「鈴木理策 写真展 海と山のあいだ 目とこころ」 ニコンプラザ新宿

ニコンプラザ新宿
「鈴木理策 写真展 海と山のあいだ 目とこころ」
2020/7/21〜8/8



ニコンプラザ新宿で開催中の「鈴木理策 写真展 海と山のあいだ 目とこころ」を見てきました。

1963年に和歌山県新宮市に生まれ、2000年に木村伊兵衛写真賞を受賞した鈴木理策は、熊野や南仏のサント・ヴィクトワール山などの世界各地の風景を撮り続けては、写真作品として発表してきました。



その鈴木のライフワークともいえるのが、故郷の熊野の地での撮影で、今回の個展に際しても同地の写真が展示されていました。



岩の転がる海岸線や樹木の豊かに生い茂る山々、はたまた岩肌を落ちる滝の水飛沫など、ダイナミックな景観を捉えた写真も目立っていましたが、今回の展示に接して改めて感じたのは、細部に潜む際立った風景の美しさでした。



滝の筋はまるで細い糸を紡いだかのように繊細でありつつ、何気ない草地を写した作品からは、肉眼では見落としてしまうかのような小さな植物が茂る光景を目にすることができました。



まさしく息をのむほどに美しい景色とは、このことを指すのかもしれません。そこには生き物や自然の細部へ目を向けては慈しむ、写真家の心象が表れているように思えるほどでした。

「撮ったものを見ると必ず新たな発見がある。撮影者という主体と共に客観性を含むことは写真の大きな魅力です」 鈴木理策 



近年の鈴木理策の個展として思い出すのが、2015年に東京オペラシティアートギャラリーで開かれた「意識の流れ」でした。ここでも熊野の地をはじめ、草花や雪景色を写した作品が出展されていましたが、眩しいまでに美しく、時にはかなくも見える作品に大きく惹かれたことを覚えています。



2018年にはキヤノンギャラリーSにおいて「知覚の感光板」と題した個展も開催され、近代の西洋画家がモチーフにした土地を選んで撮影した風景写真の連作を見ることができました。



新型コロナウイルス感染症対策に伴い、会期が変更となりました。また入場時に検温の対応、及び手指の消毒をする必要があります。ただし予約制ではないため、当日の飛び込みでも観覧できます。撮影も可能でした。


日曜日がお休みです。8月8日まで開催されています。なお新宿での会期を終えると、ニコンプラザ大阪へと巡回(8/20~9/2)します。

「鈴木理策 写真展 海と山のあいだ 目とこころ」 ニコンプラザ新宿 THE GALLERY 1・2
会期:2020年7月21日(火) 〜 2020年8月8日(土)
休館:日曜日。
時間:10:30~18:30。最終日は15時まで。
料金:無料。
住所:新宿区西新宿1-6-1 新宿エルタワー28階
交通:JR線・京王線・小田急線・東京メトロ丸ノ内線・都営新宿線新宿駅A17出口より徒歩3分。都営大江戸線都庁前駅N5出口より徒歩5分。
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「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」 福田美術館

福田美術館
「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」
2020/3/28~7/26 *会期終了



福田美術館で開催されていた「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」を見てきました。

江戸時代の京都の絵師、伊藤若冲の初期作品「蕪に双鶏図」が、福田美術館にて初めて公開されました。

それが「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」で、同作を含めた若冲の初期から晩年までの絵画と、蕭白や応挙といった同時代の作品が約90点ほど展示されていました。(前後期で多数入れ替え。)*一部作品の撮影が可能でした。


伊藤若冲「蕪に双鶏図」 福田美術館

蕪畑に番の鶏を描いた「蕪に双鶏図」は、若冲が「景和」と名乗っていた30代の頃の作品で、現在確認し得る最も早い「雪中雄鶏図」(細見美術館)より先に制作された可能性があると考えられています。

雄鶏は首を回転しながら長い尾をこれ見よがしに振りかざしていて、一方の雌は蕪の葉に隠れるかのようにうずくまっていました。ここで目を引くのは、鶏よりも蕪の葉の描写で、たくさんの穴が開いているとともに、枯れはじめているのか、茶色に変色しているものも見られました。いかにも若冲ならではの表現ではないでしょうか。


伊藤若冲「梅花双鶏図」 個人蔵

これまでにも多く開かれてきた若冲に関する展覧会ですが、今回は個人と京都の寺の所蔵する作品が大半を占めているのが特徴と言えるかもしれません。よって見慣れない作品も少なくありませんでした。


伊藤若冲「蟹・牡丹図」 個人蔵

そのうち私が惹かれたのが、衝立の表と裏に蟹と牡丹を描いた「蟹・牡丹図」で、右から左に吹く強い風にたなびく牡丹が素早い筆触で表されていました。花や葉を象る曲線は勢いが強く、もはや花は風によって引きちぎられるかのようでした。


伊藤白歳「南瓜雄鶏図」 宝蔵寺

若冲の弟である白歳の「南瓜雄鶏図」も興味深い作品で、どすんと落ちたかのように地面にある南瓜の後ろには、一羽の雄鶏がうずくまるように片足を掛けていました。鶏の表情が妙に人懐っこく、可愛らしくも見えました。


伊藤若冲「六月四日付藤幸之助宛て書簡」 個人蔵

現存する唯一の若冲の手紙である、「六月四日付藤幸之助宛て書簡」も重要な資料かもしれません。時節の挨拶に始まり、押絵の値段について伺いを立てる内容が記されていて、即興的な絵も描かれていました。


左:伊藤若冲「花卉双鶏図」 個人蔵

この他に若冲では南蘋派の影響の色濃い「花卉双鶏図」や、S字状の鳳凰を筋目描で表現した「鳳凰図」などにも魅せられました。ともかく粒揃いゆえに、お気に入りの作品を見つけるにはさほど時間はかかりませんでした。


白隠「神農図」 福田美術館

さてこの「若冲誕生」展で見過ごせないのは、若冲以外の京都の絵師にも優品が多いことでした。まず目を引いたのが白隠の「神農図」で、古代中国の伝承に登場する神農をかなり細かな筆致で表していました。上目遣いに見やる顔相や髭の描写などは、白隠としては驚くほどリアルで、どことなく凄みすら感じられました。


左:長沢芦雪「月竹図」 個人蔵

芦雪の「月竹図」は、しなやかなカーブを描いて伸びる竹を描いていて、上部には満月がかかり、おぼろげな光を放っていました。細く縦に長い画面を効果的に活かしているのではないでしょうか。



「若冲誕生」展に続くパノラマギャラリーでは、ファッションデザインをテーマとした靴の作品で知られる串野真也が、若冲にインスピレーションを受けて制作した作品を展示していました。若冲画における鶏の尾を巧みに靴の装飾へ取り込んでいて、互いに見比べるのも面白いかもしれません。



ところで2019年10月に京都・嵐山に開館した福田美術館ですが、私は今回の展示で初めて行ってきました。



嵐電嵐山駅より歩いて5分弱ほどの渡月橋に近いロケーションで、館内からも大堰川越しの嵐山のダイナミックな景観を一望することができました。



周囲に溶け込んだようなこの字型の建物は、京町家をイメージしつつもモダンな印象を与えていて、大堰川に面した庭には水盤が広がっていました。



展示室は1階と2階、カフェとミュージアムショップは2階にあり、カフェは渡月橋を斜め正面から望めるように造られていました。



「100年続く美術館」をコンセプトに開館した福田美術館には、江戸時代から近代にかけての絵画、約1500点がコレクションされています。既に開館から半年以上経ちましたが、近隣には嵯峨嵐山文華館もあり、今後も嵐山を代表するアートスポットとして人気を博すかもしれません。


「若冲誕生」は7月26日で会期を終えました。次回展は8月1日より「大観と春草ー東京画壇上洛」が10月11日まで開催されます。

「若冲誕生〜葛藤の向こうがわ」 福田美術館@ArtFukuda
会期:2020年3月28日(土)~7月26日(日)  *会期終了
休館:火曜日。但し祝日の場合は翌日。
時間:10:00~17:00。最終入館は16時半まで。
料金:一般・大学生1300(1200)円、高校生700(600)円、小中学生400(300)円。
 *公式オンラインチケットあり。(各100円引)
住所:京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16
交通:嵐電(京福電鉄)嵐山駅下車、徒歩4分。阪急嵐山線嵐山駅下車、徒歩11分。JR山陰本線(嵯峨野線)嵯峨嵐山駅下車、徒歩12分。
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「帰ってきた!どうぶつ大行進」 千葉市美術館

