「さいたまトリエンナーレ2016」 さいたま市内各会場(与野本町駅、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺)

さいたま市内各会場
「さいたまトリエンナーレ2016」
9/24~12/11



岩槻駅、大宮駅周辺会場に続きます。「さいたまトリエンナーレ2016」に行ってきました。

「さいたまトリエンナーレ2016」 さいたま市内各会場(岩槻駅~大宮駅周辺)

大宮の展示を一通り見終えた後は、埼京線に乗車し、次の目的地へと向かいました。行き先は与野本町です。


「彩の国さいたま芸術劇場」

与野本町の会場は1つ。彩の国さいたま芸術劇場です。駅西口より南下。約7~8分ほど歩いた住宅地の中にあります。


チェ・ジョンファ「息をする花」

作家は韓国のチェ・ジョンファ。2点のインスタレーションを出品しています。花を象ったのが「息をする花」でした。素材は布。息をするとあるように、風の力を借りては伸縮します。まるで花が生きているかのようです。


チェ・ジョンファ「ハッピーハッピー」

もう1つが「ハッピーハッピー」でした。天井からぶら下がるのは無数の日用品です。洗濯かごやゴミ箱、それにカラーコーンなどが連なっています。全100本。この夏に市内のワークショップで制作されたそうです。ちなみに彩の国会場はこの2つのみでした。いささか物足りない印象は否めないかもしれません。



ラストは中浦和から武蔵浦和の一帯です。両駅の間に複数の会場が分散しています。与野本町側に近い中浦和で下車。歩きながら武蔵浦和を目指すことにしました。


日比野克彦「種は船プロジェクトinさいたま」

まずは別所沼公園の日比野克彦です。ヒヤシンスハウスの中では日比野が昨年に手がけた「種は船プロジェクト」の映像が上映されています。


日比野克彦「種は船プロジェクトinさいたま」

そのプロジェクトの成果が沼に浮かぶ「種は船」です。2隻とも朝顔の種の形をしています。名は「Saitori 丸」と「別所沼丸」でした。種が土地の記憶を紡いで芽を出すのと同様、船もまた行く先々の記憶を呼び込んでは新しい土地へ伝える役割を担っています。そのように日比野は考えているそうです。

それにしても別所沼、大変に居心地の良い公園でした。トリエンナーレとは関係なく、沼に釣り糸を垂らしたり、園内を散歩して過ごす方などを多く見かけます。地元の方の憩いの場なのでしょう。のんびりとした時間が流れていました。

別所沼公園から武蔵浦和へのアプローチそのものもトリエンナーレの会場です。


ダニエル・グェティン「STATION TO STATION」

ダニエル・グェティンは公園からの歩道橋、さらにその先の「花と緑の散歩道」を、テーマカラーであるオレンジと青色で彩りました。


ダニエル・グェティン「STATION TO STATION」

「STATION TO STATION」です。桜並木の小道には色鮮やかなゲートを設置。腰掛けることも可能なベンチもあります。


ウィスット・ポンニミット「時間の道」

またポンニミットの「マムアンちゃん」のキャラクターのサインも随所に点在しています。通常の看板にもう一枚、マムアンちゃんの一言が加わります。さりげない言葉に空想を膨らませるのも楽しいかもしれません。


アイガルス・ビクシェ「さいたまビジネスマン」

おそらくSNS関連で最も写真があがっている作品ではないでしょうか。アイガルス・ビクシェの「さいたまビジネスマン」です。ちょうど埼京線の線路の際、高架下の公園で寝そべる巨大な人物像。スーツを着ては頭に手を当てています。


アイガルス・ビクシェ「さいたまビジネスマン」

全長は9.5メートルです。さすがに目立ちます。スーツの表面に無数の蜘蛛や蠅のオブジェがたかっていました。ネクタイは黒です。喪服のようにも見えなくはありません。涅槃像から着想を得た作品だそうです。


「旧部長公舎」会場入口

武蔵浦和界隈で最も展示が多いのは旧部長公舎です。かつてはさいたま市の官舎として整備された施設。4つの住居からなっています。


高田安規子・政子「土地の記憶を辿って」

ユニットで活動する高田安規子・政子は、さいたまの地歴に因んだインスタレーションを展開しました。「土地の記憶を辿って」です。太古の昔、さいたまには海が広がっていました。その証でもある貝や貝塚、さらには海岸線の地図をモチーフとして取り込んでいます。


高田安規子・政子「土地の記憶を辿って」

また見沼田んぼの絶滅危惧種や、周囲の林に生息する樹木の種にも注目。いずれも障子や壁紙、さらにはガラス窓などの建具に描きました。


鈴木桃子「アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト」

住居そのものをドローイングで埋め尽くそうとしているのでしょうか。鈴木桃子の「アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト」です。内装は床から壁に至るまで全てが真っ白。そこに作家本人が鉛筆によってドローイングを描いています。


鈴木桃子「アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト」

会期中も作家が手を加え続けているそうです。つまり形は刻々と変化します。しかも最後は「何もない空間」に戻すという試みです。確かに無数の消しゴムが用意されていました。これを使って11月頃から観客とともに消す作業に入るそうです。まさに生々流転、最後は全てが無に帰します。


松田正隆+遠藤幹大+三上亮「家と出来事 1971-2006年の会話」

演劇、映画、美術の協働によるインスタレーションです。劇作家の松田正隆、映画監督の遠藤幹大、アーティストの三上亮は、部長公舎の場の記憶を紡ぐ戯曲を制作しました。


松田正隆+遠藤幹大+三上亮「家と出来事 1971-2006年の会話」

戯曲といえども演者は声。つまり公舎で行われた生活なりを音声を用いて上演しているわけです。使い古しのワープロにはスイッチが入り、キッチンにも明かりが灯っています。調度品は古い。中にはレコードもありました。不在の空間に人の気配が感じられます。まるでつい今まで生活していたかのようです。


松田正隆+遠藤幹大+三上亮「家と出来事 1971-2006年の会話」(ベランダより新幹線の高架方向を望む)

場所を変えると声は変化。日常のささやかな物語が進展します。ベランダでもイヤホンを使った作品がありました。旧部長公舎は高台です。ふと新幹線について語る声が聞こえてきました。すると彼方の高架上を実際に新幹線が走ります。もちろん偶然に過ぎませんが、なんとも不思議な感覚を覚えました。


「旧部長公舎」会場入口

部長公舎では写真家の野口里佳も出展。映像と写真を交えての展開です。野口自身、さいたま市の生まれだそうです。同地に因んだ初期作も展示されていました。(野口里佳の展示は撮影不可。)


ダニエル・グェティン「STATION TO STATION」

この後は再び「花と緑の散歩道」へと戻り、ダニエル・グェティンのゲートを潜っては武蔵浦和駅へと歩き、トリエンナーレの観覧を一通り終えました。

結局、朝10時に岩槻に入り、大宮から与野本町、武蔵浦和へと廻って、最後に見終えたのは16時頃でした。岩槻の旧民俗文化センターが事実上のメイン会場です。次いで武蔵浦和の部長公舎が充実しています。反面、ほかの会場は作品数が多くはありません。今回は浦和、西浦和の会場には行きませんでした。

「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」@埼玉県立近代美術館 9月17日 (土) ~11月14日 (日)

観覧のスピードには個人差がありますが、展示のみであれば1日で十分に廻れると思います。またややタイトなスケジュールになるやもしれませんが、埼玉県立近代美術館の「NEW VISION SAITAMA5」がなかなか見応えがあります。トリエンナーレとは直接関係ありませんが、現代美術の展覧会です。北浦和を挟んで廻るのも面白いかもしれません。


ウィスット・ポンニミット「さいたマムアン」

どの会場も大変に空いていました。次回開催に向けては議論もありそうですが、待ち時間などは一切ありません。スムーズに観覧出来ました。

「さいたまトリエンナーレ2016公式ガイドブック/メディアパルムック」

一部の公演を除き、無料です。12月11日まで開催されています。

「さいたまトリエンナーレ2016」@SaitamaTriennal) さいたま市内各会場(与野本町駅~大宮駅周辺、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺、岩槻駅周辺)
会期:9月24日(土)~12月11日(日)
休館:水曜日。
 *但し11月23日(水・祝)は開場、翌11月24日(木)は閉場。
時間:10:00~18:00
 *入場は閉場の30分前まで。
料金:無料。(但し、一部の公演、上映を除く。)
住所:さいたま市中央区上峰3-15-1(彩の国さいたま芸術劇場)、さいたま市南区別所4-12-10(別所沼公園)、さいたま市南区鹿手袋3-14(西南さくら公園)、さいたま市南区別所2-39-1(旧部長公舎)
交通:JR線与野本町駅西口より徒歩7分(彩の国さいたま芸術劇場)、JR線中浦和駅より徒歩5分(別所沼公園)、JR線武蔵浦和駅より徒歩8分(西南さくら公園)、JR線武蔵浦和駅より徒歩11分(旧部長公舎)。
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「さいたまトリエンナーレ2016」 さいたま市内各会場(岩槻駅~大宮駅周辺)

さいたま市内各会場
「さいたまトリエンナーレ2016」
9/24~12/11



「さいたまトリエンナーレ2016」に行ってきました。

今年から新たに始まった「さいたまトリエンナーレ」。会場はさいたま市内の南北に点在しています。

一会場で最も展示数が多いのは岩槻の旧民俗文化センターです。よってまずは岩槻を目指すことにしました。

東武アーバンパークラインの岩槻駅に着いたのは9時50分頃。改札口のすぐ目の前にトリエンナーレの案内所がありました。パンフレットほか、アートマップも設置。ガイドの方も丁寧に接して下さいます。一通りの情報を収集することが出来ました。



