「夏秋草図屏風」が明日(11/1)より千葉市美術館で展示

展示中盤を終え、会期もあと2週間のみを残すばかりとなった「酒井抱一と江戸琳派の全貌」展ですが、いよいよ明日の11月1日(火)より、抱一畢竟の大作、「夏秋草図屏風」(東京国立博物館)が登場します。



そもそも「夏秋草図屏風」自体、所蔵の東博でもせいぜい1~2年に一度程度しか公開されませんが、今回はこの抱一展にあわせて、珍しく館外、つまりは姫路、千葉会場での展示が実現しました。


酒井抱一「夏秋草図屏風」東京国立博物館蔵 *展示期間:11/1-11/13

私の記憶が定かなら、おそらく「夏秋草図屏風」が展示されるのは、2010年に東博平常展に出た以来、約2年ぶりのことです。


酒井抱一「夏秋草図屏風」東京国立博物館蔵 *東博総合文化展(常設展)での展示風景

光琳へのオマージュとして「風神雷神図屏風」の裏に描かれたというエピソードがあまりにも有名ですが、雨と風を取り込み、草花がしおらしくもまた健気に舞う様子は、まさに自然の中に詩心を見出した抱一だからこそ生み出せた世界と言って差し支えありません。

また今回、興味深いのは、同じく明日より「夏秋草図屏風草稿」(出光美術館)が展示されることです。これは2006年、出光美術館での風神雷神図屏風展でも出た「夏秋草図屏風」の下絵ですが、この両者が二点、同時期に展示されたことは近年ありません。

展示位置はまだ不明ですが、これまでにはなかった「夏秋草図屏風」の草稿と本画の比較というのも見どころの一つになるのではないでしょうか。

なお明日からの後期では、この屏風の他にも、例えば抱一の「風神雷神図屏風」(出光美術館)などの作品もお目見えします。(展示スケジュール)また其一作も相当数入れ替わるようです。既に前期をご覧になった方でも、また江戸琳派の新たな魅力を楽しめる展示になるのではないでしょうか。私も今週末に伺うつもりです。

余談ながらも私が「夏秋草図屏風」を初めて見たのは2004年、東京国立近代美術館で開催されたRIMPA展でのことでした。そしてその時の出会いの体験こそ、私の日本美術へ関心を持った切っ掛けであり、また抱一への愛情の全てのはじまりです。その作品が地元、千葉にやって来たということに胸を躍らせながら、久々の再会の時を心待ちにしたいと思います。

「もっと知りたい酒井抱一/玉蟲敏子/東京美術」

千葉市美術館での「酒井抱一と江戸琳派の全貌」展もいよいよ佳境です。是非とも是非ともお見逃しなきようおすすめします。

「酒井抱一と江戸琳派の全貌/求龍堂」

*関連エントリ
「酒井抱一と江戸琳派の全貌」Vol.1・概要 千葉市美術館
酒井抱一関連書籍情報

「生誕250年記念展 酒井抱一と江戸琳派の全貌」 千葉市美術館
会期:10月10日(月・祝)~11月13日(日)
休館:10月24日(月)、31日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「法然と親鸞展」 東京国立博物館

東京国立博物館
「法然と親鸞 ゆかりの名宝」
10/25-12/4



法然没後800回忌、親鸞没後750回忌を機に、その偉業をゆかりの品々とともに辿ります。東京国立博物館で開催中の「法然と親鸞 ゆかりの名宝」展のプレスプレビューに参加してきました。

これまでにも今年の京博の法然展など、単独の展覧会で取り上げられることはあった鎌倉新仏教の祖、法然と親鸞ですが、今回のように二人合わさった形で紹介されてきたことは一度もありませんでした。


展示風景

言わば法然と親鸞の800年ぶりの再会です。彼らが築き上げた浄土宗、浄土真宗の全面的な協力のもと、国宝、重文90点を含む、全180点の貴重な美術品が一堂に会していました。

まずは展覧会の構成です。

第一章 人と思想
第二章 伝記絵にみる生涯
第三章 法然と親鸞をめぐる人々
第四章 信仰の広がり


経典に書、仏画、そして絵巻物から仏像、はたまた鎌倉から応挙に至る屏風絵と、実に盛りだくさんな内容です。


「歎異抄」 蓮如筆 2巻 室町時代・15世紀 京都・西本願寺 *上巻(~11/13)、下巻(11/15~)

冒頭に法然と親鸞が実際に記した肉筆の資料を据え、以降、伝記絵における生涯、そして弟子たちの活動、さらには太子信仰から、浄土宗、浄土真宗ゆかりの品々を見る流れとなっていました。

法然と親鸞の業績を記した解説パネルなどに続き、前半はひたすら経典や肖像画などが続きますが、ここで見逃せないのが親鸞の主著、「教行信証」です。


「教行信証(坂東本)」親鸞筆 6冊 鎌倉時代・13世紀 京都・東本願寺 *第一、二冊(~11/6)、第三、四冊(11/8~11/20)、第五、六冊(11/22~)

これはまさに浄土真宗の根本経典として知られる重要な作品ですが、ここでは親鸞唯一の直筆の「坂東本」と言われる計六冊のうちの二冊が、それぞれ二週間毎の展示替えを挟んで公開されています。

そもそも親鸞は悪人正機、ようはこれまでの仏教では見捨てられてきた人々も南無阿弥陀仏を唱えれば救われると解き続けましたが、いわばその画期的な教えのあり方を、事細かな筆致にて記しました。

親鸞はこの教えを60歳頃に表し、80歳を数えた最晩年に至るまで改訂を何度も繰り返しましたが、それは無数に書き込まれた記号や朱筆などを見てもよくわかるかもしれません。

またこの時期、親鸞は教行信証の執筆と並行して「西方指南抄」にも取り組んでいます。こちらは全891ページにも及ぶ大作ながらも、僅か三カ月間で完成されたものですが、いずれも自身の教えを生きた言葉として残そうとした晩年の親鸞の思いをくみ取れる作品とも言えるのではないでしょうか。


「観無量寿経註」 親鸞筆 1巻 鎌倉時代・13世紀 京都・西本願寺 *~11/6

またこれらの晩年の作品と並び、20代の頃に記したのが「観無量寿経註」です。会場では両者の作品が比較的近い場所で展示されています。是非とも見比べ下さい。


展示風景

「法然上人絵伝」をはじめとした伝記絵が怒涛のように登場する第二章だけて大変なボリュームがありますが、それを経由して現れるのがやや小ぶりの仏様です。


「阿弥陀如来立像」 1躯 鎌倉時代・建暦2年(1212) 京都・浄土宗 *通期

それが「阿弥陀如来立像」です。法然の弟子、源智が師の没後一周忌にあわせて造った仏像ですが、どこか力強くも美しい造形はもとより、像にまつわるエピソードも聞き逃すことは出来ません。

というのも修復の際、仏像の内部から、何と4万6千名にも及ぶ姓名を記した文書が発見されました。

これらはもちろん阿弥陀を通し、法然に縁を求めた人々の名前に他なりませんが、中には頼朝や後鳥羽院らと言った有力者の名もあったそうです。もちろん頼朝らは既に没していたため、本人が実際に結縁したわけではありませんが、源智が言わば貴賤を問わず、たくさんの人々と法然を結ぶことこそ善になると考えて、このような名前を記しました。

また像には金泥でなく金箔が貼られています。そもそも阿弥陀とは無量の光を表すという意味もあり、このような輝かしい仏像が造られたそうですが、剥離が進んでいるものの、一部からの強い光は今も良く見ることが出来るのではないでしょうか。