千葉市美術館
「千葉市美術館拡張リニューアルオープン・開館25周年記念 帰ってきた!どうぶつ大行進」 
2020/7/11〜9/6



2019年末より拡張工事のため休館していた千葉市美術館が、7月11日にリニューアルオープンしました。

それを期して行われているのが「帰ってきた!どうぶつ大行進」で、江戸時代の絵画や版画を中心に、室町から昭和へと至る動物を描いた作品を紹介していました。そして単に動物のモチーフを並べるのではなく、「江戸のくらしとどうぶつたち」や「十二支のどうぶつ」、それに「学ぶ、遊ぶ、なりきる」など、全10章ものテーマを設定しているのも大きな特徴でした。

まず冒頭では「疫病破邪の生きもの表現」と題し、中国の疫病を防ぐ神である鍾馗をモチーフとした作品を展示していて、太刀で鬼を真っ二つに裂く鍾馗を奔放な筆遣いで描いた、仙崖の「鍾馗図」などを見ることができました。コロナ禍の今だからこその展示なのかもしれません。

私が特に印象に残ったのは、白い花をつけた植物を背に、一頭の獅子が闊歩する姿を表した酒井抱一の「唐獅子図屏風」でした。鋭い爪や睨みつけるような視線こそ堂々としたものの、例えば永徳の唐獅子のような凄みは薄く、むしろ飄々としているようにも思えて、可愛らしくも映りました。

円山応挙の「群鳥図」も魅惑的な一枚で、淡い色彩によって描かれた無数の鳥たちが、可憐に舞う光景を示していました。もはや鳥のパラダイスと呼んで良いかもしれません。

チラシ表紙を大きく飾った石井林響の「王者の瑞」も目立っていました。二曲一双の大きな屏風へ聖帝と大きく背を曲げた麒麟を表していましたが、実際の動物をモデルとしつつも霊獣として表現したため、神秘的な雰囲気も感じられました。

この他にも、極めて精緻に植物や虫を表した喜多川歌麿の「画本虫撰」や、多品種の蝶を巧みに描き分けた三熊花顛の「群蝶図巻」など、心を惹かれた作品は少なくありませんでした。それにエビとエダなどの類似する音の表現の違いを表した、明治時代の「第一単語図」といった、普段見慣れないような教育的とも言える資料が出ていたのも興味深く感じました。

ラストの「もっと!どうぶつ大行進」でも、俵屋宗達や伊藤若冲、神坂雪佳、小原古邨、田中一村など人気の絵師の優品が揃っていて、見どころは実に多岐にわたっていました。出展数もゆうに250点近く(一部に展示替えあり)にも及んでいて、全く不足することはありません。

2012年に千葉市美術館では一度、「どうぶつ大行進」展を開催していて、今回は新たに加わった作品を交えてのバージョンアップ版とのことでしたが、さすがに定評のある江戸絵画コレクションだけに、有名か無名を問わず、多彩な絵師の作品を網羅しているのも大きな魅力でした。



さてはじめにも触れましたが、千葉市美術館はこの7月に拡張リニューアルオープンしました。以前は建物の上階のみが美術館のスペースで、下の階には中央区役所が入居していましたが、区役所の移転に伴って、建物の全てが美術館になりました。



1階にはカフェとショップが新設され、エレベーターホール前には受付も設置されました。ただ受付でのチケットの販売はなく、8階の企画展示室、あるいは新設された5階の常設展示室のカウンターで購入する必要がありました。



同じく1階に位置し、旧川崎銀行千葉支店を保存した「さや堂ホール」では、NHK Eテレの「びじゅチューン!」とのコラボ企画「なりきり美術館」が開催されていました。葛飾北斎の「冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏」を模したインタラクティブのアニメーションなどが展示されていて、かつて東京国立博物館などで行われたコンテンツとほぼ同一のようでした。



リニューアルにて新たに美術館のフロアに加わったのは、4階と5階のスペースでした。まず4階には「子どもアトリエ」と「図書室」、「市民アトリエ」がオープンし、5階には「常設展示室」と「ワークショップルーム」が開設されました。



そのうちアーティストが滞在制作を行う4階の「子どもアトリエ」では、保育・教育施設などで空間デザインを手がける遠藤幹子が、「おはなしこうえん」と題する参加型のインスタレーションを展開していました。千葉に伝わる民話を出発点とした物語世界を、来場者とともにワークショップを交えて築いていく作品だそうです。



同じく4階の図書館には約4500冊の本が揃っていて、美術雑誌や同館の過去の展覧会のカタログなどを閲覧することができました。子どもを対象とした絵本や児童書が多いのも特徴かもしれません。



さらに4階にはコンセント付きの休憩コーナーも誕生しました。かつての千葉市美術館はゆっくり休める場所がなかっただけに、嬉しいスポットと言えそうです。



5階の常設展示室では「千葉市美術館コレクション名品選 2020」と題し、約60点ほどの収蔵作品が公開されていました。現在の展示は「描かれた千葉市と房総の海辺/美人画百花 描かれたひとびと/特集 草間彌生」の3つのテーマのもとに行われていて、一部の作品は自由に撮影することが可能でした。



「コレクション名品選」は概ね1ヶ月おきに展示替え(現代美術は3ヶ月おき)が予定されていて、8月4日からは「描かれた千葉市と房総の海辺/美人画百花 肉筆浮世絵/ 夏休み特集 妖怪も大行進」が開催されます。(草間彌生の特集展示は9月まで入れ替えなし)



菱川師宣や喜多川歌麿の浮世絵の名品をはじめ、竹久夢二の装丁から橋口五葉、伊東深水の版画、さらにはビゴーの稲毛の海岸を描いた絵画など、実に多岐にわたったラインナップで、改めて千葉市美術館の幅広いコレクションを堪能することができました。また撮影こそ叶わなかったものの、草間彌生の特集展示も大型の立体や絵画なども展示されていて、思いの外に見応えがありました。



最後に新型コロナウイルス感染症対策に関する情報です。マスクの着用、及び館内に消毒液が設置されていましたが、特に検温はなく、入場に関しても予約制はとられていません。JR千葉駅より東口エリアを巡回し、美術館前にもバス停のあるC-busが運休となっていました。再開日は現在のところ未定です。



この日は1階のカフェのみを利用しましたが、今後は11階のレストラン、及び地下1階にはバルの開業も予定されています。


これまでにも好企画を続け、質量ともに充実した展覧会を行ってきた千葉市美術館ですが、ワークショップルームや常設展示室などもオープンしたことで、かなり魅力的な施設になったのではないでしょうか。今後の展開にも大いに期待したいと思います。

「帰ってきた!どうぶつ大行進」は9月6日まで開催されています。おすすめします。

「千葉市美術館拡張リニューアルオープン・開館25周年記念 帰ってきた!どうぶつ大行進」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:2020年7月11日(土)〜9月6日(日)
休館:7月20日(月)、8月3日(月)、17日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
 *入場受付は閉館の30分前まで
料金:一般800(640)円、大学生500(400)円、高校生以下無料。
 *ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18時以降は観覧料が半額。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「作品のない展示室」 世田谷美術館

世田谷美術館
「作品のない展示室」
2020/7/4~8/27



新型コロナウイルス感染症の影響により、展覧会スケジュールの変更を余儀なくされた世田谷美術館が、一切の作品を展示せずに、美術館の空間のみを公開する「作品のない展示室」を開催しています。

1986年、建築家の内井昭蔵の設計によって建てられた世田谷美術館は、数多くの展覧会を企画し続けながら、音楽会やダンスの公演などの様々なプログラムを行ってきました。

内井が美術館の設計に際して重要だと考えたのが、「生活空間としての美術館」、「オープンシステムとしての美術館」、「公園美術館としての美術館」の3つのコンセプトで、砧公園の自然環境と一体化すべく、窓を多く取り入れるなど、開放的な建物として築かれました。