目立つのはウィスット・ポンニミットの描く「さいたマムアンちゃん」です。もちろん公式のキャラクター。またポンニミットはトリエンナーレ全体の展示サインも担当しています。ちなみに各会場の目印はトリエンナーレののぼり旗です。「さいたマムアンちゃん」とともに出迎えてくれます。


「岩槻駅東口ロータリー」無料シャトルバス乗り場

旧民俗文化センターへは岩槻駅より直線距離で約1.3キロほどあります。無料のシャトルバスが駅東口のロータリーから発着していました。10時ちょうどのバスに乗車。駅から離れて郊外へと進みます。おおよそ15分程度で会場に辿り着きました。


マテイ・アンドラシュ・ヴォグリンチッチ「枕」

出品アーティストは全14組。まず目に飛び込んでくるのが、マテイ・アンドラシュ・ヴォグリンチッチの「枕」でした。無数の白い枕が中庭を埋め尽くしています。ちょうど晴天だったからか空の青とのコントラストが際立っていました。ヴォグリンチッチはトリエンナーレのテーマでもある「未来の発見」を、夢見るための枕に見出したそうです。日常のありふれた素材を効果的に利用しています。


大洲大作「Commuter/通う人」

旧文化センターの会場は1階のみ。回廊のようにぐるりと展示室が続いています。場所のさいたまを題材にした作品が目立ちました。大洲大作は市内の通勤電車の車窓をテーマにした映像を制作。一部の風景は市民から募ったものです。ひたすらに移ろう景色は時に光や影に還元されていきます。


川埜龍三「犀の角がもう少し長ければ歴史は変わっていただろう」

さいたま県内から多数出土するという埴輪に着目したのが河埜龍三です。「さいたまBハニワ大発掘展」と題した会場には一見、本物らしき埴輪が並んでいます。また埴輪の解説も充実。細かな図解を示すパネルや発掘時の様子を記録したような写真も出ていました。それによれば一般の人々による「発掘キャラバン隊」で埴輪の発掘調査を行ったそうです。


川埜龍三「犀の角がもう少し長ければ歴史は変わっていただろう」

思わず納得してしまうような凝った作りですが、実は全てが虚構。河埜が作り上げたフィクションの世界なのです。


川埜龍三「犀の角がもう少し長ければ歴史は変わっていただろう」

さいたまBとは現実をさいたまAに見立てて名付けた世界。いわばパラレルワールドです。架空のさいたまBからさも本当に発掘されたような埴輪の展示を行っています。確かによく見ればまずありえないような形の埴輪ばかり。むしろ可愛らしい。とはいえ、ここまで作り込めば説得力があるというものです。にやりとさせられました。


ソ・ミンジョン「水がありました」

見せ方として面白いのがソ・ミンジョンの「水がありました」でした。作品自体は映像。約2分半ほどです。撮影場所は大宮の氷川神社。かつてあったさいたまの海をテーマにした作品を映しています。


ソ・ミンジョン「水がありました」

スクリーンの形が変わっています。というのもご覧の通り、円筒形なのです。しかも素材は糸。束になっています。中が空洞になっていて輪を描いています。海の青、そして風に揺らぐ杜の緑が次々と映し出されていきます。端的に美しい。こうした映像の方式は初めて見ました。輪は循環しています。大地を巡る水を意識しているそうです。

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西尾美也「感覚の洗濯」

さいたまトリエンナーレの舞台は「生活都市」(公式サイトより)です。その生活を見据えたインスタレーションでしょうか。西尾美也が日常の日常、すなわち洗濯物をテーマとした作品を出展しています。


西尾美也「感覚の洗濯」

万国旗のようにはためく洗濯物。祝典的な光景を表現しています。さらに洗濯物を花見や写生の対象にしようと試みます。確かに洗濯物は色とりどりです。絵になる面もあるかもしれません。また映像はたらいなどの洗濯用品を積んだ車に乗って見るという仕掛けでした。クラクションボタンを押すと映像が切り替わります。


小沢剛「帰って来たJ.L.」

小沢剛は歴史上の人物に、「事実とフィクションを重ねあわせた物語」(キャプションより)を提示する「帰って来た」シリーズの新作を展示。ホールでしょうか。映画館さながらに椅子の並ぶ暗室で映像が投影されています。舞台はフィリピンです。起点は4人組のバンドJ.Lです。過去や現在を行き来しながらさいたまとつなぎ合わせています。


藤城光「ボイジャー 2011」

福島の原子力事故に向き合った藤城光の「ボイジャー2011」や、モノクロームの映像が幻想的なアピチャッポン・ウィーラセタクンの「Invisibility」も興味深いのではないでしょうか。それぞれもつながりはさいたまです。藤城は事故でさいたまに避難してきた人々などのインタビューを実行。アピチャッポンはさいたま市内で録音した音をテーマとした映像を制作しています。

最後は目です。アーティストの荒神明香らを中心に活動するグループ。資生堂ギャラリーの空間を大きく作り変えた「たよりない現実、この世界の在りか」展でも話題となりました。

このトリエンナーレでも驚くべき光景を現出させています。しかしそれ以上は書けません。なにせ作家の意向により撮影不可、ないしネタバレも不可だからです。ただ一つだけ言えるのは間違いなく晴れている方が作品映えしますることです。なるべく晴天時に出かけられることをおすすめします。


「旧民俗文化センター」会場入口

旧民俗文化センターに滞在していたのは結局1時間ほどでした。再び無料バスに乗って岩槻駅へと戻ります。同エリアのK邸はオープン時間外だったので、鑑賞を断念。そのまま東武アーバンパークラインで次の目的地である大宮へと向かいました。

大宮の会場は全部で6つ。とはいえ、会期が限定されていたり、イベントのみの展示もあります。この日、観覧出来たのは大宮高島屋と大宮区役所、それに市民会館おおみやの3つでした。全て駅の東口に位置します。


長島確+やじるしのチーム「←」

大宮高島屋の展示は6階から7階にかけてのローズギャラリー。階段の踊り場です。作品は「←」。上の写真でお分かりいただけるでしょうか。例えば民家の壁に←、文字通り矢印を描いています。これは長島確と「やじるしのチーム」と名付けられたメンバーが、街中に「←」を掲げるプロジェクトで出来たものです。一般の市民の参加者が、自由な素材で思い思いの場所に「←」を作っています。


長島確+やじるしのチーム「←」

ただまだ参加者が少ないのか、「←」パネルの枚数が僅かです。余白も目立ちました。もう少しボリュームがあると面白いのかもしれません。


秋山さやか「雫」

市民会館おおみやでは秋山さやかが「雫」と題したインスタレーションを展示しています。素材は刺繍や手紙です。秋山は6月から110日間、大宮に滞在し、日々の出来事を紡いでは針縫いに留め、自らに宛てて投函しました。紙は様々です。中には広告の切り抜きなどもあります。


秋山さやか「雫」

会場は元々、市民会館内で営業していた喫茶店でした。今はクローズしていますが、場との相性も良い。一室での展開ですが、思いの外に見応えがありました。


「大宮区役所」入口

大宮の最終目的地は大宮区役所です。作家は2組。チェルフィッチュの岡田利規とダンカン・スピークマン&サラ・アンダーソンです。

岡田の作品は区役所地下の古びた厨房にありました。2つの映像です。戯曲が進行します。シルエット越しの人物はさも実在の演者のようでした。演劇と映像の融合でしょうか。実際、岡田自身も「映像演劇」と名付けているようです。

ダンカン・スピークマン&サラ・アンダーソンは体験型のインスタレーションです。スタートは13時から。午前中は体験出来ません。


ダンカン・スピークマン&サラ・アンダーソン「1000のデュオのための曲」受付

受付は区役所1階のカウンターです。ヘッドホンを持ち出すため、身分証明書の確認などの簡単な手続きが必要となります。持ち出す先は街中です。ようはヘッドホンをかぶり、音声プレーヤーから流れる音楽とガイドを聞きながら街中を歩くという作品なのです。


ダンカン・スピークマン&サラ・アンダーソン「1000のデュオのための曲」音声ガイド

体験は2人1組。ヘッドホンをすると街の音がかなり遮断されます。全てはガイドの指示が頼りです。面白いのは2人にそれぞれ別々の指示が与えられることでした。互いを時に見やり、またジェスチャーを与えて、意思疎通を図っていきます。離れて歩く場面もあります。うまくいかない時も少なくありません。



とはいえ、リアルとフィクションの狭間を行き交うような体験はなかなか面白い。ありふれた光景に見えない心象がクロスします。結果的に駅周辺を彷徨うこと約40分超。最後は再び大宮区役所へと戻りました。



なお1人の場合はほかの希望者とペアを組むか、場合によってはスタッフの方が対応するそうです。道程はほぼ全て屋外です。傘を持ってジェスチャーしながら歩くには少々難があります。やはり晴れの日の参加をおすすめします。

「さいたまトリエンナーレ2016」 さいたま市内各会場(与野本町駅、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺)

与野本町駅、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺会場へと続きます。

「さいたまトリエンナーレ2016」@SaitamaTriennal) さいたま市内各会場(与野本町駅~大宮駅周辺、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺、岩槻駅周辺)
会期:9月24日(土)~12月11日(日)
休館:水曜日。
 *但し11月23日(水・祝)は開場、翌11月24日(木)は閉場。
時間:10:00~18:00
 *入場は閉場の30分前まで。
料金:無料。(但し、一部の公演、上映を除く。)
住所:さいたま市岩槻区加倉5-12-1(旧民俗文化センター)、さいたま市大宮区大門町3-1(大宮区役所)
交通:東武アーバンパークライン岩槻駅東口より無料シャトルバスで約15分(旧民俗文化センター)、JR線・東武アーバンパークライン・埼玉新都市交通大宮駅東口より徒歩5分(大宮区役所)。
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「トラフ展 インサイド・アウト」 TOTOギャラリー・間