また小像であるのは、いわゆる専修念仏の教えから、そもそも仏像を必要とされなかったことにも由来しているそうです。

もちろんそうした教えも時代が進むと変化し、後に見られるような巨大な仏像も造られていきます。


「阿弥陀三尊坐像」 3躯 鎌倉時代・中尊 正安元年(1299)・両脇侍 13世紀 神奈川・浄光明寺 *通期

それが「阿弥陀三尊坐像」です。「阿弥陀如来立像」から約80年後、鎌倉後期に造られたこの如来像の総高は、約4メートルにも及んでいます。

この両脇侍が坐った形の像は鎌倉期ではかなり珍しいそうですが、少し首を傾げ、憂いをたたえたような表現には惹かれるものがありました。


展示風景

この後も太子信仰に因んだ立像、また絵巻に屏風と続きますが、最後の最後に登場するのが今回の最大の目玉、「阿弥陀二十五菩薩来迎図」、通称「早来迎」です。


「阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)」 1幅 鎌倉時代・14世紀 京都・知恩院 *~11/13

鎌倉来迎図を最も代表する名宝ですが、ともかくも山肌から阿弥陀聖衆が湧き出してくるかのような構図、そしてそのトドドという音まで聞こえてくるかのようなスピード感、さらには身体をくねらせて踊るような菩薩の躍動的な表現などには強く感心させられるのではないでしょうか。

また金に覆われた阿弥陀をはじめ、右下の宮殿など、細部の表現もかなり緻密です。 これ一点だけでも展覧会を見る価値は十分にありました。


左、「竹雀図襖」 円山応挙筆 4面 江戸時代・寛政3年(1791) 京都・東本願寺 *~11/6

さて早来迎をはじめ、基調な品々は全て通期で展示されるわけではありません。11月中旬の展示替えを挟み、文書と絵画の大半が入れ替わります。出品スケジュールは以下のリンク先をご参照下さい。

「法然と親鸞 ゆかりの名宝 作品リスト」@東京国立博物館

※早来迎は11月13日までの展示。

またともすると取っ付きにくい仏教美術の展示ですが、今回はそうした面にもよく配慮した作りとなっていました。


展示風景

立体の解説パネルや、法然と親鸞でキャプションの色を区別するなど、よりわかりやすい形で作品を味わえるように工夫されています。またライティングは空海と密教美術展を思わせるようなコントラストの強いものでした。仏像展示などでは影がくっきりと浮かび上がっています。



お馴染みのベアブリックもグッズとして登場しています。数量限定、会場内だけの発売です。お求めの方は早めにどうぞ。

まずは早来迎です。繰り返しますが、展示期間は11月中旬までと僅かです。お見逃しなきようご注意下さい。

12月4日まで開催されています。

「法然と親鸞 ゆかりの名宝」 東京国立博物館・平成館
会期:10月25日(火)~12月4日(日)
休館:月曜日
時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで) *会期中の金曜日は20:00まで開館。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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「ウィリアム・ブレイク版画展」 国立西洋美術館 版画素描展示室

国立西洋美術館 版画素描展示室
「ウィリアム・ブレイク版画展」
2011/10/22~2012/1/29

イギリスを代表する詩人、ウィリアム・ブレイクの銅版画作品を展観します。国立西洋美術館常設展版画素描展示室で開催中の「ウィリアム・ブレイク版画展」へ行ってきました。



ともかく話題のマハが出品されたこともあり、出だしから非常に好調なスタートを切ったゴヤ展ですが、何も西美の魅力はそうした特別展だけにあるわけではありません。



常設における西洋絵画の名品と並び、毎度見逃せない展示を繰り広げているのが、この常設展内版画素描展示室の企画です。

今回はイギリスロマン主義の先駆けとも言えるブレイクの版画を一同に紹介しています。その数は30~40点ほどでしたが、なかなか見応えがありました。(出品リスト

「ヨブ記」や「神曲」の挿絵の並ぶ中、一際目立つのが、「チョーサーのカンタベリーへの巡礼」です。


ウィリアム・ブレイク 「チョーサーのカンタベリーへの巡礼」1810/20年頃

これはブレイクが1809年、個展に出品したテンペラ画を版画化したものですが、ブレイクの版画中、最大の大きさを誇っています。

チョーサーの原作にもとづき、巡礼者一同がカンタベリー大聖堂へと向かう場面が描かれていますが、ともかく面白いのは巧みな人物描写です。


ウィリアム・ブレイク 「チョーサーのカンタベリーへの巡礼」(拡大)1810/20年頃

計30人ほどの人物には騎士から僧、そして医者に農夫、はたまたチョーサー自身までが登場していますが、5度の結婚経験を持ち、恋の治療法に通じていたという夫人など、その人となりが伝わってくるかのような生き生きとした表現には目を奪われます。

ここは人物の解説パネルとあわせながらじっくりと見入ってしまいました。


ウィリアム・ブレイク 「ダンテ『神曲』のための挿絵より」1826-27年

また「神曲」においてもブレイクならではの表現を楽しむことが出来ます。


ウィリアム・ブレイク 「ダンテ『神曲』のための挿絵より」(拡大)1826-27年

「神曲」シリーズは1824年より制作が着手された、ブレイクの晩年の作品ですが、魑魅魍魎的なモチーフと幻想性を融合させたイメージは、後の象徴派をも予感させるほどに強烈でした。

なお展示は常設展ということで作品の撮影も可能です。



ゴヤ展へお越しの際は是非ともお見のがしなきようご注意下さい。(ゴヤ展の半券で入場出来ます。)

「ブレイク詩集/平凡社ライブラリー」

来年1月29日まで開催されています。

「ウィリアム・ブレイク版画展」 国立西洋美術館 版画素描展示室
会期:2011年10月22日(土)~2012年1月29日(日)
休館:月曜日。但し1月2日、9日は開館。年末年始(12月28日-1月1日)、1月10日(火)。
時間:9:30~17:30 *毎週金曜日は20時まで開館。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成電鉄京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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「山田純嗣展 絵画をめぐって」 日本橋高島屋美術画廊X

高島屋東京店 美術画廊X
「山田純嗣展 絵画をめぐって」
10/12-10/31



日本橋高島屋美術画廊Xで開催中の個展、「絵画をめぐって」へ行ってきました。

東京では2010年の不忍画廊での新作展以来、約2年ぶりとなる個展ですが、今回は山田の制作や表現の種を解き明かすような内容となっています。

それはずばり立体です。そもそも彼はまず、自らが作った立体を写真で撮影、それを銅版の線に重ねる独自の手法にて、結果生まれるモノクロームの平面を作り出していますが、その原点とも言うべき立体がとうとうお目見えすることになりました。



また立体は単に個別に展示されているわけではありません。その立体は平面の完成作とほぼ同じ構図、ようは二次元の絵画を三次元に置き換えた様相で並べられています。こうした形式での展示は、山田の制作の基盤で、なおかつ地元でもある愛知では何度か試みられたそうですが、東京では初めてということでした。

石膏で固められた立体がずらりと並ぶ姿は一つのインスタレーションとしても美しく、また見応えがありますが、まるで絵画の中へと迷い込んだかのような感覚も味わうことが出来るのではないでしょうか。

またそもそも山田は写真や版画を駆使し、作品自体もあくまで『絵画のようなもの』としか言えないような複層性にこそ魅力がありますが、そこへさらに立体を重ね合わせた時、よりトリッキーな表現の合間を漂っているかのような気持ちにさせられるかもしれません。

そうした意味でも「絵画をめぐって」というタイトルが心に響いてきます。絵画とは何物かを問う山田の制作のプロセスは、まさに素材を行き来して、相互の壁を乗り越えようとしてめぐりゆく『旅』そのものでした。



さて立体と並び、もう一点興味深いのがトレーシングペーパーに描かれた素描です。山田はヒエロニムス・ボスの「快楽の園」をモチーフにした三面の大作、「GARDEN EARTHLY DELIGHTS」を製作中(うち今回は中央部分を展示。)ですが、その下絵と言うべき素描が展示されています。