実際に受付から展示室内へのアプローチは、左右がガラスに覆われていて、光が降り注ぐとともに、屋外の緑を目にすることもできました。しかし展示室に関しては、絵画などの作品を光から守るため、多くの窓がふさがれるなど、公園と一体となった環境は感じられませんでした。



よって今回の「作品のない展示室」では、多くの窓を覆う壁を取り放っていて、外の光を感じながら、公園の緑を見やることができました。



私自身もこれほど多くの窓が開けられた展示室を見たのは初めてでしたが、いかに美術館が自然に囲まれた恵まれた環境であるのかがよく分かりました。



それこそ窓をフレームとして捉えれば、屋外の緑は絵画の一場面のようで、驚くほどに美しい空間が広がっていることを見て取れました。

また展示室の随所には内井の言葉も紹介されていて、それぞれのテキストを通し、言わば建築設計を支えたの根本的な思想の一端についても触れることができました。



さらに搬入のための開口部も特別に開けられていて、普段は意識することの少ない美術館の機能についての知見も得られました。

最後のスペースでは、特集「建築と自然とパフォーマンス」と題し、開館以来行われてきたパフォーマンスの記録写真や映像、それにチラシのアーカイブなども紹介されていました。



ぼんやりと窓の外の景色を眺めながら、展示室を行き来していると、扇型から長方形へと前後で変化する空間の面白さと、力強いまでの建物の量感を覚えてなりませんでした。



いわゆるコロナ禍に伴う企画ではありますが、世田谷美術館の魅力を再発見できるような展覧会と言えるかもしれません。



なお同館の2階展示室では、「ミュージアム コレクションⅠ気になる、こんどの収蔵品―作品がつれてきた物語」と題した所蔵作品展を開催中です。(コレクション展は有料)

ここでは、近年収蔵された版画や洋画、それに彫刻などの作品、約120点が紹介されていて、とりわけ和紙にバレンで山の木立を表したジョルジュ・ヴェンガーの版画と、ヨーロッパ遊学先で見た人々を大津絵風に描いた小川千甕の着彩の木版などに目を引かれました。


最後に新型コロナウイルス感染症対策についての情報です。入館時はマスク着用の上、消毒、及び検温、また名前などの連絡先を記入する必要があります。マスクを着用していなかったり、37.5度以上の体温がある際は入館できません。一方でレストランやカフェ、ショップは通常通り営業していました。



私が出向いた日は、いかにも梅雨らしい雨混じりの曇天でしたが、これから夏の強い日差しが照る季節に入ると、また違った景色に映るのかもしれません。



一部を除き、会場内の撮影も可能でした。8月27日まで開催されています。

「作品のない展示室」 世田谷美術館@setabi_official
会期:2020年7月4日(土)~8月27日(木)
休館:毎週月曜日。(祝・休日の場合は開館、翌平日休館)
 *8月10日(月・祝)は開館、翌8月11日(火)は休館。
時間:10:00~18:00
料金:無料
 *コレクション展は一般200円、65歳以上、大高生150円、中小生100円。
住所:世田谷区砧公園1-2
交通:東急田園都市線用賀駅より徒歩17分。美術館行バス「美術館」下車徒歩3分。
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「Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」 アーティゾン美術館

アーティゾン美術館
「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」 
2020/6/23~10/25



アーティゾン美術館で開催中の「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」を見てきました。

2019年にイタリアで開催された「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」の日本館を再現した展示が、東京・京橋のアーティゾン美術館にて公開されました。

それが今回の帰国展で、服部浩之をキュレーターに迎え、美術家の下道基行、作曲家の安野太郎、人類学者の石倉敏明、そして建築家の能作文徳の4名のアーティストが協働して制作した、「Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」が展示されていました。



日本館の空間を設計したのは建築家の能作文徳で、アーティゾン美術館では現地の90%のサイズで再現されました。また実際の日本館の建築はコンクリート造であったものの、再現に際してはエントランスを段ボールで作り、展示室を木造の書割りとし、大理石の床をパネルにするなど、いくつかの異なる素材へ置き換えていました。

まず目を引くのが、部屋の中央に設置された円形のバルーンで、中には空気が満たされていました。そして腰掛けたり、手で触れることもできましたが、オレンジ色にもよるのか、救命ボートを連想させる面もありました。



バルーンを囲む4面のスクリーンには、下道基行の映像「津波石」が映されていて、上部には安野太郎による自動演奏の12本のリコーダーが吊るされ、空気の管がバルーンへと繋がっていました。また壁には、石倉敏明の創作神話「宇宙の卵」のテキストが直接彫り込まれていました。

いずれも全く異なる素材とアプローチによる作品でありながらも、映像も音楽ともに、互いに呼応し合うように展開しているように思えました。こうした異なる分野の協働こそ、今回の日本館の制作で重要なポイントなのかもしれません。



「Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」の起点となったのは、下道基行の「津波石」でした。下道は2015年から大津波によって海底から陸上に運ばれた巨石である津波石を調査し、撮影し続けていて、2019年に初の映像作品として発表しました。



「津波石」は災害の痕跡でありながらも、地域の人々の信仰の対象になったり、鳥などの生き物の棲み家になるなど、自然や文化を行き来する独特の景観を築き上げました。確かに海を背にした石の存在感は圧倒的で、何らかのモニュメントのようにも見えました。



この「津波石」に音楽で答えたのが、安野太郎のリコーダーによる楽曲「COMPOSITION FOR COSMO-EGGS "Singing Bird Generator”」でした。ここで安野は下道と一緒に訪ねた宮古島のリュウキュウアカショウビンという鳥の鳴き声をモチーフとした曲を作曲していて、ソプラノ、アルト、テナー、バスの12本のリコーダーが、自動にてリズミカルな響きを奏でていました。



ちょうど頭上にてリコーダーが展開しているからか、確かに鳥が羽ばたきながら鳴いているような気にさせられるかもしれません。



一方で石倉敏明のテキスト「宇宙の卵」は、下道の撮影した津波石の点在する宮古列島から八重山諸島、それに台湾などをフィールドワークし、津波などの災害や創世にまつわる神話や民話に取材して制作したもので、3つの異なる部族が共存する物語を表しました。

神話を読みつつ、展示室内のバルーンに座っては「津波石」の映像を見やり、リコーダーの音に耳を傾けていると、さも石のある海岸へと誘われるような錯覚に囚われるかもしれません。一方で胎内空間を思わせて瞑想を誘うような、内省的とも呼べる空間が築かれてもいました。



会場では下道の「津波石」の調査ファイルや能作によるスタディ模型、また安野の楽曲のスコアなども併せて展示されていました。また「Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」の制作プロセスを示したタイムラインの資料も興味深いかもしれません。



そもそも現地ヴェネツィア・ビエンナーレの日本館は、1956年にアーティゾン美術館を運営する石橋財団の創設者である石橋正二郎が建設し、寄贈して開館しました。それまでの日本は独自の建物を持っておらず、中央館の一区画を間借りして展示を行っていたそうです。



本展会場の5階の1つ下、4階の展示室では、日本館の開館した1956年の第28回のヴェネツィア・ビエンナーレの一部の出展作品と、今回の「Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」の現地の光景などを捉えた映像も紹介されていました。そちらもお見逃しなきようにおすすめします。



同展は「ジャム・セッション 鴻池朋子 ちゅうがえり」と「石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 新収蔵作品特別展示:パウル・クレー」と同時開催中の展覧会です。上記2展と共通のチケットで観覧することができます。


撮影も可能です。10月25日まで開催されています。

「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」 アーティゾン美術館@artizonmuseumJP
会期:2020年6月23日(火)~10月25日(日) *会期変更
休館:月曜日。(但し8月10日、9月21日は開館)。8月11日、9月23日。
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜日の20時まで夜間開館は当面休止。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:【ウェブ予約チケット】一般1100円、大学・高校生無料(要予約)、中学生以下無料(予約不要)。
 *事前日時指定予約制。
 *ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ当日チケット(1500円)も販売。
住所:中央区京橋1-7-2
交通:JR線東京駅八重洲中央口、東京メトロ銀座線京橋駅6番、7番出口、東京メトロ銀座線・東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口よりそれぞれ徒歩約5分。
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「神宮の杜芸術祝祭」 明治神宮(内苑各所・明治神宮ミュージアム)