TOTOギャラリー・間
「トラフ展 インサイド・アウト」 
10/15~12/11



TOTOギャラリー・間で開催中の「トラフ展 インサイド・アウト」を見てきました。

2004年に鈴野浩一と禿真哉によって設立されたトラフ建築設計事務所。その設計のアイデアを思いもよらない形で見ることが出来ました。



会場に入って驚きました。大きなテーブルの上には無数の「オブジェ」が並びます。カラフルで形も様々です。まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのようでした。



よく見ると建築模型らしきものもありますが、スヌーピーの人形やサッカーボール、はたまたワインボトルに鏡などの日用品も多数。さらに植物や用途の明らかではない素材も少なくありません。その合間を縫うように一本のNゲージの線路が敷かれていました。初めは何が起きているのか分かりませんでした。

実はこれらは、初期から最新のプロジェクトを完成させる過程の中で、「手がかりとなったもの、インスピレーションを受けた」(ギャラリーサイトより)ものだったのです。まさに思考のプロセスそのものが形をとって展開しています。



サッカーボールはどうでしょうか。これはシアン、マゼンタ、イエローを混ぜるとブラックになる原理でデザインしたボールです。と思えば、その奥のパネルは神宮前の「INHABITANT STORE TOKYO」で使った天井パネルの試作というから面白い。素材もアイデア自体もないまぜになっています。



天井から吊り下がるドライフラワーはシルエットを窓に映すためのインテリアです。また指にはめるおもちゃは北海道の土産屋で購入した楽器でした。それを生き物として見立てています。自由な発想は留まるところを知りません。



本棚の一部のような箱は「コロロデスク」。顔を突っ込むと部屋のように見えることから名付けられました。ちなみにぶら下がるランプのシェードは何とニンジンです。薄切りにして貼り合わせています。淡い光が滲み出していました。



照明を当てると影を落とすというガラスのドームは美しい。ちなみの写真手前のサークル状のコートは、新たなコミュニケーションを生むべく考え出されたサッカー場だそうです。実現したら一体どのような試合になるのでしょうか。想像もつきません。



各オブジェの側には一切の解説はありません。あくまでも番号のみ。それがガイドマップと対応します。率直なところオブジェを見るだけでは見当もつきません。ガイドの解説を読んでは初めて理解し得る場合が殆どです。ガイドにも宝探しとありましたが、まるでクイズのようでした。



中庭ではお馴染みの岩を魚に見立てていました。とすれば青い養生カーテンは水の青、上の防虫ネットは水面を表しているのでしょうか。

さらに1つ上のフロアではテーブルの上の線路の秘密が映像で明かされます。こちらは是非、会場でご覧下さい。

「トラフ建築設計事務所 インサイド・アウト/TOTO出版」

出品は全部で100点です。展示室だけでなく、2階のBookshopや1階や地階のセラトレーディングショールームにまで及んでいます。その一つ一つに建築へと至る意外なアイデアが詰め込まれていました。(ショールーム内の作品は営業時間外は観覧不可。)



12月11日まで開催されています。

「トラフ展 インサイド・アウト」 TOTOギャラリー・間
会期:10月15日(土)~12月11日(日)
休館:月曜、祝日。但し11月3日(木・祝)は開館。
時間:11:00~18:00
料金:無料。
住所:港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅3番出口徒歩1分。都営大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅7番出口徒歩6分。
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六本木に新たなアートスペース「complex665」がオープンしました

10月21日(金)、六本木ヒルズ近くに新たなアートスペース、「complex665」がオープンしました。


「complex665」エントランス

「complex665」の場所は六本木交差点の西側、麻布警察署裏手からさらに一本南に入った小道の先です。オオタファインアーツなどのあるピラミデビルのちょうど横に当たります。ヒルズと交差点のほぼ中間地点です。

建物は3階建て。リノベーションではなく新築です。経営を森ビルが手がけています。

新たに誕生したギャラリーは3つです。2階に小山登美夫ギャラリーとシュウゴアーツ、3階にタカ・イシイギャラリーが入居しました。


「complex665」2階 小山登美夫ギャラリー

各ギャラリーの内装を全て異なった建築事務所が設計しています。小山登美夫ギャラリーはムトカ建築事務所が担当。シュウゴアーツは青木淳建築計画事務所、そしてタカ・イシイギャラリーはインテリアデザインのブロードビーンが手がけました。なおブロードビーンは1階にショールームも構えています。


「complex665」2階 シュウゴアーツ

延べ床面積で285坪。都心のギャラリーとしては相当の広さです。また天井高も3メートル超あり、ある程度の大型の作品も設置することが出来ます。


「complex665」3階 タカ・イシイギャラリー

complex665では現在、オープニング展を開催中です。小山登美夫ギャラリーは蜷川実花、シュウゴアーツは小林正人の各個展、またタカ・イシイギャラリーは「Inaugural Exhibition:MOVED」と題したグループ展を行っています。

[complex665 オープニング展示]

小山登美夫ギャラリー「蜷川実花 Light of」
10月21日(金)~12月3日(土)
http://tomiokoyamagallery.com

シュウゴアーツ「小林正人 Thrice Upon A Time」
10月21日(金)~12月4日(日)
http://shugoarts.com

タカ・イシイギャラリー「Inaugural Exhibition:MOVED」
10月21日(金)~11月19日(土)
http://www.takaishiigallery.com/jp/


「ピラミデビル」

それにしてもこの「complex665」の誕生で六本木にはかなり多くのギャラリーが集積しました。隣のピラミデにはオオタファインアーツやワコウ・ワークス・オブ・アート、そしてZEN FOTO GALLERYなどが入居。向かいにはギャラリー・モモもあります。また少し足を伸ばせばAXISにタカ・イシイギャラリーフォトグラフィー、乃木坂近くにはギャラリー・間も位置します。

さらに森美術館をはじめ、サントリー美術館、21_21 DESIGN SIGHT、そして国立新美術館などの美術館も点在しています。これほど六本木に美術関連施設が集まったことは初めてのことではないでしょうか。



なおギャラリーということで基本的に日・月曜日はお休みです。ただしシュウゴアーツのみ営業(12時から18時まで)します。ご注意ください。


「complex665」1階

ヒルズから至近です。森美術館への途中に立ち寄ってみては如何でしょうか。

「complex665」は10月21日にオープンしました。

「complex665」
オープン:2016年10月21日(金)
休廊:日・月曜日。(シュウゴアーツのみ日曜日も営業。12:00〜18:00)
時間:11:00〜19:00
住所:港区六本木6-5-24
交通:東京メトロ日比谷線・都営地下鉄大江戸線六本木駅3番出口より徒歩3分。
内容:森ビル株式会社は、文化都心・六本木ヒルズの近接地に、日本を代表する現代美術ギャラリーなど4店舗を集積した「complex665」を、六本木アートナイト2016の初日である10月21日(金)にオープンします。*リリースより(PDF)
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「江戸切子 若手職人10人展〜硝子と切子」 伊藤忠青山アートスクエア

伊藤忠青山アートスクエア
「江戸切子 若手職人10人展〜硝子と切子」 
10/5〜11/6



2013年より伊藤忠青山アートスクエアで開催されてきた「江戸切子 若手職人展」は、今年で4回目を迎えました。


吉川太郎「無題」

テーマは硝子と切子です。展示の造作に一工夫ありました。例えば吉川太郎の「無題」です。花器でも皿でもなく、リング状の大きなオブジェですが、台座の透明ガラス、ないし底部の鏡によって、その姿が背後の濃色の鏡にも写りこみます。ようは作品が上下と背後でも光り輝いて見えるわけです。


山田のゆり「LOVE」

花器の表面にLOVEという文字が舞っています。山田のゆりの「LOVE」です。文字は筆記体。緩やかな曲線を描いています。もちろん赤い色彩も美しい。どのような花を生ければより映えるでしょうか。


鍋谷聰「tide 波の音」

鍋谷聰は波や潮をモチーフにした切子を制作しました。「tide 波の音」です。確かに表面が波打っているように見えます。緑と青が鮮やかなコントラストを描いていました。


鍋谷淳一「モルフォ」

「モルフォ」はブラジル南部に生息する蝶だそうです。作家は鍋谷淳一。青と紫のガラスをカットしては蝶を象っています。さらに表面を手毬風に仕上げています。独特の風合いが感じられました。


堀口徹「tojikome 結合」

堀口徹は「焼成の偶発的な表現」(解説より)を切子に取り込みました。題して「tojikome 結合」です。円状に広がるのは泡。その一瞬の形を切り取っています。

ほか切子のアクセサリー類も美しい。装身具の展示は初めてだそうです。また若い作家が多いからでしょうか。大胆なデザインの作品も目につきました。



作品数は僅かです。界隈へのお出かけの際に立ち寄るのも良いかもしれません。

11月6日まで開催されています。

「江戸切子 若手職人10人展〜硝子と切子」 伊藤忠青山アートスクエア
会期:10月5日(水)~11月6日(日)
休館:月曜日。
時間:11:00~19:00
料金:無料。
住所:港区北青山2-3-1 シーアイプラザB1F
交通:東京メトロ銀座線外苑前駅4a出口より徒歩2分。東京メトロ銀座線・半蔵門線・都営大江戸線青山一丁目駅1出口より徒歩5分。
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「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」 埼玉県立近代美術館
9/17~11/14