作中に登場する無数の魔物や植物は立体としても展示されていましたが、ここではそれをインクと鉛筆の素描といった、平面としては最も簡素な表現で見ることが出来ます。

もちろん完成作における白やパールの色彩、そして近づくことで初めて開ける銅版の細かな質感にも醍醐味がありますが、この素描の公開も立体と同様、素材をない交ぜにする山田の表現の関心の在処を伺い知れるものと言えるのかもしれません。

最後に触れておきたい作品が「Sirmon」です。その画面を見れば一目瞭然、モチーフには彼の高橋由一の傑作、「鮭」が用いられています。



これまでに山田はボスなどの西洋画をはじめ、今回も展示されている速水御舟の炎舞などの日本画などを素材としてきましたが、この「鮭」は日本人の描く油画としては初めて取り入れたモチーフです。

高橋由一は油画黎明期、質感の表現をひたすら追求し続けたことでも知られていますが、そのような由一に対しての「salmon」は、同じく質感を重視してやまない山田の作品の中でも、これまでにはない際立った物質感を放っていました。

絵画とは何かという部分を様々な素材、そして他にはない質感で表そうとする山田が、「鮭」に取り組んだことを何らかの次への展開へと捉えているように思えてなりません。

由一、そしてそれを祖とする日本の写実的な油画表現に対する一つの挑戦状のようにも見えました。



10月31日まで開催されています。

「山田純嗣展 絵画をめぐって」 日本橋高島屋 美術画廊X
会期:10月12日(水)~10月31日(月)
休廊:会期中無休。
時間:10:00~20:00
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋6階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
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酒井抱一関連書籍情報

千葉市美術館へ巡回中の「酒井抱一と江戸琳派の全貌」展も中盤を迎え、少なからず盛り上がりを見せている抱一イヤーですが、ここで改めて抱一に関する書籍を整理しておきます。

まずは簡単に入手出来るものからです。

抱一研究では紛れもなく第一人者に挙げられるのが武蔵野美術大学の玉蟲敏子教授です。そしてお馴染み、東京美術の「もっと知りたい 酒井抱一」の監修も担当しています。



「もっと知りたい酒井抱一 生涯と作品」 玉蟲敏子著 東京美術 1600円

定番のシリーズの中の一冊ということで、見やすい構成、豊富な図版は当然ですが、玉蟲先生のテキストも同シリーズの他の著者に比べて格段に読み応えがあります。

抱一本の決定版と言って差し支えありません。断然におすすめです。

続いて同じく入手しやすいのが別冊太陽の酒井抱一特集です。



「別冊太陽 江戸琳派の粋人 酒井抱一」 仲町啓子監修 平凡社 2300円

監修に琳派研究で定評のある仲町先生を迎え、内藤正人氏、そして今回の抱一展の図録にも論文を寄せた松尾知子氏、岡野智子氏がテキストを寄せています。

上の玉蟲先生の「もっと知りたい」が入門編ながらもかなり細かく抱一の画業を分析しているのに対し、この別冊太陽はもっと平易な記述です。図版も大きく、ビジュアルとしても楽しめる一冊と言えるかもしれません。

新潮社の日本美術文庫にも「酒井抱一」の号があります。



「新潮日本美術文庫18 酒井抱一」 新潮社 1100円

主要作の図版と解説の組み合わせという分かりやすい展開ですが、実は解説をつけているのが玉蟲先生です。サイズもハンディ版、そして価格もリーズナブルということもあるので、まずはこちらからという方も多いかもしれません。

さてここからは既に絶版、もしくは在庫稀少ということで入手が難しくなりますが、より突っ込んだ抱一本をご紹介します。

まずは至文堂の「日本の美術」シリーズです。



「日本の美術 No.463 酒井抱一と江戸琳派の美学」 小林忠 至文堂 1500円

テキストは今回の抱一展図録の巻頭の文を寄せた小林忠氏(千葉市美術館館長)が手がけています。同シリーズはともすると専門家向けという印象もありますが、私が読んだ限りでは理解しやすい一冊という印象を受けました。なお余談ですが、神保町界隈の古本屋では比較的よく見かけます。そちらをあたっても良いかもしれません。

さて私の抱一受容にとってかけがえのないものとなったのが以下の一冊です。



「絵は語る 酒井抱一 夏秋草図屏風」 玉蟲敏子著 平凡社 3200円

テーマは抱一の最高傑作として名高い「夏秋草図屏風」です。著者はこれまた玉蟲先生ですが、同作品を単なる絵画としてではなく、光琳への追慕、銀地という素材、モチーフとしての草花の意味、さらには抱一では外すことの出来ない俳諧の精神などを取り込んで鮮やかに分析しています。夏秋草から読み解く抱一の全体像は極めてラディカルです。図書館などではよく見かけます。是非ともご覧ください。

なおかなりお値段がはりますが、玉蟲先生の抱一研究の現段階における集大成と言えるのが次の一冊です。



「都市の中の絵 酒井抱一の絵事とその遺響」 玉蟲敏子著 ブリュッケ 7600円

全700ページ弱の超労作です。なおこちらは書店でも入手出来ます。論文形式なので簡単には進みませんが、当然ながら読み応えがあります。抱一への関心をさらに深めたい方には必携の一冊と言えそうです。

琳派という括りではありますが、いくつか入門シリーズの中にも抱一作に関する記載があります。



「すぐわかる 琳派の美術」 仲町啓子監修 東京美術 2000円



「美術館へ行こう 琳派に夢見る」 仲町啓子監修 新潮社 1800円

また少し前にディアゴスティーニの「週刊アーティストジャパン」に抱一が取り上げられたこともありました。



「週刊アーティストジャパン 33 酒井抱一」(2007/9/11号) 590円

さらに今、一般向けに販売しているかどうか不明ですが、出光美術館の館報に河野元昭先生が「酒井抱一の芸術」というテキストを寄せたことがありました。



「出光美術館 館報118」(平成14年2月28日発行)

また図録ですが、昨年に足立区立郷土博物館で行われた「千住の琳派」展の図録に玉蟲先生の抱一に関する文章があります。



「千住の琳派」(図録) 足立区立郷土博物館

千住と抱一、また抱一後の琳派受容の展開を十二ヶ月花鳥図や八橋図屏風などで読み解く労作です。

ちなみに現在の抱一展の図録ですが、どうやら人気のため、一部書店では品薄気味になっているとのことです。(Amazonでも時間がかかるとの情報あり。)



「酒井抱一と江戸琳派の全貌」(一般書籍・図録) 求龍堂 2800円

かなり重いので難儀しますが、すぐに入手するのであれば、やはり美術館のショップがベストなのかもしれません。

これ以外にも抱一に関する一般向けの本がまたあるやもしれません。ご存知の方はまたコメントなどでお寄せいただけると嬉しいです。
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「おまえはどうなんだ?展」 松の湯二階

松の湯二階
「おまえはどうなんだ?展」
10/8-10/29



松の湯二階で開催中の「おまえはどうなんだ?展」へ行ってきました。

江戸川橋駅近く、入り組んだ住宅街の中にある松の湯での展示というと、2009年の「柔らかな器」展を思い出しますが、今回もその際の企画者の工藤春香を中心に、作家主導による手作り感のあるグループ展が行われています。



会場は銭湯の二階です。一階部分は現役の銭湯として今も営業中ですが、使われなくなった二階のスペースを用い、絵画や立体、それにインスタレーションなどの展示が繰り広げられていました。

出品作家は以下の通りです。

工藤春香 窪田美樹 岸井大輔 タニシK 大木裕之 のぎすみこ 黒野裕一郎 西村知巳 池田聖子 福屋吉史 西野大介 池田拓馬

銭湯と現代アートを絡ませるという、会場の個性的な雰囲気だけでも楽しめるかもしれませんが、やはり印象に深いのは洗い場と湯船を舞台に作品を展示した窪田美樹でした。



ずばり浴槽に詰められているのは波の刺青です。まるでウツボのように連なる姿は実に強烈ですが、その素材を知るとさらなる驚きがあるのではないでしょうか。



一見、硬質な陶のようにも見えますが、思いがけないもので出来ています。また会場最奥部、タイルの上の横たわる大きな魚は、あたかも銭湯全体を昔から支配している主のようでした。存在感は抜群です。