明治神宮(内苑各所・明治神宮ミュージアム)
「神宮の杜芸術祝祭」 
2020/3/20〜12/13(天空海闊)、2020/7/10〜9/27(紫幹翠葉)



今年創建100年を迎えた明治神宮が、「祭る。祈る。創る。」をテーマとした芸術と文化の祭典、「神宮の杜芸術祝祭」を開催しています。



その1つが明治神宮ミュージアムで行われている「紫幹翠葉(しかんすいよう)−百年の杜のアート」で、40名の現代アーティストが、明治神宮からインスピレーションを受けて制作した作品などを展示していました。



それらは屏風や掛け軸、衝立など、日本の伝統的な様式に基づいていて、例えば画家の品川亮は、神宮の菖蒲田をモチーフにした金屏風を出展していました。また神宮の木立を金属箔で表し、木漏れ日のように光の広がる能條雅由の衝立や、八咫烏を大胆にも抽象表現に落とし込んだ天明屋尚の屏風も印象に深いかもしれません。


明治神宮ミュージアム2階。展示室内は撮影不可。

「紫幹翠葉」展のハイライトと言えるのが、30名のアーティストが参加した扇面の作品でした。ここでは神宮の森に現れる蝙蝠をモチーフとしたミヤケマイや、美しい線で人の腕を描いた町田久美などの創意工夫を凝らした作品が並んでいて、互いに見比べることができました。お気に入りの1点を探すのも面白いのではないでしょうか。

さて明治神宮ミュージアムの屋内とは別に、神宮内苑の屋外に展開するのが、もう1つの現代美術展である「天空海闊(てんくうかいかつ)」でした。



これは原宿側の南参道から明治神宮ミュージアム、そして代々木口に近い北参道から宝物殿方面へと至る苑内4カ所において、名和晃平、船井美佐、松山智一、三沢厚彦の4名のアーティストが作品を公開するもので、明治神宮としては初の野外彫刻展でした。


松山智一「Wheels of Fortune」 2020年

まず目を引いたのは、南参道に設置された松山智一の「Wheels of Fortune」で、鹿の角とも燃え上がる炎を思わせるモチーフと車輪とが、複雑に絡み合うかのような姿をしていました。


名和晃平「White Deer (Meiji Jingu)」 2020年

少し先のミュージアムの前では、名和晃平の「White Deer(Meiji Jingu)」があり、大きな角を四方に伸ばした鹿が堂々たる姿で立っていました。ちょうど空を眺めるように首をあげる仕草には威厳も感じられて、4点の彫刻の中でも特に目立っていました。

一転して神宮の森の中に溶け込むように展示されたのが、三沢厚彦の「Animal 2012-01B」と船井美佐の「Paradise/Boundary-SINME-」でした。


三沢厚彦「Animal 2012-01B」 2012/2019年

三沢厚彦の「Animal 2012-01B」は北参道からやや離れた森の中に設置されていて、あたかも人を避けてはじっと息を潜めているかのようでした。


船井美佐「Paradise/Boundary-SINME-」 2020年

そして円い鏡に馬の姿を象った船井美佐の「Paradise/Boundary-SINME-」は、もはや森の中の景色と一体化していて、うっかりすれば通り過ぎてしまうほどでした。ただ表面へ写り込む森の緑は殊更に美しく、角度を変えて見ると、異なった景色が開けるのも魅力的に思えました。

最後に新型コロナウイルス感染症対策に伴う情報です。神宮へのお参り、及び野外彫刻展の「天空海闊」の観覧に際しては特に制限はありませんが、「紫幹翠葉」の行われている明治神宮ミュージアムの入場に際しては、マスクの着用、手指の消毒が求められています。

また「神宮の杜芸術祝祭」で、3つ目の美術展として宝物殿で企画されていた「気韻生動−平櫛田中から名和晃平まで」は、当初の7月15日から2021年初頭に開催が延期されました。



私が出向いた日は涼しい曇天だったため、木立を抜ける冷ややかな風を感じつつ作品を鑑賞しては、お参りをすることができました。



ただ野外彫刻展は苑内の広域で行われているため、思ったよりも歩く必要があります。これからの時期は、暑さ対策に留意して出かけられることをおすすめします。



なお「紫幹翠葉 −百年の杜のアート」の9月27日まで、「天空海闊」は12月13日までと会期が異なります。あらかじめご注意下さい。

「野外彫刻展 天空海闊」
会場:明治神宮 内苑各所
会期:2020年3月20日(金・祝)〜2020年12月13日(日)
休館:会期中無休
時間:明治神宮の開門・閉門時間に準じます。
入場:無料

「紫幹翠葉 −百年の杜のアート」
会場:明治神宮ミュージアム(明治神宮内苑)
会期:2020年7月10日(金)〜 2020年9月27日(日)
休館:木曜日。但し7/23、7/30は開館。
時間:10:00~16:30 *最終入館は閉館時間の30分前まで。
入場:一般1000円、高校生以下900円、団体(20名以上)900円。 *明治神宮ミュージアムの入館料。宝物展示室なども観覧可。

「神宮の杜芸術祝祭」 (@jingu_artfest
住所:渋谷区代々木神園町1-1
交通:JR原宿駅表参道口から徒歩5分。東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅2出入口より徒歩5分。 *明治神宮ミュージアムへのアクセス
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「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」 国立新美術館

国立新美術館
「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」
2020/6/24~8/24



国立新美術館で開催中の「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」を見てきました。

江戸時代以前の絵画や仏像、刀剣などの日本の古い美術は、今も多くの人々に愛されるとともに、第一線で活動するクリエイターらにもインスピレーションを与えてきました。

そうしたクリエイターの創作と古美術とが共演を果たしたのが、「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」で、円空と棚田康司、乾山と皆川明、それに蕭白と横尾忠則などの8名の作家の作品と古典美術が、さながら会場で1つのインスタレーションを築くように展示されていました。

まず冒頭の展示室を飾ったのは、いわゆる「もの派」を代表するアーティストの菅木志雄でした。亜鉛の板や木や石を円形に組みあわせた「支空」などの向こうには、同じく円を表した仙崖の「円相図」が飾られていて、さらには仙崖の四角を象った「縁空」なる作品も展示されていました。ここで菅は、仙崖画におけるかたちを半ば抽象化しつつも、枯山水などを連想させる庭園のような空間を生み出していて、不思議なまでに呼応していました。

それに続く写真家の川内倫子は、伊藤若冲や司馬江漢、それに岡本秋暉らの江戸の絵師の花鳥画を引用し、自らの写真と映像を展示していました。何気ない日常の風景や生き物を写した川内の写真と、身近な生き物の様態をつぶさに描いた江戸の花鳥画が対話するかのように並んでいて、互いの生き物などに対する愛情が滲み出るかのようでした。


江戸時代の美濃出身で、全国で約12万体もの仏像を彫ったとされる円空に向き合ったのが、主に少年少女の木彫で知られる彫刻家の棚田康司でした。棚田は円空と同じように一本の木から人間を彫り出していて、微笑みをたたえた円空仏と、ミステリアスながらもあどけなく愛おしい棚田の人物像が、時代を超えた邂逅を遂げていました。ともに木の生命力を感じさせるつつも、心を穏やかにさせるような作品で、しばらく見入っているとほっとするような気持ちにさせられました。



平安時代から江戸時代の刀剣を引用しながら、牛革を用いた幅24メートルもの大作「皮緞帳」を出展したのが、現代美術家の鴻池朋子でした。



鮮やかな色に象られた緞帳はちょうど中央部分が裂けていて、2枚の間を人の頭の形をした振り子が前後に大きく行き来していました。その光景を目にしていると、あたかも古い刀剣で皮を真っ二つに裂く中、何らかの原初的な魂が生成され、宙を踊っているようなイメージが思い浮かぶかもしれません。 *鴻池朋子の展示のみ一部スペースより撮影が可能。