埼玉県立近代美術館で開催中の「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」を見てきました。

埼玉発、県内にゆかりのある現代アーティストを紹介する「NEW VISION SAITAMA」展は、今回で5回目を数えるに至りました。

出品は全7名。いずれも1980年代生まれのアーティストです。

まずは小左誠一郎。さいたま市在住の画家です。大作の絵画が展示室を取り囲みます。いずれも抽象画です。しかしせめぎ合う色面をはじめ、掠れ、また時に太く現れる線は、何やら有機物を象っているようにも見えます。円や三角などの幾何学的な模様も介在していました。モチーフ自身が呼吸、ないし伸縮しているようにも思えなくはありません。不思議な揺らぎを伴う作品でもあります。

古びた窓枠が暗室に浮かび上がります。鈴木のぞみです。窓枠は不要になったものでしょう。戸外の風景が朧げに映りこんでいます。鈴木は通常、窓ガラスを使って窓越しの風景を撮影。その写真を窓ガラスに焼き付ける手法で作品を制作しているそうです。露光は7日間にも及びます。古色を帯びた風景は懐かしい。見る者の個々の記憶と結びついているのかもしれません。

厚塗りの絵画で知られる高橋大輔が見事な展示を披露してくれました。壁の際から天井まで埋め尽くすのは一連の絵画です。何点あるのでしょうか。件の厚塗りの迫力は言うまでもありません。絵具をさながら打ち付け、またヘラで削り取り、慣らし、さらには盛っては、塗りこめる。何層にも堆積しています。奥から地の絵具が隠れ見えしていました。展示室全体を絵画に見立てているのでしょうか。一段と手法が多様になった感さえありました。

床面にまだ製作中と思しきキャンバスが散乱していました。私物と見える荷物なども置かれています。まるでアトリエの再現展示です。実際のところ、ここで高橋が作品を作ることはないそうですが、さも作家の制作、ないし思考のプロセスを垣間見るようでした。

また一枚の日本画に目が留まりました。速水御舟の「夏の丹波路」です。埼玉県立近代美術館のコレクションです。点描風の筆触が細かにせめぎ合います。紫紅の影響下にあった頃の作品でしょうか。高橋が制作の原動力となった一枚だそうです。

一部展示室の撮影が出来ました。


二藤健人 展示風景

いきなり階段が現れました。和光市在住の二藤健人です。空間をがらりと作り変えての大掛かりなインスタレーションを見せています。


二藤健人「誰かの重さを踏みしめる」 2016年

階段の作品の名は「誰かの重さを踏みしめる」。横から見ると下に人が入れるスペースがあります。上部には穴が空いていました。ここで人を支えるのでしょうか。二藤の制作のテーマは「触れる」だそうです。確かに潜り込めば人の重みに触れることも出来ます。


二藤健人「pillow talk」 2016年

「触れる」といえばさらに驚きの作品が待ち構えていました。「pillow talk」です。家屋を思わせる巨大な箱が宙に浮いています。下には砂、あるいは土が敷かれています。微かに湿り気と匂いも感じられました。


二藤健人「pillow talk」 2016年

箱へは階段が連なり、扉が閉まっていました。中に入ることが可能です。室内は畳敷き、ご丁寧に布団が敷いてありました。ここではあるものに触れられるだけでなく、添い寝まですることが出来ます。あえてあるものの名は伏せます。室内はぐらぐらと揺れて足元もおぼつきません。あるものを抱いて寝る体験はどこか恐ろしくもありました。是非とも会場で体験してください。


中園孔二 展示風景

中園孔二の絵画世界も興味深いのではないでしょうか。紐のような線がうねるかと思いきや、植物が生え、人が登場し、巨大なピエロのような顔も現れます。モチーフはまるで神出鬼没。自由です。緻密であり奔放でもあります。タッチは即興的です。何らかの物語を紡いでいたのでしょうか。賑やかな音楽が聞こえてくるかのようでした。


小畑多丘 展示風景

二人のダンサーが対峙していました。小畑多丘です。ダンスとはブレイクダンス。素材は楠。何と一木造です。赤と黒。ダウンコートを着ているのでしょうか。一人は両手を腰にやり、もう一人は腕を組んでいます。


小畑多丘 展示風景

それぞれは細長い展示室内の両端に立っていました。まるで戦隊シリーズのヒーローのように格好が良い。これから戦闘が行われるのかやもしれません。


青木真莉子 展示風景

「NEW VISION SAITAMA5」は展示室外にも拡張しています。回廊を利用したのが青木真莉子です。毛皮を用いた不思議なオブジェが点在します。さらに映像も吹抜け内に投影。まるで古代の祭祀を視覚化したようなインスタレーションを展開しています。


二藤健人「反転の山」 2015年

屋外へも広がりました。地下1階、サンクンガーデンでは二藤健人が「反転の山」を設置。何せ巨大です。太古の化石、あるいは隕石の欠片を連想しました。

隣接する北浦和公園へも目を向けましょう。鈴木のぞみです。場所は公園の北側、彫刻広場にあるカプセルです。黒川紀章の設計した中銀カプセルタワービルのモデルに作品があります。


鈴木のぞみ「Capsule Obscura」 2016年

名は「Capsule Obscura」。カプセルの隣に入口が設営されています。私も中に入りました。真っ暗です。しばらくするととある像が浮かび上がってきます。

実はこの作品、ある程度の外光を必要とします。つまり雨や曇りの日では意図したイメージが現れません。実際、私も曇りの日に観覧しましたが、殆ど分かりませんでした。晴れの日に出かけられることをおすすめします。

不定期で行われる「NEW VISION SAITAMA5」。これまでにもいくつか追ってきましたが、今回は力作だけでなく、尖った展示もあって面白い。一番楽しめたような気がしました。



11月14日まで開催されています。

「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:9月17日 (土) ~11月14日 (日)
休館:月曜日。但し9月19日、10月10日、11月14日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大高生880(710)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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「河口龍夫ー時間の位置」 川口市立アートギャラリー・アトリア

川口市立アートギャラリー・アトリア
「河口龍夫ー時間の位置」
10/8~11/26



川口市立アートギャラリー・アトリアで開催中の「河口龍夫ー時間の位置」を見てきました。
 
鉄や鉛といった金属から、光、また植物の種子などを用いて、「世界を捉えなおす」(解説より)現代美術家、河口龍夫。2009年には東京国立近代美術館でも大規模な個展を行いました。



河口は「闇を閉じ込める」ことに挑戦します。名付けて「DARK BOX 2016」です。シリーズの第1作が発表されたのは1975年。半ばライフワークと言えるのでしょうか。方法は独特です。まず完全なる暗室、つまり光が全く届かない場所に、鉄の鋳物で出来た箱を置き、蓋を密閉。今度は光のある空間へと持ち出します。

河口の閉じ込めた見えない闇が、金属の箱という形をとって可視化しているわけです。しかも今回は会場のアトリアという場所に着目。すぐ横で建設中の雨水調整池の地下水槽の闇を閉じ込めました。

深さは地下30メートル。ちょうどギャラリーの床材に採用された古材と同じ地点にあるそうです。もう1点の「1975年の円筒形の闇」は「DARK BOX」の試作です。それが今回の「DARK BOX 2016」の構想段階のドローイングに似ていたことから、新たに持ち込まれました。さらに奇しくも川口は鋳物の街でもあります。諸々の要素が重なります。単なる偶然とは言い切れないかもしれません。



河口は時間に触れようとも試みました。「石になった森」、ないしは「石になった動物」などのシリーズです。自身の収集した化石をフロッタージュ、つまり紙の上で鉛筆で擦り込み、写し取っています。そこで「時を止めた生命の時間に触れられる」(解説より)。そのように河口は考えています。



天井近くに浮いた船から多く蓮がぶら下がっていました。「命の蜃気楼」です。蓮も河口がよく使うモチーフです。色は鈍い。鉛で封じ込めています。舟は緩やかに川を流れるようにも見えます。一体どこへ向かうのでしょうか。



浮いているといえば椅子も同様でした。その名は「椅子の成長」です。手前から階段状に椅子が5脚、ほぼ等間隔で浮いています。徐々に高く連なる椅子を成長に見立てたのかもしれません。



さらに椅子は屋外へと展開しました。「塀の上の椅子」です。隣の工事用のフェンスの上に並ぶ椅子。誰も座れない椅子の上には人の気配がしなくもありません。あるいは誰かが降りてくるのを待っているのでしょうか。地下に潜り、闇を閉じ込め、今度は屋内から空へと向かう河口の意識。自由な感覚で見入りました。



11月26日まで開催されています。

「河口龍夫ー時間の位置」 川口市立アートギャラリー・アトリア
会期:10月8日(土)~11月26日(土)
休館:月曜日。但し7月18日は開館。翌19日は休館。
時間:10:00~18:00。
 *土曜日は20時まで開館。
料金:300円。(パスポート制。会期中何度でも再入場可。)高校生以下無料。
住所:埼玉県川口市並木元町1-76
交通:JR線川口駅東口から徒歩約8分。
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「速水御舟の全貌ー日本画の破壊と創造」 山種美術館

山種美術館
「開館50周年記念特別展 速水御舟の全貌ー日本画の破壊と創造」
10/8~12/4



山種美術館で開催中の「開館50周年記念特別展 速水御舟の全貌ー日本画の破壊と創造」のプレスプレビューに参加してきました。

国内屈指、約120点の御舟作品を所蔵する山種美術館。約7年ぶりの御舟単独の回顧展です。

出品は80点超。うち56点が山種コレクションです。ほかの美術館の作品も加わります。


「瘤取之巻」 1911(明治44)年 山種美術館 *11/8より場面替

御舟こそチャレンジングな日本画家はいなかったかもしれません。14歳で歴史画の松本楓湖の画塾に入門した御舟は、屋外で写生を行うにとどまらず、絵巻、宋元画、琳派の作品を模写しては学びました。冒頭、17歳の時に描いたのが「瘤取之巻」です。入門3年目。もちろん若書きながらも筆は細かい。さらに御舟は「北野天神縁起絵巻」も模写。貪欲に古典を接収します。