銭湯という場所を最も強く意識していたのが大木裕之かもしれません。かつてのサウナ室にはタイルやら古着、それにタオルなどの様々なものが乱れて散っていますが、これらは実は全て銭湯に関係のあるものを集めているというわけでした。



窓一面に白い筋を滝のように配したのが黒野裕一郎です。これも遠目では糸を束ねたようにも見えますが、実際は何とロウを固めたものでした。また窓ということで、外からも鑑賞可能です。松の湯の内と外を隔てるカーテンは白く美しい光を放っていました。

残すところ会期もあと僅かですが、これまでに会場では様々なパフォーマンスやイベントが行われてきました。また10月29日の最終日にも演劇の上演なども予定されています。

「おまえはどうなんだ?展 イベント」

展示のボリューム自体はさほど多いわけではありません。そうしたイベントに参加するのも良さそうです。



なお先にも触れましたが、一階部分の松の湯は今も営業中です。展示は単体で観覧料が500円かかりますが、お風呂とのセット券が700円で販売されています。幸いなことに開場時間は連日夜21時までです。仕事帰りの汗を流しながらの観覧というのも面白いのではないでしょうか。



公式ツイッターがとてもこまめに情報を発信しています。要フォローです。@omaehadounanda

10月29日まで開催されています。

「おまえはどうなんだ?展」 松の湯二階
会期:10月8日(土)~10月29日(土)
休館:火曜日
時間:月水木金:16:00~21:00 土日祝:11:00~21:00
場所:新宿区山吹町16
交通:東京メトロ有楽町線江戸川橋駅2番出口より徒歩8分。
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「TWS-Emerging 木戸龍介/熊野海/前田雄大/茅根賢二」 TWS本郷

トーキョーワンダーサイト本郷
「TWS-Emerging 172 木戸龍介/173 熊野海/174 前田雄大/175 茅根賢二」
10/1-10/23



トーキョーワンダーサイト本郷で開催中のTWS-Emerging、「172 木戸龍介/173 熊野海/174 前田雄大/175 茅根賢二」へ行ってきました。

出品作家は以下の4名です。*各リンク先はプロフィール。

172 木戸龍介 [Form of Sin]
173 熊野海 [HAPPINESS REVOLUTION]
174 前田雄大 [絵画性の視座]
175 茅根賢二 [Melting scene]


さて今回で本年度の最後となるエマージングですが、いずれの作家の展示もなかなか見応えのあるものとなっています。

まずは1階の木戸龍介です。水や炎などを彫刻で示すという木戸ですが、本展では一つの水の濁流を、あたかも横たわる巨大な一本の老木のように表しました。


「罪への渇望」2011年 *参考図版

細部に刻まれた水の痕跡は激しく、その波濤の先はまるで触手です。内部がくり抜きの空洞になっていて、その内側は幾重のも襞が連なっています。水というよりも何らかの得たいの知れない生き物を見ているかのようでした。迫力も十分です。

2階には本展のちらし表紙も飾り、VOCAやシェル美術賞でもお馴染みの熊野海のペイントが8点ほど揃います。海水浴のような日常的なシーンと巨大な奇岩、そして背景のストライプにマグマが迸る空と、その画面は相変わらずカオスと言えるのではないでしょうか。

雲の上には下を見やる天使風の男やラッパを吹く人間の描写もあり、天と地、ようは聖なる天上と俗的な下界との対比も作品のテーマになっているのかもしれません。

3階奥の茅根賢二の油彩風景画が詩心を誘います。ビル群の間の歩道橋や神社のお祭りなど、都会の日常的な夜景を、あたかも光と影と色の面にだけ還元して軽快に描きだしました。


「Stairs」2011年

全てが混ざり合い、そしてぶれ、さらには溶けていくかのような雰囲気はとても刹那的で、なおかつその動的な画面は映像を連想させます。夢の中で朧げに浮かび上がる、まだ見知らぬ街の景色を空想しているかのようでした。

明日までの開催です。

「TWS-Emerging 172 木戸龍介/173 熊野海/174 前田雄大/175 茅根賢二」 トーキョーワンダーサイト本郷
会期:10月01日(土)~10月23日(日)
休廊:月曜日
時間:11:00~19:00
場所:文京区本郷2-4-16
交通:JR線・東京メトロ丸の内線御茶ノ水駅徒歩8分。
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「水戸岡鋭治の大鉄道時代展」 アクシスギャラリー

アクシスギャラリー
「水戸岡鋭治の大鉄道時代展 駅弁から新幹線まで」
10/8-10/23



アクシスギャラリーで開催中の「水戸岡鋭治の大鉄道時代展 駅弁から新幹線まで」へ行ってきました。

昨年、全通した九州新幹線「つばめ」をはじめ、特急「ソニック」など、個性的な電車を走らせることで有名なJR九州ですが、その主要な車両デザインを手がけるのが水戸岡鋭治です。

水戸岡は元々、建築やイラストレーションで仕事をしていましたが、1988年より鉄道デザインの分野に進出し、主にJR九州の車両に次々と傑作を生み出しました。



今回はそのような水戸岡の制作を、単に鉄道デザインだけではなく、これまでの系譜と今後の活動にも視野を広げて紹介しています。

先行開催した福岡展の来場者が延べ3万名を数えたという人気ぶりですが、それがここ東京・六本木のアクシスギャラリーへと巡回してきました。



さて会場は2フロア、4階のAXISギャラリーとB1のシンポジアに分かれていますが、順路としてまず先なのは4階のギャラリーです。

いきなり目に飛び込んでくる特急列車のシートに思わず感嘆の声を上げた方も多いのではないでしょうか。



これは言うまでもなく水戸岡がデザインした車両の座席で、黒光りする先頭のシートは九州新幹線「つばめ」です。会場には計6つの座席の実物が展示されていますが、その全てに座ることが可能でした。



車内を大きく写した写真を見ながら腰掛けていると、それこそ九州の旅気分を味わえるのではないでしょうか。



またシートと言えば忘れてはならないのが、観光特急「あそぼーい!」の親子用シート、「白いくろちゃんシート」です。これは以前、NHKのプロフェッショナルでも特集放映されたのでご記憶の方も多いかもしれませんが、特急電車として様々な制約がある中、あえて転換クロスシートを用いたという、水戸岡の野心的な作品です。その可愛らしく、また機能的なシートをまさかここで楽しめるとは思いませんでした。

さて展示は何もシートばかりが目立っているわけではありません。鉄道だけにとどまらない水戸岡の仕事は、会場内のパネルや映像でも多数紹介されています。



そのイラストパネルの数は何と全部で200点です。中には初期の貴重なスケッチも登場します。

水戸岡はデザインに極彩色を多様していますが、そこからも生み出される華やいだ雰囲気は会場全体からも感じられるのではないでしょうか。こうした関連資料を追っていくだけでも十分に楽しめました。



そして展示の一つのハイライトとなっているのが、彼が構想するクルーズトレインの車両プランです。これは水戸岡が世界一の寝台特急を目指して開発しているという車両ですが、うち3つの室内プランが再現されています。



この空間が列車の中に出来るかもしれないと考えるだけでも興奮ものです。しかしながらまさか茶室までが構想されているとは思いもよりません。鉄道や車両という枠を超え、斬新なプランを打ち出していく水戸岡の発想力には心底うらなされました。

また和歌山電鉄の「たま電車」など、九州以外での仕事についての展示もあります。

かつてINAXで「九州列車の旅」と題した展示があり、その際も水戸岡のデザインが紹介されていましたが、今回の方がより彼の制作に突っ込んだ内容であるのは間違いありません。