滋賀県の西明寺の「日光・月光菩薩立像」を祀り、「光と祈り」をテーマとしたインスタレーションを築いたのは、建築家の田根剛でした。ほぼ真っ暗闇の中、左右に並べられた両仏像の周囲には、小さな光源が点滅を繰り返しながら上下に動いていて、まるで日の出から日の入りの光の移ろいを見るかのようでした。さらに場内には西明寺の勤行の『天台声明』の録音が流されていて、お堂の中へ立ち入ったかのような臨場感も得ることができました。

北斎の「冨嶽三十六景」をパロディ化した漫画家のしりあがり寿の展示も面白いのではないでしょうか。その名も「ちょっと可笑しなほぼ三十六景」で、それぞれ「冨嶽三十六景」の各場面に倣いながら、スマホを持っていたりゴルフを楽しむ人や、ドローンが飛ぶ光景など、一部を現代に置き換えていました。さらにキャラクターの北斎が筆をくるくる回転させつつ、自らのモチーフによって世界を築く、アニメーション映像の「葛飾北斎ー天地創造 from 四畳半」も愉快でかつ見応え十分でした。しりあがり寿ならではのウイットに富んだ内容だったと言えるかもしれません。



いわゆる古典と現代のコラボレーションで抜群の相性を見せていたのが、デザイナーの皆川明と琳派の尾形乾山の展示でした。乾山のうつわを並べつつ、自作のテキスタイルやハギレなどを展示していて、ともに自然の草花などに着想を得た紋様が見事なまでに響きあっていました。中でも多数のハギレと乾山のうつわの破片を並べたケースは、それ自体が1つの作品のようで、現代の抽象画を目にするかのようでした。

ラストの蕭白と横尾忠則の展示も迫力十分でした。蕭白の「群仙図屏風」などの優品と横尾の新旧の絵画が向かい合っていて、ともに力強いまでのエネルギーを放っていました。ここはコラボレーションというよりも、激しい個性がぶつかり合うような対決の様相を呈していたかもしれません。

それにしても蕭白しかり、出展されている日本美術品が粒揃いであるのには驚きました。古典と現代のコラボレーションだけでなく、古美術そのものにも大いに魅力のある展覧会ではないでしょうか。なお日本美術品に関しては、会期中、一部に展示替えがあります。詳しくは公式サイトの「作品リスト」(PDF)をご覧ください。


「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」では、新型コロナウイルス感染症対策に伴う混雑緩和のため、WEBでの事前予約制が導入されました。既にチケットを持っている場合でも日時指定券の予約が必要です。ただ時間あたりの人数をかなり絞っているのか、国立新美術館の企画展としては空いているように見えました。



8月24日まで開催されています。おすすめしたいと思います。

「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」@kotengendai) 国立新美術館@NACT_PR
会期:2020年6月24日(水)~8月24日(月) *会期変更
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
 *当面の間、毎週金・土曜日の夜間開館は中止。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1700円、大学生1100円。高校生700円。中学生以下無料。
 *団体券の販売は中止。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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「日本絵画の隠し玉―大倉コレクションの意外な一面」 大倉集古館

大倉集古館
「日本絵画の隠し玉―大倉コレクションの意外な一面」
2020/6/27~7/26



日本・東洋の古美術コレクションで定評のある大倉集古館が、旧来、あまり目が向けられなかった作品の魅力を紹介する展覧会を開催しています。

それが「日本絵画の隠し玉―大倉コレクションの意外な一面」で、日本美術を中心に、室町から桃山、江戸時代へと至る絵画、約27点が公開されていました。

まずは英一蝶の2枚の小品が魅惑的でした。「雑画帖」のうちの「布袋図」と「仔猫に蛤図」で、前者では自らの袋に包まって眠る布袋を淡い墨にて描き、後者では蛤の作り物を前に体を丸めて眠る猫を色彩を伴って表していました。どちらも円、つまり丸みが特徴的な作品で、水墨と彩色の双方で巧みに筆さばきを変える、一蝶の高い画力に感心させられました。

狩野元信に連なる元久の作品とされる「鹿図」にも目が留まりました。扇型の面には二頭の鹿が秋草の中で佇んでいて、ともに横を向きながら可愛らしい姿をしていました。細かな草花も可憐ではないでしょうか。

タイトルの「隠し玉」の際たる作品として挙げたいのが、江戸初期から中期にかけて活動した山口雪渓 「十六羅漢図」でした。全16幅には文字通りに羅漢が描かれているものの、龍を手懐けては獅子と戯れたり、鯉や羊に乗っていたりするなど、従来の表現とは逸脱していて、奔放な図像が極めて個性的でした。えぐ味のある描写ながらも、コミカルに映るのも面白いかもしれません。

江戸時代の「遊楽人物図屏風」も見どころの1つかもしれません。6曲1隻の画面には、三味線を合奏したり、文を読んだりしては、思い思いに時間を過ごす人々が生き生きと捉えられていて、着物や道具も繊細に描かれていました。全体的に退色が進み、必ずしも状態は良いと言えないものの、国宝「彦根屏風」の変奏バージョンとも指摘されていて、まさに展覧会の「掘り出し物」とも呼べる作品でした。

「虫太平記絵巻」も面白い作品でした。有名な太平記の物語を、クモやカタツムリなどの虫を主人公に表した絵巻で、楠木正成の頭の上にはカマキリが乗っていました。ともかく全ての登場人物の頭に虫が描かれていて滑稽と言えるもの、描写は細かく着色も鮮やかで、一絵巻としても端的に見応えがありました。



最後に新型コロナウイルス感染症対策に関する情報です。マスクの着用が求められているほか、入場時に手指の消毒、及び検温が実施されています。


また飲水器の使用を休止し、開館時間を10時半から16時半(入場は16時まで)と短縮しています。一方でロッカーは通常通り使用可能でした。地下のミュージアムショップも営業中です。



当初より約1ヶ月弱ほど会期が短くなりました。展示替えはありません。

7月26日まで開催されています。

「日本絵画の隠し玉―大倉コレクションの意外な一面」 大倉集古館
会期:2020年6月27日(土)~7月26日(日) *会期変更
休館:毎週月曜日。
時間:10:30~16:30
 *入館は16:00まで。
 *短縮開館を実施。
料金:一般1000円、 大学生・高校生800円、中学生以下無料。
 *20名以上の団体は100円引。
住所:港区虎ノ門2-10-3 The Okura Tokyo前
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩7分。
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「ピーター・ドイグ展」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
「ピーター・ドイグ展」
2020/2/26~10/11



東京国立近代美術館で開催中の「ピーター・ドイグ展」を見てきました。

1959年にスコットランドのエジンバラに生まれたピータ・ドイグは、トリニダード・トバゴとカナダで育つと、後にターナー賞にノミネートされるなどして注目を集め、2002年よりトリニダードへ拠点を移しては絵画を描いてきました。

そのドイグの日本初の個展が今回の展覧会で、初期から近作までの油彩画32点と、自身のスタジオで主催する映画会のためのポスター「スタジオフォルムクラブ」の40点が一堂に並んでいました。

1983年にロンドンのセント・マーティンズ・スクール・オブ・アートを卒業したドイグは、1986年に10代を過ごしたカナダに戻ると、舞台美術の仕事をしながら、絵画制作に勤しむようになりました。そしてロンドンに戻りチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで修士号を取得すると、1994年にはターナー賞にノミネートされ、イギリスの現代アートシーンで一躍脚光を浴びました。

この頃のドイグの作品は、主にカナダの風景を主題にしているものの、写実として捉えているのではなく、映画や広告、雑誌、また古い葉書など多様なイメージを取り込んでは、1つの象徴的とも言える風景を築いていました。


ピーター・ドイグ「ブロッター」 1993年 リバプール国立美術館

「ブロッター」は、寒々とした森の中、凍った水の上で立つ一人の男を描いていて、紫色の水面には白い氷や雪が斑らに広がっていました。水面と木立が白い岸辺の帯で分割されているような構図が独特で、手前から奥の森へと向かう遠近感が強く感じられました。また男は肩を落としながら、水面に映る自らの姿を見やっていて、何やら考え事をしているようにも思えました。どことなく内省的な心持ちが風景へ滲み出ている作品と言えるかもしれません。