右:「焚火(秋の朝)」 1913(大正2)年 霊友会妙一コレクション

樹木に煙る「焚火」は大観の様式を思わせる一枚です。南画と朦朧体を半ば折衷しています。本作は原三渓の旧蔵品です。御舟は先立つこと2年前、「萌芽」を文展に出品。落選するも、後の展示で原三渓の目にとまり、買い上げとなったそうです。若き御舟の才能を見抜いたのでしょうか。支援を受けました。


右:「黄昏」 1917(大正6)年 霊友会妙一コレクション
左:「山科秋」 1917(大正6)年 山種美術館


「山科秋」を描いたのは23歳。この頃から御舟の語る「群青中毒」に語ります。ピカソならぬ青の時代です。作品自体は南画風。確かに群青が滲み出ています。「黄昏」は青がさらに深い。手前から奥へと風景が縦に積み上がっています。古径の旧蔵品でもあったそうです。


「洛北修学院村」 1918(大正7)年 滋賀県立近代美術館 展示期間:10/8〜11/20

群青の最たる作品が「洛北修学院村」ではないでしょうか。もはや青が主役。山も里も全てを飲み尽くしています。後方が比叡山です。手前には里があり、人の姿も垣間見えます。青は徹底したのか、人の衣服にまで及んでいました。松林が密に重なる緑深き光景です。それを青でまとめあげます。幻想的ですらありました。


「茶碗と果実」 1921(大正10)年 東京国立近代美術館 展示期間:10/8〜11/6

一転して眩い金色が目に飛び込んできました。「茶碗と果実」です。果実はあんずの一種、赤というよりもワイン色に染まっています。茶碗は薄手です。口の部分がゆがんでいます。いかにも冷ややかで硬い。御舟の高い写実力は対象の質感を見事に引き出しています。興味深いのは影が付いていることです。そもそも器と果実のモチーフは西洋の静物画の系譜に連なります。同時代の劉生の影響を受けていると考えられているようです。


「灰燼」 1923(大正12)年 山種美術館

御舟は関東大震災を院展の会場で被災しました。「灰燼」です。被災後の街の様子をスケッチ。それを元に描きました。一面の瓦礫に無人の家屋がぽつぽつと建っています。空は灰色です。電柱でしょうか。細く縦の線がのびています。本作は生前、未発表だったそうです。思うところがあったのかもしれません。没後、アトリエから発見されました。


「樹木」 1925(大正14)年 霊友会妙一コレクション

御舟の眼差しは時に特異です。「樹木」には驚きました。軽井沢で目にしたブナを描いています。樹木は太くて逞しく、何やら人体の一部のようにも見えなくもありません。蔦と絡み合う様は官能的でもあります。感心したのは樹木表面の描写でした。木目を示すためでしょうか。筆を横に塗り重ねて立体感を生み出しています。まるで油画のようです。光は手前から当たっているのかもしれません。胡粉が白く瞬いていました。


重要文化財「名樹散椿」 1929(昭和4)年 山種美術館

昭和以降としては初めて重要文化財に指定された「名樹散椿」も出展。構図は琳派風です。強いて言えば其一の線を連想させます。樹は葉と花をたくさん付けてはたわむいています。五色の椿はかなり散っていました。よく知られるように背景は金箔でも金泥でもなく、まきつぶしです。金沙子を隙間なく敷き詰めてマットな質感を表現しています。


「翠苔緑芝」 1928(昭和3)年 山種美術館

質感といえば「翆苔緑芝」も面白い。金地の大作の屏風です。可愛らしい白兎と黒猫にも目を奪われますが、左隻の紫陽花の質感が際立っています。ひびが入り、やや泡立っているように見えないでしょうか。これは絵具の中に薬品、おそらくは重曹を入れて出来たものだそうです。絵具の一つとっても御舟の表現への飽くなき探究は留まることを知りません。

ともすると人物画を苦手としていたとも言われる御舟ですが、渡欧中にグレコの絵画などを見て感化。帰国後は意欲的に描くようになります。


「花ノ傍」 1932(昭和7)年 株式会社歌舞伎座

その結実が「花の傍」です。ストライプのモダンな着物の女性。安井曾太郎の「婦人像」との関係も指摘されています。それにしても御舟、どうしてもストライプを描きたかったのでしょう。よく見れば帯はおろか、椅子もテーブルクロスもストライプです。色は鮮やか。巧みに交差させています。あえて描いた花瓶がモデルの顔の向こうに隠れているのも興味深いところでした。実験的な構図と言えるかもしれません。床の市松模様もストライプを引き立てていました。


「豆花」 1931(昭和6)年 山種美術館

晩年に至るにつれ、作品はより装飾的でかつ構成的な傾向を帯びていきます。さらに抽象的とも言えるのが「豆花」です。横へ向かって伸びる茎の形態は極めて複雑です。触手はまるで毛細血管のようです。半ば不自然にまで屈曲しています。


「あけぼの・春の宵」 1934(昭和9)年 山種美術館

私が一番好きな桜の作品も展示されていました。「春の宵」です。「あけぼの」と対の一枚。闇夜を背に一本の桜が花を散らせています。ひらひらと舞う花びらはまるで桜が涙を流しているかのようです。物悲しい。月はあまりにもか細く、消え入りそうです。最後の力を振り絞るべく、僅かな光を放っています。これほど叙情的な桜の絵を私はほかに知りません。


「牡丹花(墨牡丹)」 1934(昭和9)年 山種美術館

水墨の名手と言っても差し支えないのではないでしょうか。一例が「牡丹花」です。墨の滲みを最大限に活かした花びら。花弁の中からは黄金色の光が放たれています。一方の葉は淡彩です。限りなく薄い緑色をしています。時折、墨が混じります。見事なニュアンスでした。


重要文化財「炎舞」 1925(大正14)年 山種美術館

御舟作で最も知られる「炎舞」は、第2会場、小さな展示室で公開されていました。暗室に灯る火炎。やや図像的な表現は仏画の様式を参照したとも言われています。輝かしいというよりも、もはや神々しい。辺りを舞う蛾を祝福し、また闇を焦がしています。照明が見事でした。見ていると炎に吸い込まれそうになります。「炎舞」のための空間です。「山種に炎舞あり。」と言わんばかり展示でした。

最後に展示替えの情報です。会期途中、一部作品が入れ替わります。(前後期各73点。)

「速水御舟の全貌ー日本画の破壊と創造 出品リスト」(PDF)
前期:10月8日~11月6日
後期:11月8日~12月4日

青の時代の超細密描写で知られる「京の舞妓」(東京国立博物館蔵)は11月22日からの展示です。ご注意ください。

私が日本画を好きになった切っ掛けの一つが、かつての三番町時代の山種美術館で御舟作品を見たことでした。まさに「破壊と創造」です。僅か40年の人生の中でも、御舟は常に変化を求め、新たな表現に挑戦し続けました。その偉大な画業を改めて振り返る良い機会と言えそうです。



カタログが新たに刊行されました。図版、解説、年譜、および山崎館長の論文をはじめ、同館顧問の山下先生と美術史家の板倉先生による対談とテキストも充実しています。とりわけ御舟と中国絵画との関連の指摘が興味深いのではないでしょうか。永久保存版となりそうです。

12月4日まで開催されています。やはりおすすめします。

「開館50周年記念特別展 速水御舟の全貌ー日本画の破壊と創造」 山種美術館@yamatanemuseum
会期:10月8日(土)~12月4日(日)
休館:月曜日。(但し9/19は開館、9/20は休館)
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生900(800)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *きもの割引:きもので来館すると団体割引料金を適用。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。渋谷駅東口より都バス学03番「日赤医療センター前」行きに乗車、「東4丁目」下車、徒歩2分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「日本美術と高島屋」 日本橋高島屋

日本橋高島屋8階ホール
「高島屋史料館所蔵 日本美術と高島屋~交流が育てた秘蔵コレクション~ 特別展示:豊田家・飯田家寄贈品展」 
10/12~24



日本橋高島屋8階ホールで開催中の「高島屋史料館所蔵 日本美術と高島屋」を見てきました。

大阪・難波の高島屋史料館には、古くから高島屋と所縁の深い美術家の作品が収蔵されてきました。

そのコレクションの一部が東京の日本橋へとやって来ました。出品は約90点。栖鳳、大観、華香、鉄斎、土牛、放庵、雪佳、玉堂、清方などの錚々たる日本画家の作品が並びます。高島屋創業の地でもある京都画壇が多いのも特徴でした。


横山大観「蓬莱山」 1949(昭和24)年

冒頭、大きな軸画に目を奪われました。大観の「蓬莱山」です。何せ250号と巨大。空の彼方に富士が聳えています。下方の山々の墨の描写も瑞々しい。神々しさを演出するためでしょうか。雲には金が混じっているようにも見えます。1947年、高島屋大阪店の地下で戦後初めて行われた院展に出品された一枚でした。

明治時代、アメリカの商社との関係を契機に海外向けの商品を扱うようになった高島屋。特に美術染織品の輸出に力を入れていました。そのための下絵の制作を京都の画家に依頼。画工室を設置します。栖鳳、雪佳、華香らが集うようになりました。

染織の下絵の一枚が「富士」です。作者は栖鳳。画面全体に富士の頂が描かれています。栖鳳は明治20年頃から画工室に出入りしていたそうです。それを示す「勤休簿」なる帳簿も展示されていました。