そしてその幅広い水戸岡の制作に突っ込んでいるのが、B1のシンポジア会場での展示です。建築プランやイラストレーションなど、鉄道以外での幅広い活動もパネル等で紹介していました。



またこのフロアでは先にも触れたNHKのプロフェッショナルの映像が流れています。私もこの番組をリアルタイムで見て、より強く水戸岡に惹かれましたが、改めてその時の感動を思いおこしました。

鉄道ファンだけでなく、デザインに関心のある方、そして親子でも楽しめるような展示ではないでしょうか。水戸岡のデザインした車両に乗った時のワクワク感は会場からも強く感じられました。



人気の展示ということで多少混雑しているようです。また会場は「風景」としてであれば撮影が可能(パネルの接写は不可。)でした。これもまた嬉しいポイントです。



次の土日、23日までの開催です。是非ともおすすめします。なお入場は無料でした。

「水戸岡鋭治の大鉄道時代展 駅弁から新幹線まで」 アクシスギャラリー
会期:10月8日(土) ~ 23日(日)
休館:無休
時間:11:00~19:00
住所:港区六本木5-17-1 AXISビル4F、B1F
交通:東京メトロ日比谷線・都営大江戸線六本木駅3番出口、東京メトロ南北線六本木1丁目駅1番出口、東京メトロ南北線・都営大江戸線麻布十番駅7番出口よりいずれも徒歩約8分。
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「THINKING ABOUT STRUCTURE」 児玉画廊 東京

児玉画廊 東京
「THINKING ABOUT STRUCTURE 鎌田友介/貴志真生也/和田真由子」
10/8-11/12



児玉画廊 東京で開催中の「THINKING ABOUT STRUCTURE 鎌田友介/貴志真生也/和田真由子」へ行ってきました。

出品作家は以下の3名です。

鎌田友介
貴志真生也
和田真由子


3名のグループ展です。上記タイトルのテーマのもと、各作家が平面や立体の新作を出品していました。

さて今回、私が最も興味深かったのが、DMを飾った鎌田友介です。黒く塗られた木材を折り曲げ、矩形を作り、それを壁面へ貼りつけるばかりか、床面にも同じような矩形から派生した一種の球形とも言えるオブジェを展開しています。

各オブジェの木材を一本一本、半ばひも解くと、それは例えばキャンバスに伸びる一本の線に置き換えられるのかもしれません。まさに線の二次元から三次元への転換です。そう捉えると木材の折り目や裂け目は、それこそ何らかの書の筆跡を思わせるものがありました。

ちなみに鎌田は資生堂ギャラリーの「第6回アートエッグ」に入選、来年2月より個展の開催も決まっています。そちらも楽しみにしたいと思います。

第6回shiseido art egg/審査結果  個展開催日程:2012/2/3~2/26

さて昨年10月での同画廊の個展(バクロニム)の他、今春のシャッフル展で根来とのコラボレーションが印象的だった貴志真生也も比較的大きなサイズの立体を展示しています。



今回は私が深く感心したバクロニムの時ほどのインパクトはありませんでしたが、半ばそれを補って余りあるのが別の場所、銀座のエルメスのウインドウ・ディスプレイでの展開です。



実は現在、貴志真生也はメゾン・エルメスのウィンドウを全面的に手がけています。



これはシャッフル展の際、根来と既製品を巧みにかけあわせた展示を見たエルメスの担当者が、貴志へオファーをかけたとのことでしたが、実際にもなかなか面白いディスプレイになっているのではないでしょうか。



なおディスプレイは店入口正面だけではなく、側面、つまりは横の路地にも続いています。



おおむね11月いっぱいまでは貴志のディスプレイが続くそうです。



白金までは少し足が運ばないという方も、この銀座エルメスのウィンドウはご覧になってはいかがでしょうか。これはおすすめ出来ます。



11/12まで開催されています。

「THINKING ABOUT STRUCTURE 鎌田友介/貴志真生也/和田真由子」 児玉画廊 東京
会期:10月8日(土)~11月12日(土)
休廊:日・月・祝
時間:11:00~19:00
住所:港区白金3-1-15 白金アートコンプレックス1階
交通:東京メトロ南北線・都営三田線白金高輪駅3番出口より徒歩10分。東京メトロ日比谷線広尾駅1番出口より徒歩15分。
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「小林史子 Mistletoe」 INAXギャラリー2

INAXギャラリー2
「小林史子 Mistletoe」
10/6-10/24



INAXギャラリー2で開催中の小林史子個展、「Mistletoe」へ行ってきました。

作家プロフィール、展示概要については同ギャラリーのWEBサイトをご覧ください。

小林史子:Mistletoe展@現代美術個展 GALLERY2

2006年に東京藝術大学の大学院を修了後、国内外での個展の他、旧フランス大使館でのノーマンズランド、また水戸芸術館でのクワイエット・アテンションズなどに出品してきました。

さて家具や日用品などを用いて、様々なインスタレーションを展開する小林ですが、今回ほどINAXのホワイトキューブが鮮やかに切り崩されたこともなったかもしれません。

床面には年代物の椅子から古びた磨りガラス、それに斜めに切り刻まれた扉などが半ば散乱するかのように並び、上からは格子状の天井がだらんとぶら下がり、また落ちてきています。

また椅子には蛍光灯やグラスなどが押し込まれるように積まれ、壁や床には写真が時に丸め込まれるかのようにして散らばっていました。

まさしくカオスです。素材は本来の役割を大きく逸脱し、それこそ何らかの巣とでも言えるような、また別の言い方をすればシュールレアリズム絵画を三次元に置き換えたかのような空間を作り出していました。


「Traveling No return」2009年 *参考図版

なお水戸芸術館のクワイエット・アテンションズでは、震災により作品自体も壊れてしまったそうです。今回の展示はこれまでの小林の作風とはやや異なっているそうなので、今後も是非追っかけたいと思いました。

それにしてもINAXギャラリーの会場から外を眺めたのは初めてです。この空間全体への作為、そして変化は、もはやスリリングであると言えるのではないでしょうか。

10月24日までの開催です。これはおすすめします。

「小林史子 Mistletoe」 INAXギャラリー2
会期:10月6日(木)~10月24日(月)
休廊:日・祝
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 INAX:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分。
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「アリソン・ショッツ展 Geometry of Light」 エスパス ルイ・ヴィトン東京

エスパス ルイ・ヴィトン東京
「アリソン・ショッツ展 Geometry of Light」
9/10-12/25



「エスパス ルイ・ヴィトン東京」で開催中のアリソン・ショッツ個展、「Geometry of Light」へ行ってきました。

展示概要、作家プロフィールについては同ギャラリーのWEBサイトをご覧ください。(会場内写真の他、作家のインタビュー動画なども掲載されています。)

Geometry of Light By ALYSON SHOTZ@エスパス ルイ・ヴィトン東京

1964年にアメリカで生まれ、現在ニューヨークで活動するショッツは、主にアメリカの美術館の他、ロンドンやストックホルムなどでも作品を発表してきました。なお日本国内での個展は今回が初めてとのことです。

さて表参道のヴィトンの7階、ほぼ周囲に遮るものもない、3方向ガラス張りのエスパスですが、その開放的でかつ光眩しい空間と作品との相性はまさしく抜群と言えるかもしれません。



そもそもショッツがこの建物へ初めて訪れた際、空間自体のイメージに感銘を受け、今回の個展が実現しましたが、レンズ、及びアクリルと言った透明感のある素材によるインスタレーションの美しさには、それこそ息をのんだ方も多かったのではないでしょうか。



展示は立体4点、そしてプリントの平面1点の計5点の出品です。それこそ立ち位置を変えながら、光と色の織りなすファンタジーを存分に楽しむことが出来ました。

これぞ百聞は一見に如かずです。是非とも会場内を自由に歩いてみて下さい。(撮影も可能です。)

