私が出かけた時、パラトリパレードのリハーサルが行われていました。会場は必ずしも広くはありません。


象の鼻テラスから横浜税関(クイーンの塔)を望む

展示のコア期間(8/1~9/7)が過ぎました。会期は11月までですが、今後はほかのイベントと重なり、一部の展示が見られない場合もあるそうです。注意が必要です。

「パラトリエンナーレ作品展示期間について」(ヨコハマパラトリエンナーレ)

ヨコトリの観覧の際に少し足を伸ばしてみては如何でしょうか。

入場は無料です。11月3日まで開催されています。

[ヨコハマトリエンナーレ2014関連エントリ]
「ヨコハマトリエンナーレ2014」(前編) 横浜美術館
「ヨコハマトリエンナーレ2014」(後編) 新港ピア
「東アジアの夢ーBankART Life4」 BankArt Studio NYK

「ヨコハマパラトリエンナーレ2014」 象の鼻テラス
会期:8月1日(金)~11月3日(月・祝) コア期間:8/1~9/7
休館:無休
時間:10:00~18:00 *象の鼻テラス開館時間に準じる。
料金:無料。
住所:横浜市中区海岸通1丁目
交通:みなとみらい線日本大通り駅出口1より徒歩約3分。
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「木村恒介展 光素(エーテル)の呼吸」 LIXILギャラリー

LIXILギャラリー
「クリエイションの未来展 第1回清水敏男監修 木村恒介展ー光素(エーテル)の呼吸」
9/4-11/24



LIXILギャラリーで開催中の「クリエイションの未来展 木村恒介ー光素(エーテル)の呼吸」を見て来ました。

いつものリクシルのホワイトキューブ、毎度の展示に足を運んでいるつもりの私ですが、今回ほど言わば奇妙な感覚を受けたことはなかったかもしれません。

何はともあれ会場の様子をご紹介しましょう。



ずばりミラーです。ちょうど展示室の中央部分でしょうか。ほぼ天井までの高さのあるミラーが行く手を遮るかのように並んでいます。まるで衝立てです。その先には進めません。

ともかくミラー、どの場所に立っても自分の姿が映り込む。ほかはガランとした展示室が同じように映るだけです。何か仕掛けでもあるものかと行き来するも、やはり映るのは自分の姿のみ。ミラーの前へ限りなく近づき、また遠ざかってみる。自分の姿を全身でミラーで見やるのは恥ずかしいものです。ふと我に返って会場を後にしようと出口の方へ向かいました。



ただどうしても何かが気になります。ミラーから少し離れた場所に3つの椅子が置いてありました。そこに腰をかけてみます。するとあることに気がついたのです。



ネタバレになってしまうので細かくは触れません。仕掛けは驚くほどシンプルです。何か凝ったったことが起こっているわけでもありません。ただしそれが生み出す効果はなかなか面白い。視覚を揺さぶります。ミラーは普段、何気なく見えているようで、実は見落としがちな現実を改めて気がつかせる装置とも言えるのかもしれません。

ところこのミラーの仕掛け、とある展示を思い出しました。2010年の松戸アートラインプロジェクトです。


木村恒介「ゆれる景色の先に」旧・原田米店母屋 *「松戸アートラインプロジェクト」(2010)での展示風景

その際は古い日本家屋にミラーを持ち込んでのインスタレーションを展開。室内に「ゆれる景色」ならぬ一種の歪みをもたらしていました。

「松戸アートラインプロジェクト2010」 松戸駅西口周辺(はろるど)

なお木村はそもそも「風景とはなにか」を制作のテーマとしているそうです。もう一室のギャラリーでは風景を半ば抽象化した平面のプリントを展示。モチーフは時間差で捉えた銀座です。いずれも美しく輝かしいストライプが広がっています。もはや建物も人も何らの形もありません。銀座の街の色と光のみが写し出されていました。



さて「クリエイションの未来展」はこの9月より新たに始まった連続シリーズ展です。以下の4名のクリエイターを監修者に迎え、各テーマの設定のもと、約3ヶ月毎に異なる展覧会が開催されます。

[監修クリエイター]
清水敏男(アートディレクター)、宮田亮平(金工作家)、伊東豊雄(建築家)、隈研吾(建築家)

第1弾の監修者は清水敏男。美術評論家で学習院女子大学の教授です。かつては水戸芸術館現代美術センターの芸術監督などをつとめ、現在は展覧会やイベントのプロデュースなどを行うアートディレクターでもあります。

伊東や隈などの名だたる建築家も監修をつとめる新シリーズ展。今後のリクシルギャラリーにも期待出来るのではないでしょうか。

11月24日まで開催されています。

「クリエイションの未来展 第1回清水敏男監修 木村恒介展ー光素(エーテル)の呼吸」」 LIXILギャラリー
会期:9月4日(木)~11月24日(月)
休廊:水曜日。11月23日。
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分
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