三幅対の「世界三景」も海外向け染織の下絵です。出品先はロンドン。明治43年に行われた日英博覧会でした。「ロッキーの雪」を山本春挙、「ベニスの月」を栖鳳、そして「吉野の桜」を華香が描いています。ベニスでは月明かりを照らす水面の表現が美しい。墨を巧みに散らしては、ベニスの建物などを細かく表しています。


竹内栖鳳「アレ夕立に」(部分) 1909(明治42)年

同じく日英博覧会に出されたのが栖鳳の「アレ夕立に」でした。栖鳳では女性画です。とはいえ、この時期の傑作と言っても過言ではありません。舞妓の踊りの一瞬、ちょうど扇子を振り上げた様を捉えています。花をあしらった青い着物が美しい。一転しての帯は水墨です。栖鳳は帯をどう表現するかかなり悩んだとも伝えられています。

点数こそ多くありませんが、美術染織品こそがハイライトと言えるのではないでしょうか。素晴らしいのが幸野楳嶺の「紅葉渓図」です。刺繍に友禅。しかし目を凝らしても絵画にしか見えません。それほどに精緻です。紅葉に彩られた渓谷を表しています。9頭いる鹿の部分が刺繍です。ほかは染物。下絵と完成品が揃う珍しい一枚でもあります。

また唐織の「秋草に鶉」も美しい。特に二羽の鶉が極めて細かく表現されています。大変な技術が用いられたことでしょう。現代では再現不能とも言われているそうです。


前田青邨「みやまの四季」 1957(昭和32)年

前田青邨の「みやまの四季」は大阪毎日ホールの緞帳の原画でした。梅、桜、楓、それに椿を半円状に配しています。小鳥も飛び、リスが跳ねて賑やかです。琳派を意識した図像的な構図です。ちなみに展示では緞帳制作のための試織も出ていました。見比べることも可能です。

川端龍子の「潮騒」には驚きました。出品中最大、4曲1隻の屏風絵です。中央に切り立つ岸壁。一面の海が囲んでいます。左は青く、右手はやや緑色を帯びています。エメラルドグリーンと言っても良いかもしれません。岸壁には海鳥が羽を休めていました。ともかく躍動感のある構図です。力強い作品でもあります。

それにしても本作、てっきり本画と思いきや、実は紀元2600年の東京大博覧会に出品予定の染織の原画でした。しかし博覧会は戦局の悪化等の理由により中止。一度お蔵入りとなります。しかしながらその後壁掛けに仕立て、海外への贈答品として海を渡りました。行き先は当時のドイツです。何とヒトラーが受け取ったそうです。

実に妖艶な一枚に惹かれました。北野恒富の「婦人図」です。半裸の女性像。片袖を脱いでいます。背後の闇に白い体が浮かび上がります。着物の柄は紫陽花でしょうか。目は潤み、髪はやや濡れているようにも見えます。昭和4年に大阪で行われた「キモノの大阪春季大博覧会」のためのポスター原画です。街に貼られたとしたら何とも大胆な作品です。実際、駅に掲示されると、大半はすぐさま持ち去られてしまったそうです。


富岡鉄斎「碧桃寿鳥図」 1916(大正5)年

高島屋のコレクションの形成過程を辿りながら、画家との関係についても踏み込んでいます。さらに高島屋の当主であった飯田家や、4代新七の娘の嫁いだ豊田家からの寄贈品も加わります。何も絵画だけではありません。美しい婚礼衣装や陶器、また朝山の彫刻にも目を引かれました。


「松竹梅に鶴文様振袖」 1922(大正11)年

高島屋アーカイブスのWEBサイトが充実しています。史料館のコレクションを年代、およびジャンル別に分類。図版と解説が事細かに記されています。鑑賞の参考になりそうです。

「タカシマヤアーカイヴス」WEBサイト
URL:https://www.takashimaya.co.jp/archives/index.html

百貨店への注文品だからでしょうか。いわばハレの日を飾るような吉祥主題の作品が多いのも印象に残りました。


清水六兵衛(4代)「春秋花卉彩画盃」 1893(明治26)年

お得なことに入場は無料です。10月24日まで開催されています。

「高島屋史料館所蔵 日本美術と高島屋~交流が育てた秘蔵コレクション~ 特別展示:豊田家・飯田家寄贈品展」 日本橋高島屋8階ホール
会期:10月12日(水)~10月24日(月)
休館:会期中無休。
時間:10:30~19:30 
 *入場は閉場の30分前まで。最終日は18時閉場。
料金:無料。
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋8階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
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登呂遺跡にて「とろエンナーレ2016」が開催されます

弥生時代の集落・水田遺跡として知られる国の特別史跡の登呂遺跡。今年、遺跡からの出土品775件が一括して重要文化財に指定されました。

それを期しての新たなイベントです。「とろエンナーレ2016」が開催されます。



[とろエンナーレ2016 開催概要]
URL:http://toroennale.net
会期:2016年11月12日(土)~11月27日(日)
時間:9:00~16:30  
会場:特別史跡「登呂遺跡」・登呂博物館
休館:無休。但し登呂博物館は11月14日(月)、21日(月)、24日(木)が休館。
料金:無料。
住所:静岡市駿河区登呂5-10-5(静岡市立登呂博物館)
交通:JR静岡駅南口22番線よりバス10分「登呂遺跡」行き終点下車。東名静岡ICから車で10分

会場は登呂遺跡、及び登呂博物館。静岡駅南口よりバスで10分ほどです。キーワードは「古代の跡、現代のアート」。現代と古代のくらしを対比し、登呂遺跡に新たなイメージを生み出すそうです。

[とろエンナーレ 展示『くらしの輪郭 Now & Then』]
場所:特別史跡登呂遺跡内(祭殿、1号住居、2号住居、メモリアル広場住居、登呂博物館1F)
参加アーティストとテーマ
 鬼頭健吾:くらしを支える道具 
 江渕未帆:くらしの中の秘かな表現  
 高橋舞:くらしの中の秘かな表現
 +tic:くらしと家族 
 栗山斉:くらしの時間を広げる灯り
 *キュレーション:鈴木一郎太

現代美術の展示は上記の通りです。いずれも「くらし」がテーマです。フラフープなどの既製品を用いてインスタレーションを手がける鬼頭健吾のほか、計5名のアーティストが参加します。

面白いのは遺跡の祭殿や復元住居に作品が展示されることです。現代と古代の邂逅と言ったところでしょうか。例えば鬼頭健吾は2点、祭殿内と博物館内に設置。博物館内では新作が公開されます。



[とろエンナーレ オープニングイベント]
日時:11月12日(土)・13日(日) 9:00~16:30
・アート体験ワークショップ  
 ファッション図工シリーズ 「クラッカーを鳴らして、アクセサリーを作ろう」 講師: 江渕未帆 
「もし2000年前のトロ村にいたら、どんな家に住みたい?」 講師:本原令子
「assemblaging~シルクスクリーンプリントを使ってつくるアッサンブラージュ」講師:BOBho‐ho  
「弥生時代のうたをつくろう」 講師:片岡祐介   
・積みわらをつくろう! 
・登呂マルシェ(しぞーかおでんや復興支援フードなどを販売)
・古代と現代行ったり来たりガイドツアー 
・火起こし体験
・土器炊飯試食

会期の初日と翌日にはワークショップなどの様々なイベントも開催されます。登呂マルシェではご当地名物、静岡おでんなどのフードも販売されます。

登呂遺跡を中心に初めて行われる「とろエンナーレ2016」。ネーミングからして漢字ではなく、ひらがなの「とろ」とすることで親しみやすさを狙っています。入場は無料です。おそらくは手作り感のあるアットホームなイベントになるのではないでしょうか。

ところで会場の登呂遺跡ですが、私ももう10年ほど前に一度行ったことがあります。



静岡駅よりバスに乗って終点で下車。バス停のほぼ目の前が遺跡でした。園内は思いの外に広い。復元倉庫や住居が点在していました。



登呂博物館は2010年に建物を新築。全面リニューアルオープンしたそうです。ちょうど「とろエンナーレ2016」期間中には登呂の他、国内各地の遺跡の資料を展示する特別展「弥生×登呂」も行われます。



「登呂博物館出土品 重要文化財指定記念 特別展『弥生×登呂』」
会場:登呂博物館 2F特別・企画展示室
会期:9月17日(土)~11月27日(日)
時間:9:00~16:30
料金: 一般400(290)円、高・大学生260(190)円、小・中学生60(50)円。
 *( )内は30名以上の団体料金
休館: 月曜(祝日の場合は除く)、祝日の翌日。



私の目当ては登呂遺跡と隣接する芹沢けい介美術館の見学でした。美術館を設計したのはかの白井晟一。松濤博物館の設計者です。この建物が素晴らしい。芹沢の作品とともに石造りの外壁、ないし組天井のある内部空間に魅せられたことを覚えています。



「めぐるりアート静岡」
URL:http://megururi.net/2016/
会期:11月1日(火)〜11月20日(日)



「富士の山ビエンナーレ2016」
URL:http://fujinoyama-biennale.com
会期:10月28日(金)〜11月27日(日)

ほぼ同会期では市内で「めぐるりアート静岡」も行われています。また少し足を伸ばせば清水区や富士市などで「富士の山ビエンナーレ2016」も開催中です。いずれも入場は無料です。「めぐるりアート静岡」と「とろエンナーレ2016」の2会場のスタンプを集めると景品がプレゼント(先着順)される企画もあります。