ちなみに私が出向いた際は晴天時の昼間でしたが、外が闇に染まりイルミネーションが点る夜間もまた味わい深いかもしれません。今度は日没後を狙って見てくるつもりです。



なお「エスパス ルイ・ヴィトン東京」は今年の1月にオープンしたばかりの新しいアートスペースです。パリと同じく、ここ東京でも、ルイ・ヴィトンのプロデュースによる様々な展示が行われていくとのことでした。今後の展開にも目が離せません。



ロングランの展覧会です。12月25日まで開催されています。まずはおすすめします。

「アリソン・ショッツ展 Geometry of Light」 エスパス ルイ・ヴィトン東京
会期:9月10日(土)~12月25日(日)
休廊:不定休
時間:12:00~20:00
住所:渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A1出口より徒歩約3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩約10分。
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「ニューアート展NEXT2011」 横浜市民ギャラリー

横浜市民ギャラリー
「ニューアート展NEXT2011 Sparkling Days」
9/30-10/19



気鋭の若手女性作家、3名の制作を紹介します。横浜市民ギャラリーで開催中の「ニューアート展NEXT2011 Sparkling Days」へ行ってきました。

出品作家は以下の通りです。

曽谷朝絵
荒神明香
ミヤケマイ


さて市民ギャラリーとあるので、スペースとしても、また作品としても、それほどボリュームがないと錯覚してしまうかもしれませんが、実のところ一美術館での企画として捉えても遜色のない内容となっています。

出品総数は全100点です。荒神明香に関しては大規模なインスタレーション、1点のみでの勝負でしたが、ともかくも全体を通して期待以上に見応えのある展示という印象を受けました。

順路からしてトップバッターをいくのが切り絵に立体、そして屏風に玉砂利のインスタレーションなどで、時に風刺精神をも見せた和の空間を展開するミヤケマイです。


ミヤケマイ「山水空図」2010年 ミクストメディア、立体額

彼女の作品は出品作家中最大の約70点に及びますが、使われた素材はもとより、多様な表現には目を見張るものがあります。

まず面白いのが「風神」と「雷神」です。ずばり宗達や光琳で有名な風神雷神図のモチーフを借りた作品ですが、ピンクや黄色のカラーボックスの中で跳ねる風神や雷神の姿は実にコミカルではないでしょうか。ピカチュウを伴う雷神はともかくも、ダイソンの掃除機で雲を集める風神という発想には意表を突かれる方も多いかもしれません。ここはにやりとさせられました。

素材に黒板を用いたボックス型の立体も見逃せません。ボックスは開閉可能で、そこには作家のメッセージなども記されています。中で悠々と泳ぐ人魚の姿もまた粋でした。


ミヤケマイ「空」2010年 インスタレーション

視覚トリックを利用した作品も目を引きます。また遊園地をランプでデコレーションしたボックスの中でポップに表したり、軸画に蝶を描きつつ、その上から蝶のオブジェを吊らしたもの、さらには軸の中に電球を埋めこみ、仏具と組み合わせた作品など、見せ方の一つ一つをとってもバリエーションが豊かでした。


曽谷朝絵「Circles」2010年 油彩、パネルに綿布

さて先だっての資生堂の個展の印象も見事だった曽谷朝絵も充実しています。出品は資生堂の時に近い大掛かりなインスタレーション1点と、絵画約30点です。


曽谷朝絵「鳴る色」2010年 *資生堂ギャラリーでのインスタレーション

ホワイトキューブの色とりどりの花が乱れ、それこそ色に光に包まれる体験が心地よい「鳴る光」の空間は、資生堂ギャラリーよりも広かったのではないでしょうか。また私自身、曽谷の絵画を30点というスケールで見たこともなかったので、この展示だけでも行って良かったと思いました。

荒神明香の『空中パスタ都市』ならぬ「pasta strata」は、それこそハイライトに相応しい壮大なスケールのインスタレーションです。

ぶらりとピアノ線で吊るされた都市の素材はなんと細いパスタです。ボランティアスタッフの方と共同でパスタをつなぎ、この作品を作り上げたとのことでしたが、上へとあがる階段から連なる家々、さらには風車にブランコに空を舞うヘリコプターと、まさに都市の輪郭そのものが、そのパスタという思いもよらぬ素材で表現されています。

なおこの作品は震災で被害を受けた都市から着想されたそうです。そう捉えると、どこか都市の抜け殻とも言うべき虚無感をたたえているようにも思えました。(またミヤケマイにも原発事故と関連した作品が展示されています。)

会場は関内駅すぐの公共施設です。失礼ながら古びた外観からは想像もつかないかもしれませんが、ともかく展示の内容としては秀逸であるのは間違いありません。おすすめ出来ます。

ニューアート展NEXT 2011 Sparkling Days


入場はなんと無料です。10月19日まで開催されています。

「ニューアート展NEXT2011 Sparkling Days」 横浜市民ギャラリー
会期:9月30日(金) ~10月19日(水)
休廊:無休
時間:10:00~18:00
住所:横浜市中区万代町1-1 横浜市教育文化センター内
交通:JR線関内駅南口より徒歩1分。横浜市営地下鉄ブルーライン関内駅1番出口より徒歩3分。
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「桑島秀樹:TTL」 ラディウム-レントゲンヴェルケ

ラディウム-レントゲンヴェルケ
「桑島秀樹:TTL」
10/7-10/29

ラディウム-レントゲンヴェルケで開催中の桑島秀樹個展、「TTL」へ行ってきました。

展示概要については同ギャラリーのWEBサイトをご覧ください。

桑島秀樹TTL@ラディウム-レントゲンヴェルケ

昨年のスパイラルの「巧術」にも出品がありましたが、意外にもレントゲンでの個展としては3年ぶりのことだそうです。



さてグラスやデキャンタなどのガラス製品を並べ、撮影、さらにはレイヤーを大型の印画紙にプリントして、さながら鏡面曼荼羅とも呼べる世界を構築する桑島ですが、今回もそこから立ち上がる幾何学的な美しさは際立っています。

黒い宇宙に浮かび上がるガラスの群れは眩いほどの光を放ち、それが一定の数的な配列のもとに調和しながら、言わばガラスの無限回廊とも神殿とも言えるような地平を作り上げています。細部と全体は対立しません。複雑に絡み合いながらも、どこか完璧な数列を思わせるような抽象美を静かにたたえていました。



曲線よりも直線、球よりも直方体を意識した一枚の作品に目が奪われました。剥き出しのガラスは巨大な壁のように立ちはだかります。その迫力は圧倒的でした。

10月29日まで開催されています。

「桑島秀樹:TTL」 ラディウム-レントゲンヴェルケ
会期:10月7日(金)~10月29日(土) 
休廊:日・月・祝
時間:12:00~20:00
住所:中央区日本橋馬喰町2-5-17
交通:JR馬喰町駅より徒歩4分、JR・都営浅草線浅草橋駅より徒歩4分。
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「酒井抱一と江戸琳派の全貌」 千葉市美術館

千葉市美術館
「生誕250年記念展 酒井抱一と江戸琳派の全貌」
10/10-11/13



千葉市美術館で開催中の「生誕250年記念展 酒井抱一と江戸琳派の全貌」へ行ってきました。

先行する姫路会場でも大変な評判となった「抱一+江戸琳派展」ですが、それがいよいよここ千葉市美術館へと巡回してきました。

まさに生誕250周年のメモリアルに相応しい抱一回顧展の決定版です。出品作は抱一160点、其一60点の他、一門の作をあわせると、総数で300点を超えるという凄まじい内容ですが、量だけでなく質に関してもほぼ申し分ありません。予想通り大変に見応えがありました。


酒井抱一「四季花鳥図屏風」 陽明文庫

さて大好きな抱一ということで早速、初日の10月10日に行ってきましたが、細かい作品の感想はひとまず横において、このエントリでは展覧会の概要、また見どころのポイントなどを私なりにまとめてみます。ご鑑賞の参考となれば幸いです。