ピーター・ドイグ「コンクリート・キャビンII」 1992年 アローラ・コレクション

私が初期のドイグで特に惹かれたのは、フランス北西部にあるコルビュジエが建てた集合住宅をモチーフとした、「コンクリート・キャビンII」でした。白く大きなアパートが、手前の暗色の樹木に遮られるかのように建っていて、赤や黄色など色面が建物の一部に塗られていました。アパートの横のラインと樹木の縦のラインが力強く交差していて、手前と奥、縦と横との関係が全て対比的に示されていました。


ピーター・ドイグ「ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ」 2000〜2002年 シカゴ美術館

チラシ表紙を飾ったのが、ドイツのダム湖を写した古い絵葉書を参照したとされる、「ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ」でした。左後方の深い青みをたたえたダム湖を背に、手前の門に二人の男が正面を向いて立っていて、門からは赤や青、それに黄色などが宝石のように散りばめられた壁が右後方へと湾曲して伸びていました。人物はドイグが学生時代、イギリスの国立歌劇場の衣装係として働いていた頃の写真に由来すると言われています。


ピーター・ドイグ「ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ」 2000〜2002年 シカゴ美術館 *部分

ダム湖の上に広がる空はやや暗いエメラルドグリーンで染まっていて、白く輝かしい星がいくつか瞬いていました。そして門の手前にも同じように薄緑色をした地面が広がっていて、砂糖を結晶化させたような絵具の層が独特の質感を見せていました。実のところドイグの初期の作品は、絵具の物質感が強く、時に浮き上がっていて、近付いて目に飛び込んでくる画肌にも大いに魅力を感じました。

2000年にドイグは幼少期を暮らしたトリニダード・トバゴへの滞在制作に招待されると、2002年から活動の拠点を同国の首都、ポート・オブ・スペインへと移しました。そして南国の海辺の風景や、トリニダードで日常的に目にするモチーフなどを描くようになりました。


ピーター・ドイグ「ラペイルーズの壁」 2004年 ニューヨーク近代美術館

「ラペイルーズの壁」は、ポート・オブ・スペインの中心地にある墓地の壁を舞台としていて、日傘を持って歩く男を後ろから描いていました。墓地といっても、壁のみが捉えられているのみで、中は判然とせず、むしろ広い水色の空と赤褐色の壁、そして強い日差しを思わせる黄土色の地面のコントラストが印象に残りました。ロードムービーの一場面を見ているような雰囲気があるかもしれません。


ピーター・ドイグ「赤い船(想像の少年たち)」 2004年 個人蔵

鬱蒼とした南国のジャングルの中、緑色の水面を進む赤いボートを描いたのが「赤い船(想像の少年たち)」で、白い服を来た6名の人物が乗っていました。しかし背後の木々然り、水面も人物も、爛れたような色面のみで象られていて、表情も判別せず、今にも溶けて無くなってしまうかのような不穏な空気を感じてなりませんでした。


ピーター・ドイグ「ピンポン」 2006〜2008年 ローマン家

「ピンポン」は屋外で卓球する男を描いていて、卓球台の後ろには矩形に単純化された青や黒のビールケースが堆く積まれていました。右側の男は、いかにも真剣そうな面持ちで赤いラケットを構えているものの、相手の姿はなく、そもそもピンポン玉も描かれていませんでした。こうした一見、具象的なようで、謎めいた雰囲気を持っているのも、ドイグの絵画の大きな魅力かもしれません。


ピーター・ドイグ「夜の水浴者たち」 2019年 作家蔵

空、海、そして砂浜に3分割された色面の中、青い肌の女性が横たわっているのが「夜の水浴者たち」で、女性は眠っているかと思いきや、微かに目を開けてこちらを見やっていました。画面は滑りを伴うような感触を見せていて、初期作に比べて明かに薄塗りでした。ドイグの絵画は、時代を追うごとに筆触は素早く、絵具も薄くなっていて、時にキャンバス地が透けているものもありました。そうした画風の変化を辿られるのも、今回の個展の1つの見どころではないでしょうか。


右:ピーター・ドイグ「カヌー=湖」 1997〜1998年 ヤゲオ財団コレクション、台湾
左:ピーター・ドイグ「エコー湖」 1998年 テート

1枚の絵の中で様々なモチーフが関係を持ち、時間や空間を超えては物語を生み出すドイグの絵画を前にすると、時にイリュージョンを目にしているような錯覚に陥るかもしれません。


ピーター・ドイグ「花の家(そこで会いましょう)」 2007〜2009年 ニューヨーク近代美術館

具象的でありながら、歪みを伴い、また明るく美しい色彩を基調としつつも、不思議と毒々しく、一抹の恐怖感すら覚えるドイグの作品の魅力は、到底一言で表せられるものではありません。見たことがあるようで見たことのない景色にのまれながら、絵画の中の世界を彷徨うかのような鑑賞体験を得ることができました。


ピーター・ドイグ「スタジオフォルムクラブ」 展示風景

最後に入場に関する情報です。「ピーター・ドイグ展」は、東京国立近代美術館の新型コロナウイルス感染症対策に伴い、日時指定予約制が導入されました。これからチケットを購入する際は、事前にWEBサイトで入場時間を指定する必要があります。


一方で既に前売券などのチケットを持っている場合や、観覧料が無料対象となる際(中学生以下や招待券。)は、原則、開館時間中に自由に入場することが可能です。但し混雑状況に応じては制限されることもあります。

実のところ、私も事前にチケットを確保していたため、予約せずに直接、美術館へ出向きましたが、日曜の午後の時間帯でも待つことなくスムーズに入場できました。また美術館の窓口でも状況に応じ、当日券が販売されていて、こちらを利用する方も少なからず見受けられました。

マスクの着用や入館時の検温と手指の消毒も行われています。場内は思っていたよりも賑わっていましたが、混雑するほどではありませんでした。

2月26日に1度、開幕した「ピーター・ドイグ展」ですが、僅か2日間で臨時休館し、その後、緊急事態宣言などを受け、実に3ヶ月以上も開催できない状態が続きました。結果的に6月12日に再開館し、会期も当初の6月14日から10月14日までと大幅に延長されました。


ピーター・ドイグ「ポート・オブ・スペインの雨(ホワイトオーク)」 2015年 作家蔵

ドイグの作品を今回ほどのスケールにて見る機会は当面望めそうもありません。その意味では一期一会の展覧会と言えそうです。



会場内の撮影が可能です。10月11日まで開催されています。おすすめします。

「ピーター・ドイグ展」 東京国立近代美術館@MOMAT60th) 
会期:2020年2月26日(水)~10月11日(日) *会期延長
休館:月曜日。
 *但し8月10日、9月21日は開館。8月11日(火)、9月23日(水)。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜・土曜日の夜間開館は当面中止。
 *入館は閉館30分前まで
料金:一般1700円、大学生1100円、高校生600円。中学生以下無料。
 *同時開催の所蔵作品展「MOMATコレクション」も観覧可。
 *入場は日時指定予約制。
 *8⽉1⽇(土)〜8⽉30⽇(⽇)は、⼤学⽣と高校生が無料。要学生証。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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「『三井家が伝えた名品・優品』第1部 東洋の古美術」 三井記念美術館

三井記念美術館
「開館15周年記念特別展 『三井家が伝えた名品・優品』第1部 東洋の古美術」 
2020/7/1~7/29



三井記念美術館で開催中の「開館15周年記念特別展 『三井家が伝えた名品・優品』第1部 東洋の古美術」を見てきました。

2005年10月、東京・日本橋の三井本館7階に開館した三井記念美術館は、今年で15周年を迎えました。それを期して行われているのが「三井家が伝えた名品・優品」で、現在の第1部では、中国絵画や墨跡、陶磁器、ないし中国の碑拓法帖(ひたくほうじょう)など東洋の古美術品が出展されていました。