富士山を背に、晩秋の光眩しい静岡の地で行われる「とろエンナーレ2016」。県内各地のイベントと合わせて出かけるのも良いかもしれません。

「とろエンナーレ2016」は登呂遺跡、登呂博物館で11月12日よりはじまります。

「とろエンナーレ2016」 登呂遺跡・登呂博物館
会期:2016年11月12日(土)~11月27日(日)  入場無料
時間:9:00~16:30  
会場:登呂遺跡・登呂博物館
休館:無休。但し登呂博物館は11月14日(月)、21日(月)、24日(木)が休館。
料金:無料。
主催:静岡市
住所:静岡市駿河区登呂5-10-5(静岡市立登呂博物館)
交通:JR静岡駅南口22番線よりバス10分「登呂遺跡」行き終点下車。東名静岡ICから車で10分
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「リビングルーム2 ミシェル・ブラジー展」 メゾンエルメス

メゾンエルメス
「リビングルーム2 ミシェル・ブラジー展」 
9/17〜11/27



メゾンエルメスで開催中の「リビングルーム2 ミシェル・ブラジー展」を見てきました。

1966年、モナコに生まれたフランス人アーティスト、ミシェル・ブラジー。銀座エルメスのスペースに生命を介在させ、「住居におけるくつろぎの場」(解説より)を示す、その名も「リビングルーム」を作り上げました。


「かたつむりを放つ」 2009〜2016年

生命、うち1つがカタツムリです。ブラジーは大きく吊り下がるカーペットへカタツムリを放ちました。その這った白い跡はまるでドローイングのようです。


「かたつむりを放つ」(部分) 2009〜2016年

もちろん形は意図したものではありません。カタツムリの動きとともに終始変化していきます。あくまでもカタツムリの這うままに任せているわけです。


「マリーのコーヒマシン」 2016年

植物も素材の1つでした。例えば「マリーのコーヒマシン」です。コーヒーマシンを岩に見立たのでしょうか。観葉植物が生えています。まるで寄生しているかのようです。ちなみにマシンは何も新調したものではありません。マリーとはブラジーの妻の名前です。彼女の使い古しのマシンを利用しています。それこそブラジーの自宅のリビングルームにあったことでしょう。


「オーレリーの靴」 2016年

ほか靴やゲーム機にも植物を組み込んでいます。もちろんこれらも中古品。使われなくなったものだそうです。


「珊瑚」 2009年

「珊瑚」はどうでしょうか。一見するところは絵画です。確かに珊瑚を象ったような光景が広がります。しかしながらキャプションを見て驚きました。素材は絵具でありません。何とチョコとバニラのクリームです。それをネズミにかじらせています。

このようにブラジーは1990年の頃から、身近な日用品や植物、それに昆虫や小動物などを利用し、時に時間とともに変化するインスタレーションを制作してきました。


「ワインを飲む壁」 2014〜2016年

ワインがグラスに並々と注がれています。「ワインを飲む壁」です。壁とあるようにワインが壁に食い込んでいます。そしてグラスの周囲にはワインが染み込んでいます。一体どのような仕掛けなのでしょうか。


「ワインを飲む壁」 2014〜2016年

答えは石膏ボードでした。おそらくは壁の一部を削り取り、石膏のボードを設置。そこに縦半分に切ったワイングラスを埋め込んでいます。

ワインは時間をかけて石膏へ染み込みます。実際、作品の下には空き瓶が5〜6本が並んでいました。これらは当初から注がれたものです。今後も壁に飲ませるべく、会期末に向けて追加されるようです。


「ほうきになるほうき」 2016年

さらにほうきと植物を組み合わせたインスタレーションも美しい。リビングと言うよりも、庭、ガーデンのようでした。


「ハルオ」 2016年

さりげなく置かれた椅子にも細かな仕掛けがありました。こちらもお見逃しなきようご注意下さい。

11月27日まで開催されています。

「リビングルーム2 ミシェル・ブラジー展」 メゾンエルメス
会期:9月16日(金)~11月27日(日)
休廊:不定休。
時間:11:00~20:00 
 *日曜は19時まで。入場は閉場の30分前まで。
料金:無料
住所:中央区銀座5-4-1 銀座メゾンエルメス8階フォーラム
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅B7出口すぐ。JR線有楽町駅徒歩5分。
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「GUCCI 4 ROOMS」 グッチ銀座・ドーバーストリートマーケットギンザ

グッチ銀座・ドーバーストリートマーケットギンザ
「GUCCI 4 ROOMS」 
10/12〜11/27



グッチ銀座、およびドーバーストリートマーケットギンザで開催中の「GUCCI 4 ROOMS」を見て来ました。

イタリアの世界的ファッションブランドのグッチが、現代アーティストら迎え、新たな展覧会をスタートさせました。



それが「GUCCI 4 ROOMS」です。「4 ROOMS」とあるように、4名の作家がグッチから着想を得たインスタレーションを展開しています。



1つ目の会場はグッチ銀座です。7階のイベントスペースに3つの部屋が誕生しています。エレベーターを降りれば「GUCCI 4 ROOMS」のロゴが光っています。ガイドを1枚ずつ手にとり、最初の部屋へと進んでみました。



まずは小さな暗室です。グッチのカバンやジャンパーが吊るされています。手前にタッチパネルがありました。小さな銀色のボールが映っています。触れて奥へと動かすことが出来ました。



するとボールが壁へ矢のように飛び出します。もちろん映像です。擬似的にボールがピンポンのように跳ね出します。そしてボールがカバンや服に当たると、今度は炎、文字、ないし動物のモチーフが広がりました。ボールの向き、また早さによって、映像は変化します。同じシーンはなかなか現れません。



手掛けたのはライゾマティックスの真鍋大度。メディアアーティストです。日本の神話を素材にした体験型インスタレーションを展示しました。



2番手は塩田千春。お馴染みの赤い糸が空間を埋め尽くします。名は「GUCCI HERBARIUM ROOM」です。壁と床は一面の花柄。グッチのハーバリウムパターンです。さらに同じくハーバリウムのベットや机、またバックなどが置かれています。



それにしてもこの糸の密度。塩田の中でも相当に密ではないでしょうか。塩田といえば、ちょうど今月初旬、横浜のKAAT神奈川芸術劇場でも赤い糸を使ったインスタレーションを展示していましたが、それよりも遥かに濃い。赤が目に染み込み、さらに焼き付きます。もはや家具は糸に隠れてよく見えません。その過剰なまでの赤の洪水に足がすくむほどでした。



Mr.(ミスター)がグッチのスペースを大きく変容させました。3つ目の「GUCCI GARDEN ROOM」です。ガーデンとあれば草木、また花を連想しますが、ここで目立つのはむしろアニメの少女に動物、さらには書き殴りの線です。さらにぐちゃぐちゃになった布も散乱。少女の顔は放置されたのか逆さになっています。



グッチのアイテムが随所で見え隠れしますが、もはや宝探しの状態。あまり目立ちません。ファッションを飲み込むポップカルチャー。堂々とそびえる少女の存在感が際立っていました。

4つ目の最後の部屋はグッチ銀座店を離れた場所にありました。同じく銀座のドーバーストリートマーケットギンザです。晴海通りを挟んだ向かい側、少し南下した先、ユニクロの裏手に位置します。デザイナーブランドを集めたコンセプトストアです。



手掛けるのはトラブル・アンドリュー。「GUCCIGHOST ROOM」です。アイコンの「CG」ロゴをお化けに見立てています。大きな象のオブジェを中心に、グッチのアイテム、さらにスケートボードなどを置いています。壁には蛇や髑髏の絵が描かれていました。ストリートカルチャー、ないしポップアートを彷彿させます。



ニューヨークを拠点にグラフィックアーティストととして活動するトラブルの「CG」ロゴは、今年のグッチの秋冬コレクションにも取り入れられたそうです。お披露目の意味もあるやもしれません。

なお「GUCCIGHOST ROOM」のみ中へ入ることが出来ません。窓越しでの観覧となります。また会期もグッチ銀座店会場より早く終了します。(10月24日まで)お出かけの際はご注意下さい。



入場は無料です。11月27日まで開催されています。

「GUCCI 4 ROOMS」 グッチ銀座・ドーバーストリートマーケットギンザ
会期:10月12日(水)〜11月27日(日)
 *ドーバーストリートマーケットギンザのみ10月24日まで。
休館:会期中無休。
時間:11:00~20:00
料金:無料。
住所:中央区銀座4-4-10(グッチ銀座)、中央区銀座6-9-5(ドーバーストリートマーケットギンザ)
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分
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「大仙厓展ー禅の心、ここに集う」 出光美術館

出光美術館
「開館50周年記念 大仙厓展ー禅の心、ここに集う」 
10/1〜11/13



出光美術館で開催中の「大仙厓展ー禅の心、ここに集う」を見てきました。

美術館の創設者である出光佐三が最初に購入した美術品が、チラシ表紙を飾る「指月布袋画賛」だったそうです。

月を指差す布袋と子ども。口を開けては子守唄を歌っています。見えぬ月は悟りの意味です。つまり悟りは簡単に手に届かず、むしろ厳しい修行の重要性を説く作品ですが、図だけを受け取れば、親子が踊りながら楽し気に歩いているように見えなくありません。可愛らしい。仙厓の禅画を代表する一枚として親しまれています。


「あくび布袋図」 江戸時代 福岡市美術館

約30年ぶりの大回顧展です。揃うのは国内の3大コレクション。うち1つはもちろん出光美術館です。そこに福岡市美術館と九州大学文学部のコレクションが加わります。出品は計150点です。東京初公開作から代表作までを網羅しています。

仙厓の生まれは美濃。若くして臨済宗古月派の禅僧として修行を積みます。40歳にして博多にある日本最古の禅寺、聖福寺の住持に就任。この頃から狩野派の粉本などに絵を学びます。62歳で隠居した後は同地を離れることなく、禅画を通して、教えを庶民に広める活動を続けました。

ゆるキャラのような作品でも知られる仙厓ですが、年代を追うごとにスタイルを変化させていたようです。40代の「布袋画賛」はいわゆる絵画習得期に描かれた一枚です。細かな髭を生やした布袋の姿がいますが、線は大変に緻密で、むしろ写実的でもあります。俄かに仙厓とは分かりません。