【細かな章立てにて、抱一の画業とその後の系譜を辿る】

展覧会は全9章立てです。

第一章「姫路酒井家と抱一」
第二章「浮世絵制作と狂歌」
第三章「光琳画風への傾倒」
第四章「江戸文化の中の抱一」
第五章「雨華庵抱一の仏画制作」
第六章「江戸琳派の確立」
第七章「工芸意匠の展開」
第八章「鈴木其一とその周辺」
第九章「江戸琳派の水脈」


第一章から第七章にて抱一の画業を主に時系列に追いつつ、一部蒔絵や仏画などをジャンル別で紹介し、八、九章にて抱一以降、其一らをはじめとする弟子たちの作品を展観しています。

各章に設けられた解説をはじめ、一点一点につけられた丁寧なキャプションを読むと、抱一の足跡を辿ることが出来ますが、その変遷は、例えば以前同館で開催された一村展ほどドラマテックに強調されているわけではありません。


酒井抱一「妙音天像」 個人蔵

優美な花鳥画はもちろん、浮世絵、蒔絵、仏画など、幅広く集められた作品自体で勝負する展覧会という印象を受けました。

【展示替えは2回】

総数300点を超える展覧会ですが、当然ながら一度に全てが展示されていません。

展示替え出品リスト(PDF)

展覧会会期は全部で5週あり、それぞれの週毎に期間が定められています。うち展示替えは2回、10/24と10/31の各月曜日です。

10/10~10/23
10/25~30
11/1~11/13


通期で展示される作品も多くありますが、半数以上はその2回の展示替え日(ともに休館日)で入れ替わります。全てを楽しむには、初めの2週間と最後の2週間の最低2回ほどは出向く必要がありそうです。

またリピーター割引きとして二度目に一度目の半券を提示すると、入場料が半額の500円となります。こちらも有効活用したいところです。

【新出作品も展示】

以前、東博で大琳派展などで例えば珍しいとされる抱一の仏画などをご覧になった方も多いかもしれませんが、今回の展示では新出の作品がいくつも登場しています。

私自身、ここ数年間は抱一をかなりおっかけているつもりでしたが、それでも初めて見た作品が何点もありました。また個人蔵がかなり多いというのも特徴です。新鮮味がありました。

【絵画だけではなく資料も充実】

抱一というと出自からしても、単なる絵師に留まらない幅広い活動をしたことでも知られていますが、今回の展示ではその部分に関してもかなり深く突っ込んでいます。


山東京伝画「吾妻曲狂歌文庫」 千葉市美術館

酒井家に関する重要な日記である兄宗雅の「玄武日記」をはじめ、抱一が青年期にのめり込んだ狂歌に関する文献、また抱一自選の八句集、さらには良く出入りしていた「八百善」の資料など、まとまって見られる機会の少ない各種資料が数多く紹介されていました。

【原羊遊斎との工芸品を多く紹介】

大琳派展にもいくつか出ていましたが、今回私が抱一の出品作で一番充実していると感じたのが、抱一下絵、原羊遊斎作の蒔絵などの工芸品です。


酒井抱一下絵/原羊遊斎作「四季草花螺鈿蒔絵茶箱」 個人蔵

代表的な「四季草花螺鈿蒔絵茶箱」をはじめとして10点超の規模で展示されています。また抱一下絵で柴田是真の師である古満寛哉の手による盃など、珍しい品も散見されました。

【夏秋草図屏風は11/1から展示】

ちらし表紙にも掲げられ、抱一作では圧倒的に知名度の高い「夏秋草図屏風」は11/1より展示されます。


酒井抱一「夏秋草図屏風」東京国立博物館蔵

また屏風の主要作品については以下のスケジュールでの展示です。

「燕子花図屏風」(出光美術館)10/10~10/23
「四季花鳥図屏風」(陽明文庫)10/25~11/13
「青楓朱楓図屏風」(個人蔵)10/10~10/30
「八橋図屏風」(出光美術館)10/10~10/23
「風神雷神図屏風」(出光美術館)11/1~11/13
「夏秋草図屏風」(東京国立博物館)11/1~11/13


また無い物ねだりにはなってしまいますが、「月に秋草図屏風」(ペンタックス株式会社)と「波図屏風」(静嘉堂文庫)が出ないのは残念でなりません。ともに大琳派展では出品されましたが、一期一会の抱一展だからこそ、こうした傑作屏風を何とか展示していただければとは思いました。

【三の丸尚蔵館の十二ヶ月花鳥図は通期で展示】

同名の作品では全4種(12点揃い)ほど知られる「十二ヶ月花鳥図」ですが、今回はその最も優れた作品である三の丸尚蔵館本が通期で展示されます。これは皇室の名宝展以来のことではないでしょうか。なお本作の表具は刺繍です。その点もじっくりご覧ください。

【抱一以降も充実】

当然ながら抱一と江戸琳派展ということで、通常の琳派展ではよく見られる「宗達-光琳-抱一」という流れはありません。

もちろん其一は別格ですが、抱一の弟子の系譜に沿う絵師、とりわけ酒井鶯蒲、池田孤邨、田中抱二、鈴木守一、酒井道一らの作品がかなり目立っています。

また昭和前期まで活躍し、最後の江戸琳派の絵師とも言われる酒井唯一や、先だっての「千住の琳派」展でとりあげられた其一門下の村越尚栄まで出ているのには驚かされました。

その分、例えば抱一の光琳顕彰の部分などについてはそれほど深く入り込んでいませんが、今回ほど抱一以降の系譜をしっかり提示した展覧会はこれまでになかったのではないでしょうか。

全体の展示のボリュームが相当あり、抱一の部分だけでも見応えがあるため、後半を流してしまう嫌いはあるかもしれませんが、是非とも其一だけでない『抱一以降』に注目して下さい。

【新照明の効果】

千葉市美術館ではかねてより新型のLED照明が用いられていますが、この展覧会でもその効果を確かめることが出来ます。(注:全ての作品がLED照明ではありません。)


酒井抱一「四季花鳥図巻」 東京国立博物館

とくに見事なのが、抱一の傑作の一つとしても数えられる「四季花鳥図巻」です。

大琳派展など、東博では何度か見る機会のある作品ですが、今回のライティングを通すと、その色味、また作品の魅力が驚くほど際立っています。

展示ケースと作品自体が近く、まさに目と鼻の先で見られるのも嬉しいところですが、ともかく浮き上がってくる色が違います。これは抱一作でもとくに上質な絵具が用いられていることでも知られた作品ですが、その魅力を存分に楽しむことが出来ました。

【其一画・描表装の魅力】


「夏宵月に水鶏図」 鈴木其一 個人蔵

人気の其一に注目されている方も多いかもしれませんが、その中では艶やかな描表装、表具部分に絵を描く手法をとった作品を見逃すことはできません。

かつて文化村のだまし絵展でも話題を集めた「歳首の図」など数点がずらりと揃っています。


「蔬菜群虫図」 鈴木其一 出光美術館

もちろんこれらだけでなく、よく若冲との関連を指摘される「蔬菜群虫図」など、代表作もいくつか出品されています。さすがに「朝顔図屏風」まではいきませんが、同じく傑作の「夏秋渓流図屏風」も現会期(10/23まで)で展示中です。

其一は魅力的な絵師だけに、やはり単体の展覧会を望みたいところですが、今回の展示での其一作の充実ぶりには感心させられました。

【関連講演会】

展覧会にあわせた関連の企画、講演会が極めて充実しています。

いずれも往復ハガキでの申込が必要で、既に締め切り日時が過ぎている回もありますが、まだ受付中のものもあります。

「酒井抱一の雅俗 」
10月16日(日)14:00より(13:30開場)11階講堂にて
【講師】 小林忠 (当館館長)
聴講無料/定員150名 *申込締切10月10日(月・祝)[必着]
 
「鬼才・鈴木其一の魅力 」
10月23日(日)14:00より(13:30開場)11階講堂にて
【講師】河野元昭 (秋田県立近代美術館館長)
聴講無料/定員150名 *申込締切10月14日(金)[必着]
 