冒頭の立体展示室の茶道具からして充実していました。ここではいずれも重要文化財である「粉引茶碗(三好粉引)」や「玳皮盞(鸞天目)」などの朝鮮や中国のうつわが並んでいて、とりわけ前者の「粉引茶碗(三好粉引)」のかけ残した釉薬の箇所が、あたかも笹の葉がひらりと舞い降りたような表情をしているのに心を惹かれました。まただだ1点のみ展示された「唐物肩衝茶入 北野肩衝」を正面から眺めると、ちょうど梅の枝が左右に伸びつつ、花を咲かせているような景色が思い浮かびました。何とも味わい深い茶入ではないでしょうか。

中国の書画では沈南蘋の「花鳥動物図」が圧巻でした。ここでは11幅の全てが公開されていて、写実的でかつ緻密な描写による、可愛らしくも、いささか艶かしく、ともすれば妖しげな動物や植物などを存分に見やることができました。私自身、この作品にかつて接して、印象深かったことを覚えていますが、数枚での展示だったため、全てが揃って並んでいるのを見たのは初めてでした。

今回の展示で思いがけないほどに魅力を感じたのは、中国の古拓本(碑拓法帖)でした。いずれも新町三井家九代である三井高堅の収集した古拓本が20点近くも並んでいて、戦国から後漢、そして隋から唐へ至った篆書、隷書、楷書などの様々な書法を見比べられました。なかなか普段馴染みがなく、見る機会も少なかったただけに、特に興味深かったかもしれません。

ラストの工芸においても中国や朝鮮の陶磁や金工、それに漆器の優品が多数出展されていて、まさにお宝揃いとも言えるような内容でした。改めて三井記念美術館のコレクションの奥深さを思わせるような展示だったかもしれません。


「三井家が伝えた名品・優品」展は第1部と第2部の2部制です。第1部「東洋の古美術」を終えると、全ての作品が入れ替わり、第2部「日本の古美術」が行われます。

開館15周年記念特別展 『三井家が伝えた名品・優品』
第1部:東洋の古美術 2020年7月1日(水)~7月29日(水)
第2部:日本の古美術 2020年8月1日(土)~8月31日(月)

同館では開館以来、5年ごとに節目の特別展を開催してきましたが、15年目の今回は初めて東洋と日本の美術に分けて紹介したそうです。一期一会の機会と言えるのではないでしょうか。



最後に三井記念美術館の新型コロナウイルス感染症対策に伴う情報です。入館に際してはマスクの着用が求められ、検温、手指の消毒の他、任意で連絡先の電話番号の聞き取りがあります。但し事前予約制は導入されていないため、開館時間内であればいつでも入場できます。



また開館時間を11時から16時までと短縮していて、金曜のナイトミュージアム、及び団体での受付を中止しています。(入館は閉館の30分前まで。)お出かけの際はご注意ください。



7月29日まで開催されています。おすすめします。

「開館15周年記念特別展 『三井家が伝えた名品・優品』第1部 東洋の古美術」 三井記念美術館
会期:2020年7月1日(水)~7月29日(水)
休館:月曜日。1月27日(日)。年末年始(12/26~1/3)。
 *但し12月24日(月・休)、1月14日(月・祝)、1月28日(月)は開館。
時間:11:00~16:00
 *短縮開館を実施。
 *毎週金曜のナイトミュージアムを中止。
 *入館は閉館の30分前まで。 
料金:一般1300円、大学・高校生800円、中学生以下無料。
 *団体受付を中止。
 *リピーター割引:会期中、一般券、学生券の半券を提示すると、2回目以降は団体料金(一般200円引、大学・高校生100円引)を適用。
場所:中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線三越前駅A7出口より徒歩1分。JR線新日本橋駅1番出口より徒歩5分。
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「MOMATコレクション 小原古邨(洋邨)」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
「MOMATコレクション 小原古邨(洋邨)」
2020/6/16〜10/25



東京国立近代美術館の「MOMATコレクション」(本館所蔵品ギャラリー)にて、明治から昭和時代にかけて活動した日本画家、小原古邨の作品が公開されています。

1877年に生まれた小原古邨は、主に海外への輸出向けの版下絵を多く描き、花鳥風月を表した花鳥画で人気を博しました。


小原古邨(祥邨)「紫陽花」 1926〜1945年 木版(多色)

今回の出展された古邨の版画は計32点(前後期で入れ替えあり。)で、かつて国華社の主幹を務め、浮世絵研究で業績を残した藤懸静也の旧蔵品でした。


小原古邨(祥邨)「金魚二匹」 1926〜1945年 木版(多色)

いずれの作品にも可愛らしい木兎などの小動物や、可憐に咲き誇る紫陽花や朝顔といった草花などが描かれ、甲乙付け難い魅力に満ちていましたが、あえてこの1点をあげるとしたら「金魚二匹」と言えるかもしれません。


小原古邨(祥邨)「金魚二匹」 1926〜1945年 木版(多色) *部分

ここでは薄い水色を背景に、緩やかな曲線を描く従えながら、背鰭や尾鰭を靡かせて泳ぐ二匹の金魚を捉えていて、鱗には金色の色彩が点描のように加えられていました。どこかのんびりとした泳ぐ姿は何やら風雅にも感じられないでしょうか。


小原古邨(祥邨)「孔雀」 1926〜1945年 木版(多色)

「孔雀」は、一羽の孔雀が大きく羽を広げる姿のみを表していて、一枚一枚の羽の紋様までも細かに描き切っていました。一方で、孔雀の表情はどこか険しく、やや緊張した面持ちをしているようにも思えました。


小原古邨(祥邨)「朝顔」 1926〜1945年 木版(多色)

明治末までは淡い色調を基本とする水彩画風の作品を描いていた古邨でしたが、昭和に入ると版元を渡邉庄三郎の渡邉版画店に代え、以前よりも鮮やかで華麗な作品を作るようになりました。また号も当初は古邨としていましたが、1926年以降には洋邨と称するようになりました。


小原古邨(祥邨)「鬼百合と蝶」 1926〜1945年 木版(多色)

今回の出展作もほぼ全てが、1926年から最晩年の1945年の作品と記されていて、いわゆる後者の「新版画」的な明るい作品と捉えて良いのかもしれません。


小原古邨(祥邨)「鬼百合と蝶」 1926〜1945年 木版(多色) *部分

これまで海外で評価されてきた古邨は、国内ではよく知られた画家ではありませんでしたが、2018年に茅ヶ崎市美術館で「原安三郎コレクション 小原古邨展」が開催され、昨年も太田記念美術館で作品展が行われるなど、ここ数年で「古邨再興」とも言うべき流れが続いてきました。特に茅ヶ崎の展示では、会期終盤に入場が規制されるほどの注目を集めました。


小原古邨(祥邨)「四十雀と山葡萄」 1926〜1945年 木版(多色)

改めて東京国立近代美術館でまとめて作品を公開することで、画家の魅力を多くの人に伝える良い機会となるのかもしれません。


なお東京国立近代美術館では、新型コロナウイルス感染症対策のため、MOMATコレクション(常設展示)に日時指定予約制が導入されました。詳しくは同館WEBサイトをご覧ください。

10月25日まで開催されています。

「MOMATコレクション 小原古邨(洋邨)」 東京国立近代美術館@MOMAT60th) 
会期:2020年6月16日(火)〜10月25日(日)
休館:月曜日。
 *但し8月10日、9月21日は開館。8月11日(火)、9月23日(水)。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜・土曜日の夜間開館は当面中止。
 *入館は閉館30分前まで
料金:一般500(400)円、大学生250(200)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *企画展「ピーター・ドイグ」展のチケットで観覧可。
 *入場は日時指定予約制。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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「新収蔵作品特別展示:パウル・クレー」 アーティゾン美術館

アーティゾン美術館
「石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 新収蔵作品特別展示:パウル・クレー」 
2020/6/23~10/25



2019年に石橋財団が新たに収蔵したパウル・クレー(1879〜1940)のコレクション24点が、アーティゾン美術館でまとめて公開されています。

それが「特集コーナー展示 新収蔵作品特別展示:パウル・クレー」で、新収蔵品に加え、既収蔵品である「島」の全25点の作品が一堂に展示されていました。

出展されたのは、日本人コレクターが長年に渡って収集した作品で、いずれもクレーが分離派展や青騎士グループに参加して活動した1910年代より、1920年代のバウハウスの教鞭の時代を経て、晩年の1930年に至った、画家の制作の大半を網羅したコレクションでした。