一方で50代の「布袋画賛」では笑う布袋が即興的な線で表されています。これぞ仙厓です。さらに最晩年の「達磨画賛」に至ってはより自由な筆が画面を走っています。仙厓はおおむね60代の頃から「諧謔味」(解説より)のある画風へと変化しました。

仙厓の禅画は大変な人気を呼びます。あまりにも多くの制作を求められたからでしょうか。晩年に一時、絶筆を宣言をするまでに至ります。それを示すのが「絶筆碑画賛」です。重々しい石に力強い筆で絶筆と記しています。決意の表れかもしれません。しかしその後も制作の依頼は途絶えませんでした。


「座禅蛙画賛」 江戸時代 出光美術館

可愛らしい動物がたくさん登場します。例えば「座禅蛙画賛」です。にやりと不敵に笑う蛙が描かれています。賛には「坐禅して人か佛になるならば」とありました。つまり座禅の形式にこだわり、本質の精神を見失っては、一切の悟りはやってこないという警鐘です。それを蛙に託しています。何たるユーモアなのでしょうか。

「トド画賛」も珍しい作品です。一匹の巨大なトドが横たわります。描写は思いの外に緻密です。半ば博物標本を見るかのようでした。それにしても何故にトドなのでしょうか。これは実際に当時、福岡の海岸にトドが打ち上がったからだそうです。好奇心も旺盛な仙厓です。心躍らせて写したのかもしれません。


「犬図」 江戸時代 福岡市美術館

きゃわんと鳴く「犬図」も楽しい。たわい無い一枚かもしれませんが、よく見ると、おそらくは尻尾の部分から体、頭を経て脚へと至る線が一筆で描かれていることが分かります。技量は鋭い。一気呵成で迷いがありません。


「章魚図」 江戸時代 福岡市美術館

着彩画があるとは知りませんでした。東京初公開の「章魚図」です。1本の触腕を振り上げたタコ。まるで手を上げて挨拶しているようです。たくさんの吸盤があり、身の部分が僅かに赤らんでいます。現在知られる唯一の着彩画だそうです。


「堪忍柳画賛」 江戸時代 出光美術館

仙厓のメッセージは普遍的です。もちろん今も色あせることはありません。「堪忍柳画賛」はどうでしょうか。大風に揺れる柳。幹はしなっています。その隣にずばり「堪忍」の一言が力強くありました。まさに人生の手本です。柳のように苦しい時にもじっと耐え忍んでやり過ごすことを教えています。


「凧あげ図」 江戸時代 福岡市美術館

庶民と交わっては教えを説いた仙厓です。福岡のお祭りなど、禅とは無関係の作品も多く残しています。今も昔も変わらぬ花見の様子を描いたのが「花見画賛」です。桜の木の下に集う人たち。花より団子なのでしょうか。楽しそうな宴会が行われています。ほか「曲芸画賛」や「博多松囃画賛」も面白い。同地の名所風景もたくさん描いています。


「◯△□」 江戸時代 出光美術館

もはや抽象の世界と呼んで差し支えありません。「◯△□」です。右から順に◯、△、□と並ぶ一枚。◯と△は交わり、△は僅かに□と接触しています。左は落款。意味するところを言葉に示していません。解説では地が□、火が△、そして◯が水を示すともありました。ほか宇宙を表すとも、□から悟りの◯へ至るプロセスを表しているとも言われています。究極の謎かけです。全てを見る者に投げかけています。ひょっとすると答えはないのかもしれません。


「群蛙図」 江戸時代 九州大学文学部コレクション

禅画だけでも膨大ですが、ほかにも遺愛の茶碗や水指、硯なども展示されていました。仙厓は茶にも関心があり、作陶をしていたとも考えられているそうです。通常、工芸品を入れる展示ケースも全て仙厓です。質量ともに不足はありませんでした。

仙厓:ユーモアあふれる禅のこころ/別冊太陽/平凡社」

11月13日まで開催されています。これはおすすめします。

「開館50周年記念 大仙厓展ー禅の心、ここに集う」 出光美術館
会期:10月1日(土)~11月13日(日)
休館:月曜日。但し10月10日は開館。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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「水屋・水塚ー水防の知恵と住まい展」 LIXILギャラリー

LIXILギャラリー
「水屋・水塚ー水防の知恵と住まい展」
9/8~11/26



リクシルギャラリーで開催中の「水屋・水塚ー水防の知恵と住まい展」を見てきました。

水の恵みを受けながらも、洪水の危険にさらされる河川沿岸の地域。そこでは水害を防ぐための様々な知恵や技術が培われてきました。



河川マップは水防建築のある地点を示しています。利根川や荒川、大井川に長良川に淀川ほか、大都市に近い付近を流れる川も少なくありません。振り返れば日本の都市の多くは河川に面していると言っても良いかもしれません。

身近なところから見ていきましょう。荒川です。長さは173キロメートル。流域内の人口は930万人にも及びます。荒川はまさに「荒ぶる川」です。過去にも氾濫を度々繰り返してきました。

荒川が現在の流れになったのは江戸時代、寛永6年の「荒川瀬替え」の工事に遡ります。下流の江戸を守るべく、上・中流域に断続的な堤防を築き、水を逃すための氾濫原を造りました。それゆえに上・中流域には集落を堤防で囲む輪中が多く存在するそうです。



模型は荒川の水屋、及び水塚です。スケールは100分の1。水塚とは石垣や盛土、その上に建てられた蔵を水屋と呼びます。そこに家財道具などを収納して洪水から守りました。



大井川の「舟形屋敷」も興味深いのではないでしょうか。全国屈指の急流です。もちろん洪水も多い。その対策として、住民らは屋敷を舟の形、つまり敷地の舳先を水が襲ってくる方向に向けるという独特の構造の屋敷を造り上げました。また舳先部分には石垣を築き、崩壊を防ぐために竹を植えたそうです。いわば洪水を前提にしての住居です。これも水と暮らす一つ知恵と言えるのかもしれません。



驚いたのは畳堤です。揖保川流域のたつの市。文字通り堤の部分が畳で出来ています。かつて非常時に住民らが堤のフレームに畳を差し込んで水害から身を守ったそうです。



昭和30年代、木曽の輪中の風景を撮り続けたのが写真家の河田孝氏でした。会場では河田氏の写真のほか、輪中内の田んぼ、堀田で農作業をする際に使用した道具類も展示。水をくみ上げるための手廻し車や苗を運ぶための苗舟などが並んでいます。



パネルの多いシンプルな展示ではありますが、日頃あまり慣れ親しまない水防技術などについて見知ることが出来ました。

11月26日まで開催されています。

「水屋・水塚ー水防の知恵と住まい展」 LIXILギャラリー
会期:9月8日(木)~11月26日(土)
休廊:水曜日。
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分
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「大巻伸嗣 Memorial Rebirth 千住 2016 青葉」 千寿青葉中学校

千寿青葉中学校
「大巻伸嗣 Memorial Rebirth 千住 2016 青葉」
10/9(開催終了)



現代美術家の大巻伸嗣によるシャボン玉を用いたインスタレーションが、東京の足立区の中学校にて行われました。



会場は千寿青葉中学校。北千住駅から歩いておおよそ10分ほどの場所です。開場は13時半。昼の部と夜の部の2回の開催です。私が出かけたのは18時からの夜の部。既に陽は落ち、学校に着く頃にはすっかり暗くなっていました。



校庭中央に設置されていたのがシャボン玉の吹き出し装置です。取り囲むのは大勢の人たち。思いのほかにファミリーが目立ちます。昼間は地域の飲食店による屋台も出ていたようです。さながらお祭りのような賑わいでした。



18時を少し過ぎた後にイベントはスタート。装置からシャボン玉がたくさん吹き出します。照明により7色に染まる様子はとても美しい。と同時に静かな音楽が鳴り響きました。「音まちビックバンド」による即興演奏です。シャボン玉は時に風の勢いを借りて天高く舞い上がります。子どもたちが楽しそうにシャボン玉を掴み取ろうとする姿も印象的でした。

「大巻伸嗣 Memorial Rebirth 千住 2016 青葉」


シャボン玉の海を背景に行われるのは2人のダンサーによるパフォーマンスです。手を伸ばし、足を高くあげ、音楽に合わせては踊っていきます。所作は緩やかであり、また時に激しく動きます。シャボン玉の波を背に舞う姿はさも精霊です。シャボン玉をかがり火に見立てれば何らかの神事のようです。おおよそ30分弱。音楽に耳を傾けながら、美しき舞に見惚れました。



千住界隈を舞台に行われるシャボン玉のショーは今年で6年目。「Memorial Rebirth」、通称「メモリバ」とも呼ばれ、地域の人々も参加し、かなり浸透してきたようです。

大巻は「メモリバ」を「地域を越えて手渡される、現代版の御輿のような役割をになってほしい。」とも語っています。

ラストにはまた来年とのアナウンスもありました。大巻とシャボン玉を介して続く千住の「Memorial Rebirth」。また来年にも期待したいと思います。

「大巻伸嗣 Memorial Rebirth 千住 2016 青葉」 千寿青葉中学校
日時:10月9日(日) 夜の部 18:00~
料金:無料
出演:くるくるチャーミー(大⻄健太郎、富塚絵美、松岡美弥子)、桔梗みすず、町田良夫、栗原荘平、音まちビッグバンド ほか
住所:足立区千住宮元町27-6
交通:JR線、東京メトロ千代田線・日比谷線、東武スカイツリーライン、つくばエクスプレス線北千住駅西口より徒歩10分。京成線千住大橋駅より徒歩10分。
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