「酒井抱一と下谷 」
10月30日(日)14:00より(13:30開場)11階講堂にて
【講師】 河合正朝 (慶応義塾大学名誉教授)
聴講無料/定員150名 *申込締切10月21日(金)


また11月には申込不要の市民美術講座もあります。

「酒井抱一と江戸琳派~新出資料紹介を中心に 」
11月6日(日)14:00より 11階講堂にて
聴講無料/先着150名
【講師】松尾知子(当館学芸員)


こちらにあわせて出かけるのも良いのではないでしょうか。私も出来れば拝聴したいです。

【図録は一般書籍としても発売】

今回の展覧会にあわせて刊行された図録がなかなか充実しています。

出品作の全てが図版として掲載されている上、作品解説、抱一の年譜、落款集、そして論文4本と、全500ページほどのかなりのボリュームです。

「酒井抱一と江戸琳派の全貌/求龍堂」

美術館のショップでも販売されていますが、書店でも一般書籍として取り扱い中です。実のところ図録としては相当に重いので、アマゾンなどを利用されるのも手かもしれません。


鈴木其一「夏秋渓流図屏風」 根津美術館

初日は千葉市美術館としてはかなり盛況でした。後半になって混雑した一村展の例もあります。まずはお早めに出かけられることをおすすめしたいです。なお千葉市美では嬉しい夜間開館(20時まで開館)が毎週、金曜と土曜の二回ほどあります。そちらも狙い目となりそうです。

11月13日までの開催です。当然ながらおすすめ致します。

「生誕250年記念展 酒井抱一と江戸琳派の全貌」 千葉市美術館
会期:10月10日(月・祝)~11月13日(日)
休館:10月24日(月)、31日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「松岡映丘展」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「生誕130年 松岡映丘 日本の雅 やまと絵復興のトップランナー」
10/9-11/23



近代日本画におけるやまと絵復興の泰斗、松岡映丘(1881~1981)の画業を展観します。練馬区立美術館で開催中の「生誕130年 松岡映丘 日本の雅 やまと絵復興のトップランナー」のプレビューに参加して来ました。

二面綴りの見開きのチラシを見て心待ちにされていた方も多かったかもしれません。

この「千草の丘」や「伊香保の沼」など、一部の傑作こそよく知られていたものの、全体を通して見る機会はなかなかありませんでした。

今回はそのような松岡映丘の画業を、初期から晩年の作、全90点(スケッチ、画稿20点含む)で紹介しています。このクラスの回顧展は約30年ぶりです。近代日本画好きの私にとっても待ちに待った展覧会でした。

まずは出自に注目です。松岡映丘は1881年、兵庫県にて医者を父とする8人兄弟の末っ子として生まれ、兄に民俗学者の柳田邦男、そして歌人や言語学者らといった、いわゆる学者の一家に育ちました。

そのような家庭環境の中で映丘は、幼少の頃より画才を発揮します。


「武者絵」 1888年頃

最初期の作品として登場するのが7歳の時に描いた武者絵です。もちろんこれは習作ですが、その後8歳で上京、さらには14歳の頃に橋本雅邦へ師事し、本格的に絵の勉強をはじめていきます。

しかしながら映丘は雅邦の画風から離れます。16歳になってからは住吉派の画家、山名貫義の画塾に入門し、以来、古絵巻の模写にはじまるやまと絵の道へと進み出しました。

東京美術学校を首席で卒業した映丘は、いわゆる有職故実の研究に勤しみ、平安時代の絵巻物などの調査にも乗り出します。


右、「みぐしあげ」 1926年 個人蔵

結果、大和絵を近代に残していこうという彼の思いは叶い、まさに展覧会のタイトルの如く復興のトップランナーとしての地位を固めました。

さて一目で見てともかく驚かされるのは、作品における鮮やかな着彩に他なりません。

チラシとしては見事な出来栄えとはいえ、掲載図版と本画の色味は全く異なっています。 もちろんどのような展覧会であれ、図版と作品の印象は違うものですが、今回ほど離れていると感じたこともありませんでした。


「矢表」 1937年 姫路市立美術館

その一例として挙げたいのが「矢表」です。これは平家物語などに登場する屋島の合戦を屏風形式で描いた作品ですが、ともかく甲冑の色、とりわけ黄緑の発色の美しさに目を奪われるのではないでしょうか。

練馬区立美術館では前回展の際、都内の公立美術館ではじめて4色LEDを導入したことでも知られていますが、その照明は総じて色彩の豊かな映丘の作品の魅力をより効果的に引き出していました。

またもう一つ興味深いのは、独特のロマンティシズムです。優美なやまと絵の中でも異彩を放つ、半ば危な絵ともいうべき風情を持つ作品がいくつか存在しています。


左、「伊香保の沼」 1925年 東京藝術大学

代表的なものが「伊香保の沼」です。自然に誘われて自失し、蛇に姿を変えていくという伝説をモチーフとした作品ですが、髪の乱れた女性のやや上目遣いの表情には何とも言い難い妖気を感じるのではないでしょうか。


左、「湯煙」 1928年 個人蔵

また「湯煙」における仄かなエロティシズムも見逃せません。湯気の立ち上る浴室に朧げに浮かびあがる全裸の女性の美しさには見惚れました。

なおこの二作をはじめ、今回の展示には本画の下絵、デッサンもいくつか出ています。それを比較して見るのもまた一興でした。


左、「千草の丘」 1926年

見開きチラシの「千草の丘」は、ほぼ等身大サイズの大きな作品です。 モデルは大正から昭和にかけて活躍した女優、水谷八重子(先代)ですが、この作品が出た時は新聞にも取り上げられるほどの話題となったそうです。

なお映丘は映画の中の水谷八重子、つまりは動くイメージの彼女の姿に惚れ込み、この作品のモデルを頼みました。

芝居、映画好きの映丘は、一言にやまと絵の復興とはいえども、まさに彼の残した言葉、「古典に立脚して時代に生きよ。」のとおり、新しい感覚で絵を描きました。

また武者絵を描く際は自身で鎧を着てポーズをとり、写真を撮ってから絵筆をとっていたそうです。

映丘はそうしたコスプレにはまったというエピソードも残されているそうですが、今回の展示ではお茶目でもあったという画家の新たな姿を知る格好の機会と言えるのかもしれません。

琳派モチーフ、奇しくも先日より千葉市美術館で回顧展の始まった酒井抱一のモチーフを取り入れた作品に目を引かれます。


右、「稚児観音」 1919年 眞誠寺

素描の「秋草」こそ抱一の「夏秋草図屏風」に瓜二つでしたが、「稚児観音」にも夏秋草風の草花の描写が登場しています。 映丘はやまと絵を通して、その系譜にもつらなる琳派、とりわけ叙情性の高い抱一画を吸収していたのかもしれません。

さて関連の講演会の情報です。

特別講演会(事前申込制。締切は10/15。)
「最後のやまと絵師・松岡映丘を応援する」
講師:山下裕二(明治学院大学教授) 日時:11月5日(土曜) 午後2時から 対象:高校生以上 定員:60名


お馴染みの山下先生の「応援シリーズ」の講演会です。熱のこもったお話が聞けるのではないでしょうか。

またテレビ東京系の「美の巨人」でも映丘の番組が放映されます。

松岡映丘「千草の丘」@テレビ東京「美の巨人たち」 10月29日(土)午後10時~

こちらはゲストに水谷八重子さんもご出演されるそうです。是非とも拝見したいと思います。


展示風景

11月23日までの開催です。これはおすすめします。

「生誕130年 松岡映丘 日本の雅 やまと絵復興のトップランナー」 練馬区立美術館
会期:10月9日(日)~11月23日(水・祝)
休館:月曜日、ただし10月10日は開館、翌日休館。
時間:10:00~18:00
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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