パウル・クレー「小さな抽象的ー建築的油彩(黄色と青色の球形のある)」 1915年 

最も初期の作品は1915年の「小さな抽象的ー建築的油彩(黄色と青色の球形のある)」でした。ここでは北アフリカのチュニジアに着想を得たとされる市街風景が、キュビズム風の幾何学的構成によって表されていて、右上には黄色く染まる月がのぼっていました。


パウル・クレー「庭の幻影」 1925年

1925年の「庭の幻影」は、画面に水平方向の直線をたくさん引き、太陽と思しき赤い円の元、教会などの建物や樹木などを描いていて、全ては夕景を感じさせるような茶褐色の色彩が覆っていました。


パウル・クレー「羊飼い」 1929年

一方で、青、ないし藍色、あるいは紫が混じるよった模糊とした画面に、人物と4本足の動物を線のみで表したのが「羊飼い」(1929年)で、おそらくは新約聖書の「ヨハネ福音書」に説かれた「よき羊飼い」のモチーフに由来すると考えられてきました。光が滲み出るような色彩感は独特で、まるでガラスを通した光を目にするかのようでした。


左:パウル・クレー「谷間の花」 1938年

晩年の1938年の「谷間の花」は、初期の幾何学的な構成とは異なり、不定形の色面を切り絵のように組み合わせた作品で、中央には輝かしいまでのオレンジ色の光を放つ大輪の花が咲き誇っていました。どこか原初的ながらも、強い生命感がみなぎる作品と言えるかもしれません。


パウル・クレー「数学的なヴィジョン」 1923年

私が今回の出展作で最も惹かれたのは、中期の1923年に描かれた「数学的なヴィジョン」でした。薄い水色の膜から浮かび上がるような平面には、天秤やモビールを思わせる装置が細い線にて象られていて、アルファベットや矢印なども記されていました。タイトルに「数学的」とありましたが、詩的でかつ幻想的なイメージも感じられないでしょうか。


「新収蔵作品特別展示:パウル・クレー」展示風景

過去に「パウル・クレー - おわらないアトリエ」(東京国立近代美術館。2011年。)、また「パウル・クレー 創造の物語」(旧:川村記念美術館。2006年。)など、比較的大規模な展覧会も行われたクレーは、私自身、美術を見始めた頃から好きな画家の1人でした。改めて今回の展示を通して、クレーの絵画のかけがえのない魅力に強く引き込まれるものを感じました。


右:メアリー・カサット「娘に読み聞かせるオーガスタ」 1910年 
左:メアリー・カサット「日光浴(浴後) 1901年 *「特集コーナー展示 印象派の女性画家たち」より

なお同じフロアでは、もう1つの特集コーナー展示、「印象派の女性画家たち」も合わせて開催中です。こちらではモリゾ、カサット、ブラックモン、ゴンザレスの絵画など、リニューアルに際して新たにコレクションに加えられた印象派の絵画が一堂に公開されていました。


いずれの特集コーナーも、同時開催中の「ジャム・セッション 鴻池朋子 ちゅうがえり」と「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」に続くコレクション展です。上記2展と共通のチケットで観覧することが出来ます。

10月25日まで開催されています。

「石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 新収蔵作品特別展示:パウル・クレー」 アーティゾン美術館@artizonmuseumJP
会期:2020年6月23日(火)~10月25日(日) *会期変更
休館:月曜日。(但し8月10日、9月21日は開館)。8月11日、9月23日。
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜日の20時まで夜間開館は当面休止。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:【ウェブ予約チケット】一般1100円、大学・高校生無料(要予約)、中学生以下無料(予約不要)。
 *事前日時指定予約制。
 *ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ当日チケット(1500円)も販売。
住所:中央区京橋1-7-2
交通:JR線東京駅八重洲中央口、東京メトロ銀座線京橋駅6番、7番出口、東京メトロ銀座線・東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口よりそれぞれ徒歩約5分。
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「内藤コレクション展Ⅱ 中世からルネサンスの写本 祈りと絵」 国立西洋美術館

国立西洋美術館
「内藤コレクション展Ⅱ 中世からルネサンスの写本 祈りと絵」 
2020/6/18~8/23



国立西洋美術館で開催中の「内藤コレクション展Ⅱ 中世からルネサンスの写本 祈りと絵」を見てきました。

中毒学を専門とする学者、内藤裕史氏(筑波大学・茨城県立医療大学名誉教授)は、かねてより中世の装飾写本に魅せられ、数十年に渡って一枚もの写本のコレクションし続けてきました。

そのコレクションを紹介するのが「内藤コレクション展Ⅱ 中世からルネサンスの写本 祈りと絵」で、2019年秋から今年1月にかけて同館で開催された「ゴシック写本の小宇宙―文字に棲まう絵、言葉を超えてゆく絵」のいわば続編でした。



さて前回展では13世紀以降のゴシック写本が展示されましたが、今回は15世紀から16世紀の西ヨーロッパ(イギリス、フランス、ネーデルランド)で制作されたルネサンスの写本で占められていて、特に多いのは時祷書に由来する作品でした。



時祷書とは、信者が日々朗読する聖書の抜粋や祈祷文を記した書物で、主に王侯貴族や裕福な市民が注文して作られました。それゆえか手の込んだ華麗な装飾が目立っていて、時に草花のモチーフなどが万華鏡のように広がっていました。



当時のルネサンス美術も写本に影響を与えていて、より優美でかつ現実的な表現を特徴としていました。ともかくいずれの写本も宝石を覗き込むかのように美しく、お気に入りの一枚を見つけるのにさほど時間はかかりませんでした。


「詩篇集より:アカンサス葉の装飾を伴うイニシアルC」 イングランド、ロンドン(?) 1400〜25年 内藤コレクション

「詩篇集より:アカンサス葉の装飾を伴うイニシアルC」は、15世紀初頭のイングランドで制作された詩篇集に由来する作品で、赤褐色や青色で彩色されたアカンサスの葉が、テキストの周りを鮮やかに彩っていました。これは当時現れた、新しい装飾様式でもあったそうです。


「祈祷書より:離婚について議論するキリスト」 とりなしの祈祷の画家 北ネーデルランド、おそらくレイデン 1500〜30年頃 内藤コレクション

新約聖書マルコ伝の一場面を表した「祈祷書より:離婚について議論するキリスト」は、金地に草花や虫がだまし絵風に描かれていて、刺繍の縁取りが施されていました。こうした装飾は1500年前後の北ネーデルラントで流行したとされ、所有者はおそらく小型絵画として鑑賞したと考えられてきました。


チラシ表紙を飾った「時祷書より:受胎告知(表)」 リュソンの画家 フランス、パリ 1405〜10年頃 内藤コレクション

チラシ表紙を飾った「時祷書より:受胎告知(表)」も魅惑的ではないでしょうか。15世紀初頭のパリを代表する写本画家リュソンの画家が描いた作品で、受胎告知の場面とともに、実に見事な装飾が画面いっぱいに広がっていました。

また金を用いた写本では、少し角度を変えると、キラキラと光が浮かび上がってきました。文字と装飾が有機的に連なって見えるのも魅力と言えるかもしれません。



個々の時祷書には注文主の嗜好が反映され、ステータスシンボルとしても扱われたそうですが、小さな画面に展開した祈りの煌びやかな世界に時間を忘れて見入りました。


会場は常設展に続く新館の版画素描展示室です。また「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」は事前日時指定制となりましたが、「内藤コレクション展」は予約の必要がありません。当日の常設展チケット、及び「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」の観覧券で入場出来ます。

8月23日まで開催されています。おすすめします。

「内藤コレクション展Ⅱ「中世からルネサンスの写本 祈りと絵」 国立西洋美術館@NMWATokyo
会期:2020年6月18日(木)~8月23日(日)
休館:月曜日。但し7月13日(月)、7月27日(月)、8月10日(月・祝)は開館。
時間:9:30~17:30 
 *毎週金・土曜日は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般500(400)円、大学生250(200)円、高校生以下、65歳以上無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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